(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-29
(45)【発行日】2024-03-08
(54)【発明の名称】硬化型コーティング組成物、及び物品
(51)【国際特許分類】
C09D 183/04 20060101AFI20240301BHJP
C09D 7/63 20180101ALI20240301BHJP
【FI】
C09D183/04
C09D7/63
(21)【出願番号】P 2020208936
(22)【出願日】2020-12-17
【審査請求日】2022-11-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000002060
【氏名又は名称】信越化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100102532
【氏名又は名称】好宮 幹夫
(74)【代理人】
【識別番号】100194881
【氏名又は名称】小林 俊弘
(72)【発明者】
【氏名】土田 和弘
【審査官】桜田 政美
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-059298(JP,A)
【文献】特開2002-327115(JP,A)
【文献】特開2008-095002(JP,A)
【文献】特表2019-507213(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 183/04
C09D 7/63
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記(A)~(C)成分;
(A)下記一般式(1)で表されるオルガノポリシロキサン
【化1】
[式中、R
1は炭素数1~30のアルキル基、炭素数5~10のシクロアルキル基、炭素数6~10のアリール基、炭素数7~14のアラルキル基、炭素数3~10のフッ素置換アルキル基及び下記一般式(2)で表される有機基からなる群より選択される有機基であり、
【化2】
(式中、R
4は炭素数1~30のアルキル基もしくは炭素数1~30のアシル基であり、dは0≦d≦15、eは0≦e≦50、fは0≦f≦50の整数である。)
R
2
は下記一般式(3)
で示される基であり、
【化3】
(式中、R
5は炭素数1~6のアルキル基、炭素数5~6のシクロアルキル基、またはフェニル基からなる群より選ばれる基であり、R
6は炭素数1~6のアルコキシ基であり、zは2~8の整数及びpは1~3の整数である。)
R
3は下記一般式(4)で表されるシリコーン化合物残基であり、
【化4】
(式中、R
7は独立して炭素数1~30のアルキル基、炭素数5~10のシクロアルキル基、炭素数6~10のアリール基、炭素数7~14のアラルキル基、及び炭素数3~10のフッ素置換アルキル基からなる群より選択される基であり、xは1≦x≦5の整数であり、yは0≦y≦500の整数である。)
前記R
1~R
7が分子中に複数個含まれる場合には互いに同じでも異なっていてもよく、aは1.0≦a≦2.5、bは0.001≦b≦1.5、及びcは
0.001≦c≦1.5の数である。]
(B)下記一般式(5)で表されるポリシロキサンジオール及び/又はそのアルコキシ相当体
【化5】
[式中、R
8は独立して置換基を有しても良い炭素数1~30のアルキル基、炭素数5~10のシクロアルキル基、炭素数6~10のアリール基、炭素数7~14のアラルキル基、及び炭素数3~10のフッ素置換アルキル基からなる群より選択される基であり、R
9は独立して水素原子、メチル基又はエチル基であり、mは4≦m≦50の整数である。]
(C)縮合硬化触媒
を含むものであることを特徴とする硬化型コーティング組成物。
【請求項2】
前記(A)成分のゲルパーミエーションクロマトグラフィー測定による重量平均分子量がポリスチレン換算値で300~100,000であることを特徴とする請求項1に記載の硬化型コーティング組成物。
【請求項3】
前記(C)成分が酸触媒、アミン化合物及びその塩、アミノアルキル基置換アルコキシシラン、並びにアルミ系、チタン系およびスズ系の有機金属触媒からなる群から選ばれる1種又は2種以上であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の硬化型コーティング組成物。
【請求項4】
さらに(D)有機溶媒を含むものであることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の硬化型コーティング組成物。
【請求項5】
請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の硬化型コーティング組成物の硬化被膜を有するものであることを特徴とする物品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、オルガノポリシロキサンを含有する硬化型コーティング組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
シリコーン樹脂は、撥水性、耐熱性、耐候性、耐寒性、電気絶縁性、耐薬品性、および身体に対する安全性等の性質に優れていることから、現在、様々な分野で広く使用されている。
【0003】
特に、SiO4/2単位(Q単位)やRSiO3/2単位(T単位)(Rは、アルキル基、フェニル基等の有機基)を主成分とする3次元架橋構造を持つオルガノポリシロキサンは、シリコーンレジンやシリコーンアルコキシオリゴマーと呼ばれ、その硬化性を利用して塗料、コーティング剤用途や、バインター用途等に広く使用されている。
【0004】
中でも、アルコキシシリル基を架橋基とする液状のシリコーンアルコキシオリゴマーは、可燃性で人体に有害な有機溶剤を含まない無溶剤型塗料の主剤として利用されている(非特許文献1)。
【0005】
また、このアルコキシシリル基は、空気中の湿気により常温で加水分解並びに脱水縮合架橋反応が進むため、アルコキシシリル基を含有するシリコーンアルコキシオリゴマーは、硬化触媒を配合することで、常温でそのアルコキシシリル基が反応してシロキサンネットワークを形成可能である。このようなポリシロキサン硬化膜は耐熱性や耐候性に優れることから、屋外建造物から電子部品まで、幅広い分野で使用されている。
【0006】
さらにシリコーンアルコキシオリゴマーは、上述の通り室温でも硬化反応が進行するが加熱することで反応促進が可能であり、用途に応じては適宜加熱硬化工程も導入され塗工適応性に優れた技術と言える。
【0007】
しかし、このようなシリコーンレジンやシリコーンアルコキシオリゴマーは、その3次元架橋構造により、硬化性が良く、表面硬度が高いという長所を持つ一方、その架橋密度の高さゆえに可撓性や耐屈曲性が不足し、成膜後に経時で、あるいは外部応力が加えられた際などに塗膜にクラックが生じるといった課題を抱えている。
【0008】
この可撓性や耐屈曲性を改良するために、シリコーンレジンやシリコーンアルコキシオリゴマーの合成時に、ジオルガノシロキサン(R2SiO2/2)単位(D単位)を組み込む方法が一般的に採られている。しかしながらこの場合、構造中にD単位はランダムに組み込まれるため、可撓性を付与するためには多くのD単位を添加する必要があり、シリコーンレジンの長所である優れた硬化性や表面硬度が低下してしまうという問題点がある。
【0009】
また、分子末端をTEOS(Si(OCH2CH3)4)で封鎖したシリコーンオイルを添加する方法も提案されている(非特許文献1)が、シリコーンレジンやシリコーンアルコキシオリゴマーに対する相溶性が悪く、塗膜の白濁やハジキの原因となっていた。
【0010】
直鎖状シリコーンにシルエチレン構造によりアルコキシシリル基を導入する技術はヒドロシリル化反応を用いることで可能であり公知のものとなっている(特許文献1,2)。特許文献1には、ヒドロシリル基を含有し、D単位の連鎖構造からなる側鎖メチル/フェニル型のシリコーンオイル化合物と、側鎖にオレフィンとアルコキシシリル基の両方を有するシリコーンアルコキシオリゴマー化合物とをヒドロシリル化反応させて得られる、1分子中にアルコキシシリル基を有するシリコーンアルコキシオリゴマー構造と、側鎖メチル/フェニル型のシリコーンオイル構造由来の構造の両方を含有するオルガノポリシロキサン化合物が開示されている。
【0011】
この特許文献1のオルガノポリシロキサン化合物は、比較的長鎖で高分子量の側鎖メチル/フェニル型のシリコーンオイル構造を有しているため、耐クラック性付与剤として添加する場合には効果を発揮するものの、この場合も、それ単独で硬化させた場合には硬度が不十分であり、塗料、コーティング剤用途への単独使用は困難であった。特許文献2は毛髪処理剤といった直鎖状シリコーンによる感触向上を狙う点に重きを置いた技術であり可撓性のあるコーティング材料としての応用には触れられていない。
【0012】
特許文献3には分岐状オルガノポリシロキサンの側鎖に長鎖アルキル基、オキシアルキレン基、トリアルコキシシリル基などが変性されたシリコーンを化粧料の粉体表面処理剤に用いることが開示されている。しかしながら、コーティング成分としての使用は記載も示唆もされていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【文献】特開平6-271650号公報
【文献】国際公開WO2004/091562号
【文献】特開2001-72891号公報
【非特許文献】
【0014】
【文献】Polymeric Materials Science and Engineering,1998,Vol.79,192
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明は、上記事情に鑑みなされたもので、硬度と耐屈曲性とを両立し、更に塗工表面の摩擦の少ない外観並びに手触りのよい安全性に優れた硬化物を与えるオルガノポリシロキサンを含有するコーティング用組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記課題を達成するために、本発明では、下記(A)~(C)成分;
(A)下記一般式(1)で表されるオルガノポリシロキサン
【化1】
[式中、R
1は炭素数1~30のアルキル基、炭素数5~10のシクロアルキル基、炭素数6~10のアリール基、炭素数7~14のアラルキル基、炭素数3~10のフッ素置換アルキル基及び下記一般式(2)で表される有機基からなる群より選択される有機基であり、
【化2】
(式中、R
4は炭素数1~30のアルキル基もしくは炭素数1~30のアシル基であり、dは0≦d≦15、eは0≦e≦50、fは0≦f≦50の整数である。)
R
2は、ヒドロキシ基、炭素数1~6のアルコキシ基、または下記一般式(3)から選ばれる基であり、
【化3】
(式中、R
5は炭素数1~6のアルキル基、炭素数5~6のシクロアルキル基、またはフェニル基からなる群より選ばれる基であり、R
6は炭素数1~6のアルコキシ基であり、zは2~8の整数及びpは1~3の整数である。)
R
3は下記一般式(4)で表されるシリコーン化合物残基であり、
【化4】
(式中、R
7は独立して炭素数1~30のアルキル基、炭素数5~10のシクロアルキル基、炭素数6~10のアリール基、炭素数7~14のアラルキル基、及び炭素数3~10のフッ素置換アルキル基からなる群より選択される基であり、xは1≦x≦5の整数であり、yは0≦y≦500の整数である。)
前記R
1~R
7が分子中に複数個含まれる場合には互いに同じでも異なっていてもよく、aは1.0≦a≦2.5、bは0.001≦b≦1.5、及びcは0≦c≦1.5の数である。]
(B)下記一般式(5)で表されるポリシロキサンジオール及び/又はそのアルコキシ相当体
【化5】
[式中、R
8は独立して置換基を有しても良い炭素数1~30のアルキル基、炭素数5~10のシクロアルキル基、炭素数6~10のアリール基、炭素数7~14のアラルキル基、及び炭素数3~10のフッ素置換アルキル基からなる群より選択される基であり、R
9は独立して水素原子、メチル基又はエチル基であり、mは4≦m≦50の整数である。]
(C)縮合硬化触媒
を含むものである硬化型コーティング組成物を提供する。
【0017】
このようなものであれば、硬度と耐屈曲性とを両立し、更に塗工表面の摩擦の少ない外観並びに手触りのよい安全性に優れた硬化物を与えるオルガノポリシロキサンを含有するコーティング用組成物とすることができる。
【0018】
また、前記(A)成分のゲルパーミエーションクロマトグラフィー測定による重量平均分子量がポリスチレン換算値で300~100,000であることが好ましい。
【0019】
このような(A)成分であれば、組成物がべたつかず、また該組成物から形成された塗布膜は表面滑り性、滑水性が十分なものとなる。
【0020】
また、前記(C)成分が酸触媒、アミン化合物及びその塩、アミノアルキル基置換アルコキシシラン、並びにアルミ系、チタン系およびスズ系の有機金属触媒からなる群から選ばれる1種又は2種以上であることが好ましい。
【0021】
本発明の硬化型コーティング組成物には、このような縮合硬化触媒を用いることができる。
【0022】
また本発明の硬化型コーティング組成物は、さらに(D)有機溶媒を含むものであることが好ましい。
【0023】
有機溶媒を含むものとすることで、粘度を調整して作業性を良くしたり、組成物の保存安定性を確保したりすることができる。
【0024】
また本発明では、上記の硬化型コーティング組成物の硬化被膜を有するものである物品を提供する。
【0025】
本発明の硬化型コーティング組成物は、物品を被覆する用途に好適に用いることができる。
【発明の効果】
【0026】
本発明のオルガノポリシロキサンを含有する硬化型コーティング組成物は皮膜構成成分として直鎖状シリコーンを必須構造とし、更には加水分解縮合性を有するアルコキシシリル基又はシラノール基を含むためシロキサン縮合架橋による硬化被膜形成能を有する。また、本発明で用いるオルガノポリシロキサンは、その構造中に有するシリコーン分岐鎖により他シリコーン成分との相溶性に優れることから、本発明の硬化型コーティング組成物には、両末端官能型シリコーンを任意に導入可能であり、これにより皮膜硬度、可撓性のバランス調整が容易となる。さらに本発明では、直鎖状シリコーン構造は表面張力が低いことに由来する手触りの向上や撥水性、水滑落性の向上にも寄与する。したがって本発明では、硬度と耐屈曲性とを両立し、更に塗工表面の摩擦の少ない外観並びに手触りのよい安全性に優れた硬化物を与えるオルガノポリシロキサンを含有するコーティング用組成物を提供することができる。
【0027】
このような特性を有する本発明の硬化型コーティング組成物は、複数回にわたり屈曲させるような基材に耐久性と一定の硬度を持たせたり、塗膜表面の撥水性や手触りの感触を求めたりする用途に好適に用いることができる。
【発明を実施するための形態】
【0028】
上述のように、硬度と耐屈曲性とを両立し、更に塗工表面の摩擦の少ない外観並びに手触りのよい安全性に優れた硬化物を与えるオルガノポリシロキサンを含有するコーティング用組成物の開発が求められていた。
【0029】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、直鎖状シリコーン主鎖にシルエチレン構造基を介しアルコキシシリル基が導入されたオルガノポリシロキサンと直鎖状シリコーンの両末端がジメチルシラノール基又はジメチルアルコキシ基であるオルガノポリシロキサンを必須構成成分とした加水分解縮合硬化被膜が所望の特性を与えることを見出し、本発明をなすに至った。
【0030】
即ち、本発明は、下記(A)~(C)成分;
(A)下記一般式(1)で表されるオルガノポリシロキサン
【化6】
[式中、R
1は炭素数1~30のアルキル基、炭素数5~10のシクロアルキル基、炭素数6~10のアリール基、炭素数7~14のアラルキル基、炭素数3~10のフッ素置換アルキル基及び下記一般式(2)で表される有機基からなる群より選択される有機基であり、
【化7】
(式中、R
4は炭素数1~30のアルキル基もしくは炭素数1~30のアシル基であり、dは0≦d≦15、eは0≦e≦50、fは0≦f≦50の整数である。)
R
2は、ヒドロキシ基、炭素数1~6のアルコキシ基、または下記一般式(3)から選ばれる基であり、
【化8】
(式中、R
5は炭素数1~6のアルキル基、炭素数5~6のシクロアルキル基、またはフェニル基からなる群より選ばれる基であり、R
6は炭素数1~6のアルコキシ基であり、zは2~8の整数及びpは1~3の整数である。)
R
3は下記一般式(4)で表されるシリコーン化合物残基であり、
【化9】
(式中、R
7は独立して炭素数1~30のアルキル基、炭素数5~10のシクロアルキル基、炭素数6~10のアリール基、炭素数7~14のアラルキル基、及び炭素数3~10のフッ素置換アルキル基からなる群より選択される基であり、xは1≦x≦5の整数であり、yは0≦y≦500の整数である。)
前記R
1~R
7が分子中に複数個含まれる場合には互いに同じでも異なっていてもよく、aは1.0≦a≦2.5、bは0.001≦b≦1.5、及びcは0≦c≦1.5の数である。]
(B)下記一般式(5)で表されるポリシロキサンジオール及び/又はそのアルコキシ相当体
【化10】
[式中、R
8は独立して置換基を有しても良い炭素数1~30のアルキル基、炭素数5~10のシクロアルキル基、炭素数6~10のアリール基、炭素数7~14のアラルキル基、及び炭素数3~10のフッ素置換アルキル基からなる群より選択される基であり、R
9は独立して水素原子、メチル基又はエチル基であり、mは4≦m≦50の整数である。]
(C)縮合硬化触媒
を含むものである硬化型コーティング組成物である。
【0031】
以下、本発明について詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0032】
[(A)オルガノポリシロキサン]
本発明に係る(A)成分のオルガノポリシロキサンは、下記一般式(1)で表される。
【化11】
【0033】
ここで、一般式(1)において、R
1は炭素数1~30のアルキル基、炭素数5~10のシクロアルキル基、炭素数6~10のアリール基、炭素数7~14のアラルキル基、炭素数3~10のフッ素置換アルキル基及び下記一般式(2)で表される有機基からなる群より選択される有機基であり、炭素数1~6のアルキル基、炭素数3~6のフッ素置換アルキル基、または下記一般式(2)で表される有機基が好ましい。
【化12】
【0034】
ここで、一般式(2)において、R4は炭素数1~30のアルキル基もしくは炭素数1~30のアシル基であり、炭素数7~30のアルキル基が好ましく、dは0≦d≦15であり、2≦d≦10が好ましく、eは0≦e≦50、fは0≦f≦50の整数であり、ただし、d、e、及びfは同時に0とならないことが好ましい。
【0035】
上記R1の例としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基、ヘキサデシル基、ヘプタデシル基、オクタデシル基、ノナデシル基、エイコシル基等のアルキル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基等のシクロアルキル基、フェニル基、トリル基等のアリール基、ベンジル基、フェネチル基等のアラルキル基、トリフロロプロピル基、ヘプタデカフロロデシル基等のフッ素置換アルキル基で表される有機基などを挙げることができる。好ましくは、メチル基、オクチル基、デシル基、ドデシル基、フェニル基、及びトリフロロプロピル基である。
【0036】
上記アルキル基は、1種単独でも2種以上を併用してもよく、2種以上を併用する場合は、炭素数1~4の短鎖アルキル基と炭素数8以上の長鎖アルキル基とを併用することが好ましい。
【0037】
また、R1として一般式(2)で表される有機基も好ましく、その例としてはアルキレンアルキルエーテル基、オレオイルアルコール、セチルアルコール、オレイルアルコール、ステアリルアルコールなどの高級アルコール残基、それらのポリオキシアルキレン付加物、高級アルコールアルケニルエーテル残基及びそれらのポリオキシアルキレン付加物;オレイン酸、ステアリン酸、ベヘニン酸などの脂肪酸残基又はそれらのポリオキシアルキレン付加物もしくは脂肪酸アルケニルエーテル付加物及びそれらのポリオキシアルキレン付加物を挙げることができる。
【0038】
即ち、d=1の時、一般式(2)は-CH2-O-(C2H4O)e(C3H6O)fR4であり、更に、e=0、f=0であれば、一般式(2)は-CH2-O-R4となる。ここで、R4が炭素数1~10のアルキル基であれば、アルキレンアルキルエーテル基が包含される。また、d=0の時、一般式(2)は、-O-(C2H4O)e(C3H6O)fR4であり、更に、e=0、f=0であれば、一般式(2)は-O-R4となる。ここで、R4が炭素数7~30のアルキル基であればセチルアルコール、オレイルアルコール、ステアリルアルコールなどの高級アルコール残基が包含され、又はR4が炭素数1~30のアシル基であれば、脂肪酸残基が包含される。
【0039】
dが3以上の時、-CdH2d-O-(C2H4O)e(C3H6O)fR4(d≧3)であり、上記高級アルコールあるいは脂肪酸のアルケニルエーテルもしくはアルケニルエステル残基、およびそれらのアルキレンオキサイド付加物残基が包含される。これらの基は、例えば、オルガノハイドロジェンポリシロキサンのヒドロシリル基と高級アルコールとの脱水素反応により、又は、ヒドロシリル基と上記アルケニルエーテルもしくはエステルとの付加反応によりオルガノポリシロキサンに導入することができる。
【0040】
R
2は、ヒドロキシ基、炭素数1~6のアルコキシ基、または下記一般式(3)から選ばれる基である。
【化13】
【0041】
ここで、一般式(3)において、R5は炭素数1~6のアルキル基、炭素数5~6のシクロアルキル基、またはフェニル基からなる群より選ばれる基であり、R6は炭素数1~6のアルコキシ基であり、zは2~8の整数及びpは1~3の整数であり、好ましくは2または3である。
【0042】
一般式(3)の中の-SiR5
3-pR6
pの部分の具体例としては、ジメチルメトキシシリル基、ジメトキシメチルシリル基、トリメトキシシリル基、ジメチルエトキシシリル基、ジエトキシメチルシリル基、トリエトキシシリル基、より好ましくは、トリメトキシシリル基、トリエトキシシリル基である。一般式(3)で表される基は、例えば、該シリル基にビニル基が結合したビニルシランをヒドロシリル基に付加反応させることによってオルガノハイドロポリシロキサン骨格に導入することができる。
【0043】
R
3は下記一般式(4)で表されるシリコーン化合物残基である。
【化14】
【0044】
ここで、一般式(4)において、R7は独立して炭素数1~30のアルキル基、炭素数5~10のシクロアルキル基、炭素数6~10のアリール基、炭素数7~14のアラルキル基、及び炭素数3~10のフッ素置換アルキル基からなる群より選択される基であり、炭素数1~6のアルキル基が好ましく、xは1≦x≦5の整数であり、2または3が好ましく、及び、yは0≦y≦500の整数であり、3≦y≦100が好ましく、1≦y≦15がより好ましい。yが500より大きいと、主鎖のハイドロジェンシロキサン部分との反応性が悪くなるなどの問題が起こることがある。
【0045】
R7の具体例としてはメチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基等のアルキル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基等のシクロアルキル基、フェニル基、トリル基等のアリール基、ベンジル基、フェネチル基等のアラルキル基、トリフロロプロピル基、ヘプタデカフロロデシル基等のフッ素置換アルキル基などを挙げることができる。好ましくは、メチル基、エチル基、フェニル基及びトリフロロプロピル基である。
【0046】
R1~R7が分子中に複数個含まれる場合には互いに同じでも異なっていてもよく、一般式(1)中のaは1.0≦a≦2.5であり、1.2≦a≦2.3が好ましく、bは0.001≦b≦1.5であり、0.05≦b≦1.0が好ましく、及びcは0≦c≦1.5の数であり、0.001≦c≦1.5が好ましく、0.05≦c≦1.0がより好ましい。bが0.001より小さいと後述する(B)ポリシロキサンジオール及び/又はそのアルコキシ相当体との架橋反応点が不足し、硬化被膜形成能が不足する。またbが1.5より大きいと(B)成分との架橋反応点が過剰になって硬化被膜が硬くてもろいものとなってしまう。またcが1.5より大きいと(A)成分がかさ高くなり過ぎてしまい(B)成分との反応が十分に進行しない場合がある。
【0047】
一般式(1)で表されるオルガノポリシロキサン化合物は、例えば、ヒドロシリル基を含むオルガノポリシロキサンと、高級アルコールもしくは脂肪酸のアルケニルエーテル、アルケニルエステルもしくはそれらのアルキレンオキサイド付加物、又は高級アルコールと、アルケニル化合物、例えばビニルトリクロロシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン等と、シリコーン末端の一つにビニル基、アルケニル基とを有するシリコーンを白金触媒又はロジウム触媒の存在下に付加反応及び/または脱水素反応させることにより合成することができる。
【0048】
一般式(1)で表されるオルガノポリシロキサン化合物は、その動粘度が10~1,000mm2/sであることが好ましく、特に30~300mm2/sであることが好ましい。またその重量平均分子量が、300~100,000であることが好ましく、特に1,000~10,000であることが好ましい。動粘度、及び重量平均分子量の値が上記上限値以下であれば、オルガノポリシロキサン化合物の粘性が適度なものとなりべたつきなどの質感がなくなる。一方、上記下限値以上であれば、オルガノポリシロキサン化合物の特徴である表面滑り性、滑水性が十分に得られる。
【0049】
なお、本発明において動粘度は、JIS Z 8803:2011記載の方法で測定したキャノン-フェンスケ粘度計による25℃における測定値であり、重量平均分子量は、下記に示す条件で測定したゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により分子量既知のポリスチレンを標準物質として換算して求めた値である。
【0050】
[測定条件]
展開溶媒:テトラヒドロフラン(THF)
流量:0.6mL/min
検出器:示差屈折率検出器(RI)
カラム:TSK Guardcolumn SuperH-H
TSKgel SuperHM-N(6.0mmI.D.×15cm×1)
TSKgel SuperH2500(6.0mmI.D.×15cm×1)
(いずれも東ソー社製)
カラム温度:40℃
試料注入量:50μL(濃度0.3質量%のTHF溶液)
【0051】
(A)成分のオルガノポリシロキサンは、公知の方法で合成しても、市販品を用いてもよい。市販品の具体例としては、信越化学工業株式会社のKF-9908、KF-9909が挙げられる。
【0052】
[(B)ポリシロキサンジオール及び/又はそのアルコキシ相当体]
本発明に係る(B)ポリシロキサンジオール及び/又はそのアルコキシ相当体は下記一般式(5)で示される。
【化15】
【0053】
一般式(5)においてR8は同一又は異なっても良い置換基を有しても良い炭素数1~30のアルキル基、炭素数5~10のシクロアルキル基、炭素数6~10のアリール基、炭素数7~14のアラルキル基、及び炭素数3~10のフッ素置換アルキル基からなる群より選択される基である。好ましくはメチル基、エチル基、フェニル基が挙げられる。置換基としては特に限定はされないが、例えば、アミノ基、アミド基、エーテル基、エステル基、カルボニル基、カルボキシル基、ヒドロキシル基、アルコキシ基、エポキシ基、ニトリル基等が挙げられる。
【0054】
R9は同一又は異なっても良い水素原子、メチル基又はエチル基であり、水素原子の場合はシラノール(シランオール)となる。R9がメチル基並びにエチル基の場合はアルコキシ基相当体である。
【0055】
mは4≦m≦50の整数である。mが4未満の場合はシリコーン鎖長が短すぎるため、本願で必要となるシリコーンの特性が十分に発揮されない。一方で50よりも大きい場合は該シリコーンが上述の(A)ポリシロキサンとの相溶性が不足し、結果として均一な表面状態を与える硬化膜が得られなくなるといった問題が生じる。
【0056】
(B)成分のポリシロキサンジオール及び/又はそのアルコキシ相当体は、公知の方法で合成しても、市販品を用いてもよい。市販品の具体例としては信越化学工業株式会社のKF-9701、X-21-3153、X-21-5841、KF-857が挙げられる。
【0057】
本発明の(A)成分と(B)成分の配合比は所望の膜が得られる限りは特に制限されないが、一般に(A)/(B)=1/99~99/1(質量比)で示される。より最適な配合比は(A)成分の分子量、アルコキシシリル含量、(B)成分の分子量により異なるため一概に示すことはできないが、上述の配合比において(A)が1以上であれば、皮膜形成性が十分となるため好ましい。また(B)が1以上であれば、(B)成分に由来するシリコーンの特性が十分に得られ、膜の屈曲性や塗工表面の円滑性といった本発明の特徴を満足するものとなる。
【0058】
[(C)縮合硬化触媒]
本発明に係る(C)縮合硬化触媒は、(A)オルガノポリシロキサン及び(B)ポリシロキサンジオール及び/又はそのアルコキシ相当体に含まれるアルコキシシリル基並びにシラノール基のような加水分解性シリル基が空気中の水分で加水分解縮合される反応を促進し、続くシラノール同士の脱水縮合反応を促進させ、結果として組成物の硬化を促進させる成分であり、効率的に硬化させるために添加される。
【0059】
(C)成分の添加量は特に限定されるものではないが、硬化速度を適切な範囲に調整して所望の物性の硬化被膜を作製するとともに、塗布時の作業性を向上させること、さらには添加に伴う経済性などを考慮すると、(A)及び(B)成分の合計量100質量部に対して0.01~50質量部が好ましく、0.05~10質量部がより好ましく、0.1~5質量部がより一層好ましい。
【0060】
縮合硬化触媒としては、一般的な湿気縮合硬化型組成物の硬化に用いられる硬化触媒であれば特に限定されるものではなく、その具体例としては、カルボン酸、塩酸、硫酸、リン酸といった酸化合物;ジブチル錫オキシド、ジオクチル錫オキシド等のアルキル錫化合物;ジブチル錫ジアセテート、ジブチル錫ジラウレート、ジオクチル錫ジラウレート、ジブチル錫ジオクトエート、ジオクチル錫ジオクトエート、ジオクチル錫ジバーサテート等のアルキル錫エステル化合物;テトライソプロポキシチタン、テトラn-ブトキシチタン、テトラキス(2-エチルヘキソキシ)チタン、ジプロポキシビス(アセチルアセトナト)チタン、チタンジイソプロポキシビス(エチルアセトアセテート)、チタニウムイソプロポキシオクチレングリコール等のチタン酸エステル、およびチタンキレート化合物並びにそれらの部分加水分解物;ナフテン酸亜鉛、ステアリン酸亜鉛、亜鉛-2-エチルオクトエート、鉄-2-エチルヘキソエート、コバルト-2-エチルヘキソエート、マンガン-2-エチルヘキソエート、ナフテン酸コバルト、三水酸化アルミニウム、アルミニウムアルコラート、アルミニウムアシレート、アルミニウムアシレートの塩、アルミノシロキシ化合物、アルミニウムキレート化合物等の有機金属化合物;3-アミノプロピルトリメトキシシラン、3-アミノプロピルトリエトキシシラン、3-アミノプロピルメチルジメトキシシラン、3-アミノプロピルメチルジエトキシシラン、N-β-(アミノエチル)-γ-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-β-(アミノエチル)-γ-アミノプロピルトリエトキシシラン、N-β-(アミノエチル)-γ-アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N-β-(アミノエチル)-γ-アミノプロピルメチルジエトキシシラン、ビス[3-(トリメトキシシリル)プロピル]アミン、ビス[3-(トリエトキシシリル)プロピル]アミン、N,N’-ビス[3-(トリメトキシシリル)プロピル]エタン-1,2-ジアミン、N,N’-ビス[3-(トリエトキシシリル)プロピル]エタン-1,2-ジアミン、N-フェニル-3-アミノプロピルトリメトキシシラン等のアミノアルキル基置換アルコキシシラン;ヘキシルアミン、リン酸ドデシルアミン、テトラメチルグアニジン等のアミン化合物およびその塩;ベンジルトリエチルアンモニウムアセテート等の第4級アンモニウム塩;酢酸カリウム、酢酸ナトリウム、シュウ酸リチウム等のアルカリ金属の低級脂肪酸塩;ジメチルヒドロキシルアミン、ジエチルヒドロキシルアミン等のジアルキルヒドロキシルアミン;テトラメチルグアニジルプロピルトリメトキシシラン、テトラメチルグアニジルプロピルメチルジメトキシシラン、テトラメチルグアニジルプロピルトリエトキシシラン、テトラメチルグアニジルプロピルメチルジエトキシシラン、テトラメチルグアニジルプロピルトリス(トリメチルシロキシ)シラン等のグアニジル基を含有するシランおよびシロキサン;N,N,N’,N’,N”,N”-ヘキサメチル-N’’’-[3-(トリメトキシシリル)プロピル]-ホスホリミディックトリアミド等のホスファゼン塩基を含有するシランおよびシロキサン等が挙げられ、これらは単独で用いても、2種以上の組み合わせて用いてもよい。
【0061】
これらの中でも、反応性と環境へ及ぼす影響の少なさといったバランスからリン酸、テトラn-ブトキシチタン、3-アミノプロピルトリメトキシシラン、3-アミノプロピルトリエトキシシラン、N-β-(アミノエチル)-γ-アミノプロピルトリメトキシシラン、ビス[3-(トリメトキシシリル)プロピル]アミン、N,N’-ビス[3-(トリメトキシシリル)プロピル]エタン-1,2-ジアミンが好ましい。
【0062】
市販されている(C)成分の具体例としては信越化学工業株式会社のD-25、D-220、KBM-603、KBE-903、X-12-5263HPなどが挙げられる。
【0063】
[(D)有機溶媒]
さらに本発明の硬化型コーティング組成物は、粘度を調整して作業性を良くする目的や組成物の保存安定性を確保する目的で適宜、有機溶媒(有機溶剤)を加えて用いることもできる。また、粘度調整の観点ではエマルジョン化させることも一つの手法である。
【0064】
使用可能な溶剤の具体例としてはヘキサン、ヘプタン、デカン、イソドデカンといった炭化水素系溶媒、酢酸エチル、酢酸ブチルといったエステル系溶媒、デカメチルシクロペンタシロキサン、パーメチルペンタシロキサンといった非反応性揮発性シリコーン溶媒などが挙げられるが、本発明の硬化型コーティング組成物のシリル基の加水分解縮合反応に関与せず、且つ(A)~(C)成分を溶解させるものであればいずれも使用可能である。より好ましくは作業者、環境への負荷が少ない溶媒が好ましく、イソドデカン、パーメチルペンタシロキサン等がより好ましい。
【0065】
[その他の成分]
本発明の硬化型コーティング組成物の粘度を調整して作業性を良くする目的や、組成物の硬化性、得られる塗膜の硬度、可撓性などを調整する目的で、使用目的に応じて、任意でアルコキシシリル基を含有するシラン化合物、1分子中にアルコキシシリル基および/またはシラノール基を有するシリコーンアルコキシオリゴマー、並びにシリコーンレジンから選択される1種あるいは2種以上の化合物を、(A)成分のオルガノポリシロキサンとは別に混合してもよい。
【0066】
1分子中にアルコキシシリル基および/またはシラノール基を有するシリコーンアルコキシオリゴマーとしては、特に限定されるものではなく、市販品として入手可能なものでもよい。その具体例としては、信越化学工業(株)製 X-40-9250、X-40-9246、X-40-9225、KR-500、KR-515、KC-89S、KR-401N、X-40-9227、KR-510、KR-9218、KR-400、X-40-2327、KR-401等が挙げられる。
【0067】
また、シリコーンレジンとしては、特に限定されるものではなく、市販品として入手可能なものでも良い。その具体例としては、信越化学工業(株)製 KR-220L、KR-251、KR-112、KR-300、KR-311、KR-480、KR-216等が挙げられる。
【0068】
なお、本発明の硬化型コーティング組成物には、使用目的に応じて、接着性改良剤、無機および有機の紫外線吸収剤、光安定剤、保存安定性改良剤、可塑剤、充填剤、顔料等の各種添加剤を添加することができる。
【0069】
<硬化型コーティング組成物>
本発明の硬化型コーティング組成物は、雰囲気中の水分と接触することで、(A)オルガノポリシロキサンに含まれるアルコキシシリル基の加水分解反応が進行し、(B)のシリコーンに含まれるシラノール基、アルコキシシリル基との架橋縮合反応が開始する。雰囲気中の水分の指標としては10~100%RHの任意の湿度でよく、空気中の湿気で充分であるが、一般に、湿度が高い程早く加水分解が進行するため、所望により雰囲気中に水分を加えてもよい。
【0070】
硬化反応温度および時間は、使用する基材、水分濃度、触媒濃度、および加水分解性基の種類等の因子に応じて適宜変更し得る。通常、使用する基材の耐熱温度を超えない範囲で1分間から1週間程度である。
【0071】
本発明の硬化型コーティング組成物は、常温でも良好に硬化が進行するため、特に、現場施工などで室温硬化が必須となる場合でも、数分から数時間で塗膜表面のベタツキ(タック)がなくなり、作業性に優れているが、基材の耐熱温度を超えない範囲内に加熱処理を行っても構わない。
【0072】
<物品>
また、本発明では、上述の硬化型コーティング組成物の硬化被膜を有するものである物品を提供する。本発明の物品は、例えば、本発明の硬化型コーティング組成物を、固体基材の表面に塗布し、硬化させて被覆層(硬化被膜)を形成することで、硬化物品である被覆固体基材が得られる。
【0073】
塗布方法としては特に限定されず、その具体例としては、スプレーコート、スピンコート、ディップコート、ローラーコート、刷毛塗り、バーコート、フローコート等の公知の方法から適宜選択して用いることができる。
【0074】
固体基材としても特に限定されず、その具体例としては、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、ポリカーボネート類およびポリカーボネートブレンド、ポリ(メタクリル酸メチル)等のアクリル系樹脂、ポリ(エチレンテレフタレート),ポリ(ブチレンテレフタレート),不飽和ポリエステル樹脂等のポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂、アクリロニトリル-スチレン共重合体、スチレン-アクリロニトリル-ブタジエン共重合体、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリスチレンとポリフェニレンエーテルとのブレンド、セルロースアセテートブチレート、ポリエチレン樹脂などの有機ポリマー基材、鋼板等の金属基材、塗料塗布面、ガラス、セラミック、コンクリート、スレート板、テキスタイル、木材、石材、瓦、(中空)シリカ,チタニア,ジルコニア,アルミナ等の無機フィラー、ガラス繊維、ガラスクロス,ガラステープ,ガラスマット,ガラスペーパーなどが挙げられる。基材の材質および形状については特に限定されるものではないが、本発明の硬化型コーティング組成物は、鋼板、ウレタンアクリレート樹脂基材、ガラスの被覆に特に好適に用いることができる。
【0075】
<化粧料>
また、本発明の硬化型コーティング組成物は、化粧料として用いることもできる。特に、人の毛髪を処理する用途の化粧料に好適に用いることができる。
【実施例】
【0076】
以下、実施例及び比較例を用いて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0077】
下記において、各生成物の動粘度は、JIS Z 8803:2011記載の方法で測定したキャノン-フェンスケ粘度計による25℃における測定値であり、分子量は、東ソー(株)製GPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフ)装置を使用し、溶剤としてテトラヒドロフラン(THF)、検出器としてRIを用いたGPC測定により求めたポリスチレン換算の重量平均分子量である。
【0078】
シリコーン平均組成は、日本電子(株)製300MHz-NMR測定装置を用いて、1H-NMRおよび29Si-NMRにおける検出スペクトルの積分値から算出した。
【0079】
各生成物中に含まれるシラノール性水酸基の含有量(質量%、以下シラノール量と記載)は、各生成物にグリニャール試薬(メチルマグネシウムヨージド)を作用させた際のメタンガス発生量より定量した。
【0080】
本実施例及び比較例において(A)成分としては信越化学工業(株)製シリコーンA-1:一般式(1)においてR1がメチル基、R2がトリエトキシシリルエチル基、R3がジメチルポリシロキシシリルエチル基(一般式(4)においてy=8[平均値])、aが1.82、bが0.06、cが0.24である25℃での動粘度が57mm2/s、重量平均分子量が4,400、シリコーンA-2:一般式(1)においてR1がメチル基とドデシル基(メチル基:ドデシル基=21:2(モル比))、R2がトリエトキシシリルエチル基、R3がジメチルポリシロキシシリルエチル基(一般式(4)においてy=8[平均値])、aが1.92、bが0.08、cが0.17である25℃での動粘度が48mm2/s、重量平均分子量が2,900とシリコーンA-3:一般式(1)においてR1がメチル基と一般式(2)で表される有機基(一般式(2)においてdが3、eが0、fが3、R4がオクタデシル基であり、メチル基:一般式(2)の有機基=31:1(モル比))、R2がトリエトキシシリルエチル基、R3がジメチルポリシロキシシリルエチル基(一般式(4)においてy=8[平均値])、aが1.88、bが0.06、cが0.18である25℃での動粘度が61mm2/s、重量平均分子量が4,080を使用した。
【0081】
本実施例及び比較例において(B)成分として信越化学工業(株)製シリコーンB-1:一般式(5)においてR8がメチル基、R9が水素原子、mが40である25℃での動粘度が60mm2/s、シラノール量が1,500g/molとシリコーンB-2:一般式(5)においてR8がメチル基、R9が水素原子、mが13である25℃での動粘度が30mm2/s、シラノール量が500g/molを使用した。
【0082】
本実施例及び比較例において(C)成分としてテトラブトキシチタネート、リン酸の2-プロパノール溶液(固形分24.9%)、及び3-アミノプロピルトリエトキシシラン(信越化学工業(株)製KBE-903)を使用した。また(D)成分としてイソドデカンを使用した。
【0083】
上記に示した(A)~(D)を使用し表1の配合で各種コーティング組成物を調製した。
【0084】
【表1】
TBT:テトラブチルチタネート
PA/IPA:リン酸 2-プロパノール溶液(固形分24.9%)
KBE-903:3-アミノプロピルトリエトキシシラン
【0085】
さらに、比較例として信越化学工業株式会社の室温硬化型コーティング剤KR-400(メチル系シリコーンアルコキシオリゴマー)を使用したものを比較例3とした。また同社の可撓性付与グレードであるX-40-9246(メチル系シリコーンアルコキシオリゴマー)に硬化触媒としてテトラブトキシチタネートを2%配合したものを比較例4とした。
【0086】
実施例および比較例で得られたコーティング組成物を、25℃、50%RHの空気下でバーコーターNo.14を用いて厚さ2mmのガラス板または厚さ0.5mmの磨き鋼板に塗布し、25℃、50%RHの空気下で1日間乾燥・硬化させ、硬化被膜を作製した。硬化膜について下記の評価を実施した。それらの結果を表2、3に示す。
【0087】
〔鉛筆硬度〕
厚さ2mmのガラス板に硬化被膜を形成した試験片を、JIS K 5600-5-4:1999記載の鉛筆引掻き試験に準じた方法で750gの荷重をかけて測定し、その結果を示した。
【0088】
〔耐屈曲性〕
厚さ0.5mmの磨き鋼板に硬化被膜を形成した試験片を、JIS K 5600-5-1:1999記載の方法に準じて円筒形マンドレル(タイプ1)を用いて測定し、その結果を示した。
【0089】
〔指触滑り性〕
磨き鋼板に硬化被膜を形成した試験片を不織布で拭くように触り表面の滑り性を以下の基準で判定した。
滑り性がある A
滑り性がややある B
滑り性がない C
【0090】
【0091】
【0092】
表2、3に示されるように、実施例で得られた硬化被膜は比較例で得られた硬化被膜に比べ、硬度、耐屈曲性並びに表面滑り性を両立し得ることがわかる。一方、比較例1で作製した硬化被膜は硬化が十分に進行せず実用に足る膜が得られなかった。比較例2では(B)成分を添加しなかったために、良好な耐屈曲性が得られなかった。さらに、比較例3、4では、本発明においてはその他の成分として用いられる1分子中にアルコキシシリル基および/またはシラノール基を有するシリコーンアルコキシオリゴマーを用いたため、やはり十分な耐屈曲性や指触滑り性を得ることができなかった。
【0093】
次に、実施例1、4、5、7、及び比較例1~4をデカメチルシクロペンタシロキサンで皮膜形成成分が10wt%となるように希釈し、ブリーチ剤でブリーチ処理を施した試験用毛髪束(長さ6cm)に対し、毛髪束1gに液1gを施すように塗布処理した。
【0094】
十分に塗布したのち、余分な液を指で搾り取り、該毛髪束を櫛でとかしながらヘアドライヤーで乾燥させて、被膜の硬化性を評価した。次に、室温で1時間放冷させた後に該毛髪束をシャンプー、水洗を1サイクルとして連続20サイクル繰り返し処理を行った。処理直後及び、連続20サイクル処理後の各毛髪について、櫛通り性、柔軟性、艶等の特性を未処理の通常毛髪と比べて観察し、評価した。
【0095】
評価は専門のパネラー5名により各特性を観察し、表4に示される基準に従って採点し、その算術平均点を評価点とした。
【表4】
【0096】
得られた平均点について、下記の基準に従ってA~Eで判定した。
平均点の判定:
得られた平均点が4.5点以上 A
得られた平均点が3.5点以上4.5点未満 B
得られた平均点が2.5点以上3.5点未満 C
得られた平均点が1.5点以上2.5点未満 D
得られた平均点が1.5点未満 E
【0097】
硬化性、櫛通り性、柔軟性、及び艶の判定結果を表5に示す。
【表5】
【0098】
表5に示すように実施例1、4、5、7の本発明のコーティング組成物はいずれも硬化性がよく(膜強度が高く)、処理直後から良好な櫛通り性(表面潤滑性)、柔軟性、艶を示した。さらには、連続20サイクル処理後においてもなお良好であった。一方、比較例1、2では硬化性が不十分であり、処理直後においても櫛通り性、柔軟性、艶は不十分であり、連続20サイクル処理によりさらに悪化した。比較例3、4では、硬化性は十分であったものの、処理直後においても櫛通り性、柔軟性、艶は不十分であり、比較例4では連続20サイクル処理によりさらに悪化した。
【0099】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。