(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-29
(45)【発行日】2024-03-08
(54)【発明の名称】硬化性シリコーン組成物及び接着剤
(51)【国際特許分類】
C08L 83/07 20060101AFI20240301BHJP
C08L 83/05 20060101ALI20240301BHJP
C08K 5/14 20060101ALI20240301BHJP
C09J 183/07 20060101ALI20240301BHJP
C09J 183/05 20060101ALI20240301BHJP
C08G 77/20 20060101ALI20240301BHJP
【FI】
C08L83/07
C08L83/05
C08K5/14
C09J183/07
C09J183/05
C08G77/20
(21)【出願番号】P 2021019060
(22)【出願日】2021-02-09
【審査請求日】2022-12-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000002060
【氏名又は名称】信越化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100102532
【氏名又は名称】好宮 幹夫
(74)【代理人】
【識別番号】100194881
【氏名又は名称】小林 俊弘
(72)【発明者】
【氏名】木村 真司
(72)【発明者】
【氏名】小材 利之
【審査官】佐藤 のぞみ
(56)【参考文献】
【文献】特開2021-178883(JP,A)
【文献】特開2004-107577(JP,A)
【文献】特開2018-076415(JP,A)
【文献】特開2019-210351(JP,A)
【文献】特開2013-203794(JP,A)
【文献】特開2016-210861(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 83/00-83/16
C08F 290/00-290/14
C08F 299/00-299/08
C09J 183/00-183/16
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)(a)下記一般式(1)で表される化合物と、(b)下記一般式(2)で表される化合物との付加反応生成物であり、かつ、メタクリル基を1分子中に平均4個以上有するオルガノポリシロキサン:100質量部、
【化1】
(式中、pは、10以上の整数であり、R
1は、独立に置換または非置換の炭素原子数1~12の1価の有機基であり、R
2は、独立に炭素原子数2~12のアルケニル基である。)
【化2】
(式中、qは、0~20の整数であり、R
3は、独立に置換または非置換の炭素原子数1~12の1価の有機基であり、Z
1は、置換または非置換の炭素原子数1~10の2価の有機基である。)
(B)有機過酸化物:0.1~10質量部、
(C)一分子中にケイ素原子に結合した水素原子を少なくとも2個有するオルガノハイドロジェンポリシロキサン:0.1~20質量部、及び
(D)白金族金属触媒:組成物全体に対して白金族金属の含有量が0.1~100質量ppmとなる量
を含有するものであることを特徴とする硬化性シリコーン組成物。
【請求項2】
請求項1に記載の硬化性シリコーン組成物からなるものであることを特徴とする接着剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、硬化性シリコーン組成物、および該硬化性シリコーン組成物からなる接着剤に関する。
【背景技術】
【0002】
硬化性シリコーン組成物は、耐熱性、耐寒性、安全性、電気絶縁性、耐候性の良さなどから、電気電子部品や車載部品等に広く応用されている。その硬化性シリコーン組成物の硬化反応としては、錫やチタン化合物を触媒とした縮合型や、白金族元素を触媒とした付加反応型のものが多く使用されている。
【0003】
縮合型シリコーンは、空気中の水分によって硬化することから、硬化に長時間を要するという問題がある。
【0004】
一方、付加反応型シリコーンは、加熱により短時間で硬化し、作業性に優れるものの、窒素化合物・硫黄化合物・リン化合物に代表される付加反応触媒毒物質によって硬化が阻害される場合がある。また、付加反応型シリコーンは水素-ケイ素結合を反応に使用するため、反応系内に水分が存在すると、脱水素反応を起こしてしまい、硬化物に泡が含まれてしまうという問題があった。
【0005】
付加反応触媒毒があっても接着する付加反応型シリコーンとして、特殊な接着助剤を使用する方法や(特許文献1)、過酸化物を添加する方法が提案されている(特許文献2)。しかしながら、これらの方法では、触媒毒の量が少ない時には効果があるものの、多い場合には効果が不十分であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特許第4430470号公報
【文献】特許第4314454号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記事情に鑑みなされたもので、硬化性に優れ、被着体表面に付加反応触媒毒や水分などが存在しても、硬化不良や発泡を起こさない、接着剤として有用な硬化性シリコーン組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明では、
(A)(a)下記一般式(1)で表される化合物と、(b)下記一般式(2)で表される化合物との付加反応生成物であり、かつ、メタクリル基を1分子中に平均4個以上有するオルガノポリシロキサン:100質量部、
【化1】
(式中、pは、10以上の整数であり、R
1は、独立に置換または非置換の炭素原子数1~12の1価の有機基であり、R
2は、独立に炭素原子数2~12のアルケニル基である。)
【化2】
(式中、qは、0~20の整数であり、R
3は、独立に置換または非置換の炭素原子数1~12の1価の有機基であり、Z
1は、置換または非置換の炭素原子数1~10の2価の有機基である。)
(B)有機過酸化物:0.1~10質量部、
(C)一分子中にケイ素原子に結合した水素原子を少なくとも2個有するオルガノハイドロジェンポリシロキサン:0.1~20質量部、及び
(D)白金族金属触媒:組成物全体に対して白金族金属の含有量が0.1~100質量ppmとなる量
を含有するものである硬化性シリコーン組成物を提供する。
【0009】
このような硬化性シリコーン組成物であれば、(A)成分のラジカル反応性が高いため、硬化性が良好で、ラジカル反応が起こりにくい空気界面では(A)成分と(C)成分との付加反応が進行するため、表面硬化性も良好である。
【0010】
また、前記(A)成分が、前記(a)成分と、前記(b)成分との白金族金属を触媒としたヒドロシリル化反応の生成物であることが好ましい。
【0011】
活性の高い白金族金属を触媒とすることによって、(a)成分と(b)成分が十分に反応し、目的の構造を得やすい。
【0012】
また、空気雰囲気下において、表面が硬化するまでにかかる時間が、内部が硬化するまでにかかる時間よりも長いものであることが好ましい。
【0013】
このようなものであれば、本発明の効果をより確実に発揮することができる。
【0014】
また、本発明では、上記の硬化性シリコーン組成物からなるものである接着剤を提供する。
【0015】
本発明の硬化性シリコーン組成物は、硬化性に優れ、被着体表面に付加反応触媒毒や水分などが存在しても、硬化不良や発泡を起こさないので、接着剤等に好適に用いることができる。
【発明の効果】
【0016】
以上説明したように、本発明の硬化性シリコーン組成物であれば、ラジカル反応では硬化しにくい表面の硬化性が良好になるとともに、被着体表面に付加反応触媒毒や水分などが存在しても、硬化不良や発泡を起こさない。従って、本発明の硬化性シリコーン組成物を用いることにより、従来は硬化阻害により付加反応型シリコーン接着剤が使用できないような部品においても、短時間で硬化接着させることが可能となり、作業性・低コスト化の点で非常に有利となる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
上述のように、硬化性に優れ、被着体表面に付加反応触媒毒や水分などが存在しても、硬化不良や発泡を起こさない、接着剤として有用な硬化性シリコーン組成物の開発が求められていた。
【0018】
本発明者は、上記目的を達成するため鋭意検討を行った結果、分子鎖末端にメタクリル基を複数個有するオルガノポリシロキサンとオルガノハイドロジェンシロキサンを使用し、過酸化物によるメタクリル基のラジカル重合反応によって硬化させるとともに、メタクリル基とSi-H基の付加反応を行うことによって、付加反応触媒毒や水分などが存在しても、硬化不良や発泡を起こさず、かつ表面の硬化性にも優れた硬化性シリコーン組成物が得られることを見出し、本発明を完成した。
【0019】
即ち、本発明は、
(A)(a)下記一般式(1)で表される化合物と、(b)下記一般式(2)で表される化合物との付加反応生成物であり、かつ、メタクリル基を1分子中に平均4個以上有するオルガノポリシロキサン:100質量部、
【化3】
(式中、pは、10以上の整数であり、R
1は、独立に置換または非置換の炭素原子数1~12の1価の有機基であり、R
2は、独立に炭素原子数2~12のアルケニル基である。)
【化4】
(式中、qは、0~20の整数であり、R
3は、独立に置換または非置換の炭素原子数1~12の1価の有機基であり、Z
1は、置換または非置換の炭素原子数1~10の2価の有機基である。)
(B)有機過酸化物:0.1~10質量部、
(C)一分子中にケイ素原子に結合した水素原子を少なくとも2個有するオルガノハイドロジェンポリシロキサン:0.1~20質量部、及び
(D)白金族金属触媒:組成物全体に対して白金族金属の含有量が0.1~100質量ppmとなる量
を含有するものである硬化性シリコーン組成物である。
【0020】
以下、本発明について詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0021】
<(A)成分>
(A)成分は、(a)下記一般式(1)で表される化合物と、(b)下記一般式(2)で表される化合物との付加反応生成物であり、かつ、メタクリル基を1分子中に平均4個以上有するオルガノポリシロキサンである。複数のメタクリル基を分子鎖末端に局所的に有することによって、良好な硬化性が得られる。
【化5】
【化6】
【0022】
R1は、独立に置換または非置換の炭素原子数1~12の1価の有機基であり、具体的には、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、tert-ブチル基、ペンチル基、ネオペンチル基、ヘキシル基、シクロヘキシル基、オクチル基、ノニル基、またはデシル基等のアルキル基、フェニル基、トリル基、キシリル基、またはナフチル基等のアリール基、ベンジル基、フェニルエチル基、またはフェニルプロピル基等のアラルキル基や、これらの基の水素原子の一部または全部をフッ素、臭素、塩素等のハロゲン原子、シアノ基等で置換したもの、例えばクロロメチル基、クロロプロピル基、ブロモエチル基、トリフルオロプロピル基等のハロゲン置換アルキル基やシアノエチル基等が挙げられる。好ましくは炭素原子数1~8のものであり、メチル基、フェニル基がより好ましい。
【0023】
R2は、独立に炭素原子数2~12のアルケニル基であり、好ましくは2~8のものが挙げられる。具体的には、ビニル基、アリル基、ブテニル基、ペンテニル基、ヘキセニル基が例示され、特に、ビニル基であることが好ましい。
【0024】
pは、10以上の整数であり、10~2,000の範囲であることが好ましく、100~1,500の範囲であることがより好ましい。この範囲であれば、硬化前の作業性、および硬化後の柔軟性が良好な組成物となる。
【0025】
R3は、独立に置換または非置換の炭素原子数1~12の1価の有機基であり、上記R1として例示されたものと同じものが挙げられ、中でもメチル基が好ましい。
【0026】
Z1は、置換または非置換の炭素原子数1~10の2価の有機基であり、例えば、メチレン基、エチレン基、トリメチレン基等のアルキレン基等が挙げられ、これらの有機基の水素原子の一部または全部はフッ素、臭素、塩素等のハロゲン原子、シアノ基等で置換されていてもよく、さらに、これらの炭化水素鎖中にエーテル結合、アミド結合等を含んでいてもよい。これらの中で炭素数1~6のアルキレン基が好ましく、特に炭素数1~3のアルキレン基が好ましい。
【0027】
qは、0~20の整数であって、合成のしやすさから1であることが好ましい。
【0028】
以下に(a)成分の具体例を示す。ここで、C
6H
5はフェニル基を表す(以下同様)。
【化7】
【0029】
これらの(a)成分は、単一でも、2種以上を併用しても良い。
【0030】
【0031】
(b)成分は、単一でも、2種以上を併用しても良い。
【0032】
また(A)成分が、(a)成分と、前記(b)成分との白金族金属を触媒としたヒドロシリル化反応の生成物であることが好ましい。
【0033】
(a)成分と(b)成分の付加反応には、触媒が使用される。例えば、白金金属を担持したカーボン粉末、白金黒、塩化第2白金、塩化白金酸、塩化白金酸と一価アルコールとの反応生成物、白金とジビニルテトラメチルジシロキサン等のビニルシロキサンとの錯体、塩化白金酸とオレフィン類との錯体、白金ビスアセトアセテート等の白金系触媒、パラジウム系触媒、ロジウム系触媒等の白金族金属系触媒が挙げられるが、中でも白金を含むものであることが反応性の観点から好ましい。また、付加反応条件、溶媒の使用等については、特に限定されず通常のとおりとすればよい。
【0034】
【0035】
これらの(A)成分は、単一でも、2種以上を併用しても良い。
【0036】
(A)成分は、(b)成分に由来するメタクリル基(2-メチルプロパ-2-エノイル基)を1分子中に平均4個以上含む。好ましくは5個以上、より好ましくは6個である。メタクリル基が平均4個未満の場合は、硬化性シリコーン組成物の深部硬化性が不十分なものとなる。
【0037】
また、(A)成分は、(C)成分中のSi-H基と付加反応した後、加水分解するおそれのあるアクリル基(プロパ-2-エノイル基)を含まないことが耐久性の面で好ましい。
【0038】
<(B)成分>
(B)成分は、加熱によってラジカルを発生する有機過酸化物である。(B)成分は、(A)成分のメタクリル基をラジカル反応により重合させうるものであれば、特に限定されないが、例えば、ケトンパーオキサイド、ハイドロパーオキサイド、ジアシルパーオキサイド、ジアルキルパーオキサイド、パーオキシケタール、アルキルパーエステル、パーカーボネート等が挙げられる。
【0039】
この有機過酸化物は、硬化性シリコーン組成物を加熱硬化させる温度と保存性を考慮し、ベンゼン中における10時間半減期温度が40℃以上のものが好ましく、より好ましくは60℃以上のものである。なお、その上限は特に制限されないが、通常200℃以下である。
【0040】
このような有機過酸化物としては、例えば、1,1-ジ(t-ブチルパーオキシ)シクロヘキサン、t-ブチルパーオキシ-3,5,5-トリメチルヘキサノエート、1,6-ビス(t-ブチルパーオキシカルボニルオキシ)ヘキサン、2,5-ジメチル-2,5-ジ(ベンゾイルパーオキシ)ヘキサン、2,2-ジ(t-ブチルパーオキシ)ブタン、2,5-ジメチル-2,5-ジ(t-ブチルパーオキシ)ヘキサン、ジベンゾイルパーオキサイド、ベンゾイル-m-メチルベンゾイルパーオキサイド、m-トルイルパーオキサイド等が挙げられる。これらは1種単独で又は2種以上を適宜組み合わせて用いることができ、これらを溶剤で希釈したものを使用してもよい。
【0041】
有機過酸化物の配合量は、(A)成分100質量部に対して0.1~10質量部、好ましくは0.2~8質量部である。0.1質量部より少ないと被着体表面の付加反応触媒毒や水分による硬化不良や発泡を十分に抑制することができない。10質量部より多いと組成物の保存安定性や硬化後の物性に悪影響を及ぼすおそれがある。
【0042】
<(C)成分>
(C)成分は、一分子中にケイ素原子に結合した水素原子(即ち、SiH基)を少なくとも2個、好ましくは3~500個、より好ましくは3~200個、特に好ましくは3~100個含有するオルガノハイドロジェンポリシロキサンであり、(A)成分との付加反応により、ラジカル重合では硬化不良になりがちな空気界面での硬化を補う役割を有する。
【0043】
(C)成分の一分子中のケイ素原子数(または重合度)は、好ましくは2~1,000個、より好ましくは3~300個、特に好ましくは4~150個のものである。
【0044】
(C)成分中のSiH基は、分子鎖末端および分子鎖非末端のいずれに位置していてもよく、この両方に位置するものであってもよい。
【0045】
SiH基以外の、ケイ素原子に結合した有機基の具体例としては、上記(A)成分のR1として例示したものと同様の、脂肪族不飽和結合を有しない、非置換または置換の1価有機基が挙げられる。
【0046】
このようなオルガノハイドロジェンポリシロキサンとしては、下記平均組成式(3)で表されるものが好ましい。
R4
dHeSiO(4-d-e)/2 (3)
【0047】
R4は、炭素数1~12の、脂肪族不飽和結合を有しない、非置換または置換の1価有機基である。このような1価有機基としては、(A)成分のR1として例示したものと同様のものが挙げられ、好ましくは、アルキル基、アリール基であり、より好ましくは、メチル基、フェニル基である。d、eは、0.7≦d≦2.1、0.001≦e≦1.0、0.8≦d+e≦3.0を満たす正数であり、好ましくは、1.0≦d≦2.0、0.01≦e≦1.0、1.5≦d+e≦2.5を満たす正数である。
【0048】
(C)成分の25℃における粘度は、0.5~100,000mPa・sであることが好ましく、特に、10~5,000mPa・sであることが好ましい。このときの粘度は例えば25℃で回転粘度計によって測定した値とすることができる。このようなオルガノハイドロジェンポリシロキサンの分子構造は特に限定されず、例えば、直鎖状、分岐鎖状、一部分岐を有する直鎖状、環状、三次元網状等が挙げられる。該オルガノハイドロジェンポリシロキサンは、単一種のシロキサン単位からなる単独重合体でも、2種以上のシロキサン単位からなる共重合体でも、これらの混合物でもよい。該オルガノハイドロジェンポリシロキサンとしては、例えば、1,1,3,3-テトラメチルジシロキサン、1,3,5,7-テトラメチルシクロテトラシロキサン、メチルハイドロジェンシロキサン環状重合体、メチルハイドロジェンシロキサン・ジメチルシロキサン環状共重合体、分子鎖両末端ジメチルハイドロジェンシロキシ基封鎖ジメチルポリシロキサン、分子鎖両末端トリメチルシロキシ基封鎖メチルハイドロジェンポリシロキサン、両末端ジメチルハイドロジェンシロキシ基封鎖メチルハイドロジェンシロキサン・ジメチルシロキサン・ジフェニルシロキサン共重合体、(CH3)2HSiO1/2単位と(CH3)3SiO1/2単位とSiO4/2単位とからなる共重合体、(CH3)2HSiO1/2単位とSiO4/2単位とからなる共重合体等が挙げられる。
【0049】
(C)成分の含有量は、(A)成分100質量部に対して0.1~20質量部、好ましくは0.5~20質量部、特に好ましくは1~10質量部である。(C)成分の含有量が0.1質量部未満であったり、20質量部を超えたりすると、本発明の硬化性シリコーン組成物の空気界面の硬化が不十分となり、表面にタックが残ることがある。
【0050】
また、本発明の硬化性シリコーン組成物中のアルケニル基に対する(C)成分中のSiH基のモル比は、好ましくは0.01~5.0、より好ましくは0.1~4.0、特に好ましくは0.5~3.0である。
【0051】
<(D)成分>
(D)成分は、付加反応を促進する白金族金属触媒である。白金族金属触媒としては、上記(A)成分において、(a)成分と(b)成分との付加反応に使用する触媒として例示したものと同じものが挙げられ、中でも白金を含むものであることが好ましい。
【0052】
また、白金族金属触媒は、(A)成分中の合成時に使用し、組成物中に残存するものをそのまま使用してもよいし、更に組成物中に添加してもよい。
【0053】
(D)成分の添加量は、組成物全体の質量に対して白金族金属の含有量が0.1~100ppmとなる量であり、好ましくは0.2~10ppmである。0.1ppm未満では組成物の表面硬化性が不足し、100ppmを超えると、組成物が水分の影響を受けて発泡しやすくなる。
【0054】
<その他の成分>
本発明の硬化性シリコーン組成物には、目的に応じて、接着性向上剤、ラジカル反応抑制剤、付加反応抑制剤などの成分を添加してもよい。
【0055】
接着性向上剤としては、本発明の硬化性シリコーン組成物に自己接着性を付与する観点から、接着性を付与する官能基を含有するシラン、シロキサン等の有機ケイ素化合物、非シリコーン系有機化合物等が用いられる。
【0056】
接着性を付与する官能基の具体例としては、ケイ素原子に結合したビニル基、アリル基等のアルケニル基または水素原子、炭素原子を介してケイ素原子に結合したエポキシ基(例えば、γ-グリシドキシプロピル基、β-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチル基等)、アクリロキシ基(例えば、γ-アクリロキシプロピル基等)、またはメタクリロキシ基(例えば、γ-メタクリロキシプロピル基等)、アルコキシシリル基(例えば、エステル構造、ウレタン構造、エーテル構造を1~2個含有してもよいアルキレン基を介してケイ素原子に結合したトリメトキシシリル基、トリエトキシシリル基、メチルジメトキシシリル基等のアルコキシシリル基等)が挙げられる。
【0057】
接着性を付与する官能基を含有する有機ケイ素化合物としては、シランカップリング剤、アルコキシシリル基と有機官能性基を有するシロキサン、反応性有機基を有する有機化合物にアルコキシシリル基を導入した化合物等が例示される。
【0058】
また、非シリコーン系有機化合物としては、例えば、有機酸アリルエステル、エポキシ基開環触媒、有機チタン化合物、有機ジルコニウム化合物、有機アルミニウム化合物等が挙げられる。
【0059】
ラジカル反応抑制剤としては、BHT等のフェノール系ラジカル反応抑制剤や、ジフェニルアミン誘導体等のアミン系ラジカル反応抑制剤等が例示される。
【0060】
付加反応抑制剤としては、トリフェニルホスフィン等のリン含有化合物、トリブチルアミン、テトラメチルエチレンジアミン、ベンゾトリアゾール等の窒素含有化合物、硫黄含有化合物、アセチレン系化合物、ハイドロパーオキシ化合物、マレイン酸誘導体、1-エチニルシクロヘキサノール、3,5-ジメチル-1-ヘキシン-3-オール、エチニルメチルデシルカルビノール、1,3,5,7-テトラメチル-1,3,5,7-テトラビニルシクロテトラシロキサン等が例示される。
【0061】
反応抑制剤による硬化抑制効果の度合いは、反応抑制剤の化学構造によって異なるため、反応抑制剤の配合量は、使用する反応抑制剤ごとに最適な量に調整することが望ましい。
【0062】
また、本発明の硬化性シリコーン組成物には、補強性を向上させるために、例えば、微粉末シリカ、結晶性シリカ、中空フィラー、シルセスキオキサン等の無機質充填剤、およびこれらの充填剤をオルガノアルコキシシラン化合物、オルガノクロロシラン化合物、オルガノシラザン化合物、低分子量シロキサン化合物等の有機ケイ素化合物により表面疎水化処理した充填剤、シリコーンゴムパウダー、シリコーンレジンパウダー等を配合してもよい。
【0063】
<硬化性シリコーン組成物>
本発明の硬化性シリコーン組成物は、上述の(A)~(D)成分、及び必要に応じてその他の成分を含むものである。
【0064】
本発明の硬化性シリコーン組成物の空気雰囲気下において表面が硬化するまでにかかる時間は、内部が硬化するまでにかかる時間よりも長い。このことは、(B)成分による(A)成分のラジカル重合反応が、(A)成分と(C)成分の付加反応よりも先に進行することを意味する。ラジカル重合反応が先行することによって、接触している物質の表面に付加反応触媒毒や水分などが存在しても、硬化不良や発泡を起こさない。
【0065】
表面硬化時間は内部硬化時間の1.2倍以上であることが好ましく、1.5~50倍であることがより好ましい。1.2倍以上であれば、付加反応触媒毒や水分などを有する物質表面で硬化不良や発泡をより確実に抑制することができ、50倍以下であれば、表面の硬化が遅くなり過ぎることもない。
【0066】
<接着剤>
本発明の硬化性シリコーン組成物は接着剤として用いることができる。本発明の硬化性シリコーン組成物を含む接着剤の被着体には特に制限はなく、例えば、金属、有機樹脂等を挙げることができる。本発明の硬化性シリコーン組成物を150℃以下、好ましくは60~120℃の温度において被着体上で硬化させることにより被着体とシリコーンゴムとを接着させることができる。
【0067】
上述のように、本発明の硬化性シリコーン組成物は、硬化性に優れ、被着体表面に付加反応触媒毒や水分などが存在しても、硬化不良や発泡を起こさないので、接着剤等に好適に用いることができる。
【実施例】
【0068】
以下に実施例及び比較例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に限定されるものではない。なお、各シロキサン単位を表す略号は下記のとおりである。
【0069】
【0070】
[合成例1]
撹拌装置、冷却管、および温度計を備えた1Lの4つ口フラスコにシロキサン単位の構成数比がM3V:D=2:500であり、25℃の粘度が10Pa・sのオルガノポリシロキサン500g(ビニル基量80ミリモル)、下記式(4)で表される化合物22.9g(SiH基量88ミリモル)およびKarstedt触媒(白金(0)1,3-ジビニル-1,1,3,3-テトラメチルジシロキサン錯体)のトルエン溶液(白金含有量0.5質量%)0.10gを入れ、撹拌しながらオイルバスを用いて90℃に加熱した。90℃で3時間撹拌を行った後、室温まで冷やし、無色透明なオイル状の反応生成物(A-1)523gを得た。
【0071】
反応生成物(A-1)の1H NMRを測定したところ、SiH基が消失し、全てのビニル基に下記式(4)で表される化合物のSiH基が付加したオルガノポリシロキサンであることが判明した。
【0072】
【0073】
[合成例2]
撹拌装置、冷却管、および温度計を備えた1Lの4つ口フラスコに、シロキサン単位の構成数比がM3V:D=2:750であり、25℃の粘度が30Pa・sのオルガノポリシロキサン500g(ビニル基量54ミリモル)、上記式(4)で表される化合物15.4g(SiH基量59ミリモル)およびKarstedt触媒のトルエン溶液(白金含有量0.5質量%)0.10gを入れ、撹拌しながらオイルバスを用いて90℃に加熱した。90℃で3時間撹拌を行った後、室温まで冷やし、無色透明なオイル状の反応生成物(A-2)515gを得た。
【0074】
反応生成物(A-2)の1H NMRを測定したところ、SiH基が消失し、全てのビニル基に上記式(4)で表される化合物のSiH基が付加したオルガノポリシロキサンであることが判明した。
【0075】
[合成例3]
撹拌装置、冷却管、および温度計を備えた1Lの4つ口フラスコに、シロキサン単位の構成数比がM3V:D:D2Φ=2:390:43であり、25℃の粘度が10Pa・sのオルガノポリシロキサン500g(ビニル基量80ミリモル)、上記式(4)で表される化合物22.9g(SiH基量88ミリモル)およびKarstedt触媒のトルエン溶液(白金含有量0.5質量%)0.10gを入れ、撹拌しながらオイルバスを用いて90℃に加熱した。90℃で3時間撹拌を行った後、室温まで冷やし、無色透明なオイル状の反応生成物(A-3)523gを得た。
【0076】
反応生成物(A-3)の1H NMRを測定したところ、SiH基が消失し、全てのビニル基に上記式(4)で表される化合物のSiH基が付加したオルガノポリシロキサンであることが判明した。
【0077】
[合成例4]
撹拌装置、冷却管、および温度計を備えた1Lの4つ口フラスコに、シロキサン単位の構成数比がM3V:D=2:500であり、25℃の粘度が10Pa・sのオルガノポリシロキサン500g(ビニル基量80ミリモル)、上記式(4)で表される化合物15.4g(SiH基量59ミリモル)およびKarstedt触媒のトルエン溶液(白金含有量0.5質量%)0.10gを入れ、撹拌しながらオイルバスを用いて90℃に加熱した。90℃で3時間撹拌を行った後、室温まで冷やし、無色透明なオイル状の反応生成物(A-4)514gを得た。
【0078】
反応生成物(A-4)の1H NMRを測定したところ、SiH基が消失し、一分子当たり平均4個のビニル基に上記式(4)で表される化合物のSiH基が付加したオルガノポリシロキサンであることが判明した。
【0079】
[合成例5]
撹拌装置、冷却管、および温度計を備えた1Lの4つ口フラスコに、シロキサン単位の構成数比がM3V:D=2:500であり、25℃の粘度が10Pa・sのオルガノポリシロキサン500g(ビニル基量80ミリモル)、上記式(4)で表される化合物7.7g(SiH基量30ミリモル)およびKarstedt触媒のトルエン溶液(白金含有量0.5質量%)0.10gを入れ、撹拌しながらオイルバスを用いて90℃に加熱した。90℃で3時間撹拌を行った後、室温まで冷やし、無色透明なオイル状の反応生成物(A-5)507gを得た。
【0080】
反応生成物(A-5)の1H NMRを測定したところ、SiH基が消失し、一分子当たり平均2個のビニル基に上記式(4)で表される化合物のSiH基が付加したオルガノポリシロキサンであることが判明した。
【0081】
[合成例6]
撹拌装置、冷却管、および温度計を備えた1Lの4つ口フラスコに、シロキサン単位の構成数比がMV:D=2:500であり、25℃の粘度が10Pa・sのオルガノポリシロキサン500g(ビニル基量27ミリモル)、上記式(4)で表される化合物7.7g(SiH基量30ミリモル)およびKarstedt触媒のトルエン溶液(白金含有量0.5質量%)0.10gを入れ、撹拌しながらオイルバスを用いて90℃に加熱した。90℃で3時間撹拌を行った後、室温まで冷やし、無色透明なオイル状の反応生成物(A-6)507gを得た。
【0082】
反応生成物(A-6)の1H NMRを測定したところ、SiH基が消失し、全てのビニル基に上記式(4)で表される化合物のSiH基が付加したオルガノポリシロキサンであることが判明した。
【0083】
[実施例1~7、比較例1~6]
表1及び表2に示す配合量で下記の各成分を混合し、硬化性シリコーン組成物を調製した。なお、表1及び表2における各成分の数値は、他に説明がない限り質量部を表す。
【0084】
(A)成分:
(A-1)合成例1で得られたオルガノポリシロキサン
(A-2)合成例2で得られたオルガノポリシロキサン
(A-3)合成例3で得られたオルガノポリシロキサン
(A-4)合成例4で得られたオルガノポリシロキサン
(A-5)合成例5で得られたオルガノポリシロキサン
(A-6)合成例6で得られたオルガノポリシロキサン
(A-7)シロキサン単位の構成数比がM3V:D=2:500であり、25℃の粘度が10Pa・sのオルガノポリシロキサン
【0085】
(B)成分:
(B-1)1,6-ビス(t-ブチルパーオキシカルボニルオキシ)ヘキサンの70質量%クエン酸トリブチルアセテート溶液(化薬ヌーリオン(株)製、商品名:カヤレン6-70、ベンゼン中0.2モル/Lにおける10時間半減期温度:97℃)
(B-2)ジベンゾイルパーオキサイド、ベンゾイル-m-メチルベンゾイルパーオキサイド、及びm-トルイルパーオキサイドの混合物の40質量%キシレン溶液(日油(株)製、商品名:ナイパーBMT-K40、ベンゼン中0.05モル/Lにおける10時間半減期温度:73℃)
【0086】
(C)成分:シロキサン単位の構成数比がM:D:DH=2:17:45であり、25℃の粘度が50mPa・sのオルガノハイドロジェンポリシロキサン
【0087】
(D)成分:Karstedt触媒(白金(0)1,3-ジビニル-1,1,3,3-テトラメチルジシロキサン錯体)のトルエン溶液(白金含有量0.5質量%)
【0088】
(E)成分:3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン
【0089】
(F)成分:エチニルメチルデシルカルビノール
【0090】
【表1】
※1 かっこ内の値は、有効成分量(質量部)を表す。
※2 かっこ内の値は、(A)成分中に残存する白金触媒の量を考慮した、組成物全体に対する白金の含有量(質量ppm)を表す。
【0091】
【表2】
※1 かっこ内の値は、有効成分量(質量部)を表す。
※2 かっこ内の値は、(A)成分中に残存する白金触媒の量を考慮した、組成物全体に対する白金の含有量(質量ppm)を表す。
【0092】
実施例1~7、比較例1~6で得られた硬化性シリコーン組成物について、下記の評価を行い、結果を表3および表4に示した。
【0093】
[硬さ]
組成物を120℃1時間の条件で硬化し、25℃の環境下で24時間静置した時点の硬さを、デュロメータータイプA硬度計を用いて25℃環境下にて測定した。なお、表面が硬化していなかったものは「硬化せず」とした。
【0094】
[深部硬化時間]
直径60mmのアルミシャーレに20gの組成物を入れ、120℃環境下に入れてから、2.5分、5分、7.5分、10分、12.5分、15分、20分、25分、30分、40分、50分、60分の時点で、内部(表面から2mm以上内側)の状態を確認し、硬化が確認された時間を深部硬化時間とした。
【0095】
[表面硬化時間]
直径60mmのアルミシャーレに20gの組成物を入れ、120℃環境下に入れてから、2.5分、5分、7.5分、10分、12.5分、15分、20分、25分、30分、40分、50分、60分の時点で、表面の硬化を確認し、タックが無くなった時間を表面硬化時間とした。
【0096】
[耐付加反応触媒毒接着試験]
表面に白金族金属触媒毒である3-メルカプトプロピルトリメトキシシランを塗布したアルミ板を2枚用意し、各組成物を2mm厚みとなるように挟み込み、120℃で1時間加熱して硬化させた。2枚のアルミ板を剥がし取り、シリコーン硬化物が凝集破壊していたものを「接着」、アルミ板との界面が硬化していなかったものを「硬化せず」とした。
【0097】
[耐発泡性試験]
30℃90%RHの環境下に24時間暴露した66ナイロン板とガラス板を用意し、66ナイロンが下側、ガラス板が上側で、間に上記組成物が2mm厚みとなるように挟み込み、120℃で1時間加熱して硬化させた。ガラス面から目視で泡が観察されたものを「発泡」とし、泡が見られなかったものを「泡無し」とした。
【0098】
【0099】
【0100】
表3に示されるように、実施例1~7の硬化性シリコーン組成物は、表面硬化性に優れるとともに、特に深部硬化性に優れ、付加反応触媒毒の存在下で未硬化になったり、接着性が下がったりすることがなく、被着体に水分が含まれていたとしても泡を発生しないといった特徴を示すことが分かる。
【0101】
一方、表4に示されるように、(C)成分を使用しなかった比較例1では、表面が硬化しなかった。また、(B)成分を使用しなかった比較例2では付加反応触媒毒によって硬化阻害が発生し、被着体の水分の影響を受けて発泡した。さらに(B)成分の配合量が少ない比較例3では、深部硬化時間と表面硬化時間が等しく、水分の影響を受けて発泡した。
【0102】
また、メタクリル基の数が少なく(A)成分の範囲に含まれない不飽和基含有オルガノポリシロキサンを用いた比較例4~6はいずれも深部硬化時間が非常に長いものとなった。比較例4、6では(A-5)、(A-7)の1分子中に含まれるメタクリル基が少ないためラジカル反応が遅く、不飽和基とSiH基との付加反応が先行した結果、水分の影響を受けて発泡した。比較例5ではメタクリル基のラジカル反応、不飽和基とSiH基との付加反応の両者ともに非常に遅いものであり、硬化が不十分であった。
【0103】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。