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特許7446275ウェットシートの黄変の発生有無を評価する評価方法および当該評価方法によって評価されたウェットシート
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  • 特許-ウェットシートの黄変の発生有無を評価する評価方法および当該評価方法によって評価されたウェットシート 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-29
(45)【発行日】2024-03-08
(54)【発明の名称】ウェットシートの黄変の発生有無を評価する評価方法および当該評価方法によって評価されたウェットシート
(51)【国際特許分類】
   A47K 7/00 20060101AFI20240301BHJP
   G01N 33/36 20060101ALI20240301BHJP
   G01N 33/34 20060101ALI20240301BHJP
【FI】
A47K7/00 Z
G01N33/36 B
A47K7/00 G
G01N33/34
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2021206417
(22)【出願日】2021-12-20
(62)【分割の表示】P 2020033481の分割
【原出願日】2020-02-28
(65)【公開番号】P2022059599
(43)【公開日】2022-04-13
【審査請求日】2023-02-27
(31)【優先権主張番号】P 2019122389
(32)【優先日】2019-06-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000115108
【氏名又は名称】ユニ・チャーム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100139022
【弁理士】
【氏名又は名称】小野田 浩之
(74)【代理人】
【識別番号】100192463
【弁理士】
【氏名又は名称】奥野 剛規
(74)【代理人】
【識別番号】100169328
【弁理士】
【氏名又は名称】藤本 健治
(72)【発明者】
【氏名】泉保 眞一郎
(72)【発明者】
【氏名】池田 祐子
【審査官】七字 ひろみ
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-287865(JP,A)
【文献】特開2008-297260(JP,A)
【文献】特開2011-136137(JP,A)
【文献】特開平09-070372(JP,A)
【文献】特開平11-235288(JP,A)
【文献】特開平09-143876(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2006-0001758(KR,A)
【文献】国際公開第2018/179091(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A47K 7/00
A47K 10/16
G01N 33/34-33/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維基材に蛋白質を含む薬液を含浸してなるウェットシートの黄変の発生有無を評価する評価方法であって、
前記ウェットシートを容器に入れて、前記容器を非密封状態のまま、40℃以上の温度に設定された加温機内で所定時間加温する工程と、
前記所定時間加温した後の容器内のウェットシートに対して外観検査を行う工程と、
を含み、
前記薬液が非還元糖と保湿成分とを更に含み、
前記保湿成分がグリセリンまたはジプロピレングリコールであることを特徴とする、前記評価方法。
【請求項2】
繊維基材に蛋白質を含む薬液を含浸してなるウェットシートであって、
請求項1に記載の評価方法で黄変が生じないと評価されたものであり、
前記薬液が非還元糖と保湿成分とを更に含むことを特徴とする、前記ウェットシート。
【請求項3】
繊維基材に蛋白質を含む薬液を含浸してなるウェットシートであって、
前記ウェットシートの製造前に、前記繊維基材を構成する繊維の集合体を容器に入れて、前記容器内の繊維の集合体に前記薬液を添加する第1の工程と、前記容器を非密封状態のまま、40℃以上の温度に設定された加温機内で所定時間加温する第2の工程と、前記所定時間加温した後の容器内の繊維の集合体に対して外観検査を行う第3の工程とを含む、ウェットシートの黄変の発生有無を評価する評価方法で黄変が生じないと評価されたものであり、
前記薬液が非還元糖と保湿成分とを更に含むことを特徴とする、前記ウェットシート。
【請求項4】
前記第1の工程が、100質量部の前記繊維の集合体に対して、150質量部~300質量部の前記薬液を添加することを特徴とする、請求項3に記載のウェットシート。
【請求項5】
前記40℃以上の温度が50℃以上の温度であることを特徴とする、請求項3または4に記載のウェットシート。
【請求項6】
前記繊維基材を構成する繊維の集合体を複数個用意し、前記複数個の繊維の集合体のそれぞれに対して前記第1の工程から前記第3の工程までを行うことを特徴とする、請求項3~5のいずれか一項に記載のウェットシート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ウェットティッシュや清掃シート等のウェットシートにおける黄変の発生有無を短時間で評価する評価方法、および当該評価方法で評価されたウェットシートに関する。
【背景技術】
【0002】
紙や不織布等の繊維基材に水や含水アルコール主体の薬液を含浸させたウェットシート(例えば、ウェットティッシュや清掃シート等)は、手や体を清潔にしたり、家具や各種機器、床、トイレ等を清掃したりするなどの目的で、幅広く普及している。特に、近年では、衛生や美容に対する意識の高まりを受けて、除菌成分や抗ウイルス成分、コラーゲン等の美容成分などの機能性成分が薬液に添加された、様々なウェットシートが提案されている。
【0003】
そのようなウェットシートとして、例えば特許文献1には、コラーゲンやシルクオイル等を含有する含浸剤(薬液)を用いたウェットティッシュが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2001-000358号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、このようなコラーゲン等の蛋白質が薬液に添加されたウェットシートは、時間が経過すると、局所的に黄色や褐色に変色(以下、このような変色を「黄変」と称する。)する場合があった。このような黄変が生じてしまうと、上述の蛋白質による効果に対して疑義を生じかねず、ウェットシートとしての商品価値も低下してしまう恐れがあるため、このようなウェットシートを製造する際は、黄変が生じにくい製造条件(例えば、薬液の組成等)を検討する必要がある。
しかしながら、ウェットシートが時間の経過に伴って黄変を生じやすいものなのか否かを評価するのに、製造後のウェットシートを用いて製品の品質保証期間(例えば、3年間)経過後に黄変の有無を評価していては、その結果が判明するまでに過大な時間が掛かり、上述の黄変が生じにくい製造条件を確立するのに、非常に長い時間を要してしまう恐れがあった。
【0006】
そこで、本発明は、蛋白質を含む薬液を用いたウェットシートが時間の経過に伴って黄変が生じやすいものなのか否かを、短時間で評価し得る評価方法、および当該評価方法によって評価されたウェットシートを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、まず、蛋白質を含む薬液を用いたウェットシートに上述のような黄変が生じる原因について鋭意調査したところ、蛋白質を含む薬液の水分が時間の経過とともに蒸発し、その蒸発の過程で薬液が局所的に集まる(液溜まりが生じる)ことで、薬液中の蛋白質が凝集し、さらに、その凝集した蛋白質がメイラード反応によって黄変することが、上述のようなウェットシートの黄変の要因であることを突き止めた。
そして、本発明者らは、蛋白質を含む薬液を用いたウェットシートが時間の経過に伴って黄変が生じやすいものなのか否かを短時間で評価し得る方法について鋭意検討したところ、繊維基材を構成する繊維の集合体(例えば、原綿や不織布等)を容器に入れて、当該容器内の繊維の集合体に上記薬液を添加する第1の工程と、容器を非密封状態のまま、40℃以上の温度に設定された加温機内で所定時間加温する第2の工程とを行うことによって、薬液中の蛋白質に起因する黄変の発生を促進することができ、比較的短時間で繊維の集合体に黄変を生じさせることができることを見出し、本発明を完成するに至った。
さらに、本発明者らは、製造後のウェットシートに対しても、このような評価方法を適用し得ることを見出した。
本発明は、以下の各態様を含む。
【0008】
本発明の一態様(態様1)は、繊維基材に蛋白質を含む薬液を含浸してなるウェットシートの製造前に、ウェットシートの黄変の発生有無を評価する評価方法であって、
前記繊維基材を構成する繊維の集合体を容器に入れて、前記容器内の繊維の集合体に前記薬液を添加する第1の工程と、
前記容器を非密封状態のまま、40℃以上の温度に設定された加温機内で所定時間加温する第2の工程と、
前記所定時間加温した後の容器内の繊維の集合体に対して外観検査を行う第3の工程と、を含むことを特徴とする、前記評価方法である。
【0009】
本態様の評価方法は、製造後のウェットシートが時間経過に伴って黄変を生じやすいものである場合は、当該ウェットシートを製造する前に上記特定の第1の工程および第2の工程を行うことによって、薬液中の蛋白質に起因する黄変の発生が促進されて、比較的短時間で繊維の集合体(例えば、原綿や不織布等)に黄変が生じるため、上記第3の工程において、製造後のウェットシートが時間経過に伴って黄変を生じやすいものであることを、事前に且つ短時間で知ることができる。一方、製造後のウェットシートが時間経過に伴って黄変を生じにくいものである場合は、上記特定の第1の工程および第2の工程を行っても繊維の集合体に黄変が生じないため、上記第3の工程において、製造後のウェットシートが時間経過に伴って黄変を生じにくいものであることを、事前に且つ短時間で知ることができる。
このようにして、本態様の評価方法は、蛋白質を含む薬液を用いたウェットシートを製造する前に、当該ウェットシートが時間の経過に伴って黄変が生じやすいものなのか否かを、短時間で評価することができる。
【0010】
また、本発明の別の態様(態様2)では、上記態様1の評価方法において、前記第1の工程が、100質量部の前記繊維の集合体に対して、150質量部~300質量部の前記薬液を添加することを特徴とする。
【0011】
本態様の評価方法は、繊維の集合体に対して特定量の薬液を添加することで、上記第2の工程時に、繊維の集合体に黄変が鮮明に現出しやすくなるため、上記第3の工程において黄変の生じやすさをより精度よく判別することができる。
【0012】
本発明の更に別の態様(態様3)では、上記態様1または2の評価方法において、前記40℃以上の温度が50℃以上の温度であることを特徴とする。
【0013】
本態様の評価方法は、第2の工程において50℃以上の温度で加温するため、繊維の集合体に黄変が生じるまでの時間をより短縮することができる。
【0014】
本発明の更に別の態様(態様4)では、上記態様1~3のいずれかの評価方法において、前記繊維基材を構成する繊維の集合体を複数個用意し、前記複数個の繊維の集合体のそれぞれに対して前記第1の工程から前記第3の工程までを行うことを特徴とする。
【0015】
本態様の評価方法は、複数個の繊維の集合体のそれぞれに対して上記第1の工程から第3の工程までを行うことで、複数個の評価結果に基づいて判断することができるため、製造後のウェットシートが時間の経過に伴って黄変が生じやすいものなのか否かを、より精度よく評価することができる。
【0016】
本発明の更に別の態様(態様5)は、繊維基材に蛋白質を含む薬液を含浸してなるウェットシートの黄変の発生有無を評価する評価方法であって、
前記ウェットシートを容器に入れて、前記容器を非密封状態のまま、40℃以上の温度に設定された加温機内で所定時間加温する工程と、
前記所定時間加温した後の容器内のウェットシートに対して外観検査を行う工程と、
を含むことを特徴とする、前記評価方法である。
【0017】
本態様の評価方法は、ウェットシートが時間経過に伴って黄変を生じやすいものである場合は、上記の加温する工程を行うことによって、薬液中の蛋白質に起因する黄変の発生が促進されて、比較的短時間でウェットシートに黄変が生じるため、上記の外観検査を行う工程において、ウェットシートが時間経過に伴って黄変を生じやすいものであることを短時間で知ることができる。一方、ウェットシートが時間経過に伴って黄変を生じにくいものである場合は、上記の加温する工程を行ってもウェットシートに黄変が生じないため、上記の外観検査を行う工程において、ウェットシートが時間経過に伴って黄変を生じにくいものであることを短時間で知ることができる。
このようにして、本態様の評価方法は、蛋白質を含む薬液を用いたウェットシートが時間の経過に伴って黄変が生じやすいものなのか否かを、製造後においても短時間で評価することができる。
【0018】
また、本発明の更に別の態様(態様6)は、繊維基材に蛋白質を含む薬液を含浸してなるウェットシートであって、上記態様1~5のいずれかの評価方法で黄変が生じないと評価されたものであることを特徴とする。
【0019】
本態様のウェットシートは、上記評価方法で黄変が生じないと評価されたものであるため、安心して使用に供することができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、蛋白質を含む薬液を用いたウェットシートが時間の経過に伴って黄変が生じやすいものなのか否かを、短時間で評価することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1図1は、本発明の第1実施形態に係る評価方法の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、ウェットシートの黄変の発生有無を評価する本発明の評価方法の好適な実施形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。
【0023】
<第1実施形態>
図1は、本発明の第1実施形態に係る評価方法、すなわちウェットシートの黄変の発生有無を製造前に短時間で評価する評価方法の説明図である。
本第1実施形態の評価方法は、繊維基材に蛋白質を含む薬液を含浸してなるウェットシートの製造前に、ウェットシートの黄変の発生有無を評価する評価方法であり、図1に示すように、上記繊維基材を構成するレーヨン等の繊維の原綿1(本発明の「繊維の集合体」の一例である。)を無色透明の広口の容器2に入れて、該容器2内の繊維の原綿1に上記薬液3を添加する第1の工程Iと、上記容器2を非密封状態のまま、40℃以上の温度に設定された加温機7内で所定時間加温する第2の工程IIと、所定時間加温した後の容器2内の繊維の原綿1に対して外観検査を行う第3の工程IIIと、を主な工程として有している。
【0024】
なお、本第1実施形態では、第1の工程Iは、図1に示すように、繊維の原綿1を上記容器2に入れる工程(a)と、該容器2内の繊維の原綿1に薬液3を任意の滴下手段4で添加する工程(b)と、上記容器2の口をラップフィルム5で覆い、ラップフィルムが外れないようにゴムバンド等の固定手段6で固定する工程(c)と、を有しており、これらの工程(a)~工程(c)を経ることにより、黄変評価用のサンプルが作製される。かかるサンプルは、工程(c)において、ラップフィルムに通気用の穴を複数個(2個以上の穴)形成することで、非密封状態が維持されている。
【0025】
本第1実施形態の評価方法は、製造後のウェットシートが時間経過に伴って黄変を生じやすいものである場合は、当該ウェットシートを製造する前に上記特定の第1の工程Iおよび第2の工程IIを行うことによって、薬液3中の蛋白質に起因する黄変の発生が促進されて、比較的短時間で繊維の原綿1に黄変が生じるため、上記第3の工程IIIにおいて、製造後のウェットシートが時間経過に伴って黄変を生じやすいものであることを、事前に且つ短時間で知ることができる。一方、製造後のウェットシートが時間経過に伴って黄変を生じにくいものである場合は、上記特定の第1の工程Iおよび第2の工程IIを行っても繊維の原綿1に黄変が生じないため、上記第3の工程IIIにおいて、製造後のウェットシートが時間経過に伴って黄変を生じにくいものであることを、事前に且つ短時間で知ることができる。
このようにして、本第1実施形態の評価方法は、蛋白質を含む薬液を用いたウェットシートを製造する前に、当該ウェットシートが時間の経過に伴って黄変が生じやすいものなのか否かを、短時間で評価することができる。
【0026】
以下、本第1実施形態の評価方法の各工程について詳説する。
【0027】
[第1の工程]
上述のとおり本第1実施形態の第1の工程Iは、ウェットシートの繊維基材を構成するレーヨン等の繊維の原綿1を無色透明の広口の容器2に入れて、該容器2内の繊維の原綿1に上記薬液3を添加する工程である。更に具体的には、第1の工程Iは、図1に示すように、繊維の原綿1を容器2に入れる工程(a)と、該容器2内の繊維の原綿1に薬液3を任意の滴下手段4で添加する工程(b)と、上記容器2の口をラップフィルム5で覆い、ラップフィルムが外れないように固定手段6で固定する工程(c)と、を有している。
【0028】
この第1の工程Iでは、ウェットシートの繊維基材を構成する繊維の集合体として、当該繊維の原綿1を用いているが、本発明において、繊維の集合体はこのような原綿に限定されず、例えば、不織布等からなる繊維基材の少なくとも一部分(すなわち、不織布等)を繊維の集合体として用いてもよい。
【0029】
また、第1の工程において、繊維の集合体の量(質量)は、本発明の効果を阻害しない限り特に限定されず、任意の量(例えば、0.1g~10gの範囲内の量など)を採用することができる。
【0030】
繊維の集合体を入れる容器は、当該繊維の集合体が収容可能な容積(例えば、10mL~500mL等)を有するものであれば特に限定されず、ガラスや樹脂などの任意の材質からなる容器を用いることができる。中でも、第3の工程において黄変の有無を確認しやすい点などから無色透明の容器であることが好ましく、さらに、ガラス(例えば、ソーダ石灰ガラス)等の耐水性や耐油性、耐溶剤性、耐熱性などに優れた材質からなる容器が特に好ましい。
【0031】
第1の工程において、繊維の集合体に添加する薬液は、黄変の評価対象となるウェットシートに用いられる薬液である。かかる薬液の具体的な組成等は後述する。
なお、容器内の繊維の集合体に薬液を添加する手段は特に限定されず、公知のピペット(例えば、マイクロピペット、マクロピペット等)やシリンジ、スポイトなどの滴下手段を好適に用いることができる。
【0032】
なお、薬液を添加する際は、繊維の集合体と容器の内面との接触部分に滴下しながら、回し入れることが好ましい。このように薬液を添加することで、第2の工程時に、薬液が局所的に集まりやすく(すなわち、液溜まりが生じやすく)、繊維の集合体に黄変が現出しやすくなる。
【0033】
そして、容器内の繊維の集合体に薬液を滴下する量(質量)は、本発明の効果を阻害しない限り特に限定されないが、100質量部の繊維の集合体に対して、150質量部~300質量部の薬液を添加することが好ましい。
繊維の集合体に対してこのような特定量の薬液を添加することで、第2の工程時に、繊維の集合体に黄変が鮮明に現出しやすくなるため、第3の工程において黄変の生じやすさをより精度よく判別することができる。
【0034】
また、上述の第1の工程では、容器内の繊維の集合体に薬液を添加した後、容器の口をラップフィルムで皺が入らないように覆い、ラップフィルムが外れないようにゴムバンド等の固定手段で固定している。さらに、ラップフィルムに通気用の穴を複数個形成することで、非密封状態の黄変評価用のサンプルが作製される。
【0035】
なお、繊維の集合体を入れた容器の口は、ラップフィルムや蓋部材などで覆われていなくてもよいが、第2の工程時に不純物が混入するのを回避する点から、当該容器の口は、ラップフィルムや蓋部材などによって覆われていることが好ましい。
但し、容器の口をこのようなラップフィルムや蓋部材などによって覆う場合は、容器を非密封状態に維持するために、ラップフィルムや蓋部材に通気用の穴を形成するか、或いは、通気性を有する材質ないし構成のラップフィルムや蓋部材を採用する必要がある。
【0036】
なお、ラップフィルムや蓋部材に通気用の穴を形成する場合、当該穴の大きさや個数は、第2の工程時に薬液の主成分(すなわち、水や含水アルコール)が蒸発し得るものであれば特に限定されない。また、ラップフィルムや蓋部材に形成される通気用の穴は、容器の口を覆った後に形成してもよいし、容器の口を覆う前に形成してもよい。
【0037】
ここで、本明細書において非密封状態とは、容器内に添加された薬液の水分が、第2の工程の加温温度(すなわち、40℃以上の温度)の条件下で蒸発して、容器の外部へ放出し得る状態を意味する。かかる非密封状態は、上述の通気用の穴や所定の通気性を有することによって実現することができる。
【0038】
また、第1の工程により作製される黄変評価用のサンプルの個数は特に限定されず、1個以上の任意の個数を採用することができるが、後述するように、本発明においては、同じ薬液を用いて上述の第1の工程を複数回行うことにより、黄変評価用のサンプルを複数個(例えば10個以上、具体的には10個や30個、60個等)作製することが好ましい。
【0039】
[第2の工程]
上述のとおり第1実施形態の第2の工程IIは、図1に示すように、第1の工程I後の容器2を非密封状態のまま、40℃以上の温度に設定された加温機7内で所定時間加温する工程(d)を有する。
【0040】
第2の工程において、加温機の温度条件は40℃以上の温度であれば特に限定されないが、当該加温機の温度は50℃以上であることが好ましい。このような温度で加温することにより、繊維の集合体に黄変が生じるまでの時間をより短縮することができる。
【0041】
なお、加温機の温度条件の上限は特に限定されず、加温機は、例えば100℃以下の任意の温度に設定することができるが、薬液がエタノール等のアルコールを含む場合、すなわち、薬液が含水アルコールを主成分として含む場合は、アルコールの含有割合に応じた含水アルコールの引火点などを考慮した温度(例えば、60℃以下の温度)に設定することが好ましい。
【0042】
また、第2の工程において、第1の工程後の容器を加温する時間条件は、本発明の効果を阻害しない限り特に限定されず、例えば、1日~30日の範囲内の任意の時間を採用することができる。
【0043】
また、第2の工程で用い得る加温機は、第2の工程の加温温度を所定時間維持し得るものであれば特に限定されず、イナートオーブン等の任意の加温機を用いることができる。
【0044】
[第3の工程]
上述のとおり第1実施形態の第3の工程IIIは、図1に示すように、上記第2の工程IIにおいて所定時間加温した後の容器2内の繊維の原綿1に対して、目視または色差計等の任意の手段によって外観検査を行う工程(e)を有する。
【0045】
この第3の工程において、外観検査に用い得る検査手段は、繊維の集合体における黄変の発生の有無を確認し得るものであれば特に限定されず、例えば、繊維の集合体に黄変が鮮明に現出している場合などの、黄変の発生の有無が明らかな場合は、目視により黄変の発生の有無を確認することができ、黄変の発生の有無が目視では確認しにくい場合は、色差計(例えば、日本電色工業(株)製の交照測光式色差計Z-300A等)などを用いて黄変の発生の有無を確認することができる。
【0046】
なお、かかる第3の工程の外観検査を行うタイミングは、特に限定されず、第2の工程の所定時間経過直後のみに外観検査を行ってもよいし、第2の工程の加温時間を短縮する目的で、第2の工程の所定時間が経過するまでの間の所定時間ごと(例えば、1日おきに7日間等)に外観検査を行ってもよい。
【0047】
また、本発明においては、繊維基材を構成する繊維の集合体を複数個(例えば10個以上、具体的には10個や30個、60個等)用意し、当該複数個の繊維の集合体のそれぞれに対して、同じ薬液を用いて上記の第1の工程から第3の工程までを行うことが好ましい。複数個の繊維の集合体のそれぞれに対して上記の第1の工程から第3の工程までを行うことで、複数個の評価結果に基づいて黄変の発生の有無を判断することができるため、製造後のウェットシートが時間の経過に伴って黄変が生じやすいものなのか否かを、より精度よく評価することができる。
【0048】
このようにして、複数個の繊維の集合体に対して黄変の発生の有無を評価する場合は、
黄変が発生した繊維の集合体の個数(すなわち、黄変が発生した黄変評価用のサンプルの個数)をカウントして、全個数で除することにより、薬液の黄変発生率(%)を算出することができる。
さらに、この薬液の黄変発生率は、以下の基準にて評価することができる。
黄変発生率が10%以下 :◎(黄変がほとんど発生しない)
黄変発生率が10%超、30%以下:○(黄変が発生しにくい)
黄変発生率が30%超 :×(黄変が発生しやすい)
【0049】
本発明の評価方法は、上述の第1実施形態のような態様に限定されず、当該評価方法は、製造後のウェットシートに対しても同様に適用することができる。
以下、本発明の評価方法を製造後のウェットシートに適用した実施形態(本発明の第2実施形態)について詳細に説明する。
【0050】
<第2実施形態>
本発明の第2実施形態に係る評価方法は、ウェットシートの黄変の発生有無を製造後に短時間で評価する評価方法である。
すなわち、本第2実施形態の評価方法は、繊維基材に蛋白質を含む薬液を含浸してなるウェットシートの黄変の発生有無を評価する評価方法であって、ウェットシートを無色透明の広口の容器に入れて、該容器を非密封状態のまま、40℃以上の温度に設定された加温機内で所定時間加温する工程(以下、「加温工程」と称する。)と、所定時間加温した後の容器内のウェットシートに対して外観検査を行う工程(以下、「外観検査工程」と称する。)と、を主な工程として有している。
【0051】
なお、本第2実施形態においても、上記加温工程は、製造後のウェットシートを上記容器に入れる工程と、該ウェットシートを入れた容器の口をラップフィルムで覆い、ラップフィルムが外れないようにゴムバンド等の固定手段で固定する工程と、を有しており、これらの工程を経ることにより、黄変評価用のサンプルが作製される。かかるサンプルは、上記固定手段で固定する工程において、ラップフィルムに通気用の穴を複数個(2個以上の穴)形成することで、非密封状態が維持されている。
なお、本第2実施形態においては、製造後のウェットシートが1枚単位または2枚以上の複数枚単位の折り畳まれた状態で、軟質または硬質の密閉容器(例えば、ピロー包装袋等の包装袋や収納ケースなど)に収納されたもの(例えば、ウェットティッシュ製品等)を、黄変評価用のサンプルとして用いてもよい。その場合は、密閉容器におけるウェットシートの取出口を開放したり、密閉容器の一部を切断ないし穿孔したりして、通気部を形成することで、上述の非密封状態を形成することができる。
【0052】
本第2実施形態の評価方法は、ウェットシートが時間経過に伴って黄変を生じやすいものである場合は、上記の加温工程を行うことによって、薬液中の蛋白質に起因する黄変の発生が促進されて、比較的短時間でウェットシートに黄変が生じるため、上記の外観検査工程において、ウェットシートが時間経過に伴って黄変を生じやすいものであることを短時間で知ることができる。一方、ウェットシートが時間経過に伴って黄変を生じにくいものである場合は、上記の加温工程を行ってもウェットシートに黄変が生じないため、上記の外観検査工程において、ウェットシートが時間経過に伴って黄変を生じにくいものであることを短時間で知ることができる。
このようにして、本第2実施形態の評価方法は、蛋白質を含む薬液を用いたウェットシートが時間の経過に伴って黄変が生じやすいものなのか否かを、製造後においても短時間で評価することができる。
なお、このような製造後のウェットシートの黄変評価結果は、次回の製造時の製造条件に反映させることができる。
【0053】
以下、本第2実施形態の評価方法の各工程について詳説する。
【0054】
[加温工程]
上述のとおり本第2実施形態の加温工程は、製造後のウェットシートを無色透明の広口の容器に入れて、該容器を非密封状態のまま、40℃以上の温度に設定された加温機内で所定時間加温する工程である。更に具体的には、加温工程は、製造後のウェットシートを上記容器に入れる工程と、該ウェットシートを入れた容器の口をラップフィルムで覆い、ラップフィルムが外れないようにゴムバンド等の固定手段で固定する工程と、ウェットシートを入れた容器を非密封状態のまま、40℃以上の温度に設定された加温機内で所定時間加温する工程と、を有している。
【0055】
この加温工程では、まず初めに製造後のウェットシートを容器に入れるが、かかるウェットシートは、1枚または2枚以上の複数枚のウェットシートであっても、1枚のウェットシートを所定サイズに裁断してなる、ウェットシートの一部分であってもよい。
【0056】
なお、本第2実施形態の加温工程において、ウェットシートを入れる容器や容器の口を覆う手段等は、上述の第1実施形態の第1の工程と同様のものを採用することができる。
【0057】
また、本第2実施形態においても、黄変評価用のサンプルの個数は特に限定されず、1個以上の任意の個数を採用することができるが、黄変評価用のサンプルは複数個(例えば、10個以上、具体的には10個や30個、60個等)作製することが好ましい。
【0058】
そして、この加温工程においても、ウェットシートを入れた容器を非密封状態のまま、40℃以上の温度に設定された加温機内で所定時間加温するが、その際に用いる加温機や加温機の温度条件、時間条件等は、上述の第1実施形態の第2の工程と同様のものを採用することができる。
【0059】
[外観検査工程]
上述のとおり第2実施形態の外観検査工程は、上記加温工程において所定時間加温した後の容器内のウェットシートに対して、目視または色差計等の任意の手段によって外観検査を行う工程である。
【0060】
この外観検査工程においても、外観検査の検査手段や外観検査を行うタイミング等は、上述の第1実施形態の第3の工程と同様のものを採用することができる。
【0061】
また、本第2実施形態においても、黄変評価用のサンプルを複数個作製し、そのそれぞれに対して上述の加温工程から外観検査工程までを行い、黄変の発生の有無を評価することが好ましい。このように複数個のサンプルについて黄変評価を行うと、複数個の評価結果に基づいて黄変の発生の有無を判断することができるため、ウェットシートが時間の経過に伴って黄変が生じやすいものなのか否かを、より精度よく評価することができる。
【0062】
なお、複数個のサンプルについて黄変評価を行う場合の黄変発生率(%)の算出方法や黄変発生率の評価基準は、上述の第1実施形態と同様である。
【0063】
次に、本発明の評価方法に用い得るウェットシートについて詳説する。
【0064】
<ウェットシート>
本発明の評価方法に用い得るウェットシートは、繊維基材に蛋白質を含む薬液を含浸してなるウェットシートであれば特に限定されないが、ウェットシートの製品品質上、黄変が生じにくいものであることが好ましい。すなわち、本発明の評価方法で黄変が生じないと評価されたものであることが好ましい。本発明の評価方法で黄変が生じないと評価されたウェットシートであれば、安心して使用に供することができる。
【0065】
そのような黄変が生じにくいウェットシートとしては、例えば、繊維基材に含浸される薬液が、主成分としての水または含水アルコールと、機能性成分としての蛋白質(例えば、コラーゲンやシルクプロテイン等)と、トレハロース等の非還元糖と、グリセリン等の保湿成分と、を含むウェットシートなどが挙げられる。
かかるウェットシートは、薬液が蛋白質とともに非還元糖と保湿成分を含むものであり、非還元糖によって薬液の水分活性を低下させつつ(すなわち、薬液中の水分の粘性を増大させて薬液自体の流動性を低下させつつ)、保湿成分によって薬液中の水分の蒸発を抑制することができるため、時間経過に伴う薬液中の蛋白質の凝集を生じにくくすることができるので、蛋白質の凝集によるメイラード反応が生じにくく、黄変を抑制することができる。
【0066】
以下、このような黄変が生じにくいウェットシートを本発明の第3実施形態として、その具体的な構成部材や成分について詳説する。
【0067】
<第3実施形態>
本発明の第3実施形態に係るウェットシートは、繊維基材に蛋白質を含む薬液を含浸してなるウェットシートであって、繊維基材に含浸される薬液が、主成分としての水または含水アルコールと、機能性成分としての蛋白質と、トレハロース等の非還元糖と、グリセリン等の保湿成分と、を含むものである。
【0068】
[繊維基材]
本第3実施形態のウェットシートに用いられる繊維基材は、ウェットシートの繊維基材として用い得る諸特性(例えば、液保持性や拭き取り性、肌触り、湿潤強度等)を有するものであれば特に限定されず、天然繊維や化学繊維(すなわち、合成繊維や半合成繊維、再生繊維等)からなる任意のシート状の繊維基材、例えば、不織布や紙、織布、編布などを採用することができる。中でも、薬液を吸収して保持しやすい点や拭き取りやすさなどの点から、繊維基材は、不織布または紙を用いることが好ましい。
【0069】
繊維基材として不織布を用いる場合、その種類は特に限定されず、乾式法、湿式法、ウォータージェット法、スパンボンド法、エアレイド法、ニードルパンチ法、フェルト法などの公知の方法で製造された任意の不織布(例えば、スパンレース不織布、エアスルー不織布、スパンボンド不織布、ポイントボンド不織布等)を採用することができる。中でも、湿潤強度が高いスパンレース不織布を好適に用いることができる。
【0070】
また、繊維基材として紙を用いる場合も、その種類は特に限定されず、各種漉網を用いて抄紙された任意の紙を採用することができる。
【0071】
繊維基材を構成する繊維(構成繊維)は、ウェットシートの繊維基材を構成し得るものであれば特に限定されず、例えばセルロース系繊維や合成繊維などが挙げられる。
【0072】
さらに、セルロース系繊維としては、例えば、パルプ、コットン、麻等の天然セルロース系繊維;レーヨン、リヨセル、キュプラ等の再生セルロース系繊維などが挙げられ、これらのセルロース系繊維は、1種類の繊維を単独で用いても、2種類以上の繊維を併用してもよい。
【0073】
また、合成繊維としては、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリトリメチレンテレフタレート(PTT)等のポリエステル系繊維;ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)等のポリオレフィン系繊維;ビニロン等のポリビニルアルコール系繊維;ポリアクリロニトリル等のポリアクリル系繊維;ポリウレタン(PU)系繊維;ナイロン等のポリアミド系繊維などが挙げられ、これらの合成繊維は、1種類の繊維を単独で用いても、2種類以上の繊維を併用してもよい。
なお、合成繊維の形態も特に限定されず、例えば、PP(芯部)/PE(鞘部)や高融点PP(芯部)/低融点PP(鞘部)、PET(芯部)/PE(鞘部)等の芯鞘型複合繊維;サイド・バイ・サイド型複合繊維;扁平、Y字形、C字形等の異形断面型繊維などの任意の形態の合成繊維を用いることができる。
【0074】
これらの繊維の中でも、親水性や保水性が高いという点から、天然セルロース系繊維や再生セルロース系繊維等のセルロース系繊維を用いることが好ましく、さらに、肌触りや吸湿性に優れ、熱に強いという点などから、レーヨンを用いることが特に好ましい。
なお、セルロース系繊維は、構成繊維全体の質量に対して40質量%以上の割合で繊維基材に含まれていることが好ましい。セルロース系繊維が40質量%以上の割合で含まれていると、繊維基材が薬液を吸収して保持しやすくなるという利点がある。
【0075】
さらに、繊維基材の構成繊維は、抗菌剤や美容成分等の任意の機能性成分を含んでいてもよい。
【0076】
また、本第3実施形態のウェットシートにおいては、繊維基材の構成繊維が、セルロース系繊維やポリアクリル酸塩に変性されたアクリル繊維等の吸水性繊維であることが好ましい。繊維基材の構成繊維が吸水性繊維であると、通常は繊維基材の構成繊維が薬液中の水分を吸収してしまうため、薬液中の蛋白質が凝集して黄変が生じやすくなるが、本第3実施形態のウェットシートは、このような黄変が生じやすい繊維基材であっても、薬液が非還元糖と保湿成分を含んでいることで、黄変を抑制することができる。
なお、このような吸水性繊維においても、繊維基材が薬液を吸収して保持しやすい点などから、構成繊維全体の質量に対して40質量%以上の割合で繊維基材に含まれていることが好ましい。
【0077】
繊維基材の構造は特に限定されず、繊維基材は、上述の不織布等の繊維層のみからなる単層構造を有していても、複数種類の繊維層が積層された多層構造を有していてもよい。
【0078】
繊維基材の外形形状は、ウェットシートの繊維基材として用い得るシート状の構造を有するものであれば特に限定されず、例えば、長方形状、正方形状、円形状、楕円形状等の任意の外形形状を採用することができる。
また、繊維基材の表面構造も特に限定されず、両面が平坦なシート状構造のほか、メッシュ状の構造や凹凸構造、複数の開口を有する多孔構造を有するものであってもよい。
【0079】
さらに、繊維基材の大きさや坪量も特に限定されず、各種用途や収納する密閉容器の大きさ等に応じた任意の大きさ(例えば、200mm×150mm等)や坪量(例えば、1枚当たり20g/m~100g/mの範囲内の坪量等)を採用することができる。
【0080】
次に、本第3実施形態のウェットシートに用いられる薬液について詳説する。
【0081】
[薬液]
本第3実施形態のウェットシートに用いられる薬液は、水または含水アルコールを主体として、機能性成分であるコラーゲンやシルクプロテイン等の蛋白質を含み、さらに、非還元糖および保湿成分を含むものである。
【0082】
薬液の主成分として用いられる水または含水アルコールは特に限定されず、ウェットシートの薬液に用いられている公知の水や含水アルコールを採用することができる。そのような水としては、例えばイオン交換膜等を透過させた精製水などが挙げられ、また、含水アルコールとしては、上記水と、エタノール、イソプロパノール等の低級アルコールやイソステアリルアルコール等の高級アルコールとを含むものが挙げられる。
これらの中でも、除菌性や拭き取り性等の点から、水とエタノールを含む含水エタノールを好適に用いることができる。
【0083】
なお、薬液の主成分として水のみを含む場合、薬液中の水の含有量は、薬液全体の質量に対して90.00質量%~98.20質量%の範囲内であることが好ましい。また、薬液の主成分として含水アルコールを含む場合、薬液中の水の含有量は、薬液全体の質量に対して10.00質量%~88.20質量%の範囲内であることが好ましく、薬液中のアルコールの含有量は、薬液全体の質量に対して10.00質量%~88.20質量%の範囲内であることが好ましい。
【0084】
(蛋白質)
そして、本第3実施形態のウェットシートに用いられる薬液は、機能性成分として蛋白質を含んでいる。かかる蛋白質としては、ウェットシートの機能性成分(例えば、抗菌成分や抗ウイルス成分、美容成分等)として用い得るものであれば特に限定されず、例えば蛋白質分解酵素等の酵素や変性リゾチーム等の変性酵素、コラーゲン、シルクプロテイン(すなわち、フィブロインおよびセリシン)、エラスチン、カゼインなどの蛋白質が挙げられ、これらの蛋白質は、1種類の蛋白質を単独で用いても、2種類以上の蛋白質を併用してもよい。
【0085】
また、薬液中の蛋白質の含有量は特に限定されず、例えば、薬液全体の質量に対して0.05質量%~5.00質量%の範囲内の含有量を採用することができ、好ましくは0.10質量%~3.00質量%の範囲内の含有量である。
【0086】
(非還元糖)
さらに、本第3実施形態のウェットシートに用いられる薬液は、当該薬液中の水分活性を低下させる、すなわち薬液中の水分の粘性を増大させて薬液自体の流動性を低下させるために、非還元糖を含んでいる。
ここで、「非還元糖」とは、還元性を示さない糖であり、還元性のある単糖が他の糖とグリコシド結合などで結合することによって還元性を失った糖である。なお、非還元糖は、上述のメイラード反応には関与しない糖である。
【0087】
非還元糖としては、例えば、トレハロース(α,α-トレハロース)、ネオトレハロース(α,β-トレハロース)、イソトレハロース(β,β-トレハロース)、スクロース等の二糖類、ラフィノース等の三糖類、α-シクロデキストリン、β-シクロデキストリン、γ-シクロデキストリン等の多糖類が挙げられ、これらの非還元糖は、1種類の糖を単独で用いても、2種類以上の糖を併用してもよい。
【0088】
これらの非還元糖の中でも、薬液の主成分となる水や含水アルコールに対して良好な溶解性を示すものを用いることが好ましく、特にトレハロースおよびスクロースの少なくとも一方を用いることが好ましい。非還元糖としてトレハロースおよびスクロースの少なくとも一方を用いることで、上述の黄変抑制効果をより効果的に発揮することができ、特に、非還元糖とともに薬液に配合される保湿成分がグリセリンまたはジプロピレングリコールである場合には、上述の黄変抑制効果をより一層効果的に発揮することができる。
【0089】
薬液中の非還元糖の含有量は、特に限定されないが、薬液全体の質量に対して0.30質量%以上の割合で薬液中に含まれていることが好ましく、その上限は特に限定されないが、溶解性などの点から例えば20.0質量%以下である。
なお、非還元糖の含有量(質量%)は、上述の黄変抑制効果がより確実に発揮される点から、薬液中の保湿成分の含有量(質量%)が0.50質量%以上1.50質量%未満のとき、4.00質量%以上であり、保湿成分の含有量が1.50質量%以上のとき、0.30質量%以上であるという特定の関係を満たすことが特に好ましい。
【0090】
(保湿成分)
また、本第3実施形態のウェットシートに用いられる薬液は、当該薬液中の水分の蒸発を抑制するために、保湿成分を含んでいる。
保湿成分としては、例えば、グリセリン、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、1,3-ブチレングリコール、ジプロピレングリコール(DPG)、ソルビトール等の多価アルコールなどが挙げられ、これらの保湿成分は、1種類の成分を単独で用いても、2種類以上の成分を併用してもよい。
【0091】
これらの保湿成分の中でも、グリセリンおよびジプロピレングリコールの少なくとも一方を用いることが好ましい。保湿成分としてグリセリンおよびジプロピレングリコールの少なくとも一方を用いることで、上述の黄変抑制効果をより効果的に発揮することができ、特に、保湿成分とともに薬液に配合される非還元糖がトレハロースまたはスクロースである場合には、上述の黄変抑制効果をより一層効果的に発揮することができる。
【0092】
なお、薬液中の保湿成分の含有量は、特に限定されないが、薬液全体の質量に対して0.50質量%以上の割合で薬液中に含まれていることが好ましく、その上限は特に限定されないが、溶解性などの点から例えば40.0質量%以下である。
【0093】
(その他の成分)
また、本第3実施形態のウェットシートに用いられる薬液は、上述の黄変抑制効果を阻害しない範囲内であれば、上記した蛋白質、非還元糖および保湿成分以外のその他の成分を含んでいてもよい。そのようなその他の成分としては、例えば、メチルパラベン、エチルパラベン、安息香酸、安息香酸ナトリウム、ブチルカルバミン酸ヨウ化プロピニル(IPBC)、ポリアミノプロピルビグアニド、塩化ベンザルコニウム、塩化セチルピリジニウム、エチレンジアミン四酢酸二水素二ナトリム(EDTA-2Na)等の防腐剤;クエン酸、クエン酸ナトリウム、水酸化ナトリウム、トリエタノールアミン等のpH調整剤;トコフェロール酢酸エステル等の酸化防止剤;カルボキシビニルポリマー、ヒドロキシエチルセルロース等の増粘剤;グリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル等の界面活性剤;グリシン、アラニン等の抗菌性を有するアミノ酸;茶抽出物、竹抽出物等の天然物由来の抗菌剤;色素;洗浄剤;抗炎症剤;清涼剤;香料などが挙げられ、これらの成分は、1種類の成分を単独で用いても、2種類以上の成分を併用してもよい。
【0094】
これらの成分の中でも、ポリアミノプロピルビグアニドおよび塩化ベンザルコニウムの少なくとも一方の防腐剤を含むことが好ましい。これらの成分は、抗菌活性および人体への安全性に優れる上、黄変も生じにくいものであるため、ウェットシートとして優れた抗菌活性を発揮することができ、上述の黄変抑制効果もより安定して発揮することができる。なお、これらの成分は、両方含むことが特に好ましい。
【0095】
また、その他の成分の含有量は、上述の黄変抑制効果を阻害しない限り特に限定されず、例えば、薬液全体の質量に対して1.00質量%以下であり、好ましくは0.50質量%以下であり、更に好ましくは0.10質量%以下である。なお、その他の成分が複数の成分である場合、上記含有量は複数の成分の合計含有量を意味する。
【0096】
繊維基材に対する薬液の含浸量は特に限定されず、例えば、繊維基材100質量部に対して150質量部~400質量部(すなわち、含浸率150%~400%)、好ましくは200質量部~300質量部(すなわち、含浸率200%~300%)の薬液を含浸させることができる。
【0097】
上述のウェットシートは、家庭や職場、医療機関などにおいて、手や体を清潔にしたり、家具や各種機器、床、トイレ等を清掃したりするなどの目的で使用されるウェットティッシュや清掃シートとして、あるいは、フェイスマスクなどの美容シートとして、特に好適に用いることができる。なお、ウェットティッシュにおいては、常温(20℃±15℃)で使用することはもちろんのこと、加温機器や保温機器により温めて使用することもできる。
【0098】
本発明の評価方法やウェットシートは、上述した各実施形態や後述する実施例等に制限されることなく、本発明の目的、趣旨を逸脱しない範囲内において、適宜組み合わせや代替、変更等が可能である。なお、本明細書において、「第1」、「第2」等の序数は、当該序数が付された事項を区別するためのものであり、各事項の順序や優先度、重要度等を意味するものではない。
【実施例
【0099】
以下、実施例を例示して本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこのような実施例のみに限定されるものではない。
【0100】
製造例1A~16A
エタノールおよび水の配合割合(エタノール/水)が50質量%/50質量%である含水エタノールに、蛋白質成分としてのシルクプロテイン(株式会社成和化成製、Promois SILK-1000)と、非還元糖成分としてのトレハロース(株式会社林原製、商品名「トレハ」)と、保湿成分としてのグリセリン(阪本薬品工業株式会社製、濃グリセリン)とを加えて攪拌し、製造例1Aのウェットシート用の薬液を得た。薬液中の各成分の具体的な含有量は下記の表1に示す。
また、薬液中の非還元糖成分および保湿成分の含有量を下記の表1に示すものに変更したり、非還元糖成分をスクロース(ナカライテスク株式会社製、スクロース(サッカロース))に変更したり、あるいは保湿成分をジプロピレングリコール(株式会社ADEKA製、DPG-RF;DPG)に変更したりしたこと以外は、それぞれ製造例1Aと同様にして製造例2A~10Aのウェットシート用の薬液を得た。
さらに、薬液中の蛋白質成分をコラーゲン(新田ゼラチン株式会社製、TYPE-S)、エラスチン(株式会社高研製、エラスオーシャン)およびカゼイン(株式会社成和化成製、Promois MILK)に変更したこと以外は、それぞれ製造例1Aと同様にして、製造例11A~16Aのウェットシート用の薬液を得た。
【0101】
製造例1B~10B
また、蛋白質成分、非還元糖成分および保湿成分の種類や含有量をそれぞれ下記の表2に示すものに変更したこと以外は、製造例1A等と同様にしてそれぞれ製造例1B~10Bのウェットシート用の薬液を得た。薬液中の各成分の具体的な含有量は、下記の表2に示す。
【0102】
得られた製造例1A~16Aおよび製造例1B~10Bの各薬液について、下記の<黄変評価方法>に従って、黄変の発生の有無を評価した。この評価結果は、下記の表1および表2に示す。なお、各表中の黄変評価結果欄における括弧内の数値は、黄変発生率を表す。
【0103】
<黄変評価方法>
(1)レーヨンの原綿1g(0.97g~1.03g)を無色透明の広口の瓶(アズワン規格瓶No.4(5-130-03)、材質:ソーダ石灰ガラス、摺切容量:37.5mL)に入れる。
(2)評価対象となる薬液2.7gを瓶内に滴下する。なお、薬液は、レーヨンの原綿と瓶の内面との接触部分に滴下しながら、回し入れる。
(3)瓶の口をラップフィルムで皺が入らないように覆い、ラップフィルムが外れないように輪ゴムで止める。
(4)瓶の口を覆うラップフィルムに、通気用の穴を6個形成し、黄変評価用のサンプル瓶を得る。
(5)同じ薬液を用いて上記(1)~(4)の工程を実施することにより、黄変評価用のサンプル瓶を10個作製する。
(6)複数個のサンプル瓶を50℃~60℃の温度に設定された加温機に入れる。
(7)加温機に入れた複数個のサンプル瓶を1日おきに7日間、外観検査を実施し、黄変の発生の有無を確認する。
(8)黄変が発生したサンプル瓶の個数をカウントし、全サンプル瓶の個数で除することにより、薬液の黄変発生率(%)を算出する。
(9)薬液の黄変発生率を以下の基準にて評価する。
黄変発生率が10%以下 :◎(黄変がほとんど発生しない)
黄変発生率が10%超、30%以下:○(黄変が発生しにくい)
黄変発生率が30%超 :×(黄変が発生しやすい)
【0104】
【表1】
【0105】
【表2】
【0106】
表1および表2に示すように、製造例1A~16Aの薬液は、いずれも黄変がほとんど発生していないか、発生しにくいのに対し、製造例1B~10Bの薬液は、いずれも黄変が発生しやすいということが、製造前に短時間で知り得ることがわかった。
【符号の説明】
【0107】
1 原綿(繊維の集合体の一例)
2 容器
3 薬液
4 滴下手段
5 ラップフィルム
6 固定手段
7 加温機
図1