(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-29
(45)【発行日】2024-03-08
(54)【発明の名称】微生物油、微生物油の製造方法、濃縮微生物油及び濃縮微生物油の製造方法
(51)【国際特許分類】
C12P 7/64 20220101AFI20240301BHJP
C11B 3/12 20060101ALI20240301BHJP
C11C 3/00 20060101ALI20240301BHJP
A61K 8/92 20060101ALI20240301BHJP
A61K 8/9728 20170101ALI20240301BHJP
A61Q 19/00 20060101ALI20240301BHJP
A61K 31/20 20060101ALI20240301BHJP
A61P 17/00 20060101ALI20240301BHJP
A61P 17/04 20060101ALI20240301BHJP
A61P 17/06 20060101ALI20240301BHJP
A61P 29/00 20060101ALI20240301BHJP
A61P 37/08 20060101ALI20240301BHJP
A23K 20/158 20160101ALI20240301BHJP
A23K 10/16 20160101ALN20240301BHJP
【FI】
C12P7/64
C11B3/12
C11C3/00
A61K8/92
A61K8/9728
A61Q19/00
A61K31/20
A61P17/00
A61P17/04
A61P17/06
A61P29/00
A61P29/00 101
A61P37/08
A23K20/158
A23K10/16
(21)【出願番号】P 2022172835
(22)【出願日】2022-10-28
(62)【分割の表示】P 2020191160の分割
【原出願日】2014-12-04
【審査請求日】2022-11-25
(31)【優先権主張番号】P 2013251401
(32)【優先日】2013-12-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004189
【氏名又は名称】株式会社ニッスイ
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100117019
【氏名又は名称】渡辺 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100141977
【氏名又は名称】中島 勝
(74)【代理人】
【識別番号】100150810
【氏名又は名称】武居 良太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100087871
【氏名又は名称】福本 積
(72)【発明者】
【氏名】山口 秀明
(72)【発明者】
【氏名】小菅 雄平
(72)【発明者】
【氏名】池田 理恵
(72)【発明者】
【氏名】土居崎 信滋
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 誠造
【審査官】吉門 沙央里
(56)【参考文献】
【文献】特表2006-501840(JP,A)
【文献】特開2002-125691(JP,A)
【文献】特開2007-089522(JP,A)
【文献】特開平11-209786(JP,A)
【文献】特表2010-532418(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12P 1/00-41/00
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ミード酸を生産することができる微生物の微生物バイオマスを起源として得られる、脂肪酸アルキルエステル又は遊離脂肪酸を含んでなる微生物油において、当該微生物油は、脂肪酸アルキルエステル形態及び/又は遊離脂肪酸形態であるミード酸を当該油中の脂肪酸の合計重量の80重量%以上の含有率で含んでなり、
ここで、蒸留を含む加熱工程により生成する熱生成脂肪酸の含有率が油中の脂肪酸の合計重量の0.0001重量%~3.0重量%であり、そして
前記熱生成脂肪酸は、ミード酸の炭素二重結合の一部又はすべてがトランス型に変化したものである
、前記微生物油。
【請求項2】
前記ミード酸の含有率が、油中の脂肪酸の合計重量の80重量%~98重量%である請求項1記載の微生物油。
【請求項3】
炭素数22の飽和脂肪酸及び炭素数24の飽和脂肪酸の合計含有率が、油中の脂肪酸の合計重量の6.0重量%以下である請求項1又は2記載の微生物油。
【請求項4】
炭素数22の飽和脂肪酸及び炭素数24の飽和脂肪酸の合計含有率が、前記ミード酸の含有率の10/100以下である請求項1~請求項3のいずれか1項記載の微生物油。
【請求項5】
炭素数24の飽和脂肪酸の含有率が、油中の脂肪酸の合計重量の3.0重量%以下である請求項1~請求項4のいずれか1項記載の微生物油。
【請求項6】
炭素数24の飽和脂肪酸の含有率が、前記ミード酸の含有率の4/100以下である請求項1~請求項5のいずれか1項記載の微生物油。
【請求項7】
液体クロマトグラフィーでの分離に関する指標であって、脂肪酸の炭素数及び二重結合数から求められるパーティションナンバーを用いた場合に、ミード酸のパーティションナンバーと比べて、2少ない数以上2多い数以下のパーティションナンバーを有し、当該ミード酸の炭素数とは異なる炭素数を有する他の飽和又は不飽和脂肪酸の含有率が、油中の脂肪酸の合計重量の10.0重量%以下である請求項1~請求項6のいずれか1項記載の微生物油。
【請求項8】
前記他の飽和又は不飽和脂肪酸の含有率が、前記ミード酸の含有率の15/100以下である請求項7記載の微生物油。
【請求項9】
前記他の飽和又は不飽和脂肪酸が、炭素数18の飽和脂肪酸、炭素数18の一価不飽和脂肪酸、炭素数18の二価不飽和脂肪酸、炭素数18の三価不飽和脂肪酸及び炭素数18の四価不飽和脂肪酸からなる群より選択された少なくとも1つを含む請求項7又は請求項8記載の微生物油。
【請求項10】
前記熱生成脂肪酸が、炭素数20の熱生成脂肪酸である請求項1~請求項9のいずれか1項記載の微生物油。
【請求項11】
前記熱生成脂肪酸の含有率が、油中の脂肪酸の合計重量の0.001重量%~2.8重量%である請求項1~請求項9のいずれか1項記載の微生物油。
【請求項12】
炭素数18の一価不飽和脂肪酸の含有率が、油中の脂肪酸の合計重量の7.0重量%以下である請求項9~請求項11のいずれか1項記載の微生物油。
【請求項13】
炭素数18の一価不飽和脂肪酸の含有率が、前記ミード酸の含有率の10/100以下である請求項9~請求項12のいずれか1項記載の微生物油。
【請求項14】
炭素数18の二価不飽和脂肪酸の含有率が、前記ミード酸の含有率の7/100以下である請求項9~請求項13のいずれか1項記載の微生物油。
【請求項15】
炭素数18の一価不飽和脂肪酸及び炭素数18の二価不飽和脂肪酸の合計含有率が、前記ミード酸の15/100以下である請求項9~請求項14のいずれか1項記載の微生物油。
【請求項16】
炭素数18の飽和脂肪酸の含有率が、前記ミード酸の含有率の11/100以下である請求項9~請求項15のいずれか1項記載の微生物油。
【請求項17】
微生物油の製造方法であって、
微生物バイオマスから得られたアルキルエステル形態及び/又は遊離脂肪酸形態のミード酸を含む原料油を用意すること、並びに、
前記原料油に対して、160℃~230℃の塔底温度及び0.1Pa~30Paの蒸留塔内における最低圧力を含む条件によって精密蒸留による精製を行うことにより、
ミード酸を、脂肪酸の合計重量の80重量%以上の含有率で含む
、微生物油を得ること、
を含む、当該製造方法。
【請求項18】
微生物油の製造方法であって、
微生物バイオマスから得られたアルキルエステル形態及び/又は遊離脂肪酸形態のミード酸を含む原料油を用意すること、
前記原料油に対して、規則充填物を含む蒸留塔を用いて、160℃~230℃の塔底温度及び0.1Pa~30Paの蒸留塔内における最低圧力を含む条件による精密蒸留を行うこと、並びに、
請求項1~請求項16のいずれか1項記載の微生物油を得ること、
を含む、当該製造方法。
【請求項19】
微生物油の製造方法であって、
微生物バイオマスから得られたアルキルエステル形態及び/又は遊離脂肪酸形態のミード酸を含む原料油を用意すること、
前記原料油に対して、規則充填物を含む蒸留塔を用いて、160℃~230℃の塔底温度及び0.1Pa~30Paの蒸留塔内における最低圧力で、油中の脂肪酸の合計重量の0.0001重量%~3.0重量%の含有率の炭素数16~22の熱生成脂肪酸を含む微生物油が得られ得る条件による精密蒸留を行うこと、並びに、
請求項1~請求項16のいずれか1項記載の微生物油を得ること、
を含む、当該製造方法。
【請求項20】
前記精密蒸留が、互いに異なる塔底温度及び蒸留塔内における最低圧力の条件による複数回の精密蒸留を含む請求項18又は請求項19記載の製造方法。
【請求項21】
前記精密蒸留が、160℃~220℃の塔底温度及び0.1Pa~30Paの蒸留塔内における最低圧力による低温精密蒸留と、170℃~230℃の塔底温度及び0.1Pa~30Paの蒸留塔内における最低圧力による高温精密蒸留を含む請求項20記載の製造方法。
【請求項22】
前記高温精密蒸留における塔底温度が、前記低温精密蒸留の塔底温度よりも3℃~20℃高い請求項21記載の製造方法。
【請求項23】
規則充填物1単位あたりの比表面積が、125m
2/m
3~1700m
2/m
3である請求項18~請求項22のいずれか1項記載の製造方法。
【請求項24】
脂肪酸アルキルエステル形態及び/又は遊離脂肪酸形態のミード酸の含有率が、油中の脂肪酸の合計重量の90重量%~98重量%であり、
熱生成脂肪酸の含有率が、油中の脂肪酸の合計重量の0.0001重量%~3. 0重量%であり、
炭素数24の飽和脂肪酸及び炭素数22の飽和脂肪酸の合計含有率が、油中の脂肪酸の合計重量の1.0重量%以下であり、
炭素数18の一価不飽和脂肪酸の含有率が、油中の脂肪酸の合計重量の5.0重量%以下である、
請求項1に記載の微生物油。
【請求項25】
濃縮微生物油の製造方法であって、
請求項17~請求項23のいずれか1項記載の製造方法を用いて、ミード酸を含有する微生物油を得ること、
得られた微生物油に対して、逆相カラムクロマトグラフィーを用いた濃縮処理を行うこと、
を含む、当該方法。
【請求項26】
請求項1~請求項16のいずれか1項記載の微生物油又は請求項24記載の微生物油の、食品、サプリメント、医薬品、化粧品又は飼料における使用。
【請求項27】
請求項1~請求項16のいずれか1項記載の微生物油又は請求項24記載の微生物油の、食品、サプリメント、医薬品、化粧品又は飼料の製造方法における使用。
【請求項28】
請求項1~請求項16のいずれか1項記載の微生物油又は請求項24記載の微生物油を含む医薬品。
【請求項29】
請求項1~請求項16のいずれか1項記載の微生物油又は請求項24記載の微生物油を含む炎症性疾患予防又は治療剤。
【請求項30】
抗アレルギー剤又は抗炎症剤である請求項29記載の炎症性疾患予防又は治療剤。
【請求項31】
前記炎症性疾患が、発疹、蕁麻疹、水疱、膨疹及び湿疹からなる群より選択される少なくとも1つの皮膚の炎症性疾患、又は、放射線への曝露、自己免疫疾患及び尿毒症性そう痒からなる群より選択される少なくとも1つにより引き起こされる皮膚の炎症性疾患である請求項29又は請求項30記載の炎症性疾患予防又は治療剤。
【請求項32】
前記炎症性疾患が、アトピー性皮膚炎、アレルギー性接触性皮膚炎、刺激性接触皮膚炎、光接触皮膚炎、全身性接触皮膚炎、リウマチ、乾癬及び狼瘡からなる群より選択される少なくとも1つである請求項29又は請求項30記載の炎症性疾患予防又は治療剤。
【請求項33】
前記精密蒸留が、互いに異なる塔底温度及び蒸留塔内における最低圧力の条件による複数回の精密蒸留を含む請求項17記載の製造方法。
【請求項34】
前記精密蒸留が、160℃~220℃の塔底温度及び0.1Pa~30Paの蒸留塔内における最低圧力による低温精密蒸留と、170℃~230℃の塔底温度及び0.1Pa~30Paの蒸留塔内における最低圧力による高温精密蒸留を含む請求項33記載の製造方法。
【請求項35】
前記高温精密蒸留における塔底温度が、前記低温精密蒸留の塔底温度よりも3℃~20℃高い請求項34記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、微生物油、微生物油の製造方法、濃縮微生物油及び濃縮微生物油の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
微生物油には、エイコサジエン酸、ジホモ-γ-リノレン酸(DGLA)、エイコサテトラエン酸、アラキドン酸(ARA)、エイコサペンタエン酸(EPA)、ドコサテトラエン酸、ドコサペンタエン酸及び、ドコサヘキサエン酸(DHA)等の炭素数20以上の長鎖多価不飽和脂肪酸が含まれている。これらの長鎖多価不飽和脂肪酸を、機能性成分として利用した医薬品、健康食品、化粧品等が注目され、更なる用途も検討されている。これに伴い、高濃度で大量に多価不飽和脂肪酸を生産することが求められている。
【0003】
微生物油には、長鎖多価不飽和脂肪酸以外にも、短鎖脂肪酸、飽和脂肪酸、リン脂質、ステロール、グリセリド、セラミド、スフィンゴ脂質、テルペノイド、フラボノイド、トコフェロール等の多種多様な独特の油性成分が含まれる。これらの成分には、固有の機能が発揮される場合がある。例えば短鎖脂肪酸は微生物油の特有の臭いの原因になりことがあり、その特有の臭いが、特定の長鎖多価不飽和脂肪酸に求められる機能の発揮には好ましくない場合がある。微生物油に含まれる特定の長鎖多価不飽和脂肪酸を濃縮又は精製する場合に、高速液体クロマトグラフィー、液々分配、尿素付加等が用いられることがある。
【0004】
例えば、特許文献1には、リノール酸、DGLA、DHA及びEPA等を産生する遺伝子組み換え微生物から得られた微生物油を、短行程蒸留条件下で少なくとも1回蒸留することにより、ステロール含有微生物油組成物中のステロール量を低減させる方法が開示されている。
特許文献2には、脱臭及び安定化された微生物油を含む食用海産物油の調製において、規則充填物を含む薄膜塔内で該油を向流水蒸気蒸留(CCSD)に付すこと、所望により酸化防止剤を添加することを含む方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特表2014-510166号公報
【文献】特表2010-526896号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
これまでの方法は、脂肪酸以外の一部の特定の成分と濃縮又は精製の目的とする特定の脂肪酸とを分離することが目的であって、これまでの方法では、濃縮又は精製の目的とする長鎖多価不飽和脂肪酸を、高度に濃縮又は精製するのは困難である。微生物油を原料とした場合、原料に含まれる多種多様な他の成分の影響等により濃縮又は精製のターゲットとする長鎖多価不飽和脂肪酸の濃縮又は精製を十分に行うことができない。蒸留技術により濃縮又は精製を行うこともできるが、微生物油において、ターゲットとする長鎖多価不飽和脂肪酸を濃縮又は精製するための蒸留技術は、まだ十分に確立されてはいない。
【0007】
本発明は、ターゲットとする多価不飽和脂肪酸を高い比率で含有する精製された微生物油を効率よく得るために有用な、微生物油及びその製造方法、高含有率で多価不飽和脂肪酸を含有する濃縮微生物油及びその製造方法、並びに、微生物油及び濃縮微生物油の各用途を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の各態様では、以下の微生物油、微生物油の製造方法、濃縮微生物油、濃縮微生物油の製造方法、微生物油及び濃縮微生物油の各用途が提供される。
<1> 油中の脂肪酸の合計重量の50重量%以上の含有率を有する、脂肪酸アルキルエステル形態及び/又は遊離脂肪酸形態である少なくとも1つの炭素数20以上の多価不飽和脂肪酸と、油中の脂肪酸の合計重量の3.0重量%以下の含有率を有する、炭素数16~22の熱生成脂肪酸と、を含む、微生物油。
<2> 前記多価不飽和脂肪酸の含有率が、油中の脂肪酸の合計重量の80重量%~98重量%である<1>記載の微生物油。
<3> 前記熱生成脂肪酸の含有率が、油中の脂肪酸の合計重量の0.0001重量%~3.0重量%である<1>又は<2>記載の微生物油。
<4> 炭素数22の飽和脂肪酸及び炭素数24の飽和脂肪酸の合計含有率が、油中の脂肪酸の合計重量の6.0重量%以下である<1>~<3>のいずれか1に記載の微生物油。
<5> 炭素数22の飽和脂肪酸と炭素数24の飽和脂肪酸の合計含有率が、前記多価不飽和脂肪酸の含有率の10/100以下である<1>~<4>のいずれか1に記載の微生物油。
<6> 炭素数24の飽和脂肪酸の含有率が、油中の脂肪酸の合計重量の3.0重量%以下である<1>~<5>のいずれか1に記載の微生物油。
<7> 炭素数24の飽和脂肪酸の含有率が、前記多価不飽和脂肪酸の含有率の4/100以下である<1>~<6>のいずれか1に記載の微生物油。
<8> 液体クロマトグラフィーでの分離に関する指標であって、脂肪酸の炭素数及び二重結合数から求められるパーティションナンバーを用いた場合に、前記多価不飽和脂肪酸のパーティションナンバーと比べて、2少ない数以上2多い数以下のパーティションナンバーを有し、当該多価不飽和脂肪酸の炭素数とは異なる炭素数を有する他の飽和又は不飽和脂肪酸の含有率が、油中の脂肪酸の合計重量の10.0重量%以下である<1>~<7>のいずれか1に記載の微生物油。
<9> 前記他の飽和又は不飽和脂肪酸の含有率が、前記多価不飽和脂肪酸の含有率の15/100以下である<8>記載の微生物油。
<10> 前記多価不飽和脂肪酸が、エイコサジエン酸、ジホモ-γ-リノレン酸、ミード酸、エイコサテトラエン酸、アラキドン酸、エイコサペンタエン酸、ドコサテトラエン酸、ドコサペンタエン酸及びドコサヘキサエン酸からなる群より選択された少なくとも1つである<1>~<9>のいずれか1に記載の微生物油。
<11> 前記他の飽和又は不飽和脂肪酸が、炭素数18の飽和脂肪酸、炭素数18の一価不飽和脂肪酸、炭素数18の二価不飽和脂肪酸、炭素数18の三価不飽和脂肪酸及び炭素数18の四価不飽和脂肪酸からなる群より選択された少なくとも1つを含む<8>~<10>のいずれか1に記載の微生物油。
<12> 前記多価不飽和脂肪酸がジホモ-γ-リノレン酸であり、前記熱生成脂肪酸が、炭素数20の熱生成脂肪酸である<1>~<11>のいずれか1に記載の微生物油。
<13> 熱生成脂肪酸が、当該熱生成脂肪酸エチルエステルに対する下記条件によるガスクロマトグラフィー分析においてジホモ-γ-リノレン酸エチルの保持時間を1としたときに、1.001~1.011の範囲内に現れるピークとしての保持時間を有する第一の物質と、1.013~1.027の範囲内に現れるピークとしての保持時間を有する第二の物質との少なくとも一方を含む<12>記載の微生物油。
装置: 6890N Network GC system アジレント・テクノロジー株式会社)
カラム: DB-WAX 長さ30m×内径0.25mm×膜厚0.25μm(アジレント・テクノロジー株式会社)
カラム温度条件: 60℃2.5分→昇温20℃/分→180℃→昇温2℃/分→230℃15分
注入口温度: 210℃、スプリットレス、スプリットベントのサンプリングタイム1.5分、パージ流量40mL/分
注入量条件: 1μL、試料濃度1mg/mL以下
検出器:FID
検出器温度: 280℃
キャリアガス条件: ヘリウム、線速度24cm/分
<14> 前記多価不飽和脂肪酸がジホモ-γ-リノレン酸であり、前記第一の物質及び前記第二の物質の合計含有率が、油中の脂肪酸の合計重量の0.001重量%~2.8重量%である<13>記載の微生物油。
<15> 炭素数18の一価不飽和脂肪酸の含有率が、油中の脂肪酸の合計重量の7.0重量%以下である<10>~<14>のいずれか1に記載の微生物油。
<16> 炭素数18の一価不飽和脂肪酸の含有率が、前記多価不飽和脂肪酸の含有率の10/100以下である<10>~<15>のいずれか1に記載の微生物油。
<17> 炭素数18の二価不飽和脂肪酸の含有率が、前記多価不飽和脂肪酸の含有率の7/100以下である<10>~<16>のいずれか1に記載の微生物油。
<18> 炭素数18の一価不飽和脂肪酸及び炭素数18の二価不飽和脂肪酸の合計含有率が、前記多価不飽和脂肪酸の含有率の15/100以下である<10>~<17>のいずれか1に記載の微生物油。
<19> 炭素数18の飽和脂肪酸の含有率が、前記多価不飽和脂肪酸の含有率の11/100以下である<10>~<18>のいずれか1に記載の微生物油。
<20> 微生物油の製造方法であって、微生物バイオマスから得られたアルキルエステル形態及び/又は遊離脂肪酸形態の炭素数20以上の少なくとも1つの多価不飽和脂肪酸を含む原料油を用意すること、並びに、前記原料油に対して、160℃~230℃の塔底温度及び0.1Pa~30Paの蒸留塔内における最低圧力を含む条件によって精密蒸留による精製を行うこと、を含む、当該製造方法。
<21> 微生物油の製造方法であって、微生物バイオマスから得られたアルキルエステル形態及び/又は遊離脂肪酸形態の炭素数20以上の少なくとも1つの多価不飽和脂肪酸を含む原料油を用意すること、前記原料油に対して、規則充填物を含む蒸留塔を用いて、160℃~230℃の塔底温度及び0.1Pa~30Paの蒸留塔内における最低圧力を含む条件による精密蒸留を行うこと、並びに、<1>~<19>のいずれか1に記載の微生物油を得ること、を含む、当該製造方法。
<22> 微生物油の製造方法であって、微生物バイオマスから得られたアルキルエステル形態及び/又は遊離脂肪酸形態の炭素数20以上の少なくとも1つの多価不飽和脂肪酸を含む原料油を用意すること、前記原料油に対して、規則充填物を含む蒸留塔を用いて、ターゲットとする前記多価不飽和脂肪酸の種類に応じた塔底温度及び蒸留塔内における最低圧力を含み、油中の脂肪酸の合計重量の3.0重量%以下の含有率の炭素数16~22の熱生成脂肪酸を含む微生物油が得られ得る条件による精密蒸留を行うこと、並びに、<1>~<19>のいずれか1に記載の微生物油を得ること、を含む、当該製造方法。
<23> 前記精密蒸留を、160℃~230℃の塔底温度及び0.1Pa~30Paの蒸留塔内における最低圧力で行う<22>記載の製造方法。
<24> 前記精密蒸留が、互いに異なる塔底温度及び蒸留塔内における最低圧力の条件による複数回の精密蒸留を含む<20>~<23>のいずれか1に記載の製造方法。
<25> 前記精密蒸留が、160℃~220℃の塔底温度及び0.1Pa~30Paの蒸留塔内における最低圧力による低温精密蒸留と、170℃~230℃の塔底温度及び0.1Pa~30Paの蒸留塔内における最低圧力による高温精密蒸留を含む<24>記載の製造方法。
<26> 前記高温精密蒸留における塔底温度が、前記低温精密蒸留の塔底温度よりも3℃~20℃高い<25>記載の製造方法。
<27> 規則充填物の1単位あたりの比表面積が、125m2/m3~1700m2/m3である<21>~<26>のいずれか1に記載の製造方法。
<28> 脂肪酸アルキルエステル形態及び/又は遊離脂肪酸形態の炭素数20以上の多価不飽和脂肪酸の含有率が、油中の脂肪酸の合計重量の90重量%~98重量%であり、炭素数16~22の熱生成脂肪酸の含有率が、油中の脂肪酸の合計重量の0.0001重量%~3.0重量%であり、炭素数24の飽和脂肪酸及び炭素数22の飽和脂肪酸の合計含有率が、油中の脂肪酸の合計重量の1.0重量%以下であり、炭素数18の一価不飽和脂肪酸の含有率が、油中の脂肪酸の合計重量の5.0重量%以下である、濃縮微生物油。
<29> 脂肪酸アルキルエステル形態及び/又は遊離脂肪酸形態のジホモ-γ-リノレン酸の含有率が、油中の脂肪酸の合計重量の90重量%~98重量%であり、炭素数16~22の熱生成脂肪酸の含有率が、油中の脂肪酸の合計重量の0.0001重量%~3.0重量%であり、炭素数24の飽和脂肪酸及び炭素数22の飽和脂肪酸の合計含有率が、油中の脂肪酸の合計重量の1.0重量%以下であり、炭素数18の一価不飽和脂肪酸の含有率が、油中の脂肪酸の合計重量の5.0重量%以下である、濃縮微生物油。
<30> 濃縮微生物油の製造方法であって、<20>~<27>のいずれか1に記載の製造方法を用いて、ターゲットとする脂肪酸アルキルエステル形態及び/又は遊離脂肪酸形態の少なくとも1つの炭素数20以上の多価不飽和脂肪酸を含有する微生物油を得ること、得られた微生物油に対して、逆相カラムクロマトグラフィーを用いた濃縮処理を行うこと、を含む、当該方法。
<31> <1>~<19>のいずれか1記載の微生物油又は<28>若しくは<29>記載の濃縮微生物油の、食品、サプリメント、医薬品、化粧品又は飼料における使用。
<32> <1>~<19>のいずれか1記載の微生物油又は<28>若しくは<29>記載の濃縮微生物油の、食品、サプリメント、医薬品、化粧品又は飼料の製造方法における使用。
<33> <1>~<19>のいずれか1記載の微生物油又は<28>若しくは<29>記載の濃縮微生物油を含む医薬品。
<34> <1>~<19>のいずれか1記載の微生物油又は<28>若しくは<29>記載の濃縮微生物油を含む炎症性疾患予防又は治療剤。
<35> 抗アレルギー剤又は抗炎症剤である<34>記載の炎症性疾患予防又は治療剤。
<36> 前記炎症性疾患が、発疹、蕁麻疹、水疱、膨疹及び湿疹からなる群より選択される少なくとも1つの皮膚の炎症性疾患、又は、放射線への曝露、自己免疫疾患及び尿毒症性そう痒からなる群より選択される少なくとも1つにより引き起こされる皮膚の炎症性疾患である<34>又は<35>記載の炎症性疾患予防又は治療剤。
<37> 前記炎症性疾患が、アトピー性皮膚炎、アレルギー性接触性皮膚炎、刺激性接触皮膚炎、光接触皮膚炎、全身性接触皮膚炎、リウマチ、乾癬及び狼瘡からなる群より選択される少なくとも1つである<34>又は<35>記載の炎症性疾患予防又は治療剤。
<38> <34>~<37>のいずれか1に記載の炎症性疾患予防又は治療剤を、炎症性疾患に罹患している又は罹患する危険性のある対象者に投与することを含む炎症性疾患予防、治療又は寛解方法。
<39> 前記投与が、経口投与又は局所投与である<37>記載の炎症性疾患予防、治療又は寛解方法。
<40> <20>~<27>のいずれか1に記載の製造方法で得られた微生物油。
<41> <30>記載の製造方法で得られた濃縮微生物油。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、ターゲットとする多価不飽和脂肪酸を高い比率で含有する精製された微生物油を効率よく得るために有用な、微生物油及びその製造方法、高含有率で多価不飽和脂肪酸を含有する濃縮微生物油及びその製造方法、並びに微生物油及び濃縮微生物油の各用途を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の一態様による微生物油(microbial oil)の製造方法は、微生物バイオマスから得られたアルキルエステル形態及び/又は遊離脂肪酸形態の炭素数20以上の少なくとも1つの多価不飽和脂肪酸を含む原料油を用意すること、並びに、前記原料油に対して、160℃~230℃の塔底温度及び0.1Pa~30Paの蒸留塔内における最低圧力を含む条件によって精密蒸留による精製を行うこと、を含む。
【0011】
本発明は、微生物バイオマスから得られたアルキルエステル形態及び/又は遊離脂肪酸形態の炭素数20以上の少なくとも1つの多価不飽和脂肪酸を含む原料油に対して、特定の条件による精密蒸留を用いた精製を行うことによって、ターゲットとするアルキルエステル形態及び/又は遊離脂肪酸形態の炭素数20以上の少なくとも1つの多価不飽和脂肪酸を高含有率で含む微生物油が得られるという知見に基づく。
本明細書では、アルキルエステル形態及び/又は遊離脂肪酸形態の炭素数20以上の少なくとも1つの多価不飽和脂肪酸を、特に断らない限り、ターゲットLC-PUFA(target LC-PUFA)と称する場合がある。また、本明細書では、特に断らない限り、微生物バイオマスから得られた原料油に含まれる脂肪酸アルキルエステル形態又は遊離脂肪酸形態の飽和又は不飽和脂肪酸の個々の形態については省略する場合がある。例えば、脂肪酸アルキルエステル形態の炭素数20以上の不飽和脂肪酸と遊離脂肪酸形態の炭素数20以上の不飽和脂肪酸を、共に、「炭素数20以上の不飽和脂肪酸」と称し、脂肪酸アルキルエステル形態の炭素数22の飽和脂肪酸と遊離脂肪酸形態の炭素数22の飽和脂肪酸を、共に、「炭素数22の飽和脂肪酸」と称する。
【0012】
即ち、微生物バイオマスから得られる原料油の精製には、これまで分子蒸留等の単蒸留が用いられていたが、単蒸留では加熱によって脂肪酸の分離を行うのみであり、ターゲットとする特定の多価不飽和脂肪酸を、ターゲットとしない脂肪酸から精度よく分離することができなかった。
本発明では、このような微生物バイオマスから得られた原料油からターゲットLC-PUFAを精製する場合に、特定の温度条件及び圧力条件での精密蒸留により精製を行うので、ターゲットとする前記多価不飽和脂肪酸をより精度よく且つ高い含有率で精製することができる。
【0013】
また、本発明の他の態様による微生物油の製造方法は、微生物バイオマスから得られたアルキルエステル形態及び/又は遊離脂肪酸形態の炭素数20以上の少なくとも1つの多価不飽和脂肪酸を含む原料油を用意すること、前記原料油に対して、規則充填物を含む蒸留塔を用いて、160℃~230℃の塔底温度及び0.1Pa~30Paの蒸留塔内における最低圧力を含む条件による精密蒸留を行うこと、並びに、後述する本発明の一態様における特定の微生物油を得ること、を含む。
【0014】
また本発明の更に他の態様による微生物油の製造方法は、微生物バイオマスから得られたアルキルエステル形態及び/又は遊離脂肪酸形態の炭素数20以上の少なくとも1つの多価不飽和脂肪酸を含む原料油を用意すること、前記原料油に対して、規則充填物を含む蒸留塔を用いて、ターゲットとする前記多価不飽和脂肪酸の種類に応じた塔底温度及び蒸留塔内における最低圧力を含み、油中の脂肪酸の合計重量の3.0重量%以下の含有率の炭素数16~22の熱生成脂肪酸を含む微生物油が得られ得る条件による精密蒸留を行うこと、並びに、後述する本発明の一態様における微生物油を得ること、を含む。
【0015】
本発明の一態様による微生物油は、油中の脂肪酸の合計重量の50重量%以上の含有率を有する、脂肪酸アルキルエステル形態及び/又は遊離脂肪酸形態である少なくとも1の炭素数20以上の多価不飽和脂肪酸と、油中の脂肪酸の合計重量の3.0重量%以下の含有率を有する、炭素数16~22の熱生成脂肪酸と、を含む、微生物油である。
【0016】
原料油に含まれる種々の成分から特定の脂肪酸をより高い精度で精密蒸留によって精製するためには、より厳しい条件、例えばより高い温度条件で行うことが有利となり得る。例えば、塔底温度を高くして蒸気量を増やすことによって、還流比(還流量/留分抜出量)を増大させ、精密蒸留における各脂肪酸の分離を改善することができる。また、微生物バイオマスからの原料油では、ターゲットLC-PUFAよりも融点が高い長鎖飽和脂肪酸、例えば炭素数22の飽和脂肪酸又は炭素数24の飽和脂肪酸の含有率が、一般に知られている魚油、植物油等から得られた原料油よりも高い傾向がある。このような微生物油中の長鎖飽和脂肪酸は、ターゲットLC-PUFAに比べて高分子量で沸点が高く、同一温度における飽和蒸気圧も低いことが見出された。従って、これらの長鎖飽和脂肪酸を多く含む微生物油由来の原料油を蒸留する場合には、これらが少ない魚油等に由来する原料油に比べて高い蒸留温度、即ち、塔底温度を必要とすることが見出された。即ち、微生物バイオマスからの原料油を蒸留し、炭素数20以上の多価不飽和脂肪酸の含有率が高く、これらよりも融点が高い長鎖飽和脂肪酸の含有率が低い微生物油を得るには、一般に知られている魚油、植物油等からの原料油より厳しい条件、例えばより高い温度条件が求められる。一方で、より高い温度条件の蒸留を行うと、蒸留の前には生成されなかった脂肪酸成分、いわゆる、熱生成脂肪酸が微生物油中に発生することが見出された。微生物油中に発生した熱生成脂肪酸の中には、過度の熱の影響を受けてターゲットLC-PUFAから生成するものが含まれていると考えられ、熱生成脂肪酸の含有率の増加に伴って、ターゲットLC-PUFAの含有率が低下する傾向があることが見出された。微生物油中にターゲットLC-PUFAから生成した熱生成脂肪酸は、逆相カラムクロマトグラフィーを用いても、ターゲットLC-PUFAと効果的に分離できない傾向があり、濃縮微生物油におけるターゲットLC-PUFAの含有率の低下及び収率の低下の原因となることが見出された。これらのことから、ターゲットLC-PUFAの含有率が低下した微生物油に対して逆相カラムクロマトグラフィーによる精製を行っても、効率的でないことが判明した。
【0017】
本発明は、このような熱生成脂肪酸に着目し、ターゲットLC-PUFAの精製の精度と、炭素数16~22の熱生成脂肪酸の含有率の増加との関係から、意外にも、規則充填物を含む蒸留塔を用いて精密蒸留を行うことによって、又は、炭素数16~22の熱生成脂肪酸をある程度含有するように精密蒸留を行うことによって、簡便に、効率よく高含有率のターゲットLC-PUFAを精製できるという知見に基づく。また、本発明は、このような炭素数16~22の熱生成脂肪酸に着目し、ターゲットLC-PUFAの精製の精度と、炭素数16~22の熱生成脂肪酸の含有率の増加との関係から、意外にも、炭素数16~22の熱生成脂肪酸をある程度含有する微生物油の方が、ターゲットLC-PUFAを高い含有率で含む微生物油をより効率よく得るために有利であるという知見に基づく。本明細書では、炭素数16~22の熱生成脂肪酸を、特に断らない限り、単に「熱生成脂肪酸(thermally produced fatty acid)」と称する場合がある。
【0018】
本発明における製造方法により得られた微生物油及び本発明における微生物油を、更に特定の濃縮手段、例えば逆相カラムクロマトグラフィーに用いることにより、高い含有率でターゲットLC-PUFAを含む濃縮微生物油を得ることができる。
【0019】
即ち、本発明の他の形態による濃縮微生物油は、脂肪酸アルキルエステル形態及び/又は遊離脂肪酸形態の炭素数20以上の多価不飽和脂肪酸の含有率が、油中の脂肪酸の合計重量の90重量%~98重量%であり、炭素数16~22の熱生成脂肪酸の含有率が、油中の脂肪酸の合計重量の0.0001重量%~3.0重量%であり、炭素数24の飽和脂肪酸及び炭素数22の飽和脂肪酸の合計含有率が、油中の脂肪酸の合計重量の1.0重量%以下であり、炭素数18の一価不飽和脂肪酸の含有率が、油中の脂肪酸の合計重量の5.0重量%以下である、濃縮微生物油である。
また本発明の他の形態による濃縮微生物油の製造方法は、本発明の他の態様であるいずれかの微生物油の製造方法を用いて、ターゲットとする少なくとも1つの脂肪酸アルキルエステル形態及び/又は遊離脂肪酸形態の炭素数20以上の多価不飽和脂肪酸を含有する微生物油を得ること、得られた微生物油に対して、逆相カラムクロマトグラフィーを用いた濃縮処理を行うこと、を含む。
【0020】
本発明の形態による濃縮微生物油又は微生物油であれば、高含有率でターゲットLC-PUFAを含有する又は含有し得るので、食品、サプリメント、医薬品、化粧品、飼料等の分野、例えば炎症性疾患予防又は治療剤、炎症疾患の予防、治療又は寛解方法において有用である。また、本発明の形態による濃縮微生物油の製造方法であれば、本発明による高含有率のターゲットLC-PUFAを含有する微生物油を効率よく得る製造方法を利用するので、濃縮微生物油を効率よく提供することができる。
【0021】
本明細書において「工程」との語は、独立した工程だけではなく、他の工程と明確に区別できない場合であってもその工程の所期の目的が達成されれば、本用語に含まれる。
本明細書において「~」を用いて示された数値範囲は、その前後に記載される数値をそれぞれ最小値及び最大値として含む範囲を示すものとする。
本明細書において、混合物中の各成分の量は、混合物中に各成分に該当する物質が複数存在する場合、特に断らない限り、混合物中に存在する当該複数の物質の合計の量を意味する。
本明細書において、混合物中の各成分の含有率は、混合物中に各成分に該当する物質が複数存在する場合、特に断らない限り、混合物中に存在する当該複数の物質の合計の含有率を意味する。
【0022】
本発明において「微生物油」とは、微生物バイオマスを起源として得られ、常温常圧下で水に不溶の有機物の混合物である。微生物油には、飽和又は不飽和脂肪酸、リン脂質、ステロール、グリセロール、セラミド、スフィンゴ脂質、テルペノイド、フラボノイド、トコフェロール等の油性成分が含まれ、飽和又は不飽和脂肪酸は、他の油性成分における構成脂肪酸として存在する場合もある。
【0023】
本発明において、「脂肪酸」とは、遊離飽和若しくは不飽和脂肪酸、飽和若しくは不飽和脂肪酸アルキルエステル、トリアシルグリセロール、ジアシルグリセロール、モノアシルグリセロール、リン脂質、ステリルエステル等中に含まれる脂肪酸を意味し、構成脂肪酸とも言い換えられ得る。
【0024】
本明細書において、特に断らない限り、脂肪酸を含む化合物の形態については省略する場合がある。脂肪酸を含む化合物の形態としては、遊離脂肪酸形態、脂肪酸アルキルエステル形態、グリセリルエステル形態、リン脂質の形態、ステリルエステル形態等を挙げることができる。同一の脂肪酸を含む化合物は、微生物油中、単一の形態で含まれていてもよく、2つ以上の形態の混合物として含まれていてもよい。
【0025】
また、脂肪酸を表記する際に、炭素数、二重結合の数及び二重結合の場所を、それぞれ数字とアルファベットを用いて簡略的に表した数値表現を用いることがある。例えば、炭素数20の飽和脂肪酸は「C20:0」と表記され、炭素数18の一価不飽和脂肪酸は「C18:1」等と表記され、ジホモ-γ-リノレン酸は「C20:3,n-6」等と表記され、アラキドン酸は「C20:4,n-6」等と表記され得る。この方法は当業者には周知であり、この方法に従って表記された脂肪酸については、当業者であれば容易に特定することができる。
【0026】
微生物油における脂肪酸の合計含有率は、微生物油の全重量の例えば80重量%以上、90重量%以上、95重量%以上又は98重量%以上とすることができる。微生物油中に存在し得る他の成分であって、脂肪酸を含まない化合物、又は脂肪酸を含む化合物の脂肪酸以外の部分構造としては、グリセリン、ステロール、炭化水素、テルペノイド、プラボノイド、トコフェロール、グリセリルエステルのグリセリン骨格部分構造、リン酸のリン酸骨格部分構造、スフィンゴシン骨格部分構造等が挙げられる。
本明細書では、微生物菌体から抽出しただけの状態である化合物の混合物を、微生物油の粗油と称する場合がある。
【0027】
本発明における脂肪酸アルキルエステル又は遊離脂肪酸とは、特定の脂肪酸種類を特定しない限り、微生物バイオマスから得られた粗油に対して加水分解、アルキルエステル化等の加工を施して得られた脂肪酸アルキルエステルの混合物又は遊離脂肪酸の混合物を指す。
【0028】
本発明における油中の脂肪酸の合計重量に対する脂肪酸の含有率は、脂肪酸組成に基づいて決定する。脂肪酸組成は、常法に従って求めることができる。具体的には、測定対象となる油を、低級アルコールと触媒を用いてエステル化し、脂肪酸低級アルキルエステルを得る。次いで、得られた脂肪酸低級アルキルエステルを、水素炎イオン化検出器(FID)付きのガスクロマトグラフを用いて分析する。得られたガスクロマトグラフィーのチャートにおいて各脂肪酸に相当するピークを同定し、Agilent ChemStation積分アルゴリズム(リビジョンC.01.03 [37]、Agilent Technologies)を用いて、各脂肪酸のピーク面積を求める。脂肪酸のピーク面積の総和に対する各ピーク面積の百分率をもって、脂肪酸組成とする。上述の測定方法により得られた面積%は、試料中の各脂肪酸の重量%と同一とする。日本油化学会(JOCS)制定 基準油脂分析試験法 2013版 2.4.2.1-2013 脂肪酸組成(FID恒温ガスクロマトグラフ法)及び、同2.4.2.2-2013 脂肪酸組成(FID昇温ガスクロマトグラフ法)を参照のこと。
【0029】
微生物油が、脂肪酸アルキルエステル形態及び遊離脂肪酸形態の脂肪酸以外の脂肪酸を含む場合、脂肪酸アルキルエステル形態の脂肪酸及び遊離脂肪酸形態の脂肪酸以外の脂肪酸を微生物油から分離させてから、測定対象となる脂肪酸組成を測定する。微生物油から脂肪酸アルキルエステル形態及び遊離脂肪酸形態の脂肪酸以外の脂肪酸を分離させる方法としては、例えば、The Journal of Biological Chemistry 1958,233:311-320.に開示されているケイ酸カラムクロマトグラフィー、The Lipid Handbook with CD-ROM Third Edition CRC Press Taylor & Francis Group (2007) に開示されている薄層クロマトグラフィー等の方法を参照することができる。
以下、本発明の各態様について説明する。
【0030】
(1)微生物油
本発明の一態様における微生物油は、油中の脂肪酸の合計重量の50重量%以上の含有率を有する、脂肪酸アルキルエステル形態及び/又は遊離脂肪酸形態である少なくとも1の炭素数20以上の多価不飽和脂肪酸と、油中の脂肪酸の合計重量の3.0重量%以下の含有率を有する、炭素数16~22の熱生成脂肪酸と、を含む。
【0031】
微生物油は、上述したように微生物バイオマスを起源として得られたものであればよい。微生物としては、脂質生産微生物であればよく、藻類(algae)及び菌類(fungi)を挙げることができる。
藻類としては、ラビリンチュラ(Labyrinthulamycota)属等を挙げることができる。
菌類としては、モルティエレラ(Mortierella)属、コニディオボラス(Conidiobolus)属、フィチウム(Pythium)属、フィトフトラ(Phytophthora)属、ペニシリューム(Penicillium)属、クラドスポリューム(Cladosporium)属、ムコール(Mucor)属、フザリューム(Fusarium)属、アスペルギルス(Aspergillus)属、ロードトルラ(Rhodotorula)属、エントモフトラ(Entomophthora)属、エキノスポランジウム(Echinosporangium)属、及びサプロレグニア(Saprolegnia)属からなる群より選択される少なくとも1種を挙げることができる。なかでも、モルティエレラ(Mortierella)属に属する微生物が更に好ましい。モルティエレラ属に属する微生物としては、例えば、モルティエレラ・エロンガタ(Mortierella elongata) 、モルティエレラ・エキシグア(Mortierella exigua) 、モルティエレラ・ヒグロフィラ(Mortierella hygrophila) 、モルティエレラ・アルピナ(Mortierella alpina)等のモルティエレラ亜属に属する微生物を挙げることができる。
【0032】
本発明における炭素数20以上の多価不飽和脂肪酸には、二価以上、好ましくは三価以上の不飽和脂肪酸が含まれる。多価不飽和脂肪酸の炭素数は、構成脂肪酸の炭素数を意味する。炭素数20以上の多価不飽和脂肪酸としては、例えば、炭素数20以上22以下の多価不飽和脂肪酸を挙げることができ、具体的には、エイコサジエン酸(C20:2,n-9)、ジホモ-γ-リノレン酸(C20:3,n-6)、ミード酸(C20:3,n-9)、エイコサテトラエン酸(C20:4,n-3)、アラキドン酸(C20:4,n-6)、エイコサペンタエン酸(C20:5,n-3)、ドコサテトラエン酸(C22:4,n-6)、ドコサペンタエン酸(C22:5,n-3)、ドコサペンタエン酸(C22:5,n-6)及びドコサヘキサエン酸(C22:6,n-3)等を挙げることができる。微生物油は、これらの多価不飽和脂肪酸を少なくとも1つ含んでいればよく、2つ以上を組み合わせて含んでもよく、これらの多価不飽和脂肪酸のうち選択された1つを含み、その他の多価不飽和脂肪酸を含まないものであってもよい。また、微生物油は、ターゲットLC-PUFAとして、上述した炭素数20以上22以下の多価不飽和脂肪酸のうちの少なくとも1つを含有するものであれば、特定の1つ又は2つ以上を含まないものであってもよい。例えば、微生物油は、エイコサジエン酸(C20:2,n-9)、ジホモ-γ-リノレン酸(C20:3,n-6)、ミード酸(C20:3,n-9)、エイコサテトラエン酸(C20:4,n-3)、アラキドン酸(C20:4,n-6)、エイコサペンタエン酸(C20:5,n-3)、ドコサテトラエン酸(C22:4,n-6)、ドコサペンタエン酸(C22:5,n-3)、ドコサペンタエン酸(C22:5,n-6)及びドコサヘキサエン酸(C22:6,n-3)からなる群より選択された少なくとも1つを含まないことができる。なお、ここで多価不飽和脂肪酸を含まないとは、対象となる多価不飽和脂肪酸の含有率が油中の脂肪酸の合計重量の5重量%未満又は0であることを意味する。
【0033】
脂肪酸アルキルエステル形態の多価不飽和脂肪酸におけるアルキル基は、好ましくは、炭素数1~3のアルキル基を挙げることができ、メチル基、エチル基、又はプロピル基が挙げられる。アルキルエステル形態の多価不飽和脂肪酸としては、特にエチルエステル形態又はメチルエステル形態の多価不飽和脂肪酸であることが好ましい。
【0034】
微生物油におけるターゲットLC-PUFA、即ち、脂肪酸アルキルエステル形態及び/又は遊離脂肪酸形態の炭素数20以上の多価不飽和脂肪酸の含有率は、油中の脂肪酸の合計重量の50重量%以上である。ターゲットLC-PUFAの含有率が50重量%未満では、効率よく高含有率のターゲットLC-PUFAを含む精製された微生物油を得ることができない。微生物油におけるターゲットLC-PUFAの含有率は、上述したように、微生物油の脂肪酸組成を分析して得られた値とする。
【0035】
微生物油におけるターゲットLC-PUFAの含有率は、より効率よくターゲットLC-PUFAの精製を達成する観点から、油中の脂肪酸の合計重量の60重量%以上であることが好ましく、70重量%以上であることがより好ましく、80重量%以上であることが更に好ましく、85重量%以上であることが更により好ましく、90重量%以上であることが特に好ましく、95重量%以上であることが更に特に好ましく、98重量%であることが最も好ましい。また、微生物油におけるターゲットLC-PUFAの含有率は、油中の脂肪酸の合計重量の50重量%~98重量%、60重量%~98重量%、70重量%~98重量%、80重量%~98重量%、85重量%~98重量%、90重量%~98重量%、又は、95重量%~98重量%であってもよい。
【0036】
本発明の微生物油は、油中の脂肪酸の合計重量の3.0重量%以下の含有率で、炭素数16~22の熱生成脂肪酸を含む。
熱生成脂肪酸とは、上述したように、蒸留のような高温処理に伴う熱によって、ターゲットLC-PUFAに存在に基づいて発生した炭素数16~22の脂肪酸である。即ち、熱生成脂肪酸は、蒸留のような高温処理に伴う熱によって、ターゲットLC-PUFAが分解、異性化等を生じることによって生成する脂肪酸と考えられるが、この理論に限定されない。熱生成脂肪酸の形態については特に制限はなく、脂肪酸アルキルエステル形態又は遊離脂肪酸形態に限定されない。
【0037】
微生物油中に含まれる熱生成脂肪酸の数及び種類は、精密蒸留の条件、微生物油中に含まれるターゲットLC-PUFAの種類等によって異なる。
熱生成脂肪酸の例示としては、ターゲットLC-PUFAのトランス異性体であると考えられる(Journal of the American Oil Chemists’ Society, Vol.66, No.12, pp.1822-1830 (1989) 参照)。即ち、ターゲットLC-PUFAに含まれる炭素二重結合部分が通常シス型であるのに対して、熱生成脂肪酸は、炭素二重結合部分の一部又はすべてがトランス型に変化したもの、二重結合の位置が変更されて共役二重結合をもつもの等と考えられる。
【0038】
熱生成脂肪酸としては、例えば、以下のものが挙げられる。微生物油は、以下の化合物のいずれかひとつ又は2つ以上の組み合わせを含むことができる:
8Z,11E-エイコサジエン酸、8E,11Z-エイコサジエン酸、8E,11E-エイコサジエン酸、8Z,11Z,14E-エイコサトリエン酸、8Z,11E,14Z-エイコサトリエン酸、8E,11Z,14Z-エイコサトリエン酸、8Z,11E,14E-エイコサトリエン酸、8E,11Z,14E-エイコサトリエン酸、8E,11E,14Z-エイコサトリエン酸、8E,11E,14E-エイコサトリエン酸、5Z,8Z,11E-エイコサトリエン酸、5Z,8E,11Z-エイコサトリエン酸、5E,8Z,11Z-エイコサトリエン酸、5Z,8E,11E-エイコサトリエン酸、5E,8Z,11E-エイコサトリエン酸、5E,8E,11Z-エイコサトリエン酸、5E,8E,11E-エイコサトリエン酸、8Z,11Z,14Z,17E-エイコサテトラエン酸、8Z,11Z,14E,17Z-エイコサテトラエン酸、8Z,11E,14Z,17Z-エイコサテトラエン酸、8E,11Z,14Z,17Z-エイコサテトラエン酸、8E,11Z,14Z,17E-エイコサテトラエン酸、8Z,11E,14Z,17E-エイコサテトラエン酸、8Z,11Z,14E,17E-エイコサテトラエン酸、8E,11Z,14E,17Z-エイコサテトラエン酸、8Z,11E,14E,17Z-エイコサテトラエン酸、8E,11E,14Z,17Z-エイコサテトラエン酸、8E,11E,14E,17Z-エイコサテトラエン酸、8E,11E,14Z,17E-エイコサテトラエン酸、8E,11Z,14E,17E-エイコサテトラエン酸、8Z,11E,14E,17E-エイコサテトラエン酸、8E,11E,14E,17E-エイコサテトラエン酸、5Z,8Z,11Z,14E-エイコサテトラエン酸、5Z,8Z,11E,14Z-エイコサテトラエン酸、5Z,8E,11Z,14Z-エイコサテトラエン酸、5E,8Z,11Z,14Z-エイコサテトラエン酸、5E,8Z,11Z,14E-エイコサテトラエン酸、5Z,8E,11Z,14E-エイコサテトラエン酸、5Z,8Z,11E,14E-エイコサテトラエン酸、5E,8Z,11E,14Z-エイコサテトラエン酸、5Z,8E,11E,14Z-エイコサテトラエン酸、5E,8E,11Z,14Z-エイコサテトラエン酸、5E,8E,11E,14Z-エイコサテトラエン酸、5E,8E,11Z,14E-エイコサテトラエン酸、5E,8Z,11E,14E-エイコサテトラエン酸、5Z,8E,11E,14E-エイコサテトラエン酸、5E,8E,11E,14E-エイコサテトラエン酸、5Z,8Z,11Z,14Z,17E-エイコサペンタエン酸、5Z,8Z,11Z,14E,17Z-エイコサペンタエン酸、5Z,8Z,11E,14Z,17Z-エイコサペンタエン酸、5Z,8E,11Z,14Z,17Z-エイコサペンタエン酸、5E,8Z,11Z,14Z,17Z-エイコサペンタエン酸、5E,8Z,11Z,14Z,17E-エイコサペンタエン酸、5Z,8E,11Z,14Z,17E-エイコサペンタエン酸、5Z,8Z,11E,14Z,17E-エイコサペンタエン酸、5Z,8Z,11Z,14E,17E-エイコサペンタエン酸、5E,8Z,11Z,14E,17Z-エイコサペンタエン酸、5Z,8E,11Z,14E,17Z-エイコサペンタエン酸、5Z,8Z,11E,14E,17Z-エイコサペンタエン酸、5E,8Z,11E,14Z,17Z-エイコサペンタエン酸、5Z,8E,11E,14Z,17Z-エイコサペンタエン酸、5E,8E,11Z,14Z,17Z-エイコサペンタエン酸、5Z,8E,11E,14E,17Z-エイコサペンタエン酸、5E,8Z,11E,14E,17Z-エイコサペンタエン酸、5E,8E,11Z,14E,17Z-エイコサペンタエン酸、5E,8E,11E,14Z,17Z-エイコサペンタエン酸、5Z,8E,11E,14Z,17E-エイコサペンタエン酸、5E,8Z,11E,14Z,17E-エイコサペンタエン酸、5E,8E,11Z,14Z,17E-エイコサペンタエン酸、5Z,8E,11Z,14E,17E-エイコサペンタエン酸、5E,8Z,11Z,14E,17E-エイコサペンタエン酸、5Z,8Z,11E,14E,17E-エイコサペンタエン酸、5E,8E,11E,14E,17Z-エイコサペンタエン酸、5E,8E,11E,14Z,17E-エイコサペンタエン酸、5E,8E,11Z,14E,17E-エイコサペンタエン酸、5E,8Z,11E,14E,17E-エイコサペンタエン酸、5Z,8E,11E,14E,17E-エイコサペンタエン酸、5E,8E,11E,14E,17E-エイコサペンタエン酸、7Z,10Z,13Z,16Z,19E-ドコサペンタエン酸、7Z,10Z,13Z,16E,19Z-ドコサペンタエン酸、7Z,10Z,13E,16Z,19Z-ドコサペンタエン酸、7Z,10E,13Z,16Z,19Z-ドコサペンタエン酸、7E,10Z,13Z,16Z,19Z-ドコサペンタエン酸、7E,10Z,13Z,16Z,19E-ドコサペンタエン酸、7Z,10E,13Z,16Z,19E-ドコサペンタエン酸、7Z,10Z,13E,16Z,19E-ドコサペンタエン酸、7Z,10Z,13Z,16E,19E-ドコサペンタエン酸、7E,10Z,13Z,16E,19Z-ドコサペンタエン酸、7Z,10E,13Z,16E,19Z-ドコサペンタエン酸、7Z,10Z,13E,16E,19Z-ドコサペンタエン酸、7E,10Z,13E,16Z,19Z-ドコサペンタエン酸、7Z,10E,13E,16Z,19Z-ドコサペンタエン酸、7E,10E,13Z,16Z,19Z-ドコサペンタエン酸、7Z,10E,13E,16E,19Z-ドコサペンタエン酸、7E,10Z,13E,16E,19Z-ドコサペンタエン酸、7E,10E,13Z,16E,19Z-ドコサペンタエン酸、7E,10E,13E,16Z,19Z-ドコサペンタエン酸、7Z,10E,13E,16Z,19E-ドコサペンタエン酸、7E,10Z,13E,16Z,19E-ドコサペンタエン酸、7E,10E,13Z,16Z,19E-ドコサペンタエン酸、7Z,10E,13Z,16E,19E-ドコサペンタエン酸、7E,10Z,13Z,16E,19E-ドコサペンタエン酸、7Z,10Z,13E,16E,19E-ドコサペンタエン酸、7E,10E,13E,16E,19Z-ドコサペンタエン酸、7E,10E,13E,16Z,19E-ドコサペンタエン酸、7E,10E,13Z,16E,19E-ドコサペンタエン酸、7E,10Z,13E,16E,19E-ドコサペンタエン酸、7Z,10E,13E,16E,19E-ドコサペンタエン酸、7E,10E,13E,16E,19E-ドコサペンタエン酸、4Z,7Z,10Z,13Z,16Z,19E-ドコサヘキサエン酸、4Z,7Z,10Z,13Z,16E,19Z-ドコサヘキサエン酸、4Z,7Z,10Z,13E,16Z,19Z-ドコサヘキサエン酸、4Z,7Z,10E,13Z,16Z,19Z-ドコサヘキサエン酸、4Z,7E,10Z,13Z,16Z,19Z-ドコサヘキサエン酸、4E,7Z,10Z,13Z,16Z,19Z-ドコサヘキサエン酸、4E,7Z,10Z,13Z,16Z,19E-ドコサヘキサエン酸、4Z,7E,10Z,13Z,16Z,19E-ドコサヘキサエン酸、4Z,7Z,10E,13Z,16Z,19E-ドコサヘキサエン酸、4Z,7Z,10Z,13E,16Z,19E-ドコサヘキサエン酸、4Z,7Z,10Z,13Z,16E,19E-ドコサヘキサエン酸、4E,7Z,10Z,13Z,16E,19Z-ドコサヘキサエン酸、4Z,7E,10Z,13Z,16E,19Z-ドコサヘキサエン酸、4Z,7Z,10E,13Z,16E,19Z-ドコサヘキサエン酸、4Z,7Z,10Z,13E,16E,19Z-ドコサヘキサエン酸、4E,7Z,10Z,13E,16Z,19Z-ドコサヘキサエン酸、4Z,7E,10Z,13E,16Z,19Z-ドコサヘキサエン酸、4Z,7Z,10E,13E,16Z,19Z-ドコサヘキサエン酸、4E,7Z,10E,13Z,16Z,19Z-ドコサヘキサエン酸、4Z,7E,10E,13Z,16Z,19Z-ドコサヘキサエン酸、4E,7E,10Z,13Z,16Z,19Z-ドコサヘキサエン酸、4E,7E,10E,13Z,16Z,19Z-ドコサヘキサエン酸、4E,7E,10Z,13E,16Z,19Z-ドコサヘキサエン酸、4E,7E,10Z,13Z,16E,19Z-ドコサヘキサエン酸、4E,7E,10Z,13Z,16Z,19E-ドコサヘキサエン酸、4E,7Z,10E,13E,16Z,19Z-ドコサヘキサエン酸、4E,7Z,10E,13Z,16E,19Z-ドコサヘキサエン酸、4E,7Z,10E,13Z,16Z,19E-ドコサヘキサエン酸、4E,7Z,10Z,13E,16E,19Z-ドコサヘキサエン酸、4E,7Z,10Z,13E,16Z,19E-ドコサヘキサエン酸、4E,7Z,10Z,13Z,16E,19E-ドコサヘキサエン酸、4Z,7E,10E,13E,16Z,19Z-ドコサヘキサエン酸、4Z,7E,10E,13Z,16E,19Z-ドコサヘキサエン酸、4Z,7E,10E,13Z,16Z,19E-ドコサヘキサエン酸、4Z,7E,10Z,13E,16E,19Z-ドコサヘキサエン酸、4Z,7E,10Z,13E,16Z,19E-ドコサヘキサエン酸、4Z,7E,10Z,13Z,16E,19E-ドコサヘキサエン酸、4Z,7Z,10E,13E,16E,19Z-ドコサヘキサエン酸、4Z,7Z,10E,13E,16Z,19E-ドコサヘキサエン酸、4Z,7Z,10E,13Z,16E,19E-ドコサヘキサエン酸、4Z,7Z,10Z,13E,16E,19E-ドコサヘキサエン酸、4Z,7Z,10E,13E,16E,19E-ドコサヘキサエン酸、4Z,7E,10Z,13E,16E,19E-ドコサヘキサエン酸、4Z,7E,10E,13Z,16E,19E-ドコサヘキサエン酸、4Z,7E,10E,13E,16Z,19E-ドコサヘキサエン酸、4Z,7E,10E,13E,16E,19Z-ドコサヘキサエン酸、4E,7Z,10Z,13E,16E,19E-ドコサヘキサエン酸、4E,7Z,10E,13Z,16E,19E-ドコサヘキサエン酸、4E,7Z,10E,13E,16Z,19E-ドコサヘキサエン酸、4E,7Z,10E,13E,16E,19Z-ドコサヘキサエン酸、4E,7E,10Z,13Z,16E,19E-ドコサヘキサエン酸、4E,7E,10Z,13E,16Z,19E-ドコサヘキサエン酸、4E,7E,10Z,13E,16E,19Z-ドコサヘキサエン酸、4E,7E,10E,13Z,16Z,19E-ドコサヘキサエン酸、4E,7E,10E,13Z,16E,19Z-ドコサヘキサエン酸、4E,7E,10E,13E,16Z,19Z-ドコサヘキサエン酸、4Z,7E,10E,13E,16E,19E-ドコサヘキサエン酸、4E,7Z,10E,13E,16E,19E-ドコサヘキサエン酸、4E,7E,10Z,13E,16E,19E-ドコサヘキサエン酸、4E,7E,10E,13Z,16E,19E-ドコサヘキサエン酸、4E,7E,10E,13E,16Z,19E-ドコサヘキサエン酸、4E,7E,10E,13E,16E,19Z-ドコサヘキサエン酸、4E,7E,10E,13E,16E,19E-ドコサヘキサエン酸、7Z,10Z,13Z,16E-ドコサテトラエン酸、7Z,10Z,13E,16Z-ドコサテトラエン酸、7Z,10E,13Z,16Z-ドコサテトラエン酸、7E,10Z,13Z,16Z-ドコサテトラエン酸、7E,10Z,13Z,16E-ドコサテトラエン酸、7Z,10E,13Z,16E-ドコサテトラエン酸、7Z,10Z,13E,16E-ドコサテトラエン酸、7E,10Z,13E,16Z-ドコサテトラエン酸、7Z,10E,13E,16Z-ドコサテトラエン酸、7E,10E,13Z,16Z-ドコサテトラエン酸、7Z,10E,13E,16E-ドコサテトラエン酸、7E,10Z,13E,16E-ドコサテトラエン酸、7E,10E,13Z,16E-ドコサテトラエン酸、7E,10E,13E,16Z-ドコサテトラエン酸、7E,10E,13E,16E-ドコサテトラエン酸、4Z,7Z,10Z,13Z,16E-ドコサペンタエン酸、4Z,7Z,10Z,13E,16Z-ドコサペンタエン酸、4Z,7Z,10E,13Z,16Z-ドコサペンタエン酸、4Z,7E,10Z,13Z,16Z-ドコサペンタエン酸、4E,7Z,10Z,13Z,16Z-ドコサペンタエン酸、4E,7Z,10Z,13Z,16E-ドコサペンタエン酸、4Z,7E,10Z,13Z,16E-ドコサペンタエン酸、4Z,7Z,10E,13Z,16E-ドコサペンタエン酸、4Z,7Z,10Z,13E,16E-ドコサペンタエン酸、4E,7Z,10Z,13E,16Z-ドコサペンタエン酸、4Z,7E,10Z,13E,16Z-ドコサペンタエン酸、4Z,7Z,10E,13E,16Z-ドコサペンタエン酸、4E,7Z,10E,13Z,16Z-ドコサペンタエン酸、4Z,7E,10E,13Z,16Z-ドコサペンタエン酸、4E,7E,10Z,13Z,16Z-ドコサペンタエン酸、4E,7E,10E,13Z,16Z-ドコサペンタエン酸、4E,7E,10Z,13E,16Z-ドコサペンタエン酸、4E,7E,10Z,13Z,16E-ドコサペンタエン酸、4E,7Z,10E,13E,16Z-ドコサペンタエン酸、4E,7Z,10E,13Z,16E-ドコサペンタエン酸、4E,7Z,10Z,13E,16E-ドコサペンタエン酸、4Z,7E,10E,13E,16Z-ドコサペンタエン酸、4Z,7E,10E,13Z,16E-ドコサペンタエン酸、4Z,7E,10Z,13E,16E-ドコサペンタエン酸、4Z,7Z,10E,13E,16E-ドコサペンタエン酸、4Z,7E,10E,13E,16E-ドコサペンタエン酸、4E,7Z,10E,13E,16E-ドコサペンタエン酸、4E,7E,10Z,13E,16E-ドコサペンタエン酸、4E,7E,10E,13Z,16E-ドコサペンタエン酸、4E,7E,10E,13E,16Z-ドコサペンタエン酸、4E,7E,10E,13E,16E-ドコサペンタエン酸。
【0039】
微生物油における熱生成脂肪酸の含有率が3.0重量%超では、高含有率でターゲットLC-PUFAを含む微生物油を効率よく得ることができない。熱生成脂肪酸の微生物油は、蒸留を含む加熱工程を経て微生物油が得られることから、0.0001重量%~3.0重量%の含有率、0.001重量%~3.0重量%の含有率又は0.01重量%~3.0重量%の含有率で微生物油に含まれることができる。
【0040】
微生物油における熱生成脂肪酸の含有率は、逆相カラムクロマトグラフィーを用いて高含有率のターゲットLC-PUFAを含む濃縮微生物油を効率よく得るという観点から、油中の脂肪酸の合計重量の0.001重量%~2.8重量%、0.01重量%~2.8重量%、0.1重量%~2.8重量%、0.1重量%~2.5重量%、0.1重量%~2.0重量%、0.1重量%~1.5重量%、0.1重量%~1.0重量%、又は0.1重量%~0.7重量%とすることができる。
【0041】
熱生成脂肪酸は、精密蒸留の処理後に検出可能であって、当該処理の前には検出されない炭素数16~20の脂肪酸である。このため、例えば、各種クロマトグラフィー分析を用いて、蒸留処理の前後の脂肪酸組成を比較し、処理後に出現するピークを有する脂肪酸として特定することができる。クロマトグラフィーとしては、中でも、高い分析能又は検出感度、比較的簡便な操作の観点からガスクロマトグラフィーを特に用いることができる。より高い精度で熱生成脂肪酸を特定する場合には、例えば、銀イオンクロマトグラフィーを用いた銀イオン固相抽出法(silver-ion solid phase extraction)により、熱生成脂肪酸と重なる微生物バイオマス由来の成分を除去した上で分析して特定してもよい。
【0042】
例えば、ターゲットLC-PUFAがジホモ-γ-リノレン酸(DGLA)の場合、熱生成脂肪酸は、炭素数20の熱生成脂肪酸とすることができる。炭素数20の熱生成脂肪酸としては、例えば炭素数20の熱生成脂肪酸であって、ガスクロマトグラフィー分析においてジホモ-γ-リノレン酸エチルの保持時間を1としたときに、1.001~1.011の範囲内に現れるピークとしての保持時間を有する1又は2以上の脂肪酸(以下、化合物Aと称する)と、1.013~1.027の範囲内に現れるピークとしての保持時間を有する1又は2以上の脂肪酸(以下、化合物Bと称する)を挙げることができる。化合物A及び化合物Bは、1又は2以上の化合物の群であってよく、それぞれ単一の化合物であってもよい。熱生成脂肪酸としては,化合物A及び化合物Bのいずれか一方であってもよく、これら双方であってもよい。化合物A及び化合物Bを熱生成脂肪酸として特定する場合のガスクロマトグラフィーの条件は以下のとおりとする:
[ガスクロマトグラフィー分析条件]
GC装置: 6890N Network GC system (Agilent Technologies)
カラム:DB-WAX (Agilent Technologies)
30m×0.25mm ID、0.25μm film thickness
カラム温度条件:60℃2.5分→昇温20℃/分→180℃→昇温2℃/分→230℃15分
注入口温度条件:210℃、スプリットレス、スプリットベントのサンプリングタイム1.5分、パージ流量40mL/分
注入量条件: 1μL、試料濃度1mg/mL以下
キャリアガス条件: ヘリウム、線速度24cm/分
検出器:FID
検出器温度: 280℃
【0043】
ターゲットLC-PUFAをDGLAとした場合の熱生成脂肪酸である化合物A及び化合物Bの微生物油における含有率は、DGLAの精製効率の観点から、油中の脂肪酸の合計重量の0.001重量%~2.8重量%、0.1重量%~2.8重量%、0.1重量%~2.5重量%、0.1重量%~2.0重量%、0.1重量%~1.5重量%、0.1重量%~1.0重量%、又は0.1重量%~0.7重量%とすることができる。
【0044】
本発明の微生物油は、精密蒸留によってターゲットLC-PUFAから分離すべき少なくとも1つの特定の脂肪酸の含有率が低い組成物であることが好ましい。本明細書では、精製工程においてターゲットLC-PUFAから分離すべき脂肪酸を、特に断らない限り、分離標的脂肪酸と称する。分離標的脂肪酸は、ターゲットLC-PUFA以外の脂肪酸であれば特に制限はなく、分離標的脂肪酸の形態についても特に制限はなく、脂肪酸アルキルエステル、遊離脂肪酸等であってもよい。
【0045】
分離標的脂肪酸として、炭素数22の飽和脂肪酸及び炭素数24の飽和脂肪酸を挙げることができる。微生物バイオマスから得られた粗油における炭素数22の飽和脂肪酸及び炭素数24の飽和脂肪酸の含有率は、一般に魚油又は動植物油よりも高い傾向がある。また、炭素数22の飽和脂肪酸及び炭素数24の飽和脂肪酸は、ターゲットLC-PUFAよりも高い融点を持つ高融点の長鎖脂肪酸である。炭素数22の飽和脂肪酸、及び炭素数24の飽和脂肪酸の含有率の低減は、カラムクロマトグラフィー処理における配管の詰まりを抑制して、逆相カラムクロマトグラフィーを実施可能とすることができる。また、炭素数22の飽和脂肪酸及び炭素数24の飽和脂肪酸の逆相カラムクロマトグラフィーにおける保持時間がターゲットLC-PUFAに比べて長く、クロマトグラフィーの所要時間の長大化の要因となり得るため、これらの飽和脂肪酸の含有率の低減は時間当たりの精製効率の観点からも望ましい。
【0046】
炭素数22の飽和脂肪酸及び炭素数24の飽和脂肪酸の合計含有率は、炭素数22の飽和脂肪酸及び炭素数24の飽和脂肪酸がそれぞれ存在する場合には、これら両者の合計の含有率であり、いずれか一方のみが存在する場合には、存在する一方のみの含有率を意味する。
【0047】
微生物油における炭素数22の飽和脂肪酸及び炭素数24の飽和脂肪酸の合計含有率は、カラムクロマトグラフィーにおける配管の詰まり抑制の観点及びターゲットLC-PUFAの精製効率の観点から、油中の脂肪酸の合計重量の6.0重量%以下であることがより好ましく、1.8重量%以下であることが更に好ましく、0.1重量%以下であることが更により好ましい。微生物油における炭素数22の飽和脂肪酸及び炭素数24の飽和脂肪酸の合計含有率は、カラムクロマトグラフィーにおける配管の詰まり抑制の観点及びターゲットLC-PUFAの精製効率の観点から、ターゲットLC-PUFAの含有率の10/100以下であることが好ましく、3/100以下であることがより好ましく、0.1/100以下であることが更に好ましい。微生物油における炭素数22の飽和脂肪酸及び炭素数24の飽和脂肪酸の合計含有率は、カラムクロマトグラフィーにおける配管の詰まり抑制の観点及びターゲットLC-PUFAの精製効率の観点から、微生物油の全重量に対して6.0重量%以下であることが好ましく、1.0重量%以下であることがより好ましく、0.1重量%以下であることが更により好ましい。
【0048】
また、微生物油における炭素数24の飽和脂肪酸の含有率は、カラムクロマトグラフィーにおける配管の詰まり抑制の観点及びターゲットLC-PUFAの精製効率の観点から、油中の脂肪酸の合計重量の3.0重量%以下であることがより好ましく、1.0重量%以下であることが更に好ましく、0.1重量%以下であることが更により好ましい。微生物油における炭素数24の飽和脂肪酸の含有率は、カラムクロマトグラフィーにおける配管の詰まり抑制の観点及びターゲットLC-PUFAの精製効率の観点から、ターゲットLC-PUFAの含有率の4/100以下であることが好ましく、1.4/100以下であることがより好ましく、0.1/100以下であることが更に好ましい。微生物油における炭素数24の飽和脂肪酸の含有率は、カラムクロマトグラフィーにおける配管の詰まり抑制の観点及びターゲットLC-PUFAの精製効率の観点から、微生物油の全重量に対して3.0重量%以下であることが好ましく、1.0重量%以下であることがより好ましく、0.1重量%以下であることが更により好ましい。
【0049】
他の分離標的脂肪酸としては、液体クロマトグラフィーでの分離に関する指標であって、脂肪酸の炭素数及び二重結合数から求められるパーティションナンバーを用いた場合に、前記多価不飽和脂肪酸のパーティションナンバーと比べて、2少ない数以上2多い数以下のパーティションナンバーを有し、当該多価不飽和脂肪酸の炭素数とは異なる炭素数を有する飽和又は不飽和脂肪酸を挙げることができる。以下、このような他の分離標的脂肪酸を、-2以上2以下のPN差を有する分離標的脂肪酸と称する。
【0050】
対比される2つの脂肪酸の一方のPNが他方のPNよりも、2少ない数、即ち-2、1少ない数、即ち-1、同じ数、即ち0、1多い数、即ち+1、2多い数、即ち+2の場合には、液体クロマトグラフィーを用いて分離を行う場合に、対比される2つの脂肪酸の溶出時間の差が充分と言えず、液体クロマトグラフィーによる分離が困難な関係にあると考えることができる。このため、-2以上2以下のPN差を有する分離標的脂肪酸の含有率の低減は、高含有率のターゲットLC-PUFAの精製効率の点で望ましい。
【0051】
パーティションナンバー(partition number: PN)は、Equivalent carbon number (ECN) と呼ばれることがある。パーティションナンバーは、逆相高速液体クロマトグラフィーの分子種の分析に関し、溶出時間に影響を与える分離因子の規定から経験的に得られた指標であり、以下の式(I)で表される指標である。
PN=[炭素数]-2×[二重結合の数]・・・(I)
式(I)において、炭素数とは脂肪酸の炭素数を意味する。ただし、本発明では、式(I)における炭素数は、遊離脂肪酸形態の場合における脂肪酸の炭素数を意味し、各脂肪酸に固有の整数である。本明細書では、パーティションナンバーをPNと称する。
例えば、DGLA、即ちC20:3の場合には、PN=20-2×3=14となる。
【0052】
-2以上2以下のPN差を有する分離標的脂肪酸は、ターゲットLC-PUFAの炭素数とは異なる炭素数、即ち、ターゲットLC-PUFAの炭素数よりも多い又は少ない炭素数を有する飽和又は不飽和脂肪酸であり、例えば、ターゲットLC-PUFAよりも炭素数が少ない飽和又は不飽和脂肪酸とすることができる。-2以上2以下のPN差を有する分離標的脂肪酸としては、炭素数18の飽和脂肪酸、炭素数18の一価不飽和脂肪酸、炭素数18の二価不飽和脂肪酸、炭素数18の三価不飽和脂肪酸及び炭素数18の四価不飽和脂肪酸からなる群より選択された少なくとも1つとすることができる。
微生物油におけるターゲットLC-PUFAと分離標的脂肪酸の組み合わせとしては、例えば、以下のものが挙げられる。
【0053】
【0054】
分離標的脂肪酸の微生物油における-2以上2以下のPN差を有する分離標的脂肪酸の合計含有率は、高含有率のターゲットLC-PUFAを効率よく得る観点から、例えば、油中の脂肪酸の合計重量の10.0重量%以下であることがより好ましく、4.0重量%以下であることが更に好ましく、0.7重量%以下であることが更により好ましい。微生物油では、-2以上2以下のPN差を有する分離標的脂肪酸の合計含有率が、ターゲットLC-PUFAを効率よく得る観点から、ターゲットLC-PUFAの含有率の15/100以下であることが好ましく、5/100以下であることがより好ましく、1/100以下であることが更に好ましい。微生物油では、-2以上2以下のPN差を有する分離標的脂肪酸の合計含有率が、ターゲットLC-PUFAを効率よく得る観点から、微生物油の全重量に対して10.0重量%以下であることが好ましく、4.0重量%以下であることがより好ましく、0.7重量%以下であることが更により好ましい。
【0055】
例えば、ターゲットLC-PUFAがPN16の脂肪酸、即ちエイコサジエン酸の場合、微生物油中のC18:0、C18:1等の-2以上2以下のPN差を有する分離標的脂肪酸の合計含有率は、油中の脂肪酸の合計重量の10.0重量%以下であることがより好ましく、4.0重量%以下であることが更に好ましく、0.7重量%以下であることが更により好ましく;また、ターゲットLC-PUFAの含有率の15/100以下であることが好ましく、5/100以下であることがより好ましく、1/100以下であることが更に好ましく;また、微生物油の全重量に対して10.0重量%以下であることが好ましく、4.0重量%以下であることがより好ましく、0.7重量%以下であることが更により好ましい。
【0056】
ターゲットLC-PUFAがPN14の脂肪酸、即ちDGLA、ミード酸又はドコサテトラエン酸の場合、微生物油中のC18:1、C18:2等の等の-2以上2以下のPN差を有する分離標的脂肪酸の合計含有率は、油中の脂肪酸の合計重量の10.0重量%以下であることがより好ましく、4.0重量%以下であることが更に好ましく、0.7重量%以下であることが更により好ましく;また、ターゲットLC-PUFAの含有率の15/100以下であることが好ましく、5/100以下であることがより好ましく、1/100以下であることが更に好ましく;また、微生物油の全重量に対して10.0重量%以下であることが好ましく、4.0重量%以下であることがより好ましく、0.7重量%以下であることが更により好ましい。
【0057】
ターゲットLC-PUFAがPN12の脂肪酸、即ちエイコサテトラエン酸、アラキドン酸又はドコサペンタエン酸の場合、微生物油中のC18:2、C18:3等の-2以上2以下のPN差を有する分離標的脂肪酸の合計含有率は、油中の脂肪酸の合計重量の10.0重量%以下であることがより好ましく、4.0重量%以下であることが更に好ましく、0.7重量%以下であることが更により好ましく;また、ターゲットLC-PUFAの含有率の15/100以下であることが好ましく、5/100以下であることがより好ましく、1/100以下であることが更に好ましく;また、微生物油の全重量に対して10.0重量%以下であることが好ましく、4.0重量%以下であることがより好ましく、0.7重量%以下であることが更により好ましい。
【0058】
ターゲットLC-PUFAがPN10の脂肪酸、即ちエイコサペンタエン酸又はドコサヘキサエン酸の場合、微生物油中のC18:3、C18:4等の-2以上2以下のPN差を有する分離標的脂肪酸の合計含有率は、油中の脂肪酸の合計重量の10.0重量%以下であることがより好ましく、4.0重量%以下であることが更に好ましく、0.7重量%以下であることが更により好ましく;また、ターゲットLC-PUFAの含有率の15/100以下であることが好ましく、5/100以下であることがより好ましく、1/100以下であることが更に好ましく;また、微生物油の全重量に対して10.0重量%以下であることが好ましく、4.0重量%以下であることがより好ましく、0.7重量%以下であることが更により好ましい。
【0059】
また、逆相カラムクロマトグラフィーによって高含有率のエイコサジエン酸、DGLA、ミード酸、エイコサテトラエン酸等のターゲットLC-PUFAを効率よく得る観点から、微生物油では、炭素数18の一価不飽和脂肪酸の含有率が低いことが好ましい。炭素数18の一価不飽和脂肪酸のPNは、エイコサジエン酸、DGLA、ミード酸、又はエイコサテトラエン酸をターゲットLC-PUFAとした場合に、ターゲットLC-PUFAよりも2多い。例えば、微生物油では、炭素数18の一価不飽和脂肪酸の含有率が、ターゲットLC-PUFAの精製効率の観点から、油中の脂肪酸の合計重量の7.0重量%以下であることがより好ましく、1.5重量%以下であることが更に好ましく、0.4重量%以下であることが更により好ましい。微生物油では、炭素数18の一価不飽和脂肪酸の含有率が、ターゲットLC-PUFAの精製効率の観点から、ターゲットLC-PUFAの含有率の10/100以下であることが好ましく、2/100以下であることがより好ましく、0.5/100以下であることが更に好ましい。微生物油では、炭素数18の一価不飽和脂肪酸の含有率が、ターゲットLC-PUFAの精製効率の観点から、微生物油の全重量に対して7.0重量%以下であることが好ましく、1.5重量%以下であることがより好ましく、0.4重量%以下であることが更に好ましい。
【0060】
また、逆相カラムクロマトグラフィーによって高含有率のDGLA、ミード酸、エイコサテトラエン酸、アラキドン酸、ドコサテトラエン酸、ドコサペンタンエン酸等のターゲットLC-PUFAを効率よく得る観点から、微生物油では、炭素数18の二価不飽和脂肪酸の含有率が特に低いことが好ましい。炭素数18の二価不飽和脂肪酸のPNは、DGLA、ミード酸、エイコサテトラエン酸、アラキドン酸、ドコサテトラエン酸、又はドコサペンタンエン酸をターゲットLC-PUFAとした場合に、ターゲットLC-PUFAと等しい。例えば、微生物油では、炭素数18の二価不飽和脂肪酸の含有率が、ターゲットLC-PUFAの精製効率の観点から、油中の脂肪酸の合計重量の5.0重量%以下であることがより好ましく、0.7重量%以下であることが更に好ましく、0.4重量%以下であることが更により好ましい。微生物油では、炭素数18の二価不飽和脂肪酸の含有率が、ターゲットLC-PUFAの精製効率の観点から、ターゲットLC-PUFAの含有率の7/100以下であることが好ましく、1/100以下であることがより好ましく、0.5/100以下であることが更に好ましい。微生物油では、炭素数18の二価不飽和脂肪酸の含有率は、微生物油の全重量に対して5.0重量%以下であることが好ましく、0.7重量%以下であることがより好ましく、0.4重量%以下であることが更に好ましい。
【0061】
また、逆相カラムクロマトグラフィーによって高含有率のDGLA、ミード酸、ドコサテトラエン酸等のターゲットLC-PUFAを効率よく得る観点から、微生物油では、炭素数18の三価不飽和脂肪酸の含有率が低いことが好ましい。炭素数18の三価不飽和脂肪酸のPNは、DGLA、ミード酸、又はドコサテトラエン酸をターゲットLC-PUFAとした場合に、ターゲットLC-PUFAよりも2少ない。例えば、微生物油では、炭素数18の三価不飽和脂肪酸の含有率が、ターゲットLC-PUFAの精製効率の観点から、油中の脂肪酸の合計重量の7.0重量%以下であることがより好ましく、1.5重量%以下であることが更に好ましく、0.4重量%以下であることが更により好ましい。微生物油では、炭素数18の三価不飽和脂肪酸の含有率が、ターゲットLC-PUFAの精製効率の観点から、ターゲットLC-PUFAの含有率の10/100以下であることが好ましく、2/100以下であることがより好ましく、0.5/100以下であることが更に好ましい。微生物油では、炭素数18の三価不飽和脂肪酸の含有率が、ターゲットLC-PUFAの精製効率の観点から、微生物油の全重量に対して7.0重量%以下であることが好ましく、1.5重量%以下であることがより好ましく、0.4重量%以下であることが更に好ましい。
【0062】
逆相カラムクロマトグラフィーによって高含有率のDGLA、ミード酸、ドコサテトラエン酸等のターゲットLC-PUFAを効率よく得る観点から、微生物油では、炭素数18の一価不飽和脂肪酸と炭素数18の二価不飽和脂肪酸との合計含有率が低いことが好ましい。例えば、微生物油では、炭素数18の一価不飽和脂肪酸と炭素数18の二価不飽和脂肪酸との合計含有率が、ターゲットLC-PUFAを効率よく得る観点から、油中の脂肪酸の合計重量の10.0重量%以下であることがより好ましく、4.0重量%以下であることが更に好ましく、0.7重量%以下であることが更により好ましい。微生物油では、炭素数18の一価不飽和脂肪酸と炭素数18の二価不飽和脂肪酸との合計含有率が、ターゲットLC-PUFAを効率よく得る観点から、ターゲットLC-PUFAの含有率の15/100以下であることが好ましく、5/100以下であることがより好ましく、1/100以下であることが更に好ましい。微生物油では、炭素数18の一価不飽和脂肪酸と炭素数18の二価不飽和脂肪酸との合計含有率が、ターゲットLC-PUFAを効率よく得る観点から、微生物油の全重量に対して10.0重量%以下であることが好ましく、4.0重量%以下であることがより好ましく、0.7重量%以下であることが更により好ましい。
【0063】
本発明の微生物油は、微生物油の融点、結晶の析出のし易さ、カラムクロマトグラフィーにおける時間生産性の観点から、炭素数18の飽和脂肪酸の含有率が低いことが好ましい。また、エイコサジエン酸をターゲットLC-PUFAとした場合に炭素数18の飽和脂肪酸は、-2以上2以下のPN差を有する分離標的脂肪酸にも該当する。微生物油の融点、結晶の析出のし易さ、カラムクロマトグラフィーにおける時間生産性の観点から、微生物油では、炭素数18の飽和脂肪酸の含有率は、油中の脂肪酸の合計重量の7.0重量%以下であることがより好ましく、3.0重量%以下であることが更に好ましく、1.5重量%以下であることが更により好ましい。微生物油では、炭素数18の飽和脂肪酸の含有率は、ターゲットLC-PUFAの含有率の11/100以下であることが好ましく、4/100以下であることがより好ましく、2/100以下であることが更に好ましい。微生物油の融点、結晶の析出のし易さ、カラムクロマトグラフィーにおける時間生産性の観点から、微生物油では、炭素数18の飽和脂肪酸の含有率は、微生物油の全重量に対して7.0重量%以下であることが好ましく、3.0重量%以下であることがより好ましく、1.5重量%以下であることが更に好ましい。
【0064】
上述した分離標的脂肪酸の各種含有率は、それぞれ独立した実施形態であるため、微生物油の好ましい実施形態は、各分離標的脂肪酸の任意の好ましい含有率を2つ以上組み合わせた実施形態であってもよい。
【0065】
上述した、微生物油における炭素数22の飽和脂肪酸と炭素数24の飽和脂肪酸の合計含有率は、微生物油におけるターゲットLC-PUFAを、エイコサジエン酸、DGLA、ミード酸、エイコサテトラエン酸、アラキドン酸、エイコサペンタエン酸、ドコサテトラエン酸、ドコサペンタンエン酸又はドコサヘキサエン酸とした場合、好ましい範囲を含め、上述した範囲と同一の範囲とすることができ、これらを任意に組み合わせたものであってもよく、対応する炭素数18の一価不飽和脂肪酸の含有率、炭素数18の二価不飽和脂肪酸の含有率、炭素数18の一価不飽和脂肪酸と炭素数18の二価不飽和脂肪酸との合計含有率、炭素数18の飽和脂肪酸の含有率の記載とも、任意に組み合わせたものとしてもよい。
【0066】
微生物油の融点は、逆相カラムクロマトグラフィーによる処理効率、又は充填物耐熱性の観点から、40℃以下であることが好ましく、30℃以下であることが好ましい。微生物油の融点は、日本油化学会(JOCS)制定 基準油脂分析試験法 2013版 3.2.2.1-2013に記載された方法によって測定された透明融点とする。
【0067】
(2)微生物油の製造方法
本発明の他の形態による微生物油の製造方法は、いずれも精密蒸留による精製を行うこと、及び精密蒸留後に特定の微生物油を得ることを含む。
即ち、本発明の他の形態における第一の微生物の製造方法は、微生物バイオマスから得られたターゲットLC-PUFAを含む原料油を用意する原料油供給工程と、前記原料油に対して、160℃~230℃の塔底温度及び0.1Pa~30Paの蒸留塔内における最低圧力を含む条件によって精密蒸留による精製を行う第一の精密蒸留工程を含む。第一の精密蒸留工程後には、特定の多価不飽和脂肪酸を含む微生物油が得られる。ここで得られる特定の多価不飽和脂肪酸としては、本発明の一態様における特定の微生物油が含まれるが、これに限定されない。
本発明における更に他の形態における第二の微生物油の製造方法は、前記原料油供給工程と、前記原料油に対して、規則充填物を含む蒸留塔を用いて、160℃~230℃の塔底温度及び0.1Pa~30Paの蒸留塔内における最低圧力を含む条件による精密蒸留を行う第二の精密蒸留工程と、本発明の一態様における特定の微生物油を得る微生物油回収工程と、を含む。
本発明における更に他の形態における第三の微生物油の製造方法は、前記原料油供給工程と、前記原料油に対して、規則充填物を含む蒸留塔を用いて、ターゲットとする前記多価不飽和脂肪酸の種類に応じた塔底温度及び蒸留塔内における最低圧力を含み、油中の脂肪酸の合計重量の3.0重量%以下の含有率の熱生成脂肪酸を含む微生物油が得られ得る条件による精密蒸留を行う第三の精密蒸留工程と、前記微生物油回収工程と、を含む。
【0068】
第一~第三の製造方法における原料油供給工程では、原料油は、ターゲットLC-PUFAを生産可能な脂質産生微生物として既知の微生物を培養液中で培養し、脂肪酸を含む微生物バイオマスを得る工程、得られた微生物バイオマスから脂肪酸の混合物である粗油を分離する粗油分離工程、粗油に対して、リン脂質及びステロール等の目的物以外を除去するために、脱ガム工程、脱酸工程、脱色工程及び脱臭工程を含む処理を行って、トリアシルグリセロール濃縮物を得るトリアシルグリセロール濃縮物生成工程、トリアシルグリセロール濃縮物に対して、加水分解、アルキルエステル化等の加工を行う加工工程により得られる。
【0069】
脂質産生微生物としては、上述したこれらの微生物を挙げることができる。また、脂質生産微生物の培養は、当業者に既知の条件で行うことができる。例えば、ターゲットLC-PUFAをDGLAとした場合には、例えば、特開平5-091887号に記載されている微生物由来のDGLAを挙げることができる。
【0070】
特開平5-091887号には、Δ5不飽和化酵素活性が低下又は欠失した突然変異株モルティエレラ・アルピナSAM1860(微工研条寄第3589号)を、Δ5不飽和化酵素阻害剤の存在下で、培養することによって、DGLAを製造する方法が開示されている。Δ5不飽和酵素阻害剤としては、例えば、2-アミノ-N-(3-クロロフェニル)ベンズアミド、ジオキサビシクロ〔3.3.0〕オクタン誘導体、ピペロニルブトキサイド、クルクミン等が挙げられる。これらのうち、ジオキサビシクロ〔3.3.0〕オクタン誘導体としては、セサミン、セサミノール、エピセサミン、エピセサミノール、セサモリン、2-(3,4-メチレンジオキシフェニル)-6-(3-メトキシ-4-ヒドロキシフェニル)-3,7-ジオキサビシクロ〔3.3.0〕オクタン、2,6-ビス-(3-メトキシ-4-ヒドロキシフェニル)-3,7-ジオキサビシクロ〔3.3.0〕オクタン、2-(3,4-メチレンジオキシフェニル)-6-(3-メトキシ-4-ヒドロキシフェノキシ)-3,7-ジオキサビシクロ〔3.3.0〕オクタン等が挙げられている。
【0071】
培養に用いられる培養器については特に制限はなく、通常、微生物の培養に用いられる装置であればいずれも適用可能であり、例えば、1L~50Lスケールの液体培養が可能な培養器を挙げることができ、培養のスケールに応じて適宜選択可能である。例えば、1L~50Lスケールで液体培養する場合、より高い濃度でターゲットLC-PUFAを得るには、培養器としては、撹拌型培養器が好ましい。撹拌型培養器としては、ディスクタービン型の撹拌翼を少なくとも1段有している撹拌型培養器が好ましく、ディスクタービン型の撹拌翼を2段有する撹拌型培養器がより好ましい。
【0072】
粗油分離工程では、生産工程で生産された脂質を含む粗油を微生物菌体から分離する。菌体の分離及び粗油の採取では、培養形態に応じた分離方法及び抽出方法を用いることが
できる。
液体培地を使用した場合には、例えば、遠心分離及び濾過等の常用の固液分離手段により培養菌体を得る。固体培地で培養した場合には、菌体と培地とを分離することなく、固体培地と菌体とをホモジナイザー等で破砕し、得られた破砕物から直接、粗油を採取してもよい。
【0073】
粗油の採取は、分離された乾燥菌体を、好ましくは超臨界二酸化炭素による抽出処理又は窒素気流下で、有機溶媒によって抽出処理することを含むことができる。有機溶媒としては、ジメチルエーテル、ジエチルーテル等のエーテル;石油エーテル、ヘキサン、ヘプタン等の炭素数10以下の炭化水素;メタノール、エタノール等のアルコール;クロロホルム;ジクロロメタン;オクタン酸等の脂肪酸又はそのアルキルエステル;植物油等の油脂などを用いることができる。また、メタノールと石油エーテルの交互抽出又はクロロホルム-メタノール-水の一層系の溶媒を用いた抽出によって良好な抽出処理の結果を得ることができる。抽出物から減圧下で有機溶媒を留去することにより、高濃度の脂肪酸を含有する粗油が得られる。トリアシルグリセロールを採取する場合、ヘキサンが最も一般的に用いられる。
また、上記の方法に代えて湿菌体を用いて抽出を行うことができる。湿菌体からの粗油採取は、湿菌体を圧搾してもよく、又は、メタノール、エタノール等の、水に対して相溶性の溶媒、又は、水に対して相溶性の溶媒と水及び/又は他の溶媒とから成る、混合溶媒を使用してもよい。その他の手順は上記と同様である。
【0074】
トリアシルグリセロール濃縮物生成工程では、採取した粗油に対して、植物油、魚油等の精製に用いられる方法で、脱ガム、脱酸、脱色及び脱臭を当業者に既知の方法によって行う。例えば、脱ガム処理は水洗処理により行われ、脱酸処理は蒸留処理により行われ、脱色処理は、活性白土、活性炭、シリカゲル等を用いた脱色処理により行われ、脱臭処理は、水蒸気蒸留により行われる。
【0075】
加工工程では、トリアシルグリセロール濃縮物に対して、例えば、触媒を用いたエステル化処理、加水分解等の加工処理を行う。アルキルエステル化処理及び加水分解処理は、当業者に既知の条件によって行うことができる。
【0076】
例えば、脂肪酸メチルエステルを得るには、トリアシルグリセロール濃縮物を、無水メタノール-塩酸5%~10%、BF3-メタノール10%~50%等により、室温にて1~24時間処理することにより得られる。脂肪酸のエチルエステルを得るには、油脂を、1%~20%硫酸エタノール等により、25℃~100℃にて15分~60分処理することにより得られる。その反応液からヘキサン、ジエチルエーテル、酢酸エチル等の有機溶媒でメチルエステル、又はエチルエステルを抽出することができる。この抽出液を無水硫酸ナトリウム等により乾燥し、有機溶媒を留去することにより脂肪酸アルキルエステルを主成分とする組成物が得られる。
【0077】
第一~第三の微生物油の製造方法は、原料油供給工程で得られた原料油に対して、特定の条件による精密蒸留を行う第一~第三の精密蒸留工程をそれぞれ含む。第一~第三の精密蒸留工程を行うことによって、本発明における微生物油の製造方法では、ターゲットとする特定の微生物油、例えばターゲットLC-PUFAを含む所望の微生物油を効率よく得ることができる。
【0078】
第一の微生物油の製造方法における第一の精密蒸留工程では、前記原料油に対して、160℃~230℃の塔底温度及び0.1Pa~30Paの蒸留塔内における最低圧力を含む条件によって精密蒸留による精製を行う。この範囲の塔底温度及び蒸留塔内の最低圧力による精密蒸留による精製であれば、所望する特定の不飽和脂肪酸、例えばターゲットLC-PUFAを精度よく且つ効率よく得ることができる。
【0079】
精密蒸留とは、加熱条件下で発生した蒸気の一部を還流液として蒸留塔に戻し、塔内を上昇する蒸気と、液体状の試料との間での気液平衡を利用して精度よく成分の分離を行う技術であり、当業者には公知の技術である。
【0080】
塔底温度は、蒸留塔内の底部における試料の温度を意味する。塔底温度が160℃未満では、標的とする脂肪酸以外の脂肪酸、例えば炭素数18の不飽和脂肪酸などのターゲットLC-PUFA以外の脂肪酸を充分に分離できない。一方、塔底温度が230℃超では、精密蒸留であっても熱生成脂肪酸などの含有率が高くなり、高含有率のターゲットLC-PUFAを含む微生物油を効率よく得られない傾向がある。塔底温度は、分離効率の観点から、160℃~210℃であることがより好ましく、160℃~200℃であることが更に好ましい。
塔頂部の温度については特に制限はなく、例えば、80℃~160℃とすることができ、90℃~140℃がより好ましい。
【0081】
蒸留塔内における最低圧力は、一般に蒸留塔の頭頂部の圧力が該当する。頭頂部に凝縮器(コンデンサ)及び真空ポンプを備えた一般的な蒸留塔の場合、上がってきた蒸気、即ち留分を液化する塔頂の凝縮器から真空ポンプまでの圧力が蒸留塔内において最も低い圧力を示す。蒸留塔内における最低圧力が30Paよりも高い場合、精密蒸留に必要な蒸気を発生させるため塔底温度が上昇し、その結果、熱生成脂肪酸の含有率が高くなる傾向がある。また、一般に蒸留塔に含まれる充填物又は配管による圧力損失が発生するため、蒸留塔内における最低圧力は0.1Pa以下とすることができる。蒸留塔内の最低圧力は、熱生成脂肪酸の発生抑制の観点から、0.1Pa~20Paであることが更に好ましい。
【0082】
第二の微生物油の製造方法における第二の精密蒸留工程では、原料油に対して、規則充填物を含む蒸留塔を用いて、160℃~230℃の塔底温度及び0.1Pa~30Paの蒸留塔内における最低圧力を含む条件による精密蒸留を行う。第二の精密蒸留工程では、規則充填物を含む蒸留塔を用いた精密蒸留を行うので、気液交換が極めて少ない圧力損失で達成でき、これにより、同じ塔底温度及び蒸留塔内における最低圧力を含む条件下でも比較的穏やかに精密蒸留を行うことができる。このような比較的穏やかな精密蒸留によって、原料油に対する加熱条件が緩和され、熱生成脂肪酸の発生を効果的に抑制し、高含有率でターゲットLC-PUFAを含有する微生物油をより効率よく得ることができる。
【0083】
規則充填物(structured packing)とは、蒸留に適用される当業界に周知の充填物であって、規則的に繰り返す幾何学的関係で互いに関連している複数の層で形成されている。規則充填物は、特有の繰り返し形状を備えているものであれば材質については特に制限はなく、ステンレススチール、アルミニウム、ニッケル、銅、ハステロイ、モネル等の金属製;ポリプロピレン等の樹脂製;セラミックス製;カーボンスチール、カーボン繊維等のカーボン製などのいずれであってもよく、蒸留の加熱条件及び圧力条件に応じて、適宜選択できる。
【0084】
熱生成脂肪酸の発生を効果的に抑制し、高含有率でターゲットLC-PUFAを含有する微生物油をより効率よく得る観点から、規則充填物としては、1単位あたりの比表面積が125m2/m3~1700m2/m3であることが好ましく、125m2/m3~900m2/m3であることがより好ましく、200m2/m3~800m2/m3であることが更に好ましい。
【0085】
好ましい規則充填物は、例えば、以下を挙げることができる:スルザー・ケムテック社
のメラパック(Mellapak)、メラパック・プラス(Mellapak Plus)、プラスチック製メラパック(Mellapak)、メラグリッド(Mellagrid)、BX/CYパッキン(BX/CY packing)、BXプラス(BX Plus)、プラスチック製BX(Gauze packing)、メラカーボン(mellacarbon)、DX/EXパッキン(DX/EX packing)、メラデュール、スルザー・ラボパ
ッキングEX、ナッター・グリッド(Nutter grid)、ケーニー・ロンパック(Kuehne Rombopak)。
【0086】
第二の精密蒸留における塔底温度は、蒸留塔内の底部における温度を意味する。塔底温度が160℃未満では、炭素数18の不飽和脂肪酸などのターゲットLC-PUFA以外の脂肪酸が充分に分離できない。一方、塔底温度が230℃超では、精密蒸留であっても熱生成脂肪酸などの含有率が高くなり、高含有率のターゲットLC-PUFAを含む微生物油を効率よく得ることができない。塔底温度は、分離効率の観点から、160℃~210℃であることがより好ましく、160℃~200℃であることが更に好ましい。
第二の精密蒸留における塔頂部の温度については特に制限はなく、例えば、80℃~160℃とすることができ、90℃~140℃がより好ましい。
【0087】
第二の精密蒸留における蒸留塔内における最低圧力は、一般に蒸留塔の頭頂部の圧力が該当する。頭頂部に凝縮器(コンデンサ)及び真空ポンプを備えた一般的な蒸留塔の場合、上がってきた蒸気、即ち留分を液化する塔頂の凝縮器から真空ポンプまでの圧力が蒸留塔内において最も低い圧力を示す。蒸留塔内における最低圧力が30Paよりも高い場合、精密蒸留に必要な蒸気を発生させるため塔底温度が上昇し、その結果、熱生成脂肪酸の含有率が高くなる傾向がある。また、一般に蒸留塔に含まれる充填物又は配管による圧力損失が発生するため、蒸留塔内における最低圧力は0.1Pa以下とすることができる。蒸留塔内の最低圧力は、熱生成脂肪酸の発生抑制の観点から、0.1Pa~20Paであることが更に好ましい。
【0088】
第三の微生物油の製造方法における第三の精密蒸留工程では、前記原料油に対して、規則充填物を含む蒸留塔を用いて、ターゲットとする前記多価不飽和脂肪酸の種類に応じた塔底温度及び蒸留塔内における最低圧力を含み、油中の脂肪酸の合計重量の3.0重量%以下の含有率の熱生成脂肪酸を含む微生物油が得られ得る条件による精密蒸留を行う。第三の精密蒸留においてターゲットLC-PUFAの種類に応じた塔底温度及び蒸留塔内における最低圧力は、油中の脂肪酸の合計重量の3.0重量%以下の含有率の熱生成脂肪酸を含む微生物油が得られ得る条件を満たすものである。ターゲットLC-PUFAの種類に応じた塔底温度及び蒸留塔内の最低圧力は、熱生成脂肪酸の含有率に基づいて最適化が可能であり、当業者であれば、使用する蒸留塔の種類、サイズ、形状等、蒸留塔内に含まれる規則充填物の種類、充填高等、その他の条件などによって適宜設定可能である。
【0089】
ターゲットLC-PUFAの精製効率及び熱生成脂肪酸の発生抑制の観点から、第三の精密蒸留は、160℃~230℃の塔底温度及び0.1Pa~30Paの蒸留塔内における最低圧力であることが好ましい。第三の精密蒸留における塔底温度は、160℃~210℃であることがより好ましく、160℃~200℃であることが更に好ましい。第三の精密蒸留における蒸留塔内の最低圧力は、熱生成脂肪酸の発生抑制の観点から、0.1Pa~20Paであることが更に好ましい。第三の精密蒸留における蒸留塔内における最低圧力は、一般に蒸留塔の頭頂部の圧力が該当する。頭頂部に凝縮器(コンデンサ)及び真空ポンプを備えた一般的な蒸留塔の場合、上がってきた蒸気(留分)を液化する塔頂の凝縮器から真空ポンプまでの圧力が蒸留塔内において最も低い圧力を示す。塔頂部の温度については特に制限はなく、例えば、80℃~160℃とすることができ、90℃~140℃がより好ましい。
【0090】
また、第一~第三の精密蒸留工程における精密蒸留の条件は、上記に限定されなくてもよい。例えば、精留を用いる場合、精留工程としては、蒸留塔の塔上部の圧力を10mmHg(1333Pa)以下の減圧とし、塔底温度を165℃~210℃、好ましくは170℃~195℃とする条件で蒸留することが、熱による油の変性を抑え、精留効率を高める点で好ましい。蒸留塔の塔上部の圧力は、低いほどよく、0.1mmHg(13.33Pa)以下であることがより好ましい。塔上部の温度については特に制限はなく、例えば、160℃以下とすることができる。
【0091】
また、第一~第三の精密蒸留工程はいずれも、互いに異なる塔底温度及び蒸留塔内の最低圧力の条件による複数回の精密蒸留を含むことができる。これにより、各精密蒸留において異なる分離標的脂肪酸を効果的に分離することができる。互いに異なる塔底温度及び蒸留塔内の最低圧力の条件としては、例えば、塔底温度が異なる二段階以上の精密蒸留の組み合わせを挙げることができる。
【0092】
例えば、第一~第三の精密蒸留工程は、互いに異なる塔底温度及び蒸留塔内の最低圧力による精密蒸留工程の組み合わせとして、160℃~220℃の塔底温度及び0.1Pa~30Paの蒸留塔内における最低圧力である低温精密蒸留工程と、170℃~230℃の塔底温度及び0.1Pa~30Paの蒸留塔内における最低圧力である高温精密蒸留工程を含むことができる。
【0093】
低温精密蒸留工程を経ることにより、初留としてターゲットLC-PUFAよりも比較的分子量の小さい脂肪酸成分、例えば炭素数18以下の脂肪酸成分を除去することができ、残分として、ターゲットLC-PUFAを含む微生物油を得ることができる。低温精密蒸留工程における塔底温度は、好ましくは160℃~200℃であり、より好ましくは、160℃~190℃である。
【0094】
高温精密蒸留工程を経ることにより、配管詰まりの原因となり得る炭素数22の飽和脂肪酸及び炭素数24の飽和脂肪酸の少なくとも一方の含有率を下げることができ、逆相カラムクロマトグラフィーによる精製を行う際に、配管詰まりが抑制することができる。この結果、高含有率でターゲットLC-PUFAを含有する微生物油を効率よく得ることができる。高温精密蒸留工程における残分の炭素数22又は24の飽和脂肪酸の含有率は、低温精密蒸留工程よりも増大している。含有率が増大した炭素数22又は24の飽和脂肪酸の除去と熱生成脂肪酸形成の抑制の観点から、高温精密蒸留工程における塔底温度は、170℃~210℃であることが好ましい。
【0095】
低温精密蒸留工程の塔底温度と高温精密蒸留工程との温度差については、高温精密蒸留における炭素数22及び炭素数24の飽和脂肪酸の含有率の高い残分からの蒸気発生の必要性、並びに熱生成脂肪酸抑制の観点から、高温精密蒸留工程の塔底温度が低温精密蒸留工程の塔底温度よりも3℃~20℃高いことが好ましく、3℃~10℃高いことがより好ましい。
【0096】
低温精密蒸留工程及び高温精密蒸留工程のいずれにおいても、蒸留塔内の最低圧力は、熱生成脂肪酸の生成抑制の点から、0.1Pa~20Paであることがより好ましく、0.1Pa~10Paであることが更に好ましい。塔頂部の温度については特に制限はなく、例えば、160℃以下とすることができる。
適切な加熱時間については、蒸留用原料組成物の仕込み量に応じて、本明細書の実施例の記載から、当業者であれば設定可能である。
【0097】
低温精密蒸留工程と高温精密蒸留工程とではいずれを先に行うことができる。例えば、低温精密蒸留工程の後に高温精密蒸留工程を行うことにより、残分としてターゲットLC-PUFAよりも比較的分子量の大きい脂肪酸成分を除去することができ、留分として、ターゲットLC-PUFAよりも比較的分子量の小さい脂肪酸成分と、ターゲットLC-PUFAよりも比較的分子量の大きい脂肪酸細分の双方が除去された微生物油を得ることができる。
【0098】
第二及び第三の精密蒸留工程における微生物回収工程では、精密蒸留工程によって得られた留分としてのターゲットLC-PUFAを高含有率で含む微生物油を回収することができる。このような微生物油は、ターゲットLC-PUFAの濃縮微生物油であり、逆相カラムクロマトグラフィーを用いて遊離脂肪酸形態及び/又はそのアルキルエステル形態としてのターゲットLC-PUFAを効率よく得るために有用である。
【0099】
(3)濃縮微生物油
本発明の一態様としての濃縮微生物油は、ターゲットLC-PUFAの含有率が、油中の脂肪酸の合計重量の90重量%~98重量%であり、熱生成脂肪酸の含有率が、油中の脂肪酸の合計重量の0.0001重量%~3.0重量%であり、炭素数24の飽和脂肪酸及び炭素数22の飽和脂肪酸の合計含有率が、油中の脂肪酸の合計重量の1.0重量%以下であり、炭素数18の一価不飽和脂肪酸の含有率が、油中の脂肪酸の合計重量の5.0重量%以下である。
例えば、濃縮微生物油の一例としては、DGLAの含有率が、油中の脂肪酸の合計重量の90重量%~98重量%であり、熱生成脂肪酸の含有率が、油中の脂肪酸の合計重量の0.0001重量%~3.0重量%であり、炭素数24の飽和脂肪酸及び炭素数22の飽和脂肪酸の合計含有率が、油中の脂肪酸の合計重量の1.0重量%以下であり、炭素数18の一価不飽和脂肪酸の含有率が、油中の脂肪酸の合計重量の5.0重量%以下である。
【0100】
濃縮微生物油としては、好ましくは、ターゲットLC-PUFAの含有率が、油中の脂肪酸の合計重量の90重量%~98重量%、95重量%~98重量%、96重量%~98重量%又は97重量%~98重量%であり、熱生成脂肪酸の含有率が、油中の脂肪酸の合計重量の0.01重量%~3.0重量%、0.1重量%~3.0重量%、0.1重量%~2.8重量%、0.1重量%~2.5重量%、0.1重量%~2.0重量%、0.1重量%~1.5重量%、0.1重量%~1.0重量%、又は0.1重量%~0.7重量%であり、炭素数24の飽和脂肪酸及び炭素数22の飽和脂肪酸の合計含有率が、油中の脂肪酸の合計重量の1.0重量%以下、0.2重量%以下又は0重量%であり、炭素数18の一価不飽和脂肪酸の含有率が、油中の脂肪酸の合計重量の5.0重量%以下、2.0重量%以下又は0重量%である。
【0101】
また、他の好ましい濃縮微生物油としては、好ましくは、DGLAの含有率が、油中の脂肪酸の合計重量の90重量%~98重量%、95重量%~98重量%、96重量%~98重量%又は97重量%~98重量%であり、熱生成脂肪酸の含有率が、油中の脂肪酸の合計重量の0.1重量%~3.0重量%、0.1重量%~2.8重量%、0.1重量%~2.5重量%、0.1重量%~2.0重量%、0.1重量%~1.5重量%、0.1重量%~1.0重量%、又は0.1重量%~0.7重量%であり、炭素数24の飽和脂肪酸及び炭素数22の飽和脂肪酸の合計含有率が、油中の脂肪酸の合計重量の1.0重量%以下、0.2重量%以下又は0重量%であり、炭素数18の一価不飽和脂肪酸の含有率が、油中の脂肪酸の合計重量の5.0重量%以下、2.0重量%以下又は0重量%である。
【0102】
また、他の好ましい濃縮微生物油としては、好ましくは、エイコサジエン酸、ミード酸、エイコサテトラエン酸、アラキドン酸、エイコサペンタエン酸、ドコサテトラエン酸、ドコサペンタエン酸、又はドコサヘキサエン酸の含有率が、油中の脂肪酸の合計重量の90重量%~98重量%、95重量%~98重量%、96重量%~98重量%又は97重量%~98重量%であり、熱生成脂肪酸の含有率が、油中の脂肪酸の合計重量の0.1重量%~3.0重量%、0.1重量%~2.8重量%、0.1重量%~2.5重量%、0.1重量%~2.0重量%、0.1重量%~1.5重量%、0.1重量%~1.0重量%、又は0.1重量%~0.7重量%であり、炭素数24の飽和脂肪酸及び炭素数22の飽和脂肪酸の合計含有率が、油中の脂肪酸の合計重量の1.0重量%以下、0.2重量%以下又は0重量%であり、炭素数18の一価不飽和脂肪酸(C18:1)の含有率が、油中の脂肪酸の合計重量の5.0重量%以下、2.0重量%以下又は0重量%である。
【0103】
これらの濃縮微生物油では、高含有率でターゲットLC-PUFA、例えばエイコサジエン酸、DGLA、ミード酸、エイコサテトラエン酸、アラキドン酸、エイコサペンタエン酸、ドコサテトラエン酸、ドコサペンタエン酸、又はドコサヘキサエン酸を含有するものであるので、ターゲットLC-PUFA、例えばDGLAを高い含有率で且つ生産性よく求められる用途への適用に極めて有用である。
【0104】
(4)濃縮微生物油の製造方法
本発明の一態様による濃縮微生物油の製造方法は、上述したいずれかの製造方法によってターゲットLC-PUFAを含有する微生物油を得ること、及び、得られた微生物油に対して、逆相カラムクロマトグラフィーを用いた濃縮処理を行うことを含む。
【0105】
本発明の態様による微生物油の製造方法により得られた微生物油では、ターゲットLC-PUFAの含有率が高く、且つ、逆相カラムクロマトグラフィーではターゲットLC-PUFAと分離が困難な脂肪酸の含有率が低いので、ターゲットLC-PUFAを高含有率よく且つ効率よく得ることができる。
濃縮処理に用いられる逆相カラムクロマトグラフィーとしては、当業界で公知の逆相カラムクロマトグラフィーを挙げることができ、特にオクタデシルシリル基(ODS)で修飾された基材を固定相とした高速液体クロマトグラフィー(HPLC)が好ましく挙げられる。逆相分配カラムとしては、例えば、YMCパックODS-AQ-HGカラム(株式会社ワイエムシィ)を挙げることができる。
【0106】
濃縮処理に適用されるHPLCの条件としては、例えば、以下のものが挙げられる。
カラム: YMC pack ODS-AQ-HG 20mmφ×500mm (株式会社ワイエムシィ)
ポンプ : 1200シリーズ G1361A Prep Pump (アジレント・テクノロジー株式会社)
カラム温度: 21℃前後
移動相: メタノール 17.5mL/分
試料条件: 負荷量2.4g、即ち、原料負荷率は吸着剤に対して3重量%
【0107】
本発明の態様による微生物油を用いることによって、ターゲットLC-PUFAの逆相カラムクロマトグラフィーにおける回収率は、好ましくは50%以上、より好ましくは80%以上、更に好ましくは90%以上となり得る。
【0108】
本発明の態様による微生物油及び濃縮微生物油、並びに本発明の態様による製造方法で得られた微生物油及び濃縮微生物油では、高含有率でターゲットLC-PUFAを含有しうるもの、又は高含有率でターゲットLC-PUFAを含有するものであり、且つ、精密蒸留以外の他の分離手段を使用することによって混入する可能性のある成分を含むことがない。精密蒸留以外の他の分離手段を使用することによって混入する可能性のある成分としては、例えば、銀等の金属、多量の尿素等が挙げられる。
このため、本発明の態様による微生物油及び濃縮微生物油は、ターゲットLC-PUFA、例えばDGLAを高い含有率で且つ生産性よく求められる用途への適用に極めて有用である。このような用途としては、例えば、食品、サプリメント、医薬品、化粧品、飼料等における使用、これらの製造方法における使用を挙げることができ、特にターゲットLC-PUFAを含有する微生物油及び濃縮微生物油を有効成分として含む医薬品が挙げられる。例えばDGLAの場合、DGLAの機能性を目的とする用途、例えば、抗炎症、抗アレルギー等の用途に用いることが特に好ましい。
【0109】
(5)炎症性疾患予防又は治療剤
本発明の態様による微生物油又は濃縮微生物油は、ターゲットLC-PUFA、例えばDGLAの機能性に基づき、有効成分としてターゲットLC-PUFA、例えばDGLAを含有するので、炎症性疾患予防又は治療剤に含まれることができる。即ち、本発明の一態様による炎症性疾患予防又は治療剤は、本発明の他の態様による微生物油又は濃縮微生物油を有効成分として含む。炎症性疾患予防又は治療剤は、例えば、抗炎症剤、抗アレルギー剤等とすることができる。
【0110】
炎症性疾患としては、特に皮膚の炎症が挙げられる。皮膚の炎症は、発疹、蕁麻疹、水疱、膨疹、及び湿疹からなる群より選択される少なくとも1つの皮膚の炎症であってよく、又は放射線への曝露、自己免疫疾患及び尿毒症性そう痒からなる群より選択される少なくとも1つにより引き起こされる皮膚の炎症であってもよい。
特に、上記皮膚の炎症は、アトピー性湿疹、接触皮膚炎、乾癬、又は尿毒症性そう痒に伴う、又はこれらにより引き起こされる皮膚の炎症であってもよい。
【0111】
用語 湿疹は、多様な病因を有する幅広い皮膚の状態に適用される。一般に湿疹は、表皮の炎症によって分類される。湿疹に関連する一般的な症状としては、乾燥、繰り返し発症する皮膚の発疹、赤み、皮膚浮腫(腫れ)、かゆみ、かさぶた形成(crusting)、剥落、水疱形成、亀裂、滲出、及び出血が挙げられる。湿疹としては、アトピー性湿疹(アトピー性皮膚炎)、接触皮膚炎、乾燥性湿疹、脂漏性皮膚炎、発汗障害、円盤状湿疹、静脈性湿疹、疱疹性皮膚炎、神経皮膚炎、及び自己湿疹化が挙げられる。湿疹は、代表的に、アトピー性湿疹又は接触皮膚炎である。
【0112】
アトピー性湿疹は、主として、アレルゲンの接触又は取り込みによりさらに悪化し、このアレルゲンとしては、動物の毛及びふけ、食物アレルゲン(例えば、木の実もしくは貝・甲殻類)、又は薬物(例えば、ペニシリン)が挙げられる。
接触皮膚炎としては、アレルギー性接触皮膚炎、刺激性接触皮膚炎、及び光接触皮膚炎が挙げられる。光接触皮膚炎には、光毒性接触皮膚炎及び光アレルギー性接触皮膚炎が含まれる。
【0113】
上記皮膚の炎症は、電磁放射線への皮膚の曝露により引き起こされる皮膚の炎症であってよい。これには、例えば、太陽光、熱、X線、又は放射性物質への曝露が挙げられる。従って、この実施形態において、本発明の化合物は、代表的に、日焼けを処置するために使用される。
【0114】
電磁放射線としては、電波、マイクロ波、テラヘルツ波、赤外線、可視光線、紫外線、X線及びガンマ線が挙げられる。電磁放射線は、好ましくは、赤外線、可視光線、紫外線、X線及びガンマ線、より好ましくは、紫外線、X線及びガンマ線である。
自己免疫疾患は、皮膚に対する自己免疫応答に関与し得る。そのような自己免疫疾患の例としては、狼瘡及び乾癬である。
尿毒症性そう痒は、慢性腎不全に関連する皮膚の障害である。それはまた、透析処置を受けている患者に頻繁に影響する。
場合によって、本発明の他の態様による微生物油又は濃縮微生物油と、コルチコステロイド又は、上述した医薬用途に用いられる他のいかなる治療剤とは、同時投与されてもよい。
他の態様としては、炎症性疾患は、アトピー性皮膚炎、アレルギー性接触皮膚炎、一次刺激性接触皮膚炎、光接触皮膚炎、全身性接触皮膚炎、リウマチ、乾癬及び狼瘡からなる群より選択される少なくとも1つであってもよい。
【0115】
炎症性疾患予防又は治療剤は、炎症性疾患に罹患している又は罹患する危険性のある対象者に投与することができる。投与形態としては、経口投与又は局所投与であってもよい。なお、炎症性疾患治療剤とは、炎症性疾患による症状が見出されている場合に、このような症状の進行を抑制し、又は緩和するために用いられる医薬をいう。一方、炎症性疾患予防剤とは、炎症性疾患による症状の発症が予期される場合に、予め投与してその発症を抑制するために用いられる医薬をいう。ただし、これらの用語は、使用時期又は使用の際の症状によっては複合的に用いられ、限定的に解釈されない。
【0116】
本発明の他の態様は、上述した炎症性疾患予防又は治療剤を、炎症性疾患に罹患している又は罹患する危険性のある対象者に投与することを含む炎症性疾患の予防、治療又は寛解方法が提供される。投与形態としては、経口投与又は局所投与であってもよい。
【0117】
本発明の微生物油は、カラムクロマトグラフィー分析法に従って面積%による含有率で各成分を含むものであってもよい。即ち、本発明の各態様は、更に以下の微生物油、微生物油の製造方法、濃縮微生物油及び濃縮微生物油の製造方法を提供する。
<1> ガスクロマトグラフィーによる測定で、油中の脂肪酸の合計面積の50面積%以上の含有率を有する、脂肪酸アルキルエステル形態及び/又は遊離脂肪酸形態である少なくとも1つの炭素数20以上の多価不飽和脂肪酸と、
ガスクロマトグラフィーによる測定で、油中の脂肪酸の合計面積の3.0面積%以下の含有率を有する、炭素数16~22の熱生成脂肪酸と、
を含む、微生物油。
<2> 前記多価不飽和脂肪酸の含有率が、ガスクロマトグラフィーによる測定で油中
の脂肪酸の合計面積の80面積%~98面積%である<1>記載の微生物油。
<3> 前記熱生成脂肪酸の含有率が、ガスクロマトグラフィーによる測定で油中の脂肪酸の合計面積の0.0001面積%~3.0面積%である<1>又は<2>記載の微生物油。
<4> 炭素数22の飽和脂肪酸及び炭素数24の飽和脂肪酸の合計含有率が、ガスクロマトグラフィーによる測定で、油中の脂肪酸の合計面積の6.0面積%以下である<1>~<3>のいずれか1記載の微生物油。
<5> 炭素数22の飽和脂肪酸及び炭素数24の飽和脂肪酸の合計含有率が、前記多価不飽和脂肪酸の含有率の10/100以下である<1>~<4>のいずれか1記載の微生物油。
<6> 炭素数24の飽和脂肪酸の含有率が、ガスクロマトグラフィーによる測定で、油中の脂肪酸の合計面積の3.0面積%以下である<1>~<5>のいずれか1記載の微生物油。
<7> 炭素数24の飽和脂肪酸の含有率が、前記多価不飽和脂肪酸の含有率の4/100以下である<1>~<6>のいずれか1記載の微生物油。
<8> 液体クロマトグラフィーでの分離に関する指標であって、脂肪酸の炭素数及び二重結合数から求められるパーティションナンバーを用いた場合に、前記多価不飽和脂肪酸のパーティションナンバーと比べて、2少ない数以上2多い数以下パーティションナンバーを有し、当該多価不飽和脂肪酸の炭素数とは異なる炭素数を有する他の飽和又は不飽和脂肪酸の含有率が、ガスクロマトグラフィーによる測定で、油中の脂肪酸の合計面積の10.0面積%以下である<1>~<7>のいずれか1記載の微生物油。
<9> 前記他の飽和又は不飽和脂肪酸の含有率が、前記多価不飽和脂肪酸の含有率の15/100以下である<8>記載の微生物油。
【0118】
<10> 前記多価不飽和脂肪酸が、エイコサジエン酸、ジホモ-γ-リノレン酸、ミード酸、エイコサテトラエン酸、アラキドン酸、エイコサペンタエン酸、ドコサテトラエン酸、ドコサペンタエン酸及びドコサヘキサエン酸からなる群より選択された少なくとも1つである<1>~<9>のいずれか1記載の微生物油。
<11> 前記他の飽和又は不飽和脂肪酸が、炭素数18の飽和脂肪酸、炭素数18の一価不飽和脂肪酸、炭素数18の二価不飽和脂肪酸、炭素数18の三価不飽和脂肪酸及び炭素数18の四価不飽和脂肪酸からなる群より選択された少なくとも1つを含む<8>~<10>のいずれか1に記載の微生物油。
<12> 前記多価不飽和脂肪酸がジホモ-γ-リノレン酸であり、前記熱生成脂肪酸が、炭素数20の熱生成脂肪酸である<1>~<11>のいずれか1に記載の微生物油。
<13> 熱生成脂肪酸が、当該熱生成脂肪酸エチルエステルに対する下記条件によるガスクロマトグラフィー分析においてジホモ-γ-リノレン酸エチルの保持時間を1としたときに、1.001~1.011の範囲内に現れるピークとしての保持時間を有する第一の物質と、1.013~1.027の範囲内に現れるピークとしての保持時間を有する第二の物質との少なくとも一方を含む<12>記載の微生物油。
装置: 6890N Network GC system アジレント・テクノロジー株式会社)
カラム: DB-WAX 長さ30m×内径0.25mm×膜厚0.25μm(アジレント・テクノロジー株式会社)
カラム温度条件: 60℃2.5分→昇温20℃/分→180℃→昇温2℃/分→230℃15分
注入口温度条件: 210℃、スプリットレス、スプリットベントのサンプリングタイム1.5分、パージ流量40mL/分
注入量条件: 1μL、試料濃度1mg/mL以下
検出器: FID
検出器温度: 280℃
キャリアガス条件: ヘリウム、線速度24cm/分
【0119】
<14> 前記多価不飽和脂肪酸がジホモ-γ-リノレン酸であり、前記第一の物質及び前記第二の物質の合計含有率が、ガスクロマトグラフィーによる測定で、油中の脂肪酸の合計面積の0.001面積%~2.8面積%である<13>記載の微生物油。
<15> 炭素数18の一価不飽和脂肪酸の含有率が、ガスクロマトグラフィーによる測定で、油中の脂肪酸の合計面積の7.0面積%以下である<10>~<14>のいずれか1記載の微生物油。
<16> 炭素数18の一価不飽和脂肪酸の含有率が、前記多価不飽和脂肪酸の含有率の10/100以下である<10>~<15>のいずれか1記載の微生物油。
<17> 炭素数18の二価不飽和脂肪酸の含有率が、前記多価不飽和脂肪酸の含有率の7/100以下である<10>~<16>のいずれか1記載の微生物油。
<18> 炭素数18の一価不飽和脂肪酸及び炭素数18の二価不飽和脂肪酸の合計含有率が、前記多価不飽和脂肪酸の含有率の15/100以下である<10>~<17>のいずれか1記載の微生物油。
<19> 炭素数18の飽和脂肪酸の含有率が、前記多価不飽和脂肪酸の含有率の11/100以下である<10>~<18>のいずれか1記載の微生物油。
【0120】
<20> 微生物油の製造方法であって、
微生物バイオマスから得られたアルキルエステル形態及び/又は遊離脂肪酸形態の炭素数20以上の少なくとも1つの多価不飽和脂肪酸を含む原料油を用意すること、並びに、
前記原料油に対して、160℃~230℃の塔底温度及び0.1Pa~30Paの蒸留塔内における最低圧力を含む条件によって精密蒸留による精製を行うこと、
を含む、当該製造方法。
<21> 微生物油の製造方法であって、
微生物バイオマスから得られたアルキルエステル形態及び/又は遊離脂肪酸形態の炭素数20以上の少なくとも1つの多価不飽和脂肪酸を含む原料油を用意すること、
前記原料油に対して、規則充填物を含む蒸留塔を用いて、160℃~230℃の塔底温度及び0.1Pa~30Paの蒸留塔内における最低圧力を含む条件による精密蒸留を行うこと、並びに、
<1>~<19>のいずれか1記載の微生物油を得ること、
を含む、当該製造方法。
<22> 微生物油の製造方法であって、
微生物バイオマスから得られたアルキルエステル形態及び/又は遊離脂肪酸形態の炭素数20以上の少なくとも1つの多価不飽和脂肪酸を含む原料油を用意すること、
前記原料油に対して、規則充填物を含む蒸留塔を用いて、ターゲットとする前記多価不飽和脂肪酸の種類に応じた塔底温度及び蒸留塔内における最低圧力を含み、ガスクロマトグラフィーによる測定で、油中の脂肪酸の合計面積の3.0面積%以下の含有率の炭素数16~22の熱生成脂肪酸を含む微生物油が得られ得る条件による精密蒸留を行うこと、
並びに、
<1>~<19>のいずれか1記載の微生物油を得ること、
を含む、当該製造方法。
<23> 前記精密蒸留を、160℃~230℃の塔底温度及び0.1Pa~30Paの蒸留塔内における最低圧力で行う<22>記載の製造方法。
<24> 前記精密蒸留が、互いに異なる塔底温度及び塔頂圧力の条件による複数回の精密蒸留を含む<20>~<23>のいずれか1記載の製造方法。
<25> 前記精密蒸留が、160℃~220℃の塔底温度及び0.1Pa~30Paの蒸留塔内における最低圧力による低温精密蒸留と、170℃~230℃の塔底温度及び0.1Pa~30Paの蒸留塔内における最低圧力による高温精密蒸留を含む<24>記載の製造方法。
<26> 前記高温精密蒸留における塔底温度が、前記低温精密蒸留の塔底温度よりも3℃~20℃高い<25>記載の製造方法。
<27> 規則充填物1単位当たりの比表面積が、125m2/m3~1700m2/m3である<21>~<26>のいずれか1記載の製造方法。
【0121】
<28> 脂肪酸アルキルエステル形態及び/又は遊離脂肪酸形態の炭素数20以上の多価不飽和脂肪酸の含有率が、ガスクロマトグラフィーによる測定で、油中の脂肪酸の合計面積の90面積%~98面積%であり、
炭素数16~22の熱生成脂肪酸の含有率が、ガスクロマトグラフィーによる測定で、油中の脂肪酸の合計面積の0.0001面積%~3.0面積%であり、
炭素数24の飽和脂肪酸及び炭素数22の飽和脂肪酸の合計含有率が、ガスクロマトグラフィーによる測定で、油中の脂肪酸の合計面積の1.0面積%以下であり、
炭素数18の一価不飽和脂肪酸の含有率が、ガスクロマトグラフィーによる測定で、油中の脂肪酸の合計面積の5.0面積%以下である、
濃縮微生物油。
<29> 脂肪酸アルキルエステル形態及び/又は遊離脂肪酸形態のジホモ-γ-リノレン酸の含有率が、ガスクロマトグラフィーによる測定で、油中の脂肪酸の合計面積の90面積%~98面積%であり、
炭素数16~22の熱生成脂肪酸の含有率が、ガスクロマトグラフィーによる測定で、油中の脂肪酸の合計面積の0.0001面積%~3.0面積%であり、
炭素数24の飽和脂肪酸及び炭素数22の飽和脂肪酸の合計含有率が、ガスクロマトグラフィーによる測定で、油中の脂肪酸の合計面積の1.0面積%以下であり、
炭素数18の一価不飽和脂肪酸の含有率が、ガスクロマトグラフィーによる測定で、油中の脂肪酸の合計面積の5.0面積%以下である、
濃縮微生物油。
<30> 濃縮微生物油の製造方法であって、
<20>~<27>のいずれか1記載の製造方法を用いて、ターゲットとする脂肪酸アルキルエステル形態及び/又は遊離脂肪酸形態の少なくとも1つの炭素数20以上の多価不飽和脂肪酸を含有する微生物油を得ること、
得られた微生物油に対して、逆相カラムクロマトグラフィーを用いた濃縮処理を行うこと、
を含む、当該方法。
【0122】
<31> <1>~<19>のいずれか1記載の微生物油又は<28>若しくは<29>記載の濃縮微生物油の、食品、サプリメント、医薬品、化粧品又は飼料における使用。
<32> <1>~<19>のいずれか1記載の微生物油又は<28>若しくは<29>記載の濃縮微生物油の、食品、サプリメント、医薬品、化粧品又は飼料の製造方法における使用。
<33> <1>~<19>のいずれか1記載の微生物油又は<28>若しくは<29>記載の濃縮微生物油を含む医薬品。
<34> <1>~<19>のいずれか1記載の微生物油又は<28>若しくは<29>記載の濃縮微生物油を含む炎症性疾患予防又は治療剤。
<35> 抗アレルギー剤又は抗炎症剤である<34>記載の炎症性疾患予防又は治療剤。
<36> 前記炎症性疾患が、発疹、蕁麻疹、水疱、膨疹及び湿疹からなる群より選択される少なくとも1つの皮膚の炎症性疾患、又は、放射線への曝露、自己免疫疾患及び尿毒症性そう痒からなる群より選択される少なくとも1つにより引き起こされる皮膚の炎症性疾患である<34>又は<35>記載の炎症性疾患予防又は治療剤。
<37> 前記皮膚の炎症性疾患が、アトピー性皮膚炎、アレルギー性接触性皮膚炎、刺激性接触皮膚炎、光接触皮膚炎、全身性接触皮膚炎、リウマチ、乾癬及び狼瘡からなる群より選択される少なくとも1つである<34>又は<35>記載の炎症性疾患予防又は治療剤。
<38> <34>~<37>のいずれか1記載の炎症性疾患予防又は治療剤を、炎症性疾患に罹患している又は罹患する危険性のある対象者に投与することを含む炎症性疾患予防、治療又は寛解方法。
<39> 前記投与が、経口投与又は局所投与である<38>記載の炎症性疾患予防、治療又は寛解方法。
<40> <20>~<27>のいずれか1記載の製造方法で得られた微生物油。
<41> <30>記載の製造方法で得られた濃縮微生物油。
【0123】
上述したように、本発明において、微生物油及び濃縮微生物油の各成分の含有率については、ガスクロマトグラフィーによる測定に基づく面積%での表記と、重量%での表記とで同一とするため、ガスクロマトグラフィーによる測定に基づく面積%で表記される微生物油及び濃縮微生物油の各成分の含有率に関する記載は、重量%で表記された各数値をそのまま面積%で表記した数値に書き換え、全文をそのまま適用する。
【0124】
また、本明細書において、発明の各態様(aspect)に関する一実施形態(embodiment)中で説明された各発明特定事項(feature)は、任意に組み合わせて新たな実施形態としてもよく、このような新たな実施形態も、本発明の各態様に包含され得るものとして、理解されるべきである。
【実施例】
【0125】
以下、本発明を実施例にて詳細に説明する。しかしながら、本発明はそれらに何ら限定されるものではない。なお、特に断りのない限り、「%」は質量基準である。
以下の項における実施例及び比較例では、ターゲットLC-PUFAを、エチルエステル形態のDGLAとするが、本発明はこれ限定されず、遊離脂肪酸形態のDGLAをターゲットLC-PUFAとしてもよく、アルキルエステル形態又は遊離脂肪酸形態の他の脂肪酸をターゲットLC-PUFAとしてもよい。
【0126】
以下の項における実施例及び比較例で使用されるアルキルエステル化方法のエチルエステル化率は、95%~100%であることが経験的に判明している。このため、本実施例の項において、得られる原料エチルエステルでは、含有する飽和又は不飽和脂肪酸のほとんどが脂肪酸エチルエステル形態であると推測された。このため、以下の比較例及び実施例では、微生物油中に含まれる飽和又は不飽和脂肪酸はすべてエチルエステル形態の飽和又は不飽和脂肪酸として記載する。
また、以下、DGLAエチルエステルを単に「DGLA」、炭素数18の一価不飽和脂肪酸エチルエステルを単に「C18:1」、炭素数18の二価不飽和脂肪酸エチルエステルを単に「C18:2」、炭素数22の飽和脂肪酸エチルエステルを単に「C22:0」、炭素数24の飽和脂肪酸エチルエステルを単に「C24:0」と表記した。
【0127】
[比較例1]
脂肪酸組成中にDGLAを37.2重量%含有するモルティエレラ属微生物由来の微生物油1を、常法に従ってアルカリ触媒でエチルエステル化し、原料エチルエステル1を調製した。即ち、120gの微生物油1に対して20重量%ナトリウムエトキシド-エタノール溶液14g、エタノール40mLを加えて、2時間オイルバスで加熱しながら還流した。その後、反応液が40℃以下になるまで空冷し、次いで、分液ロートに移した。分液ロートに移した反応液に、400mLのヘキサンを加え、その後に、精製水を加えて、水洗を繰り返した。洗液が中性になった後に飽和食塩水で1回洗ってから、ヘキサン層を回収した。回収したヘキサン層に無水硫酸ナトリウムを加えて脱水し、溶剤を、エバポレーター及び真空引きで除去し、原料エチルエステル1を得た。
原料エチルエステル1では、DGLA含有率、即ち、得られた原料エチルエステルに対するDGLAの含有率は37.2重量%、DGLAに対するC18:1の重量比、即ち、C18:1/DGLAは23.5/100、C18:2の重量比、即ち、C18:2/DGLAは17.8/100であった。
【0128】
原料エチルエステル1を、蒸留処理を行うことなく、以下条件でHPLCに供して、DGLA溶出画分を分画した。
HPLCでは、原料エチルエステル1を装置に投入して処理を開始してから、原料エチルエステル1に含まれる脂肪酸がすべて溶出し終えるまで、溶出液を分画した。得られた各画分については、正確に1mLを採取して、次いでエバポレーターによって溶剤を除去した。溶媒を除去した後の画分を、正確に1mLの内部標準としてトリコサン酸メチル、即ち、C23:0メチルエステル1.0mg/mLヘキサン溶液に溶解させて、測定サンプルとして、以下に示す条件のガスクロマトグラフィー(GC)に供した。
【0129】
GCで得られた各脂肪酸ピーク面積から、下記式(II)に基づいて、測定サンプル中に含まれる脂肪酸の量及び脂肪酸組成を求め、更に、DGLA含有率、即ち、得られた画分に対するDGLAの含有率及び回収率を算出した。DGLAの回収率は、分画したHPLC溶出液の全画分のDGLA量の合計に対する、回収した画分のDGLA量の合計の割合を計算することによって算出した。以下、同じ方法で回収率を算出した。
画分に含まれる脂肪酸量[mg]=(各脂肪酸のピーク面積×画分容量[mL])/(C23:0メチルエステルのピーク面積)×内部標準添加量1.0mg・・・(II)
【0130】
その結果を、表2に示す。表2に示されるように、DGLA含有率は91.1重量%、DGLA回収率は8.1%であった。なお、表2において、比較例1の「微生物油」の欄の数値は、原料エチルエステル1の数値である。表2における含有率及び重量比は、いずれも脂肪酸組成に基づく含有率及び重量比を表す。以下、同様。
【0131】
・HPLC条件
カラム: YMC pack ODS-AQ-HG 20mmφ×1000mm (株式会社ワイエムシィ)なお、カラム長500mm2本を直列で接続した。
ポンプ: 1200シリーズ G1361A Prep Pump (アジレント・テクノロジー株式会社)
カラム温度: 40℃
移動相: メタノール 35mL/分
試料条件: 負荷量2.4g、原料負荷率は充填剤に対して3重量%
【0132】
・GC条件
装置: 6890N Network GC system (アジレント・テクノロジー株式会社)
カラム: DB-WAX 長さ30m×内径0.25mm×膜厚0.25μm(アジレント・テクノロジー株式会社)
カラム温度条件: 180℃→昇温3℃/分→230℃30分
注入口温度: 250℃
検出器: FID
検出器温度: 250℃
キャリアガス条件: ヘリウム 線速度30cm/分
スプリット条件:スプリット比1:30、注入量1μL、試料濃度9mg/mL
【0133】
[比較例2]
比較例1で用いた原料エチルエステル1について、短行程蒸留(SPD)を以下の条件で行い、炭素数18以下の脂肪酸画分を除去した。
SPD装置は、KDL-5(UIC GmbH)を用いた。原料温度40℃、蒸発面入口の熱媒温度100℃、出口熱媒温度87℃、内部コンデンサ温度30℃、及びポンプ前圧力0.001bar、即ち、0.133mPaの温度及び真空条件で、原料160.7gを300mL/hで送液し、C18画分以下を多く含む留分を除去して、残分65.9gを得た。残分には、DGLAが濃縮されて含まれていた。
得られた残分を、以下条件でHPLCに供して、DGLA溶出画分を分画した。DGLA溶出画分は、濃縮微生物油に相当する。
【0134】
得られたSPD処理後の画分及びHPLC処理後のDGLA溶出画分については、比較例1と同様に、ガスクロマトグラフィーを用いて、含有する脂肪酸量及び脂肪酸組成を求め、更に、DGLA含有率、即ち、得られた画分に対するDGLAの含有率及び回収率を算出した。その結果を、表2に示す。表2に示されるように、SPD処理後の画分におけるDGLA含有率は40.9重量%、DGLA溶出画分のDGLA含有率は94.4重量%、DGLA回収率は5.1%であった。
【0135】
・HPLC条件
カラム: YMC pack ODS-AQ-HG 20mmφ×1000mm (株式会社ワイエムシィ)、 カラム長500mm2本を直列で接続した。
ポンプ: 1200シリーズ G1361A Prep Pump (アジレント・テクノロジー株式会社)
カラム温度: 40℃
移動相: メタノール 12mL/分
試料条件: 負荷量2.4g、即ち、原料負荷率は充填剤に対して1.5重量%
【0136】
[実施例1]
脂肪酸組成中にDGLAを32.8重量%含有するモルティエレラ属微生物由来の微生物油2を、常法によりアルカリ触媒でエチルエステル化し、原料エチルエステル2を調製した。即ち、120gの微生物油2に対して20重量%ナトリウムエトキシド-エタノール溶液14g、エタノール40mLを加えて、2時間オイルバスで加熱しながら還流した。その後、反応液が40℃以下になるまで空冷し、次いで、分液ロートに移した。分液ロートに移した反応液に、400mLのヘキサンを加え、その後に、精製水を加えて、水洗を繰り返した。洗液が中性になった後に飽和食塩水で1回洗ってから、ヘキサン層を回収した。回収したヘキサン層に無水硫酸ナトリウムを加えて脱水し、溶剤を、エバポレーター及び真空引きで除去して、原料エチルエステル2を得た。
原料エチルエステル2では、DGLA含有率、即ち、得られた原料エチルエステルに対するDGLAの含有率は32.8重量%、C18:1のDGLAに対する重量比、即ち、C18:1/DGLAは26.1/100、C18:2のDGLAに対する重量比(C18:2/DGLAは17.2/100であった。
【0137】
原料エチルエステル2を、試料として以下の低温精密蒸留工程及び高温精密蒸留工程を含む精密蒸留に供した。
低温精密蒸留工程では、100gの原料エチルエステル2に対して以下の精密蒸留を行った。分留管に真空ジャケット付分留管(桐山製作所(Kiriyama Glass))を用い、内部充填物にはスルザー・ラボパッキングEX(スルザー・ケムテック社)を5個使用した。真空ジャケット付分留管の直径は25mmであり、スルザー・ラボパッキングEXの1単位のサイズは、25mm×50mmであった。塔底釜内の液温、即ち、塔底温度を185℃、塔頂蒸気温度、即ち、塔頂温度を135℃、真空ポンプ前の圧力、即ち、蒸留塔内における最低圧力、即ち、真空度30Paとして、精密蒸留を行った。低温精密蒸留工程で、C18以下画分を初留として除去し、初留抜き残分40gを得た。初留抜き残分について、比較例1と同様のガスクロマトグラフィーを用いて脂肪酸量及び脂肪酸組成を確認したところ、初留抜き残分には、DGLAエチルエステルが濃縮されて含まれていた。
【0138】
また、初留抜き残分のクロマトグラムには、C20:3,n-6(DGLA)を示すピークとC20:4,n-6を示すピークの間に、粗油を試料とするクロマトグラムでは通常見られないピークAを示す化合物Aが出現した(表3参照)。また、C20:4n-6を示すピークの近傍に、粗油を試料とするクロマトグラムでは通常見られないピークBを示す化合物Bが出現した。化合物A及び化合物Bは、蒸留処理によって形成された化合物と考えることができ、熱生成脂肪酸とした。化合物A及び化合物Bの含有率を表2及び表3に示す。なお表3の含有率は、脂肪酸組成に基づく含有率を表す。
【0139】
なお、比較例1で用いたGC条件で熱生成脂肪酸ピークと粗油に含まれる脂肪酸が重なる場合、化合物A及び化合物Bの分離及び定量には、銀イオン固相抽出法(silver-ion solid phase extraction)によって粗油に元から含まれる脂肪酸を除去した後、以下の条件によるガスクロマトグラフィーに供し、ジホモ-γ-リノレン酸エチルの保持時間を1としたときに、1.001~1.009の範囲内に現れるピーク、即ちピークAで示される保持時間を有する化合物を化合物Aと同定した。また同様に、1.013~1.024の範囲内に現れるピーク、ピークBで示される保持時間を有する化合物を化合物Bと同定した。その後、DGLAと、化合物A又は化合物Bの相対比を求めて、DGLA、化合物A及び化合物Bの重量%を算出した。
【0140】
装置: 6890N Network GC system (アジレント・テクノロジー株式会社)
カラム: DB-WAX 長さ30m×内径0.25mm×膜厚0.25μm(アジレント・テクノロジー株式会社)
カラム温度条件: 60℃2.5分→昇温20℃/分→180℃→昇温2℃/分→230℃15分
注入口温度条件: 210℃、スプリットレス、スプリットベントのサンプリングタイム1.5分、パージ流量40mL/分
注入量条件: 1μL、試料濃度1mg/mL以下
検出器: FID
検出器温度: 280℃
キャリアガス条件: ヘリウム、線速度24cm/分
【0141】
その後、高温精密蒸留工程では、低温精密蒸留工程で得られた初留抜き残分32gに対して、以下の精密蒸留を行った。分留管に真空ジャケット付分留管(桐山製作所(Kiriyama Glass))を用い、内部充填物にはスルザー・ラボパッキングEX(スルザー・ケムテック社)を2個使用した。真空ジャケット付分留管の直径は25mmであり、スルザー・ラボパッキングEXの1単位のサイズは、25mm×50mmであった。塔底釜内の液温、即ち、塔底温度は195℃、塔頂蒸気温度、即ち、塔頂温度150℃、真空ポンプ前の圧力、即ち、蒸留塔内における最低圧力、即ち、真空度、30Paとして、精密蒸留を行った。高温精密蒸留工程で、C22以上画分を残分、即ち、残留として除去し、主留を19g得た。主留には、DGLAが更に濃縮された。
得られた主留を、以下条件でHPLCに供して、DGLA溶出画分を分画した。DGLA溶出画分は、濃縮微生物油に相当する。
【0142】
得られた高温精密蒸留工程後の主留画分及びDGLA溶出画分については、比較例1と同様にガスクロマトグラフィー(GC)を用いて、含有する脂肪酸量及び脂肪酸組成を求め、更にDGLA含有率、即ち、得られた画分に対するDGLAの含有率及び回収率を算出した。その結果を、表2及び表3に示す。表2に示されるように、高温精密蒸留工程後の主留画分におけるDGLA含有率は、91.9重量%、DGLA溶出画分のDGLA含有率は96.4重量%、DGLA回収率100.0%であり、極めて高い精製効率で、DGLAが得られた。
【0143】
・HPLC条件
カラム: YMC pack ODS-AQ-HG 20mmφ×500mm (株式会社ワイエムシィ)
ポンプ : 1200シリーズ G1361A Prep Pump (アジレント・テクノロジー株式会社)
カラム温度: 21℃前後
移動相: メタノール 17.5mL/分
試料条件: 負荷量2.4g、即ち、原料負荷率は吸着剤に対して3重量%
【0144】
[実施例2]
実施例1で使用した原料エチルエステル2を試料として、以下の低温精密蒸留工程及び高温精密蒸留工程を含む精密蒸留に供した。
【0145】
低温精密蒸留工程では、100gの原料エチルエステル2に対して以下の精密蒸留を行った。分留管に真空ジャケット付分留管(桐山製作所(Kiriyama Glass))を用い、内部充填物にはスルザー・ラボパッキングEX(スルザー・ケムテック社)を2個使用した。真空ジャケット付分留管の直径は25mmであり、スルザー・ラボパッキングEXの1単位のサイズは、25mm×50mmであった。塔底釜内の液温、即ち、塔底温度を180℃、塔頂蒸気温度、即ち、塔頂温度を140℃、真空ポンプ前の圧力、即ち、蒸留塔内における最低圧力、即ち、真空度20Paとして、精密蒸留を行った。低温精密蒸留工程で、C18以下画分を初留として除去し、初留抜き残分48gを得た。初留抜き残分について、比較例1と同様のガスクロマトグラフィーを用いて脂肪酸量及び脂肪酸組成を確認したところ、初留抜き残分には、DGLAが濃縮されて含まれていた。また、初留抜き残分のクロマトグラムには、化合物A及び化合物Bが現れた化合物A及び化合物Bの含有率を表2に示す。
【0146】
その後、高温精密蒸留工程では、低温精密蒸留工程で得られた初留抜き残分45gに対して、以下の精密蒸留を行った。分留管に真空ジャケット付分留管(桐山製作所(Kiriyama Glass))を用い、内部充填物にはスルザー・ラボパッキングEX(スルザー・ケムテック社)を2個使用した。真空ジャケット付分留管の直径は25mmであり、スルザー・ラボパッキングEXの1単位のサイズは、25mm×50mmであった。塔底釜内の液温、即ち、塔底温度は185℃、塔頂蒸気温度、即ち、塔頂温度145℃、真空ポンプ前の圧力、即ち、蒸留塔内における最低圧力、即ち、真空度20Paとして、精密蒸留を行った。第二の精密蒸留工程で、C22以上画分を残分、即ち、残留として除去し、主留を28g得た。主留には、DGLAが更に濃縮されていると推測される。
得られた主留を、以下条件でHPLCに供して、DGLA溶出画分を分画した。DGLA溶出画分は、濃縮微生物油に相当する。
【0147】
得られた高温精密蒸留工程後の主留画分及びDGLA溶出画分については、比較例1と同様にガスクロマトグラフィー(GC)と用いて、含有する脂肪酸量及び脂肪酸組成を求め、更にDGLA含有率、即ち、得られた画分に対するDGLAの含有率及び回収率を算出した。その結果を、表2及び表4に示す。表2に示されるように、高温精密蒸留工程後の主留画分におけるDGLA含有率は、75.0重量%、DGLA溶出画分のDGLA含有率は95.1重量%、DGLA回収率61.7%であり、高い精製効率でDGLAが得られた。
【0148】
また、実施例1と同様に、主留のクロマトグラムには、ピークAを示す化合物A及びピークBを示す化合物Bが出現した(表4参照)。この化合物A及び化合物Bは、蒸留処理によって形成された熱生成脂肪酸と考えることができた。化合物A及び化合物Bの含有率を表2及び表4に示す。なお表4の含有率は、脂肪酸組成に基づく含有率を表す。
【0149】
・HPLC条件
カラム: YMC pack ODS-AQ-HG 20mmφ×1000mm (株式会社ワイエムシィ) カラム長500mm2本を直列で接続した。
ポンプ: 1200シリーズ G1361A Prep Pump (アジレント・テクノロジー株式会社)
カラム温度: 21℃前後
移動相: メタノール、12mL/分
試料条件: 負荷量2.4g、即ち、原料負荷率は吸着剤に対して1.5重量%
【0150】
【0151】
【0152】
【0153】
表2~表4に示されるように、精密蒸留を行ってDGLAを50重量%以上とし、且つ、熱生成脂肪酸を0.0001重量%以上含有する微生物油は、逆相カラムクロマトグラフィーを用いてDGLAを得る場合に、高濃度のDGLAを効率よく得られる点で極めて有用であることが分かった。このような微生物油は、特定の条件による精密蒸留工程を含む製造方法によって、又は、規則充填物を含む蒸留塔を用いた精留工程を含む製造方法によって得ることができた。
【0154】
このように、本発明によれば、高含有率のDGLAを含有する微生物油を効率よく得ることができ、また高含有率のDGLAを含有する濃縮微生物油を効率よく得ることができた。
従って、本発明によれば、高含有率のターゲットLC-PUFAを含有する微生物油及び濃縮微生物油を効率よく提供することができ、またこのような微生物油及び濃縮微生物油を効率よく得るために有用な製造方法、並びに微生物油及び濃縮微生物油の各種用途を提供することができる。
【0155】
2013年12月4日に出願された日本国特許出願第2013-251401号の開示は、その全体が参照により本明細書に取り込まれる。
本明細書に記載された全ての文献、特許出願、及び技術規格は、個々の文献、特許出願、及び技術規格が参照により取り込まれることが具体的かつ個々に記された場合と同程度に、本明細書中に援用されて取り込まれる。