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特許7446448ニッケルに富んだリチウム複合遷移金属酸化物正極活物質粒子混合物の製造方法
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  • 特許-ニッケルに富んだリチウム複合遷移金属酸化物正極活物質粒子混合物の製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-29
(45)【発行日】2024-03-08
(54)【発明の名称】ニッケルに富んだリチウム複合遷移金属酸化物正極活物質粒子混合物の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/525 20100101AFI20240301BHJP
   H01M 4/36 20060101ALI20240301BHJP
   H01M 4/505 20100101ALI20240301BHJP
   H01G 11/30 20130101ALI20240301BHJP
【FI】
H01M4/525
H01M4/36 D
H01M4/505
H01M4/36 C
H01G11/30
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2022547753
(86)(22)【出願日】2021-10-06
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2023-03-31
(86)【国際出願番号】 KR2021013725
(87)【国際公開番号】W WO2022075755
(87)【国際公開日】2022-04-14
【審査請求日】2022-08-04
(31)【優先権主張番号】10-2020-0128912
(32)【優先日】2020-10-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】500239823
【氏名又は名称】エルジー・ケム・リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100122161
【弁理士】
【氏名又は名称】渡部 崇
(72)【発明者】
【氏名】ヒョク・イ
(72)【発明者】
【氏名】ドゥク-ギュン・モク
(72)【発明者】
【氏名】ミン-ヒ・ソン
【審査官】森 透
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-100565(JP,A)
【文献】国際公開第2011/104843(WO,A1)
【文献】特開2010-102873(JP,A)
【文献】特開2014-086151(JP,A)
【文献】特許第6587044(JP,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/00-4/62
H01G 11/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(S1)全体遷移金属中のニッケル含有量が80モル%以上であるリチウム複合遷移金属酸化物正極活物質からなり、所定の平均粒径を有する第1正極活物質粒子を水洗する段階と、
(S2)全体遷移金属中のニッケル含有量が80モル%以上であるリチウム複合遷移金属酸化物正極活物質からなり、前記第1正極活物質粒子の平均粒径よりも大きい所定の平均粒径を有する第2正極活物質粒子を水洗する段階と、
(S3)前記(S1)及び(S2)で各々水洗された第1正極活物質粒子及び第2正極活物質粒子を互いに混合して正極活物質粒子混合物を製造する段階と、
(S4)前記正極活物質粒子混合物を濾過及び乾燥する段階と、を含み、
前記(S1)段階における前記第1正極活物質粒子の重量に対する水の重量が、前記(S2)段階における前記第2正極活物質粒子の重量に対する水の重量よりも多い、ニッケルに富んだリチウム複合遷移金属酸化物正極活物質粒子混合物の製造方法。
【請求項2】
前記リチウム複合遷移金属酸化物は、下記の化学式1で表されることを特徴とする、請求項1に記載のニッケルに富んだリチウム複合遷移金属酸化物正極活物質粒子混合物の製造方法。
[化学式1]
Li1+a[NiCo ]O
前記化学式1において、MはMn及びAlより選択された一種以上であり、Mは、Zr、B、W、Mo、Cr、Nb、Mg、Hf、Ta、La、Ti、Sr、Ba、Ce、F、P、S及びYより選択された一種以上であり、
0≦a≦0.3、0.6≦x<1.0、0<y≦0.4、0<z≦0.4、0≦w≦0.2、x+y+z+w=1である。
【請求項3】
前記第1正極活物質粒子の平均粒径(D50):前記第2正極活物質粒子の平均粒径(D50)が、1:203:8であることを特徴とする、請求項1または2に記載のニッケルに富んだリチウム複合遷移金属酸化物正極活物質粒子混合物の製造方法。
【請求項4】
前記第1正極活物質粒子の平均粒径(D50)が5μm以下であり、前記第2正極活物質粒子の平均粒径(D50)が9μm以上であることを特徴とする、請求項1から3のいずれか一項に記載のニッケルに富んだリチウム複合遷移金属酸化物正極活物質粒子混合物の製造方法。
【請求項5】
前記(S3)の第1正極活物質粒子及び第2正極活物質粒子の混合は、混合槽で行われるか、またはラインミキサーによって行われることを特徴とする、請求項1から4のいずれか一項に記載のニッケルに富んだリチウム複合遷移金属酸化物正極活物質粒子混合物の製造方法。
【請求項6】
前記(S4)の後に前記乾燥された正極活物質粒子混合物を分級する段階をさらに含むことを特徴とする、請求項1から5のいずれか一項に記載のニッケルに富んだリチウム複合遷移金属酸化物正極活物質粒子混合物の製造方法。
【請求項7】
前記(S4)の後に前記乾燥された正極活物質粒子混合物を構成する正極活物質粒子の表面にコーティング層を形成する段階をさらに含むことを特徴とする、請求項1から6のいずれか一項に記載のニッケルに富んだリチウム複合遷移金属酸化物正極活物質粒子混合物の製造方法。
【請求項8】
前記コーティング層は、ホウ素含有コーティング層であることを特徴とする、請求項7に記載のニッケルに富んだリチウム複合遷移金属酸化物正極活物質粒子混合物の製造方法。
【請求項9】
前記ニッケルに富んだリチウム複合遷移金属酸化物正極活物質粒子混合物のリチウム不純物の残留量が、0.7重量%以下であることを特徴とする、請求項1から8のいずれか一項に記載のニッケルに富んだリチウム複合遷移金属酸化物正極活物質粒子混合物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、相異なる平均粒径を有するニッケルに富んだリチウム複合遷移金属酸化物正極活物質粒子の混合物から構成された正極活物質の製造方法に関する。
【0002】
本出願は、2020年10月06日出願の韓国特許出願第10-2020-0128912号に基づく優先権を主張し、該当出願の明細書及び図面に開示された内容は、すべて本出願に組み込まれる。
【背景技術】
【0003】
ニッケルに富んだ(Ni-rich)リチウム複合遷移金属酸化物からなる正極活物質が注目を浴びている。
【0004】
ニッケルに富んだリチウム複合遷移金属酸化物からなる正極活物質の製造に際し、炭酸リチウムなどリチウム不純物の残留量が増加する。即ち、ニッケルに富んだリチウム複合遷移金属酸化物からなる正極活物質は、ニッケル含有量が高くなるにつれ、焼成による製造時に焼成温度を低めるようになるため、表面にリチウム不純物が多量に残留する問題点が発生する。このような不純物は、電解液と反応して電池の性能を低下させて、ガスを発生させ、電極スラリーの製造時にゲル化を誘発する。
【0005】
一方、正極の圧延率の改善などのために、相異なる平均粒径を有するように製造されたニッケルに富んだリチウム複合遷移金属酸化物正極活物質粒子を混合して使用することで、エネルギー密度及び圧延工程を有利にすることができる。
【0006】
このように、リチウム不純物の含有量を低減させながら相異なる平均粒径を有するニッケルに富んだリチウム複合遷移金属酸化物正極活物質粒子の混合物を製造するために、従来に下記の二つの方法(図1参照)が提案された。
【0007】
第一は、所謂、個別水洗工程による製造方法である。
【0008】
個別水洗工程は、相異なる平均粒径を有するニッケルに富んだ正極活物質粒子である第1正極材と第2正極材を各々別の工程で水洗-濾過-乾燥してリチウム不純物などの副産物を除去した後、必要に応じて第1正極材と第2正極材の表面にコーティング層の形成などの後処理工程を行って第1正極材及び第2正極材の最終品を各々製造し、これら第1正極材と第2正極材の最終品を互いに混合する工程である。
【0009】
このような個別水洗工程は、平均粒径が相異なる他の活物質粒子に対して最適の条件の水洗工程が適用可能であるが、平均粒径が相異なる粒子毎に別の工程を各々行わなければならないため、費用が多くかかり、平均粒径が小さい正極活物質粒子は各工程の移送過程で移送中の流動性が良くなく、装置に詰まりを誘発することがあり、分給を行う場合に時間が長くかかるという短所がある。
【0010】
第2は、所謂、混合水洗工程による製造方法である。
【0011】
相異なる平均粒径を有するニッケルに富んだ正極活物質粒子である第1正極材と第2正極材を互いに混合して正極活物質粒子混合物を製造した後、水洗-濾過-乾燥してリチウム不純物などの副産物を除去した後、必要に応じて正極材の表面にコーティング層の形成などの後処理工程を行って最終品を製造する工程である。
【0012】
このような混合水洗工程は、水洗工程からは一つの工程によって遂行可能であるため、生産性と工程における粒子の流動性が良好であるという長所があるが、平均粒径が相異なる正極活物質粒子に対しては最適の条件の水洗工程を適用しにくいという問題点がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は、相異なる平均粒径を有するニッケルに富んだリチウム複合遷移金属酸化物正極活物質粒子の混合物から構成された正極活物質の製造時、相異なる平均粒径を有する正極活物質粒子の各々対して最適の水洗工程の適用が可能である共に、良好な生産性と工程における粒子の流動性が確保可能な製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記の課題を達成するために、本発明の第1具現例によるニッケルに富んだリチウム複合遷移金属酸化物正極活物質粒子混合物の製造方法は、
(S1)全体遷移金属中のニッケル含有量が80モル%以上であるリチウム複合遷移金属酸化物正極活物質からなり、所定の平均粒径を有する第1正極活物質粒子を水洗する段階と、
(S2)全体遷移金属中のニッケル含有量が80モル%以上であるリチウム複合遷移金属酸化物正極活物質からなり、前記第1正極活物質粒子の平均粒径と異なる所定の平均粒径を有する第2正極活物質粒子を水洗する段階と、
(S3)前記(S1)及び(S2)で各々水洗された第1正極活物質粒子及び第2正極活物質粒子を互いに混合して正極活物質粒子混合物を製造する段階と、
(S4)前記正極活物質粒子混合物を濾過及び乾燥する段階と、を含む。
【0015】
本発明の第2具現例によると、第1具現例による製造方法において、前記リチウム複合遷移金属酸化物は、下記の化学式1で表されるものであり得る。
【0016】
[化学式1]
Li1+a[NiCo ]O
前記化学式1において、MはMn及びAlより選択された一種以上であり、Mは、Zr、B、W、Mo、Cr、Nb、Mg、Hf、Ta、La、Ti、Sr、Ba、Ce、F、P、S及びYより選択された一種以上であり、
0≦a≦0.3、0.6≦x<1.0、0<y≦0.4、0<z≦0.4、0≦w≦0.2、x+y+z+w=1である。
【0017】
本発明の第3具現例によると、前記第1具現例及び第2具現例のいずれか一つ以上の具現例において、前記第1正極活物質粒子の平均粒径(D50):前記第2正極活物質粒子の平均粒径(D50)が、1:203:8であり得る。
【0018】
本発明の第4具現例によると、前記第1から第3具現例のいずれか一つ以上の具現例において、前記第1正極活物質粒子の平均粒径(D50)は5μm以下であり、前記第2正極活物質粒子の平均粒径(D50)は9μm以上であり得る。
【0019】
本発明の第5具現例によると、前記第1から第4具現例のいずれか一つ以上の具現例において、前記(S3)の第1正極活物質粒子及び第2正極活物質粒子の混合は、混合槽で行われるか、またはラインミキサーによって行われ得る。
【0020】
本発明の第6具現例によると、前記第1から第5具現例のいずれか一つ以上の具現例において、前記(S4)の後に前記乾燥された正極活物質粒子混合物を分級する段階をさらに含み得る。
【0021】
本発明の第7具現例によると、前記第1から第6具現例のいずれか一つ以上の具現例において、前記(S4)の後に前記乾燥された正極活物質粒子混合物を構成する正極活物質粒子の表面にコーティング層を形成する段階をさらに含み得、例えば、前記コーティング層は、ホウ素含有コーティング層であり得る。
【0022】
本発明の第8具現例によると、前記第1から第7具現例のいずれか一つ以上の具現例において、前記ニッケルに富んだリチウム複合遷移金属酸化物正極活物質粒子混合物のリチウム不純物の残留量が、0.7重量%以下であり得る。
【発明の効果】
【0023】
本発明の製造方法によると、相異なる平均粒径を有するニッケルに富んだリチウム複合遷移金属酸化物正極活物質粒子の混合物から構成された正極活物質の製造に際し、相異なる平均粒径を有する正極活物質粒子の各々に対して最適の水洗工程が適用可能であると共に、良好な生産性と工程における粒子の流動性を確保することができる.
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】従来の方法によってニッケルに富んだ(Ni-rich)リチウム複合遷移金属酸化物正極活物質粒子の混合物を製造する方法を例示した工程図である。
図2】本発明の一実施例によってニッケルに富んだリチウム複合遷移金属酸化物正極活物質粒子の混合物を製造する方法を例示した工程図である。
図3】実施例及び比較例の製造方法によって製造されたニッケルに富んだリチウム複合遷移金属酸化物正極活物質粒子の混合物のリチウム不純物の残留量を示したグラフである。
図4】実施例及び比較例の製造方法によって製造されたニッケルに富んだリチウム複合遷移金属酸化物正極活物質粒子の混合物を用いて製造した電池のサイクル特性を示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明を詳細に説明する。本明細書及び特許請求の範囲に使われた用語や単語は通常的や辞書的な意味に限定して解釈されてはならず、発明者自らは発明を最善の方法で説明するために用語の概念を適切に定義できるという原則に則して本発明の技術的な思想に応ずる意味及び概念で解釈されねばならない。
【0026】
以下、本発明によるニッケルに富んだ(Ni-rich)リチウム複合遷移金属酸化物正極活物質粒子混合物の製造方法について説明する。
【0027】
本発明の第1具現例によるニッケルに富んだリチウム複合遷移金属酸化物正極活物質粒子混合物の製造方法によると、先ず、全体の遷移金属中のニッケル含有量が80モル%以上であるリチウム複合遷移金属酸化物正極活物質からなり、所定の平均粒径を有する第1正極活物質粒子を水洗する(S1)。また、(S1)と別の工程を行い、全体の遷移金属中のニッケル含有量が80モル%以上であるリチウム複合遷移金属酸化物正極活物質からなり、前記第1正極活物質粒子の平均粒径と異なる所定の平均粒径を有する第2正極活物質粒子を水洗する(S2)。
【0028】
リチウム複合遷移金属酸化物からなる正極活物質として全体の遷移金属中のニッケル含有量が80atm%以上であるリチウム複合遷移金属酸化物からなる正極活物質を使用すると、高い容量特性が具現可能である。
【0029】
このようなニッケルに富んだリチウム複合遷移金属酸化物からなる正極活物質粒子は、製造時、焼成条件や解砕と分給などの公知の方法によって所定の平均粒径を有する第1正極活物質粒子と、前記第1正極活物質粒子の平均粒子と異なる所定の平均粒径を有する第2正極活物質粒子と、を当業者が容易に準備し得る。
【0030】
ここで、前記リチウム複合遷移金属酸化物は、下記の化学式1で表されるものであり得るが、ここに限定されない。
【0031】
[化学式1]
Li1+a[NiCo ]O
前記化学式1において、
は、Mn及びAlより選択された一種以上であり、
は、Zr、B、W、Mo、Cr、Nb、Mg、Hf、Ta、La、Ti、Sr、Ba、Ce、F、P、S及びYより選択された一種以上であり、
0≦a≦0.3、0.6≦x<1.0、0<y≦0.4、0<z≦0.4、0≦w≦0.2、x+y+z+w=1である。
【0032】
特に、xは0.8以上であることが望ましい。
【0033】
水洗工程に投入される第1正極活物質粒子の平均粒径(D50):前記第2正極活物質粒子の平均粒径(D50)は、1:203:8であり、第1正極活物質粒子の平均粒径(D50)は5μm以下であり、前記第2正極活物質粒子の平均粒径(D50)は9μm以上であり得るが、これに限定されない。
【0034】
(S1)の第1正極活物質粒子の水洗工程及び(S2)の第2正極活物質粒子の水洗工程は、各々別に行うため、相異なる平均粒径を有する正極活物質粒子に最適の水洗工程が適用可能である。水洗は、通常の方法によって蒸留水または超純水などの水を用いることができ、必要に応じて水洗効能を高めるための弱酸などの添加剤を水にさらに含ませ得る。このような水洗工程によってリチウム不純物の残留量を低めて最終の正極活物質粒子の表面における副反応などを抑制することができる。
【0035】
続いて、前記(S1)及び(S2)で各々水洗された第1正極活物質粒子及び第2正極活物質粒子を混合して正極活物質粒子の混合物を製造する(S3)。
【0036】
水洗された第1正極活物質粒子及び第2正極活物質粒子を混合する方法には、公知の多様な粒子混合方法が利用可能であり、例えば、定量ポンプなどを用いて定量で混合槽やラインミキサーに供給して行い得る。
【0037】
その後、正極活物質粒子の混合物を濾過及び乾燥する(S4)。
【0038】
正極活物質粒子の混合物を濾過させる方法は公知であり、例えば、ファンネルフィルターまたはフィルタープレスなどを用いて濾過し得る。正極活物質粒子の混合物を濾過するため、相対的に平均粒径が小さい正極活物質粒子のみを濾過する場合における粒子の流動性問題が緩和し、後述する分給を行う場合にも時間が短縮されるなどの長所がある。
【0039】
濾過された正極活物質粒子の混合物は乾燥して水を除去し、例えば、真空オーブンで加熱して水を蒸発させることで乾燥させることができる。
【0040】
(S4)によって乾燥を行った正極活物質粒子の混合物は、通常の分給工程によってさらに処理可能であり、例えば、超音波分給機によって分給を行い得る。
【0041】
また、(S4)の乾燥後または分給工程をさらに経た正極活物質粒子混合物は、必要に応じてコーティング層の形成のような後処理工程を行い得る。即ち、例えば、正極活物質粒子の表面にコーティング層を形成する段階をさらに含むことができ、前記コーティング層はホウ素含有のコーティング層であり得る。より具体的には、HBOのようなコーティング層原料物質を正極活物質粒子の混合物と混合した後、所定の温度で焼成を行うことでホウ素含有コーティング層を正極活物質粒子の表面に形成し得る。
【0042】
前述した本発明の製造方法に関わる一実施例による工程図を図2に示した。
【0043】
前述した方法で製造したニッケルに富んだリチウム複合遷移金属酸化物正極活物質粒子混合物のリチウム不純物の残留量は、0.7重量%以下であり得る。
【0044】
このように製造されたニッケルに富んだリチウム複合遷移金属酸化物正極活物質粒子混合物は、正極集電体の上にコーティングされ、下記のような方法で用いられ得る。
【0045】
例えば、正極集電体は、電池に化学的変化を誘発することなく、かつ導電性を有するものであれば、特に制限されない。例えば、ステンレススチール、アルミニウム、ニッケル、チタン、焼成炭素またはアルミニウムやステンレススチールの表面に、炭素、ニッケル、チタン、銀などで表面処理したものなどが使用され得る。また、正極集電体は、通常3~500μmの厚さを有し、前記集電体の表面に微細な凹凸を形成して正極活物質の接着力を高めることも可能である。例えば、フィルム、シート、ホイル、ネット、多孔質体、発泡体、不織布体などの多様な形態に使用し得る。
【0046】
正極活物質層は、前記正極活物質粒子混合物と共に、導電材及び必要に応じて選択的にバインダーを含み得る。この際、正極活物質粒子混合物は、正極活物質層の総重量に対して80~99重量%、より具体的には85~98.5重量%の含有量で含まれ得る。前記含有量範囲で含まれると、優秀な容量特性を示すことができる。
【0047】
導電材は、電極に導電性を付与するために使用されるものであって、構成される電池において化学的変化を誘発することなく導電性を有するものであれば、特に制限されない。具体的な例としては、天然黒鉛や人造黒鉛などの黒鉛;カーボンブラック、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、チャンネルブラック、ファーネスブラック、ランプブラック、サーマルブラック、炭素繊維などの炭素系物質;銅、ニッケル、アルミニウム、銀などの金属粉末または金属繊維; 酸化亜鉛、チタン酸カリウムなどの導電性ウィスカー;酸化チタンなどの導電性金属酸化物;またはポリフェニレン誘導体などの導電性高分子などが挙げられ、これらのうち一種を単独でまたは二種以上の混合物が使用され得る。前記導電材は、正極活物質層の総重量に対して0.1~15重量%で含まれ得る。
【0048】
バインダーは、正極活物質粒子同士の付着及び正極活物質粒子と集電体との接着力を向上させる役割を果たす。具体的な例には、ポリビニリデンフルオライド(PVDF)、ビニリデンフルオライド-ヘキサフルオロプロピレンコポリマー(PVDF-co-HFP)、ポリビニルアルコール(polyvinylalcohol)、ポリアクリロニトリル(polyacrylonitrile)、カルボキシメチルセルロース(CMC)、でん粉、ヒドロキシプロピルセルロース、再生セルロース、ポリビニルピロリドン、テトラフルオロエチレン、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン-プロピレン-ジエンポリマー(EPDM)、スルホン化EPDM、スチレンブタジエンゴム(SBR)、フッ素ゴム、またはこれらの多様な共重合体などが挙げられ、これらのうち一種を単独でまたは二種以上の混合物が使用され得る。前記バインダーは、正極活物質層の総重量に対して0.1~15重量%で含まれ得る。
【0049】
正極は、前記正極活物質粒子混合物を用いることを除いては、通常の正極の製造方法によって製造され得る。具体的には、前述した正極活物質粒子混合物及び選択的に、バインダー及び導電材を溶媒中に溶解または分散させて製造した正極活物質層形成用組成物を正極集電体の上に塗布した後、乾燥及び圧延することで製造し得る。
【0050】
また、他の方法として、正極は、前記正極活物質形成用組成物を別の支持体上に流し込んだ後、この支持体から剥離して得られたフィルムを正極集電体上にラミネートすることで製造することもできる。
【0051】
前述した方法で製造した正極は、電池、キャパシタなどのような電気化学素子に用いることができ、より具体的には、リチウム二次電池に利用可能である。
【0052】
以下、本発明を具体的に説明するために実施例を挙げて詳細に説明する。しかし、本発明による実施例は、多様な形態に変形することができ、本発明の範囲が下記に詳述する実施例に限定されると解釈してはいけない。本発明の実施例は、当業界における平均的な知識を持つ者にとって本発明をより完全に説明するために提供される。
【0053】
評価方法
<平均粒径(D50)の測定>
レーザー回折散乱粒度分布測定装置(日機装株式会社製、マイクロトラックHRA)を用いて測定した体積積算値からD50を算出した。
【0054】
<リチウム不純物残留量の測定>
収得した正極活物質粒子5gを脱イオン水(DI water)100mlに添加して5分間撹拌した後、濾過した。濾過した溶液にph滴定器を用いてpHが4になるまで0.1M HClを投入しながらその量を測定し、炭酸リチウム及び水酸化リチウムの残留量(重量%)を測定した。
【0055】
<含水率の測定>
水洗した後、濾過した正極活物質粒子の重さを測定し、130℃の真空オーブンで2時間以上乾燥した後に重さを測定し、二つの値の差から含水率(%)を求めた。
【0056】
<BET測定>
修得した正極活物質粒子3gをサンプルチューブに入れて150℃で2時間前処理を行った後、試料が入られたサンプルチューブをBET測定装備のポートに連結し、相対圧力(P/PO)が0.01~0.02である区間で窒素ガスが試料の表面に吸着されたときの吸着量を測定し、試料の単位重さ当たりの表面積(m/g)を計算した。
【0057】
<コインハフセルの製造及びその性能評価>
修得された正極材、カーボンブラック導電材及びPVdFバインダーを97.5:1.0:1.5の重量比で混合して正極スラリーを製造した後、これをアルミニウム集電体の一面に塗布して130℃で乾燥した後、圧延することで正極を製造した。負極にはリチウムメタルを使用した。
【0058】
製造された正極と負極との間に多孔性PEセパレーターを介在して電極組立体を製造し、これをケースの内部に位置させた後、ケースの内部に電解液(3:4:3の体積比で混合したEC/EMC/DEC混合有機溶媒に0.1M LiPFを溶解して製造した電解液)を注入してリチウム二次電池を製造した。
【0059】
0.2C CHCの測定
このように製造したリチウム二次電池ハーフセルに対して、25℃でCCCVモードで、0.2Cで4.3Vになるまで充電した後、0.2Cの定電流で3.0Vになるまで放電して充放電実験を行い、0.2C CHCによる充電容量、放電容量、効率及びDCIR(Discharge Initial Resistance)を測定した。
【0060】
容量維持率及び抵抗増加率の測定
また、製造したリチウム二次電池ハーフセルに対し、45℃でCCCVモードで、0.33Cで4.3Vになるまで充電した後、0.33Cの定電流で3.0Vになるまで放電し、30回の充放電実験を行った場合の容量維持率及び抵抗増加率を測定した。
【0061】
下記の実施例及び比較例に使用された正極活物質の小粒子(D50が4μm)としてはLi1.01[Ni0.83Co0.05Mn0.1Al0.02]Oを使用し、正極活物質の大粒子(D50が10μm)としては Li1.01[Ni0.86Co0.05Mn0.07Al0.02]Oを使用した。
【0062】
比較例
第1小粒子原料:D50が4μmである小粒子50gを水60gに入れて5分間撹拌した後、ファンネルフィルターを用いて2分間濾過した後、130℃の真空オーブンで12時間以上乾燥して超音波分給機を用いて分級した。
【0063】
第2小粒子原料:D50が4μmである小粒子50gを水60gに入れて5分間撹拌した後、ファンネルフィルターを用いて10分間濾過した後、130℃の真空オーブンで12時間以上乾燥して超音波分給機を用いて分級した。
【0064】
第1大粒子原料:D50が10μmである大粒子50gを水50gに入れて5分間撹拌した後、ファンネルフィルターを用いて2分間濾過した後、130℃の真空オーブンで12時間以上乾燥して超音波分給機を用いて分級した。
【0065】
第2大粒子原料:D50が10μmである大粒子50gを水50gに入れて5分間撹拌した後、ファンネルフィルターを用いて10分間濾過した後、130℃の真空オーブンで12時間以上乾燥して超音波分給機を用いて分級した。
【0066】
比較例1(個別水洗工程)
第1小粒子原料と第1大粒子原料を2:8の重量比で音響ミキサーを用して2分間均質混合して混合物を製造した。
【0067】
比較例2(混合水洗工程)
D50が4μmである小粒子10gと、D50が10μmである大粒子40gを音響ミキサーを用いて2分間均質混合して混合物を製造した。この混合物を水60gに入れて5分間撹拌した後、ファンネルフィルターを用いて2分間濾過した後、130℃の真空オーブンで12時間以上乾燥して超音波分給機を用いて分級した。
【0068】
比較例3(混合水洗工程)
D50が4μmである小粒子10gと、D50が10μmである大粒子40gを音響ミキサーを用いて2分間均質混合して混合物を製造した。この混合物を水50gに入れて5分間撹拌した後、ファンネルフィルターを用いて2分間濾過した後、130℃の真空オーブンで12時間以上乾燥して超音波分給機を用いて分級した。
【0069】
比較例4(個別水洗工程)
第2小粒子原料と第2大粒子原料を2:8の重量比で音響ミキサーを用いて2分間均質混合して混合物を製造した。
【0070】
比較例5(個別水洗工程後のコーティング層の形成)
比較例1の結果物をHBOと混合して300℃で5時間焼成してコーティング層を形成した。
【0071】
比較例6(個別水洗工程後のコーティング層の形成)
比較例2の結果物をHBOと混合して300℃で5時間焼成してコーティング層を形成した。
【0072】
比較例7(個別水洗工程後のコーティング層の形成)
比較例3の結果物をHBOと混合して300℃で5時間焼成してコーティング層を形成した。
【0073】
実施例1
D50が4μmである小粒子10gを水20gに入れて5分間撹拌して水洗し、別に、D50が10μmである大粒子40gを水40gに入れて5分間撹拌して水洗した。水洗された各々の小粒子及び大粒子を混合槽に供給して30秒間均質に混合した後、ファンネルフィルターを用いて2分間濾過した後、130℃の真空オーブンで12時間以上乾燥して超音波分給機を用いて分級した。
【0074】
実施例2
D50が4μmである小粒子10gを水20gに入れて5分間撹拌して水洗し、別に、D50が10μmである大粒子40gを水40gに入れて5分間撹拌して水洗した。水洗された各々の小粒子及び大粒子をラインミキサーに供給して均質に混合した後、フィルタープレスを用いて10分間濾過した後、130℃の真空オーブンで12時間以上乾燥して超音波分給機を用いて分級した。
【0075】
実施例3
D50が4μmである小粒子10gを水20gに入れて5分間撹拌して水洗し、別に、D50が10μmである大粒子40gを水40gに入れて5分間撹拌して水洗した。水洗された各々の小粒子及び大粒子をスタティックミキサーを通過させて均質に混合した後、ファンネルフィルターを用いて2分間濾過した後、130℃の真空オーブンで12時間以上乾燥して超音波分給機を用いて分級した。
【0076】
実施例4
D50が4μmである小粒子10gを水20gに入れて5分間撹拌して水洗し、別に、D50が10μmである大粒子40gを水40gに入れて5分間撹拌して水洗した。水洗された各々の小粒子及び大粒子をスタティックミキサーを通過させて均質に混合した後、フィルタープレスを用いて10分間濾過した後、130℃の真空オーブンで12時間以上乾燥して超音波分給機を用いて分級した。
【0077】
実施例5
実施例1の結果物をHBOと混合し、300℃で5時間焼成してコーティング層を形成した。
【0078】
【表1】
【0079】
【表2】
【0080】
表1には、水洗方式による水洗品の粉体特性を示した。また、図3に、実施例及び比較例の製造方法によって製造されたニッケルに富んだ(Ni-rich)リチウム複合遷移金属酸化物正極活物質粒子の混合物のリチウム不純物の残留量を示した。
【0081】
小粒子の場合、含水率が相対的に高く、これによって正極材の乾燥後のリチウム不純物の残留量も高くなる傾向がある。混合水洗工程によって製造するか、または本発明による水洗工程によって製造する場合、このような現象が改善される。
【0082】
一方、混合水洗工程は、処理する水の量によって水洗程度の差が多少大きく、残留量が多いと、電解液との副反応による短所が大きくなり、過度に水洗する場合には、正極材の表面構造に悪影響を与えるようになる。個別水洗工程と本発明による水洗工程による製造時、リチウム不純物の残留量が類似に示され、このような結果は、相異なる平均粒径を有する小粒子と大粒子に適合した水洗条件を採択したことに起因する。
【0083】
表2の濾過方式による水洗品の粉体特性も同様の傾向を示す。
【0084】
【表3】
【0085】
表3には、水洗方式による正極材のCHC評価結果を示した。また、実施例及び比較例の製造方法によって製造されたニッケルに富んだ(Ni-rich)リチウム複合遷移金属酸化物正極活物質粒子の混合物を用いて製造した電池のサイクル特性を図4に示した。
【0086】
水洗方式によるCHC評価結果において、0.2C放電容量が類似の結果を示した。混合水洗工程時、水の割合による充電容量の差を確認した。初期充電容量値で個別水洗工程による比較例5が最も低い性能を示すが、高温寿命評価結果では、混合水洗工程よりも有利な値を示し、類似の寿命と有利な抵抗増加率を示す。混合水洗工定時、過剰水洗の傾向を示す比較例6は、初期容量が他の例に比べて有利であるが、高温寿命で相対的に低い初期容量値と高い抵抗増加率値を示した。相対的に水洗程度が低い比較例7の場合、高温寿命評価で初期容量は他の例と類似であるが、抵抗増加率で比較例7と同様に不利であった。実施例5は、類似または小幅優位の寿命値を示し、個別水洗工程程度の抵抗増加率を示した。これから、本発明の水洗工程方式が効果的な方式であることを確認することができる。
図1
図2
図3
図4