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特許7446624バリスタ形成用ペースト、その硬化物及びバリスタ
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-01
(45)【発行日】2024-03-11
(54)【発明の名称】バリスタ形成用ペースト、その硬化物及びバリスタ
(51)【国際特許分類】
   H01C 7/10 20060101AFI20240304BHJP
   C01B 32/05 20170101ALI20240304BHJP
   C09D 5/24 20060101ALI20240304BHJP
   C09D 163/00 20060101ALI20240304BHJP
   C09D 7/61 20180101ALI20240304BHJP
   C09D 7/63 20180101ALI20240304BHJP
【FI】
H01C7/10
C01B32/05
C09D5/24
C09D163/00
C09D7/61
C09D7/63
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2021562469
(86)(22)【出願日】2020-09-25
(86)【国際出願番号】 JP2020036243
(87)【国際公開番号】W WO2021111711
(87)【国際公開日】2021-06-10
【審査請求日】2023-03-13
(31)【優先権主張番号】62/943,419
(32)【優先日】2019-12-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】591252862
【氏名又は名称】ナミックス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000121
【氏名又は名称】IAT弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】ポール・チュバロー
(72)【発明者】
【氏名】橋本 大佑
(72)【発明者】
【氏名】鎌田 義隆
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 敏行
【審査官】上谷 奈那
(56)【参考文献】
【文献】特開平6-215903(JP,A)
【文献】国際公開第2019/116955(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01C 7/10
C01B 32/05
C09D 5/24
C09D 163/00
C09D 7/61
C09D 7/63
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)エポキシ樹脂、
(B)硬化剤、及び
(C)カーボンエアロゲル
を含む、バリスタ形成用ペースト。
【請求項2】
(A)エポキシ樹脂が、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、臭素化ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、アミノフェノール型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、ノボラック型エポキシ樹脂、脂環式エポキシ樹脂、ナフタレン型エポキシ樹脂、エーテル系エポキシ樹脂、ポリエーテル系エポキシ樹脂、及びシリコーンエポキシコポリマー樹脂からなる群から選択される少なくとも1つを含む、請求項1に記載のバリスタ形成用ペースト。
【請求項3】
(B)硬化剤が、アミン系硬化剤、フェノール系硬化剤、酸無水物系硬化剤、及びイミダゾール系硬化剤からなる群から選択される少なくとも1つを含む、請求項1又は2に記載のバリスタ形成用ペースト。
【請求項4】
(C)カーボンエアロゲルが、平均孔径1μm未満の空孔を有する多孔質炭素であり、前記多孔質炭素のラマン分光法により測定したラマンスペクトルにおいて、1530nm-1以上1630nm-1以下の範囲内のGバンドのピークの積算強度Iと、1280cm-1以上1380cm-1以下の範囲内のDバンドのピークの積算強度Iの積算強度比I/Iが2.0以上である、請求項1から3のいずれか1項に記載のバリスタ形成用ペースト。
【請求項5】
前記多孔質炭素のラマン分光法により測定したラマンスペクトルにおいて、Gバンドのピークの最大強度Mと、Dバンドのピークの最大強度Mの最大強度比M/Mが0.80以上である、請求項4に記載のバリスタ形成用ペースト。
【請求項6】
前記(C)カーボンエアロゲルを、バリスタ形成用ペースト100質量%に対して、0.05~10質量%含む、請求項1から5のいずれか1項に記載のバリスタ形成用ペースト。
【請求項7】
(D)分散剤をさらに含む、請求項1から6のいずれか1項に記載のバリスタ形成用ペースト。
【請求項8】
(D)分散剤は、アニオン界面活性剤、カチオン界面活性剤、両性界面活性剤、非イオン性界面活性剤、炭化水素系界面活性剤、フッ素系界面活性剤、シリコン系界面活性剤、ポリカルボン酸、ポリエーテル系カルボン酸、ポリカルボン酸塩、アルキルスルホン酸塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキルエーテルスルホン塩、芳香族高分子、有機導電性高分子、ポリアルキルオキサイド系界面活性剤、無機塩、有機酸塩、及び脂肪族アルコールからなる群から選択される少なくとも1つを含む、請求項7に記載のバリスタ形成用ペースト。
【請求項9】
(E)シランカップリング剤をさらに含む、請求項1から8のいずれか1項に記載のバリスタ形成用ペースト。
【請求項10】
溶媒を実質的に含まない、請求項1から9のいずれか1項に記載のバリスタ形成用ペースト。
【請求項11】
溶媒の量が、バリスタ形成用ペーストの全体量に対して、5質量%未満である、請求項1から10のいずれか1項に記載のバリスタ形成用ペースト。
【請求項12】
請求項1から11のいずれか1項に記載のバリスタ形成用ペーストの硬化物。
【請求項13】
請求項1から11に記載のバリスタ形成用ペーストの硬化物を含む、バリスタ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バリスタ形成用ペースト、その硬化物及びバリスタに関する。
【背景技術】
【0002】
バリスタは、互いに離間する電極などの導電部同士を繋ぎ、電圧-電流特性がオームの法則に従わない非直線抵抗特性を示す素子である。バリスタは、互いに離間する一対の導電部同士の電圧が所定値以下と低い場合には電気抵抗が高く、一対の電極間の電圧が所定値以上になると急激に電気抵抗が高くなる、電圧-電流特性がオームの法則に従わない非直線抵抗特性を示す。本明細書において、電圧-電流特性がオームの法則に従わない非直線抵抗特性をバリスタ特性ともいう。非直線性抵抗特性を有する材料としては、例えば、炭化ケイ素、酸化亜鉛及びチタン酸ストロンチウムなどの半導体セラミックスが挙げられる。バリスタは、(1)雷サージなどのサージ電圧から電子機器を保護する、(2)異常な信号電圧からICを保護する、(3)人体由来の静電気破壊(Electro-Static Discharge:ESD)から電子機器を保護する、などの用途に用いられる。
【0003】
導電性を有する部材を構成する組成物として、例えば引用文献1には、結合剤成分、結合剤成分が溶解する溶媒成分、及び結合剤成分内に均一に分散した炭素系ナノ粒子を含み、可撓性導電回路、LED、センサ、太陽電池などの用途に使用される導電性のインクが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特表2018-514492号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
引用文献1に記載の導電性を有する部材を構成するインクは、バリスタ特性については記載されていない。
【0006】
バリスタは、非直線性抵抗特性(バリスタ特性)を有する材料を用いた半導体セラミックスからなるものが一般的である。例えば、離間した一対の導電部材の間に非直線性抵抗特性を有する半導体セラミックスからなるバリスタを実装する場合、バリスタの実装を考慮した設計が必要となるため、基板、IC、又は電子機器の設計の自由度が低くなる。また、半導体セラミックスからなるバリスタは、可撓性導電回路などに追従できる可撓性を有するものが少ない。また、バリスタ特性を示す所定値の電圧も、高い電圧から低い電圧まで、さまざまな電圧に対して、非直線抵抗特性を示す材料が求められている。
【0007】
本発明の一態様は、半導体セラミックスからなるバリスタには用いられていなかった材料を用いて、電子機器の設計の自由度を高めることができ、可撓性導電回路などに追従することが可能であり、適切なバリスタ特性を発揮できるバリスタ形成用ペースト、その硬化物及びバリスタを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題を解決するための手段は、以下の通りであり、本発明は、以下の態様を包含する。
【0009】
本発明の第一の態様は、(A)エポキシ樹脂、(B)硬化剤、及び、(C)カーボンエアロゲル、を含む、バリスタ形成用ペーストである。
【0010】
本発明の第二の態様は、前記バリスタ形成用ペーストの硬化物である。
【0011】
本発明の第三の態様は、前記バリスタ形成用ペーストの硬化物を含むバリスタである。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、電子機器の設計の自由度を高めることができ、適切なバリスタ特性を発揮できるバリスタ形成用ペースト、その硬化物及びバリスタを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】バリスタ素子に用いた電極の一例を示す平面模式図である。
図2】バリスタ素子の一例を示す平面模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本開示に係るバリスタ形成用ペーストを実施形態に基づいて説明する。ただし、以下に示す実施形態は、本発明の技術思想を具体化するための例示であって、本発明は、以下のバリスタ形成用ペーストに限定されない。
【0015】
本発明の第一の実施形態に係るバリスタ形成用ペーストは、
(A)エポキシ樹脂、
(B)硬化剤、及び
(C)カーボンエアロゲル、を含む。
【0016】
離間した一対の導電部材間の電圧-電流特性は、式(1)I=K・Vα(Kは定数)によって近似される。式(1)においてαは、非直線性係数である。離間した一対の導電部材間の接触が通常の抵抗体(例えばオーミック接触)を介した接触である場合は、非直線性係数αは1である(α=1)。導電部材間の接触がバリスタを介する接触であれば、αは1を超えて大きくなる(α>1)。離間した一対の導電部材間と連結して配置された構造体のバリスタ特性は、一対の導電部材の電流-電圧特性を測定し、電流-電圧特性のデータから非直線性係数αを測定することによって測定することができる。具体的には、一対の導電部材間に導電部材と連結して配置した構造体の電流-電圧特性のデータをシミュレーターによって解析し、カーブフィッティングにより、式(1)I=K・Vαに適合する定数Kと非直線性係数αの値を求めることができる。構造体の電流-電圧特性から測定された非直線性係数αが1を超える(α>1)ものであれば、一対の導電部材間に連結して配置された構造体は、非直線抵抗特性(バリスタ特性)を有する。
【0017】
一対の導電部材間に連結して配置された構造体の非直線性係数αの数値が大きいほど、大きなサージ電圧に対するバリスタ特性が高く、構造体の非直線性係数αが6を超えていれば(α>6)、目的とする使用に耐えうる適切なバリスタ特性を有する。本発明の第一の実施形態に係るバリスタ形成用ペーストは、多孔質炭素からなるカーボンエアロゲルを含むことによって、バリスタ特性を発揮することができる。カーボンエアロゲルを含むペーストが、バリスタ特性を発揮するメカニズムは明らかではないが、カーボンエアロゲルの孔径1μm以下の微細な孔を有する構造が、サージ電圧に対する非直線抵抗特性に関係すると推測される。
【0018】
図1は、一対の導電部材の一例として、基板12上に、一対の電極14a及び14bを示す平面模式図である。図2は、図1に示す一対の電極14a及び14bの上にバリスタ形成用ペーストを用いてバリスタ16を配置したバリスタ素子10の平面模式図である。図2に示すように、平面視が櫛形の平板状の一対の電極14a及び14bの上にバリスタ形成用ペーストを塗布し、硬化させて硬化物を形成し、この硬化物をバリスタ16とし、バリスタ16を含むバリスタ素子10を形成することができる。バリスタ素子は、図2に示す一例に限定されることなく、例えば、三次元的に配置された一対の導電部材間を繋ぐようにバリスタ形成用ペーストを塗布し、硬化させた硬化物を用いてもよい。
【0019】
(A)エポキシ樹脂
(A)エポキシ樹脂は、1分子中にエポキシ基を少なくとも1個以上有するモノマー、オリゴマー、ポリマーを用いることができる。(A)エポキシ樹脂は、好ましくは、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、臭素化ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、アミノフェノール型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、ノボラック型エポキシ樹脂、脂環式エポキシ樹脂、ナフタレン型エポキシ樹脂、エーテル系エポキシ樹脂、ポリエーテル系エポキシ樹脂、及びシリコーンエポキシコポリマー樹脂からなる群から選択される少なくとも1つを含む。これらのエポキシ樹脂は、1つのエポキシ樹脂を単独で用いてもよく、種類の異なる2つ以上のエポキシ樹脂を併用してもよく、種類が同じで異なる重量平均分子量の2つ以上のエポキシ樹脂を併用してもよい。(A)エポキシ樹脂は、1分子中に少なくとも1つのエポキシ基を有し、より好ましくは、(A)エポキシ樹脂は、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、及びアミノフェノール型エポキシ樹脂からなる群から選択される少なくとも1つを含む。
【0020】
アミノフェノール型エポキシ樹脂としては、3級アミン構造を有するエポキシ樹脂であってもよい。具体的には、N,N-ジメチルアミノエチルグリシジルエーテル、N,N-ジメチルアミノトリメチルグリシジルエーテル、N,N-ジメチルアミノフェニルグリシジルエーテル、N,N-ジグリシジル-4-グリシジルオキシアニリン、1,3,5-トリグリシジルイソシアヌレートなどが挙げられる。
【0021】
ビフェニル型エポキシ樹脂としては、具体的には、4,4’-ジグリシジルビフェニル、4,4’-ジグリシジル-3,3’,5,5’-テトラメチルビフェニルなどが挙げられる。
【0022】
ノボラック型エポキシ樹脂としては、フェノールノボラック、o-クレゾールノボラック、p-クレゾールノボラック、t-ブチルフェノールノボラック、ジシクロペンタジエンクレゾールなどが挙げられる。
【0023】
脂環式エポキシ樹脂としては、3,4-エポキシシクロヘキシルメチル-3’,4’ -エポキシシクロヘキサンカルボキシレート、ビス(3,4-エポキシシクロヘキシルメチル)アジペートなどが挙げられる。
【0024】
ナフタレン型エポキシ樹脂としては、1-グリシジルナフタレン、2-グリシジルナフタレン、1,2-ジグリシジルナフタレン、1,5-ジグリシジルナフタレン、1,6-ジグリシジルナフタレン、1,7-ジグリシジルナフタレン、2,7-ジグリシジルナフタレン、トリグリシジルナフタレン、1,2,5,6-テトラグリシジルナフタレンなどが挙げられる。
【0025】
(A)エポキシ樹脂は、常温で液状であることが好ましい。本明細書において、常温で液状とは、10~35℃で流動性を有することをいう。常温で液状の(A)エポキシ樹脂は、エポキシ当量が0.001~10であることが好ましく、0.025~5であることがより好ましく、0.05~2であることがさらに好ましい。(A)エポキシ樹脂が常温で液状であれば、溶媒や希釈剤を添加することなくペーストを製造することができる。
【0026】
バリスタ形成用ペースト中の(A)エポキシ樹脂の含有量は、バリスタ形成用ペースト100質量%に対して、好ましくは18~90質量%であり、より好ましくは20~85質量%であり、さらに好ましくは25~80質量%であり、特に好ましくは50質量%以上である。バリスタ形成用ペースト中の(A)エポキシ樹脂の含有量が18~90質量%であれば、例えば基板上に配置された端子の周囲にバリスタ形成用ペーストを、容易に塗布することができ、塗布したペーストを硬化させることによって、容易にバリスタ特性を発揮できる構造体を形成することができる。
【0027】
(B)硬化剤
(B)硬化剤は、アミン系硬化剤、フェノール系硬化剤、酸無水物系硬化剤、及びイミダゾール系硬化剤からなる群から選択される少なくとも1つを含み、2つ以上を含んでいてもよい。より好ましくは(B)硬化剤は、イミダゾール系硬化剤として、イミダゾール化合物を含む。
【0028】
イミダゾール化合物の例として、イミダゾール、及び、イミダゾール誘導体が挙げられる。バリスタ形成用ペーストにイミダゾール系硬化剤が含まれる場合、高い非直線性係数αを有するバリスタを得ることができる。また、バリスタ形成用ペーストがイミダゾール化合物とアミン化合物の両方を含む場合、より高い非直線性係数αを有するバリスタを得ることができる。バリスタ形成用ペーストにイミダゾール化合物とアミン化合物の両方を含む場合には、アミン化合物は、アミンアダクト系の硬化剤であることが好ましい。イミダゾール化合物は、例えば、2P 4MZ PW、2E4MZ(TCII0001)(四国化成工業株式会社製)、1、1’-カルボニルジイミダゾール(東京化成工業株式会社製)などが挙げられる。
【0029】
アミン系硬化剤の例として、脂肪族アミン、脂環式アミン、芳香族アミン、3,3’-ジエチル-4,4’-ジアミノジフェニルメタン、ジメチルチオトルエンジアミン、及びジエチルトルエンジアミンが挙げられる。3,3’-ジエチル-4,4’-ジアミノジフェニルメタンは、芳香族アミン系硬化剤であり、例えば「KAYAHARD A-A(HDAA)」(日本化薬株式会社製)が挙げられる。ジメチルチオトルエンジアミンは、「EH105L」(株式会社ADEKA製)が挙げられる。また、ジエチルトルエンジアミンは、例えば「エタキュア100」(アルベマール社製)が挙げられる。アミンアダクト系の硬化剤として、例えば「アミキュアPN-40」(味の素ファインテクノ株式会社製)、「ノバキュアHXA9322HP」(旭化成イーマテリアルズ株式会社製)が挙げられる。
【0030】
フェノール系硬化剤の例として、フェノールノボラック型硬化剤、例えば「アクメックス MEH8005H」(明和化成株式会社製)が挙げられる。
【0031】
酸無水物系硬化剤の例として、ヘキサヒドロ-4-メチルフタル酸無水物が挙げられる。
【0032】
バリスタ形成用ペースト中の(B)硬化剤の含有量は、バリスタ形成用ペースト100質量%に対して、好ましくは8~80質量%であり、より好ましくは9~75質量%であり、さらに好ましくは10~70質量%である。バリスタ形成用ペースト中の(B)硬化剤の含有量が、バリスタ形成用ペースト100質量%に対して、1~20質量%であれば、より高い非直線性係数αを有する硬化物が得られる。
【0033】
(C)カーボンエアロゲル
(C)カーボンエアロゲルは、平均孔径が1μm未満の空孔を有する多孔質炭素であり、多孔質炭素のラマン分光法により測定したラマンスペクトルにおいて、1530nm-1以上1630nm-1以下の範囲内のGバンドのピークの積算強度Iと、1280cm-1以上1380cm-1以下の範囲内のDバンドのピークの積算強度Iの積算強度比I/Iが2.0以上である。カーボンエアロゲルは、直径が50~60nmの大きさの多孔質炭素の粒子が凝集してクラスター(凝集物)を形成している。カーボンエアロゲルの平均粒径は、多孔質炭素の粒子が凝集したクラスター(凝集物)の平均粒径を測定することができる。カーボンエアロゲルの空孔は、多孔質炭素のクラスター(凝集物)と他の多孔質炭素のクラスター(凝集物)との間隙を空孔として測定することができる。(C)カーボンエアロゲルの空孔の平均孔径は、200~300nmであることが好ましい。(C)カーボンエアロゲルの平均粒径及び空孔の平均孔径は、(C)カーボンエアロゲルを透過型電子顕微鏡(Transmission Electrom Microscope:TEM)で観察したTEM写真を得て、TEM写真中のクラスターの直径を測定し、その算術平均値をカーボンエアロゲル(多孔質炭素)の平均粒径として測定することができる。また、TEM写真から観察できるクラスターとクラスターの間隙を空孔の直径として測定し、その算術平均を空孔の平均値として測定することができる。
【0034】
(C)カーボンエアロゲルである多孔質炭素を、ラマン分光法によるラマン散乱(ラマンシフト)の波数に対する強度を測定することによって、ラマンスペクトルが得られる。炭素からなる物質のラマンスペクトルは、1590cm-1付近及び1350cm-1付近にピークを有する。炭素からなる物質のラマンスペクトルにおいて、1590cm-1付近のピークは、グラファイトの結合状態のようなSp混成軌道に由来するGバンドのピークであり、1350cm-1付近のピークは、ダイヤモンドの結合状態のようなSP混成軌道に由来するDバンドのピークである。Dバンドは、ダイヤモンド状非晶質カーボンによるピークであるので、Dバンドの強度が高い場合は、グラファイトの結合状態の乱れが生じているものと考えられる。(C)カーボンエアロゲルである多孔質炭素は、1530nm-1以上1630nm-1以下の範囲内のGバンドのピークの積算強度Iと、1280cm-1以上1380cm-1以下の範囲内のDバンドのピークの積算強度Iの積算強度比I/Iが2.0以上であることが好ましく、2.1以上3.0以下であることがより好ましく、2.2以上2.5以下であることがより好ましい。(C)カーボンエアロゲルである多孔質炭素のラマンスペクトルにおける積算強度比I/Iが2.0以上であれば、炭素のグラファイト結合状態が適度に乱れて、バリスタ特性を発揮するのに適した大きさと量の空孔が形成されていると推測できる。
【0035】
Gバンドのピークの積算強度Iとは、ラマン散乱の波数に対するラマン散乱の強度をプロットしたラマンスペクトルにおいて、Gバンドのピークからのノイズであるバックグラウンドを差し引いた後のピークの面積である。Dバンドのピークの積算強度Iも、Gバンドのピークの積算強度と同様に、ラマン散乱の波数に対するラマン散乱の強度をプロットしたラマンスペクトルにおいて、Dバンドのピークからのノイズであるバックグラウンドを差し引いた後のピークの面積である。GバンドのピークとDバンドのピークとは近接しているので、ローレンツ関数などの適切な関数を用いてピークフィッテングをすることによりGバンドのピークとDバンドのピークとを分離して、Gバンドのピークの積算強度I及びDバンドのピークの積算強度Iと、後述するGバンドのピークの最大強度M及びDバンドのピークの最大強度M、を測定することができる。このようなピーク分離の手法は公知である。
【0036】
(C)カーボンエアロゲルである多孔質炭素は、ラマン分光法により測定したラマンスペクトルにおいて、Gバンドのピークの最大強度Mと、Dバンドのピークの最大強度Mの最大強度比M/Mが0.80以上であることが好ましい。(C)カーボンエアロゲルである多孔質炭素のラマンスペクトルにおける最大強度比M/Mが0.8以上であれば、炭素のグラファイト結合状態が適度に乱れて、バリスタ特性を発揮するのに適した大きさと量の空孔が形成されていると推測できる。(C)カーボンエアロゲルである多孔質炭素のラマンスペクトルにおける最大強度比M/Mは、より好ましくは0.80以上3.0以下であり、さらに好ましくは0.90以上1.5以下である。
【0037】
Gバンドのピークの最大強度Mは、Gバンドのピークを構成する波数範囲の測定値からノイズであるバックグラウンドを差し引いた後のGバンドにおけるピーク強度の最大値である。Dバンドのピークの最大強度Mも同様に、Dバンドのピークを構成する波数範囲の測定値からノイズであるバックグラウンドを差し引いた後のDバンドにおけるピーク強度の最大値である。
【0038】
バリスタ形成用ペースト中の(C)カーボンエアロゲルの含有量は、バリスタ形成用ペースト100質量%に対して、好ましくは0.05~10質量%であり、より好ましくは0.1~8質量%であり、さらに好ましくは0.5~5質量%である。バリスタ形成用ペースト中の(C)カーボンエアロゲルの含有量が、バリスタ形成用ペースト100質量%に対して、0.05~10質量%であれば、より高い非直線性係数αを有する硬化物が得られる。
【0039】
(C)カーボンエアロゲルの製造方法
(C)カーボンエアロゲルである多孔質炭素の製造方法の第一の例としては、例えばフルフラール及びフロログルシノールを含む原料の混合物を熱分解することによって多孔質炭素を製造することができる。また、(C)カーボンエアロゲルである多孔質炭素の製造方法の第二の例としては、例えばポリイミドを含む原料の熱分解によって製造することができる。具体的には、米国出願第62/829,391号号に記載の製造方法に従って、(C)カーボンエアロゲルである多孔質炭素を製造することができる。
【0040】
第一の例
以下に、(C)カーボンエアロゲルである多孔質炭素の製造方法の第一の例について説明する。
【0041】
(C)カーボンエアロゲルである多孔質炭素の製造方法の第一の例は、原料としてフロログルシノール及びフルフラールを準備する工程(a)と、フロログルシノール及びフルフラールをエタノールに溶解させて、エタノール溶液を得る前処理工程(b)と、前記エタノール溶液をゲル化し、ゲル化した固体を得るゲル化工程(c)と、前記ゲル化した固体を洗浄する洗浄工程(d)と、洗浄した固体を超臨界乾燥する超臨界乾燥工程(e)と、超臨界乾燥後の固体を熱処理して、多孔質炭素を得る熱処理工程(f)と、を含む。製造方法には、(g)得られた多孔質炭素を粒子化するための粉砕工程を含んでいてもよい。
【0042】
(a)原料準備工程において、フロログルシノール100質量部に対して、フルフラールを好ましくは100~500質量部、より好ましくは120~340質量部、さらに好ましくは160~310質量部を準備する。
【0043】
(b)前処理工程において、フロログルシノール及びフルフラールのエタノール溶液中の濃度は、好ましくは1~45質量%、より好ましくは1.5~30質量%、さらに好ましくは2~25質量%である
【0044】
(c)ゲル化工程において、フロログルシノール及びフルフラールを溶解させたエタノール溶液を、室温で少なくとも168時間程度静置し、ゲル化した固体を得る。
【0045】
(d)洗浄工程において、ゲル化した固体をエタノールで洗浄する。洗浄は、繰り返し行うこともできる。洗浄は、排出する上澄み液の着色がなくなるまで行うことが好ましい。
【0046】
(e)超臨界乾燥工程において、洗浄後のゲル化した固体を密封容器に入れ、所定の圧力下で、超臨界液体COを密封容器に導入し、その状態を所定時間保った後、超臨界液体COを排出する。必要に応じて、超臨界液体COの導入と、保持と、超臨界液体COの排出を繰り返してもよい。
【0047】
(f)熱処理工程において、超臨界乾燥後の固体を、炉に入れ、窒素雰囲気中で、0.8~1.2℃/分の加熱速度で800℃~1500℃に昇温し、昇温した温度で5~60分間保持し、熱処理を行う。熱処理によって、固体の一部が分解し、多数の空孔が形成されて、(C)カーボンエアロゲルである多孔質炭素を得ることができる。
【0048】
熱処理工程で得られた多孔質炭素は、(g)粉砕工程によって、所望の大きさとなるように、粉砕してもよい。粉砕は、例えば、メノウ乳鉢などを用いることができる。粉砕により、(C)カーボンエアロゲルである多孔質炭素は、例えば平均粒径が0.01~50μmの多孔質炭素の粒子を得ることができる。平均粒径は、レーザー回折散乱式粒度分布測定装置(例えば品番:LA-960、株式会社堀場製作所社製)によって測定した体積基準の粒度分布において小径側から積算した累積50%粒径(メジアン径、D50)をいう。多孔質炭素粒子の平均粒径は、好ましくは0.02~10μmである。
【0049】
第二の例
以下に、(C)カーボンエアロゲルである多孔質炭素の製造方法の第二の例について説明する。
【0050】
(C)カーボンエアロゲルである多孔質炭素の製造方法の第二の例は、原料として無水ピロメリット酸及びパラフェニルジアミンを準備する工程(a)と、無水ピロメリット酸及びパラフェニルジアミンを合成してポリアミド酸溶液を得て、得られたポリアミド酸溶液を、触媒を用いて合成し、ポリイミド溶液を得る前処理工程(b)と、得られたポリイミド溶液をゲル化し、ゲル化した固体を得るゲル化工程(c)と、前記ゲル化した固体を洗浄する洗浄工程(d)と、洗浄した固体を超臨界乾燥する超臨界乾燥工程(e)と、超臨界乾燥後の固体を熱処理して、多孔質炭素を得る熱処理工程(f)と、を含む。製造方法には、(g)得られた多孔質炭素を粒子化するための粉砕工程を含んでいてもよい。以下、前述した第一の例と異なる工程について説明する。
【0051】
(a)原料準備工程において、原料として無水ピロメリット酸及びパラフェニルジアミンを準備する。
【0052】
(b)前処理工程において、無水ピロメリット酸及びパラフェニルジアミンを合成してポリアミド酸溶液を得る。溶媒として、ジメチルアセトアミド及びトルエンを用いることができる。合成後のポリアミド酸溶液の100質量%に対する、無水ピロメリット酸及びパラフェニルジアミンの合計量は、好ましくは1~45質量%である。無水ピロメリット酸、パラフェニルジアミン、並びに溶媒としてジメチルアセトアミド及びトルエンを含む溶液を加熱し、ポリアミド溶液を合成することができる。得られたポリアミド溶液に、触媒としてピリジン及び酸無水物を添加し、ポリイミド溶液を合成することができる。
【0053】
得られたポリイミド溶液を、第一の例と同様に、(c)ゲル化工程、(d)洗浄工程、(e)超臨界乾燥工程、(f)熱処理工程、及び必要に応じて(g)粉砕工程を経て、(C)カーボンエアロゲルである多孔質炭素を得ることができる。
【0054】
(D)分散剤
バリスタ形成用ペーストは、さらに(D)分散剤を含むことが好ましい。バリスタ形成用ペースト中にさらに(D)分散剤を含むことにより、バリスタ形成用ペースト中に(C)カーボンエアロゲルを均一に分散させることができ、バリスタ形成用ペーストを硬化させて、より高い非直線性係数αを有する硬化物を得ることができる。
【0055】
(D)分散剤は、アニオン界面剤、カチオン界面活性剤、両性界面活性剤、非イオン性界面活性剤、炭化水素系界面活性剤、フッ素系界面活性剤、シリコン系界面活性剤、ポリカルボン酸、ポリエーテル系カルボン酸、ポリカルボン酸塩、アルキルスルホン酸塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキルエーテルスルホン酸塩、芳香族高分子、有機導電性高分子、ポリアルキルオキサイド系界面活性剤、無機塩、有機酸塩、及び脂肪族アルコールからなる群から選択される少なくとも1つを含むことが好ましい。
【0056】
(D)分散剤は、(C)カーボンエアロゲル1質量部に対して、好ましくは0.01~0.30質量部であり、より好ましくは0.02~0.25質量部であり、さらに好ましくは0.03~0.20質量部である。バリスタ形成用ペースト中の(D)分散剤の含有量が、(C)カーボンエアロゲル1質量部に対して、0.01~0.30質量部であれば、硬化させることにより、高い非直線性係数αを有する硬化物が得られる。
【0057】
(E)シランカップリング剤
バリスタ形成用ペーストは、さらに(E)シランカップリング剤を含んでいてもよい。バリスタ形成用ペースト中にさらに(E)シランカップリング剤を含むことにより、(C)カーボンエアロゲルと(A)エポキシ樹脂との密着性を高めて、より高い非直線性係数αを有する硬化物を得ることができる。
【0058】
(E)シランカップリング剤は、エポキシ系シランカップリング剤を用いることが好ましい。エポキシ系シランカップリング剤としては、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(商品名:KBM403、信越化学株式会社製)、3-グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン(商品名:KBM402、信越化学株式会社製)、3-グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン(商品名:KBE402、信越化学株式会社製)、3-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン(商品名:KBE403、信越化学株式会社製)などが挙げられる。
【0059】
バリスタ形成用ペースト中の(E)シランカップリグン剤の含有量は、バリスタ形成用ペースト100質量%に対して、好ましくは0.3~1.2質量%であり、より好ましくは0.4~1.1質量%であり、さらに好ましくは0.5~1.0質量%である。バリスタ形成用ペースト中の(E)シランカップリング剤の含有量が0.3~1.2質量%であれば、バリスタ形成ペースト中の(C)カーボンエアロゲルと(A)エポキシ樹脂の密着性を高めて、より高い非直線性係数αを有する硬化物を得ることができる。
【0060】
バリスタ形成用ペーストは、実質的に溶媒を含んでいなくてもよい。バリスタ形成用ペーストは、溶媒を実質的に含まないことが好ましい。本明細書において、「溶媒を実質的に含まない」とは、バリスタ形成用ペースト中に、溶媒を意図的に添加しないことを意味する。バリスタ形成用ペースト中に含まれる成分には、すでに溶媒が含まれている場合もある。バリスタ形成用ペースト中に実質的に溶媒を含んでいない場合であっても、不可避的に含まれる溶媒はバリスタ形成用ペースト中に含まれている場合がある。バリスタ形成用ペースト中に溶媒が実質的に含まれていない場合には、バリスタ形成用ペーストを硬化させた際に、溶媒の揮発に伴う空隙が形成されにくく、より高い非直線性係数αを有する硬化物を得ることができる。
【0061】
バリスタ形成用ペーストが溶媒を実質的に含まないとは、具体的には、バリスタ形成用ペースト中に含まれる溶媒が、バリスタ形成用ペーストの全体量に対して、5質量%未満であることをいい、3質量%以下でもよく、2質量%以下でもよく、1質量%以下でもよい。
【0062】
バリスタ形成用ペーストは、溶媒を含んでいてもよい。
溶媒としては、例えば、トルエン、キシレンのような芳香族炭化水素、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノンのようなケトン類、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、及びそれらに対応する酢酸エステルのようなエステル類、並びにテルピネオールなどが挙げられる。バリスタ形成用ペーストに溶媒を含む場合には、バリスタ形成用ペースト100質量%に対して、溶媒の含有量が、好ましくは1~15質量%、より好ましくは2~10質量%である。
【0063】
バリスタ形成用ペーストの製造方法
バリスタ形成用ペーストは、(A)エポキシ樹脂、(B)硬化剤、(C)カーボンエアロゲル、必要に応じて(D)分散剤、及び、必要に応じて(E)シランカップリング剤を、各成分が前述の含有量の範囲を満たすように、配合する。バリスタ形成用ペーストの製造は、例えば(A)エポキシ樹脂、(B)硬化剤、(C)カーボンエアロゲル、必要に応じて(D)分散剤、及び、必要に応じて(E)シランカップリング剤を含む原料を、配合し、撹拌混合することにより製造することができる。具体的には、原料を、公知の装置を用いて撹拌混合することによりバリスタ形成用ペーストを製造することができる。公知の装置としては、例えば、ヘンシェルミキサー、ロールミル、三本ロールミルなどを用いることができる。各原料は、同時に装置に投入して混合してもよく、原料の一部を先に装置に投入して混合し、残りを後から装置に投入して混合してもよい。
【0064】
回転数10rpmのブルックフィールド型(B型)粘度計で測定した25℃におけるバリスタ形成用ペーストの粘度は、好ましくは5~100Pa・sであり、より好ましくは10~80Pa・sであり、さらに好ましくは12~70Pa・sである。バリスタ形成用ペーストの前記条件で測定した粘度が、5~100Pa・sの範囲内であれば、微細な基板上に形成された一対の導電部材の狭小な間でも、十分バリスタ特性を有する硬化物を形成することができ、設計の自由度が高くなる。
【0065】
バリスタ
バリスタ形成用ペーストは、スクリーン印刷などによって一対の導電部材間を連結させ、加熱により硬化物を得て、この硬化物を含むバリスタを形成することができる。バリスタ形成用ペーストを硬化させて得られた硬化物は、非直線性係数αが6を超える(α>6)ものであることが好ましい。バリスタ形成用ペーストを硬化させた硬化物を含むバリスタは、10V/0.1mA以下のサージ電圧に対するバリスタとして用いることが好ましい。
【0066】
バリスタ形成用ペーストは、部品端子などの周囲に塗布してバリスタ特性を有する硬化物を形成し、バリスタを形成することができる。また、バリスタ形成用ペーストは、フィルム状に硬化物を形成することができ、基板、IC、又は電子機器に実装する場合の設計の自由度が高くなる。例えば、回路基板に用いる場合には、インタフェースの端子となる入出力端子の周囲や、部品端子の周囲にバリスタ形成用ペーストを塗布して硬化させ、バリスタ形成用ペーストの硬化物を含むバリスタを形成することができる。また、例えばバリスタ形成用ペーストを用いてバリスタ特性を有するインターポーザなどのパッケージを形成することも可能である。
【実施例
【0067】
以下、本発明を実施例により具体的に説明する。本発明は、これらの実施例に限定されるものではない。
【0068】
実施例及び比較例のバリスタ形成用ペーストを作製するにあたり、以下の原料を用いた。
【0069】
(A)エポキシ樹脂
A1:ビスフェノールF型エポキシ樹脂(YDF-8170)(新日鉄住金化学株式会社製)
A2:N,N-ジグリシジル-4-グリシジルオキシアニリン
A3:ビスフェノールAジグリシジルエーテル
【0070】
(B)硬化剤
B1:アミン系硬化剤:KAYAHARD A-A(HDAA)(日本化薬株式会社製)
B2:アミン系硬化剤:ジメチルチオトルエンジアミン(EH105L)(株式会社ADEKA製)
B3:アミン系硬化剤:ジエチルトルエンジアミン(エタキュア100)(アルベマール社製)
B4:フェノール系硬化剤:アクメックス MEH8005H(明和化成株式会社製)
B5:酸無水物系硬化剤:ヘキサヒドロ-4-メチルフタル酸無水物(シグマアルドリッチ社製)
B6:イミダゾール系硬化剤:2P 4MHZ PW(四国化成工業株式会社製)
B7:イミダゾール系硬化剤:2E4MZ(TCI I0001)(四国化成工業株式会社製)
B8:イミダゾール系硬化剤:1,1’-カルボニルジイミダゾール(東京化成工業株式会社社製)
B9:アミン-エポキシアダクト系硬化剤:ノバキュアHXA9322HP(旭化成イーマテリアルズ株式会社製)
B10:アミン-エポキシアダクト系硬化剤:アミキュアPN-40(味の素ファインテクノ株式会社製)
【0071】
(C)カーボンエアロゲル
C1:多孔質炭素(クラスターを形成)、平均粒径(クラスター):50~60nm、空孔(クラスター間隙)の平均孔径:200~300nm、積算強度比I/I:2.1~3.0、最大強度比M/M:0.80~3.0。
C2:多孔質炭素(クラスターを形成)、平均粒径(クラスター):50~60μm、空孔(クラスター間隙)の平均孔径:200~300nm、積算強度比I/I:2.2~2.5、最大強度比M/M:0.90~1.5。
【0072】
(D)分散剤
D1:ポリエーテル系カルボン酸HIPLAAD ED451(楠本化成株式会社製)
【0073】
(E)シランカップリング剤
E1:3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン KBM403(信越化学工業株式会社製)
【0074】
カーボンエアロゲルの製造
C1多孔質炭素及びC2多孔質炭素は、以下のように製造した。
【0075】
C1カーボンエアロゲルの製造
(a)原料準備工程
原料としてフロログリシノール33.33質量部、フルフラール66.67質量部を準備した。
(b)前処理工程
エタノール中のフロログリシノール及びフルフラールの合計量が10質量%の濃度となるように、純度90%のエタノールにフロログリシノールと、フルフラールをこの順序で溶解させ、フロログリシノールとフルフラールを含むエアノール溶液を得た。
(c)ゲル化工程
フロログルシノール及びフルフラールを溶解させたエタノール溶液を、室温で少なくとも168時間静置し、ゲル化した固体を得た。
(d)洗浄工程
ゲル化した固体にエタノールを添加し、撹拌し、上澄みを排出して洗浄した。上澄みの液の着色がなくなるまで洗浄を繰り返した。
(e)超臨界乾燥工程
洗浄後のゲル化した固体を密封容器に入れ、8.27~8.96MPaの圧力下で、超臨界液体COを密封容器に導入し、その状態を0.5時間保った後、超臨界液体COを排出し、ゲル化した固体を超臨界乾燥した。
(f)熱処理工程
超臨界乾燥後の固体を炉に入れ、窒素雰囲気中で、1℃/分の加熱速度で1000℃に昇温し、昇温した温度で30分間保持し、熱処理を行った。
(g)粉砕工程
熱処理後の固体を、メノウ乳鉢を用いて、粉砕し、レーザー回折散乱式粒度分布測定装置(例えば品番:LA-960、株式会社堀場製作所社製)によって測定した体積基準の粒度分布において小径側から積算した累積50%粒径(メジアン径、D50)である平均粒径が0.025μmである多孔質炭素であるC1多孔質炭素であるカーボンエアロゲルを得た。
【0076】
C2カーボンエアロゲルの製造
(a)原料準備工程
原料として無水ピロメリット酸60.00質量部、パラフェニルジアミン25.71質量部を準備した。
(b)前処理工程
無水ピロメリット酸及びパラフェニルジアミンに、溶媒としてジメチルアセトアミド及びトルエンを用いて、合成後のポリアミド酸溶液の100質量%に対する、無水ピロメリット酸及びパラフェニルジアミンの合計量の濃度が12質量%となるようにして、ポリアミド酸溶液を合成した。得られたポリアミド溶液に、触媒としてピリジン4.26質量部及び無水酢酸10.03質量部を添加し、ポリイミド溶液を合成した。
(c)ゲル化工程
ポリイミド溶液を、室温で少なくとも1時間静置し、ゲル化した固体を得た。
(d)洗浄工程
ゲル化した固体にエタノールを添加し、撹拌し、上澄みを排出して洗浄した。上澄みの液の着色がなくなるまで洗浄を繰り返した。
(e)超臨界乾燥工程
洗浄後のゲル化した固体を密封容器に入れ、8.27~8.96MPaの圧力下で、超臨界液体COを密封容器に導入し、その状態を0.5時間保った後、超臨界液体COを排出し、ゲル化した固体を超臨界乾燥した。
(f)熱処理工程
超臨界乾燥後の固体を、炉に入れ、窒素雰囲気中で、1℃/分の加熱速度で1000℃に昇温し、昇温した温度で30分間保持し、熱処理を行った。
(g)粉砕工程
熱処理後の固体を、メノウ乳鉢を用いて、粉砕し、レーザー回折散乱式粒度分布測定装置(例えば品番:LA-960、株式会社堀場製作所社製)によって測定した体積基準の粒度分布において小径側から積算した累積50%粒径(メジアン径、D50)である平均粒径が0.025μmである多孔質炭素であるC2多孔質炭素であるカーボンエアロゲルを得た。
【0077】
ラマン分光法による積算強度比I/I、最大強度比M/M
C1多孔質炭素及びC2多孔質炭素について、ラマン分光計(品番:core7100、Anton Paar社製)を用いて、各多孔質炭素のラマンスペクトルを得た。各多孔質炭素には、波長532nm、強度50mWのレーザー光を照射し、60秒間測定した。得られたラマンスペクトルから、「Cora 7100」(Anton Paar社製)を用いて、1530cm-1以上1630cm-1以下の範囲内のGバンドのピークの積算強度Iと、1280cm-1以上1380cm-1以下の範囲内のDバンドのピークの積算強度Iを測定し、積算強度比I/Iを求めた。Gバンドのピークの積算強度Iは、Gバンドのピークからのノイズであるバックグラウンドを差し引いた後のピークの面積であり、Dバンドのピークの積算強度Iは、Dバンドのピークからのノイズであるバックグラウンドを差し引いた後のピークの面積である。また、各多孔質炭素のラマンスペクトルから、「Cora 7100」(Anton Paar社製)を用いて、Gバンドのピークの最大強度Mと、Dバンドのピークの最大強度Mの最大強度比M/Mを求めた。Gバンドのピークの最大強度Mは、Gバンドのピークからノイズであるバックグラウンドを差し引いた後のGバンドにおけるピーク強度の最大値である。Dバンドのピークの最大強度Mからノイズであるバックグラウンドを差し引いた後のDバンドにおけるピーク強度の最大値である。
【0078】
平均粒径及び空孔の平均孔径
C1多孔質炭素及びC2多孔質炭素を透過型電子顕微鏡(TEM)で観察したTEM写真を得た。C1多孔質炭素及びC2多孔質炭素は、50~60nmの大きさの粒子が凝集してクラスター(凝集物)を形成しており、TEM写真から確認できるクラスターの直径の算術平均値を平均粒径とした。また、C1多孔質炭素及びC2多孔質炭素の各TEM写真において、クラスターとクラスターの間隙が空孔となっており、TEM写真から確認できるクラスターとクラスターの間隙の最大長さを測定し、その算術平均値を空孔の平均孔径とした。。TEM写真の倍率は10万倍とした。C1多孔質炭素の断面TEM写真から観察できる空孔の平均孔径は0.25μmであった。C2多孔質炭素の断面TEM写真から観察できる空孔の平均孔径は0.25μmであった。
【0079】
実施例1から21及び比較例1
下記表1から3に示す配合割合となるように各原料を、3本ロールミルを使用して混合・分散してバリスタ形成用ペーストを製造した。実施例1から21のバリスタ形成用ペースト及び比較例1のペーストは、溶媒を実質的に含んでいない。
【0080】
得られた実施例及び比較例の各バリスタ形成用ペーストを用いて、次のようにバリスタ素子を形成し、得られたバリスタ素子について、各評価を行った。
【0081】
バリスタ素子の試作
図1に示すような櫛形の電極14a及び14bを有する基板12を用いた。基板として、FR-4を材料とする多層プリント配線板(銅箔付き)を用いた。多層プリント配線板の銅箔をパターニングすることにより、電極14a及び14bを形成した。
【0082】
次に、図2に示すように、基板12の表面に形成された櫛形の電極14a及び14bを覆うように、上述のように製造した実施例及び比較例のバリスタ形成用ペーストをスクリーン印刷し、硬化させた。硬化は、165℃で2時間保持することにより行った。硬化後の硬化物の厚さはすべて90μmであった。以上のようにして、実施例及び比較例の各バリスタ素子を形成した。
【0083】
バリスタ素子の電流-電圧特性の測定及び非直線性係数α
実施例及び比較例の各バリスタ素子の電流-電圧特性を、システムSourceMeter(登録商標)計器(品番:2611B、Keithley社)を用いて測定した。具体的には、バリスタ素子の一対の電極(電極14a及び電極14b)に対して所定の電圧を印加し、そのときに流れる電流値を、前記計器を用いて測定することによって、バリスタ素子の電流-電圧特性を測定した。バリスタ素子の電流-電圧特性は、Kを定数、αを非直線性係数として、I=K・Vαで近似することができる。バリスタ素子の電流-電圧特性から、シミュレーターを用いたフィッティングにより、非直線性係数αを求めた。表1から3に、実施例及び比較例の各バリスタ素子の非直線性係数αを記載した。
【0084】
粘度測定
実施例及び比較例の各バリスタ形成用ペーストの粘度は、ブルックフィールド型(B型)粘度計(品番:DV-3T、ブルックフィールド社製)を用いて、10rpmで25℃における粘度(mPa・s)を測定した。結果を表1から3に示す。
【0085】
【表1】
【0086】
【表2】
【0087】
【表3】
【0088】
表1から3に示すように、実施例1から21のバリスタ形成用ペーストを用いて形成したバリスタ素子は、いずれも非直線性係数αが6.0を超えており(α>6)、10V/0.1mA以下のサージ電圧に対するバリスタとして使用に耐えうる適切なバリスタ特性を有していた。
【0089】
表1から3に示すように、実施例1から21のバリスタ形成用ペーストは、回転数10rpmのブルックフィールド型(B型)粘度計で測定した25℃における粘度が12~70Pa・sであり、微細な基板上に形成された一対の導電部材の狭小な間でも、十分バリスタ特性を有する硬化物を形成することができた。
【0090】
比較例1のペーストを用いて形成した素子は、非直線性係数αが1.0であり、バリスタ特性を有していなかった。
【産業上の利用可能性】
【0091】
本発明の実施形態に係るバリスタ形成用ペーストは、インタフェースの端子となる入出力端子の周囲や、部品端子の周囲にバリスタを形成することができ、バリスタ特性を有するインターポーザなどのパッケージの形成に好適に使用することができる。
【符号の説明】
【0092】
10:バリスタ素子、12:基板、14a、14b:電極、16:バリスタ
図1
図2