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特許7446667切削ブレード、切削ブレードの装着方法、及び被加工物の加工方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-01
(45)【発行日】2024-03-11
(54)【発明の名称】切削ブレード、切削ブレードの装着方法、及び被加工物の加工方法
(51)【国際特許分類】
   B24D 5/12 20060101AFI20240304BHJP
   B24B 45/00 20060101ALI20240304BHJP
   B24B 27/06 20060101ALI20240304BHJP
   H01L 21/301 20060101ALI20240304BHJP
【FI】
B24D5/12 Z
B24B45/00 Z
B24B27/06 M
H01L21/78 F
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2019137606
(22)【出願日】2019-07-26
(65)【公開番号】P2021020267
(43)【公開日】2021-02-18
【審査請求日】2022-05-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000134051
【氏名又は名称】株式会社ディスコ
(74)【代理人】
【識別番号】100075384
【弁理士】
【氏名又は名称】松本 昂
(74)【代理人】
【識別番号】100172281
【弁理士】
【氏名又は名称】岡本 知広
(74)【代理人】
【識別番号】100206553
【弁理士】
【氏名又は名称】笠原 崇廣
(74)【代理人】
【識別番号】100189773
【弁理士】
【氏名又は名称】岡本 英哲
(74)【代理人】
【識別番号】100184055
【弁理士】
【氏名又は名称】岡野 貴之
(72)【発明者】
【氏名】富永 泰
(72)【発明者】
【氏名】大島 直敬
【審査官】山内 康明
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-130812(JP,A)
【文献】特開2003-145431(JP,A)
【文献】特開2018-060864(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2014/0238375(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B24D 5/12
B24B 45/00
B24B 27/06
H01L 21/301
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
スピンドルに固定された第1フランジと該第1フランジに対応する第2フランジとによって挟み込まれるように該スピンドルに装着され、被加工物を加工する際に用いられる切削ブレードであって、
該スピンドルに装着される際に該第1フランジに接触する第1面及び該第1面とは反対側に存在し該スピンドルに装着される際に該第2フランジに接触する第2面を有する環状の切刃部と、
該切刃部に設けられたマーク部と、を含み、
該切刃部の径方向の外側の部分は、該スピンドルに装着され回転していない状態で該第2面から該第1面へと向かう向きに湾曲し、該スピンドルに装着され回転した状態で湾曲の量が所定の閾値よりも小さくなるように構成されており、
該マーク部は、該第1面と該第2面とを識別できる態様で設けられていることを特徴とする切削ブレード。
【請求項2】
請求項1に記載の切削ブレードを該スピンドルに装着する際に用いられる切削ブレードの装着方法であって、
該切削ブレードの該第1面を該第1フランジに接触させるように該切削ブレードを該第1フランジに取り付けるブレード取り付けステップと、
該第1フランジに取り付けられた該切削ブレードの該第2面に該第2フランジを接触させるように該第2フランジを該第1フランジに取り付けるフランジ取り付けステップと、
該第1フランジと該第2フランジとで該切削ブレードを挟み込んで固定するように該第1フランジに対して該第2フランジを固定する固定ステップと、を含むことを特徴とする切削ブレードの装着方法。
【請求項3】
請求項1に記載の切削ブレードを用いて該被加工物を加工する際に用いられる被加工物の加工方法であって、
該切削ブレードの該第1面を該第1フランジに接触させるように該切削ブレードを該第1フランジに取り付けるブレード取り付けステップと、
該第1フランジに取り付けられた該切削ブレードの該第2面に該第2フランジを接触させるように該第2フランジを該第1フランジに取り付けるフランジ取り付けステップと、
該第1フランジと該第2フランジとで該切削ブレードを挟み込んで固定するように該第1フランジに対して該第2フランジを固定する固定ステップと、
該第1フランジと該第2フランジとで固定された該切削ブレードを回転させて該被加工物に切り込ませることで該被加工物を加工する加工ステップと、を含むことを特徴とする被加工物の加工方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被加工物の加工に用いられる切削ブレード、切削ブレードをスピンドルに装着する際に用いられる切削ブレードの装着方法、及び切削ブレードを用いる被加工物の加工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
携帯電話機やパーソナルコンピュータに代表される電子機器では、電子回路等のデバイスを備えるデバイスチップが必須の構成要素になっている。デバイスチップは、例えば、シリコン等の半導体材料でなるウェーハの表面側を分割予定ライン(ストリート)で複数の領域に区画し、各領域にデバイスを形成した後、この分割予定ラインに沿ってウェーハを分割することで得られる。
【0003】
ウェーハに代表される板状の被加工物をデバイスチップ等の小片へと分割する際には、例えば、回転軸であるスピンドルに対して、切削ブレードと呼ばれる環状の砥石工具を装着した切削装置が用いられる。切削ブレードを高速に回転させて、分割予定ラインに沿って被加工物に切り込ませれば、この被加工物を切断して複数の小片へと分割できる。
【0004】
切削ブレードの構造は、基台に環状の切刃が固定されたハブ型と、環状の切刃のみで構成されるワッシャー型(ハブレス型)と、に大別される(例えば、特許文献1参照)。このワッシャー型の切削ブレードをスピンドルに対して装着する際には、例えば、円筒状のボス部を備えたマウントフランジと、ボス部に対応する開口を備えた押さえフランジと、を使用する。装着の手順は、例えば、次の通りである。
【0005】
まず、マウントフランジをスピンドルの先端部に固定する。次に、切削ブレードの開口と押さえフランジの開口とにボス部が挿入されるように、切削ブレードと押さえフランジとをこの順序でマウントフランジに取り付ける。そして、固定用のナットをボス部に締結し、押さえフランジとマウントフランジとで切削ブレードを挟み込むように固定する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2013-99799号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、押さえフランジの剛性はマウントフランジの剛性に比べて低いので、固定用のナットをボス部に締結する際に押さえフランジに力が掛かると、押さえフランジが変形して切削ブレードは反ってしまう。この切削ブレードの反りは、スピンドルが回転して各部に遠心力が作用すると更に大きくなる。そして、切削ブレードの反りが大きくなると、加工の精度を十分に高く維持できない。
【0008】
本発明はかかる問題点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、加工の精度を高く維持できる切削ブレード、この切削ブレードをスピンドルに装着する際に用いられる切削ブレードの装着方法、及びこの切削ブレードを用いる被加工物の加工方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一態様によれば、スピンドルに固定された第1フランジと該第1フランジに対応する第2フランジとによって挟み込まれるように該スピンドルに装着され、被加工物を加工する際に用いられる切削ブレードであって、該スピンドルに装着される際に該第1フランジに接触する第1面及び該第1面とは反対側に存在し該スピンドルに装着される際に該第2フランジに接触する第2面を有する環状の切刃部と、該切刃部に設けられたマーク部と、を含み、該切刃部の径方向の外側の部分は、該スピンドルに装着され回転していない状態で該第2面から該第1面へと向かう向きに湾曲し、該スピンドルに装着され回転した状態で湾曲の量が所定の閾値よりも小さくなるように構成されており、該マーク部は、該第1面と該第2面とを識別できる態様で設けられている切削ブレードが提供される。
【0012】
本発明の別の一態様によれば、上述した切削ブレードを該スピンドルに装着する際に用いられる切削ブレードの装着方法であって、該切削ブレードの該第1面を該第1フランジに接触させるように該切削ブレードを該第1フランジに取り付けるブレード取り付けステップと、該第1フランジに取り付けられた該切削ブレードの該第2面に該第2フランジを接触させるように該第2フランジを該第1フランジに取り付けるフランジ取り付けステップと、該第1フランジと該第2フランジとで該切削ブレードを挟み込んで固定するように該第1フランジに対して該第2フランジを固定する固定ステップと、を含む切削ブレードの装着方法が提供される。
【0013】
本発明の更に別の一態様によれば、上述した切削ブレードを用いて該被加工物を加工する際に用いられる被加工物の加工方法であって、該切削ブレードの該第1面を該第1フランジに接触させるように該切削ブレードを該第1フランジに取り付けるブレード取り付けステップと、該第1フランジに取り付けられた該切削ブレードの該第2面に該第2フランジを接触させるように該第2フランジを該第1フランジに取り付けるフランジ取り付けステップと、該第1フランジと該第2フランジとで該切削ブレードを挟み込んで固定するように該第1フランジに対して該第2フランジを固定する固定ステップと、該第1フランジと該第2フランジとで固定された該切削ブレードを回転させて該被加工物に切り込ませることで該被加工物を加工する加工ステップと、を含む被加工物の加工方法が提供される。
【発明の効果】
【0014】
本発明の一態様にかかる切削ブレードは、第1フランジに接触する第1面及び第1面とは反対側の第2面を有する環状の切刃部を含み、この切刃部の径方向の外側の部分は、第1面に接触する第1フランジへと向かうように湾曲している。そのため、第2フランジの変形等によって切刃部の径方向の外側の部分が第2フランジへと向かって反ると、この第2フランジへと向かう反りが第1フランジへと向かう湾曲を打ち消して、切刃部の平坦性が高くなる。これにより、加工の精度を高く維持できる。
【0015】
また、本発明の一態様にかかる切削ブレードは、第1面と第2面とを識別できる態様で切刃部に設けられたマーク部を含んでいる。そのため、マーク部に基づき切削ブレードの向きを簡単に判別できる。つまり、特別な器具や手法を用いて切刃部の湾曲の向きを判別する必要がない。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】切削装置の構成例を示す斜視図である。
図2】切削ユニットの構成例を示す分解斜視図である。
図3図3(A)は、切削ブレードの構成例を示す側面図であり、図3(B)は、切削ブレードの構成例を示す断面図である。
図4図4(A)は、切削ブレードがスピンドルに装着された状態を示す正面図であり、図4(B)は、被加工物が加工される様子を示す正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
添付図面を参照して、本発明の実施形態について説明する。図1は、本実施形態にかかる切削装置2の構成例を示す斜視図である。なお、図1では、一部の構成要素を機能ブロックで示している。また、以下の説明で用いられるX軸方向(前後方向、加工送り方向)、Y軸方向(左右方向、割り出し送り方向)、及びZ軸方向(高さ方向、切り込み送り方向)は、互いに垂直である。
【0018】
図1に示すように、切削装置2は、各構成要素を支持する基台4を備えている。基台4の上面の前方の角部には、開口4aが形成されており、この開口4a内には、昇降機構(不図示)によって昇降するカセットエレベータ6が配置されている。カセットエレベータ6の上面には、複数の被加工物11を収容できるカセット8が載せられる。なお、図1では、説明の便宜上、カセット8の輪郭のみを示している。
【0019】
被加工物11は、例えば、シリコン(Si)等の半導体材料を用いて形成される円盤状のウェーハである。この被加工物11の表面側は、互いに交差する複数の加工予定ライン(ストリート)によって複数の小領域に区画されており、各小領域には、IC(Integrated Circuit)等のデバイスが形成されている。
【0020】
被加工物11の裏面側には、被加工物11よりも径の大きいダイシングテープ13が貼付されている。また、ダイシングテープ13の外周部分には、概ね円形の開口を有する環状のフレーム15が固定されている。すなわち、被加工物11は、ダイシングテープ13を介してフレーム15に支持されている。
【0021】
なお、本実施形態では、シリコン等を用いて形成される円盤状のウェーハを被加工物11としているが、被加工物11の材質、形状、構造、大きさ等に制限はない。例えば、他の半導体、セラミックス、樹脂、金属等の材料で形成される基板等を被加工物11として用いることもできる。同様に、デバイスの種類、数量、形状、構造、大きさ、配置等にも制限はない。被加工物11には、デバイスが形成されていなくても良い。また、ダイシングテープ13は、被加工物11の裏面側に貼付されても良い。
【0022】
カセットエレベータ6の側方には、X軸方向に長い矩形状の開口4bが形成されている。開口4b内には、X軸移動テーブル(不図示)をX軸方向に移動させる第1移動機構(加工送り機構)10が配置されている。X軸移動テーブルの上方には、テーブルカバー10aが配置されている。また、テーブルカバー10aの前後には、蛇腹状の防塵防滴カバー10bが取り付けられている。このテーブルカバー10aと防塵防滴カバー10bとによって、開口4bの上部が覆われている。
【0023】
X軸移動テーブルの上方には、加工の際に被加工物11を保持するチャックテーブル12がテーブルカバー10aから露出する態様で設けられている。チャックテーブル12は、モータ等の回転駆動源(不図示)に連結されており、Z軸方向(鉛直方向)に概ね平行な回転軸の周りに回転する。また、チャックテーブル12は、上述した第1移動機構10によってX軸移動テーブルとともにX軸方向に移動する(加工送り)。
【0024】
チャックテーブル12の上面の一部は、被加工物11を保持するための保持面12aである。保持面12aは、X軸方向及びY軸方向に対して概ね平行に形成されており、チャックテーブル12の内部に設けられた吸引路(不図示)等を介して吸引源(不図示)に接続されている。また、チャックテーブル12の周囲には、被加工物11を支持する環状のフレーム15を固定できる4個のクランプ14が設けられている。
【0025】
開口4bの上方には、上述した被加工物11(フレーム15)をチャックテーブル12等へと搬送するための搬送ユニット(不図示)が配置されている。搬送ユニットで搬送された被加工物11は、例えば、表面側が上方に露出するようにチャックテーブル12の保持面12aに載せられる。
【0026】
開口4bの側方には、片持ち梁状の支持構造20が配置されている。支持構造20の前面の上部には、第2移動機構(割り出し送り機構、切り込み送り機構)22が配置されている。第2移動機構22は、支持構造20の前面に固定されY軸方向に対して概ね平行な一対のY軸ガイドレール24を備えている。Y軸ガイドレール24には、第2移動機構22を構成するY軸移動プレート26がスライドできる態様で取り付けられている。
【0027】
Y軸移動プレート26の裏面側(後面側)には、ナット部(不図示)が設けられている。このナット部には、Y軸ガイドレール24に対して概ね平行なY軸ボールねじ28が回転できる態様で連結されている。Y軸ボールねじ28の一端部には、Y軸パルスモータ(不図示)が連結されている。Y軸パルスモータでY軸ボールねじ28を回転させれば、Y軸移動プレート26は、Y軸ガイドレール24に沿ってY軸方向に移動する。
【0028】
Y軸移動プレート26の表面(前面)には、Z軸方向に対して概ね平行な一対のZ軸ガイドレール30が固定されている。Z軸ガイドレール30には、Z軸移動プレート32がスライドできる態様で取り付けられている。Z軸移動プレート32の裏面側(後面側)には、ナット部(不図示)が設けられている。
【0029】
このナット部には、Z軸ガイドレール30に対して概ね平行なZ軸ボールねじ34が回転できる態様で連結されている。Z軸ボールねじ34の一端部には、Z軸パルスモータ36が連結されている。Z軸パルスモータ36でZ軸ボールねじ34を回転させれば、Z軸移動プレート32は、Z軸ガイドレール30に沿ってZ軸方向に移動する。
【0030】
Z軸移動プレート32の下部には、被加工物11を加工する際に用いられる切削ユニット38が配置されている。図2は、切削ユニット38の構成例を示す分解斜視図である。切削ユニット38は、筒状に構成されたスピンドルハウジング40を備えている。スピンドルハウジング40の内側の空間には、図2に示すように、Y軸方向に対して概ね平行な回転軸となるスピンドル42が収容されている。
【0031】
このスピンドル42の先端部(一端部)42aは、スピンドルハウジング40の外部に露出している。また、スピンドル42の先端部42aには、内周面にねじ山を有する開口42bが形成されている。一方で、スピンドル42の基端側(他端側)には、モータ等の回転駆動源(不図示)が連結されている。
【0032】
スピンドル42の先端部42aには、ステンレス等の金属で形成されたマウントフランジ(第1フランジ)44が装着される。マウントフランジ44は、円筒状のボス部46と、ボス部46の基端部から径方向外向きに張り出した円盤状のフランジ部48と、を含む。フランジ部48の中央部には、スピンドル42の先端部42aが挿入される開口(不図示)が形成されている。また、ボス部46の中央部には、フランジ部48の開口に通ずる開口46aが形成されている。
【0033】
そのため、スピンドル42の先端部42aをフランジ部48の開口に挿入し、ボス部46の開口46aを通じてこの先端部42aの開口42bに固定用のボルト50を締め込めば、マウントフランジ44はスピンドル42に固定される。マウントフランジ44をスピンドル42に固定することで、マウントフランジ44をスピンドル42とともに回転させることができるようになる。
【0034】
マウントフランジ44には、ボス部46の先端部からワッシャー型(ハブレス型)の切削ブレード52が装着される。図3(A)は、切削ブレード52の構成例を示す側面図であり、図3(B)は、切削ブレード52の構成例を示す断面図である。切削ブレード52は、環状の切刃部54と、切刃部54に設けられたマーク部56と、を含む。
【0035】
切刃部54は、例えば、ダイヤモンド等の砥粒を、セラミックスや樹脂、金属等の結合剤で固定することにより形成され、マウントフランジ44(フランジ部48)側に配置される第1面54aと、この第1面54aとは反対側の第2面54bと、を有している。切刃部54の中央部には、ボス部46を挿入できる大きさの円形の開口54cが設けられている。切削ブレード52は、ボス部46が開口54cに挿入されるようにしてマウントフランジ44に取り付けられる。
【0036】
なお、ボス部46の基端側46bの径は、ボス部46の先端側46cの径よりも大きくなっている。具体的には、基端側46bの径は、切削ブレード52の開口54cの径と同程度、又は開口54cの径より僅かに小さくなっている。よって、切削ブレード52の開口54cに基端側46bを挿入すると、切削ブレード52は、基端側46bによって決まる径方向の所定の位置に配置される。
【0037】
また、切削ブレード52を上述のようにマウントフランジ44に取り付けると、切削ブレード52の第1面54aは、フランジ部48のボス部46側に設けられた支持面48aと接触する。支持面48aは、切削ブレード52を全周に亘って支持できるように、概ね平坦な環状に形成されている。
【0038】
マウントフランジ44に切削ブレード52が取り付けられた状態で、マウントフランジ44には、ステンレス等の金属で形成された押さえフランジ(第2フランジ)58がボス部46の先端部から装着される。押さえフランジ58は、ボス部46を挿入できる大きさの円形の開口58aを中央部に備えた円盤状に形成されており、ボス部46が開口58aに挿入されるようにしてマウントフランジ44に取り付けられる。
【0039】
押さえフランジ58をマウントフランジ44に取り付けると、押さえフランジ58の切削ブレード52側に設けられた支持面(不図示)は、切削ブレード52の第2面54bと接触する。押さえフランジ58の切削ブレード52側の支持面は、切削ブレード52を全周に亘って支持できるように、概ね平坦な環状に形成されている。
【0040】
マウントフランジ44に切削ブレード52と押さえフランジ58とが取り付けられた状態で、マウントフランジ44のボス部46には、固定用のナット60が装着される。ボス部46の先端部の外周面には、ねじ山が形成されており、ナット60には、ボス部46のねじ山に対応するねじ山を内周面に備えた開口60aが形成されている。
【0041】
そのため、ナット60をボス部46に締め込んで、押さえフランジ58をマウントフランジ44に対して固定できる。その結果、切削ブレード52は、押さえフランジ58とマウントフランジ44とで挟み込まれるように固定される。そして、これにより、切削ブレード52をスピンドル42とともに回転させることができるようになる。
【0042】
図1に示すように、Z軸移動プレート32の下部には、チャックテーブル12によって保持された被加工物11等を撮像する際に用いられるカメラ62が固定されている。第2移動機構22によってY軸移動プレート26をY軸方向に移動させれば、切削ユニット38及びカメラ62は、Y軸方向に移動する(割り出し送り)。また、第2移動機構22によってZ軸移動プレート32をZ軸方向に移動させれば、切削ユニット38及びカメラ62は、Z軸方向に移動する。
【0043】
開口4bに対して開口4aと反対側の位置には、開口4cが形成されている。開口4cの内側には、加工後の被加工物11等を洗浄するための洗浄ユニット64が配置されている。カセットエレベータ6、第1移動機構10、チャックテーブル12、第2移動機構22、切削ユニット38、カメラ62、洗浄ユニット64等の構成要素には、制御ユニット66が接続されている。制御ユニット66は、例えば、被加工物11を加工する際の条件等に合わせて切削装置2の各構成要素を制御する。
【0044】
ところで、押さえフランジ58の剛性はマウントフランジ44の剛性に比べて低く、固定用のナット60をボス部46に締結する際に押さえフランジ58に力が掛かると、押さえフランジ58が変形して切削ブレード52の切刃部54が反ってしまう。このように反った切削ブレード52では、加工の精度を十分に高く維持できない。
【0045】
例えば、固定用のナット60をボス部46に締め込むと、押さえフランジ58の中央部には、この押さえフランジ58の中央部をマウントフランジ44に押し当てる向きの力が作用する。そのため、押さえフランジ58は、支持面の径方向の外側の領域が切削ブレード52の第2面54bから離れるように僅かに変形する。
【0046】
その結果、切刃部54の径方向の内側の部分Aは押さえフランジ58の支持面によって支持されるが、切刃部54の径方向の外側の部分Bは押さえフランジ58の支持面によって十分に支持されなくなる。そして、切刃部54の径方向の外側の部分Bは、押さえフランジ58へと向かって反ってしまう。言い換えれば、切刃部54の径方向の外側の部分Bは、第1面54aから第2面54bへと向かう向きに反ってしまう。
【0047】
そこで、本実施形態では、図3(B)に示すように、切刃部54の径方向の外側の部分Bを、第1面54aに接触するマウントフランジ44へと向かうように予め湾曲させておく。つまり、切刃部54の径方向の外側の部分Bを、第2面54bから第1面54aへと向かう向きに湾曲させておく。
【0048】
これにより、押さえフランジ58の変形等によって切刃部54の径方向の外側の部分Bが押さえフランジ58へと向かって反ると、この押さえフランジ58へと向かう反りがマウントフランジ44へと向かう湾曲を打ち消して、切刃部54の平坦性が高くなる。よって、この切削ブレード52を用いれば、加工の精度を高く維持できるようになる。
【0049】
なお、切削ブレード52の切刃部54の反りは、スピンドル42が回転して各部に遠心力が作用すると更に大きくなる。そのため、切刃部54の径方向の外側の部分Bは、切刃部54がスピンドル42に装着され回転していない状態で、マウントフランジ44へと向かうように僅かに湾曲していることが望ましい。一方で、スピンドル42が回転して各部に遠心力が作用する状態では、切刃部54の平坦性が十分に高くなっていることが望ましい。
【0050】
よって、本実施形態では、切削ブレード52の切刃部54がマウントフランジ44と押さえフランジ58とによって挟み込まれるようにスピンドル42に装着され回転していない状態で、切刃部54の径方向の外側の部分Bがマウントフランジ44へと向かって湾曲するように、スピンドル42に装着されていない状態での切刃部54の湾曲の量が調整される。
【0051】
また、本実施形態では、切削ブレード52の切刃部54がマウントフランジ44と押さえフランジ58とによって挟み込まれるようにスピンドル42に装着され回転した状態で、切刃部54の径方向の外側の部分Bの湾曲の量が所定の閾値よりも小さくなるように、スピンドル42に装着されていない状態での切刃部54の湾曲の量が調整される。
【0052】
切刃部54の湾曲(反り)の量は、例えば、第2面54bの内側の部分Aに相当する領域での接平面と、第2面54bの外側の部分Bに相当する領域との距離で表すことができる。同様に、切刃部54の湾曲の量を、第1面54aの内側の部分Aに相当する領域での接平面と、第1面54aの外側の部分Bに相当する領域との距離で表しても良い。
【0053】
例えば、加工時の切刃部54の湾曲の量が1μmよりも小さくなれば(すなわち、所定の閾値が1μm)、加工の精度を十分に高く維持できると考えられる。そこで、被加工物11の加工に適した10000rpm~30000rpm程度の回転数でスピンドル42を回転させた時に、切刃部54の湾曲の量が1μmよりも小さくなる条件を考える。
【0054】
この条件を満たすためには、例えば、切刃部54がスピンドル42に装着され回転していない状態で、切刃部54の外側の部分Bのマウントフランジ44へと向かう向きの湾曲の量を1μm~10μm程度にすれば良い。また、例えば、切刃部54がスピンドル42に装着されていない状態で、切刃部54の部分Bのマウントフランジ44へと向かう向きの湾曲の量を30μm~70μm程度にすれば良い。
【0055】
このような条件を満たす切削ブレード52は、例えば、切刃部54を焼成する際の鋳型の形状や、加熱の温度、圧力等の条件を調整することにより実現される。ただし、上述した条件はあくまでも一例であり、本発明にかかる切削ブレードは、必ずしもこの条件を満たさなくて良い。
【0056】
本実施形態では、切刃部54の第2面54bに、第1面54aと第2面54bとを識別できる態様のマーク部56が設けられている。そのため、マーク部56に基づき切削ブレード52の向きを簡単に判別できる。つまり、特別な器具や手法を用いて切刃部54の湾曲の向きを判別する必要がない。
【0057】
マーク部56は、例えば、塗料を塗布する方法で切刃部54の第2面54bに形成される。ただし、マーク部56は、切刃部54の第1面54aに形成されても良い。また、マーク部56を形成する方法やマーク部56の態様等にも特段の制限はない。例えば、切刃部54の第1面54a又は第2面54bに凹凸構造を形成し、これをマーク部56として用いることもできる。
【0058】
次に、切削ブレード52をスピンドル42に装着する切削ブレードの装着方法、及びこの切削ブレードの装着方法を含む被加工物の加工方法について説明する。図4(A)は、切削ブレード52がスピンドル42に装着された状態を示す正面図である。切削ブレード52をスピンドル42に装着する際には、まず、切削ブレード52をマウントフランジ44に取り付ける(ブレード取り付けステップ)。
【0059】
具体的には、切削ブレード52の第1面54aをマウントフランジ44の支持面48aに対して接触させるように、切削ブレード52をマウントフランジ44に取り付ける。なお、切削ブレード52の切刃部54には、マーク部56が設けられているので、このマーク部56に基づき切削ブレード52の向きを簡単に確認できる。
【0060】
次に、押さえフランジ58をマウントフランジ44に取り付ける(フランジ取り付けステップ)。具体的には、マウントフランジ44に取り付けられた切削ブレード52の第2面54bに対して押さえフランジ58の支持面を接触させるように、押さえフランジ58をマウントフランジ44に取り付ける。
【0061】
その後、マウントフランジ44に対して押さえフランジ58を固定する(固定ステップ)。具体的には、マウントフランジ44のボス部46に対してナット60を締結する。これにより、切削ブレード52は、マウントフランジ44と押さえフランジ58とで挟み込まれるように固定される。
【0062】
上述のように、本実施形態では、切削ブレード52の切刃部54がマウントフランジ44と押さえフランジ58とによって挟み込まれるようにスピンドル42に装着され回転していない状態で、切刃部54の径方向の外側の部分Bがマウントフランジ44へと向かって湾曲するように、スピンドル42に装着されていない状態での切刃部54の湾曲の量が調整されている。そのため、図4(A)に示すように、スピンドル42に装着された後にも、切刃部54は、完全には平坦にならない。
【0063】
このような切削ブレードの装着方法を用いてスピンドル42に切削ブレード52を装着した後には、切削ブレード52を用いて被加工物11を加工する。まず、被加工物11をチャックテーブル12で保持する(保持ステップ)。具体的には、例えば、表面側が上方に露出するように被加工物11をチャックテーブル12の保持面12aに載せ、この保持面12aに吸引源の負圧を作用させる。併せて、クランプ14で環状のフレーム15を固定する。
【0064】
被加工物11をチャックテーブル12で保持した後には、マウントフランジ44と押さえフランジ58とで固定された切削ブレード52を回転させて、チャックテーブル12上の被加工物11に切り込ませる(加工ステップ)。図4(B)は、被加工物11が加工される様子を示す正面図である。
【0065】
本実施形態では、切削ブレード52の切刃部54がマウントフランジ44と押さえフランジ58とによって挟み込まれるようにスピンドル42に装着され回転した状態で、切刃部54の径方向の外側の部分Bの湾曲の量が所定の閾値よりも小さくなるように、スピンドル42に装着されていない状態での切刃部54の湾曲の量が調整されている。そのため、図4(B)に示すように、スピンドル42を回転させると、切削ブレード52は遠心力の作用で十分に平坦になる。
【0066】
つまり、チャックテーブル12と切削ユニット38とを相対的に移動させて、この切削ブレード52を被加工物11に切り込ませることで、被加工物11を高い精度で加工できる。なお、図4(B)では、切削ブレード52を用いて被加工物11を切断する場合を例示しているが、切削ブレード52を用いて被加工物11に溝等を形成しても良い。
【0067】
以上のように、本実施形態にかかる切削ブレード52は、マウントフランジ(第1フランジ)44に接触する第1面54a及び第1面54aとは反対側の第2面54bを有する環状の切刃部54を含み、この切刃部54の径方向の外側の部分Bは、第1面54aに接触するマウントフランジ44へと向かうように湾曲している。そのため、押さえフランジ(第2フランジ)58の変形等によって切刃部54の径方向の外側の部分Bが押さえフランジ58へと向かって反ると、この押さえフランジ58へと向かう反りがマウントフランジ44へと向かう湾曲を打ち消して、切刃部54の平坦性が高くなる。これにより、加工の精度を高く維持できる。
【0068】
また、本実施形態にかかる切削ブレード52は、第1面54aと第2面54bとを識別できる態様で切刃部54に設けられたマーク部56を含んでいる。そのため、マーク部56に基づき切削ブレード52の向きを簡単に判別できる。つまり、特別な器具や手法を用いて切刃部54の湾曲の向きを判別する必要がない。
【0069】
なお、上述した実施形態や変形例にかかる構造、方法等は、本発明の目的の範囲を逸脱しない限りにおいて任意に変更して実施できる。
【符号の説明】
【0070】
2 :切削装置
4 :基台
4a :開口
4b :開口
4c :開口
6 :カセットエレベータ
8 :カセット
10 :第1移動機構(加工送り機構)
10a :テーブルカバー
10b :防塵防滴カバー
12 :チャックテーブル
12a :保持面
14 :クランプ
20 :支持構造
22 :第2移動機構(割り出し送り機構、切り込み送り機構)
24 :Y軸ガイドレール
26 :Y軸移動プレート
28 :Y軸ボールねじ
30 :Z軸ガイドレール
32 :Z軸移動プレート
34 :Z軸ボールねじ
36 :Z軸パルスモータ
38 :切削ユニット
40 :スピンドルハウジング
42 :スピンドル
42a :先端部(一端部)
42b :開口
44 :マウントフランジ(第1フランジ)
46 :ボス部
46a :開口
46b :基端側
46c :先端側
48 :フランジ部
48a :支持面
50 :ボルト
52 :切削ブレード
54 :切刃部
54a :第1面
54b :第2面
54c :開口
56 :マーク部
58 :押さえフランジ(第2フランジ)
58a :開口
60 :ナット
60a :開口
62 :カメラ
64 :洗浄ユニット
66 :制御ユニット
11 :被加工物
13 :ダイシングテープ
15 :フレーム
A :内側の部分
B :外側の部分
図1
図2
図3
図4