(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-01
(45)【発行日】2024-03-11
(54)【発明の名称】イカスミソースの製造方法
(51)【国際特許分類】
A23L 23/00 20160101AFI20240304BHJP
【FI】
A23L23/00
(21)【出願番号】P 2021005490
(22)【出願日】2021-01-18
【審査請求日】2022-12-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000231637
【氏名又は名称】株式会社ニップン
(74)【代理人】
【識別番号】100130661
【氏名又は名称】田所 義嗣
(72)【発明者】
【氏名】木村 由美
【審査官】吉岡 沙織
(56)【参考文献】
【文献】韓国公開特許第10-2015-0056332(KR,A)
【文献】中国特許出願公開第107616481(CN,A)
【文献】韓国公開特許第10-2018-0051070(KR,A)
【文献】真っ黒本格!だけど簡単!イカスミパスタ, クックパッド,[online],2015年10月08日,[2023年11月16日検索], Retrieved from the Internet:<URL: https://cookpad.com/recipe/3448010>
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
イカスミソースの製造方法であって、ソース原料を85℃達温まで加熱し、その後の冷却工程において、ソース原料の品温が
20℃以下0℃以上になった時にイカスミを加えることを特徴とするイカスミソースの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、イカスミソースの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
イカスミソースは、イカスミを原料として使用したソースであり、外観は黒く、イカスミ特有の風味を有し、スパゲッティソース等として使用されている。
イカスミを使用したソースの製造方法として、例えば、イカスミを使用したカレーソースでは、A カレーソース100重量部に対し、イカスミ4~40重量部、必要に応じデミグラスソース7~12重量部及び適量の調味料を、水及び/又はブイヨン30~70mL/1kgカレーソースの割合で一緒に鍋に入れ攪拌しながらほぼ30分間煮沸させる、
B 煮沸物を濾過して別の鍋に入れる、
C 濾過物にアルコール飲料20~40mL/1kgカレーソースの割合で加えてほぼ25分間弱火で加熱する、
製造方法が知られている(例えば特許文献1参照)。
また、イカスミを使用したレトルトパウチ入りパスタソースでは、
(1) ニンニク30重量部およびタマネギ150重量部をオリーブ油30重量部で炒めた後、イカスミ50重量部、アンチョビ50重量部、トマトピューレ50重量部、食塩10重量部、ブイヨン300重量部、香辛料0.5重量部、イカ細片200重量部、キサンタンガム3重量部、白ワイン50重量部および水75.5重量部を加え、85℃で5分間加熱調理し、
(2) 上記(1)で調理したものを、充填装置を用いてレトルトパウチに250g/袋の割合で充填し、密封した後、熱水式の加熱殺菌処理装置を用いて、温度130℃、圧力1.8kg/cm2の条件下に13分間加熱殺菌処理する、
製造方法が知られている(例えば特許文献2参照)。
また、家庭やレストランでのイカスミソースの製造方法の例として、
(1)鍋にみじん切りにしたニンニクとオリーブ油を加え炒める、
(2)イカやアンチョビ、玉ねぎを加えて炒める、
(3)前記(2)にトマトピューレやペースト、ブイヨンや白ワイン、イカスミを加えて煮込む、
料理方法が知られている。
この場合、イカスミはイカと共に炒めることもあるし長時間煮込まれず加熱の最後に加えられる場合もあるが、必ず熱いソースの中に加え加熱されて完成する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開平6-315363号公報
【文献】特開平9-285275号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
イカスミは、耐熱性・耐光性・耐水性に優れているため、古くから絵の具やインクとして使用されて来たが、前記のとおりイカスミソースの原料としても使用されている。
イカスミが耐熱性に優れていることから前記のイカスミソースの製造方法では加熱によるイカスミの退色には特に注意が払われていなかった。
また、退色したとしても、イカスミの使用量を増やすことで容易に色調を補うことができることも要因と考えられる。
しかし、イカスミはソース原料としては、高価な部類に含まれ、製造コストを下げるためには、イカスミの量を増やすのではなく、効率的にイカスミを使用する方法が求められている。
本発明の目的は、イカスミソースの退色や風味の低下が少ないイカスミソースの製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は前記の目的を達成するために鋭意研究を重ねた結果、イカスミソースの製造工程において、イカスミその他のソース原料を加熱調理し、その後、冷却しイカスミソースを調製する従来からの方法ではなく、イカスミを冷却工程で加えることで、イカスミソースの退色や風味の低下を抑えることができることを見出し、本発明を完成するに至った。
従って、本発明は、イカスミソースの製造方法であって、ソース原料を85℃達温まで加熱し、その後の冷却工程において、ソース原料の品温が20℃以下0℃以上になった時にイカスミを加えることを特徴とするイカスミソースの製造方法である。
【発明の効果】
【0006】
本発明のイカスミソースの製造方法により、退色や風味の低下が少ないイカスミソースを得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明で使用するイカスミは、従来からイカスミソースに使用されているイカスミが使用でき、特に限定はない。
例えば、墨袋から取り出した生のものや、乾燥したもの、冷凍したもの、殺菌処理したもの、糖類等の添加物を加えたもの、pH調整したもの等を挙げることができ、市販品も使用することができる。
本発明のイカスミソースの製造方法では、イカスミに加わる熱が従来のイカスミソースの製造方法の場合より弱くなるため殺菌処理したイカスミが好ましい。
本発明のイカスミソースに使用するイカスミ以外の原料は、従来からイカスミソースに使用されている原料が使用でき、特に限定はない。
例えば、食塩、糖類、調味料、香辛料、澱粉、穀粉、野菜類、キノコ類、酒類、肉類、魚介類等を使用することができる。
【0008】
本発明のイカスミソースの製造方法は、従来のイカスミソースの製造方法とは、イカスミを加える工程が異なるが、それ以外は、従来のイカスミソースの製造方法と同様でよく特に限定はない。
例えば、イカスミ以外のソース原料を85℃達温まで加熱し、その後の冷却工程で、ソース原料の品温が60℃以下0℃以上になった段階でイカスミを加え、均一になるまで撹拌する。
なお、本発明では、イカスミを冷却工程で加えることを特徴とするが、85℃達温まで加熱するソース原料にイカスミが含まれていてもよい。
ソースの冷却方法は、従来からソースの冷却に使用されている冷却方法が使用でき特に限定はない。
例えば、真空冷却器を用いた冷却方法や、ジャケット冷却、放冷等の冷却方法を挙げることができる。
【0009】
本発明の方法は、1バッチ100kg~300kg程度の大量生産をする場合でも、退色や風味の低下を抑えることができ大量生産にも適している。
イカスミを含むソースを加熱する従来方法では、このような大量生産の場合、退色や風味の低下が家庭やレストランで製造する少量生産の場合に比べ激しいが、本発明の製造方法では退色や風味の低下を抑えることができる。
【0010】
本発明のイカスミソースの製造方法により得られたイカスミソースの使用方法は、従来のイカスミソースと同様でよく特に限定はない。
例えば、パスタソース、雑炊、カレー、シチューなどに使用することができる。
また、冷凍後レンジ解凍加熱することができるため、冷凍イカスミスパゲッティ等にも使用できる。
【実施例】
【0011】
以下本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
[イカスミソースの調製]
・実施例1~2、比較例1~2、参考例1、3~4
(1)サラダ油3質量部、ニンニクペースト3質量部を容量300kgの真空冷却器付きニーダーに投入し、サラダ油とニンニクペーストの合計質量が加熱前の95質量%になるまで炒めソース原料を得た。
(2) 食塩2質量部、魚介出汁10質量部、こしょう0.4質量部、タピオカ澱粉2質量部、乾燥玉ねぎ4質量部、キサンタンガム0.1質量部、水63.8質量部を、前記(1)で得られたソース原料に加え、85℃になるまで加熱した後、10分間保温した。
(3)真空冷却器を用いてニーダー内を減圧にし、前記(2)で得られたソース原料を冷却した。
(4)前記(3)の工程でソース原料の品温が表1に示す温度になったとき、イカスミペースト2質量部、水10質量部を加え1分間撹拌して、イカスミソース100kgを得た。
・参考例1
(1)サラダ油3質量部、ニンニクペースト3質量部を容量300kgの真空冷却器付きニーダーに投入し、サラダ油とニンニクペーストの合計質量が加熱前の95質量%になるまで炒めソース原料を得た。
(2) 食塩2質量部、魚介出汁10質量部、こしょう0.4質量部、タピオカ澱粉2質量部、乾燥玉ねぎ4質量部、キサンタンガム0.1質量部、イカスミペースト2質量部、水63.8質量部を、前記(1)で得られたソース原料に加え、85℃になるまで加熱した後、10分間保温した。
(3)真空冷却器を用いてニーダー内を減圧にし、前記(2)で得られたソース原料を冷却した。
(4)前記(3)の工程でソース原料の品温が20℃になったとき、水10質量部を加え1分間撹拌して、イカスミソース100kgを得た。
なお、各原料は、実施例1と同じものを使用している。
・参考例2
実施例1において、工程(3)におけるソースの品温を-5℃に変更した以外は、実施例1と同様にしてイカスミソースを調製したが、ソースの粘度が高くなりすぎソースとして使用できなかった為、評価は行わなかった。
【0012】
[イカスミスパゲッティソースとして評価]
茹でたスパゲッティ200gと得られたイカスミソース65gを和え以下の評価基準で10名のパネラーにより参考例1をコントロールとして評価を行った。
・外観
5点 黒々として、非常に良い
4点 黒く、良い
3点 普通
2点 やや黒さが薄く、悪い
1点 黒さが薄く、非常に悪い
・風味
5点 イカスミ風味を強く感じ、非常に良い
4点 イカスミの風味をやや強く感じ、良い
3点 普通
2点 イカスミの風味がやや弱く、悪い
1点 イカスミの風味が弱く、非常に悪い
【0013】
得られた評価結果を表1に示す。
表中、評価は点数を付けた人数と平均点を示している。
従来の製造方法である参考例1を基準として外観及び風味の平均点が、ともに3.5点以上であるものを合格とした。
【0014】
【0015】
[冷凍イカスミスパゲッティ]
前記実施例1~4、比較例1~2、参考例1で得られたイカスミソース65gを容器に収容した茹スパゲティ200gの上にかけて、-35℃で急速冷凍し冷凍イカスミスパゲッティを得た。
これを-18℃で3日間保存し、出力500Wの電子レンジを使用して解凍加熱し茹スパゲッティとイカスミソースを和えて10名のパネラーにより参考例1をコントロールとして、実施例1と同様に評価を行った。
得られた評価結果を表2に示す。
表中、評価は点数を付けた人数と平均点を示している。
従来の製造方法である参考例1を基準として外観及び風味の平均点が、ともに3.5点以上であるものを合格とした。
【0016】
【0017】
本発明の製造方法で得られたイカスミソースを使用した冷凍イカスミスパゲティは、冷凍後、電子レンジで解凍加熱しても外観、風味ともに優れていた。