(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-01
(45)【発行日】2024-03-11
(54)【発明の名称】音出力装置、通信コントローラ及び音生成器
(51)【国際特許分類】
B60Q 5/00 20060101AFI20240304BHJP
G10K 15/04 20060101ALI20240304BHJP
【FI】
B60Q5/00 660B
B60Q5/00 620A
B60Q5/00 630B
B60Q5/00 650B
B60Q5/00 650A
B60Q5/00 660C
B60Q5/00 660A
B60Q5/00 660Z
B60Q5/00 660D
B60Q5/00 660H
B60Q5/00 640Z
G10K15/04 302A
(21)【出願番号】P 2019178453
(22)【出願日】2019-09-30
【審査請求日】2022-05-27
(73)【特許権者】
【識別番号】308033711
【氏名又は名称】ラピスセミコンダクタ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001025
【氏名又は名称】弁理士法人レクスト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】赤堀 博次
【審査官】山崎 晶
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2014/061084(WO,A1)
【文献】特開2015-151002(JP,A)
【文献】国際公開第2013/136504(WO,A1)
【文献】特開2013-063706(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60Q 5/00
G10K 15/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
CAN規格に準拠したフォーマットで通信を行う通信コントローラと、
音信号を出力する音生成部と、を含み、
前記通信コントローラは、移動体の移動速度を含む移動体関連情報を受信し、前記移動体関連情報に基づく音生成用のパラメータを生成し、生成した前記パラメータを前記音生成部に供給し、
前記音生成部は、所定の音波形を有する基本音信号を取得する回路を含み、前記通信コントローラから供給された前記パラメータに基づき前記基本音信号の音波形を調整して得た音信号を出力することを特徴とする音出力装置。
【請求項2】
前記通信コントローラは、
前記移動体関連情報にて示される前記移動速度に基づき、前記基本音信号の周波数に対する周波数比及び前記音信号の音量を前記パラメータとして生成し、これを前記音生成部に送信し、
前記音生成部は、前記基本音信号のピッチを前記パラメータとしての前記周波数比の値倍に調整した信号の振幅を、前記パラメータとしての前記音量に対応した振幅に調整して得た信号を前記音信号として出力することを特徴とする請求項1に記載の音出力装置。
【請求項3】
前記通信コントローラは、
第1~第r(rは2以上の整数)の移動速度に、第1のアドレス群に属する第1~第rのアドレスと、第2のアドレス群に属する第1~第rのアドレスと、が夫々対応付けして示されているルックアップテーブルから、前記移動体関連情報にて示される前記移動速度に対応した、前記第1のアドレス群に属する1のアドレスと、前記第2のアドレス群に属する1のアドレスと、を前記パラメータとして取得し、当該パラメータを前記音生成部に送信し、
前記音生成部は、
前記基本音信号の周波数に対する第1~第rの周波数比が前記第1のアドレス群に属する第1~第rのアドレスに夫々記憶されており、且つ第1~第rの音量が前記第2のアドレス群に属する第1~第rのアドレスに夫々記憶されているメモリを含み、
前記メモリから、前記パラメータとしての前記第1のアドレス群に属する1のアドレスに記憶されている前記周波数比と、前記パラメータとしての前記第2のアドレス群に属する1のアドレスに記憶されている音量と、を夫々読み出し、
前記基本音信号のピッチを前記メモリから読み出された前記周波数比の値倍に調整した信号の振幅を、前記メモリから読み出された前記音量に対応した振幅に調整して得た信号を前記音信号として出力することを特徴とする請求項1に記載の音出力装置。
【請求項4】
前記通信コントローラは、前記移動体関連情報にて示される前記移動速度の平均を平均移動速度として算出し、前記平均移動速度を前記パラメータとして前記音生成部に送信し、
前記音生成部は、
第1~第r(rは2以上の整数)の移動速度に、第1~第rの周波数比及び第1~第rの音量が夫々対応付けされているルックアップテーブルから、前記パラメータとしての前記平均移動速度にて示される移動速度に対応した周波数比及び音量を取得し、
前記基本音信号のピッチを前記ルックアップテーブルから取得した前記周波数比の値倍に調整した信号の振幅を、前記ルックアップテーブルから取得した前記音量に対応した振幅に調整して得た信号を前記音信号として出力することを特徴とする請求項1に記載の音出力装置。
【請求項5】
前記音生成部は、前記音信号を移動体の接近を知らせる接近通報音として出力することを特徴とする請求項1~4のいずれか1に記載の音出力装置。
【請求項6】
前記通信コントローラは第1の半導体チップに形成されており、前記音生成部は前記第
1の半導体チップとは別個の第2の半導体チップに形成されていることを特徴とする請求項1~5のいずれか1に記載の音出力装置。
【請求項7】
CAN規格に準拠したフォーマットで通信を行う通信コントローラであって、
移動体の移動速度を示す移動速度情報
をデータ通信網を介して取得する取得部と、
前記取得部で取得した前記移動速度情報にて示される前記移動速度に基づき、前記移動体の接近を知らせる接近通報音を生成する為のパラメータを生成してこれを出力する出力部と、を有することを特徴とする通信コントローラ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、可聴音を音響出力する音出力装置、通信コントローラ及び音生成器に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、電動モータで走行を行う電気自動車や電気ハイブリッド車は、エンジン車と比べて低速走行時の騒音が極めて小さい。そこで、このような電気自動車や電気ハイブリッド車として、車両の接近を知らせる音(以下、接近通報音と称する)を出力する車両接近通報装置を搭載したものが製品化されている(例えば特許文献1参照)。
【0003】
当該車両接近通報装置は、接近通報音をPCMデータ化した接近通報音データが記憶されているメモリを内蔵したマイクロコントローラ(以下、MCUと称する)を有する。MCUは、CAN(Controller Area Network)等の通信網を介して、先ず、各種センサからの情報(車速、雨滴、タイヤ空気圧等)を受信する。そして、当該MCUは、かかる情報に基づき、接近通報音データをメモリから読み出し、この接近通報音データに対応する接近通報音波形信号を生成する。当該接近通報音波形信号は、LPF(Low pass filter)、アンプ及びスピーカを介して車外に音響出力される。
【0004】
このように、特許文献1に記載されている車両接近通報装置では、MCUが、CAN通信の受信制御と共に接近通報音波形信号の生成処理を行う。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、上記したような接近通報音は、車両から周囲の歩行者に向けて発せられる音であり、歩行者はその接近通報音と関連付けて車両の車種や車両メーカを認識することが考えられる。よって、車両メーカや車種によっては、自身のブランド価値を高めるために、接近通報音として高音質なものが望まれている。
【0007】
しかしながら、接近通報音を高音質化するためにはMCUの負荷が大きくなってしまうため、高速処理が可能な高価なMCUを採用する、分解能の高いDAC(Digital-Analog Converter)を採用する等の対策が必要となり、価格が大幅に増加するという問題があった。
【0008】
そこで、本発明は、MCUの負荷を抑えて比較的高音質な音を出力することが可能な音出力装置、通信コントローラを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る音出力装置は、CAN規格に準拠したフォーマットで通信を行う通信コントローラと、音信号を出力する音生成部と、を含み、前記通信コントローラは、移動体の移動速度を含む移動体関連情報を受信し、前記移動体関連情報に基づく音生成用のパラメータを生成し、生成した前記パラメータを前記音生成部に供給し、前記音生成部は、所定の音波形を有する基本音信号を取得する回路を含み、前記通信コントローラから供給された前記パラメータに基づき前記基本音信号の音波形を調整して得た音信号を出力する。
【0010】
本発明に係る通信コントローラは、CAN規格に準拠したフォーマットで通信を行う通信コントローラであって、移動体の移動速度を示す移動速度情報を前記データ通信網を介して取得する取得部と、前記取得部で取得した前記移動速度情報にて示される前記移動速度に基づき、前記移動体の接近を知らせる接近通報音を生成する為のパラメータを生成してこれを出力する出力部と、を有する。
【0011】
本発明に係る音生成器は、所定の音波形を有する基本音信号を取得する音合成回路と、移動体の移動速度に対応して生成された音生成用のパラメータを受け、前記基本音信号に対して前記パラメータに基づく調整を施すように前記音合成回路を制御する制御回路と、を含み、前記音合成回路は前記パラメータに基づく調整を前記基本音信号に施すことにより、前記移動体の接近を知らせる接近通報音信号を生成しこれを出力する。
【発明の効果】
【0012】
本発明は、移動体の移動速度を含む移動体関連情報の受信を行う通信コントローラと、音生成を行う音合成回路を含む音生成部とにより、移動体関連情報によって変化する音を生成する。つまり、通信コントローラは、受信した移動体関連情報に基づき音生成用のパラメータを生成し、これを音生成部に送信する。音生成部は、所定の音波形を有する基本音信号を取得し、上記のように受信したパラメータに基づいて当該基本音信号の波形を調整することで、移動体関連情報によって音が変化する音信号を生成する。
【0013】
このように、本発明では、比較的高音質な音を生成することが可能な音合成回路を用いて、移動体関連情報に応じて音が変化する音信号を生成している。よって、移動体関連情報を受信する通信コントローラのソフトウェア処理によって上記したような音信号を生成させる場合に比べて、当該通信コントローラ(MCU)の負荷を抑えて比較的高音質の音信号を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明に係る音出力装置を含む車両接近通報システムを示すブロック図である。
【
図2】メモリ220に記憶されているルックアップテーブルの一例を示す図である。
【
図3】MCU22が実行するパラメータ生成処理の一例を示すフローチャートである。
【
図4】車両接近通報装置13の他の構成を示すブロック図である。
【
図5】メモリ221に記憶されているルックアップテーブルの一例を示す図である。
【
図6】MCU22Aが実行するパラメータ生成処理の一例を示すフローチャートである。
【
図7】メモリ310の記憶内容の一例を示す図である。
【
図8】
図4に示す車両接近通報装置13の変形例を示すブロック図である。
【
図9】メモリ310Aに記憶されているルックアップテーブルの一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施例を図面を参照しつつ詳細に説明する。
【0016】
図1は、車両側から当該車両の接近を歩行者等に知らせる音(以下、接近通報音と称する)を出力する、本発明に係る音出力装置としての車両接近通報装置13を含む車両接近通報システム100を示すブロック図である。尚、
図1に示す車両接近通報システム100は、車両が所定の速度範囲(例えば5~20km/h)内の速度で走行している場合に、その移動速度に対応したピッチ及び音量の接近通報音を音響出力するものである。
【0017】
車両接近通報システム100は、車両接近通報装置13と共に、車速センサ11a、状態センサ11b、センサ情報収集部12及びスピーカ14を含む。
【0018】
車速センサ11aは、当該車両接近通報システム100を搭載した車両の移動速度を検出し、その移動速度を表す移動速度VSをセンサ情報収集部12に供給する。状態センサ11bは、当該車両の状態(例えば加速状態、タイヤの空気圧等)、車両周囲の環境の状態(例えば車両が受ける雨滴の量、周囲環境音の大きさ等)等を検出し、その状態を夫々個別に表す状態情報STをセンサ情報収集部12に供給する。
【0019】
センサ情報収集部12は、CAN(Controller Area Network)通信コントローラ120を含む。センサ情報収集部12は、移動速度VS及び状態情報STを所定期間おきに取り込む。CAN通信コントローラ120は、取り込まれた移動速度VS及び状態情報STを含むセンサーデータCDを、CAN通信規格に準拠したフォーマットにて、データ通信網としてのCANバス線BSを介して車両接近通報装置13に送信する。
【0020】
車両接近通報装置13は、CAN通信コントローラ130及び音生成部131を有する。尚、CAN通信コントローラ130及び音生成部131は、例えば2つの半導体ICチップに夫々形成されている。つまり、CAN通信コントローラ130が第1の半導体ICチップに形成されており、音生成器としての音生成部131が第1の半導体ICチップとは別個の第2の半導体ICチップに形成されており、これら第1及び第2の半導体ICチップ同士が配線L1によって電気的に接続されている。
【0021】
CAN通信コントローラ130は、CANトランシーバ21、及びマイクロコンピュータとしてのMCU22を含む。
【0022】
CANトランシーバ21は、CANバス線BSに接続されており、当該CANバス線BSからセンサーデータCDを受信し、当該センサーデータCDをMCU22に供給する。
【0023】
MCU22は、CANバス線BS中からセンサーデータCDを受信させるようにCANトランシーバ21を制御する。
【0024】
更に、MCU22は、受信したセンサーデータCDに基づき、音生成部131で接近通報音を生成させる為のパラメータとして、例えば以下のような周波数比及び音量を生成する。すなわち、MCU22は、センサーデータCDに含まれる移動速度VSに基づき、接近通報音のソースとなる基本接近通報音の周波数に対する周波数比と、接近通報音を音響出力する際の音量と、を求める。
【0025】
尚、これら周波数比及び音量を取得するために、MCU22には、上記した速度範囲(例えば5~20km/h)内の複数の速度の各々に、周波数比及び音量が対応付けされているルックアップテーブルが記憶されているメモリ220が搭載されている。
【0026】
図2は、当該ルックアップテーブルの一例を示す図である。
【0027】
図2に示すルックアップテーブルでは、最低速度を5km/h、最高速度を20km/hとした5~20km/hの移動速度の範囲を時速1km/h毎に16段階に区切った各速度に、一対の周波数比Z及び音量Vが対応付けされている。ここで、速度が1km/h変化した際の周波数の変化度を例えば0.8%とした場合に、周波数比Zは、
Z=(1+0.8/100)^X
X:最低速度からの速度変化量(km/h)
で表される。
【0028】
以下に、MCU22が、センサーデータCDの受信に応じて実行するパラメータの生成処理について説明する。
【0029】
図3は、当該パラメータ生成処理の手順の一例を表すフローチャートである。
【0030】
図3において、先ず、MCU22は、センサーデータCDに含まれる移動速度VSが、5~20km/hの速度範囲内の移動速度を表すか否かを判定する(ステップS11)。
【0031】
ステップS11において、移動速度VSが5~20km/hの速度範囲内の速度を表すと判定した場合、MCU22は、
図2に示すルックアップテーブルから移動速度VSに対応した周波数比Zを取得する(ステップS12)。
【0032】
次に、MCU22は、
図2に示すルックアップテーブルから移動速度VSに対応した音量Vを取得する(ステップS13)。
【0033】
次に、MCU22は、これら取得した周波数比Z及び音量Vをパラメータとし、これを例えばシリアル形態のビット列で表すパラメータ信号PDを配線L1を介して音生成部131に送信する(ステップS14)。
【0034】
ステップS14が終了、又は上記ステップS11において移動速度VSが5~20km/hの速度範囲の速度を表していないと判定された場合、MCU22は、
図3に示すパラメータ生成処理を終了し、センサーデータCDの受信待機状態となる。
【0035】
このように、CAN通信コントローラ130は、データ通信網としてのCANバス線BSに接続されており、車両の移動速度を示す移動速度VSをCANバス線BSを介して取得する取得部(21、22)と、取得した移動速度VSに基づき、車両の接近を知らせる接近通報音を生成する為のパラメータを生成してこれを音生成部131に出力(PD)する出力部(22、220、S11~S14)と、を有する。
【0036】
音生成部131は、以下に説明する音声メモリ30、制御回路31、音合成回路32、及びアンプ33を含む。
【0037】
音声メモリ30には、車両接近通報システム100が出力する接近通報音のソースとなる基本接近通報音をPCMデータ化した基本接近通報音データが記憶されている。
【0038】
制御回路31は、パラメータ信号PDを受信した場合、この受信したパラメータ信号PD中から周波数比Z及び音量Vを夫々抽出する。そして、制御回路31は、かかる周波数比Zを表す周波数比信号FRR、及び音量Vを表す音量信号VOLを、ハードウェア構成の音合成回路32に供給する。
【0039】
音合成回路32は、周波数比信号FRRを受けると、先ず、音声メモリ30から前述した基本接近通報音データを読み出してこれを取り込む。次に、音合成回路32は、取り込んだ基本接近通報音データによって表される音波形のピッチをn倍(nは、周波数比信号FRRにて示される周波数比の値)した音波形を有する接近通報音信号を生成する。そして、音合成回路32は、かかる接近通報音信号の振幅を音量信号VOLによって表される音量に対応した大きさの振幅に調整して得られた信号を接近通報音信号AVとしてアンプ33に供給する。
【0040】
アンプ33は、接近通報音信号AVを電力増幅して得られた信号を接近通報音信号ALとしてスピーカ14に供給する。
【0041】
スピーカ14は、例えば車両のフロントバンパーに設置されており、接近通報音信号ALに基づく可聴音を接近通報音として車両外部の空間に音響出力する。
【0042】
上記したように、
図1に示す車両接近通報装置13は、先ず、CAN通信コントローラ130が、CAN通信によってセンサ情報収集部12から送信された移動速度VSを受信する。この際、CAN通信コントローラ130のMCU22が、受信した移動速度VSから、接近通報音の元となる基本接近通報音に対する周波数比及び音量を求める。そして、当該MCU22は、これら周波数比及び音量を、接近通信音を生成する為のパラメータとして音生成部131に送信する。
【0043】
当該パラメータとしての周波数比及び音量を受信すると、音生成部131の音合成回路32は、基本接近通報音のピッチを、受信した周波数比の値倍に調整し、更に、この調整された信号の振幅を、受信した音量に対応した大きさの振幅に調整する。これにより、音合成回路32は、車両の移動速度に対応したピッチ及び音量を有する接近通報信号を生成し、これを出力する。
【0044】
このように、
図1に示す構成では、CAN通信コントローラ130のMCU22は接近通報音信号の生成処理は行わないので、当該MCU22の負荷を軽減することが可能となる。
【0045】
この際、接近通報音の生成は、ハードウェア構成の音合成回路32で行っており、比較的高音質の音を生成することが可能となる。
【0046】
また、CAN通信コントローラ130は、接近通報音のピッチ及び音量を決定する移動速度VSを音生成部131に直接送信するのではなく、当該移動速度VSに対応した周波数比Z及び音量Vを、パラメータとして音生成部131に送信している。よって、音生成部131では、制御回路31Aが受信した周波数比Z及び音量Vによって、そのまま音合成回路32を制御することができる。これにより、制御回路31Aは、
図2に示すようなルックアップテーブルを用いて移動速度VSから周波数比Z及び音量Vを取得する処理を行う必要が無いので、その分だけ構成を簡略化することが可能となる。
【0047】
したがって、
図1に示す構成によれば、CAN通信コントローラ130のMCU22の負荷を軽減しつつ、比較的高音質の音を提供することが可能となる。
【0048】
尚、上記実施例では、CAN通信コントローラ130が、移動速度VSに対応した周波数比Z及び音量Vを接近通信音を生成するためのパラメータとして音生成部131に送信している。
【0049】
しかしながら、CAN通信コントローラ130としては、周波数比Z及び音量Vではなく、これら周波数比Z及び音量Vを特定することが可能な関連情報を、接近通信音を生成する為のパラメータとして音生成部131に送信するようにしても良い。
【0050】
図4は、かかる点に鑑みて為された車両接近通報装置13の他の構成を示すブロック図である。尚、
図4に示す構成では、MCU22に代えてMCU22Aを採用し、制御回路31に代えて制御回路31Aを採用した点を除く他の構成については
図1に示すものと同一である。よって、以下に、MCU22A及び制御回路31Aの動作を中心にして
図4に示す構成の動作について説明する。
【0051】
MCU22Aは、MCU22と同様に、CANバス線BSからセンサーデータCDを受信させるようにCANトランシーバ21を制御する。
【0052】
また、MCU22Aは、ルックアップテーブルが記憶されているメモリ221を有する。MCU22Aは、当該ルックアップテーブルにより、受信したセンサーデータCDに含まれる移動速度VSに対応した周波数比及び音量が記憶されているアドレスを取得する。
【0053】
図5は、かかるルックアップテーブルの一例を示す図である。
【0054】
尚、
図5に示す一例では、前述した5~20km/hの範囲を時速1km/h毎に16段階に区切った各移動速度に、その移動速度に対応した周波数比が記憶されているアドレス、及び音量が記憶されているアドレスが個別に対応付けして示されている。
【0055】
図6は、MCU22Aが実行するパラメータ生成処理の手順を表すフローチャートである。
【0056】
図6において、先ず、MCU22Aは、センサーデータCDに含まれる移動速度VSが5~20km/hの速度範囲の速度を表すか否かを判定する(ステップS21)。
【0057】
ステップS21にて、当該速度範囲内の移動速度を表すと判定した場合、MCU22Aは、
図5に示すルックアップテーブルから、移動速度VSに対応した周波数比が記憶されているアドレスを第1のアドレスとして取得する(ステップS22)。
【0058】
次に、MCU22Aは、
図5に示されるルックアップテーブルから、移動速度VSに対応した音量が記憶されているアドレスを第2のアドレスとして取得する(ステップS23)。
【0059】
次に、MCU22Aは、取得した周波数比及び音量が夫々記憶されている第1及び第2のアドレスを音生成用のパラメータとし、これを例えばシリアル形態のビット列で表すパラメータ信号PDを配線L1を介して音生成部131に送信する(ステップS24)。
【0060】
ステップS24が終了、又は上記ステップS21において移動速度VSが5~20km/hの速度範囲内の速度を表していないと判定された場合、MCU22Aは、
図6に示すパラメータ生成処理を終了し、センサーデータCDの受信待機状態となる。
【0061】
音生成部131に含まれる制御回路31Aは、周波数比及び音量が記憶されているメモリ310を有する。
【0062】
図7は、メモリ310における周波数比及び音量の記憶形態の一例を示す図である。
【0063】
図7に示すように、メモリ310では、
図5に示す各周波数比Z1~Z16に対応したアドレス[XX00]~[XX0F]がそのまま自身のアドレス[XX00]~[XX0F]となる。更に、
図5に示す各音量V1~V16に対応したアドレス[YY00]~[YY0F]がそのままメモリ310のアドレス[YY00]~[YY0F]となる。
【0064】
また、
図7に示すように、メモリ310のアドレス[XX00]~[XX0F]には、
図2に示すルックアップテーブルと同様に、速度範囲5~20km/h内の1km/h刻みの各速度に対応した周波数比Z1~Z16が記憶されている。更に、メモリ310のアドレス[YY00]~[YY0F]には、
図2に示すルックアップテーブルと同様に、速度範囲5~20km/h内の1km/h刻みの各速度に対応した音量V1~V16が記憶されている。
【0065】
制御回路31Aは、MCU22Aが送信したパラメータ信号PDを受信した場合には、この受信したパラメータ信号PD中から、周波数比が記憶されている第1のアドレス及び音量が記憶されている第2のアドレスを抽出する。
【0066】
ここで、制御回路31Aは、
図7に示すようにメモリ310に記憶されている周波数比Z1~Z16及び音量V1~V16のうちから、上記したように抽出した第1のアドレスに対応した1の周波数比Zと、第2のアドレスに対応した1の音量Vを読み出す。
【0067】
そして、制御回路31Aは、周波数比Zを表す周波数比信号FRR、及び音量Vを表す音量信号VOLを夫々音合成回路32に供給する。尚、音合成回路32、アンプ33及び音声メモリ30の動作については、前述したように
図1に示すものと同一であるので、その説明は省略する。
【0068】
このように、
図4に示す構成では、音生成部131に、速度範囲5~20km/hを1km/h毎に区切った各移動速度に対応した周波数比Z1~Z16及び音量V1~V16が、
図5に示すアドレスに夫々記憶されているメモリ310を設ける。そこで、CAN通信コントローラ130のMCU22Aは、移動速度VSに対応した周波数比Z及び音量V1ではなく、これら周波数比Z及び音量V1が記憶されているメモリ310のアドレスを、
図5に示すルックアップテーブルから取得する。そして、MCU22Aは、取得したアドレスを音生成用のパラメータとして音生成部131に送信する。
【0069】
よって、
図4に示す構成によれば、CAN通信コントローラ130のMCU22Aでは、移動速度VSから周波数比及び音量を取得する処理を行わないため、更に当該MCU22Aの負荷を軽減することが可能となる。
【0070】
尚、
図4に示す構成では、CAN通信コントローラ130が音生成用のパラメータとして、移動速度VSに対応した周波数比Z及び音量V各々のアドレスを、音生成部131に送信している。しかしながら、CAN通信コントローラ130としては、車速センサ11aにて検出された移動速度VSに対して時間経過に伴う速度の変化率を抑えた処理を施したものを音生成用のパラメータとして音生成部131に送信するようにしても良い。
【0071】
図8は、かかる点に鑑みて為された
図4に示す車両接近通報装置13の変形例を示すブロック図である。尚、
図8に示す構成では、MCU22Aに代えてMCU22Bを採用し、制御回路31Aに代えて制御回路31Bを採用した点を除く他の構成については
図4に示すものと同一である。よって、以下に、MCU22B及び制御回路31Bの動作を中心にして
図8に示す構成の動作について説明する。
【0072】
MCU22Bは、MCU22Aと同様に、CANバス線BS中からセンサーデータCDを受信させるようにCANトランシーバ21を制御する。
【0073】
更に、MCU22Bは、当該センサーデータCDに含まれる移動速度VSの変化を緩やかにする平滑化処理として、例えば移動速度の平均を算出する。つまり、MCU22Bは、例えば所定期間毎に、その所定期間内で取得した移動速度VSの平均(平均移動速度と称する)を求め、これを音生成用のパラメータとする。そして、MCU22Bは、当該パラメータをシリアル形態のビット列で表すパラメータ信号PDを、配線L1を介して音生成部131に送信する。
【0074】
音生成部131に含まれる制御回路31Bは、以下に示すルックアップテーブルが記憶されているメモリ310Aを有する。
【0075】
図9は、メモリ310Aに記憶されているルックアップテーブルの一例を示す図である。
【0076】
図9に示すように、当該ルックアップテーブルは、
図1に示すメモリ220に記憶されているルックアップテーブルと同様に、速度範囲5~20km/h内の1km/h刻みの各移動速度に、周波数比Z1~Z16及び音量V1~VS16を対応付けして示す。
【0077】
音生成部131の制御回路31Bは、MCU22Bが送信したパラメータ信号PDを受信すると、この受信したパラメータ信号PD中から平均移動速度を抽出する。
【0078】
ここで、制御回路31Bは、
図9に示すようにメモリ310Aに記憶されているルックアップテーブルから、平均移動速度に対応した周波数比及び音量を取得する。つまり、制御回路31Bは、メモリ310Aから、パラメータ信号PDに含まれる平均移動速度にて示される移動速度に対応した周波数比Z及び音量Vを読み出す。
【0079】
そして、制御回路31Aは、周波数比Zを表す周波数比信号FRR、及び音量Vを表す音量信号VOLを夫々音合成回路32に供給する。尚、音合成回路32、アンプ33及び音声メモリ30の動作については、前述した
図1に示すものと同一であるので、その説明は省略する。
【0080】
このように、
図8に示す構成では、音生成部131に、速度範囲5~20km/hを1km/h毎に区切った各移動速度に対応した周波数比Z1~Z16及び音量V1~V16が記憶されているメモリ310Aを設ける。CAN通信コントローラ130のMCU22Bは、移動速度VSに対してその変化を緩やかにする平滑化処理として、例えば移動速度VSを平均化した平均移動速度を、音生成用のパラメータとして音生成部131に送信する。
【0081】
図8に示す構成によれば、音生成部131の制御回路31Bにおいて
図9に示すルックアップテーブルを用いて移動速度VSから周波数比及び音量を取得する処理が必要になる。しかしながら、その分だけ、CAN通信コントローラ130のMCU22Bの負荷を軽減することが可能となる。
【0082】
尚、上記実施例では、移動速度VSに対応した周波数比及び音量を生成する為に、
図2、
図5、
図7及び
図9に示すようなルックアップテーブルを用いているが、これを用いずに、所定の関数によって移動速度VSから周波数比及び音量を求めても良い。つまり、例えばMCU22又は制御回路31Bは、移動速度VSを変数とした関数によって当該移動速度VSに対応した音量を算出すると共に、移動速度VSを変数とした関数(例えば上記数式)によって当該移動速度VSに対応した周波数比を算出する。
【0083】
また、上記実施例では、CAN通信コントローラ130のMCU22、22A又は22Bは、車速センサ11aが検出した移動速度VSに基づき接近通報音を生成する為のパラメータ(例えば周波数比Z及び音量V)を生成している。
【0084】
しかしながら、MCUとしては、当該移動速度VSのみならず、状態センサ11bが検出した各種状態情報(例えば、車両の加速度、タイヤの空気圧、車両が受ける雨滴の量、環境音の大きさ等)をも考慮しパラメータを求めるようにしても良い。
【0085】
また、上記実施例では、接近通報音の元となる基本接近通報音をPCMデータ化して音声メモリ30に格納しておき、音合成回路32がこのPCMデータ化した基本接近通報音の波形をパラメータに基づいて調整することで接近通報音信号AVを生成している。
【0086】
しかしながら、接近通報音の生成方法としては、かかる方法に限定されない。例えば、音合成回路32が、所定周期の単一の正弦波を基本接近通報音として生成しこれに前述した調整(ピッチ、音量)を施すことで接近通報音信号AVを生成しても良い。或いは互いに異なる周波数及び振幅を有する複数の正弦波を生成し、夫々を所望の割り合いで合成することで基本接近通報音を生成し、これに前述した調整(ピッチ、音量)を施すことで接近通報音信号AVを生成しても良い。このような接近通報音の生成方法を採用することで、音声メモリ30が不要となる。
【0087】
また、上記実施例では、音合成回路32が音量信号VOLに応じて接近通報音の音量を調整しているが、アンプ33で音量信号VOLに基づく接近通報音の音量調整を行うようにしても良い。
【0088】
また、上記実施例では、CAN通信コントローラ130及び音生成部131は、夫々別の半導体ICチップに形成されているものとしたが、単一の半導体ICチップにCAN通信コントローラ130及び音生成部131を共に形成しても良い。
【0089】
また、上記実施例にて示す車両接近通報システム100は、車両に搭載されることを前提としているが、車両以外の例えば、ドローン、気球、航空機等を含む飛翔体、又は、船舶、列車、或いは人を含む動物等の移動体に搭載されていても良い。この際、当該移動体の移動速度についてもセンサで検出されたものに限定されない。つまり、CAN通信コントローラ130は、少なくともこのような移動体の移動速度を含む移動体関連情報を受信するものであれば良いのである。
【0090】
要するに、車両接近通報装置13を一例とする音出力装置としては、受信した移動体の移動速度を含む移動体関連情報に応じて音(例えば接近通報音)が変化する音信号を出力するにあたり、以下の通信コントローラ及び音生成部を含むものであれば良い。
【0091】
通信コントローラ(130)は、移動体の移動速度(VS)を含む移動体関連情報(VS)を受信し、この移動体関連情報に基づく音生成用のパラメータ(周波数比、音量、アドレス、平均移動速度等)を送信する。音生成部(131)は、所定の音波形を有する基本音信号を生成する回路(32)を含み、通信コントローラ(130)から送信されたパラメータを受信し、受信したパラメータに基づき基本音信号の音波形を調整して得た音信号(AV、AL)を出力する。
【0092】
かかる構成によれば、音信号の生成は、音生成専用の音合成回路が担うので、通信コントローラによるソフトウェア処理で音信号を生成させる場合に比べて、通信コントローラの負荷を軽減しつつ比較的高音質の音信号を出力することが可能となる。
【0093】
また、上記実施例では、車両等の移動体の移動速度を表す情報として車速センサ11aによって検出された移動速度を用いているが、移動速度そのものを表す情報ではなく、移動速度を推定可能な情報を用いてもよい。例えば、アクセル開度やブレーキ力等の移動体の移動速度に関連する情報を取得し、その情報を基に推定される移動速度を用いてもよい。また、これらの情報を複数組み合わせて車両の移動速度を表す情報を生成して用いてもよい。
【0094】
また、上記実施例では、ある移動速度VSに対応した周波数比Zおよび音量Vを取得するために
図2、
図5、
図7及び
図9に示すようなルックアップテーブルを用いているが、1の移動速度に対応する周波数比および音量はそれぞれ1つに限られない。1の移動速度に対応する複数の周波数比及び複数の音量をパラメータとし、当該パラメータに基づいて基本接近通報音の波形を調整することで接近通報音信号AVを生成してもよい。
【符号の説明】
【0095】
11a 車速センサ
12 センサ情報収集部
13 車両接近通報装置
14 スピーカ
22、22A、22B MCU
31、31A、31B 制御回路
32 音合成回路
33 アンプ
100 車両接近通報システム
130 CAN通信コントローラ
131 音生成部