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特許7446814樹脂組成物、樹脂フィルム及び金属張積層板
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-01
(45)【発行日】2024-03-11
(54)【発明の名称】樹脂組成物、樹脂フィルム及び金属張積層板
(51)【国際特許分類】
   C08L 79/08 20060101AFI20240304BHJP
   B32B 15/088 20060101ALI20240304BHJP
   C08J 5/18 20060101ALI20240304BHJP
   C08K 3/36 20060101ALI20240304BHJP
   C08K 7/18 20060101ALI20240304BHJP
【FI】
C08L79/08 A
B32B15/088
C08J5/18 CFG
C08K3/36
C08K7/18
C08L79/08 Z
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2019238109
(22)【出願日】2019-12-27
(65)【公開番号】P2021105148
(43)【公開日】2021-07-26
【審査請求日】2022-11-09
(73)【特許権者】
【識別番号】000006644
【氏名又は名称】日鉄ケミカル&マテリアル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100115118
【弁理士】
【氏名又は名称】渡邊 和浩
(74)【代理人】
【識別番号】100095588
【弁理士】
【氏名又は名称】田治米 登
(74)【代理人】
【識別番号】100094422
【弁理士】
【氏名又は名称】田治米 惠子
(74)【代理人】
【識別番号】110000224
【氏名又は名称】弁理士法人田治米国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】藤 麻織人
(72)【発明者】
【氏名】出合 博之
(72)【発明者】
【氏名】田中 睦人
【審査官】谷合 正光
(56)【参考文献】
【文献】特開平06-287326(JP,A)
【文献】特開2019-019222(JP,A)
【文献】国際公開第2016/031823(WO,A1)
【文献】特開2018-090664(JP,A)
【文献】特開2008-266378(JP,A)
【文献】特開2018-145037(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 79/08
B32B 15/088
C08J 5/18
C08K 3/36
C08K 7/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリアミド酸又はポリイミドを含有する有機化合物の固形分と、シリカ粒子と、を含有する樹脂組成物であって、
前記ポリアミド酸又はポリイミドが、ジアミン残基として、2,2'‐ジメチル‐4,4'‐ジアミノビフェニル及び2,2-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]プロパンから選ばれる少なくとも1種を含有するものであり、
前記シリカ粒子の含有量が、前記固形分の全量及び前記シリカ粒子の合計に対し10~85重量%(ただしポリアミド酸はイミド化されたポリイミドに換算する。)の範囲内であり、
前記シリカ粒子全体として、CuKα線によるX線回折分析スペクトルの2θ=10°~90°の範囲におけるSiOに由来する全ピーク面積に対するクリストバライト結晶相に由来するピークの合計面積の割合が80重量%以上であり、
レーザ回折散乱法による体積基準の粒度分布測定によって得られる前記シリカ粒子の頻度分布曲線におけるメジアン径D 50 が8~15μmの範囲内であり、
前記シリカ粒子の90重量%以上が、真比重2.3以上であることを特徴とする樹脂組成物。
【請求項2】
前記シリカ粒子における粒子径が3μm以上の粒子の90重量%以上が、円形度0.7以上である請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項3】
単層又は複数層のポリイミド層を有する樹脂フィルムであって、
前記ポリイミド層の少なくとも1層が、請求項1又は2に記載の樹脂組成物により形成された結晶性シリカ含有ポリイミド層であり、該結晶性シリカ含有ポリイミド層の厚みが15μm~200μmの範囲内である樹脂フィルム。
【請求項4】
樹脂フィルムの全体の厚みに対する前記結晶性シリカ含有ポリイミド層の厚みの割合が50%以上である請求項に記載の樹脂フィルム。
【請求項5】
スプリットポスト誘電体共振器(SPDR)により測定したときの周波数3~20GHzにおける比誘電率が3.1以下である請求項3又は4に記載の樹脂フィルム。
【請求項6】
スプリットポスト誘電体共振器(SPDR)により測定したときの周波数3~20GHzにおける誘電正接が0.005以下である請求項3~5のいずれか1項に記載の樹脂フィルム。
【請求項7】
熱膨張係数が50ppm/K以下である請求項3~6のいずれか1項に記載の樹脂フィルム。
【請求項8】
絶縁樹脂層と、前記絶縁樹脂層の少なくとも片面の面に積層された金属層と、を備えた金属張積層板であって、
前記絶縁樹脂層の少なくとも1層が、請求項3~7のいずれか1項に記載の樹脂フィルムからなることを特徴とする金属張積層板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば回路基板材料として有用な樹脂組成物、樹脂フィルム及び金属張積層板に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電子機器の小型化、軽量化、省スペース化に伴い、薄く軽量なフレキシブルプリント配線板(FPC)の使用が増大している。FPCは、限られたスペースでも立体的かつ高密度の実装が可能であるため、電子機器の可動部分の配線や、ケーブル、コネクター等の部品にその用途が拡大している。これらに加えて、通信機器の高速化や機器の高性能化が進み、高い伝送速度を実現するための高周波の伝送信号へ対応したFPCも必要とされている。
【0003】
高周波信号を伝送する際の課題として、信号の伝送経路における伝送損失がある。伝送損失が大きいと、電気信号のロスや信号の遅延などの不都合が生じる。FPCが高周波化に対応するためには、その絶縁樹脂層の低誘電率化、低誘電正接化による伝送損失の低減が重要となる。そのため、高周波信号用のFPCには、絶縁樹脂層として低誘電率且つ低誘電正接な液晶ポリマーやフッ素系樹脂が用いられている。しかしながら、液晶ポリマーは、誘電特性に優れているものの、耐熱性や金属箔との接着性に改善の余地があり、フッ素系樹脂は熱膨張係数が高いため取り扱い性が良くない。
【0004】
耐熱性や金属箔との接着性に優れる絶縁樹脂として、ポリイミドも用いられている。しかしながら、一般にポリイミドは、液晶ポリマーやフッ素系樹脂に比べて誘電特性が劣る。芳香族系ポリイミドを低誘電化する方法として、樹脂骨格中へ脂肪族構造を組み込む方法がある。しかしながら、樹脂骨格に脂肪族構造を組み込むメリットは、多くの場合、耐熱性や寸法安定性などのFPCの要求特性とトレード・オフの関係であった。その他の手段として、特殊なモノマーや高価なフッ素系モノマーを使用するなど、ポリイミドの骨格のみで優れた耐熱性とFPCの要求特性を維持ながら低誘電化するためにはコスト面・生産性面で様々なハードルがある。
【0005】
そこで、樹脂と異種材料との複合化によって特性を向上する方法が知られている。例えば特許文献1では、窒化アルミニウムや窒化ケイ素の粉末と特定のポリイミドとを複合化することによって熱伝導性に優れたポリイミド組成物を報告している。
また、特許文献2では、エポキシ樹脂へクリストバライトシリカを添加することで半導体パッケージにおける反りやクラックの発生を抑制している。
誘電特性の向上においても複合化は有効であり、特許文献3では、非晶質シリカとビスマレイミドから合成される熱硬化性ポリイミド樹脂及びエラストマーとの組み合わせで、誘電正接が低く、低熱膨張な樹脂フィルムを提案している。また、特許文献4では、ポリイミドとフッ素樹脂粒子とを組み合わせた低誘電ポリイミドフィルムの製造方法を提示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特許第3551687号公報
【文献】特開2019-1937号公報
【文献】特開2018-12747号公報
【文献】特許6387181号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記の様に、高い耐熱性や優れた接着性などの特性を維持したまま低誘電化したポリイミドの開発が望まれていた。しかしながら、特許文献3では熱硬化性樹脂に限定され、多層化した際の接着強度に課題がある。また、特許文献4では比較的高価なフッ素樹脂フィラーとの複合化であり、熱膨張係数が高くなるなどの課題がある。
さらに、従来技術の複合化ではフィラーの組成が重要視されており、その結晶構造についての言及はほとんどない。
【0008】
従って、本発明の目的は、ポリイミドの誘電特性をさらに改善することによって、電子機器の高周波化への対応が可能な樹脂組成物及び樹脂フィルムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、ポリイミド系樹脂とシリカ粒子の複合化において、シリカ粒子として、クリストバライト相の割合が高いものを用いる方が、非晶質シリカと比較して誘電特性が向上する、という知見を見出し、本発明を完成した。
【0010】
すなわち、本発明の樹脂組成物は、ポリアミド酸又はポリイミドを含有する有機化合物の固形分と、シリカ粒子と、を含有するものであって、
前記シリカ粒子の含有量が、前記固形分の全量及び前記シリカ粒子の合計に対し10~85重量%(ただしポリアミド酸はイミド化されたポリイミドに換算する。)の範囲内であり、
前記シリカ粒子全体として、CuKα線によるX線回折分析スペクトルの2θ=10°~90°の範囲におけるSiOに由来する全ピーク面積に対するクリストバライト結晶相及びクオーツ結晶相に由来するピークの合計面積の割合が20重量%以上である。
【0011】
本発明の樹脂組成物は、レーザ回折散乱法による体積基準の粒度分布測定によって得られる前記シリカ粒子の頻度分布曲線におけるメジアン径D50が6~20μmの範囲内であってもよい。
【0012】
本発明の樹脂組成物は、前記シリカ粒子における粒子径が3μm以上の粒子の90重量%以上が、円形度0.7以上であってもよい。
【0013】
本発明の樹脂組成物は、前記シリカ粒子の90重量%以上が、真比重2.3以上であってもよい。
【0014】
本発明の樹脂フィルムは、単層又は複数層のポリイミド層を有する樹脂フィルムであって、前記ポリイミド層の少なくとも1層が、上記いずれかの樹脂組成物により形成された結晶性シリカ含有ポリイミド層であり、該結晶性シリカ含有ポリイミド層の厚みが15μm~200μmの範囲内である。
【0015】
本発明の樹脂フィルムは、樹脂フィルムの全体の厚みに対する前記結晶性シリカ含有ポリイミド層の厚みの割合が50%以上であってもよい。
【0016】
本発明の樹脂フィルムは、スプリットポスト誘電体共振器(SPDR)により測定したときの周波数3~20GHzにおける比誘電率が3.1以下であってもよい。
【0017】
本発明の樹脂フィルムは、スプリットポスト誘電体共振器(SPDR)により測定したときの周波数3~20GHzにおける誘電正接が0.005以下であってもよい。
【0018】
本発明の樹脂フィルムは、熱膨張係数が50ppm/K以下であってもよい。
【0019】
本発明の金属張積層板は、絶縁樹脂層と、前記絶縁樹脂層の少なくとも片面の面に積層された金属層と、を備えており、前記絶縁樹脂層の少なくとも1層が、上記いずれかの樹脂フィルムからなるものである。
【発明の効果】
【0020】
本発明の樹脂組成物は、ポリイミド本来の耐熱性に加え、特定の結晶構造を有するシリカ粒子を含有しているため誘電特性に優れている。従って、本発明の樹脂組成物及び樹脂フィルムは、高速信号伝送を必要とする電子機器において、FPC等の回路基板材料として特に好適に用いることができる。具体的には、高周波信号を扱うスマートフォン等のモバイル機器向けFPCの絶縁樹脂層や、耐熱性が必要となる車載向けFPCの絶縁樹脂層などの用途に適している。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施の形態について説明する。
【0022】
[樹脂組成物]
本発明の一実施の形態に係る樹脂組成物は、ポリアミド酸又はポリイミドを含有する有機化合物の固形分と、シリカ粒子と、を含有する樹脂組成物であって、
前記シリカ粒子の含有量が、前記固形分の全量及び前記シリカ粒子の合計に対し10~85重量%の範囲内であり、
前記シリカ粒子全体として、CuKα線によるX線回折分析スペクトルの2θ=10°~90°の範囲におけるSiOに由来する全ピーク面積に対するクリストバライト結晶相及びクオーツ結晶相に由来するピークの合計面積の割合が20重量%以上である。樹脂組成物は、ポリアミド酸を含有するワニス(樹脂溶液)であってもよく、溶剤可溶性のポリイミドを含有するポリイミド溶液であってもよい。
【0023】
[有機化合物の固形分]
有機化合物の固形分とは、樹脂組成物から溶剤及び無機固形分を除いた残りの固形分を意味する。すなわち、有機化合物の固形分は、ポリアミド酸又はポリイミドを含有し、任意成分として、ポリイミド以外の樹脂、架橋剤、有機フィラー、可塑剤、硬化促進剤、カップリング剤、有機顔料、有機系難燃剤、充填剤などの不揮発性の有機化合物を含有することができる。ここで、ポリイミド以外の樹脂としては、例えば、エポキシ樹脂、フッ素樹脂、オレフィン系樹脂、ポリエーテル系樹脂、ポリエステル樹脂などを挙げることができる。架橋剤としては、後述する少なくとも2つの第1級のアミノ基を官能基として有するアミノ化合物(架橋形成用アミノ化合物)などを挙げることができる。有機フィラーとしては、例えば、液晶ポリマー粒子、フッ素系ポリマー粒子、ポリエーテル系樹脂粒子、オレフィン系樹脂粒子などを挙げることができる。
【0024】
有機化合物の固形分中のポリアミド酸又はポリイミドの含有率は、60重量%以上であることが好ましく、70重量%以上がより好ましく、80重量%以上が最も好ましい。ポリアミド酸又はポリイミドの含有率が60重量%未満であると、樹脂の靭性が低下し、樹脂フィルムを形成したときのフィルム保持性が低下する。なお、ポリアミド酸の場合はイミド化されたポリイミドに換算して重量比を算出するものとする。
【0025】
[ポリアミド酸又はポリイミド]
ポリイミドは、一般的に下記一般式(1)で表される。このようなポリイミドは、ジアミン成分と酸二無水物成分とを実質的に等モル使用し、有機極性溶媒中で重合させる公知の方法によって製造することができる。この場合、粘度を所望の範囲とするために、ジアミン成分に対する酸二無水物成分のモル比を調整してもよく、その範囲は、例えば0.98~1.03のモル比の範囲内とすることが好ましい。
【0026】
【化1】
【0027】
ここで、Arは芳香族環を1個以上有する4価の有機基であり、Arは芳香族環を1個以上有する2価の有機基である。そして、Arは酸二無水物の残基ということができ、Arはジアミンの残基ということができる。また、nは、一般式(1)の構成単位の繰返し数を表し、200以上、好ましくは300~1000の数である。
【0028】
酸二無水物としては、例えば、O(OC)-Ar-(CO)Oによって表される芳香族テトラカルボン酸二無水物が好ましく、下記芳香族酸無水物残基をArとして与えるものが例示される。
【0029】
【化2】
【0030】
酸二無水物は、単独で又は2種以上混合して用いることができる。これらの中でも、ピロメリット酸二無水物(PMDA)、3,3',4,4'-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(BPDA)、3,3',4,4'-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物(BTDA)、3,3',4,4'-ジフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物(DSDA)、及び4,4'-オキシジフタル酸二無水物(ODPA)から選ばれるものを使用することが好ましい。
【0031】
ジアミンとしては、例えば、HN-Ar-NHによって表される芳香族ジアミンが好ましく、下記芳香族ジアミン残基をArとして与える芳香族ジアミンが例示される。
【0032】
【化3】
【0033】
これらのジアミンの中でも、ジアミノジフェニルエーテル(DAPE)、2,2'-ジメチル-4,4'-ジアミノビフェニル(m-TB)、パラフェニレンジアミン(p-PDA)、1,3-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン(TPE-R)、1,3-ビス(3-アミノフェノキシ)ベンゼン(APB)、1,4-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン(TPE-Q)、2,2-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]プロパン(BAPP)、及び2,2-ビス(トリフルオロメチル)ベンジジン(TFMB)が好適なものとして例示される。
【0034】
ポリイミドは、酸二無水物とジアミン化合物を溶媒中で反応させ、前駆体であるポリアミド酸を生成したのち加熱閉環(イミド化)させることにより製造できる。例えば、酸二無水物とジアミン化合物をほぼ等モルで有機溶媒中に溶解させて、0~100℃の範囲内の温度で30分~72時間撹拌し重合反応させることでポリアミド酸が得られる。反応にあたっては、生成する前駆体が有機溶媒中に5~30重量%の範囲内、好ましくは10~20重量%の範囲内となるように反応成分を溶解する。重合反応に用いる有機溶媒としては、例えば、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N-ジメチルアセトアミド(DMAc)、N,N-ジエチルアセトアミド、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)、2-ブタノン、ジメチルスルホキシド(DMSO)、ヘキサメチルホスホルアミド、N-メチルカプロラクタム、硫酸ジメチル、シクロヘキサノン、ジオキサン、テトラヒドロフラン、ジグライム、トリグライム、クレゾール等が挙げられる。これらの溶媒を2種以上併用することもでき、更にはキシレン、トルエンのような芳香族炭化水素の併用も可能である。また、このような有機溶媒の使用量としては特に制限されるものではないが、重合反応によって得られるポリアミド酸溶液の濃度が5~30重量%程度になるような使用量に調整して用いることが好ましい。
【0035】
合成されたポリアミド酸は、通常、反応溶媒溶液として使用することが有利であるが、必要により濃縮、希釈又は他の有機溶媒に置換して樹脂組成物を形成することができる。ポリアミド酸をイミド化させる方法は、特に制限されず、例えば前記溶媒中で、80~400℃の範囲内の温度条件で1~24時間かけて加熱するといった熱処理が好適に採用される。
【0036】
ポリイミドは、熱可塑性ポリイミドでもよいし、熱硬化性ポリイミドでもよい。なお、「熱可塑性ポリイミド」とは、一般にガラス転移温度(Tg)が明確に確認できるポリイミドのことであるが、本発明では、動的粘弾性測定装置(DMA)を用いて測定した、30℃における貯蔵弾性率が1.0×10Pa以上であり、300℃における貯蔵弾性率が3.0×10Pa未満であるポリイミドをいう。また、「非熱可塑性ポリイミド」とは、一般に加熱しても軟化、接着性を示さないポリイミドのことであるが、本発明では、動的粘弾性測定装置(DMA)を用いて測定した、30℃における貯蔵弾性率が1.0×10Pa以上であり、300℃における貯蔵弾性率が3.0×10Pa以上であるポリイミドをいう。
【0037】
[シリカ粒子]
シリカ粒子としては、結晶性シリカ粒子を含んでいればよい。また、非晶質シリカ粒子を含んでいてもよい。樹脂組成物に結晶性シリカ粒子を配合することによって、樹脂フィルムを形成したときの誘電正接を低下させることができる。樹脂フィルムを形成したときの低誘電正接化を図る観点から、結晶性シリカ粒子として、クリストバライト結晶相を有するシリカ粒子を用いることが特に好ましい。クリストバライト結晶相を有するシリカ粒子は、一般的なシリカ粒子と比較して非常に優れた誘電特性(例えば、クリストバライト結晶相を90重量%以上含有するシリカ粒子は、単体で10GHzにおける誘電正接が0.0008程度)であり、樹脂フィルムの低誘電正接化に大きく寄与することができる。
【0038】
また、シリカ粒子は、レーザ回折散乱法による体積基準の粒度分布によって得られる頻度分布曲線におけるメジアン径D50が6~20μmの範囲内にあり、8~15μmの範囲内であることが好ましい。この範囲内であれば誘電特性を効果的に上昇させ、樹脂フィルムに配合した時の表面平滑性を悪化させることなく、低誘電化された樹脂フィルムが得られる。メジアン径D50が前記範囲を下回るとシリカ粒子の表面積が増えシリカ粒子表面の吸着水が誘電特性へ影響を及ぼすことがある。メジアン径D50が前記範囲を上回るとフィルムの表面の凹凸として現れフィルム表面の平滑性を悪化させることがある。
【0039】
また、シリカ粒子としては、球状シリカ粒子を用いることが好ましい。球状シリカ粒子は、形状が真球状に近いシリカ粒子で、平均長径と平均短径の比が1又は1に近いものをいう。また、シリカ粒子の分散性と誘電特性の改善作用を高めるため、粒子径が3μm以上のシリカ粒子の90重量%以上が円形度0.7以上であることが好ましく、0.9以上であることがより好ましい。シリカ粒子の円形度は、画像解析法によって、撮影された粒子と同じ投影面積を持つ円を想定し、その円の周囲長と当該粒子の周囲長の比で求めることができる。円形度が0.7未満であると、表面積が増え、誘電特性に悪影響が生じることがあり、さらに樹脂溶液へ配合した際の粘度の上昇が大きくなり、取り扱いがし難くなる。また、3次元的に求められる真球度においても前記円形度の値と実質的に対応する値が好ましい。
【0040】
また、シリカ粒子は、シリカ粒子の分散性と誘電特性の改善作用を高めるため、真比重が2.3以上であることが好ましい。真比重が2.3未満であるとシリカ粒子の結晶化度が小さいことを示唆し、誘電特性向上の効果が小さくなる。
【0041】
シリカ粒子は表面処理を施しても良い。表面処理には公知の技術を用いることができ、例えばコロナ処理、プラズマ処理、UV処理などによる改質や、シランカップリング剤等を用いた官能基化処理などが好ましい。シリカ粒子を表面処理することによって、粒子表面にアルキル基、アミノ基及びアルコキシ基などを付与することによって、溶剤もしくはポリアミック酸との親和性を向上させる、もしくは粒子同士の反発力を向上させることで、シリカ粒子の分散性、ワニスの長期安定性が向上する。
【0042】
樹脂フィルムを形成したときの低誘電正接化を図る観点から、使用するシリカ粒子の集合体全体として、CuKα線によるX線回折分析スペクトルの2θ=10°~90°の範囲におけるSiOに由来する全ピークの総面積に対するクリストバライト結晶相及びクオーツ結晶相に由来するピークの合計面積の割合が20重量%以上であることが好ましく、40重量%以上がより好ましく、80重量%以上が望ましい。シリカ粒子全体におけるクリストバライト結晶相及び/又はクオーツ結晶相の割合を高くすることで、ポリイミドの更なる低誘電正接化を図ることが可能となる。シリカ粒子全体におけるクリストバライト結晶相及びクオーツ結晶相に由来するピークの面積の割合が20重量%未満であると誘電特性向上の効果が不明瞭になる。クリストバライト結晶相の割合は、一様に混合された状態の全シリカ粒子について、α放射線を使用したX線回折法(XRD)によって10°≦2θ≦90°の範囲内で測定されるクリストバライト結晶相及びクオーツ結晶相に由来する回折ピークの合計面積と、前記範囲内の全シリカ粒子由来の回折ピークの総面積の比で求められる。なお、X線回折分析スペクトルにおける対象のピークが、非晶質のブロードなピークとの分離が困難な場合や他の結晶相ピークと重なる場合は、公知の各種解析手法、例えば内部標準法やPONKCS法等を用いることができる。
【0043】
好ましい実施の形態としては、クリストバライト結晶相の割合が50重量%以上であるシリカ粒子の集合体を用いることができる。さらに好ましい実施形態としては、クリストバライト結晶相の割合が90重量%以上であるシリカ粒子の集合体の一部分(例えば、全体の80重量%以下)を非晶質のシリカ粒子で代替して使用することができる。非晶質シリカ粒子の代替使用は、必要に応じて行うことができ、それによってコストの削減、高密度充填及び溶液粘度の調整が可能になり、取り扱い性に優れた樹脂組成物が調製できるメリットがある。
【0044】
なお、シリカ粒子は、市販品を適宜選定して用いることができる。結晶性シリカ粒子として、例えば、球状クリストバライトシリカ粉末(日鉄ケミカル&マテリアル社製、商品名;CR10-20)を好ましく使用できる。また、結晶性シリカ粒子と組み合わせて配合可能な非晶質シリカ粒子として、球状非晶質シリカ粉末(日鉄ケミカル&マテリアル社製、商品名;SC70-2、商品名;SP40-10)などを用いることができる。さらに、シリカ粒子として2種以上の異なるシリカ粒子を併用してもよい。
【0045】
[配合組成]
樹脂組成物におけるシリカ粒子の含有量は、樹脂組成分中の有機化合物の固形分及びシリカ粒子の合計量に対し10~85重量%(ただしポリアミド酸はイミド化されたポリイミドに換算する。)の範囲内であり、好ましくは10~80重量%の範囲内、より好ましくは15~75重量%の範囲内である。シリカ粒子の含有割合が10重量%に満たないと、誘電正接を低下させる効果が十分に得られなくなる。また、シリカ粒子の含有割合が85重量%を超えると、ポリイミドの接着性などの特性が低下し、特にシリカ粒子の含有割合が80重量%を超えると、樹脂フィルムを形成したときに脆くなり、折り曲げ性が低下するとともに、樹脂フィルムを形成しようとする場合、樹脂組成物の粘度が高くなり、作業性も低下する。
【0046】
[任意成分]
本実施の形態の樹脂組成物は、有機溶媒を含有することができる。有機溶媒としては、例えば、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N-ジメチルアセトアミド(DMAc)、N,N-ジエチルアセトアミド、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)、2-ブタノン、ジメチルスルホキシド(DMSO)、ヘキサメチルホスホルアミド、N-メチルカプロラクタム、硫酸ジメチル、シクロヘキサノン、ジオキサン、テトラヒドロフラン、ジグライム、トリグライム、クレゾール等が挙げられる。これらの溶媒を2種以上併用することもでき、更にはキシレン、トルエンのような芳香族炭化水素の併用も可能である。有機溶媒の含有量としては特に制限されるものではないが、ポリアミド酸又はポリイミドの濃度が5~30重量%程度になるような使用量に調整して用いることが好ましい。
【0047】
本発明の樹脂組成物には、発明の効果を損なわない範囲で、必要に応じて任意成分として、シリカ以外の無機フィラー、無機顔料、無機系難燃剤、無機系放熱剤などを適宜配合することができる。シリカ粒子以外の無機フィラーとしては、例えば、酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、酸化ベリリウム、酸化ニオブ、酸化チタン、窒化ホウ素、窒化アルミニウム、窒化ケイ素、フッ化アルミニウム、フッ化カルシウム、フッ化マグネシウム、ケイフッ化カリウム、ホスフィン酸金属塩等を挙げることができる。これらは1種又は2種以上を混合して用いることができる。
【0048】
[粘度]
樹脂組成物の粘度は、樹脂組成粒を塗工する際のハンドリング性を高め、均一な厚みの塗膜を形成しやすい粘度範囲として、例えば3000cps~100000cpsの範囲内とすることが好ましく、5000cps~50000cpsの範囲内とすることがより好ましい。上記の粘度範囲を外れると、コーター等による塗工作業の際にフィルムに厚みムラ、スジ等の不良が発生し易くなる。
【0049】
[樹脂組成物の調製]
樹脂組成物の調製に際しては、例えば、任意の溶剤を用いて作製したポリアミド酸の樹脂溶液にシリカ粒子を直接配合してもよい。あるいは、シリカ粒子の分散性を考慮し、ポリアミド酸の原料である酸二無水物成分及びジアミン成分のいずれか片方を投入した反応溶媒に予めシリカ粒子を配合した後、攪拌下にもう片方の原料を投入して重合を進行させてもよい。いずれの方法においても、一回でシリカ粒子を全量投入してもよいし、数回分けて少しずつ添加してもよい。また、原料も一括で入れてもよいし、数回に分けて少しずつ混合してもよい。
【0050】
[樹脂フィルム]
本実施の形態の樹脂フィルムは、単層又は複数層のポリイミド層を有する樹脂フィルムであって、ポリイミド層の少なくとも1層、好ましくは全てが、上記樹脂組成物により形成された結晶性シリカ含有ポリイミド層であればよい。
【0051】
樹脂フィルム中で、樹脂組成物によって形成される結晶性シリカ含有ポリイミド層の厚みは、例えば15~200μmの範囲内であることが好ましく、20~150μmの範囲内であることがより好ましい。結晶性シリカ含有ポリイミド層の厚みが15μmに満たないと、シリカ粒子が樹脂フィルムの表面へ突出し、表面平滑性が悪くなる。反対に、結晶性シリカ含有ポリイミド層の厚みが200μmを超えると樹脂フィルムの折り曲げ性が低下するなどの点で不利になる傾向となる。
【0052】
樹脂フィルム全体の厚さは、例えば15~200μmの範囲内であり、20~200μmの範囲内であることが好ましく、25~200μmの範囲内がより好ましい。樹脂フィルムの厚みが15μmに満たないと、金属張積層板の製造時の搬送工程で金属箔にシワが入り、また樹脂フィルムが破れるなどの不具合が生じやすくなる。反対に、樹脂フィルムの厚みが200μmを超えると樹脂フィルムの折り曲げ性が低下するなどの点で不利になる傾向となる。
【0053】
また、樹脂フィルムの全体の厚みに対する結晶性シリカ含有ポリイミド層の厚みの割合は、総厚みに対して50%以上であることが好ましい。樹脂フィルムの全体の厚みに対する結晶性シリカ含有ポリイミド層の厚みの割合が50%未満では、誘電特性の改善効果が十分に得られない。
【0054】
結晶性シリカ含有ポリイミド層を形成する方法は、特に限定されるものではなく公知の手法を採用することができる。ここでは、その最も代表的な例を示す。
まず、樹脂組成物を任意の支持基材上に直接流延塗布して塗布膜を形成する。次に、塗布膜を150℃以下の温度である程度溶媒を乾燥除去する。樹脂組成物がポリアミド酸を含有する場合は、その後、塗布膜に対し、更にイミド化のために100~400℃、好ましくは130~360℃の温度範囲で5~30分間程度の熱処理を行う。このようにして支持基材上に結晶性シリカ含有ポリイミド層を形成することができる。
2層以上のポリイミド層とする場合、第一のポリアミド酸の樹脂溶液を塗布、乾燥したのち、第二のポリアミド酸の樹脂溶液を塗布、乾燥する。それ以降は、同様にして第三のポリアミド酸の樹脂溶液、次に、第四のポリアミド酸の樹脂溶液、・・・というように、ポリアミド酸の樹脂溶液を、必要な回数だけ、順次塗布し、乾燥する。その後、まとめて100~400℃の温度範囲で5~30分間程度の熱処理を行って、イミド化を行うことがよい。イミド化の温度が100℃より低いとポリイミドの脱水閉環反応が十分に進行せず、反対に400℃を超えると、ポリイミド層が劣化するおそれがある。
また、イミド化した任意のポリイミド層に適切な表面処理等を行うことで、さらに重ねて樹脂溶液の塗布、乾燥及びイミド化の工程を経て、新たに層を重ねることができる。その場合、途中工程のイミド化は完結させる必要はなく、最終工程にてまとめてイミド化を完結させることができる。
また、イミド化した任意のポリイミド層は、別に形成した樹脂フィルムと加熱圧着することができる。
なお、樹脂フィルムは支持基材付きの状態でも良い。
【0055】
また、結晶性シリカ含有ポリイミド層を形成する別の例を挙げる。
まず、任意の支持基材上に、樹脂組成物を流延塗布してフィルム状成型する。このフィルム状成型物を、支持基材上で加熱乾燥することにより自己支持性を有するゲルフィルムとする。ゲルフィルムを支持基材より剥離した後、樹脂組成物がポリアミド酸を含有する場合は、更に高温で熱処理し、イミド化させてポリイミドの樹脂フィルムとする。
【0056】
結晶性シリカ含有ポリイミド層の形成に用いる支持基材は、特に限定されるものではなく、任意の材質の基材を用いることができる。また、樹脂フィルムの形成にあたっては、基材上で完全にイミド化を完了させた樹脂フィルムを形成する必要はない。例えば、半硬化状態のポリイミド前駆体状態での樹脂フィルムを支持基材から剥離等の手段で分離し、分離後イミド化を完了させて樹脂フィルムとすることもできる。
【0057】
樹脂フィルムは、無機フィラーを含有するポリイミド層(上記結晶性シリカ含有ポリイミド層を含む)のみからなっていてもよく、無機フィラーを含有しないポリイミド層を有してもよい。樹脂フィルムを複数層の積層構造とする場合、誘電特性の改善を考慮するとすべての層に無機フィラーを含有させることが好ましい。ただし、無機フィラーを含有するポリイミド層の隣接層を、無機フィラーを含有しない層とするか、あるいはその含有量が低い層とすることにより、加工時等での無機フィラーの滑落が防止できるという有利な効果をもたせることができる。無機フィラーを含有しないポリイミド層を有する場合、その厚みは、例えば、無機フィラーを含有するポリイミド層の1/100~1/2の範囲内、好ましくは1/20~1/3の範囲内とすることがよい。無機フィラーを含有しないポリイミド層を有する場合、そのポリイミド層が金属層に接するようにすれば、金属層と絶縁層の接着性が向上する。
【0058】
樹脂フィルムの熱膨張係数(CTE)は、特に限定されないが、例えば10×10-6~50×10-6/K(10~50ppm/K)の範囲内にあることが好ましく、15×10-6~40×10-6/K(15~40ppm/K)の範囲内がより好ましい。樹脂フィルムの熱膨張係数が10×10-6/Kより小さいと、金属張積層板とした後でカールが生じやすくハンドリング性に劣る。一方、樹脂フィルムの熱膨張係数が50×10-6/Kを超えると、フレキシブル基板など電子材料としての寸法安定性に劣り、また耐熱性も低下する傾向にある。
【0059】
[誘電正接]
樹脂フィルムは、例えば、回路基板の絶縁樹脂層として適用する場合において、高周波信号の伝送時における誘電損失を低減するために、フィルム全体として、スプリットポスト誘電体共振器(SPDR)により測定したときの3~20GHzにおける誘電正接(Tanδ)が、0.005以下であることが好ましく、0.004以下であることがより好ましい。回路基板の伝送損失を改善するためには、特に絶縁樹脂層の誘電正接を制御することが重要であり、誘電正接を上記範囲内とすることで、伝送損失を下げる効果が増大する。従って、樹脂フィルムを、例えば高周波回路基板の絶縁樹脂層として適用する場合、伝送損失を効率よく低減できる。3~20GHzにおける誘電正接が0.005を超えると、樹脂フィルムを回路基板の絶縁樹脂層として適用した際に、高周波信号の伝送経路上で電気信号のロスが大きくなるなどの不都合が生じやすくなる。3~20GHzにおける誘電正接の下限値は特に制限されないが、樹脂フィルムを回路基板の絶縁樹脂層として適用する場合の物性制御を考慮する必要がある。
【0060】
[比誘電率]
樹脂フィルムは、例えば回路基板の絶縁樹脂層として適用する場合において、インピーダンス整合性を確保するために、フィルム全体として、スプリットポスト誘電体共振器(SPDR)により測定したときの3~20GHzにおける比誘電率が3.1以下であることが好ましい。3~20GHzにおける比誘電率が3.1を超えると、樹脂フィルムを回路基板の絶縁樹脂層として適用した際に、誘電損失の悪化に繋がり、高周波信号の伝送経路上で電気信号のロスが大きくなるなどの不都合が生じやすくなる。
【0061】
[金属張積層板]
本実施の形態の金属張積層板は、絶縁樹脂層と、この絶縁樹脂層の少なくとも一方の面に積層された金属層と、を備えた金属張積層板であり、絶縁樹脂層の少なくとも1層が上記樹脂フィルムからなる。金属張積層板は、絶縁樹脂層の片面側のみに金属層を有する片面金属張積層板であってもよいし、絶縁樹脂層の両面に金属層を有する両面金属張積層板であってもよい。
【0062】
[絶縁樹脂層]
絶縁樹脂層は単層又は複数層から構成され、上記樹脂フィルムからなる層を含んでいる。例えば、上記樹脂フィルムが、機械特性や熱物性を担保するための絶縁樹脂層の主たる層としての非熱可塑性ポリイミド層を形成していてもよい。また、上記樹脂フィルムが、銅箔などの金属層との接着強度を担う接着剤層としての熱可塑性ポリイミド層を形成していてもよい。なお、「主たる層」とは、絶縁樹脂層の総厚みの50%以上を占める層を意味する。
また、本実施の形態の金属張積層板は、無機フィラーを含有するポリイミド層と金属箔とを接着するための接着剤を用いることを除外するものではない。ただし、絶縁樹脂層の両面に金属層を有する両面金属張積層板において接着層を介在させる場合には、接着層の厚みは、誘電特性を損なわないように、全絶縁樹脂層の厚みの30%未満とすることが好ましく、20%未満とすることがより好ましい。また、絶縁樹脂層の片面のみに金属層を有する片面金属張積層板において接着層を介在させる場合には、接着層の厚みは、誘電特性を損なわないように、全絶縁樹脂層の厚みの15%未満とすることが好ましく、10%未満とすることがより好ましい。また、接着層は絶縁樹脂層の一部を構成するので、ポリイミド層であることが好ましい。結晶性シリカ含有ポリイミド層が絶縁樹脂層の主たる層を構成する場合、結晶性シリカ含有ポリイミド層のガラス転移温度は、耐熱性を付与する観点から300℃以上とすることが好ましい。ガラス転移温度を300℃以上とするには、ポリイミドを構成する上記の酸二無水物やジアミン成分を適宜選択することで可能となる。
【0063】
樹脂フィルムを絶縁樹脂層とする金属張積層板を製造する方法としては、例えば、樹脂フィルムに直接、又は任意の接着剤を介して金属箔を加熱圧着する方法や、金属蒸着等の手法によって樹脂フィルムに金属層を形成する方法などを挙げることができる。なお、両面金属張積層板は、例えば、片面金属張積層板を形成した後、互いにポリイミド層を向き合わせて熱プレスによって圧着し形成する方法や、片面金属張積層板のポリイミド層に金属箔を圧着し形成する方法等により得ることができる。
【0064】
[金属層]
金属層の材質としては、特に制限はないが、例えば、銅、ステンレス、鉄、ニッケル、ベリリウム、アルミニウム、亜鉛、インジウム、銀、金、スズ、ジルコニウム、タンタル、チタン、鉛、マグネシウム、マンガン及びこれらの合金等が挙げられる。これらの中でも、特に銅又は銅合金が好ましい。金属層は、金属箔からなるものであってもよいし、フィルムに金属蒸着したもの、ペースト等を印刷したものであってもよい。また、樹脂組成物を直接塗布可能な点から、金属箔でも金属板でも使用可能であり、銅箔若しくは銅板が好ましい。
【0065】
金属層の厚みは、金属張積層板の使用目的に応じて適宜設定されるため特に限定されないが、例えば5μm~3mmの範囲内が好ましく、12μm~1mmの範囲内がより好ましい。金属層の厚みが5μmに満たないと、金属張積層板の製造等における搬送時にシワが入るなどの不具合が生じるおそれがある。反対に金属層の厚みが3mmを超えると硬くて加工性が悪くなる。金属層の厚みについては、一般的に、車載用回路基板などの用途では厚いものが適し、LED用回路基板などの用途などでは薄い金属層が適する。
【実施例
【0066】
以下に実施例を示し、本発明の特徴をより具体的に説明する。ただし、本発明の範囲は、実施例に限定されない。なお、以下の実施例において、特にことわりのない限り各種測定、評価は下記によるものである。
【0067】
[粘度の測定]
樹脂溶液の粘度はE型粘度計(ブルックフィールド社製、商品名;DV-II+Pro)を用いて、25℃における粘度を測定した。トルクが10%~90%になるよう回転数を設定し、測定を開始してから1分経過後、粘度が安定した時の値を読み取った。
【0068】
[比誘電率及び誘電正接の測定]
<シリカ粒子>
ベクトルネットワークアナライザ(キーサイトテクノロジー社製、商品名;ベクトルネットワークアナライザE8363C)及び空洞共振器摂動法による関東電子応用開発社製の比誘電率測定装置を用い、比誘電率測定モード;TM020に設定し、周波数10GHzにおけるシリカ粒子の比誘電率(ε1)及び誘電正接(Tanδ1)を測定した。なお、シリカ粒子は粉体状であり試料管チューブ(内径は1.68mm、外径は2.28mm、高さは8cm)へ充填し、測定した。
<樹脂フィルム>
ベクトルネットワークアナライザ(キーサイトテクノロジー社製、商品名;ベクトルネットワークアナライザE8363C)およびSPDR共振器を用いて、周波数10GHzにおける樹脂フィルムの比誘電率(ε1)および誘電正接(Tanδ1)を測定した。なお、測定に使用した樹脂フィルムは、温度;24~26℃、湿度;45~55%の条件下で、24時間放置したものである。
【0069】
[熱膨張係数(CTE)の測定]
3mm×20mmのサイズの樹脂フィルムを、サーモメカニカルアナライザー(Bruker社製、商品名;4000SA)を用い、5.0gの荷重を加えながら一定の昇温速度で30℃から265℃まで昇温させ、更にその温度で10分保持した後、5℃/分の速度で冷却し、200℃から100℃までの平均熱膨張係数(熱膨張係数、CTE)を求めた。
【0070】
[粒子径の測定]
レーザ回折式粒度分布測定装置(マルバーン社製、商品名;Master Sizer 3000)を用いて、水を分散媒とし粒子屈折率1.54の条件で、レーザ回折・散乱式測定方式によるシリカ粒子の粒子径の測定を行った。
【0071】
[真比重の測定]
連続自動粉体真密度測定装置(セイシン企業社製、商品名;AUTO TRUE DENSERMAT‐7000)を用いて、ピクノメーター法(液相置換法)によるシリカ粒子の真比重の測定を行った。
【0072】
[クリストバライト結晶相の測定]
X線回折測定装置(ブルカー社製、商品名;D2PHASER)を用いて、回折角度(Cu,Kα)2θ=10°~90°の範囲のSiOに由来する全ての回折パターン(ピーク位置、ピーク幅及びピーク強度)から、SiOに由来する全ピークの総面積を算出する。次に、クリストバライト結晶相に由来するピーク位置を特定し、クリストバライト結晶相の全ピークの総面積を算出して、SiOに由来する全ピークの総面積に対する割合(重量%)を求めた。なお、各ピークの帰属は、International Centre for Diffraction Data(ICDD)のデータベースを参照した。
【0073】
[円形度の測定]
湿式フロー式粒子径・形状分析装置(シスメックス社製、商品名;FPIA-3000)を用いて、動的流動粒子画像解析によるシリカ粒子の平均円形度を測定した。
【0074】
[折り曲げ性の評価]
JISK5600-5-1に準拠し、5cm×10cmサイズの樹脂フィルムの長辺の中心を、5mmφの金属棒に巻きつけるように1~2秒かけて均一に曲げ、樹脂フィルムが180℃折れ曲がっても破断又はクラックが入らないものを「良」、破断又はクラックが発生するものを「不可」とした。
【0075】
合成例及び比較例、実施例に用いた略号は、以下の化合物を示す。
PMDA:ピロメリット酸二無水物
BPDA:3,3',4,4'‐ビフェニルテトラカルボン酸二無水物
BAPP:2,2-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]プロパン
m‐TB:2,2'‐ジメチル‐4,4'‐ジアミノビフェニル
DMAc:N,N‐ジメチルアセトアミド
フィラー1:日鉄ケミカル&マテリアル社製。商品名;CR10-20(球状クリストバライトシリカ粉末、円形度;0.98、クリストバライト結晶相;98重量%、真比重;2.33、D50;10.8μm、10GHzにおける比誘電率;3.16、10GHzにおける誘電正接;0.0008)
フィラー2:日鉄ケミカル&マテリアル社製。商品名;SC70-2(球状非晶質シリカ粉末、円形度;0.98、真比重;2.21、D50;11.7μm、10GHzにおける比誘電率;3.08、10GHzにおける誘電正接;0.0015)
フィラー3:日鉄ケミカル&マテリアル社製、商品名;SP40-10(球状非晶質シリカ粉末、真球状、真比重;2.21、D50;2.5μm、10GHzにおける比誘電率;2.78、10GHzにおける誘電正接;0.0030)
【0076】
(合成例1)
300mlのセパラブルフラスコに、24gのBAPP(60mmol)、230gのDMAcを投入し、室温、窒素気流下で撹拌した。完全に溶解した後、6.5gのPMDA(30mmol)、8.7gのBPDA(30mmol)を添加し、室温で18時間撹拌してポリアミド酸溶液Aを得た。得られたポリアミド酸溶液Aの粘度は21,074cpsであった。
【0077】
(合成例2)
300mlのセパラブルフラスコに、19gのm-TB(90mmol)及び230gのDMAcを投入し、室温、窒素気流下で撹拌した。完全に溶解した後、16gのPMDA(72mmol)及び5.3gのBPDA(18mmol)を添加し、室温で18時間撹拌してポリアミド酸溶液Bを得た。得られたポリアミド酸溶液Bの粘度は22,400cpsであった。
【0078】
[実施例1]
58.7gのポリアミド酸溶液A及び6.1gのフィラー1を混合し、目視にて一様な溶液となるまで攪拌し、ポリアミド酸組成物1a(粘度;23,000cps)を調製した。
銅箔1(電解銅箔、厚み;12μm)の上にポリアミド酸組成物1aを塗布し、130℃で3分間乾燥させた。その後155℃から360℃まで段階的な熱処理を行ってイミド化し、金属張積層板1bを調製した。金属張積層板1bの銅箔をエッチング除去し、樹脂フィルム1cを調製した。樹脂フィルム1c(厚み;51.6μm)の比誘電率は3.04、誘電正接は0.0044、折り曲げ性は「良」であった。
【0079】
[実施例2]
70.0gのポリアミド酸溶液B及び7.8gのフィラー1を混合し、目視にて一様な溶液となるまで攪拌し、ポリアミド酸組成物2a(粘度;24,800cps)を調製した。
実施例1と同様にして、金属張積層板2b及び樹脂フィルム2cを調製した。樹脂フィルム2c(厚み;46.1μm)の比誘電率は2.78、誘電正接は0.0037、CTEは34ppm/K、折り曲げ性は「良」であった。
【0080】
[実施例3]
60.0gのポリアミド酸溶液B及び20.0gのフィラー1を混合し、目視にて一様な溶液となるまで攪拌し、ポリアミド酸組成物3a(粘度;28,400cps)を調製した。
実施例1と同様にして、金属張積層板3b及び樹脂フィルム3cを調製した。樹脂フィルム3c(厚み;78.1μm)の比誘電率は2.71、誘電正接は0.0028、CTEは34ppm/K、折り曲げ性は「良」であった。
【0081】
[実施例4]
55.0gのポリアミド酸溶液B及び36.6gのフィラー1を混合し、目視にて一様な溶液となるまで攪拌し、ポリアミド酸組成物4a(粘度;29,900cps)を調製した。
実施例1と同様にして、金属張積層板4bを調製後、樹脂フィルム4cを調製した。樹脂フィルム4c(厚み;117.8μm)の比誘電率は2.56、誘電正接は0.0015、CTEは31ppm/K、折り曲げ性は「不可」であった。
【0082】
[実施例5]
50.0gのポリアミド酸溶液B、6.6gのフィラー1及び25.3gのフィラー2を混合し、目視にて一様な溶液となるまで攪拌し、ポリアミド酸組成物5a(粘度;31,000cps)を調製した。
実施例1と同様にして、金属張積層板5bを調製後、樹脂フィルム5cを調製した。樹脂フィルム5c(厚み;115.5μm)の比誘電率は2.71、誘電正接は0.0017、CTEは27ppm/K、折り曲げ性は「不可」であった。
【0083】
(比較例1)
銅箔1の上にポリアミド酸溶液Aを塗布し、90℃で1分間、130℃で5分間乾燥させた。その後155℃から360℃まで段階的な熱処理を行ってイミド化し、金属張積層板A1を調製した。
実施例1と同様にして、金属張積層板A1の銅箔をエッチング除去し、樹脂フィルムA1を調製した。樹脂フィルムA1(厚み;41.4μm)の比誘電率は3.16、誘電正接は0.0062、CTEは51ppm/K、折り曲げ性は「良」であった。
【0084】
(比較例2)
56.2gのポリアミド酸溶液A及び5.5gのフィラー2を混合し、目視にて一様な溶液となるまで攪拌し、ポリアミド酸組成物A2(粘度;23,600cps)を調製した。
実施例1と同様にして、金属張積層板A2及び樹脂フィルムA2を調製した。樹脂フィルムA2(厚み;50.7μm)の比誘電率は3.04、誘電正接は0.0047、折り曲げ性は「良」であった。
【0085】
(比較例3)
56.2gのポリアミド酸溶液A及び5.5gのフィラー3を混合し、目視にて一様な溶液となるまで攪拌し、ポリアミド酸組成物A3(粘度;30,000cps)を調製した。
実施例1と同様にして、金属張積層板A3を調製後、樹脂フィルムA3を調製した。樹脂フィルムA3(厚み;45.6μm)の比誘電率は3.25、誘電正接は0.0052、CTEは41、折り曲げ性は「良」であった。
【0086】
以上の結果をまとめて、表1及び表2に示す。
表1中の結晶相とは、クリストバライト結晶相の割合を意味し、フィラー割合とは、ポリアミド酸溶液(ワニス)全体、又は、有機化合物の固形分及び前記シリカ粒子の合計に対するフィラーの割合(重量比率)を意味する(ただし、ポリアミド酸の重量をイミド化後のポリイミドに換算して計算した)。また、表2中のフィラー含有率とは、樹脂フィルムに対するフィラーの割合(重量比率)を意味する。
【0087】
【表1】
【0088】
【表2】
【0089】
実施例1のポリアミド酸組成物1aは、比較例2及び3のポリアミド酸組成物A2及びA3とそれぞれ比較して、粘度が低くなっていることが確認された。また、実施例1の樹脂フィルム1cは、比較例2~3の樹脂フィルムA2~A3と比較して、比誘電率及び誘電正接が低下しており、クリストバライト結晶相の割合が高いほど低誘電化の効果が確認された。
【0090】
以上の結果から、本実施の形態に係る樹脂フィルムは、高周波対応フレキシブルプリント基板用材料として好適に使用できることが確認された。
【0091】
以上、本発明の実施の形態を例示の目的で詳細に説明したが、本発明は上記実施の形態に制約されることはなく、種々の変形が可能である。