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特許7446875L-カルニチン測定方法及びL-カルニチン測定キット
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-01
(45)【発行日】2024-03-11
(54)【発明の名称】L-カルニチン測定方法及びL-カルニチン測定キット
(51)【国際特許分類】
   C12Q 1/32 20060101AFI20240304BHJP
【FI】
C12Q1/32 ZNA
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2020044993
(22)【出願日】2020-03-16
(65)【公開番号】P2021145552
(43)【公開日】2021-09-27
【審査請求日】2022-08-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000103840
【氏名又は名称】オリエンタル酵母工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】松川 寛和
(72)【発明者】
【氏名】大場 貴史
(72)【発明者】
【氏名】宮地 真由
(72)【発明者】
【氏名】砂原 美子
【審査官】小倉 梢
(56)【参考文献】
【文献】特開平03-061499(JP,A)
【文献】特開平03-251196(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12Q 1/00 - 1/70
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
UniProt/GeneSeq
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
β-チオニコチンアミドアデニンジヌクレオチド酸化型(Thio-NAD)及びβ-ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド還元型(NADH)の存在下、又は、
β-チオニコチンアミドアデニンジヌクレオチド還元型(Thio-NADH)及びβ-ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド酸化型(NAD)の存在下で、
測定対象から取り出した試料中のL-カルニチンを、カルニチンデヒドロゲナーゼ(CDH)と反応させる反応工程を含み、
前記CDHが、(a)配列番号2のアミノ酸配列からなるCDH、又は(b)配列番号2で表されるアミノ酸配列と90%以上の同一性を有するアミノ酸配列を有し、かつThio-NADの存在下でL-カルニチンからデヒドロカルニチンへの反応を触媒する活性及びThio-NADHの存在下でデヒドロカルニチンからL-カルニチンへの反応を触媒する活性を有するCDHであり、
前記反応工程の反応系にトレハロースを共存させる、L-カルニチン測定方法。
【請求項2】
前記反応工程が、Thio-NAD及びNADHの存在下で実施される、請求項1に記載のL-カルニチン測定方法。
【請求項3】
前記トレハロースの反応時終濃度が5~50重量%である、請求項1又は2に記載のL-カルニチン測定方法。
【請求項4】
Thio-NAD又はNADを含有する水溶液からなる第1反応試液と、
NADH又はThio-NADHを含有する水溶液からなる第2反応試液と、を備え、
前記第1反応試液がThio-NADを含有する場合は、前記第2反応試液はNADHを含有し、前記第1反応試液がNADを含有する場合は、前記第2反応試液はThio-NADHを含有し、
前記第1反応試液と第2反応試液の少なくとも1つがCDHを含有し、ここで、前記CDHが、(a)配列番号2のアミノ酸配列からなるCDH、又は(b)配列番号2で表されるアミノ酸配列と90%以上の同一性を有するアミノ酸配列を有し、かつThio-NADの存在下でL-カルニチンからデヒドロカルニチンへの反応を触媒する活性及びThio-NADHの存在下でデヒドロカルニチンからL-カルニチンへの反応を触媒する活性を有するCDHであり、
前記第1反応試液と第2反応試液の少なくとも1つがトレハロースを含有する、
L-カルニチン測定キット。
【請求項5】
前記第1反応試液がThio-NADを含有する水溶液からなり、前記第2反応試液がNADHを含有する水溶液からなる、請求項4に記載のL-カルニチン測定キット。
【請求項6】
前記CDHと、前記トレハロースとが、別の反応試液にそれぞれ含まれる、請求項4又は5に記載のL-カルニチン測定キット。
【請求項7】
カルニチンデヒドロゲナーゼ(CDH)とトレハロースを共存させて、Thio-NADの存在下でL-カルニチンからデヒドロカルニチンへの反応及び/又はThio-NADHの存在下でデヒドロカルニチンからL-カルニチンへの反応を促進する、CDHの反応促進方法であって、ここで、前記CDHが、(a)配列番号2のアミノ酸配列からなるCDH、又は(b)配列番号2で表されるアミノ酸配列と90%以上の同一性を有するアミノ酸配列を有し、かつThio-NADの存在下でL-カルニチンからデヒドロカルニチンへの反応を触媒する活性及びThio-NADHの存在下でデヒドロカルニチンからL-カルニチンへの反応を触媒する活性を有するCDHである、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、L-カルニチン測定方法及びL-カルニチン測定キットに関する。
【背景技術】
【0002】
L-カルニチン(以下、単に「カルニチン」とも称する)は、ビタミン様作用物質としてビタミンBTとも呼ばれる低分子窒素化合物であり、肝臓、腎臓、脳で合成され、他の組織では能動輸送で血中から取り込まれる。体内では大部分が骨格筋と心筋に存在する。カルニチンは、食肉などの食物として摂取され、組織内、血液、尿では遊離型カルニチン又はアシルカルニチンとして存在し、主に尿中へ遊離型又はアシル型として排泄される。カルニチンは、主として、長鎖脂肪酸と結合してアシルカルニチンの形でミトコンドリアに取り込ませ、長鎖脂肪酸をβ酸化系に送り込みエネルギー産生させる働きを有する。人体において、通常食を摂取している限り、血中のカルニチン濃度が極端に増加減少することはないと言われているが、原発性及び続発性カルニチン欠損症といった先天性の要因、長期経静脈栄養等によるカルニチン摂取減少、火傷、敗血症、Fanconi症候群等によるカルニチン排泄の亢進、血液透析、及び薬剤使用といった後天性の要因により、大幅な減少がみられることが知られている。カルニチンが欠乏すると、骨格筋の筋力低下、筋委縮、心筋では心筋症、高アンモニア血症、低ケトン性低血糖による意識低下や昏睡などの症状がみられる(カルニチン欠乏症)。
【0003】
主にカルニチン欠乏症の診断補助を目的として、血中又は尿中のカルニチン濃度が測定される。遊離型カルニチン量は、血清、血漿、尿等のサンプルから直接測定可能である。アシルカルニチン量は、サンプル中のカルニチンを遊離型に変換して総カルニチン量を測定した後、別途測定した遊離型カルニチン量を差し引くことで測定可能である。カルニチン(遊離型カルニチン、総カルニチン)量の測定方法としては、例えば、カルニチンデヒドロゲナーゼとチオニコチンアミドアデニンジヌクレオチド類、及びニコチンアミドアデニンジヌクレオチド類を使用する、酵素サイクリング法が知られる(特許文献1)。酵素サイクリング法に使用されるカルニチンデヒドロゲナーゼとしては、例えば、大腸菌等の微生物を用いて生成された組換え酵素を使用できることが知られる(特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開平3-251196号公報
【文献】特開平3-127985号公報
【文献】特開平5-161492号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
酵素サイクリング法によるカルニチン測定方法は、カルニチンデヒドロゲナーゼ(以下、「CDH」とも称する)の酵素活性が水溶液中で不安定であることから、凍結乾燥させた酵素を測定直前に水系溶解液で溶解する工程を要し、操作が煩雑である、という問題があった。また、溶解後の酵素溶液について、残量を長期間保存することが困難であり、再利用できずに廃棄せざるを得ない、という問題もあった。
【0006】
本発明は、水溶液の状態で保存可能なカルニチンデヒドロゲナーゼ溶液を用いた、L-カルニチン測定方法及びL-カルニチン測定キットを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、鋭意検討を重ねた結果、酵素サイクリング法によるカルニチン測定方法において、反応系にトレハロースを共存させることで、高いシグナルが得られることを見出し、本発明を完成させた。これにより、CDHを水溶液中で保存することで酵素活性がある程度低下したとしても、反応系に共存する糖類によるシグナル亢進でその低下分を補うことが可能であり、結果としてCDHを含む水溶液の長期保存が可能となることが判明した。
【0008】
すなわち、本発明は、以下を提供するものである。
1.β-チオニコチンアミドアデニンジヌクレオチド酸化型(Thio-NAD)及びβ-ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド還元型(NADH)の存在下、又は、β-チオニコチンアミドアデニンジヌクレオチド還元型(Thio-NADH)及びβ-ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド酸化型(NAD)の存在下で、測定対象から取り出した試料中のL-カルニチンを、カルニチンデヒドロゲナーゼ(CDH)と反応させる反応工程を含み、前記反応工程の反応系にトレハロースを共存させる、L-カルニチン測定方法。
2.前記反応工程が、Thio-NAD及びNADHの存在下で実施される、1のL-カルニチン測定方法。
3.前記CDHが、(a)配列番号2のアミノ酸配列からなるCDH、又は(b)配列番号2で表されるアミノ酸と90%以上の同一性を有するアミノ酸配列を有し、かつThio-NADの存在下でL-カルニチンからデヒドロカルニチンへの反応を触媒する活性及びThio-NADHの存在下でデヒドロカルニチンからL-カルニチンへの反応を触媒する活性を有するCDHである、1又は2のL-カルニチン測定方法。
4.前記糖類の反応時終濃度が5~50重量%である、1~3のいずれかのL-カルニチン測定方法。
5.Thio-NAD又はNADを含有する水溶液からなる第1反応試液と、NADH又はThio-NADHを含有する水溶液からなる第2反応試液と、を備え、前記第1反応試液がThio-NADを含有する場合は、前記第2反応試液はNADHを含有し、前記第1反応試液がNADを含有する場合は、前記第2反応試液はThio-NADHを含有し、前記第1反応試液と第2反応試液の少なくとも1つがCDHを含有し、前記第1反応試液と第2反応試液の少なくとも1つがトレハロースを含有する、L-カルニチン測定キット。
6.前記第1反応試液がThio-NADを含有する水溶液からなり、前記第2反応試液がNADHを含有する水溶液からなる、5のL-カルニチン測定キット。
7.前記CDHと、前記トレハロースとが、別の反応試液にそれぞれ含まれる、5又は6のL-カルニチン測定キット。
8.トレハロースを共存させて、Thio-NADの存在下でL-カルニチンからデヒドロカルニチンへの反応及び/又はThio-NADHの存在下でデヒドロカルニチンからL-カルニチンへの反応を促進する、カルニチンデヒドロゲナーゼの反応促進方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、予め水溶液に溶解させた状態で保存可能なカルニチンデヒドロゲナーゼ溶液を用いた、L-カルニチン測定方法及びL-カルニチン測定キットを提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】トレハロース濃度と吸光度変化量(ΔAbs/min×10,000)との関係を示すグラフである。
図2】第2反応試液の冷蔵保存期間と、50μmolL-カルニチン測定時の吸光度変化量(ΔAbs/min×10,000)との関係を示すグラフである。
図3】11か月間冷蔵保存した第2反応試液を用いて測定した、各カルニチン濃度溶液の実測濃度値/理論濃度値(%)を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
<L-カルニチン測定方法>
本発明のL-カルニチン測定方法は、Thio-NAD及びNADHの存在下、又は、Thio-NADH及びNADの存在下で、測定対象から取り出した試料中のL-カルニチンを、カルニチンデヒドロゲナーゼ(CDH)と反応させる反応工程を含み、前記反応工程の反応系にトレハロースを共存させる、ことを特徴とする。CDHの反応系にトレハロースを共存させることで、CDHの反応促進等により、得られるシグナル(例えば、吸光度)が亢進する、という効果が得られる。
【0012】
本発明のL-カルニチン測定方法は、酵素サイクリング法によるL-カルニチン測定方法を使用する。酵素サイクリング法によるカルニチンの測定には、補酵素として、Thio-NADとNADHの組み合わせ、又はNADとThio-NADHの組み合わせをいずれも使用できるが、特に前者(Thio-NADとNADHの組み合わせ)が、生成されるThio-NADHが後者で生成されるNADHよりもモル吸光係数が2倍程度高く、高いシグナルを得ることが可能なことから、好適に使用できる。以下、Thio-NADとNADHの組み合わせを使用する方法について例示的に説明するが、本発明の方法を限定するものではない。酵素サイクリング法において、カルニチンは、CDH及びThio-NADにより特異的に酸化され、デヒドロカルニチン及びThio-NADHを生成する。このデヒドロカルニチンは、CDH及びNADHの存在下でカルニチン及びNAD+を生成する。すなわち、下記反応式に示すサイクリング反応が生じる。
【化1】
【0013】
酵素サイクリング法は、通常、測定時間内において反応がプラトーに達することなくシグナルが増加するため、カイネティックアッセイが可能であり、ノイズの影響を受けにくく、高感度の測定が可能である。本発明においては、上記反応で生じるThio-NADHの量を、396nm付近の吸光度を経時的に測定することで、その生成速度を割り出し、例えば、既知濃度のカルニチンを含む標準液におけるThio-NADH生成速度と比較して、カルニチンの濃度を算出することができる。
【0014】
本発明の測定方法で測定するカルニチンは、遊離型カルニチン、アシルカルニチン、総カルニチンのいずれでもよい。総カルニチンを測定する場合は、試料中に含まれるアシルカルニチンを加水分解し、遊離型カルニチンの形にしてから測定する必要がある。また、アシルカルニチンを測定する場合は、試料中の遊離カルニチン量、総カルニチン量をそれぞれ測定し、総カルニチン量から遊離型カルニチン量を減じる必要がある。本明細書では、以下、遊離型カルニチン量の測定方法について例示的に説明するが、本発明の方法を限定するものではない。
【0015】
本発明の測定方法において、測定対象は、哺乳動物、特にヒトである。また、試料としては、血清、血漿、全血等の血液試料、尿、唾液等を使用できる。好適には、試料は血液試料であり、より好適には、血清又は血漿である。
【0016】
本発明の測定方法において、CDHの反応時にトレハロースを共存させる。トレハロースの濃度は、反応時終濃度で3.0~50重量%であることが好ましく、6.0~25重量%であることがより好ましい。糖類濃度は高濃度であるほど、シグナル亢進効果が高くなる傾向がみられるが、35重量%以上とすると使用する水溶液の粘度が高くなる等、扱いにくくなるため、上記範囲の濃度とすることが望まれる。
【0017】
本発明の方法に使用するCDHとしては、既知の方法で生成したものをいずれも使用可能である。CDHについては、種々の微生物供給源があるが、特に比較的熱安定性に優れたものとしてアルカリゲネシス属細菌由来のCDHが知られている(特許文献2及び3)。例えば、本発明の方法で使用するCDHとしては、アルカリゲネス属細菌のCDHのアミノ酸配列(特許文献3参照)と同一又は類似のアミノ酸配列を有するCDHを好適に挙げることができる。具体的には、具体的には、(a)配列番号2のアミノ酸配列からなるCDH、又は(b)配列番号2で表されるアミノ酸配列と90%以上の同一性を有するアミノ酸配列を有し、かつThio-NADの存在下でL-カルニチンからデヒドロカルニチンへの反応を触媒する活性及びThio-NADHの存在下でデヒドロカルニチンからL-カルニチンへの反応を触媒する活性を有するCDHである。なお、本明細書において、「同一性」とは、BLAST(Basic Local Alignment Search Tool at the National Center for Biological Information(米国国立生物学情報センターの基本ローカルアラインメント検索ツール))等(例えば、デフォルトすなわち初期設定のパラメータ)を用いて計算したときの配列の同一性を意味する。本発明の方法に使用するCDHは、好ましくは、配列番号2で表されるアミノ酸配列と95%以上の同一性を有するアミノ酸配列を有し、より好ましくは、配列番号2で表されるアミノ酸配列において、1~5個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列を有し、さらに好ましくは、配列番号2で表されるアミノ酸配列において、1個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列を有し、さらにより好ましくは、配列番号2で表されるアミノ酸配列を有する。
【0018】
本発明において、前記CDHは、CDH遺伝子、例えば、前記アミノ酸配列をコードするDNAを宿主に機能的に組込み、生成した組換えCDHを使用できる。前記DNAの例としては、(c)配列番号1で表される塩基配列を含むDNA;又は、(d)配列番号1で表される塩基配列と70%以上、好ましくは80%以上、より好ましくは90%以上、さらに好ましくは95%以上の同一性を有する塩基配列を有するDNAを含み、かつThio-NADの存在下でL-カルニチンからデヒドロカルニチンへの反応を触媒する活性及びThio-NADHの存在下でデヒドロカルニチンからL-カルニチンへの反応を触媒する活性を有するタンパク質をコードするDNAを挙げることができる。
【0019】
遺伝子を導入する宿主の種類は限定されず、細菌、真菌、各種の酵母などの単細胞真核生物、又は動物もしくは植物の生細胞を任意に選択できるが、本発明においては、微生物が好ましく、特に大腸菌が好ましい。宿主大腸菌は通常遺伝子工学に用いられる大腸菌K-12株の中から適切なものを選択する。代表的なものとしてJM105やJM109が挙げられるが、DH5あるいは誘導型の発現系に用いられるBL21やBL21(DE3)などを使用してもよい。
【0020】
CDH遺伝子は、当該遺伝子の発現を強化する発現ベクターによって導入される。発現ベクターは、導入しようとする遺伝子を、その発現を強化する種々のDNA断片又はRNA断片と融合させたものである。好ましくは、発現ベクターは、遺伝子を恒常的又は誘導的に発現させるための転写プロモーター、転写ターミネーター、選択マーカーを含み得る。所望によりエンハンサーなどのシスエレメント、オペレーター、プロモーターを制御する遺伝子が含まれていてもよい。
【0021】
ベクターとしては、限定はされないが、大腸菌を宿主とする場合によく利用されるプラスミド、pUC18、pUC19、pUC118、pUC119、pSC101、pBR322、pHSG298、pVC18、pVC19、pTrc99A、pMal-c2、pGEX2T、pTV118N、pTV119N、pTRP等を好ましく使用でき、その他にもS.cerevisiaeを宿主とする場合によく利用されるYep13、Yep24、YCp50、pRS414、pRS415、pRS404、pAUR101、pKG1等も利用でき、枯草菌を宿主とする場合によく利用されるプラスミドpUB110、pC194等も利用できる。更に、pBI122、pBI1101その他の各種のものも限定なく使用できる。
【0022】
本発明の方法に使用するThio-NADの反応時終濃度は2.0~8.0g/L、NADHの反応時終濃度は0.05~0.5g/Lとすることが好ましい。また、本発明の方法に使用するCDHの濃度は100~500kU/Lとすることが好ましい。なお、本明細書において、CDH活性の1単位(U)は、37℃で1分間あたりに1μmolのNADHを生成する触媒量と定義する。
【0023】
試料と、Thio-NAD、NADH、CDH及び糖類とを混合して反応させる反応工程において、各成分の混合の順番は特に限定されないが、例えば、試料、Thio-NAD及び糖類を混合した後、NADH及びCDHを混合して反応させることができる。反応工程は、5.0~55℃、特に20~45℃、さらに30~40℃の温度条件下で実施することが好ましい。また、反応時間は、温度条件、反応に使用する各成分の濃度等によって異なるが、1~30分間、特に5~15分間とすることが好ましい。
【0024】
<L-カルニチン測定キット>
本発明のL-カルニチン測定キットは、Thio-NAD又はNADを含有する水溶液からなる第1反応試液と、NADH又はThio-NADHを含有する水溶液からなる第2反応試液と、を備え、前記第1反応試液がThio-NADを含有する場合は前記第2反応試液はNADHを含有し、前記第1反応試液がNAD+を含有する場合は前記第2反応試液はThio-NADH含有し、前記第1反応試液と第2反応試液の少なくとも1つがカルニチンデヒドロゲナーゼを含有し、前記第1反応試液と第2反応試液の少なくとも1つが糖類を含有する、ことを特徴とする。
【0025】
酵素サイクリング法においては、通常、酵素反応に使用する試薬は、酸化型補酵素を含有する試液と、還元型補酵素を含有する試液との二液に分けて構成される。本発明のL-カルニチン測定キットにおいては、特に、前記第1反応試液がThio-NADを含有する水溶液からなり、前記第2反応試液がNADHを含有する水溶液からなる構成とすることが、得られるシグナルの強度が高いことから好ましい。以下、前記第1反応試液がThio-NADを含有する水溶液からなり、前記第2反応試液がNADHを含有する水溶液からなる構成について例示的に記載するが、本発明のキットの構成を限定するものではない。
【0026】
本発明のキットの構成成分として、CDHと糖類が含まれるが、CDHと糖類とは、同じ試液に含まれていてもよく、異なる試液に含まれていてもよい。また、いずれか又は両方の成分が、第1反応試液と第2反応試液の両方に含まれていてもよい。特に、高濃度の糖類を含む試液の粘度が高くなることを考慮すると、CDHの取り扱いをより容易とするため、CDHと糖類とは別の試液に含まれていることが好ましい。
【0027】
第1反応試液に含まれるThio-NADは、第2反応試液に使用されるNADHよりも反応系において高濃度で必要とされることから、第1反応試液と第2反応試液の混合比率は、体積比で1:1~5:1とすることが好ましい。また、同様に高濃度で必要とされる糖類についても、第1反応試液に含有させることが好ましい。さらに、第1反応試液に糖類が含まれる場合、CDHは糖類を含まない第2反応試液に含まれることが好ましい。
【0028】
第1試液及び第2試液には、必要に応じてリン酸バッファー、Tris、MES、HEPES、PIPES等のpH緩衝剤、EDTA等のキレート剤、防腐剤等を含有させてもよい。また、CDHを含む試液には、酵素安定化剤として、BSA、カゼイン、グリシン等を含有させてもよい。
【0029】
本発明のキットは、第1反応試液、第2反応試液とは別に、既知濃度のL-カルニチンを含む標準液を備えることが好ましい。試料と同時に標準液を測定して、両者のThio-NADH生成速度を比較することで、試料中のL-カルニチン濃度を算出することが可能となる。
【0030】
本発明のキットの使用方法としては、例えば、試料と第1反応試液を混合し、至適温度(例えば37℃)でインキュベーションした後、第2反応試液を混合してCDHを反応させる方法とすることができる。CDH反応開始時から、反応系の405nmの吸光度を経時的に測定することで、吸光度の変化量(速度)を算出することができる。同時に、例えば600nmの吸光度を測定することで、ブランク値を差し引くことができる。上記の操作は、マイクロウェルプレートを用いて用手法で実施してもよいが、臨床検査用自動分析機(例えば、日立7170型、日立製作所製)を使用して実施することもできる。
【0031】
本発明のキットは上記のような構成を有することで、CDHを液状試薬の成分として含み、かつ、従来製品と同等の性能を有することができる。本発明のキットは、使用時に試液の用事調製を必要としないため、簡便に使用できるという利点を有する。なお、本発明のキットは、使用時以外は4℃程度で冷蔵保存することが推奨される。また、使用時には、予め室温に戻してから使用することが推奨される。
【0032】
<カルニチンデヒドロゲナーゼの反応促進方法>
本発明のカルニチンデヒドロゲナーゼの反応促進方法は、Thio-NAD及びNADHの存在下、又は、Thio-NADH及びNADの存在下で、さらに糖類を存在させてL-カルニチンとカルニチンデヒドロゲナーゼとを反応させる、ことを特徴とする。
【実施例
【0033】
実施例1 組換えCDHの生成
以下の実施例に使用したCDHは、以下の通りに調製した。配列番号2に示すCDHのアミノ酸配列をコードするDNA配列として、大腸菌に対してコドン最適化した配列番号1の966bpのDNAを合成した。合成したDNAをプラスミド(pTRP ベクター)にクローニングし、大腸菌を形質転換した後、培養した。使用したプラスミド、形質転換の手法、培養条件等は、特許文献3と同様とした。培養液から集菌した菌体を破砕した後、バッファーで懸濁して遠心分離で残渣を除き、細胞抽出液を得た。細胞抽出液のCDH活性を、基質混合反応液(0.1M Tris-HCl、100mM カルニチン、10mM NAD、pH9.0)を用いて確認した。細胞抽出液を基質混合反応液に加え、CDHの反応で得られるNADHによる340nmの吸光度を経時的に測定し、NADHのモル吸光計数を用いて1分間あたりのNADH産出量を算出した。その結果、培養液1mL相当量の細胞抽出液が、1分間あたり10~30mmolのNADHを生成するCDH活性を有することを確認した。
【0034】
細胞抽出液に含まれる組換えCDHは、以下の方法で精製した。細胞抽出液を陰イオン交換クロマトグラフィー(DEAE Cellufine A-500、JNC社)に供した。次いで、得られた画分に硫酸アンモニウムを添加した後、疎水クロマトグラフィー(TOYOPEARL Phenyl 650C、東ソー社)に供した。次いで、得られた画分を限外ろ過膜(SIP-1013、旭化成ファーマ社)により濃縮した後に脱塩カラム(Sepharose G-25、GEヘルスケア社)により脱塩した。次いで得られた画分をアフィニティークロマトグラフィー(Blue Sepharose CL-6B、GEヘルスケア社)に供した後、脱塩カラム(Sepharose G-25、GEヘルスケア社)により脱塩し、精製された組換えCDH溶液を得た。得られた組換えCDHの酵素的諸性質を確認した。組換えCDHの至適pHはpH8.5~9.0であり、pH6.0~9.0で安定であった。また、活性化する至適温度は55℃、45℃以下で熱安定性があった。
【0035】
実施例2 トレハロースによるカルニチン測定感度の向上
50μmol/LのL-カルニチン標準液(「F-Carnitine試薬カイノス」カイノス社)について、臨床検査用自動分析機(日立7170型、日立製作所製)を使用して測定を行った。
カルニチン標準液7.2μLを、0、100、200、300、400、500g/Lのトレハロース2水和物を含む第1反応試液(4.9g/L Thio-NADを含む、pH6.4)120μLとそれぞれ混合し、37℃で5分間インキュベートした。次いで、第2反応試液(0.2g/L NADH2Na、600kU/L CDHを含む、pH9.0)60μLを加え、37℃でインキュベートした。上記操作の間、反応液の405nm、600nmの吸光度を断続的に測定した。
【0036】
図1に、トレハロース濃度と、第2反応試液を加えた後の405nm、600nmの吸光度増加変化量(ΔAbs/min×10,000)の関係を示す。405nmの吸光度変化量は、トレハロース濃度に依存して高くなった。一方、トレハロース濃度は、ブランクである600nmの吸光度変化量には、ほとんど影響を与えなかった。
【0037】
実施例3 トレハロース含有カルニチン測定キットの冷蔵保存安定性(感度)
下記の3種類の組換えCDHを含む第2反応試液を調製した。
第2反応試液a:NADH2Na 0.4g/L、組換えCDH600kU/Lを含む、pH9.0
第2反応試液b:NADH2Na 0.2g/L、組換えCDH600kU/Lを含む、pH9.0
第2反応試液c:NADH2Na 0.4g/L、組換えCDH800kU/Lを含む、pH9.0
第2反応試液a~cは、液体の状態で、4℃で0、8、11か月保存した。
【0038】
各第2反応試液と、0、150、450g/Lのトレハロース2水和物を含む第1反応試液(4.9g/L Thio-NADを含む、pH6.4)とを用いて、それぞれ、実施例2と同様の条件で反応させ、50μmol/LのL-カルニチン標準液反応時の405nmの吸光度変化量を測定した。
【0039】
各第2反応試液における、保存期間と吸光度変化量との関係を図2に示す。いずれの条件においても、冷蔵保存期間が長くなるほど、吸光度増加速度が低下したが、一方で、トレハロースを高濃度で含むものほど、全体的に高い吸光度変化量が得られた。カルニチン測定に十分な感度・精度を保つためには、吸光度変化量(ΔAbs/min×10,000)が100以上である必要があるが、第1反応試液にトレハロースが含まれない場合、第2反応試液aでは、その保存可能期間は約6ヶ月程度と推察された。一方、第1反応試液がトレハロースを150g/L、450g/L含む場合、その保存期間はそれぞれ8か月、10か月程度まで延長可能であることが推察された。第2反応試液b、cにおいても、同様の保存可能期間の延長が見られた。第2反応試液cでは、使用する組換えCDHが多いことから、第1反応試液にトレハロースが含まれない条件においても、11か月を超える期間、十分な吸光度変化量が見られたが、第1反応試液にトレハロースを添加することで、さらに長期間の保存が可能となることが示唆された。
【0040】
実施例4 トレハロース含有カルニチン測定キットの冷蔵保存安定性(測定範囲)
L-カルニチンを、生理食塩水に溶解して、0~300μmol/Lの11濃度のカルニチン溶液を調製した。11ヶ月冷蔵保存した第2反応試液bcと、0、150、450g/Lのトレハロース2水和物を含む第1反応試液とを用いて、実施例2と同様の条件で反応させ、各カルニチン溶液反応時の405nmの吸光度変化量(ΔAbs/min×10,000)を測定した。50μmol/Lの測定値を標準として、各カルニチン溶液濃度の実測濃度値を算出した。
【0041】
各条件下で各カルニチン濃度の、実測濃度値/理論濃度値(%)を図3に示す。図3Aは、第1反応試液にトレハロースを含まない条件で測定した結果である。特に第2反応試液cを使用した際に、20mmol/L以下の低濃度領域で、カルニチン測定値の理論濃度とのかい離が大きかった。図3B、Cは、それぞれ第1反応試液に、トレハロースを150g/L、450g/L添加した際の測定結果を示す。トレハロースを含まない条件と比較して、低濃度領域での測定値のかい離が小さいことが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0042】
本発明は、主に、臨床検査、体外診断用医薬品の産業分野において利用可能である。
図1
図2
図3
【配列表】
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