(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-01
(45)【発行日】2024-03-11
(54)【発明の名称】硬化性組成物およびその硬化物
(51)【国際特許分類】
C08L 101/12 20060101AFI20240304BHJP
C08K 5/5313 20060101ALI20240304BHJP
C08K 3/38 20060101ALI20240304BHJP
C08F 2/44 20060101ALI20240304BHJP
C08G 18/62 20060101ALI20240304BHJP
C08G 18/80 20060101ALI20240304BHJP
H05K 3/28 20060101ALI20240304BHJP
【FI】
C08L101/12
C08K5/5313
C08K3/38
C08F2/44 A
C08F2/44 B
C08G18/62
C08G18/80
H05K3/28 D
(21)【出願番号】P 2020062889
(22)【出願日】2020-03-31
【審査請求日】2022-12-02
(73)【特許権者】
【識別番号】591021305
【氏名又は名称】太陽ホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100100354
【氏名又は名称】江藤 聡明
(74)【代理人】
【識別番号】100167106
【氏名又は名称】倉脇 明子
(74)【代理人】
【識別番号】100194135
【氏名又は名称】山口 修
(74)【代理人】
【識別番号】100206069
【氏名又は名称】稲垣 謙司
(74)【代理人】
【識別番号】100185915
【氏名又は名称】長山 弘典
(72)【発明者】
【氏名】米田 一善
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼嶋 脩平
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 秀之
(72)【発明者】
【氏名】小田桐 悠斗
(72)【発明者】
【氏名】横山 裕
【審査官】櫛引 智子
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-079209(JP,A)
【文献】特開2019-178287(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 101/00-101/16
C08K 3/00- 3/40
C08K 5/00- 5/59
C08F 2/00- 2/60
C08G 18/00- 18/87
C09D 11/00- 11/54
H05K 3/00- 3/46
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも、下記成分(A)~(D):
(A)1分子中に、1個、2個または3個の(メタ)アクリロイル基をそれぞれ有する3種の化合物、
(B)
ホスフィン酸金属塩およびホウ酸金属塩から成る群より選択される、前記成分(A)の全量に対して5質量%未満の溶解度を有する難燃剤、
(C)光重合開始剤、および
(D)熱硬化成分
として、潜在性の熱硬化性成分
を含有し、且つ
50℃にて50mPa・s以下の粘度を有する、硬化性組成物
であって、
硬化性組成物中の(A)化合物の含有量が、硬化性組成物100質量部に対して30質量部~90質量部である、硬化性組成物。
【請求項2】
フレキシブルプリント配線板上に硬化膜を形成するために用いられる、請求項
1に記載の硬化性組成物。
【請求項3】
請求項
1または2に記載の硬化性組成物より得られる硬化物。
【請求項4】
請求項
3記載の硬化物を有する、電子部品。
【請求項5】
前記電子部品は、フレキシブルプリント配線板である、請求項
4に記載の電子部品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、硬化性組成物およびその硬化物に、特に、インクジェット印刷法に適した硬化性組成物、ならびにフレキシブルプリント配線板に適用され得るとともに難燃性をも有するその硬化物に関する。
【背景技術】
【0002】
昨今、プリント配線板として、折り曲げて使用する用途の、所謂フレキシブルプリント配線板の使用頻度が高まっている(特許文献1)。このようなフレキシブルプリント配線板には、例えばポリイミドなどの可撓性を有する材質が使用されているが、これら材質は比較的燃焼しやすいという特徴を有している。そこで、プリント配線板全体としての難燃性を高めるために、プリント配線板を保護するためのソルダーレジストに、柔軟性だけでなく難燃性をも付与することも考えられ得、そしてそのために、そのようなソルダーレジストを形成し得る硬化性組成物中に難燃剤を配合することが挙げられる。
【0003】
また他方、インクジェット印刷法は、所定の印刷パターンをデジタルデータから直接描画が可能であり、インキの使用量が削減でき、スクリーン印刷用の版も不要であるため、従来のスクリーン印刷法と比較し効率的な生産が可能である。また、インクジェット印刷法は非接触印刷であるため、フレキシブルプリント配線基板などのフレキシブル性を有する基材への対応が容易であり、それへの適用が期待されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、インクジェット印刷法に適した硬化性組成物であって、その硬化後には、フレキシブル印刷基板にも適した柔軟性を有し、且つ難燃性をも併せ持つ硬化物(例えばソルダーレジスト)を形成し得るという硬化性組成物は、これまで具体的には知られていなかった。
そこで、本発明者は、そのような硬化性組成物およびその硬化物を見出すことを課題とした。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するべく、本発明者らは鋭意検討を重ねた結果、主として3種の異なる(メタ)アクリロイル基を有する化合物およびホスフィン酸金属塩から選択される難燃剤を含有することによって特定の粘度に抑制された硬化性組成物が、上記課題を解決し得ることを見出し、本発明を完成した。
【0007】
即ち、本発明における課題は、
少なくとも、下記成分(A)~(D):
(A)1分子中に、1個、2個または3個の(メタ)アクリロイル基をそれぞれ有する3種の化合物、
(B)前記成分(A)の全量に対して5質量%未満の溶解度を有する難燃剤、
(C)光重合開始剤、および
(D)熱硬化成分
を含有し、且つ
50℃にて50mPa・s以下の粘度を有する、硬化性組成物
によって、解決され得ることが見出された。
このうち好ましい態様は、難燃剤が、ホスフィン酸金属塩およびホウ酸金属塩から成る群より選択される硬化性組成物に関する。
また、本発明の別の態様は、フレキシブルプリント配線板上に硬化膜を形成するために用いられる、上記の硬化性組成物に関する。
また本発明のもう一つの態様は、上記硬化性組成物より得られる硬化物および当該硬化物を有する電子部品、好ましくはフレキシブルプリント配線板に関する。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、インクジェット印刷法に適した硬化性組成物が提供され、さらに、当該硬化性組成物から得られた硬化物(硬化膜)は、優れた難燃性だけでなく、良好な保存安定性、塗布性、はんだ耐熱性および柔軟性をも併せ持つという顕著な特性を有する。よって当該硬化物は、例えば、フレキシブルプリント配線板に対するソルダーレジストとして好適に使用され得る。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の硬化性組成物は、インクジェット印刷用途とするために、50℃にて50mPa・s以下の範囲内の粘度に調整されている。
本発明において、粘度は、JIS Z8803:2011の10 円すい-平板形回転粘度計による粘度測定方法に準じ、50℃、100rpm、30秒値とし、コーン・ロータとして1°34’×R24を用いたコーンプレート型粘度計(TVE-33H、東機産業社製)にて測定した値である。50℃における粘度が50mPa・s以下であれば、インクジェット印刷法として好適である。
【0011】
そして、本発明の硬化性組成物から得られる硬化物の優れた難燃性、良好な保存安定性、塗布性、はんだ耐熱性および柔軟性は、基本的には、硬化性組成物中の(A)1分子中に、1個、2個または3個の(メタ)アクリロイル基をそれぞれ有する3種の化合物(以下、単に「(A)化合物」ともいう)、および(B)成分(A)の全量に対して5質量%未満の溶解度を有する難燃剤(以下、単に「(B)難燃剤」ともいう))、の存在によって発揮され得る。
【0012】
本発明において、硬化性組成物から得られる硬化物の難燃性は、例えば、硬化性組成物を、インクジェット印刷装置等を用いて基板上に塗布し硬化膜を形成させたのち、得られた硬化膜についてUL94規格に準拠した薄材垂直燃焼試験を行うことによって、評価され得る。
【0013】
また、硬化性組成物の保存安定性は、例えば、硬化性組成物を、目視しやすい透明の容器に入れ、一定温度および一定期間静置した後、その状態が均一に保持されているか、または沈殿物が発生しているか等を目視することによって、行うことができる。
【0014】
硬化性組成物の塗布性は、例えば、硬化性組成物を、インクジェット印刷装置等を用いて、硫酸処理済みのエスパネックスMの銅表面上に塗布し、その塗膜表面を目視で観察し、均一かどうか、スジの発生が無いかどうか、抜けが発生していないかどうかを確認することにより行うことができる。
【0015】
また、硬化性組成物から得られる硬化物のはんだ耐熱性は、例えば、硬化性組成物を、インクジェット印刷装置等を用いて、硫酸処理済み且つ銅めっき済みのポリイミド系基板上に塗布し硬化膜を得た後、フラックスを塗布し、そしておよそ260℃のはんだ槽に浸漬し、フラックス洗浄後、テープピールによって、硬化膜の膨れや剥がれについて確認することにより行われ得る。
【0016】
また、硬化性組成物から得られる硬化物の柔軟性は、例えば、MIT耐折疲労試験機などを用いて、JIS P8115に準拠したMIT試験を行うことによって評価され得る。
【0017】
以下、本発明の硬化性組成物を構成する各成分について説明する。
【0018】
[(A)1分子中に、1個、2個または3個の(メタ)アクリロイル基をそれぞれ有する3種の化合物]
(A)1分子中に、1個、2個または3個の(メタ)アクリロイル基をそれぞれ有する3種の化合物とは、1分子中に1個の(メタ)アクリロイル基を有する化合物、1分子中に2個の(メタ)アクリロイル基を有する化合物および1分子中に3個の(メタ)アクリロイル基を有する化合物の3種の併用の形態、またはこれら3種の化合物の混合物をいう。
これら3種の(メタ)アクリロイル基を有する化合物の使用によって、インジェット印刷法に適した粘度を有する硬化性組成物が得られ、また、その硬化後には、フレキシブルプリント配線版への適用に合致した柔軟性を有する硬化物が得られる。
【0019】
1分子中に1個の(メタ)アクリロイル基を有する化合物としては、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、4-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、ブトキシメチル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、イソデシル(メタ)アクリレート、グリセロールモノ(メタ)アクリレート等の脂肪族(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、4-(メタ)アクリロキシトリシクロ[5.2.1.02,6]デカン、イソボルニル(メタ)アクリレート等の脂環式(メタ)アクリレート、フェノキシエチル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、フェニル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキ-3-フェノキシプロピル(メタ)アクリレート等の芳香族(メタ)アクリレート、脂肪族エポキシ変性(メタ)アクリレート等変性(メタ)アクリレート、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、2-(メタ)アクリロキシアルキルホスフェート、2-(メタ)アクリロイルオキシエチルリン酸エステル、(メタ)アクリロイロキシエチルフタル酸、γ-(メタ)アクリロキシアルキルトリアルコキシシラン等が挙げられ得る。
【0020】
1分子中に2個の(メタ)アクリロイル基を有する化合物としては、例えば、1,4-ブタンジオールジアクリレート、1,6-ヘキサンジオールジアクリレート、1,9-ノナンジオールジアクリレート、1,10-デカンジオールジアクリレートなどのジオールのジアクリレート、エチレングリコールジアクリレート、ジエチレングリコールジアクリレート、トリエチレングリコールジアクリレート、テトラエチレングリコールジアクリレート、ポリエチレングリコールジアクリレート、ジプロピレングリコールジアクリレート、トリプロピレングリコールジアクリレート、ポリプロピレングリコールジアクリレート、ネオペンチルグリコールジアクリレート、ネオペンチルグリコールにエチレンオキサイド及びプロピレンオキサイドの少なくとも何れか1種を付加して得たジオールのジアクリレート、カプロラクトン変性ヒドロキシピバリン酸ネオペンチルグリコールジアクリレートなどのグリコールのジアクリレート、ビスフェノールAEO付加物ジアクリレート、ビスフェノールAPO付加物ジアクリレート、トリシクロデカンジメタノールジアクリレート、水添ジシクロペンタジエニルジアクリレート、シクロヘキシルジアクリレートなどの環状構造を有するジアクリレート、などが挙げられ得る。
【0021】
1分子中に3個の(メタ)アクリロイル基を有する化合物としては、例えば、トリメチロールプロパントリアクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、トリメチロールプロパンPO変性トリアクリレート、トリメチロールプロパンEO変性トリアクリレート、3官能ポリエステルアクリレートなどが挙げられ得る。
【0022】
また、(A)化合物として、芳香環を有し、(メタ)アクリロイル基を2個または3個有する化合物を含むことがさらに好ましい。芳香環を有し、(メタ)アクリロイル基を2個または3個有する化合物は、例えば、多価フェノールの(メタ)アクリレートや、そのアルキレンオキサイド付加物が挙げられる。
多価フェノールとしては、ビスフェノールA、ビスフェノールAP、ビスフェノールB、ビスフェノールBP、ビスフェノールE、ビスフェノールF、ビスフェノールM、ビスフェノールP、ビスフェノールPH、ビスフェノールZなどのビスフェノール類、ビフェノールなどが挙げられる。
アルキレンオキサイドとしては、例えば、エチレンオキサイド、プロピレンオキサイド、ブチレンオキサイドが挙げられる。アルキレンオキサイドの付加数は6以下であることが好ましい。
芳香環を有し、(メタ)アクリロイル基を2個または3個有する化合物の市販品としては、ABE-300(新中村化学工業社製)、BPE―80N(新中村化学工業社製)、BPE―100(新中村化学工業社製)、A-BPE-4(新中村化学工業社製)、BPE-4(第一工業製薬株式会社製)、BPE-10(第一工業製薬株式会社製)、BPE―200(新中村化学工業社製)、アロニックスM-208(東亜合成株式会社製)、EBECRYL 150(ダイセル・オルネクス株式会社製)などが挙げられる。
【0023】
上記のごとき(A)化合物は、3種の化合物全体として、硬化性組成物がインクジェット印刷用途として適した粘度を維持できるような量で、当該硬化性組成物中に含有される。
硬化性組成物中の(A)化合物の含有量は、例えば、硬化性組成物100質量部に対して、おおむね30質量部~90質量部が好ましい。当該数値範囲内にあれば、硬化性組成物の粘度が50℃にて50mPa・s以下を維持し得る。
【0024】
[(B)成分(A)の全量に対して5質量%未満の溶解度を有する難燃剤]
(B)成分(A)の全量に対して5質量%未満の溶解度を有する難燃剤は、硬化性組成物の硬化後に得られる硬化物に難燃性を付与する目的で配合されるが、本発明において用いられる難燃剤は、(A)化合物に対して難溶性であることが好ましい。それによって、(A)成分に対して易溶性の難燃剤を配合した硬化性組成物と比較して、硬化性組成物の保存安定性が改善され得る。
【0025】
ここで、溶解度は、例えば、(A)化合物の全てに(B)の難燃剤を5質量%混合し、80℃に加温した後充分に攪拌し、室温に戻してからろ紙No.5Aを用いてろ過し、当該難燃剤を回収することが出来たか否かで評価し得る。この場合において、難燃剤を回収することが出来た場合には、その難燃剤の溶解度が5質量%未満であり、回収することが出来なかった場合には、溶解度が5質量%以上であると判断する。
【0026】
そしてそのような(B)難燃剤として、本発明においては、ホスフィン酸金属塩およびホウ酸金属塩から選択される難燃剤が好ましく採用され得る。
【0027】
ホスフィン酸金属塩としては、例えば、下記構造式(I):
【化1】
式(I)
(式中、
R
1、R
2は、それぞれ、炭素原子数1~6のアルキル基又は炭素原子数12以下のアリール基を表し、
Mは、カルシウム、アルミニウム又は亜鉛を表し、Mがアルミニウムを表す場合にはm=3であり、それ以外の金属を表す場合にはm=2である)
で表される構造を有するものが好ましい。
【0028】
より好ましくは、式(I)中、Mがアルミニウムを表す構造を有する化合物である。
【0029】
市販品としては、例えば、Exolit OP 1240、1240、1312、1400、930、945TP、OP-935を挙げることができる。
【0030】
また、ホウ酸金属塩としては、ホウ酸亜鉛化合物が好ましい。
市販品としては、Firebrake ZBなどを挙げることができる。
【0031】
(B)難燃剤の含有量は、上記のとおり(A)化合物の量に基づき決定されるのが望ましく、(A)化合物全量の100質量部に対して1~50質量部含有されることが好ましく、5~40質量部がより好ましい。
【0032】
(C)光重合開始剤
(C)光重合開始剤としては、紫外線、電子線、化学線等のエネルギー線の照射によって(A)化合物を重合させることが可能なものであればよい。
(C)光重合開始剤としては、例えば、ベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル等のベンゾインとベンゾインアルキルエーテル類;アセトフェノン、2,2-ジメトキシ-2-フェニルアセトフェノン、2,2-ジエトキシ-2-フェニルアセトフェノン、1,1-ジクロロアセトフェノン等のアセトフェノン類;2-メチル-1-[4-(メチルチオ)フェニル]-2-モルホリノプロパン-1-オン、2-ベンジル-2-ジメチルアミノ-1-(4-モルホリノフェニル)-ブタン-1-オン、N ,N-ジメチルアミノアセトフェノン等のアミノアセトフェノン類;2-メチルアントラキノン、2-エチルアントラキノン、2-t-ブチルアントラキノン、1-クロロアントラキノン等のアントラキノン類;2,4-ジメチルチオキサントン、2,4-ジエチルチオキサントン、2-クロロチオキサントン、2,4-ジイソプロピルチオキサントン等のチオキサントン類;アセトフェノンジメチルケタール、ベンジルジメチルケタール等のケタール類;2,4,5-トリアリールイミダゾール二量体; リボフラビンテトラブチレート;2-メルカプトベンゾイミダゾール、2-メルカプトベンゾオキサゾール、2-メルカプトベンゾチアゾール等のチオール化合物; 2,4,6-トリス-s-トリアジン、2,2,2-トリブロモエタノール、トリブロモメチルフェニルスルホン等の有機ハロゲン化合物;ベンゾフェノン、4,4’-ビスジエチルアミノベンゾフェノン等のベンゾフェノン類又はキサントン類;2,4,6-トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキサイド等のアシルホスフィン類、1,2-オクタンジオン,1-[4-(フェニルチオ)-,2-(O-ベンゾイルオキシム)]、エタノン,1-[9-エチル-6-(2-メチルベンゾイル)-9H-カルバゾール-3-イル]-,1-(O-アセチルオキシム)等のオキシムエステル類などが挙げられる。
また、上記光重合開始剤は、単独で又は複数種を混合して使用することができる。
【0033】
また、市販品としては、例えば、Omnirad 907、Omnirad 127、Omnirad 379(何れもIGM Resins社製)等が挙げられる。
【0034】
(C)光重合開始剤の含有量は、本発明の硬化性組成物の100質量部に対して、0.2質量部~25質量部が好ましく、0.5質量部~20質量部がより好ましい。0.2~25質量部の範囲内であれば、硬化物の表面硬化性が良好となる。
【0035】
(D)熱硬化成分
得られる硬化物の強靭性またははんだ耐熱性を高めるために、本発明の硬化性組成物には、(D)熱硬化成分が含有され得る。
使用できる(D)熱硬化成分としては、当該技術分野において通常使用されるものを種々挙げることができ、例えば、ブロックイソシアネート化合物、エポキシ化合物、オキセタン化合物等の公知の化合物を用いることができる。そのなかでも本発明においては特に、構造中の官能基が保護基により保護された潜在性の熱硬化成分を好ましく用いることができる。そのような潜在性の熱硬化成分を用いることによって、不慮の条件による硬化性組成物内の意図しない反応を抑制してその保存安定性を高めることができるし、50℃でのインクジェット印刷性にも優れ、反応を望む際には加熱等によって容易に保護基を外すことが可能である。本発明において、潜在性とは、常温や少々の加温条件では活性を示さないが、80℃以上の高温での加熱により活性化して熱硬化性を示す性質を意味するものとする。
【0036】
潜在性の熱硬化性成分は、ブロックイソシアネート化合物であることが好ましい。ブロックイソシアネート化合物は、1分子内に好ましくは複数のブロック化イソシアネート基を有する化合物である。ブロック化イソシアネート基とは、イソシアネート基がブロック剤との反応により保護されて一時的に不活性化された基であり、所定温度に加熱されたときにそのブロック剤が解離してイソシアネート基が生成する。
複数のイソシアネート基を有するポリイソシアネート化合物としては、例えば、芳香族ポリイソシアネート、脂肪族ポリイソシアネートまたは脂環式ポリイソシアネートが用いられる。
【0037】
芳香族ポリイソシアネートの具体例としては、例えば、4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート、2,4-トリレンジイソシアネート、2,6-トリレンジイソシアネート、ナフタレン-1,5-ジイソシアネート、o-キシリレンジイソシアネート、m-キシリレンジイソシアネートおよび2,4-トリレンダイマー等が挙げられる。
脂肪族ポリイソシアネートの具体例としては、テトラメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、メチレンジイソシアネート、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、4,4-メチレンビス(シクロヘキシルイソシアネート)およびイソホロンジイソシアネート等が挙げられる。
【0038】
脂環式ポリイソシアネートの具体例としてはビシクロヘプタントリイソシアネートが挙げられる。並びに先に挙げられたイソシアネート化合物のアダクト体、ビューレット体およびイソシアヌレート体等が挙げられる。
【0039】
イソシアネートブロック剤としては、例えば、フェノール、クレゾール、キシレノール、クロロフェノールおよびエチルフェノール等のフェノール系ブロック剤;ε-カプロラクタム、δ-パレロラクタム、γ-ブチロラクタムおよびβ-プロピオラクタム等のラクタム系ブロック剤;アセト酢酸エチルおよびアセチルアセトン等の活性メチレン系ブロック剤;メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、アミルアルコール、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、ベンジルエーテル、グリコール酸メチル、グリコール酸ブチル、ジアセトンアルコール、乳酸メチルおよび乳酸エチル等のアルコール系ブロック剤;ホルムアルデヒドキシム、アセトアルドキシム、アセトキシム、メチルエチルケトキシム、ジアセチルモノオキシム、シクロヘキサンオキシム等のオキシム系ブロック剤;ブチルメルカプタン、ヘキシルメルカプタン、t-ブチルメルカプタン、チオフェノール、メチルチオフェノール、エチルチオフェノール等のメルカプタン系ブロック剤;酢酸アミド、ベンズアミド等の酸アミド系ブロック剤;コハク酸イミドおよびマレイン酸イミド等のイミド系ブロック剤;キシリジン、アニリン、ブチルアミン、ジブチルアミン等のアミン系ブロック剤;イミダゾール、2-エチルイミダゾール等のイミダゾール系ブロック剤;メチレンイミンおよびプロピレンイミン等のイミン系ブロック剤;ジメチルピラゾール等のピラゾール系ブロック剤等が挙げられる。
【0040】
ブロックイソシアネート化合物は市販のものであってもよく、例えば、デュラネートTPA-B80E、17B-60PX、E402-B80T(いずれも旭化成社製)、TrixeneBI7982:ブロックイソシアネート(ヘキサメチレンイソシアネート(HDM)三量体、ブロック剤:ジメチルピラゾール(DMP)、Baxenden Chemicals社製)等が挙げられる。
【0041】
なお、潜在性の熱硬化性成分としては、イミダゾールやジシアンジアミドなどのアミン化合物と、水酸基含有化合物、環状エーテル基含有化合物やカルボキシル基含有化合物等とを反応させた反応物でもよい。
【0042】
(D)熱硬化成分の含有量は、本発明の硬化性組成物の100質量部に対して、1質量部~30質量部が好ましく、5質量部~25質量部がより好ましい。含有量がこの数値範囲にあることによって、硬化物の強靭性およびはんだ耐熱性が向上し得る。
【0043】
[その他の成分]
本発明の硬化性組成物には、必要に応じて、着色剤、消泡・レベリング剤、チクソトロピー付与剤・増粘剤、カップリング剤、分散剤、重合禁止剤、重合遅延剤、溶剤等を含有させることができる。なお、本発明の硬化性組成物には、粘度調整のため溶剤を用いてもよいが、硬化後の膜厚低下を防ぐために、添加量は少ないことが好ましい。また、粘度調整のための溶剤は含まないことがより好ましい。
【0044】
本発明の硬化性組成物は、既に説明したようにインクジェット法による印刷に好適な粘度を有しているため、インクジェットプリンターによって支障なく吐出可能である。
従って、本発明の硬化性組成物をインキとして用いてプリント配線板用の基板等に、直接パターンを描画することができる。
【0045】
本発明の硬化物は、印刷直後の硬化性組成物層に光照射し硬化性組成物層を光硬化させることにより得られ得る。光照射は、紫外線、電子線、化学線等の活性エネルギー線の照射により、好ましくは紫外線照射により行われる。
インクジェットプリンターにおける紫外線照射は、例えばプリントヘッドの側面に高圧水銀灯、メタルハライドランプ、紫外線LEDなどの光源を取り付け、プリントヘッドもしくは基材を動かすことによる走査を行うことにより行うことができる。この場合は、印刷と、紫外線照射とをほぼ同時に行うことができる。
【0046】
また、本発明の硬化性組成物は(D)熱硬化成分を含有するため、公知の加熱手段、例えば、熱風炉、電気炉、赤外線誘導加熱炉等の加熱炉を用いることにより熱硬化し得る。この場合、120℃~170℃にて5分~60分加熱することが好ましい。
【0047】
本発明の硬化性組成物から得られた硬化物は、柔軟性にも優れるため、特にフレキシブルプリント配線版に対するソルダーレジストとしても好適である。
フレキシブルプリント配線板の基板としては、例えば、ガラスポリイミド、ポリイミド、ポリエチレンテレフタレート、液晶ポリマー、ポリカーボネートなどからなるフィルム等が挙げられる。
【0048】
さらに、本発明は、本発明の硬化性組成物を硬化して得られる硬化物、およびその硬化物を有する電子部品をも提供する。
本発明において電子部品とは、電子回路に使用する部品を意味し、プリント配線板、特にフレキシブルプリント配線板、トランジスタ、発光ダイオード、レーザーダイオード等の能動部品の他抵抗、コンデンサ、インダクタ、コネクタ等の受動部品も含まれ、本発明の硬化性組成物の硬化物は、これらの絶縁性硬化膜として好適である。
【0049】
以下、実施例によって本発明の一態様を具体的に示すが、もちろん、本願請求項に係る発明の範囲を限定することが目的ではない。
また、他に但書が無い限り、示される「部」および「%」は質量に基づくものとする。
【実施例】
【0050】
[実施例1~5および比較例1~3]
下記表1に示すとおりの各成分を、各配合量にて配合し、これらをディゾルバーで攪拌した(室温、回転数500rpm、5分間)。その後、ビーズミルを用いてジルコニアビーズにて分散を2時間行い、本発明の硬化性組成物(実施例1~5)および比較組成物(比較例1~3)を得た。ビーズミルとしては、コニカル型K-8(ビューラ社製)を使用し、回転数1200rpm、吐出量20%、ビーズ粒径0.65mm、充填率88%の条件にて混練した。
なお、得られた硬化性組成物を50℃で、100rpm、30秒値とし、コーン・ロータとして1°34’×R24を用いたコーンプレート型粘度計(TVE-33H、東機産業社製)にて粘度測定した結果、いずれも50mPa・s以下であり、インクジェット装置で塗布可能であることを確認した。
【0051】
【表1】
A-TMPT:トリメチロールプロパントリアクリレート;新中村工業社製
1,9-ノナンジオールジアクリレート;第一工業製薬社製
DPGDA:ジプロピレングリコールジアクリレート;東洋ケミカルズ株式会社製
BPE-4:EO変性ビスフェノールAジアクリレート(EO4モル付加物);第一工業製薬株式会社製
IBXA:イソボニルアクリレート;大阪有機化学工業社製
4HBA:4-ヒドロキシブチルアクリレート;共栄社化学社製
BI7982:3官能ブロックイソシアネート;Baxenden chemmical社製
Omnirad 379:2-(ジメチルアミノ)-2-[(4-メチルフェニル)メチル]-1-[4-(4-モルホリニル)フェニル]-1-ブタノン;IGM社製
OP-935:ホスフィン酸金属塩(リンコンテンツ23%、難溶性、非結晶性の難燃剤);クラリアントケミカルズ株式会社製
Firebrake ZB:ホウ酸亜鉛(2ZnO・3B2O3・3.5H2O);RIO TINO MINERALS製
FP-100:ホスファゼン化合物(リンコンテンツ13.4%、溶解性、結晶性のある難燃剤);株式会社伏見製薬所製
PX-200:縮合リン酸エステル(リンコンテンツ9.0%、溶解性、結晶性のある難燃剤);大八化学工業株式会社製
Pigment Blue15:3:フタロシアニン系青色顔料
Pigment Yellow147:アントラキノン系黄色顔料
【0052】
得られた実施例1~5および比較例1~3の硬化性組成物またはそれらの硬化膜について、下記のとおりに、保存安定性、塗布性、はんだ耐熱性、難燃性および柔軟性(MIT試験)についての試験を行った。また同時に、(B)難燃剤の難溶性についての試験をも行った。
【0053】
<(B)難燃剤の難溶性の確認>
実施例と比較例に対応した(A)化合物の割合を表2の通りに配合し、難燃剤OP-935、Firebrake ZB、FP-100、PX-200をそれぞれ5重量%混合し、80℃で攪拌し、常温に戻した後、ろ紙No.5Aを用いてろ過し、難燃剤が回収できたかを目視で評価を行った。
〇:難燃剤が回収率できた。すなわち、難燃剤の溶解度が5%未満のもの(難溶性とする)
×:難燃剤が回収率できなかった。すなわち、難燃剤の溶解度が5%以上のもの
【0054】
【0055】
<評価基板の作製例>
実施例1~5および比較例1~3の各硬化性組成物をインクジェット印刷装置CPS6151(マイクロクラフト社製)を用いて塗布を行った。アレイはKM1024iSHE(マイクロクラフト社製、塗布液滴量6pL、ノズル数2×1024個、ヘッド温度50℃)を使用した。仮硬化はSGHUV-UN-L042-B(マイクロクラフト社製、LED光源、波長365nm)を光源として使用し、300mJ/cm2で行った。その後、加熱装置は熱風循環式乾燥炉DF610(ヤマト科学株式会社製)を使用し、150℃60分で本硬化を行った。硬化膜の厚みは15μmであった。
【0056】
<保存安定性>
実施例1~5および比較例1~3の各硬化性組成物を100gずつ、透明の瓶に取り分け、15℃の環境下にて1週間静置した後、それらの状態を確認した。
評価は下記のとおりである。
〇:均一なワニス状態が保たれている。
×:沈殿物が発生し、均一なワニスとなっていない。
結果を下記表3に纏める。
【0057】
<塗布性>
実施例1~5および比較例1~3の各硬化性組成物を、上記評価基板の作製例に記載のとおりインクジェット印刷装置CPS6151(マイクロクラフト社製)を用いて、硫酸処理済みのエスパネックスMの銅表面上に塗布を行った。得られた塗膜表面を目視で観察し、以下の基準で評価を行った。
〇:均一に塗布ができており、表面が滑らかなもの
△:全面塗布はできているが、ヘッド操作方向に対してスジが発生しているもの
×:塗膜の一部に抜けが発生しているもの
結果を下記表3に纏める。
【0058】
<はんだ耐熱性>
実施例1~5および比較例1~3の各硬化性組成物を、上記評価基板の作製例に記載のとおりインクジェット印刷装置CPS6151(マイクロクラフト社製)を用いて、あらかじめ硫酸処理を行った銅厚18μm、ポリイミド50μmの回路パターン基板上に塗布し、硬化膜を得た。こうして得られた評価基板に対してロジン系フラックスを塗布し、予め260℃に設定したはんだ槽に10秒間浸漬し、変性アルコールでフラックスを洗浄した後、テープピールにより硬化膜の膨れ・剥がれについて評価した。判定基準は以下のとおりである。
◎:10秒間浸漬を2回繰り返し、セロテープ(登録商標)でピール試験を行っても硬化膜の剥がれ認められない。
〇:10秒間浸漬を1回行い、セロテープ(登録商標)でピール試験を行っても硬化膜の剥がれが認められない。
×:10秒間浸漬を行うと硬化膜に膨れ、剥がれがある。
結果を下記表3に纏める。
【0059】
<MIT試験>
実施例1~5および比較例1~3の各硬化性組成物を、上記評価基板の作製例に記載のとおりインクジェット印刷装置CPS6151(マイクロクラフト社製)を用いて、あらかじめ硫酸処理を行った、銅厚18μmで回路が形成されているフレキシブルプリント配線基材(宇部興産社製ユーピレックス25μmの基材を使用)上に塗布し硬化膜を得た。そして、得られた硬化膜に対し、下記のとおりにMIT試験(R=0.38mm)を実施し、屈曲性を評価した。
【0060】
MIT耐折疲労試験機D型(東洋精機製作所製)を用い、JIS P8115に準拠してMIT試験を行い、屈曲性を評価した。
具体的には、
図1に示すように、試験片1を装置に装着し、荷重F(0.5kgf)を負荷した状態で、クランプ2に試験片1を垂直に取り付けて、折り曲げ角度αが135度、速度が175cpmにて折り曲げを行い、破断するまでの往復折り曲げ回数(回)を測定した。なお、試験環境は25℃であった。曲率半径は、R0.38mmとした。評価基準は以下の通りである。
◎:屈曲回数150回以上
〇:屈曲回数100~149回
△:屈曲回数50~99回
×:屈曲回数49回以下
結果を下記表3に纏める。
【0061】
<難燃性>
実施例1~5および比較例1~3の各硬化性組成物を、上記評価基板の作製例に記載のとおりインクジェット印刷装置CPS6151(マイクロクラフト社製)を用いて、あらかじめ硫酸処理を行ったカプトン200H上に両面塗布し硬化膜を得た。そして、得られた硬化膜についてUL94規格に準拠した薄材垂直燃焼試験を行った。評価はUL94規格に基づいて、燃焼性試験を実施した。
〇:VTM-0の結果が得られたもの。
×:VTM-0とならず燃焼したもの。
結果を下記表3に纏める。
【0062】
【符号の説明】
【0063】
1 試験片 2 クランプ