(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-01
(45)【発行日】2024-03-11
(54)【発明の名称】スチレン系樹脂組成物
(51)【国際特許分類】
C08L 77/06 20060101AFI20240304BHJP
C08L 25/04 20060101ALI20240304BHJP
C08L 71/12 20060101ALI20240304BHJP
C08K 5/098 20060101ALI20240304BHJP
C08K 3/013 20180101ALI20240304BHJP
C08K 9/06 20060101ALI20240304BHJP
【FI】
C08L77/06
C08L25/04
C08L71/12
C08K5/098
C08K3/013
C08K9/06
(21)【出願番号】P 2021526962
(86)(22)【出願日】2020-06-22
(86)【国際出願番号】 JP2020024312
(87)【国際公開番号】W WO2020262277
(87)【国際公開日】2020-12-30
【審査請求日】2023-01-18
(31)【優先権主張番号】P 2019120130
(32)【優先日】2019-06-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000183646
【氏名又は名称】出光興産株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002620
【氏名又は名称】弁理士法人大谷特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】近藤 良佑
【審査官】中川 裕文
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第104693630(CN,A)
【文献】特開平08-319385(JP,A)
【文献】特開2018-070830(JP,A)
【文献】特開2008-266497(JP,A)
【文献】特開2013-014711(JP,A)
【文献】特開平03-033155(JP,A)
【文献】特開2000-063664(JP,A)
【文献】特開2015-199872(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08K 3/00- 13/08
C08L 1/00-101/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シンジオタクチック構造を有するスチレン系樹脂(A1)と脂肪族ポリアミド(A2)とを含む樹脂(A)
、0.05~0.75質量%の高級脂肪酸金属塩(B)
及びスチレン系樹脂(A1)と相溶性を有し、脂肪族ポリアミド(A2)と反応可能な極性基を有する相溶化剤(C)を含有し、
高級脂肪酸金属塩(B)がステアリン酸金属塩であり、
相溶化剤(C)が変性ポリフェニレンエーテルであり、
樹脂(A)中のスチレン系樹脂(A1)と脂肪族ポリアミド(A2)との質量比[(A1)/(A2)]が25/75~55/45である、スチレン系樹脂組成物。
【請求項2】
脂肪族ポリアミド(A2)がポリアミド66である、請求項1に記載のスチレン系樹脂組成物。
【請求項3】
高級脂肪酸金属塩(B)がステアリン酸アルミニウムである、請求項1
又は2に記載のスチレン系樹脂組成物。
【請求項4】
無機フィラー(D)を更に含有する、請求項1~
3のいずれか1つに記載のスチレン系樹脂組成物。
【請求項5】
無機フィラー(D)がシラン系カップリング剤又はチタン系カップリング剤により処理されている、請求項
4に記載のスチレン系樹脂組成物。
【請求項6】
無機フィラー(D)がガラスフィラーである、請求項
4又は
5に記載のスチレン系樹脂組成物。
【請求項7】
前記ガラスフィラーが、ガラス繊維、ガラスパウダー、ガラスフレーク、ミルドファイバー、ガラスクロス及びガラスビーズより選ばれる1種以上である、請求項
6に記載のスチレン系樹脂組成物。
【請求項8】
酸化防止剤(E)を更に含有する、請求項1~
7のいずれか1つに記載のスチレン系樹脂組成物。
【請求項9】
前記酸化防止剤(E)が、銅化合物、ヨウ素化合物、リン系化合物、フェノール系化合物及びイオウ系化合物より選ばれる1種以上である、請求項
8に記載のスチレン系樹脂組成物。
【請求項10】
請求項1~
9のいずれか1つに記載のスチレン系樹脂組成物を含有する成形体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スチレン系樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
シンジオタクチック構造を有するスチレン系樹脂(シンジオタクチックポリスチレン。以下、SPSともいう。)は、機械的強度、耐熱性、電気特性、吸水寸法安定性、及び耐薬品性等の優れた性能を有する。そのため、SPSは、電気・電子機器材料、車載・電装部品、家電製品、各種機械部品、産業用資材等の様々な用途に使用される樹脂として非常に有用である。
SPSの特性に対して、強度、靭性、耐熱性、耐薬品性、成形加工性等の複数の性質のバランスを取るために他の樹脂とのブレンドが検討されている。
【0003】
たとえば、特許文献1には、特に靭性の高い樹脂を得ることを目的として、シンジオタクチック構造を有するスチレン系重合体、ゴム状弾性体、ポリアミド、酸変性ポリフェニレンエーテルを含有することを特徴とするポリスチレン系樹脂組成物が開示されている。
また、ポリアミドとポリスチレン系樹脂のブレンドについて、特許文献2には、耐熱性をはじめとする諸物性の向上を目的として、特定構造のポリアミドとポリスチレン樹脂からなるポリアミド樹脂組成物とその成形体が開示されている。
【0004】
一方、樹脂成形品の製造時の生産性を向上させるため、脂肪酸の誘導体の使用が検討されている。たとえば、特許文献3には、成型品の生産性を向上させるために、ポリアミド樹脂ペレットの表面に特定粒径の脂肪酸金属塩の滑剤が付着していることを特徴とするポリアミド樹脂組成物が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2005-248185号公報
【文献】特開2000-256553号公報
【文献】特開2006-282943号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
最近では、前記のようにSPSの優れた性質を活かしつつ、物性のバランスを取るためにポリアミド樹脂との混合が検討されているが、電子部品や自動車、機械製品、食器などの衝撃や振動を受けやすい部品に適用するために、これらの樹脂にはより高い靭性が求められている。さらに近年では、これら部品が高温多湿環境下や、温水や熱水を使用する環境下にて使用されることも増えており、高い靭性に加え、耐熱水性、すなわちこのような過酷な条件下での良好な力学物性も必要とされている。一方、これらの樹脂を射出成形により成形体を製造する際に、金型に堆積物が残留して金型を汚染し、生産性を低下させてしまうことも問題となっており、生産性の向上も課題となっている。
したがって、本発明は、優れた耐熱水性を有し、かつ成形時の金型汚染を抑制することができるスチレン系樹脂組成物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは鋭意検討の結果、SPSと脂肪族ポリアミドとを特定の比率で含み、特定量の高級脂肪酸金属塩を含有する樹脂組成物が前記課題を解決することを見出した。すなわち、本発明は以下の[1]~[15]に関する。
【0008】
[1]
シンジオタクチック構造を有するスチレン系樹脂(A1)と脂肪族ポリアミド (A2)とを含む樹脂(A)及び0.05~0.75質量%の高級脂肪酸金属塩(B)を含有し、樹脂(A)中のスチレン系樹脂(A1)と脂肪族ポリアミド(A2)との質量比[(A1)/(A2)]が25/75~55/45である、スチレン系樹脂組成物。
[2]
脂肪族ポリアミド(A2)がポリアミド66である、[1]に記載のスチレン系樹脂組成物。
[3]
高級脂肪酸金属塩(B)がステアリン酸金属塩である、[1]又は[2]に記載のスチレン系樹脂組成物。
[4]
高級脂肪酸金属塩(B)がステアリン酸アルミニウムである、[1]~[3]のいずれか1つに記載のスチレン系樹脂組成物。
[5]
スチレン系樹脂(A1)と相溶性を有し、脂肪族ポリアミド(A2)と反応可能な極性基を有する相溶化剤(C)を更に含有する、[1]~[4]のいずれか1つに記載のスチレン系樹脂組成物。
[6]
相溶化剤(C)が有するポリアミド(A2)と反応可能な極性基が、酸無水物基、カルボン酸基、カルボン酸エステル基、カルボン酸ハライド基、カルボン酸アミド基、カルボン酸塩基、スルホン酸基、スルホン酸エステル基、スルホン酸塩化物基、スルホン酸アミド基、スルホン酸塩基、エポキシ基、アミノ基、イミド基、オキサゾリン基より選ばれる1種以上である、[5]に記載のスチレン系樹脂組成物。
[7]
相溶化剤(C)がポリスチレン、ポリフェニレンエーテル、ポリビニルメチルエーテルより選ばれる1種以上をポリマー鎖の主鎖又はグラフト鎖として有する、[5]又は[6]に記載のスチレン系樹脂組成物。
[8]
相溶化剤(C)が変性ポリフェニレンエーテル及び変性ポリスチレンより選ばれる1種以上である、[5]~[7]のいずれか1つに記載のスチレン系樹脂組成物。
[9]
無機フィラー(D)を更に含有する、[1]~[8]のいずれか1つに記載のスチレン系樹脂組成物。
[10]
無機フィラー(D)がシラン系カップリング剤又はチタン系カップリング剤により処理されている、[9]に記載のスチレン系樹脂組成物。
[11]
無機フィラー(D)がガラスフィラーである、[9]又は[10]に記載のスチレン系樹脂組成物。
[12]
前記ガラスフィラーが、ガラス繊維、ガラスパウダー、ガラスフレーク、ミルドファイバー、ガラスクロス及びガラスビーズより選ばれる1種以上である、[11]に記載のスチレン系樹脂組成物。
[13]
酸化防止剤(E)を更に含有する、[1]~[12]のいずれか1つに記載のスチレン系樹脂組成物。
[14]
前記酸化防止剤(E)が、銅化合物、ヨウ素化合物、リン系化合物、フェノール系化合物及びイオウ系化合物より選ばれる1種以上である、[13]に記載のスチレン系樹脂組成物。
[15]
[1]~[14]のいずれか1つに記載のスチレン系樹脂組成物を含有する成形体。
【発明の効果】
【0009】
本発明のスチレン系樹脂組成物によれば、特に熱水浸漬後の引張強度で表される優れた耐熱水性を有し、かつ成形時の金型汚染を抑制することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明のスチレン系樹脂組成物は、シンジオタクチック構造を有するスチレン系樹脂(A1)と脂肪族ポリアミド(A2)とを含む樹脂(A)及び0.05~0.75質量%の高級脂肪酸金属塩(B)を含有し、
樹脂(A)中のスチレン系樹脂(A1)と脂肪族ポリアミド(A2)との質量比[(A1)/(A2)]が25/75~55/45である。
以下、各項目について詳細に説明する。
【0011】
[樹脂(A)]
本発明のスチレン系樹脂組成物に含まれる樹脂(A)は、シンジオタクチック構造を有するスチレン系樹脂(SPS)(A1)と、脂肪族ポリアミド(A2)とを含み、樹脂(A)中のスチレン系樹脂(A1)と脂肪族ポリアミド(A2)との質量比[(A1)/(A2)]は25/75~55/45である。
樹脂(A)中のスチレン系樹脂(A1)と脂肪族ポリアミド(A2)との質量比が25/75未満になると、耐熱水性が低下するため好ましくない。樹脂(A)中のSPS(A1)の質量比が55/45を超えると、引張破断伸び等の力学物性が低下する。特に引張初期の破断伸びが低下するため好ましくない。
樹脂(A)中のスチレン系樹脂(A1)と脂肪族ポリアミド(A2)との質量比[(A1)/(A2)]は、初期の力学物性と耐熱水性を向上させる観点から、25/75~50/50が好ましく、25/75~40/60がより好ましく、25/75~35/65が更に好ましい。一方、引張強度等の力学物性を向上させる観点から、29/71~55/45が好ましく、35/65~55/45がより好ましく、40/60~55/45が更に好ましい。
【0012】
本発明のスチレン系樹脂組成物における樹脂(A)の含有量は、スチレン系樹脂組成物中、50~95質量%含むことが好ましい。樹脂(A)の含有量は、スチレン系樹脂組成物中、60質量%以上がより好ましく、65質量%以上が更に好ましく、70質量%以上がより更に好ましい。また、90質量%以下がより好ましく、85質量%以下が更に好ましく、80質量%以下がより更に好ましい。樹脂(A)量が上記範囲にあれば、耐熱水性を維持しつつ、金型汚染の抑制も可能である樹脂組成物となる。
【0013】
<シンジオタクチック構造を有するスチレン系樹脂(A1)>
スチレン系樹脂(A1)は、高度なシンジオタクチック構造を有するSPSである。本明細書において「シンジオタクチック」とは、隣り合うスチレン単位におけるフェニル環が、重合体ブロックの主鎖によって形成される平面に対して交互に配置(以下において、シンジオタクティシティと記載する)されている割合が高いことを意味する。
タクティシティは、同位体炭素による核磁気共鳴法(13C-NMR法)により定量同定できる。13C-NMR法により、連続する複数の構成単位、例えば連続した2つのモノマーユニットをダイアッド、3つのモノマーユニットをトリアッド、5つのモノマーユニットをペンタッドとしてその存在割合を定量することができる。
【0014】
本発明において、「高度なシンジオタクチック構造を有するスチレン系樹脂」とは、ラセミダイアッド(r)で通常75モル%以上、好ましくは85モル%以上、又はラセミペンタッド(rrrr)で通常30モル%以上、好ましくは50モル%以上のシンジオタクティシティを有するポリスチレン、ポリ(炭化水素置換スチレン)、ポリ(ハロゲン化スチレン)、ポリ(ハロゲン化アルキルスチレン)、ポリ(アルコキシスチレン)、ポリ(ビニル安息香酸エステル)等のスチレン系重合体、これらの水素化重合体若しくは混合物、又はこれらを主成分とする共重合体を意味する。
【0015】
ポリ(炭化水素置換スチレン)としては、ポリ(メチルスチレン)、ポリ(エチルスチレン)、ポリ(イソプロピルスチレン)、ポリ(tert-ブチルスチレン)、ポリ(フェニルスチレン)、ポリ(ビニルナフタレン)及びポリ(ビニルスチレン)等を挙げることができる。ポリ(ハロゲン化スチレン)としては、ポリ(クロロスチレン)、ポリ(ブロモスチレン)及びポリ(フルオロスチレン)等を、ポリ(ハロゲン化アルキルスチレン)としては、ポリ(クロロメチルスチレン)等を挙げることができる。ポリ(アルコキシスチレン)としては、ポリ(メトキシスチレン)及びポリ(エトキシスチレン)等が挙げられる。
【0016】
前記の構成単位を含む共重合体のコモノマー成分としては、前記スチレン系重合体のモノマーの他、エチレン、プロピレン、ブテン、ヘキセン及びオクテン等のオレフィンモノマー;ブタジエン、イソプレン等のジエンモノマー;環状オレフィンモノマー、環状ジエンモノマー、メタクリル酸メチル、無水マレイン酸及びアクリロニトリル等の極性ビニルモノマーが挙げられる。
スチレン系樹脂(A1)として、好適に用いられる共重合体としては、スチレンとp-メチルスチレンとの共重合体、スチレンとp-tert-ブチルスチレンとの共重合体、スチレンとジビニルベンゼンとの共重合体等が挙げられ、スチレンとp-メチルスチレンとの共重合体が好ましい。
【0017】
前記スチレン系樹脂のなかでは、ポリスチレン、ポリ(p-メチルスチレン)、ポリ(m-メチルスチレン)、ポリ(p-tert-ブチルスチレン)、ポリ(p-クロロスチレン)、ポリ(m-クロロスチレン)、ポリ(p-フルオロスチレン)、スチレンとp-メチルスチレンとの共重合体から選ばれる1種以上が好ましく、ポリスチレン、ポリ(p-メチルスチレン)、ポリ(m-メチルスチレン)、スチレンとp-メチルスチレンとの共重合体から選ばれる1種以上がより好ましく、ポリスチレン、スチレンとp-メチルスチレンとの共重合体が更に好ましい。
【0018】
SPS(A1)は、成形時の樹脂の流動性及び得られる成形体の強度の観点から、重量平均分子量が1×104以上1×106以下であることが好ましく、50,000以上500,000以下であることがより好ましい。重量平均分子量が1×104以上であれば、十分な強度を有する成形品を得ることができる。一方、重量平均分子量が1×106以下であれば成形時の樹脂の流動性にも問題がない。
本明細書において、重量平均分子量とは、特段の記載がない限り、東ソー株式会社製GPC装置(HLC-8321GPC/HT)、東ソー株式会社製GPCカラム(GMHHR-H(S)HTC/HT)を用い、溶離液として1,2,4-トリクロロベンゼンを用いて145℃でゲル浸透クロマトグラフィー測定法により測定し、標準ポリスチレンの検量線を用いて換算した値である。
【0019】
SPS(A1)は、温度300℃、荷重1.2kgの条件下でメルトフローレート(MFR)測定を行った場合に、好ましくは2g/10分以上、より好ましくは4g/10分以上であり、好ましくは50g/10分以下、より好ましくは30g/10分以下である。SPS(A1)の前記MFR値が2g/10分以上であれば、成形時の流動性にも問題がなく、また、50g/10分以下、好ましくは30g/10分以下であれば十分な機械的性質を有する成形品を得ることができる。
【0020】
SPS(A1)は、例えば不活性炭化水素溶媒中又は溶媒の不存在下で、チタン化合物、及び水とトリアルキルアルミニウムの縮合生成物(アルミノキサン)を触媒として、スチレン系単量体(上記スチレン系重合体に対応する単量体)を重合することにより製造することができる(例えば、特開2009-068022号公報)。
【0021】
<脂肪族ポリアミド(A2)>
本発明のスチレン系樹脂組成物を構成する脂肪族ポリアミドとしては、公知の脂肪族ポリアミドを使用することができる。
脂肪族ポリアミドは、脂肪族ジアミン成分と脂肪族ジカルボン酸成分、あるいは脂肪族アミノカルボン酸を重合して得られる重合体である。
具体的には、ポリアミド4、ポリアミド6、ポリアミド66、ポリアミド34、ポリアミド12、ポリアミド11、ポリアミド610等が挙げられ、ポリアミド6、ポリアミド66が好ましく、ポリアミド66がより好ましい。
【0022】
本発明のスチレン系樹脂組成物には、脂肪族ポリアミド(A2)として、前記ポリアミドの1種のみを単独で含んでいてもよいし、2種以上を組み合わせて含んでいてもよいが、1種を単独で用いることが好ましい。
【0023】
[高級脂肪酸金属塩(B)]
本発明のスチレン系樹脂組成物は、0.05~0.75質量%の高級脂肪酸金属塩(B)を含有する。
高級脂肪酸金属塩(B)の含有量は、スチレン系樹脂組成物中、0.05~0.75質量%であり、0.05~0.50質量%が好ましく、0.05~0.30質量%がより好ましく、0.07~0.20質量%が更に好ましく、0.08~0.15質量%がより更に好ましい。
高級脂肪酸金属塩の含有量が0.05~0.75質量%であると、成形時のモールドデポジットを効率よく抑制することができ、さらには得られた成形体の強度及び耐熱水性が優れるものとなる。
【0024】
スチレン系樹脂組成物に、前記特定量の高級脂肪酸金属塩を含有することで、成形時のモールドデポジットを効率よく抑制できる理由は定かではないが、次のように考えられる。モールドデポジットの原因の一つは、成形時に発生するアウトガス中の脂肪族ポリアミド由来の環状構造物が結晶化し、堆積したものであると考えられる。一方、本発明のスチレン系樹脂組成物では、成形時に高級脂肪酸金属塩由来のガスが脂肪族ポリアミド由来のガスと共に発生することで、脂肪族ポリアミド由来の環状構造物の結晶化を抑制し、針状結晶状の堆積物の生成が抑制できると考えられる。
【0025】
本発明のスチレン系樹脂組成物において、アウトガス量合計に占める高級脂肪酸塩(B)由来のガスの割合は、モールドデポジットを効率よく抑制する観点から、10~50%が好ましく、20~50%がより好ましく、30~40%が更に好ましい。
アウトガス量合計に占める高級脂肪酸塩(B)由来のガスの割合は、スチレン系樹脂組成物を加熱し、ガスクロマトグラフによってアウトガス全量と高級脂肪酸に由来するガスを定量して算出することができ、具体的には、実施例に記載の方法によって求めることができる。
【0026】
高級脂肪酸金属塩(B)の脂肪酸は、炭素数16~22が好ましく、炭素数16~18がより好ましく、炭素数18が更に好ましい。具体的には、パルミチン酸、ステアリン酸、アラキジン酸、ベヘン酸等が挙げられ、ステアリン酸が好ましい。
金属塩の金属としては、2価又は3価の典型元素金属が好ましく、具体的には、アルミニウム、カルシウム、亜鉛、マグネシウムが挙げられ、アルミニウムが好ましい。
高級脂肪酸金属塩(B)の融点は、100~200℃が好ましい。
高級脂肪酸金属塩(B)の具体例としては、ステアリン酸アルミニウム、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸鉛等のステアリン酸金属塩が好ましく、なかでもステアリン酸アルミニウム、ステアリン酸カルシウムが好ましく、ステアリン酸アルミニウムがより好ましい。
【0027】
[相溶化剤(C)]
本発明のスチレン系樹脂組成物は、スチレン系樹脂(A1)と相溶性を有し、脂肪族ポリアミド(A2)と反応可能な極性基を有する相溶化剤(C)を含有することが好ましい。
相溶化剤(C)はSPS(A1)と脂肪族ポリアミド(A2)との相溶性を向上させ、ドメインを微分散化し、各成分間の界面強度を向上させることを目的として配合される。
【0028】
相溶化剤(C)は、SPS(A1)と相溶性を有するが、相溶性に寄与する構造としては、ポリマー鎖中にSPSとの相溶性を有する連鎖を含有する構造であることが好ましい。
たとえば、ポリスチレン、ポリフェニレンエーテル、ポリビニルメチルエーテル等がポリマー鎖の主鎖又はグラフト鎖として有する構造が挙げられ、ポリフェニレンエーテル構造であることが好ましい。
すなわち、相溶化剤(C)は、ポリスチレン、ポリフェニレンエーテル、ポリビニルメチルエーテルより選ばれる1種以上をポリマー鎖の主鎖又はグラフト鎖として有することが好ましく、ポリフェニレンエーテルをポリマー鎖の主鎖又はグラフト鎖として有することがより好ましい。
ポリアミド(A2)と反応可能な極性基とは、ポリアミドが有する極性基と反応しうる官能基を指す。好ましい具体例としては、酸無水物基、カルボン酸基、カルボン酸エステル基、カルボン酸ハライド基、カルボン酸アミド基、カルボン酸塩基、スルホン酸基、スルホン酸エステル基、スルホン酸塩化物基、スルホン酸アミド基、スルホン酸塩基、エポキシ基、アミノ基、イミド基、オキサゾリン基より選ばれる1種以上が挙げられ、なかでも酸無水物基、カルボン酸基がより好ましい。
【0029】
相溶化剤(C)としては、変性ポリフェニレンエーテル及び変性ポリスチレンより選ばれる1種以上が挙げられ、変性ポリフェニレンエーテルが好ましい。
変性ポリフェニレンエーテルとしては、フマル酸変性ポリフェニレンエーテル、無水マレイン酸変性ポリフェニレンエーテル、(スチレン-無水マレイン酸)-ポリフェニレンエーテル-グラフトポリマー、グリシジルメタクリレート変性ポリフェニレンエーテル、アミン変性ポリフェニレンエーテル等が挙げられ、フマル酸変性ポリフェニレンエーテル及び無水マレイン酸変性ポリフェニレンエーテルが好ましく、フマル酸変性ポリフェニレンエーテルがより好ましい。
【0030】
前記変性ポリフェニレンエーテルは、変性剤を用いて公知のポリフェニレンエーテルを変性することにより得ることができるが、本発明の目的に使用可能であれば、この方法に限定されない。該ポリフェニレンエーテルは、公知の化合物であり、この目的のため、米国特許第3,306,874号、同3,306,875号、同3,257,357号及び同3,257,358号の各明細書を参照することができる。ポリフェニレンエーテルは、通常、銅アミン錯体触媒の存在下で、二置換または三置換フェノールを用いた酸化カップリング反応によって調製される。銅アミン錯体は、第一、第二及び第三アミンから誘導される銅アミン錯体を使用できる。
【0031】
ポリフェニレンエーテルの例としては、ポリ(2,6-ジメチル-1,4-フェニレンエーテル)、ポリ(2,3-ジメチル-6-エチル-1,4-フェニレンエーテル)、ポリ(2-メチル-6-クロロメチル-1,4-フェニレンエーテル)、ポリ(2-メチル-6-ヒドロキシエチル-1,4-フェニレンエーテル)、ポリ(2-メチル-6-n-ブチル-1,4-フェニレンエーテル)、ポリ(2-エチル-6-イソプロピル-1,4-フェニレンエーテル)、ポリ(2-エチル-6-n-プロピル-1,4-フェニレンエーテル)、ポリ(2,3,6-トリメチル-1,4-フェニレンエーテル)、ポリ〔2-(4’-メチルフェニル)-1,4-フェニレンエーテル〕、ポリ(2-ブロモ-6-フェニル-1,4-フェニレンエーテル)、ポリ(2-メチル-6-フェニル-1,4-フェニレンエーテル)、ポリ(2-フェニル-1,4-フェニレンエーテル)、ポリ(2-クロロ-1,4-フェニレンエーテル)、ポリ(2-メチル-1,4-フェニレンエーテル)、ポリ(2-クロロ-6-エチル-1,4-フェニレンエーテル)、ポリ(2-クロロ-6-ブロモ-1,4-フェニレンエーテル)、ポリ(2,6-ジ-n-プロピル-1,4-フェニレンエーテル)、ポリ(2-メチル-6-イソプロピル-1,4-フェニレンエーテル)、ポリ(2-クロロ-6-メチル-1,4-フェニレンエーテル)、ポリ(2-メチル-6-エチル-1,4-フェニレンエーテル)、ポリ(2,6-ジブロモ-1,4-フェニレンエーテル)、ポリ(2,6-ジクロロ-1,4-フェニレンエーテル)、ポリ(2,6-ジエチル-1,4-フェニレンエーテル)等が挙げられ、ポリ(2,6-ジメチル-1,4-フェニレンエーテル)が好ましい。
【0032】
前記ポリフェニレンエーテルの調製に使用されるフェノール系化合物の2種以上から誘導される共重合体、ポリスチレンなどのビニル芳香族化合物とポリフェニレンエーテルとの共重合体も用いることができる。
【0033】
ポリフェニレンエーテルの変性に用いられる変性剤としては、同一分子内にエチレン性二重結合と極性基とを有する化合物が挙げられ、具体的には例えば無水マレイン酸、マレイン酸、フマル酸、マレイン酸エステル、フマル酸エステル、マレイミド及びそのN置換体、マレイン酸塩、フマル酸塩、アクリル酸、アクリル酸エステル、アクリル酸アミド、アクリル酸塩、メタクリル酸、メタクリル酸エステル、メタクリル酸アミド、メタクリル酸塩、グリシジルメタクリレートなどが挙げられる。これらのうち特に無水マレイン酸、フマル酸及びグリシジルメタクリレートが好ましく用いられる。上記各種の変性剤は1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0034】
変性ポリフェニレンエーテルは、例えば溶媒や他樹脂の存在下、前記ポリフェニレンエーテルと変性剤とを反応させることにより得られる。変性の方法に特に制限はなく、公知の方法を用いることができる。具体的には、ロールミル、バンバリーミキサー、押出機などを用いて150~350℃の範囲の温度において溶融混練して反応させる方法、ベンゼン、トルエン、キシレンなどの溶媒中で加熱反応させる方法などを挙げることができる。さらに、反応を容易にするために、反応系にベンゾイルパーオキサイド、ジ-tert-ブチルパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド、tert-ブチルパーオキシベンゾエート、アゾビスイソブチロニトリル、アゾビスイソバレロニトリル、2,3-ジフェニル-2,3-ジメチルブタン等のラジカル発生剤を存在させることも有効である。変性の方法としては、ラジカル発生剤の存在下に溶融混練する方法がより好ましい。
【0035】
変性ポリスチレンとしては、変性SPS、スチレン-無水マレイン酸共重合体、スチレン-グリシジルメタクリレート共重合体、末端カルボン酸変性ポリスチレン、末端エポキシ変性ポリスチレン、末端オキサゾリン変性ポリスチレン、末端アミン変性ポリスチレン、スルホン化ポリスチレン、スチレン系アイオノマー、スチレン-メチルメタクリレート-グラフトポリマー、(スチレン-グリシジルメタクリレート)-メチルメタクリレート-グラフト共重合体、酸変性アクリル-スチレン-グラフトポリマー、(スチレン-グリシジルメタクリレート)-スチレン-グラフトポリマー、ポリブチレンテレフタレート-ポリスチレン-グラフトポリマー等が挙げられ、変性SPSが好ましい。
変性SPSとしては、極性基を有する変性SPSが好ましく、具体的には、無水マレイン酸変性SPS、フマル酸変性SPS、グリシジルメタクリレート変性SPS、アミン変性SPS等が挙げられる。
【0036】
相溶化剤(C)の含有量は、スチレン系樹脂組成物中、1.0質量%以上10.0質量%以下が好ましい。相溶化剤(B)の量が1質量%以上であれば、優れた機械強度を得ることができ、かつ生産性にも優れる。相溶化剤(B)の量が10.0質量%以下であれば、耐薬品性を良好に保つことができる。相溶化剤(C)の含有量は、スチレン系樹脂組成物中、1.5質量%以上がより好ましく、2.0質量%以上が更に好ましい。また、5.0質量%以下がより好ましく、4.0質量%以下が更に好ましい。
【0037】
[無機フィラー(D)]
本発明のスチレン系樹脂組成物は、無機フィラー(D)を含有することが好ましい。
無機フィラー(D)の形状としては、繊維状、粒状、粉状等が挙げられる。
繊維状フィラーとしては、ガラス繊維、炭素繊維、ウィスカー、セラミック繊維、金属繊維等が挙げられ、ガラス繊維が好ましい。
ウィスカーとしては、ホウ素、アルミナ、シリカ、炭化ケイ素等が挙げられる。
セラミック繊維としては、セッコウ、チタン酸カリウム、硫酸マグネシウム、酸化マグネシウム等が挙げられる。
金属繊維としては、銅、アルミニウム、鋼等が挙げられる。
無機フィラーの形状としてはクロス状、マット状、集束切断状、短繊維、フィラメント状のもの、ウィスカーが挙げられ、集束切断状の場合、長さは0.05~50mmであるものが好ましく、繊維径は5~20μmであるものが好ましい。クロス状、マット状の場合、長さは1mm以上であるものが好ましく、5mm以上であるものがより好ましい。
【0038】
粒状及び粉状フィラーとしては、タルク、カーボンブラック、グラファイト、二酸化チタン、シリカ、マイカ、炭酸カルシウム、硫酸カルシウム、炭酸バリウム、炭酸マグネシウム、硫酸マグネシウム、硫酸バリウム、オキシサルフェート、酸化スズ、アルミナ、カオリン、炭化ケイ素、金属粉末、ガラスパウダー、ガラスフレーク、ガラスビーズ等が挙げられ、ガラスパウダー、ガラスフレーク、ガラスビーズが好ましい。
【0039】
無機フィラー(D)は、ガラスフィラーであることが好ましい。
ガラスフィラーは、ガラス繊維、ガラスパウダー、ガラスフレーク、ミルドファイバー、ガラスクロス及びガラスビーズより選ばれる1種以上であることがより好ましく、優れた機械強度が得られるため、ガラス繊維が更に好ましい。
ガラスフィラーは、Eガラス、Cガラス、Sガラス、Dガラス、ECRガラス、Aガラス、ARガラス等を挙げることができる。また、酸化ホウ素を含まないガラスも用いることができる。
【0040】
ガラス繊維は、長さが0.05~50mmであることが好ましく、繊維径が5~20μmであることが好ましい。
【0041】
無機フィラー(D)は、SPS(B)との接着性を高めるために、カップリング剤で表面処理を施されていることが好ましく、シラン系カップリング剤又はチタン系カップリング剤により処理されていることがより好ましく、シラン系カップリング剤で処理されていることが樹脂成分との相溶性の観点から更に好ましい。
【0042】
シラン系カップリング剤の具体例としては、トリエトキシシラン、ビニルトリス(β-メトキシエトキシ)シラン、γ-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、β-(1,1-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、N-β-(アミノエチル)-γ-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-β-(アミノエチル)-γ-アミノプロピルメチルジメトキシシラン、γ-アミノプロピルトリエトキシシラン、N-フェニル-γ-アミノプロピルトリメトキシシラン、γ-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、γ-クロロプロピルトリメトキシシラン,γ-アミノプロピルトリメトキシシラン、γ-アミノプロピル-トリス(2-メトキシ-エトキシ)シラン、N-メチル-γ-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-ビニルベンジル-γ-アミノプロピルトリエトキシシラン、3-ウレイドプロピルトリメトキシシラン、3-4,5-ジヒドロイミダゾールプロピルトリエトキシシラン、ヘキサメチルジシラザン、N,N-ビス(トリメチルシリル)ウレア、3-トリエトキシシリル-N-(1,3-ジメチルーブチリデン)プロピルアミン等が挙げられる。これらの中でも、γ-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-β-(アミノエチル)-γ-アミノプロピルトリメトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、β-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン等のアミノシラン、エポキシシランが好ましい。
【0043】
チタン系カップリング剤の具体例としては、イソプロピルトリイソステアロイルチタネート、イソプロピルトリドデシルベンゼンスルホニルチタネート、イソプロピルトリス(ジオクチルパイロホスフェート)チタネート、テトライソプロピルビス(ジオクチルホスファイト)チタネート、テトラオクチルビス(ジトリデシルホスファイト)チタネート、テトラ(1,1-ジアリルオキシメチル-1-ブチル)ビス(ジトリデシル)ホスファイトチタネート、ビス(ジオクチルパイロホスフェート)オキシアセテートチタネート、ビス(ジオクチルパイロホスフェート)エチレンチタネート、イソプロピルトリオクタノイルチタネート、イソプロピルジメタクリルイソステアロイルチタネート、イソプロピルイソステアロイルジアクリルチタネート、イソプロピルトリ(ジオクチルホスフェート)チタネート、イソプロピルトリクミルフェニルチタネート、イソプロピルトリ(N-アミドエチル,アミノエチル)チタネート、ジクミルフェニルオキシアセテートチタネート、ジイソステアロイルエチレンチタネートなどが挙げられる。これらの中でも、イソプロピルトリ(N-アミドエチル,アミノエチル)チタネートが好ましい。
【0044】
前記カップリング剤を用いた無機フィラーの表面処理は、通常の公知の方法で行うことができる。例えば、前記カップリング剤の有機溶媒溶液若しくは懸濁液を塗布するサイジング処理、乾式混合処理、スプレー法、インテグラルブレンド法、ドライコンセントレート法が挙げられ、サイジング処理、乾式混合処理、スプレー法が好ましい。
【0045】
無機フィラー(D)の含有量は、樹脂組成物中、1質量%以上30質量%以下であることが好ましい。無機フィラー(D)の量が1質量%以上であれば、十分な離型剛性を得ることができる。無機フィラー(D)の量が30質量%以下であれば、スチレン系樹脂組成物の機械物性に悪影響を与えない。無機フィラー(D)の含有量は、樹脂組成物中、3質量%以上がより好ましく、5質量%以上がより好ましく、10質量%以上がより好ましく、15質量%以上がより好ましい。また、25質量%以下がより好ましく、22質量%以下がより好ましい。
【0046】
[酸化防止剤(E)]
本発明のスチレン系樹脂組成物は、酸化防止剤(E)を含有することが好ましい。
酸化防止剤(E)は、銅化合物、ヨウ素化合物、リン系化合物、フェノール系化合物及びイオウ系化合物より選ばれる1種以上を用いることが好ましく、耐熱性の観点から、銅化合物、ヨウ素化合物、フェノール系化合物がより好ましい。
【0047】
銅化合物としては、無機ハロゲン化銅、無機酸の銅塩、有機酸の銅塩、銅錯体化合物が挙げられ、無機ハロゲン化銅、無機酸の銅塩が好ましく、無機ハロゲン化銅がより好ましい。
無機ハロゲン化銅は、塩化銅、臭化銅及びヨウ化銅等が挙げられる。
無機酸の銅塩は、硫酸銅、硝酸銅及びリン酸銅等が挙げられる。
有機酸の銅塩は、酢酸、サリチル酸銅、ステアリン酸銅、オレイン酸銅、安息香酸銅、ギ酸銅、プロピオン酸銅、シュウ酸銅、セバシン酸銅、乳酸銅、モンタン酸銅、アジピン酸銅、イソフタル酸銅、ピロリン酸銅及びアンモニア銅等が挙げられる。
銅錯体化合物は、無機ハロゲン化銅とキシリレンジアミン、ベンズイミダゾール、2-メルカプトベンズイミダゾール等が挙げられる。
これらの中でも、塩化銅、臭化銅、ヨウ化銅及び硝酸銅が好ましい。銅化合物は一種用いてもよいし、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0048】
ヨウ素化合物としては、ヨウ化カリウム、ヨウ化マグネシウム及びヨウ化アンモニウムなどがあり、ヨウ素単体でもよい。ヨウ素化合物は一種用いてもよいし、二種以上を組み合わせて用いてもよい。銅化合物とヨウ素化合物とを含むことが好ましく、ヨウ化銅とヨウ化カリウムとを含むことがより好ましい。
【0049】
リン系化合物としては、トリス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)ホスファイト、トリス(モノおよびジ-ノニルフェニル)ホスファイト等のモノホスファイトやジホスファイト等が挙げられる。
【0050】
フェノール系酸化防止剤の具体例としては、2,6-ジ-tert-ブチル-4-メチルフェノール、2,6-ジフェニル-4-メトキシフェノール、2,2'-メチレンビス(6-tert-ブチル-4-メチルフェノール)、2,2'-メチレンビス〔4-メチル-6-(α-メチルシクロヘキシル)フェノール〕、1,1-ビス(5-tert-ブチル-4-ヒドロキシ-2-メチルフェニル)ブタン、2,2'-メチレンビス(4-メチル-6-シクロヘキシルフェノール)、2,2'-メチレンビス(4-メチル-6-ノニルフェノール)、1,1,3-トリス(5-tert-ブチル-4-ヒドロキシ-2-メチルフェニル)ブタン、2,2-ビス(5-tert-ブチル-4-ヒドロキシ-2-メチルフェニル)-4-n-ドデシルメルカプトブタン、エチレングリコール-ビス〔3,3-ビス(3-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)ブチレート〕、1,1-ビス(3,5-ジメチル-2-ヒドロキシフェニル)-3-(n-ドデシルチオ)-ブタン、4,4'-チオビス(6-tert-ブチル-3-メチルフェノール)、1,3,5-トリス(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシベンジル)-2,4,6-トリメチルベンゼン、2,2-ビス(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシベンジル)マロン酸ジオクタデシルエステル、n-オクタデシル-3-(4-ヒドロキシ-3,5-ジ-tert-ブチルフェニル)プロピオネート、ペンタエリスリトールテトラキス{3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート}等が挙げられる。
【0051】
スチレン系樹脂組成物には、前記酸化防止剤を1種又は2種以上を同時に含んでもよい。酸化防止剤の含有量は、スチレン系樹脂組成物中、0.05質量%以上が好ましく、0.1質量%以上がより好ましく、0.15質量%以上が更に好ましい。また、2.0質量%以下が好ましく、1.0質量%以下がより好ましく、0.5質量%以下が更に好ましい。酸化防止剤の量が0.05質量%以上であれば長期耐熱性を得ることができる。酸化防止剤の量が2.0質量%以下であれば、酸化防止剤のブリードを抑制することができ、外観に悪影響を与えない。
【0052】
[その他成分]
本発明のスチレン系樹脂組成物には、本発明の目的を阻害しない範囲で一般に使用される架橋剤、架橋助剤、核剤、可塑剤、離型剤、着色剤及び/または帯電防止剤等のその他成分を添加することができる。
【0053】
核剤としては、アルミニウムジ(p-tert-ブチルベンゾエート)をはじめとするカルボン酸の金属塩、メチレンビス(2,4-ジ-tert-ブチルフェノール)アシッドホスフェートナトリウムをはじめとするリン酸の金属塩、フタロシアニン誘導体等公知のものから任意に選択して用いることができる。
【0054】
離型剤としては、ポリエチレンワックス、シリコーンオイル、長鎖カルボン酸等公知のものから任意に選択して用いることができる。
【0055】
[成形体]
本発明のスチレン系樹脂組成物は、樹脂(A)及び高級脂肪酸金属塩(B)と、必要に応じて上記その他成分とを配合・混練して組成物を得る。配合及び混練は、通常用いられている機器、例えば、リボンブレンダー、ドラムタンブラー、ヘンシェルミキサーなどで予備混合して、バンバリーミキサー、単軸スクリュー押出機、二軸スクリュー押出機、多軸スクリュー押出機及びコニーダ等を用いる方法で行うことができる。
上記の溶融混練した本発明のスチレン系樹脂組成物、または得られたペレットを原料として、射出成形法、射出圧縮成形法、押出成形法、ブロー成形法、プレス成形法、真空成形法及び発泡成形法等により各種成形体を製造することができる。このようにして得られた成形体は本発明のスチレン系樹脂組成物を含有する。特に、溶融混練により得られたペレットを用いて、射出成形及び射出圧縮成形による射出成形体の製造に好適に用いることができる。
本発明のスチレン系樹脂組成物は、優れた耐熱水性を有し、かつ成形時の金型汚染を抑制することができるため、本発明のスチレン系樹脂組成物を含有する成形体は、自動車用センサー、ハウジング、コネクター、大型自動車用排気ブレーキの電磁弁、発熱を伴うLEDディスプレイ部品、車載照明、信号灯、非常灯、端子台、ヒューズ部品、高電圧部品などの用途に好ましくは用いることができ、特に自動車用コネクターとして好適に用いることができる。
【実施例】
【0056】
本発明を実施例によりさらに具体的に説明するが、本発明はこれらに何ら制限されるものではない。
【0057】
<I>ペレットの作成
無機フィラー(D)以外の各成分を表1に記載する割合で配合し、ヘンシェルミキサーでドライブレンドした。続いて、37mmのシリンダ径を有する二軸スクリュー混練機(東芝機械社製:TEM35B)を用いて、スクリュー回転数200rpm、バレル温度330℃で、無機フィラー(D)を表1に記載する割合でサイドフィードしながら樹脂組成物を混練し、ペレットを作製した。得られたペレットを、熱風乾燥機を用いて80℃で5時間乾燥した。
【0058】
前記の通り乾燥後に得られたペレット(樹脂組成物)について評価した。実施例及び比較例における物性評価は以下の通り行った。
(1)金型汚染
前記<I>で得られたペレットを用い、射出成形機[住友重機械工業社製 SH100A]を用い、成形条件として、シリンダ温度290℃、金型温度80℃、成形サイクル40秒(冷却時間18秒)を用い、80×80×2mm角板試験片中のデポジット評価入れ子を使用して、ショートショット法により500回成形した後の、金型の堆積物(モールドデポジット)を目視で確認し、以下の評価基準で評価した。
A:油状物様の堆積物は見られるが、針状結晶様の堆積物はなく、堆積量は非常に少ない
B:油状物様の堆積物は見られるが、針状結晶様の堆積物はなく、堆積量は少ない
C:針状結晶様の堆積物が見られるが、堆積量は少ない
D:針状結晶様の堆積物が見られるが、堆積量は多い
E:針状結晶様の堆積物が見られ、堆積量は非常に多い
評価がA~Bであれば、金型汚染が少なく、連続成形が可能である。
【0059】
(2)熱水浸漬後の引張強度保持率(耐熱水性)
前記<I>で得られたペレットを用い、射出成形機[住友重機械工業社製 SH100A]を用い、成形条件として、シリンダ温度290℃、金型温度80℃、成形サイクル38秒(冷却時間18秒)を用い、JIS K7139:2015に準拠し、ダンベル型引張試験片(タイプA)を成形した。この試験片を引張試験機(島津製作所社製、商品名:オートグラフAG5000B)に取り付け、ISO527-1:2012(第2版)に準拠した後述の試験条件で、引張試験を行った。また、120℃のプレッシャークッカーに試験片を投入し、400時間後の試験片の引張強度を上記と同様に測定し、その強度保持率(%)を求めた。物性保持率について、下記の基準で評価を行った。
試験条件:初期チャック間距離100mm、引張速度5mm/分、室温
A:60%以上
B:57%以上60%未満
C:53%以上57%未満
D:50%以上53%未満
E:50%未満
評価がA~Cであれば、耐熱水性が優れる。
【0060】
(3)熱水浸漬後の引張破断伸び保持率
実施例の樹脂組成物(ペレット)については、前記(2)引張強度保持率を測定する際に、引張破断伸び保持率も同時に測定した。
熱水浸漬後の引張破断伸び保持率の値が大きいと、靭性に優れるため、成形体等の製品において、外力が加わった場合にも製品が壊れにくくなり好ましい。
【0061】
(4)アウトガス量合計に占める高級脂肪酸塩由来のガスの割合
前記<I>で得られたペレットを粉砕し、10mgを量り取り、加熱脱着装置付きガスクロマトグラフ(TDU-GC)を用いて、下記の条件により、樹脂組成物のアウトガス量を測定し、ステアリン酸アルミニウム由来のピーク面積から、アウトガス量合計に占める高級脂肪酸塩由来のガスの割合(%)を算出した。
(測定条件)
ガスクロマトグラフ(GC装置):GC7890B(アジレント・テクノロジー株式会社製)
加熱脱着装置:TDU(ゲステル株式会社製)
カラムDB-5MS(30m×0.25mm i.d. df=0.25μm)
TDU条件:50℃(0.01min)→720℃/min→310℃又は330℃(10min)、スプリットレス
CIS条件:-50℃(0.01min)→12℃/sec→350℃(5min)、スプリット
オーブン温度条件:50℃(5min)→10℃/min→330℃(10min)
キャリアガス流量:He、1mL/min
検出器(FID)温度:330℃
定量方法:ステアリン酸アルミニウム由来のピークの定量は、ステアリン酸を標準物質とした絶対検量線法によって行った。
【0062】
実施例1~3及び比較例1~7
表に示す割合(質量%)で各成分を配合し、上記成形条件に従って各種評価を行った。用いた成分は以下の通りである。
SPS(A1):[ザレック90ZC、出光興産株式会社製、重量平均分子量200,000、MFR9.0g/10分(温度300℃、荷重1.2kg)]
脂肪族ポリアミド(A2):ナイロン66[Ascend Performance Materials社製、Vydyne(登録商標)50BWFS]
高級脂肪酸金属塩(B):ステアリン酸アルミニウム[FACI社製、M-132HG]
相溶化剤(C):フマル酸変性ポリフェニレンエーテル[出光興産株式会社製、CX-1]
無機フィラー(D):ECS03T-249H[日本電気硝子株式会社製、Eガラス、繊維状(チョップドストランド長さ3mm)、繊維断面略真円形状(φ10.5μm)、シランカップリング剤処理]
酸化防止剤(E):ヨウ化銅/ヨウ化カリウム化合物:[PolyAd社製、AL-120FF]
【0063】
【0064】
実施例の結果から、本発明のスチレン系樹脂組成物は、優れた耐熱水性を有し、かつ成形時の金型汚染を抑制することができることがわかる。