(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-01
(45)【発行日】2024-03-11
(54)【発明の名称】チタン合金箔及びディスプレーパネル、並びにディスプレーパネルの製造方法
(51)【国際特許分類】
C22C 14/00 20060101AFI20240304BHJP
C22F 1/18 20060101ALI20240304BHJP
B21B 1/40 20060101ALI20240304BHJP
B21B 3/00 20060101ALI20240304BHJP
C22F 1/00 20060101ALN20240304BHJP
【FI】
C22C14/00 Z
C22F1/18 H
B21B1/40
B21B3/00 K
C22F1/00 606
C22F1/00 622
C22F1/00 630G
C22F1/00 661Z
C22F1/00 683
C22F1/00 684C
C22F1/00 685Z
C22F1/00 691B
C22F1/00 691C
C22F1/00 694A
C22F1/00 630A
C22F1/00 686A
(21)【出願番号】P 2023538684
(86)(22)【出願日】2022-12-22
(86)【国際出願番号】 JP2022047311
(87)【国際公開番号】W WO2023120631
(87)【国際公開日】2023-06-29
【審査請求日】2023-06-22
(31)【優先権主張番号】P 2021210993
(32)【優先日】2021-12-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000006644
【氏名又は名称】日鉄ケミカル&マテリアル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【氏名又は名称】大浪 一徳
(74)【代理人】
【識別番号】100134359
【氏名又は名称】勝俣 智夫
(74)【代理人】
【識別番号】100188592
【氏名又は名称】山口 洋
(74)【代理人】
【識別番号】100217249
【氏名又は名称】堀田 耕一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100221279
【氏名又は名称】山口 健吾
(74)【代理人】
【識別番号】100207686
【氏名又は名称】飯田 恭宏
(74)【代理人】
【識別番号】100224812
【氏名又は名称】井口 翔太
(72)【発明者】
【氏名】近藤 成美
(72)【発明者】
【氏名】木村 圭一
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼橋 一浩
(72)【発明者】
【氏名】平賀 拓也
【審査官】河野 一夫
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第113578967(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第109371284(CN,A)
【文献】特開2007-501903(JP,A)
【文献】特開昭62-074062(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 14/00
C22F 1/18
B21B 1/40
B21B 3/00
C22F 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
厚さをtとしたとき、前記tが0.005mm以上、0.200mm以下であり、
表面に対してX線回折を行った際に得られるX線回折強度において、体心立方構造の結晶の200面のピーク強度が、他の結晶構造からの最大ピーク強度の5.0倍以上であり、
前記X線回折強度のうち、前記体心立方構造の結晶のX線回折強度において、前記200面の前記ピーク強度、又は211面のピーク強度が、110面のピーク強度よりも大きく、
引張強さが1000MPa以上、1800MPa以下である、
ことを特徴とするチタン合金箔。
【請求項2】
前記X線回折強度において、前記200面の前記ピーク強度が、他のすべてのピーク強度よりも大きい、
ことを特徴とする請求項1に記載のチタン合金箔。
【請求項3】
下記の式によって計算されるMo当量が、5.0質量%以上である、
ことを特徴とする請求項1に記載のチタン合金箔。
Mo当量(質量%)=Mo+0.67×V+0.44×W+0.28×Nb+0.22×Ta+2.9×Fe+1.6×Cr-1.0×Al
ここで、式中の元素記号は、チタン合金に含まれる各元素の質量%での含有量である。
【請求項4】
前記Mo当量が、10.0質量%以上である、
ことを特徴とする請求項3に記載のチタン合金箔。
【請求項5】
前記表面の算術平均粗さであるRaが0.010μm以上であり、最大谷深さであるRvが0.180μm以下である、
ことを特徴とする請求項1に記載のチタン合金箔。
【請求項6】
前記表面の算術平均粗さであるRaが0.010μm以上であり、最大谷深さであるRvが0.180μm以下である、
ことを特徴とする請求項2に記載のチタン合金箔。
【請求項7】
請求項
1~6のいずれか一項に記載のチタン合金箔と、
前記チタン合金箔の表面上に備えられた接着層と、
前記接着層の表面上に備えられた発光素子と、
を有する、
ことを特徴とするディスプレーパネル。
【請求項8】
前記発光素子が有機EL表示素子である、
ことを特徴とする請求項
7に記載のディスプレーパネル。
【請求項9】
請求項
1~6のいずれか一項に記載のチタン合金箔に、発光素子の発光面が最表面になるように、接着層を介して、前記発光素子を貼り付ける、工程を有する、
ことを特徴とするディスプレーパネルの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、チタン合金箔及びディスプレーパネル、並びにディスプレーパネルの製造方法に関する。
本願は、2021年12月24日に、日本に出願された特願2021-210993号に基づき優先権を主張し、その内容をここに援用する。
【背景技術】
【0002】
曲げることが可能な発光素子、特に有機EL素子が開発され、近年画面自体が折り曲げられるフォルダブルデバイスやロール状に巻いて収納できるローラブルデバイスと呼ばれる電子機器が開発されている(以降、フォルダブルデバイスとローラブルデバイスを区別する必要がない場合は、両者を総称してフォルダブルデバイスと呼ぶ場合がある)。有機EL素子はそれ自体の剛性がないため、その背面に補強板が必要になる場合が多い。
【0003】
補強板は発光素子に接着剤等を使用して貼り合わされ、発光素子と一体となって折り曲げられることから可撓性が必要であり、主にはステンレス薄板、又はステンレス箔が選択される。このような補強板に求められるものは曲げ耐久性である。具体的には、繰り返しの曲げに対して曲げ癖が付かないことと、金属疲労により、亀裂が入らないこと、及び破断しないことである。したがって、求められる特性としてはばね材に求められるものに近いが、ばね材と異なり、必ずしも復元力が必要とはされない。
【0004】
特許文献1では、フレキシブルディスプレー用基板に使用されるステンレス箔として、箔の圧延方向と圧延方向に垂直な方向の平均の算術平均粗さ(Ra)が50nm以下のステンレス箔が考案されている。この考案における曲率は、請求の範囲から比較的大きな曲率が想定されている。ステンレス箔を基板として薄い絶縁膜を介してその上に回路を形成する基板としては、ディスプレーの解像度を損ねないよう平滑性が求められる。
【0005】
一方、発光装置の基板として、ステンレス以外に、チタンを用いることも提案されている。例えば、特許文献2にはステンレス又はチタンよりなるフレキシブルな伝導性基板と、伝導性基板上に形成される薄膜トランジスターを含む有機発光装置が提案されている。
しかしながら、この発光装置は伝導性基板にバイアスを加えるシステムに関する。フレキシブル基板に求められる特性は伝導性であり、繰り返し曲げは想定されていない。
【0006】
また、特許文献3には有機EL等発光パネルの補強材としてチタン合金材を用いることが記述されている。しかしながら、現行使用されているステンレスや一般的に強度の小さいプラスチック、アルミニウム、シリコーンゴムと同列で記述されており、近年求められている厳しい繰り返し曲げに対する用途は想定されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】国際公開第2009/139495号
【文献】日本国特開2007-11256号公報
【文献】日本国特開2016-75884号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
近年のフォルダブルデバイスやローラブルデバイスのディスプレーに使用される補強用の金属板、又は箔に対しては、従来求められてこなかったような大きな曲率に対しての耐久性が求められている。また、基板としてではなく補強板として使用する場合、求められる曲率はより大きなものが必要になる場合がある。
【0009】
また、これらの電子機器に対しては、クラムシェル型、スライド型、またタブレット携帯電話端末の場合と同様に、薄化、軽量化が求められる。その上、耐久性が求められる曲率はますます厳しくなっている。すなわち、補強板に求められる金属材料はより精緻な要件が求められ、現行の材料では対応できなくなりつつある。
【0010】
本発明は、上記の事情に鑑み、フォルダブルデバイスのディスプレーパネルなどの発光素子の裏打ち補強材として現在使用されている金属箔に代わるより曲げ耐久性の高い材料、具体的には、従来にない小さい曲げ半径(大きな曲率)で大きな曲げ角で繰り返し曲げを行った時においても大きな疲労亀裂が発生せず、曲げ戻した時の曲げ癖が小さな材料を提供することを課題とする。また、そのような材料を用いたディスプレーパネル、並びにディスプレーパネルの製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、デバイスの軽量化の観点から、金属の中では比強度の大きいチタン合金箔を補強材として用いることを検討した。
上述するように従来技術では、チタン合金箔は、厳しい繰り返し曲げが求められる用途への適用は検討されていなかった。本発明者らが、さらに検討した結果、チタン合金箔の集合組織を所定の状態に制御することで、曲げ耐久性が大きく向上することを見出した。
【0012】
本発明は上記の知見に鑑みてなされた。本発明の要旨は以下の通りである。
[1]本発明の一態様に係るチタン合金箔は、厚さをtとしたとき、前記tが0.005mm以上、0.200mm以下であり、表面に対してX線回折を行った際に得られるX線回折強度において、体心立方構造の結晶の200面のピーク強度が、他の結晶構造からの最大ピーク強度の5.0倍以上であり、前記X線回折強度のうち、前記体心立方構造の結晶のX線回折強度において、前記200面の前記ピーク強度、又は211面のピーク強度が、110面のピーク強度よりも大きく、引張強さが1000MPa以上、1800MPa以下である。
[2]上記[1]に記載のチタン合金箔は、前記X線回折強度において、前記200面の前記ピーク強度が、他のすべてのピーク強度よりも大きくてもよい。
[3]上記[1]に記載のチタン合金箔は、下記の式によって計算されるMo当量が、5.0質量%以上であってもよい。
Mo当量(質量%)=Mo+0.67×V+0.44×W+0.28×Nb+0.22×Ta+2.9×Fe+1.6×Cr-1.0×Al
ここで、式中の元素記号は、チタン合金に含まれる各元素の質量%での含有量である。
[4]上記[3]に記載のチタン合金箔は、前記Mo当量が、10.0質量%以上であってもよい。
[5]上記[1]に記載のチタン合金箔は、前記表面の算術平均粗さであるRaが0.010μm以上であり、最大谷深さであるRvが0.180μm以下であってもよい。
[6]上記[2]に記載のチタン合金箔は、前記表面の算術平均粗さであるRaが0.010μm以上であり、最大谷深さであるRvが0.180μm以下であってもよい。
[7]本発明の別の態様に係るディスプレーパネルは、上記[1]~[6]のいずれか一つに記載のチタン合金箔と、前記チタン合金箔の表面上に備えられた接着層と、前記接着層の表面上に備えられた発光素子と、を有する。
[8]上記[7]に記載のディスプレーパネルは、前記発光素子が有機EL表示素子であってもよい。
[9]本発明の別の態様に係るディスプレーパネルの製造方法は、[1]~[6]のいずれか一つに記載のチタン合金箔に、発光素子の発光面が最表面になるように、接着層を介して、前記発光素子を貼り付ける、工程を有する。
【発明の効果】
【0013】
本発明の上記態様によれば、曲げ耐久性の高いチタン合金箔を提供することができる。このチタン合金箔を用いることで、薄型、小型、軽量、かつ高耐久の可撓性発光パネルを搭載したフォルダブル電子機器(フォルダブルデバイス)用のディスプレーパネル、ローラブル電子機器(ローラブルデバイス)用のディスプレーパネル、及び、これらのディスプレーパネルを有する折り畳み、収納可能な携帯端末、テレビなどの電子デバイスの構築が可能になる。
また、本発明の上記態様によれば、曲げ耐久性の高いチタン合金箔と発光素子とを備える、ディスプレーパネルとその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】フォルダブル電子機器用のディスプレーパネルの一例を示す図である。
【
図2】ローラブル電子機器用のディスプレーパネルの一例を示す図である。
【
図3】ローラブル電子機器用のディスプレーパネルの一例を示す図である。
【
図4】クラムシェル型の繰り返し曲げ試験機を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の一実施形態に係るチタン合金箔(本実施形態に係るチタン合金箔)は、厚さをtとしたとき、前記tが0.005mm以上、0.200mm以下であり、表面に対してX線回折を行った際に得られるX線回折強度において、体心立方構造の結晶の200面のピーク強度が、他の結晶構造からの最大ピーク強度の5.0倍以上であり、前記X線回折強度のうち、前記体心立方構造の結晶のX線回折強度において、前記200面の前記ピーク強度、又は211面のピーク強度が、110面のピーク強度よりも大きく、引張強さが1000MPa以上、1800MPa以下である。
【0016】
また、本実施形態に係るチタン合金箔は、適用の一例として、ディスプレーパネルへの適用が想定される。例えば、本実施形態に係るチタン合金箔を用いれば、本実施形態に係るチタン合金箔と、前記チタン合金箔の表面上に備えられた接着層と、前記接着層の表面上に備えられた発光素子と、を有する、ディスプレーパネル(以下、本実施形態に係るディスプレーパネルと言う場合がある)を得ることができる。
それぞれについて説明する。
【0017】
[ディスプレーパネル]
本実施形態に係るディスプレーパネルの例を
図1から
図3に示す。
図1はフォルダブル電子機器用のディスプレーパネルの一例であり、
図2、
図3はローラブル電子機器用のディスプレーパネルの例である。これらの図は、いずれも説明するために単純化したものである。
本実施形態に係るディスプレーパネルは、本実施形態に係るチタン合金箔1と、たとえば有機EL素子のような発光素子2とが、接着剤等(図示せず)を用いて、面で貼り合わされてなる。発光素子、接着剤等については限定されず、公知のものでよい。発光素子は、例えば、有機EL表示素子である。
【0018】
図1では、発光素子2が、曲げの内側になるように、発光素子2とチタン合金箔1とが貼り合わされているが、発光素子2はチタン合金箔1の外側に貼り合わせてもよい。
図1のようにフォルダブルデバイス用途を想定した場合、ディスプレーパネルは、完全に閉じた状態と、180°開いた状態で、繰り返し曲げを受ける。すなわち、ディスプレーパネルが備えるチタン合金箔も、完全に閉じた状態と、180°開いた状態で、繰り返し曲げを受ける。
【0019】
本明細書では、ディスプレーパネルの繰り返しの曲げの角度(チタン合金箔について言えばチタン合金箔の繰り返しの曲げの角度)を「展開角」と呼称する。そして、閉じた状態を基準(0°)とし、これを「閉じ角」、最も開いた状態を「開き角」とする。すなわち、「展開角」=「開き角」-「閉じ角」である。閉じ角の最小値は0°であり、開き角の最大値は360°である。したがって、展開角の範囲は0°以上、360°以下である。
図1の場合は、閉じ角が0°、開き角が180°、展開角が180°となる。
【0020】
携帯電話に代表されるフォルダブル端末のような用途では、
図1のように完全に畳んだ状態から、完全に開いてスマートフォンのような平面状態で使用される場合が多く、この場合、チタン合金箔への曲げの程度は、閉じ角0°、開き角180°、展開角180°である。
一方で、閉じ角、開き角、展開角は上記に限定されない。例えば、ラップトップ端末のような用途では、展開角が180°である必要はなく、また、ディスプレーの視認性から開き角は135°程度まででもよい。
【0021】
図1のような曲げ形態では、曲げられた箇所で、チタン合金箔1の断面は曲げ半径Rの円弧状に曲げられる。他の部材との拘束や曲げ半径によっては完全な円弧にならない場合があるが、本実施形態で規定する「曲げ半径R」は、
図1に示すように曲げた際に曲げの中心軸とチタン合金箔外側の曲部を円弧に近似した時のチタン合金箔に付与される曲率の最も大きな部分のチタン合金箔外周表面の半径とする。Rを小さくすれば、電子機器の畳んだ状態の厚さを薄くすることができる。本実施形態に係るチタン合金箔1を用いたディスプレーパネルは、曲げ半径Rを小さくしても、大きな疲労亀裂が発生せず曲げ戻した時の曲げ癖が小さいので、有用である。
【0022】
本明細書では、ディスプレーパネルが備えるチタン合金箔の平面を二つ折りした時、折り目を形成する線(
図1中の点線)を稜線、稜線の方向を「稜線方向」と呼ぶ。稜線の方向は曲げの中心軸と平行である。箔を平面に戻した時、平面内で稜線と直角な方向を「曲げ方向」と呼ぶ。
【0023】
図1のような形態では、曲げられた箇所は稜線近傍の局所的な箇所に曲げ歪みを受ける。一方、
図2、
図3のようなローラブルディスプレーでは、繰り返し曲げを受ける箇所はチタン合金箔の全域に近い面積に及び、繰り返し曲げを受ける箇所は時間とともに変化する。
図2、
図3のようなローラブルデバイス用のディスプレーパネルでは、閉じ角は0°、開き角は180°、展開角は180°である(チタン合金箔についても、閉じ角は0°、開き角は180°、展開角は180°である)。
【0024】
図2のように幅を広げて使用する場合、曲率は一定であり、一定の半径を曲げ半径R(mm)とする。
図3のようにロール状に巻いて使用する形態の場合は、チタン合金箔外周面の最も小さな曲げ半径をR(mm)とする。曲げ半径Rを小さくすることができれば、
図2のようなスライド型のローラブルデバイス用ディスプレーパネルを薄くすることができ、
図3のような巻取型のローラブルディスプレーでは、収納スペースを小さくすることができる。
チタン合金は、ステンレス等に比べて密度が小さいことで軽量化にも有効であり、厳しい条件でも十分な繰り返し曲げ特性を有するチタン合金箔は、小型、軽量のディスプレーパネルの材料として、有用である。
【0025】
[チタン合金箔]
以下、本実施形態に係るチタン合金箔について詳細に説明する。
上述したように、本実施形態に係るチタン合金箔は、本実施形態に係るディスプレーパネルの素材(発光素子の補強板)として用いることができる。
【0026】
<厚さ:0.005mm以上、0.200mm以下>
一般的に、フォルダブルディスプレーやローラブルデバイスの発光素子の補強板として用いられる金属箔の厚さは、0.200mm(200μm)以下であり、多くは0.150mm以下、特に0.050mm以下である。そのため、本実施形態に係るチタン合金箔の厚さは、0.200mm(200μm)以下とする。好ましくは0.150mm以下、より好ましくは0.100mm以下、さらに好ましくは0.070mm以下、一層好ましくは0.050mm以下である。
従来、厚さが0.200mm以下のチタン箔は、厚さと、チタンの特徴である低いヤング率とから、復元力を必要とする板ばねとしての用途や、繰り返し曲げの展開角が90°超で用いられる用途はなかった。しかしながら、本発明者らは鋭意検討の結果、後述するように1000MPa以上の強度を有し体心立方構造を主体とする組織を有するチタン合金箔は、0.200mm以下の厚さであっても、小さな曲げ半径(大きな曲率)での繰り返し曲げに対して、極めて優れた耐久性を有することを見出した。
そのため、本実施形態に係るチタン合金箔は、箔面内での展開角90°超の繰り返し曲げに必要な可撓性を有する、厚さが0.200mm以下のチタン合金箔である。
本実施形態に係るチタン合金箔の厚さは、発光素子を補強する目的から0.005mm以上である。厚さは、より好ましくは、0.010mm以上、さらに好ましくは0.020mm以上である。
【0027】
<表面に対してX線回折を行った際に得られるX線回折強度において、体心立方構造の結晶の200面のピーク強度が、他の結晶構造からの最大ピーク強度の5.0倍以上>
本実施形態に係るチタン合金箔は、繰り返し曲げに対する耐久性の観点から集合組織が形成されている。
具体的には、本実施形態に係るチタン合金箔は、厚さ方向と垂直な箔面からのX線回折強度を測定した時、体心立方構造を有するチタン合金からの200面からのピーク強度が、他の結晶構造を有するチタン合金相からの最大ピーク強度の5.0倍以上である。他の結晶構造のうち、最大ピーク強度を示すのは、通常、最密六方晶構造のα相またはω相である。
近年要求される厳しい曲げ条件(本実施形態で想定している曲げ半径と板厚の範囲で所定の展開角で繰り返し曲げを行う用途)で使用する場合、耐久性の要件を満たす材料はβ型のチタン合金箔である必要がある。必ずしも単相になっている必要はなく、最密六方晶構造のα相やごくわずかなω相等の他の相も含まれていてもよいが、β相が主体である必要がある。体心立方構造を有するチタン合金からの200面からのピーク強度が、他の結晶構造を有するチタン合金相からの最大ピーク強度よりも大きいことは、β相の面積率が大きいことを示す。本実施形態に係るチタン合金箔では、十分なβ相の面積率を有するβ型チタンであることの指標として、200面のピーク強度が、他の結晶構造からの最大ピーク強度の5.0倍以上であるとする。
【0028】
<X線回折強度のうち、体心立方構造の結晶のX線回折強度において、200面のピーク強度、又は211面のピーク強度が、110面のピーク強度よりも大きい>
{001}<110>の集合組織が発達している場合(200面のピーク強度が大きい場合)、特に圧延方向の強度、伸びが増大し、歪みに対する弾性限が大きくなることで、繰り返し曲げに対する耐久性が高まる。
{112}<110>の集合組織が発達している場合(211面のピーク強度が大きい場合)、箔の面内方向のヤング率は全体的に高くなり、特に箔面内で圧延方向(RD方向)と直交する方向(TD方向)でヤング率は大きくなる。面内方向にヤング率の高い方位が集積していることは、軟質な発光素子を面で接着して剛性を補う用途に適している。
一方、集合組織の形成度合いを広角X線回折法の結果で規定する場合、粉末等のランダムな方位を有するβチタン合金のX線回折強度は、110面からの強度が最も大きくなる。
本実施形態に係るチタン合金箔は、{001}<110>、{112}<110>の少なくとも一方が発達した集合組織を形成させるので、チタン合金箔の厚さ方向と垂直な箔面からのX線回折強度を測定した時、体心立方構造を有するチタン合金の体心立方構造の結晶のX線回折強度において、200面からのピーク強度(200面のピーク強度)、又は211面からのピーク強度(211面のピーク強度)の少なくともどちらか一方が、110面からのピーク強度(110面のピーク強度)より大きい。これは、箔面内に110方向を向く結晶粒が増えたことを示す指標と言える。
{001}<110>の集合組織が発達している場合において、特に圧延方向の繰り返し曲げに対する耐久性が高まるので、ディスプレーパネル等へ適用する場合には、圧延方向を曲げ方向とすることが好ましい。
【0029】
集合組織は箔圧延加工によって得ることができる。本実施形態に係るチタン合金箔は、体心立方構造を有し、強い冷間圧延によって{001}<110>、{112}<110>が発達した圧延集合組識を得ることができる。
【0030】
<好ましくは、X線回折強度において、200面のピーク強度が、他のすべてのピーク強度よりも大きい>
また、本実施形態に係るチタン合金箔は、200面からのピーク強度が最も大きいことが好ましい。これは、{001}<110>の集合組織がより発達したことを示すものであり、方位関係から、圧延方向のみならず、TD方向にも110方位が集積することになるためである。
詳細なメカニズムは不明であるが、200の面のピーク強度が最も高いと、曲げ耐久性がより向上する。
上述の通り、強い冷間圧延によって{001}<110>及び{112}<110>が発達した圧延集合組識を得ることができるが、冷間圧延の圧下率を高めるほど、200面のピーク強度の方が高くなる。
【0031】
それぞれのX線回折ピーク強度(体心立方構造の結晶の200面のピーク強度、211面のピーク強度及び110面のピーク強度、並びに、他の結晶構造からの最大ピーク強度)は以下の方法で測定する。
チタン合金箔から、幅方向に10mm、圧延(RD)方向に13mmの矩形の試験材を採取し、この試験片に広角XRD法(Cu管球、40kV、150mA)にてX線回折を実施する。表裏は考慮しなくてもよい。
測定に際し、ゴニオメータはRINT1500(Rigaku社製)またはこれと同等のものを用いる。フィルタ、インシデントモノクロは不使用とする。また、発散及び散乱スリットは共にlG、受光スリットは10.15mm、モノクロ受光スリットは0.8mmとする。撮影条件は、スキャンスピードを5°/分、サンプリング幅を0.02°、走査範囲を10~100°とする。
【0032】
<引張強さ:1000MPa以上、1800MPa以下>
チタン合金箔の面内方向に強度の異方性を持つ場合は、使用時の繰り返し曲げ方向は、1000MPa以上の引張強さが得られる方向に限定される。本実施形態に係るチタン合金箔は曲げ方向の引張強さで1000MPa以上が必要である。これは曲げ癖と繰り返し曲げに対する破壊の両方から必要な条件であるが、特に曲げ癖を抑制するために必須である。
【0033】
チタン合金箔のヤング率がほぼ同じであるとすれば、曲げ癖発生の有無は降伏強度の強さで規定することが直接的であるが、たとえば耐力等で示される降伏強度は解析方法で変わる可能性があることから、本実施形態では引張強さ(最大強度)で規定する。
本実施形態に係るチタン合金箔の引張強さは1000MPa以上であり、1100MPa以上であることが好ましい。引張強さの上限は特に限定されないが、1800MPa超になると箔圧延が困難になることから、製造上の観点から1800MPaを上限としてもよい。
【0034】
本実施形態に係るチタン合金箔における強度は、引張試験で得られた引張強さの値とする。
引張試験はJIS13号B試験片を用いる。試験は、JIS2241:2011「金属材料引張試験方法」に準じた方法を取り、ロードセルにかかる荷重を読み取りながら、クロスヘッドスピード50mm/minの速さで行い、破断までの最大荷重を試験片の断面積で除した値を引張強さとする。
【0035】
[繰り返し曲げに対する曲げ耐久性]
本実施形態に係るチタン合金箔は、上記のように集合組織、引張強さが制御されることで、繰り返し曲げに対する耐久性が高い。
本実施形態に係るチタン合金箔は、上述したような、携帯電話等のフォルダブルデバイスのディスプレーパネルへの適用を想定した場合、本実施形態に係るチタン合金箔は、展開角180°の繰り返し曲げに対しても耐久性を有すことが好ましい。より具体的には、単位mmでの曲げ半径をRとし前記Rと前記tとが65≦R/t≦69を満たす範囲で180°曲げ、その後0°まで戻すことを200,000回繰り返した時、チタン合金箔の表面に発生する亀裂の長さが5mm以下であり、外部応力を除いた場合の曲げ癖が開き角で170°以上であることが好ましい。開き角は、175°以上であればより好ましく、全く曲げ癖が付かない180°であればさらに好ましい。ここで規定される亀裂の長さは、亀裂が複数生じた場合は、長さが最大の亀裂の長さをいうものとする。
【0036】
本実施形態に係るチタン合金箔はフォルダブルデバイスに使用される有機EL素子に代表される可撓性発光素子と貼り合わせて、一体として使用される。チタン合金箔の屈曲部表面に亀裂があると局所的に大きな変形が生じ、発光素子の表示に異常をきたし、場合によっては破損する場合がある。したがって、亀裂は生じないほうが望ましいが、発光素子とチタン合金箔の間の接着層による緩衝作用があるため、最大5mmまで許容できる。
【0037】
フォルダブルデバイスは、今後、小型化、薄型化、軽量化されていくと予想され、本実施形態に係るチタン合金箔は、さらに、R/t=60、展開角180°で200,000回の繰り返し曲げ試験を行った時、チタン合金箔の表面に導入される亀裂が5mm以下であることが好ましい。
【0038】
曲げ癖の測定は、チタン合金箔を平らな机の上に、曲げ稜線が机の天板平面と垂直になるように立てて、真上から上端部にフォーカスを合わせてデジタルカメラで撮影し、その画像を用いてチタン合金箔についた角度を計測することで行う。その際、チタン合金箔の曲げ方向に重力等の力が加わらないようにして開き角(自由開き角)を測定する。
チタン合金箔の繰り返し曲げ試験は、クラムシェル型の繰り返し曲げ試験機を使用した、閉じ角0°、開き角180°の条件での試験とする。
【0039】
図4に繰り返し曲げ試験の曲げの動作を模式的に示した。クラムシェル型繰り返し曲げ試験機では、2枚1組で構成される保持板3を備えており、これにチタン合金箔1を貼り合わせて保持板を傾けて、チタン合金箔1に矯正曲げ変位を付与する。
図4は開き角180°の状態A、約90°に開いた状態B、閉じ角0°の状態Cを示す。
【0040】
保持板3の2枚のうち一方の保持板は駆動軸4を中心に回転しながら傾き、もう一方の保持板は、同じ角度を保ち、また両方の保持板上面角部がチタン合金箔と接する2つの線が
図4点線で示したように距離を一定に保ったまま従動する。このような動作により、チタン合金箔には曲げ以外の負荷がかからないように繰り返し曲げを行うことができる。このような動作を行う市販の評価装置としてはユアサシステム機器株式会社製、無負荷クラムシェル曲げ試験機、形式DR11MRが挙げられる。また、繰り返し曲げの耐久性は、実デバイスに組み込んで試験されてもよい。
【0041】
2枚の保持板が閉じた時の板の距離を2Rとすると、チタン合金箔は曲げ半径Rの円弧を形成するような曲げ変位を受ける。チタン合金箔の厚さ、機械特性によっては曲げた箇所が完全な円弧にならない場合があるが、本実施形態においてRは、繰り返し曲げ試験時の閉じ角0°の状態でのギャップ2Rで決まる曲げ部を円弧と見立てた時の、チタン合金箔の外周面のRとする。
【0042】
繰り返し曲げ試験機においては、チタン合金箔の大きさを幅40mm×長さ150mmの大きさに切って、長辺の中央、幅方向が曲げ稜線方向になるように測定を行うものとする。チタン合金箔の幅と長さは最小メモリ0.05mmのスケールで測定し、±0.5mmの公差範囲になるように切り出す。厚さは最小の読み値がマイクロメートル以下であり片側が平面、片側が球である片球マイクロメータを使用し、試料内で場所が異なる10点を測定し、その平均値を0.1μmまでとるものとする。
【0043】
ギャップ2Rは、R/tが目標の±2以内になるように設定する。ギャップの計測は限界ゲージ、又はノギスを使用するか、閉じ角0°における曲げ中心軸方向からの画像を取得して、ミリメートルを単位とし、小数第1位まで計測する。また、曲げ稜線の両端部分は金属箔端部から亀裂が入らないよう、保持板に金属箔を取りつける前に#1500以上のエメリー紙を使用して磨いておく。曲げ速さを決める繰り返し曲げの周波数は1Hzとする。
【0044】
R/tは分子と分母との単位をそろえた無次元量であり、材料が受ける応力、歪を考慮した曲げの厳しさを表す指標である。Rが同じであっても材料の厚さ(t)が厚くなると材料が受ける応力と歪みは大きくなる。一方、材料には用途に応じた強度や剛性が必要である。本実施形態に係る好ましいチタン合金箔で指標とする65≦R/t≦69、展開角180°で繰り返し曲げ耐久性が必要とされる金属箔の応用形態ではこれまでみられなかったものである。
【0045】
65≦R/t≦69、展開角180°の繰り返し曲げは、本実施形態に係るチタン合金箔に備えられるべき特性を規定するための好ましい条件であって、その応用先では、R/tが30以上250以下、90°超、360°以下(例えば展開角135°以上)で繰り返し曲げて使用してもよい。
R/tが30以上250以下、90°超、360°以下(例えば展開角135°以上(135°、180°など))で繰り返し曲げて使用された場合でも、200,000回繰り返した時、チタン合金箔の表面に発生する亀裂の長さが5mm以下であることが好ましい。
【0046】
R/tが30よりも小さいとその他の条件を満たす箔であっても大きな曲げ癖が付き、または、必要とする疲労寿命は満たさない(亀裂が発生する)。
一方で、R/tが250より大きいと本実施形態に係る規定を満たさない従来の金属箔でも曲げ癖や疲労寿命を満たすことができる。すなわち、フォルダブルデバイスやローラブルデバイスに求められる曲率や箔厚の範囲外であり、一般的な金属箔で対応可能である。
【0047】
繰り返し曲げた後の永久変形(曲げ癖)も、耐久性の指標として用いられる。曲げを繰り返した時、曲げ方向に生じる曲げ癖が小さい場合は、電子機器を構成するヒンジやフレームで矯正されるため問題にならないが、曲げ癖が大きくなるとディスプレーの表示にゆがみ等の不具合を生じさせる。
【0048】
<好ましくは、表面の算術平均粗さRa:0.010μm以上、最大谷深さRv:0.180μm以下>
次に、本実施形態に係るチタン合金箔の、好ましい表面状態について説明する。
本実施形態に係るチタン合金箔は発光素子を箔面で接着して、2つ折り(曲げ)したり、ロール状に巻いたりすることができる照明やディスプレー等の発光デバイスの補強材として使用される。これらのデバイスでは単に曲面を形成するだけではなく、大きな曲率で繰り返す曲げにさらされる。
【0049】
発光素子の1つである有機EL素子は高演色で高精細な表示ができる素子であり、高価格帯のテレビや携帯電話のディスプレーに使用される。補強材の曲げ癖や破壊亀裂はその部分での表示の品質を落すことから、特に高い耐久性が求められる。そのために特定方向、具体的には曲げ方向に高い引張強さが必要である。
【0050】
本実施形態に係るチタン合金箔は発光素子が直接形成される基板ではないから、面として平滑である必要はない。しかしながら、曲げ方向に計測した粗さは、曲げ耐久性に影響を与えるので、小さいほうが好ましい。一方、チタン合金箔と発光素子を接着する接着剤の剥離を防止するためには、アンカー効果が期待できる一定の凹凸があったほうがよい。
【0051】
以上の考えより、本実施形態に係るチタン合金箔の粗度は、JIS B 0601(2001)で定義する算術平均粗さRaで0.010μm以上、最大谷深さRvが0.180μm以下であることが好ましい。Rvは、0.120μm以下がより好ましく、0.100μm以下がさらに好ましい。粗さの上限を最大谷深さとした理由は、表面凹凸の凸部の高さより凹部の深さが繰り返し曲げの耐久性に大きな影響を与えるからである。粗さの下限を算術平均粗さとしたのは、接着剤の接着力を考慮した場合、山と谷を含む平均的な凹凸が影響するとの考えによる。耐久性の観点からは粗さは小さいほうが望ましいから、チタン合金箔の表面を接着する用途に限られる好ましい下限値である。
【0052】
Rv、Raの測定は、JIS B 0601(2001)に従って、触針法で測定した値を採用する。測定条件は、測定長さ1.25mm、カットオフ(λc)0.25mm、カットオフ(λs)0.0025mm、触針の走査速さ0.3mm/sec、測定荷重0.7mNであり、測定子は半径2μmR、先端開き角60°円錐を使用した値を採用する。Rv、Raは一回の測定で同時に得られる。本実施形態で指標とするRa、Rvは、チタン合金箔の各面の異なる箇所で5ヶ所以上計測しその平均値を採用する。また、チタン合金箔の両面で粗さに大きな差がある場合は、性能に好ましくない面として、Rvであれば大きい方の面、Raであれば小さい方の面で計測した粗さを採用するものとする。
【0053】
<金属組織>
次に、本実施形態に係るチタン合金箔の、好ましい結晶構造について説明する。
本実施形態に係るチタン合金箔が適用を想定している曲げ半径と板厚の範囲とで所定の展開角で繰り返し曲げを行う用途に使用する場合、耐久性の要件を満たす材料は主としてβ相を有するβ型のチタン合金箔である必要がある。
そのため、上述したように、表面に対してX線回折を行った際に得られるX線回折強度において、体心立方構造の結晶の200面のピーク強度が、他の結晶構造からの最大ピーク強度の5.0倍以上である。
多くの異相、特にω相が含有されていると加工性が劣り、うねりやしわが入った不健全な金属箔になる場合や、脆化を起こし、靭性が劣った耐久性の悪い金属箔になる場合がある。本実施形態に係るチタン合金箔は、特に繰り返し曲げに対する耐久性が必要であり、厚さが小さいという特徴があり、β相と異なる相の割合は小さい方が好ましい。
【0054】
純チタンの室温安定相は結晶構造が最密六方晶のα型チタンであり、一般的に商用に使用されているチタン合金はα型チタンが多い。
本実施形態に係るチタン合金箔として特に体心立方構造を主体とするβ型チタン合金箔が好ましい理由は、小さな屈曲で繰り返し曲げが加えられた時の耐久性を高くすることができるからである。曲げに対する耐久性を得るためには強度が必要であるが、β型チタン合金は冷延率を上げやすく、箔にした状態で高い強度が得られる。また、ヤング率がステンレス等の他の高強度金属箔に対して小さく、またα型チタン箔に対してもやや小さい。この特徴から、強度が同じであっても一定の曲げ歪みに対して弾性限が大きく、大きな曲率に曲げた時の曲げ癖が生じにくい。
【0055】
フォルダブルディスプレーやローラブルデバイスの発光素子の補強板として用いられる金属箔は、曲げ戻し時の板ばねとしての復元力は必要とせず、むしろ小さいほうが好ましいという特有の特徴から、β型チタン合金箔の低いヤング率は適している。また、デバイスの軽量化の観点からも、金属の中では比重の軽いチタン合金箔は適している。
【0056】
<化学組成>
次に、本実施形態に係るチタン合金箔の、好ましい化学組成について説明する。
【0057】
本実施形態に係るチタン合金の合金系は、体心立方構造を主体とするβ型チタン合金となる合金系であれば、特に限定されず、化学組成によらず効果を得ることができる。体心立方構造を主体とするβ型チタン合金となる合金系として、元素の質量%での含有量を用いて、Mo当量(質量%)=Mo+0.67×V+0.44×W+0.28×Nb+0.22×Ta+2.9×Fe+1.6×Cr-1.0×Alによって計算されるMo当量が5.0(質量%)以上であることが好ましい。より好ましくは、Mo当量が10.0(質量%)以上である。(式中の元素記号は、チタン合金に含まれる各元素の質量%での含有量)
【0058】
上記の要件を満たし得る合金系として、Ti-15V-3Cr-3Sn-3Al、Ti-20V-4Al-1Sn、Ti-22V-4Al、Ti-15V-6Cr-4Al-1Fe、Ti-13V-11Cr-3Al、Ti-3Al-8V-6Cr-4Mo-4Zr、Ti-4.5Fe-6.8Mo-1.5Al、Ti-8V-5Fe-1Al、Ti-16V-4Al、Ti-15Mo-5Zr、Ti-15Mo-5Zr-3Al、T-15Mo-3Al、Ti-7.5V-8Cr-1.6Fe-3.5Sn-3Al、Ti-20V-4Al-1Sn、Ti-22V-4Al、Ti-10V-2Fe-3Al、Ti-8Mo-8V-2Fe-3Al、Ti-11.5Mo-6Zr-4.5Sn等が挙げられる。(上記の記載について、例えば、Ti-15V-3Cr-3Sn-3Alは、主な合金の含有量の代表値がV:15%、Cr:3%、Sn:3%、Al:3%であり、残部がTi及び不純物であるTi合金を示している。)
【0059】
これらの合金で使用されている合金元素は、本来室温では六方最密構造のα相が安定である純チタンに対し、体心立方構造のβ相を安定化する作用と強度を向上させる元素である。単独では十分な相安定性と必要な強度とを得ることが困難であるため、多元系の合金が選択される。
【0060】
また、さらに、Ti-36Nb-2Ta-3Zr-0.3O、Ti-47Nb-3Ta-4Zr-0.3O、Ti-34Nb-23Ta-11Zr-3V-0.3O、Ti-9Nb-12Ta-6Zr-3V-0.3Oは弾性域が大きい合金系であり、本実施形態に係るチタン合金箔として適している。上記の合金の組成は質量%である。成分値は必須元素の代表値であり、製造上の誤差があってもよく、不可避不純物を含んでいてもよい。
【0061】
より具体的には、たとえばTi-15V-3Cr-3Sn-3Alは、質量%で、V:14.0~16.0%、Cr:2.5~3.5%、Sn:2.5~3.5%、Al:2.5~3.5%、Fe:1.00%以下、O:0.25%以下、N:0.15%以下、C:0.15%以下を含有し、残部がTi及び不純物である組成とすることができる。
【0062】
Ti-15V-3Cr-3Sn-3Al合金において、バナジウム、クロム、錫、アルミニウムは、β相を室温で安定にして、強度を確保しながら、冷間加工を容易にするために用いられる。鉄(Fe)、酸素(O)、窒素(N)、炭素(C)は不純物元素として含有されやすい元素であり、一定程度含有させるよう管理すれは、低コスト化に有効である。鉄はβ相安定化元素であり、また固溶強化に寄与し、強度を高める効果がある。酸素、窒素、炭素も固溶強化に寄与し、強度を高める作用がある。
【0063】
また、他の例としてTi-36Nb-2Ta-3Zr-0.3Oは、質量%で、Nb:33.0~38.5%、Ta:1.5~2.5%、Zr:2.5~3.5%、O:0.05~1.3%、Fe:1.00%以下、N:0.15%以下、C:0.15%以下を含有し、残部がTi及び不純物である組成とすることができる。
【0064】
ニオブ(Nb)、タンタル(Ta)、ジルコニウム(Zr)の成分範囲は、それぞれがこの成分範囲にあることで、本実施形態に係るチタン合金箔に必要な高い強度で1%を超える大きな弾性歪みが得られる。また、板厚が0.200mm以下の箔圧延工程において90%以上の高い加工率での冷間加工が可能になる。一方、不純物元素としての鉄、炭素、窒素の好ましい管理範囲とその理由は、Ti-15V-3Cr-3Sn-3Alと同じである。一方、高い冷間加工性を得るため、酸素の強化作用は積極的に利用可能である。
【0065】
また、上記のチタン合金は、例えば、ASTM Gr.6、AMS 4910、AMS 4926、AMS 4966、AMS 4919、AMS 4975、AMS 4976、ASTM Gr.5、AMS4906、AMS 4918S、AMS 4914、AMS 4917B、AMS 4977に規定されたチタン合金である。
【0066】
化学組成については、ICP-AESなどの公知の方法で分析することができる。
【0067】
次に、本実施形態に係るチタン合金箔の製造方法について説明する。
【0068】
本実施形態に係るチタン合金箔の製造方法は合金系で異なるが、Mo当量が5.0(質量%)以上である合金系の公知のチタン合金板(板材)に、必要に応じて軟質化焼鈍を行った後、冷間圧延を行う製造方法によって得ることができる。
以下、各工程の好ましい要件について説明する。
【0069】
[軟質化焼鈍]
冷間圧延に先立って、軟質化焼鈍を行ってもよい。軟質化焼鈍を行うことで、チタン合金の硬度が低下し、後述する条件での冷間圧延が容易になるので好ましい。この点からは、軟質化焼鈍条件は、最高加熱温度が700℃以上、かつ最高加熱温度での均熱時間(保持時間)が、圧延可能な硬さまで軟質化する5秒以上であることが好ましい。この必要時間は合金系および最高加熱温度により異なるが、圧延可能な硬度となれば問題ない。作製する合金系および最高加熱温度の条件に合わせて保持時間を選択することが望ましい。例えばMo当量が10.0(質量%)以上の場合には、均熱時間はより好ましくは30秒以上である。
一方、軟質化焼鈍を行う場合、400℃以上700℃未満の温度で行うと、合金系のβトランザス温度を大きく下回ることにより、α相および脆化を引き起こすω相が析出し、目標とする繰り返し曲げに対する耐久性が得られない場合がある。
一方、軟質化焼鈍の最高加熱温度が1000℃を超えると、必要以上にチタン合金が軟質化し、冷間圧延後に所定の引張り強さが得られない。そのため、軟質化焼鈍を行う場合、最高加熱温度は1000℃以下とする。
また、最高加熱温度が高いと、結晶粒径大きくなりすぎ、均質化が達成されない結果、冷間圧延後のチタン合金の平坦度は低下し、粗度も大きくなる。粗度を小さくする場合、最高加熱温度は低い方が好ましい。例えば950℃以下、または900℃以下である。
また、均熱時間が100秒を超える場合にも、結晶粒径大きくなりすぎ、均質化が達成されない結果、冷間圧延後のチタン合金の平坦度は低下し、粗度も大きくなる。そのため、均熱時間は100秒以下とする。
熱処理時間は、通板速度等で制御することができる。
【0070】
[冷間圧延]
冷間圧延では、必要に応じて軟質化焼鈍を行った板材に対し、冷間圧延を行い、厚さが0.005~0.200mmのチタン合金箔を得る。所定の条件で冷間圧延を行うことで、高強度化とともに好ましい集合組織を発達させることができる。
累積圧下率が30%未満では所定の集合組織を発達させることができない。また、強度も十分に高めることができない。そのため、累積圧下率は30%以上とする。好ましくは50%以上である。累積圧下率の上限は限定されないが、累積圧下率が高くなると圧延が困難になる。また、累積圧下率が高すぎると、Rvが大きくなることもある。そのため、累積圧下率を95%以下としてもよい。
冷間圧延は一旦途中で中断して焼鈍を行ってもよいが、その場合、上記の累積圧下率は、最終の焼鈍(すなわち、軟質化熱処理)後の累積圧下率である。
【0071】
また、パス数(パス回数)によって表面の粗度が変化するので、粗度を制御する場合、パス数を制御することが好ましい。
具体的には、パス数が5回以上であると、Rvを小さくすることができる。そのため、パス数は5回以上とすることが好ましい。より好ましくは、パス数は25回以上である。
一方パス数が40回超であるとRaが小さくなる。これは、表面をわずかに圧下しながら圧下することで、Raが小さくなるためであると思われる。そのため、パス数は40回以下とすることで、最大谷深さRaを0.010μm以上とすることができる。
また、冷間圧延において、圧延ロールの粗度は、チタン合金箔の粗さに直接影響を与える。そのため、圧延ロールは、ブライトロールとすることが好ましい。ダルロールを用いればRaを大きくすることができるが、ブライトロールを用いたうえで上記した所定のパス数とすることによって、強度1000MPa以上かつRvを0.180μm以下という条件に合わせて、最大谷深さRaを0.010μm以上となるよう制御できる。
オイル痕は圧延方向と垂直なTD方向に連なって形成されやすい。本実施形態に係るチタン合金箔は、圧延方向をフォルダブルデバイスの曲げ方向として使用することが好ましいが、オイル痕による圧延方向の凹凸は、この方向に圧延方向に曲げて使用した時の繰り返し曲げ耐久性に大きな影響を与える。
通板速度を5m/min.以下の非常に低速で圧延することによって圧延オイルの排出が良くなることからオイル痕を抑制でき、1000MPa以上の強度を得ながら、最大谷深さRvを0.180μm以下とすることができるので好ましい。
【0072】
冷間圧延(箔製造冷間圧延)後は、焼鈍などの熱処理を行わない。(冷延ままとする)
冷間圧延後に熱処理を行うと、箔の平坦度が損なわれる。また、所定の集合組織が得られない場合もある。箔の製造においては、冷延ままで製造することが有利である。また、焼鈍を行うと、引張強さの低下も懸念される。
【0073】
以上、熱処理条件や、冷間圧延条件は、製造設備の圧下荷重や通板速度等の能力、仕様によって異なるため一意に定まるものではないが、本発明の好ましい強度、組織、表面素度に調整し、繰り返し曲げに対する破断や曲げ癖を抑制された優れた耐久性を得るためには、板厚の小さなチタン合金箔であることを踏まえた工夫が必要である。
【0074】
本実施形態に係るディスプレーパネルは、上述の方法で得られたチタン合金箔に、発光素子の発光面が最表面になるように、接着層を介して、前記発光素子を貼り付けることで得られる。
【実施例】
【0075】
以下に、実施例を示しながら、本発明のチタン合金箔について、より具体的に説明する。以下に示す実施例は、本発明のチタン合金箔のあくまでも一例にすぎず、本発明の可撓性チタン合金箔は、以下に示す実施例に限定されるものではない。
【0076】
所定の化学組成を有するチタンスラブを、熱間圧延、冷間圧延及び焼鈍を行うことで、厚さが0.8~3.0mmの、所定の化学組成(β153合金、β3623合金、Ti-Cr、Ti-11.5Mo-6Zr-4.5Sn)を有する板材を製造した。また、市販の、厚さが0.5~0.8mmの板材(JIS G 4305:2012「冷間圧延ステンレス鋼板及び鋼帯」に規定される、SUS430、SUS316、SUS301(以上ステンレス板材)、並びに、TR-270C、6Al-4V、Ti-6Al-6V-2Sn(以上チタン合金板材))を準備した。
β153合金の化学組成の分析値は、質量%で、V:14.9%、Cr:2.9%、Al:2.8質量%、Sn:3.0%、不純物元素として、Fe:0.18%、O:0.114%、H:0.024%、C:0.006%、N:0.006%(Mo当量=11.7)であった。
また、β3623合金の化学組成の分析値は、質量%で、Nb:35.3%、Ta:2.9%、Zr:2.73%、O:0.256%、不純物元素として、Fe:0.03%、Cr:0.007%、Al:0.009%、V:0.006%、H:0.023%、C:0.018%、N:0.022%(Mo当量=10.5)であった。
また、Ti-Crと記載したTi-13V-11Cr-3Alの化学組成の分析値は、V:12.7%、Cr:11.0%、Al:2.9%、不純物元素として、Fe:0.02%、H:0.022%、C:0.009%、N:0.017%(Mo当量=22.0)であった。
また、Ti-11.5Mo-6Zr-4.5Snの化学組成の分析値は、Mo:11.4%、Zr:5.9%、Sn:4.5%、不純物元素として、Fe:0.04%、Cr:0.01%、Al:0.012%、V:0.003%、H:0.043%、C:0.022%、N:0.021%(Mo当量=12.0)であった。
これらの板材について、表1~4に示す条件で、軟質化熱処理(一部については実施なし)、冷間圧延(箔製造冷間圧延)を行って0.030~0.250mmの厚さの合金箔(ステンレス箔またはチタン合金箔)を得た。冷間圧延においてはブライトロールを用いた。一部の例については、箔製造冷間圧延の後、200~700℃で熱処理(TA)を行った。また他の一部の例については、箔製造冷間圧延の後、研磨により表面に粗さを付与した。
【0077】
製造に際し、箔製造冷間圧延においては、No.31を除いて冷間圧延率を上げて強度を得ながら、チタン合金箔を平滑に保つ工夫として、冷間圧延時に圧延オイルが過剰にロールと箔の間に巻き込まれTD方向に排出されることによって生じるオイル痕を抑制するために、0.100mm以下の箔圧延工程の圧延速さは3m/min.に遅くした。
【0078】
また、箔の厚さの測定は、1μmまで測定が可能なミツトヨ製片球デジタルマイクロメーター、形式:BMS-25MXを使用して、場所の異なる10点の厚さを測定し、平均をとった。
【0079】
【0080】
【0081】
【0082】
【0083】
得られた箔に対し、上述した要領で、表面に対してX線回折を行い、体心立方構造の結晶の200面のピーク強度、211面のピーク強度及び110面のピーク強度、並びに、他の結晶構造からの最大ピーク強度を求めた。
結果を表5~表8に示す。
【0084】
また、得られた箔の引張強さを測定した。
引張試験は上記のようにして製造した金属箔から長さ150mmのJIS13号B試験片に準じた形状の試験片を切り出し、標点間距離50mmの接触式歪み計をつけてクロスヘッドスピード50mm/min.の速さで実施した。試験方向は、圧延(RD)方向とした。ロードセルで破断までの荷重をモニターして、最大の荷重を試験前の試料断面積で除した値を引張強さとした。引張強さは試験片5本測定した値の平均とした。
結果を表5~表8に示す。
【0085】
また、得られた箔の粗度(Ra、Rv)を測定した。
粗さ測定は上記のようにして製造した箔表面の異なる箇所の任意の範囲を、東京精密製触針式表面粗さ測定器(卓上除振台付)、型式:SURFCOM480Bを使用してJISB0601(2001)に従って測定した。測定条件は、測定長さ1.25mm、カットオフ(λc)0.25mm、カットオフ(λs)0.0025mm、触針の走査速さ0.3mm/sec、測定荷重0.7mNとした。測定子は先端半径2μm、開き角60°円錐を用いた。測定方向は、圧延方向とした。本粗さ測定では、一方向に測定した測定子の箔表面の凹凸に応じた変位プロファイルである輪郭曲線から粗さ曲線を求め、本発明の金属箔の粗さ指標である算術平均粗さ(Ra)、最大谷深さ(Rv)を導出した。Ra、Rvの測定値は、金属箔表面の異なる箇所の任意の5箇所で測定し、その5点の平均値とした。粗さ測定は箔の表裏について行い、Raは小さい方、Rvは大きい方の値を箔の粗さ指標とした。
結果を表5~表8に示す。
【0086】
【0087】
【0088】
【0089】
【0090】
また、得られた箔に対し、繰り返し曲げ試験を行い、疲労亀裂の発生有無、曲げ戻した時の曲げ癖によって曲げ耐久性の評価を行った。
繰り返し曲げ試験の試料は、製造した箔から幅40mm×長さ100mmの大きさの試料を長さ方向に合わせ、切り出して行った。
繰り返し曲げ試験は、ユアサシステム機器製、無負荷クラムシェル曲げ試験器、形式DR11MRを使用した。試料の長さ方向を曲げ方向として、中央で180°曲げ閉じて、それを180°戻して開く動作を繰り返した。曲げ閉じた時のギャップを調整することにより、曲げ曲率を変えることができ、
図4に示すように、ギャップを2Rとすることで、曲げ半径Rの曲げ部が形成される。繰り返し曲げの周期は1Hzとした。試験は繰り返し曲げ回数が200,000回に達するまで行った。
【0091】
200,000回の繰り返し曲げが終わった時点で全く亀裂が生成しなかった試料の亀裂評価をA、1本でも5mm以上の亀裂が生じたものを亀裂評価D、最大亀裂長さが3mm以上5mm未満のものを亀裂評価C、亀裂は認められるが最大亀裂が3mm未満のものを亀裂評価Bとした。特に亀裂評価D、亀裂評価Cと判定される試料では複数の亀裂が生じる場合があったが、本発明の金属箔が目的とする用途から最大亀裂長さを判定基準とし、評価Dのものを不合格、それ以外のものを合格とした。
【0092】
200,000回で完全に破断しなかった試料については、試験治具から試験片に大きな力が加わらないように外して、金属箔に残留した自由開き角を計測した。金属箔を寝かせると自重によって開き角が変わることから、金属箔を平らな机の上に曲げ稜線が机の天板平面と垂直になるように立てて、真上から上端部にフォーカスを合わせてデジタルカメラで撮影し、その画像を用いて金属箔に付いた角度(曲げ癖)を計測した。曲げ癖は小さくチタン合金箔が自立しない場合は、金属箔の曲げ癖による角度が変わらないよう金属箔の両側から板を当てて計測を行った。
【0093】
金属箔に曲げ癖が付かずに開き角180°に戻ったものを曲げ癖評価A、175°以上180°未満のものを曲げ癖評価B、170°以上175°未満のものを曲げ癖評価C、170°未満、すなわち10°以上の曲げ癖が付いたものを曲げ癖評価Dとした。評価Dを不合格とした。
【0094】
表9~表12に評価結果を示す。
【0095】
【0096】
【0097】
【0098】
【0099】
表1~表12から分かるように、本発明例では、厚さが0.005mm以上、0.200mm以下の範囲で、表面に対してX線回折を行った際に得られるX線回折強度において、体心立方構造の結晶の200面のピーク強度が、他の結晶構造からの最大ピーク強度の5.0倍以上であり、前記X線回折強度のうち、前記体心立方構造の結晶のX線回折強度において、前記200面の前記ピーク強度、又は211面のピーク強度が、110面のピーク強度よりも大きい。発明例では、引張強さが1000MPa以上、1800MPa以下であり、繰り返し曲げを行った際の曲げ耐久性が高い。
【0100】
一方、比較例では、厚さ、集合組織、強度の少なくとも1つが発明範囲を外れるか、もしくはステンレス箔などであって所定のチタン合金箔ではない。その結果、繰り返し曲げを行った際の曲げ耐久性が低い。
試料番号1~3は、ステンレス板材を用いて得られたステンレス箔であり、試料番号4はα(体心立方でない)型チタンの箔であり、いずれも亀裂評価がDであった。
試料番号6は箔製造時の冷間圧延の累積圧下率が不足したため、集合組織が不適(本発明範囲外)であり、引張強さも低かった。
試料番号14は、チタン合金箔の厚さが厚かった。その結果、亀裂評価がDとなった。
試料番号20は、軟質化熱処理を行ったが、その最高加熱温度が低かったことで、集合組織が不適であった。その結果、亀裂評価がDとなった。
試料番号21は、軟質化熱処理の最高加熱温度が高かったことで集合組織が不適であった。その結果、亀裂評価がDとなった。また、引張強さも低かった。
試料番号22、23は、軟質化熱処理の均熱時間が長すぎるために集合組織が不適であった。その結果、曲げ癖評価がDとなった。また、引張強さも低くかった。
試料番号27は累積圧下率が不足したため、集合組織が不適であり、引張強さも低くかった。
試料番号32~35は、箔製造冷間圧延後に焼鈍を行ったため、集合組織が不適であった。その結果、亀裂評価がDとなった。また、これらの箔では、形状も良好でなかった。
試料番号44は累積圧下率が不足したため、引張強さが低くかった。
試料番号49は、Mo当量が低い素材を用いた例であり、集合組織が不適であった。その結果、曲げ癖評価がDとなった。
試料番号50は、Mo当量が低いため、集合組織が不適で、引張強さも低かった。亀裂評価がDとなった。
【産業上の利用可能性】
【0101】
本発明によれば、曲げ耐久性の高い材料チタン合金箔を提供することができる。このチタン合金箔を用いることで、薄型、小型、軽量、かつ高耐久の可撓性発光パネルを搭載したフォルダブル電子機器(フォルダブルデバイス)用のディスプレーパネル、ローラブル電子機器(ローラブルデバイス)用のディスプレーパネル、及び、これらのディスプレーパネルを有する折り畳み、収納可能な携帯端末、テレビなどの電子デバイスの構築が可能になるので、産業上の利用可能性が高い。
【符号の説明】
【0102】
1 チタン合金箔
2 発光素子
3 保持板
4 駆動軸
A 開き角180°の状態
B 約90°に開いた状態
C 閉じ角0°の状態