(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-04
(45)【発行日】2024-03-12
(54)【発明の名称】Tiフリーマルエージング鋼の製造方法
(51)【国際特許分類】
C21C 7/00 20060101AFI20240305BHJP
C21C 7/04 20060101ALI20240305BHJP
C22B 9/20 20060101ALI20240305BHJP
C22C 38/00 20060101ALI20240305BHJP
C22C 38/52 20060101ALI20240305BHJP
【FI】
C21C7/00 B
C21C7/04 B
C22B9/20
C22C38/00 302N
C22C38/52
(21)【出願番号】P 2020052265
(22)【出願日】2020-03-24
【審査請求日】2022-12-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000005083
【氏名又は名称】株式会社プロテリアル
(72)【発明者】
【氏名】大石 勝彦
(72)【発明者】
【氏名】西田 純一
【審査官】▲辻▼ 弘輔
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-167578(JP,A)
【文献】特開2013-253277(JP,A)
【文献】特開2017-043817(JP,A)
【文献】特開2005-248187(JP,A)
【文献】特開2016-000409(JP,A)
【文献】特開2009-013464(JP,A)
【文献】特開2008-088540(JP,A)
【文献】特開2008-185183(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C21C 7/00
C21C 7/04
C22B 9/20
C22C 38/00
C22C 38/52
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一次真空溶解において、質量%で、C:0.01%以下、Ni:18.0~20.0%、Cr:1.2%以下(0は含まない)、Mo:4.5~6.0%、Co:9.0~14.0%、Al:0.8~1.7%、S:0.0030%以下、Mg:0.0020~0.0100%、残部は、Fe及び不可避的不純物でなるマルエージング鋼製消耗電極を製造する一次溶解工程と、
前記消耗電極を用いて、真空再溶解を行ってマルエージング鋼製鋼塊を製造する真空再溶解工程を含
み、前記消耗電極中のSとMgとの関係が、S/Mgで0.02~0.25であることを特徴とするTiフリーマルエージング鋼の製造方法。
【請求項2】
前記マルエージング鋼製鋼塊のSとMg含有量が、質量%でS:0.0025%以下、Mg:0.0040%以下(0は含まない)であることを特徴とする請求項
1に記載のTiフリーマルエージング鋼の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、Tiフリーマルエージング鋼の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
マルエージング鋼は、2000MPa前後の非常に高い引張強さをもつため、例えば、0.5mm以下の鋼帯に加工され、高強度が要求される自動車用無段変速機の金属無端ベルト等に使用されている。その代表的な組成には、質量%で18%Ni-8%Co-5%Mo-0.45%Ti-0.1%Al-bal.Feがある。しかし、上記のマルエージング鋼は、非常に高い引張強度が得られる一方、疲労強度に関しては必ずしも高くない。
マルエージング鋼の疲労強度を劣化させる最大の要因に非金属のTiN介在物が挙げられる。このTiN介在物は、その寸法が大きくなり易いうえに、形状も立方体であることから介在物を起点とした疲労破壊が生じ易くなる。そのため、Tiを添加しないマルエージング鋼(以下、Tiフリーマルエージング鋼と記す)が提案されている。窒化処理される金属無端ベルト用のマルエージング鋼に含まれるTiは、合金の基地(マトリックス)の強度を向上させるだけでなく、窒化層の強度を高める重要元素である。このTiを添加しないとすると基地と窒化層の両方の強度が低下することになる。そのためTiフリーマルエージング鋼においては、Tiに代わる元素を用いて基地と窒化層とを強化する必要がある。
【0003】
基地と窒化層とを強化する方法としては、基地の強化に寄与するCoの含有量を高めたうえで、窒化層の強化にCrやAlを用いる方法があり、従来から本発明者は、適量のCrを含有し、窒化処理時にCr系やAl系の窒化物を形成するTiフリーマルエージング鋼を鋭意検討してきた。この方法は、例えば、本願出願人の出願に係る特許文献1~特許文献6に開示されている。
特許文献1は、Tiフリーマルエージング鋼で問題となる製造安定性について、Cr、Mo、Co、Alの添加量を適正範囲に管理することで安定した機械的特性が得られることを示している。特許文献2は、自動車用無段変速機の部材として使用される金属無端ベルトのマルエージング鋼において、Tiフリーマルエージング鋼においても時効処理後及びガス軟窒化後に高い引張強さと内部硬さが得られることを示している。特許文献3や特許文献5、特許文献6は、疲労強度向上に有害な介在物TiN低減のためにTi、Nを共に低く抑え、Ti低下による強度低下をCo、Mo、Al量のみの増加とCo/3+Mo+4Alの値を適正範囲に限定するとともにB添加することで結晶粒の調整を行い、また、Cr、Alを適量添加することによって窒化による表面圧縮残留応力の絶対値を増加させることができることを示している。特許文献4は、Ti添加量の低減による強度低下をCo、Mo、Alの適正添加で補うとともに、Ti低下にともなう窒化性の低下をCr添加で補い、さらにはマルエージング鋼の合金成分に最適な窒化処理を行なうことによって、従来のTiを含有するマルエージング鋼と同等以上の高疲労強度を有するマルエージング鋼帯の製造が可能であることを示している。これらの特許文献においては、Mgは0.005%以下の範囲で微量に添加される場合や、不純物として許容されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2019-167578号公報
【文献】WO2010-110379号パンフレット
【文献】特開2009-013464号公報
【文献】特開2008-185183号公報
【文献】特開2008-088540号公報
【文献】特開2007-186780号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述した特許文献1~特許文献6で示したマルエージング鋼は、Tiフリーマルエージング鋼においても優れた熱処理特性,窒化特性、機械的特性が得られる点では有利であるものの、開示された成分範囲において、熱間延性が低下する問題があった。従来のTiを含有するマルエージング鋼において、Tiは、強度や窒化特性を得るために必要な元素であると同時に、不純物元素のSをTi系の硫化物として固定し、Sの粒界偏析による熱間加工性が低下するのを抑制する効果があるため、Tiフリーマルエージング鋼は製造する上で問題となる。
本発明の目的は、金属無端ベルトにも適用可能な、Tiフリーマルエージング鋼の合金組成に起因する強度水準を合金組成の適正化により高めるとともに、熱間加工性さらには製造性に優れるTiフリーマルエージング鋼の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、合金成分に起因した強度水準の大きな変化に対し、Cr、Mo、Co、Alの添加量を適正範囲に管理しつつ、不純物元素で熱間加工性を阻害するSを固定するMgを適正範囲で添加してS/Mgを制御することで安定した機械的特性と熱間加工性が得られることを見いだし本発明に到達した。
即ち本発明は、一次真空溶解において、質量%で、C:0.01%以下、Ni:18.0~20.0%、Cr:1.2%以下(0は含まない)、Mo:4.5~6.0%、Co:9.0~14.0%、Al:0.8~1.7%、S:0.0030%以下、Mg:0.0020~0.0100%、残部は、Fe及び不可避的不純物でなるマルエージング鋼製消耗電極を製造する一次溶解工程と、前記消耗電極を用いて、真空再溶解を行ってマルエージング鋼製鋼塊を製造する真空再溶解工程を含むTiフリーマルエージング鋼の製造方法である。
好ましくは、前記消耗電極中のSとMgとの関係が、S/Mgで0.02~0.25であるTiフリーマルエージング鋼の製造方法である。
好ましくは、前記マルエージング鋼製鋼塊のSとMg含有量が、質量%でS:0.0025%以下、Mg:0.0040%以下(0は含まない)であるTiフリーマルエージング鋼の製造方法である。
【発明の効果】
【0007】
本発明のTiフリーマルエージング鋼は合金組成に起因する強度水準を適正化することで優れた機械的特性を有しており、さらにはTiフリーのマルエージング鋼の問題点であった熱間加工性を改善することで優れた製造性も有することから自動車用無段変速機の金属無端ベルトのように強度と製造性が要求される部材に使用されると安定した機械的特性が得られるなど、工業的な効果を持つことが期待される。
【発明を実施するための形態】
【0008】
上述したように、本発明の重要な特徴は優れた機械的特性と熱間加工性を改善するために必要な合金組成を適正化及び適正範囲で添加したことにある。
本発明のTiフリーマルエージング鋼の製造方法において、一次溶解後の消耗電極を以下の範囲で各化学組成を規定した理由は以下の通りである。なお、特に記載のない限り質量%として記す。
<C:0.01%以下>
C(炭素)は、MoやCrと炭化物を形成して、析出すべき金属間化合物や窒化物の生成を阻害して強度を低下させるため、低く抑える必要がある。また、Cを積極添加すると、例えは無段変速機用部材に必要とされる溶接性が低下し、製造性が低下する。このような理由からCは0.01%以下とした。このましくは、0.008%以下である。一方で、Cの微量添加は微細な炭化物を形成し、強度向上に寄与することから0.001%以上が好ましい。
<Ni:18.0~20.0%>
Niは、Tiフリーマルエージング鋼の基地組織である低Cマルテンサイト組織を安定して形成させるため、少なくとも18.0%は必要である。しかし、20.0%を超えるとオーステナイト組織が安定化するため、熱処理時にマルテンサイト変態を起こし難くなることから、Niは18.0~20.0%とした。Niの好ましい下限は18.5%超であり、好ましい上限値は19.5%である。
【0009】
<Cr:1.2%以下(0は含まない)>
Crは、窒化を行う場合にNとの親和力が強く、窒化深さを浅くし、窒化硬さを高めたり、窒化表面の圧縮残留応力を増加させたりする元素であるため必須で添加する。1.2%を超えると窒化硬さが高くなり過ぎてしまい、例えば、Tiフリーマルエージング鋼の好適な用途である金属無端ベルトの製造工程の中に形成される表面疵などの欠陥に対する感受性が高まることで疲労強度が低下したり、熱処理時のマルテンサイト変態温度が低下することでオーステナイトが残留し易くなり、硬さや強度が得られなくなることからCrは1.2%以下とした。Crの好ましい上限は1.0%である。
<Mo:4.5~6.0%>
Moは、時効処理時のNi3Mo等の微細な金属間化合物を形成し、析出強化に寄与する重要な元素である。また、Moは窒化による表面の硬さ及び圧縮残留応力を大きくするために有効な元素である。このため、Moは4.5%よりも少ないと金属間化合物の析出量の低下により引張強度は不十分となり、一方、6.0%より多いとFe、Moを主要元素とする粗大な金属間化合物を形成し易くなるとともに固溶化処理で形成されるオーステナイト相を固溶強化するため冷却課程でマルテンサイト変態を阻害し,オーステナイトが残留し易くなることからMoは4.5~6.0%とした。Moの好ましい下限は4.5%超であり、好ましい上限は5.8%である。
【0010】
<Co:9.0~14.0%>
Coは、基地組織のマルテンサイト組織の安定性に大きく影響することなく固溶化処理温度で時効析出物の形成元素であるMoの固溶度を増加させ、時効析出温度域でのMoの固溶度を低下させることによってMoを含む微細な金属間化合物の析出を促進し、時効析出強化に寄与する重要な元素である。そのため、Coは強度面、じん性面から多く添加することが必要である。Coは9.0%未満ではTiフリーマルエージング鋼において十分な強度が得られにくく、一方で、14.0%を超えて添加するとオーステナイトが安定化してマルテンサイト組織が得られ難くなることから9.0~14.0%とした。好ましいCoの下限は10.0%であり、好ましい上限は13.5%である。
<Al:0.8~1.7%>
Alは、通常、脱酸のために少量添加されるが、添加量が多くなると時効処理時にNiと共にNiAlを形成して強化に寄与する元素である。Tiを無添加とした本発明のTiフリーマルエージング鋼ではAlの添加によって強度を補う必要がある。また、例えば、Tiフリーマルエージング鋼の好適な用途である金属無端ベルトの製造工程において窒化処理を容易にして良好な窒化層を得るためにもAlの添加が必要である。Alは、0.8%未満では時効処理時に十分な強化作用が得られず、一方で1.7%より多いと窒化層が硬くなりすぎてしまい疲労強度を低下させたり、表面に薄くて安定な酸化膜を形成して窒化反応を阻害したりすることから、Alは0.8%~1.7%とした。好ましいAlの下限は0.9%であり、好ましいAlの上限は1.6%である。
【0011】
<S:0.0030%以下>
Sは、マルエージング鋼において結晶粒界に偏析して結晶粒界を脆化させる不純物元素である。Sが結晶粒界に偏析すると、熱間加工時に結晶粒界の変形能が失われ、容易に粒界破壊が生じてしまい熱間加工性を大幅に低下させてしまう。そのためSはできる限り低く抑える必要があることから0.0030%以下とした。なお、Sは不可避的に混入する不純物の一つであり、溶解原料に含まれるものである。そのため、Sを0%とするのは困難であり、一次溶解でのSは、0.0002%以上は含まれ得る。
<Mg:0.0020~0.0100%>
Mgは、本発明のTiフリーマルエージング鋼において非常に重要な元素である。従来のTiを含むマルエージング鋼は、結晶粒界に偏析し結晶粒界を脆化させるSをTiがTiSとして固定することでSの偏析による粒界脆化を抑制する効果があった。しかし、本発明のTiフリーマルエージング鋼では基本組成にSを固定する元素を含まないため、Tiに変わる新たなSを固定する元素を添加する必要がありMgの添加が必要である。MgはTiと同じくSをMgSとして固定し、安定化したMgSは再溶解後もMgSのまま維持され、さらにはMgS自身が延性に富むことから熱間延性の改善に最適な元素である。このようなMgの効果を得るためにはMgは0.0020%以上の添加が必要であるが0.0100%を超えると粗大な酸化物を形成し疲労強度を低下させるためMgは0.0020~0.0100%とした。Mgの好ましい下限は0.0025%であり、好ましい上限は0.0060%である。より好ましい上限は0.0050%である。
【0012】
<消耗電極中のSとMgとの関係が、S/Mgで0.02~0.25>
先述したようにSは結晶粒界に偏析することで結晶粒界を脆化させる作用があるためMgを添加してMgSとすることでSを無害化できる。SとMgの比であるS/Mgは本発明のTiフリーマルエージング鋼において、0.02よりも小さいとMgが過剰添加となり、一方で0.25よりも大きいとSを固定するMgが不足するためS/Mgは0.02~0.25とした。好ましいS/Mgの下限は0.05であり、好ましい上限は0.20である。
<Fe及び不可避的不純物>
説明する元素以外は、Feおよび不可避的不純物とする。しかし、以下の元素は、以下の範囲であれば脱酸、脱硫等の目的で添加しても良い。
Ca≦0.001%、Zr≦0.01%、B≦0.005%
【0013】
<製造工程>
本発明のTiフリーマルエージング鋼の製造において、上述した化学組成の規定範囲内で製造(一次溶解)した消耗電極を用いて、真空再溶解を行ってマルエージング鋼製鋼塊を製造する真空再溶解工程を含んでいる。本発明において、一次溶解は真空溶解の適用が好ましく、なかでも真空誘導溶解(VIM)を適用するのが好ましい。VIMを適用すれば大気中の酸素、窒素と溶鋼との反応による鋼中の酸化物、窒化物の増加を避ける点、酸素と活性なMgを安定して溶鋼中に添加するのに有利である点、原料から不可避的に混入する酸素、窒素を除去できる機能を有している点から消耗電極の製造に最適であるためである。また、真空再溶解工程を含むことで不純物元素の低減やさらには非金属介在物の低減、一次溶解時の不均一な鋼塊組織を改善することができる。真空再溶解としては、真空アーク再溶解(VAR)を適用するのが好ましい。VARを適用することとすれば、前述の効果を確実に得ることができる。
【0014】
前述の真空再溶解後においては、SとMgの含有量が変化するため、真空再溶解で得られた鋼塊のS及びMg含有量につて説明する。
<S:0.0025%以下、Mg:0.0040%以下(0は含まない)>
本発明のTiフリーマルエージング鋼の製造方法において、再溶解後のS及びMg量を以下の理由で規定した。
Sは先述した真空再溶解工程により未溶解のMgSは溶解中の対流により鋼塊の表面にトラップされ一次溶解時よりも低減することが期待される。再溶解時のS量が0.0025%以下であれば、仮にMgSとして固定されていないSが存在していても再溶解時の均一かつ微細な凝固組織により、結晶粒界等の界面の面積が一次溶解時よりも増加するため、単位面積辺りに偏析するS量は大幅に低減され粒界脆化が抑制される。Sが0.0025%よりも多いと結晶粒界に偏析するS濃度が多くなり粒界脆化を引き起こす。また、Mgは、Sを固定する元素であるが蒸気圧が大きい元素であるためMgSとして固定されていないMgは再溶解時に蒸発してしまい必然的に一次溶解時よりも量が少なくなるため0.0040%以下とした。なお、再溶解後の鋼塊中のSとMgについては、その含有量が0%になることはなく、再溶解後もMgSとして残留するものが存在するため、Sについては0.0002%程度、Mgについては0.0003%程度は残留し得る。
【0015】
以上に説明する本発明のTiフリーマルエージング鋼の製造方法を適用することで、合金組成に起因する強度や硬さ水準を適正化でき、さらには熱間加工性に優れるマルエージング鋼を得ることが可能となり、優れた機械的特性と製造性を両立することができる。
本発明のTiフリーマルエージング鋼の製造方法で得られたTiフリーマルエージング鋼鋼塊を自動車用無段変速機の金属無端ベルトに適用するには、再溶解で得られた鋼塊に熱間鍛造、熱間圧延等の熱間加工を繰返す工程を含み、冷間圧延と焼鈍とを繰返して0.5mm以下の鋼帯とすれば、その金属無端ベルト用鋼は、引張強さや疲労強度に代表される機械的特性を向上させた自動車用無段変速機の金属無端ベルトとすることが可能である。そのため、自動車用無段変速機の金属無端ベルト用鋼の製造方法として最適である。
【実施例】
【0016】
以下の実施例で本発明をさらに詳しく説明する。
Tiフリーマルエージング鋼を真空溶解炉(VIM)で消耗電極を溶製し、続く真空アーク再溶解(VAR)にて12,000kg鋼塊を作製した。その後、鋼塊に熱間鍛造を施し、断面が210mm×630mmの鍛造素材を準備した。
比較例のTiフリーマルエージング鋼は、真空溶解炉で10kgの鋼塊を溶製し、熱間鍛造を施し、断面が20mm×50mmの鍛造材を準備した。
本発明(No.1)と比較例(No.2)のTiフリーマルエージング鋼の一次溶解後の化学組成とSとMgの比であるS/Mgを表1に示す。なお、比較例のMgは無添加のため0mass%もしくは限りなく0mass%に近い値であり、S/Mgは算出が出来ないがS/Mgは0.25よりも大きな値である。表1で1Aとして示すのは一次溶解(VIM)後の分析結果であり、1Bとして示すのは真空再溶解(VAR)後の分析結果である。
【0017】
それぞれの鍛造材からφ12mm×80mmの引張用試験片を採取して、試験温度が850℃、900℃、950℃、1000℃、1100℃、1200℃で歪速度が1/sの高温引張試験を実施し、熱間加工性を評価した。高温引張試験結果の伸びを表2、絞りを表3、引張強さを表4に示す。
表2の高温引張試験時の伸び値を比較すると、本発明のTiフリーマルエージング鋼は、比較例よりも高い値であり、50%以上の伸び値が得られる温度は、比較例が1100℃以上であるのに対し、本発明が900℃以上であり、優れた高温延性を有していることがわかる。
表3の高温引張試験時の絞り値を比較すると、本発明のTiフリーマルエージング鋼は、比較例よりも高い値であり、50%以上の絞り値が得られる温度は、比較例が1100℃以上であるのに対し、本発明が850℃以上であり、優れた高温延性を有していることがわかる。
表4の高温引張試験時の引張強さを比較すると、本発明のTiフリーマルエージング鋼は、高温延性が高いにも関わらず比較例と同じ強度水準であり、優れた機械的特性を有していることがわかる。
【0018】
以上の結果から、本発明のTiフリーマルエージング鋼の製造方法を適用したTiフリーマルエージング鋼は、強度水準を合金組成の適正化により向上させ、また、優れた高温延性を有していることから、優れた熱間加工性を有していることが分かる。そのため、熱間加工を繰り返すような自動車用無段変速機の金属無端ベルト用鋼の製造に適用すれば、製造性を高めることが可能である。
【0019】
【0020】
【0021】
【0022】
【産業上の利用可能性】
【0023】
本発明のTiフリーマルエージング鋼の製造方法は、過酷な条件で使用される金属ベルトに用いることが可能であるため、自動車用無段変速機等に使用される動力伝達金属ベルトのような高引張強度、高疲労強度さらには優れた熱間加工、製造性が要求される部材に適用できる。