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  • 特許-線材の巻取装置および巻取方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-04
(45)【発行日】2024-03-12
(54)【発明の名称】線材の巻取装置および巻取方法
(51)【国際特許分類】
   B65H 54/28 20060101AFI20240305BHJP
   B65H 63/06 20060101ALI20240305BHJP
【FI】
B65H54/28 Z
B65H54/28 L
B65H63/06 Z
【請求項の数】 1
(21)【出願番号】P 2020052273
(22)【出願日】2020-03-24
(65)【公開番号】P2021151900
(43)【公開日】2021-09-30
【審査請求日】2023-01-12
(73)【特許権者】
【識別番号】000005083
【氏名又は名称】株式会社プロテリアル
(72)【発明者】
【氏名】青柳 圭汰
(72)【発明者】
【氏名】細川 弘誠
【審査官】大谷 謙仁
(56)【参考文献】
【文献】特開平08-188333(JP,A)
【文献】特開平01-203174(JP,A)
【文献】特開昭52-091181(JP,A)
【文献】特開昭49-027621(JP,A)
【文献】特開2001-267169(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B65H 54/28
B65H 63/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ボビンに線材を多層整列巻きする巻取装置であって、
前記線材の前記ボビンへの巻き位置を定めるトラバーサと、
前記巻き位置へと前記線材を誘導するガイドと、
前記ボビンにおける前記線材の巻取状態を撮像するカメラと、
前記巻取状態を基に前記トラバーサの移動速度を制御するための演算を行い、前記演算の結果を基にして前記トラバーサの移動速度を制御する制御部と、
を有し、
前記ボビンの接線方向における前記ガイドと前記ボビンとの距離を変えるためのガイド変位機構を有し、
前記ガイド変位機構は、前記ボビンの胴部の位置では前記ボビンの接線方向において前記ガイドを前記ボビンの胴部に近づけ、前記ボビンの鍔部の位置では前記ボビンの接線方向において前記ガイドを前記ボビンの鍔部よりも遠ざけることができる
ことを特徴とする線材の巻取装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、線材の巻取装置および巻取方法に関する。
【背景技術】
【0002】
線材の製造工程において、線材をボビンに多層にわたり整列して巻き取る装置がある。この装置は、ボビンを回転させ、ガイドを用いてボビンの巻き位置へ線材を誘導することで整列して巻き取ることができる。ボビン端部からもう一方のボビン端部まで巻き取ると、線材は上の層に移行した後、そこから逆側へ反転し、これを繰り返すことでボビンに線材を多層整列巻きする装置である(例えば、特許文献1)。
しかしながら、この装置では外乱に起因する隣接する線材間の隙間や線材の重なりを抑制できないという課題を有する。
【0003】
そこで、例えば特許文献2ではボビン端部に変形が生じた場合でも、カメラで撮影した画像に基づいてボビンの往復移動のタイミングを設定することで、ボビン端部における線材間の隙間や重なりを抑制することができることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2000-86082号公報
【文献】特開2017-206365号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献2に記載の巻取装置では、別の外乱、例えばケーブル径のばらつきによって、巻き位置とガイド位置にズレが生じた場合に修正できず、図7のように線材間の隙間や乗り上がりを防止し難いという課題があった。
【0006】
そこで本発明は、線材間の隙間や乗り上がりを容易かつ確実に抑制する線材の巻取装置および巻取方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、ボビンに線材を多層整列巻きする巻取装置であって、前記線材の前記ボビンへの巻き位置を定めるトラバーサと、前記巻き位置へと前記線材を誘導するガイドと、前記ボビンにおける前記線材の巻取状態を撮像するカメラと、前記巻取状態を基に前記トラバーサの移動速度を制御するための演算を行い、前記演算の結果を基にして前記トラバーサの移動速度を制御する制御部と、を有することを特徴とする。
【0008】
さらに、前記ガイドと前記ボビンとの距離を変えるためのガイド変位機構を有することが好ましい。
【0009】
また、本発明は、ボビンに線材を多層整列巻きする巻取方法であって、前記線材の前記ボビンへの巻取状態をカメラで撮像する撮像ステップと、前記カメラで撮像した画像からトラバーサの移動速度を制御するための演算を行う演算ステップと、前記演算の結果を基に前記トラバーサの移動速度を制御する制御ステップと、を有することを特徴とする。
【0010】
さらに、前記撮像ステップにおいて、前記ボビンの1回転ごとに少なくとも1回撮像することが好ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、線材間の隙間や乗り上がりを容易かつ確実に抑制することができる線材の巻取装置および巻取方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】第一の実施形態を示す線材の巻取装置の概略図である。
図2】線材の巻取方法を示すフローチャートである。
図3】カメラで撮像した巻取状態の画像を模式的に示す図である。
図4】理想的なガイド位置を示す模式図である。
図5】ガイドの遅れを表す模式図である。
図6】第二の実施形態を示す線材の巻取装置の概略図である。
図7】従来技術における隙間の発生例を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。
【0014】
<第一実施形態>
図1は、第一の実施形態における線材の巻取装置の概略図である。ボビン2を回転させるモータ3と、線材1を巻き位置へ誘導するガイド6と、ガイド6をボビン2の軸方向に移動させ、線材1のボビン2の巻き位置を定めるトラバーサ4を備えている。さらに、ボビン2における線材1の巻取状態を撮像するカメラ7と、カメラ7で撮像した巻取状態(画像)に基づいてトラバーサ4の速度を制御するための演算を行い、トラバーサ4の移動速度を制御する制御部8を有することを特徴とする。
【0015】
線材1は本実施形態の対象であり、これをボビン2に多層整列巻きする。線材1の材質は特に限定されるものではなく、例えば銅、アルミ、繊維等が適用できる。また、線材1の線種として撚線、被覆線、平角線等であっても適用できる。
【0016】
ボビン2の材質は特に限定されるものではなく、プラスチック、アルミ、木材、鉄等を適用できる。また、本実施形態では胴部2aの両端に鍔部2bの付いたものを適用しているが、鍔の無い円筒状のボビンであってもよく、胴部2aの形状も三角柱や四角柱であってもよい。
【0017】
モータ3は回転軸5を介してボビン2を回転させるもので、モータ3と回転軸5の間に減速機を取り付け、回転力(トルク)を向上させることができる。
【0018】
ガイド6は線材間の隙間、乗り上げを発生させないために線材1を誘導する機構である。ガイド6の構造は円筒状の部材内部にケーブルを通す機構や、複数のローラでケーブルを挟み把持する機構、棒状または板状の部材でケーブルを把持する機構が考えられる。
【0019】
トラバーサ4はガイド6をボビン2の回転軸方向に往復移動させ、ボビン2の一端側から他端側に巻き取る途中で線材1同士が重ならないように線材1を巻き取るためのものである。トラバーサ4としては、モータでボールねじを回転させ、回転運動を直線運動に変換する機構を適用することができる。この機構は精度が高く、ロータリエンコーダを用いた現在座標の検出が可能であり、この巻取装置に適している。
【0020】
カメラ7はボビン胴部2aの接線方向から撮像できるように配置されている。これにより、線材1の巻取状態を撮像することができ、撮像データを基にしてトラバーサ4の移動速度を可変に制御することができる。カメラ7はガイド6とともにトラバーサ4に取り付けてもよい。その場合、ボビン2の全体を見る必要はなく、大型のボビンを使用する場合でも高画素による撮像が可能である。カメラ7の種類としてステレオカメラ、CCDカメラ、CMOSカメラ等を適用することができる。
また、撮像した線材1の画像をもとに線材間の隙間を測定することで、規定を超える隙間が発生した場合に再度巻き直すことも可能である。
【0021】
制御部8はカメラ7で撮像した画像から線材1の巻取状態を検出し、制御部8でトラバーサ4の移動速度を制御して、図3のように巻き位置から1ピッチ分移動した位置にトラバーサ4を制御する。制御部8は、パーソナルコンピュータ(PC)、プログラマブルコンピュータ(PLC)等を使用することができる。理想的なガイド6の位置は、図4のように巻き位置とガイド6の位置にボビン軸方向のズレが無いことである。
【0022】
当該巻取装置はトラバーサ4を既定の一定の速度で移動するものではなく、撮像した巻取状態に応じて可変速度でトラバーサ4を移動させるもので、図7のように線材1に線径のばらつきがある場合(線材1a)であっても、線材間の隙間を抑制することが可能である。
【0023】
<線材の巻取方法>
次に、本実施形態における線材の巻取方法を、図2のフローチャートを用いて説明する。
【0024】
S1は巻取開始前に、巻取条件を決定するステップである。主な巻取条件としてボビン2の回転速度、ライン張力、トラバーサ4の移動速度や往復座標、設定巻取長さなどを設定する。
【0025】
S2~S9で多層整列巻きを行う。S2はS1で設定した巻取条件を基に巻取を開始するステップである。モータ3を回転させ、線材1をボビン2に巻き取る。モータ3の回転はS8にて所定の長さ巻き取るまで行う
【0026】
S3~S6ではカメラ7で撮像した画像からトラバーサ4の移動速度の調整を行う。まず、S3はカメラ7でボビン2に巻き取られた線材1の巻取状態を撮像するステップである。ボビン胴部2aの接線方向に配置することで、図3のように撮像することができる。
【0027】
S4はS3で撮像した画像から、現在の巻き位置11を検出するステップである。現在の巻き位置11から巻取方向に線材1の直径分移動させた位置が次に巻くべき位置12となる。
【0028】
S5はS4で算出した巻くべき位置12とトラバーサ4の現在位置からトラバーサ速度を演算するステップである。次に巻くべき位置12よりトラバーサ4の現在位置が進んでいる場合はトラバーサ速度を下げ、逆に遅れている場合はトラバーサ速度を上げるように、パーソナルコンピュータ(PC)やプログラマブルコンピュータ(PLC)により演算する。
【0029】
S6はS5で演算したトラバーサ速度で巻き取りを行うようトラバーサ4を制御するステップである。
【0030】
なお、巻取状態の撮像は、ボビン2の1回転ごとに少なくとも1回撮像することが好ましい。このようにすることで、リアルタイムにトラバーサ速度の調整が可能となり、次に巻くべき位置12に巻き取ることができる。
【0031】
また、もし巻取速度が高速で隙間が多々発生する場合は、図5のようにガイド6を現在の巻き位置11に対して遅らせるとよい。その際遅れ量Zは線径の0.5~4倍程度とすることができ、線径が大きいほど遅れ量Zを小さくするとよい。演算結果によりトラバーサ速度を調整することで、次に巻くべき位置に対してズレなく、またはズレを一定にすることができ、隙間や乗り上がりを抑制できる。
【0032】
S7は、ボビン2の外径と回転数からボビン2に巻き取った線材1の長さを計算するステップである。方法としてはモータ3に取り付けられたエンコーダでボビン2の回転数を計測し、この値から巻取長さを算出するものがある。また、線材1にローラを接触させ、このローラの回転数と外径から巻取長さを算出することも可能である。
【0033】
S8では、S1で設定した巻取長さとS7で計算した巻取長さを比較し、計算した巻取長さが予め設定した巻取長さになるまでS3~S8を繰り返し、S1で設定した巻取長さになった場合、S9に進み、巻き取りを終了する。
【0034】
<第二実施形態>
第二の実施形態を図6により説明する。(a)はボビン2の回転する軸方向から見た断面模式図であり、(b)はその側面から見た図である。図6に示すように、ボビン鍔部2bの最外部の内側までガイド6を移動させることのできるガイド変位機構9をさらに備えるとよい。ガイド変位機構9には、エアシリンダ、トラバーサ、多軸ロボット等を適用できる。このように、ガイド6をボビン胴部2aに近づけることで、巻き取りの安定性が向上し、線材間の隙間や乗り上がりをさらに抑制可能である。ただし、ガイド6はトラバーサ4の位置によってガイド6とボビン鍔部2bが接触する可能性があるため、図6のようにガイド6の位置はボビンの接線方向に移動可能とし、ボビン2の胴部ではガイド6を近づけ、ボビン鍔部2bの近傍ではガイド6をボビン鍔部2bよりも外側に逃がすことができるようにしている。特に、現在の巻き位置11からガイド6の先端までの距離Xを、ボビン胴部2aでは線材1の線径の10~30倍まで近づけ、ボビン鍔部2b近傍ではボビン鍔部2bの半径よりも大きくなるように逃がすとよい。
【0035】
以上、本発明について、上記実施形態を用いて説明してきたが、本発明は上記実施形態
に限定されるものではない。発明の趣旨を損なわない範囲にて、内容を変更することができる。
【符号の説明】
【0036】
1 線材
1a 線径のばらついた線材
2 ボビン
2a ボビン胴部
2b ボビン鍔部
3 モータ
4 トラバーサ
5 回転軸
6 ガイド
7 カメラ
8 制御部
9 ガイド変位機構
10 線材間の隙間
11 現在の巻き位置
12 次に巻くべき位置
X 現在の巻き位置11からガイド6の先端までの距離
Z ガイド6の現在の巻き位置11に対する遅れ量


図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7