(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-04
(45)【発行日】2024-03-12
(54)【発明の名称】攪拌装置
(51)【国際特許分類】
B01F 27/191 20220101AFI20240305BHJP
B01F 23/231 20220101ALI20240305BHJP
B01F 27/90 20220101ALI20240305BHJP
B01F 35/222 20220101ALI20240305BHJP
B01F 35/50 20220101ALI20240305BHJP
B01F 35/71 20220101ALI20240305BHJP
B01J 19/18 20060101ALI20240305BHJP
【FI】
B01F27/191
B01F23/231
B01F27/90
B01F35/222
B01F35/50
B01F35/71
B01J19/18
(21)【出願番号】P 2019229513
(22)【出願日】2019-12-19
【審査請求日】2022-08-29
(73)【特許権者】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【氏名又は名称】林 一好
(72)【発明者】
【氏名】本間 剛秀
(72)【発明者】
【氏名】内藤 大志
【審査官】河野 隆一朗
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-130690(JP,A)
【文献】特開2018-171562(JP,A)
【文献】特開2015-054272(JP,A)
【文献】特開2014-025143(JP,A)
【文献】特表2017-511811(JP,A)
【文献】特表2011-516605(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01F 27/80 - 27/96
B01F 23/23 - 23/2375
B01F 35/222
B01F 35/71
B01F 35/75
B01J 19/18
C22B 3/00 - 3/46
C22B 23/00 - 23/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
気液混合のための攪拌装置であって、
鉛直方向に中心軸を有し、内部に液状物を収容するための略円筒状の攪拌槽と、
前記攪拌槽の中心軸に沿って垂下され、回転可能に設けられる回転軸と、
前記回転軸に固定して設けられる攪拌翼と、
前記攪拌槽内部の前記液状物にガスを供給するための、先端にガス供給口が設けられたガス供給管と、
前記攪拌槽の内部に水蒸気を導入するための、先端に水蒸気導入口が設けられた水蒸気導入管とを備え、
前記攪拌槽の内径(D)に対する高さ(H)の比(H/D)は、1.50以上であり、
前記水蒸気導入口は、前記攪拌槽の略中心軸方向を向いており、
前記攪拌槽の中心軸から前記水蒸気導入口までの距離(X)と、前記攪拌槽の底面から前記水蒸気導入口までの距離(Y)とが、攪拌槽の内半径(R)及び高さ(H)に対して、式:0.65R≦X≦0.75R、及び式:0.2H≦Y≦0.8Hの関係を満足し、
前記回転軸の回転数は30rpm以上200rpm以下である、攪拌装置。
【請求項2】
前記攪拌翼が、前記回転軸の下端部に設けられる最下段攪拌翼と、前記最下段攪拌翼の上部に位置し、互いに離間するように設けられる複数の主攪拌翼と、前記複数の主攪拌翼の上部に位置して設けられる最上段攪拌翼とで構成される、請求項1に記載の攪拌装置。
【請求項3】
前記ガス供給口が前記攪拌槽の底面と前記最下段攪拌翼との間に設けられる、請求項2に記載の攪拌装置。
【請求項4】
前記攪拌装置が、前記攪拌槽の内部に液状物を供給するための入口をさらに備え、前記入口が前記攪拌槽の上面又は壁面上部に位置する、請求項1~3のいずれか一項に記載の攪拌装置。
【請求項5】
前記攪拌装置が、液状物とガスとの反応により生成する反応生成物を排出するための出口をさらに備え、前記出口が前記攪拌槽の壁面下部又は底面に位置する、請求項1~4のいずれか一項に記載の攪拌装置。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか一項に記載の攪拌装置を用いた気液混合方法であって、
前記攪拌槽の内部に液状物を供給する供給工程と、
前記ガス供給管を通じて前記液状物にガスを供給するとともに、前記回転軸及び攪拌翼を
30rpm以上200rpm以下の回転数で回転させて前記液状物と前記ガスとを攪拌混合する混合工程と、を有し、
前記混合工程の際に、前記水蒸気導入管を通じて前記液状物に水蒸気を導入する、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、気液混合のための攪拌装置、特に水蒸気導入管を備えた攪拌装置に関する。
【背景技術】
【0002】
攪拌装置を用いて気液混合を行う際に、液状物に水蒸気を吹き込み加熱する手法が従来から知られている。例えば特許文献1には高温加圧酸浸出(High Pressure Acid Leach)法を用いたニッケル酸化鉱石の湿式製錬方法に関して、ニッケル酸化鉱石のスラリーに硫酸を添加し、さらに酸化剤としての高圧空気及び加熱源としての高圧水蒸気を吹き込み、所定の圧力及び温度下に制御しながら攪拌して、浸出残渣と浸出液からなる浸出スラリーを形成し、ニッケル及びコバルトを含む浸出液を得る工程を含む旨、この工程において、浸出反応と高温加水分解反応によって、ニッケル、コバルト等の硫酸塩としての浸出と浸出された硫酸鉄のヘマタイトとしての固体化とが行われる旨が記載されている(特許文献1の請求項1、[0030]及び[0031])。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら本発明者らが調べたところ、水蒸気導入管を備えた従来の気液混合攪拌装置では、これを用いて液状物とガスとの攪拌混合を行っても、均一混合が不十分であることが分かった。均一混合が不十分であると、例えば次のような問題が生じる。攪拌装置をニッケル酸化鉱石の湿式製錬に適用した場合に、ニッケル酸化鉱石スラリー(液状物)と高圧空気(ガス)との分散状態が不十分となり、浸出液の酸化還元電位にバラツキが生じてしまう。酸化還元電位が低い部分では、鉄の酸化加水分解反応及びヘマタイト化が不十分になり、不純物たる鉄が浸出液に多量に混入してしまう。一方で酸化還元電位が高い部分では、浸出液中のクロムが毒性の高い6価の状態にまで酸化されてしまう。均一混合を進めるために過剰量の高圧空気を吹き込むことも考えられるが、この場合には排ガス量の増加に伴い熱損失が増加し、それに伴って温度維持のために必要な高圧水蒸気の使用量が増加してエネルギーコストの悪化につながる。
【0005】
本発明者らは、上記問題の原因の究明を図ったところ、水蒸気導入口から導入された水蒸気が液状物及びガスの流れ及び分散状態に大きな影響を及ぼすことが分かった。すなわち水蒸気は、その密度が攪拌槽内の液状物より小さく浮上しやすい。そのため浮上する水蒸気が液状物及びガスの流れを阻害してしまう。さらに検討を進めたところ、水蒸気導入口の位置が重要であり、この位置を所定範囲内に設けることで、液状物とガスとの均一混合が可能になるとの知見を得た。
【0006】
本発明は、このような知見に基づき完成されたものであり、水蒸気導入管を備えていても、液状物とガスとの均一混合を可能にする攪拌装置、及びこの攪拌装置を用いた気液混合方法の提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は下記(1)~(6)の態様を包含する。なお本明細書において、「~」なる表現はその両端の数値を含む。すなわち「X~Y」は「X以上Y以下」と同義である。
【0008】
(1)気液混合のための攪拌装置であって、
鉛直方向に中心軸を有し、内部に液状物を収容するための略円筒状の攪拌槽と、
前記攪拌槽の中心軸に沿って垂下され、回転可能に設けられる回転軸と、
前記回転軸に固定して設けられる攪拌翼と、
前記攪拌槽内部の前記液状物にガスを供給するための、先端にガス供給口が設けられたガス供給管と、
前記攪拌槽の内部に水蒸気を導入するための、先端に水蒸気導入口が設けられた水蒸気導入管とを備え、
前記水蒸気導入口は、前記攪拌槽の略中心軸方向を向いており、
前記攪拌槽の中心軸から前記水蒸気導入口までの距離(X)と、前記攪拌槽の底面から前記水蒸気導入口までの距離(Y)とが、攪拌槽の内半径(R)及び高さ(H)に対して、式:0.65R≦X≦0.75R、及び式:0.2H≦Y≦0.8Hの関係を満足する、攪拌装置。
【0009】
(2)前記攪拌翼が、前記回転軸の下端部に設けられる最下段攪拌翼と、前記最下段攪拌翼の上部に位置し、互いに離間するように設けられる複数の主攪拌翼と、前記複数の主攪拌翼の上部に位置して設けられる最上段攪拌翼とで構成される、上記(1)の攪拌装置。
【0010】
(3)前記ガス供給口が前記攪拌槽の底面と前記最下段攪拌翼との間に設けられる、上記(2)の攪拌装置。
【0011】
(4)前記攪拌装置が、前記攪拌槽の内部に液状物を供給するための入口をさらに備え、前記入口が前記攪拌槽の上面又は壁面上部に位置する、上記(1)~(3)のいずれかの攪拌装置。
【0012】
(5)前記攪拌装置が、液状物とガスとの反応により生成する反応生成物を排出するための出口をさらに備え、前記出口が前記攪拌槽の壁面下部又は底面に位置する、上記(1)~(4)のいずれかの攪拌装置。
【0013】
(6)上記(1)~(5)のいずれかの攪拌装置を用いた気液混合方法であって、
前記攪拌槽の内部に液状物を供給する供給工程と、
前記ガス供給管を通じて前記液状物にガスを供給するとともに、前記回転軸及び攪拌翼を回転させて前記液状物と前記ガスとを攪拌混合する混合工程と、を有し、
前記混合工程の際に、前記水蒸気導入管を通じて前記液状物に水蒸気を導入する、方法。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、水蒸気導入管を備えていても、液状物とガスとの均一混合を可能にする攪拌装置、及びこの攪拌装置を用いた気液混合方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図2】水蒸気吹き込み位置とガス/液均一度の関係を示す。
【
図3】水蒸気吹き込み位置とガス/液均一度の関係を示す。
【
図4】攪拌槽内の流れ場のシミュレーション結果を示す。
【
図5】攪拌槽内の流れ場のシミュレーション結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の具体的な実施形態(以下、「本実施形態」という)について説明する。なお本発明は以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を変更しない範囲において種々の変更が可能である。
【0017】
攪拌装置
本実施形態の気液混合のための攪拌装置は、鉛直方向に中心軸を有し、内部に液状物を収容するための略円筒状の攪拌槽と、この攪拌槽の中心軸に沿って垂下され、回転可能に設けられる回転軸と、この回転軸に固定して設けられる攪拌翼と、攪拌槽内部の液状物にガスを供給するための、先端にガス供給口が設けられたガス供給管と、攪拌槽の内部に水蒸気を導入するための、先端に水蒸気導入口が設けられた水蒸気導入管とを備える。また水蒸気導入口は、攪拌槽の略中心軸方向を向いている。また攪拌槽の中心軸から水蒸気導入口までの距離(X)と、攪拌槽の底面から水蒸気導入口までの距離(Y)とが、攪拌槽の内半径(R)及び高さ(H)に対して、式:0.65R≦X≦0.75R、及び式:0.2H≦Y≦0.8Hの関係を満足する。
【0018】
本実施形態の攪拌装置は、気液混合、すなわちガスと液状物との混合のために用いられる。ここでガスは、液状物との混合に用いられるものであれば特に限定されない。一例として酸素、大気、窒素ガス、塩素ガス、硫化水素ガス等が挙げられる。またガスは常圧ガスであってもよく、あるいは高圧ガスであってもよい。液状物も、ガスとの混合に用いられるものであれば特に限定されない。一例として水溶液などが挙げられる。なお液状物は、液体状態を示す物質の総称であり、純粋な液体のみならず、固体粒子が液体中に分散した懸濁液(スラリー)を包含する。
【0019】
本実施形態の攪拌装置の構成を
図1を用いて説明する。
図1は攪拌装置の一例を断面模式図及び上面模式図を用いて示したものである。
図1に示されるように、攪拌装置(100)は、攪拌槽(10)と回転軸(20)と攪拌翼(30)とガス供給管(40)と水蒸気導入管(50)とを備える。またガス供給管(40)は、その先端にガス供給口(42)を有し、水蒸気導入管(50)は、その先端に水蒸気導入口(52)を有している。各部材の詳細について、以下に説明する。
【0020】
本実施形態では、攪拌槽(10)の中心軸から水蒸気導入口(52)までの距離(X)と、攪拌槽(10)の底面から水蒸気導入口(52)までの距離(Y)とが、攪拌槽(10)の内半径(R)及び高さ(H)に対して、式:0.65R≦X≦0.75R、及び式:0.2H≦Y≦0.8Hの関係を満足する。ここで水蒸気導入管(52)は、攪拌槽(10)内部の液状物に水蒸気を導入するための部材である。また水蒸気導入口(52)は、攪拌槽(10)の略中心軸方向を向いている。攪拌槽の内半径(R)は、攪拌槽(10)の内径(D)の半分にあたるため、0.325D≦X≦0.375Dでもよい。
【0021】
水蒸気導入口(52)までの水平距離(X)が、攪拌槽(10)の内半径(R)に対して、式:0.65R≦X≦0.75Rの関係を満足することで、液状物とガスとの均一混合が進む。すなわち水蒸気の吹き込み位置(水蒸気導入口(52))を壁面から中心に向けて移動させると、ガスの分散度を表すガス均一度は、いったん向上した後に低下する。一方で液状物の均一度は、水蒸気の吹き込み位置が中心に向かって近づくほど、一様に低下する。そしてこの吹き込み位置が攪拌槽(10)の内半径(R)に対して、0.65R~0.75Rの範囲のときに、ガスの均一度が高く且つ液均一度も高く維持される。そのため液状物とガスとの混合物の流れを阻害せずに水蒸気加熱が可能となる。好ましくは距離(X)と内半径(R)とが、式:0.67R≦X≦0.73Rの関係を満足する。
【0022】
これに対して、Xが0.65R未満の場合、すなわち吹き込み位置が過度に中心に近い場合には、ガス均一度及び液均一度のいずれも低下してしまう。これはガスと液との混合が攪拌槽内全体を混合する上下の循環流に影響を受けるためであり、過度に中心に近いと水蒸気ガスの上昇によって、攪拌槽内の上下の流れの発生を抑制してしまうためである。またXが0.75R超の場合、すなわち吹き込み位置が過度に壁面に近い場合には、ガス均一度が低下してしまう。これは吹き込まれた水蒸気が直ちに浮上し、水蒸気を吹き込んだ位置と攪拌機を挟んだ反対側とで液の流速に差が生じることで、攪拌槽内全体を混合する上下の循環流を水蒸気ガスの上昇が乱すためである。
【0023】
水蒸気導入口(52)までの垂直距離(Y)が、攪拌槽(10)の高さ(H)に対して、式:0.2H≦Y≦0.8Hの関係を満足することで、液状物とガスとの均一混合がより一層に進む。好ましくは距離(Y)と高さ(H)とが、式:0.3H≦Y≦0.7Hの関係を満足する。これに対して、Yが0.2H未満の場合、すなわち吹き込み位置が過度に底面に近い場合には、液均一度が低下してしまう。これはガスと液との混合が攪拌槽内全体を混合する上下の循環流に影響を受けるためである。垂直距離(Y)が0.2H未満の場合には、攪拌槽内の上下の流れの発生を抑制してしまう。またYが0.8H超の場合、すなわち吹き込み位置が過度に上面に近い場合には、ガス均一度が極端に低下してしまう。これは攪拌槽内の上下の流れのうち、特に下方に向かう流れを分断したしまうためである。
【0024】
攪拌槽(10)は、少なくとも底面及び壁面から構成され、液状物及びガスを攪拌混合するに際し、その内部に液状物を収容するための部材である。この攪拌槽(10)は鉛直方向に中心軸を有する略円筒状である。すなわち攪拌槽は、床面に立てた場合に略円筒形状を有する。攪拌槽(10)の上面は開口していてもよく、あるいは閉口していてもよい。攪拌槽(10)の大きさは、気液混合に適していれば特に限定されない。例えば攪拌槽の内径(D)は、500~10000mmであってよく、1000~5000mmであってよく、2500~3500mmであってよい。また攪拌槽(10)の高さ(H)は、1000~20000mmであってよく、3000~10000mmであってよく、6000~7000mmであってよい。
【0025】
攪拌槽(10)の内径(D)に対する高さ(H)の比(H/D)は、好ましくは1.50以上である。この場合、攪拌槽(10)は鉛直方向に細長い形状を有している。攪拌槽(10)を鉛直方向に細長い形状とすることで、攪拌装置(100)の設置面積を小さくすることができ、製造プラントを設計する上での自由度が高くなる。H/Dは1.75以上であってよく、2.00以上であってもよい。一方でH/Dが過度に高いと攪拌槽(10)内に良好な循環流を形成することが困難になる場合がある。H/Dは3.00以下であってよく、2.50以下であってよく、2.30以下であってもよい。なお攪拌の対象となるのは気体(ガス)と液状物との混合物であり、攪拌翼の位置を決定する場合には液状物の高さ(液高)を基準にする。本実施形態において攪拌槽(10)の高さ(H)は攪拌対象となる混合物の高さに等しい。
【0026】
回転軸(20)は、これに固定して設けられる攪拌翼(30)を回転させるための部材である。この回転軸(20)は攪拌槽(10)の中心軸に沿って垂下され、回転可能に設けられる。回転軸(20)を回転させるために、その上部に駆動手段(図示しない)を設けてもよい。回転軸(20)の回転数は特に限定されない。例えば回転数は、30rpm以上であってよく、50rpm以上であってよく、80rpm以上であってもよい。また回転数は、200rpm以下であってよく、150rpm以下であってよく、100rpm以下であってもよい。
【0027】
攪拌翼(30)は、回転軸(20)に固定して設けられ、回転することで攪拌槽(10)内に循環流を生じさせるための部材である。この循環流により液状物とガスとが攪拌混合される。攪拌翼は少なくとも一個の翼から構成されており、一個の翼のみからなってもよく、あるいは複数個の翼から構成されていてもよい。複数個の翼から構成される場合、攪拌翼が、最上段攪拌翼と主攪拌翼と最下段攪拌翼とから構成されていてもよい。
【0028】
主攪拌翼は、後述する最下段攪拌翼の上部に位置し、回転軸(20)に固定して設けられる。また主攪拌翼は、互いに離間する複数の翼からなる。主攪拌翼の回転によって、液状物とガスとは中心軸方向に沿った下降流になる。そのため主攪拌翼は、好ましくは下降流を発生させる軸流型の攪拌翼である。例えば3枚のブレードを備えたプロペラ翼などが好適である。しかしながら下降流を発生させるものであればこれに限定されず、傾斜タービン翼、パドル翼でもよい。また主攪拌翼は、単位体積当たりの動力(kW/m3)が、0.1以上1.0以下であることが好ましい。また、剪断作用より吐出作用に勝る攪拌羽根であることが望ましい。攪拌羽根の取り付け角度がある、またはキャンバーがあることが好ましい。これにより吐出作用が増すからである。主攪拌翼は一個のみの翼であってもよく、あるいは複数個の翼から構成されていてもよい。複数個の翼から構成される場合には、隣接する翼は中心軸方向に離間して設けられている。攪拌翼が1回転する際の吐出量は0.13~0.70m3であればよい。例えば3枚のプロペラ翼を用いた本実施形態に係わる攪拌槽で攪拌した場合の吐出量は0.13m3~0.16m3である。同様に4枚パドル翼で攪拌した場合は0.36~0.69m3であり、6枚タービン翼の場合は0.33~0.42m3である。
【0029】
攪拌槽(10)の内径(D)に対する複数の主攪拌翼の平均翼径(dave)の比(dave/D)は、好ましくは0.25以上0.35以下である。ここで複数の主攪拌翼の平均翼径とは、全ての主攪拌翼の翼径の平均値である。dave/Dは、0.26以上であってよく、0.28以上であってよい。またdave/Dは0.34以下であってよく、0.32以下であってもよい。なお複数の主攪拌翼は、その翼径が全て同一であってもよく、あるいは一部又は全部が同一でなくともよい。ただし同一でない場合には、式:(最大翼径-最小翼径)/平均翼径×100で表される翼径ばらつきが10%以下であることが好ましい。
【0030】
複数の主攪拌翼の平均翼径(dave)に対する複数の主攪拌翼間の平均離間距離(have)の比(have/dave)は、好ましくは1.10以上1.40以下である。ここで複数の主攪拌翼間の平均離間距離(have)とは、全ての離間距離の平均値である。また離間距離とは隣接する主攪拌翼間の中心軸方向の距離のことである。have/daveは1.20以上であってもよく、また1.30以下であってもよい。なお主攪拌翼の離間距離は全て同一であってもよく、あるいは一部又は全部が同一でなくともよい。ただし同一でない場合には、式:(最大離間距離-最小離間距離)/平均離間距離×100で表される離間距離ばらつきが10%以下であることが好ましい。
【0031】
最下段攪拌翼も循環流を生じさせるための部材である。この最下段攪拌翼は回転軸(20)の下端部に固定して設けられる。主攪拌翼の回転によって生じた中心軸方向に沿った下降流は、最下段攪拌槽の回転によってさらに加速され、攪拌槽(10)の底面に衝突する。底面に衝突した下降流は、その向きを攪拌槽(10)の側壁(内壁)方向へと転じて、外方流になる。外方流は攪拌槽(10)の側壁(内壁)に衝突してその向きを転じ、側壁に沿った上昇流になる。
【0032】
最下段攪拌翼は、その形状が特に限定されず、プロペラ翼、パドル翼、タービン翼などが例示される。しかしながら円盤の周囲に複数の羽が設けられているディスクタービン型の攪拌翼であることが好ましい。例えば、エッジドタービン翼であれば、高速回転した場合でも十分な剪断作用が得られる。また、羽根の取り付け角度があってもいいが、取り付け角度がない場合は、軸に沿った流れが翼によって垂直方向へ転換するため、最下段の攪拌翼としてより好ましい。さらに最下段攪拌翼は、その翼径(dB)が、式:0.9×dave≦dB≦1.2×daveの関係を満足することが好ましい。また攪拌槽(10)底面からの最下段攪拌翼の距離(hB)が、式:0.9×dB≦hB≦1.1×dBを満足することが好ましい。
【0033】
最上段攪拌翼も循環流を生じさせるための部材である。この最上段攪拌翼は、複数の主攪拌翼の上部に位置し、中心軸(20)に固定して設けられる。すなわち最上部の主攪拌翼のさらに上部の位置に設けられる。攪拌槽(10)の側壁に沿った上昇流は、液面でその向きを中心方向へと転じて、内方流になる。内方流は最上段攪拌槽の回転により中心軸に沿った下降流へと向きを再び転じる。このように攪拌槽(10)内に供給された液状物及びガスは、主攪拌翼によって中心軸に沿った下降流になり、最下段攪拌翼によって側壁方向(外周方向)に流れた後に、側壁に沿った上昇流になる。上昇流は、最上段攪拌翼によって中心軸方向の下降流に戻る。これにより循環流が形成される。
【0034】
最上段攪拌翼は、その形状が特に限定されず、プロペラ翼、パドル翼、タービン翼などが例示される。しかしながら複数の板状ブレードを備えたパドル翼であることが好ましい。羽根の枚数は2枚のものが多いが、3乃至4枚でもよい。羽根の取り付けは垂直の場合と傾斜がある場合とどちらでもよいが、最下段の攪拌翼と異なり、吐出作用によって攪拌槽上部の液状物を下方へ流動させるために傾斜がついているものがより好ましい。また最上段攪拌翼は、その吐出能力が0.1m3以上1.0m3以下であることが好ましい。さらに最上段攪拌翼は、その翼径(dT)が、式:1.0×dave≦dT≦1.3×daveであることが好ましい。また液面からの最上段攪拌翼の距離(hT)が、式:0.5×dT≦hT≦0.9×dTを満足することが好ましい。
【0035】
ガス供給管(40)は、攪拌槽(10)内部の液状物中にガスを供給するための部材である。ガス供給管(40)は、その先端にガス供給口(42)を有している。ガス供給口(42)は、好ましくは攪拌槽(10)の中心軸方向において攪拌槽(10)の底面と最下段攪拌翼との間に設けられる。ガス供給口(42)から排出されたガスが上昇した後に、攪拌翼(30)の回転で生じた下降流に衝突し、液状物とガスとの攪拌混合が効率的に行われるからである。すなわち最下段攪拌翼は剪断力で下方流を横方向へ流す。また攪拌翼の剪断作用は導入するガスの微細化にも寄与する。そのため攪拌槽内に液の循環流を作り、かつガスの微細化を助けるようにするには、最下段攪拌翼の下からガスを導入した方がよく、さらに翼は剪断力が導入されるタービン翼などが好ましい。攪拌装置(100)は、1個のガス供給管を備えてもよく、あるいは複数個のガス供給管を備えてもよい。
【0036】
必要に応じて、攪拌装置(100)は入口(11)を備えていてもよい。この入口(11)は、液状物を供給するための部材である。特に攪拌槽(10)の上面が閉じている場合には、入口(11)を設けることが好ましい。また入口(11)は攪拌槽(10)の上面又は壁面上部に設けることが好ましい。
【0037】
また必要に応じて、攪拌装置(100)は出口(12)を備えていてもよい。この出口(12)は、液状物とガスとの反応により生成する反応生成物を排出するための部材である。出口(12)は攪拌槽(10)の壁面下部又は底面に設けることが好ましい。例えば出口(12)の排出口を、攪拌槽の高さ(H)及び内半径(R)に対して0.2H及び0.75Rの位置の近傍に設けてもよい。
【0038】
気液混合方法
本実施形態の気液混合方法では、上記攪拌装置を用いる。またこの混合方法は、攪拌槽の内部に液状物を供給する供給工程と、ガス供給管を通じて液状物にガスを供給するとともに、回転軸及び攪拌翼を回転させて液状物とガスとを攪拌混合する混合工程と、を有する。さらに混合工程の際に、水蒸気導入管を通じて液状物に水蒸気を導入する。
【0039】
この混合方法では、攪拌装置の攪拌翼の回転により、液状物とガスとが攪拌混合される。また水蒸気導入口の水平距離(X)と垂直距離(Y)とが所定の関係を満足することで、液状物とガスとの均一混合を阻害することなく、液状物の加熱が可能となる。そのため、加熱下での気液混合を効率的に進めることが可能となる。
【0040】
本実施形態の攪拌装置及び気液混合方法を用いることで、加熱下での効率的な気液混合が可能となる。したがってこの装置及び方法は、気液混合を対象とする限り、その用途が限定されるものではない。しかしながら高圧加圧浸出法(HPAL:High Pressure Acid Leaching)を用いたニッケル酸化鉱石の湿式製錬方法に好適である。この湿式製錬方法は、ニッケル酸化鉱石をスラリー化し、反応容器内でこのスラリーに硫酸を添加して高温高圧下で浸出して浸出スラリーを得る浸出工程と、浸出スラリーを浸出液と浸出残渣とに固液分離する分離工程とを含む。
【0041】
本実施形態の攪拌装置及び気液混合方法を上記高温加圧浸出法の浸出工程で用いることができる。具体的には、攪拌槽の内部に供給される液状物として、硫酸を添加したニッケル酸化鉱石のスラリーを用いればよい。また攪拌槽内部の液状物(スラリー)に供給されるガスとして、高圧空気を用いればよい。この高圧空気は工業用に通常用いられているものでよく、例えば3~6MPaGの圧力の空気が挙げられる。さらに攪拌槽内部の液状物(スラリー)に導入される水蒸気として、高圧水蒸気を用いればよい。高圧水蒸気は工業的に通常用いられているものでよく、例えば3~6MPaGの圧力の水蒸気が挙げられる。高圧水蒸気を導入することで、スラリー及び浸出液を高温、例えば220~280℃の温度に維持することができ、その結果、加水分解反応による鉄のヘマタイト化を効果的に進めることができる。高圧空気及び高圧水蒸気の導入を安全に行うために、なお攪拌槽として高温加圧容器(オートクレーブ)を用いてもよい。
【0042】
また本実施形態の攪拌装置及び気液混合方法を硫酸ニッケル製造時の脱鉄処理に用いることができる。具体的には、攪拌槽の内部に供給される液状物として、硫酸ニッケル含有溶液を用いればよい。また攪拌槽内部の液状物に供給されるガスとして、圧縮空気を用いればよい。硫酸ニッケル含有溶液(液状物)と空気(ガス)との均一混合を迅速に行うことができるため、Fe(OH)3の沈殿が効果的に行われ、脱鉄処理を効率的に行うことができる。
【実施例】
【0043】
本発明を、以下の実施例を用いて更に詳細に説明する。しかしながら本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0044】
実施例1
(1)液状物及びガスの動き解析
図1に示す攪拌槽において、汎用熱流体解析ソフトを用いて液状物及びガスの動きをシミュレーションした。その際に攪拌槽の構成を以下に示すとおりにした。
【0045】
‐攪拌槽の高さ(H):6700mm
‐攪拌槽の内径(D):3100mm
‐主攪拌翼の間隔(h):1052mm
‐主攪拌翼の翼径(d):900mm
‐最上段攪拌翼の翼径(dT):1100mm
‐最下段攪拌翼の翼径(dB):1005mm
‐原料密度:1300kg/m3
‐原料流入量:1643L/分
‐溶解ガス密度:1600kg/m3
‐ガス流入量:146kg/時間
‐回転軸の回転数:86rpm
【0046】
シミュレーションでは塩化ニッケル水溶液及び塩素ガスのそれぞれを原料(液状物)及びガスとして想定し、運動方程式を用いた流体解析を行った。塩素はガス状態での密度が2500kg/m3であり、約2割が液体に吸収されることが分かっている。そのため混合流体中の塩素の密度を1600kg/m3に設定して解析を行った。
【0047】
(2)評価
<ガス均一度>
得られたシミュレーション結果に基づき、ガス均一度を算出した。ここでガス均一度は、攪拌槽内を多数の小領域(セル)に分割してシミュレーションを行ったとき、全小領域(セル)のうち、そのガス体積分率(PGi)が槽全体のガス体積分率平均値(PG
ave)±0.5%の範囲内にある小領域(セル)の体積割合であり、下記式(1)にしたがって算出される。ここでPG
iは各小領域のガス体積分率であり、PG
aveはガス体積分率(PG
i)の槽全体の平均値である。
【数1】
【0048】
<液状物均一度>
得られたシミュレーション結果に基づき、液状物均一度を算出した。ここで液状物均一度は、攪拌槽内を多数の小領域(セル)に分割してシミュレーションを行ったとき、全小領域(セル)のうち、液状物の原料濃度(PL
i)が槽全体の平均値(PL
ave)±0.5%の範囲内にある小領域(セル)の体積割合であり、下記式(2)にしたがって算出される。ここでPL
iは各小領域の原料濃度であり、PL
aveは原料濃度(PL
i)の槽全体の平均値である。
【数2】
【0049】
<攪拌動力>
得られたシミュレーション結果に基づき、攪拌動力を算出した。ここで攪拌動力は、攪拌翼が固定された回転軸を回転させる際に必要とされる動力である。攪拌動力は、攪拌翼の面に作用する力とその作用点と回転軸との距離からトルクを求め、回転数から時間当たりの仕事に換算する方法により算出した。
【0050】
(3)評価結果
表1は、実施例1において、攪拌槽の高さ(H)に対して、攪拌槽底面から水蒸気導入口までの垂直距離が0.27Hに相当する部分でのガス均一度と液状物(液)均一度を示したものである。また
図2は横軸に攪拌槽の内半径Rに対する中心からの距離をとり、左の縦軸はガス均一度、右の縦軸に液状物の均一度をとった場合の図面である。ガスの均一度を記号◆、液状物の均一度は記号■で示した。
【0051】
表1及び
図2を見て分かるように、液状物の均一度は水蒸気導入口が中心位置から遠ざかるほど均一度が高かった。一方、ガス均一度は中心からの距離が0.65R~0.75Rである場合に高かった。液状物とガスの均一混合のためには、0.65R≦X≦0.75Rでよりよい結果が得られることが分かった。
【0052】
【表1】
表1 水蒸気導入口の位置と均一度との関係
【0053】
表2は実施例1において、中心軸から水蒸気導入口の位置が攪拌槽の内半径(R)に対して0.74Rに相当する位置でのガス均一度と液状物(液)均一度を示したものである。また
図3は横軸に攪拌槽の槽高(H)に対する攪拌槽底部からの垂直方向の距離をとり左の縦軸はガス均一度、右の縦軸に液状物の均一度をとった場合の図面である。ガスの均一度を記号◆、液状物の均一度は記号■で示した。
【0054】
表2及び
図3を見て分かるように、ガス均一度は水蒸気導入口が攪拌槽底面に近いほど高かった。一方、液状物均一度は底面からの距離が0.2H~0.8Hである場合に高かった。液状物とガスの均一混合のためには、0.2H≦Y≦0.8Hでよりよい結果が得られることが分かった。
【0055】
【表2】
表1 水蒸気導入口の位置と均一度との関係
【0056】
Y=0.27HとY=0.90Hについて、攪拌槽内の流れ場のシミュレーション結果のそれぞれを、
図4及び
図5に示す。
図4及び5の(a)はガスの濃度を表し、(b)は液状物の濃度を表す。また濃度が高いほど黒く表示されている。液状物の濃度差に比べてガスの濃度差が大きい。
【符号の説明】
【0057】
10 攪拌槽
20 回転軸
30 攪拌翼
40 ガス供給管
42 ガス供給口
50 水蒸気導入管
52 水蒸気導入口
100 攪拌装置