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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-04
(45)【発行日】2024-03-12
(54)【発明の名称】画像形成装置
(51)【国際特許分類】
   B41J 2/01 20060101AFI20240305BHJP
【FI】
B41J2/01 305
B41J2/01 125
B41J2/01 401
B41J2/01 451
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2020006328
(22)【出願日】2020-01-17
(65)【公開番号】P2021112858
(43)【公開日】2021-08-05
【審査請求日】2022-11-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000006747
【氏名又は名称】株式会社リコー
(72)【発明者】
【氏名】神田 雄太
【審査官】長田 守夫
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-199606(JP,A)
【文献】特開2019-209484(JP,A)
【文献】特開2015-136896(JP,A)
【文献】特開2001-212955(JP,A)
【文献】国際公開第2016/171032(WO,A1)
【文献】特開平2-283471(JP,A)
【文献】特開2013-129187(JP,A)
【文献】特開2013-39737(JP,A)
【文献】特開2009-66905(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41J 2/01-2/215
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
搬送されてくる記録媒体に液体を付与して画像を形成する画像形成部と、
前記記録媒体に付与された前記液体を前記記録媒体に接触して加熱する乾燥部と、
前記記録媒体波打ち量を検出する波打ち量検出部と、
前記記録媒体の搬送経路内における搬送位置を、搬送方向と交差する方向に移動させる搬送位置変更部と、
前記波打ち量に応じて前記搬送位置変更部に前記記録媒体の前記搬送位置を変更させる制御部と、
前記波打ち量が所定の波打ち量閾値を超えた状態で搬送された前記記録媒体の長さである波打ち状態搬送長を記憶する搬送長記憶部と、
を備え
前記制御部は、前記波打ち状態搬送長が所定の閾値を超えたとき、前記搬送位置変更部に対して前記搬送位置を変更させることを特徴とする画像形成装置。
【請求項2】
前記搬送位置変更部は、前記乾燥部に対する相対的な前記搬送位置を変更する、
請求項1に記載の画像形成装置。
【請求項3】
前記搬送位置変更部は、前記搬送位置に対する前記乾燥部の相対的な位置を変更する、
請求項1に記載の画像形成装置。
【請求項4】
前記搬送位置変更部は、前記画像形成部に対する相対的な前記搬送位置を変更する、
請求項1に記載の画像形成装置。
【請求項5】
前記搬送位置変更部は、前記搬送位置に対する前記画像形成部の相対的な位置を変更する、
請求項1に記載の画像形成装置。
【請求項6】
前記波打ち量が所定の波打ち量閾値を超えた状態で前記画像形成部において付与された液体量を記憶する液体量記憶部と、
を備え、
前記制御部は、前記液体量が所定の閾値を超えたとき、前記搬送位置変更部に対して前記搬送位置を変更させる、
請求項1乃至5のいずれか一項に記載の画像形成装置。
【請求項7】
前記搬送位置変更部は、前記波打ち量に基づいて決定される係数を用いて前記搬送位置の変更量を決定する、
請求項1乃至のいずれか一項に記載の画像形成装置。
【請求項8】
前記波打ち量検出部は、前記記録媒体の波打ち量とともに当該記録媒体の波打ち周期を検出し、
前記搬送位置変更部は、前記波打ち量と前記波打ち周期に基づいて前記搬送位置を変更する、
請求項1乃至のいずれか一項に記載の画像形成装置。
【請求項9】
前記搬送位置変更部において変更された前記搬送位置の情報を記憶する搬送位置記憶部を備え、
前記搬送位置変更部は再起動時に前記搬送位置記憶部に記憶されている情報に基づいて前記搬送位置を変更する、
請求項1乃至のいずれか一項に記載の画像形成装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、画像形成装置に関する。
【背景技術】
【0002】
記録媒体に液体を付与して画像を形成する装置として「インクジェットプリンタ」と呼ばれる画像形成装置が知られている。インクジェットプリンタには様々な形式のものがある。例えば、シート状の記録媒体の表面と裏面の両方に画像を形成するインクジェットプリンタも知られている。
【0003】
表面と裏面の両方の画像を形成できるインクジェットプリンタとして、表面側に液体を付着させて形成した文字や画像を乾燥させるために加熱した乾燥ドラムに記録媒体の裏面側を巻き付けて搬送し、その後、裏面側の画像を形成する画像形成装置が知られている(特許文献1を参照)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1の従来技術のように、液体を乾燥させるために記録媒体を加熱すると、熱によって記録媒体が変形することがある。例えば、記録媒体の画像形成面が、搬送方向に対して平滑な状態から凸凹状態に変形する。この場合、シート状の記録媒体が搬送方向において「波を打つ」ような状態(以下「波打ち状態」と表記する。)になる。波打ち状態の記録媒体が搬送されると、波の頂点箇所(平滑な面から突出した箇所)が搬送経路を構成する乾燥ドラムなどの表面において、通常よりも強く接触することになる。その結果、搬送経路の同じ箇所において剥がれた一部の液体インクが堆積することがある。
【0005】
剥がれて堆積した液体インクの上を記録媒体が搬送されると、記録媒体に余計な液体インクが付着して画像を汚したり、画像を乱したりなど、画像表面性に悪影響を与える、という課題がある。
【0006】
本発明は、搬送経路上において液体インクの堆積による画像への悪影響を抑制する画像形成装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明の一態様は、画像形成装置に関し、搬送されてくる記録媒体に液体を付与して画像を形成する画像形成部と、前記記録媒体に付与された前記液体を前記記録媒体に接触して加熱する乾燥部と、前記記録媒体波打ち量を検出する波打ち量検出部と、前記記録媒体の搬送経路内における搬送位置を、搬送方向と交差する方向に移動させる搬送位置変更部と、前記波打ち量に応じて前記搬送位置変更部に前記記録媒体の前記搬送位置を変更させる制御部と、前記波打ち量が所定の波打ち量閾値を超えた状態で搬送された前記記録媒体の長さである波打ち状態搬送長を記憶する搬送長記憶部と、を備え、前記制御部は、前記波打ち状態搬送長が所定の閾値を超えたとき、前記搬送位置変更部に対して前記搬送位置を変更させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、搬送経路上において液体インクの堆積による画像への悪影響を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明に係る画像形成装置の一実施形態であるインクジェットプリンタの構成を示す概略図。
図2】上記インクジェットプリンタの全体構造を例示する構成図。
図3】上記インクジェットプリンタのハードウェア構成図。
図4】上記インクジェットプリンタの機能ブロック図。
図5】上記インクジェットプリンタにおけるシフト動作の流れを示すフローチャート。
図6】上記インクジェットプリンタが備える用紙波打ち量検出装置の構成を示す図。
図7】上記インクジェットプリンタにおける記録媒体の波打ち状態を例示する図。
【発明を実施するための形態】
【0010】
[本発明の概要]
本発明に係る画像形成装置は、長尺のシート状記録媒体の両面(表面と裏面)に画像を形成する装置である。表面側又は裏面側に画像を形成するために付与された液体インクを乾燥させるときに、記録媒体を乾燥ドラムに接触させて加熱する。この加熱によって記録媒体が変形することがある。特に、記録媒体が搬送方向に対して平滑な状態から凸凹状態に変形すると、搬送方向において記録媒体が波を打つような状態(波打ち状態)になる。この場合、波打ちの頂部が乾燥ドラムの特定の箇所において通常よりも強く接触することになるので、その結果、頂部に付着している液体インクの一部が剥がれて乾燥ドラムに付着することがある。「波打ち」は周期的に生ずるので、乾燥ドラムの特定の位置に剥がれた液体インクが堆積し、この体積した液体インクが画像を乱すことがある。
【0011】
そこで、本発明に係る画像形成装置は、記録媒体の波打ち量を検出し、検出された波打ち量に応じて、記録媒体の搬送位置を変更する(シフトする)。なお、搬送位置は、記録媒体の搬送時における乾燥ドラム(乾燥部)や液体付与部(画像形成部)と、記録媒体との相対的な位置をいう。すなわち、「搬送位置を変更する」とは、乾燥部などに対する記録媒体の搬送中の位置を変更することを意味し、または、搬送中の記録媒体に対する乾燥部などの位置を変更することも意味する。この「搬送位置の変更動作」を本明細書において「シフト動作」と表記する。シフト動作によって、搬送経路上の記録媒体と搬送機構(乾燥部や画像形成部)との相対的な位置が変わるので、液体インクの堆積を抑制できる。結果として、画像表面性に対する悪影響を抑制できる。なお、シフト動作における方向(シフト方向)は、記録媒体の搬送方向と交差する方向であって、記録媒体の幅方向である。
【0012】
すなわち、本発明に係る画像形成装置によれば、搬送経路上の液体インク等の付着物が局所的な堆積を防ぎ、画像品質等の経時劣化を予防すること、そして、搬送経路上の清掃周期を低減することができる。
【0013】
[画像形成装置の実施形態]
以下、本発明に係る画像形成装置の実施形態について、図面を参照しながら説明する。図1は、本実施形態に係るインクジェットプリンタ100の概略的な構成を示す構成図である。図1に示すように、インクジェットプリンタ100は、記録媒体であるシートPに対して画像を形成するように構成されている。なお、インクジェットプリンタ100では、カットシートを記録媒体として用いることも可能である。
【0014】
まず、図1を用いて、インクジェットプリンタ100について説明する。インクジェットプリンタ100は、用紙送出装置110と、第一インクジェットプリンタ120と、表裏反転装置130と、第二インクジェットプリンタ140と、用紙波打ち量検出装置150(用紙波打ち量検出第一装置151及び用紙波打ち量検出第二装置152)と、用紙巻取装置170と、を備え、各構成が通信回線Nを介して相互に接続されている。また、インクジェットプリンタ100には、制御装置である情報処理装置190も通信回線Nを介して電気的に接続されている。
【0015】
情報処理装置190は、通信回線Nを介してインクジェットプリンタ100に対して文字情報や数字情報などを含む印字データを送信する。インクジェットプリンタ100は、情報処理装置190から受信した印字データに基づいて所定の画像処理を実行する。
【0016】
インクジェットプリンタ100が備える用紙波打ち量検出装置150は、二次元レーザ変位計であって、シートPの搬送方向に対する変位を検出する。特に、シートPの搬送方向に対する凹凸を検出し、所定量以上の「波打ち状態」に至っているか否かを検出するように構成されている。なお、用紙波打ち量検出装置150は、シートPに付着した液体を乾燥させる構成(乾燥部)の近傍に設置されるとよい。
【0017】
用紙送出装置110は、長尺状のシート状の記録媒体であってロール状に巻回されたシートPを着脱自在に装着する。用紙送出装置110は、装着されたシートPを第一インクジェットプリンタ120に送り出す。
【0018】
第一インクジェットプリンタ120は、黒色またはカラーのインク(液体)を吐出する液体吐出ヘッドを備え、情報処理装置190から受信した印字データのうち、シートPの表面側に印字する印字データに基づいて、液体インクをシートPの表面側に向けて吐出する。この吐出された液体インクがシートPの表面側に付着することで、表面画像が形成される。ここで、液体インクは、色材と溶剤、溶剤に分散された結晶性樹脂粒子を含む液体である。結晶性樹脂粒子は所定の融点以上に熱せられると相変化を起こし結晶状態から液体に融解する。
【0019】
第二インクジェットプリンタ140は、黒色またはカラーのインク(液体)を吐出するヘッドを備え、ヘッドからインクを吐出してシートPの裏面側に付着させて画像を形成する。第二インクジェットプリンタ140は、情報処理装置190から受信した印字データのうち、シートPの裏面側に印字する印字データに基づいて、第一インクジェットプリンタ120から搬送されたシートPの裏面側にインクを吐出して、裏面側画像を形成する。なお、第二インクジェットプリンタ140に使用するインクは、第一インクジェットプリンタ120に使用するインクと同等である。
【0020】
用紙巻取装置170は、第二インクジェットプリンタ140で印字されたシートPをロール状に巻き取る。
【0021】
次に、図2を参照してインクジェットプリンタ100の構成について説明する。用紙送出装置110は、第一用紙装着部111と第一用紙調整部112を備える。第一用紙装着部111は、長尺状に巻回されたシートPを装着する軸である。第一用紙調整部112は、第一用紙装着部111に装着されたシートPの最外周のシートPを一定の力で引き出す張力調整部である。用紙送出装置110は、第一用紙装着部111に装着された用紙を、第一インクジェットプリンタ120に対し、第一用紙調整部112を通して送り出す。シートPは、引き出された用紙の一面が表面側であり、他面が裏面側である。
【0022】
第一インクジェットプリンタ120は、画像形成部である第一印字部121と第一乾燥部123を備える。第一印字部121は用紙の表面側にインクの吐出を行う。第一乾燥部123は、シートPの表面側に吐出されたインクを乾燥させてシートPへの定着を行う。第一印字部121は、第一液体吐出ヘッド122と第一プラテン124を含む。第一液体吐出ヘッド122は一色または複数色の液体インクを個別に収納するタンクと、収納されている液体インクをシートPの表面側に吐出するインクジェット方式のノズルを含むヘッドである。各ノズルは、受信した印字データに基づいて、収納している液体インクをシートPに向けて吐出する。
【0023】
第一プラテン124は、第一液体吐出ヘッド122に対向して設けられており、ノズルがインクを吐出する領域において、ノズルとシートPの距離を一定に保つ役目を果たす。
【0024】
乾燥部である第一乾燥部123は、回転する円柱状の第一乾燥ドラム125を備える。第一乾燥ドラム125は、シートPが巻きつく第一外周面部125aを有し、熱源によって、少なくとも第一外周面部125aが温められる。そして、第一外周面部125aの温度は、巻き付けられたシートPの裏面側が第一外周面部125aとともに略一周する間にシートPの表面側に付着した液体インクが乾燥する温度であって、かつ液体インクに含まれる樹脂が溶解する融点温度より低い温度である。また、第一乾燥ドラム125の回転速度は、シートPの搬送速度とほぼ同一速度である。そのため、シートPは、第一外周面部125aと互いにシートPの搬送方向にずれることがなく搬送される。
【0025】
第一搬送部126は、回転する第一ローラ126aおよび第一ピンチローラ126bを含む。第一搬送部126は、第一ローラ126aと第一ピンチローラ126bとでシートPを挟持して第一ローラ126aを回転させることで、第一インクジェットプリンタ120内のシートPを搬送する。第一搬送部126は、シートPを表裏反転装置130に向けて搬送する。
【0026】
表裏反転装置130は、シートPの表面側と裏面側の位置を反転させる公知の装置である。表裏反転装置130は、入口から搬入されたシートPの表裏を反転して搬出する。例えば、シートPの表面側を上向き(すなわち裏面側が下向き)にして搬入されたシートPは、表面側を下向き(すなわち裏面側が上向き)に搬出する。
【0027】
第二インクジェットプリンタ140は、画像形成部である第二印字部141と第二乾燥部143と第二搬送部146を備える。第二印字部141は用紙の裏面側にインクの吐出を行う。第二乾燥部143は、シートPの裏面側に付着したインクを乾燥させて用紙への定着を行う。
【0028】
第二印字部141は、第二液体吐出ヘッド142と第二プラテン144を含む。第二液体吐出ヘッド142は一色または複数色のインクを個別に収納するタンクと、収納されているインクを用紙の裏面側に吐出するインクジェット方式のノズルを含むヘッドである。各ノズルは、受信した印字データに基づいて、収納している液体インクをシートPの裏面側に向けて吐出する。
【0029】
第二プラテン144は、第二液体吐出ヘッド142に対向して設けられており、ノズルが液体インクを吐出する領域において、ノズルとシートPの距離を一定に保つ役目を果たす。
【0030】
乾燥部である第二乾燥部143は、回転する円柱状の第二乾燥ドラム145と第二張力調整部147を備える。第二乾燥ドラム145は、シートPが巻きつく第二外周面部145aを有し、熱源によって、少なくとも第二外周面部145aが温められる。第二外周面部145aの温度(第1温度)は、巻き付けられたシートPが第二外周面部145aとともに略一周する間にシートPの裏面側に付着したインクが乾燥する温度であって、かつインクに含まれる樹脂が溶解する融点温度より低い温度である。また、第二乾燥ドラム145の回転速度(第1回転速度)は、シートPの搬送速度(第1搬送速度)とほぼ同一速度である。そのため、シートPは、第二外周面部145aと互いに前後にずれることがない。
【0031】
また、第二インクジェットプリンタ140は、熱源であるドラム加熱部によって、第二乾燥ドラム145の第二外周面部145aの温度を変更することが可能である。第二インクジェットプリンタ140は、第二乾燥ドラム145の第二外周面部145aの温度を、液体インクに含まれる樹脂が溶解する融点温度より低い第1温度と、インクに含まれる樹脂が溶解する融点温度以上となる高い温度(第2温度)とに変更することが可能である。
【0032】
第二張力調整部147は、移動可能なローラで構成される。当該ローラが矢印Y2方向に移動することで、第二乾燥ドラム145の第二外周面部145aに巻きつくシートPの張力を変化させることができる。
【0033】
第二搬送部146は、回転する第二ローラ146aおよび第二ピンチローラ146bを含む。第二搬送部146は、第二ローラ146aと第二ピンチローラ146bとでシートPを挟持して第二ローラ146aを回転させることで、第二インクジェットプリンタ140内のシートPを搬送する。第二搬送部146は、シートPを用紙巻取装置170に搬送する。
【0034】
用紙巻取装置170は、第二インクジェットプリンタ140から搬送されたシートPを巻き取る。用紙巻取装置170は、第二用紙装着部171と第二用紙調整部172を備える。第二用紙装着部171は、第二インクジェットプリンタ140から搬送されたシートPを巻き取るための軸である。第二用紙調整部172は、第二用紙装着部171がシートPを一定の力で巻き取ることができるための張力調整部である。
【0035】
また、用紙波打ち量検出第一装置151は第一乾燥ドラム125の周囲に配置される。また、用紙波打ち量検出第二装置152は第二乾燥ドラム145の周囲に配置される。これら用紙波打ち量検出装置150は、シートPの搬送方向対して垂直方向のおけるシートPの変位(凹凸)と凹凸の周期(波打ちの周期T)を検出する。用紙波打ち量検出装置150は、検出した凹凸量と周期を情報処理装置190に送信する。
【0036】
以上の構成を備えるインクジェットプリンタ100は、用紙送出装置110から送り出されたシートPの表面側に第一インクジェットプリンタ120が印字を行う。そして表裏反転装置130においてシートPの表裏が反転される。続いて、シートPの裏面側に第二インクジェットプリンタ140が印字を行う。そして用紙巻取装置170が、第二インクジェットプリンタ140から搬送されたシートPを巻き取る。
【0037】
一般に水分を保有する用紙(シートP)が熱せられることで、平滑なシート状部材の面が周期的に波打つ形状に至ることが知られている。このような状態では波打ちの頂点がより強く第二乾燥ドラム145と接触することになる。ここで例えば、第二乾燥ドラム145の温度が、前述のような液体インクに含まれる樹脂が溶解する融点温度以上となる高い温度(第2温度)に設定されている場合、波打ちの頂点が通過する箇所に集中して第二乾燥ドラム145に剥がれたインクが堆積する現象が発生する。このような現象が発生すると、その後、インク堆積物の上を通過するシートPの画像面の剥がれが加速し、許容できない画像品質の低下に陥る。このような場合には乾燥ドラムの清掃が必要であり、画像形成装置としてダウンタイム発生する。
【0038】
ここで、情報処理装置190の構成について図3を用いて説明する。図3に例示するように本実施形態に係る情報処理装置190は、一般的なサーバやPC(Personal Computer)等と同様の構成を含む。即ち、情報処理装置190は、CPU(Central Processing Unit)10、RAM(Random Access Memory)20、ROM(Read Only Memory)30、HDD(Hard Disk Drive)40及びI/F50がバス90を介して接続されている。また、I/F50には表示部60、操作部70及び専用デバイス80が接続されている。
【0039】
CPU10は演算手段であり、インクジェットプリンタ100の全体の動作を制御する。RAM20は、情報の高速な読み書きが可能な揮発性の記憶媒体であり、CPU10が情報を処理する際の作業領域として用いられる。ROM30は、読み出し専用の不揮発性記憶媒体であり、ファームウェア等のプログラムが格納されている。HDD40は、情報の読み書きが可能な不揮発性の記憶媒体であり、OS(Operating System)や、印加電圧制御プログラムなどの各種の制御プログラム、アプリケーションプログラム等が格納される。
【0040】
I/F50は、バス90と各種のハードウェアやネットワーク等を接続し制御する。表示部60は、ユーザがインクジェットプリンタ100の状態を確認するための視覚的ユーザインタフェースであり、LCD(Liquid Crystal Display)等の表示装置によって実現される。操作部70は、キーボードやマウス等、ユーザがインクジェットプリンタ100に情報を入力するためのユーザインタフェースである。専用デバイス80は、第一インクジェットプリンタ120や第二インクジェットプリンタ140などにおける専用の機能を実現するためのハードウェアや、用紙波打ち量検出装置150などのハードウェアである。
【0041】
このようなハードウェア構成において、ROM30やHDD40若しくは光学ディスク等の記憶媒体に格納されたプログラムがRAM20に読み出され、CPU10がRAM20にロードされたプログラムに従って演算を行うことにより、ソフトウェア制御部が構成される。このようにして構成されたソフトウェア制御部と、ハードウェアとの組み合わせによって、本実施形態に係るインクジェットプリンタ100が実行する各処理機能を実現する機能ブロックが構成される。
【0042】
情報処理装置190において実現される機能ブロックによって、本実施形態係る制御部が構成される。なお、第一インクジェットプリンタ120や第二インクジェットプリンタ140にも、上述したCPU10をはじめとするハードウェアを搭載し、制御部を構成する機能ブロックを実現するようにしてもよい。
【0043】
次に、用紙波打ち量検出装置150の構成について図6を用いて説明する。図6は、シートPの搬送状態を画像形成面側から見た平面図である。用紙波打ち量検出装置150は、シートPの搬送方向と交差する方向(シートPの幅方向)において、発光部150aと受光部150bが、シートPをまたぐように設置されている。発光部150aから出射された光を受光部150bが受光している間は、受光部150bから情報処理装置190に対して、その旨を知らせる信号が出力される。
【0044】
シートPが波打ち状態になると、その波打ちの頂部によって発光部150aから出射された光が遮られることになる。このとき、シートPの搬送に応じて受光部150bからの信号が途切れることになる。この信号の検出状態に基づいて、情報処理装置190では、波打ちの周期、波打ち時のシートPの累積搬送距離、波打ち量を情報処理装置190において算出することができる。
【0045】
また、用紙波打ち量検出装置150による検出結果と連動して、第一印字部121や第二印字部141における液体インクの吐出量を情報処理装置190が記録することで、波打ち量の累積値や液体インクの吐出量に応じた制御を行うことができる。
【0046】
なお、図6において用紙波打ち量検出装置150は、一対の発光部150aと受光部150bからなる光学センサとして構成されているが、発光部150aと受光部150bを複数対設置するための設置スペースが十分に確保できるのであれば、複数対の発光部150aと受光部150bから構成するようにしてもよい。
【0047】
[機能ブロック]
次に、本実施形態に係るインクジェットプリンタ100における機能構成について、図4を用いて説明する。図4に示すように、インクジェットプリンタ100は、画像形成部401と、乾燥部402と、波打ち量検出部403と、搬送位置変更部404と、搬送長記憶部405と、液体量記憶部406と、搬送位置記憶部407と、制御部408と、を有する。
【0048】
画像形成部401は、第一インクジェットプリンタ120が備える第一印字部121や、第二インクジェットプリンタ140が備える第二印字部141を動作させて、印字データに基づく液体の吐出動作を制御する。
【0049】
乾燥部402は、シートPに付与された液体を乾燥させる第一乾燥ドラム125と第二乾燥ドラム145の動作を制御する。
【0050】
波打ち量検出部403は、用紙波打ち量検出装置150から信号に基づいて、シートPが「波打ち状態」であるか否かを検出し、「波打ち状態」であるときは、その高さ(波の高さ)と、波打ち状態の累積長さ(シートPの波打ち状態搬送長)や、波打ち状態における液体の吐出量(液体量)を検出する。また、波打ち量検出部403は、図7に例示するような波打ちの周期Tも検出する。
【0051】
搬送位置変更部404は、波打ち量検出部403において検出された波打ち量に応じて、シートPの搬送経路中の位置(搬送位置)を変更するシフト動作を実行する。また、搬送位置変更部404は、検出された波打ち量に応じて、所定の係数を選択し、係数を用いてシフト量を決定し、シフト動作を実行する。シフト動作は、シートPの搬送方向と交差する方向に対する移動であって、例えば、シートPの幅方向に、シートPの位置をずらす動作をいう。シートPに対する相対的な搬送位置のシフト動作には、第一搬送部126や第二搬送部146におけるローラの位置をシフトさせる動作が含まれる。また、第一印字部121や第二印字部141の位置をシフトさせる動作や、第一乾燥ドラム125や第二乾燥ドラム145の位置をシフト動作も含まれる。この場合、第一印字部121、第二印字部141、第一乾燥ドラム125、第二乾燥ドラム145の位置を、個別にずらす動作もシフト動作に含むものとする。
【0052】
搬送長記憶部405は、波打ち量が所定の波打ち量閾値を超えた状態で搬送されたシートPの長さである波打ち状態搬送長を記憶する。
【0053】
液体量記憶部406は、波打ち量が所定の波打ち量閾値を超えた状態で画像形成部401において付与された液体量を記憶する。
【0054】
搬送位置記憶部407は、搬送位置変更部404において変更された搬送位置を示す情報を記憶する。搬送位置記憶部407に記憶された情報は、例えば、インクジェットプリンタ100が一旦、印刷動作をして終了し、その後再起動するときに、先の印刷動作において変更された搬送位置を用いて予めシフト動作を行うときに用いられる。
【0055】
制御部408は、画像形成部401、乾燥部402、波打ち量検出部403、搬送位置変更部404、搬送長記憶部405、液体量記憶部406、搬送位置記憶部407、の動作を制御する。
【0056】
[第一実施形態]
図5は、本実施形態に係るインクジェットプリンタ100の動作制御の流れを例示するフローチャートである。図5のフローチャートによる動作処理がインクジェットプリンタ100におけるシフト動作の基本的な動作となる。まず、印刷動作が開始されると画像形成部401が第一印字部121や第二印字部141を動作させて実行する画像形成処理が行われる(S501)。
【0057】
画像形成処理が行われてシートPが搬送されると、用紙波打ち量検出装置150と波打ち量検出部403によって波打ち検出処理が実行される(S502)。
【0058】
波打ち検出処理によって検出された波打ち量が所定の閾値を超えているか否かを搬送位置変更部404が判定し(S503)、閾値を超えていれば(S503/Yes)、搬送位置変更部404によるシフト動作が実行される(S504)。閾値を超えていなければ(S503/No)、シフト動作は行われない。
【0059】
上記の処理は、印刷動作が終了するまで(S505/No)、ループする。
【0060】
インクジェットプリンタ100は、波打ち頂点が常に第二乾燥ドラム145の同じ場所を通過しないよう、用紙波打ち量検出第一装置151又は用紙波打ち量検出第二装置152が所定の高さ以上の波打ちを検知した場合に、第二乾燥ドラム145の表面におけるシートPの位置を、シートPの搬送方向に交差する方向に所定の距離だけ移動させる。すなわち、波打ち頂点の位置を変えることで堆積物による画像品質の低下を予防し、清掃によるダウンタイムを低減する。
【0061】
具体的には、非接触かつシート幅と同じ長さの用紙波打ち量検出第一装置151と用紙波打ち量検出第二装置152は、情報処理装置190に接続され用紙波打ちの最大高さと周期を記録し、最大高さが閾値を超えた場合、その次の印刷動作から用紙位置を変更し印字画像も同じだけシフトさせる。シート位置の変更は搬送中に用紙位置決めローラ127を水平方向にずらすことで行う。用紙位置決めローラ127を傾ける動作は用紙位置決めローラ127よりも搬送経路下流側に位置する用紙端部位置検出装置128により、あらかじめ設定されたシフト距離を満たすまで行う。また、本動作は印字開始前の温度調整中等に行うことで紙消費及びダウンタイムを低減することも可能である。
【0062】
用紙波打ち量検出装置150の設置位置については、理想的には第二乾燥ドラム145上の用紙直上が良い。しかし、搬送レイアウトや乾燥の熱により測定が阻害される場合には可能な限り乾燥直後、かつ用紙の搬送方向の曲率が乾燥ドラム曲率以上になっていない箇所で波打ちを測定することが望ましい。
【0063】
[第二実施形態]
また、インクジェットプリンタ100は、波打ち頂点が常に第二乾燥ドラム145の同じ場所を通過しないよう、用紙波打ち量検出第一装置151又は用紙波打ち量検出第二装置152は情報処理装置190に接続され用紙波打ちの最大高さと周期を記録し、最大高さが閾値を超えた場合、その次の印刷動作から第二乾燥ドラム145を用紙搬送方向と交差する方向にシフトさせる。第二乾燥ドラム145のシフトは、例えば第二乾燥ドラム145を担持する軸と平行に、第二乾燥ドラム145そのもの、又は軸と第二乾燥ドラム145を移動させることで実現可能である。
【0064】
第二乾燥ドラム145のシフトは、あらかじめ設定されたシフト距離を満たすまで行う。また、本動作は印字開始前の温度調整中等に行うことで紙消費及びダウンタイムを低減することも可能である。
【0065】
[第三実施形態]
また、インクジェットプリンタ100は、波打ち頂点が常に第二乾燥ドラム145の同じ場所を通過しないよう、用紙波打ち量検出第一装置151及び用紙波打ち量検出第二装置152が情報処理装置190に接続され、用紙波打ちの最大高さと周期を記録する。そして、最大高さが予め規定する閾値を超えた場合、第一液体吐出ヘッド122と第二液体吐出ヘッド142をシートPの搬送方向との交差方向にシフトさせる。
【0066】
第一液体吐出ヘッド122と第二液体吐出ヘッド142のシフトは、あらかじめ設定されたシフト距離を満たすまで行う。また、本動作は印字開始前の温度調整中等に行うことで紙消費及びダウンタイムを低減することも可能である。
【0067】
[第四実施形態]
インク堆積が許容量以上になる条件は、使用されるインク成分や、シートPの種類(銘柄)などによって大きく異なる。また極端に印字量が多い場合には第一実施形態や第二実施形態に記載したように、次の印刷動作時においてシフト動作を実行するのでは、印刷動作中にインク堆積起因の画像障害が発生する恐れがある。そのため、波打ち量が閾値を超えた状態で第一乾燥ドラム125を通過したシートPの長さ(搬送長)を、センサを介して取得して、これを情報処理装置190において合計し、合計値を記憶部に記憶する。そして、搬送長の閾値よりも合計値が超えるか否かを情報処理装置190において判定することで、印刷動作中であっても、第一実施形態や第二実施形態において説明したシフト動作を実行することができる。これによって、大量の印刷動作を実行する時におけるインク堆積と画像障害を予防することができる。
【0068】
[第五実施形態]
インク堆積が許容量以上になる条件は、使用されるインク成分や、シートPの種類(銘柄)などによって大きく異なる。そこで、波打ち量が閾値を超えた時までに、射出されていたインク量を情報処理装置190に記憶させておく。そして、情報処理装置190において、インク量からインク堆積量を予測する処理を実行する。以上のように、インク射出量を記録しておき、予測するインク堆積量が閾値を超えるときに、第一実施形態や第二実施形態において説明したシフト動作を実行することができる。これによって、より効率的にインク堆積と画像障害を予防することができる。
【0069】
[第六実施形態]
シートPの波打ち状態は、液体インクの成分や、シートPの種類(銘柄)及び温度や湿度の環境要素など様々な要因から決定されるので、波打ち量を予測することは困難である。そこで、本実施形態に係るインクジェットプリンタ100では、印刷動作を開始する前に仮に印刷動作(プレ印字)を実施し、プレ印字における波打ち量を情報処理装置190において記録する。
【0070】
そし、印字前の段階で記録された波打ち量に基づいて、下記の表1のように「波打ち高さ」に応じて「補正係数」を設定する。
【0071】
【表1】
【0072】
表1に例示するように波打ち高さが高いほど小さな補正係数にすることで、閾値を小さく設定することができる。すなわち、波打ち量に基づいてシフト動作における変更量を決定することができる。これによって、印字前の段階でシートPの波打ち量が大きく、第二乾燥ドラム145との接触が強くなることが予想される条件においては、前記の閾値である用紙通過距離やインク射出量に小数の係数を掛ける。これによって、通常よりも早くシフト動作を実行させることができ、未知の状況におけるシフト動作の過不足を防止することができる。
【0073】
[第七実施形態]
インクジェットプリンタ100におけるシフト動作において、位置を移動する用紙や第二乾燥ドラム145の「シフト距離」は、シートPの波打ち頂点の周期と合致してはならない。本実施形態に係るシフト動作では、そのシフト距離を、用紙波打ち量検出装置150で検出した波打ち頂点の周期Tを2以上の可変な設定値で割った値で設定する。これによって、未知のインク種、シートPの種類(銘柄)に対しても、効率的なシフト動作を実行可能となる。
【0074】
[第八実施形態]
インクジェットプリンタ100は、シフト動作後の位置を情報処理装置190の記憶部に記憶しておく。シートPの架替などによって、シートPの位置が変わっても、次回の印刷動作時には、記憶部に記憶されている位置情報に基づいて、シフト動作を実行する。これによって、シートPの架替時においても、効率的なシフト動作を実行でき、より効率的にインク堆積と画像障害を予防することができる。
【符号の説明】
【0075】
10 :CPU
20 :RAM
30 :ROM
40 :HDD
50 :I/F
60 :表示部
70 :操作部
80 :専用デバイス
90 :バス
100 :インクジェットプリンタ
110 :用紙送出装置
111 :第一用紙装着部
112 :第一用紙調整部
120 :第一インクジェットプリンタ
121 :第一印字部
122 :第一液体吐出ヘッド
123 :第一乾燥部
124 :第一プラテン
125 :第一乾燥ドラム
125a :第一外周面部
126 :第一搬送部
126a :第一ローラ
126b :第一ピンチローラ
127 :用紙位置決めローラ
128 :用紙端部位置検出装置
130 :表裏反転装置
140 :第二インクジェットプリンタ
141 :第二印字部
142 :第二液体吐出ヘッド
143 :第二乾燥部
144 :第二プラテン
145 :第二乾燥ドラム
145a :第二外周面部
146 :第二搬送部
146a :第二ローラ
146b :第二ピンチローラ
147 :第二張力調整部
150 :用紙波打ち量検出装置
150a :発光部
150b :受光部
151 :用紙波打ち量検出第一装置
152 :用紙波打ち量検出第二装置
170 :用紙巻取装置
171 :第二用紙装着部
172 :第二用紙調整部
190 :情報処理装置
401 :画像形成部
402 :乾燥部
403 :波打ち量検出部
404 :搬送位置変更部
405 :搬送長記憶部
406 :液体量記憶部
407 :搬送位置記憶部
408 :制御部
【先行技術文献】
【特許文献】
【0076】
【文献】特開2004-195780号公報
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7