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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-04
(45)【発行日】2024-03-12
(54)【発明の名称】デバイスの製造方法及びデバイス
(51)【国際特許分類】
   B81C 3/00 20060101AFI20240305BHJP
   B81B 3/00 20060101ALI20240305BHJP
   G02B 26/10 20060101ALI20240305BHJP
   G02B 26/08 20060101ALI20240305BHJP
   G02B 27/01 20060101ALI20240305BHJP
   H01L 29/84 20060101ALI20240305BHJP
【FI】
B81C3/00
B81B3/00
G02B26/10 C
G02B26/08 E
G02B27/01
G02B26/10 104Z
H01L29/84 B
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2020050320
(22)【出願日】2020-03-19
(65)【公開番号】P2021146474
(43)【公開日】2021-09-27
【審査請求日】2023-01-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000006747
【氏名又は名称】株式会社リコー
(74)【代理人】
【識別番号】100089118
【弁理士】
【氏名又は名称】酒井 宏明
(72)【発明者】
【氏名】清元 智文
【審査官】堀内 亮吾
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-024826(JP,A)
【文献】特開2001-347658(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B81C 3/00
B81B 3/00
G02B 26/10
G02B 26/08
G02B 27/01
H10N 30/20
H10N 30/30
H01L 29/84
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
応力対象部を有するデバイスの製造方法であって、
第1のシリコン層と第1の酸化シリコン層と第2のシリコン層と、を有する積層体の前記第2のシリコン層に溝パターンを形成する第1の工程と、
前記第2のシリコン層上に第2の酸化シリコン層と共通シリコン層と、を前記第2のシリコン層側から前記第2の酸化シリコン層、共通シリコン層となるよう積層して形成する第2の工程と、
前記共通シリコン層について、前記溝パターンとは少なくとも一部が対向する位置に前記応力対象部を形成する第3の工程と、
前記第1のシリコン層を除去する第4の工程と、
前記溝パターンが形成された前記第2のシリコン層を酸化する第5の工程と、
を含み、
前記積層体の積層方向において、前記応力対象部と重なる位置における前記第2の酸化シリコン層は、前記応力対象部と重ならない位置における前記第2の酸化シリコン層よりも厚い領域を含む
応力対象部を有するデバイスの製造方法。
【請求項2】
前記溝パターンにおいて、溝幅はシリコン幅より広い
請求項1に記載の応力対象部を有するデバイスの製造方法。
【請求項3】
前記シリコン幅は0.1um~0.5umである請求項2に記載の応力対象部を有するデバイスの製造方法。
【請求項4】
前記共通シリコン層の厚さは前記第1のシリコン層よりも薄いよう前記第2の工程で形成される請求項1又は請求項2に記載の応力対象部を有するデバイスの製造方法。
【請求項5】
共通シリコン層と、
前記共通シリコン層の一面に設けられた第1の部材と
前記共通シリコン層の一面に設けられた第2の部材と、
前記共通シリコン層の他面に設けられた応力対象部と、を備え、
前記第1の部材は、
前記共通シリコン層に向かって、第1のシリコン層と、第1の酸化シリコン層と、第2のシリコン層と、第2の酸化シリコン層と、が積層された構造を有し、
前記第2の部材は、第3の酸化シリコン層であり、
前記第2の部材の少なくとも一部は、前記共通シリコン層について、前記応力対象部と対向する位置に設けられ
前記積層する方向において、前記応力対象部と重なる位置における前記第2の酸化シリコン層は、前記応力対象部と重ならない位置における前記第2の酸化シリコン層よりも厚い領域を含んでいること
を特徴とするデバイス。
【請求項6】
前記第3の酸化シリコン層の厚さは、前記第2の酸化シリコン層よりも厚いこと
を特徴とする請求項5に記載のデバイス。
【請求項7】
前記共通シリコン層の厚さは、前記第1のシリコン層よりも薄いこと
を特徴とする請求項5又は請求項6に記載のデバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、デバイスの製造方法及びデバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
磁性体、圧電膜、静電力等をアクチュエータとするMEMS(Micro Electro Mechanical Systems)デバイスが知られている。例えば、光走査を目的とした反射面を有するスキャナーデバイスや、メンブレン構造を用いた圧力センサ、両持ち梁の重りの変動を検出する加速度センサ・ジャイロ等が知られている。これらは主にSOI(Silicon On Insulator)ウェハを用いて微細な可動部を形成することや、SOIウェハの表層に、例えば機能性膜又は保護膜等の種々の部材を形成することで製造される。
【0003】
特許文献1(特開2017-074625号公報)には、活性層の厚みを任意に変化させることを目的として、マイクロローディングによる溝形成後に酸化を行うことで局所的な厚膜SiOを形成し、犠牲層とする技術が開示されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、SOIウェハで得られた構造体の表層に種々の部材が形成されることにより、局所的な応力が生じ、構造体にひずみが発生する点で改善の余地があった。
【0005】
また、特許文献1に開示されている構造体の場合、厚膜SiOは犠牲層として形成されるため、構造体の製造途中で除去される。このため、特許文献1に開示されている構造体も、表面に部材を形成した場合、局所的な応力によってひずみが発生する懸念がある。
【0006】
本発明は、上述の課題に鑑みてなされたものであり、構造体におけるひずみ等が発生する不具合を抑制することが可能なデバイスの製造方法及びデバイスの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明は、応力対象部を有するデバイスの製造方法であって、第1のシリコン層と第1の酸化シリコン層と第2のシリコン層と、を有する積層体の第2のシリコン層に溝パターンを形成する第1の工程と、第2のシリコン層上に第2の酸化シリコン層と共通シリコン層と、を第2のシリコン層側から第2の酸化シリコン層、共通シリコン層となるよう積層して形成する第2の工程と、共通シリコン層について、溝パターンとは少なくとも一部が対向する位置に応力対象部を形成する第3の工程と、第1のシリコン層を除去する第4の工程と、溝パターンが形成された第2のシリコン層を酸化する第5の工程と、を含み、前記積層体の積層方向において、前記応力対象部と重なる位置における前記第2の酸化シリコン層は、前記応力対象部と重ならない位置における前記第2の酸化シリコン層よりも厚い領域を含む
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、構造体におけるひずみ等が発生する不都合を抑制できるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は、第1の実施の形態の光走査システムのシステム構成を示す図である。
図2図2は、第1の実施の形態の光走査システムのハードウェア構成を示す図である。
図3図3は、制御装置の機能構成を示す図である。
図4図4は、第1の実施の形態の光走査システムにおける被走査面の光走査の流れを示すフローチャートである。
図5図5は、第1の実施の形態の光走査システムに設けられている光偏向器のパッケージングを説明するための図である。
図6図6は、光偏向器の平面図であり、光偏向器を表面側(反射面側)から見た図である。
図7図7は、光偏向器を表面側から見た状態の斜視図である。
図8図8は、光偏向器の可動部であるミラー部の構成及び機能を説明するための図である。
図9図9は、ミラー部に対する局所的なSiO層を形成する形成プロセスの流れを示す図である。
図10図10は、誘電多層膜、溝パターン部及び段差パターン部の位置関係を示す斜視図である。
図11図11は、ミラー部の変形例を説明するための図である。
図12図12は、加速度センサ又ジャイロセンサ等の変位検出系のMEMSデバイスにSiO層を設けた例を示す図である。
図13図13は、メンブレン方式の圧力センサにSiO層を設けた例を示す図である。
図14図14は、第2の実施の形態における、光偏向器を備えたヘッドアップディスプレイ装置が設けられた自動車を示す図である。
図15図15は、ヘッドアップディスプレイ装置500の構成を示すブロック図である。
図16図16は、第3の実施の形態における、光書込装置を示す図である。
図17図17は、光書込装置の要部の構成を示す図である。
図18図18は、第4の実施の形態における、レーザレーダ装置が設けられた自動車を示す図である。
図19図19は、レーザレーダ装置の要部のブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、添付図面を参照して、実施の形態の光走査システムの説明をする。
【0011】
(概要)
まず、実施の形態の光走査システムを説明するにあたり、MEMS(Micro Electro Mechanical Systems)デバイスの概略について説明する。半導体技術を用いシリコンウェハ(Siウェハ)上に、機能性構造体を形成するMEMSデバイスが開発されている。一例をあげると、このようなMEMSデバイスとしては、例えば加速度センサ、圧力センサ及びミラーデバイス等が知られている。
【0012】
加速度センサの場合、Siウェハの一部をエッチング等のプロセスによって貫通又は薄化することで、四方を梁で支えられた重り構造体を形成する。そして、外部からの加速に応じて慣性力による重りの変位を四方の梁の変形によって検出することで加速度を検知する。
【0013】
圧力センサの場合、薄い膜上のメンブレン部を形成し、このメンブレン部の一面側を真空となるように封止することで形成される。このようにして形成された圧力センサは、圧力変動によるメンブレンの変形を検出することで圧力を検知する。
【0014】
ミラーデバイスとしては、梁構造によって支えられたミラー部を1軸又は2軸で走査する走査型ミラーデバイス等が知られている。
【0015】
このようなMEMSデバイスは、小さな力で大きな変位をすることが求められる。このため、可動部(梁部又はメンブレン部)は、できるだけ薄くすることが望ましい。また、機械的変位を電気的な信号に変えて検出し、又は、電気的な信号を機械的な力に変換して駆動させるために、構造体の表層には、配線、保護膜及び機能性膜といった部材を形成することが一般的である。
【0016】
ただし、この薄化は数~数10um厚さとするため、表層の保護膜や機能性膜といった部材自体が持つ応力の影響を大きく受けることとなる。この応力によってセンサ系では、通常状態でも変位によるオフセット出力が発生する。また、駆動系では、所望の駆動特性に対するずれが発生する。
【0017】
このような応力影響を緩和するために表層の保護膜の応力を0に近づける膜構成設計が行われる。一般的な回路配線のような半導体プロセスの場合は、応力コントロールも可能である。しかし、圧電膜等のセラミック材料及びその上下部電極又はミラー増反膜のような厚い積層膜構成材料等といった部材に上記構成設計を適用することは実質的には困難である。
【0018】
このような場合、SOI(Silicon on Insulator))ウェハのBOX層の厚さを最適化して応力緩和する方法もある。ただし、その場合はBOX層全体が厚くなるため、基板反りによるプロセス課題が発生する。また、チップ全体へBOX層からの応力による歪みが発生する。
【0019】
以下に説明する実施の形態では、3層キャビティSOIを用い、中間層には狭ギャップの溝パターンを局所的に形成する。溝パターンは、MEMSデバイスのうち、前述の圧電膜又は増反膜等の強い応力がかかる部材が形成される領域に形成する。この溝パターン部を酸化処理すると、溝パターン部を形成するSi(シリコン)はSiO(二酸化ケイ素化)となり、体積膨張する。このSiの酸化処理によって広いSiO領域を形成される。そして、所望の箇所にのみ、すなわち狭ギャップ溝パターン部を形成した箇所にのみ、厚膜のSiO層を形成することが可能となる。
【0020】
SiO層の厚さは、3層SOIの中間層の厚さで調整できるため、応力値を自由に調整することができる。また、この厚膜SiO層形成部以外は標準的なBOX層でよいため、プロセス中の反り影響やチップ化した際のひずみ影響を回避可能となっている。
【0021】
[第1の実施の形態]
以下、第1の実施の形態として、このようなMEMSデバイスの一つである、走査型ミラーデバイスが適用された光走査システムを説明する。
【0022】
(システム構成)
図1は、第1の実施の形態の光走査システムのシステム構成を示す図である。この図1に示すように、光走査システム10は、制御装置11,光源装置12、反射面14を有する光偏向器13を有する。光偏向器13は、走査型ミラーデバイスである。このような光走査システム10は、制御装置11の制御に従って、光源装置12から照射された光を光偏向器13の有する反射面14により偏向して被走査面15へ光走査する。
【0023】
制御装置11は、例えばCPU(Central Processing Unit)及びFPGA(Field-Programmable Gate Array)等を備えた電子回路ユニットである。光偏向器13は、例えば反射面14を有し、反射面14が可動であるMEMS(Micro Electromechanical Systems)デバイスである。光源装置12は、例えばレーザを照射するレーザ装置である。なお、被走査面15は、例えばスクリーンである。
【0024】
制御装置11は、取得した光走査情報に基づいて光源装置12及び光偏向器13の制御命令を生成し、制御命令に基づいて光源装置12及び光偏向器13に駆動信号を出力する。
【0025】
光源装置12は、入力された駆動信号に基づいて光の照射を行う。
【0026】
光偏向器13は、入力された駆動信号に基づいて反射面14を1軸方向又は2軸方向の少なくとも何れかに動作させる。
【0027】
これにより、光走査システム10は、例えば、光走査情報の一例である画像情報に基づいた制御装置11の制御によって、光偏向器13の反射面14を2軸方向に往復動作させ、反射面14に入射する光源装置12からの照射光を偏向して光走査することにより、被走査面15に任意の画像を投影することができる。
【0028】
(ハードウェア構成)
次に、図2は、光走査システム10のハードウェア構成を示す図である。この図2に示すように、光走査システム10は、制御装置11、光源装置12及び光偏向器13を備え、それぞれが電気的に接続されている。
【0029】
このうち、制御装置11は、CPU20、RAM21(Random Access Memory)、ROM22(Read Only Memory)、FPGA23、外部I/F24、光源装置ドライバ25、光偏向器ドライバ26を備えている。
【0030】
CPU20は、ROM22等の記憶装置からプログラムやデータをRAM21上に読み出し、処理を実行して、制御装置11の全体の制御や機能を実現する演算装置である。
【0031】
RAM21は、プログラムやデータを一時保持する揮発性の記憶装置である。
【0032】
ROM22は、電源を切ってもプログラムやデータを保持することができる不揮発性の
記憶装置であり、CPU20が光走査システム10の各機能を制御するために実行する処
理用プログラムやデータを記憶している。
【0033】
FPGA23は、CPU20の処理に従って、光源装置ドライバ25及び光偏向器ドライバ26に適した制御信号を出力する回路である。
【0034】
外部I/F24は、例えば外部装置やネットワーク等とのインタフェースである。外部装置には、例えば、PC(Personal Computer)等の上位装置、USBメモリ、SDカード、CD、DVD、HDD、SSD等の記憶装置が含まれる。また、ネットワークは、例えば自動車のCAN(Controller Area Network)やLAN(Local Area Network)、インターネット等である。外部I/F24は、外部装置との接続または通信を可能にする構成であればよく、外部装置ごとに外部I/F24が用意されてもよい。
【0035】
光源装置ドライバは、入力された制御信号に従って光源装置12に駆動電圧等の駆動信号を出力する電気回路である。
【0036】
光偏向器ドライバ26は、入力された制御信号に従って光偏向器13に駆動電圧等の駆動信号を出力する電気回路である。
【0037】
制御装置11において、CPU20は、外部I/F24を介して外部装置やネットワークから光走査情報を取得する。なお、CPU20が光走査情報を取得することができる構成であればよく、制御装置11内のROM22やFPGA23に光走査情報を格納する構成としてもよいし、制御装置11内に新たにSSD等の記憶装置を設けて、その記憶装置に光走査情報を格納する構成としてもよい。
【0038】
ここで、光走査情報とは、被走査面15にどのように光を走査させるかを示した情報であり、例えば、光走査により画像を表示する場合は、光走査情報は画像データである。また、例えば、光走査により光書込みを行う場合は、光走査情報は書込み順や書込み箇所を示した書込みデータである。他にも、例えば、光走査により物体認識を行う場合は、光走査情報は物体認識用の光を照射するタイミングと照射範囲を示す照射データである。
【0039】
(制御装置の機能構成)
図3は、制御装置11の機能構成を示す図である。制御装置11は、CPU20の命令及び図2に示したハードウェア構成によって、制御部30及び駆動信号出力部31の機能を実現する。
【0040】
制御部30は、例えばCPU20、FPGA23等により実現され、外部装置から光走査情報を取得し、光走査情報を制御信号に変換して駆動信号出力部31に出力する。例えば、制御部30は、制御手段を構成し、外部装置等から画像データを光走査情報として取得し、所定の処理により画像データから制御信号を生成して駆動信号出力部31に出力する。
【0041】
駆動信号出力部31は、印加手段を構成し、光源装置ドライバ25、光偏向器ドライバ26等により実現され、入力された制御信号に基づいて光源装置12または光偏向器13に駆動信号を出力する。駆動信号出力部31(印加手段)は、例えば、駆動信号を出力する対象毎に設けられてもよい。
【0042】
駆動信号は、光源装置12または光偏向器13の駆動を制御するための信号である。例えば、光源装置12においては、光源から照射される光の照射タイミング及び照射強度を制御する駆動電圧である。また、例えば、光偏向器13においては、光偏向器13の有する反射面14を動作させるタイミング及び動作範囲を制御する駆動電圧である。なお、制御装置は、光源装置12や受光装置等の外部装置から光源から照射される光の照射タイミングや受光タイミングを取得し、これらを光偏向器13の駆動に同期するようにしてもよい。
【0043】
(光走査処理)
図4は、光走査システム10による、被走査面15の光走査の流れを示すフローチャートである。この図4のフローチャートにおいて、ステップS11では、制御部30が、外部装置等から光走査情報を取得する。
【0044】
ステップS12では、制御部30が、取得した光走査情報から制御信号を生成し、制御信号を駆動信号出力部31に出力する。
【0045】
ステップS13では、駆動信号出力部31が、入力された制御信号に基づいて駆動信号を光源装置12及び光偏向器13に出力する。
【0046】
ステップS14では、光源装置12が、入力された駆動信号に基づいて光照射を行う。また、光偏向器13は、入力された駆動信号に基づいて反射面14の動作を行う。光源装置12及び光偏向器13の駆動により、任意の方向に光が偏向され、光走査される。
【0047】
なお、光走査システム10では、1つの制御装置11が光源装置12及び光偏向器13を制御する装置及び機能を有しているが、光源装置用の制御装置及び光偏向器用の制御装置と、別体に設けてもよい。
【0048】
また、上記光走査システム10では、一つの制御装置11に光源装置12及び光偏向器13の制御部30の機能及び駆動信号出力部31の機能を設けているが、これらの機能は別体として存在していてもよく、例えば制御部30を有した制御装置11とは別に駆動信号出力部31を有した駆動信号出力装置を設ける構成としてもよい。なお、上記光走査システム10のうち、反射面14を有した光偏向器13と制御装置11により、光偏向を行う光偏向システムを構成してもよい。
【0049】
(パッケージング)
図5は、光偏向器13のパッケージングを説明するための図である。この図5に示すように、光偏向器13は、パッケージ部材801の内側に配置される取付部材802に取り付けられ、パッケージ部材の一部を透過部材803で覆われて、密閉されることでパッケージングされる。
【0050】
さらに、パッケージ内は窒素等の不活性ガスが密封されている。これにより、光偏向器13の酸化による劣化が抑制され、さらに温度等の環境の変化に対する耐久性が向上する。
【0051】
(光偏向器の構成)
図6(a)は、光偏向器13の平面図であり、光偏向器を表面側(反射面側)から見た図である。図7は、光偏向器13を表面側から見た状態の斜視図である。この図6(a)及び図7において、光偏向器13は、反射面を有する可動部を回動させて、反射面へ入射する光を1軸方向(X軸に平行な軸Aの周り)に偏向する両端支持構造の光偏向器である。
【0052】
光偏向器13は、軸Aの周りのミラー部110の回動を可能にする構造を備えている。すなわち、光偏向器13は、ミラー部110が1軸方向に回転することにより、ミラー部110へ入射する光を偏向し、1軸方向の走査が可能である。
【0053】
光偏向器13は、入射した光を反射する反射面112を有するミラー部110と、トーション梁120a及び120bと、接続部131a及び131bと、接続部132a及び132bと、駆動部140a及び140bと、固定部150と、電極接続部160とを有している。
【0054】
光偏向器13は、例えば、1枚のSOI(Silicon On Insulator)基板をエッチング処理等により成形し、成形した基板上に反射面112や駆動部140a及び140bを形成することで、各構成部が一体的に形成されている。なお、上記の各構成部の形成は、SOI基板の成形後に行ってもよいし、SOI基板の成形中に行ってもよい。
【0055】
ミラー部110は、軸Aを回動軸として回動可能であり、例えば、円形状や楕円形状、多角形等のミラー部基体111と、ミラー部基体111の+Z側の面上に形成された反射面112とを有する。ミラー部基体111は、例えばシリコン活性層103から構成される。反射面112は、例えばアルミニウム、金、銀等を含む金属薄膜で構成される。
【0056】
また、ミラー部110は、ミラー部基体111の-Z側の面にミラー部補強用のリブが形成されていてもよい。リブは、例えば、シリコン支持層101及び酸化シリコン層102から構成され、可動によって生じる反射面112の歪みを抑制する。
【0057】
ミラー部110の中心(重心)は、例えば、トーション梁120a及び120bの中心軸である軸A上に位置している。但し、ミラー部110の中心(重心)は、トーション梁120a及び120bの中心軸である軸Aに対してオフセットされていてもよい。
【0058】
接続部131a及び接続部131bは、固定部150の対向する内周面間を橋渡しするように直線状に設けられた短冊状のカンチレバーである。接続部131a及び131bの一端は固定部150に接続され、接続部131a及び131bの他端同士が接続されている。
【0059】
同様に、接続部132a及び接続部132bは、固定部150の対向する内周面間を橋渡しするように直線状に設けられた短冊状のカンチレバーである。接続部132a及び132bの一端は固定部150に接続され、接続部132a及び132bの他端同士が接続されている。接続部131a及び131bと接続部132a及び132bは、例えば、反射面112の中心を通るY軸に平行な軸に対して線対称となるように、ミラー部110を挟んで配置されている。
【0060】
接続部131a、131b、132a、及び132bは、例えば、Si、Al2O3、SiC、SiGeから選択される材料から形成できる。光偏向器13の作製にSOI基板を用いることができる点で、接続部131a、131b、132a、及び132bはSiから形成することが好ましい。光偏向器13がSOI基板から形成されている場合には、接続部131a、131b、132a、及び132bは、例えば、シリコン活性層103から構成される。
【0061】
トーション梁120a及び120bは、ミラー部基体111に一端が接続され、軸A方向にそれぞれ延びてミラー部110を軸Aの周りに可動可能に支持する一対の弾性支持部である。トーション梁120a及び120bは、例えば、シリコン活性層103から構成される。
【0062】
トーション梁120aの他端は、接続部131aと接続部131bとの接続箇所に接続されている。トーション梁120bの他端は、接続部132aと接続部132bとの接続箇所に接続されている。トーション梁120aの長手方向と接続部131a及び131bの長手方向は垂直であり、トーション梁120bの長手方向と接続部132a及び132bの長手方向は垂直である。
【0063】
このように、接続部131aと接続部131bは、トーション梁120aの中心軸である軸Aに対して両側に配置されており、接続部132aと接続部132bは、トーション梁120bの中心軸である軸Aに対して両側に配置されている。そして、接続部131a及び131b並びに接続部132a及び132bでミラー部110とトーション梁120a及び120bを固定部150に対して両側から支持している。接続部131a及び131b並びに接続部132a及び132bと固定部150との4つの接続箇所は、固定端である。
【0064】
駆動部140aは、軸Aに垂直な方向(Y軸に平行な方向)を長手方向とする短冊状の駆動素子141a及び141bを有している。駆動素子141aは、接続部131aの表面(反射面112が形成されている面)に形成され、駆動素子141bは接続部131bの表面に形成されている。駆動素子141a及び141bは、例えば軸Aに対して線対称となるように配置されている。
【0065】
同様に、駆動部140bは、軸Aに垂直な方向(Y軸に平行な方向)を長手方向とする短冊状の駆動素子142a及び142bを有している。駆動素子142aは接続部132aの表面に形成され、駆動素子142bは接続部132bの表面に形成されている。駆動素子142a及び142bは、例えば、軸Aに対して線対称となるように配置されている。
【0066】
駆動素子141a、141b、142a、及び142bは圧電素子である。固定部150は、例えばミラー部110を囲うように形成された矩形形状の支持体である。なお、固定部150は、ミラー部110を完全に囲うように形成される必要はなく、例えば、図6(a)における上下方向に開放部を設けることも可能である。
【0067】
電極接続部160は、例えば固定部150の+Z側の面上に形成されている。電極接続部160は、例えば駆動素子141a、141b、142a、及び142bの各上部電極及び各下部電極と、アルミニウム(Al)等の電極配を介して、電気的に接続されている。電極接続部160は、例えば光偏向器13の外部に配置される制御装置等と電気的に接続される。なお、上部電極及び/又は下部電極は、それぞれが電極接続部160と直接接続されていてもよいし、電極同士を接続する等により間接的に接続されていてもよい。なお、図6(a)及び図7では、配線108等を含む電極配線の図示は省略されている。
【0068】
また、ミラー部110を軸Aの周りに駆動可能であれば、各構成部の形状は実施形態の形状に限定されない。例えば、トーション梁120a及び120bや接続部131a及び131b並びに接続部132a及び132bが曲率を有した形状を有していてもよい。
【0069】
また、トーション梁120a及び120bを設けずに、ミラー部110を接続部131a及び131bと接続部132a及び132bとの間に直接接続する構造としてもよい。この第1の実施の形態の例では、ミラー部110とトーション梁120a及び120bが可動部となるが、トーション梁120a及び120bを設けない場合にはミラー部110のみが可動部となる。
【0070】
また、駆動部140a及び140bの上部電極の+Z側の面上、固定部150の+Z側の面上の少なくとも何れかに酸化シリコン層等からなる絶縁層が形成されていてもよい。
図6(a)ではミラー部110とトーション梁120a、120bを、軸Aに対して両側に配置されたいわゆる両持ちタイプの構造の光偏向器13を示したが、光偏向器13は、図6(b)に示すように、接続部131b及び132b、駆動素子141b及び142bを有さない、いわゆる片持ちタイプの構造であってもよい。
【0071】
このとき、絶縁層の上に電極配線を設け、また、上部電極又は下部電極と電極配線とが接続される接続スポットのみ、開口部として部分的に絶縁層を除去または絶縁層を形成しないことが好ましい。これにより、駆動部140a及び駆動部140b、並びに電極配線の設計自由度を向上し、更に電極同士の接触による短絡を抑制できる。また、酸化シリコン層102は、反射防止材としての機能を備えてもよい。
【0072】
このように、光偏向器13では、可動部であるミラー部110並びにトーション梁120a及び120bは、接続部131a及び131b並びに接続部132a及び132bを介して、固定部150に軸A周りに揺動可能に支持されている。そして、駆動部140a及び140bの有する駆動素子141a、141b、142a、及び142bの逆圧電効果を用いることにより、接続部131a及び131b並びに接続部132a及び132bを振動させ、接続部131a及び131b並びに接続部132a及び132bの振動をトーション梁120a及び120bのねじれに変換し、ミラー部110の振動を励起でき特る。すなわち、駆動部140a及び140bは、接続部131a及び131b並びに接続部132a及び132bを変形させることにより、可動部を揺動させることができる。
【0073】
具体的には、駆動素子141a、141b、142a、及び142bへ、Z方向へ電圧を印加すると、駆動素子141a、141b、142a、及び142bが面内方向で収縮する。これにより、シリコン活性層103とのバイモルフとして、軸Aを回転軸とする回転方向の変位をトーション梁120a及び120bへ付与できる。
【0074】
(ミラー部の構成及び機能)
次に、光偏向器13の可動部であるミラー部110の構成及び機能を説明する。まず、図8(a)に、比較例となる一般的なミラー部の断面図を示す。この図8(a)に示すように、ミラー部は、通常、SOIウェハ210の活性層211及び支持層213、BOX層212を積層して、重り部232を梁部233で支える構造体となっている。
【0075】
このような比較例のミラー部は、ミラー部材209を梁構造で支えるため、図8(b)に示すように、梁部233にたわみが発生する問題がある。また、ミラー部材209に対しては、反射率を向上させるために反射向上部材が設けられることもある。この反射向上部材としては、例えばAl(アルミニウム)、Au(金)又はAg(銀)等が用いられる。また、反射向上部材は、誘電多層膜による増反膜で形成されることもある。
【0076】
しかし、反射向上部材を形成する誘電多層膜は、総厚で1μmを超える膜厚となるため、支持層213のうち、反射向上部材とは活性層211をはさんで対向する位置に配置されるフレームであるリブ238だけでは、面変形を抑制することが困難となる。面変形が発生すると、図8(b)に示すように凸形状のミラーとなり、反射する光が発散する不都合を生ずる。また、フレーム領域を増やすとミラー部全体の重量が増すことで、光偏向器13の高速駆動及び広角駆動が困難となる恐れがある。
【0077】
このため、実施の形態の光走査システムのミラー部110の場合、図8(c)に示すように、反射向上部材222等による「応力の掛かる箇所」の裏面側に、厚膜のSiO層243を局所的に形成する。これにより、ミラー部110全体の面変形を抑制することができる。また、厚膜のSiO層243はフレーム領域に比べて、ミラー部110全体の重さに対する影響は小さく、フレーム領域を設ける場合に比べて軽量な部材でミラー部110全体の面変形を抑制することができる。このため、光偏向器13の高速駆動及び広角駆動も維持することができる。
【0078】
(ミラー部の形成プロセス)
図9は、ミラー部110に対する局所的なSiO層243を形成する形成プロセスの流れを示す図である。なお、この図9の例は、反射向上部材である誘電多層膜(増反膜)222に対する応力を制御するミラー部110の形成プロセスである。また、シリコンウェハの内部の絶縁体層上にはシリコン膜が形成された3層SOI構造の半導体デバイスの形成プロセスである。
【0079】
まず、図9(a)に示すように支持層213、BOX層216(絶縁体層の一例)及びSOI活性層215を積層してSOIウェハ210を形成する。SOI活性層215とBOX層216を合わせた厚さは、後の工程で形成される誘電多層膜222(応力対象部の一例)にかかる応力に対応する応力を発生するSiO層245の厚さと略同等とする。
【0080】
次に、図9(b)に示すように、SOIウェハ210の厚膜SiO層243を形成する箇所に溝パターン部234(溝部の一例)を、また、構造体形成において除去しておきたい箇所に段差パターン部235を、それぞれエッチング加工により形成する。エッチング手法としては、半導体プロセスにおけるフォトリソグラフィ及びICPエッチングによる異方性エッチング等を用いることができる。なお、段差パターン部235の形成は任意である。
【0081】
ここで、一例ではあるが、溝パターン部234に形成される溝パターンは、狭ピッチであることが望ましい。例えばSi幅としては、0.1um~0.5um程度であることが望ましい。また、一例として、Siと溝幅は「1:1.3」の比率に近いことが望ましい。この場合、溝パターン部234は、Line/Space=0.1um/0.13umで形成される。
【0082】
次に、所望の箇所に溝パターン部234及び段差パターン部235を形成したSOIウェハ210の表層に、図9(c)に示すように、SiO膜271、272を備えたSiウェハ270を貼り合わせる。この貼り合わせ手法としては、直接接合を用いることができる。また、熱拡散接合、プラズマ活性化接合又は常温活性化接合等の、他の貼り合わせ手法を用いてもよい。なお、接合方式によるSi貼り合わせ手法によっては、SiO膜(熱酸化膜)271、272を省略してもよい。
【0083】
次に、図9(d)に示すように、貼り合わせしたSiウェハ270を、所望の厚さまで研磨し、3層キャビティSOIを形成する。
【0084】
次に、3層キャビティSOIに対して、図9(e)に示すように、反射向上部材(増反膜)222を形成するためのパターン形成を行う。このパターン形成の手法としては、フォトリソグラフィ及びエッチングによる形成の他、レジストパターンによるリフトオフ等を用いることができる。なお、パターン形成は、溝パターン部234及び誘電多層膜222に対する位置合わせをされたうえで行われる。
【0085】
次に、図9(f)及び図9(g)に示すように、SOIウェハ210の裏面側からのエッチング工程によって構造体を形成する。この際、図9(f)に示すように、途中、BOX層216(SiO膜)によりエッチングストップが起こる。このため、図9(g)に示すように、溝パターン部が設けられた箇所と段差パターンが設けられた箇所の2箇所ののBOX層であるBOX層216及びSiO膜272を一括で除去する。
【0086】
最後に、図9(h)に示すように、誘電多層膜222の応力が掛かる箇所に相当する溝パターン部234(誘電多層膜222の裏側の溝パターン部234)を酸化処理する。これにより、SiがOと結合、すなわちSiが酸化されて、体積膨張(理論値2.3倍)して溝パターン部234がSiOで埋まる。換言すると、溝パターン部234で膨張したSiO層245の厚さは、絶縁体層であるSiO膜272よりも厚い。
【0087】
SiO層245の厚さは、SOI活性層215の厚さで設定できるため、誘電多層膜222の応力に応じてSiO層245の厚さを変更すればよく、応力制御が容易である。
【0088】
また、溝パターン部234以外の領域は、溝パターン部234のSiライン幅の50%程度の酸化しか行われないため、新たに形成されたSiO層245による応力影響は、受けにくい。
【0089】
また、図9(h)に示す酸化処理は、酸素雰囲気中での熱処理で行ってもよいし、過酸化水素水又はオゾン雰囲気への暴露による酸化処理等で行ってもよい。
【0090】
また、3層キャビティSOI構造を形成する最上層のシリコン層の厚さ(誘電多層膜222が載置されるシリコン層の厚さ)は、最下層の支持層213を形成するシリコン層よりも薄い。これにより、ミラー部110を動かし易くすることができる。
【0091】
図10は、誘電多層膜222、溝パターン部234及び段差パターン部235の位置関係を示す斜視図である。一例ではあるが、誘電多層膜222、溝パターン部234及び段差パターン部235は、全体形状が楕円形状を有している。溝パターン部234及び段差パターン部235は、誘電多層膜222の形状である楕円の中心と略同じ中心を持つような楕円形状となるよう交互に形成される。上述のように、溝パターン部234を酸化処理することで、SiO層245が形成されて溝パターン部234が埋まる。このSiO層245により、誘電多層膜222の応力に対応することができる。
【0092】
なお、このような効果を、SOIウェハのBOX層全体を厚くし、構造体の裏面側に梁部等を残すことで、誘電多層膜の応力に対応することは可能である。しかし、この場合、常に強い応力がウェハ全体に掛かることとなり、反りの影響等によるプロセス流動の阻害、又は、チップ化した際にチップ全体が反る等の不都合を生ずる。
【0093】
これに対し、実施の形態の上述の例の場合、必要な個所のみに、厚いSiO層234を形成しているため、ウェハ及びチップ全体で見たときの応力としては、従来のSOIウェハのBOX層から発生する応力のみと同等であるため、反りの影響等によるプロセス流動の阻害、又は、チップ化した際にチップ全体が反る等の不都合は生ずることはない。
【0094】
(ミラー部の変形例)
上述の実施の形態は、誘電多層膜222の応力で変形が生じないようにSiO層244を設ける例であった。これに対して、図11に示すように、構造体の表面側に所定の曲率半径の凹形状のミラー部260を形成し、このミラー部260を支持するように、構造体の裏面側に厚膜SiO層を設けてもよい。これにより、例えば集光レンズとしての機能をもたせることができる。
【0095】
(他のMEMSデバイスに対する適用例)
上述の実施の形態は、走査型ミラーデバイスである光偏向器13に対してSiO層243を設けた例であったが、他のMEMSデバイスに対してSiO層243を設けても、上述と同様の効果を得ることができる。
【0096】
例えば、図12は、加速度センサ又ジャイロセンサ等の変位検出系のMEMSデバイスにSiO層243を設けた例である。図12(a)に示す加速度センサ又はジャイロセンサ等の変位検出系のMEMSデバイスは、SOIウェハ210の活性層211及び支持層213、BOX膜212をそれぞれ積層して、重り部239を活性層211の一部である梁部233で支える構造体を形成する。圧電膜221が加速度又は慣性力により特定方向に変位した際の梁部のひずみ量等から、加速度又は角加速度等を検出する。
【0097】
前述のひずみ量については、強誘電体材料(PZT)又は非強誘電体材料(AlN)等の圧電膜221を梁部233の上面に形成しておき、梁部233の変位に伴う電荷の発生量からひずみを検出する方法の他、梁部211の一部にB(ボロン)又はP(リン)等を注入し、歪み抵抗を形成する方法がある。
【0098】
ここで、梁部233は、僅かな変位も圧電膜221を介して検出可能とするために、薄く又は細く形成する必要がある。このため、梁部233の上面に、圧電膜221又は歪み抵抗の保護膜等が形成されると、図12(b)に示すように、圧電膜221からの応力により、梁部233にたわみが発生する。
【0099】
加速度が掛かっていない定常状態で梁部233にたわみが生じていると、圧電膜221の出力にオフセットが生ずる他、構造バランスの崩れに伴う出力信号のリニアリティが損なわれ、望ましいことではない。
【0100】
このため、図12(c)に示すように、梁部233の圧電膜221と、活性層211に対して反対面側に、同等の応力を発生するようにSiO層(酸化膜)243を設ける。これにより、圧電膜221からの応力をSiO層(酸化膜)243で抑制することができ、梁部のたわみを防止することができる。
【0101】
また、図13は、メンブレン方式の圧力センサにSiO層243を設けた例である。この圧力センサは、図13(a)に示すように、メンブレン構造を形成し、その一面側を、封止パッケージ250を用いて真空封止する。これにより、空間251内を真空状態とすることができ、メンブレン236を介して気圧差が形成される。
【0102】
メンブレン236は、図13(b)に示すように、気圧差に応じて空間251側に変位する。この際、空間237側の圧力変動に応じて、この変位量が変化するため圧力センサとして機能する。
【0103】
しかし、メンブレン方式の圧力センサも、上述の加速度センサ等と同様に、メンブレン236のエッジ部に対して、常に圧力が掛かっていることで、定常状態でもメンブレン236が変位した状態となる場合がある。これにより、小さな圧力変化を正確に検出することが困難となり、検出精度の信頼性に欠ける問題があった。
【0104】
このようなことから、図13(c)に示すように、メンブレン236の空間237側に厚膜のSiO層243を設ける。これにより、定常状態におけるメンブレン236の状態を、変位が生じていない平坦な状態に維持できる。従って、小さな圧力変化を正確に検出可能とすることができ、検出精度の向上を図ることができる。
【0105】
(第1の実施の形態の効果)
以上の説明から明らかなように、第1の実施の形態の光走査システムは、走査型ミラーデバイスである光偏向器13を、3層キャビティSOIを用い、中間層には狭ギャップの溝パターン部234(図9参照)を局所的に形成する。溝パターン部234は、光偏向器13のうち、誘電多層膜(増反膜)222等の強い応力膜が形成される領域(応力が発生する領域)とは、Siウェハ270について、対向する位置に少なくとも一部が含まれるよう形成する。溝パターン部234を形成した後に、溝パターン部234の酸化処理を行う。
【0106】
これにより、狭ギャップの溝パターン部234は、Si(シリコン)がSiO化(二酸化ケイ素化)し、体積膨張によって広いSiO領域を形成する。そして、所望の箇所にのみ、厚膜のSiO層243を形成する。このため、厚膜のSiO層243の応力で、誘電多層膜(増反膜)222にかかる応力を抑制(キャンセル)することができる。従って、SOIウェハの表層に様々な膜が形成されることにより、局所的な応力によって構造体にひずみが発生する不都合を防止できる。
【0107】
また、SiO層の厚さは、3層SOIの中間層の厚さで調整できるため、応力値を自由に調整することができる。また、この厚膜SiO層形成部以外は標準的なBOX層でよいため、プロセス中の反りの影響又はチップ化した際のひずみの影響を回避することができる。
【0108】
[第2の実施の形態]
次に、第2の実施の形態の説明をする。この第2の実施の形態は、上述の光偏向器13を画像投影装置に適用した例である。図14は、画像投影装置の一例となるヘッドアップディスプレイ装置500が設けられた自動車400を示す図である。また、図15は、ヘッドアップディスプレイ装置500の構成を示すブロック図である。
【0109】
図14に示すように、ヘッドアップディスプレイ装置500は、例えば自動車400のウインドシールド(フロントガラス401等)の付近に設置される。ヘッドアップディスプレイ装置500から発せられる投射光Lがフロントガラス401で反射され、ユーザである観察者(運転者402)に向かう。
【0110】
これにより、運転者402は、ヘッドアップディスプレイ装置500によって投影された画像等を虚像として視認することができる。なお、ウインドシールドの内壁面にコンバイナを設置し、コンバイナによって反射する投射光によってユーザに虚像を視認させる構成にしてもよい。
【0111】
図15に示すように、ヘッドアップディスプレイ装置500は、赤色、緑色、青色のレーザ光源501R,501G,501Bからレーザ光が出射される。出射されたレーザ光は、各レーザ光源に対して設けられるコリメータレンズ502,503,504と、2つのダイクロイックミラー505,506と、光量調整部507と、から構成される入射光学系を経た後、反射面14を有する上述の光偏向器13にて偏向される。
【0112】
そして、偏向されたレーザ光は、自由曲面ミラー509と、中間スクリーン510と、投射ミラー511とから構成される投射光学系を経て、スクリーンに投影される。
【0113】
なお、上記ヘッドアップディスプレイ装置500では、レーザ光源501R,501G,501B、コリメータレンズ502,503,504、ダイクロイックミラー505,506は、光源ユニット530として光学ハウジングによってユニット化されている。
【0114】
上記ヘッドアップディスプレイ装置500は、中間スクリーン510に表示される中間像を自動車400のフロントガラス401に投射することで、その中間像を運転者402に虚像として視認させる。
【0115】
レーザ光源501R,501G,501Bから発せられる各色レーザ光は、それぞれ、コリメータレンズ502,503,504で略平行光とされ、2つのダイクロイックミラー505,506により合成される。合成されたレーザ光は、光量調整部507で光量が調整された後、反射面14を有する光偏向器13によって二次元走査される。光偏向器13で二次元走査された投射光Lは、自由曲面ミラー509で反射されて歪みを補正された後、中間スクリーン510に集光され、中間像を表示する。中間スクリーン510は、マイクロレンズが二次元配置されたマイクロレンズアレイで構成されており、中間スクリーン510に入射してくる投射光Lをマイクロレンズ単位で拡大する。
【0116】
光偏向器13は、反射面14を2軸方向に往復可動させ、反射面14に入射する投射光Lを二次元走査する。この光偏向器13の駆動制御は、レーザ光源501R,501G,501Bの発光タイミングに同期して行われる。
【0117】
以上、画像投影装置の一例としてのヘッドアップディスプレイ装置500の説明をしたが、画像投影装置は、反射面14を有した光偏向器13により光走査を行うことで画像を投影する装置であればよい。
【0118】
例えば、机等に置かれ、表示スクリーン上に画像を投影するプロジェクタや、観測者の頭部等に装着される装着部材に搭載され、装着部材が有する反射透過スクリーンに投影、または眼球をスクリーンとして画像を投影するヘッドマウントディスプレイ装置等にも、同様に適用することができる。
【0119】
また、画像投影装置は、車両や装着部材だけでなく、例えば、航空機、船舶、移動式ロボット等の移動体、あるいは、その場から移動せずにマニピュレータ等の駆動対象を操作する作業ロボットなどの非移動体に搭載されてもよい。
【0120】
このように本実施の形態に係る半導体デバイスを、画像投影装置に用いることにより、ある部材への局所的な応力によって生じる半導体デバイスのひずみに由来する種々の不都合が抑制された画像投影装置を実現することができる。
【0121】
[第3の実施の形態]
次に、第3の実施の形態の説明をする。この第3の実施の形態は、上述の光偏向器13を光書込装置に適用した例である。図16は、光書込装置600を組み込んだ画像形成装置の一例である。また、図17は、光書込装置の要部の構成を示す図である。
【0122】
図16に示すように、光書込装置600は、レーザ光によるプリンタ機能を有するレーザプリンタ650等に代表される画像形成装置の構成部材として使用される。画像形成装置において光書込装置600は、1本または複数本のレーザビームで被走査面15である感光体ドラムを光走査することにより、感光体ドラムに光書込を行う。
【0123】
図17に示すように、光書込装置600において、レーザ素子などの光源装置12からのレーザ光は、コリメータレンズなどの結像光学系601を経た後、反射面14を有する光偏向器13により1軸方向または2軸方向に偏向される。
【0124】
そして、光偏向器13で偏向されたレーザ光は、その後、第一レンズ602aと第二レンズ602b、反射ミラー部602cからなる走査光学系602を経て、被走査面15(例えば感光体ドラムや感光紙)に照射し、光書込みを行う。走査光学系602は、被走査面15にスポット状に光ビームを結像する。
【0125】
また、光源装置12及び反射面14を有する光偏向器13は、制御装置11の制御に基づき駆動する。
【0126】
このように上記光書込装置600は、レーザ光によるプリンタ機能を有する画像形成装置の構成部材として使用することができる。
【0127】
また、走査光学系を異ならせて1軸方向だけでなく2軸方向に光走査可能にすることで、レーザ光をサーマルメディアに偏向して光走査し、加熱することで印字するレーザラベル装置等の画像形成装置の構成部材として使用することができる。
【0128】
上記光書込装置に適用される反射面14を有した光偏向器13は、ポリゴンミラー等を用いた回転多面鏡に比べ駆動のための消費電力が小さいため、光書込装置の省電力化に有利である。
【0129】
また、光偏向器13の振動時における風切り音は回転多面鏡に比べ小さいため、光書込装置の静粛性の改善に有利である。光書込装置は回転多面鏡に比べ設置スペースが圧倒的に少なくて済み、また光偏向器13の発熱量もわずかであるため、小型化が容易であり、よって光書込装置の小型化に有利である。
【0130】
このように本実施の形態に係る半導体デバイスを、光書込装置に用いることにより、ある部材への局所的な応力によって生じる半導体デバイスのひずみに由来する種々の不都合が抑制された光書込装置を実現することができる。
【0131】
[第4の実施の形態]
次に、第4の実施の形態を説明する。この第4の実施の形態は、上述の光偏向器13を物体認識装置の一例であるレーザレーダ装置に設けた例である。図18は、レーザレーダ装置700が設けられた自動車701を示す図である。この図18において、レーザレーダ装置700は、対象方向を光走査して、対象方向に存在する被対象物702からの反射光を受光することで、被対象物702を認識する。
【0132】
図19は、レーザレーダ装置700の要部のブロック図である。この図19に示すように、光源装置12から出射されたレーザ光は、発散光を略平行光とする光学系であるコリメータレンズ703と、平面ミラー704とから構成される入射光学系を経て、反射面14を有する光偏向器13で1軸もしくは2軸方向に走査される。
【0133】
そして、投光光学系である投光レンズ705等を経て装置前方の被対象物702に照射される。光源装置12及び光偏向器13は、制御装置11により駆動を制御される。被対象物702で反射された反射光は、光検出器709により光検出される。
【0134】
すなわち、反射光は受光光学系である集光レンズ706等を経て撮像素子707により受光され、撮像素子707は検出信号を信号処理回路708に出力する。信号処理回路708は、入力された検出信号に2値化やノイズ処理等の所定の処理を行い、結果を測距回路710に出力する。
【0135】
測距回路710は、光源装置12がレーザ光を発光したタイミングと、光検出器709でレーザ光を受光したタイミングとの時間差、または受光した撮像素子707の画素ごとの位相差によって、被対象物702の有無を認識し、さらに被対象物702との距離情報を算出する。
【0136】
反射面14を有する光偏向器13は多面鏡に比べて破損しづらく、小型であるため、耐久性の高い小型のレーダ装置を提供することができる。
【0137】
このようなレーザレーダ装置は、例えば車両、航空機、船舶、ロボット等に取り付けら
れ、所定範囲を光走査して障害物の有無や障害物までの距離を認識することができる。
【0138】
上記物体認識装置では、一例としてのレーザレーダ装置700の説明をしたが、物体認識装置は、反射面14を有した光偏向器13を制御装置11で制御することにより光走査を行い、光検出器により反射光を受光することで被対象物702を認識する装置であればよく、上述した実施形態に限定されるものではない。
【0139】
例えば、手や顔を光走査して得た距離情報から形状等の物体情報を算出し、記録と参照することで対象物を認識する生体認証や、対象範囲への光走査により侵入物を認識するセキュリティセンサ、光走査により得た距離情報から形状等の物体情報を算出して認識し、3次元データとして出力する3次元スキャナの構成部材などにも同様に適用することができる。
【0140】
このように本実施の形態に係る半導体デバイスを、物体認識装置に用いることにより、ある部材への局所的な応力によって生じる半導体デバイスのひずみに由来する種々の不都合が抑制された物体認識装置を実現することができる。
【0141】
最後に、上述の各実施の形態は、一例として提示したものであり、本発明の範囲を限定することは意図していない。この新規な各実施の形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことも可能である。また、各実施の形態及び各実施の形態の変形は、発明の範囲や要旨に含まれると共に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【符号の説明】
【0142】
10 光走査システム
11 制御装置
12 光源装置
13 光偏光器
14 反射面
15 被走査面
110 ミラー部
210 SOIウェハ
213 支持層
214 SiO
215 SOI活性層
216 BOX層
234 溝パターン部
271 SiO
272 SiO
222 誘電多層膜(反射向上部材)
243 SiO
【先行技術文献】
【特許文献】
【0143】
【文献】特開2017-074625号公報
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
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図11
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図19