IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 住友金属鉱山株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-有価金属回収方法 図1
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-04
(45)【発行日】2024-03-12
(54)【発明の名称】有価金属回収方法
(51)【国際特許分類】
   C22B 7/00 20060101AFI20240305BHJP
   C22B 1/02 20060101ALI20240305BHJP
   C22B 23/02 20060101ALI20240305BHJP
   C22B 15/00 20060101ALI20240305BHJP
   B09B 3/40 20220101ALI20240305BHJP
   B09B 5/00 20060101ALI20240305BHJP
   B09B 3/70 20220101ALI20240305BHJP
   H01M 10/54 20060101ALI20240305BHJP
【FI】
C22B7/00 C
C22B1/02
C22B23/02
C22B15/00
B09B3/40
B09B5/00 A
B09B3/70
H01M10/54
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2020066925
(22)【出願日】2020-04-02
(65)【公開番号】P2021161525
(43)【公開日】2021-10-11
【審査請求日】2022-11-11
(73)【特許権者】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(72)【発明者】
【氏名】井関 隆士
【審査官】岡田 隆介
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-170480(JP,A)
【文献】特開2008-043854(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2014/0290438(US,A1)
【文献】特開平11-351756(JP,A)
【文献】特開2002-035698(JP,A)
【文献】特開2019-135321(JP,A)
【文献】特開平10-074539(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22B 1/00-61/00
B09B 1/00- 5/00
H01M 10/54
H01M 6/52
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
廃電池から有価金属を回収する有価金属回収方法であって、
廃電池を焙焼して焙焼物を得る焙焼工程と、
前記焙焼物を破砕して破砕物を得る破砕工程と、
前記破砕物を篩上物と篩下物とに篩別けする篩別工程と、
前記篩別工程で得られた篩上物に向けてガスを噴射するガス噴射工程と、
を有し、
前記ガス噴射工程で得られた粉状篩上物を、前記篩別工程で得られた篩下物とともに回収し、
前記破砕工程で得られた破砕物を磁選処理することで磁着物を分離して、該破砕物を前記篩別工程に供し、
回収した前記篩下物と前記粉状篩上物とを酸化焙焼して酸化焙焼物を得る酸化焙焼工程と、
前記酸化焙焼物を還元熔融して、スラグと、有価金属を含有する合金とを得る還元熔融工程と、をさらに有する
有価金属回収方法。
【請求項2】
前記ガス噴射工程では、前記篩別工程で得られた篩上物に向けて不活性ガスを噴射する
請求項1に記載の有価金属回収方法。
【請求項3】
前記ガス噴射工程におけるガスの噴射量は、前記篩上物1.0kgに対して、2.0L/(分・kg)以上100L/(分・kg)以下である
請求項1又は2に記載の有価金属回収方法。
【請求項4】
前記廃電池に含まれる有価金属は、コバルト、ニッケル、および銅から選択される少なくとも1種を含む
請求項1からのいずれかに記載の有価金属回収方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、廃電池に含まれる有価金属の回収方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、軽量で大出力が得られる二次電池としてリチウムイオン電池が普及している。リチウムイオン電池の基本構造として、アルミニウムや鉄等の金属製の外装缶の内側に、銅箔で作られた負極集電体とアルミニウム箔で作られた正極集電体とがある。
【0003】
負極集電体の表面には黒鉛等の負極活物質が固着され、負極材を構成する。また、正極集電体の表面にはニッケル酸リチウムやコバルト酸リチウム等の正極活物質が固着され、正極材を構成する。負極材と正極材は、ポリプロピレンの多孔質樹脂フィルム等からなるセパレータを介して上述した外装缶の中に装入され、その隙間には六フッ化リン酸リチウム(LiPF)等の電解質を含む電解液等が封入される。
【0004】
リチウムイオン電池は、現在ではハイブリッド自動車や電気自動車等の車載用電池としての利用が進んでいる。しかしながら、自動車に搭載されたリチウムイオン電池は、使用を重ねるにつれて次第に劣化し、最後は寿命が来て廃棄される。
【0005】
自動車の動力がガソリンから電気へと変化する中で、自動車用途に用いられる電池が増加することは、同時に廃棄される電池も増加していくことになる。
【0006】
このような廃棄されたリチウムイオン電池や、リチウムイオン電池の製造中に生じた不良品等(以下、まとめて「廃電池」と称する)を資源として再利用する試みと具体的提案は、従来から多く行われている。そして、その多くは、廃リチウムイオン電池を高温の炉に投入して全量を熔解する乾式製錬プロセスが主流のものとなっている。
【0007】
ここで、リチウムイオン電池の廃電池には、ニッケル、コバルト、銅等の商業的に再利用の価値のある元素(以下、これらを「有価金属」と称する)のほかに、炭素、アルミニウム、フッ素、リン等の商業的に回収対象とならない元素(以下、まとめて「不純物」と称する)が含まれている。廃電池から有価金属を回収する場合、上述する不純物を有価金属と効率よく分離する必要がある。
【0008】
なお、ニッケル水素電池の廃電池にも、ニッケル、コバルトなどの有価金属と回収対象とならない不純物が含まれているため同様に処理対象となる。
【0009】
このため、例えば、廃電池を焙焼してフッ素やリン等を除去する無害化処理を行ったのち(焙焼工程)、破砕や粉砕を行い(破砕工程)、その後篩機や磁選機を用いて分別して、その分別物から上述の乾式製錬プロセス(以下、単に「乾式処理」とも称する)や、酸や有機溶媒等の液体を用いて分離する湿式製錬プロセス(以下、単に「湿式処理」とも称する)を用いて、有価金属を回収する方法が行われている。
【0010】
乾式処理による廃電池からの有価金属であるコバルトの回収方法として、例えば特許文献1では、廃リチウムイオン電池を熔融炉へ投入し、酸素を吹き込んで酸化するプロセスが提案されている。
【0011】
また、特許文献2では、廃リチウムイオン電池を熔融し、スラグを分離して有価物を回収した後、石灰系の溶剤(フラックス)を添加してリンを除去するプロセスが提案されている。
【0012】
さらに、特許文献3では、複数の単電池を直列接続してなる組電池と、組電池を制御する制御部とを含み、樹脂製部品を有する電池パックをリサイクルする方法として、充電状態の組電池を収容した電池パックをそのまま焙焼する工程と、電池パックの焙焼時に発生した未燃焼分の熱分解ガスを完全燃焼させる完全燃焼工程と、を有し、焙焼する工程における焙焼温度を、樹脂製部品を形成する樹脂の炭化温度以上で且つ電池パックの金属部品の融点以下とし、非酸化性雰囲気下又は還元雰囲気下で電池パック内の組電池を焙焼するリサイクル方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【文献】特開2013-091826号公報
【文献】特表2013-506048号公報
【文献】特開2010-3512号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
さて、廃電池から有価金属を回収する回収方法において、焙焼工程、破砕工程を経ることで得られる破砕物には、正極活物質に由来するような有価金属を多く含む粉状物と、廃電池の缶体やネジ等に由来する不純物を多く含む塊状物と、を含む混合物である。そこで、得られる破砕物を篩別けすることで塊状物を分離し、篩下物として得られる粉状物を乾式処理の処理対象として、有価金属を回収することが行われる。
【0015】
しかしながら、篩上物として得られる塊状物には有価金属を含む粉状物が付着しており、篩上物を廃棄物として処理すると有価金属の回収ロスとなる。このような塊状物に付着した粉状物についても乾式処理の対象物として回収することが収率向上の観点からは好ましい。
【0016】
本発明は、このような実情に鑑みて提案されたものであり、廃電池に含まれる有価金属を回収するに際して、効果的に有価金属を回収する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明者は、上述した課題を解決するために鋭意検討を重ねた。その結果、廃電池を焙焼して得られる焙焼物を所定の大きさに破砕したのち、その破砕物を篩別けした篩上物に対してガスを噴射し得られる粉状篩上物を回収することで上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0018】
(1)本発明の第1は、廃電池から有価金属を回収する有価金属回収方法であって、廃電池を焙焼して焙焼物を得る焙焼工程と、前記焙焼物を破砕して破砕物を得る破砕工程と、前記破砕物を篩上物と篩下物とに篩別けする篩別工程と、前記篩別工程で得られた篩上物に向けてガスを噴射するガス噴射工程と、を有し、前記ガス噴射工程で得られる粉状篩上物を前記篩別工程で得られた篩下物をとともに回収する有価金属回収方法である。
【0019】
(2)本発明の第2は、前記破砕工程で得られた破砕物を磁選処理することで磁着物を分離して、該破砕物を前記篩別工程に供する有価金属回収方法である。
【0020】
(3)本発明の第3は、第1又は第2の発明において、回収した前記篩下物と前記粉状篩上物とを酸化焙焼して酸化焙焼物を得る酸化焙焼工程と、前記酸化焙焼物を還元熔融して、スラグと、有価金属を含有する合金とを得る還元熔融工程と、をさらに有する有価金属回収方法である。
【0021】
(4)本発明の第4は、第1から第3のいずれかの発明において、前記ガス噴射工程では、篩別工程で得られた篩上物に向けて不活性ガスを噴射する有価金属回収方法である。
【0022】
(5)本発明の第5は、第1から第4のいずれかの発明において、前記ガス噴射工程におけるガスの噴射量は、前記篩上物1.0kgに対して、2.0L/(分・kg)以上100L/(分・kg)以下である有価金属回収方法である。
【0023】
(6)本発明の第6は、第1から第5のいずれかの発明において、前記廃電池に含まれる有価金属は、コバルト、ニッケル、および銅から選択される少なくとも1種を含む有価金属回収方法である。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、廃電池に含まれる有価金属を回収する方法に際して、効果的に有価金属を回収する方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】有価金属回収方法の流れの一例を示す工程図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明の具体的な実施形態(以下、「本実施の形態」という)について詳細に説明する。なお、本発明は、以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を変更しない範囲において種々の変更が可能である。
【0027】
≪1.有価金属の回収方法の概要≫
本実施の形態に係る有価金属回収方法は、廃電池から有価金属を回収する方法である。一般的に、廃電池から有価金属を回収するにあたっては、乾式処理に加えて湿式処理を行う場合があるが、本実施の形態に係る有価金属回収方法は、主として乾式処理に関わる。
【0028】
具体的に、この有価金属回収方法は、無害化のために廃電池を焙焼して得られる焙焼物を所定の大きさに破砕したのち、その破砕物を篩別した篩上物に対してガスを吹き付けて粉状篩上物を篩別工程で得られた篩下物をとともに回収することを特徴とするものである。
【0029】
このような方法によれば、篩上物から有価金属を含む粉状篩上物を分離することにより廃電池から効果的に有価金属を回収することができる。また、従来技術のように、脱水や乾燥といった別途の処理や、多大な装置やメンテナンス等も不要であるため、安価な処理によって有価金属を回収することができる。
【0030】
ここで、廃電池とは、上述したように、使用済みのリチウムイオン電池やニッケル水素電池等の二次電池や、二次電池を構成する正極材等の製造工程で生じた不良品、製造工程内部の残留物、発生屑等の電池の製造工程内における廃材を含む概念である。このような廃電池には、上述のように、ニッケル、コバルト、銅等の、回収して再利用する経済的価値のある有価金属が含まれている。
【0031】
≪2.有価金属回収方法の各工程について≫
図1は、本実施の形態に係る有価金属回収方法の流れの一例を示す工程図である。この有価金属回収方法は、廃電池を焙焼して焙焼物を得る焙焼工程S1と、焙焼物を破砕して破砕物を得る破砕工程S2と、破砕物を磁選することで磁着物を分離する磁選工程S3と、破砕物を篩上物と篩下物とに篩別けする篩別工程S4と、得られた篩上物に向けてガスを噴射するガス噴射工程S5と、を有する。ここで、ニッケルやコバルト等の有価金属は、正極活物質に含まれる金属で、粉末状で回収されることになるため篩下物に多く分配される。
【0032】
また、ガス噴射工程S5で得られた粉状篩上物を篩別工程S4で得られた篩下物とともに回収して、酸化焙焼する酸化焙焼工程S6と、酸化焙焼物を還元熔融することにより、スラグと、有価金属を含有する合金(メタル)とを得る還元熔融工程S7と、をさらに有する。
【0033】
なお、このような一連の乾式処理を経て得られる有価金属の合金を、中和処理や溶媒抽出処理、電解採取等の湿式処理に付すことによって、その合金中に残留する不純物成分を除去して有価金属をさらに精製し、高付加価値なメタルとして回収できる。
【0034】
[焙焼工程]
焙焼工程S1では、廃電池に含有される電解液成分であるフッ素成分等を取り除いて無害化し、また、次工程での破砕を容易とすることを主な目的とする。
【0035】
焙焼処理における条件は、特に限定されないが、確実に無害化するとともに、廃電池を脆くして次工程での破砕を容易にする観点から、焙焼温度としては700℃以上に加熱して行うことが好ましい。なお、焙焼温度の上限としては、特に限定されないが、1200℃以下とすることが好ましい。焙焼温度が高すぎると、主に廃電池の外部シェルに用いられている鉄等の一部がキルン等の焙焼炉本体の内壁等に付着してしまい、円滑な操業の妨げになったり、あるいはキルン自体の劣化につながる場合があり好ましくない。
【0036】
また、焙焼処理に供する廃電池を炉内に積み重ねすぎると、内部まで十分に焙焼できず焼きムラができてしまう。そのため、均一に焙焼できるようにする観点から、処理量や焙焼炉の加熱能力等を選定することが好ましい。例えば、予め予備試験を行って、最適温度や焙焼時間を決定することが好ましい。
【0037】
焙焼時の加熱方式は、特に限定されず、電気式であってよく、石油やガス等の燃料を使用するバーナー式であってよい。特に、バーナー式の加熱は低コストであり好ましい。
【0038】
[破砕工程]
破砕工程S2では、焙焼工程S1にて廃電池を焙焼して得られた焙焼物を、破砕し、細かく分離する。
【0039】
破砕処理において使用する破砕装置は、特に限定されず、例えばロッドミル、ジョークラッシャー、二軸混錬機、チェーンミル等を用いることができる。その中でもチェーンミルは廃電池を効率よく破砕できるため好ましい。なお、廃電池には様々な種類や形状が存在するため、目的に合わせて適切な破砕機を選定すればよい。
【0040】
[磁選工程]
磁選工程S3では、破砕工程S2得られた破砕物に対して、磁選処理することで磁着物を分離する。なお、本実施の形態に係る有価金属の回収方法において、磁選工程S3を含むことは必須の態様ではない。
【0041】
廃電池の破砕物に鉄などの磁着物が含まれると、乾式処理の際にスラグの融点や粘性等に大きく影響するため、スラグ設計が複雑になり操業管理も難しくなることから、特に、鉄などの磁着物を多く含む廃電池から有価金属を回収する場合には、磁選工程を有することが好ましい。
【0042】
磁選処理において使用する磁選機は特に限定されないが、例えば吊下げ磁選機を用いることができる。
【0043】
[篩別工程]
篩別工程S4では、得られた破砕物を、所定の目開きの篩を用いて篩上物と篩下物とに篩別けする。
【0044】
篩別処理については、特に限定されず、市販の篩機を用いて行うことができる。また、篩の目開き(スクリーンの目開き)等は、篩上物と篩下物との篩別けの条件に基づいて適宜設定することができる。
【0045】
篩の目開きは破砕する廃電池の種類や形状に合わせて決めればよい。目開きが大きすぎると篩下に有価金属とともに非有価金属が多く回収されてしまうため好ましくない。また目開きが小さすぎると篩上に多く有価金属が含まれてしまい好ましくない。一般的には目開きが5mm以下であると有価金属を効率的に回収できて好ましい。
【0046】
このように回収された篩下物(粉末)は、次工程で得られる粉状篩上物とともに酸化焙焼工程S6と還元熔融工程S7で処理して有価金属のメタルを回収できる。さらにはその後、公知の湿式処理を行うことにより純度の高い有価金属を回収できる。
【0047】
なお、必須の態様ではないが次工程に供するに際して、篩別工程S4で得られた篩上物を磁選処理する工程(第2の磁選工程)に供してもよい。廃電池の破砕物に含まれる鉄などの磁着物は、篩下物には含まれることはなく、あっても無視できる量であるので、上述した破砕工程S2で得られた破砕物を第1の磁選工程S3に供する代わりに篩別工程S4で得られた篩上物を第2の磁選工程に供してもよい。また、破砕工程S2で得られた破砕物を磁選工程(第1の磁選工程)S3に供するとともに篩別工程S4で得られた篩上物をさらに磁選処理する工程(第2の磁選工程)に供してもよい。
【0048】
[ガス噴射工程]
ガス噴射工程S5では、篩別工程S4で得られた篩上物に向けてガスを噴射することにより、篩上物に付着した粉状物(粉状篩上物)を得る。特に廃電池の場合、有価金属を多く含む正極活物質は破砕によって粉状化し、篩下に分配されるが、実際には塊状物に付着して篩上に分配されることも多く、このことが有価金属の回収ロスの原因となる。
【0049】
この点、本実施の形態に係る方法によれば、篩別工程で得られた篩上物にガスを吹き付けることを特徴としており、これにより、篩上物に付着した粉状物(粉状篩上物)を回収して乾式処理の処理対象とすることで有価金属の回収ロスを有効に抑えることができる。
【0050】
篩上物に吹き付けるガスは、窒素やアルゴン等の不活性ガスを用いることができる。また、篩上物の発熱や粉塵爆発等の危険のない場合には、空気を用いることもできる。また、ガスの吹き付けにあたっては、市販のガス吹き付け装置を用いることができる。
【0051】
また、ガスの流量としては、特に限定されないが、篩上物1.0kgあたり2.0L/(分・kg)以上100L/(分・kg)以下とすることが好ましい。2.0L/(分・kg)以上とすることで、篩上物として得られる塊状物から有価金属を多く回収できる。100L/(分・kg)以下とすることで、粉状篩上物のロスを軽減することができる。
【0052】
また、篩上物へのガスの吹き付けは、単一のガス吹込み口から行ってもよいが、2箇所以上のガス吹込み口を設けて、複数箇所からガスを吹き付けることが好ましい。このように、2箇所以上のガス吹込み口を介してガスを吹き付けることで、篩上物に対してムラなく吹き付けることができ、塊状物からの粉状の有価金属の分離をより効率的に進行させることができる。
【0053】
ここで、ガス吹き付けを行うためのガス吹き付け装置は、密閉された空間内に載置して、篩上物が周囲に飛散しない構造を構成していることが好ましい。このように密閉状態で篩上物に対してガスを吹き付け、そして篩別することで、有価金属の分離効率を向上させることができ、また、粉末の飛散も効果的に防ぐことができ、安全面や回収率の観点からも好ましい。
【0054】
[酸化焙焼工程]
酸化焙焼工程S6では、ガス噴射工程S5で得られた粉状篩上物を篩別工程S4で得られた篩下物とともに酸化雰囲気下で焙焼する。このように、廃棄物として処理される粉状篩上物を回収して酸化焙焼工程S6に供することで有価金属の回収ロスを軽減することができる。
【0055】
そして、酸化焙焼工程S6での焙焼処理により、篩下物や粉状篩上物に含まれる炭素成分(カーボン)を酸化して除去することができる。具体的に、得られる酸化焙焼物中の炭素の含有量をほぼ0質量%とする。
【0056】
このように、酸化雰囲気下での焙焼により炭素を除去することができ、その結果、次工程の還元熔融工程S7において局所的に発生する還元有価金属の熔融微粒子が、炭素による物理的な障害なく凝集することが可能となり、一体化した合金として回収できる。また、還元熔融工程S7において電池の内容物に含まれるリンが炭素により還元されることを抑制し、有効にリンを酸化除去して、有価金属の合金中に分配されることを抑制できる。
【0057】
酸化焙焼工程S6では、例えば600℃以上の温度(酸化焙焼温度)で酸化焙焼する。焙焼温度を600℃以上とすることで、電池に含まれる炭素を有効に酸化して除去できる。また、好ましくは700℃以上とすることで、処理時間を短縮させることもできる。また、酸化焙焼温度の上限値としては900℃以下とすることが好ましく、これにより熱エネルギーコストを抑制することができ、処理効率を高めることができる。
【0058】
酸化焙焼の処理は、公知の焙焼炉を使用して行うことができる。また、次工程の還元熔融工程S7における熔融処理で使用する熔融炉とは異なる炉(予備炉)を設け、その予備炉内において行うことが好ましい。焙焼炉としては、酸素を供給しながら破砕物を加熱することによりその内部で酸化処理(焙焼)を行うことが可能な、あらゆる形式のキルンを用いることができる。一例として、公知のロータリーキルン、トンネルキルン(ハースファーネス)等を好適に用いることができる。
【0059】
また、酸化焙焼の処理においては、酸化度を調整するにあたり、炉内に酸化剤を導入してもよい。酸化剤としては、特に限定されないが、取り扱いが容易な点から、空気、純酸素、酸素富化気体等の酸素を含む気体を用いることが好ましい。なお、酸化剤の導入量としては、例えば、酸化処理の対象となる各物質の酸化に必要な化学当量の1.2倍程度とすることができる。
【0060】
[還元熔融工程]
還元熔融工程S7では、酸化焙焼工程S6での焙焼処理により得られた酸化焙焼物を還元熔融することにより、不純物を含むスラグと、有価金属を含有する合金(メタル)とを得る。還元熔融工程S7では、酸化焙焼処理にて酸化させて得られた、不純物元素の酸化物はそのままで、その酸化焙焼処理で酸化してしまった有価金属の酸化物については還元及び熔融させることにより、不純物と分離して還元物を一体化した合金を得ることができる。なお、熔融物として得られる合金を「熔融合金」ともいう。
【0061】
還元熔融工程S7では、例えば炭素の存在下で処理を行うことができる。炭素としては、回収対象である有価金属のニッケル、コバルト等を容易に還元する能力がある還元剤であって、例えば、炭素1モルでニッケル酸化物等の有価金属の酸化物2モルを還元できる黒鉛等が挙げられる。また、炭素1モルあたり2~4モルを還元できる炭化水素等を炭素の供給源として用いることもできる。このように、還元剤としての炭素の存在下で還元熔融することで、有価金属を効率的に還元して、有価金属を含む合金を効果的に得ることができる。
【0062】
炭素としては、人工黒鉛や天然黒鉛のほか、製品や後工程で不純物が許容できる程度であれば、石炭やコークス等を使用することもできる。また、還元熔融処理に際しては、炭素の存在量を適度に調節することが望ましい。具体的に、好ましくは、処理対象の酸化焙焼物100質量%に対して7.5質量%を超え10質量%以下となる割合、より好ましくは、8.0質量%以上9.0質量%以下となる割合の量の炭素の存在下で熔融する。
【0063】
還元熔融処理における温度条件(熔融温度)としては、特に限定されないが、1320℃以上1600℃以下の範囲とすることが好ましく、1450℃以上1550℃以下の範囲とすることがより好ましい。また、還元熔融処理においては、酸化物系フラックスを添加して用いてもよい。なお、還元熔融処理においては、粉塵や排ガス等が発生することがあるが、従来公知の排ガス処理を施すことによって無害化することができる。
【実施例
【0064】
以下、実施例及び比較例を用いて、本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に何ら限定されるものではない。
[実施例、比較例]
(焙焼工程)
廃電池として、外形が角形をした車載用のリチウムイオン電池の使用済み品を用意した。この廃電池を大気雰囲気下で920℃の温度で6時間かけて焙焼した。
【0065】
(破砕工程)
焙焼して得られた焙焼物に対してチェーンミルを用いた破砕機により12kg/バッチとして25秒間の破砕処理を施して破砕物を得た。
【0066】
(磁選工程)
破砕して得られた破砕物に対して吊下げ磁選機を用いた磁選機により各試料を5.0kg/分となる供給速度で磁選機に供給して非磁着物を得た。
【0067】
(篩別工程)
次に上記の磁選工程で得られた非磁着物(破砕物)を篩別工程に供した。篩別には連続式の振動篩を用いた。篩の目開きは3.0mmとし、試料(非磁着物)の供給速度は3.0kg/分とした。これにより、破砕物を篩上物と篩下物とに篩別けした。
【0068】
(ガス噴射工程)
篩別工程で得られた篩上物に向けてガスを噴射することにより、篩上物に含まれる粉状篩上物を得た。具体的には、篩別工程で得られた篩上物を1バッチ(1実施例)あたり10kg供給し、窒素ガス(不活性ガス)を吹き付けた。なお、篩上物の供給速度は10.0kg/分として、ガス供給流量は、下記表1に示す通りとした。
【0069】
以上のようにして、得られた粉状篩上物を回収し、それぞれを市販のICP発光分光分析器を用いて有価金属成分(銅、ニッケル、コバルト)の含有量を分析し、回収された有価金属の合計物量や回収された不純物(銅、ニッケル、コバルト以外の成分)の合計量を算出した。測定結果を表1に示す。
【0070】
【表1】
【0071】
篩上物10kgから数10g~数100gの有価金属を含む粉状篩上物が得られた。よって、この粉状篩上物を回収して篩下物とともに酸化焙焼工程に供することにより、有価金属の回収ロスを有効に抑えて、廃電池から効果的に有価金属を回収することができることが分かる。
図1