(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-04
(45)【発行日】2024-03-12
(54)【発明の名称】積層ポリエステルフィルム
(51)【国際特許分類】
B32B 27/36 20060101AFI20240305BHJP
C08J 7/044 20200101ALI20240305BHJP
B32B 7/025 20190101ALI20240305BHJP
B32B 27/18 20060101ALI20240305BHJP
【FI】
B32B27/36
C08J7/044 CFD
B32B7/025
B32B27/18 D
(21)【出願番号】P 2020075572
(22)【出願日】2020-04-21
【審査請求日】2023-01-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100207756
【氏名又は名称】田口 昌浩
(74)【代理人】
【識別番号】100129746
【氏名又は名称】虎山 滋郎
(72)【発明者】
【氏名】林崎 恵一
【審査官】大村 博一
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-000924(JP,A)
【文献】特開2016-060850(JP,A)
【文献】特開2012-091399(JP,A)
【文献】特開2008-179809(JP,A)
【文献】国際公開第2013/073259(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00-43/00
C08J 7/04- 7/06
C09D 1/00-10/00
C09D 101/00-201/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリエステルフィルムの少なくとも片面に帯電防止層を有し、該帯電防止層が下記の化合物(A)および(B)を含有
し、表面抵抗率が2×10
6
Ω以上である、積層ポリエステルフィルム。
(A)カーボンナノチューブ
(B)炭素数4以上の糖アルコール
【請求項2】
前記帯電防止層がさらに、下記の化合物(C)を含有する請求項1に記載の積層ポリエステルフィルム。
(C)ウレタン樹脂、ポリエステル、およびアクリル樹脂からなる群から選ばれる1種以上の樹脂。
【請求項3】
前記帯電防止層が少なくとも一方向に延伸されている請求項1または2に記載の積層ポリエステルフィルム。
【請求項4】
帯電防止層を設けていないポリエステルフィルムと比較した際のヘーズの増加率が1.0%以下である請求項1~3のいずれか1項に記載の積層ポリエステルフィルム。
【請求項5】
全光線透過率が85%以上である請求項1~4のいずれか1項に記載の積層ポリエステルフィルム。
【請求項6】
前記糖アルコールの炭素数が4~6である請求項1~5のいずれか1項に記載の積層ポリエステルフィルム。
【請求項7】
前記糖アルコールの炭素数と水酸基数が同数である請求項1~6のいずれか1項に記載の積層ポリエステルフィルム。
【請求項8】
前記(A)カーボンナノチューブの含有量が全固形分量に対して3質量%以下である、請求項1~7のいずれか1項に記載の積層ポリエステルフィルム。
【請求項9】
前記化合物(C)の含有量が全固形分量に対して2質量%以上である、請求項2~8のいずれか1項に記載の積層ポリエステルフィルム。
【請求項10】
前記帯電防止層がさらに界面活性剤を含有する、請求項1~9のいずれか1項に記載の積層ポリエステルフィルム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、積層ポリエステルフィルムに関するものであり、さらに詳しくは、帯電防止フィルムとして有用な積層ポリエステルフィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
ポリエチレンテレフタレートあるいはポリエチレンナフタレートに代表されるポリエステルフィルムは、機械的強度、寸法安定性、平坦性、耐熱性、耐薬品性、光学特性等に優れ、コストパフォーマンスにも優れるため、各種の用途において基材として使用されているが、ポリエステルフィルムは摩擦、粘着層剥離等の際に帯電しやすく、異物や塵埃の付着、静電気放電障害等の問題が発生する。
【0003】
そのため帯電を防止する対策が行われており、表面に導電性物質を塗布する方法などがある。ポリエステルフィルムに塗布される導電性物質としては、四級アンモニウム基に代表されるカチオン性の基を含むカチオン系の物、スルホネート基やホスホネート基に代表されるアニオン性の基を含むアニオン系の物が主に用いられる。これらはイオン導電性であり、帯電防止能が周囲の湿気や水分の影響を受けやすい。特に低湿度下では導電性が低下し所望の帯電防止能が得られなくなる欠点がある。
【0004】
一方、導電性物質として電子導電性化合物が挙げられ、上記イオン導電性化合物に比べるとより優れた帯電防止性を発現させることが可能である。また、湿度による影響も受けにくく好適である。電子導電性化合物としては、カーボンナノチューブ、グラフェン等の導電性炭素材料、ポリアセチレン、ポリフェニレン、ポリアニリン、ポリピロール、ポリイソチアナフテン、ポリチオフェン等の導電性有機ポリマーが提案されている。
【0005】
これらの導電性有機ポリマーは高価でかつ着色が強い事が多いので塗布量をなるべく少なくするのが良いが、塗布量を減らしていくと導電性の安定性が損なわれてくる。具体的には、室内光レベルの照度下で導電層を大気に曝すこと(以下「大気暴露」と称する)により経時的に導電性が悪化するという欠点がある。
【0006】
これに対して、導電性物質としてカーボンナノチューブを用いると光や大気暴露に対して安定であることが期待されるが、従来の技術では導電性物質の塗布量が多く、コスト、透明性(ヘーズ)、全光線透過率において必ずしも十分でない(例えば、特許文献1参照)。
また、熱可塑性樹脂材料から形成された樹脂フィルムの少なくとも片面に塗布層を有し、当該塗布層中に、ポリエーテル系化合物またはその前駆体と導電性繊維状フィラーとを含有する導電性フィルムが提案されている(特許文献2参照)。当該導電性フィルムは、透明性を有し、表面固有抵抗率が小さく、帯電防止性能にも優れるが、さらなる改良の余地がある。
【0007】
ところで、延伸ポリエステルフィルムにおいては、フィルムの製膜工程中で塗布を行ういわゆるインラインコーティング法によって塗膜を設ける事が生産性、経済性の点で有利である。しかしながらインラインコーティング法によって導電層を設けると、十分な帯電防止性能が発現しないことが多い。これは、フィルムの延伸に伴って導電層が延伸されるときに、導電機構を保持した状態でフィルムの延伸に追従することができないためと考えられる。またそのような場合の塗布層は、外観にも劣るものであり、光学部材への応用は難しくなる。このため、インラインコーティング法においても優れた帯電防止性を示し、かつ外観の不具合が少ない方法が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2015-051621号公報
【文献】特開2007-223182号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記実情に鑑みなされたものであって、その解決課題は、きわめて少ない導電性物質塗布量で優れた帯電防止性を有し、透明性かつ経済性と前記耐大気暴露性を兼ね備えた積層ポリエステルフィルムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、上記の課題に関して鋭意検討を重ねた結果、特定の種類の化合物の組み合わせからなる帯電防止層を設けることにより、上記課題が解決されることを見いだし、本発明を完成するに至った。
【0011】
すなわち、本発明の要旨は、以下の通りの態様を有する。
[1]ポリエステルフィルムの少なくとも片面に帯電防止層を有し、該帯電防止層が下記の化合物(A)および(B)を含有する積層ポリエステルフィルム。
(A)カーボンナノチューブ
(B)炭素数4以上の糖アルコール
[2]前記帯電防止層がさらに、下記の化合物(C)を含有する上記[1]に記載の積層ポリエステルフィルム。
(C)ウレタン樹脂、ポリエステル、およびアクリル樹脂からなる群から選ばれる1種以上の樹脂。
[3]前記帯電防止層が少なくとも一方向に延伸されている上記[1]または[2]に記載の積層ポリエステルフィルム。
[4]帯電防止層を設けていないポリエステルフィルムと比較した際のヘーズの増加率が1.0%以下である上記[1]~[3]のいずれか1つに記載の積層ポリエステルフィルム。
[5]全光線透過率が85%以上である上記[1]~[4]のいずれか1つに記載の積層ポリエステルフィルム。
[6]前記糖アルコールの炭素数が4~6である上記[1]~[5]のいずれか1つに記載の積層ポリエステルフィルム。
[7]前記糖アルコールの炭素数と水酸基数が同数である上記[1]~[6]のいずれか1つに記載の積層ポリエステルフィルム。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、極めて少量の導電剤量でも優れた帯電防止性を有し、透明性、耐大気暴露性、および経済性を兼ね備えた積層ポリエステルフィルムを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の積層ポリエステルフィルムは、基材フィルムであるポリエステルフィルムの少なくとも片面に帯電防止層を有し、該帯電防止層が化合物(A)カーボンナノチューブおよび化合物(B)炭素数4以上の糖アルコールを含有する積層ポリエステルフィルムである。
本発明の積層ポリエステルフィルムは少なくとも一方向に延伸されていることが好ましく、該一方向とこれに垂直な方向の二方向に延伸されていてもよい。
【0014】
<基材フィルム(ポリエステルフィルム)>
本発明の積層ポリエステルフィルムにおける基材フィルム(以下、単に「フィルム」と称することがある)は、ポリエステルからなるものである。かかるポリエステルとは、テレフタル酸、イソフタル酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸、アジピン酸、セバシン酸、4,4’-ジフェニルジカルボン酸、1,4-シクロヘキシルジカルボン酸のようなジカルボン酸またはそのエステルと、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、1,4-ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,4-シクロヘキサンジメタノールのようなグリコールとを溶融重縮合させて製造されるポリエステルである。これらの酸成分とグリコール成分とからなるポリエステルは、通常行われている方法を任意に使用して製造することができる。
例えば、芳香族ジカルボン酸の低級アルキルエステルとグリコールとの間でエステル交換反応をさせるか、あるいは芳香族ジカルボン酸とグリコールとを直接エステル化させるかして、実質的に芳香族ジカルボン酸のビスグリコールエステル、またはその低重合体を形成させ、次いでこれを減圧下、加熱して重縮合させる方法が採用される。その目的に応じ、脂肪族ジカルボン酸を共重合しても構わない。
【0015】
本発明のポリエステルとしては、代表的には、ポリエチレンテレフタレートやポリエチレン-2,6-ナフタレート、ポリ-1,4-シクロヘキサンジメチレンテレフタレート等が挙げられるが、その他に上記の酸成分やグリコール成分を共重合したポリエステルであってもよく、必要に応じて他の成分や添加剤を含有していてもよい。
【0016】
本発明におけるポリエステルフィルムには、フィルムの走行性を確保したり、キズが入ることを防いだりする等の目的で粒子を含有させることができる。
【0017】
粒子の粒径や含有量はフィルムの用途や目的に応じて選択されるが、含有させる場合の粒子量については、ポリエステルに対し、通常0.0003~1.0質量%、好ましくは0.0005~0.5質量%の範囲である。含有粒子量が0.0003質量%以上であると粒子による効果が十分に得られ、1.0質量%以下であるとフィルムの透明性が良好となる。
【0018】
基材のポリエステルフィルムに粒子を含有させる場合、粒子の平均粒径は、0.01~5μmの範囲であることが好ましい。平均粒径が0.01μm以上であると粒子による効果が十分に得られ、5μm以下であるとフィルムの表面粗度が粗くなりすぎず、また粒子がフィルム表面から脱落しにくくなる。以上の観点から、粒子の平均粒径は0.5~3μmであることがより好ましく、0.8~2μmであることがさらに好ましい。
【0019】
ポリエステルフィルムに含有させる粒子としては、例えば、シリカ、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、リン酸カルシウム、カオリン、タルク、酸化チタン、アルミナ、硫酸バリウム、フッ化カルシウム、フッ化リチウム、ゼオライト、硫化モリブデン等の無機粒子、架橋高分子粒子、シュウ酸カルシウム等の有機粒子、さらに、ポリエステル製造工程時の析出粒子等を用いることができる。
【0020】
またその他に、適宜、各種安定剤、潤滑剤、帯電防止剤等をフィルム中に加えることもできる。
【0021】
なお、フィルム中に粒子が存在しない場合、あるいは粒子が少ない場合はフィルムの透明性が高くなり、外観の良好なフィルムとなるが、すべり性が不十分となるなど取り扱いが難しくなる場合がある。そのため、ポリエステルフィルムをナーリングしたり、帯電防止層中に粒子を入れる等の工夫が必要になることがある。
【0022】
本発明のフィルムの製膜方法としては、通常知られている製膜法を採用でき、特に制限はない。例えば、まず溶融押出によって得られたシートを、ロール延伸法により、70~145℃で2~6倍に延伸して、一軸延伸ポリエステルフィルムを得、次いで、テンター内で先の延伸方向とは直角方向に80~160℃で2~6倍に延伸し、さらに、150~250℃で1~600秒間熱処理(熱固定)を行うことでフィルムが得られる。さらにこの際、熱処理のゾーンおよび/または熱処理出口のクーリングゾーンにおいて、縦方向および/または横方向に0.1~20%弛緩する方法が好ましい。
【0023】
本発明におけるポリエステルフィルムは、単層または多層構造のいずれであっても良い。多層構造の場合は、表層と内層、あるいは両表層を目的に応じ異なるポリエステルとすることができる。
本発明におけるポリエステルフィルムの厚みとしては、特に限定されるものではないが、5~150μmの範囲であることが好ましい。5μm以上であれば、取り扱いが容易であり、150μm以下であればコスト的に有利である。以上の観点から、ポリエステルフィルムの厚みは10~100μmがより好ましく、25~75μmがさらに好ましい。
【0024】
本発明におけるポリエステルフィルムの透明度は特に制限されないが、透明性が必要とされる場合、本発明の帯電防止層が透明である特長を生かすためには、基材フィルムのヘーズとして1.5%以下、さらに好ましくは1.0%以下とすることができる。なお、ヘーズは実施例に記載の方法で測定した値である。
また、本発明における帯電防止層の透明度については、本発明に係る積層フィルムのヘーズと基材フィルムのヘーズの差(ヘーズ上昇)によって評価することができ、本発明では、1.0%以下であることが好ましく、0.5%以下であることがより好ましく、0~0.3%であることがさらに好ましく、0~0.2%であることが特に好ましい。
【0025】
本発明におけるポリエステルフィルムの全光線透過率は特に制限されないが、好ましくは85%以上、さらに好ましくは87%以上である。なお、全光線透過率は実施例に記載の方法で測定した値である。
【0026】
<帯電防止層>
本発明における帯電防止層とは、具体的には、表面抵抗率が低く、電荷を漏洩する機構を持つ機能層のことである。帯電防止層の表面抵抗率が低いほど、帯電防止性が良好であるといえる。表面抵抗率が1×1012Ω以下であれば帯電防止性を持つと言え、1×108Ω以下であれば良好な帯電防止性であると言える。
本発明の積層フィルムにおいては、帯電防止層はフィルムの片面のみに設けてもよいし、両面に設けてもよい。また、帯電防止層を片面に設け、裏面には他の機能層を設けてもよい。
【0027】
表面抵抗率の下限値については特に制限はないが、導電剤のコストを勘案すると1×104Ωとするのが好ましく、1×106Ωとするのがより好ましい。
【0028】
次に本発明において用いる化合物(A)および(B)について説明する。
【0029】
<化合物(A)>
化合物(A)は、カーボンナノチューブである。カーボンナノチューブを用いることで本発明の積層フィルムは、帯電防止性および耐大気暴露性に優れるものとなる。チューブの直径は、50nm以下のものが通常使用され、好ましくは10nm以下、より好ましくは5nm以下である。透明性と導電性の両立のためには細い物、すなわち直径の小さい物が好ましい。カーボンナノチューブの長さは0.5~100μmが好ましく、より好ましくは2~20μmである。長い方が導電性を発揮しやすいが、長すぎるとフィルター詰まり等、塗布工程に悪影響を及ぼすおそれがある。
カーボンナノチューブの層数は特に制限は無いが、層数が多すぎると単位質量当たりの導電経路数が低下するので、3層以下が好ましい。
カーボンナノチューブの製法は特に限定しないが、化学的蒸気堆積法、触媒気相成長法、アーク放電法、レーザー蒸発法などの公知の製法が例示できる。
【0030】
本発明に係る帯電防止層中の化合物(A)の含有量は、全固形分量に対して、0.01~50質量%の範囲が好ましい。0.01質量%以上であれば、フィルム上のカーボンナノチューブの含有量および分散状態が良好となり十分な導電性が得られる。一方、50質量%以下であれば塗工外観が良好となる。以上の観点から、化合物(A)の含有量は、より好ましくは0.1~10質量%、さらに好ましくは0.2~4.5質量%、特に好ましくは0.3~3.5質量%である。
なお、カーボンナノチューブは、フィルム上に製膜する過程で変化しないため、後述する帯電防止層形成のための塗布液中のカーボンナノチューブの含有量(仕込み量)を、そのまま帯電防止層中のカーボンナノチューブの含有量とすることができる。
また、帯電防止層中の化合物(A)の含有量は、透過型電子顕微鏡、ラマンスペクトル、X線回折、熱重量分析等により、直接測定することもできる。
【0031】
本発明では、帯電防止層を形成する塗布液を調製するのに際し、上記カーボンナノチューブを分散媒に分散した分散液として配合することが好ましい。分散媒としては、特に限定されず、水系でも有機溶剤系でもよいが、取り扱い性、作業環境の点で、水系が好ましい。水系分散媒としては、水単独で使用してもよいし、水とアルコールとの混合物としてもよいが、水を主成分とすることが好ましい。その場合分散には分散剤を用いることが好ましい。分散剤は特に制限はなく、ノニオン系界面活性剤あるいはアニオン系界面活性剤が好適に用いられ、中でもアルキルベンゼンスルホン酸塩などのアニオン系界面活性剤が好ましい。具体的には、オクチルベンゼンスルホン酸塩、ノニルベンゼンスルホン酸塩、ドデシルベンゼンスルホン酸塩などが挙げられる。
【0032】
本発明に係る帯電防止層中の化合物(A)の面積あたりの含有量は、要求される表面抵抗値、コスト等を勘案して適宜設定されるが、一般に0.01mg/m2~10mg/m2、好ましくは0.02mg/m2~2mg/m2、さらに好ましくは0.05mg/m2~0.95mg/m2である。この範囲の下限値以上であると十分な導電性が得られ、この範囲の上限値以下であると透明性が良好であり、かつコストの面でも有利である。
【0033】
<化合物(B)>
化合物(B)は、炭素数4以上の糖アルコールである。糖アルコールを使用することで、高い透明性を確保しつつ、カーボンナノチューブの含有量が少量でも、高い導電性を確保することができる。その原理は定かではないが、糖アルコールは本発明の帯電防止層を有する積層フィルムを延伸した際に、ひび割れが生じるのを抑制し、ヘーズが悪化することを防止する。また、帯電防止層においてカーボンナノチューブを特定の配列状態にするため、カーボンナノチューブが少量でも高い導電性を確保できるものと推定される。
本発明における糖アルコールとは、アルドースやケトースなどのカルボニル基を還元した鎖状多価アルコール、またはシクリトールなどの環状多価アルコールをいう。具体例としては、単糖類を還元して得られる、エリトリトール、トレイトールなどの炭素数4の糖アルコール;リビトール、アラビニトール、キシリトールなどの炭素数5の糖アルコール;ソルビトール、マンニトール、イジトール、タリトール、ガラクチトールなどの炭素数6の糖アルコールなど、鎖状の糖アルコールが挙げられる。また、イノシトール等のシクリトール類に代表される、環状の単糖類を還元して得られる環状糖アルコールが挙げられる。また、二糖類を還元して得られるマルチトール、ラクチトール、イソマルツロース還元物などの二糖アルコールが例示できる。
本発明における糖アルコールは、高い透明性を確保しつつ、高い導電性を確保するために、炭素数と同数の水酸基を有する糖アルコールであることがより好ましい。そのような糖アルコールの例としては、ソルビトール、エリトリトールを挙げることができる。
なお、上記糖アルコールが立体異性体を有する場合は、それらすべての立体異性体を含むものである。
【0034】
化合物(B)としては炭素数4~12の糖アルコールが好ましく、炭素数4~6の糖アルコールがより好ましく、特に好ましくは炭素数6の糖アルコールである。
また、糖アルコールとしては鎖状のものが好ましく、特に炭素数4~6の鎖状の糖アルコールが好ましい。
なお、上記糖アルコールは1種を単独で、または2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0035】
本発明に係る帯電防止層中の化合物(B)の含有量は、全固形分量に対して、10~99.99質量%の範囲であることが好ましい。10質量%以上であると十分な帯電防止性能が得られ、99.99質量%以下であれば、十分な透明性が得られる。以上の観点から、化合物(B)の含有量は50~98質量%がより好ましく、60~95質量%がさらに好ましく、70~95質量%が特に好ましい。
なお、帯電防止層を形成するための塗布液がフィルム上で乾燥固化などされる際に、化合物(B)は脱水により少なくとも一部が縮合することがあるが、縮合した糖アルコールも化合物(B)とする。
【0036】
<化合物(C)>
本発明ではさらに、化合物(C)として、ポリエステル、アクリル樹脂、およびウレタン樹脂からなる群から選ばれる1種以上を含有することが好ましい。化合物(C)はバインダーとしての役割を有し、化合物(A)の分散性の向上に寄与する。
本発明に係る帯電防止層中の化合物(C)の含有量は、全固形分量に対して、0~90質量%の範囲であることが好ましく、1~50質量%がより好ましく、2~40質量%がさらに好ましく、5~20質量%が特に好ましい。この範囲内であると、良好な帯電防止性能、塗膜の強度および良好な外観が得やすい。
なお、本発明では、帯電防止層を形成するための塗布液が水系であることが好ましいため、化合物(C)も水溶性であるか、または水に分散しやすいことが好ましい。そのため、化合物(C)は水酸基、カルボキシル基などの親水性基を有していることが好ましい。
【0037】
(ポリエステル)
本発明におけるポリエステルとは、主な構成成分として例えば、下記のような多価カルボン酸および多価ヒドロキシ化合物からなるものが挙げられる。すなわち、多価カルボン酸としては、テレフタル酸、イソフタル酸、オルトフタル酸、フタル酸、4,4’-ジフェニルジカルボン酸、2,5-ナフタレンジカルボン酸、1,5-ナフタレンジカルボン酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸、2,7-ナフタレンジカルボン酸、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸、2-カリウムスルホテレフタル酸、5-ナトリウムスルホイソフタル酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカンジカルボン酸、グルタル酸、コハク酸、トリメリット酸、トリメシン酸、ピロメリット酸、無水トリメリット酸、無水フタル酸、p-ヒドロキシ安息香酸、トリメリット酸モノカリウム塩およびそれらのエステル形成性誘導体などを用いることができ、多価ヒドロキシ化合物としては、エチレングリコール、1,2-プロピレングリコール、1,3-プロピレングリコール、1,4-ブタンジオール、1,6-ヘキサンジオ-ル、2-メチル-1,5-ペンタンジオ-ル、ネオペンチルグリコール、1,4-シクロヘキサンジメタノ-ル、p-キシリレングリコ-ル、ビスフェノールA-エチレングリコ-ル付加物、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコ-ル、ポリプロピレングリコ-ル、ポリテトラメチレングリコ-ル、ポリテトラメチレンオキシドグリコ-ル、ジメチロ-ルプロピオン酸、グリセリン、トリメチロ-ルプロパン、ジメチロ-ルエチルスルホン酸ナトリウム、ジメチロ-ルプロピオン酸カリウムなどを用いることができる。これらの化合物の中から、それぞれ適宜1つ以上を選択し、常法の重縮合反応によりポリエステルを合成すればよい。
【0038】
また、上記多価カルボン酸の一部としてスルホイソフタル酸を共重合して、ポリエステル骨格にスルホン酸基を導入し、中和して親水化した物が好ましく用いられる。共重合する量は、多価カルボン酸全体に対し通常1~10モル%、好ましくは2~8モル%である。スルホン酸基を適量導入することでさらに水分散安定性を向上させることができる。
【0039】
(アクリル樹脂)
本発明におけるアクリル樹脂とは、アクリル系、メタクリル系のモノマーに代表されるような、炭素-炭素二重結合を持つ重合性モノマーからなる重合体である。これらは、単独重合体あるいは共重合体いずれでも差し支えない。また、それら重合体と他のポリマー(例えばポリエステル、ポリウレタン等)との共重合体も含まれる。例えば、ブロック共重合体、グラフト共重合体である。より具体的には、アクリル樹脂グラフトポリエステル、アクリル樹脂グラフトポリウレタン等が挙げられる。これらの樹脂を含有することで、得られる帯電防止層の強度や基材フィルムへの密着性を向上することができる。
あるいは、ポリエステル溶液、またはポリエステル分散液中で炭素-炭素二重結合を持つ重合性モノマーを重合して得られたポリマー(場合によってはポリマーの混合物)も含まれる。同様にポリウレタン溶液、ポリウレタン分散液中で炭素-炭素二重結合を持つ重合性モノマーを重合して得られたポリマー(場合によってはポリマーの混合物)も含まれる。同様にして他のポリマー溶液、または分散液中で炭素-炭素二重結合を持つ重合性モノマーを重合して得られたポリマー(場合によってはポリマー混合物)も含まれる。また、密着性をより向上させるために、ヒドロキシル基、アミノ基を含有することも可能である。
【0040】
上記炭素-炭素二重結合を持つ重合性モノマーとしては、特に限定はしないが、特に代表的な化合物としては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、イタコン酸、フマル酸、マレイン酸、シトラコン酸のような各種カルボキシル基含有モノマー類、およびそれらの塩;2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、モノブチルヒドロキシフマレート、モノブチルヒドロキシイタコネートのような各種の水酸基含有モノマー類;メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレートのような各種のアルキル(メタ)アクリル酸エステル類;(メタ)アクリルアミド、ジアセトンアクリルアミド、または(メタ)アクリロニトリル等のような種々の窒素含有化合物;N-メチロール(メタ)アクリルアミドなどの水酸基含有の窒素含有化合物;スチレン、α-メチルスチレン、ジビニルベンゼン、ビニルトルエンのような各種スチレン誘導体;プロピオン酸ビニルのような各種のビニルエステル類;γ-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン等のような種々の珪素含有重合性モノマー類;燐含有ビニル系モノマー類;塩化ビニル、塩化ビリデンのような各種のハロゲン化ビニル類;ブタジエンのような各種共役ジエン類が挙げられる。
【0041】
上記した中では、アクリル系、メタクリル系のモノマーを含む重合性モノマーを重合してなる重合体が好ましく、重合性モノマーがアルキル(メタ)アクリル酸エステル類を含むことがより好ましい。また、塗布液を水系とした場合に、化合物(C)を溶解または分散しやすくする観点から、重合性モノマーは、水酸基やカルボキシル基などの親水性基を有することが好ましい。したがって、アクリル樹脂は、アルキル(メタ)アクリル酸エステル類と、水酸基含有モノマー、カルボキシル基含有モノマーなどの親水性基含有モノマーを含む重合性モノマーを重合してなる重合体も好ましい。
また、アクリル樹脂は、例えば界面活性剤の存在下に重合性モノマーを重合した乳化重合体でもよい。
【0042】
(ウレタン樹脂)
本発明におけるウレタン樹脂とはウレタン結合を分子内に有する高分子化合物で、水分散性または水溶性のものが好ましい。本発明では単独でも2種以上を併用しても良い。
【0043】
水分散性または水溶性を付与させるために、水酸基、カルボキシル基、スルホン酸基、スルホニル基、リン酸基、エーテル基等の親水性基をウレタン樹脂に導入することが一般的であり好ましい。前記親水性基のなかでも、塗膜物性および密着性の点からカルボキシル基またはスルホン酸基が特に好ましい。
【0044】
本発明に係る帯電防止層の構成成分であるウレタン樹脂を作成する方法の一つに、水酸基含有化合物とイソシアネートとの反応によるものがある。原料として用いられる水酸基含有化合物としては、ポリオールが好適に用いられ、例えば、ポリエーテルポリオール類、ポリエステルポリオール類、ポリカーボネート系ポリオール類、ポリオレフィンポリオール類、アクリルポリオール類が挙げられる。これらの化合物は単独で用いても、複数種用いても良い。
【0045】
ポリエーテルポリオール類としては、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリエチレンプロピレングリコール、ポリテトラメチレンエーテルグリコール、ポリヘキサメチレンエーテルグリコール等が挙げられる。
【0046】
ポリエステルポリオール類としては、多価カルボン酸(マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、セバシン酸、フマル酸、マレイン酸、テレフタル酸、イソフタル酸等)またはそれらの酸無水物と多価アルコール(エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、ブタンジオール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、2,3-ブタンジオール、2-メチル-1,3-プロパンジオール、1,5-ペンタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,6-ヘキサンジオール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、2-メチル-2,4-ペンタンジオール、2-メチル-2-プロピル-1,3-プロパンジオール、1,8-オクタンジオール、2,2,4-トリメチル-1,3-ペンタンジオール、2-エチル-1,3-ヘキサンジオール、2,5-ジメチル-2,5-ヘキサンジオール、1,9-ノナンジオール、2-メチル-1,8-オクタンジオール、2-ブチル-2-エチル-1,3-プロパンジオール、2-ブチル-2-ヘキシル-1,3-プロパンジオール、シクロヘキサンジオール、ビスヒドロキシメチルシクロヘキサン、ジメタノールベンゼン、ビスヒドロキシエトキシベンゼン、アルキルジアルカノールアミン、ラクトンジオール等)の反応から得られるものが挙げられる。
【0047】
ポリカーボネート系ポリオール類としては、多価アルコール類とジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、ジフェニルカーボネート、エチレンカーボネート等とから、脱アルコール反応によって得られるポリカーボネートジオール、例えば、ポリ(1,6-ヘキシレン)カーボネート、ポリ(3-メチル-1,5-ペンチレン)カーボネート等が挙げられる。
【0048】
これらの中でもポリエステルポリオールが好ましい。
【0049】
ウレタン樹脂を得るために使用されるポリイソシアネート化合物としては、トリレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、メチレンジフェニルジイソシアネート、フェニレンジイソシアネート、ナフタレンジイソシアネート、トリジンジイソシアネート等の芳香族ジイソシアネート;α,α,α’,α’-テトラメチルキシリレンジイソシアネート等の芳香環を有する脂肪族ジイソシアネート;メチレンジイソシアネート、プロピレンジイソシアネート、リジンジイソシアネート、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート等の脂肪族ジイソシアネート;シクロヘキサンジイソシアネート、メチルシクロヘキサンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、イソプロピリデンジシクロヘキシルジイソシアネート等の脂環族ジイソシアネート等が例示される。これらは単独で用いても、複数種併用してもよい。
【0050】
ウレタン樹脂を合成する際に鎖延長剤を使用しても良く、鎖延長剤としては、イソシアネート基と反応する活性基を2個以上有するものであれば特に制限はなく、一般的には、水酸基またはアミノ基を2個有する鎖延長剤を主に用いることができる。
【0051】
水酸基を2個有する鎖延長剤としては、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブタンジオール等の脂肪族グリコール;キシリレングリコール、ビスヒドロキシエトキシベンゼン等の芳香族グリコール;ネオペンチルグリコールヒドロキシピバレート等のエステルグリコールといったグリコール類を挙げることができる。
【0052】
アミノ基を2個有する鎖延長剤としては、例えば、トリレンジアミン、キシリレンジアミン、ジフェニルメタンジアミン等の芳香族ジアミン;エチレンジアミン、プロピレンジアミン、ヘキサンジアミン、2,2-ジメチル-1,3-プロパンジアミン、2-メチル-1,5-ペンタンジアミン、トリメチルヘキサンジアミン、2-ブチル-2-エチル-1,5-ペンタンジアミン、1,8-オクタンジアミン、1,9-ノナンジアミン、1,10-デカンジアミン等の脂肪族ジアミン;1-アミノ-3-アミノメチル-3,5,5-トリメチルシクロヘキサン、ジシクロヘキシルメタンジアミン、1,4-ジアミノシクロヘキサン、1,3-ビスアミノメチルシクロヘキサン等の脂環族ジアミン等が挙げられる。
【0053】
また、ジメチロールプロピオン酸、ジメチロールブタン酸等を用いて、ウレタン骨格にカルボキシル基を導入し、後に塩基性化合物で中和してウレタンを親水化する手法も好ましく用いられる。
【0054】
化合物(C)としては、ポリエステルが好ましく、特にナフタレン骨格を有するポリエステルが好ましい。
【0055】
本発明において化合物(A)、(B)および(C)は、ハロゲン原子を含まないものを選択する上で特段の障害はない。よって本発明において帯電防止層をハロゲン不含有とすることは容易であり、また環境保護の観点から、ハロゲン、中でも塩素を含まないことは好ましい。
【0056】
(その他の樹脂成分)
さらに必要に応じて、化合物(C)以外のバインダー樹脂の1種もしくは2種以上を化合物(C)と併用することができる。かかるバインダー樹脂としては、例えば、ポリエーテル樹脂、エポキシ樹脂、アミド樹脂等が挙げられる。これらは、それぞれの骨格構造が共重合等により実質的に複合構造を有していてもよい。
【0057】
(界面活性剤)
本発明の帯電防止層には、フィルムへの塗布性を改良するため、界面活性剤を含むことができる。界面活性剤としては、特に限定されず、アニオン系界面活性剤、カチオン系界面活性剤、ノニオン系界面活性剤、両性界面活性剤を用いることができるが、導電性に影響しないとの観点から、アニオン系界面活性剤、ノニオン系界面活性剤が好ましい。
特にその構造中に(ポリ)アルキレンオキサイドや(ポリ)グリセリン、これらの誘導体を含むノニオン系のものを使用すると、得られる塗布層の導電性を阻害せず好ましい。さらに疎水性部分にフッ素置換アルキル基または炭素-炭素三重結合構造を有するものがより好ましい。
界面活性剤を使用する場合の使用量は、帯電防止層において1~10質量%であることが好ましい。
ただし、ポリエステルフィルムに表面処理をしている場合、水系以外の塗布液を使用する場合など、塗布性を改良する必要がない場合には、界面活性剤を含有しなくてもよい。
【0058】
本発明に係る帯電防止層は、必要に応じて、架橋反応性化合物によって架橋されてもよい。架橋反応性化合物は、後述する塗布液に含有させ、その後の加熱などにより帯電防止層を架橋させるとよい。架橋反応性化合物は主に、他の樹脂や化合物に含まれる官能基との架橋反応や、自己架橋によって、帯電防止層の凝集性、表面硬度、耐擦傷性、耐溶剤性、耐水性を改良することができる。使用することのできる架橋反応性化合物としては、メラミン系、ベンゾグアナミン系、尿素系などのアミノ樹脂や、イソシアネート系、オキサゾリン系、エポキシ系、グリオキサール系などが好適に用いられる。また、他のポリマー骨格に反応性基を持たせた、ポリマー型架橋反応性化合物も含まれる。
【0059】
本発明に係る帯電防止層には、消泡剤、塗布性改良剤、増粘剤、有機系潤滑剤、離型剤、有機粒子、無機粒子、酸化防止剤、紫外線吸収剤、発泡剤、染料、顔料等の添加剤を含有していてもよい。これらの添加剤は単独で用いてもよいが、必要に応じて二種以上を併用してもよい。
【0060】
<積層フィルムの作製>
本発明に係る帯電防止層を形成する方法としては、上記化合物(A)、(B)を含み、必要に応じて化合物(C)、界面活性剤、その他の樹脂成分、架橋反応性化物、およびその他の添加剤を含む塗布液を調製し、該塗布液をフィルムに塗工する方法が好適に用いられる。
本発明における塗布液は、取扱い上、作業環境上、また塗布液組成物の安定性の面から、水溶液または水分散液であることが望ましいが、水を主たる媒体としており、本発明の要旨を越えない範囲であれば、有機溶剤を含有していてもよい。
塗工方法としては、ポリエステルフィルムの製膜工程中にフィルム表面を処理する、インラインコーティングを採用してもよいし、一旦製造したフィルム上に系外で塗布する、オフラインコーティングを採用してもよい。より好ましくはインラインコーティングを採用する。
【0061】
インラインコーティングは、ポリエステルフィルム製造の工程内でコーティングを行う方法であり、具体的には、ポリエステルを溶融押出ししてから延伸後熱固定して巻き上げるまでの任意の段階でコーティングを行う方法である。通常は、溶融、急冷して得られる未延伸シート、延伸された一軸延伸フィルム、熱固定前の二軸延伸フィルム、熱固定後で巻上前のフィルムの何れかにコーティングする。以下に限定するものではないが、例えば逐次二軸延伸においては、特に長手方向(縦方向)に延伸された一軸延伸フィルムにコーティングした後に横方向に延伸する方法が優れている。かかる方法によれば、製膜と帯電防止層形成を同時に行うことができるため製造コスト上のメリットがあり、また、コーティング後に延伸を行うために、帯電防止層の厚みを延伸倍率により変化させることもでき、オフラインコーティングに比べ、薄膜コーティングをより容易に行うことができる。また、延伸前にフィルム上に帯電防止層を設けることにより、帯電防止層を基材フィルムと共に延伸することができ、それにより帯電防止層を基材フィルムに強固に密着させることができる。さらに、二軸延伸ポリエステルフィルムの製造において、クリップ等によりフィルム端部を把持しつつ延伸することで、フィルムを縦および横方向に拘束することができ、熱固定工程において、しわ等が入らず平面性を維持したまま高温をかけることができる。それゆえ、塗布後に施される熱処理が他の方法では達成されない高温とすることができるために、帯電防止層の造膜性が向上し、帯電防止層と基材フィルムをより強固に密着させることができ、さらには、帯電防止層自身も強固なものとすることができ、耐湿熱性等の性能を向上させることができる。
【0062】
本発明において塗布後の塗膜の乾燥時、前記インラインコーティングを用いない場合でも150℃以上の温度にすることが望ましい。150℃以上であれば乾燥時間を短くできるため、生産性を上げることができ、塗膜自身または密着の強度を上げることができる。
【0063】
本発明の帯電防止層を形成する方法としては、例えば、グラビアコート、リバースロールコート、ダイコート、エアドクターコート、ブレードコート、ロッドコート、バーコート、カーテンコート、ナイフコート、トランスファロールコート、スクイズコート、含浸コート、キスコート、スプレーコート、カレンダコート、押出コート等、従来公知の塗布方式を用いることができる。
【0064】
なお、塗布液のフィルムへの塗布性、接着性を改良するため、塗布前にフィルムに化学処理やコロナ放電処理、プラズマ処理等を施してもよい。
【0065】
帯電防止層形成用塗布液の塗布量は、最終的な被膜としてみた際に、通常0.005~1.5g/m2、好ましくは0.01~0.5g/m2、さらに好ましくは0.02~0.2g/m2である。塗布量が0.005g/m2以上であると帯電防止層としての十分な性能が得られ、1.5g/m2以下であると、外観および透明性が良好となり、フィルムのブロッキングやコストアップが生じない。
【0066】
<積層フィルムの光学特性>
本願発明の積層フィルムは透明性に優れる。より詳細には、全光線透過率が85%以上であることが好ましく、87%以上であることがより好ましい。また、ヘーズが1.5%以下であることが好ましく、1.0%以下であることがより好ましい。
【0067】
本発明の積層フィルムは、帯電防止性に優れるとともに、耐大気暴露性および透明性に優れ、かつ生産性の高い積層フィルムである。したがって、帯電防止フィルムとして有用であり、フラットパネルディスプレイおよびその製造行程部材、タッチパネル周辺部材、離型フィルム、感熱リボン、受像紙、刷版、キャリアテープ、トレー、マガジン、半導体素子包装用等に好適に使用することができる。
【実施例】
【0068】
以下に実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はその要旨を越えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。なお、実施例および比較例における評価方法やサンプルの処理方法は下記のとおりである。
【0069】
(評価方法)
(1)積層フィルムの透明性(帯電防止層によるヘーズ上昇)
JIS-K7136に準じて、日本電色工業社製積分球式濁度計NDH-2000によりフィルムのヘーズおよび全光線透過率を測定した。帯電防止層を設けていないフィルムと帯電防止層を設けたフィルムのヘーズの差を計算し、帯電防止層を設けることによるヘーズの上昇を求め、帯電防止層の透明性として評価した。かかるヘーズの上昇が小さいほど、帯電防止層の透明性が優れるといえる。本方法においてヘーズの差が1.0%以下であれば透明性に優れ、0.5%以下であれば特に優れているといえる。一方、1.0%を超える場合は劣る(×)といえる。また、全光線透過率について、併せて記載する。
【0070】
(2)表面抵抗率(Ω)
下記の方法に基づき、帯電防止層の表面抵抗率を測定した。(2-1)の方法では、1×108Ωより高い表面抵抗率は測定できないため、(2-1)で測定できなかったサンプルについては(2-2)の方法を用いた。
(2-1)三菱ケミカル社製低抵抗率計:ロレスタGP MCP-T600を使用し、23℃,50%RHの測定雰囲気でサンプルを30分間調湿後、四探針法で表面抵抗率を測定した。
(2-2)日本ヒューレット・パッカード社製高抵抗測定器:HP4339Bおよび測定電極:HP16008B(二重リング)を使用し、23℃,50%RHの測定雰囲気でサンプルを30分間調湿後、表面抵抗率を測定した。
【0071】
(3)大気暴露試験
気温23℃、50%RHに調整された恒温恒湿室の壁面に供試フィルムを測定面が壁と反対側(室内側)になるように貼り付け、28日経過後に表面抵抗率を測定し、貼り付け前と比較した。尚この壁面には屋外光はあたらず、常時白色蛍光灯による約500ルクスの照明を受けていた。
○:処理後の表面抵抗率の増大が2倍未満
△:処理後の表面抵抗率の増大が2倍以上10倍未満
×:処理後の表面抵抗率の増大が10倍以上
【0072】
実施例、比較例中で基材に使用したポリエステル原料は次のとおりである。
(ポリエステル1)実質的に粒子を含有しない、極限粘度0.64のポリエチレンテレフタレート
【0073】
(ポリエステル2)平均粒径2.4μmの非晶質シリカを0.2質量%含有する、極限粘度0.65のポリエチレンテレフタレート
【0074】
また、塗布組成物としては以下を用いた。
(A1):平均外径1.8nm、層数1~2のカーボンナノチューブをアニオン系分散剤により水に分散させた塗料(OCSiAl社製TUBALL INK H2O)
【0075】
(B1)ソルビトール
(B2)エリトリトール
【0076】
(C1)下記組成で共重合したポリエステルの水分散体
モノマー組成:
(酸成分)2,6-ナフタレンジカルボン酸/5-ナトリウムスルホイソフタル酸=92/8(モル%)
(ジオール成分)エチレングリコール/ジエチレングリコール=80/20(モル%)
(C2)下記組成で重合したアクリル樹脂の水分散体
エチルアクリレート/n-ブチルアクリレート/メチルメタクリレート/N-メチロールアクリルアミド/アクリル酸=65/21/10/2/2(質量%)の乳化重合体(乳化剤:アニオン系界面活性剤)
【0077】
(D1)下記式に示す、側鎖にポリエチレンオキサイドを有する構造のノニオン性界面活性剤
【0078】
【0079】
上記式中のm、nはエチレンオキサイドの付加モル数を示す整数であり、ここではm+nの平均が10となるものを用いた。
【0080】
(D2)疎水性基に分岐パーフルオロアルケニル基、親水性基にポリエチレンオキサイド鎖(平均鎖長12単位)を有する構造のフッ素系ノニオン性界面活性剤
【0081】
(H1)ケン化度88mol%、重合度600のポリビニルアルコール
【0082】
(P1)ポリエチレンジオキシチオフェンをポリスチレンスルホン酸でドープした化合物(PEDOT/PSS)を導電剤としバインダー等を加えた塗料(アグファゲバルト社製AS-Inline)
【0083】
実施例1
十分に乾燥させたポリエステル1、ポリエステル2をそれぞれ92%、8%の割合で混合したものを外層の原料とし、ポリエステル1のみを中間層の原料として、2台の押出機に各々を供給し、各々285℃で溶融した後、40℃に設定した冷却ロール上に、2種3層(外層/中間層/外層=1:10:1の吐出量)の層構成で共押出し冷却固化させて未延伸フィルムを得た。このフィルムを85℃の加熱ロール群を通過させながら長手方向に3.7倍延伸し、一軸配向フィルムとした。この一軸配向フィルムの片面に下記第1表に示す実施例1の塗布組成物を塗布した後、テンター延伸機に導き、その熱を利用して塗布組成物の乾燥を行い、100℃で幅方向に4.3倍延伸した。次いで、230℃で熱処理を施し、フィルム厚みが50μmの二軸配向ポリエチレンテレフタレートフィルムを得た。
なお、塗布剤組成物は、乾燥、延伸後の塗布量が所望の値となるように未乾燥塗工量、延伸倍率より濃度を計算し、その濃度となるように水を加えて調製した。
得られたフィルムのヘーズ値は0.7%、全光線透過率は87%であった。このとき塗布を行なわなかったフィルムも採取し、同様に測定した結果、そのヘーズ値は0.7%、全光線透過率は88%であった。よって実施例1においてヘーズ上昇は0.0%であった。表面抵抗率、耐大気暴露性と共に評価した結果を第2表に示す。
【0084】
実施例2~5
塗布液を第1表に示すように変更した以外は実施例1と同様に行い積層フィルムを得た。該積層フィルムについての評価結果を第2表に示す。
【0085】
比較例1~3
塗布液を第1表に示すように変更した以外は実施例1と同様にして積層フィルムを得た。該積層フィルムについての評価結果を第2表に示す。
【0086】
【0087】
【0088】
透明バインダーとして汎用されるポリビニルアルコールを用いた比較例1では、透明なフィルムが得られたが、本発明の積層フィルムと同じ導電剤(化合物(A1))をほぼ同量使用しているにも拘わらず表面抵抗率は極めて大きい値を示した。一方、実施例1の積層フィルムは、比較例1との比較では、表面抵抗率が1万分の1以下となった。
また実施例3と比較例1との比較では、比較例1と同等以上の導電性を10分の1の導電剤量で実現しており、本願発明の積層フィルムは、帯電防止性および経済性の観点から大変有用であることがわかる。
また、化合物(B)を欠く比較例2においては透明性が損なわれ表面抵抗率も増大した。
さらに、有機導電ポリマーを用いた比較例3では、大気暴露によって表面抵抗率が大きく上昇し、安定性を欠くことがわかった。
【0089】
以上のように、本発明の積層フィルムは、透明性に優れ、極めて少ない導電剤(化合物(A))量でも安定した帯電防止性能を示した。
【産業上の利用可能性】
【0090】
本発明によれば、導電性、透明性、耐大気暴露性に優れかつ生産性の高い帯電防止フィルムを安価に提供することができるので産業上の利用価値は高い。