(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-04
(45)【発行日】2024-03-12
(54)【発明の名称】鉄系焼結部材接合用ろう材、及び鉄系焼結部品の製造方法
(51)【国際特許分類】
B23K 35/30 20060101AFI20240305BHJP
C22C 19/03 20060101ALI20240305BHJP
【FI】
B23K35/30 310D
C22C19/03 G
(21)【出願番号】P 2020551120
(86)(22)【出願日】2019-10-04
(86)【国際出願番号】 JP2019039360
(87)【国際公開番号】W WO2020075648
(87)【国際公開日】2020-04-16
【審査請求日】2022-09-02
(31)【優先権主張番号】P 2018190988
(32)【優先日】2018-10-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004455
【氏名又は名称】株式会社レゾナック
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100101247
【氏名又は名称】高橋 俊一
(74)【代理人】
【識別番号】100095500
【氏名又は名称】伊藤 正和
(74)【代理人】
【識別番号】100098327
【氏名又は名称】高松 俊雄
(72)【発明者】
【氏名】大守 洋
(72)【発明者】
【氏名】山西 祐司
(72)【発明者】
【氏名】筒井 唯之
【審査官】川口 由紀子
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-233720(JP,A)
【文献】特開昭63-154291(JP,A)
【文献】特開平02-015875(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 35/30
C22C 19/03
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
Cu:10~50質量%
、Mn:1~30質量%
、Fe:21質量%以下、並びにB及びSi:合計量で5質量%以下を含み、残部Ni及び不可避不純物からなる焼結体と、前記焼結体の表面に形成され、MnOを含む酸化膜とを含み
、
ろう材全量に対し酸素濃度が0.13質量%以上0.5質量%以下である、鉄系焼結部材接合用ろう材。
【請求項2】
表層部の酸素量Aの中心部の酸素量Bに対する質量比(A/B)が1以上である、請求項1に記載の鉄系焼結部材接合用ろう材。
【請求項3】
前記酸化膜はMnを含む、請求項1又は2に記載の鉄系焼結部材接合用ろう材。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか1項に記載の鉄系焼結部材接合用ろう材を用いて、複数の鉄系焼結部材が接合された鉄系焼結部品を製造する、鉄系焼結部品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄系焼結部材接合用ろう材、及び鉄系焼結部品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
金属粉末を圧粉成形し、得られた圧粉成形体を焼結する粉末冶金法は、ニアネットシェイプの形状付与が可能であり、また、大量生産に適しているため、各種機械部品の製造方法に採用されている。
粉末冶金法では、通常、ダイスと上下パンチからなる圧粉成形金型を用いて圧粉成形体を作製している。この方法では、上下方向からの1軸成形であるため、アンダーカットを有する形状の部品を成形することが難しい。そこで、アンダーカットを有する形状の部品を製造する場合には、部品を1軸成形で成形可能な形状の複数の部材に分割し、それぞれの形状の部材を成形してから、複数の部材を組み合わせて接合することが行われている。
この複数の部材の接合方法としては、焼結拡散接合、ろう付け接合等がある。
【0003】
鉄系焼結部材のろう付け接合に用いるろう材の一例として、Cu-Ni-Mn系合金がある。Cu-Ni-Mn系合金を用いたろう材は、溶けたろう材が鉄系焼結部材の気孔内に浸入しても、鉄系焼結部材中のFeと反応して融点が上昇して凝固し、それ以上の溶浸を抑制することができる。このろう材は、気孔内に吸収されるろう材量を低減し、接合部位に留まるろう材量を多くすることができるため、鉄系焼結部材の接合に好ましく用いることができる。
【0004】
ろう付け方法の一例には、合金粉末を溶媒に分散したペースト状のろう材を用いて、被接合部材のろう付け部位にろう材を塗布し、熱処理する方法がある。この方法では、ペースト状のろう材に含まれる溶媒や添加剤を除去するために、熱処理条件の設定、排出ガスの処理等が問題になる。
ろう付け方法の他の例には、合金粉末を成形し、熱処理した焼結体であるろう材を用いて、被接合部材のろう付け部位又はその近傍にろう材を配置し、熱処理する方法である。
この方法では、ろう材がすでに熱処理されているため、ろう付け工程の熱処理をより簡便に行うことができる。また、ろう付け工程で固体状のろう材が溶融することで、被接合部材の界面にろう材が浸み込み、接合強度を高めることができる。
【0005】
特許文献1(米国特許出願公開第2003/0062396号明細書)には、粉末冶金によって製造された金属部品をろう付けするためのろう付成形品を、Cu、MnおよびNiを含む合金粉末を含む溶加材を液相焼結して製造することが提案されている。特許文献1には、ろう材が予め成形されていることで、金属部品の気孔内へのろう材の過剰な溶浸が防止されると開示されている。
【0006】
特許文献2(特開2009-233720号公報)には、Cu-Ni-Mn系合金からなる鉄系焼結部材接合用ろう材において、酸素量を0.1質量%以下に制限することで、Cu-Ni-Mn系合金中のMnの酸化及び硫化による接合不良の発生を防止することが提案されている。特許文献2では、ろう材中の酸素量を制限することで、ろう材中の酸素とMnが結合することを防止し、ろう材中でMn濃度のばらつきを防止している。そして、MnOの生成を抑制し、Mn濃度を均一にすることで、ろう材の溶融状態が均一になるようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】米国特許出願公開第2003/0062396号明細書
【文献】特開2009-233720号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ろう付け工程において、被接合部材とともにろう材が熱処理される場合では、炉内雰囲気、炉材、被接合部材等から不純物成分がろう材に接触することがある。不純物成分のなかでもS成分は、ろう材中の金属成分と結合し、金属硫化物を生成する一要因になる。例えば、熱処理の段階で、ろう材にS成分が接触して、ろう材中のMnとS成分とが結合すると、ろう材の表面にMnSが生成することがある。MnSの生成により、ろう材中のMnが減少し、融点が上昇することから、ろう付け工程の熱処理においてろう材の溶融を阻害するように作用する。
【0009】
特許文献1では、Cu-Ni-Mn系合金を用いたろう材が提案されているが、ろう材に含まれる金属成分が酸化又は硫化の影響を受けることについて検討されていない。
特許文献2では、Cu-Ni-Mn系合金を用いたろう材が提案され、ろう材中の酸素とMnとが結合することを防止するために、ろう材中の酸素量を制限している。一方で、ろう材中の酸素量を制限しても、熱処理工程で外部から付着する不純物成分、特にS成分の影響を受ける問題がある。
【0010】
本発明の一目的としては、鉄系焼結部材のろう付けにおいて接合性を改善することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
一実施形態は、以下を要旨とする。
[1]Cu、Mnを含み、残部Ni及び不可避不純物からなる焼結体と、前記焼結体の表面に形成される酸化膜とを含む、鉄系焼結部材接合用ろう材。
[2]ろう材全量に対し酸素濃度が0.1質量%以上である、[1]に記載の鉄系焼結部材接合用ろう材。
[3]前記酸化膜はMnを含む、[1]又は[2]に記載の鉄系焼結部材接合用ろう材。
[4][1]から[3]のいずれかに記載の鉄系焼結部材接合用ろう材を用いて、複数の鉄系焼結部材が接合された鉄系焼結部品を製造する、鉄系焼結部品の製造方法。
【発明の効果】
【0012】
一実施形態によれば、鉄系焼結部材のろう付けにおいて接合性を改善することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】
図1は、実施例で用いた下部部材の(a)上面図、(b)側面図である。
【
図2】
図2は、実施例で用いた上部部材の(a)上面図、(b)断面図である。
【
図3】
図3は、実施例で用いた上部部材と下部部材を組み合わせた状態での断面図である。
【
図4】
図4(a)は、例1のろう材の断面SEM像であり、
図4(b)は、例6のろう材の断面SEM像である。
【
図5】
図5は、例6のろう材の断面の電子線アナライザー像である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明を一実施形態を用いて説明する。以下の実施形態における例示が本発明を限定することはない。
【0015】
一実施形態による鉄系焼結部材接合用ろう材としては、Cu、Mnを含み、残部Ni及び不可避不純物からなる焼結体と、焼結体の表面に形成される酸化膜とを含むことを特徴とする。
これによれば、鉄系焼結部材のろう付けにおいて接合性を改善することができる。
以下、ろう付けされる部材を被接合部材と称することがある。
【0016】
ろう付け工程において、ろう材は熱処理によって加熱される。この際に、炉内雰囲気、炉壁、メッシュベルト、敷き網等の炉材、被接合部材等からS成分がろう材に接触すると、ろう材中の金属成分とS成分が結合して金属硫化物を生成することがある。MnSの生成により、ろう材中のMnが減少し、融点が上昇することから、ろう材の溶融を阻害するように作用する。一実施形態によるろう材は、表面に酸化膜が形成されているため、ろう材内部の焼結体がS成分と接触することを阻止するように作用し、MnSの生成を抑制することができる。酸化膜にMnが含まれる場合、MnはOとMnOを生成する。このMnOはMnSよりも生成自由エネルギーが低いため、ろう付け工程で熱処理をする際に、硫黄によるろう材の溶融に与える影響を少なくすることができる。
【0017】
一実施形態によるろう材は、焼結体の表面に酸化膜が形成される。
一実施形態によるろう材において、焼結体は、Cu、Mnを含み、残部Ni及び不可避不純物からなることが好ましい。以下、焼結体の組成について説明する。
【0018】
Cuは、ろう付けの際に接合強度を高めるために配合することができる。Cuは、焼結体全量に対し10質量%以上が好ましく、20質量%以上がより好ましく、30質量%以上がさらに好ましい。Cuは、焼結体全量に対し50質量%以下が好ましく、45質量%以下がより好ましく、40質量%以下がさらに好ましい。例えば、Cuは、焼結体全量に対し10~50質量%が好ましく、20~45質量%がより好ましく、30~40質量%であってもよい。
さらに、Cuは、35~45質量%で含まれることが好ましい。Cuが35質量%以上であることで、ろう付けの際に接合強度をより高めることができる。Cuの含有量が過剰になると、より低温でろう材が溶融し、溶融したろう材が鉄系焼結部材の気孔に毛細管力で吸収されて、ろう付け部位のろう材量が少なくなり、接合強度が低下することがある。そのため、Cuは45質量%以下が好ましい。
【0019】
Mnは、溶融したろう材の流動性を向上させるために配合することができる。Mnは、焼結体全量に対し1質量%以上が好ましく、5質量%以上がより好ましく、10質量%以上がさらに好ましい。Mnは、焼結体全量に対し30質量%以下が好ましく、25質量%以下がより好ましく、20質量%以下がさらに好ましい。例えば、Mnは、焼結体全量に対し1~30質量%が好ましく、5~25質量%がより好ましく、10~20質量%であってもよい。
さらに、Mnは、12~20質量%で含まれることが好ましい。Mnが12質量%以上であることで、溶融したろう材の流動性をより向上させることができる。Mnの含有量が過剰になると、Feとの反応によって鉄系焼結部材への浸食が増大し、鉄系焼結部材の寸法精度等が低下することがある。そのため、Mnは20質量%以下が好ましい。
【0020】
焼結体は、Feをさらに含んでもよい。Feは21質量%以下で含まれることが好ましく、20質量%以下がより好ましい。Feは、接合対象である鉄系焼結部材の材質、密度、炉内雰囲気等に応じて、ろう材の焼結体の粘度、融点等の調整をするために添加することができる。また、Feを添加することで、ろう材の焼結体の融点が上昇し、焼結体の溶融粘度が高くなるため、気孔の多い低密度の鉄系焼結部材をろう付けする際には、ろう材が鉄系焼結部材の気孔内に溶浸されることを防止し、ろう付け部位のろう材量の低下を防止することができる。
Feの含有量が過剰になると、ろう材の溶融粘度が高くなり、接合界面でろう材が十分に濡れ広がらなくなり、接合性が低下することがある。そのため、Feは15質量%以下がより好ましい。
【0021】
残部はNiであることが好ましい。また、残部には、不可避不純物が含まれてもよい。不可避不純物としては、B、Si、О、N、S等、又はこれらの組み合わせを挙げることができる。
【0022】
B及びSiは、それぞれろう材の流動性を向上させる作用を有するため、B及びSiの合計量で5質量%以下で含まれてもよい。また、B及びSiの合計量が5質量%以下であることで、接合対象である鉄系焼結部材への浸食を防止することができる。例えば、Bは焼結体全量に対し0.1~5質量%が好ましく、1~3質量%がより好ましい。また、Siは焼結体全量に対し0.1~5質量%が好ましく、1~3質量%がより好ましい。B及びSiの合計量は、焼結体全量に対し0.1~5質量%が好ましく、1~3質量%がより好ましい。
【0023】
また、残部には、不可避不純物としてOが含まれてもよい。焼結体にOが過剰に配合されると、焼結体の原料のうちMnとOが結合して、Mn濃度が低く融点が高い部分が生じ、ろう材の溶融状態が不均一になる問題がある。そのため、ろう材の焼結体にOが含まれる場合では、酸素濃度を0.1質量%以下に制限することが好ましく、焼結体にはOが含まれなくてもよい。
ろう材の焼結体中の酸素(O)濃度は、焼結体に含まれる遊離状態の酸素及び結合状態の酸素の総量である。焼結体中の酸素濃度は、赤外線吸収法によって測定することができる。具体的には、焼結体中の酸素濃度は、He等の不活性ガス中で、黒鉛るつぼに投入した試料を大電流負荷によるジュール熱で融解し、黒鉛るつぼと試料中の酸素を反応させて、二酸化炭素ガスとして抽出し、赤外線吸収法にしたがって抽出された二酸化炭素ガス量を測定し、二酸化炭素ガス量から酸素濃度を算出して求めることができる。
この測定には、例えば、LECOジャパン合同会社製の酸素分析装置「TC-600」を用いることができる。
【0024】
一実施形態によるろう材において、酸化膜は焼結体の表面に形成される。
酸化膜は、Mnを含むことが好ましい。酸化膜において、MnはOと結合してMnOとして存在することができる。MnOはMnSと比べて生成自由エネルギーが低く、ろう材の溶融を阻害しないように作用する。また、ろう材の焼結体の表面にMnOを含む酸化膜が予め形成されていることで、熱処理工程において雰囲気や被接合材料からのS成分がろう材のMnと反応することを阻害し、MnSの生成を抑制することができる。
【0025】
酸化膜は、焼結体の表面の全面に形成されてもよく、部分的に形成されてもよい。焼結体の表面に酸化膜が形成されることで、熱処理工程でMnSの生成を抑制することができるため、焼結体の表面の全面に対して80~100面積%に酸化膜が形成されることが好ましい。
酸化膜の厚さは特に限定されずに、焼結体のサイズ、形状、組成等に応じて適宜調節することができる。酸化膜が形成されることで、酸化膜が薄くてもMnSの生成を抑制することができ、酸化膜が厚くても同様の作用を得ることができる。
【0026】
酸化膜は、後述する通り、焼結体を酸化性雰囲気で熱処理して酸化することで形成することができる。このような酸化膜は、焼結体の表面を全面又は部分的に被覆することができる。また、このような酸化膜は、焼結体の表面に適当な厚さで形成され、焼結体内部の金属成分が熱処理工程で雰囲気又は被接合部材等からのS成分と反応することを抑制するように作用することができる。
【0027】
一実施形態によるろう材において、酸素濃度は、ろう材全量に対し、0.1質量%以上が好ましい。ここで、ろう材全量は、焼結体及び酸化膜の合計量である。
一実施形態によるろう材では、酸化膜にOが多く含まれるため、酸素濃度がろう材全量に対し0.1質量%以上で含まれるようになる。これによって、熱処理工程で雰囲気又は被接合部材等からのS成分がろう材中の金属成分、特にMnと反応することを抑制し、ろう材の融点を上昇させる硫化物の生成を防止することができる。
酸素濃度は、ろう材全量に対し、0.1質量%以上が好ましく、0.13質量%以上がより好ましく、0.14質量%以上がさらに好ましく、0.15質量%以上であってもよい。
また、焼結体の内部に原料に由来して残留するOは、焼結体の焼結性を阻害するように作用することがある。また、酸化膜が厚くなると、中心部の焼結体が溶融するまでに必要なエネルギーが多くなる問題がある。そのため、酸素濃度は、ろう材全量に対し、0.5質量%以下に制限されることが好ましく、より好ましくは0.4質量%以下であり、さらに好ましくは0.3質量%以下でり、0.2質量%以下であってもよい。
例えば、酸素濃度は、ろう材全量に対し、0.1~0.5質量%が好ましく、0.13~0.4質量%がより好ましく、0.14~0.3質量%がさらに好ましく、0.15~0.2質量%であってもよい。
【0028】
ここで、ろう材の酸素(O)濃度は、上記したろう材の焼結体中の酸素(O)濃度と同様にして測定することができる。
【0029】
ろう材の酸化膜には、酸化物に由来して、Oが多く含まれるようになる。
ろう材において、表層部の酸化膜中のOは、中心部の焼結体中のOよりも多く含まれることが好ましい。
ろう材において、表層部の酸素量Aの中心部の酸素量Bに対する質量比(A/B)は、1以上が好ましく、なかでも1超過が好ましく、1.3以上がより好ましく、1.5以上がさらに好ましい。
ここで、ろう材の表層部は、焼結体の表面に形成される酸化膜を含む層であり、ろう材の中心部は、焼結体の中心部である。
【0030】
以下に、ろう材の物性について説明する。以下、ろう材の物性は、酸化膜を有するろう材の物性である。また、ろう材の焼結体の物性は、酸化膜を形成する前の焼結体の物性である。
【0031】
ろう材の融点は、被接合部材の焼結温度よりも低い範囲が好ましい。また、ろう材の融点は、被接合部材の焼結温度よりも低い範囲で、被接合部材の焼結温度に近いことで、被接合部材の焼結とろう付けの接合とを同じ熱処理工程内で行うことが可能になる。具体的には、ろう材の融点は、被接合部材の焼結温度に応じて、900~1100℃が好ましい。
ろう材の融点には、酸化膜を除いた焼結体の融点を用いる。ろう材の酸化膜は、焼結体よりも融点が高くなるが、酸化膜は薄いため、酸化膜の融点以下の温度で焼結体が溶融を開始すると、酸化膜が崩れて、内部の焼結体が流れ出すようになる。
【0032】
ろう材の比表面積は、酸化膜が形成された状態で、650cm2/g以下が好ましい。
また、酸化膜を形成する前の焼結体の比表面積は、500cm2/g以下が好ましい。
ろう材又は焼結体の比表面積を小さくすることによって、雰囲気又は被接合部材等からの酸化や硫化等の影響を受けにくくすることができる。
ろう材の比表面積は、酸化膜を形成する際の熱処理条件によって調整することができる。また、焼結体の比表面積は、焼結温度、特に圧粉体を液相焼結する際の焼結温度によって調整することができる。
ろう材及び焼結体の比表面積は、それぞれガス吸着法のBET法により測定することができる。
【0033】
ろう材の焼結体は、緻密体であることが好ましい。焼結の際に、液相を経て焼結することで、焼結体の内部に含まれる気孔を低減することができる。ろう材の焼結体は、気孔率が10%以下が好ましい。
【0034】
以下、一実施形態による鉄系焼結部材接合用ろう材の製造方法について説明する。なお、一実施形態による鉄系焼結部材接合用ろう材は、以下の製造方法によって製造されたものに限定されない。
【0035】
一実施形態によるろう材を製造する方法は、焼結体を作製する工程と、焼結体を酸化処理する工程とを含むことができる。
焼結体を作製する工程の一例では、原料粉末を圧粉成形し圧粉成形体を作製し、圧粉成形体を非酸化性雰囲気下で熱処理することができる。
【0036】
原料粉末には、上記した焼結体の組成となるように各原料を配合した混合粉末を用いることができる。例えば、Cu原料、Mn原料、Ni原料を含む混合粉末を用いることができる。混合粉末に配合する原料粉末には、Cu-Ni-Mn合金粉末等の合金粉末を用いてもよい。混合粉末には、任意的にFe原料をさらに添加することができる。
圧粉成形は、通常の方法にしたがって行うことができる。圧粉成形に際して、混合粉末に成形助剤を添加してもよい。成形助剤は、圧粉成形体の熱処理の際に熱分解される成分を好ましく用いることができる。
【0037】
圧粉成形体の熱処理温度は、混合粉末の金属成分が溶融し焼結する温度範囲が好ましく、さらに、混合粉末の金属成分が溶融し液相焼結する温度範囲がより好ましい。具体的には、圧粉成形体の熱処理(溶融化)温度は、980~1200℃が好ましい。この熱処理温度は、圧粉成形体の組成等に応じて、1000℃以上がより好ましく、1100℃以上であってもよい。また、圧粉成形体の表面温度又は炉内の温度が、この熱処理温度に達した状態で、熱処理時間は1分~180分が好ましく、10分~60分がより好ましい。
圧粉成形体は、混合粉末の金属成分の焼結を促進させるために、非酸化性雰囲気下で熱処理することが好ましい。非酸化性雰囲気としては、例えば、分解アンモニアガス、水素ガス、窒素ガス、真空雰囲気等を挙げることができる。これらの混合ガスを用いてもよい。
【0038】
圧粉成形体を非酸化性雰囲気下で熱処理することで、焼結性を促進させて、低気孔率である焼結体を得ることができる。また、非酸化性雰囲気は、焼結体の内部に酸化物が残留しないように作用するとともに、焼結体の表面に酸化膜が形成されないようにも作用する。
【0039】
酸化処理する工程の一例では、焼結体を酸化性雰囲気下で熱処理することができる。
焼結体の熱処理温度は、焼結体の融点よりも低い温度範囲で、焼結体の金属成分と雰囲気中の酸素とが結合して酸化膜を形成する温度範囲が好ましい。具体的には、焼結体の熱処理温度は、500~900℃が好ましく、600~900℃がより好ましい。また、焼結体の表面温度又は炉内の温度が、この熱処理温度に達した状態で、熱処理時間は1分~180分が好ましく、10分~60分がより好ましい。
焼結体を酸化性雰囲気下で熱処理することで、焼結体の表面に酸化膜を形成することができる。酸化性雰囲気としては、例えば、大気雰囲気、吸熱ガス雰囲気等を挙げることができる。これらの混合ガスを用いてもよい。
【0040】
圧粉成形体を非酸化性雰囲気下で熱処理し焼結体を作製する工程と、焼結体を酸化性雰囲気下で熱処理し酸化膜を形成する工程とは、それぞれ単独で行ってもよく、連続して行ってもよい。
例えば、1回目の熱処理で焼結体を得て、冷却後に、雰囲気を入れ替えて、又は、炉を変更して、2回目の熱処理で酸化処理を行うことができる。
また、連続炉を用いて、1区画目の熱処理で焼結体を得て、2区画目の熱処理で酸化処理を行うことができる。1区画目と2区画目との雰囲気を切り替えることで、1区画目と2区画目との間に冷却工程を介さずに、連続して熱処理を行うことができる。
【0041】
以下、一実施形態によるろう材を用いて、被接合部材をろう付けする方法について説明する。
ろう付けする2部材以上の被接合部材は、鉄系圧粉成形体、鉄系仮焼体、及び鉄系焼結体から選択される部材を少なくとも1つを含むことが好ましい。鉄系圧粉成形体、鉄系仮焼体は、ろう付けの際の加熱処理によって焼結させることで、ろう付け後に鉄系焼結部材として提供することができる。
【0042】
鉄系焼結部材としては、鉄を主成分として含む原料粉末を圧粉成形して圧粉成形体を作製し、圧粉成形体を熱処理して得ることができる。この鉄系焼結部材は、原料粉末を用いて製造されるため、焼結後にその内部に原料粉末に由来して気孔が形成される。鉄系焼結部材の気孔にろう材がある程度浸み込むことで、接合性をより改善することができる。一方で、溶融状態でろう材の流動性が高まると、鉄系焼結部材の気孔にろう材が浸み込む量が多くなり、ろう付け部位のろう材量が減少し、接合性が低下する問題もある。
【0043】
ろう付け方法の一例では、2部材の鉄系圧粉成形体のろう付け部位にろう材を配置し、次いで、熱処理(焼結)することで、鉄系圧粉成形体が焼結し鉄系焼結体を得るとともに、ろう材が溶融して2部材を接合することができる。この方法において、熱処理温度は、鉄系圧粉成形体が焼結する温度範囲が好ましい。また、ろう材が溶融して鉄系圧粉成形体の気孔に浸み込む量が過剰にならないように、熱処理温度はある程度制限されることが好ましい。具体的には、熱処理(焼結)温度は、1050~1200℃が好ましい。この熱処理温度は、鉄系圧粉成形体の組成、ろう材の組成等に応じて、1100℃以上がより好ましく、1120℃以上であってもよい。また、鉄系圧粉成形体の表面温度又は炉内の温度が、この熱処理温度に達した状態で、熱処理時間は1分~180分が好ましく、10分~60分がより好ましい。この熱処理は、酸化性雰囲気又は非酸化性雰囲気下であってよく、非酸化性雰囲気が好ましい。
この方法において、鉄系圧粉成形体の代わりに、鉄系仮焼体を用いてもよい。
【0044】
ろう付け方法の他の例では、予め焼結された2部材の鉄系焼結体のろう付け部位にろう材を配置し、次いで、熱処理することで、ろう材が溶融して2部材を接合することができる。この方法では、鉄系焼結体は予め焼結されているため、ろう付けのための比較的低温の熱処理で接合を行うことができる。この方法において、熱処理温度は、ろう材が溶融して2部材を接合可能な温度範囲が好ましい。具体的には、熱処理(焼結)温度は、1050~1200℃が好ましい。この熱処理温度は、鉄系焼結体の組成、ろう材の組成等に応じて、1100℃以上がより好ましく、1120℃以上であってもよい。また、鉄系焼結体の表面温度又は炉内の温度が、この熱処理温度に達した状態で、熱処理時間は1分~180分が好ましく、10分~60分がより好ましい。この熱処理は、酸化性雰囲気又は非酸化性雰囲気下であってよく、非酸化性雰囲気が好ましい。
【0045】
例えば、ろう材は、2部材のろう付け部位が互いに対向する平面である場合に、その界面に配置することができる。また、界面近傍にろう材を配置することで、ろう材が溶融する際に、界面にろう材を浸み込ませるようにしてもよい。
また、一方の部品が平面であって、他方の部品が貫通孔部を備え、2部材を組み合わせた状態で、他方の部品の貫通孔部にろう材を配置し、ろう材を溶融する際に貫通孔部から2部材の界面にろう材を浸み込ませるようにしてろう付けすることができる。
また、一方の部品が平面であって、他方の部品が凹部を備え、他方の部品の凹部にろう材を配置し、次いで他方の部品の凹部に一方の部品を被せることで、ろう材を溶融する際に凹部から2部材の界面にろう材を浸み込ませるようにしてろう付けすることができる。
【実施例】
【0046】
以下、本発明を一実施例を用いて説明する。以下の例示によって、本発明は限定されない。
【0047】
(製造例1)
表1に、ろう材の酸化温度、酸素濃度を示す。
「ろう材の作製」
質量%で、40%Cu、15%Mn、1.5%Si、1.5%B、残部Niの粉末を85.5%、Fe粉を14.5%として配合し、以下の組成のろう材粉末を用意した。
質量%で、34.2%Cu、12.8%Mn、14.5%Fe、1.54%Si、1.28%B、残部Ni。
【0048】
ろう材粉末を1個当たりの焼結体が0.66gとなるように所定量を秤量して圧粉成形した。圧粉成形体を分解アンモニアガス雰囲気中で1120℃、30分間で焼成し、焼結体を得た。焼成過程において、焼結体は直径6mm程度の球状体となった。
次いで、焼結体を大気雰囲気中で表1に示す酸化温度で、30分間熱処理した。この酸化処理によって、焼結体の表面が黒色となり、酸化膜が観察された。
例1では、酸化処理を行わなかった。例1では、酸化膜は観察されなかった。
【0049】
「ろう材の酸素濃度の評価」
酸化処理後のろう材の酸素濃度を評価した。
酸素(O)濃度は、LECOジャパン合同会社製の酸素分析装置「TC-600」を用いて燃焼-赤外線吸収法にしたがって測定した。
【0050】
「鉄系圧粉体」
ろう付け接合を行う鉄系圧粉体の2部材の形状を
図1及び
図2に示す。
図1(a)は下部部材の平面図、
図1(b)は下部部材の側面図、
図2(a)は上部部材の平面図、
図2(b)は上部部材のA-A’線部の断面図である。
下部部材1は直径85mm、厚さ3mmであり、3つの柱5と、中央の貫通孔部1aとを備える。3つの柱5は、それぞれ上面の面積が200mm
2であり、高さが17mmである。上部部材は直径100mm、厚さ10mmであり、3つの貫通孔部3と、中央の貫通孔部2aとを備える。3つの貫通孔部3は、それぞれ直径8mmである。
原料粉末には、鉄粉に銅粉末1.5質量%と黒鉛粉末1.0質量%を添加した混合粉末を用いた。この混合粉末を、
図1に示す下部部材の形状となるように、7.0Mg/m
3の密度で圧粉成形し、鉄系圧粉成形体を作製した。同様にして、
図2に示す上部部材の形状となるように、鉄系圧粉成形体を作製した。
【0051】
「ろう付け」
図3に示すように鉄系圧粉成形体の下部部材1と上部部材2を組み合わせ、位置ずれ防止のために中央の貫通孔部にAl
2O
3で被覆した鉄棒6を挿入した。ろう付け部位の貫通孔部3に、ろう材4を充填した。この状態で、分解アンモニアガス雰囲気中で1130℃、30分間で焼成した。焼成によって、鉄系圧粉成形体が焼結して鉄系焼結体となり、また、ろう材4が溶融して下部部材1と上部部材2がろう付けされた。
【0052】
「接合面積率の評価」
ろう付けされた鉄系焼結部品について、ろう付け部位の接合面積率を評価した。結果を表1に示す。
鉄系焼結部品をターンテーブルにセットし、鉄系焼結体を回転させながら、超音波センサーを径方向に移動させ、ろう付け部位の上面部を超音波照射して、超音波探傷試験を行った。
ろう付け部位の超音波探傷試験では、ろう付けがされた箇所とろう付けが不十分な箇所とで超音波の反射が異なることから、2部材の対向面に対してろう付けされた面積を確認することができる。
具体的には、下部部材1の柱5の上面の面積から上部部材2の貫通孔部3の面積を除いた面積に対して、ろう付けされた面積の割合(面積%)を接合面積率として求めた。
【0053】
【0054】
表1に示す通り、酸化膜が形成されたろう材を用いてろう付けした例2~7では、接合面積率が高く、良好に接合することができた。ろう材の酸素濃度がより高い方が接合面積率が高くなった。
【0055】
酸化処理をしていない例1、及び酸化処理をした例6のろう材の断面SEM(走査型電子顕微鏡)像をそれぞれ
図4(a)及び(b)に示す。
図4(a)及び(b)において、下部は焼結体部分である。
図4(b)には、焼結体部分の表層に酸化膜層が観察された。
【0056】
例6のろう材について、株式会社島津製作所製の電子線マイクロアナライザー「EPMA-1600」を用いて、ろう材の断面を観察し、酸化膜の元素分析を行った。結果を
図5に示す。
図5において、(a)は2次電子(SE)像であり、(b)は反射電子(BEI)像である。(a)、(b)において、右側のスケールは、カウント数のコントラストを示す。
また、
図5において、(c)はMnの元素分析像であり、(d)はNiの元素分析像であり、(e)はCuの元素分析像であり、(f)はOの元素分析像である。(c)~(f)において、右側のスケールは、カウント数のコントラストを示す。(c)~(f)において、黒色部分には元素が観察されず、グレーから白色に近づくほど元素が高濃度に観察されることを表す。
図5から、ろう材の表層にMn及びOが多く観察され、ろう材の表層の酸化膜の主成分はMnOであると推測される。また、ろう材の内部には、Mn、Ni、Cuがデンドライド状の周辺の基地に分布しているが、Oの分布は観察されなかった。
【0057】
(製造例2)
質量%で、40%Cu、15%Mn、1.5%Si、1.5%B、残部Niの粉末を85.5%、Fe粉を14.5%として配合し、以下の組成のろう材粉末を用意した。
質量%で、34.2%Cu、12.8%Mn、14.5%Fe、1.54%Si、1.28%B、残部Ni。
【0058】
ろう材粉末を1個当たりの焼結体が0.66gとなるように所定量を秤量して圧粉成形した。圧粉成形体を分解アンモニアガス雰囲気中で1120℃、30分間で焼成し、焼結体を得た。焼成過程において、焼結体は直径6mm程度の球状体となった。
次いで、焼結体を大気雰囲気中で800℃、30分間で熱処理した。酸化処理後に、焼結体の表面が黒色となり、酸化膜が観察された。上記製造例1の例2~7では実験ベースの小型炉で酸化処理を行ったが、製造例2の例8では量産用の大型炉と大きなケースで酸化処理を行った。
【0059】
上記した製造例1と同様にして、酸素濃度及び接合面積率を測定した。結果を表2に示す。例8では、ろう材の酸素濃度が高くなり、接合面積率が高く、良好に接合することができた。
上記製造例1の例2~7では、小型炉で酸化処理をしたため、ろう材同士が重なり、ろう材に酸素が届きにくく、酸化処理後の酸素濃度がある程度制限されたが、製造例2の例8では、大型炉で酸化処理したため、ろう材同士の重なりが少なく、酸化処理後に酸素濃度が高くなった。
【0060】
【0061】
本願の開示は、2018年10月9日に出願された日本国特願2018-190988号に記載の主題と関連しており、それらのすべての開示内容は引用によりここに援用される。
既に述べられたもの以外に、本発明の新規かつ有利な特徴から外れることなく、上記の実施形態に様々な修正や変更を加えてもよいことに注意すべきである。したがって、そのような全ての修正や変更は、添付の請求の範囲に含まれることが意図されている。
【符号の説明】
【0062】
1 下部部材
2 上部部材
3 貫通孔部
4 ろう材
5 柱部
6 鉄棒