(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-04
(45)【発行日】2024-03-12
(54)【発明の名称】N-ビニルカルボン酸アミド製造用組成物
(51)【国際特許分類】
C07C 233/05 20060101AFI20240305BHJP
C07C 231/12 20060101ALI20240305BHJP
C07C 233/18 20060101ALN20240305BHJP
【FI】
C07C233/05
C07C231/12
C07C233/18
(21)【出願番号】P 2020563245
(86)(22)【出願日】2019-12-23
(86)【国際出願番号】 JP2019050311
(87)【国際公開番号】W WO2020137951
(87)【国際公開日】2020-07-02
【審査請求日】2022-09-21
(31)【優先権主張番号】P 2018246081
(32)【優先日】2018-12-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004455
【氏名又は名称】株式会社レゾナック
(74)【代理人】
【識別番号】110002620
【氏名又は名称】弁理士法人大谷特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小林 孝充
(72)【発明者】
【氏名】田中 直行
【審査官】中島 芳人
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-167369(JP,A)
【文献】国際公開第2017/145569(WO,A1)
【文献】国際公開第2010/079774(WO,A1)
【文献】特開平08-134029(JP,A)
【文献】特開平08-231483(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C231/、233/
C07B61/
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
成分(A)であるN-(1-アルコキシエチル)カルボン酸アミド、並びに成分(B)であるN-(1-アルコキシエチル)カルボン酸アミド及びN-ビニルカルボン酸アミド以外のカルボン酸アミドを含む組成物であって、下記(1)~(4)の条件を満たす、N-ビニルカルボン酸アミド製造用組成物。
(1)前記組成物の融点が0~
20℃
(2)水の含有量が、前記組成物全量中、0~1.00質量%
(3)前記成分(A)の前記成分(B)に対する含有量比が、モル比で4.0~20.0
(4)前記組成物の5質量%水溶液のpHが4.0~8.0
【請求項2】
前記成分(A)が、下記一般式(I)で表される化合物である、請求項1に記載のN-ビニルカルボン酸アミド製造用組成物。
【化1】
(一般式(I)中、R
1は炭素数1~5のアルキル基を表し、R
2は水素原子又は炭素数1~5のアルキル基を表し、R
3は炭素数1~5のアルキル基を表す。)
【請求項3】
前記成分(B)が、下記一般式(II)で表される化合物である、請求項1又は2に記載のN-ビニルカルボン酸アミド製造用組成物。
【化2】
(一般式(II)中、R
1は炭素数1~5のアルキル基を表し、R
2は水素原子又は炭素数1~5のアルキル基を表す。)
【請求項4】
前記成分(A)が、N-(1-メトキシエチル)カルボン酸アミドである、請求項1~3のいずれか1項に記載のN-ビニルカルボン酸アミド製造用組成物。
【請求項5】
前記成分(A)が、N-(1-メトキシエチル)アセトアミドである、請求項1~4のいずれか1項に記載のN-ビニルカルボン酸アミド製造用組成物。
【請求項6】
前記成分(B)が、アセトアミドである、請求項1~5のいずれか1項に記載のN-ビニルカルボン酸アミド製造用組成物。
【請求項7】
前記組成物を、大気下、常圧、160℃の条件下で、4時間保持した後の、前記組成物中における前記成分(A)の残存率(%)が、70%以上である、請求項1~6のいずれか1項に記載のN-ビニルカルボン酸アミド製造用組成物。
【請求項8】
前記成分(A)の含有量が、前記組成物全量中、70.0~96.0質量%である、請求項1~7のいずれか1項に記載のN-ビニルカルボン酸アミド製造用組成物。
【請求項9】
前記成分(A)及び前記成分(B)の合計含有量が、前記組成物全量中、75.0~99.0質量%である、請求項1~8のいずれか1項に記載のN-ビニルカルボン酸アミド製造用組成物。
【請求項10】
請求項1~9のいずれか1項に記載のN-ビニルカルボン酸アミド製造用組成物を、熱分解又は接触分解することを特徴とする、N-ビニルカルボン酸アミドの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、N-ビニルカルボン酸アミドの製造に用いられるN-(1-アルコキシエチル)カルボン酸アミドを含有する組成物、及び該組成物を用いるN-ビニルカルボン酸アミドの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
N-ビニルカルボン酸アミドの製造方法については、これまで多くの方法が提案されている。例えば、カルボン酸アミド、アセトアルデヒド、アルコールを原料として中間体となるN-(1-アルコキシエチル)カルボン酸アミドを製造し、その後、該N-(1-アルコキシエチル)カルボン酸アミドを熱分解又は接触分解させ、N-ビニルカルボン酸アミドを合成する方法などが挙げられる。一般的に、重合性モノマーを製造する際は、合成したモノマーを工程内で出来るだけ重合させずに製造することが重要である。そのため、アクリル酸などの重合性の高い化合物は重合禁止剤を用いて製造を行い、製品中にも重合禁止剤が添加されている。一方、製品中に重合禁止剤を含まないN-ビニルカルボン酸アミドなどの一部の重合性モノマーを工業的に製造する際には、安定性の高い中間体を経由することや、極力低い温度で製造を行う等の工程管理が重要となる。
これまで、N-ビニルカルボン酸アミドの製造におけるN-(1-アルコキシエチル)カルボン酸アミドが与える、N-ビニルカルボン酸アミドの品質への影響について、いくつかの提案がされている。例えば、特許文献1では、N-(1-アルコキシエチル)カルボン酸アミド中の金属成分含有量について規定している。当該文献では製造したN-ビニルカルボン酸アミド中の重合阻害物質の生成量について言及されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
N-ビニルカルボン酸アミドは、中間体となるN-(1-アルコキシエチル)カルボン酸アミドを熱分解又は接触分解等する事により合成することができる。しかしながら、N-(1-アルコキシエチル)カルボン酸アミドを含む原料成分を分解工程に供給する際、供給配管の温度調節機構の不具合等により原料成分が配管内で固化したり、分解工程における加熱により変性や副反応、重合等の意図しない反応により生じた反応物が設備配管や装置内に付着したりすることがあり、最悪の場合、配管等が閉塞して生産がストップするといった問題が生じる可能性があった。また、このような不具合の発生を防止するためには、例えば、安定性の高い中間体を経由させること、熱分解器や供給配管の改良を行うこと、より優れた温度調節設備を導入することなど、設備面や工程管理での対策が必要とされており、製造設備や運転面での制約も多く存在していた。
前記特許文献1では、製造されたN-ビニルカルボン酸アミド中の重合阻害物質の生成量については検討されているが、N-ビニルカルボン酸アミド製造時における原料成分と、生産の安定性との関係については検討されていない。
このように、N-ビニルカルボン酸アミドの製造について、これまで、前駆体であるN-(1-アルコキシエチル)カルボン酸アミドを含む組成物が与える生産の安定性への影響についてはほとんど検討されていなかった。
本発明は、このような状況下になされたもので、N-ビニルカルボン酸アミドの製造において、より安定した生産が可能となるN-ビニルカルボン酸アミド製造用組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、N-ビニルカルボン酸アミドの製造における熱分解又は接触分解工程に供給する、N-(1-アルコキシエチル)カルボン酸アミド含有組成物の態様と、当該組成物が与えるN-ビニルカルボン酸アミドの生産の安定性への影響とに着目し、特定の条件を満たす前記組成物を用いることで、前記課題を解決できることを見出した。
本発明は、かかる知見に基づいて完成したものである。
【0006】
すなわち、本発明は、次の〔1〕~〔10〕に関する。
〔1〕成分(A)であるN-(1-アルコキシエチル)カルボン酸アミド、並びに成分(B)であるN-(1-アルコキシエチル)カルボン酸アミド及びN-ビニルカルボン酸アミド以外のカルボン酸アミドを含む組成物であって、下記(1)~(4)の条件を満たす、N-ビニルカルボン酸アミド製造用組成物。
(1)前記組成物の融点が0~30℃
(2)水の含有量が、組成物全量中、0~1.00質量%
(3)前記成分(A)の前記成分(B)に対する含有量比が、モル比で4.0~20.0
(4)前記組成物の5質量%水溶液のpHが4.0~8.0
〔2〕前記成分(A)が、下記一般式(I)で表される化合物である、前記〔1〕に記載のN-ビニルカルボン酸アミド製造用組成物。
【0007】
【化1】
(一般式(I)中、R
1は炭素数1~5のアルキル基を表し、R
2は水素原子又は炭素数1~5のアルキル基を表し、R
3は炭素数1~5のアルキル基を表す。)
【0008】
〔3〕前記成分(B)が、下記一般式(II)で表される化合物である、前記〔1〕又は〔2〕に記載のN-ビニルカルボン酸アミド製造用組成物。
【0009】
【化2】
(一般式(II)中、R
1は炭素数1~5のアルキル基を表し、R
2は水素原子又は炭素数1~5のアルキル基を表す。)
【0010】
〔4〕前記成分(A)が、N-(1-メトキシエチル)カルボン酸アミドである、前記〔1〕~〔3〕のいずれかに記載のN-ビニルカルボン酸アミド製造用組成物。
〔5〕前記成分(A)が、N-(1-メトキシエチル)アセトアミドである、前記〔1〕~〔4〕のいずれかに記載のN-ビニルカルボン酸アミド製造用組成物。
〔6〕前記成分(B)が、アセトアミドである、前記〔1〕~〔5〕のいずれかに記載のN-ビニルカルボン酸アミド製造用組成物。
〔7〕前記組成物を、大気下、常圧、160℃の条件下で、4時間保持した後の組成物中における、前記成分(A)の残存率(%)が、70%以上である、前記〔1〕~〔6〕のいずれかに記載のN-ビニルカルボン酸アミド製造用組成物。
〔8〕前記成分(A)の含有量が、前記組成物全量中、70.0~96.0質量%である、前記〔1〕~〔7〕のいずれかに記載のN-ビニルカルボン酸アミド製造用組成物。
〔9〕前記成分(A)及び前記成分(B)の合計含有量が、前記組成物全量中、75.0~99.0質量%である、前記〔1〕~〔8〕のいずれかに記載のN-ビニルカルボン酸アミド製造用組成物。
〔10〕前記〔1〕~〔9〕のいずれかに記載のN-ビニルカルボン酸アミド製造用組成物を、熱分解又は接触分解することを特徴とする、N-ビニルカルボン酸アミドの製造方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、N-ビニルカルボン酸アミドの製造において、より安定した生産が可能となるN-ビニルカルボン酸アミド製造用組成物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を詳細に説明するが、本発明は下記の実施形態に限定されるものではない。
また、本明細書中、好ましい数値範囲(例えば、含有量等の範囲)について、段階的に記載された下限値及び上限値は、それぞれ独立して組み合わせることができる。例えば、「好ましくは10~90、より好ましくは30~80、更に好ましくは40~70」という記載から、好適範囲として、例えば、「10~70」、「30~70」、「40~80」といったそれぞれ独立に選択した下限値と上限値とを組み合わせた範囲を選択することもできる。また、同様の記載から、例えば、単に、「40以上」又は「70以下」といった下限値又は上限値の一方を規定した範囲を選択することもできる。また、例えば、「好ましくは10以上、より好ましくは30以上、更に好ましくは40以上、そして、好ましくは90以下、より好ましくは80以下、更に好ましくは70以下」という記載から選択可能な好適範囲についても同様である。
【0013】
[N-ビニルカルボン酸アミド製造用組成物]
本発明のN-ビニルカルボン酸アミド製造用組成物は、成分(A)であるN-(1-アルコキシエチル)カルボン酸アミド(以下、単に「成分(A)」ともいう。)、並びに成分(B)であるN-(1-アルコキシエチル)カルボン酸アミド及びN-ビニルカルボン酸アミド以外のカルボン酸アミド(以下、単に「成分(B)」ともいう。)を含む組成物(以下、単に「組成物」ともいう。)であって、下記(1)~(4)の条件を満たす。
(1)前記組成物の融点が0~30℃
(2)水の含有量が、前記組成物全量中0~1.00質量%
(3)前記成分(A)の前記成分(B)に対する含有量比が、モル比で4.5~20.0
(4)前記組成物の5質量%水溶液のpHが4.0~8.0
【0014】
<成分(A):N-(1-アルコキシエチル)カルボン酸アミド>
本発明で用いる前記成分(A)であるN-(1-アルコキシエチル)カルボン酸アミドとしては、好ましくは下記一般式(I)で表される化合物が挙げられ、より好ましくはN-(1-メトキシエチル)カルボン酸アミドである。
【0015】
【0016】
一般式(I)中、R1は炭素数1~5のアルキル基、好ましくは炭素数1~3のアルキル基、より好ましくはメチル基又はエチル基、更に好ましくはメチル基を表す。R2は水素原子又は炭素数1~5のアルキル基、好ましくは水素原子又は炭素数1~3のアルキル基、より好ましくは水素原子又はメチル基、更に好ましくは水素原子を表す。R3は炭素数1~5のアルキル基、好ましくは炭素数1~3のアルキル基、より好ましくはメチル基又はエチル基、更に好ましくはメチル基を表す。
【0017】
一般式(I)で表される化合物としては、例えば、N-(1-メトキシエチル)アセトアミド、N-(1-メトキシエチル)-N-メチルアセトアミド、N-(1-エトキシエチル)アセトアミド、N-(1-エトキシエチル)-N-メチルアセトアミド、N-(1-プロポキシエチル)アセトアミド、N-(1-イソプロポキシエチル)アセトアミド、N-(1-ブトキシエチル)アセトアミド、N-(1-イソブトキシエチル)アセトアミド、N-(1-メトキシエチル)プロピオンアミド、N-(1-エトキシエチル)プロピオンアミド、N-(1-プロポキシエチル)プロピオンアミド、N-(1-イソプロポキシエチル)プロピオンアミド、N-(1-ブトキシエチル)プロピオンアミド、N-(1-イソブトキシエチル)プロピオンアミド、N-(1-メトキシエチル)ブチルアミド、N-(1-エトキシエチル)ブチルアミド、N-(1-プロポキシエチル)ブチルアミド、N-(1-イソプロポキシエチル)ブチルアミド、N-(1-ブトキシエチル)ブチルアミド、N-(1-イソブトキシエチル)ブチルアミド、N-(1-メトキシエチル)イソブチルアミド、N-(1-エトキシエチル)イソブチルアミド、N-(1-プロポキシエチル)イソブチルアミド、N-(1-イソプロポキシエチル)イソブチルアミド、N-(1-ブトキシエチル)イソブチルアミド、N-(1-イソブトキシエチル)イソブチルアミド等が挙げられる。これらの中では、好ましくはN-(1-メトキシエチル)アセトアミド、N-(1-イソプロポキシエチル)アセトアミド、N-(1-メトキシエチル)イソブチルアミド、より好ましくはN-(1-メトキシエチル)アセトアミドが挙げられる。
【0018】
本発明に用いることができる成分(A)の合成方法については、特に制限はないが、例えば、酸触媒によるアセトアルデヒド、成分(A)及びN-ビニルカルボン酸アミド以外のカルボン酸アミド、アルコールの縮合反応;酸触媒によるアセトアルデヒドアセタールと成分(A)及びN-ビニルカルボン酸アミド以外のカルボン酸アミドとの置換反応;塩基によるアセトアルデヒドと成分(A)及びN-ビニルカルボン酸アミド以外のカルボン酸アミドとの縮合反応に続く酸触媒によるアルコールとの縮合反応;などが挙げられる。
なお、これらの反応で使用されるアルコールとしては、例えば、R3-OHで表されるアルコールが挙げられる。R3は、炭素数1~5のアルキル基、好ましくは炭素数1~3のアルキル基、より好ましくはメチル基又はエチル基、更に好ましくはメチル基を表す。すなわち、当該R3で表されるアルキル基とは、前述の一般式(I)で表される化合物中のR3を構成するアルキル基に対応するものである。
【0019】
前記酸触媒としては、均一系触媒、不均一系触媒のいずれでもよく、均一系触媒としては、例えば、塩酸、硫酸、硝酸、リン酸等の鉱酸;リンタングステン酸等のヘテロポリ酸;メタンスルホン酸、p-トルエン酸等の有機酸;などが挙げられる。更に、必ずしも均一に溶解するとは限らないが、強酸と弱塩基との塩も使用できる。強酸と弱塩基との塩としては、硫酸アンモニウム、塩化アンモニウム等が挙げられる。不均一系触媒としては、例えば、ゲル型やポーラス型の酸性イオン交換樹脂が挙げられる。
前記塩基触媒としては、例えば、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化セシウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸セシウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム、炭酸水素セシウム、リン酸ナトリウム、リン酸カリウム、リン酸一水素ナトリウム、リン酸一水素カリウム、ピロリン酸ナトリウム、ピロリン酸カリウム等の無機塩基;トリエチルアミン、ピリジン、モルフォリン等の有機アミン;イオン交換樹脂;などが挙げられる。
【0020】
酸触媒を用いて、成分(A)を合成する場合、合成により得られるN-(1-アルコキシエチル)カルボン酸アミド反応液を塩基により、好ましくはpH8.0~8.5に中和した後、N-(1-アルコキシエチル)カルボン酸アミドを精製する。
成分(A)の精製方法は特に制限はないが、不純物との分離の観点で蒸留精製が好ましい。蒸留方法としては、単蒸留法、精留塔を備えた蒸留装置による精密蒸留法などが挙げられる。また、単蒸留法で行う際の装置に特に制限はないが、ミスト同伴に伴う留出物中の不純物増加を抑えるための対策として、ガスラインにミストセパレーター等を設置することも有効である。そして、成分(A)は熱により変性する場合があるため、極力熱履歴をかけないことが好ましい。そのため、蒸留は、好ましくは圧力0.1~1.3kPa(絶対圧力)、より好ましくは0.1~0.5kPa(絶対圧力)、更に好ましくは0.1~0.4kPa(絶対圧力)、100℃以下の条件で、低沸点成分を適宜留去しながら行うことが好ましい。
【0021】
前記成分(A)の含有量は、前記組成物全量中、好ましくは70.0~96.0質量%、より好ましくは75.0~92.0質量%、更に好ましくは78.0~88.0質量%である。当該含有量は、後述する実施例に記載の方法により測定する。
【0022】
<成分(B):N-(1-アルコキシエチル)カルボン酸アミド及びN-ビニルカルボン酸アミド以外のカルボン酸アミド>
本発明で用いる前記成分(B)であるカルボン酸アミドは、前記N-(1-アルコキシエチル)カルボン酸アミド及びN-ビニルカルボン酸アミド以外のカルボン酸アミドである。前記成分(B)としては、好ましくは下記一般式(II)で表される化合物が挙げられる。
【0023】
【0024】
一般式(II)中、R1は炭素数1~5のアルキル基、好ましくは炭素数1~3のアルキル基、より好ましくはメチル基又はエチル基、更に好ましくはメチル基を表す。R2は水素原子又は炭素数1~5のアルキル基、好ましくは水素原子又は炭素数1~3のアルキル基、より好ましくは水素原子又はメチル基、更に好ましくは水素原子を表す。
【0025】
一般式(II)で表される化合物としては、例えば、アセトアミド及びそのN-アルキル誘導体、プロピオンアミド及びそのN-アルキル誘導体、ブチルアミド及びそのN-アルキル誘導体、イソブチルアミド及びそのN-アルキル誘導体等が挙げられ、好ましくはアセトアミド及びそのN-アルキル誘導体、イソブチルアミド及びそのN-アルキル誘導体、より好ましくはアセトアミド、イソブチルアミド、更に好ましくはアセトアミドが挙げられる。
【0026】
前記成分(B)の含有量は、前記組成物全量中、好ましくは1.0~15.0質量%、より好ましくは1.5~10.0質量%、更に好ましくは2.0~9.5質量%である。
また、前記成分(A)及び前記成分(B)の合計含有量は、前記組成物全量中、好ましくは75.0~99.0質量%、より好ましくは80.0~98.0質量%、更に好ましくは85.0~98.0質量%である。
また、通常であれば、N-ビニルカルボン酸アミド製造用組成物は、N-ビニルカルボン酸アミドの収率向上の観点から、当該合計含有量をより100質量%に近づけ、かつ、成分(A)が高純度で含まれるように調製されるものである。しかし、本発明の組成物の場合、下記条件(3)の説明で後述するように、N-(1-アルコキシエチル)カルボン酸アミド含有組成物の合成及び精製を行う際の製造設備の制約を少なくすることもでき、かつ、N-ビニルカルボン酸アミドを安定に生産できるという観点から、当該合計含有量の好適な上限値が、前述した値であってもよい。
これらの各含有量は、後述する実施例に記載の方法により測定する。
【0027】
<条件(1)>
本発明の組成物は、融点が0~30℃である。前記融点が30℃より高い場合、N-ビニルカルボン酸アミドの製造時に、例えば、前記組成物が次工程に移送される配管内で固化することを防ぐため、30℃よりも高温となるように配管温度を調節する必要が生じる。また、例えば、配管を保温又はヒーター等で温度調節した場合にも保温材やヒーターの種類によっては、一部温度調節が不十分な箇所や細い配管箇所等では、前記組成物が固化する可能性が高まる。前記融点が0℃未満の場合、前記組成物として品質的に不十分となる。ここで、「品質的に不十分となる」とは、例えば、最終的なN-ビニルカルボン酸アミドの収率が低下してしまう組成物となることをいう。例えば、組成物中の低沸点成分の分離が不十分であり、その結果、前記成分(A)の含有量濃度が低下している組成物などが挙げられる。
このような観点から、前記融点は、好ましくは0~20℃、より好ましくは5~15℃、更に好ましくは8~13℃である。
前記融点は、後述する実施例に記載の方法により測定する。
なお、前記融点は、前記組成物の組成の影響を受ける。例えば、前記成分(A)の含有量が増加すると、前記融点の値は高くなる傾向がある。
【0028】
<条件(2)>
本発明の組成物は、水の含有量(以下、「水分」ともいう。)が、前記組成物全量中0~1.00質量%である。当該水分が1.00質量%を超えると、例えば、後述するように前記組成物が気化器で加熱された際に、前記成分(A)が前記成分(B)、アセトアルデヒド及びアルコールに分解され易くなり、前記組成物の熱安定性が低下してしまう。その結果、気化器等の加熱工程において、前記組成物の変性、副反応、重合等の意図しない反応が生じてしまい、製造装置の閉塞やN-ビニルカルボン酸アミドの収率や品質の低下といったトラブルに繋がる可能性が高まる。
前記組成物が水を含む場合、当該水は、主に、前記成分(A)の原料等に由来する水又は合成の過程で生成、混入する水である。
このような観点から、前記水の含有量は、前記組成物全量中、好ましくは0~0.50質量%、より好ましくは前記組成物全量中0.01~0.30質量%、更に好ましくは前記組成物全量中0.01~0.20質量%である。
前記水の含有量は、後述する実施例に記載の方法により測定する。
【0029】
<条件(3)>
本発明の組成物は、前記成分(A)の前記成分(B)に対する含有量比が、モル比で4.0~20.0である。当該モル比が4.0より低いと前記成分(A)に対する前記成分(B)の比率が高まり、前記組成物が気化器等で加熱された際に、前記成分(A)と成分(B)とが反応して副生成物を生じる副反応の進行が起こり易くなる。前記モル比が20より高くなると、前記組成物の融点が高くなり、N-ビニルカルボン酸アミドの製造時に、供給配管等の配管中で前記組成物が固化する等の可能性が高まる。
このような観点から、前記モル比は、好ましくは4.2~15.0、より好ましくは4.5~9.0、更に好ましくは4.8~8.0である。
また、通常、N-ビニルカルボン酸アミドの収率を向上させる観点では、前記成分(A)を高純度で含む組成物を用いる。しかし、前記成分(A)を高純度で含む組成物を得るためには、原料となるN-(1-アルコキシエチル)カルボン酸アミド及びN-ビニルカルボン酸アミド以外のカルボン酸アミドの濃度を薄くすることが有効であり、バッチ反応の場合には生産性が低下し、連続合成設備等の生産規模の大きなスケールでは設備投資が大きくなる。また、前記成分(A)を高純度化する場合には、沸点の近い前記成分(B)を分離する為に、多段の蒸留塔が必要となり、この場合にも設備投資は大きくなる。しかし、本発明者らは、前記モル比が20.0以下であることで前述のデメリットを回避できることを見出した。そのため、N-ビニルカルボン酸アミド製造時の運転安定性を向上させ、結果、連続運転性の向上に寄与することで生産コストを低減できる観点、また、より簡易な製造設備での製造も可能となる観点からも、前記モル比は、好ましくは15.0以下、より好ましくは9.0以下、更に好ましくは8.0以下である。
前記モル比は、後述する実施例に記載の方法により測定する。
【0030】
<条件(4)>
本発明の組成物は、当該組成物の5質量%水溶液のpHが、4.0~8.0である。当該pHが4より低いと、前記組成物が気化器等で加熱された際に、前記成分(A)と前記成分(B)とが反応して副生成物を生じる副反応の進行が起こり易くなる。なお、pH8.0よりも高い領域は、前記組成物を得る方法において、前記成分(A)を合成する際の中和工程を、前述の好ましい範囲であるpH8.0~8.5で行う場合には起こりにくい。
このような観点から、前記組成物の5質量%水溶液のpHは、好ましくは4.3~7.8、より好ましくは4.5~7.6、更に好ましくは5.0~7.5である。
前記組成物の5質量%水溶液のpHは、後述する実施例に記載の方法により測定する。
なお、前記組成物の5質量%水溶液のpHは、当該組成物の組成に影響を受ける。例えば、前記成分(A)を合成する際に用いる酸触媒及び中和工程で使用する塩基の種類及び使用量による影響を受ける。そのため、酸触媒及び中和で用いる塩基以外が同様の組成であれば、前記成分(A)を合成する際の中和工程で、前記成分(A)を含有する反応液のpHをより高い値に調整した方が、前記pHの値はより高くなる。
【0031】
<その他成分>
前記組成物は、本発明の効果を損なわない範囲で、その他成分を含んでいてもよい。当該その他成分としては、例えば、前記成分(A)を製造する際に用いる各化合物由来の成分又は合成された前記成分(A)の分解物若しくは副生成物等が挙げられる。例えば、合成反応時に用いられる溶媒、原料成分として用いられるメタノール等のアルコール;アセトアルデヒドジアルキルアセタール等のアセトアルデヒドアセタール;エチリデンビスカルボン酸アミド;又はN-(1-アルコキシエチル)カルボン酸アミドを蒸留等で精製分離する際に分解等により生成するN-ビニルカルボン酸アミド;などが挙げられる。
【0032】
[N-ビニルカルボン酸アミドの製造方法]
前述のとおり、前記組成物は、N-ビニルカルボン酸アミドの製造に用いられるものである。N-ビニルカルボン酸アミドは、前記組成物に対し、公知の熱分解又は接触分解を行うことで合成することができる。それら分解を行う時の条件としては、例えば、気相又は液相で、反応温度60~600℃、反応時間0.3秒~2時間、操作圧力0.1kPa(絶対圧力)~大気圧が挙げられる。これらの条件の中でも、気相で、反応温度300~600℃、反応時間0.3秒~1分、操作圧力10~30kPa(絶対圧力)の条件で反応を行うことが好ましい。
例えば、前記組成物を、液体の状態で気化器に送液し、圧力10~30kPa(絶対圧力)、120~200℃の気化器で気化させた後、反応温度300~600℃の熱分解装置に供給し、N-ビニルカルボン酸アミドとアルコールに分解することができる。
気化器としては、特に制限はないが、原料を効率よく気化させる観点から、好ましくは、流下液膜式蒸発器、強制液膜式蒸発器が挙げられる。
また、熱分解装置が備える熱分解反応器としては、気化した原料の熱分解を効率よく行う観点から、管状構造であることが好ましい。
このように、前記組成物を液体で送液する観点から、配管内で固化しないよう、例えば、配管の温度調節に不具合が生じたりした際に、配管周囲温度の影響を受けても(例えば、常温で)液体状態を維持できるようにすれば、配管内での原料成分の固化を防止することができると考えられる。この点において、本発明の組成物は、前記条件(1)の融点を満たすため、前述のとおり、配管の温度調節に不具合が生じたりした場合であっても、配管内での固化を防止することができる。
【0033】
また、前記組成物は、気化器での熱安定性が十分であれば、供給した当該組成物がほぼ気化して次の反応工程へと供給されるため、連続運転を行っても装置上の不具合が生じる可能性が低くなる。しかし、前記組成物の熱安定性が不十分で、当該組成物が気化器で変性、副反応、又は重合などを起こし、高温でも固体となる副生成物を生じると装置の閉塞につながる可能性が高まる。これは、気化器に関わらず、N-ビニルカルボン酸アミドを合成する過程で、前記組成物を加熱する設備であれば同様である。
このような観点から、前記組成物は、後述する実施例に記載の方法で算出される前記成分(A)の残存率が、好ましくは70%以上、より好ましくは75%以上、更に好ましくは80%以上である。
また、前記組成物の熱安定性は、当該組成物中の水分、前記成分(A)の前記成分(B)に対する含有量比(モル比)、5質量%水溶液のpH等も影響し、これらの条件の組み合わせによっても変動する。そのため、ある一態様においては、後述する実施例に記載の方法で算出される前記成分(A)の残存率を評価する際に、少なからず前記成分(A)が加熱により変性や副反応、重合等といった反応を生じてしまうため、そのような観点から、前記残存率の好適な上限値としては、例えば、85%であってもよく、90%であってもよく、95%であってもよい。
【0034】
<N-ビニルカルボン酸アミド>
本発明の組成物を用いて製造されるN-ビニルカルボン酸アミドとしては、好ましくは下記一般式(III)で表される化合物が挙げられる。
【0035】
【0036】
一般式(III)中、R1は炭素数1~5のアルキル基、好ましくは炭素数1~3のアルキル基、より好ましくはメチル基又はエチル基、更に好ましくはメチル基を表す。R2は水素原子又は炭素数1~5のアルキル基、好ましくは水素原子又は炭素数1~3のアルキル基、より好ましくは水素原子又はメチル基、更に好ましくは水素原子を表す。
【0037】
一般式(III)で表される化合物としては、例えば、N-ビニルアセトアミド、N-メチル-N-ビニルアセトアミド、N-ビニルプロピオンアミド、N-メチル-N-ビニルプロピオンアミド、N-ビニルイソブチルアミド、N-メチル-N-ビニルイソブチルアミド等が挙げられ、好ましくはN-ビニルアセトアミド、N-ビニルイソブチルアミド、より好ましくはN-ビニルアセトアミドが挙げられる。
【実施例】
【0038】
以下、実施例を通じて本発明を更に詳細に説明するが、本発明はその要旨を越えない限り、以下の実施例に制約されるものではない。
なお、組成物及び各成分の各性状等については、次の方法により、測定、評価した。
【0039】
[水分測定]
組成物の水分測定(水の含有量)は、株式会社三菱ケミカルアナリテック製のカールフィッシャー電量滴定法水分測定装置「CA-200」を用いて測定した。
【0040】
[組成物中の各成分の含有量、及び成分(A)と成分(B)との含有量比(モル比)]
組成物中の水を除く各成分の含有量は、ガスクロマトグラフィー(GC)分析(内部標準法、内部標準物質:ジエチレングリコールジメチルエーテル)により定量し、成分(A)と成分(B)との含有量比(モル比)は、定量した各成分の量から算出した。
GC分析時の条件を以下に示す。
装置:高性能汎用ガスクロマトグラフ「GC-2014」(株式会社島津製作所製)
カラム:「HP-WAX」(φ0.25mm×30m、Agilent Technologies社製)
キャリアガス種類:He
キャリアガス流量:1mL/min
スプリット比:40
カラム温度:40℃(7分)→昇温(25℃/分)→130℃(15分)→昇温(30℃/分)→220℃(2分)の順で昇温プログラムを設定
インジェクション温度:200℃
検出器:水素炎イオン化検出器(FID)
検出器温度:230℃
【0041】
[pH]
pH測定は、パーソナルpHメータ「PH71」(横河電機株式会社製)を用いて、試料温度20~25℃で測定した。
なお、表1及び2に示す組成物の5質量%水溶液は、各実施例で調製した組成物を、当該組成物濃度が5質量%となる水溶液になるように純水を添加して調製した。
【0042】
[融点]
組成物の融点測定は、温度計を備えたガラス細管に測定試料である組成物を充填した後、当該ガラス管を氷水による0℃の水浴に浸し、循環恒温槽の温度を5℃/hで昇温して測定した。固体が溶け始め、液体を確認できた点を融点とした。
【0043】
[組成物の熱安定性評価]
組成物の熱安定性評価は次の方法を用いて行った。
各実施例で調製した組成物20gを、内容積50mLの三口フラスコに充填し、攪拌子を入れて攪拌しながら、大気下、常圧、160℃の条件下で、4時間加熱した。三口フラスコには、温度計用内挿管を設置し、加熱に伴い留出する成分は冷却管を経由して回収を行った。当該熱処理後の組成物中における成分(A)であるN-(1-アルコキシエチル)カルボン酸アミドの含有量と、熱処理前の組成物中における成分(A)の含有量とから次の式を用いて成分(A)であるN-(1-アルコキシエチル)カルボン酸アミドの残存率(%)を算出した。
・N-(1-アルコキシエチル)カルボン酸アミドの残存率(%)=[〔熱処理後組成物の重量×熱処理後組成物中のN-(1-アルコキシエチル)カルボン酸アミドの濃度〕/〔熱処理前組成物の重量×熱処理前組成物中のN-(1-アルコキシエチル)カルボン酸アミドの濃度〕]×100(%)
なお、当該熱処理前後のN-(1-アルコキシエチル)カルボン酸アミドの濃度は、前述のGC分析と同様の方法を用いて確認した。
【0044】
[酢酸濃度]
比較例1に記載の反応液の酢酸濃度は、前述のGC分析と同様の方法を用いて確認した。
【0045】
[実施例1]
<合成例1-1>(アセトアルデヒドジメチルアセタールの合成)
メタノール420gに硫酸6.6gを添加して0℃に冷却した後、アセトアルデヒド230gを加えることで、収率75%でアセトアルデヒドジメチルアセタールを主成分とする液を合成した。この液を精製することなく、下記合成例1-2で使用した。
【0046】
<合成例1-2>(N-(1-メトキシエチル)アセトアミドの合成)
メタノール337g、アセトアルデヒド300g、及びアセトアミド230gを混合した混合液を調製した後、合成例1-1で得られたアセトアルデヒドジメチルアセタール含有液640gを40℃で前記混合液に添加した後、6時間反応させてpH1.2の反応液を得た。その後、この反応液に48質量%水酸化ナトリウム水溶液を加えて、pH8.3に調整したN-(1-メトキシエチル)アセトアミド含有液を得た。
【0047】
<調製例1>(N-(1-メトキシエチル)アセトアミド含有組成物の調製)
単蒸留装置を用い、温度60~70℃、圧力33kPa(絶対圧力)の条件で、合成例1-2で得られたpH8.3のN-(1-メトキシエチル)アセトアミド含有液からアセトアルデヒド、アセトアルデヒドジメチルアセタール等の低沸点成分を留去した。その後、更に、温度70℃、圧力0.3kPa(絶対圧力)の条件で水及びメタノールを留去して濃縮液を得た。
得られた濃縮液を、更に減圧蒸留し、温度80~100℃(圧力0.3kPa(絶対圧力))の範囲の留分345gをN-(1-メトキシエチル)アセトアミドを78.3質量%、アセトアミドを7.7質量%で含む組成物として得た。
得られたN-(1-メトキシエチル)アセトアミド含有組成物は、融点=8℃、水分=0.10質量%、N-(1-メトキシエチル)アセトアミドとアセトアミドとのモル比=5.1、5質量%水溶液のpH=4.3であった。また、熱安定性評価によるN-(1-メトキシエチル)アセトアミドの残存率は75.1%であった。得られた組成物の評価結果を下記表1に示す。
【0048】
<合成例1-3>(N-ビニルアセトアミドの合成)
調製例1で得られたN-(1-メトキシエチル)アセトアミド含有組成物を、160℃、20kPa(絶対圧力)に保たれた気化器(内径20mm、長さ240mm)に、30℃の温度に設定された供給配管を通して1.5g/分の供給速度で供給して気化させた後、400℃、20kPa(絶対圧力)の反応器(内径20mm、長さ240mmの管型反応器)に気化状態で導入して熱分解反応させた。
反応器出口に設置された冷却管で、熱分解反応で生成したN-ビニルアセトアミド及びメタノールの混合物を凝縮して、粗N-ビニルアセトアミドを回収した。熱分解反応時には供給配管内での供給原料の固化や気化器内での副生成物の生成等による装置の閉塞等の製造トラブルは確認されず良好であり、N-ビニルアセトアミドの収率は90%で得られた。
【0049】
[実施例2]
実施例1の調製例1で、合成例1-2で得られたpH8.3のN-(1-メトキシエチル)アセトアミド含有液の蒸留で回収された低沸点成分(アセトアルデヒドジメチルアセタール69質量%、アセトアルデヒド16質量%、メタノール13質量%、水2質量%)482g、アセトアミド240g、及びアセトアルデヒド312gを混合して40℃に加温した後、硫酸15gをメタノール460gに溶解した液を添加し6時間反応させてpH1.1の反応液を得た。その後、この反応液に48質量%水酸化ナトリウム水溶液を加えてpH8.3に調整したN-(1-メトキシエチル)アセトアミド含有液を得た。当該含有液に実施例1の調製例1と同様の操作を行い、N-(1-メトキシエチル)アセトアミド含有組成物を得た。得られた組成物の評価結果を下記表1に示す。
そして、当該組成物を用いた以外は、実施例1の合成例1-3と同様にしてN-ビニルアセトアミドを合成したところ、熱分解工程における製造トラブルは確認されなかった。
【0050】
[実施例3]
実施例2で混合するアセトアミドの量を217gに変更した以外は、実施例2と同様に操作を行ってN-(1-メトキシエチル)アセトアミド含有組成物を得た。得られた組成物の評価結果を下記表1に示す。
そして、当該組成物を用いた以外は、実施例1の合成例1-3と同様にしてN-ビニルアセトアミドを合成したところ、熱分解工程における製造トラブルは確認されなかった。
【0051】
[実施例4]
実施例2で混合するアセトアミドの量を197gに変更した以外は、実施例2と同様に操作を行ってN-(1-メトキシエチル)アセトアミド含有組成物を得た。得られた組成物の評価結果を下記表1に示す。
そして、当該組成物を用いた以外は、実施例1の合成例1-3と同様にしてN-ビニルアセトアミドを合成したところ、熱分解工程における製造トラブルは確認されなかった。
【0052】
[実施例5]
実施例2で混合するアセトアミドの量を181gに変更した以外は、実施例2と同様に操作を行ってN-(1-メトキシエチル)アセトアミド含有組成物を得た。得られた組成物の評価結果を下記表1に示す。
そして、当該組成物を用いた以外は、実施例1の合成例1-3と同様にしてN-ビニルアセトアミドを合成したところ、熱分解工程における製造トラブルは確認されなかった。
【0053】
[実施例6]
アセトアミド50g、アセトアルデヒドジメチルアセタール700g、及びアセトアルデヒド150gを混合して40℃に加温した後、硫酸10gをメタノール180gに溶解した液を添加し6時間反応させてpH1.2の反応液を得た。その後、この反応液に48質量%水酸化ナトリウム水溶液を加えてpH8.3に調整したN-(1-メトキシエチル)アセトアミド含有液を得た。
当該含有液に実施例1の調製例1と同様の操作を行い、N-(1-メトキシエチル)アセトアミド含有組成物を得た。得られた組成物の評価結果を下記表1に示す。
そして、当該組成物を用いた以外は、実施例1の合成例1-3と同様にしてN-ビニルアセトアミドを合成したところ、熱分解工程における製造トラブルは確認されなかった。
【0054】
[実施例7]
アセトアミド50g、アセトアルデヒドジメチルアセタール1000g、アセトアルデヒド170gを混合して40℃に加温した後、硫酸14gをメタノール200gに溶解した液を添加し6時間反応させてpH1.1の反応液を得た。その後、この反応液に48質量%水酸化ナトリウム水溶液を加えてpH8.3に調整したN-(1-メトキシエチル)アセトアミド含有液を得た。
当該含有液に実施例1の調製例1と同様の操作を行い、N-(1-メトキシエチル)アセトアミド含有組成物を得た。得られた組成物の評価結果を下記表1に示す。
そして、当該組成物を用いた以外は、実施例1の合成例1-3と同様にしてN-ビニルアセトアミドを合成したところ、熱分解工程における製造トラブルは確認されなかった。
【0055】
[実施例8]
実施例2と同様にして得られたN-(1-メトキシエチル)アセトアミド含有組成物に、更に、純水を添加して、水分を0.5質量%に調製した組成物を得た。得られた組成物の評価結果を下記表1に示す。
そして、当該組成物を用いた以外は、実施例1の合成例1-3と同様にしてN-ビニルアセトアミドを合成したところ、熱分解工程における製造トラブルは確認されなかった。
【0056】
[実施例9]
実施例3と同様にして得られたN-(1-メトキシエチル)アセトアミド含有組成物に、更に、純水を添加して、水分を0.96質量%に調製した組成物を得た。得られた組成物の評価結果を下記表1に示す。
そして、実施例8で得られた組成物を用いた以外は、実施例1の合成例1-3と同様にしてN-ビニルアセトアミドを合成したところ、熱分解工程における製造トラブルは確認されなかった。
【0057】
[実施例10]
アセトアミド50g、アセトアルデヒドジメチルアセタール310g、及びアセトアルデヒド140gを混合して40℃に加温した後、硫酸10gをメタノール160gに溶解した液を添加し6時間反応させてpH1.2の反応液を得た。その後、この反応液に48質量%水酸化ナトリウム水溶液を加えてpH8.3に調整したN-(1-メトキシエチル)アセトアミド含有液を得た。
当該含有液に実施例1の調製例1と同様の操作を行い、N-(1-メトキシエチル)アセトアミド含有組成物を得た。得られた組成物の評価結果を下記表1に示す。
そして、当該組成物を用いた以外は、実施例1の合成例1-3と同様にしてN-ビニルアセトアミドを合成したところ、熱分解工程における製造トラブルは確認されなかった。
【0058】
[比較例1]
アセトアミド120g、アセトアルデヒドジメチルアセタール3680g、メタノール200gを混合して均一溶液とし、反応原料とした。内径40mmの反応管に強酸性イオン交換樹脂「アンバーリスト(登録商標)15」を60mL充填し、反応管を55℃の温水に沈め、反応温度55℃とした。この反応管に毎時5mLで前記反応原料を導入し、流出した反応液を回収、分析を行った。アセトアミド転化率98%、N-(1-メトキシエチル)アセトアミド収率は90%であった。
得られた反応液を単蒸留装置で蒸留し、13kPa(絶対圧力)、油浴温度90℃で低沸点成分を留出後、釜残のpHを測定したところpH=4.3、酢酸濃度は430ppmであった。この釜残に酢酸に対して、1.1当量の炭酸ナトリウムを添加した後、圧力0.3kPa(絶対圧力)で、N-(1-メトキシエチル)アセトアミド含有組成物を207g留出させた。得られた組成物中、N-(1-メトキシエチル)アセトアミド含有量が98.1質量%、アセトアミド含有量が1.1質量%であり、融点=32℃、水分=0.03質量%、N-(1-メトキシエチル)アセトアミドとアセトアミドとのモル比=45.0、5質量%水溶液のpH=7.4であった。また、熱安定性評価によるN-(1-メトキシエチル)アセトアミドの残存率は83.6%であった。得られた組成物の評価結果を下記表2に示す。
そして、当該組成物を用いた以外は、実施例1の合成例1-3と同様にしてN-ビニルアセトアミドの合成を試みたところ、熱分解工程において原料供給配管での原料固化による閉塞によって、製造トラブルが確認された。
【0059】
[比較例2~4]
実施例2と同様にして得られたN-(1-メトキシエチル)アセトアミド含有組成物に、更に、純水を添加して、水分を、それぞれ、下記表2に示す含有量に調製した組成物を得た。得られた各組成物の評価結果を下記表2に示す。熱安定性評価によるN-(1-メトキシエチル)アセトアミドの残存率は、比較例2、3及び4の順に、65.6%、57.4%、47.5%と低下した。
そして、比較例2、3及び4で得られた各組成物を用いた以外は、実施例1の合成例1-3と同様にしてN-ビニルアセトアミドを合成したところ、いずれも熱分解工程で副生成物の生成による気化器の閉塞が確認された。
【0060】
[比較例5]
実施例2でのN-(1-メトキシエチル)アセトアミド合成の反応時間を6時間から2時間に変更した以外は、実施例2と同様に操作を行ってN-(1-メトキシエチル)アセトアミド含有組成物を得た。得られた組成物の評価結果を下記表2に示す。
そして、当該組成物を用いた以外は、実施例1の合成例1-3と同様にしてN-ビニルアセトアミドを合成したところ、熱分解工程で気化器の閉塞が確認された。
【0061】
[比較例6]
実施例1における合成例1-2のN-(1-メトキシエチル)アセトアミド合成後のpH調整値をpH8.3からpH7.5に変更した以外は同様に操作を行ってN-(1-メトキシエチル)アセトアミド含有組成物を得た。得られた組成物の評価結果を下記表2に示す
そして、当該組成物を用いた以外は、実施例1の合成例1-3と同様にしてN-ビニルアセトアミドを合成したところ、熱分解工程で気化器の閉塞が確認された。
【0062】
【0063】
【0064】
表1に示すとおり、実施例1~10における条件(1)~(4)を全て満たす成分(A)及び成分(B)を含む組成物は、製造時におけるトラブルを生じず、N-ビニルカルボン酸アミドを安定して生産できることが確認された。
それに対して、表2に示すとおり、比較例1~6における成分(A)及び成分(B)を含む組成物は、条件(1)~(4)のいずれかを満たさないため、製造トラブルが発生し、N-ビニルカルボン酸アミドを安定して製造することが困難であることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0065】
N-ビニルカルボン酸アミドの製造において、本発明の組成物を用いることにより、供給配管での原料成分の固化や熱分解塔内での閉塞といった製造トラブルを回避することが可能となり、従来のN-(1-アルコキシエチル)カルボン酸アミド単体又はN-(1-アルコキシエチル)カルボン酸アミドを含む組成物を用いるよりも、より安定した生産が可能となる。
そして、この生産性の向上及び改善が、N-ビニルカルボン酸アミドの前駆体であるN-(1-アルコキシエチル)カルボン酸アミドを含む組成物に起因するものであるため、高額な温度調節設備の導入や熱分解反応器の改良を行わずに、より安定した生産を行うことが可能となり、それにより連続生産性も向上する。また、例えば、運転可能な供給配管温度の設定範囲も拡張することができる点、気化器を含む熱分解反応器における僅かな温度設定ムラ等よる不純物の生成も抑制されるため、従来よりも使用可能な設備の選択肢を拡げることが可能になる。更に、同様の理由から、製造設備の設置環境、例えば、配管温度等に影響する周囲温度の影響も受けにくくなることから、コスト的、地域的な観点からも、新たな製造設備の導入における障壁が少なくなるといったメリットも有している。
このように、本発明のN-(1-アルコキシエチル)カルボン酸アミド含有組成物は、従来設備におけるより安定した生産性の実現に加えて、運転条件や設備の選択肢の面での制約を少なくすることが可能であるため、更に、新たな製造設備を導入する場合の障壁も低くすることが可能であり、産業上、非常に有用である。