(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-04
(45)【発行日】2024-03-12
(54)【発明の名称】シリコンナノ粒子及びそれを用いた非水二次電池負極用活物質並びに二次電池
(51)【国際特許分類】
H01M 4/38 20060101AFI20240305BHJP
H01M 4/36 20060101ALI20240305BHJP
【FI】
H01M4/38 Z
H01M4/36 A
(21)【出願番号】P 2021080251
(22)【出願日】2021-05-11
(62)【分割の表示】P 2020505295の分割
【原出願日】2019-11-12
【審査請求日】2022-09-13
(31)【優先権主張番号】P 2018237348
(32)【優先日】2018-12-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002886
【氏名又は名称】DIC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100177471
【氏名又は名称】小川 眞治
(74)【代理人】
【識別番号】100163290
【氏名又は名称】岩本 明洋
(74)【代理人】
【識別番号】100149445
【氏名又は名称】大野 孝幸
(72)【発明者】
【氏名】諸 培新
(72)【発明者】
【氏名】川瀬 賢一
(72)【発明者】
【氏名】大塚 俊一
(72)【発明者】
【氏名】生熊 崇人
【審査官】佐溝 茂良
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-110076(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第108899527(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第115207312(CN,A)
【文献】特開2016-139579(JP,A)
【文献】特開2015-060776(JP,A)
【文献】特開2012-178269(JP,A)
【文献】特開2005-310759(JP,A)
【文献】WILAMOWSKA-ZAWLOCKA, Monika, et al.,Silicon oxycarbide ceramics as anodes for lithium ion batteries: influence of carbon content on lith,RSC ADV.,2016年10月27日,6,pp.104597-104607
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/38
H01M 4/36
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シート状シリコンナノ粒子を内包する珪素系無機化合物であって、当該珪素系無機化合物が、SiC
4の結合構造単位に帰属する
29Si-NMRピークがあり、当量構成比〔SiC
4結合/(SiC
4結合構造単位+D単位(SiO
2C
2)+T単位(SiO
3C)+Q単位(SiO
4))〕が
0.2~0.55の範囲にあることを特徴とする、シート状シリコンナノ粒子を用いたリチウムイオン二次電池負極活物質。
【請求項2】
大気中で1000℃までの熱分解重量損失が5質量%以上60質量%以下の範囲にあることを特徴とする、請求項1記載のリチウムイオン二次電池負極活物質。
【請求項3】
体積平均粒子径(D50)が1.0μm~20μmであり、窒素吸着測定より求めた比表面積が1.0m
2/g~20m
2/gであることを特徴とする、請求項1または2に記載のリチウムイオン二次電池負極活物質。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1項に記載のリチウムイオン二次電池負極活物質を含むリチウムイオン二次電池用負極。
【請求項5】
請求項4に記載の負極を有することを特徴とするリチウムイオン二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シリコンナノ粒子及びそれを用いた負極活物質並びリチウムイオン二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、スマートフォンなどの携帯電子機器の普及に伴い、小型・高容量二次電池の需要が高まっている。その中でもリチウムイオン二次電池(LIBと表記する場合がある)は、電気自動車(EV)への急速展開が進められており、産業上の利用範囲が広がり続いている。リチウムイオン二次電池の負極材として、炭素類の黒鉛活物質(天然、人工)が広く用いられているが、黒鉛の理論容量密度が低く(372mAh/g)、リチウムイオン二次電池構成技術の進化により、電池容量向上は限界に近づいている。
【0003】
シリコン(Si)は、金属リチウムと合金(金属間化合物)を形成できるため、電気化学的にリチウムイオンを吸蔵放出することが可能である。リチウムイオンの吸蔵放出容量は、Li2Si5を形成した場合の理論容量が4200mAh/gであり、黒鉛の負極より遥かに高容量化することが可能である。
【0004】
しかし、シリコンはリチウムイオンの吸蔵放出に伴い3倍~4倍の大きな体積変化を生じる。このため、充放電サイクルを行った場合、膨張収縮が繰り返されることによりシリコンが崩壊して微粉化してしまい、良好なサイクル寿命が得られないという課題があった。
【0005】
シリコン粒子を小粒径化にすれば、リチウムイオンの挿入・脱出時に機械的構造破壊が回避されることが可能と知られている。しかしながら、電極材にいるシリコンナノ粒子の一部が空間的/電気的に孤立することにより、電池の寿命特性が顕著に劣化するという新たな問題が生じた。また、シリコンナノ粒子の小粒径化に伴い、比表面積が数十m2/g以上に大きくなり、充放電の際、それに比例して表面上に固相界面電解質分解物(以下、SEIという。不可逆容量発生の主因となる。)の生成量も多く、初回クーロン効率が大幅に低下する問題があった。
【0006】
問題解決のため、二次元シリコン構造体が開発されている。特許文献1~2には、アスペクト比が1~20である扁片シリコンや鱗片状シリコンを用いた負極材料が記載されている。特許文献3にはアルコール存在下、CaSi2の酸処理で作製した層状シリコン化合物である記述である。また、シリケート層状化合物の解離及び金属Mgとの還元反応によりシリコンナノシートが得られ、充放電特性の改善も確認された(非特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2018-110076号公報
【文献】特開2018-113187号公報
【文献】特開2017-7908号公報
【非特許文献】
【0008】
【文献】Song Chen, et al., “Scalable 2D Mesoporous Silicon Nanosheets for High-Performance Lithium-ion Battery Anode”, Small, 2018, 14, 1703361.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ところで、上述した特許文献1~2に記載の鱗片状や扁平状シリコンは、導電性改善のためにグラフェン等炭素被膜する対策がとられるが、負極材料とした場合、炭素層の空隙によりシリコンが電解液に暴露されるため、Si表面上にSEIの形成が進むことで、電池の長期充放電性能が低下する恐れがある。
特許文献3に記載の化学手法処理で作製した層状シリコン化合物は、層状構造の徹底解離が困難であるため大粒径シリコンの残留と不純物の排除が大きな課題となり、サイクル特性の改善が限定的だと推測される。
また、非特許文献1に記載の多孔質シリコンナノシートは、解離した層状シリケートを金属Mgで還元させることで得られたものであるため、比表面積が非常に高く、Mg系不純物の多量残留も問題視される。
上記実情を鑑み、本発明が解決しようとする課題は、優れた充放電特性(充放電容量、初回クーロン効率及びサイクル特性)を有する非水二次電池負極活物質用シリコンナノ粒子、それを用いた非水二次電池負極活物質及び二次電池を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは上記の問題を解決するために、シリコンの高容量特性を最大限に発揮させるため、シリコン粒子の形状と表面状態の制御や、このシリコン粒子を内包する負極活物質の構成に着目して鋭意検討を重ねた結果、シリコン粒子が特定状態(表面状態、サイズ、形状など)を有するのものであり、また、このシリコンナノ粒子を内包する珪素系無機化合物からなる負極活物質が、珪素元素の特定な化学結合状態を有することを特徴とし、優れた充放電特性を発揮することを見出し、本発明に至った。
【0011】
すなわち本発明は、29Si-NMRのピークが-80ppmの中心に20ppm~50ppmの半値幅を有し且つ50ppm~-150ppmの範囲にブロードし、また、長軸方向の長さが70~300nmかつ厚みが15~70nm以下にあり、尚且つ、厚み/長さが0.5以下であることことを特徴とするリチウムイオン二次電池負極活物質用シリコンナノ粒子に関する。
また、本発明のシリコンナノ粒子を内包する珪素系無機化合物は、SiC4の結合構造単位に帰属する29Si-NMRピークがあり、当量構成比〔SiC4結合/(SiC4結合構造単位+D単位(SiO2C2)+T単位(SiO3C)+Q単位(SiO4))〕が0.05~0.55の範囲にあることを特徴とするリチウムイオン二次電池負極活物質に関する。
また、本発明の負極活物質を含む負極に関する。
また、本発明の負極活物質を含む負極を用いてなる二次電池に関する。
【0012】
本発明のシリコンナノ粒子を用いる負極活物質には、優れた充放電特性を得ることができる。具体的には、充放電容量と初回クーロン効率及びサイクル特性を同時に高いレベルで発現させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】実施例1のシリコンナノ粒子の透過型電子顕微鏡(TEM)画像である。
【
図2】実施例1のシリコンナノ粒子の
29Si-NMRスペクトルのチャート図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明について詳細に説明する。但し、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。下記の実施形態において、その構成要素(要素ステップ等も含む)は、特に明示した場合を除き、必須ではない。数値及びその範囲についても同様であり、本発明を制限するものではない。また、本明細書に開示される技術的思想の範囲内において、様々な変更及び修正が可能である。
【0015】
本発明は、以下の発明を提供する。
1. 29Si-NMRのピークが-80ppmの中心に20ppm~50ppmの半値幅を有し且つ50ppm~-150ppmの範囲にブロードし、尚且つ、長軸方向の長さが70~300nmかつ厚みが15~70nm以下にあることを特徴とする、リチウムイオン二次電池負極活物質用シリコンナノ粒子。
2. 厚み/長さが0.5以下であることを特徴とする上記1に記載のリチウムイオン二次電池負極活物質用シリコンナノ粒子。
3.上記1または2記載のシリコンナノ粒子を内包する珪素系無機化合物であって、当該珪素系無機化合物が、SiC4の結合構造単位に帰属する29Si-NMRピークがあり、当量構成比〔SiC4結合/(SiC4結合構造単位+D単位(SiO2C2)+T単位(SiO3C)+Q単位(SiO4))〕が0.05~0.55の範囲にあることを特徴とするリチウムイオン二次電池負極活物質。
4. 大気中で1000℃までの熱分解重量損失が5質量%以上60質量%以下の範囲にあることを特徴とする、上記3記載のリチウムイオン二次電池負極活物質。
5. 体積平均粒子径(D50)が1.0μm~20μmであり、窒素吸着測定より求めた比表面積が1.0m2/g~20m2/gであることを特徴とする、上記3又は4記載のリチウムイオン二次電池負極活物質。
6. 上記3~5のいずれか1項に記載のリチウムイオン電池負極活物質を含むリチウムイオン二次電池用負極。
7. 上記6に記載の負極を有することを特徴とするリチウムイオン二次電池。
【0016】
ちなみに、本発明のシリコンナノ粒子を含む珪素系無機化合物から構成されるリチウムイオン負極活物質は、上記した通り、シリコンナノ粒子が小サイズかつ特定の形態を有するほか、適量なSiC4構造体が形成することができる特徴がある。充放電時に、シリコンの微粉化が顕著に抑制された上、かつ、シートの形状により厚み方向でのシリコン粒子体積膨張が比較的に小さいと想定される。従って、シリコンナノ粒子が分散した負極活物質の体積変化が有効に抑えられることが考えられる。さらに、シリコンナノ粒子の表面上及び周辺に容易に形成するSiC4構造層が、SEIの形成を抑制する役割を果たすことがあるため、負極活物質の充放電特性(充放電容量、初回クーロン効率、サイクル特性)が大幅に向上することができると考えられる。
【0017】
<シリコンナノ粒子>
本発明のシリコンナノ粒子は、29Si-核磁気共鳴装置(以下、NMRという。)のピークが約-80ppmの位置を中心に20ppm~50ppmの半値幅を有し且つ50ppm~-150ppmの範囲にブロード化していることを最大の特徴としており、尚且つ長軸方向の長さが70~300nmかつ厚みが15~70nm以下にあることが好ましい。
上記した様に、ピークが最大強度のピーク位置(ppm)を中心として、ある幅(分布)をもって、0ppm側及び/又は-200ppm側にテーリングを有するということは、単体シリコンの以外の幾つかの化学結合の存在を示唆するものである。
-80ppm付近にあるピークは、単体シリコンの構造に帰属されるものである。それを中心に20ppm~50ppmの半値幅を有し、且つ50ppmから-150ppmの範囲にブロード化した29Si-NMRスペクトルは、単体シリコンの化学結合を主成分とし、多様な珪素の化学結合状態に帰属するものであると想起される。有機珪素化合物のNMR基礎知識によると、本発明のシリコンナノ粒子の表面上において有機シラン(基本化学結合構成単位:Si-R)やシロキサン(基本化学結合構成単位:Si-O-(R1、R2、R3);Si-O2-(R1,R2);Si-O3-R)などの特定構造がそれぞれ微量に含まれることが想定される。上記の各種官能基(R、R1、R2、R3)については、特に限定されるものでなく、ヒドロキシ基、カルボキシ基、アミノ基、アミド基、アゾ基などが挙げられる。また、解析手段精度の限界などにより上述の化学結合構成を定量的に同定することが困難であるが、この構成特徴がシリコンナノ粒子を得る工程との相関性があるのが明らかである。
粉体サンプルの29Si-NMRスペクトルは、固体NMR装置を用いて容易に得られるものであり、本明細書の固体NMR測定は、日本電子株式会社JEOL製装置(JNM-ECA600)を用いて実施されるものである。
より高い分解能を有する固体NMR装置を用いて、29Si-NMRスペクトルを測定すると、チャート図上の上記した約-80ppmの位置に最大強度を持ちそれを中心にテーリングした一つのピークが、このテーリング領域において分離できることが予想される。
【0018】
また、本発明のシリコンナノ粒子は、厚み/長さ(いわゆるアスペクト比)が0.5以下であることが好ましい。上記記載の範囲を超える大サイズのシリコン粒子は、大きな塊となり、充放電時に微粉化現象が起やすいため、活物質の充放電性能が低下する傾向が想定される。一方、上記の範囲が外れる小サイズのシリコン粒子が細かすぎるため、シリコン粒子同士が凝集しやすい現象が起きる。そのため、活物質中へ小粒子シリコンを均一に分散させるのが困難となり、また、微小粒子の表面活性エネルギーが高く、活物質の高温焼成で小粒子シリコンの表面上に副生成物などが多くなる傾向もあり、これが充放電性能の大幅な低下を繋がる。
【0019】
シリコンナノ粒子の形態は、動的光散乱法で平均粒径の測定が可能であるが、透過型電子顕微鏡(TEM)や電界出走査電子顕微鏡(FE-SEM)の解析手段を用いることで、上記した様な厚み/長さ等の、サンプルの形態(サイズ、形状など)をより容易かつ精密に同定することができる。尚、シリコンナノ粒子を内包した負極活物質粉末の場合は、サンプルを集束イオンビーム(FIB)で切断して断面をFE-SEM観察することができ、またはサンプルをスライス加工してTEM観察によりシリコン粒子の状態を同定することができる。
本発明に定められるシリコンナノ粒子のサイズ範囲は、TEM画像に映る視野内のサンプルの主要部分50粒子をベースにした計算結果である。観察視野の限界もあるゆえ、本発明のシリコンナノ粒子が上記の範囲から外れるサイズを有しても構わない。
【0020】
本発明のシリコンナノ粒子は、公知慣用の負極活物質に添加して用いることができる。本発明における負極活物質は、上記したシリコンナノ粒子と、その他の珪素系無機化合物とを含み、このシリコンナノ粒子はその他の珪素系無機化合物に内包された構造を有することが好ましい。シリコンナノ粒子を内包するその他の珪素系無機化合物としては、例えば、SiC(炭化シリコン)、SiOC(オキシ炭化シリコン)等を挙げることができる。
本発明のシリコンナノ粒子を内包する珪素系無機化合物からなる負極活物質は、SiC4の結合構造単位に帰属する29Si-NMRピークがあり、当量構成比〔SiC4結合/(SiC4結合構造単位+D単位(SiO2C2)+T単位(SiO3C)+Q単位(SiO4))〕が0.05~0.55の範囲にある。SiC4の化学結合が炭化シリコンの構造に帰属されるものであるため、SiC4の当量構成比が炭化シリコンの相対量を直接に反映できるパラメーターである。
SiC4の当量構成比が0.05~0.55の範囲にあることが好ましい。0.05より低くなると、炭化シリコンの相対量が足りなくなり、充放電時にシリコンナノ粒子への保護効果が不十分であるため、SEIの形成が進むことでサイクル性能が低下することがある。一方、0.55より大きくなった場合、リチウムイオンと反応できない炭化シリコンの相対量が多くなり、サイクル性能の大幅な改善が得られるが、充放電容量と初回クーロン効率が大幅に低下する恐れがある。
【0021】
本発明の負極活物質には、フリー炭素が存在し、大気中で熱分解されやすく、熱重量損失値によりフリー炭素の存在量を算出することができる。熱分解重量損失は、熱重量示差熱分析装置Thermogravimeter-Differential Thermal Analyzer(TG-DTA)を用いることで容易に同定される。
フリー炭素が、大気中・およそ600℃~900℃の温度範囲に熱分解されることに伴い、急激な重量減少が発生する。TG-DTA測定の最高温度は特に限定されないが、熱分解反応を徹底させるために、大気中、1000℃までの条件下でTG-DTA測定を行うのが好ましい。前述の理由により、得られた重量損失の値がフリー炭素の存在量を示す。本発明の炭素量としては、5質量%~60質量%の範囲にあるが、8質量%~50質量%がより好ましい。
【0022】
本発明の負極活物質は、体積平均粒子径(D50)が1.0μm~20μmであることが好ましく、1.0μm~15μmであることがより好ましい。負極活物質の体積平均粒子径が1.0μm以上であると、充分なタップ密度と、負極活物質スラリーとしたときの良好な塗工性が得られる傾向にある。一方、負極活物質の体積平均粒子径が20μm以下であると、負極活物質の表面から内部へのリチウムイオンの拡散距離が長くなりすぎず、二次電池の入出力特性が良好に維持される傾向にある。
【0023】
負極活物質の体積平均粒子径(D50)は、負極活物質の粒子径分布において、小径側から体積累積分布曲線を描いた場合に、累積50%となるときの粒子径である。体積平均粒子径(D50)は、レーザー回折式粒度分布測定装置(例えば、株式会社島津製作所製、SALD-3000J)で測定することができる。
【0024】
本発明の負極活物質は、BET「Brunauer-Emmett-Teller」窒素吸着測定より求めた比表面積が1.0m2/g~20m2/gを有することが好ましく、2m2/g~10m2/gであることがより好ましく、2m2/g~5m2/gであることが更に好ましい。負極活物質の比表面積が20m2/g以上になると、電解液とバインダーの消費量が多くなるため、実電池の作動に支障が起きる恐れがある。
BETの測定は、汎用の比表面積測定装置を用いることで容易に実施することができる。
【0025】
体積平均粒子径(D50)を1.0μm~20μmとし、かつ、窒素吸着測定より求めた比表面積が1.0m2/g~20m2/gとすることで、上記した両方の技術的効果をいずれも達成できる。
【0026】
<製法の説明>
本発明の負極活物質を製造する方法を以下説明する。
【0027】
<シリコンナノ粒子懸濁液の作製>
本発明のシリコンナノ粒子の製法としては、特に限定される手法はなく、シリコン合成のビルドアップ法(build-up)やシリコン粉砕のブレイクダウン(break-down)のプロセスを使っても構わない。ビルドアップ法で得られるシリコンナノ粒子は、シリコン表面過酸化防止などのために界面活性剤の有機シランで表面修飾処理すれば良い。粉砕式のブレイクダウンプロセスでは、湿式粉末粉砕装置を用いる場合、有機溶媒においてシリコン粒子の粉砕を促進させるために分散剤を使っても良い。湿式粉砕装置としては、特に限定されるものでなく、ローラーミル、ジェットミル、高速回転粉砕機、容器駆動型ミル、ビーズミルなどが挙げられる。
【0028】
湿式での上記製造方法では任意の溶媒を用いることができる。有機溶媒としては、特に限定されないが、シリコンと化学反応しなければ良い。例えば、ケトン類のアセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、ジイソブチルケトン;アルコール類のエタノール、メタノール、ノルマルプロピルアルコール、イソプロピルアルコール;芳香族のベンゼン、トルエン、キシレンなどが挙げられる。
【0029】
上記製造方法における分散剤の種類は、特に限定されるものでなく、水系や非水系の公知慣用の市販製品を使うことができるが、シリコン粒子の表面過剰酸化を回避するため、非水系分散剤の使用が好ましい。非水系分散剤の種類は、高分子型(ポリエーテル系、ポリアルキレンポリアミン系、ポリカルボン酸部分アルキルエステル系など)、低分子型(多価アルコールエステル系、アルキルポリアミン系など)、無機型のポリリン酸塩系などが例示される。
【0030】
<負極活物質前駆体の作製>
本発明の負極活物質の製造方法は、特に制限されるものではないが、湿式法にて製造する場合には、例えば、上記記載のシリコンナノ粒子の懸濁液と、ポリシロキサン化合物と、炭素源樹脂とを混合・分散後、乾燥することで混合体を得る工程1と、前記工程1で得られた混合体を不活性雰囲気中で焼成することにより焼成物を得る工程2と、前記工程2で得られた焼成物を粉砕することで負極活物質を得る工程3を経ることにより、本発明の負極活物質を製造することができる。この製造方法によれば、炭素を含み、シリコンナノ粒子が珪素系無機化合物に内包された構造を有する負極活物質を容易に得ることができる。
【0031】
<各工程の説明>
<工程1>
【0032】
上記記載のシリコンナノ粒子懸濁液の濃度は特に限定されないが、5~40質量%の範囲にあり、10~30質量%に調製すればより好ましい。
本発明の負極活物質作製に使用されるポリシロキサン化合物としては、ポリカルボシラン、ポリシラザン、ポリシラン及びポリシロキサン構造を少なくとも1つ含む樹脂であれば特に限定はない。これら単独の樹脂であっても良く、これをセグメントとして有し、他の重合体セグメントと化学的に結合した複合型樹脂でも良い。複合化の形態がグラフト、ブロック、ランダム、交互などの共重合体がある。例えば、ポリシロキサンセグメントと重合体セグメントの側鎖に化学的に結合したグラフト構造を有する複合樹脂があり、重合体セグメントの末端にポリシロキサンセグメントが化学的に結合したブロック構造を有する複合樹脂等が挙げられる。
【0033】
前記のポリシロキサンセグメントが、下記一般式(S-1)および/または下記一般式(S-2)で表される構造単位を有するものが好ましい。
【0034】
【0035】
【0036】
(前記一般式(S-1)及び(S-2)中、R1は芳香族炭化水素置換基又はアルキル基を表す。R2及びR3は、それぞれアルキル基、シクロアルキル基、アリール基またはアラルキル基を示す。)
【0037】
前記のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、tert-ペンチル基、1-メチルブチル基、2-メチルブチル基、1,2-ジメチルプロピル基、1-エチルプロピル基、ヘキシル基、イソヘキシル基、1-メチルペンチル基、2-メチルペンチル基、3-メチルペンチル基、1,1-ジメチルブチル基、1,2-ジメチルブチル基、2,2-ジメチルブチル基、1-エチルブチル基、1,1,2-トリメチルプロピル基、1,2,2-トリメチルプロピル基、1-エチル-2-メチルプロピル基、1-エチル-1-メチルプロピル基等が挙げられる。前記のシクロアルキル基としては、例えば、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基等が挙げられる。
【0038】
前記アリール基としては、例えば、フェニル基、ナフチル基、2-メチルフェニル基、3-メチルフェニル基、4-メチルフェニル基、4-ビニルフェニル基、3-イソプロピルフェニル基等が挙げられる。
【0039】
前記アラルキル基としては、例えば、ベンジル基、ジフェニルメチル基、ナフチルメチル基等が挙げられる。
【0040】
前記ポリシロキサン化合物が有するポリシロキサンセグメント以外の重合体セグメントとしては、例えば、アクリル重合体、フルオロオレフィン重合体、ビニルエステル重合体、芳香族系ビニル重合体、ポリオレフィン重合体等のビニル重合体セグメントや、ポリウレタン重合体セグメント、ポリエステル重合体セグメント、ポリエーテル重合体セグメント等の重合体セグメント等が挙げられる。中でも、ビニル重合体セグメントが好ましい。
【0041】
前記ポリシロキサン化合物が、ポリシロキサンセグメントと重合体セグメントとが下記の構造式(S-3)で示される構造で結合した複合樹脂でもよく、三次元網目状のポリシロキサン構造を有してもよい。
【0042】
【0043】
(式中、炭素原子は重合体セグメントを構成する炭素原子であり、2個の珪素原子はポリシロキサンセグメントを構成する珪素原子である)
【0044】
前記ポリシロキサン化合物が有するポリシロキサンセグメントは、該ポリシロキサンセグメント中に重合性二重結合など加熱により反応が可能な官能基を有していてもよい。熱分解前にポリシロキサン化合物を加熱処理することにより、架橋反応が進行し、固体状とすることにより、熱分解処理を容易に行うことができる。
【0045】
前記重合性二重結合としては、例えば、ビニル基や(メタ)アクリロイル基等が挙げられる。重合性二重結合は、ポリシロキサンセグメント中に2つ以上存在することが好ましく3~200個存在することがより好ましく、3~50個存在することが更に好ましい。また、ポリシロキサン化合物として重合性二重結合が2個以上存在する複合樹脂を使用することによって、架橋反応を容易に進行させることができる。
【0046】
前記ポリシロキサンセグメントは、シラノール基および/または加水分解性シリル基を有してもよい。加水分解性シリル基中の加水分解性基としては、例えば、ハロゲン原子、アルコキシ基、置換アルコキシ基、アシロキシ基、フェノキシ基、メルカプト基、アミノ基、アミド基、アミノオキシ基、イミノオキシ基、アルケニルオキシ基等が挙げられ、これらの基が加水分解されることにより加水分解性シリル基はシラノール基となる。前記熱硬化反応と並行して、シラノール基中の水酸基や加水分解性シリル基中の前記加水分解性基の間で加水分解縮合反応が進行することで、固体状のポリシロキサン化合物を得ることができる。
【0047】
本発明で言うシラノール基とは珪素原子に直接結合した水酸基を有する珪素含有基である。本発明で言う加水分解性シリル基とは珪素原子に直接結合した加水分解性基を有する珪素含有基であり、具体的には、例えば、下記の一般式(S-4)で表される基が挙げられる。
【0048】
【0049】
(式中、R4はアルキル基、アリール基又はアラルキル基等の1価の有機基を、R5はハロゲン原子、アルコキシ基、アシロキシ基、アリルオキシ基、メルカプト基、アミノ基、アミド基、アミノオキシ基、イミノオキシ基又はアルケニルオキシ基である。またbは0~2の整数である。)
【0050】
前記アルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、tert-ペンチル基、1-メチルブチル基、2-メチルブチル基、1,2-ジメチルプロピル基、1-エチルプロピル基、ヘキシル基、イソヘシル基、1-メチルペンチル基、2-メチルペンチル基、3-メチルペンチル基、1,1-ジメチルブチル基、1,2-ジメチルブチル基、2,2-ジメチルブチル基、1-エチルブチル基、1,1,2-トリメチルプロピル基、1,2,2-トリメチルプロピル基、1-エチル-2-メチルプロピル基、1-エチル-1-メチルプロピル基等が挙げられる。
【0051】
前記アリール基としては、例えば、フェニル基、ナフチル基、2-メチルフェニル基、3-メチルフェニル基、4-メチルフェニル基、4-ビニルフェニル基、3-イソプロピルフェニル基等が挙げられる。
【0052】
前記アラルキル基としては、例えば、ベンジル基、ジフェニルメチル基、ナフチルメチル基等が挙げられる。
【0053】
前記ハロゲン原子としては、例えば、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等が挙げられる。
【0054】
前記アルコキシ基としては、例えば、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、イソプロポキシ基、ブトキシ基、第二ブトキシ基、第三ブトキシ基等が挙げられる。
【0055】
前記アシロキシ基としては、例えば、ホルミルオキシ、アセトキシ、プロパノイルオキシ、ブタノイルオキシ、ピバロイルオキシ、ペンタノイルオキシ、フェニルアセトキシ、アセトアセトキシ、ベンゾイルオキシ、ナフトイルオキシ等が挙げられる。
【0056】
前記アリルオキシ基としては、例えば、フェニルオキシ、ナフチルオキシ等が挙げられる。
【0057】
前記アルケニルオキシ基としては、例えば、ビニルオキシ基、アリルオキシ基、1-プロペニルオキシ基、イソプロペニルオキシ基、2-ブテニルオキシ基、3-ブテニルオキシ基、2-ペテニルオキシ基、3-メチル-3-ブテニルオキシ基、2-ヘキセニルオキシ基等が挙げられる。
【0058】
上記一般式(S-1)および/または上記一般式(S-2)で示される構造単位を有するポリシロキサンセグメントとしては、例えば以下の構造を有するもの等が挙げられる。
【0059】
【0060】
【0061】
【0062】
前記重合体セグメントは、本発明の効果を阻害しない範囲で、必要に応じて各種官能基を有していても良い。かかる官能基としては、例えばカルボキシル基、ブロックされたカルボキシル基、カルボン酸無水基、3級アミノ基、水酸基、ブロックされた水酸基、シクロカーボネート基、エポキシ基、カルボニル基、1級アミド基、2級アミド、カーバメート基、下記の構造式(S-5)で表される官能基等を使用することができる。
【0063】
【0064】
また、前記重合体セグメントは、ビニル基、(メタ)アクリロイル基等の重合性二重結合を有していてもよい。
【0065】
本発明で用いるポリシロキサン化合物は、公知の方法で製造できるが、なかでも下記(1)~(3)に示す方法で製造することが好ましい。但し、これらに限定されるものではない。
【0066】
(1)前記重合体セグメントの原料として、シラノール基および/または加水分解性シリル基を含有する重合体セグメントを予め調製しておき、この重合体セグメントと、シラノール基および/または加水分解性シリル基、並びに重合性二重結合を併有するシラン化合物を含有するシラン化合物とを混合し、加水分解縮合反応を行う方法。
【0067】
(2)前記重合体セグメントの原料として、シラノール基および/または加水分解性シリル基を含有する重合体セグメントを予め調製する。また、シラノール基および/または加水分解性シリル基、並びに重合性二重結合を併有するシラン化合物を含有するシラン化合物を加水分解縮合反応してポリシロキサンも予め調製しておく。そして、重合体セグメントとポリシロキサンとを混合し、加水分解縮合反応を行う方法。
【0068】
(3)前記重合体セグメントと、シラノール基および/または加水分解性シリル基、並びに重合性二重結合を併有するシラン化合物を含有するシラン化合物と、ポリシロキサンとを混合し、加水分解縮合反応を行う方法。
【0069】
炭素源樹脂は、前記の前駆体作製時にポリシロキサン化合物との混和性が良く、また、不活性雰囲気中・高温焼成により炭化されることがあれば特に限定されないが、芳香族官能基を有する合成樹脂類や天然化学原料を用いることが好ましい、安価入手や不純物排除の観点からフェノール樹脂の使用がより好ましい。
【0070】
合成樹脂類としては、ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸などの熱可塑性樹脂、フェノール樹脂、フラン樹脂などの熱硬化性樹脂が挙げられる。天然化学原料としては、重質油、特にはタールピッチ類としては、コールタール、タール軽油、タール中油、タール重油、ナフタリン油、アントラセン油、コールタールピッチ、ピッチ油、メソフェーズピッチ、酸素架橋石油ピッチ、ヘビーオイルなどが挙げられる。
【0071】
前記の前駆体作製工程では、シリコンナノ粒子の懸濁液とポリシロキサン化合物と炭素源樹脂を均一に混合させた後、脱溶媒と乾燥を経て前駆体が得られる。原料の混合では、特に限定されないが、汎用な分散・混合の機能を有する装置を用いることができる。その中、攪拌機、超音波ミキサー、プリミックス分散機などが挙げられる。有機溶媒を溜去することを目的とする脱溶剤と乾燥の作業では、乾燥機、減圧乾燥機、噴霧乾燥機などを用いることができる。
【0072】
この負極活物質前駆体は、質量に対して、シリコンナノ粒子の含有量を3~50質量%、ポリシロキサン化合物の固形分を15~85質量%含有し、炭素源樹脂の固形分を3~70質量%含有する様に設定することが好ましく、シリコンナノ粒子の固形分含有量を8~40質量%、ポリシロキサン化合物の固形分を20~70質量%に、炭素源樹脂の固形分を3~60質量%に設定することがより好ましい。
【0073】
<工程2>
工程2は、前記の負極活物質前駆体を不活性雰囲気中に高温焼成することで、熱分解可能な有機成分を完全分解させ、その他の主成分を焼成条件の精密制御により本発明の負極活物質に適した焼成物とする工程である。具体的にいうと、原料のポリシロキサン化合物に存在する「Si-O」結合は、高温処理のエネルギーによって脱水縮合反応が進むことで「Si-O-C」の骨格構造(本明細書以下の記載中にSiOCと称す)を形成すると共に、均一化分散されていた炭素源樹脂も炭化されることで、「Si-O-C」骨格を有する三次元構造体中にフリー炭素として転化される。
【0074】
上記工程2では、前記の工程1で得られた前駆体を不活性雰囲気下、昇温速度、一定温度でのホールド時間等により既定される焼成のプログラムに沿って焼成する。最高到達温度は、設定する最高温度であり、焼成物である負極活物質の構造や性能に強く影響を与えるものである。本発明での最高到達温度が900℃~1250℃であることが好ましく、1000℃~1150℃であることがより好ましい。この温度範囲で焼成することにより、前述の珪素と炭素の化学結合状態を保有する負極活物質の微細構造が精密に制御でき、過高温焼成でのシリコン粒子の酸化も回避できることでより優れた充放電特性が得られる。
【0075】
焼成方法は、特に限定されないが、雰囲気中にて加熱機能を有する反応装置を用いればよく、連続法、回分法での処理が可能である。焼成用装置については、流動層反応炉、回転炉、竪型移動層反応炉、トンネル炉、バッチ炉、ロータリーキルン等をその目的に応じ適宜選択することができる。
【0076】
<工程3>
上記工程2において得られた焼成物をそのまま負極活物質として用いても良いが、負極を製造する際の取り扱い性や負極性能を高めるために、適切な粒子径及び表面積を有するものを選択的に得ることが好ましい。この工程3は、この様な目的のための任意工程であり、上記の工程2で得られた焼成物を粉砕し、必要に応じて分級することで本発明の負極活物質を得るものである。粉砕は目的とする粒径まで一段で行っても良いし、数段に分けて行っても良い。例えば焼成物が10mm以上の塊または凝集粒子となっていて、10μmの活物質を作製する場合はジョークラッシャー、ロールクラッシャー等で粗粉砕を行い1mm程度の粒子にした後、グローミル、ボールミル等で100μmとし、ビーズミル、ジェットミル等で10μmまで粉砕する。粉砕で作製した粒子には粗大粒子が含まれる場合がありそれを取り除くため、また、微粉を取り除いて粒度分布を調整する場合は分級を行う。使用する分級機は風力分級機、湿式分級機等目的に応じて使い分けるが、粗大粒子を取り除く場合、篩を通す分級方式が確実に目的を達成できるために好ましい。尚、本焼成前に前駆体混合物を噴霧乾燥等により目標粒子径付近の形状に制御し、その形状で本焼成を行った場合は、もちろん粉砕工程を省くことも可能である。
【0077】
上記の製造法で得られた本発明の負極活物質は、取り扱い性や負極性能に優れる点で、平均粒径(動的光散乱法)が1~20μmであることが好ましく、1μm~15μmがより好ましい。
【0078】
<負極の作製>
本発明の負極活物質は、上述の通りに優れた充放電特性を示すことから、これを電池負極として用いた時に、良好な充放電特性を発揮するものである。
具体的には、本発明の負極活物質と有機結着剤とを必須成分として、必要に応じてその他の導電助剤などの成分を含んで構成されるスラリーを集電体銅箔上へ薄膜のようにして負極として用いることができる。また、上記のスラリーに公知慣用されている黒鉛など炭素材料を加えて負極を作製することもできる。
この黒鉛など炭素材料としては、天然黒鉛、人工黒鉛、ハードカーボン、ソフトカーボンなどが挙げられる。こうして得られる負極は、活物質として、本発明の負極活物質を含むことから、高容量かつ優れたサイクル特性を有し、さらに、優れた初回クーロン効率をも兼備する二次電池用負極となる。該負極は、例えば、前述の二次電池用負極活物質と、有機結着材であるバインダーとを、溶媒とともに撹拌機、ボールミル、スーパーサンドミル、加圧ニーダ等の分散装置により混練して、負極材スラリーを調製し、これを集電体に塗布して負極層を形成することで得ることができる。また、ペースト状の負極材スラリーをシート状、ペレット状等の形状に成形し、これを集電体と一体化することでも得ることができる。
【0079】
上記有機結着剤としては、特に限定されないが、例えば、スチレン-ブタジエンゴム共重合体(SBR);エチレン性不飽和カルボン酸エステル(例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリロニトリル、およびヒドロキシエチル(メタ)アクリレート等)、およびエチレン性不飽和カルボン酸(例えば、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、フマル酸、マレイン酸等)からなる(メタ)アクリル共重合体;ポリ弗化ビニリデン、ポリエチレンオキサイド、ポリエピクロヒドリン、ポリホスファゼン、ポリアクリロニトリル、ポリイミド、ポリアミドイミド、カルボキシメチルセルロース(CMC)などの高分子化合物が挙げられる。
【0080】
これらの有機結着剤は、それぞれの物性によって、水に分散、あるいは溶解したもの、また、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)などの有機溶剤に溶解したものがある。リチウムイオン二次電池負極の負極層中の有機結着剤の含有比率は、1~30質量%であることが好ましく、2~20質量%であることがより好ましく、3~15質量%であることがさらに好ましい。
【0081】
有機結着剤の含有比率が1質量%以上であることで密着性がより良好で、充放電時の膨張・収縮によって負極構造の破壊がより抑制される。一方、30質量%以下であることで、電極抵抗の上昇がより抑えられる。
【0082】
この際、本発明の負極活物質においては、化学安定性が高く、水性バインダーも採用することができる点で、実用化面においても取り扱い容易なものである。
【0083】
また、上記負極材スラリーには、必要に応じて、導電助材を混合してもよい。導電助材としては、例えば、カーボンブラック、グラファイト、アセチレンブラック、あるいは導電性を示す酸化物や窒化物等が挙げられる。導電助剤の使用量は、本発明の負極活物質に対して1~15質量%程度とすればよい。
【0084】
また前記集電体の材質および形状については、特に限定されず、例えば、銅、ニッケル、チタン、ステンレス鋼等を、箔状、穴開け箔状、メッシュ状等にした帯状のものを用いればよい。また、多孔性材料、たとえばポーラスメタル(発泡メタル)やカーボンペーパーなども使用可能である。
【0085】
上記負極材スラリーを集電体に塗布する方法としては、特に限定されないが、例えば、メタルマスク印刷法、静電塗装法、ディップコート法、スプレーコート法、ロールコート法、ドクターブレード法、グラビアコート法、スクリーン印刷法など公知の方法が挙げられる。塗布後は、必要に応じて平板プレス、カレンダーロール等による圧延処理を行うことが好ましい。
【0086】
また、シート状、ペレット状等の形状に成形された負極材スラリーと集電体との一体化は、例えば、ロール、プレス、もしくはこれらの組み合わせ等、公知の方法により行うことができる。
【0087】
前記集電体上に形成された負極層および集電体と一体化した負極層は、用いた有機結着剤に応じて熱処理することが好ましい。例えば、公知慣用されている水系のスチレン-ブタジエンゴム共重合体(SBR)などを用いた場合には100~130℃で熱処理すればよく、ポリイミド、ポリアミドイミドを主骨格とした有機結着剤を用いた場合には150~450℃で熱処理することが好ましい。
【0088】
この熱処理により溶媒の除去、バインダーの硬化による高強度化が進み、粒子間及び粒子と集電体間の密着性が向上できる。尚、これらの熱処理は、処理中の集電体の酸化を防ぐため、ヘリウム、アルゴン、窒素等の不活性雰囲気、真空雰囲気で行うことが好ましい。
【0089】
また、熱処理する後に、負極はプレス(加圧処理)しておくことが好ましい。本発明の負極活物質を用いた二次電池用負極では、電極密度が1.0~1.8g/cm3であることが好ましく、1.1~1.7g/cm3であることがより好ましく、1.2~1.6g/cm3であることがさらに好ましい。電極密度については、高いほど密着性及び電極の体積容量密度が向上する傾向があるが、密度が高すぎると、電極中の空隙が減少することで珪素など体積膨張の抑制効果が弱くなり、サイクル特性が低下するため、最適な範囲を選択する。
【0090】
<フル電池の構成>
上述のように、本発明の負極活物質を用いた負極は、充放電特性に優れるため、二次電池であれば特に限定されないが、非水電解質二次電池と固体型電解質二次電池に用いることが好ましく、特に非水電解質二次電池の負極として用いた際に優れた性能を発揮するものである。
【0091】
本発明の電池は、上述の本発明の負極を用いてなることを特徴とする。例えば、湿式電解質二次電池に用いる場合、正極と、本発明の負極とを、セパレータを介して対向して配置し、電解液を注入することにより構成することができる。
【0092】
前記正極は、前記負極と同様にして、集電体表面上に正極層を形成することで得ることができる。この場合の集電体はアルミニウム、チタン、ステンレス鋼等の金属や合金を、箔状、穴開け箔状、メッシュ状等にした帯状のものを用いることができる。
【0093】
前記正極層に用いる正極材料としては、特に制限されない。非水電解質二次電池の中でも、リチウムイオン二次電池を作製する場合には、例えば、リチウムイオンをドーピングまたはインターカレーション可能な金属化合物、金属酸化物、金属硫化物、または導電性高分子材料を用いればよく、特に限定されない。例えば、コバルト酸リチウム(LiCoO2)、ニッケル酸リチウム(LiNiO2)、マンガン酸リチウム(LiMnO2)、およびこれらの複合酸化物(LiCoxNiyMnzO2、x+y+z=1)、リチウムマンガンスピネル(LiMn2O4)、リチウムバナジウム化合物、V2O5、V6O13、VO2、MnO2、TiO2、MoV2O8、TiS2、V2S5、VS2、MoS2、MoS3、Cr3O8、Cr2O5、オリビン型LiMPO4(M:Co、Ni、Mn、Fe)、ポリアセチレン、ポリアニリン、ポリピロール、ポリチオフェン、ポリアセン等の導電性ポリマー、多孔質炭素等などを単独或いは混合して使用することができる。
【0094】
前記セパレータとしては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィンを主成分とした不織布、クロス、微孔フィルム又はそれらを組み合わせたものを使用することができる。なお、作製する非水電解質二次電池の正極と負極が直接接触しない構造にした場合は、セパレータを使用する必要はない。
【0095】
前記電解液としては、例えば、LiClO4、LiPF6、LiAsF6、LiBF4、LiSO3CF3等のリチウム塩を、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート、ビニレンカーボネート、フルオロエチレンカーボネート、シクロペンタノン、スルホラン、3-メチルスルホラン、2,4-ジメチルスルホラン、3-メチル-1,3-オキサゾリジン-2-オン、γ-ブチロラクトン、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、メチルプロピルカーボネート、ブチルメチルカーボネート、エチルプロピルカーボネート、ブチルエチルカーボネート、ジプロピルカーボネート、1,2-ジメトキシエタン、テトラヒドロフラン、2-メチルテトラヒドロフラン、1,3-ジオキソラン、酢酸メチル、酢酸エチル等の単体もしくは2成分以上の混合物の非水系溶剤に溶解した、いわゆる有機電解液を使用することができる。
【0096】
本発明の電池の構造は、特に限定されないが、通常、正極および負極と、必要に応じて設けられるセパレータとを、扁平渦巻状に巻回して巻回式極板群としたり、これらを平板状として積層して積層式極板群としたりし、これら極板群を外装体中に封入した構造とするのが一般的である。尚、本発明の実施例で用いるハーフセルは、負極に本発明の珪素含有活物質を主体とする構成とし、対極に金属リチウムを用いた簡易評価を行っているが、これはより活物質自体のサイクル特性を明確に比較するためである。前述したとおり、黒鉛系活物質(容量約340mAh/g前後)を主体とした合剤に少量添加し、既存負極容量を大きく上回る400~700mAh/g程度の負極容量に抑え、サイクル特性を向上させることは、もちろん可能である。
【0097】
<用途などその他>
本発明の負極活物質を用いた二次電池は、特に限定されないが、ペーパー型電池、ボタン型電池、コイン型電池、積層型電池、円筒型電池、角型電池などとして使用される。上述した本発明の負極活物質は、リチウムイオンを挿入脱離することを充放電機構とする電気化学装置全般、例えば、ハイブリッドキャパシタ、固体リチウム二次電池などにも適用することが可能である。
【実施例】
【0098】
以下、本発明を実施例により詳細に説明する。部及び%は、特に断りがない限り、質量基準であるものとする。
【0099】
「ポリシロキサン化合物の作製」
(合成例1:メチルトリメトキシシランの縮合物(m-1)の合成)攪拌機、温度計、滴下ロート、冷却管及び窒素ガス導入口を備えた反応容器に、メチルトリメトキシシラン(以下、「MTMS」と略記する。)1,421質量部を仕込んで、60℃まで昇温した。次いで、前記反応容器中にiso-プロピルアシッドホスフェート(SC有機化学株式会社製「Phoslex A-3」)0.17質量部と脱イオン水207質量部との混合物を5分間で滴下した後、80℃の温度で4時間撹拌して加水分解縮合反応させた。
【0100】
上記の加水分解縮合反応によって得られた縮合物を、温度40~60℃及び40~1.3kPaの減圧下(メタノールの留去開始時の減圧条件が40kPaで、最終的に1.3kPaとなるまで減圧する条件をいう。以下、同様。)で蒸留し前記反応過程で生成したメタノール及び水を除去することによって、数平均分子量1,000のMTMSの縮合物(m-1)を含有する液(有効成分70質量%)1,000質量部を得た。
【0101】
なお、前記有効成分とは、MTMS等のシランモノマーのメトキシ基が全て縮合反応した場合の理論収量(質量部)を、縮合反応後の実収量(質量部)で除した値〔シランモノマーのメトキシ基が全て縮合反応した場合の理論収量(質量部)/縮合反応後の実収量(質量部)〕により算出したものである。
【0102】
(合成例2:ポリシロキサン化合物(PS-1)の合成)攪拌機、温度計、滴下ロート、冷却管及び窒素ガス導入口を備えた反応容器に、イソプロピルアルコール(以下、「IPA」と略記する。) 150質量部、フェニルトリメトキシシラン(以下、「PTMS」と略記する。)105質量部、ジメチルジメトキシシラン(以下、「DMDMS」と略記する。) 277質量部を仕込んで80℃まで昇温した。
【0103】
次いで、同温度でメチルメタクリレート21質量部、ブチルメタクリレート4質量部、ブチルアクリレート3質量部、3-メタクリルオキシプロピルトリメトキシシラン2質量部、IPA 3質量部及びtert-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート0.6質量部を含有する混合物を、前記反応容器中へ6時間で滴下し、滴下終了後、更に同温度で20時間反応させて加水分解性シリル基を有する数平均分子量が10,000のビニル重合体(a-1)の有機溶剤溶液を得た。
【0104】
次いで、Phoslex A-3 0.04質量部と脱イオン水112質量部との混合物を、5分間で滴下し、更に同温度で10時間攪拌して加水分解縮合反応させることで、ビニル重合体(a-1)の有する加水分解性シリル基と、前記PTMS及びDMDMS由来のポリシロキサンの有する加水分解性シリル基及びシラノール基とが結合した複合樹脂を含有する液を得た。次いで、この液に合成例1で得られたMTMSの縮合物(m-1)を含有する液472質量部、脱イオン水80質量部を添加し、同温度で10時間攪拌して加水分解縮合反応させたものを、合成例1と同様の条件で蒸留することによって生成したメタノール及び水を除去し、次いで、IPA 250質量部を添加し、不揮発分が60.0質量%のポリシロキサン化合物(PS-1)の溶液1,000質量部を得た。
【0105】
(ハーフ電池の作製及び充放電特性の測定)
本発明の負極活物質を用いた評価用ハーフ電池を下記のように組立て、充放電特性を測定した。
まず、負極活物質(8部)と導電助剤のアセチレンブラック(1部)と有機結着剤(1部)、内訳:市販品SBRスチレンーブタジェン共重合体ゴム(0.75部)+CMCカルボシキシメチルセルロース(0.25部)及び蒸留水(10部)を混合して、自転公転式の泡取り錬太郎で10分間攪拌することで、負極材スラリーを調製した。
これを、アプリケーターを用いて厚み20μmの銅箔へ塗膜後、110℃の減圧条件下で乾燥し、厚みが約40μmの電極薄膜を得た。直径14mmの円状電極に打ち抜き、20MPaの圧力下でプレスした。酸素濃度の低い(<10ppm)と水分含量の極低(露点-40℃以下)であるグローボックス中においてLi箔を対極に、25μmのポリプロピレン製セパレータを介して本発明の電極を対向させ、電解液(キシダ化学、1mol/LのLiPF6、炭酸ジエチル:炭酸エチレン=1:1(容積比))を吸着させて評価用ハーフ電池(CR2032型)を作製した。
【0106】
二次電池充放電試験装置(北斗電工)を用いて電池特性を測定し、室温25℃、カットオフ電圧範囲が0.005~1.5Vに、充放電レートが0.1C(1~3回)と0.2C(4サイクル以後)にし、定電流・定電圧式充電/定電流式放電の設定条件下で充放電特性の評価試験を行った。各充放電時の切り替え時には、30分間、開回路で放置した。初回クーロン効率とサイクル特性(本願では10サイクル時の容量維持率を指す)は以下のようにして求めた。
【0107】
初回クーロン効率(%)=初回放電容量(mAh/g)/初回充電容量(mAh/g)容量維持率(10回目)=10回目の放電容量(mAh/g)/初回放電容量(mAh/g)
【0108】
(実施例1)
本発明の負極活物質を以下の様にして調製した。
湿式粉砕法(ビーズミル+市販分散剤)でシリコンナノ粒子を得た。TEMの観察(
図1)でシリコン粒子は長軸方向の長さが150~300nmかつ厚みが40~70nm以下の範囲にあることを示した。乾燥したシリコンナノ固体NMR(
29Si)測定結果は、-79.8ppmを中心にしたピークが50ppm~-150ppmの範囲にブロードし、半値幅が36ppmであるスペクトルを示した(
図2)。
このシリコンナノ粒子の懸濁液をポリシロキサン珪素系有機化合物(上記合成例で得たもの)と市販フェノール樹脂と一定な構成比で(焼成後の組成で計算した仕込み構成:SiOC/C/Si=0.2/0.3/0.5)均一に混合後、減圧乾燥で得られた前駆体を窒素雰囲気中、1100℃・6時間にて高温焼成することで、SiOC/C/Siを含む黒色固形物を得た。
遊星型ボールミルで粉砕した粉末状活物質が、11μmの平均粒径(D50)と15m
2/gの比表面積(BET)を有した。固体NMR(
29Si)測定結果は、SiC
4の結合構造単位に帰属する当量構成比「SiC
4/(SiC
4+SiO
2C
2+SiO
3C+SiO
4)」が20%であった。
導電助剤とバインダーとの混合によりスラリーを調製して銅箔上に製膜を行った。110℃・減圧乾燥後、Li金属箔を対極してハ-フ電池を作製し、充放電特性の評価を行った(カットオフ電圧範囲:0.005~1.5V、充放電レート:0.1C(初期から3サイクルまで)、0.2C(4サイクル後))。
測定結果、優れた充放電特性を示した(初回放電容量が1600mAh/g;初回クーロン効率が85%;10サイクル後の容量維持率が88%)。
【0109】
(実施例2~8)
実施例1のシリコンナノ粒子の製造条件を振って、各種の長軸長さ、厚み及び厚み/長さのシリコンナノ粒子を得た。これらは、いずれも、29Si-NMRのピークが-80ppmの中心に20ppm~50ppmの半値幅を有し且つ50ppm~-150ppmの範囲にブロード化しており、尚且つ、長軸方向の長さが70~300nmかつ厚みが15~70nm以下であった。
これら各シリコンナノ粒子を用いる以外は、実施例1と同様にした。
【0110】
(比較例1)
29Si-NMRが約-80ppmの中心に最大強度のピークを有する単体シリコンを含む、長軸方向の長さが300~1000nmかつ厚みが500nm以上のSiの懸濁液を用いた以外は、実施例1と同様にした。
【0111】
(比較例2)
29Si-NMRが約-80ppmの中心に最大強度のピークを有する単体シリコンを含む、長軸方向の長さが30~50nmかつ厚みが5~9nmの範囲にあるSiの懸濁液を用いた以外は、実施例1と同様にした。
【0112】
上記の各実施例と各比較例のサンプル性状、充放電特性等は、まとめて表1に示した。表中、BETはBET比表面積測定値を、初回効率は初回クーロン効率測定値を、容量維持率@10thは10サイクル後の容量維持率測定値(サイクル特性良否)を、それぞれ示す。
【0113】
【0114】
上記実施例と比較例1~2との対比からわかる通り、29Si-NMRのピークが-80ppmの中心に20ppm~50ppmの半値幅を有し且つ50ppm~-150ppmの範囲にブロードし、尚且つ、長軸方向の長さが70~300nmかつ厚みが15~70nm以下である本発明のシリコンナノ粒子(実施例)は、厚みも長さも共に大きく、29Si-NMRが約-80ppmの中心に最大強度のピークを有するだけの従来の単体シリコン(比較例1)や、厚みも長さも共に小さく、29Si-NMRが約-80ppmの中心に最大強度のピークを有するだけの従来の単体シリコン(比較例2)に比べて、これらシリコンの表面状態の相違に基づき、その他の珪素系無機化合物と併用した場合には、より大きな負極性能の向上率を期待できる。これは、公知の負極活物質の性能改良用添加剤としての有用性を示すものである。
【0115】
また、上記実施例と比較例1~2との対比からわかる通り、例えば、上記シリコンナノ粒子を含ませて焼成により結果的に得られた負極活物質は、SiOC/C/Siを含んでおり、シリコンナノ粒子がSiOCの珪素系無機化合物により内包される構造と共に、特定当量構成比を満足しているため、これを用いて電池とした際に、より高い充放電容量、より高い初回クーロン効率及びより高い容量維持率(優れたサイクル特性)を兼備していることが明らかである。