(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-04
(45)【発行日】2024-03-12
(54)【発明の名称】リチウムイオン二次電池用負極材、リチウムイオン二次電池用負極材の製造方法、リチウムイオン二次電池用負極材スラリー、リチウムイオン二次電池用負極、及びリチウムイオン二次電池
(51)【国際特許分類】
H01M 4/587 20100101AFI20240305BHJP
H01M 4/36 20060101ALI20240305BHJP
H01M 4/1393 20100101ALI20240305BHJP
H01M 4/133 20100101ALI20240305BHJP
H01M 4/62 20060101ALI20240305BHJP
【FI】
H01M4/587
H01M4/36 D
H01M4/36 A
H01M4/1393
H01M4/133
H01M4/62 Z
(21)【出願番号】P 2021543810
(86)(22)【出願日】2019-09-02
(86)【国際出願番号】 JP2019034414
(87)【国際公開番号】W WO2021044482
(87)【国際公開日】2021-03-11
【審査請求日】2022-06-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000004455
【氏名又は名称】株式会社レゾナック
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】松本 喜幸
(72)【発明者】
【氏名】政吉 健志
(72)【発明者】
【氏名】坂本 崇
(72)【発明者】
【氏名】土屋 秀介
【審査官】儀同 孝信
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-059690(JP,A)
【文献】特許第6160770(JP,B2)
【文献】特開2013-211228(JP,A)
【文献】特開2015-141772(JP,A)
【文献】特表2018-532222(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/587
H01M 4/36
H01M 4/1393
H01M 4/133
H01M 4/62
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
配向面が非平行となるように集合又は結合している複数の扁平状の黒鉛粒子と、球状の黒鉛粒子と、を含む複合粒子を含み;
前記複合粒子が以下の(1)及び(2)を満たし:
(1)水銀圧入法により得られる、細孔直径0.10μm以上8.00μm以下の範囲における細孔容積が、0.20mL/g以上1.00mL/g以下である、
(2)水銀圧入法により得られるLog微分細孔容積分布にて、細孔直径が0.10μm以上8.00μm以下の範囲において、少なくとも、第1のピークP1及び前記第1のピークP1よりも高直径側にある第2のピークP2の2本のピークが出現する;
前記第1のピークP1のLog微分細孔容積が最大となるときの細孔直径が
1.00μm以上4.00μm未満であり、前記第2のピークP2のLog微分細孔容積が最大となるときの細孔直径が4.50μm以上
7.00μm以下である、
リチウムイオン二次電池用負極材。
【請求項2】
前記複合粒子が以下の(1’)及び前記(2)を満たす、請求項1に記載のリチウムイオン二次電池用負極材。
(1’)水銀圧入法により得られる、細孔直径0.10μm以上8.00μm以下の範囲における細孔容積が、0.40mL/g以上1.00mL/g以下であ
る。
【請求項3】
前記2本のピークの強度比(P1/P2)が4.0以下である、請求項1又は請求項2に記載のリチウムイオン二次電池用負極材。
【請求項4】
前記複合粒子のラマン測定のR値が0.03以上0.10以下である、請求項1~請求項3のいずれか1項に記載のリチウムイオン二次電池用負極材。
【請求項5】
前記複合粒子のBET法にて測定される比表面積が1.5m
2/g以上6.0m
2/g以下である、請求項1~請求項4のいずれか1項に記載のリチウムイオン二次電池用負極材。
【請求項6】
前記複合粒子の飽和タップ密度が0.60g/cm
3以上0.90g/cm
3以下である、請求項1~請求項5のいずれか1項に記載のリチウムイオン二次電池用負極材。
【請求項7】
前記球状の黒鉛粒子の円形度が0.80以上である、請求項1~請求項6のいずれか1項に記載のリチウムイオン二次電池用負極材。
【請求項8】
複合化されていない球状天然黒鉛をさらに含み、
前記複合粒子と前記複合化されていない球状天然黒鉛との合計量に対する、前記複合化されていない球状天然黒鉛の割合が30質量%以上である、請求項1~請求項7のいずれか1項に記載のリチウムイオン二次電池用負極材。
【請求項9】
黒鉛化可能な骨材、黒鉛化可能なバインダー、黒鉛化触媒、及び球状の黒鉛粒子を含む混合物を得ることと、
前記混合物を焼成することと、
を含む方法によって前記複合粒子を作製することを含む、請求項1~請求項8のいずれか1項に記載のリチウムイオン二次電池用負極材の製造方法。
【請求項10】
前記複合粒子を作製する方法が、前記混合物を得ることと前記焼成することとの間に、前記混合物を成形すること及び前記混合物を熱処理することからなる群より選ばれる少なくとも1つをさらに含む、請求項9に記載のリチウムイオン二次電池用負極材の製造方法。
【請求項11】
請求項1~請求項8のいずれか1項に記載のリチウムイオン二次電池用負極材と、
有機結着剤と、
溶剤と、
を含むリチウムイオン二次電池用負極材スラリー。
【請求項12】
集電体と、
前記集電体上に形成された、請求項1~請求項8のいずれか1項に記載のリチウムイオン二次電池用負極材を含む負極材層と、
を有するリチウムイオン二次電池用負極。
【請求項13】
正極と、電解質と、請求項12に記載のリチウムイオン二次電池用負極と、を有するリチウムイオン二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、リチウムイオン二次電池用負極材、リチウムイオン二次電池用負極材の製造方法、リチウムイオン二次電池用負極材スラリー、リチウムイオン二次電池用負極、及びリチウムイオン二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池は、他の二次電池であるニッケル・カドミウム電池、ニッケル・水素電池、及び鉛蓄電池に比べ、より高いエネルギー密度を有する。このため、ノートパソコン、携帯電話等の携帯電化製品用の電源として用いられている。
【0003】
リチウムイオン二次電池開発の最近のトレンドは、省資源化のための電池コンパクト化及び低コスト化に加えて、電気自動車、蓄電用電源等への用途拡大である。このため、負極の高密度化による高容量化、高入出力化及びコスト低減が求められている。高密度の負極を得るための材料として、鱗状天然黒鉛を球形化した球状天然黒鉛、人造黒鉛等の結晶化度の高い炭素材料が注目されている。
【0004】
人造黒鉛においては、特開平10-158005号公報に示されるように、扁平状の1次粒子を複数、配向面が非平行となるように集合又は結合させてなる二次粒子構造を有する黒鉛粒子を負極活物質として用いることでサイクル特性及び急速充放電特性の改良を図っている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
リチウムイオン二次電池は、上記のように負極密度を高くすることで体積あたりのエネルギー密度を大きくすることができる。一方、二次粒子構造を有する人造黒鉛を用いた負極材では、負極材を集電体の上に塗布した後に高密度化のため高圧でプレスして負極を作製する。その際に粒子がつぶれ、粒子間の隙間が少なくなり、電解液の液周りが低下するという問題がある。例えば、負極密度を高くするために1.70g/cm3を越えるような強いプレスを加えると、電解液の液周りが悪化することがある。
【0006】
上記事情に鑑み、本開示は、高電極密度化処理を行っても、注液性に優れるリチウムイオン二次電池を得ることが可能なリチウムイオン二次電池用負極材及びその製造方法、並びに当該リチウムイオン二次電池用負極材を用いたリチウムイオン二次電池用負極材スラリー、リチウムイオン二次電池用負極、及びリチウムイオン二次電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
発明者らは鋭意検討を行った結果、配向面が非平行となるように集合又は結合している複数の扁平状の黒鉛粒子と、球状の黒鉛粒子と、を含む複合粒子を含み、前記複合粒子が以下の(1)及び(2)を満たす、リチウムイオン二次電池用負極材を用いることにより上記課題を解決できることを見出した。
(1)水銀圧入法により得られる、細孔直径0.10μm以上8.00μm以下の範囲における細孔容積が、0.20mL/g以上1.00mL/g以下である。
(2)水銀圧入法により得られるLog微分細孔容積分布にて、細孔直径が0.10μm以上8.00μm以下の範囲において、少なくとも、第1のピークP1及び前記第1のピークP1よりも高直径側にある第2のピークP2の2本のピークが出現する。
【0008】
前記課題を解決するための具体的手段には以下の実施態様が含まれる。
<1> 配向面が非平行となるように集合又は結合している複数の扁平状の黒鉛粒子と、球状の黒鉛粒子と、を含む複合粒子を含み、前記複合粒子が以下の(1)及び(2)を満たす、リチウムイオン二次電池用負極材。
(1)水銀圧入法により得られる、細孔直径0.10μm以上8.00μm以下の範囲における細孔容積が、0.20mL/g以上1.00mL/g以下である。
(2)水銀圧入法により得られるLog微分細孔容積分布にて、細孔直径が0.10μm以上8.00μm以下の範囲において、少なくとも、第1のピークP1及び前記第1のピークP1よりも高直径側にある第2のピークP2の2本のピークが出現する。
<2> 前記第1のピークP1のLog微分細孔容積が最大となるときの細孔直径が0.10μm以上4.00μm未満であり、前記第2のピークP2のLog微分細孔容積が最大となるときの細孔直径が4.00μm以上8.00μm以下である、<1>に記載のリチウムイオン二次電池用負極材。
<3> 前記2本のピークの強度比(P1/P2)が4.0以下である、<1>又は<2>に記載のリチウムイオン二次電池用負極材。
<4> 前記複合粒子のラマン測定のR値が0.03以上0.10以下である、<1>~<3>のいずれか1項に記載のリチウムイオン二次電池用負極材。
<5> 前記複合粒子のBET法にて測定される比表面積が1.5m2/g以上6.0m2/g以下である、<1>~<4>のいずれか1項に記載のリチウムイオン二次電池用負極材。
<6> 前記複合粒子の飽和タップ密度が0.60g/cm3以上0.90g/cm3以下である、<1>~<5>のいずれか1項に記載のリチウムイオン二次電池用負極材。
<7> 前記球状の黒鉛粒子の円形度が0.80以上である、<1>~<6>のいずれか1項に記載のリチウムイオン二次電池用負極材。
<8> 複合化されていない球状天然黒鉛をさらに含み、
前記複合粒子と前記複合化されていない球状天然黒鉛との合計量に対する、前記複合化されていない球状天然黒鉛の割合が30質量%以上である、<1>~<7>のいずれか1項に記載のリチウムイオン二次電池用負極材。
<9> 黒鉛化可能な骨材、黒鉛化可能なバインダー、黒鉛化触媒、及び球状の黒鉛粒子を含む混合物を得ることと、
前記混合物を焼成することと、
を含む方法によって前記複合粒子を作製することを含む、<1>~<8>のいずれか1項に記載のリチウムイオン二次電池用負極材の製造方法。
<10> 前記複合粒子を作製する方法が、前記混合物を得ることと前記焼成することとの間に、前記混合物を成形すること及び前記混合物を熱処理することからなる群より選ばれる少なくとも1つをさらに含む、<9>に記載のリチウムイオン二次電池用負極材の製造方法。
<11> <1>~<8>のいずれか1項に記載のリチウムイオン二次電池用負極材、又は<9>又は<10>に記載のリチウムイオン二次電池用負極材の製造方法により製造されたリチウムイオン二次電池用負極材と、
有機結着剤と、
溶剤と、
を含むリチウムイオン二次電池用負極材スラリー。
<12> 集電体と、
前記集電体上に形成された、<1>~<8>のいずれか1項に記載のリチウムイオン二次電池用負極材、又は<9>若しくは<10>に記載のリチウムイオン二次電池用負極材の製造方法により製造されたリチウムイオン二次電池用負極材を含む負極材層と、
を有するリチウムイオン二次電池用負極。
<13> 正極と、電解質と、<12>に記載のリチウムイオン二次電池用負極と、を有するリチウムイオン二次電池。
【発明の効果】
【0009】
本開示によれば、高電極密度化処理を行っても、注液性に優れるリチウムイオン二次電池を得ることが可能なリチウムイオン二次電池用負極材及びその製造方法、並びに当該リチウムイオン二次電池用負極材を用いたリチウムイオン二次電池用負極材スラリー、リチウムイオン二次電池用負極、及びリチウムイオン二次電池が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1A】実施例1で作製した複合粒子の水銀圧入法によって得られるLog微分細孔容積分布を示す。
【
図1B】実施例2で作製した複合粒子の水銀圧入法によって得られるLog微分細孔容積分布を示す。
【
図1C】比較例1で作製した複合粒子の水銀圧入法によって得られるLog微分細孔容積分布を示す。
【
図1D】比較例2で作製した複合粒子の水銀圧入法によって得られるLog微分細孔容積分布を示す。
【
図2】実施例1、2及び比較例1で作製した複合粒子と、複合化されていない球状天然黒鉛と、の混合負極材の、水銀圧入法によって得られるLog微分細孔容積分布を示す。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を実施するための形態について詳細に説明する。但し、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。以下の実施形態において、その構成要素(要素ステップ等も含む)は、特に明示した場合、原理的に明らかに必須であると考えられる場合等を除き、必須ではない。数値及びその範囲についても同様であり、本発明を制限するものではない。
【0012】
本開示において「工程」との語には、他の工程から独立した工程に加え、他の工程と明確に区別できない場合であってもその工程の目的が達成されれば、当該工程も含まれる。
本開示において「~」を用いて示された数値範囲には、「~」の前後に記載される数値がそれぞれ最小値及び最大値として含まれる。
本開示中に段階的に記載されている数値範囲において、一つの数値範囲で記載された上限値又は下限値は、他の段階的な記載の数値範囲の上限値又は下限値に置き換えてもよい。また、本開示中に記載されている数値範囲において、その数値範囲の上限値又は下限値は、実施例に示されている値に置き換えてもよい。
本開示において各成分は該当する物質を複数種含んでいてもよい。組成物中に各成分に該当する物質が複数種存在する場合、各成分の含有率又は含有量は、特に断らない限り、組成物中に存在する当該複数種の物質の合計の含有率又は含有量を意味する。
本開示において各成分に該当する粒子は複数種含んでいてもよい。組成物中に各成分に該当する粒子が複数種存在する場合、各成分の粒子径は、特に断らない限り、組成物中に存在する当該複数種の粒子の混合物についての値を意味する。
本開示において「層」との語には、当該層が存在する領域を観察したときに、当該領域の全体に形成されている場合に加え、当該領域の一部にのみ形成されている場合も含まれる。
本開示において「積層」との語は、層を積み重ねることを示し、二以上の層が結合されていてもよく、二以上の層が着脱可能であってもよい。
本開示において「(メタ)アクリル」はアクリル及びメタクリルの少なくとも一方を意味し、「(メタ)アクリレート」はアクリレート及びメタクリレートの少なくとも一方を意味し、「(メタ)アクリロニトリル」とは、アクリロニトリル及びメタクリロニトリルの少なくとも一方を意味する。
本開示において、負極材中に含まれる後述の特定複合粒子の細孔容積分布(細孔容積を含む)及び粒度分布(平均粒径を含む)についての記述は、負極材中に含まれる特定複合粒子全体を集合として捉えたときの細孔容積分布及び粒度分布を意味する。
【0013】
≪リチウムイオン二次電池用負極材≫
本開示のリチウムイオン二次電池用負極材は、配向面が非平行となるように集合又は結合している複数の扁平状の黒鉛粒子と、球状の黒鉛粒子と、を含む複合粒子を含み、前記複合粒子が以下の(1)及び(2)を満たす。
(1)水銀圧入法により得られる、細孔直径0.10μm以上8.00μm以下の範囲における細孔容積が、0.20mL/g以上1.00mL/g以下である。
(2)水銀圧入法により得られるLog微分細孔容積分布にて、細孔直径が0.10μm以上8.00μm以下の範囲において、少なくとも、第1のピークP1及び前記第1のピークP1よりも高直径側にある第2のピークP2の2本のピークが出現する。
以下、配向面が非平行となるように集合又は結合している複数の扁平状の黒鉛粒子と、球状の黒鉛粒子と、を含む複合粒子を「特定複合粒子」とも称する。
【0014】
本開示のリチウムイオン二次電池用負極材を用いることにより、高電極密度化処理を行っても注液性に優れるリチウムイオン二次電池を得ることができることが見出された。この理由は必ずしも明らかではないが、以下のように考えることができる。
本開示のリチウムイオン二次電池用負極材に含まれる特定複合粒子は、水銀圧入法により得られる、細孔直径0.10μm以上8.00μm以下の範囲における細孔容積が、0.20mL/g以上1.00mL/g以下である。特定複合粒子の細孔容積が上記範囲であると、適切な量の電解液が負極の細孔内に移動しやすいものと考えられる。
また、本開示のリチウムイオン二次電池用負極材に含まれる特定複合粒子は、水銀圧入法により得られるLog微分細孔容積分布にて、細孔直径が0.10μm以上8.00μm以下の範囲において、少なくとも2本のピークが出現する。このような特定複合粒子は、比較的高直径の細孔を一定割合で維持しており、電解液が入りこみやすいものと推測される。また、このような特定複合粒子は、負極の作製時に高電極密度化処理を行っても、比較的高直径の細孔が維持されやすいため、電解液が移動しやすく、注液性が向上するものと推測される。
【0015】
<特定複合粒子>
特定複合粒子は、配向面が非平行となるように集合又は結合している複数の扁平状の黒鉛粒子と、球状の黒鉛粒子と、を含む複合粒子であれば特に限定されない。例えば、複数の扁平状の黒鉛粒子が、配向面が非平行となるように集合又は結合しており、かつ球状の黒鉛粒子の表面の少なくとも一部に結合していてもよい。より具体的には、前記扁平状の黒鉛粒子が前記球状の黒鉛粒子の表面の少なくとも一部にバインダーに由来する炭素物質を介して結合していてもよい。特定複合粒子が形成されているか否かは、例えば、走査型電子顕微鏡(SEM)による観察によって確認することができる。
【0016】
-扁平状の黒鉛粒子-
特定複合粒子は、配向面が非平行となるように集合又は結合している複数の扁平状の黒鉛粒子を含む。
【0017】
前記扁平状の黒鉛粒子は、長軸と短軸を有する非球状の形状を有する。例えば鱗状、鱗片状、一部塊状等の形状を有する黒鉛粒子が挙げられる。より具体的には、長軸方向の長さをA、短軸方向の長さをBとしたときにA/Bで表されるアスペクト比が1.2~5.0であってもよく、1.3~3.0であってもよい。前記アスペクト比は顕微鏡で黒鉛粒子を拡大し、任意に100個の黒鉛粒子を選択し、A/Bを測定し、その平均値をとったものである。
【0018】
前記扁平状の黒鉛粒子の配向面が非平行であるとは、2以上の扁平状の黒鉛粒子の最も断面積の大きい面に平行な面(配向面)が互いに平行な位置関係にないことをいう。扁平状の黒鉛粒子の配向面が互いに非平行であるか否かは顕微鏡写真の観察により確認することができる。配向面が互いに非平行な状態で集合又は結合していることにより、粒子の電極上での配向性が高まることを抑制し、また、高い充放電容量が得られるという効果が得られる。
【0019】
前記扁平状の黒鉛粒子が集合又は結合している状態は、2以上の扁平状の黒鉛粒子が炭素物質を介して化学的に集合又は結合している状態であってもよい。前記炭素物質は、例えばタール、ピッチ等のバインダーが焼成工程で炭素化した炭素物質であってよい。機械的な強度の面からは、扁平状の黒鉛粒子が結合している状態であってもよい。前記扁平状の黒鉛粒子が集合又は結合しているか否かは、例えば、走査型電子顕微鏡による観察により確認することができる。
【0020】
集合又は結合している前記扁平状の黒鉛粒子の数は、3個以上であってもよく、10個以上であってもよい。また、集合又は結合している前記扁平状の黒鉛粒子の数は、1個以下であってもよい。
【0021】
扁平状の黒鉛粒子の個々の大きさとしては、集合又は結合のし易さの観点から、平均粒径(D50)が50μm以下であってもよく、25μm以下であってもよい。前記平均粒径(D50)は、1μm以上であってもよい。黒鉛粒子の平均粒径(D50)は、後述の負極材の平均粒径の測定と同様の方法で測定することができる。
【0022】
前記扁平状の黒鉛粒子の原料は特に制限されず、人造黒鉛、天然黒鉛、コークス、樹脂、タール、ピッチ等が挙げられる。なかでも、人造黒鉛、天然黒鉛又はコークスから得られる黒鉛は結晶度が高く軟質な粒子となるので、電極としたときの電極の高密度化がしやすくなる傾向にある。また、結晶度の高い黒鉛を使用すると特定複合粒子のラマン測定におけるR値が小さくなり、充放電初回効率が向上する傾向にある。
【0023】
-球状の黒鉛粒子-
特定複合粒子は球状の黒鉛粒子を含む。高密度である球状の黒鉛粒子を含むことにより、前記扁平状の黒鉛粒子のみを含む場合よりも負極材の密度を高くすることができ、高密度化処理の際に加える圧力を低減することができる傾向にある。その結果、前記扁平状の黒鉛粒子が集電体に平行な方向に配向してリチウムイオンの移動を妨げる現象を抑制することができると考えられる。
【0024】
前記球状の黒鉛粒子及びその原料としては、球状人造黒鉛、球状天然黒鉛等が挙げられる。負極材として十分な飽和タップ密度を得る観点からは、前記球状の黒鉛粒子は高密度な黒鉛粒子であってもよい。具体的には、前記球状の黒鉛粒子は粒子球形化処理を施して高タップ密度化された球状天然黒鉛であってもよく、1500℃以上で焼成された球状の黒鉛粒子であってもよい。原料として使用する球状の黒鉛粒子を1500℃以上で焼成すると高結晶な球状の黒鉛粒子となり、特定複合粒子のR値を小さくすることができる。
【0025】
前記球状の黒鉛粒子の平均粒径は特に制限されず、5μm~40μmであってもよく、8μm~35μmであってもよく、10μm~30μmであってもよい。前記平均粒径は、レーザー回折粒度分布測定装置により測定することができ、体積基準の粒度分布において小径側からの積算が50%となるときの粒径(D50)である。具体的には、後述の負極材の平均粒径の測定と同様に測定することができる。
【0026】
前記球状の黒鉛粒子の円形度は特に制限されず、0.80以上であってもよく、0.85以上であってもよい。前記球状の黒鉛粒子の中には特定複合粒子の製造過程で機械的力によって変形するものが存在する。しかし、特定複合粒子に含まれる球状の黒鉛粒子の全体としての円形度は高い方が負極材としての配向性が低くなり、電極としての特性が向上する。特定複合粒子に含まれる球状の黒鉛粒子の円形度を高くするための方法としては、円形度が高い球状の黒鉛粒子を原料として使用することが挙げられる。前記円形度は、特定複合粒子に含まれる球状の黒鉛粒子の部分について測定する。
【0027】
前記球状の黒鉛粒子の円形度は、球状の黒鉛粒子の断面を写真撮影して下記式により求めることができる。
円形度=(相当円の周囲長)/(球状の黒鉛粒子の断面像の周囲長)
ここで「相当円」とは、球状の黒鉛粒子の断面像と同じ面積を持つ円である。球状の黒鉛粒子の断面像の周囲長とは、撮像した球状の黒鉛粒子の断面像の輪郭線の長さである。本開示における円形度は、走査型電子顕微鏡で球状の黒鉛粒子の断面を倍率1000倍に拡大し、任意に10個の球状の黒鉛粒子を選択し、上記方法にて個々の球状の黒鉛粒子の円形度を測定し、その平均をとった値である。
【0028】
特定複合粒子を含むリチウムイオン二次電池用負極材を負極とした場合に球状の黒鉛粒子の円形度を測定する方法としては、試料電極又は観察対象の電極をエポキシ樹脂に埋め込んだ後、鏡面研磨して電極断面を走査型電子顕微鏡で観察する方法、イオンミリング装置(例えば、E-3500、株式会社日立ハイテクノロジー製)を用いて電極断面を作製して走査型電子顕微鏡で観察する方法等が挙げられる。
【0029】
上記試料電極は、例えば、後述の平均粒径の測定に用いる試料電極と同様にして作製することができる。
【0030】
〔特定複合粒子の平均粒径(メディアン径)〕
特定複合粒子の平均粒径(メディアン径)は特に制限されない。配向性への影響と電解液の浸透性の観点からは、10μm~30μmであってもよく、15μm~25μmであってもよい。前記平均粒径は、レーザー回折粒度分布測定装置により測定することができ、体積基準の粒度分布において小径側からの積算が50%となるときの粒径(D50)である。
なお、平均粒径はレーザー回折粒度分布測定装置(例えば、SALD-3000J、株式会社島津製作所製)を用い、以下の条件で測定することができる。
吸光度:0.05~0.20
ソニケーション:0.5~3分
【0031】
特定複合粒子を含むリチウムイオン二次電池用負極材を負極とした場合の、特定複合粒子の平均粒径の測定方法としては、試料電極又は観察対象の電極をエポキシ樹脂に埋め込んだ後、鏡面研磨して電極断面を走査型電子顕微鏡で観察する方法、及びイオンミリング装置(例えば、E-3500、株式会社日立ハイテクノロジー製)を用いて電極断面を作製して走査型電子顕微鏡で観察する方法等が挙げられる。この場合の平均粒径は、任意に選択した100個の特定複合粒子の粒径の中央値である。
上記試料電極は、例えば、リチウムイオン二次電池用負極材98質量部、バインダーとしてのスチレンブタジエン樹脂1質量部、及び増粘剤としてのカルボキシメチルセルロース1質量部の混合物を固形分として、該混合物の25℃における粘度が1500mPa・s~2500mPa・sとなるように水を添加して分散液を作製し、前記分散液を厚さが10μmの銅箔上に70μm程度の厚み(塗工時)になるように塗工後、120℃で1時間乾燥させることによって作製することができる。
【0032】
〔特定複合粒子のラマン測定のR値〕
特定複合粒子において、ラマン測定のR値は0.03以上0.10以下であることが好ましい。前記R値は0.04以上0.10以下であってもよく、0.05以上0.10以下であってもよい。R値が0.10以下であると、電解液の分解反応を抑制し、リチウムイオン二次電池のガス膨れの発生及び初回効率の低下を抑制できる傾向にある。その結果、高密度対応電極へ好適に適用することができると考えられる。R値が0.03以上であると、リチウムイオンが挿入及び脱離するための黒鉛格子欠陥が十分に維持され、充放電の負荷特性を良好に維持することができる傾向にある。
【0033】
前記R値は、後述するラマン測定において得られたラマンスペクトルにおいて、1580cm-1付近の最大ピークの強度IAと、1360cm-1付近の最大ピークの強度IBの強度比(IB/IA)と定義する。
【0034】
ラマン測定は、例えば、ラマン分光器「レーザーラマン分光光度計(型番:NRS-1000、日本分光株式会社製」を用い、特定複合粒子、又は特定複合粒子を集電体に塗布及び加圧して得た電極を平らになるように試料板にセットし、リチウムイオン二次電池用負極材に半導体レーザー光を照射して測定を行うことができる。測定条件は以下の通りである。
半導体レーザー光の波長:532nm
波数分解能:2.56cm-1
測定範囲:1180cm-1~1730cm-1
ピークリサーチ:バックグラウンド除去
【0035】
ラマン測定のR値が0.03以上0.10以下である特定複合粒子を得るための方法としては、前述のように球状の黒鉛粒子を焼成する方法が挙げられる。さらに、原料として使用するピッチ等のバインダー成分に由来する残留炭素分の比率を特定複合粒子全体の30質量%以下とすることが挙げられる。
バインダー成分のような結晶性の低い成分は、前述の扁平状の黒鉛粒子を集合又は結合させて複合粒子を形成するために用いられるが、黒鉛化による結晶性の発達はおこりにくく残炭率も低い。したがって、バインダー成分に由来する残留炭素分の比率を特定複合粒子全体の30質量%以下とすることにより、良好な生産性を維持することができる傾向にある。また、バインダー成分が多いと黒鉛化した粒子が硬質となりやすいところ、バインダー成分に由来する残留炭素分の比率を特定複合粒子全体の30質量%以下とすることにより、粒度調整の為に行う粉砕、及び電極としたときの密度調整プレスを行う際に黒鉛粒子の表面に負荷がかかることにより格子欠陥が発生してR値が上昇することを抑制できる傾向にある。
【0036】
〔特定複合粒子の細孔容積〕
本開示のリチウムイオン二次電池用負極材に含まれる特定複合粒子では、水銀圧入法により得られる、細孔直径0.10μm以上8.00μm以下の範囲における細孔容積が、0.20mL/g以上1.00mL/g以下である。なお、当該細孔容積とは、細孔直径0.10μm以上8.00μm以下の範囲における積算細孔容積を表す。
特定複合粒子の細孔容積が0.20mL/g以上であると、リチウムイオン二次電池としたときにリチウムイオンの移動媒体となる電解液の注液速度が速くなり、良好な高速充放電特性が得られる傾向にある。また、前記細孔容積が1.00mL/g以下であると、有機結着剤、増粘剤等の添加剤の吸油能を抑えることができ、負極材スラリーとしたときの粘度を制御しやすく、集電体への接着力を良好に保つことができる傾向にある。
【0037】
特定複合粒子において、前記水銀圧入法にて得られる、細孔直径0.10μm以上8.00μm以下の範囲における細孔容積は、0.40mL/g以上0.80mL/g以下であってもよく、0.50mL/g以上0.80mL/g以下であってもよい。また、負極内に移動する電解液量をより良好なものとする観点からは、前記細孔容積は、0.50mL/g以上1.00mL/g以下であることが好ましく、0.60mL/g以上1.00mL/g以下であることがより好ましい。特定複合粒子の細孔容積は、例えば、球状の黒鉛粒子の配合比を適宜調整することにより上記範囲とすることができる。
【0038】
水銀圧入法は、例えば、「細孔分布測定装置 オートポア 9520型、株式会社島津製作所製」を用いて行う。水銀パラメータは、水銀接触角130.0°、水銀表面張力485.0mN/m(485.0dynes/cm)に設定する。試料(約0.3g)を標準用セルに採り、初期圧9kPa(約1.3psia、細孔直径約140μm相当)の条件で測定する。得られた細孔分布から0.10μm以上8.00μm以下の範囲における細孔体積の容量を算出する。
【0039】
特定複合粒子では、水銀圧入法により得られるLog微分細孔容積分布にて、細孔直径が0.10μm以上8.00μm以下の範囲において、少なくとも、第1のピークP1及び前記第1のピークP1よりも高直径側にある第2のピークP2の2本のピークが出現する。Log微分細孔容積分布において上記少なくとも2本のピークを有すると、負極としたときの注液性に優れることがわかった。
【0040】
第1のピークP1及び第2のピークは以下のように定める。上記細孔直径の範囲における、ピーク強度が大きいものから2本のピークを選択し、短直径側に存在するピーク(すなわち、より小さい直径側に存在するピーク)を第1のピークP1とし、高直径側に存在するピーク(すなわち、より大きい直径側に存在するピーク)を第2のピークP2とする。
本開示のリチウム二次電池用負極材において、上記細孔直径の範囲において3本以上のピークが存在してもよく、2本のみのピークが存在することが好ましい。
【0041】
好ましい一態様において、第1のピークP1のLog微分細孔容積が最大となるときの細孔直径が0.10μm以上4.00μm未満であり、第2のピークP2のLog微分細孔容積が最大となるときの細孔直径が4.00μm以上8.00μm以下である。
より好ましい一態様において、第1のピークP1のLog微分細孔容積が最大となるときの細孔直径が1.00μm以上4.00μm未満であり、第2のピークP2のLog微分細孔容積が最大となるときの細孔直径が4.00μm以上7.00μm以下である。
さらに好ましい一態様において、第1のピークP1のLog微分細孔容積が最大となるときの細孔直径が1.50μm以上3.50μm未満であり、第2のピークP2のLog微分細孔容積が最大となるときの細孔直径が4.50μm以上6.50μm以下である。
【0042】
第1のピークP1のLog微分細孔容積が最大となるときの細孔直径と、第2のピークP2のLog微分細孔容積が最大となるときの細孔直径と、の差は、特に制限されない。例えば、当該細孔直径の差は0.50μm~5.00μmであってもよく、1.00μm~4.00μmであってもよく、2.00μm~3.00μmであってもよい。
【0043】
本開示において、特定複合粒子のLog微分細孔容積分布がピークを有することは以下のように判断する。特定複合粒子の細孔直径(xとする)に対してLog微分細孔容積(yとする)をプロットしたLog微分細孔容積分布において、傾きが正から負に変化する点を有する場合にピークを有すると判断する。しかしながら、そのピークが存在しないと仮定した場合のライン、すなわちバックグラウンドからの垂直高さが0.1cm3/g未満のピークはピークとは判断しない。
【0044】
前記2本のピークの強度比(第2のピークP2の強度に対する第1のピークP1の強度;P1/P2)は特に制限されず、注液性をより向上させる観点からは、4.0以下であることが好ましく、3.8以下であってもよい。リチウムイオンの挿入及び脱離のための表面積を増やす観点からは、0.5以上であることが好ましく、1.0以上であることがより好ましく、2.0以上であることがさらに好ましい。
ピーク強度比は、上述の細孔分布測定装置を用いてLog微分細孔容積分布のピーク面積の比として求めることができる。
【0045】
水銀圧入法により得られるLog微分細孔容積分布にて、細孔直径が0.10μm以上8.00μm以下の範囲において、少なくとも第1のピークP1及び前記第1のピークP1よりも高直径側にある第2のピークP2の2本のピークが出現する特定複合粒子を得る方法は特に制限されない。
例えば、特定複合粒子を作製するときに用いる原料の配合を調整して黒鉛化の度合いを調整することによって上記少なくとも2本のピークを有する負極材を得てもよい。より具体的には、例えば、黒鉛化触媒の配合量を減らす等の方法により、黒鉛化を進めすぎずに比較的硬度の高い状態にとどめることによって、上記少なくとも2本のピークを有する特定複合粒子を得やすい。
また、例えば、特定複合粒子の原料である球状の黒鉛粒子の配合割合と、その他の原料の黒鉛化の度合いを調節することによって、上記少なくとも2本のピークを有する特定複合粒子を得てもよい。
また、焼成して粉砕した黒鉛化物に対して後述の等方性加圧処理を行わないことによって、細孔のサイズが均一となりにくく、上記少なくとも2本のピークを有する特定複合粒子を得やすい。
【0046】
〔特定複合粒子の比表面積〕
特定複合粒子は、BET法にて測定される比表面積が1.5m2/g以上6.0m2/g以下であってもよく、2.5m2/g以上5.0m2/g以下であってもよい。前記比表面積は電解液との界面の面積を示す指標である。比表面積の値が6.0m2/g以下であると、特定複合粒子と電解液との界面の面積が大きすぎず、電解液の分解反応の反応場の増加が抑制されてガス発生が抑制され、且つ、初回充放電効率が良好となる場合がある。また、比表面積の値が1.5m2/g以上であると、単位面積あたりにかかる電流密度が急上昇せず、負荷が抑制されるため、充放電効率、充電受入性、急速充放電特性等が良好となる傾向にある。
【0047】
上記比表面積の測定は、BET法(窒素ガス吸着法)等の既知の方法で行うことができる。好ましくは、特定複合粒子又は特定複合粒子を集電体に塗布及び加圧して得た電極を測定セルに充填し、真空脱気しながら200℃で加熱前処理を行って得た試料に、ガス吸着装置(例えば、ASAP2010、株式会社島津製作所製)を用いて窒素ガスを吸着させる。得られた試料について5点法でBET解析を行い、比表面積を算出する。特定複合粒子の比表面積は、例えば、平均粒径を調整することにより上記範囲とすることができる。平均粒径を小さくすれば、比表面積が高まる傾向があり、平均粒径を大きくすると、比表面積が低くなる傾向がある。
【0048】
〔特定複合粒子の飽和タップ密度〕
特定複合粒子は、飽和タップ密度が0.60g/cm3以上0.90g/cm3以下であることが好ましく、0.60g/cm3以上0.80g/cm3以下であることがより好ましく、0.65g/cm3以上0.70g/cm3以下であることがより好ましい。飽和タップ密度は0.60g/cm3以上0.80g/cm3未満であってもよく、0.60g/cm3以上0.70g/cm3未満であってもよい。
【0049】
前記飽和タップ密度は、電極の高密度化の指標である。特定複合粒子の飽和タップ密度が0.60g/cm3以上であると、集電体上に特定複合粒子を含むリチウムイオン二次電池用負極材を塗布して得た電極が高密度になり、電極密度調整のために加えられる圧力を軽減することができ、電極中の黒鉛粒子が本来の形状を維持しやすくなる。黒鉛粒子が本来の形状を維持することができると、極板の配向性が小さく、リチウムイオンの出入りが容易であり、サイクル特性が向上する等の利点がある。特定複合粒子の飽和タップ密度が0.90g/cm3以下であると、十分な細孔容積を維持し、電池としたときにリチウムイオンの移動媒体となる電解液の量を十分に確保することができ、良好な高速充放電特性を得られる傾向にある。特定複合粒子の飽和タップ密度は、球状の黒鉛粒子の割合を適宜調整(球状の黒鉛粒子の割合を高くするとタップ密度が高くなる傾向があり、割合を低くするとタップ密度が低くなる傾向がある)することにより上記範囲とすることができる。
【0050】
飽和タップ密度の測定は既知の方法で行うことができる。好ましくは、充填密度測定装置(例えば、KRS-406、株式会社蔵持科学器械製作所製)を用い、メスシリンダーに特定複合粒子を100ml入れ、密度が飽和するまでタップ(所定の高さからメスシリンダーを落下させる)して算出する。
【0051】
〔特定複合粒子のペレット密度〕
特定複合粒子のペレット密度は特に制限されない。例えば、特定複合粒子のペレット密度は、1.77g/cm3以下であることが好ましい。特定複合粒子のペレット密度が1.77g/cm3以下であると、特定複合粒子の硬度が低すぎないため、上記細孔容積及び少なくとも2本のピークが好適なものとなりやすい。また、プレス圧を加え高電極密度化処理を行う際、特定複合粒子の変形による粒子間空隙量の低下が生じにくい傾向にある。これにより、電解液が負極材層全体へ浸透しやすい状態が保持されやすく、注液性がより向上する傾向にある。
【0052】
特定複合粒子のペレット密度は、錠剤成形機(錠剤底面積:1.327cm2)に、特定複合粒子を0.50g投入し、1tの圧力を30秒加えた後の錠剤の体積密度を求めることで得られる。
【0053】
-混合負極材-
本開示のリチウムイオン二次電池用負極材は特定複合粒子以外の負極材(複合粒子を形成していない扁平状の黒鉛粒子、複合粒子を形成していない球状の黒鉛粒子、扁平状の黒鉛粒子が複数集合又は結合して形成された塊状黒鉛粒子等)と混合して負極作製に用いてもよい。以下、特定複合粒子と特定複合粒子以外の負極材とを混合してなるリチウムイオン二次電池用負極材を混合負極材ともいう。例えば、リチウムイオン二次電池用負極材は、天然黒鉛、人造黒鉛、非晶質被覆黒鉛、樹脂被覆黒鉛、非晶質炭素、及び吸蔵金属粒子よりからなる群から選ばれるいずれか1つ以上のリチウムイオン吸蔵性構造物と、上述の特定複合粒子と、の混合物であってもよい。
【0054】
本開示のリチウムイオン二次電池負極材が混合負極材である場合、リチウムイオン二次電池負極材全体に占める特定複合粒子の割合は20質量%以上であってもよく、30質量%以上であってもよく、40質量%以上であってもよく、50質量%以上であってもよい。負極作製のコストを抑えることができる観点からは、混合負極材全体に占める特定複合粒子の割合は、70質量%以下であってもよく、60質量%以下であってもよく、50質量%以下であってもよい。
【0055】
なかでも、本開示のリチウムイオン二次電池負極材が混合負極材である場合、リチウムイオン二次電池用負極材は、特定複合粒子に加え、複合化されていない球状天然黒鉛をさらに含むことが好ましい。その配合比は特に制限されない。例えば、特定複合粒子と複合化されていない球状天然黒鉛との合計量に対して、前記複合化されていない球状天然黒鉛の含有率が30質量%以上となるように配合されてもよく、40質量%以上となるように配合されてもよく、50質量%以上となるように配合されてもよい。複合化されていない球状天然黒鉛の上記含有率が30質量%以上であると、負極作製のコストを抑えることができる観点から好ましい。また、良好な充放電特性を得る観点からは、特定複合粒子と複合化されていない球状天然黒鉛との合計量に対して、前記複合化されていない球状天然黒鉛の含有率は80質量%以下であってもよい。
【0056】
本開示のリチウムイオン二次電池用負極材は、特定複合粒子と複合化されていない天然黒鉛粒子とを混合して混合負極材としたときにも、適切な細孔容積分布となりやすいことが見出された。特に、複合化されていない球状天然黒鉛を比較的多く配合する場合、例えば、特定複合粒子と複合化されていない球状天然黒鉛との合計量に対して、複合化されていない球状天然黒鉛を30質量%以上配合する場合であっても、適切な細孔容積分布が得られやすく、充放電特性に優れたリチウムイオン二次電池が得やすいことがわかった。
【0057】
リチウムイオン二次電池用負極材が、特定複合粒子と特定複合粒子以外の負極材とを混合した混合負極材である場合、水銀圧入法により得られるLog微分細孔容積分布にて、ピークの数は1本であってもよい。Log微分細孔容積が最大となるときの細孔直径は特に制限されず、例えば、2.00μm~7.00μmであってもよく、3.00μm~6.00μmであってもよい。
【0058】
≪リチウムイオン二次電池用負極材の製造方法≫
本開示の一実施形態において、前記リチウムイオン二次電池用負極材の製造方法は、黒鉛化可能な骨材、黒鉛化可能なバインダー、黒鉛化触媒、及び球状の黒鉛粒子を含む混合物を得ること(工程(a)とする)と、前記混合物を焼成すること(工程(b)とする)と、を含む方法によって特定複合粒子を作製することを含む。
【0059】
工程(a)と工程(b)を含む方法により特定複合粒子を作製することができ、したがって、上記方法により、上述の本開示のリチウムイオン二次電池用負極材を製造することができる。さらに上記方法によれば、原料を焼成により黒鉛化する際に、原料に含まれる重金属、磁性異物及び不純物は高熱により除去されるので、天然黒鉛等の球状の黒鉛粒子の酸処理、水洗等を行う必要がない。これにより、製造コストが削減でき、且つ、安全性の高いリチウムイオン二次電池用負極材を提供できる傾向にある。
また、原料の少なくとも一部として、黒鉛化可能な骨材以外に既に黒鉛である球状の黒鉛粒子を用いてもよい。既に黒鉛である球状の黒鉛粒子を用いることで、原料の黒鉛化に要する黒鉛化触媒の量の低減、黒鉛化のための焼成時間の短縮等により製造コストが削減できる傾向にある。その結果、高価である人造黒鉛を用いつつもより安価なリチウムイオン二次電池用負極材を提供することができる。また、リチウムイオン二次電池用負極材の作製に使用するバインダー成分を減らすことができる。
【0060】
上記方法では、球状の黒鉛粒子もその他の原料とともに焼成される。これにより、球状の黒鉛粒子をその他の原料を焼成して黒鉛化したものと混合した場合と比べて特定複合粒子のラマン測定のR値を低くすることができる。
【0061】
工程(a)では、黒鉛化可能な骨材、黒鉛化可能なバインダー、黒鉛化触媒、及び球状の黒鉛粒子を混合し混合物を得る。
前記黒鉛化可能な骨材としては、フルードコークス、ニードルコークス、モザイクコークス等のコークスを挙げることができる。前記黒鉛化可能な骨材は粉末状であれば特に制限はない。なかでも、ニードルコークス等の黒鉛化しやすいコークス粉末であってもよい。前記黒鉛は粉末であれば特に制限はない。前記黒鉛化可能な骨材の粒径は、前記扁平状の黒鉛粒子の粒径より小さいことが好ましい。
前記球状の黒鉛粒子としては、球状人造黒鉛、球状天然黒鉛が挙げられる。球状の黒鉛粒子としては、前述の特定複合粒子に含まれる球状の黒鉛粒子の詳細を適用することができる。
前記黒鉛化可能なバインダーとしては、石炭系、石油系、人造等のピッチ及びタール、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂などが挙げられる。
前記黒鉛化触媒としては、ケイ素、鉄、ニッケル、チタン、ホウ素等の黒鉛化触媒作用を有する物質、これらの物質の炭化物、酸化物、及び窒化物などが挙げられる。
【0062】
前記球状の黒鉛粒子の含有率は、前記黒鉛化可能な骨材100質量部に対し、5質量%~80質量%であってもよく、8質量%~75質量%であってもよく、8質量%~70質量%であってもよく、10質量%~30質量%であってもよく、11質量%~19質量%であってもよい。前記球状の黒鉛粒子の含有率が上記範囲であると、高い密度及び高い充放電容量が得られる傾向にある。また、上記球状の黒鉛粒子の含有量が上記範囲であると、細孔容積及び少なくとも2本のピークを有する特定複合粒子が好適に得られる傾向にある。
【0063】
前記黒鉛化可能なバインダーの含有率は、前記黒鉛化可能な骨材100質量部に対し、5質量%~80質量%であってもよく、10質量%~80質量%であってもよく、15質量%~80質量%であってもよい。前記黒鉛化可能なバインダーの添加量を適切な量とすることで、製造される扁平状の黒鉛粒子のアスペクト比及び比表面積が大きくなりすぎることを抑制できる。さらには、前記黒鉛化可能なバインダーの量を焼成後のバインダーに由来する残留炭素分が特定複合粒子全体の30質量%以下となるように抑制することで、ラマン測定のR値が大きくなりすぎることを抑制できる。
【0064】
前記黒鉛化触媒の含有量は特に制限されない。例えば、黒鉛化触媒は、前記黒鉛化可能な骨材と前記黒鉛化可能なバインダーとの合計量100質量部に対して1質量部~50質量部添加することが好ましい。前記黒鉛化触媒の量が1質量部以上であると、黒鉛質粒子の結晶の発達が良好であり、充放電容量が良好となる傾向にある。一方、前記黒鉛化触媒の量が50質量部以下であると、黒鉛化可能な骨材、黒鉛化可能なバインダー、黒鉛化触媒及び球状の黒鉛粒子の混合をより均一に行うことができ、作業性が良好となる傾向がある。
また、黒鉛化触媒の含有量は、前記黒鉛化可能な骨材と前記黒鉛化可能なバインダーとの合計量100質量部に対して30質量部以下であることがより好ましく、25質量部以下であることがさらに好ましく、20質量部以下であることが特に好ましい。黒鉛化触媒の含有量が上記範囲であると、黒鉛化が進みすぎず、適切な硬度を有する複合粒子を得ることができる傾向にある。これにより、特定複合粒子の有する細孔容積及び少なくとも2本のピークを好適に得ることができる傾向にある。
また、黒鉛化触媒の含有量は、前記黒鉛化可能な骨材と前記黒鉛化可能なバインダーとの合計量100質量部に対して5質量部以上であることがより好ましく、10質量部以上であることがさらに好ましく、15質量部以上であることが特に好ましい。黒鉛化触媒の含有量が上記範囲であると、特定複合粒子の有する細孔容積及び少なくとも2本のピークを好適に得ることができる傾向にある。また、黒鉛質粒子の結晶の発達が良好であり、充放電容量が良好となる傾向にある。
好ましい一態様において、黒鉛化触媒の含有量は、前記黒鉛化可能な骨材と前記黒鉛化可能なバインダーとの合計量100質量部に対して13質量%~25質量%であってもよく、15質量%~20質量%であってもよい。
前記黒鉛化触媒の混合方法に特に制限はなく、少なくとも黒鉛化のための焼成前に黒鉛化触媒が前記混合物中の粒子内部又は粒子表面に存在するような混合方法であればよい。
【0065】
前記黒鉛化可能な骨材、黒鉛化可能なバインダー、黒鉛化触媒、及び球状の黒鉛粒子の混合方法には特に制限はない。例えば、ニーダー等を用いて行うことができる。前記混合はバインダーの軟化点以上の温度で行ってもよい。具体的には、前記黒鉛化可能なバインダーがピッチ、タール等である場合には50℃~300℃であってもよく、熱硬化性樹脂である場合には20℃~100℃であってもよい。
【0066】
工程(b)では、前記工程(a)で得た混合物を焼成する。これにより、前記混合物中の黒鉛化可能な成分が黒鉛化される。前記焼成は、前記混合物が酸化し難い雰囲気で行うことが好ましく、例えば、窒素雰囲気中、アルゴンガス中、又は真空中で焼成する方法が挙げられる。焼成温度は、前記黒鉛化可能な成分を黒鉛化できる温度であれば特に制限されない。例えば1500℃以上であってもよく、2000℃以上であってもよく、2500℃以上であってもよく、2800℃以上であってもよい。焼成温度は、3200℃以下であってもよい。前記焼成温度が1500℃以上であると結晶の変化が生じる。前記焼成
温度が2000℃以上であると黒鉛の結晶の発達が良好となり、作製した黒鉛質粒子に残存する黒鉛化触媒の量が少なくなる、すなわち、灰分量の増加が抑制される傾向にある。いずれの場合も充放電容量及び電池のサイクル特性が良好となる傾向にある。一方、焼成温度が3200℃以下であると、黒鉛の一部が昇華するのを抑制できる。
【0067】
前記リチウムイオン二次電池用負極材の製造方法において、特定複合粒子の作製は、前記工程(a)と前記工程(b)との間に、前記混合物を成形すること(工程(c)とする)及び前記混合物を熱処理すること(工程(d)とする)からなる群より選ばれる少なくとも一つを含んでもよい。具体的には、工程(a)の後に工程(b)のみを行っても、工程(a)の後に工程(c)のみを行っても、工程(a)の後に工程(b)及び工程(c)をこの順に行っても、工程(a)の後に工程(c)及び工程(b)をこの順に行ってもよい。
【0068】
前記混合物を成形する工程(c)における成形は、例えば前記混合物を粉砕し、これを金型等の容器に入れて行うことができる。
【0069】
前記混合物を熱処理する工程(d)において前記混合物を熱処理することは、黒鉛化を進行させる観点から好ましい。前記熱処理を行う場合は、工程(c)において前記混合物を成形した後に行うことがより好ましい。前記熱処理は1500℃以上で行ってもよく、2500℃以上で行ってもよい。
【0070】
焼成前に前記混合物を成形及び粉砕して粒径を調整していない場合、焼成後に得られた黒鉛化物を粉砕処理して、所望の平均粒径としてもよい。あるいは焼成前に前記混合物を成形及び粉砕して粒径を調整し、焼成後にさらに得られた黒鉛化物を粉砕処理してもよい。前記黒鉛化物の粉砕方法に特に制限はない。例えば、ジェットミル、振動ミル、ピンミル、ハンマーミル等を用いて既知の方法により行うことができる。粉砕後の平均粒径(メディアン径)は100μm以下であってもよく、10μm~50μmであってもよい。
【0071】
焼成及び粉砕後の前記黒鉛化物に対し、等方性加圧処理を行ってもよい。前記等方性加圧処理の方法としては、例えば、焼成及び粉砕後の黒鉛化物をゴム製等の容器に充填し、密封したのちに前記容器をプレス機で等方性加圧処理する方法が挙げられる。等方性加圧処理された黒鉛化物は、カッターミル等で解砕し、篩等で整粒することが好ましい。
水銀圧入法により得られる、細孔直径0.10μm以上8.00μm以下の範囲における細孔容積が、0.20mL/g以上1.00mL/g以下であり、水銀圧入法により得られるLog微分細孔容積分布にて、細孔直径が0.10μm以上8.00μm以下の範囲において、少なくとも第1のピークP1及び前記第1のピークP1よりも高直径側にある第2のピークP2の2本のピークが出現する特定複合粒子を得るための一実施形態において、焼成及び粉砕後の前記黒鉛化物に対して等方性加圧処理を行わなくてもよい。
【0072】
上記の方法は、特定複合粒子の製造方法の一例である。上記以外の方法によって特定複合粒子を製造してもよい。上記以外の方法としては、複数の扁平状の黒鉛粒子を配向面が非平行となるように集合又は結合させてなる黒鉛粒子(塊状黒鉛粒子)を作製した後に、球状の黒鉛粒子を混合して複合粒子を形成する方法が挙げられる。塊状黒鉛粒子の製造方法については、特許第3285520号公報、特許第3325021号公報等の記載を参照することができる。
【0073】
≪リチウムイオン二次電池用負極材スラリー≫
本開示の一実施形態におけるリチウムイオン二次電池用負極材スラリーは、前記リチウムイオン二次電池用負極材、又は前記リチウムイオン二次電池用負極材の製造方法により製造されたリチウムイオン二次電池用負極材と、有機結着剤と、溶剤と、を含む。
【0074】
前記有機結着剤に特に制限はない。例えば、スチレン-ブタジエンゴム;エチレン性不飽和カルボン酸エステル(メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート等)、(メタ)アクリロニトリル、エチレン性不飽和カルボン酸(アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、フマル酸、マレイン酸等)等に由来する(メタ)アクリル共重合体;ポリ弗化ビニリデン、ポリエチレンオキサイド、ポリエピクロロヒドリン、ポリホスファゼン、ポリアクリロニトリル、ポリイミド、ポリアミドイミドなどの高分子化合物が挙げられる。
【0075】
前記溶剤に特に制限はない。例えば、N-メチルピロリドン、ジメチルアセトアミド、
ジメチルホルムアミド、γ-ブチロラクトン等の有機溶剤が用いられる。
【0076】
前記リチウムイオン二次電池用負極材スラリーは、必要に応じて、粘度を調整するための増粘剤を含んでもよい。増粘剤としては、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、エチルセルロース、ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸及びその塩、酸化スターチ、リン酸化スターチ、カゼイン等が挙げられる。
【0077】
前記リチウムイオン二次電池用負極材スラリーは、必要に応じて、導電助剤を混合してもよい。導電助剤としては、カーボンブラック、グラファイト、アセチレンブラック、導電性を示す酸化物、導電性を示す窒化物等が挙げられる。
【0078】
≪リチウムイオン二次電池用負極≫
本開示の一実施形態におけるリチウムイオン二次電池用負極は、集電体と、集電体上に形成された前記リチウムイオン二次電池用負極材又は前記リチウムイオン二次電池用負極材の製造方法により製造されたリチウムイオン二次電池用負極材を含む負極材層と、を有する。
【0079】
前記集電体の材質及び形状は特に制限されない。例えば、アルミニウム、銅、ニッケル、チタン、ステンレス鋼等の金属又は合金からなる帯状箔、帯状穴開け箔、帯状メッシュ等の材料を用いてもよい。また、ポーラスメタル(発泡メタル)、カーボンペーパー等の多孔性材料を使用してもよい。
【0080】
リチウムイオン二次電池用負極材を含む負極材層を集電体上に形成する方法は特に限定されない。例えば、メタルマスク印刷法、静電塗装法、ディップコート法、スプレーコート法、ロールコート法、ドクターブレード法、グラビアコート法、スクリーン印刷法等の公知の方法により行うことができる。上記負極材層と集電体とを一体化する場合は、ロール、プレス、これらの組み合わせ等の公知の方法により行うことができる。
【0081】
前記負極材層を集電体上に形成して得られたリチウムイオン二次電池用負極は、用いた有機結着剤の種類に応じて熱処理してもよい。熱処理することにより溶媒が除去され、バインダーの硬化による高強度化が進み、粒子間及び粒子と集電体間の密着性を向上できる傾向にある。熱処理は、処理中の集電体の酸化を防ぐため、ヘリウム、アルゴン、窒素等の不活性雰囲気中又は真空雰囲気中で行ってもよい。
【0082】
上記熱処理を行う前に、前記リチウムイオン二次電池用負極をプレス(加圧処理)してもよい。加圧処理することにより電極密度を調整することができる。前記電極密度は1.5g/cm3~1.9g/cm3であってもよく、1.6g/cm3~1.8g/cm3であってもよい。電極密度が高いほど体積容量が向上し、集電体への負極材層の密着性が向上し、サイクル特性も向上する傾向がある。
【0083】
≪リチウムイオン二次電池≫
本開示の一実施形態におけるリチウムイオン二次電池は、正極と、電解質と、前記リチウムイオン二次電池用負極と、を有する。前記リチウムイオン二次電池は、例えば、前記負極と前記正極とがセパレータを介して対向するように配置され、電解質を含む電解液が注入された構成とすることができる。
【0084】
前記正極は、前記負極と同様にして、集電体表面上に正極層を形成することで得ることができる。集電体としては、アルミニウム、チタン、ステンレス鋼等の金属又は合金からなる帯状箔、帯状穴開け箔、帯状メッシュ等の材料を用いることができる。
【0085】
前記正極層に用いる正極材料は、特に制限されない。例えば、リチウムイオンをドーピング又はインターカレーションすることが可能な金属化合物、金属酸化物、金属硫化物、及び導電性高分子材料が挙げられる。さらには、コバルト酸リチウム(LiCoO2)、ニッケル酸リチウム(LiNiO2)、マンガン酸リチウム(LiMnO2)、及びこれらの複酸化物(LiCoxNiyMnzO2、x+y+z=1、0<x、0<y;LiNi2-xMnxO4、0<x≦2)、リチウムマンガンスピネル(LiMn2O4)、リチウムバナジウム化合物、V2O5、V6O13、VO2、MnO2、TiO2、MoV2O8、TiS2、V2S5、VS2、MoS2、MoS3、Cr3O8、Cr2O5、オリビン型LiMPO4(M:Co、Ni、Mn、Fe)、ポリアセチレン、ポリアニリン、ポリピロール、ポリチオフェン、ポリアセン等の導電性ポリマー、多孔質炭素などを単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。なかでも、ニッケル酸リチウム(LiNiO2)及びその複酸化物(LiCoxNiyMnzO2、x+y+z=1、0<x、0<y;LiNi2-xMnxO4、0<x≦2)は、容量が高いために正極材料として好適である。
【0086】
前記セパレータとしては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィンを主成分とした不織布、クロス、微孔フィルム及びそれらの組み合わせが挙げられる。なお、リチウムイオン二次電池が正極と負極とが接触しない構造を有する場合は、セパレータを使用しなくてもよい。
【0087】
前記電解液としては、LiClO4、LiPF6、LiAsF6、LiBF4、LiSO3CF3等のリチウム塩などの電解質を、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート、ビニレンカーボネート、フルオロエチレンカーボネート、シクロペンタノン、スルホラン、3-メチルスルホラン、2,4-ジメチルスルホラン、3-メチル-1,3-オキサゾリジン-2-オン、γ-ブチロラクトン、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、メチルプロピルカーボネート、ブチルメチルカーボネート、エチルプロピルカーボネート、ブチルエチルカーボネート、ジプロピルカーボネート、1,2-ジメトキシエタン、テトラヒドロフラン、2-メチルテトラヒドロフラン、1,3-ジオキソラン、酢酸メチル、酢酸エチル等の単体又は2成分以上の混合物の非水系溶剤に溶解した、いわゆる有機電解液を使用することができる。なかでも、フルオロエチレンカーボネートを含有する電解液は、負極材の表面に安定なSEI(固体電解質界面)を形成する傾向があり、サイクル特性が著しく向上する観点から好適である。また、エチレンカーボネート、エチルメチルカーボネート、及びビニレンカーボネートからなる群より選択される少なくとも1つも好適に用いられる。
【0088】
本開示のリチウムイオン二次電池の形態は特に限定されず、ペーパー型電池、ボタン型電池、コイン型電池、積層型電池、円筒型電池、角型電池等が挙げられる。前記リチウムイオン二次電池用負極材は、リチウムイオン二次電池以外にもリチウムイオンを挿入脱離することを充放電機構とする、ハイブリッドキャパシタ等の電気化学装置全般に適用することができる。
【実施例】
【0089】
以下、実施例及び比較例を挙げて、本開示をより具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に制限するものではない。
【0090】
[実施例1]
[1]平均粒径が20μmのコークス粉末70質量部、タールピッチ30質量部を混合し、100℃で1時間撹拌し、混合物を得た。次いで、この混合物を25μmに粉砕した。この混合物粉砕粉末69質量部、炭化ケイ素13質量部、球状天然黒鉛(円形度0.92)18質量部を混合し、得られた混合紛を金型に入れて直方体に成形した。得られた直方体を窒素雰囲気中で1000℃で熱処理した後、2800℃で焼成して黒鉛化可能な成分を黒鉛化した。得られた黒鉛成形体を平均粒径が20μmとなるように粉砕し、黒鉛粉末(特定複合粒子)を得た。
上記で得られた黒鉛粉末(特定複合粒子)の平均粒径、R値、細孔容積及びLog微分細孔容積分布(第1のピークP1及び第2のピークP2の直径、並びにこれらの強度比)、比表面積、飽和タップ密度、及びペレット密度を評価した。測定はそれぞれ前記した方法により行った。
【0091】
[2]上記で得られた黒鉛粉末(特定複合粒子)98質量部、スチレンブタジエンゴム(BM-400B、日本ゼオン株式会社製)1質量部、及びカルボキシメチルセルロース(CMC2200、株式会社ダイセル製)1質量部を混練してスラリーを作製した。このスラリーを集電体(厚さ10μmの銅箔)に塗布し、110℃で1時間大気中で乾燥し、ロールプレスにて塗布物質(活物質)が電極密度1.70g/cm3となる条件で一体化してリチウムイオン二次電池用負極を作製した。
【0092】
上記リチウムイオン二次電池用負極の注液性を下記に示す方法で測定した。
【0093】
<注液性>
上記で作成したリチウムイオン二次電池用負極を円形に打ち抜き、マイクロピペットを用いてPC(ポリカーボネート:キシダ化学株式会社製)を前記リチウムイオン二次電池用負極の中心に1μm垂らし、浸透するまでの注液時間を計測した。
【0094】
[3]上記で得られた負極、正極として金属リチウム、電解液として1.0M LiPF6を含むエチレンカーボネート/エチルメチルカーボネート(3/7体積比)とビニレンカーボネート(0.5質量%)との混合液、セパレータとして厚さ25μmのポリエチレン製微孔膜、及びスペーサーとして厚さ230μmの銅板を用いて2016型コインセルを作製した。
【0095】
[4]実施例で作製した特定複合粒子を、複合化されていない球状天然黒鉛(平均粒径22μm)と5:5の割合(特定複合粒子:球状天然黒鉛、質量比)で混合して混合負極材を作製した。混合負極材について、水銀圧入法にて前述した条件によりLog微分細孔容積分布を得た。
【0096】
[実施例2]
(1)平均粒径が20μmのコークス粉末40質量部、タールピッチ30質量部、炭化ケイ素13質量部、球状天然黒鉛14質量部、ステアリン酸2質量部を混合し、100℃で1時間撹拌し混合物を得た。得られた混合紛を押出成形にて成形した。得られた円柱を窒素雰囲気中で1000℃で熱処理した後、2800℃で焼成して黒鉛化可能な成分を黒鉛化した。得られた黒鉛成形体を平均粒径が19μmとなるように粉砕し、実施例2の黒鉛粉末(特定複合粒子)を得た。
実施例1と同様にしてリチウムイオン二次電池用負極及びリチウムイオン二次電池を作製し、実施例1と同様に評価を行った。
【0097】
[比較例1]
(1)平均粒径が15μmのコークス粉末70質量部、タールピッチ30質量部を混合し、100℃で1時間撹拌し、混合物を得た。次いで、この混合物を25μmに粉砕した。この混合物粉砕粉末62質量部、炭化ケイ素18質量部、球状天然黒鉛(円形度0.92)20質量部を混合し、得られた混合紛を金型に入れて直方体に成形した。得られた直方体を窒素雰囲気中で1000℃で熱処理した後、2800℃で焼成して黒鉛化可能な成分を黒鉛化した。得られた黒鉛成形体を平均粒径が24μmとなるように粉砕し、黒鉛粉末を得た。得られた黒鉛粉末をゴム製の容器に充填し、密封したのち、前記ゴム製容器に対してプレス機で圧力9800N/cm2(1000kgf/cm2)で等方性加圧処理を行った。次いで黒鉛粉末をカッターミルで解砕して篩で製粒し、比較例1の黒鉛粉末(特定複合粒子)を得た。
実施例1と同様にしてリチウムイオン二次電池用負極及びリチウムイオン二次電池を作製し、実施例1と同様に評価を行った。
【0098】
[比較例2]
実施例2で得られた黒鉛粉末(特定複合粒子)をゴム製の容器に充填し、密封したのち、前記ゴム製容器に対してプレス機で圧力9800N/cm2(1000kgf/cm2)で等方性加圧処理を行った。次いで黒鉛粉末をカッターミルで解砕して篩で製粒し、比較例2の黒鉛粉末(特定複合粒子)を得た。
実施例1と同様にしてリチウムイオン二次電池用負極及びリチウムイオン二次電池を作製し、実施例1と同様に評価を行った。
【0099】
実施例及び比較例の評価結果を表1に示す。また、各実施例及び比較例で作製した特定複合粒子のLog微分細孔容積分布を
図1A~
図1Dに示す。さらに、実施例1、2及び比較例1の特定複合粒子と球状天然黒鉛との混合負極材のLog微分細孔容積分布を
図2に示す。
【0100】
表1中、「-」は該当しないことを表す。P1直径及びP2直径はそれぞれ、特定複合粒子のLog微分細孔容積分布において、細孔直径が0.10μm以上8.00μm以下の範囲における第1のピークP1、及び存在する場合は第2のピークP2における、Log微分細孔容積が最大となるときの細孔直径を表す。なお、上記範囲におけるピークが1本のときは、当該ピークはP1に分類した。
【0101】
図1A~
図1D及び
図2のLog微分細孔容積分布において、縦軸はLog微分細孔容積(cm
3/g)を表し、横軸は細孔直径(μm)を表す。
【0102】
【0103】
実施例及び比較例で得られた黒鉛粉末は、配向面が非平行となるように集合又は結合している複数の扁平状の黒鉛粒子と、球状の黒鉛粒子と、を含む複合粒子であることが、走査型電子顕微鏡(SEM)の観察により確認された。
【0104】
また、
図1A~
図1Dに示されるように、Log微分細孔容積分布において、実施例1、2で作製した特定複合粒子では、細孔直径が0.10μm以上8.00μm以下の範囲においてピークが2本観察されていた。一方、比較例1、2で作製した複合粒子では上記範囲におけるピークが1本であった。
【0105】
表1からわかるように、実施例で作製したリチウムイオン二次電池用負極では、注液性が向上していた。
【0106】
また、実施例及び比較例で作製したリチウムイオン二次電池の充電容量、放電容量、効率、及び急速放電維持率をそれぞれ測定したところ、いずれも良好な電池特性が確認された。
【0107】
図2に示されるように、実施例1、2及び比較例1で作製した混合負極材のLog微分細孔容積分布のピークはいずれも1本であった。
【0108】
本明細書に記載された全ての文献、特許出願、及び技術規格は、個々の文献、特許出願、及び技術規格が参照により取り込まれることが具体的かつ個々に記された場合と同程度に、本明細書中に援用されて取り込まれる。