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特許7447930繊維強化熱可塑性樹脂成形材料、ペレットおよびその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-04
(45)【発行日】2024-03-12
(54)【発明の名称】繊維強化熱可塑性樹脂成形材料、ペレットおよびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   B29B 9/14 20060101AFI20240305BHJP
   C08L 77/00 20060101ALI20240305BHJP
   C08K 3/26 20060101ALI20240305BHJP
   C08K 7/06 20060101ALI20240305BHJP
   C08J 5/04 20060101ALI20240305BHJP
   B29B 7/38 20060101ALI20240305BHJP
   B29C 48/285 20190101ALI20240305BHJP
   B29C 48/345 20190101ALI20240305BHJP
【FI】
B29B9/14
C08L77/00
C08K3/26
C08K7/06
C08J5/04 CFG
B29B7/38
B29C48/285
B29C48/345
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2022070461
(22)【出願日】2022-04-22
(62)【分割の表示】P 2018058239の分割
【原出願日】2018-03-26
(65)【公開番号】P2022097549
(43)【公開日】2022-06-30
【審査請求日】2022-05-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(72)【発明者】
【氏名】奥中 理
(72)【発明者】
【氏名】石井 弘樹
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 和昭
【審査官】▲高▼村 憲司
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2014/203811(WO,A1)
【文献】特開2002-242028(JP,A)
【文献】特開2017-210590(JP,A)
【文献】特開2002-371197(JP,A)
【文献】特開2004-019055(JP,A)
【文献】特開2017-186496(JP,A)
【文献】国際公開第2017/065009(WO,A1)
【文献】国際公開第2020/179532(WO,A1)
【文献】国際公開第2012/086673(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29B 7/00 - 7/94
B29B 9/00 - 9/16
B29B 11/16
B29B 15/08 - 15/14
B29C 48/00 - 48/96
C08J 5/04 - 5/10
C08J 5/24
C08K 3/00 - 13/08
C08L 1/00 -101/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリアミド樹脂(A)またはポリアミド樹脂(A)含有樹脂組成物と、炭素繊維(B)を押出機で混練押出しするペレットの製造方法であって、フィラメント数15000~50000本、且つ円相当径が7.0~8.5μmである炭素繊維のチョップドファイバーを、前記ポリアミド樹脂(A)と前記炭素繊維(B)の合計量に対し、前記ポリアミド樹脂(A)が40質量%以上67質量%以下、前記炭素繊維(B)が33質量%以上60質量%以下となるように押出機の二箇所以上から分割して投入する、ペレットの製造方法。
【請求項2】
前記炭素繊維(B)の一部をポリアミド樹脂(A)と共に押出機上流の主原料フィーダーから投入して溶融混練し、炭素繊維(B)の残部を溶融状態にあるポリアミド樹脂(A)含有樹脂組成物にサイドフィーダーから投入する、請求項1に記載のペレットの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、繊維強化熱可塑性樹脂組成物、その製造方法および繊維強化熱可塑性樹脂組成物の射出成形品に関する。
【背景技術】
【0002】
熱可塑性樹脂の機械特性を向上させるための手段として、ガラス繊維や炭素繊維等の繊維状充填材を配合することが一般的に知られている。特にポリアミド樹脂に炭素繊維を配合したものは、高い強度を示す。繊維状充填材の一般的な配合手法としては、熱可塑性樹脂と繊維のチョップドストランド(短繊維)を押出機中で溶融混練する手法などが挙げられる。
【0003】
近年、プラスチックの高性能化に対する要求が高度化し、金属同等の機械特性に加えて、意匠性(良外観)が求められるようになってきている。しかし、前記繊維状充填材を配合して得られた成形品は、繊維状充填材の浮きによる光沢性の低下や、うねり状の凹凸の発生などにより表面外観の低下が生じやすく、機械特性と意匠性の両立は困難であった。
これに対し、優れた機械的特性、外観・意匠性を有する成形品を得ることのできる炭素繊維強化樹脂組成物として、融点と降温結晶化ピーク温度との差が0℃以上50℃未満の半芳香族ポリアミド樹脂、融点と降温結晶化ピーク温度との差が50℃以上90℃未満のポリアミド樹脂および炭素繊維を配合してなる炭素繊維強化ポリアミド樹脂組成物(特許文献1)が提案されている。かかる技術によりうねり凹凸を抑制することができるものの、さらに優れた表面外観が求められていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2017-186496号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、前期課題を解決し、機械特性および表面外観に優れた成形品を得ることができる炭素繊維強化熱可塑性樹脂組成物を提供することをその課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明等は上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、径が大きめの炭素繊維を用いることにより、上記課題が解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。即ち、本発明の要旨は以下の(1)~(7)に存する。
(1) ポリアミド樹脂(A)を40質量%以上67質量%以下と、炭素繊維(B)を33質量%以上60質量%以下含み、炭素繊維(B)の質量平均繊維長(Lw)が0.13mm以上0.50mm未満であり、かつ炭素繊維(B)の円相当径が7.0~8.5μmである繊維強化熱可塑性樹脂成形材料。
(2) 炭素繊維(B)の質量平均繊維長が0.18mm以下である、上記(1)に記載の繊維強化熱可塑性樹脂組成物。
(3) 炭素繊維(B)以外の無機フィラー(C)を5質量%以上30質量%以下含む、上記(1)または(2)に記載の繊維強化熱可塑性樹脂組成物。
(4) ポリアミド樹脂(A)が、ジアミン由来の構成単位とジカルボン酸由来の構成単位から構成され、ジアミン由来の構成単位の50モル%以上がキシリレンジアミンである、上記(1)から(3)のいずれかに記載の繊維強化熱可塑性樹脂組成物。
(5) ポリアミド樹脂(A)が、融点(Tm)と降温結晶化ピーク温度(Tc)の差
が50℃以上90℃未満であるポリアミド樹脂(A-1)50質量%以上99質量%以下と、TmとTcの差が0℃以上50℃未満のポリアミド樹脂(A-2)1質量%以上50質量%以下を含み、ポリアミド樹脂(A)のTmとTcの差が40℃未満である、上記(1)から(3)のいずれかに記載の繊維強化熱可塑性樹脂組成物。
(6) ポリアミド樹脂(A)またはポリアミド樹脂(A)含有樹脂組成物と、炭素繊維(B)を押出機で混練押出しする熱可塑性樹脂組成物の製造方法であって、炭素繊維(B)を押出機の二箇所以上から分割して投入する、上記(1)から(5)のいずれかに記載の熱可塑性樹脂組成物の製造方法。
(7) 上記(1)から(5)のいずれかに記載の熱可塑性樹脂組成物の射出成型品であって、当該射出成型品の表面粗さRaが0.1未満、かつうねりWaが1.0未満である射出成形品。
【発明の効果】
【0007】
本発明の炭素繊維強化熱可塑性樹脂組成物によれば、機械特性および表面外観に優れた成形品を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、ポリアミド樹脂(A)を40質量%以上67質量%以下と、炭素繊維(B)を33質量%以上60質量%以下含み、炭素繊維(B)の質量平均繊維長(Lw)が0.13mm以上0.50mm未満であり、かつ炭素繊維(B)の円相当径が7.0~8.5μmである繊維強化熱可塑性樹脂成形材料である。ポリアミド樹脂(A)は炭素繊維(B)を配合する事で優れた機械特性を示すが、ポリアミド樹脂(A)を一定量含む事で、曲げ強度等の機械特性が優れる。
【0009】
ポリアミド樹脂(A)は、ジアミン由来の構成単位とジカルボン酸由来の構成単位から構成され、ジアミン由来の構成単位の50モル%以上がキシリレンジアミンであることが好ましい。ジアミン由来の構成単位の50モル%以上がキシリレンジアミンである事で、吸水率が低く抑えられ、また高い剛性・強度を示す。このようなポリアミド樹脂(A)としては、例えばPAMXD6、PAXD10が挙げられる。市販品としては、PAMXD6として、三菱ガス化学(株)製MXナイロン S6001、S6007、S6121、PAXD10として、三菱ガス化学(株)製Lexter 8000、8500、8900が挙げられる。
【0010】
ポリアミド樹脂(A)は、融点(Tm)と降温結晶化ピーク温度(Tc)の差が50℃以上90℃未満であるポリアミド樹脂(A-1)と、TmとTcの差が0℃以上50℃未満のポリアミド樹脂(A-2)を含む事が好ましい。また、ポリアミド樹脂(A-1)のTmとTcの差は、60℃以上80℃未満がさらに好ましく、ポリアミド樹脂(A-2)のTmとTcの差は、10℃以上45℃未満がさらに好ましい。ポリアミド樹脂(A)100質量%中のポリアミド樹脂(A-1)は、50質量%以上99質量%未満が好ましく、60質量%以上95質量%未満がさらに好ましい。ポリアミド樹脂(A)100質量%中のポリアミド樹脂(A-2)は、1質量%以上50質量%未満が好ましく、5質量%以上40質量%未満がさらに好ましい。ポリアミド樹脂(A-1)を含むことで、表面粗さ(Ra)やうねり(Wa)が小さく表面外観に優れた成形品が得られる。その一方で、このようなポリアミド樹脂(A-1)のみでは結晶化し難いため、射出成型時の結晶化が不十分で、寸法安定性が悪くなる事がある。そこで、結晶化し易いポリアミド樹脂(A-2)を併用する事で、優れた表面外観と寸法安定性に優れた成形品が得られる。
【0011】
TmとTcの差が50℃以上90℃未満のポリアミド樹脂(A-1)としては、PAMXD6、PAXD10、PA6などが挙げられ、TmとTcの差が0℃以上50℃未満のポリアミド樹脂(A-2)としては、PA10T、PA9T、PA66、PA612など
が挙げられる。
【0012】
本発明の熱可塑性樹脂のポリアミド樹脂(A)に由来するTmとTcの差は、40℃未満が好ましく、25℃以上がさらに好ましい。TmとTcの差が大きすぎると射出成型品の寸法安定性が悪くなる場合があり、またTmとTcの差が小さすぎると、表面外観が悪くなる。
【0013】
ここで、本発明における(A-1)と(A-2)の融点(Tm)とは、融解吸熱ピークの頂点の温度を指し、JIS K7121(1987年)に準じて、(A-1)または(A-2)を10℃/分の速度で昇温して熱量を測定したときのDSC曲線における融解吸熱ピーク温度を意味する。融点の測定には、示差走査熱量計、例えば、セイコーインスツルメンツ(株)製EXSTAR DSC7020を用いることができる。なお、融解吸熱ピークが2つ以上観測される場合には、より高温側に存在する融解吸熱ピーク温度をTmとする。
【0014】
一方、本発明における(A-1)と(A-2)の降温結晶化ピーク温度(Tc)とは、結晶化発熱ピークの頂点の温度を指し、JIS K7121(1987年)に準じて、(A-1)または(A-2)を融解吸熱ピーク終了温度より約30℃高い温度まで昇温し、さらにこの温度で10分間保持した後、10℃/分の速度で降温して熱量を測定したときのDSC曲線における結晶化発熱ピークの頂点の温度を意味する。降温結晶化ピーク温度の測定には、示差走査熱量計、例えば、セイコーインスツルメンツ(株)製EXSTAR
DSC7020を用いることができる。なお、降温結晶化ピークが2つ以上観測される場合には、より高温側に存在する結晶化発熱ピーク温度をTcとする。
【0015】
熱可塑性樹脂中のポリアミド(A)のTmは、耐熱性の観点から180℃以上が好ましく、200℃以上がさらに好ましい。また、溶融成形時の分解を抑制する観点から、300℃以下が好ましく、250℃以下がさらに好ましい。また、ポリアミド(A)のTcは、うねりを抑制する観点から、150℃以上が好ましく、180以上がさらに好ましい。また、表面粗さをより低減する観点から、280℃以下が好ましく、250℃以下がさらに好ましい。
【0016】
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、ポリアミド樹脂(A)以外の熱可塑性樹脂を含んでいても良い。100℃以上の金型温度でも成形収縮を抑制する観点から、ガラス転移温度(Tg)130℃以上の非晶性樹脂が好ましく、ポリアミド樹脂(A)との溶融混練し易さの観点から、Tg250℃以下が好ましい。このような熱可塑性樹脂として、ポリエーテルスルホン(Tg225℃)、ポリエーテルイミド(Tg217℃)、ポリカーボネート(Tg150℃)などが挙げられる。
【0017】
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、炭素繊維(B)を33質量%以上50質量%以下含み、より優れた機械特性を得る観点からは35質量%以上が好ましく、表面外観や機械特性の観点から45質量%以下が好ましい。炭素繊維(B)が多すぎる場合には、本発明の方法を用いても優れた表面外観を得る事が困難になったり、強度が低下したりする場合がある。
【0018】
本発明の熱可塑性樹脂組成物に含まれる炭素繊維(B)の質量平均繊維長は0.13mm以上0.50mm未満である。優れた機械特性を得る観点から、0.14mm以上が好ましい。また、表面粗さやうねりが小さくより優れた外観を得る観点からは、0.18mm未満が好ましく、0.16mm未満がさらに好ましい。
【0019】
炭素繊維(B)の質量平均繊維長は、樹脂ペレットを空気雰囲気下で3時間600℃に
加熱してポリアミド樹脂(A)等を熱分解により除去し、残存した炭素繊維(B)100本以上の繊維長を光学顕微鏡にて測定し、その平均値とする。質量平均繊維長は、繊維長をLとしたとき、下式(1)で算出される。
質量平均繊維長=ΣL/ΣL ・・・式(1)
【0020】
本発明の熱可塑性樹脂組成物に含まれる炭素繊維(B)の円相当径は7.0μm以上8.5μm未満であり、より優れた外観を得る観点からは7.2μm以上が好ましく、優れた機械特性を得る観点からは8.0μm未満が好ましい。炭素繊維(B)が太いほど熱可塑性樹脂中に含まれる炭素繊維(B)の本数は少なくなり、熱可塑性樹脂中の炭素繊維(B)の分散が良好になる。その一方で、炭素繊維(B)が太すぎると、円相当径に対する長さが小さくなり、炭素繊維(B)の補強効果が小さくなる。炭素繊維(B)は円相当径がこの範囲であれば、必ずしも円形である必要はない。
【0021】
ここで炭素繊維(B)の円相当径(μm)は、目付(mg/m)、フィラメント数(本)、密度(g/cm)から以下の式(2)により求められる。
円相当径=(目付÷フィラメント数÷密度×1000÷3.14)1/2×2 ・・・式(2)
【0022】
本発明に用いられる炭素繊維(B)としては、PAN系炭素繊維やピッチ系炭素繊維が挙げられるが、機械特性の観点から、PAN系炭素繊維が好ましい。PAN系炭素繊維は、「アクリロニトリルを主成分として重合させたポリアクリルニトリル系樹脂からなる繊維を、不融化させて、更に炭化させて生成した実質的に炭素のみからなるフィラメント繊維」を主たる成分として構成される。
【0023】
本発明の製造方法で用いる炭素繊維(B)の形態は、例えば、長繊維、チョップドファイバー、ミルドファイバー等が挙げられる。これらの炭素繊維(B)の形態は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。これらの炭素繊維(B)の形態の中でも、取り扱い性に優れ、質量平均繊維長を容易に制御することができることから、チョップドファイバーが好ましい。
【0024】
炭素繊維(B)の市販品としては、例えば連続繊維として、パイロフィル TRW4050L(三菱ケミカル(株)製)が挙げられ、チョップドファイバーとして、パイロフィルTR06UL B5K、TR06NL B5K、TR06QL B5K(三菱ケミカル(株)製)が挙げられる。
【0025】
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、ポリアミド樹脂(A)、炭素繊維(B)以外に、本発明の効果が得られる範囲で、必要に応じて、各種添加剤を含んでもよい。添加剤としては、例えば、着色剤、酸化防止剤、金属不活性剤、カーボンブラック、造核剤、離型剤、滑剤、帯電防止剤、光安定剤、紫外線吸収剤、無機フィラー、耐衝撃性改質剤、加工助剤、難燃剤、可塑剤等が挙げられる。これらの添加剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0026】
本発明の熱可塑性樹脂組成物に無機フィラーを配合する場合は、炭素繊維(B)以外の無機フィラー(C)を5質量%以上30質量%以下含むことが好ましく、9質量%以上15質量%以下がさらに好ましい。ここで炭素繊維(B)以外の無機フィラーとは、樹脂の成形収縮率を低減する観点から、異方性の少ない粒子状、球状、板状のものが好ましく、剛性を向上する観点から繊維状、板状のものが好ましい。特に好ましくは板状である。このような無機フィラーを用いる事で、より良好な表面外観と機械特性を得る事が可能となる。無機フィラーとしては、タルク、マイカ、黒鉛、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、黒鉛、ガラス繊維などが挙げられ、タルク、マイカ、炭酸カルシウムが好ましく、タルク、マイカがさらに好ましい。
【0027】
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、溶融張力向上などの効果を有する加工助剤を含んでいても良い。加工助剤を用いる事で、射出成型のゲート周辺の外観が改善する場合があり、また機械特性が向上する場合がある。このような加工助剤としては、PTFE系加工助剤、アクリル系加工助剤などが挙げられる。市販されているPTFE系加工助剤としては、三菱ケミカル社製 メタブレン A-3000、A-3750、A-3800などが挙げられる。市販されているアクリル系加工助剤としては、三菱ケミカル社製 メタブレン P-531A、P-530A、P-551A、P-501A、P-570A、P-700、P-710など挙げられる。機械特性と加工性改良効果の観点から、好ましくは、PTFE系加工助剤である。
【0028】
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、着色剤を含んでいても良い。着色剤としては、カーボンブラック、無機顔料、有機染料などが挙げられるが、より均一な黒色外観を得る観点から、カーボンブラックが好ましい。着色剤としてカーボンブラックを配合する場合は、着色性と機械特性の観点から、0.1質量%以上2質量%以下が好ましい。
【0029】
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、離型剤を含んでいても良い。離型剤としては、脂肪酸ワックス、脂肪酸エステルワックス、ポリエチレンワックス、ポリプロピレンワックス、酸化ポリエチレンワックス、フッ素系滑剤などが挙げられる。
【0030】
また、ポリアミド樹脂(A)の結晶化を調整するために、造核剤を用いても良い。造核剤としては、有機核剤、無機フィラー等が挙げられるが、耐熱性と造核効果の観点から無機フィラーが好ましく、特に好ましくはタルクである。造核剤としては、ポリアミド樹脂(A)に対し0.1質量%以上が好ましい。少なすぎると核剤としての効果が限定的となる。造核剤として無機フィラーを用いる場合には、その上限は無機フィラーの配合量の上限に従う。
【0031】
本発明の熱可塑性樹脂組成物の製造方法は、ポリアミド樹脂(A)またはポリアミド樹脂(A)含有樹脂組成物と、炭素繊維(B)を押出機で混練する方法が好ましい。押出機を用いる事で、安定した品質の熱可塑性樹脂組成物を連続して生産する事が可能である。
【0032】
炭素繊維(B)の質量平均繊維長は、炭素繊維(B)の供給方法、押出機のスクリュー回転数、吐出量等の溶融婚連条件を制御する事により調整することができる。本発明の範囲に炭素繊維(B)の繊維長を調整するためには、炭素繊維(B)の一部または全部をサイドフィードする方法が好ましく、より好ましくは、炭素繊維(B)を押出機の二箇所以上から分割して投入する方法である。最も好ましくは、炭素繊維(B)の一部をポリアミド樹脂(A)等と共に押出機上流の主原料フィーダーから投入して溶融混練し、炭素繊維(B)の残部を溶融状態にあるポリアミド樹脂(A)含有樹脂組成物にサイドフィーダーから投入する方法である。この場合、主原料フィーダーとサイドフィーダーから投入する比率を調整する事で、繊維長を調整することが可能である。
【0033】
本発明の成形体は、本発明の熱可塑性樹脂組成物を含み、本発明の熱可塑性樹脂組成物を射出成型することで得られる。
本発明の熱可塑性樹脂組成物からなる射出成型品は、表面粗さRaが0.1μm未満、かつうねりWaが1.0μm未満であることが好ましい。より好ましくは、Waが0.5μm未満であり、さらに好ましくはWaが0.2μm未満である。表面粗さやうねりが小さいほど表面の平滑性が良好で、優れた外観である。下限に特に制限はないが、Raが0.03μm未満、かつWaが0.05μm未満を達成することは困難である。
【0034】
本発明の熱可塑性樹脂組成物からなる射出成型品は、曲げ弾性率23,000MPa以上が好ましく、26,000MPa以上がさらに好ましい。また、35,000MPa以下が好ましい。曲げ弾性率がこの範囲内であれば、剛性と外観のバランスに優れた射出成型品となる。
【0035】
本発明の熱可塑性樹脂組成物からなる射出成型品は、曲げ強度330MPa以上500MPa以下が好ましく、370MPa以上470MPa以下がさらに好ましい。曲げ強度がこの範囲内であれば、強度と外観のバランスに優れた射出成型品となる。
【0036】
本発明の熱可塑性樹脂組成物からなる射出成型品は、厚さ0.5mm以上2.6mm以下が好ましく、1.1mm以上2.1mm以下がさらに好ましい。厚すぎる場合には表面外観が不十分となる場合があり、薄すぎる場合には、射出成型品の剛性や強度が不十分となる場合がある。
【実施例
【0037】
本発明をさらに具体的に説明するために、以下、実施例および比較例を挙げて説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0038】
[融点(Tm)]
ポリアミド樹脂(A)、または熱可塑性樹脂組成物を、セイコーインスツルメンツ(株)製示差走査熱量計(EXSTAR DSC7020)を用いて、JIS K7121(1987年)に従い、30℃から10℃/分の速度で昇温して熱量を測定し、DSC曲線における融解吸熱ピーク温度から融点(Tm)を求めた。2つ以上のピークが得られた場合には、高温側の融解吸熱ピーク温度をTmとした。
【0039】
[降温結晶化ピーク温度(Tc)]
ポリアミド樹脂(A)、または熱可塑性樹脂組成物を、セイコーインスツルメンツ(株)製示差走査熱量計(EXSTAR DSC7020)を用いて、JIS K7121(1987年)に従い、30℃から10℃/分の速度で融解吸熱ピーク終了温度より約30℃高い温度まで昇温し、さらにこの温度で10分間保持した後、10℃/分の速度で降温して熱量を測定し、DSC曲線における結晶化発熱ピークの頂点の温度から降温結晶化ピーク温度(Tc)を求めた。
【0040】
[繊維長]
実施例・比較例で得られた熱可塑性樹脂組成物を、空気雰囲気下で3時間600℃に加熱してポリアミド(A)等を熱分解により除去し、残存した炭素繊維任意の100本以上の繊維長を光学顕微鏡で測定した。
下記式により、重量平均繊維長(Lw)、数平均繊維長(Ln)を算出した。
数平均繊維長(Ln)=ΣL/n
重量平均繊維長(Lw)=ΣL/ΣL
L:炭素繊維の繊維長
n:炭素繊維の本数
【0041】
[曲げ試験]
各実施例および比較例1、2により得られた熱可塑性樹脂のペレットを150℃で2時間乾燥した後、射出成形機(機種名「IS55」、東芝機械(株)製)を用い、シリンダー温度300℃、金型温度130℃の条件で射出成形を行い、成形体(幅10mm、長さ80mm、厚さ4mm)を得た。得られた成形体について、ISO178に準拠し、3点曲げ試験を行い、曲げ強度、曲げ弾性率を測定した。
比較例3により得られた熱可塑性樹脂のペレットはTmが高く、それにあわせてシリン
ダー温度330℃に変更した点を除いては各実施例と同様に曲げ強度、曲げ弾性率を測定した。
【0042】
[表面粗さ Ra、表面うねり Wa]
各実施例および比較例1、2により得られた熱可塑性樹脂のペレットを150℃で2時間乾燥した後、射出成形機(機種名「Si-80V」、東洋機械金属(株)製)を用い、シリンダー温度300℃、金型温度130℃の条件で射出成形を行い、100m×100mm×2mmの角板を射出成形した。この角板を使用し、表面粗さ測定装置(ACCRTECH社製)を用いて、評価長さ8mm、試験速度0.6mm/秒の測定条件で、成形品表面の算術平均粗さ(Ra)を測定し、表面粗さを評価した。
【0043】
また、100mm×100mm×2mmの角板を使用し、表面粗さ測定装置(ACCRTECH社製)を用いて、評価長さ20mm、試験速度0.6mm/秒の測定条件で、成形品表面のうねり曲線の算術平均高さ(Wa)値を測定し、表面うねりを評価した。
比較例3により得られた熱可塑性樹脂のペレットはTmが高く、それにあわせてシリンダー温度330℃に変更した点を除いては各実施例と同様に表面粗さ、表面うねりを測定した。
【0044】
[原料]
PAMXD6(A-1):MXナイロンS6007(三菱ガス化学(株)製)を使用した。融点(Tm)は239℃、降温結晶化ピーク温度(Tc)は164℃であり、Tm-Tcは75℃であった。
PA66(A-2-1):E2000SL(ユニチカ(株)製)を使用した。融点(Tm)は264℃、降温結晶化ピーク温度(Tc)は224℃であり、Tm-Tcは40℃であった。
PA9T(A-2-2):N1000A((株)クラレ製)を使用した。融点(Tm)は302℃、降温結晶化ピーク温度(Tc)は276℃であり、Tm-Tcは26℃であった。
【0045】
炭素繊維(B-1):三菱ケミカル(株)製PAN系炭素繊維TRW40 50L(フィラメント数 50,000本、目付 3,750mg/m、密度1.81g/cm、円相当径 7.3μm、引張強度4.12GPa、引張弾性率240GPa)にポリアミド系サイジング剤を付与し、6mmにカットしたもの。サイジング剤付着量 3.0%
炭素繊維(B-2):三菱ケミカル(株)製PAN系炭素繊維MR60H 24P(フィラメント数 24,000本、目付 960mg/m、密度1.81g/cm、円相当径 5.3μm、引張強度5.68GPa、引張弾性率280GPa)にポリアミド系サイジング剤を付与し、3mmにカットしたもの。サイジング剤付着量 3.0%
炭素繊維(B-3):三菱ケミカル(株)製PAN系炭素繊維TR50S 15L(フィラメント数 15,000本、目付 1,000mg/m、密度1.82g/cm、円相当径 6.8μm、引張強度4.90GPa、引張弾性率235GPa)にポリアミド系サイジング剤を付与し、6mmにカットしたもの。サイジング剤付着量 3.0%
【0046】
タルク(C-1):ミクロンホワイト#5000A(林化成(株)製)
炭酸カルシウム(C-2):ホワイトンP30(白石カルシウム(株)製)
PES:スミカエクセル PES 3600P(住友化学(株)製)
加工助剤:メタブレンA-3750(三菱ケミカル(株)製)
離型剤:ペンタエリスリトールステアレート
着色剤:カーボンブラック
【0047】
[実施例1]
主原料フィーダーとサイドフィーダーとを有する同方向二軸押出機(機種名「PCM-30」、(株式会社池貝製)を用いて、PAMXD6(A-1)52.3質量%、PA66(A-2-1) 6.0質量%、タルク(C-1) 0.6質量%、カーボンブラック0.8質量%、離型剤 0.3質量%、炭素繊維(B-1) 30質量%を主原料フィーダーから投入し、サイドフィーダーから炭素繊維(B-1) 10質量%を投入し、300℃、200rpmの条件で溶融混練し、吐出されたストランドを水中で冷却したものをストランドカッターで4mm長にカットして、熱可塑性樹脂組成物を得た。評価結果を表1に示す。
【0048】
[実施例2]
主原料フィーダーから投入する原料をPAMXD6(A-1)43.4質量%、PA66(A-2-1) 5.0質量%、タルク(C-1) 0.5質量%、カーボンブラック0.8質量%、離型剤 0.3質量%、炭酸カルシウム(C-2)10質量%、炭素繊維(B-1) 30質量%に変更する点を除いては、実施例1と同様に実施した。評価結果を表1に示す。
【0049】
[実施例3]
炭酸カルシウム(C-1) 10質量%の代わりにPES 10質量%を用いる点を除いては実施例2と同様に実施した。評価結果を表1に示す。
【0050】
[実施例4]
主原料フィーダーから投入する原料をPAMXD6(A-1)51.9質量%、PA66(A-2-1) 6.0質量%、タルク(C-1) 0.6質量%、カーボンブラック0.8質量%、離型剤 0.3質量%、加工助剤 0.4質量%、炭素繊維(B-1)30質量%に変更する点を除いては、実施例1と同様に実施した。評価結果を表1に示す。
【0051】
[実施例5]
炭素繊維(B-1)を主原料フィーダーから20質量%、サイドフィーダーから20質量%に変更する点を除いては実施例3と同様に実施した。評価結果を表1に示す。
【0052】
[実施例6]
炭素繊維(B-1)を原料フィーダーから投入せず、サイドフィーダーから40質量%投入する点を除いては実施例3と同様に実施した。評価結果を表1に示す。
【0053】
[実施例7]
主原料フィーダーから投入する原料を、PAMXD6(A-1)43.0質量%、PA66(A-2-1) 5.0質量%、タルク(C-1) 0.5質量%、カーボンブラック 0.8質量%、離型剤 0.3質量%、加工助剤 0.4質量%、炭酸カルシウム(C-2)10質量%、炭素繊維(B-1) 30質量%に変更する点を除いては、実施例1と同様に実施した。評価結果を表1に示す。
【0054】
[実施例8]
主原料フィーダーから投入する原料を、PAMXD6(A-1)43.0質量%、PA66(A-2-1) 5.0質量%、タルク(C-1) 10.5質量%、カーボンブラック 0.8質量%、離型剤 0.3質量%、加工助剤 0.4質量%、炭素繊維(B-1) 30質量%に変更する点を除いては、実施例1と同様に実施した。評価結果を表1に示す。
【0055】
[比較例1]
炭素繊維(B-1)をサイドフィーダーから投入せず、主原料フィーダーから40質量%投入する点を除いては実施例3と同様に実施した。評価結果を表1に示す。
【0056】
[比較例2]
炭素繊維(B-1)を用いず、代わりに炭素繊維(B-2) 40質量%をサイドフィーダーから投入する点を除いては実施例1と同様に実施した。評価結果を表1に示す。
【0057】
[比較例3]
特許文献1の実施例13に記載されている内容を参考に、PAMXD6(A-1)12.0質量%、PA9T(A-2-2) 48.0質量%、を主原料フィーダーから投入し、サイドフィーダーから炭素繊維(B-3) 40質量%を投入し、330℃、200rpmの条件で溶融混練した点を除いては、実施例1と同様に実施し、熱可塑性樹脂組成物を得た。評価結果を表1に示す。
【0058】
【表1】
【0059】
実施例1~9と比較例1~3の対比により、本発明の熱可塑性樹脂組成物は、表面外観と機械特性のバランスに優れる事がわかる。
【0060】
比較例1は、炭素繊維(B)の長さが本発明の範囲より短いため、同じ配合で炭素繊維(B)の繊維長が異なる実施例3、5、6と比べて、曲げ強度、曲げ弾性率などの機械特性が劣る。また、実施例3、5、6の対比により、炭素繊維(B)が短いほど表面粗さ、
表面うねりなどの外観特性が優れ、炭素繊維(B)が長いほど曲げ強度、曲げ弾性率などの機械特性が優れる事が明らかである。
【0061】
比較例2は、炭素繊維(B)の円相当径が本発明の範囲より小さい。実施例1、実施例6との対比により、炭素繊維(B)の円相当径の効果が明らかである。比較例2と同様にすべての炭素繊維(B)をサイドフィードしている実施例6は、炭素繊維(B)の繊維長が比較例2より長いが、表面粗さ、表面うねりの何れもが小さく、表面外観に優れる。同じ組成で質量平均繊維長、円相当径が異なる実施例1は、比較例2に比べて表面粗さ、表面うねりのいずれもが小さく、表面外観に優れる。
【0062】
比較例3は、先行文献1を参考とした比較例である。TmとTcとの差が小さいPA9T(A-2-2)、TmとTcの差が大きいPAMXD6(A-1)、炭素繊維(B-3)を用いる事で表面外観に優れた成形品を得ることを目的としたものであるが、炭素繊維(B)の円相当径が本発明の範囲外であるために、表面粗さ、表面うねりが実施例1~8に比べて大きい。
【0063】
実施例2は、炭酸カルシウム(C-2)を用いたものであり、実施例1に比べて曲げ弾性率が高く、表面うねりが小さい。実施例3は、PESを用いたものであり、実施例1とほぼ同等の評価結果である。実施例4は加工助剤を用いたものであり、実施例1に比べて弾性率が高い。実施例7は、炭酸カルシウム(C-2)と加工助剤を用いたものであり、加工助剤を含まない実施例2や、炭酸カルシウム(C-2)を含まない実施例4よりも弾性率が高い。実施例8は炭酸カルシウム(C-2)の代わりにタルク(C-1)を増やしたものであり、実施例7に比べて弾性率が高く、表面うねりがやや小さい。