(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-04
(45)【発行日】2024-03-12
(54)【発明の名称】強化ガラス
(51)【国際特許分類】
C03C 3/091 20060101AFI20240305BHJP
C03C 3/093 20060101ALI20240305BHJP
C03C 3/089 20060101ALI20240305BHJP
C03C 3/087 20060101ALI20240305BHJP
C03C 3/078 20060101ALI20240305BHJP
C03B 27/012 20060101ALI20240305BHJP
F24C 15/10 20060101ALI20240305BHJP
【FI】
C03C3/091
C03C3/093
C03C3/089
C03C3/087
C03C3/078
C03B27/012
F24C15/10 B
(21)【出願番号】P 2022118196
(22)【出願日】2022-07-25
(62)【分割の表示】P 2019523497の分割
【原出願日】2018-05-31
【審査請求日】2022-07-25
(31)【優先権主張番号】P 2017111183
(32)【優先日】2017-06-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2018062142
(32)【優先日】2018-03-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000000044
【氏名又は名称】AGC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】弁理士法人栄光事務所
(72)【発明者】
【氏名】宮坂 順子
(72)【発明者】
【氏名】小池 章夫
(72)【発明者】
【氏名】山本 宏行
【審査官】田中 永一
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/225627(WO,A1)
【文献】国際公開第2015/111524(WO,A1)
【文献】特開平07-069669(JP,A)
【文献】特表2014-504431(JP,A)
【文献】特表2013-531776(JP,A)
【文献】国際公開第2016/088778(WO,A1)
【文献】特開2002-047030(JP,A)
【文献】特開2007-254278(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03C 3/00 - 14/00
C03B 27/012
F24C 15/10
H05B 6/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
50~350℃での平均熱膨張係数が20×10
-7~37.0×10
-7/℃であり、
ガラス転移点が560℃以上であり、
厚みが2~15mmであり、
酸化物基準のモル百分率表示で、SiO
2:65~75%、Al
2O
3:5~20%、B
2O
3:0~25%、MgO:0.1~10%、CaO:0.1~10%、ZnO:0~5%、Li
2O:0.1~2.5%、Na
2O:0~1.5%、ZrO
2:0~2.5%を含有するガラス。
【請求項2】
請求項
1に記載のガラスをトッププレートとして備える加熱調理器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐熱性に優れるとともに、高温に長時間曝されても表面の圧縮応力が低下しにくい強化ガラスに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、加熱調理器等の加熱器のトッププレート、高温炉の窓材、防火性を要する建材等の各種用途において、耐熱ガラスが用いられている。例えば、加熱調理器等の加熱器のトッププレートとして、従来、低膨張性のリチウムアルミノシリケート系結晶化ガラスが用いられている。しかしながら、低膨張性のリチウムアルミノシリケート系結晶化ガラスは茶褐色の色調を有しており、周囲の色調や意匠と調和しにくいという問題があった。
【0003】
また、耐熱性を高めるために、風冷強化等の物理強化が耐熱ガラスに施される場合がある(特許文献1等参照)。例えば、汎用性のある低膨張ガラスである、パイレックス(コーニング社の登録商標)、テンパックス(ショット社の登録商標)といった硼珪酸ガラスに物理強化処理を施した耐熱ガラス、例えば、低膨張性強化ガラス「ピラン」(ショット社の登録商標)が用いられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来の物理強化された耐熱ガラスは、高温で長時間使用した際に表面の圧縮応力が緩和し、表面の圧縮応力が低下してしまうという問題があった。
【0006】
そこで、本発明は、耐熱性に優れるとともに、高温に長時間曝されても表面の圧縮応力が低下しにくい強化ガラスを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは鋭意検討を重ねた結果、下記の強化ガラスにより前記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明の一態様に係る強化ガラスは、50~350℃での平均熱膨張係数が20×10-7~50×10-7/℃であり、ガラス転移点が560℃以上であるガラスが物理強化された強化ガラスである。
【0009】
上記のガラスは、酸化物基準のモル百分率表示で、
R2O:0~5%(ただし、R2Oは、Li2O、Na2O、及びK2Oのうちの少なくとも1つである)、
RO:5~15%(但し、ROは、MgO、CaO、SrO、及びBaOのうちの少なくとも1つである)、
SiO2:55~80%、及び
B2O3:0~25%
を含有していてもよい。
【0010】
また、本発明の別の一態様に係る強化ガラスは、酸化物基準のモル百分率表示で、
R2O:0~4%(ただし、R2Oは、Li2O、Na2O、及びK2Oのうちの少なくとも1つである)、及び
B2O3:5~25%
を含有するガラスが物理強化された強化ガラスである。
【0011】
上記の強化ガラスにおいて、上記のガラスは、酸化物基準のモル百分率表示で、
SiO2:55~80%、及び
RO:5~15%(但し、ROは、MgO、CaO、SrO、及びBaOのうちの少なくとも1つである)
をさらに含有していてもよい。
【0012】
また、上記のガラスは、50~350℃での平均熱膨張係数が20×10-7~50×10-7/℃であってもよい。
【0013】
また、上記のガラスは、ガラス転移点が560℃以上であってもよい。
【0014】
また、上記のガラスは、酸化物基準の重量百分率表示で、Fe2O3を0.0001~0.2%含有していてもよい。
【0015】
また、上記のガラスは、重量百分率表示で、塩化物、SnO2及びSO3からなる群から選択される少なくとも1種を0.0001~2.0%含有していてもよい。
【0016】
また、上記のガラスは、失透温度が、粘度が103dPa・sとなる温度より低いことが好ましい。
【0017】
また、上記のガラスは、粘度が103dPa・sとなる温度における電気伝導度σが、logσの値として2.5ms/m以上であることが好ましい。
【0018】
また、上記のガラスとして鏡面仕上げ表面を有する厚み1mmのガラスを用い、上記の強化ガラスに対してビッカース圧子を用いて圧痕を形成した際のクラックの発生率が50%となるビッカース圧子の荷重が100gf以上であることが好ましい。
【0019】
上記の強化ガラスにおいては、表面の圧縮応力が5~200MPaであることが好ましい。
【0020】
上記の強化ガラスは、厚さが2mm以上であることが好ましい。
【0021】
上記の強化ガラスにおいては、400℃で12時間熱処理したときの応力残存率が75%以上であることが好ましい。
また、上記の強化ガラスにおいては、400℃で21時間熱処理したときの応力残存率が60%以上であることが好ましい。
【0022】
上記の強化ガラスは、一方の主面に有機印刷層をさらに備えていてもよい。
【0023】
上記の場合において、有機印刷層をさらに備える上記強化ガラスと、有機印刷層のみとを比較したときの色調差ΔEが10以下であることが好ましい。
【0024】
上記の強化ガラスは、一方の主面の少なくとも一部にセラミック印刷層をさらに備えていてもよい。
【0025】
また、本発明は、50~350℃での平均熱膨張係数が20×10-7~50×10-7/℃であり、
ガラス転移点が560℃以上であり、
厚みが2~15mmであり、
酸化物基準のモル百分率表示で、SiO2:65~75%、Al2O3:5~20%、B2O3:0~25%、MgO:0.1~10%、CaO:0.1~10%、ZnO:0~5%、Li2O:0.1~2.5%、Na2O:0~1.5%、ZrO2:0~2.5%を含有し、かつ、
酸化物基準の重量百分率表示で、Fe2O3:0.0001~0.2%を含有するガラスにも関する。
【0026】
また、本発明は、上記の強化ガラスをトッププレートとして備える加熱調理器にも関する。
【0027】
さらに、本発明は、上記の加熱調理器を含むキッチン台にも関する。
【発明の効果】
【0028】
本発明の強化ガラスは、耐熱性に優れるとともに、高温に長時間曝されても表面の圧縮応力が低下しにくいものである。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明を詳細に説明するが、本発明は以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、任意に変形して実施することができる。なお、本明細書において、「~」とはその下限の値以上、その上限の値以下であることを意味する。
【0030】
本発明の一態様(以下、第1の態様)に係る強化ガラスは、50~350℃での平均熱膨張係数が20×10-7~50×10-7/℃であり、ガラス転移点が560℃以上であるガラスが物理強化された強化ガラスである。
【0031】
第1の態様に係る強化ガラスにおいて、ガラスの平均熱膨張係数(α)は、50~350℃の温度範囲において、20×10-7~50×10-7/℃である。αが20×10-7/℃以上であれば、物理強化によりガラス表面に圧縮応力を発生させやすくなる。αは、好ましくは24×10-7/℃以上であり、より好ましくは27×10-7/℃以上であり、さらに好ましくは29×10-7/℃以上、特に好ましくは30×10-7/℃以上である。一方、αが50×10-7/℃以下であれば、高温に曝された際に発生する応力を小さくして熱的衝撃による割れを抑制できる。αは、好ましくは45×10-7/℃以下であり、より好ましくは40×10-7/℃以下であり、さらに好ましくは35×10-7/℃以下、特に好ましくは32×10-7/℃以下である。
なお、ガラスの平均熱膨張係数(α)は熱機械分析装置(TMA)により測定できる。
【0032】
また、第1の態様に係る強化ガラスにおいて、ガラスのガラス転移点(Tg)は、560℃以上である。Tgが560℃以上であれば、高温で長時間使用された際にも、物理強化により導入された表面圧縮応力の緩和が抑制され、表面の圧縮応力が低下しにくくなる。この観点からは、Tgは、好ましくは590℃以上であり、好ましくは650℃以上であり、より好ましくは690℃以上であり、さらに好ましくは740℃以上であり、特に好ましくは760℃以上であり、最も好ましくは810℃以上である。
なお、ガラスのガラス転移点(Tg)は熱機械分析装置(TMA)により測定できる。
【0033】
一方、Tgは、900℃以下であることが好ましい。ガラスに風冷強化等の物理強化を施す場合には、ガラスをTg以上の温度に加熱した後に急冷することとなる。ここで、Tgが900℃を超えると、物理強化のために加熱温度をTgよりもさらに高温にする必要があるため、物理強化の際、ガラスを保持する部材(治具)等の周辺部材が高温下に晒され、周辺部材の寿命が著しく低下する、あるいは、耐熱性に優れた高価な部材が必要となる、等の問題が発生するおそれがある。この観点からは、Tgは、より好ましくは820℃以下である。一方、物理強化を低コストで実施したい場合には、さらに好ましくは770℃以下であり、よりさらに好ましくは720℃以下、特に好ましくは670℃以下である。
【0034】
第1の態様に係る強化ガラスは、表面に圧縮応力(圧縮応力層)を有する。ここで、表面の圧縮応力値は特に限定されないが、耐熱性向上の観点からは、5MPa以上であることが好ましい。当該圧縮応力は、10MPa以上であることがより好ましく、15MPa以上がさらに好ましく、20MPa以上であることがよりさらに好ましい。また、たとえ割れたとしてもガラスの飛散を抑制し、使用時の安全性を確保するとの観点からは、表面の圧縮応力が200MPa以下であることが好ましい。当該圧縮応力は、100MPa以下であることがより好ましく、60MPa以下がさらに好ましく、39MPa以下であることがよりさらに好ましい。ここで、表面の圧縮応力は、表面応力測定装置や複屈折率測定装置により測定することができる。
【0035】
第1の態様に係る強化ガラスにおいて、ガラスの組成は、上記要件を満足するガラスを得ることができる組成であれば、特に限定されるものではないが、例えば、後述する第2の態様に係る強化ガラスにおけるガラスの組成を適用することができる。なお、第1の態様に係る強化ガラスにおいては、ガラスの50~350℃での平均熱膨張係数が20×10-7~50×10-7/℃であり、ガラス転移点が560℃以上である限りにおいて、R2Oを5%以下まで含有しうる。
【0036】
また、本発明の別の一態様(以下、第2の態様)に係る強化ガラスは、酸化物基準のモル百分率表示で、R2O:0~4%(ただし、R2Oは、Li2O、Na2O、及びK2Oのうちの少なくとも1つである)、及びB2O3:5~25%を含有するガラスが物強化された強化ガラスである。
【0037】
以下において、第2の態様に係る強化ガラスにおけるガラスの組成について説明する。なお、特に断りのない限り、各成分の含有量(%)は、酸化物基準のモル百分率を表すこととする。ただし、後述するFe2O3の含有量は酸化物基準の重量百分率表示であり、塩化物、SnO2及びSO3からなる群から選択される少なくとも1種の合計含有量は重量百分率表示である。
【0038】
R2Oは、ガラス原料の溶融を促進し、熱膨張係数、粘性等を調整するのに有用な成分である。また、ガラスの高温での電気伝導度を向上させるのに有用な成分である。ここで、R2Oとは、Li2O、Na2O、及びK2Oのうちの少なくとも1つを表す。R2Oの含有量を4%以下とすることにより、ガラスの熱膨張係数を小さくして、高温に曝された際に発生する応力を小さくすることができる。また、高温で長時間使用された際にも、物理強化により導入された表面圧縮応力の緩和が抑制され、表面の圧縮応力が低下しにくくなる。R2Oの含有量は、好ましくは3%以下であり、さらに好ましくは2%以下である。また、R2Oは含有されていなくともよい(含有量が0%であってもよい)が、ガラスの溶解性を向上させるために含有させてもよく、その場合のR2Oの含有量は、0.5%以上が好ましく、1%以上がより好ましく、1.5%以上がさらに好ましい。
【0039】
Li2Oは、ガラス原料の溶融を促進し、熱膨張係数、粘性等を調整し、粘性を低下させたまま応力残存率を大きくするのに有用な成分である。また、ガラスの高温での電気伝導度を向上させるのに有用な成分である。ガラスの熱膨張係数を小さくして、高温に曝された際に発生する応力を小さくするためには、4%以下であることが好ましく、3%以下であることがより好ましく、2.5%以下であることがさらに好ましく、2%以下であることがよりさらに好ましい。また、Li2Oは含有されていなくともよい(含有量が0%であってもよい)が、ガラスの熱膨張係数を抑制し、ガラス転移点を調整するために含有させてもよく、その場合のLi2Oの含有量は、0.1%以上が好ましく、0.5%以上がより好ましく、1%以上がさらに好ましく、1.5%以上が特に好ましい。
【0040】
Na2Oは、ガラス原料の溶融を促進し、熱膨張係数、粘性等を調整するのに有用な成分である。また、ガラスの高温での電気伝導度を向上させるのに有用な成分である。ガラスの熱膨張係数を小さくして、高温に曝された際に発生する応力を小さくするためには、3%以下であることが好ましく、2%以下であることがより好ましい。また、Na2Oは含有されていなくともよい(含有量が0%であってもよい)が、ガラスの粘性を低くして製造性を高めるために含有させてもよく、その場合のNa2Oの含有量は、0.1%以上が好ましく、0.5%以上がより好ましく、1%以上がさらに好ましく、1.5%以上が特に好ましい。
【0041】
K2Oは、ガラス原料の溶融を促進し、熱膨張係数、粘性等を調整するのに有用な成分である。また、ガラスの高温での電気伝導度を向上させるのに有用な成分である。ガラスの熱膨張係数を小さくして、高温に曝された際に発生する応力を小さくするためには、2%以下であることが好ましく、1%以下であることがより好ましく、0.5%以下であることがさらに好ましく、0.2%以下であることが特に好ましい。また、K2Oは含有されていなくともよい(含有量が0%であってもよい)が、ガラスの粘性を低くして製造性を高めるために含有させてもよく、その場合のK2Oの含有量は、0.1%以上が好ましく、0.5%以上がより好ましく、1%以上がさらに好ましく、1.5%以上が特に好ましい。
【0042】
また、Li2O/(Na2O+K2O)は、材料コスト、ガラス安定性、無機インクとの密着性の観点から1.0以下であることが好ましい。さらに、Li2O/(Na2O+K2O)は0.9以下であることがより好ましく、0.85以下であることがさらに好ましい。
【0043】
B2O3は、ガラスの熱膨張係数を調整するのに有用な成分であるため、含有させてもよい。ガラスの熱膨張係数を抑制し、粘性を抑制するもしくはガラス転移点を調整するためにB2O3を含有させる場合、1%以上が好ましく、3%以上がより好ましく、5%以上がさらに好ましく、7%以上がさらに好ましく、特に粘性を抑制したい場合は9%以上がよりさらに好ましく、11%以上が特に好ましい。一方、ガラスの耐候性を向上させるために、B2O3の含有量は25%以下であり、好ましくは20%以下であり、より好ましくは15%以下であり、さらに好ましくは10%以下であり、さらに特に高いガラス転移点にしたい場合は、よりさらに好ましくは4.7%以下である。
【0044】
SiO2は、ガラスの主成分である。SiO2の含有量は、ガラスの耐候性を高め、ガラスの膨張係数を高めるためには、55%以上が好ましく、60%以上がより好ましく、65%以上がさらに好ましく、68%以上がよりさらに好ましく、70%以上が特に好ましい。また、SiO2の含有量は、ガラスの粘性を低くして製造性を高めるためには、80%以下が好ましく、75%以下がより好ましく、73%以下がさらに好ましく、71%以下がよりさらに好ましい。
【0045】
Al2O3は、ガラスの耐候性を高めるために、また、ガラスのガラス転移点を高めるために、好ましくは4%以上、より好ましくは7%以上、さらに好ましくは9%以上、よりさらに好ましくは10.5%以上含有させてもよい。一方、ガラスの耐酸性を高めるためには、Al2O3の含有量は、好ましくは20%以下であり、より好ましくは14%以下であり、さらに好ましくは12.5%以下であり、よりさらに好ましくは11%以下であり、さらにガラスの製造安定性を高めたい場合は、特に好ましくは10%以下である。
【0046】
RO(ここで、ROは、MgO、CaO、SrO、及びBaOのうちの少なくとも1つである)は、ガラスの粘性を低くして製造性を高めるために、好ましくは5%以上、より好ましくは8%以上、さらに好ましくは9%以上含有させてもよい。また、ガラスの膨張係数を制御し、失透温度を低くして生産性を高めるためには、ROの含有量は、好ましくは15%以下であり、より好ましくは12%以下であり、さらに好ましくは10%以下である。
【0047】
MgOは、膨張係数を制御しながら、ガラスの粘性を低くして製造性を高めるために含有させてもよく、その場合のMgOの含有量は、1%以上が好ましく、3%以上がより好ましく、5%以上がさらに好ましい。一方、ガラスの膨張係数を小さくしガラスの失透温度を低くして生産性を高めるためには、MgOの含有量は、10%以下が好ましく、8%以下がより好ましく、7%以下がさらに好ましい。
【0048】
CaOは、膨張係数を制御しながらガラスの粘性を低くして製造性を高めるために含有させてもよく、その場合のCaOの含有量は、0.5%以上が好ましく、1%以上がより好ましく、2%以上がさらに好ましい。一方、ガラスの失透温度を低くして生産性を高めるためには、CaOの含有量は、10%以下が好ましく、8%以下がより好ましく、6%以下がさらに好ましく、4%以下が最も好ましい。
【0049】
SrOは、ガラスの失透温度を低くして生産性を高めるために含有させてもよく、その場合のSrOの含有量は、0.5%以上が好ましく、1%以上がより好ましく、2.5%以上がさらに好ましい。一方、ガラス失透温度を低くして生産性を高めるためには、SrOの含有量は、7%以下が好ましく、5%以下がより好ましく、3%以下がさらに好ましい。
【0050】
BaOは、ガラス転移点を高め、ガラスの失透温度を低くして生産性を高めるために含有させてもよく、その場合のBaOの含有量は、0.5%以上が好ましく、1%以上がより好ましく、2%以上がさらに好ましい。一方、ガラスの熱膨張係数を小さくして、ガラス失透温度を低くして生産性を高めるためには、BaOの含有量は、7%以下が好ましく、5%以下がより好ましく、3%以下がさらに好ましい。
【0051】
ZrO2は、ガラスの耐薬品性を向上させるために含有させてもよく、その場合のZrO2の含有量は、0.5%以上が好ましく、1%以上がより好ましく、2%以上がさらに好ましい。一方、ガラスの失透温度を低くして生産性を高めるためには、ZrO2の含有量は、5%以下が好ましく、4%以下がより好ましく、3%以下がさらに好ましい。
【0052】
ZnOは、ガラスの高温粘性を低くして製造性を高めるために含有させてもよく、その場合のZnOの含有量は、0.5%以上が好ましく、1%以上がより好ましく、2.7%以上が最も好ましい。一方、ガラスの熱膨張係数を小さくし、また、ガラス失透温度を低くして生産性を高めるためには、ZnOの含有量は、10%以下が好ましく、5%以下がより好ましく、3%以下がさらに好ましい。
【0053】
Fe2O3は、ガラスに色味を損なうことなく、ガラスの清澄性を改善させ、溶融炉の底素地の温度制御をするために含有させてもよく、その場合のFe2O3の含有量は、酸化物基準の重量百分率表示で0.0001%以上が好ましく、0.001%以上がより好ましく、0.01%以上がさらに好ましい。一方、ガラスの色味を維持させ、無機フィラーを含有した有機印刷層をさらに備える強化ガラスと、無機フィラーを含有した有機印刷層のみとを比較したときの色調差ΔEを10以下に調整するためには、Fe2O3の含有量は、酸化物基準の重量百分率表示で0.2%以下が好ましく、0.15%以下がより好ましく、0.1%以下がさらに好ましく、0.05%以下が最も好ましい。
【0054】
P2O5は、ガラスの結晶化や失透を防止して、ガラスを安定化させるのに有効な成分であり、含有させてもよい。上記効果を良好に発揮するためには、P2O5の含有量は、1%以上が好ましく、2.5%以上がより好ましく、3.5%以上がさらに好ましい。一方、P2O5の含有量を10%以下とすることにより、ガラスの高温粘性を高くしすぎずに、ガラスを安定化できる。P2O5の含有量は、好ましくは8%以下であり、より好ましくは6%以下である。
【0055】
また、本態様のガラスは、典型的には実質的に上記成分からなるが、本発明の目的を損なわない範囲で他の成分(TiO2等)を合計2.5モル%まで含有してもよい。
さらに、ガラスの溶融の際の清澄剤として、SO3、塩化物、フッ化物、ハロゲン、SnO2、Sb2O3、As2O3などを適宜含有してもよい。さらに、色味の調整のため、Ni、Co、Cr、Mn、V、Se、Au、Ag、Cdなどの着色成分を含有してもよい。また積極的に着色させたい場合は0.1%以上の範囲でFe、Ni、Co、Cr、Mn、V、Se、Au、Ag、Cdなどの着色成分を含有してもよい。
【0056】
なお、上記他の成分のうち、塩化物、SnO2及びSO3からなる群から選択される少なくとも1種を含有する場合、清澄性の観点からは、これらの合計含有量は、重量百分率表示で0.0001%以上が好ましく、0.0005%以上がより好ましく、0.001%以上がさらに好ましい。一方、ガラスの特性に影響を与えないためには、これらの合計含有量は、重量百分率表示で2.0%以下が好ましく、1.5%以下がより好ましく、1.0%以下がさらに好ましい。
【0057】
また、第2の態様に係る強化ガラスは、好ましくは、表面に圧縮応力が5~200MPaの圧縮応力層を有する。その技術的意義については、第1の態様に係る強化ガラスと同様である。
【0058】
また、第2の態様に係る強化ガラスにおいては、ガラスの50~350℃での平均熱膨張係数(α)が20×10-7~50×10-7/℃であることが好ましい。さらに、第2の態様に係る強化ガラスは、ガラスのガラス転移点(Tg)が560℃以上であることが好ましい。これらの技術的意義については、第1の態様に係る強化ガラスと同様である。
【0059】
本発明のガラスは、粘度が103dPa・sとなる温度T3における電気伝導度σが、logσの値として2.5ms/m以上であることが好ましい。温度T3における電気伝導度σが、logσの値として2.5ms/m以上であれば、ガラスの溶融工程において電気溶融を良好に適用でき、エネルギー効率よく量産することができる。温度T3におけるガラスの電気伝導度σは、より好ましくは、logσの値として2.6ms/m以上であり、さらに好ましくは、logσの値として2.8ms/m以上である。また、温度T3におけるガラスの電気伝導度σの上限は特に限定されないが、通常、logσの値として5.0ms/m以下である。温度T3におけるガラスの電気伝導度σが、logσの値として5.0ms/mよりも大きくなると、加熱に必要な電気量が多くなり、エネルギー効率が悪くなる。なお、温度T3におけるガラスの電気伝導度σは、四端子法により測定することができる。
【0060】
また、ガラス製造時の安定性の観点からは、ガラスの失透温度(TL)が、粘度が103dPa・sとなる温度T3よりも低いことが好ましい。この場合、T3-TLは、好ましくは50℃以上であり、より好ましくは100℃以上、よりさらに好ましくは150℃以上である。なお、失透温度とは、ガラスを特定の温度で12時間保持するときに、ガラス内部に結晶が生成しない最低の温度を指す。
【0061】
また、上記のガラスとして鏡面仕上げ表面を有する厚み1mmのガラスを用いて、当該ガラス、もしくは当該ガラスを物理強化した強化ガラスに対してビッカース圧子を用いて圧痕を形成した際のクラックの発生率が50%となるビッカース圧子の荷重が100gf以上であることが好ましく、200gf以上であることがより好ましく、400gf以上であることがさらに好ましく、700gf以上であることがさらに好ましい。当該荷重が100gf以上であれば、耐擦傷性に優れるため、傷が付きにくいことが所望される各種用途に好適に使用できる。クラック発生率の測定方法については実施例の欄において詳述する。
【0062】
上記のガラスは、厚みが2mm以上であることが好ましい。ガラスの厚みが2mm未満の場合、物理強化により発生する表面圧縮応力が大きくならないおそれがある。ガラスの厚みは、より好ましくは2.5mm以上であり、さらに好ましくは3mm以上である。一方、ガラスの厚みの上限は特に限定されないが、通常は15mm以下であり、好ましくは10mm以下である。なお、ガラスの厚みは、物理強化前後で実質的に同じである。
【0063】
本発明において、強化処理に供されるガラス(強化用ガラスともいう)としての好適な一態様としては、50~350℃での平均熱膨張係数が20×10-7~50×10-7/℃であり、ガラス転移点が560℃以上であり、厚みが2~15mmであり、酸化物基準のモル百分率表示で、SiO2:65~75%、Al2O3:5~20%、B2O3:0~25%、MgO:0.1~10%、CaO:0.1~10%、ZnO:0~5%、Li2O:0.1~2.5%、Na2O:0~1.5%、ZrO2:0~2.5%を含有し、かつ、酸化物基準の重量百分率表示で、Fe2O3:0.0001~0.2%を含有するガラスが挙げられる。
【0064】
また、本発明の強化ガラスは、400℃で12時間熱処理したときの応力残存率が75%以上であることが好ましく、より好ましくは80%以上であり、さらに好ましくは85%以上である。なお、400℃で12時間熱処理したときの応力残存率の上限は特に限定されず、高いほど好ましいが、例えば99.9%である。ここで、当該応力残存率は、下記のようにして求めることができる。
【0065】
まず、圧縮応力層を形成する前のガラスから、全面が鏡面である円板を作製する。作製した円板を用いて、円板圧縮法により、光弾性定数を求める。次いで、平板状または円板状のサンプルを白金製のワイヤーを用いてSUS棒からなる治具に吊るし、ガラス転移点から200℃高い温度にて、10分間保持する。加熱後、ガラスを治具ごと取り出し、大気中でガラスを急冷する。作製した急冷ガラスを切断した後、切断面を光学研磨し、レターデーションを複屈折測定装置により測定する。そして、測定されたレターデーションの値を前記光弾性定数とガラス厚みにて除することで、発生応力(表面の圧縮応力)を求め、これを「緩和前の表面圧縮応力」と規定する。
【0066】
一方、上記のようにして得られた、表面に圧縮応力を有するガラスに対して、400℃で12時間の条件で熱処理を施した後に大気中に取り出し、当該熱処理後のガラスのレターデーションを複屈折測定装置により測定する。そして、測定されたレターデーション値を光弾性定数とガラス厚みにて除することで熱処理後の表面圧縮応力を求め、これを「緩和後の表面圧縮応力」と規定する。
そして、下記式に基づき、応力残存率を算出する。
応力残存率={(緩和後の表面圧縮応力)/(緩和前の表面圧縮応力)}×100(%)
【0067】
また、本発明の強化ガラスは、400℃で21時間熱処理したときの応力残存率が60%以上であることが好ましく、より好ましくは70%以上であり、さらに好ましくは75%以上である。なお、400℃で21時間熱処理したときの応力残存率の上限は特に限定されず、高いほど好ましいが、例えば99.9%である。なお、400℃で21時間熱処理したときの応力残存率も、熱処理時間を21時間に変更する以外は400℃で12時間熱処理したときの応力残存率と同様にして測定することができる。
【0068】
また、本発明の強化ガラスは、500℃で21時間熱処理したときの応力残存率が20%以上であることが好ましく、より好ましくは30%以上であり、さらに好ましくは40%以上である。なお、500℃で21時間熱処理したときの応力残存率の上限は特に限定されず、高いほど好ましいが、例えば60%である。なお、500℃で21時間熱処理したときの応力残存率も、熱処理温度を500℃に変更し、かつ熱処理時間を21時間に変更する以外は400℃で12時間熱処理したときの応力残存率と同様にして測定することができる。
【0069】
さらに、本発明の強化ガラスは、600℃で21時間熱処理したときの応力残存率が0.1%以上であることが好ましく、より好ましくは1%以上であり、さらに好ましくは2%以上、より好ましくは3%以上である。なお、600℃で21時間熱処理したときの応力残存率の上限は特に限定されず、高いほど好ましいが、例えば50%である。なお、600℃で21時間熱処理したときの応力残存率も、熱処理温度を600℃に変更し、かつ熱処理時間を21時間に変更する以外は400℃で12時間熱処理したときの応力残存率と同様にして測定することができる。
【0070】
また、本発明に係る強化ガラスは、縦100mm×横100mm×厚み4mmのサイズの強化ガラスを3枚用意し、その一方の主面の中心の直径10mmの部分のみを400℃で150時間加熱した直後に25℃の水中に投下した際に、3枚の強化ガラスの全てにおいて、加熱された部分(加熱部分)を起点とした面内割れが発生しないことが好ましい。さらに好ましくは400℃で300時間の加熱直後、最も好ましくは400℃で1000時間の加熱直後に面内割れが発生しないことが好ましい。かかる強化ガラスであれば、急激な温度変化に起因する面内割れの発生が適切に防止されるため、安全に使用することができる。
【0071】
本発明において、ガラス溶解時の基準の例となる温度、すなわちガラスの粘度が102dPa・sとなる温度T2は、1800℃以下が好ましく、1750℃以下がより好ましく、1700℃以下がよりさらに好ましい。温度T2が1800℃以下であれば、ガラスの均質性及び生産性が良好となる。
また、本発明のガラスにおいて、ガラスの静澄性の目安となる温度、すなわちガラスの粘度が103dPa・sとなる温度T3は、1600℃以下が好ましく、1550℃以下がより好ましく、1500℃以下がさらに好ましい。温度T3が1600℃以下であれば、ガラスの脱泡性が良好となる。
また、本発明において、ガラス成形時の基準の例となる温度、すなわちガラスの粘度が104dPa・sとなる温度T4は、1350℃以下が好ましく、1300℃以下がより好ましく、1250℃以下がさらに好ましい。温度T4が1350℃以下であれば、ガラスの成形性が良好となる。
なお、温度T2、温度T3及び温度T4は回転式粘度計を用いて測定することができる。
【0072】
本発明の強化ガラスは結晶化ガラスではなく、透明なガラスであるため、例えば加熱調理器のトッププレートへの適用を想定する場合、加熱調理器の内部を隠蔽する等のために、その主面に無機フィラーを含有したインク等による有機印刷層をさらに備えていてもよい。かかる無機フィラーを含有した有機印刷層は、典型的には、加熱調理器のトッププレート(強化ガラス)における加熱対象物が接触する主面とは反対側の主面(裏面)に設けられる。
なお、無機フィラーを含有した有機印刷層の呈する色調は特に限定されないが、加熱調理器の周囲に配置されるキッチン台と色調をあわせることにより、色調の統一感を与えることができるため、好ましい。
【0073】
この場合において、無機フィラーを含有した有機印刷層をさらに備える強化ガラスは、無機フィラーを含有した有機印刷層のみと比較したときの色調差ΔEが10以下であることが好ましく、7以下であることがより好ましく、3.5以下であることが最も好ましい。これらの色調差ΔEが10以下であることは、強化ガラスが実質的に無色透明であることを表し、強化ガラスの有無による色調差が十分に小さいことから、無機フィラーを含有した有機印刷層の持つ色調をそのまま活かすことができ、周囲の色調との統一感を得やすくなる。ここで、当該色調差ΔEは、例えば以下のようにして測定することができる。
【0074】
まず白色の基準板を準備し、X-right社製i7で色調(L1*、a1*、b1*)を評価する。次に、白色の基準板の上に厚み4mmのガラス基板(強化ガラス)を設置し、ガラス基板越しに白色基準板の色調(L2*、a2*、b2*)を評価する。これらの色調差は次式によって計算することができる。
ΔE=((L1*-L2*)2+(a1*-a2*)2+(b1*-b2*)2)1/2
【0075】
また、本発明に係る強化ガラスは、各種表示や装飾の付与や、傷の防止などを目的として、セラミック印刷層をさらに備えていてもよい。かかるセラミック印刷層は、例えば加熱調理器のトッププレートへの適用を想定する場合、典型的には、加熱対象物が接触する側の主面(表面)、すなわち、上述の無機フィラーを含有した有機印刷層が設けられる面とは反対側の主面に設けられる。なお、セラミック印刷層は連続的に形成させてもよいが、ドット状などの各種の不連続的な形態で形成させてもよい。すなわち、セラミック印刷層は強化ガラスの主面の全面に設けてもよいが、一部のみに設けてもよい。
【0076】
本発明に係る強化ガラスの製造方法は特に限定されず、溶融ガラスを成形する方法も特に限定されないが、例えば、以下のようにして製造することができる。
まず、ガラス原料を適宜調製し、約1600~1650℃に加熱し溶融した後、脱泡、攪拌等により均質化し、周知のフロート法、ダウンドロー法(フュージョン法等)、プレス法、ロールアウト法等によって板状に、またはキャストしてブロック状に成形し、徐冷後所望のサイズに切断し、ガラス(ガラス板)が製造される。必要に応じて研磨加工を施すが、研磨加工に加えてまたは研磨加工に代えて、ガラス板表面をフッ素剤で処理することも可能である。ガラス板を安定して生産することを考慮すると、フロート法またはダウンドロー法が好ましく、特に大型のガラス板を生産することを考慮するとフロート法が好ましい。また、ガラス板に研磨加工を施すにあたっては、製造安定性、製品外観性等の観点からは、平面度が1.0mm以下となるように研磨加工を施すことが好ましい。
つづいて、得られたガラス板をガラス転移点Tgよりも高い温度、好ましくはTgより50~200℃高い温度まで加熱した後、空気等の冷却媒体を吹き付けることなどにより急冷する。これによって、表面付近を急速に歪点以下に冷却固化させ、冷却が遅い内部との膨張の差を大きくすることで、表面付近に対して内部を相対的に大きく収縮させて表面付近に圧縮応力を付与する。ここで製品平面度の観点からはTgより50~100℃高い温度で加熱することが好ましい。なお、ガラス板に吹き付ける冷却媒体の風圧は特に限定されないが、加熱されたガラス板を適切に急冷するには、最大風圧が2KPa以上であることが好ましい。
【0077】
また、本発明に係る強化ガラスにおいては、物理強化とともに、熱処理もしくは化学強化、を実施することで、高温で保持した際、応力緩和後の応力を補てんすることも可能である。もしくは、上述したガラス(強化用ガラス)に対して、物理強化の代替として化学強化を実施してもよい。
【0078】
また、本発明に係る強化ガラスを、例えば加熱調理器のトッププレートに適用することを想定する場合、トッププレートにおける加熱対象物が接触する側の主面(表面)にセラミック印刷を施すことにより、セラミック印刷層を形成させてもよい。セラミック印刷は、例えば、無機顔料粉末やガラス粉末等を含むペースト状物をガラス板に塗布した後、焼成することにより行うことができる。なお、この焼成工程は物理強化処理におけるガラス板の加熱と別個に行ってもよいが、物理強化処理におけるガラス板の加熱と同時に行うことが、工程数の削減の観点より好ましい。
【0079】
また、本発明に係る強化ガラスを、例えば加熱調理器のトッププレートに適用することを想定する場合、トッププレートにおける加熱対象物が接触する主面とは反対側の主面(裏面)に無機フィラーを含有した有機印刷を施すことにより、無機フィラーを含有した有機印刷層を形成させてもよい。無機フィラーを含有した有機印刷は、例えば、各種インクをガラス板に塗布した後、これを必要に応じて加熱して乾燥させることにより行うことができる。なお、有機印刷を施す工程は、例えばガラス板の物理強化処理の後に行うことができるが、これに限定されるものではない。
【0080】
以上説明した本発明の強化ガラスは、耐熱性に優れ、表面の圧縮応力が低下しにくいガラスであるため、加熱調理器等の加熱器のトッププレート、高温炉の窓材、防火性を要する建材等の各種用途において、好適に使用することができる。また、本発明の強化ガラスは結晶化ガラスではなく、透明なガラスであるため、周囲の色調や意匠と調和させやすいという利点も有する。なお、周囲の色調や意匠によっては、上述したように着色成分を適宜含有させてもよい。
【0081】
また、本発明は、上記した強化ガラスをトッププレートとして備える加熱調理器をも提供する。加熱調理器としては、誘導加熱方式の加熱調理器(誘導加熱調理器)のほか、ガス燃焼方式の加熱調理器(ガス加熱調理器)であってもよい。また、本発明によれば、当該加熱調理器を含むキッチン台も提供される。ここで、当該キッチン台においては、加熱調理器のトッププレートとしての上記した強化ガラスとキッチン台のワークトップ(天板)とは別個であってもよいが、加熱調理器のトッププレートとキッチン台のワークトップ(天板)が一体物であってもよく、すなわち、上記した強化ガラスが加熱調理器のトッププレートとキッチン台のワークトップ(天板)としての機能を兼ね備えていてもよい。
【実施例】
【0082】
以下に実施例及び比較例を挙げ、本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されない。
【0083】
酸化物基準のモル百分率表示、又は重量百分率表示で、表1~3に記載の組成となるように原料を調製し、白金製るつぼに入れ、1650℃の抵抗加熱式電気炉に投入し、2時間溶融し、脱泡、均質化した。なお、表1~3に示される組成については、有効数字を四捨五入して記載しているため、ガラス組成における各成分の含有量の合計が100%にならない場合がある。また、Clを含めたガラス組成は、調合組成である。
得られたガラスを型材に流し込み、Tg+50℃の温度で1時間保持した後、1℃/分の速度で室温まで冷却し、ガラスブロックを得た。次いで、ガラスブロックを切断、研磨し、両面を鏡面加工することにより、各例のガラスを得た。
【0084】
(平均熱膨張係数、ガラス転移点、温度T2、温度T3及び温度T4)
得られたガラスについて、50~350℃での平均熱膨張係数(α)(単位:℃-1)及びガラス転移点(Tg)(単位:℃)を熱機械分析装置(TMA)により測定した。またガラスの粘度が102dPa・sとなる温度T2、ガラスの粘度が103dPa・sとなる温度T3及びガラスの粘度が104dPa・sとなる温度T4を回転式粘度計を用いて測定した。その結果を表1~3に示す。なお、空欄及び「N.D.」は未測定であることを表す。また、下線を引いた値は、計算値である。
【0085】
【0086】
【0087】
【0088】
<実験1>
(表面の圧縮応力)
厚みが5mmとなるように作製した例1~2、4~5及び21の各ガラスについて、表面の圧縮応力(発生応力)を以下のようにして測定した。
まず、圧縮応力層を形成する前のガラスから、全面が鏡面である円板を作製した。作製した円板を用いて、円板圧縮法により、光弾性定数を求めた。次いで、平板状または円板状のサンプルを白金製のワイヤーを用いてSUS棒で作製した治具に吊るし、ガラス転移点から200℃高い温度(物理強化温度)にて、10分間保持した。加熱後、ガラスを治具ごと取り出し、大気中でガラスを急冷した。作製した急冷ガラスを切断した後、切断面を光学研磨し、レターデーションを複屈折測定装置により測定した。そして、測定されたレターデーションの値を前記光弾性定数とガラス厚みにて除することで、発生応力(表面の圧縮応力)を求め、これを「緩和前の表面圧縮応力」と規定した。
表4に、ガラスの光弾性定数(nm/cm/MPa)、物理強化温度(単位:℃)、緩和前のレターデーション(単位:nm)、及び緩和前の表面圧縮応力(単位:MPa)を示す。
【0089】
(応力残存率)
また、得られたガラスについて、400℃で12時間熱処理したときの応力残存率を以下のようにして測定した。
まず、上記のようにして得られた表面に圧縮応力層を有するガラス(強化ガラス)に対して、400℃で12時間の条件で熱処理を施した後に大気中に取り出し、当該熱処理後のガラスのレターデーション(以下、「緩和後のレターデーション」ともいう)を複屈折測定装置により測定した。そして、測定された緩和後のレターデーションの値を光弾性定数とガラス厚みにて除することで熱処理後の表面圧縮応力を求め、これを「緩和後の表面圧縮応力」と規定した。
そして、下記式に基づき、応力残存率を算出した。
応力残存率={(緩和後の表面圧縮応力)/(緩和前の表面圧縮応力)}×100(%)
表4に、緩和後のレターデーション(単位:nm)、緩和後の表面圧縮応力(単位:MPa)、及び応力残存率(%)を示す。
【0090】
【0091】
本発明に規定される要件を満足しない例21の強化ガラスは、400℃で12時間もしくはそれ以上熱処理したときの応力残存率が低かった。一方、本発明に規定される要件を満足する例1~2、及び4~5の強化ガラスは、400℃で12時間もしくはそれ以上熱処理したときの応力残存率が高く、すなわち、高温に長時間曝されても表面の圧縮応力が低下しにくいものであった。
【0092】
<実験2>
(表面の圧縮応力)
厚みが4mmとなるように作製した例5~6、10~12、21~22、24及び26の各ガラスについて、表面の圧縮応力(発生応力)を以下のようにして測定した。
まず、圧縮応力層を形成する前のガラスから、全面が鏡面である円板を作製した。作製した円板を用いて、円板圧縮法により、光弾性定数を求めた。次いで、平板状または円板状のサンプルを白金製のワイヤーを用いてSUS棒で作製した治具に吊るし、730℃にて、10分間保持した。加熱後、ガラスを治具ごと取り出し、大気中でガラスへ圧縮空気を吹き付け急冷した。作製した急冷ガラスを切断した後、切断面を光学研磨し、レターデーションを複屈折測定装置により測定した。そして、測定されたレターデーションの値を前記光弾性定数とガラス厚みにて除することで、発生応力(表面の圧縮応力)を求め、これを「緩和前の表面圧縮応力」と規定した。
表5に、ガラスの光弾性定数(nm/cm/MPa)、熱処理温度(単位:℃)、緩和前のレターデーション(単位:nm)、及び緩和前の表面圧縮応力(単位:MPa)を示す。なお、例6、10及び11のガラスの光弾性定数(nm/cm/MPa)は、計算値である。
【0093】
(応力残存率)
また、得られたガラスについて、400℃で21時間、150時間、または300時間熱処理したときの応力残存率を以下のようにして測定した。
まず、上記のようにして得られた表面に圧縮応力層を有するガラス(強化ガラス)に対して、400℃で所定時間(21時間、150時間、または300時間)の条件で熱処理を施した後に大気中に取り出し、当該熱処理後のガラスのレターデーション(以下、「緩和後のレターデーション」ともいう)を複屈折測定装置により測定した。そして、測定された緩和後のレターデーションの値を光弾性定数とガラス厚みにて除することで熱処理後の表面圧縮応力を求め、これを「緩和後の表面圧縮応力」と規定した。
そして、下記式に基づき、応力残存率を算出した。
応力残存率={(緩和後の表面圧縮応力)/(緩和前の表面圧縮応力)}×100(%)
表5に、緩和後の表面圧縮応力(単位:MPa)、及び応力残存率(%)を示す。
【0094】
【0095】
本発明に規定される要件を満足しない例21の強化ガラスは、400℃で21時間もしくはそれ以上熱処理したときの応力残存率が低かった。一方、本発明に規定される要件を満足する例5~6、10~12、22、24及び26の強化ガラスは、400℃で12時間もしくはそれ以上熱処理したときの応力残存率が高く、すなわち、高温に長時間曝されても表面の圧縮応力が低下しにくいものであった。
【0096】
<実験3>
(表面の圧縮応力)
厚みが4mmとなるように作製した例12、22~24及び26の各ガラスについて、表面の圧縮応力(発生応力)を以下のようにして測定した。
まず、圧縮応力層を形成する前のガラスから、全面が鏡面である円板を作製した。作製した円板を用いて、円板圧縮法により、光弾性定数を求めた。次いで、平板状または円板状のサンプルを白金製のワイヤーを用いてSUS棒で作製した治具に吊るし、825℃にて、10分間保持した。加熱後、ガラスを治具ごと取り出し、大気中でガラスへ圧縮空気を吹き付け急冷した。作製した急冷ガラスを切断した後、切断面を光学研磨し、レターデーションを複屈折測定装置により測定した。そして、測定されたレターデーションの値を前記光弾性定数とガラス厚みにて除することで、発生応力(表面の圧縮応力)を求め、これを「緩和前の表面圧縮応力」と規定した。
表6に、ガラスの光弾性定数(nm/cm/MPa)、熱処理温度(単位:℃)、緩和前のレターデーション(単位:nm)、及び緩和前の表面圧縮応力(単位:MPa)を示す。
【0097】
(応力残存率)
また、得られたガラスについて、600℃で21時間、または150時間熱処理したときの応力残存率を以下のようにして測定した。
まず、上記のようにして得られた表面に圧縮応力層を有するガラス(強化ガラス)に対して、600℃で所定時間(21時間、または150時間)の条件で熱処理を施した後に大気中に取り出し、当該熱処理後のガラスのレターデーション(以下、「緩和後のレターデーション」ともいう)を複屈折測定装置により測定した。そして、測定された緩和後のレターデーションの値を光弾性定数とガラス厚みにて除することで熱処理後の表面圧縮応力を求め、これを「緩和後の表面圧縮応力」と規定した。
そして、下記式に基づき、応力残存率を算出した。
応力残存率={(緩和後の表面圧縮応力)/(緩和前の表面圧縮応力)}×100(%)
表6に、緩和後の表面圧縮応力(単位:MPa)、及び応力残存率(%)を示す。
【0098】
【0099】
以上の結果から、例12、22~24及び例26のいずれの強化ガラスについても、600℃で21h保持しても応力が0.7%以上残ることが確認された。
【0100】
<実験4>
(表面の圧縮応力)
厚みが4mmとなるように作製した例13、29及び30の各ガラスについて、表面の圧縮応力(発生応力)を以下のようにして測定した。
まず、圧縮応力層を形成する前のガラスから、全面が鏡面である円板を作製した。作製した円板を用いて、円板圧縮法により、光弾性定数を求めた。次いで、平板状または円板状のサンプルを450-500℃の99wt%KNO3及び1wt%NaNO3を含む溶融塩中に6h保持し、水洗後、切断面を光学研磨し、レターデーションを複屈折測定装置により測定した。そして、測定されたレターデーションの値を前記光弾性定数とガラス厚みにて除することで、発生応力(表面の圧縮応力)を求め、これを「緩和前の表面圧縮応力」と規定した。
表7に、ガラスの光弾性定数(nm/cm/MPa)、熱処理温度(単位:℃)、緩和前のレターデーション(単位:nm)、及び緩和前の表面圧縮応力(単位:MPa)を示す。
【0101】
(応力残存率)
また、得られたガラスについて、500℃で2時間、または150時間熱処理したときの応力残存率を以下のようにして測定した。
まず、上記のようにして得られた表面に圧縮応力層を有するガラス(強化ガラス)に対して、500℃で所定時間(2時間、または150時間)の条件で熱処理を施した後に大気中に取り出し、当該熱処理後のガラスのレターデーション(以下、「緩和後のレターデーション」ともいう)を複屈折測定装置により測定した。そして、測定された緩和後のレターデーションの値を光弾性定数とガラス厚みにて除することで熱処理後の表面圧縮応力を求め、これを「緩和後の表面圧縮応力」と規定した。
そして、下記式に基づき、応力残存率を算出した。
応力残存率={(緩和後の表面圧縮応力)/(緩和前の表面圧縮応力)}×100(%)
表7に、緩和後の表面圧縮応力(単位:MPa)、及び応力残存率(%)を示す。
【0102】
【0103】
<実験5>
(表面の圧縮応力)
厚みが4mmとなるように作製した例13のガラスについて、表面の圧縮応力(発生応力)を以下のようにして測定した。
まず、圧縮応力層を形成する前のガラスから、全面が鏡面である円板を作製した。作製した円板を用いて、円板圧縮法により、光弾性定数を求めた。次いで、平板状または円板状のサンプルを白金製のワイヤーを用いてSUS棒で作製した治具に吊るし、750℃にて、10分間保持した。加熱後、ガラスを治具ごと取り出し、大気中でガラスへ圧縮空気を吹き付け急冷した。作製した急冷ガラスを500℃の99wt%KNO3及び1wt%NaNO3を含む溶融塩中に6h保持し、水洗後、切断面を光学研磨し、レターデーションを複屈折測定装置により測定した。そして、測定されたレターデーションの値を前記光弾性定数とガラス厚みにて除することで、発生応力(表面の圧縮応力)を求め、これを「緩和前の表面圧縮応力」と規定した。
表8に、ガラスの光弾性定数(nm/cm/MPa)、熱処理温度(単位:℃)、緩和前のレターデーション(単位:nm)、及び緩和前の表面圧縮応力(単位:MPa)を示す。
【0104】
(応力残存率)
また、得られたガラスについて、500℃で2時間、または150時間熱処理したときの応力残存率を以下のようにして測定した。
まず、上記のようにして得られた表面に圧縮応力層を有するガラス(強化ガラス)に対して、500℃で所定時間(2時間、または150時間)の条件で熱処理を施した後に大気中に取り出し、当該熱処理後のガラスのレターデーション(以下、「緩和後のレターデーション」ともいう)を複屈折測定装置により測定した。そして、測定された緩和後のレターデーションの値を光弾性定数とガラス厚みにて除することで熱処理後の表面圧縮応力を求め、これを「緩和後の表面圧縮応力」と規定した。
そして、下記式に基づき、応力残存率を算出した。
応力残存率={(緩和後の表面圧縮応力)/(緩和前の表面圧縮応力)}×100(%)
表8に、緩和後の表面圧縮応力(単位:MPa)、及び応力残存率(%)を示す。
【0105】
【0106】
(温度T3における失透の有無)
例2、5、10~15、17、19~20及び23~31のガラスについて、温度T3における失透の有無を調べたところ、いずれのガラスについても失透は生じていなかった。
【0107】
(温度T3における電気伝導度σ)
例2、5、12、17、20~22、24、26、29及び30のガラスについて、ガラスの粘度が103dPa・sとなる温度T3における電気伝導度σを四端子法により測定した。その測定結果をlogσ(ms/m)の値として表9に示す。
【0108】
【0109】
(50%クラック発生荷重)
鏡面仕上げ表面を有し、厚みが1mmである例5、12、17~24及び26のガラスを用いて、ビッカース硬度計に対稜角が110°のピラミッド型ダイヤモンド圧子を用いて100gfの荷重をかけた時のクラック発生率Pを測定した。すなわち、大気雰囲気下、温度24℃、露点35~45℃の条件で、ビッカース硬度計の荷重を50gf、100gf、200gf、300gf、500gf、1000gfとして各荷重にて10点ビッカース圧子を打ち込み、圧痕の四隅に発生するクラックの本数を測定した。この発生したクラック本数をクラック発生可能本数40で除したものをクラック発生率Pとした。またこのクラック発生率が50%となる荷重を回帰計算から求め、この値を50%クラック発生荷重とした。
また、例12のガラスについては、物理強化温度750℃で物理強化を行った強化ガラスについても、同様の手法により50%クラック発生荷重を測定した。
これらの測定結果を表10に示す。
【0110】
【0111】
白色の基準板を準備し、X-right社製i7で色調(L1*、a1*、b1*)を評価した。次に、白色の基準板の上に厚み4mmの例12のガラスを設置し、ガラス越しに白色基準板の色調(L2*、a2*、b2*)を評価した。これらの色調差を次式によって計算した。
ΔE=((L1*-L2*)2+(a1*-a2*)2+(b1*-b2*)2)1/2
また、結晶化ガラス(ネオセラム、日本電気硝子株式会社製、表9中の「Ref」)についても、同様にして色調差を測定した。
これらの結果を表11に示す。
【0112】
【0113】
本発明を詳細にまた特定の実施態様を参照して説明したが、本発明の精神と範囲を逸脱することなく様々な変更や修正を加えることができることは当業者にとって明らかである。本出願は2017年6月5日出願の日本特許出願(特願2017-111183)及び2018年3月28日出願の日本特許出願(特願2018-062142)に基づくものであり、その内容はここに参照として取り込まれる。