IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 旭硝子株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-共重合体及び組成物 図1
  • 特許-共重合体及び組成物 図2
  • 特許-共重合体及び組成物 図3
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-04
(45)【発行日】2024-03-12
(54)【発明の名称】共重合体及び組成物
(51)【国際特許分類】
   C08F 220/26 20060101AFI20240305BHJP
   C08F 293/00 20060101ALI20240305BHJP
   C09D 5/16 20060101ALI20240305BHJP
   C09D 133/14 20060101ALI20240305BHJP
   C09D 143/04 20060101ALI20240305BHJP
   C09K 3/00 20060101ALI20240305BHJP
【FI】
C08F220/26
C08F293/00
C09D5/16
C09D133/14
C09D143/04
C09K3/00 R
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2022164419
(22)【出願日】2022-10-13
(62)【分割の表示】P 2019569143の分割
【原出願日】2019-01-29
(65)【公開番号】P2022189865
(43)【公開日】2022-12-22
【審査請求日】2022-10-13
(31)【優先権主張番号】P 2018016738
(32)【優先日】2018-02-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2018123479
(32)【優先日】2018-06-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000044
【氏名又は名称】AGC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001634
【氏名又は名称】弁理士法人志賀国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】江口 創
(72)【発明者】
【氏名】山本 今日子
(72)【発明者】
【氏名】小口 亮平
(72)【発明者】
【氏名】網野 陽介
(72)【発明者】
【氏名】田邉 紀子
【審査官】藤原 研司
(56)【参考文献】
【文献】特開平11-080289(JP,A)
【文献】特開2007-169628(JP,A)
【文献】特開2009-190978(JP,A)
【文献】特開2005-320430(JP,A)
【文献】特開平11-217480(JP,A)
【文献】特開昭48-066629(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F 6/00-301/00
C09D 1/00-10/00;101/00-201/10
C09K 3/00;3/20-3/32
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下式(A)で表される単位、下式(B11)で表される単位、および下式(B12)で表される単位を有する共重合体であって、前記共重合体における生体親和性部位の含有量は20~90質量%であり、反応性シリル基の含有量は1~70質量であり、
前記生体親和性部位は下式1で表される構造、下式2で表される構造、および下式3で表される構造からなる群から選ばれる少なくとも一種である共重合体。
【化1】
ただし、式(A)、式(B11)、式(B12)中の記号は以下のとおりである。
式(A)、式(B11)中、Rは水素原子またはメチル基である。
式(A)中、Qは2価有機基であり、R は、炭素数1~18のアルキル基であり、Rは、水素原子または炭素数1~18のアルキル基であり、tは1~3の整数であり、RおよびORが複数存在する場合、RおよびRはそれぞれ同一であっても異なってもよい。
式(B11)中、Qは単結合または2価有機基であり、n2は1~300の整数であり、Rは水素原子または炭素数1~5のアルキル基である。
式(B12)中、QおよびQはそれぞれ独立して、2価有機基であり、n3は20~200の整数である。
【化2】
前記式1中、nは1~300の整数である。
前記式2中、R ~R はそれぞれ独立に炭素数1~5のアルキル基であり、aは1~5の整数である。
前記式3中、R およびR はそれぞれ独立に炭素数1~5のアルキル基であり、X は下式3-1で表される基または下式3-2で表される基であり、bは1~5の整数である。
【化3】
【請求項2】
前記共重合体の全単位数を100とした場合の、式(B11)で表される単位の個数をf1、式(B12)で表される単位の個数をj1とした場合、1>f1/(f1+j1)≧0.5の関係を満たす請求項1に記載の共重合体。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の共重合体を含む組成物。
【請求項4】
さらに液状媒体を含む請求項に記載の組成物。
【請求項5】
請求項またはに記載の組成物からなる表面処理剤。
【請求項6】
水と接する面の表面処理に用いる請求項に記載の表面処理剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、共重合体及び組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
観賞用の魚や活魚を飼育する水槽では、使用している間に水槽内に藻が発生し内壁面に付着することがある。水槽の内壁面に藻が付着することにより、水槽内の魚を観賞することができない、悪臭を発生する、魚に悪影響を及ぼす等の問題がある。さらに、活魚がこの藻を食べるとその活魚を調理して食べた場合にカビ臭いという問題もある。
【0003】
一方、従来から、物品の表面に汚れが付着するのを防止する各種防汚コーティング剤が知られている。防汚コーティング剤としては、例えば、含フッ素化合物からなる撥油剤、親水性防汚コーティング剤等が知られている。親水性防汚コーティング剤に関して、例えば、特許文献1には、オルガノシリケートと、分子中に反応性官能基と親水性基を有する水溶性および/または水分散性硬化剤を含有する耐汚染性付与組成物を水性塗料に配合する技術が記載されている。
【0004】
しかしながら、上記のような防汚コーティング剤を用いても、水槽に藻が付着するのを効果的に抑制することはできない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】日本国特開2006-188591号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記観点からなされたものであって、基材の水と接する面における藻の付着が抑制されるとともに、該抑制作用が耐久性を有する基材の提供を目的とする。本発明は、また、藻の付着を抑制する等の目的で基材の表面処理に使用可能な共重合体および組成物の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、以下の構成を要旨とする。
[1]水と接する基材であり、基材本体と、基材本体における水と接する面の少なくとも一部に設けられる表面層とを有する基材であって、前記表面層が、生体親和性部位と反応性シリル基とを有する化合物を含む組成物の硬化物からなり、前記生体親和性部位が、下式1で表される構造、下式2で表される構造、および下式3で表される構造からなる群から選ばれる少なくとも一種からなり、前記組成物中の固形分における前記生体親和性部位の含有量が25~83質量%、かつ前記反応性シリル基の含有量が2~70質量%であり、前記生体親和性部位が下式1で表される構造を有する場合、下式1で表される構造のうち50~100モル%は、下式4で表される構造中の式1で表される構造である、基材(以下、第1の態様の基材という)。
【0008】
【化1】
【0009】
ただし、式1中、nは1~300の整数である。
式2中、R~Rはそれぞれ独立に炭素数1~5のアルキル基であり、aは1~5の整数である。
式3中、RおよびRはそれぞれ独立に炭素数1~5のアルキル基であり、Xは下式3-1で表される基または下式3-2で表される基であり、bは1~5の整数である。
【0010】
【化2】
【0011】
式4中、nは1~300の整数であり、Rは水素原子または炭素数1~5のアルキル基である。
[2]前記化合物が、ポリオキシエチレンポリオールまたは少なくとも1つの水酸基を有するポリオキシエチレンポリオールアルキルエーテル(ただし、アルキルの炭素数は1~5である。)に、その水酸基に由来する酸素原子を介して、または、その水酸基に由来する酸素原子と、-(CH-、-CONH(CH-、-CON(CH)(CH-、-CON(C)(CH-、-(CF-、-CO(CH-、-CHCH(-OH)CHO(CH-(kは、2~4の整数を表す)、-CHOC-、または-CFOC-とが結合した連結基を介して結合するように反応性シリル基が導入された化合物である[1]の基材。
[3]前記化合物が、前記式1で表される構造(ただし、50~100モル%は前記式4で表される構造中の式1で表される構造である)を有する(メタ)アクリレートに基づく単位および反応性シリル基を有する(メタ)アクリレートに基づく単位を有する共重合体である[1]の基材。
[4]前記化合物が、前記式1で表される構造(ただし、50~100モル%は前記式4で表される構造中の式1で表される構造である)を有する(メタ)アクリレートに基づく単位、反応性シリル基を有する(メタ)アクリレートに基づく単位および式(B12)で表される単位を有する共重合体である[1]または[3]の基材。
【0012】
【化3】
【0013】
ただし、式(B12)中、QおよびQはそれぞれ独立して、2価有機基であり、n3は20~200の整数である。
【0014】
[5]前記組成物が、前記式1で表される構造を有する(メタ)アクリレートに基づく単位および反応性シリル基を有する(メタ)アクリレートに基づく単位を有する共重合体と、前記式1で表される構造を有する(メタ)アクリレートに基づく単位のみからなる重合体と、を含み、前記組成物中の固形分に含まれる前記式1で表される構造のうち、50~100モル%は前記式4で表される構造中の式1で表される構造である[1]の基材。
[6]前記基材本体の構成材料がガラスである、[5]の基材。
[7]少なくともその一部に[1]~[6]のいずれかの基材を有する水槽。
[8]水と接する基材であり、基材本体と、基材本体における水と接する面の少なくとも一部に設けられる表面層とを有する基材であって、前記表面層の、原子間力顕微鏡を用いて測定される弾性率は、大気中で乾燥した後の測定値に対する水中での測定値が0.1%~63%である、基材。
[9]少なくともその一部に[8]の基材を有する水槽。
[10]下式(A)で表される単位、下式(B11)で表される単位、および下式(B12)で表される単位を有する共重合体。
【0015】
【化4】
【0016】
ただし、式(A)、式(B11)、式(B12)中の記号は以下のとおりである。
式(A)、式(B11)中、Rは水素原子またはメチル基である。
式(A)中、Qは2価有機基であり、Rは、炭素数1~18のアルキル基であり、Rは、水素原子または炭素数1~18のアルキル基であり、tは1~3の整数であり、RおよびORが複数存在する場合、RおよびRはそれぞれ同一であっても異なってもよい。
式(B11)中、Qは単結合または2価有機基であり、n2は1~300の整数であり、Rは水素原子または炭素数1~5のアルキル基である。
式(B12)中、QおよびQはそれぞれ独立して、2価有機基であり、n3は20~200の整数である。
[11]前記共重合体の全単位数を100とした場合の、式(B11)で表される単位の個数をf1、式(B12)で表される単位の個数をj1とした場合、1>f1/(f1+j1)≧0.5の関係を満たす[10]の共重合体。
[12][10]または[11]の共重合体を含む組成物。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、基材の水と接する面における藻の付着が抑制されるとともに、該抑制作用が耐久性を有する基材が提供できる。また前記基材を有する水槽が提供できる。特に、観賞魚や活魚を飼育する水槽において、本発明による上記効果は大きい。また、本発明の共重合体および組成物は、基材の表面処理、特には藻の付着を抑制するための表面処理に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1図1は、本発明の実施形態の水槽の一例を概略的に示す斜視図である。
図2図2は、図1に示す水槽のS面における断面図である。
図3図3は、実施例で評価に用いた試験板の平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下に、本発明の実施の形態を説明する。本発明は下記説明に限定して解釈されるものではない。なお、本発明の趣旨に合致する限り、他の実施形態も本発明の範疇に属し得る。また、以下の実施形態、および変形例を任意に組み合わせた態様も好適な例である。
【0020】
本明細書において、化学式で表される化合物、基、構造、または単位は、その式の番号を付した化合物、基、構造、または単位としても表記する。例えば、式1で表される化合物は化合物1、式1で表される構造は構造1、とも表記する。
「(メタ)アクリレート」は、アクリレートとメタクリレートの総称である。
共重合体における単位とは、単量体が重合することによって形成する該単量体に由来する部分を意味する。単位に用いる式の記号を、単量体の記号としても用いる。例えば、式(A)で示される単位を、単位(A)、重合により単位(A)を形成する単量体を単量体(A)とも表記する。
「反応性シリル基」は、アルコキシシリル基等の加水分解性シリル基およびシラノール基の総称である。
【0021】
本発明の基材は、水と接する基材であり、基材本体と、基材本体における水と接する面の少なくとも一部に設けられる表面層とを有する。
本発明の第1の態様の基材は、基材本体における水が接する表面の少なくとも一部に配設される表面層を有する。前記表面層は、上記式1で表される構造、上記式2で表される構造、および上記式3で表される構造からなる群から選ばれる少なくとも一種からなる生体親和性部位と反応性シリル基とを有する化合物(以下、化合物(X)で示す。)を含む組成物であって、組成物中の固形分における上記生体親和性部位の含有量が25~83質量%であり、反応性シリル基の含有量が2~70質量%であり、前記生体親和性部位が上記式1で表される構造を有する場合、上記式1で表される構造のうち50~100モル%は、上記式4で表される構造中の式1で表される構造である組成物(以下、組成物(Y)で示す。)の硬化物からなる。
【0022】
なお、組成物中の固形分とは、組成物を80℃、3時間で真空乾燥して揮発成分を除去した残留分をいう。組成物の硬化物とは、該固形分の硬化物である。また、以下の説明において、特に断りのない限り「生体親和性部位」とは、上記式1で表される構造、上記式2で表される構造、および上記式3で表される構造からなる群から選ばれる少なくとも一種からなる生体親和性部位である。
【0023】
本発明の第1の態様の基材は、基材本体における水に接する表面に、化合物(X)を含む組成物(Y)を用いて得られる硬化物からなる表面層を有することで、藻の付着が抑制され、その効果が持続される。組成物(Y)が十分な量の生体親和性部位を有することで、得られる硬化物においても十分な量の生体親和性部位を有し、該生体親和性部位が含水することで、藻の付着を効果的に抑制していると考えられる。また、組成物(Y)が所定量の反応性シリル基を有することで、組成物(Y)が硬化する際に反応性シリル基が基材表面に強固に結合するために、藻の付着を抑制する効果が持続するものと考えられる。以下、藻の付着を抑制する作用を「防藻性」ともいう。
【0024】
ここで、組成物(Y)が含有する化合物(X)は、生体親和性部位と反応性シリル基の両方を有することで、組成物(Y)における藻の付着を抑制する効果が持続する効果に大きく寄与する。すなわち、化合物(X)は反応性シリル基を有することで、加水分解性シリル基は加水分解反応しシラノール基(Si-OH)を形成する、または、シラノール基を有する。次いで、該シラノール基同士が脱水縮合反応してシロキサン結合(Si-O-Si)して硬化物となる。この際、組成物(Y)が化合物(X)以外の反応性シリル基含有成分を含有する場合も同様に該成分と化合物(X)がシロキサン結合を形成する。該シロキサン結合は、3次元マトリックス構造を形成できることから、組成物(Y)が化合物(X)以外の生体親和性部位含有成分を含有する場合、該成分は、3次元マトリックス構造内に保持されると考えられる。
【0025】
化合物(X)を含む組成物(Y)を、基材本体表面で硬化させる場合、化合物(X)を含む反応性シリル基含有成分が加水分解反応することで生成したシラノール基は、上記Si-O-Si結合を形成するのと並行して、基材本体表面の水酸基(基材-OH)と脱水縮合反応して化学結合(基材-O-Si)が形成される。これにより、得られる表面層は基材本体表面と強固に密着することから、高い耐久性、例えば、耐水性を有する。
【0026】
本発明の基材は、水と接する面を有する。かかる面を有する基材は、具体的には水槽、配管、水路、プール、船底、越流板に適用できる。特に光が当たり、藻が付着・育成しやすい場所に適用されることが好ましい。基材は特に水槽に用いられることが好ましい。
本発明が対象とする水槽は、水の収容が可能な水槽であれば特に制限されない。水槽であれば種類を問わず、水の接する面に藻が付着する問題は起こりうる。特に、藻が発生しやすい水槽としては、水槽の水を収容する部分において、少なくとも一部が光を透過する構成を有する水槽である。また、観賞用や食用の生物を飼育する水槽においては、餌や水草用の肥料、生物の排泄物等により、水が汚れて藻が発生しやすい環境となる。本発明は、このような藻が発生しやすい構成や用途の水槽において、特に効果を発揮できる。
【0027】
また、本発明の水槽において、表面層の構成成分自体が生物に悪影響を与えることはなく、水に接しても生物に悪影響を及ぼす物質を溶出することが殆どない。よって、本発明の水槽は、観賞用や食用の生物を飼育する水槽に使用する際に安全性の観点からも優位である。
【0028】
本発明において、付着を抑制できる藻は、水槽に一般的に発生する藻であれば種類を問わない。例えば、珪藻、緑藻、藍藻、アオコ等が挙げられる。
【0029】
以下、図面を参照しながら、本発明の第1の態様の基材を用いた水槽について説明する。図1は実施形態の水槽の一例を概略的に示す斜視図であり、図2は、図1に示す水槽のS面における断面図である。図1および図2に示す水槽は、例えば、観賞魚用に用いられる水槽であるが、本発明の水槽の用途はこれに限定されず、用途に応じて、水槽の形状も適宜変更可能である。
【0030】
図1および図2に示す水槽(基材)1は、以下の形状を有する水槽本体(基材本体)10と、水槽本体10の内面に設けられた表面層21を備える。水槽本体10は、四角形の底板11と底板11の周縁部より開口上部に向けて垂直に起立する4枚の壁板12a~12d(以下、壁板をまとめて符号12で示す。)とから構成され、4枚の壁板12の上端内縁が開口部を形成している。底板11と4枚の壁板12は互いに隙間なく密着され、底板11の上面と壁板12の内面とで水を収容できるキャビティを形成している。
【0031】
水槽本体10において底板11と4枚の壁板12は端面が密着され一体化されている。水槽1は、水槽本体10の底板11の上面と壁板12の内面全面に、表面層21を有する。水槽において、表面層21が形成される領域は、水槽1が示す領域に限定されない。例えば、水槽の底部に砂利等が敷き詰められている場合等、底板11の上面には、表面層21は形成されない場合もある。さらに、水槽1が収容する水Wの水位が所定の位置を超えないように制御されている場合等には、壁板12の内面の所定の位置を超える領域には表面層21が配設されない構成でもよい。
【0032】
基材本体の構成材料としては、特に制限はない。基材本体の構成材料として、具体的には、金属、樹脂、ガラス、これらの2種以上の複合材料等が挙げられ、用途に応じて適宜選択される。本発明の基材本体において構成材料は、表面層との密着性の観点から、該材料からなる基材表面が水酸基を有する材料が好ましく、ガラスが好適である。なお、基材表面が水酸基を有しない場合は、従来公知の方法、例えば、コロナ処理等の物理的処理方法、プライマー処理等の化学的処理方法により、水酸基を導入することが好ましい。
プライマー処理としては、テトラエトキシシラン等のアルコキシシリル基を含有する化合物、またはそれらの部分加水分解縮合物を用いる方法や、シリカ等の金属酸化物を用いる方法が好ましい。プライマー処理の方法はウェットコート、ドライコートのどちらを用いても良い。
【0033】
基材が有する表面層は、化合物(X)を含有する組成物(Y)の硬化物で構成される。化合物(X)は、式1で表される構造、式2で表される構造、および式3で表される構造からなる群から選ばれる少なくとも一種からなる生体親和性部位と反応性シリル基とを有する。
【0034】
組成物(Y)は、固形分中に生体親和性部位を25~83質量%の割合で含有し、かつ反応性シリル基を2~70質量%含有する。
また組成物(Y)において、生体親和性部位が式1で表される構造を有する場合、式1で表される構造のうち50~100モル%は、式4で表される構造中の式1で表される構造である、すなわち、式4で表される構造中の式1で表される構造が、式1で表される構造の全体の50~100モル%を占める。
式1の構造が式4の構造に含まれるということは、ポリエチレングリコール鎖の水中での流動性の高さを意味し、排除体積効果による生体親和性という観点から好ましい。
【0035】
組成物(Y)は、固形分として化合物(X)のみを含有してもよく、化合物(X)以外の固形分を含有してもよい。組成物(Y)が固形分として化合物(X)のみを含有する場合、化合物(X)は、生体親和性部位を25~83質量%の割合で含有し、かつ反応性シリル基を2~70質量%含有する。組成物(Y)が固形分として化合物(X)以外の成分を含有する場合は、その他の成分が有する基、および組成に応じて、化合物(X)内の生体親和性部位および反応性シリル基の含有量を適宜調整する。
【0036】
【化5】
【0037】
ただし、式1中、nは1~300の整数である。
式2中、R~Rはそれぞれ独立に炭素数1~5のアルキル基であり、aは1~5の整数である。
式3中、RおよびRはそれぞれ独立に炭素数1~5のアルキル基であり、Xは下式3-1で表される基または下式3-2で表される基であり、bは1~5の整数である。
式4におけるnは1~300の整数であり、Rは水素原子または炭素数1~5のアルキル基である。
【0038】
【化6】
【0039】
本明細書において、アルキル基及びアルキレン基は、直鎖、分岐鎖および環状のいずれであってもよく、これらの組み合わせであってもよい。
【0040】
化合物(X)が有する、生体親和性部位は、構造1、構造2および構造3から選ばれる少なくとも一種からなる。以下、構造4中の構造1を、「構造1(4)」と示す。生体親和性部位は、構造1、構造2および構造3の1種のみからなってもよく、2種以上からなってもよい。生体親和性部位としては、構造1が好ましい。
【0041】
化合物(X)が有する、反応性シリル基としては、アルコキシシリル基が好ましく、例えば、式5で示される基が挙げられる。
-Si(R3-t(OR 式5
ただし、式5中、Rは、炭素数1~18のアルキル基であり、Rは水素原子または炭素数1~18のアルキル基であり、tは1~3の整数である。RおよびORが複数存在する場合、RおよびRはそれぞれ同一であっても異なってもよい。製造上の観点から同一であることが好ましい。
【0042】
基材本体と表面層の密着性の観点から、tは2以上が好ましく、3がより好ましい。縮合反応時の立体障害の観点から、Rは炭素数1~6のアルキル基が好ましく、メチル基またはエチル基がより好ましい。加水分解反応速度および加水分解反応時の副生成物の揮発性の観点から、Rは、炭素数1~6のアルキル基が好ましく、メチル基またはエチル基がより好ましい。
【0043】
化合物(X)としては、例えば、上記化合物(X)としての要件を満足する、ポリオキシエチレン鎖を主鎖とし、末端または側鎖に反応性シリル基を有する化合物(X1)、エチレン性二重結合が重合した炭化水素鎖を主鎖とし、側鎖に生体親和性部位と反応性シリル基を有する化合物(X2)、主鎖がエチレン性二重結合が重合した炭化水素鎖とポリオキシエチレン鎖の両方を含み、側鎖に生体親和性部位と反応性シリル基を有する化合物(X3)等が挙げられる。
【0044】
化合物(X1)は、例えば、ポリオキシエチレンポリオールまたは少なくとも1つの水酸基を有するポリオキシエチレンポリオールアルキルエーテル(ただし、アルキルの炭素数は1~5である。)に、これらの化合物が有する水酸基に、任意に連結基を介して反応性シリル基を導入することで得られる。より具体的には、化合物(X1)は、例えば、ポリオキシエチレン鎖を含むポリオキシアルキレンポリオールまたはポリオキシエチレン鎖を含み少なくとも1つの水酸基を有するポリオキシアルキレンポリオールアルキルエーテル(ただし、アルキルの炭素数は1~5である。)に、所定の割合で、水酸基に反応性の基および反応性シリル基(アルコキシシリル基等)を有するシラン化合物(以下、シラン化合物(S)ともいう。)を反応させて得られる。
【0045】
言い換えれば、化合物(X1)は、ポリオキシエチレンポリオールまたは少なくとも1つの水酸基を有するポリオキシエチレンポリオールアルキルエーテル(ただし、アルキルの炭素数は1~5である。)に、反応性シリル基が、その水酸基に由来する酸素原子を介して、または、その水酸基に由来する酸素原子と所定の基が結合した連結基を介して結合するように導入された化合物である。所定の基としては、例えば、後述する式(X11)中のQと同様の基が挙げられる。
【0046】
用いるポリオキシアルキレンポリオールとしては、アルカンポリオール、エーテル性酸素原子含有ポリオール、糖アルコールなどの比較的低分子量のポリオールに、少なくともエチレンオキシドを含むアルキレンモノエポキシドを開環付加重合して得られる化合物が挙げられる。ポリオキシアルキレンポリオールにおける、オキシアルキレン基としては、オキシエチレン基、オキシプロピレン基、オキシ-1,2-ブチレン基、オキシ-2,3-ブチレン基、オキシイソブチレン基等が挙げられる。
【0047】
用いるポリオキシアルキレンポリオールアルキルエーテルとしては、このようなポリオキシアルキレンポリオールの水酸基の一部を炭素数1~5の脂肪族アルコールとエーテル結合させた化合物が挙げられる。以下の説明において、特に断りのない限り「ポリオキシアルキレンポリオールアルキルエーテル」は、少なくとも1個の水酸基を有するポリオキシアルキレンポリオールアルキルエーテル(ただし、アルキルの炭素数は1~5である。)をいう。「オキシアルキレン」が「オキシエチレン」に変わった場合も同様である。
【0048】
上記ポリオキシアルキレンポリオールおよびポリオキシアルキレンポリオールアルキルエーテルが有するオキシアルキレン基はオキシエチレン基のみからなってもよく、オキシエチレン基と他のオキシアルキレン基の組み合わせからなってもよい。化合物(X1)としての分子設計のし易さから、オキシエチレン基のみを有するポリオキシエチレンポリオールまたはポリオキシエチレンポリオールアルキルエーテルが好ましい。以下、ポリオキシエチレンポリオールとポリオキシエチレンポリオールアルキルエーテルをまとめて、「ポリオキシエチレンポリオール等」ということもある。
【0049】
すなわち化合物(X1)は、ポリオキシエチレンポリオール等とシラン化合物(S)の反応生成物が好ましい。ポリオキシエチレンポリオール等の水酸基の数としては、1~6が挙げられ、化合物(X1)としての分子設計のし易さの観点から、1~4が好ましく、1~3が特に好ましい。ポリオキシエチレンポリオール等として、具体的には、ポリオキシエチレングリコール、ポリオキシエチレングリセリルエーテル、トリメチロールプロパントリオキシエチレンエーテル、ペンタエリスリトールポリオキシエチレンエーテル、ジペンタエリスリトールポリオキシエチレンエーテル、ポリオキシエチレングリコールモノアルキルエーテル(ただし、アルキルの炭素数は1~5である。)等が挙げられる。
【0050】
例えば、ポリオキシエチレンポリオール等が、水酸基数が2のポリオキシエチレングリコールの場合、化合物(X1)として、下記式のようにポリオキシエチレングリコールとR-Q11-Si(R3-t(ORで示されるシラン化合物(S1)が反応して得られる、式(X11)で示される化合物が挙げられる。
【0051】
【化7】
【0052】
上記反応式において、ポリオキシエチレングリコールにおけるn1は1~300の整数であり、好ましくは2~100、より好ましくは4~20である。シラン化合物(S1)における、R、R、およびtは、好ましい態様を含めて上記式5の場合と同様である。シラン化合物(S1)における、Rは、水酸基と反応性の基であり、水酸基、カルボキシル基、イソシアネート基、エポキシ基が挙げられる。Q11は、炭素数2~20の2価炭化水素基であり、炭素原子-炭素原子間にエーテル性酸素原子を有してもよく、水素原子がハロゲン原子、例えば、塩素原子、フッ素原子や水酸基に置換されていてもよい。水素原子が水酸基に置換される場合、置換する水酸基の個数は1~5個が好ましい。
【0053】
式(X11)において、Qは、シラン化合物(S1)のR-Q11がポリオキシエチレングリコールの水酸基と反応した残基であり、R9’-Q11(Oに結合する側がR9’であり、反応性シリル基に結合する側がQ11である。)で示すことができる。R9’としては、Rに対応して、単結合、-C(=O)-、-C(=O)NH-、-CHCH(-OH)CHO-が挙げられる。以下、-C(=O)N…は、-CON…と示す。例えば、-C(=O)NH-は、-CONH-と示す。
【0054】
として、-(CH-、-CONH(CH-、-CON(CH)(CH-、-CON(C)(CH-、-(CF-、-CO(CH-、-CHCH(-OH)CHO(CH-(kは、2~4の整数を表す)、-CHOC-、-CFOC-が好ましく、より好ましくは、-(CH-、-CONH(CH-、-(CF-(kは、2~4の整数を表す)、-CHOC-、-CFOC-等が挙げられる。これらのなかでも、-CONHC-、-CONHC-、-CHOC-、-CFOC-、-C-、-C-、および-C-から選択されるいずれかがより好ましい。さらに、-CONHC-、-CONHC-、-C-、-C-が好ましい。
【0055】
なお、ポリオキシエチレングリコールを塩基性条件下で塩化アリルと反応させた後、ヒドロシリル化反応によってシラン変性することで、化合物(X11)を得てもよい。
【0056】
化合物(X11)において、構造1のうち構造1(4)の割合は、100モル%である。すなわち、化合物(X11)における構造1は、すべてが構造4中の構造1である。上記のとおり、化合物(X1)におけるオキシエチレン鎖は、片末端がRである割合が半分以上であることが好ましく、化合物(X11)におけるオキシエチレン鎖は、片末端が全てR(この場合は水素原子)である。
【0057】
化合物(X11)における生体親和性部位の含有量は、式(X11)中の-n1(OCHCH)-O-の質量%であり、反応性シリル基の含有量は、式(X11)中の-Si(R3-t(ORの質量%である。化合物(X11)における生体親和性部位および反応性シリル基の含有量は、組成物(Y)の固形分組成に応じて適宜調整される。化合物(X11)における生体親和性部位の含有量は、例えば、10~90質量%が好ましく、25~83質量%がより好ましく、40~83質量%がさらに好ましく、60~83質量%が特に好ましい。化合物(X11)における反応性シリル基の含有量は、1~70質量%が好ましく、2~70質量%がより好ましく、2~45質量%がさらに好ましく、10~30質量%が特に好ましい。
【0058】
なお、化合物(X11)における末端の水素原子が、水素原子以外のRと置き換わった化合物も化合物(X1)として使用できる。すなわち、上記反応式において、水酸基数が2のポリオキシエチレングリコールの代わりにポリオキシエチレングリコールモノアルキルエーテル(アルキルはRである。)を用いて得られる化合物も、化合物(X1)として使用できる。その場合のRとしては、メチル基、エチル基が好ましく、メチル基がより好ましい。
【0059】
例えば、ポリオキシエチレンポリオールが、水酸基数が3のポリオキシエチレングリセリルエーテルの場合、化合物(X1)として、下記式のようにポリオキシエチレングリセリルエーテルとR-Q11-Si(R3-t(ORで示されるシラン化合物(S1)が反応して得られる、式(X12)で示される化合物が挙げられる。
【0060】
【化8】
【0061】
上記反応式において、ポリオキシエチレングリセリルエーテルにおけるn1は、ポリオキシエチレングリコールにおけるn1と好ましい態様を含めて同様である。シラン化合物(S1)は上記同様である。化合物(X12)における、Qは、化合物(X11)におけるQと好ましい態様を含めて同様である。
【0062】
化合物(X12)において、構造1のうち構造1(4)の割合は、67モル%である。化合物(X12)における生体親和性部位および反応性シリル基の含有量は、好ましい態様を含めて化合物(X11)の場合と同様である。
【0063】
なお、化合物(X12)におけるO-(CHCHO)n1-Hの末端の水素原子が、水素原子以外のRと置き換わった化合物も化合物(X1)として使用できる。その場合のRとしては、メチル基が好ましい。
【0064】
化合物(X1)において、生体親和性部位および反応性シリル基以外の構造の含有量は、藻類の付着防止および耐水性の両立の観点から、10~50質量%が好ましく、20~30質量%がより好ましい。化合物(X1)の重量平均分子量(以下、「Mw」と示すこともある)は、原料入手の容易性の観点から、100~10,000が好ましく、500~2,000がより好ましい。化合物(X1)のMwは、サイズ排除クロマトグラフィーによって算出される。
【0065】
以上、ポリオキシエチレンポリオール等として、ポリオキシエチレングリコールおよびポリオキシエチレングリセリルエーテルを例に化合物(X1)を説明した。これら以外のポリオキシエチレンポリオール等についても同様に、構造1のうちの構造1(4)の割合、生体親和性部位の含有量、反応性シリル基の含有量等を所望の割合に適宜調整して、化合物(X1)を製造することが可能である。
【0066】
化合物(X1)は、さらにその部分加水分解縮合物であってもよい。化合物(X1)を部分加水分解縮合物とする場合、後述のようにして基材本体表面に表面層を形成する際に支障をきたさない程度の粘度となるように、縮合度を適宜調整する。このような粘度の観点から部分加水分解縮合物のMwは、1,000~1,000,000が好ましく、1,000~100,000がより好ましい。以下の部分加水分解共縮合物についても、Mwの好ましい範囲は同様である。なお、部分加水分解縮合物における反応性シリル基の含有量(質量%)は、原料のシラン化合物の反応性シリル基の含有量(質量%)と同等として扱う。部分加水分解共縮合物においては、原料のシラン化合物の混合割合から反応性シリル基の含有量(質量%)を算出できる。
【0067】
化合物(X1)は、2種以上の化合物(X1)を、所望の割合で生体親和性部位と反応性シリル基を含有するように、部分加水分解共縮合した部分加水分解共縮合物であってもよい。化合物(X1)は、また、化合物(X1)と生体親和性部位を有しない反応性シラン化合物を、得られる部分加水分解縮合物が化合物(X)として所望の割合で生体親和性部位と反応性シリル基を含有するように、部分加水分解共縮合した部分加水分解共縮合物であってもよい。
【0068】
生体親和性部位を有しない反応性シラン化合物としては、下式6のアルコキシシラン化合物が挙げられる。
Si(R204-p(OR21 式6
【0069】
ただし、式6中、R20は、ポリオキシエチレン鎖を有しない一価有機基であり、R21は炭素数1~18のアルキル基であり、pは1~4の整数である。R20およびOR21が複数存在する場合、R20およびR21はそれぞれ同一であっても異なってもよい。製造上の観点から同一であることが好ましい。
【0070】
20として具体的には、炭素数1~18のアルキル基が挙げられ、縮合反応時の立体障害の観点からメチル基が好ましい。
【0071】
基材本体と表面層の密着性の観点から、pは2以上が好ましく、3または4がより好ましく、4が特に好ましい。加水分解反応速度および加水分解反応時の副生成物の揮発性の観点から、R21は、炭素数1~6のアルキル基が好ましく、メチル基またはエチル基がより好ましい。
【0072】
化合物(X2)としては、例えば、生体親和性部位を有する(メタ)アクリレートと反応性シリル基を有する(メタ)アクリレートを必須とし、任意にこれら以外のその他の(メタ)アクリレートを含む単量体を共重合させて得られた(メタ)アクリレート共重合体が挙げられる。この場合、原料単量体は、得られる(メタ)アクリレート共重合体が化合物(X)として所望の割合で生体親和性部位と反応性シリル基を含有するように、上記各(メタ)アクリレートの含有量を調整する。
【0073】
化合物(X2)は、言い換えれば、生体親和性部位を有する(メタ)アクリレートに基づく単位および反応性シリル基を有する(メタ)アクリレートに基づく単位を所定の割合で含み、任意にこれら以外のその他の(メタ)アクリレートに基づく単位を含む共重合体が好ましい。
【0074】
生体親和性部位を有する(メタ)アクリレートに基づく単位とは、構造1を有する(メタ)アクリレートに基づく単位、構造2を有する(メタ)アクリレートに基づく単位、構造3を有する(メタ)アクリレートに基づく単位から選ばれる少なくとも1種である。これらの単位として、具体的には、側鎖に構造1を有する(メタ)アクリレートに基づく単位(以下、単位(B1)という)、構造2を有する、下記式(B2)で示す(メタ)アクリレートに基づく単位、構造3を有する、下記式(B3)で示す(メタ)アクリレートに基づく単位が挙げられる。単位(B1)としては、構造4を有する、下記式(B11)で示す(メタ)アクリレートに基づく単位が好ましい。
【0075】
上記において、単位(B1)は構造1を有する(メタ)アクリレートに基づく単位である。単位(B1)は、単位(B11)を50~100モル%含むことが好ましい。すなわち、単位(B1)は、単位(B11)以外の単位を50モル%以下の割合で含んでもよい。単位(B11)以外の単位としては、単位(B11)において、Rの代わりにR以外の基、例えば、二官能(メタ)アクリレートに由来するカルボニル基を有する単位が挙げられる。単位(B1)における、単位(B11)の割合は75~100モル%がより好ましく、全て(100モル%)が単位(B11)であるのが特に好ましい。以下、単位(B1)の基となる単量体を(メタ)アクリレート(B1)という。
単位(B1)、単位(B2)および単位(B3)をまとめて単位(B)という。
【0076】
また、反応性シリル基を有する(メタ)アクリレートに基づく単位としては、下記式(A)で示す(メタ)アクリレートに基づく単位が挙げられる。
さらに、その他の(メタ)アクリレートに基づく単位としては、下記式(C)で示す(メタ)アクリレートに基づく単位が挙げられる。
【0077】
【化9】
【0078】
ただし、式(B11)、式(B2)、式(B3)、式(A)、式(C)中の記号は以下のとおりである。
式(B11)、式(B2)、式(B3)、式(A)、式(C)中、Rは水素原子またはメチル基である。
式(B11)中、Qは単結合または2価有機基であり、n2は1~300の整数であり、Rは水素原子または炭素数1~5のアルキル基である。n2は、好ましくは1~100、より好ましくは1~20である。
【0079】
式(B2)中、Qは2価有機基であり、R~Rはそれぞれ独立に炭素数1~5のアルキル基であり、aは1~5の整数である。
式(B3)中、Qは2価有機基であり、RおよびRはそれぞれ独立に炭素数1~5のアルキル基であり、Xは基3-1または基3-2であり、bは1~5の整数である。
【0080】
式(A)中、Qは2価有機基であり、Rは、炭素数1~18のアルキル基であり、Rは、水素原子または炭素数1~18のアルキル基であり、tは1~3の整数であり、RおよびORが複数存在する場合、RおよびRはそれぞれ同一であっても異なってもよい。R、R、およびtは、好ましい態様は上記式5の場合と同様である。
式(C)中、R10は、水素原子、または、生体親和性部位および反応性シリル基を有しない一価有機基である。R10は、水素原子または炭素原子数1~100のアルキル基が好ましく、炭素原子数1~20のアルキル基がより好ましい。
【0081】
、Q、Qは、各々独立に、炭素数2~10の2価炭化水素基が好ましく、炭素原子-炭素原子間にエーテル性酸素原子を有してもよく、水素原子がハロゲン原子、例えば、塩素原子、フッ素原子や水酸基に置換されていてもよい。
は、-C-、-C-、-C-が好ましく、-C-、-C-がより好ましく、さらに-C-が好ましい。
およびQは、それぞれ独立して、-C-、-C-、-C-が好ましく、-C-、-C-がより好ましく、さらに-C-が好ましい。
は、例えば、単結合または、-O-Q-であり、QはQと同様である。Qは単結合が好ましい。
【0082】
以下に、単位(A)、単位(B11)、単位(B2)、単位(B3)、単位(C)の原料となる(メタ)アクリレートを例示する。なお、(メタ)アクリレート(B1)、(メタ)アクリレート(B2)および(メタ)アクリレート(B3)をまとめて(メタ)アクリレート(B)という。以下の(メタ)アクリレートの説明において、符号の意味はすべて上記と同じである。また、-C(=O)O…は、-COO…と示す。
【0083】
(メタ)アクリレート(A)は、CH=CR-COO-Q-Si(R3-t(ORであり、CH=CR-COO-Q-Si(ORが好ましく、CH=CR-COO-(CH-Si(OCH、CH=CR-COO-(CH-Si(OCが特に好ましい。
【0084】
(メタ)アクリレート(B11)は、CH=CR-CO-Q-O-(CHCHO)n2-Rであり、CH=CR-COO-(CHCHO)n2-R(n2=1~300、RはHまたはCHである。)が好ましい。n2はさらに好ましくは1~20である。
【0085】
(メタ)アクリレート(B2)は、CH=CR-COO-Q-(PO )-(CH-Nであり、CH=CR-COO-(CH-(PO )-(CH-N(CHが好ましい。
(メタ)アクリレート(B3)は、CH=CR-COO-Q-N-(CH-Xであり、CH=CR-COO-(CH-N(CH-CH-COOが好ましい。
【0086】
(メタ)アクリレート(C)は、CH=CR-COO-R10であり、メチルメタクリレート、ブチルメタクリレート、ドデシルメタクリレート等が挙げられる。
【0087】
上記各単位を用いた化合物(X2)としては、例えば、下記式(X21)で示される共重合体(X21)が挙げられる。共重合体(X21)において、主鎖はエチレン性二重結合が重合した炭化水素鎖であり、生体親和性部位および反応性シリル基は側鎖に存在する。
【0088】
【化10】
【0089】
式(X21)において、eは、共重合体(X21)の全単位数を100とした場合の、単位(A)の個数を示す。f、g、h、iは、同様に、単位(B11)、単位(B2)、単位(B3)、および単位(C)の、それぞれ共重合体の全単位数を100とした場合の個数を示す。共重合体(X21)において、e>0、f+g+h>0、i≧0である。式(X21)における、e~i以外の符号は、上記に示したのと同じ意味を示す。共重合体(X21)は、ランダム共重合体であってもブロック共重合体であってもよい。
【0090】
式(X21)においてe~iの割合を調整することで、共重合体(X21)における生体親和性部位および反応性シリル基(-Si(R3-t(OR)の含有量が調整できる。共重合体(X21)におけるe~iの割合は、組成物(Y)の固形分組成に応じて適宜調整される。共重合体(X21)における生体親和性部位の含有量は、例えば、20~90質量%が好ましく、25~83質量%がより好ましく、30~83質量%がさらに好ましく、40~83質量%が特に好ましい。共重合体(X21)における反応性シリル基の含有量は、1~70質量%が好ましく、2~70質量%がより好ましく、2~25質量%がさらに好ましく、2~15質量%が特に好ましい。
【0091】
なお、共重合体(X2)は、構造1を有する(メタ)アクリレートに基づく単位と反応性シリル基を有する(メタ)アクリレートに基づく単位のみで構成されることが好ましい。さらに、構造1を有する(メタ)アクリレートに基づく単位は、構造1(4)を有する(メタ)アクリレートに基づく単位を50~100モル%含むことが好ましく、構造1(4)を有する(メタ)アクリレートに基づく単位のみで構成されることがより好ましい。共重合体(X21)は、単位(A)および単位(B11)のみで構成されることが好ましい。その場合、式(X21)において、i、gおよびhは、0であり、eおよびfが、共重合体(X21)における生体親和性部位および反応性シリル基の含有量が好ましくは上記範囲となるように適宜調整される。
【0092】
共重合体(X21)は、例えば、原料(メタ)アクリレートを、e~iが上記所定の割合となるように準備し、重合開始剤の存在下、従来公知の、溶液重合、塊状重合、懸濁重合、乳化重合等の方法で共重合させることで得られる。
【0093】
重合開始剤としては、2,2’-アゾビス(4-メトキシ-2,4-ジメチルバレロニトリル)、2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)、2,2’-アゾビスイソブチロニトリル)、2,2’-アゾビス(2-メチルブチロニトリル)、1,1’-アゾビス(シクロヘキサン-1-カルボニトリル)、1-[(1-シアノ-1-メチルエチル)アゾ]ホルムアミド、4,4’-アゾビス(4-シアノ吉草酸)、2,2’-アゾビス(2-メチルプロピオン酸)ジメチル、1,1’-アゾビス(シクロヘキシルカルボン酸メチル)、2,2’-アゾビス[N-(2-ヒドロキシエチル)-2-メチルプロパンアミド]、2,2’-アゾビス(N-ブチル-2-メチルプロピオンアミド)、2,2’-アゾビス(N-ブチル-2-メチルプロピオンアミド)、2,2’-アゾビス[2-(2-イミダゾリン-2-イル)プロパン]二塩酸塩、2,2’-アゾビス[2-(2-イミダゾリン-2-イル)プロパン]二硫酸塩二水和物、2,2’-アゾビス[2-(2-イミダゾリン-2-イル)プロパン]、2,2’-アゾビス(2-メチルプロピオンアミジン)二塩酸塩、2,2’-アゾビス[N-(2-カルボキシエチル)-2-メチルプロピオンアミジン]四水和物、2,2’-アゾビス(2,4,4-トリメチルペンタン)、t-ブチルヒドロペルオキシド、クメンヒドロペルオキシド、1,1,3,3,-テトラメチルブチルヒドロペルオキシド、ジドデカノイルペルオキシド、ベンゾイルペルオキシド、2-エチルヘキサンペルオキシ酸-1,1,3,3-テトラメチルブチル、2-エチルペルオキシヘキサン酸-t-ヘキシル、2-エチルペルオキシヘキサン酸-t-ブチルが挙げられる。
【0094】
半減期温度による製造容易性の点から2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)、2,2’-アゾビスイソブチロニトリル)、2,2’-アゾビス(2-メチルブチロニトリル)、4,4’-アゾビス(4-シアノ吉草酸)、2,2’-アゾビス(2-メチルプロピオン酸)ジメチル、1,1’-アゾビス(シクロヘキシルカルボン酸メチル)、2,2’-アゾビス[2-(2-イミダゾリン-2-イル)プロパン]二塩酸塩、2,2’-アゾビス[2-(2-イミダゾリン-2-イル)プロパン]二硫酸塩二水和物、2,2’-アゾビス[2-(2-イミダゾリン-2-イル)プロパン]、2,2’-アゾビス(2-メチルプロピオンアミジン)二塩酸塩、2,2’-アゾビス[N-(2-カルボキシエチル)-2-メチルプロピオンアミジン]四水和物、ジドデカノイルペルオキシド、ベンゾイルペルオキシド、2-エチルヘキサンペルオキシ酸-1,1,3,3-テトラメチルブチル、2-エチルペルオキシヘキサン酸-t-ヘキシル、2-エチルペルオキシヘキサン酸-t-ブチルが好ましい。
【0095】
なお、化合物(X2)において、生体親和性部位および反応性シリル基以外の構造の含有量は、藻類の付着防止および耐水性の両立の観点から、15~55質量%が好ましく、15~40質量%がより好ましい。化合物(X2)のMwは、製造容易性の観点から、1,000~1,000,000が好ましく、20,000~100,000がより好ましい。化合物(X2)のMwは、サイズ排除クロマトグラフィーにより算出される。
【0096】
化合物(X2)は、さらにその部分加水分解縮合物であってもよい。化合物(X2)を部分加水分解縮合物とする場合、後述のようにして基材本体表面に表面層を形成する際に支障をきたさない程度の粘度となるように、縮合度を適宜調整する。このような粘度の観点から部分加水分解縮合物のMwは、2,000~2,000,000が好ましく、30,000~300,000がより好ましい。以下の部分加水分解縮合物についても、Mwの好ましい範囲は同様である。
【0097】
化合物(X2)は、2種以上の化合物(X2)を、所望の割合で生体親和性部位と反応性シリル基を含有するように、部分加水分解共縮合した部分加水分解共縮合物であってもよい。化合物(X2)は、また、化合物(X2)と生体親和性部位を有しないアルコキシシラン化合物を、得られる部分加水分解縮合物が化合物(X)として所望の割合で生体親和性部位と反応性シリル基を含有するように、部分加水分解共縮合した部分加水分解共縮合物であってもよい。
【0098】
化合物(X3)としては、例えば、生体親和性部位を有する(メタ)アクリレートと反応性シリル基を有する(メタ)アクリレート、および、主鎖にポリオキシエチレン鎖を導入可能な化合物を必須とし、任意にこれら以外のその他の(メタ)アクリレートを含む原料化合物を共重合させた(メタ)アクリレート共重合体が挙げられる。なお、この場合、主鎖のポリオキシエチレン鎖は、構造4中の構造1ではないため、生体親和性部位を有する(メタ)アクリレートとして、構造4を有する(メタ)アクリレートを用いて、化合物(X3)中の全構造1に対する構造4中の構造1の割合が50モル%以上になるように調整する。また、原料化合物は、得られる(メタ)アクリレート共重合体が化合物(X)として所望の割合で生体親和性部位と反応性シリル基を含有するように、上記各原料化合物の含有量を調整する。
【0099】
化合物(X3)は、言い換えれば、生体親和性部位を有する(メタ)アクリレートに基づく単位(ただし、構造4を有する(メタ)アクリレートに基づく単位を必須とする)、反応性シリル基を有する(メタ)アクリレートに基づく単位、および主鎖にポリオキシエチレン鎖を有する単位を所定の割合で含み、任意にこれら以外のその他の(メタ)アクリレートに基づく単位を含む共重合体が好ましい。
【0100】
化合物(X3)において、生体親和性部位を有する(メタ)アクリレートに基づく単位としては、上記単位(B)(ただし、単位(B11)を必須とする)が好ましく、単位(B11)がより好ましい。
反応性シリル基を有する(メタ)アクリレートに基づく単位としては上記単位(A)が好ましい。
主鎖にポリオキシエチレン鎖を有する単位としては、下記式(B12)で示す単位が好ましい。
その他の(メタ)アクリレートに基づく単位としては、上記単位(C)が好ましい。
【0101】
【化11】
【0102】
ただし、式(B12)中、QおよびQはそれぞれ独立して、2価有機基であり、n3は20~200の整数である。
およびQは炭素数2~10の2価炭化水素基が好ましく、炭素原子-炭素原子間にエーテル性酸素原子を有してもよく、水素原子がハロゲン原子、例えば、塩素原子、フッ素原子や水酸基、またはシアノ基に置換されていてもよい。
およびQは、-C(CH)(COOC)-、-C(CH)(COOCH)-、-C(CH)(CN)-が好ましく、-C(CH)(COOCH)-、-C(CH)(CN)-がより好ましく、さらに-C(CH)(CN)-が好ましい。
n3は、好ましくは40~200、より好ましくは40~140である。
【0103】
ここで、単位(B11)、単位(B12)および単位(A)を有する共重合体(以下、共重合体(Z)ともいう。)は、本発明者らが新たに作製した文献未記載の本発明の共重合体である。共重合体(Z)は、単位(B11)中および単位(B12)中に構造1を有する。単位(B11)中の構造1は構造4中の構造1であり、単位(B12)中の構造1は、構造4中の構造1ではない。共重合体(Z)のうちで、全構造1に対する構造4中の構造1の割合が50モル%以上に調整された共重合体は、化合物(X3)の範疇にあり、組成物(Y)に使用可能である。
【0104】
共重合体(Z)中の全構造1に対する構造4中の構造1の割合を50モル%以上に調整するには、共重合体中の単位(B12)由来の構造1のモル数より単位(B11)由来の構造1のモル数が多くなるように重合に用いる原料化合物の量を調整すればよい。
【0105】
共重合体(Z)は、単位(B11)、単位(B12)および単位(A)以外に、単位(B2)、単位(B3)および単位(C)等の任意の単位を有してもよい。共重合体(Z)としては、単位(B11)、単位(B12)および単位(A)を有する下記式(Z1)で表される共重合体(Z1)が好ましく、単位(B11)、単位(B12)および単位(A)のみからなる共重合体が特に好ましい。
【0106】
【化12】
【0107】
式(Z1)において、e1は、共重合体(Z1)の全単位数を100とした場合の、単位(A)の個数を示す。f1、j1は、同様に、単位(B11)、単位(B12)の、それぞれ共重合体の全単位数を100とした場合の個数を示す。式(Z1)における、e1、f1、j1以外の符号は、上記に示したのと同じ意味を示す。共重合体(Z1)は、ランダム共重合体であってもブロック共重合体であってもよい。
【0108】
共重合体(Z1)を化合物(X3)として用いる場合、化合物(X3)の要件を満たすように、すなわち、1>f1/(f1+j1)≧0.5の関係になるように、好ましくは1>f1/(f1+j1)≧0.75の関係になるように、式(Z1)においてf1およびj1の割合を調整する。
【0109】
化合物(X3)における生体親和性部位の含有量は、例えば、20~90質量%が好ましく、25~83質量%がより好ましく、30~83質量%がさらに好ましく、40~83質量%が特に好ましい。
化合物(X3)における反応性シリル基の含有量は、1~70質量%が好ましく、2~70質量%がより好ましく、2~25質量%がさらに好ましく、2~15質量%が特に好ましい。
共重合体(Z1)を化合物(X3)として用いる場合、e1、f1およびj1の割合を調整することで、共重合体(Z1)における生体親和性部位およびアルコキシシリル基(-Si(R3-t(OR)の含有量が、化合物(X3)として用いるのに好ましい上記範囲に調整できる。
【0110】
共重合体(Z)は、例えば、(メタ)アクリレート(A)および(メタ)アクリレート(B11)を含む原料(メタ)アクリレート、および単位(B12)となる原料化合物を、所定の割合となるように準備し、重合開始剤の存在下、従来公知の、溶液重合、塊状重合、懸濁重合、乳化重合等の方法で共重合させることで得られる。共重合体(Z)を化合物(X3)として使用する際には、各単位の割合、例えば、共重合体(Z1)における、e1、f1、j1を適宜調整する。
【0111】
単位(B12)となる原料化合物としては、ポリオキシエチレン鎖を含み、両末端にラジカル重合性の基を有する化合物が特に制限なく挙げられる。また、単位(B12)となる原料化合物は、ポリオキシエチレン鎖と、アゾ基(-N=N-)等のラジカル発生部位を含む重合開始剤であってもよい。単位(B12)となる原料化合物が重合開始剤である場合、共重合体の主鎖に簡便にポリオキシエチレン鎖を導入できる点で好ましい。このような重合開始剤の例としては、ポリオキシエチレン鎖を有するアゾ系重合開始剤が例示できる。具体的には、下記式(PI)で示される化合物が例示でき、化合物(PI)としては、和光純薬社製VPE-0201等が挙げられる。
【0112】
【化13】
【0113】
式(PI)中、n3は式(B12)中のn3と同様であり、n4は1~100の整数である。n4は、2~30が好ましく、3~20がより好ましい。
【0114】
なお、化合物(X3)、好ましくは、共重合体(Z1)からなる化合物(X3)において、生体親和性部位および反応性シリル基以外の構造の含有量は、藻類の付着防止および耐水性の両立の観点から、15~55質量%が好ましく、15~40質量%がより好ましい。
化合物(X3)のMwは、製造容易性の観点から、1,000~1,000,000が好ましく、20,000~100,000がより好ましい。共重合体(Z1)におけるMwも化合物(X3)のMwと同様である。化合物(X3)、共重合体(Z1)のMwは、サイズ排除クロマトグラフィーにより算出される。
【0115】
化合物(X3)は、さらにその部分加水分解縮合物であってもよい。化合物(X3)を部分加水分解縮合物とする場合、後述のようにして基材本体表面に表面層を形成する際に支障をきたさない程度の粘度となるように、縮合度を適宜調整する。このような粘度の観点から部分加水分解縮合物のMwは、2,000~2,000,000が好ましく、30,000~300,000がより好ましい。以下の部分加水分解縮合物についても、Mwの好ましい範囲は同様である。
【0116】
化合物(X3)は、2種以上の化合物(X3)を、所望の割合で生体親和性部位と反応性シリル基を含有するように、部分加水分解共縮合した部分加水分解共縮合物であってもよい。化合物(X3)は、また、化合物(X3)と生体親和性部位を有しない反応性シラン化合物を、得られる部分加水分解縮合物が化合物(X)として所望の割合で生体親和性部位と反応性シリル基を含有するように、部分加水分解共縮合した部分加水分解共縮合物であってもよい。
【0117】
本発明における表面層は、化合物(X)を含有する組成物(Y)の硬化物からなる。なお、表面層が組成物(Y)の硬化物からなるとは、表面層が少なくとも、上に説明した化合物(X)を含む反応性シリル基含有成分の硬化物を含むことをいう。
【0118】
組成物(Y)は、化合物(X)を含有し、組成物(Y)中の固形分における、生体親和性部位の含有量が25~83質量%であり、反応性シリル基の含有量が2~70質量%である。
上記生体親和性部位の含有量が25質量%以上であることで、得られる表面層は防藻性を有する。上記生体親和性部位の含有量が83質量%以下であることで耐水性を付与できる。組成物(Y)中の固形分における生体親和性部位の含有量は、30~83質量%が好ましく、40~83質量%がより好ましい。
上記反応性シリル基の含有量が2質量%以上であることで、得られる表面層は耐久性、例えば、耐水性を有する。上記反応性シリル基の含有量が70質量%以下であることで十分な量の生体親和性部位を導入することができる。組成物(Y)中の固形分における反応性シリル基の含有量は、2~40質量%が好ましく、2~30質量%がより好ましい。
【0119】
組成物(Y)は、化合物(X)の1種を単独で含有してもよく、2種以上を含有してもよい。化合物(X)を2種以上用いる場合、化合物(X1)を用いる場合については、化合物(X1)のみで2種以上を構成することが好ましい。化合物(X2)、化合物(X3)を用いる場合は、化合物(X2)および化合物(X3)から選ばれる2種以上のみで化合物(X)を構成することが好ましい。
【0120】
組成物(Y)が含有する固形分が化合物(X)のみで構成される場合、化合物(X)は、生体親和性部位の含有量および、反応性シリル基の含有量が上記所定の範囲となるように選択される。組成物(Y)における固形分中の化合物(X)の割合は、例えば、25~100質量%が好ましく、50~100質量%がより好ましく、75~100質量%がさらに好ましい。
【0121】
組成物(Y)は、化合物(X)以外のその他成分を含有してもよい。その他成分としては、表面層に固形分として含有される化合物(X)以外のその他の固形分が挙げられる。表面層の形成をドライコーティングで行う場合には、組成物(Y)は固形分のみを含有する。一方、表面層の形成をウェットコーティングで行う場合には、その他成分として、さらに、表面層形成に際して除去される液状媒体を含有する。
【0122】
その他の固形分は、化合物(X)と同様に硬化する成分であってもよく、非硬化性の成分であってもよい。その他の固形分としては、例えば、生体親和性部位と反応性シリル基のいずれか一方を有する化合物が挙げられる。その他の固形分としては、さらに、化合物(X)の製造過程で用いた原料や副生物のうち除去しきれなかった不純物、機能性の添加剤、触媒等が挙げられる。機能性の添加剤としては、紫外線吸収剤、光安定剤、酸化防止剤、レベリング剤、界面活性剤、抗菌剤、分散剤、無機微粒子等が挙げられる。
【0123】
触媒としては、反応性シリル基の加水分解縮合反応に用いる従来公知の触媒が特に制限なく用いられる。触媒として、具体的には、塩酸、硝酸、酢酸、硫酸、燐酸、スルホン酸例えば、メタンスルホン酸、p-トルエンスルホン酸、等の酸、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、アンモニア等の塩基やアルミ系、チタン系の金属触媒が挙げられる。
【0124】
化合物(X)として、化合物(X1)を用いる場合には、その他の固形分として、生体親和性部位を有しないアルコキシシラン化合物および/またはその部分加水分解縮合物を用いてもよい。生体親和性部位を有しないアルコキシシラン化合物としては、上記化合物6が好ましい。生体親和性部位を有しないアルコキシシラン化合物を部分加水分解縮合物とする場合には、そのMwは100~100,000が好ましく、100~10,000がより好ましい。
【0125】
組成物(Y)が、固形分として化合物(X1)と、生体親和性部位を有しないアルコキシシラン化合物を含有する場合、化合物(X1)と生体親和性部位を有しないアルコキシシラン化合物の合計における、生体親和性部位の含有量は25~83質量%であり、反応性シリル基の含有量が2~70質量%であるのが好ましい。すなわち、固形分としてこれら以外の、生体親和性部位および/または反応性シリル基を有する化合物を含有しないことが好ましい。この場合、化合物(X1)100質量部に対する生体親和性部位を有しないアルコキシシラン化合物の割合は、50~200質量部が好ましく、50~100質量部がより好ましい。
【0126】
化合物(X)として、化合物(X1)を用いる場合には、全固形分中の化合物(X1)、生体親和性部位を有しないアルコキシシラン化合物および触媒以外のその他の固形分の含有量は、合計で40質量%以下が好ましく、20質量%以下がより好ましく、含有しないことが最も好ましい。
【0127】
化合物(X)として、化合物(X2)または化合物(X3)を用いる場合には、その他の固形分として、生体親和性部位を有する(メタ)アクリレートの単独重合体を用いてもよい。生体親和性部位を有する(メタ)アクリレートの単独重合体とは、重合体を構成する単位が生体親和性部位を有する(メタ)アクリレートに基づく単位のみからなる重合体をいう。単独重合体に用いる生体親和性部位を有する(メタ)アクリレートとしては、ポリオキシエチレン鎖を有する(メタ)アクリレートが好ましく、構造1(4)を有する(メタ)アクリレートが特に好ましい。
【0128】
化合物(X2)または化合物(X3)と、ポリオキシエチレン鎖を有する(メタ)アクリレートの単独重合体を組みわせて用いる場合、個々の重合体において、「構造1のうち50~100モル%は構造4中の構造1である」という要件を満たす必要はなく、これらの全体として、すなわち、これらを含む組成物において固形分が、該要件を満たせばよい。
【0129】
例えば、化合物(X)として、化合物(X2)、特には、共重合体(X21)を用いる場合には、その他の固形分として、(メタ)アクリレート(B)、さらには(メタ)アクリレート(B1)、特には(メタ)アクリレート(B11)の単独重合体を用いてもよい。単独重合体に用いる(メタ)アクリレート(B)の好ましい態様は、上記共重合体(X21)において説明したものと同様である。(メタ)アクリレート(B)としては、(メタ)アクリレート(B1)、特に(メタ)アクリレート(B11)が好ましい。(メタ)アクリレート(B)の単独重合体におけるMwは、好ましくは1,000~1,000,000であり、より好ましくは20,000~100,000である。
【0130】
組成物(Y)が、固形分として共重合体(X21)と、(メタ)アクリレート(B)の単独重合体を含有する場合、共重合体(X21)と(メタ)アクリレート(B)の単独重合体の合計における、生体親和性部位の含有量は25~83質量%であり、反応性シリル基の含有量が2~70質量%であるのが好ましい。すなわち、固形分としてこれら以外の、生体親和性部位および/または反応性シリル基を有する化合物を含有しないことが好ましい。この場合、共重合体(X21)100質量部に対する(メタ)アクリレート(B)の単独重合体の割合は、30~100質量部が好ましく、40~75質量部がより好ましい。
【0131】
化合物(X)として、化合物(X2)または化合物(X3)を用いる場合には、全固形分中の化合物(X2)または化合物(X3)、(メタ)アクリレート(B)の単独重合体および触媒以外のその他の固形分の含有量は、合計で40質量%以下が好ましく、20質量%以下がより好ましく、含有しないことが最も好ましい。
【0132】
表面層の形成をウェットコーティングで行う場合に組成物(Y)が含有する液状媒体は、化合物(X)を含む固形分を均一に溶解または分散可能であればよく、公知の各種の液状媒体のなかから適宜選択できる。液状媒体は、表面層の形成に際して、最終的には除去される必要があるため、その沸点は60~160℃の範囲にあることが好ましく、60~120℃がより好ましい。
【0133】
液状媒体として、具体的には、アルコール類、エーテル類、ケトン類、エステル類等が好ましい。上記沸点の条件を満足する液状媒体として、具体的には、イソプロピルアルコール、エタノール、プロピレングリコールモノメチルエーテル、2-ブタノン、酢酸エチル等が挙げられる。これらは、1種を単独で使用しても、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0134】
液状媒体は、化合物(X)を含む反応性シリル基含有成分が加水分解反応するための水を含有することができるが、貯蔵安定性の観点からは水を含有しないことが好ましい。ただし、液状媒体が水を含有しない場合でも、化合物(X)含む反応性シリル基含有成分は大気中の水分により加水分解反応が可能であるため、液状媒体における水の含有は必須ではない。
【0135】
液状媒体を含有する場合の組成物(Y)中の固形分濃度は、0.1~50質量%が好ましく、1~30質量%がより好ましく、1~15質量%がさらに好ましい。固形分濃度が上記範囲内であると、組成物(Y)を用いてウェットコーティングで形成される表面層の膜厚が、防藻性とその耐久性を十分に発揮できる好適な範囲内となりやすい。組成物(Y)の固形分濃度は、組成物(Y)を80℃3時間の真空乾燥した後の質量と、加熱前の組成物(Y)の質量とから算出できる。組成物(Y)の製造時に配合される全固形分と液状媒体の量から算出してもよい。
【0136】
液状媒体を含有する場合の組成物(Y)は、液状媒体を50~99.5質量%含むことが好ましく、65~99質量%含むことがより好ましく、70~99質量%含むことがさらに好ましい。
【0137】
組成物(Y)の製造方法は特に限定されない。化合物(X)を含む固形分を、さらに液状媒体を含む場合は、これら固形分と液状媒体を、上記含有量となるように混合すればよい。組成物(Y)にあっては、上記に説明したとおり、化合物(X)を含み、固形分中の生体親和性部位の含有量が25~83質量%であり、反応性シリル基の含有量が2~70質量%であるため、組成物(Y)を用いて基材本体表面に形成される該組成物の硬化物からなる表面層は、防藻性に優れるとともに、防藻性の耐久性、特に耐水性に優れる。
【0138】
表面層の厚さは、10~100,000nmが好ましく、10~10,000nmが特に好ましい。表面層の厚さが上記範囲の下限値以上であれば、十分な防藻性および防藻性の耐久性、特に耐水性が発現しやすい。表面層の厚さが上記範囲の上限値以下であれば、強度が優れる。表面層の厚さは、リガク社ATX-Gに代表されるX線反射率測定装置での測定により求められる。
【0139】
本発明の第1の態様の基材は、基材本体の表面に上記組成物(Y)を用いて表面層を形成することで得られる。表面層を形成する基材本体表面は上に説明したとおりである。表面層を形成する方法としては、真空蒸着法、CVD法、スパッタリング法等のドライコーティングまたはウェットコーティングが挙げられ、ウェットコーティングが好ましい。
本組成物は、基材の表面層の劣化に伴うリペア剤としても使用できる。その場合の塗布方法はスプレーコート、ハケ塗り等のウェットコートが好ましい。硬化方法はドライヤー等による加熱が好ましい。
【0140】
ウェットコーティングにより表面層を形成する方法としては、基材本体表面に、上記で説明した液状媒体を含む組成物(Y)を塗布し塗膜を得ること(以下、「塗布工程」ともいう。)、および該塗膜を硬化して表面層を得ること(以下、「硬化工程」ともいう。)を含む方法が挙げられる。
【0141】
塗布工程における、組成物(Y)の基材本体表面への塗布方法としては、例えばディップコート法、スピンコート法、ワイプコート法、スプレーコート法、スキージーコート法、ダイコート法、インクジェット法、フローコート法、ロールコート法、キャスト法、ラングミュア・ブロジェット法、グラビアコート法等が挙げられる。
【0142】
硬化工程における、塗膜の硬化方法としては、加熱が好ましい。加熱温度は、化合物(X)を含む反応性シリル基含有成分の種類によるが、50~150℃が好ましく、100~150℃がより好ましい。なお、硬化工程においては、通常、液状媒体の除去も同時に行う。したがって、加熱温度は、液状媒体の沸点以上の温度が好ましい。ただし、基材本体の材質等によって加熱乾燥が困難な場合には、加熱を回避して液状媒体の除去を行う。該方法としてはたとえば減圧乾燥等が挙げられる。
【0143】
ウェットコーティングによる表面層の形成においては、必要に応じて塗布工程、乾燥工程以外の工程処理を有してよい。例えば、組成物(Y)が水を含有しない場合、硬化工程と同時、または、硬化工程の前、後に、加湿等の処理を行ってもよい。
【0144】
また、表面層形成後、表面層中の化合物であって余剰の化合物は、必要に応じて除去してもよい。具体的な方法としては、例えば、表面層に溶剤、例えば組成物(Y)の液状媒体として用いた化合物をかけ流す方法や、溶剤、例えば組成物(Y)の液状媒体として用いた化合物をしみ込ませた布でふき取る方法が挙げられる。
【0145】
本発明の第1の態様の基材においては、得られる表面層は、大気中で乾燥した後の弾性率に対して水中で測定される弾性率が63%以下であることが好ましく、50%以下がより好ましく、40%以下がさらに好ましい。なお、該表面層において大気中で乾燥した後の弾性率に対して水中で測定される弾性率の下限は、好ましくは0.1%である。
【0146】
本発明の第2の態様の基材は、水と接する基材であり、基材本体と、基材本体における水と接する面の少なくとも一部に設けられる表面層とを有する基材であって、表面層の弾性率が、大気中で乾燥した後の測定値に対する水中での測定値が0.1%~63%である。この値が0.1%未満になる表面状態では水を過剰に含み、耐水性が不十分となる。また、63%を超える表面状態では含水量が低く、藻の付着を抑制する能力が不十分となる。
【0147】
本発明の第2の態様の基材は、表面層の弾性率が上記特性を有することで、該表面は藻が付着しにくいと考えられる。ここで、第1の態様の基材は、表面層の表面が、第2の態様の基材における上記表面の弾性率の特性を有する。ただし、第2の態様の基材の上記弾性率の特性を有する表面は、第1の態様の基材における表面層の表面に限定されない。
【0148】
本発明の第2の態様の基材においては、弾性率は、大気中で乾燥した後の測定値に対して水中での測定値が0.1%~50%が好ましく、0.1%~40%がより好ましい。該弾性率の特性を有する表面は、例えば、本発明の第1の態様の基材と同様にして基材本体表面に表面層を形成することで得られるが、これに限定されない。表面層の弾性率が上記特性を有する限り、本発明の第2の態様の基材の範疇である。
【0149】
本明細書において、特に断りのない限り、弾性率は、原子間力顕微鏡(AFM)を用いて測定される弾性率を意味する。
【0150】
なお、弾性率の水中の測定値および大気中で乾燥した後の測定値とは、具体的には、それぞれ以下の方法で測定される測定値をいう。
水中の測定値は、測定対象の表面に、リン酸緩衝生理食塩水を滴下して、液滴(凸状のメニスカス)が形成されるようにしてAFMにより測定できる。
大気中で乾燥した後の測定値は、測定対象の表面を、大気圧下、30%RH、25℃、60分間の条件で乾燥させた後に、大気条件下でAFMにより測定できる。
【0151】
弾性率の測定に用いるAFMとしては、例えば、Oxford Instruments製のCypher-S(カンチレバーホルダー:液滴カンチレバーホルダー、プローブ:ドイツナノツールズ社製B20-NCHRベースHDCTIP(先端球状、先端曲率20nm、カンチレバータイプ:FM-AUD)が挙げられる。
【0152】
また、測定方法としては、以下の方法が挙げられる。
弾性率を測定する際に、まず、サファイア基板測定とサーマルノイズ法を用いて、光てこ感度およびバネ定数を校正する。サファイア基板表面のフォースカーブ測定より、光てこ感度を算出する。また、試料表面よりプローブを1mm程度離し、算出した光てこ感度を固定してサーマルノイズ法でバネ定数を算出する。
【0153】
次に、上記装置を用いて、試料表面形状を取得する。その後、ゴミ等を避けてインデント位置を決め、フォースカーブ測定を実施する。測定は、最大押込み力:200nN、押込み速度:1Hzでインデンテーションを実施する。Cypher-S付属の解析ソフト(AR ver13)により、押込み曲線をヘルツモデルでフィッティングして弾性率を算出する。
【実施例
【0154】
以下、実施例を示して本発明を詳細に説明する。ただし、本発明は以下の記載によっては限定されない。「%」は、特に規定のない限り、「質量%」を示す。例1~5、例15~39、例43~44が実施例、例6~14、例40~42が比較例である。
【0155】
(化合物(X1))
化合物(X1)として、以下の化合物(X12-1)および、化合物(X11-1)を用いた。また、比較例用に、化合物(X)としての要件を満たさない以下の化合物(Xcf1)~化合物(Xcf4)を製造した。
【0156】
【化14】
【0157】
[製造例1]
化合物(X12-1)は、化合物(X12)において、n1が7~8、Qが-CONHC-、tが3、Rがエチル基の化合物であり、次の方法で合成した。
300mLナス型フラスコに、n1が7~8のポリオキシエチレングリセリルエーテル(以下、「ポリオキシエチレンポリオールA」)263g(259mmol)、KBE-9007(信越シリコーン社製、製品名、トリエトキシシリルプロピルイソシアネート)64.1g(259mmol)を加えた。続いて、得られた混合物に対して1質量%のトリエチルアミン3.27g(32.4mmol)を加え、その後80℃で16時間撹拌した。続いて、得られた反応混合物をロータリーエバポレーターによって加熱減圧しトリエチルアミンを除去して無色透明液体として化合物(X12-1)を得た。収量は327g、収率は100%であった。
【0158】
[製造例2]
化合物(X11-1)として、化合物(X11)の末端水素原子がメチル基に置換され、n1が9~12、Qが-C-、tが3、Rがメチル基の化合物(2-[メトキシ(ポリオキシエチレン)9-12プロピル]トリメトキシシラン、GELEST社製、商品名;SIM6492.72)を準備した。
【0159】
[製造例3、4]
製造例1において、KBE-9007の添加量を2倍量にして同様に反応を行い化合物(Xcf1)を、KBE-9007の添加量を3倍量にして同様に反応を行い化合物(Xcf2)をそれぞれ合成した。
【0160】
【化15】
【0161】
[製造例5]
製造例1において、ポリオキシエチレンポリオールAの代わりに以下のポリオキシエチレンポリオールBを用いてKBE-9007と等モルで上記と同様に反応させて、化合物(Xcf3)を得た。
【0162】
【化16】
【0163】
[製造例6]
製造例5においてKBE-9007の添加量を2倍量にして同様に反応を行い化合物(Xcf4)を得た。
【0164】
【化17】
【0165】
製造例1、3~6で用いたポリオキシエチレンポリオールの種類およびポリオキシエチレンポリオールに対するKBE-9007の添加量(当量)、および、製造例1~6で得られた化合物における、Mw、構造1における(CHCHO)の繰り返し数(n1)、構造1のうちの構造4中の構造1である割合(モル%)(表1中「構造4の割合」で示す。)、化合物中の生体親和性部位(構造1)の割合(質量%)、アルコキシシリル基の割合(質量%)を表1に示す。
【0166】
【表1】
【0167】
(共重合体(X21))
化合物(X2)として、共重合体(X21-1)~共重合体(X21-24)を以下の表2に示す単量体組成(質量比)と重合条件で製造して用いた。また、比較例用に、化合物(X)としての要件を満たさない共重合体(X21-cf1)~(X21-cf2)を同様に表2に示す単量体組成と重合条件で製造した。なお、用いた単量体とその略号を以下に示す。表2に示す単量体組成、例えば、製造例6におけるPME-200/KBM-503=95/5は、PME-200とKBM-503を質量比で95:5の割合で用いたことを示す。他の製造例においても同様である。
【0168】
<単量体略号>
(1)(メタ)アクリレート(A)
KBM-503;信越シリコーン社製、製品名、トリメトキシシリルプロピルメタクリレート(CH=C(CH)-COO-(CH-Si(OCH
KBM-5103;信越シリコーン社製、製品名、トリメトキシシリルプロピルアクリレート(CH=CH-COO-(CH-Si(OCH
【0169】
(2)(メタ)アクリレート(B11)
PME-200;ブレンマーPME-200(日油社製、商品名、CH=C(CH)-COO-(CHCHO)-CH
PME-400;ブレンマーPME-400(日油社製、商品名、CH=C(CH)-COO-(CHCHO)-CH
AME-400;ブレンマーAME-400(日油社製、商品名、CH=CH-COO-(CHCHO)-CH
HEMA;CH=C(CH)-COO-CHCHO-H
HEA;CH=CH-COO-CHCHO-H
【0170】
(3)(メタ)アクリレート(B2)
MPC;2-メタクリロイルオキシエチルホスホルコリン(CH=C(CH)-COO-(CH-(PO )-(CH-N(CH
(4)(メタ)アクリレート(B3)
CBMA;3-[[2-(メタクリロイルオキシ)エチル]ジメチルアンモニオ]プロピオナート(CH=C(CH)-COO-(CH-N(CH-CH-COO
【0171】
[製造例7]
500mL3つ口フラスコに、PME-200を57.0g(206mmol)、KBM-503を3.00g(12.1mmol)、1-メトキシ-2-プロパノールを119g、ジアセトンアルコールを21g、および、重合開始剤として2,2’-アゾビス(2-メチルプロピオン酸)ジメチルを600mg(2.61mmol)加えた。反応液中の単量体の濃度を30質量%、開始剤濃度を1質量%とした。続いて、得られた混合物を75℃、窒素雰囲気下で16時間撹拌し、室温まで空冷し無色透明液体(共重合体(X21-1)を30質量%含む溶液)を得た。収量は200g、収率は100%であった。
【0172】
[製造例8~28]
製造例7において、単量体組成を表2に示すとおりに変更した以外は同様にして、(共重合体(X21-2)~(X21-22)を製造した。
【0173】
[製造例29]
100mL3つ口フラスコに、MPCを7.0g(23.7mmol)、KBM-503を3.00g(12.1mmol)、エタノールを40g、および、重合開始剤として2,2'-アゾビス(2-メチルプロピオン酸)ジメチルを100mg(0.43mmol)加えた。反応液中の単量体の濃度を20質量%、開始剤濃度を1質量%とした。続いて、得られた混合物を75℃、窒素雰囲気下で16時間撹拌し、室温まで空冷し無色透明液体(共重合体(X21-23)を20質量%含む溶液)を得た。収量は50g、収率は100%であった。
【0174】
[製造例30]
製造例29において、単量体組成を表2に示すとおりに変更した以外は同様にして、(共重合体(X21-24)を製造した。
【0175】
[製造例31~32]
製造例7において、単量体組成を表2に示すとおりに変更した以外は同様にして、(共重合体(X21-cf1)~(X21-cf2)を製造した。
【0176】
製造例7~32で得られた化合物(共重合体)における、Mw、構造1における(CHCHO)の繰り返し数(n2)(ただし、製造例7~28、製造例30~32)、化合物中の生体親和性部位(構造1、構造2、構造3)の割合(質量%)、アルコキシシリル基の割合(質量%)を表2に示す。なお、製造例7~28、製造例30~32で得られた化合物(共重合体)における構造1のうちの構造4中の構造1である割合(モル%)は全て100モル%である。
【0177】
【表2】
【0178】
[例1]
イソプロピルアルコール(IPA)と0.1質量%硝酸水溶液を質量比70:30で混合した溶媒に化合物(X12-1)を固形分濃度が30質量%になるように添加し、50℃、16時間撹拌して、化合物(X12-1)の部分加水分解縮合物を含む液状組成物1を得た。得られた部分加水分解縮合物のMwを表1に示す。これをそのまま表面層形成用組成物1として用いた。表3に表面層形成用組成物1における生体親和性部位(構造1)の割合(質量%)、アルコキシシリル基の割合(質量%)を示す。以下の例2~10、12~14についても同様に表面層形成用組成物における生体親和性部位(構造1)の割合(質量%)、アルコキシシリル基の割合(質量%)を表3に示す。
【0179】
縦200mm、幅100mm、厚さ3mmのガラス板(FL3、AGC社製、商品名、透明フロート-ソーダライムガラス)を幅方向の直線で2等分したうちの一方の領域(縦100mm、幅100mm)に表面層形成用組成物1をディップ方式でコーティングし、25℃で15分間放置後、120℃で1時間硬化させた。これにより、図3に示すとおり、平面視で半分の領域に表面層が形成されたガラス板1(以下、「表面層付きガラス板1」という。以下についても同様である。)を作製した。なお、表面層の膜厚は1000nmとした。以下の例2~10、12~14においても同様の膜厚とした。
【0180】
[例2~4、6]
例1と同様にして化合物(X12-1)の部分加水分解縮合物を含む液状組成物1を得た。さらに、TEOS(テトラエトキシシラン)を例1と同様の方法で部分加水分解縮合させ、TEOSの部分加水分解縮合物(Mw;1050)を含む液状組成物2を得た。液状組成物1と液状組成物2を化合物(X12-1)の部分加水分解縮合物とTEOSの部分加水分解縮合物の割合が表3に示すようになるように混合し、表面層形成用組成物2~4、および6を得た。
【0181】
表面層形成用組成物2~4、および6をそれぞれ用いて、例1と同様にして、平面視で半分の領域に表面層が形成されたガラス板2~4、および6を作製した。
【0182】
[例5]
例1において、化合物(X12-1)を化合物(X11-1)に変更した以外は同様にして化合物(X11-1)の部分加水分解縮合物を含む液状組成物3を得た。得られた部分加水分解縮合物のMwを表1に示す。液状組成物3とTEOSの部分加水分解縮合物を含む液状組成物2を化合物(X11-1)の部分加水分解縮合物とTEOSの部分加水分解縮合物の割合が表3に示すようになるように混合し、表面層形成用組成物5を得た。
【0183】
表面層形成用組成物5を用いて、例1と同様にして、平面視で半分の領域に表面層が形成されたガラス板5を作製した。
【0184】
[例7~10]
例1において、化合物(X12-1)を化合物(Xcf1)~化合物(Xcf4)にそれぞれ変更した以外は同様にして化合物(Xcf1)~化合物(Xcf4)の部分加水分解縮合物を含む液状組成物7~10を得た。得られた部分加水分解縮合物のMwを表2に示す。これをそのまま表面層形成用組成物7~10として用いた。
【0185】
表面層形成用組成物7~10を用いて、例1と同様にして、平面視で半分の領域に表面層が形成されたガラス板7~10を作製した。
【0186】
[例11]
縦200mm、幅100mm、厚さ3mmのガラス板(FL3、AGC社製、商品名、透明フロート-ソーダライムガラス)をそのまま評価に用いた。
【0187】
[例12]
KR-500(信越シリコーン社製、製品名、メチルメトキシシリコーン、固形分濃度15質量%の1-メトキシ-2-プロパノール溶液)を表面層形成用組成物12として用いて、例1と同様にして、平面視で半分の領域に表面層が形成されたガラス板12を作製した。
【0188】
[例13]
ポリオキシエチレンポリオールAの15質量%1-メトキシ-2-プロパノール溶液を表面層形成用組成物13として用いて、例1と同様にして、平面視で半分の領域に表面層が形成されたガラス板13を作製した。
【0189】
[例14]
日本国特開2006-188591号公報の実施例1と同様の塗料組成物を表面層形成用組成物14として用いて、例1と同様にして、平面視で半分の領域に表面層が形成されたガラス板14を作製した。
【0190】
[物性評価]
上記で得られた表面層付きガラス板1~14を用いて以下の評価を行った。結果を表3に示す。表3中、空欄は未測定を示す。
【0191】
(1)弾性率低下率(%)
表面層付きガラス板1、2、4、6、8、11~13を、大気圧下、30%RH、25℃、60分間の条件で乾燥した後に、大気条件下で表面層における弾性率を以下の装置(AFM)により以下の方法で測定した。得られた弾性率を、大気中で乾燥した後に測定された弾性率Aとする。
【0192】
次に、表面層付きガラス板1、2、4、6、8、11~13の表面層上にリン酸緩衝生理食塩水を滴下して、液滴(凸状のメニスカス)が形成されるようにして、以下の装置(AFM)により以下の方法で弾性率を測定した。得られた弾性率を、水中で測定された弾性率Bとする。弾性率低下率は、以下の式で算出した。
弾性率低下率(%)=(弾性率B/弾性率A)×100
【0193】
<弾性率測定方法>
装置(AFM):Oxford Instruments製 Cypher-S
カンチレバーホルダー:液滴カンチレバーホルダー
プローブ:ドイツナノツールズ社製B20-NCHRベースHDCTIP(先端球状、先端曲率20nm、カンチレバー:タイプFM-AUD)
【0194】
弾性率を測定する際に、まず、サファイア基板測定とサーマルノイズ法を用いて、光てこ感度およびバネ定数を校正する。サファイア基板表面のフォースカーブ測定より、光てこ感度を算出する。また、試料表面よりプローブを1mm程度離し、算出した光てこ感度を固定してサーマルノイズ法でバネ定数を算出する。
【0195】
次に、上記装置を用いて、試料表面形状を取得する。その後、ゴミ等を避けてインデント位置を決め、フォースカーブ測定を実施する。測定は、最大押込み力:200nN、押込み速度:1Hzでインデンテーションを実施する。Cypher-S付属の解析ソフト(AR ver13)により、押込み曲線をヘルツモデルでフィッティングして弾性率を算出する。
【0196】
(2)耐水性
表面層付きガラス板1~14を、25~30℃の下記の試験水1~4の水に30日間浸漬した後のクラック、界面剥離の有無、白濁について以下の評価基準にしたがい評価した。なお、界面剥離の有無については、ATR-IR(サーモフィッシャーサイエンティフィック社、IZ10)を用い、1720cm-1付近のウレタン結合(-OOCNH-)のピーク、または2900cm-1付近のメチレン基(C-C)のピークの有無で残膜を確認した。クラック、白濁については目視で有無を確認した。
【0197】
(試験水)
試験水1;弱酸性(pH=7.1~8.3の水道水に二酸化炭素をバブリングしpH=6.0~7.0に調整した試験水)
試験水2;中性(pHが約7.0の蒸留水)
試験水3;弱塩基(pH=7.1~8.3の水道水)
試験水4;海水(pH=7.1~8.3の水道水に「海塩」(カミハタ社製、商品名)を4質量%加えた試験水)
【0198】
(評価基準)
「○」(良好);試験水1~4のすべてでクラック、界面剥離、白濁がない。
「×」(不良);試験水1~4にいずれかでクラック、界面剥離または白濁が認められる。
【0199】
(3)藻付着防止性
図1に示す水槽の水槽本体と同様の形状の水槽(45cm×27cm×30cm、ガラス製)の内壁面に表面層付きガラス板1~12、14を配設し、水道水(pH7.1~8.3)を入れて、水温25~30℃で金魚3匹を飼育した際の藻付着防止性を評価した。表面層付きガラス板1~12、14は全体が水中に浸漬されるようにシーラントを用いて水槽の内壁面に接着した。試験中は、水槽上端から30cm上部の位置において、1個の70Wメタルハライドランプを1日あたり12時間点灯して、水槽に光を照射した。
【0200】
表面層の非形成領域に藻が付着し始めて2週間後の表面層形成領域に関して外観を目視で確認し、以下の評価基準により藻付着防止性を評価した。
【0201】
(評価基準)
「3」;藻がほとんど付着していない。
「2」;藻の付着はあるが表面層の非形成領域よりも少ない。
「1」;表面層の非形成領域と同様またはそれ以上に藻が付着している。
【0202】
(4)藻除去性
上記(3)藻付着防止性の試験において、表面層付きガラス板1~12、14を表面層形成領域に藻が付着するまで水中に浸漬した。表面層形成領域に付着した藻の拭き取りやすさ(藻除去性)を以下の評価基準により評価した。ふき取りにはメラミンスポンジ(1cm×1cm×1cm)を水にぬらしたものを使用し、荷重200~300g/cmで行った。
【0203】
(評価基準)
「3」:流水で流すとふき取りなしで除去できる。
「2」:ふき取り一回で除去できる。
「1」:ふき取り二回以上でないと除去できない。
【0204】
【表3】
【0205】
[例15~35、42]
共重合体(X21-1)~(X21-22)をそれぞれ含む溶液(固形分濃度:質量30%)を1-メトキシ-2-プロパノールとジアセトンアルコールと0.1質量%硝酸水溶液を質量比51:9:40で混合した溶媒に、固形分濃度15質量%になるように添加し、50℃、16時間撹拌して、共重合体(X21-1)~(X21-22)の部分加水分解縮合物をそれぞれ含む液状組成物15~35、42を得た。得られた部分加水分解縮合物のMwを表2に示す。これをそのまま表面層形成用組成物15~35、42として用いた。表4に表面層形成用組成物における生体親和性部位(構造1)の割合(質量%)、アルコキシシリル基の割合(質量%)を示す。
【0206】
表面層形成用組成物15~35、42をそれぞれ用いて、例1と同様にして、平面視で半分の領域に表面層が形成されたガラス板15~35、42を作製した。
【0207】
[例36、37]
共重合体(X21-23)、(X21-24)をそれぞれ含む溶液(固形分濃度:質量20%)を0.1質量%硝酸水溶液で固形分濃度10質量%になるように調整し、50℃、16時間撹拌して、共重合体(X21-23)、(X21-24)の部分加水分解縮合物をそれぞれ含む液状組成物36、37を得た。得られた部分加水分解縮合物のMwを表2に示す。これをそのまま表面層形成用組成物36、37として用いた。表4に表面層形成用組成物における生体親和性部位(構造2または構造3)の割合(質量%)、アルコキシシリル基の割合(質量%)を示す。
【0208】
表面層形成用組成物36、37をそれぞれ用いて、例1と同様にして、平面視で半分の領域に表面層が形成されたガラス板36、37を作製した。
【0209】
[例38]
上記で得られた共重合体(X21-10)の部分加水分解縮合物を含む液状組成物24と共重合体(X21-cf2)を、共重合体(X21-10)の部分加水分解縮合物と共重合体(X21-cf2)の固形分質量比が1:1となるように混合し、1-メトキシ-2-プロパノールとジアセトンアルコール混合溶媒により固形分濃度が15質量%となるように調整して表面層形成用組成物38を得た。表4に表面層形成用組成物38における生体親和性部位(構造1)の割合(質量%)、アルコキシシリル基の割合(質量%)を示す。
【0210】
表面層形成用組成物38を用いて、例1と同様にして、平面視で半分の領域に表面層が形成されたガラス板38を作製した。
【0211】
[例39]
例38において、共重合体(X21-10)の部分加水分解縮合物と共重合体(X21-cf2)の固形分質量比を2:1に変更した以外は同様にして、表面層形成用組成物39を得、例1と同様にして、平面視で半分の領域に表面層が形成されたガラス板39を作製した。表4に表面層形成用組成物39における生体親和性部位(構造1)の割合(質量%)、アルコキシシリル基の割合(質量%)を示す。
【0212】
[例40、41]
共重合体(X21-cf1)および共重合体(X21-cf2)について、それぞれ15質量%1-メトキシ-2-プロパノール溶液を、表面層形成用組成物40、41として用いて、例1と同様にして、平面視で半分の領域に表面層が形成されたガラス板40、41を作製した。表4に表面層形成用組成物40、41における生体親和性部位(構造1)の割合(質量%)、アルコキシシリル基の割合(質量%)を示す。
【0213】
[例43、44]
(共重合体(Z1)の製造)
化合物(X3)の要件を満たす共重合体(Z1)として、共重合体(X3-1)および共重合体(X3-2)を以下のとおり製造した。
【0214】
(共重合体(X3-1))
500mL3つ口フラスコに、HEMAを45.0g(346mmol)、KBM-503を3.00g(12.1mmol)、1-メトキシ-2-プロパノールを119g、ジアセトンアルコールを21g、および、VPE-0201(和光純薬社製、商品名、化合物(PI)においてn3が45~46、n4が6~14の化合物)を重合開始剤として12g(アゾ基として5.4mmol)加えた。続いて、得られた混合物を80℃、窒素雰囲気下で16時間撹拌し、室温まで空冷し無色透明液体(下記式(X3-Z1)で示す共重合体(X3-Z1)において、f1が95、e1が3、j1が2である共重合体(X3-1)を30質量%含む溶液)を得た。収量は200g、収率は100%であった。
【0215】
得られた無色透明液体を用いて例15~35、42と同様にして、共重合体(X3-1)の部分加水分解縮合物を含む液状組成物を得た。該液状組成物をそのまま表面層形成用組成物43として用いた。
【0216】
【化18】
【0217】
共重合体(X3-1)において、Mwは28500、得られた部分加水分解縮合物のMwは52100、構造1のうち構造4中の構造1である割合は98モル%、生体親和性部位(構造1)の割合は52.3質量%、アルコキシシリル基の割合は2.4質量%である。
【0218】
(共重合体(X3-2))
上記(共重合体(X3-1)の製造において、HEMAの質量を42.0g、KBM-503の質量を6.0gに変更したこと以外は同様にして、共重合体(X3-Z1)において、f1が91、e1が7、j1が2である共重合体(X3-2)を、無色透明液体(共重合体(X3-2)を30質量%含む溶液)として製造した。収量は200g、収率は100%であった。得られた無色透明液体を用いて例15~35、42と同様にして、共重合体(X3-2)の部分加水分解縮合物を含む液状組成物を得た。該液状組成物をそのまま表面層形成用組成物44として用いた。
【0219】
共重合体(X3-2)において、Mwは29600、得られた部分加水分解縮合物のMwは54600、構造1のうち構造4中の構造1である割合は98モル%、生体親和性部位(構造1)の割合は50.0質量%、アルコキシシリル基の割合は4.9質量%である。
【0220】
(表面層付きガラス板43、44の作製)
得られた表面層形成用組成物43、44をそれぞれ用いて、例15~35、42と同様にして平面視で半分の領域に表面層が形成されたガラス板43、44を作製した。
【0221】
[物性評価]
上記で得られた表面層付きガラス板15~44を用いて上記例1~14と同様の評価を行った。結果を表4に示す。表4中、空欄は未測定を示す。
【0222】
なお、耐水性評価において、界面剥離の有無については、ATR-IR(サーモフィッシャーサイエンティフィック社、IZ10)を用い、1723cm-1付近のエステル結合(-COO-)のピークの有無で残膜を確認した。
【0223】
【表4】
【0224】
本発明を詳細にまた特定の実施態様を参照して説明したが、本発明の精神と範囲を逸脱することなく様々な変更や修正を加えることができることは当業者にとって明らかである。本出願は2018年2月1日出願の日本特許出願(特願2018-016738)、2018年6月28日出願の日本特許出願(特願2018-123479)に基づくものであり、その内容はここに参照として取り込まれる。
【産業上の利用可能性】
【0225】
本発明の基材を用いれば、たとえば基材を水槽に用いる場合に、水槽の水と接する面における藻の付着が抑制されるとともに、該抑制作用は耐久性を有するため、長期の使用においても防藻の効果が持続する。藻が発生しやすい水槽、具体的には、水槽の水を収容する部分において少なくとも一部が光を透過する構成を有する水槽、観賞用や食用の生物を飼育する水槽においては、特に防藻の効果を持続して発揮できる。
本発明の組成物を用いれば、船底、配管、プール、水路、越流板に塗布し、防藻の効果を発揮することもできる。
【0226】
本発明の共重合体は、基材の表面処理に用いることができる。本発明の共重合体は、単独または他の化合物と組み合わせて藻の付着を抑制するための表面処理に用いることができ、水槽等の水と接する面の表面処理に好適である。
【符号の説明】
【0227】
1…水槽(基材)、10…水槽本体(基材本体)、11…底板、12…壁板、21…表面層。
図1
図2
図3