(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-04
(45)【発行日】2024-03-12
(54)【発明の名称】ペリクルフレーム、ペリクル、ペリクル付露光原版、露光方法、半導体の製造方法及び液晶表示板の製造方法
(51)【国際特許分類】
G03F 1/64 20120101AFI20240305BHJP
G03F 7/20 20060101ALI20240305BHJP
【FI】
G03F1/64
G03F7/20 503
G03F7/20 521
(21)【出願番号】P 2022528735
(86)(22)【出願日】2021-05-20
(86)【国際出願番号】 JP2021019219
(87)【国際公開番号】W WO2021246187
(87)【国際公開日】2021-12-09
【審査請求日】2022-11-17
(31)【優先権主張番号】P 2020097943
(32)【優先日】2020-06-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002060
【氏名又は名称】信越化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002240
【氏名又は名称】弁理士法人英明国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】簗瀬 優
【審査官】菅原 拓路
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-191902(JP,A)
【文献】特開2017-063011(JP,A)
【文献】特開2018-194854(JP,A)
【文献】特開2019-070745(JP,A)
【文献】特開2013-097308(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G03F 1/62
G03F 7/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
枠状のペリクルフレームであって、
チタン又はチタン合金からなるペリクルフレーム本体と、該ペリクルフレーム本体を被覆する絶縁層とを有することを特徴とするペリクルフレーム。
【請求項2】
枠状のペリクルフレームであって、線膨張係数が10×10
-6
(1/K)以下の金属であるペリクルフレーム本体と、該ペリクルフレーム本体を被覆する絶縁層とを有することを特徴とするペリクルフレーム。
【請求項3】
上記絶縁層の体積抵抗率は10
8Ω・m以上である請求項1
又は2記載のペリクルフレーム。
【請求項4】
上記ペリクルフレーム本体が、チタン又はチタン合金からなる請求項
2記載のペリクルフレーム。
【請求項5】
上記絶縁層は非粘着性である請求項1又は2記載のペリクルフレーム。
【請求項6】
上記絶縁層は無機材料により形成される請求項1又は2記載のペリクルフレーム。
【請求項7】
上記絶縁層がペリクルフレーム本体の全表面に形成される請求項1又は2記載のペリクルフレーム。
【請求項8】
ペリクルフレームの厚みは、2.5mm未満である請求項1又は2記載のペリクルフレーム。
【請求項9】
請求項1又は2記載のペリクルフレームと、ペリクル膜と、を具備することを特徴とするペリクル。
【請求項10】
上記ペリクルフレームの上端面に粘着剤又は接着剤を介して
上記ペリクル膜
が設けられている請求項9記載のペリクル。
【請求項11】
真空下又は減圧下における露光に使用される請求項
9記載のペリクル。
【請求項12】
EUV露光に使用される請求項
9記載のペリクル。
【請求項13】
300mm/秒以上のスキャン速度での露光に使用される請求項
9記載のペリクル。
【請求項14】
ペリクルの高さが2.5mm以下である請求項
9記載のペリクル。
【請求項15】
上記ペリクル膜は、枠に支えられたペリクル膜である請求項
9記載のペリクル。
【請求項16】
露光原板に請求項9記載のペリクルが装着されていることを特徴とするペリクル付露光原版。
【請求項17】
請求項16記載のペリクル付き露光原版を用いて露光することを特徴とする露光方法。
【請求項18】
請求項16記載のペリクル付露光原版を用いて、基板を
露光する工程を備えることを特徴とする半導体の製造方法。
【請求項19】
請求項16記載のペリクル付露光原版を用いて、基板を
露光する工程を備えることを特徴とする液晶表示板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リソグラフィ用フォトマスクに異物除けとして装着されるペリクルフレーム、ペリクル、ペリクル付露光原版、露光方法、半導体の製造方法及び液晶表示板の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、LSIのデザインルールはサブクオーターミクロンへと微細化が進んでおり、それに伴って、露光光源の短波長化が進んでいる。すなわち、露光光源は水銀ランプによるg線(436nm)、i線(365nm)から、KrFエキシマレーザー(248nm)、ArFエキシマレーザー(193nm)等に移行しており、さらには主波長13.5nmのEUV(Extreme Ultra Violet)光を使用するEUV露光が検討されている。
【0003】
LSI、超LSI等の半導体製造又は液晶表示板の製造においては、半導体ウエハ又は液晶用原板に光を照射してパターンを作製するが、この場合に用いるリソグラフィ用フォトマスク及びレチクル(以下、総称して「露光原版」と記述する。)に異物が付着していると、この異物が光を吸収したり、光を曲げてしまうために、転写したパターンが変形したり、エッジが粗雑なものとなるほか、下地が黒く汚れたりして、寸法、品質、外観等が損なわれるという問題があった。
【0004】
これらの作業は、通常クリーンルームで行われているが、それでも露光原版を常に清浄に保つことは難しい。そこで、露光原版表面に異物除けとしてペリクルを貼り付けた後に露光をする方法が一般に採用されている。この場合、異物は露光原版の表面には直接付着せず、ペリクル上に付着するため、リソグラフィ時に焦点を露光原版のパターン上に合わせておけば、ペリクル上の異物は転写に無関係となる。
【0005】
このペリクルの基本的な構成は、アルミニウムやチタン等からなるペリクルフレームの上端面に露光に使われる光に対し透過率が高いペリクル膜が張設されるとともに、下端面に気密用ガスケットが形成されているものである。気密用ガスケットは一般的に粘着剤層が用いられ、この粘着剤層の保護を目的とした保護シートが貼り付けられる。ペリクル膜は、露光に用いる光(水銀ランプによるg線(436nm)、i線(365nm)、KrFエキシマレーザー(248nm)、ArFエキシマレーザー(193nm)等)を良く透過させるニトロセルロース、酢酸セルロース、フッ素系ポリマー等からなるが、EUV露光用では、ペリクル膜として極薄シリコン膜や炭素膜が検討されている。
【0006】
特に、EUV露光は高真空下で行われるため、EUV用ペリクルは大気圧から真空へ、および真空から大気圧へと圧力変化に晒される。この際、ペリクルフレームに設けられた通気部を通って空気の移動が発生する。EUV用ペリクルでは、ArF用ペリクルでは存在しなかった、ペリクル内部の空気の移動が生じるため、ペリクルフレーム表面に付着する異物が露光原版に落下するリスクが高い。そのため、EUV用ペリクルでは、ArF用ペリクルよりも厳しい異物検査が必要になってくる。
【0007】
ペリクルフレームからの異物落下を防ぐために、特許文献1には、該ぺリクルフレームの内面に粘着層のコーティングを施すことが提案されている。しかしながら、この提案では、EUV用ペリクルのように、ペリクル内外で空気の移動が発生する場合、ペリクルフレームの内面のみで異物の落下を防ぐだけでは不十分であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記事情に鑑みなされたもので、ペリクルフレームの表面に付着した異物の落下を低減させたペリクルフレーム、ペリクル、ペリクル付露光原版、露光方法、半導体の製造方法及び液晶表示板の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、上記目的を達成するため鋭意検討を行った結果、ペリクルフレーム本体の表面に絶縁層を形成すること、好ましくは体積抵抗率108Ω・cm以上の材料からなる絶縁層を形成することにより、異物が絶縁層に接触した際、絶縁層の帯電が異物の付着を維持し、更にペリクル内部に空気の移動が生じた際、ペリクルフレームの表面に付着した異物の落下を防止することができ、特にEUV露光用のペリクルに有用であることを知見し、本発明をなすに至ったものである。
【0011】
従って、本発明は、下記のペリクルフレーム、ペリクル、ペリクル付露光原版、露光方法、半導体の製造方法及び液晶表示板の製造方法を提供する。
1.枠状のペリクルフレームであって、ペリクルフレーム本体と、該ペリクルフレーム本体を被覆する絶縁層とを有することを特徴とするペリクルフレーム。
2.上記絶縁層の体積抵抗率は108Ω・m以上である上記1記載のペリクルフレーム。
3.上記ペリクルフレーム本体が、チタン又はチタン合金からなる上記1又は2記載のペリクルフレーム。
4.上記絶縁層は非粘着性である上記1又は2記載のペリクルフレーム。
5.上記絶縁層は無機材料により形成される上記1又は2記載のペリクルフレーム。
6.上記絶縁層がペリクルフレーム本体の全表面に形成される上記1又は2記載のペリクルフレーム。
7.上記ペリクルフレームは、線膨張係数が10×10-6(1/K)以下の金属である上記1又は2記載のペリクルフレーム。
8.ペリクルフレームの厚みは、2.5mm未満である上記1又は2記載のペリクルフレーム。
9.上記1記載のペリクルフレームと、該ペリクルフレームの上端面に粘着剤又は接着剤を介して設けられるペリクル膜と、を具備することを特徴とするペリクル。
10.真空下又は減圧下における露光に使用される上記9記載のペリクル。
11.EUV露光に使用される上記9又は10記載のペリクル。
12.フィルターを設置しない上記9又は10記載のペリクル。
13.300mm/秒以上のスキャン速度での露光に使用される上記9又は10記載のペリクル。
14.ペリクルの高さが2.5mm以下である上記9又は10記載のペリクル。
15.上記ペリクル膜は、枠に支えられたペリクル膜である上記9又は10記載のペリクル。
16.露光原板に上記9記載のペリクルが装着されていることを特徴とするペリクル付露光原版。
17.露光原版が、EUV用露光原版である上記16記載のペリクル付露光原版。
18.EUVリソグラフィに用いられるペリクル付露光原版である上記16記載のペリクル付露光原版。
19.上記16記載のペリクル付き露光原版を用いて露光することを特徴とする露光方法。
20.上記16記載のペリクル付露光原版を用いて、真空下又は減圧下において基板を露光する工程を備えることを特徴とする半導体の製造方法。
21.上記16記載のペリクル付露光原版を用いて、真空下又は減圧下において基板を露光する工程を備えることを特徴とする液晶表示板の製造方法。
22.上記16記載のペリクル付露光原版を用いて、基板をEUV露光する工程を備えることを特徴とする半導体の製造方法。
23.上記16記載のペリクル付露光原版を用いて、基板をEUV露光する工程を備えることを特徴とする液晶表示板の製造方法。
24.上記16記載のペリクル付露光原版を用いて、基板を300mm/秒以上のスキャン速度で露光する工程を備えることを特徴とする半導体の製造方法。
25.上記16記載のペリクル付露光原版を用いて、基板を300mm/秒以上のスキャン速度で露光する工程を備えることを特徴とする液晶表示板の製造方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明のペリクルフレーム及びペリクルは、ペリクルフレーム表面に付着した異物の落下を低減することができ、特に、EUV露光用のペリクルに有用である。また、上記ペリクルを用いることにより、ペリクル付露光原版を用いて基板を露光する工程を備える半導体又は液晶表示板の製造方法において非常に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】
図1(A)は本発明のペリクルフレームの一例を示す斜視図であり、
図1(B)は、該フレームをE-E’に沿って切断した断面図である。
【
図2】本発明のペリクルをフォトマスクに装着した様子を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明につき、更に詳しく説明する。
本発明のペリクルフレームは、ペリクル膜を設ける上端面とフォトマスクに面する下端面とを有する枠状のペリクルフレームである。
【0015】
ペリクルフレームは枠状であれば、その形状はペリクルを装着するフォトマスクの形状に対応する。一般的には、四角形(長方形又は正方形)枠状である。ペリクルフレームの角部(エッジ部)の形状については、そのまま角ばった(尖った)形状であってもよく、或いは、R面取り又はC面取り等の面取りを施し、曲線形状等の他の形状であってもよい。
【0016】
また、ペリクルフレームには、ペリクル膜を設けるための面(ここでは上端面とする。)と、フォトマスク装着時にフォトマスクに接する面(ここでは下端面とする。)とがある。
【0017】
通常、ペリクルフレームの上端面には、接着剤等を介してペリクル膜が設けられ、下端面には、ペリクルをフォトマスクに装着するための粘着剤等が設けられるが、この限りではない。
【0018】
ペリクルフレームの寸法は特に限定されないが、EUV用ペリクルの高さが2.5mm以下に制限される場合には、EUV用のペリクルフレームの厚みはそれよりも小さくなり2.5mm未満であることが好ましい。特に、EUV用のペリクルフレームの厚みは、ペリクル膜やフォトマスク用粘着剤等の厚みを勘案すると、1.5mm以下であることが好ましい。また、上記ペリクルフレームの厚みの下限値は1.0mm以上であることが好ましい。
【0019】
本発明のペリクルフレームは、ペリクルフレーム本体と、該ペリクルフレーム本体を被覆する絶縁層とを有する。
【0020】
図1(A)は、本発明のペリクルフレーム1の一例を示し、符号11はペリクルフレームの内側面、符号12はペリクルフレームの外側面、符号13はペリクルフレームの上端面、符号14はペリクルフレームの下端面を示す。上記ペリクルフレーム1は、
図1(B)に示すように、基材である枠状のペリクルフレーム本体1aと、該ペリクルフレーム本体を被覆する絶縁層1bとを有する。なお、特に図示してはいないが、上記ペリクルフレーム1には、上端側又は下端が開放された切り欠き部や貫通孔を1個又は複数個設けることができる。また、ペリクルフレーム1の長辺側にはペリクルをフォトマスクから剥離するために用いられる治具穴も設けることができるが、
図1では特に図示していない。
【0021】
図2は、ペリクル10を示すものであり、ペリクルフレーム1の上端面には粘着剤又は接着剤4によりペリクル膜2が接着又は粘着されると共に張設されている。また、ペリクルフレーム1の下端面には、粘着剤又は接着剤5によりフォトマスク3に剥離可能に接着又は粘着されており、フォトマスク3上のパターン面を保護している。
【0022】
ペリクルフレーム本体の材質はペリクルフレームの基材となる。このペリクルフレーム本体の材質としては、特に制限はなく公知のものを使用することができる。EUV用のペリクルフレームでは、高温にさらされる可能性があるため、熱膨張係数の小さな材料が好ましい。例えば、Si、SiO2、SiN、石英、インバー、チタン、チタン合金、アルミニウム、アルミニウム合金等が挙げられる。中でも、加工容易性や軽量なことから金属製であることが好ましく、チタン、チタン合金、アルミニウム及びアルミニウム合金からなる群から選ばれることがより好ましい。また、低熱膨張係数の観点からは、線膨張係数が10×10-6(1/K)以下の金属であることが好ましく、チタン又はチタン合金から選ばれることがより好ましい。
【0023】
本発明における絶縁層は、ペリクルフレーム本体の表面(即ち、ペリクルフレーム本体の上端面、下端面、内側面及び外側面の任意の箇所)に形成される。この絶縁層の材質としては、体積抵抗率が108Ω・m以上であることが好適であり、より好ましくは109Ω・m以上、さらに好ましくは1010Ω・m以上である。なお、材料入手容易性の観点から、体積抵抗率の上限は1019Ω・m以下であることが好ましい。体積抵抗率が108Ω・m以上であれば、絶縁層の材質に制限はなく、公知のものを使用することができる。例えば、Si系の無機コーティング、エラストマー、セラミックスやプラスチック等が挙げられる。なかでも、EUV露光装置内には水素ラジカルが存在するので、水素ラジカルに対して分解されにくい無機材料が好ましいが、その限りではない。代表的な絶縁物質の体積抵抗率を以下に示す。括弧の数字が体積抵抗率を示す。
【0024】
絶縁層の材質としては、例えば、石英ガラス(>1016Ω・m)、シリコーンゴム(1012~1013Ω・m)、アルミナ(109~1012Ω・m)、ステアタイト(1011~1013Ω・m)、パラフィン(1013~1017Ω・m)、アクリル樹脂(>1013Ω・m)、エポキシ樹脂(1012~1013Ω・m)、ポリ塩化ビニル(5×1012~1013Ω・m)、ポリテトラフルオロエチレン(フッ素樹脂)(1015~1019Ω・m)、ナイロン(108~1013Ω・m)、ポリエチレン(>1014Ω・m)、ポリスチレン(1015~1019Ω・m)、三フッ化エチレン(1.2×1013Ω・m)及びポリイミド(1012~1013Ω・m)等の有機物質又は無機物質が例示される。
【0025】
また、絶縁層は作業性の点から、非粘着性であることが好適である。この場合、本発明における非粘着性とは実質的に粘着性を有さないことを意味する。
【0026】
ペリクルフレーム本体の表面に絶縁層を設ける方法としては、公知のものを使用することができる。一般的には、スプレー塗装、静電塗装、電着塗装、物理蒸着、化学蒸着等が挙げられる。
【0027】
ペリクルフレーム本体の表面に形成される絶縁層の厚さは、用いる材質や方法により適宜選定されるが、生産性や作業性の観点から、通常0.01~500μm、好ましくは0.1~200μmである。
【0028】
ペリクルフレーム本体の表面に絶縁層を設ける前には、予めペリクルフレームの表面処理を施すことができる。例えば、ペリクルフレーム表面に対して、必要に応じて、洗浄、ブラスト処理、化学研磨、電解研磨、陽極酸化等を施しても良い。
【0029】
また、ペリクルフレームの外側面には、通常、ハンドリングやペリクルをフォトマスクから剥離する際に用いられる冶具穴が設けられる。冶具穴の大きさは、ペリクルフレームの厚み方向の長さ(円形の場合は直径)を意味し、0.5~1.0mmであることが好ましい。治具穴の形状に制限はなく、円形や矩形であっても構わない。治具穴を設ける前に絶縁層を設けてもよいし、治具穴を設けた後に絶縁層を設けてもよい。
【0030】
また、ペリクルフレームには通気部を設けてもよく、通気部には異物の侵入を防ぐため、フィルターを設けることができる。また、ペリクルフレームは外側又は内側に向けた突起部を設けてもよい。このような突起部を用いることで、突起部にフィルターを形成することができる。また、外側に向けた突起部に露光原版との接続機構(ネジ、粘着剤等)を設けることで、フォトマスク用の粘着剤を省略することもできる。
【0031】
本発明のペリクルは、ペリクルフレームの上端面に、粘着剤又は接着剤を介して、ペリクル膜が設けられる。粘着剤や接着剤の材料に制限はなく、公知のものを使用することができる。ペリクル膜を強く保持するために、接着力の強い粘着剤又は接着剤が好ましい。
【0032】
上記ペリクル膜の材質については、特に制限はないが、露光光源の波長における透過率が高く耐光性の高いものが好ましい。例えばEUV露光に対しては、極薄シリコン膜、Si膜や炭素膜(グラフェン、ダイヤモンドライクカーボン、カーボンナノチューブ)等が用いられる。なお、ペリクル膜単独での取り扱いが難しい場合は、シリコン等の枠に支えられた状態のペリクル膜を用いることができる。その場合、例えば、枠の領域とペリクルフレームとを接着することにより、ペリクルを容易に製造することができる。
【0033】
さらに、ペリクルフレームの下端面には、フォトマスクに装着するためのフォトマスク用粘着剤が形成される。一般的に、フォトマスク用粘着剤は、ペリクルフレームの全周に亘って設けられることが好ましい。
【0034】
上記フォトマスク用粘着剤としては、公知のものを使用することができ、アクリル系粘着剤、シリコーン系粘着剤、ゴム系粘着剤等が好適に使用できる。粘着剤は必要に応じて、任意の形状に加工されてもよい。
【0035】
上記フォトマスク用粘着剤の下端面には、粘着剤を保護するための離型層(セパレータ)が貼り付けられていてもよい。離型層の材質は、特に制限されないが、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、ポリエチレン(PE)、ポリカーボネート(PC)、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリプロピレン(PP)等を使用することができる。また、必要に応じて、シリコーン系離型剤やフッ素系離型剤等の離型剤を離型層の表面に塗布してもよい。
【0036】
本発明のペリクルは、EUV露光装置内で、露光原版に異物が付着することを抑制するための保護部材としてだけでなく、露光原版の保管時や、露光原版の運搬時に露光原版を保護するための保護部材としてもよい。ペリクルをフォトマスク等の露光原版に装着し、ペリクル付露光原版を製造する方法には、前述したフォトマスク用粘着剤で貼り付ける方法のほか、静電吸着法、機械的に固定する方法等がある。
【0037】
本発明の実施形態に係る半導体又は液晶表示板の製造方法は、上記のペリクル付露光原版によって基板(半導体ウエハ又は液晶用原板)を露光する工程を備える。例えば、半導体又は液晶表示板の製造工程の一つであるリソグラフィ工程において、集積回路等に対応したフォトレジストパターンを基板上に形成するために、ステッパーに上記のペリクル付露光原版を設置して露光する。一般に、EUV露光ではEUV光が露光原版で反射して基板へ導かれる投影光学系が使用され、これらは減圧又は真空下で行われる。これにより、仮にリソグラフィ工程において異物がペリクル上に付着したとしても、フォトレジストが塗布されたウエハ上にこれらの異物は結像しないため、異物の像による集積回路等の短絡や断線等を防ぐことができる。よって、ペリクル付露光原版の使用により、リソグラフィ工程における歩留まりを向上させることができる。
【0038】
半導体等の製造に使用される露光装置には、一般的に、コンタクト露光、プロキシミティ露光、ミラー・プロジェクション露光、ステップ アンド リピート型投影露光装置、ステップ アンド スキャン型投影露光装置等が使用されている。ここで、ステップ アンド スキャン型投影露光装置において、例えば、露光原版のパターンを細いスリットでスキャンしながらウエハ上に回路パターンを転写するため、露光原版とウエハが、投影光学系の倍率に応じたスキャン速度で同期して移動することになる。この時、露光原版に貼られたペリクルも同様に移動することになる。
【0039】
本発明において、このスキャン速度を300mm/秒以上とすると、外気とペリクルとを効果的に摩擦させることができペリクルフレームを帯電させることができる。このスキャン速度は、遅い場合には大きな影響はないが、速くなる場合にはペリクル、フォトマスク、基板、露光装置の構成部品等に対する振動などの影響が大きくなり、所望しない異物の発生頻度が高まっていく。そのため、本発明のペリクルはスキャン速度が速いほど効果的であり、550mm/秒以上のスキャン速度、さらには700mm/秒以上の超高速のスキャン速度にも対応可能である。スキャン速度の上限は露光装置の性能に依存するが、一般的に2000mm/秒程度である。
【0040】
また、本発明のペリクルは、電荷により異物をトラップすることから副次的な効果としてフィルターをペリクルに設置しない構成とすることもできる。このことにより、ペリクルの構成部品を減らすことができ、コスト低減や生産性向上につながる。このことはペリクル設置空間が制限されているEUV露光装置等に使用する際に大きな利点となる。
【実施例】
【0041】
以下、実施例及び比較例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に制限されるものではない。
【0042】
[実施例1]
チタン製のペリクルフレーム本体(外寸150mm×118mm×高さ1.5mm、フレーム幅4.0mm)を作製した。このペリクルフレーム本体の各側面には、直径0.8mmの通気孔(貫通孔)を12個設けた。このペリクルフレームを純水洗浄した後、ガラスビーズを使用して吐出圧1.5kg/cm2のサンドブラスト装置にて1分間、表面処理して表面を粗化した。次に、アルカリ性の溶液に浸漬してペリクルフレーム表面をエッチングし、水洗した。純水でリンス後、アクリル樹脂からなる製品名「エレコートフロスティW-2」((株)シミズ製)を被膜厚みが5μmになるように、上記ペリクルフレーム本体の表面に対してアニオン型電着塗装を行い、絶縁層を形成した。このペリクルフレームを純水でシャワーリンスした後、200℃のオーブンにより30分間で加熱処理を行った。
【0043】
上記ペリクルフレームを中性洗剤と純水とで洗浄し、該ペリクルフレーム上端面には、シリコーン粘着剤(信越化学工業(株)製「X-40-3264」)100質量部に硬化剤(信越化学工業(株)製「PT-56」)1質量部を加えて攪拌したものをペリクルフレーム全周に亘り、幅1mm、厚み0.1mmになるよう塗布した。また、ペリクルフレームの下端面には、フォトマスク用粘着剤として、アクリル粘着剤(綜研化学(株)製「SKダイン1499M」)100質量部に硬化剤(綜研化学(株)製「L-45」)0.1質量部を加えて攪拌した材料を、ペリクルフレームの全周に亘り、幅1mm、厚み0.1mmになるよう塗布した。その後、上記ペリクルフレームを100℃で12時間加熱して、上下端面の粘着剤をそれぞれ硬化させた。続いて、ペリクル膜として極薄シリコン膜を、フレームの上端面に形成した粘着剤に圧着させて、ペリクルを完成させた。
【0044】
[実施例2]
チタン製のペリクルフレーム本体(外寸150mm×118mm×高さ1.5mm、フレーム幅4.0mm)を作製した。このペリクルフレーム本体の各側面には、直径0.8mmの通気孔(貫通孔)を12個設けた。真空蒸着装置を用いて、ガス種として、モノシランと酸素(SiH4/O2)とを用いて、1Paの圧力で真空蒸着を行い、上記ペリクルフレーム本体の表面に、絶縁層として二酸化ケイ素(SiO2)被膜を厚み10μmになるように形成した。このペリクルフレームを用いて実施例1と同様に、ペリクルフレームの上端面にペリクル膜を有するペリクルを作製した。
【0045】
[実施例3]
チタン製のペリクルフレーム本体(外寸150mm×118mm×高さ1.5mm、フレーム幅4.0mm)を作製した。このフレーム本体の各側面に直径0.8mm通気孔(貫通孔)を12個設けた。真空蒸着装置を用いて、アルミニウムを蒸発させ、酸素ガスを供給し、1×10-2Paの圧力で真空蒸着を行い、上記ペリクルフレーム本体の表面に、絶縁層としてアルミナ被膜厚みが0.1μmになるように形成した。このペリクルフレームを用いて実施例1と同様に、ペリクルフレームの上端面にペリクル膜を有するペリクルを作製した。
【0046】
[比較例1]
チタン製のペリクルフレーム本体に対して、アクリル樹脂のコーティングを施していない以外は、実施例1と同じようにペリクルを完成させた。
【0047】
[異物テスト]
ペリクルフレームとペリクル膜とを組み立てる前に、実施例1、2及び比較例1のペリクルフレームについて、暗室でフレーム内壁面に集光を当てることで異物検査を実施し、ペリクルフレーム内壁面に異物が5~10個付着しているペリクルフレームを選定した。クラス1のクリーンルームにて、異物の付着の無いペリクル膜を、上記ペリクルフレームに組み立てて、ペリクルを完成させた。上記ペリクルを、中性洗剤および純水で十分に洗浄した6インチ角の石英製のフォトマスクに貼り付けた。
続いて、上記のフォトマスク付ペリクルを真空チャンバーに入れ、大気圧から1Paまで5分間かけて減圧し、その後、5分間かけて大気圧へ戻した。その後、ペリクル膜に付着した異物の有無について、暗室でペリクル膜に集光を当てることで確認した。
【0048】
【0049】
上記表1の結果から、実施例1~3では異物が確認されなかったが、比較例1では3個の異物を確認した。この結果により、本発明である各実施例は、ペリクルフレーム内壁から異物の落下を防ぐペリクルを提供できることが分かる。
【符号の説明】
【0050】
1 ペリクルフレーム
1a ペリクルフレーム本体
1b 絶縁層
2 ペリクル膜
3 フォトマスク
4 ペリクル膜用粘着剤又は接着剤
5 フォトマスク用粘着剤又は接着剤
10 ペリクル
11 ペリクルフレームの内側面
12 ペリクルフレームの外側面
13 ペリクルフレームの上端面
14 ペリクルフレームの下端面