(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-04
(45)【発行日】2024-03-12
(54)【発明の名称】正極合剤層、導電助剤、正極合剤およびリチウムイオン二次電池
(51)【国際特許分類】
H01M 4/62 20060101AFI20240305BHJP
H01M 4/36 20060101ALI20240305BHJP
H01M 4/139 20100101ALI20240305BHJP
H01M 4/13 20100101ALI20240305BHJP
H01M 4/136 20100101ALI20240305BHJP
H01M 4/131 20100101ALI20240305BHJP
H01M 4/58 20100101ALI20240305BHJP
H01M 4/505 20100101ALI20240305BHJP
H01M 4/525 20100101ALI20240305BHJP
H01M 10/0566 20100101ALI20240305BHJP
H01M 10/052 20100101ALI20240305BHJP
【FI】
H01M4/62 Z
H01M4/36 C
H01M4/139
H01M4/13
H01M4/136
H01M4/131
H01M4/58
H01M4/505
H01M4/525
H01M10/0566
H01M10/052
(21)【出願番号】P 2023562435
(86)(22)【出願日】2022-11-22
(86)【国際出願番号】 JP2022043115
(87)【国際公開番号】W WO2023090453
(87)【国際公開日】2023-05-25
【審査請求日】2023-12-05
(31)【優先権主張番号】P 2021189675
(32)【優先日】2021-11-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000004455
【氏名又は名称】株式会社レゾナック
(74)【代理人】
【識別番号】110001070
【氏名又は名称】弁理士法人エスエス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】原田 大輔
(72)【発明者】
【氏名】井上 浩文
(72)【発明者】
【氏名】香野 大輔
(72)【発明者】
【氏名】利根川 明央
【審査官】小森 重樹
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-097961(JP,A)
【文献】国際公開第2020/105729(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2013/0248772(US,A1)
【文献】特表2018-523902(JP,A)
【文献】特開2014-177722(JP,A)
【文献】特開2014-012902(JP,A)
【文献】特表2015-519699(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2010/0136431(US,A1)
【文献】特開2021-121983(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M4/00-4/62
H01M10/05-10/0587
H01M10/36-10/39
(57)【特許請求の範囲】
【請求項14】
正極、負極、セパレータ、電解液およびセルの外装材を備え、前記正極が請求項13に記載のリチウムイオン二次電池用正極である、リチウムイオン二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオン二次電池における正極合剤層の分野、および電極合剤層に含まれる導電助剤の分野に属する。
【背景技術】
【0002】
電池においては通常、活物質に電子伝導性がない場合、少ない場合に、電極合剤層に導電助剤が添加され、電極合剤層全体に電子伝導性を付与する。このような導電助剤には、カーボンブラック、黒鉛、カーボンナノチューブなどの炭素粉が用いられてきた。
【0003】
近年、リチウムイオン二次電池は車載用途での使用量が急速に増え、高エネルギー密度化、すなわち高容量化および高電圧化、寒冷地や温暖地での使用を見据えた低温および高温での容量やレート特性、保存特性の向上、そしてサイクル特性の向上が求められている。これらの要求にこたえるため、導電助剤にも様々な工夫が凝らされている。
【0004】
特許文献1(特許第5497220号公報)には、5nm以上40nm以下の繊維径を有するものの割合が99数%以上である多層カーボンナノチューブと、一次粒子径が20nm以上100nm以下のカーボン粒子と、50nm以上300nm以下の繊維径を有するものの割合が99数%以上である黒鉛化カーボンナノファイバーと、を含む複合炭素繊維であって、前記黒鉛化カーボンナノファイバーおよびカーボン粒子間に前記多層カーボンナノチューブが均質に分散している複合炭素繊維が開示されている。
【0005】
特許文献2(特表2021-524129号公報)には、電気化学的活物質が、リチウム化リン酸鉄粒子(LiFePO4)を含み、集電体として働く第1の導電性材料として
気相成長炭素繊維(VGCF)を含む自立型電極、および、第2の導電性材料が、アセチレンブラック、炭素繊維、カーボンナノチューブおよびこれらのうちの少なくとも2つの組合せから選択される自立型電極が開示されている。
【0006】
特許文献3(特開2016-48698号公報)には、直径が0.5~10nmであり、長さが10μm以上であるカーボンナノチューブ(CNT)が水分散されたリチウムイオン二次電池正極用導電剤と正極活物質を含む正極材料と、バインダを含むリチウムイオン二次電池用正極合剤が開示されている。特許文献3ではCNTとアセチレンブラック(AB)の組み合わせを導電助剤とした実施例も開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特許第5497220号公報
【文献】特表2021-524129号公報
【文献】特開2016-48698号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明では、常温および低温でのレート特性が高く、かつ低温での内部抵抗(DCR)が低いリチウムイオン二次電池、およびこのようなリチウムイオン二次電池の製造に用いることのできる導電助剤、正極合剤、正極合剤層などを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、カーボンブラックおよび所定の2種のカーボンナノチューブを含む導電助剤により上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成させた。
【0010】
本発明は、例えば以下の[1]~[14]に関する。
【0011】
[1]
リチウムイオン二次電池用正極合剤層であって、
正極活物質と、バインダーと、導電助剤とを含み、
前記導電助剤は、カーボンブラック、平均繊維径が80~400nmのカーボンナノチューブ1、および平均繊維径が0.4~3.0nmのカーボンナノチューブ2を含み、
前記導電助剤における前記カーボンブラック、前記カーボンナノチューブ1および前記カーボンナノチューブ2の含有率が、それぞれ40~80質量%、10~50質量%および1~30質量%であり、
前記正極合剤層における前記導電助剤の含有率が0.1~5.0質量%である、
リチウムイオン二次電池用正極合剤層。
【0012】
[2]
前記カーボンナノチューブ2が単層カーボンナノチューブである、前記[1]のリチウムイオン二次電池用正極合剤層。
【0013】
[3]
前記カーボンナノチューブ1の平均繊維長が2~20μmである、前記[1]または[2]のリチウムイオン二次電池用正極合剤層。
【0014】
[4]
前記カーボンナノチューブ2の平均繊維長が5μm以上である、前記[1]~[3]のいずれかのリチウムイオン二次電池用正極合剤層。
【0015】
[5]
前記カーボンブラックがアセチレンブラックである、前記[1]~[4]のいずれかのリチウムイオン二次電池用正極合剤層。
【0016】
[6]
前記カーボンブラックの一次粒子の、個数基準の累積粒度分布の50%粒子径Dnc50が3~100nmである、前記[1]~[5]のいずれかのリチウムイオン二次電池用正極合剤層。
【0017】
[7]
前記正極活物質が、LiMPO4(Mは、Fe、Mn、NiおよびCoからなる群から
選ばれる少なくとも1種の元素である。)、LiXO2(Xは、Ni、Mn、Coおよび
Alから選ばれる少なくとも1種の元素である。)およびLiZ2O4(Zは、NiおよびMnからなる群から選ばれる少なくとも1種の元素である。)からなる群から選択される少なくとも1種の化合物を含む、前記[1]~[6]のいずれかのリチウムイオン二次電池用正極合剤層。
【0018】
[8]
前記正極活物質が炭素被覆されたLiFePO4である前記[7]のリチウムイオン二
次電池用正極合剤層。
【0019】
[9]
前記正極活物質の個数基準の累積粒度分布における50%粒子径DnA50が0.1~20.0μmである、前記[1]~[8]のいずれかのリチウムイオン二次電池用正極合剤層。
【0020】
[10]
リチウムイオン二次電池用電極合剤に用いられる導電助剤であって、
カーボンブラックと、平均繊維径が80~400nmのカーボンナノチューブ1と、平均繊維径が0.4~3.0nmのカーボンナノチューブ2とを含み、
前記カーボンブラックの含有率が40~80質量%であり、
前記カーボンナノチューブ1の含有率が10~50質量%であり、
前記カーボンナノチューブ2の含有率が1~30質量%である
導電助剤。
【0021】
[11]
リチウムイオン二次電池用正極合剤であって、
正極活物質と、バインダーと、導電助剤とを含み、
前記導電助剤が前記[10]の導電助剤であり、
前記導電助剤の含有率が0.1~5.0質量%である
正極合剤。
【0022】
[12]
前記[11]の正極合剤および溶媒を含むリチウムイオン二次電池用正極合剤層形成用塗料。
【0023】
[13]
集電体および正極合剤層を備え、前記正極合剤層が前記[1]~[9]のいずれかのリチウムイオン二次電池用正極合剤層であるリチウムイオン二次電池用正極。
【0024】
[14]
正極、負極、セパレータ、電解液およびセルの外装材を備え、前記正極が前記[13]のリチウムイオン二次電池用正極である、リチウムイオン二次電池。
【発明の効果】
【0025】
本発明の導電助剤、正極合剤、または正極合剤層を用いることにより、常温および低温でのレート特性が高く、かつ低温での内部抵抗(DCR)が低いリチウムイオン二次電池を提供できる。また、低温での容量維持率を高めることにより、リチウムイオン二次電池の低温でのエネルギー密度を高めることができる。
【発明を実施するための形態】
【0026】
[正極合剤層、導電助剤等]
本発明に係るリチウムイオン二次電池用正極合剤層は、
正極活物質と、バインダーと、導電助剤とを含み、
前記導電助剤は、カーボンブラック、平均繊維径が80~400nmのカーボンナノチューブ1、および平均繊維径が0.4~3.0nmのカーボンナノチューブ2を含み、
前記導電助剤における前記カーボンブラック、前記カーボンナノチューブ1および前記カーボンナノチューブ2の含有率が、それぞれ40~80質量%、10~50質量%および1~30質量%であり、
前記正極合剤層における前記導電助剤の含有率が0.1~5.0質量%である
ことを特徴としている。
【0027】
本発明に係る導電助剤は、
リチウムイオン二次電池用電極合剤に用いられる導電助剤であって、
カーボンブラックと、平均繊維径が80~400nmのカーボンナノチューブ1と、平均繊維径が0.4~3.0nmのカーボンナノチューブ2とを含み、
前記カーボンブラックの含有率が40~80質量%であり、
前記カーボンナノチューブ1の含有率が10~50質量%であり、
前記カーボンナノチューブ2の含有率が1~30質量%である
ことを特徴としている。
【0028】
また、本発明に係る正極合剤は、
正極活物質と、バインダーと、導電助剤とを含み、
前記導電助剤が本発明に係る導電助剤であり、
前記導電助剤の含有率が0.1~5.0質量%である
ことを特徴としている。
【0029】
前記導電助剤は、正極合剤層において活物質粒子間および活物質粒子内の少なくとも一方の電子伝導を補助する。
【0030】
(カーボンブラック)
本発明に係る正極合剤層等は、カーボンブラックを含む。カーボンブラックは特に限定されないが、BET比表面積が20~300m2/g、好ましくは30~150m2/g、より好ましくは40~70m2/g、DBP吸油量が100~400mL/100g、好
ましくは120~300mL/100g、より好ましくは130~250mL/100gのものを好適に用いることができる。
【0031】
前記カーボンブラックの一次粒子の個数基準の累積粒度分布における50%粒子径Dnc
50は、好ましくは3~100nm、より好ましくは10~60nm、さらに好ましくは20~50nmである。Dnc50の測定方法の詳細は実施例の項で述べる。
【0032】
このようなカーボンブラックは、前記導電助剤を正極合剤層に用いた際に、正極活物質の粒子間に存在して電子伝導経路を形成し、また電解液を保持することができる。不純物が少ないという観点から、カーボンブラックはアセチレンブラックであることがより好ましい。
【0033】
のちに、カーボンブラックを「CB」と表記することがある。
【0034】
(カーボンナノチューブ1)
本発明に係る正極合剤層等は、カーボンナノチューブ1を含む。カーボンナノチューブ1の平均繊維径は80nm以上である。平均繊維径が80nm以上であることにより、カーボンナノチューブ1は大きなせん断力や圧縮力を掛けなくても正極用スラリー中に容易に分散させることができる。この観点から、カーボンナノチューブ1の平均繊維径は、好ましくは100nm以上であり、より好ましくは120nm以上である。
【0035】
のちに、カーボンナノチューブ1を「CNT1」と表記することがある。
【0036】
カーボンナノチューブ1の平均繊維径は400nm以下である。平均繊維径が400nm以下であることにより、前記導電助剤を電極合剤層、特に正極合剤層に用いた際に、少量の添加量で電極合剤層、特に正極合剤層に十分な電子伝導性を付与することができる。この観点から、カーボンナノチューブ1の平均繊維径は、好ましくは300nm以下であり、より好ましくは200nm以下である。
【0037】
カーボンナノチューブ1の平均繊維長は、好ましくは2μm以上である。このようなサイズを持つことにより、前記導電助剤を電極合剤層、特に正極合剤層に用いた際に、カーボンナノチューブ1は、活物質間の長距離にわたる電子伝導経路を提供することができる。また、カーボンナノチューブ1を伝って電解液がカーボンナノチューブ1に接触している活物質に供給されるため、各活物質表面へのリチウムイオンの供給が促進され、電池における抵抗を下げることができる。この観点から、カーボンナノチューブ1の平均繊維長は、より好ましくは3μm以上であり、さらに好ましくは4μm以上である。
【0038】
カーボンナノチューブ1の平均繊維長は、より好ましくは20μm以下である。平均繊維長が20μm以下であることにより、前記導電助剤を電極合剤層、特に正極合剤層に用いた際に、電極密度を高くすることができる。この観点から、カーボンナノチューブ1の平均繊維長は、より好ましくは15μm以下であり、さらに好ましくは10μm以下である。
【0039】
カーボンナノチューブ1の上述の平均繊維径および平均繊維長は、走査型電子顕微鏡(SEM)像から、画像認識ソフトを用いて計測し、平均することで求められるものであり、測定方法の詳細は実施例の項で述べる。
【0040】
(カーボンナノチューブ2)
本発明に係る正極合剤層等は、カーボンナノチューブ2を含む。カーボンナノチューブ2の平均繊維径は0.4nm以上である。平均繊維径が0.4nm以上であることにより、カーボンナノチューブ2は強靭な繊維の形状を維持することができる。この観点から、カーボンナノチューブ2の平均繊維径は、好ましくは0.7nm以上であり、より好ましくは1.0nm以上である。
【0041】
のちに、カーボンナノチューブ2を「CNT2」と表記することがある。
【0042】
カーボンナノチューブ2の平均繊維径は3.0nm以下である。平均繊維径が3.0nm以下であることにより、カーボンナノチューブ2は柔軟性を持ち、前記導電助剤を電極合剤層、特に正極合剤層に用いた際に、電極活性物質、特に正極活物質の表面を被覆することができる。この観点から、カーボンナノチューブ2の平均繊維径は、好ましくは2.5nm以下であり、より好ましくは2.0nm以下である。カーボンナノチューブ2は単層カーボンナノチューブ(以下「SWCNT」と表記することがある。)であることがさらに好ましい。
【0043】
カーボンナノチューブ2の平均繊維長は、好ましくは5μm以上である。平均繊維長が5μm以上であることにより、前記導電助剤を電極合剤層、特に正極合剤層に用いた際に、カーボンナノチューブ2が電極活物質粒子、特に正極活物質粒子に絡みつくことができるからである。この観点から、カーボンナノチューブ2の平均繊維長は、より好ましくは10μm以上であり、さらに好ましくは20μm以上である。カーボンナノチューブ2の平均繊維長は、例えば30000μm以下であってもよい。
【0044】
カーボンナノチューブ2の上述の平均繊維径および平均繊維長は、走査型電子顕微鏡(SEM)像から、画像認識ソフトを用いて計測し、平均することで求められるものであり、測定方法の詳細は実施例の項で述べる。
【0045】
(カーボンブラックの含有率)
前記導電助剤における前記カーボンブラックの含有率は40~80質量%である。含有率が40質量%以上であることにより、前記導電助剤を電極合剤層、特に正極合剤層に用いた際に、電解液を十分に保持することができる。この観点から、前記カーボンブラックの含有率は、好ましくは50質量%以上であり、より好ましくは60質量%以上である。また、前記含有率は80質量%以下であることにより、他の導電助剤による電子伝導経路を増やすことができるので、レート特性を向上させることができる。この観点から、前記カーボンブラックの含有率は、好ましくは75質量%以下であり、より好ましくは70質量%以下である。
【0046】
(カーボンナノチューブ1の含有率)
前記導電助剤における前記カーボンナノチューブ1の含有率は10~50質量%である。含有率が10質量%以上であることにより、前記導電助剤を用いた電極合剤層、特に正極合剤層は電解液給液能に優れる。この観点から、前記カーボンナノチューブ1の含有率は、好ましくは20質量%以上であり、より好ましくは30質量%以上である。また、前記カーボンナノチューブ1の含有率が50質量%以下であることにより、前記導電助剤を電極合剤層、特に正極合剤層に用いた際に、他の導電助剤による電子伝導経路を増やすことができるので、レート特性を向上させることができる。この観点から、前記含有率は、好ましくは45質量%以下であり、より好ましくは40質量%以下である。
【0047】
(カーボンナノチューブ2の含有率)
前記導電助剤における前記カーボンナノチューブ2の含有率は1~30質量%である。含有率が1質量%以上であることにより、前記導電助剤を電極合剤層、特に正極合剤層に用いた際に、正極活物質表面の電子伝導経路を増やすことができる。この観点から、前記カーボンナノチューブ1の含有率は、好ましくは5質量%以上であり、より好ましくは10質量%以上である。また、前記カーボンナノチューブ2の含有率が30質量%以下であることにより、前記導電助剤を電極合剤層、特に正極合剤層に用いた際に、他の導電助剤による電子伝導経路を増やすことができるので、レート特性を向上させることができる。この観点から、前記含有率は、好ましくは25質量%以下であり、より好ましくは20質量%以下である。
【0048】
(任意のカーボンナノチューブ)
本発明に係る正極合剤層等は、本発明の効果を損なわない範囲で、カーボンナノチューブ1およびカーボンナノチューブ2以外のカーボンナノチューブ(以下「任意のカーボンナノチューブ」と表記することがある。)を含んでいてもよい。
【0049】
任意のカーボンナノチューブの平均繊維径は、例えば3.0nmを超えて80nm未満、好ましくは5.0nm~70nm、より好ましくは5.0nm~60nmであり、平均繊維長は、例えば1~300μm、好ましくは2~100μm、より好ましくは3~50μmである。これらの値は、カーボンナノチューブ1およびカーボンナノチューブ2のこれらの値と同様に求められる。
【0050】
前記導電助剤における前記任意のカーボンナノチューブの含有率は、例えば30質量%以下である。
【0051】
(正極活物質)
本発明に係る正極合剤層等は、正極活物質を含む。正極活物質は、好ましくはLiMPO4(Mは、Fe、Mn、NiおよびCoからなる群から選ばれる少なくとも1種の元素
である。)、LiXO2(Xは、Ni、Mn、CoおよびAlから選ばれる少なくとも1
種の元素である。)およびLiZ2O4(Zは、NiおよびMnからなる群から選ばれる少なくとも1種の元素である。)からなる群から選択される少なくとも1種の化合物を含む。正極活物質は、より好ましくは、炭素被覆されたLiMPO4(Mは、Fe、Mn、N
iおよびCoからなる群から選ばれる少なくとも1種の元素である。)であり、さらに好ましくは、炭素被覆されたLiFePO4である。
【0052】
前記正極活物質の個数基準の累積粒度分布における50%粒子径DnA50は、好ましくは0.1~20.0μmである。DnA50の測定方法の詳細は実施例の項で述べる。前記DnA
50がこのような範囲であることにより、後述するカーボンブラック、カーボンナノチューブ1、そしてカーボンナノチューブ2とサイズのマッチした、正極合剤層に電子伝導性を付与するのに都合のよい複合体を形成することができる。このような観点から、前記DnA
50は、より好ましくは0.5~15.0μmであり、さらに好ましくは1.0μm~10.0μmである。
【0053】
また、前記正極活物質の体積基準の累積粒度分布における50%粒子径DV50は、好ま
しくは0.1~20.0μmである。DV50の測定方法の詳細は実施例の項で述べる。前
記DV50がこのような範囲であることにより、後述するカーボンブラック、カーボンナノ
チューブ1、そしてカーボンナノチューブ2とサイズのマッチした、正極合剤層に電子伝導性を付与するのに都合のよい複合体を形成することができる。このような観点から、前記DV50は、より好ましくは0.5~15.0μmであり、さらに好ましくは1.0μm
~10.0μmである。
【0054】
正極活物質の粒子は、造粒されたものであってもよい。このとき、1次粒子径は好ましくは0.1μm~1.0μm、より好ましくは0.2μm~0.9μm、さらに好ましくは0.3μm~0.8μmである。
【0055】
前記正極合剤層または前記正極合剤における正極活物質の含有率は、好ましくは80.0~99.0質量%である。含有率が80.0質量%以上であることにより、正極が十分に高い容量を持つことができるため、エネルギー密度の高い電池を得ることができる。この観点から、前記含有率は、より好ましくは90.0質量%以上であり、さらに好ましくは95.0質量%以上である。また、前記含有率は99.0質量%以下であることにより、正極合剤層に電子伝導性を十分に付与することができる。この観点から、前記含有率は、より好ましくは98.0質量%以下であり、さらに好ましくは97.0質量%以下である。
【0056】
(バインダー)
本発明に係る正極合剤層等は、バインダーを含む。バインダーとしては特に制限はなく、通常リチウムイオン二次電池において用いられる正極用バインダーを用いることができる。例えば、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)等を挙げることができる。
【0057】
前記正極合剤層または前記正極合剤におけるバインダーの含有率は、好ましくは1.0~5.0質量%である。含有率が1.0質量%以上であることにより、正極合剤層から粉落ちが生じることなく、成形が可能となる。この観点から、前記バインダーの含有率は、より好ましくは2.0質量%以上であり、さらに好ましくは2.5質量%以上である。また、バインダーの含有率は5.0質量%以下であることにより、正極合剤層の体積抵抗率を低く保つことができる。この観点から、前記バインダーの含有率は、より好ましくは4.0質量%以下であり、さらに好ましくは3.5質量%以下である。
【0058】
(導電助剤の含有率)
前記正極合剤層または前記正極合剤における導電助剤の含有率、すなわち上述したカーボンブラック、カーボンナノチューブ1、カーボンナノチューブ2および任意のカーボンナノチューブの合計の含有率は、0.1~5.0質量%である。含有率が0.1質量%以上であることにより、正極合剤層に十分な電子伝導性を付与することができる。この観点から、前記含有率は、好ましくは0.5質量%以上であり、より好ましくは1.0質量%以上である。また、前記含有率は5.0質量%以下であることにより、正極活物質の質量比を多くすることができ、このことは電池の高エネルギー密度化につながる。
【0059】
(任意成分)
本発明に係る正極合剤層等は、本発明の効果を損なわない範囲で、上記の必須成分である、正極活物質、バインダー、導電助剤(カーボンブラック、カーボンナノチューブ1、カーボンナノチューブ2)以外の成分を含んでいてもよい。例えばある実施形態では、正極合剤層の形成に用いられるスラリー(すなわち、正極合剤層形成用塗料)を作製する際に分散剤を添加するため、正極合剤に分散剤が残存していることがある。また、正極合剤は、分散剤以外の添加剤を含んでいてもよい。
【0060】
<正極>
本発明に係る正極は、集電体および正極合剤層を有するリチウムイオン二次電池用正極であって、前記正極合剤層が本発明に係るリチウムイオン二次電池用正極合剤層であることを特徴としている。
【0061】
本発明に係る正極は、集電体上に正極合剤層を形成することにより製造することができる。集電体上に正極合剤層を形成する方法の例としては、以下の正極合剤層の製造方法が挙げられる。
【0062】
(正極合剤層の製造方法)
本発明に係る正極合剤層の製造方法は、特に制限はないが、好ましくは以下のステップを含む。
(1)上述した正極活物質、バインダー、カーボンブラック、カーボンナノチューブ1およびカーボンナノチューブ2、ならびに溶媒を混合し得られた混合物を、さらに溶媒を加えながら混練し、正極合剤および溶媒を含むリチウムイオン二次電池用正極合剤層形成用塗料(以下「正極塗工用スラリー」と表記することがある。)調製する。
(2)正極塗工用スラリーを集電体上に塗工する。
(3)塗工されたスラリーから溶媒を除去する。
(4)得られた生成物をプレスする。
【0063】
(ステップ(1):正極合剤層塗工用スラリー調製)
まず、脱泡ニーダーあるいは混練機を用いて、粘度の高い状態で溶液の一部および正極合剤の原料を混合する。これにより、正極活物質、カーボンブラック、カーボンナノチューブ1およびカーボンナノチューブ2を均一に分散させることができる。
【0064】
カーボンブラック、カーボンナノチューブ1およびカーボンナノチューブ2は、正極活物質およびバインダーと混合する前に混合してあってもよく(すなわち、前記導電助剤を調製してあってもよく)、混合してなくてもよい。
【0065】
溶媒は、バインダーに応じて適宜選択され、例えばバインダーがポリフッ化ビニリデンの場合は、溶媒としてN-メチル-2-ピロリドンが好適に用いられる。
【0066】
次いで、得られた混合物を、さらに溶媒を加えながら混練し、均一な混合状態を維持しながら、塗工しやすい粘度のスラリーを調製する。
【0067】
(ステップ(2):塗工)
ドクターブレード、塗工機などを用いて、集電体上に正極塗工用スラリーを塗工する。集電体としては、高電位において酸化溶解せず、電子伝導性のある材料であれば制限はないが、アルミニウム箔が通常は用いられる。
【0068】
(ステップ(3):溶媒除去)
正極塗工用スラリーが塗工された集電体を、例えばホットプレート、または塗工機に付属の加熱装置上に置くことで加熱し、溶媒を除去する。すなわち、正極塗工用スラリーが塗工された集電体を乾燥させる。その後真空乾燥を行い、残留した溶媒をさらに除去する。
【0069】
(ステップ(4):プレス)
電池において、電極はプレスされた状態で用いるため、上記工程で得られた製造物をロールプレスや一軸プレスでプレスし、集電体上に正極合剤層を成形する。正極合剤層の適切な密度は正極活物質の真密度によって異なるが、例えばLiFePO4であれば、通常
、2.0g/cm3以上である。プレスによりこの密度を上げることができる。
【0070】
このような方法により、集電体上に正極合剤層を形成することが、換言すると集電体と集電体上に形成された正極合剤層からなる正極を製造することができる。
【0071】
また、前記正極は、正極シート、すなわち集電体と集電体上に形成された正極合剤層とからなるシートを製造し、プレスにより正極の電極密度を調整した後に正極シートを所望の形状および大きさに切り出すことにより製造してもよい。
【0072】
[リチウムイオン二次電池]
本発明に係るリチウムイオン二次電池は、正極、負極、セパレータ、電解液およびセルの外装材を備え、前記正極が、本発明に係るリチウムイオン二次電池用正極であることを特徴としている。
【0073】
<正極>
前記正極の詳細は上述のとおりである。
【0074】
<負極>
前記負極は、負極合剤層と集電体とからなる。負極合剤層およびこれを形成する負極合剤は、負極活物質と、バインダーと、任意成分としての導電助剤とを含む。
【0075】
(負極活物質)
前記負極活物質としては、特に制限はなく、通常のリチウムイオン二次電池において使用される負極活物質を好適に用いることができる。負極活物質の例としては、黒鉛、ハードカーボン、シリコンと炭素の複合化物、チタン酸リチウムLi4Ti5O12(LTO)等が挙げられる。負極活物質は2種以上を混合して用いてもよい。また、負極活物質の表面は非晶質炭素でコーティングされていてもよい。
【0076】
(バインダー)
負極合剤に含まれるバインダーとしては特に制限はなく、通常のリチウムイオン二次電池において使用されるバインダーを好適に用いることができる。バインダーの例としては、正極合剤に含まれるバインダーと同様にPVdF、PTFEなどが挙げられるほか、スチレンブタジエンラバー(SBR)、カルボキシメチルセルロース(CMC)、ポリアクリル酸(PAA)などが挙げられる。
【0077】
(導電助剤)
負極合剤に含まれる導電助剤としては特に制限はなく、上述した本発明に係る導電助剤、または通常のリチウムイオン二次電池において使用される導電助剤を好適に用いることができる。導電助剤の例としては、カーボンブラック、繊維状炭素、またはそれらの複合化物あるいは混合物が挙げられる。他にも、グラフェンや黒鉛粒子など、他の炭素材料も挙げられる。黒鉛などの炭素材料を負極活物質として用いる場合は、導電助剤は必須成分ではなく、必要に応じて添加すればよい。導電助剤は上記の2種以上を混合して用いることができる。
【0078】
<負極合剤、負極合剤層および負極>
上記の負極活物質とバインダー、任意成分として導電助剤を混合して、負極合剤を製造することができる。負極合剤層および負極(負極シート)の製造方法は、正極合剤に替えて負極合剤が用いられることの他は、正極合剤層および正極(正極シート)の製造方法と概ね同様である。負極用の集電体としては銅箔が通常は用いられること、負極における負極合剤層の密度は通常は1.4g/cm3以上であることが、正極の場合と異なる点であ
る。
【0079】
<電解液>
電解液としては特に制限はなく、通常のリチウムイオン二次電池において用いられている電解液を好適に用いることができる。すなわち、1M程度のリチウム塩が溶解した有機溶媒が通常用いられる。
【0080】
リチウム塩としてはLiPF6、LiBF4、LiClO4、LiAsF6、LiFSIなどが挙げられる。
【0081】
有機溶媒としては、エチレンカーボネート(EC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、ジメチルカーボネート(DEC)、ジエチルカーボネート(DEC)、プロピレンカーボネート(PC)等が挙げられる。有機溶媒はここに挙げたものおよびそれ以外を適宜選択して混合して用いてよい。
【0082】
また、電解液は、添加剤を含んでいてもよい。添加剤としては、ビニレンカーボネート(VC)、プロパンスルトン(PS)、フルオロエチレンカーボネート(FEC)が挙げられる。電解液における添加剤の含有率は、電解液100質量%に対して、好ましくは0.01~20質量%である。
【0083】
また、溶媒を含まないカチオンとアニオンのみからなるイオン液体も、リチウムイオン二次電池の電解液となりうる。イオン液体の例としては、イミダゾリウムカチオン、ピロリジニウムカチオン、ピペリニジウムカチオン、アンモニウムカチオンといったカチオンと、ビス(トリフルオロメタン)スルホンアミドアニオンといったアニオン等が挙げられるがこれらに限定されない。
【0084】
<セパレータ>
セパレータとしては、一般的なリチウムイオン二次電池において用いることのできるものから、その組み合わせも含めて自由に選択することができ、例えばポリエチレンあるいはポリプロピレン製の微多孔フィルム等が挙げられる。またこのようなセパレータに、SiO2やAl2O3などの粒子をフィラーとして混ぜたものや、これらの粒子を表面に付着
させたセパレータも用いることができる。
【0085】
<セルの外装材>
セルの外装材、すなわち電池ケースとしては、正極、負極、セパレータおよび電解液を収容できるものであれば、とくに制限されない。通常市販されている電池パックや18650型の円筒型セル、コイン型セル等、業界において規格化されているもののほか、アルミ包材でパックされた形態のもの等、自由に設計して用いることができる。
【0086】
各電極は積層したうえでパックして用いることができる。また、単セルを直列につなぎ、バッテリーやモジュールとして用いることができる。
【実施例】
【0087】
以下に実施例および比較例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。材料物性の測定および電池特性の評価は下記のように行った。
【0088】
[1]材料特性の評価
[1-1]正極活物質の50%粒子径DV50
正極活物質を極小型スパーテル1杯分、および、非イオン性界面活性剤(サラヤ株式会社製、ヤシノミ洗剤ハイパワー)原液(32質量%)の100倍希釈液2滴を水15mLに添加し、3分間超音波分散させた。この分散液をセイシン企業社製レーザー回折式粒度分布測定器(LMS-2000e)に投入し、体積基準累積粒度分布を測定し、50%粒子径DV50を決定した。
【0089】
[1-2]カーボンナノチューブの平均繊維径および平均繊維長、カーボンブラックの一次粒子の50%粒子径Dnc50、ならびに正極活物質の50%粒子径DnA50(SEMによる画像解析)
SEM試料台にカーボンテープを貼り、その上に切り抜いた電極を固定し、観察を実施した。電極は日本電子(株)製クロスセクションポリッシャを用いて断面加工した。カーボンナノチューブのうち後述するCNT2およびCNT3については、NMPなどの溶媒を用いて正極から正極合剤層を分離させ、分離した正極合剤層を含む溶液を超音波にかけて正極合剤を分散させた。スポイトを用いて、得られた正極合剤分散溶液を1滴、SEM試料台(Alおよび真鍮製など)に垂らし、真空下、120℃で1時間かけて乾燥させ、SEM観察用試料を作製した。
【0090】
具体的は以下の方法で観察および測定・解析を行った。
【0091】
SEM:走査型電子顕微鏡装置:Regulus(登録商標)8220(株式会社日立ハイテク製)
加速電圧:1~3kV
焦点距離:1.5~4.0mm
観察モード:SE+BSE(U)
観察倍率:5,000~100,000倍(目的とする対象が明確に確認できる倍率)
(カーボンナノチューブの平均繊維径)
カーボンナノチューブ1本の幅が視野に収まりきる倍率でSEM観察を行い、上記カーボンナノチューブの任意の1点の幅(Pixcel)を測定し、SEM測定時のスケールバーの値を用いて実際の長さ(単位:μm)に変換した。画像認識ソフトとしてImageJを使用した。任意に選ばれた合計100本のカーボンナノチューブについて同様の操作を行い、その数平均値をカーボンナノチューブの平均繊維径とした。ただし、複数のカーボンナノチューブが絡み合った状態のもの、また束(バンドル)状態のものは測定から除外した。ここで、カーボンナノチューブの「幅」とは、カーボンナノチューブの長さ方向と直交する方向の寸法である。
【0092】
(カーボンナノチューブの平均繊維長)
カーボンナノチューブ1本が収まりきる倍率でSEM観察を行い、上記カーボンナノチューブの長さ方向の両末端を結んだ直線の長さ(Pixcel)を測定し、SEM測定時のスケールバーの値を用いて実際の長さ(単位:μm)に変換した。なお、後述するCNT2およびCNT3の測定において、測定対象のカーボンナノチューブが1視野に収まりきらない場合は、カーボンナノチューブに沿って複数のSEM像を取得し、これらをつなげて、カーボンナノチューブを測長した。
【0093】
画像認識ソフトとしてImageJを使用した。任意に選ばれた合計100本のカーボンナノチューブについて同様の操作を行い、その数平均値をカーボンナノチューブの平均繊維長とした。ただし、いずれの繊維もほぼ直線と認識できる繊維のみを対象とし、丸まったり、大きく湾曲をしたりした繊維は測定から除外した。加えて、複数のカーボンナノチューブが絡み合った状態のもの、または束(バンドル)状態のものは1本とカウントし
、測定した。
【0094】
(カーボンブラックの一次粒子の50%粒子径Dnc50)
多数のカーボンブラックの一次粒子径を確認できる倍率でSEM観察を行い、SEM像から一次粒子100個をランダムに選び、各粒子の円相当径を測定し、その個数基準の累積粒度分布の50%粒子径をDnc50と定義した。
【0095】
(正極活物質の50%粒子径DnA50)
多数の正極活物質の二次粒子径を確認できる倍率でSEM観察を行い、SEM像から正極活物質粒子100個をランダムに選び、各粒子の最大径を測定し、その個数基準の累積粒度分布の50%粒子径をDnA50と定義した。
【0096】
[2]初回クーロン効率の評価
[2-1]容量の確認
25℃の恒温槽内で、後述する実施例または比較例で作製された電池(二極セル)を上限電圧4.2V、カットオフ電流値4.0mAとしてCC-CVモードにより8mAで充電し、下限電圧2.5VでCCモードにより8mAで放電を行った。上記操作を計4回繰り返し、4回目の放電容量を二極セルの基準容量(a)とした。いずれのセルの容量も80±4mAh以内に収まっていることを確認した。また、本試験において『1C相当の電流値』とは、1×(a)mAとした。
【0097】
[2-2]初回クーロン効率
[2-1]記載の充放電において、初回放電容量を初回充電容量で割った値を百分率で表した数値、(初回放電容量)/(初回充電容量)×100を初回クーロン効率(%)とした。
【0098】
[3]放電DCRの測定
[2-1]で基準容量(a)を求めた電池(二極セル)を用いて試験を行った。最初に、25℃の恒温槽内で充電容量が0.8(a)、すなわちSOCが80%となるように充電した。充電後、恒温槽を-20℃に設定して24時間静置したのち、0.5Cで5秒間放電した後の電圧(mV)をV0.5とした。同様に1Cで5秒間放電した後の電圧V1.0、2Cで5秒間放電した後の電圧V2.0を求めた。また、0.5Cの電流値(mA)をI0.5とし、同様に1C、2Cの電流値をI1.0、I2.0とすると、DCRは以下の最小二乗法による電流と電圧による直線の傾きから求められる。
【0099】
【0100】
ここで、IaveおよびVaveはそれぞれ、電流および電圧の平均値である。
【0101】
[4]Cレート放電容量維持率
[2-1]で基準容量(a)を求めた電池(二極セル)を用いて試験を行った。充電は25℃の恒温槽内でOCVから上限電圧を4.2Vとして0.2CでCCモード充電を行ったのち、CVモードで、カットオフ0.05Cで充電を行った。
【0102】
放電は下限電圧2.5Vとして、恒温槽の温度を25℃のままとし、CCモードで5.0Cの放電を行い、このときの放電容量を25℃での5Cレート放電容量(c25)とした。また、充電後恒温槽を-20℃に設定して24h静置したのち、CCモードで0.5Cの放電を行い、このときの放電容量を-20℃での0.5Cレート放電容量(c-20)とした。
【0103】
上記条件で測定したCレート放電容量(c-20)および(c25)をそれぞれ二極セルの基準容量(a)で除したものを百分率で表した値、すなわち100×(c-20)/(a)および100×(c25)/(a)をCレート放電容量維持率とした。
【0104】
[実施例1~18,比較例1~14]
(1.負極作製)
負極活物質としてDV50が6.1μmである中国製黒鉛粉末を用いた。
【0105】
バインダーとしてスチレンブタジエンゴム(SBR)およびカルボキシメチルセルロース(CMC)を用いた。具体的には、固形分40質量%のSBRを分散したSBR水分散液、およびCMC粉末を溶解した2質量%のCMC水溶液を得た。
【0106】
導電助剤として、カーボンブラック(SUPER C 45(登録商標)、イメリス・グラファイト&カーボン社製)を用いた。
【0107】
黒鉛粉末96.5質量部、導電助剤0.5質量部、CMC固形分1.5質量部相当のCMC水溶液、およびSBR固形分1.5質量部相当のSBR水分散液を混合し、これに粘度調整のための水を適量加え、自転・公転ミキサー(株式会社シンキー製)にて混練し、負極合剤層形成用スラリーを得た。スラリー濃度は45~55質量%であった。
【0108】
前記負極合剤層形成用スラリーを、集電箔である厚さ20μmの銅箔上に厚さが均一となるようにロールコーターにより均一に塗布し、ホットプレートにて乾燥後、70℃で12時間真空乾燥させて、集電箔上に負極合剤層を形成し、負極合剤層と集電箔とからなるシートを得た。
【0109】
得られた負極合剤層と集電箔からなるシートを、ロールプレスを用いて負極合剤層密度が1.5~1.6g/cm3となるように調整し、負極合剤層形成部の面積が21.84
cm2(4.2cm×5.2cm)、負極合剤層未形成部(すなわち、タブ部)が1.5
cm2(1.0cm×1.5cm)となるように打ち抜き、負極を得た。
【0110】
なお、負極合剤層の塗工厚さは、負極の放電容量Qa(mAh)と正極の放電容量Qc(mAh)との比Qa/Qcが1.2となるように調整した。
【0111】
(2.正極作製)
表1に記載された割合および種類の導電助剤、正極活物質およびバインダー(ポリフッ化ビニリデン(PVdF))を、N-メチル-2-ピロリドンを適宜加えながら撹拌・混合し、スラリー状の分散液を作製した。
【0112】
表1の正極活物質の欄の「C/LFP」とは炭素被覆されたLiFePO4(市販品(
DV50:5.7μm、DnA50:5.5μm)、市販品(DV50:18.9μm、DnA50:18.6μm)、市販品(DV50:0.7μm、DnA50:0.6μm))を指す。前記炭素
被覆における炭素の量は正極活物質の量の2.0質量%であった。また、「NMC」はLiNi0.8Mn0.1Co0.1O2(市販品 DV50:7.4μm、DnA50:7.2μm)を指
し、「LMO」はLiMn2O4(市販品 DV50:7.8μm、DnA50:7.5μm)を
指す。
【0113】
導電助剤の詳細は以下のとおりである。
【0114】
アセチレンブラック:デンカブラック(登録商標)HS-100(デンカ株式会社製
BET比表面積:39m2/g、DBP吸油量:140mL/100g、一次粒子径Dn
C50:48nm)
CNT1:気相法炭素繊維VGCF(登録商標)-H(昭和電工株式会社製)
CNT2:単層カーボンナノチューブ(触媒担持熱CVD法による合成品)
CNT3:多層カーボンナノチューブ(触媒担持熱CVD法による合成品)
得られた分散液を厚さ20μmのアルミ箔上に厚さが均一となるようにロールコーターにより塗布し、乾燥後、ロールプレスを行い、正極合剤層形成部の面積が20.00cm2(4.0cm×5.0cm)、正極合剤層未形成部(すなわち、タブ部)が1.5cm2(1.0cm×1.5cm)となるように打ち抜き、正極を得た。なお、正極の容量は80(mAh/20cm2)となるように、単極の電極の比容量(mAh/g)を確認し、
正極合剤層の塗工厚さを調整した。また、電極密度は、正極活物質がC/LFPの場合は2.1g/cm3に、NMCの場合は3.2g/cm3に、LMOの場合は3.1g/cm3に、それぞれ調整した。
【0115】
(3.二極セルの作製)
正極のアルミニウム箔にAlタブ、負極の銅箔にNiタブをとりつけた。ポリプロピレン製フィルム微多孔膜を介してこれらを対向させて積層し、アルミラミネートによりパックし、電解液として1.2mol/L LiPF6 /(EC/MEC/DMC=3/5
/2(体積比)+VC1質量%)を注液後、開口部を熱融着により封止し、電池(二極セル)を作製した。
【0116】
正極合剤層における導電助剤の含有率、導電助剤の組成、導電助剤の物性、正極活物質の物性を表1に示す。また、電池評価の結果を表2に示す。表1中、「MW」は「多層」を意味し、「SW」は単層を意味する。
【0117】
電池の評価結果に関して、2極セルの25℃での5Cレート放電容量維持率が75%以上、かつ-20℃での0.5Cレート放電容量維持率が35%以上である場合を良好な特性と決めた。
【0118】
実施例1および比較例1~3によれば、CB、CNT1、CNT2いずれかが添加されていない場合、レート特性が著しく低下する。これは導電助剤がそれぞれの電極中で果たす役割が異なるためであると考えられる。CBは電極中の電解液保持効果に、CNT1は複数の正極活物質粒子間にまたがり、長距離の電子伝導経路およびリチウムイオン拡散経路の維持に、CNT2は導電助剤同士をつなぎ、より強固な導電助剤ネットワークの形成に、それぞれ寄与すると考えられる。なお、実施例ではCNT2が単層CNTであったが、CNT2が多層CNTである場合も、実施例同様の効果が発揮されると考えられる。これらの効果は、特に正極活物質が収縮する高SOCにおいて顕著となる。
【0119】
比較例4~6によれば、CB、CNT1、CNT2のいずれかが添加されていない場合、多層カーボンナノチューブ(CNT3)が添加されてもレート特性の向上はあまり見られない。これは、例えば比較例5であれば、CNT3が、CNT2よりも短く、太く、より剛直なことから、導電助剤ネットワークの形成能力が弱いためであると推測される。
【0120】
比較例4については、CBがCNT3に置き換わっても、正極活物質表面および近接した活物質粒子間の電子伝導性に欠け、電解液の保持能についても劣るために特性が出ないものと推測される。
【0121】
比較例6についてはCNT1をCNT3に置き換えても、遠距離の活物質間の電子伝導経路は確保できないこと、また剛直さが足りず、電解液を伝わらせる効果に欠けるために、特性が劣るものと推測される。
【0122】
実施例2~7および比較例7~11より、導電助剤の添加割合には最適な範囲が存在すると言える。上記同様に導電助剤が果たす役割が異なるため、多すぎても少なすぎても効果が発揮されにくくなると考えられるためである。
【0123】
実施例8、9および比較例12、13より、CNT1には最適な平均繊維径があると言える。これはCNT1が細すぎると折れ曲がりやすくなり、長距離の電子伝導経路を形成する能力が低下するため、また太すぎると、単位重量当たりの繊維本数が低下し、添加による抵抗低減効果が得られにくくなると考えられるためである。
【0124】
比較例14より、CNT2にも最適な平均繊維径があると言える。これは、CNT2が太くなると柔軟性が低下し、導電助剤ネットワークの形成能力が低下すると考えられるためである。
【0125】
【0126】
【0127】
【産業上の利用可能性】
【0128】
本発明に係る導電助剤、正極合剤、正極合剤層などを用いて製造されるリチウムイオン二次電池は、スマートフォン、タブレットPC、携帯情報端末などの電子機器の電源;電動工具、掃除機、電動自転車、ドローン、電気自動車などの電動機の電源;燃料電池、太陽光発電、風力発電などによって得られる電力の貯蔵などに用いることができる。