(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-04
(45)【発行日】2024-03-12
(54)【発明の名称】スラリー液、スラリー液の製造方法、及び負極活物質の製造方法
(51)【国際特許分類】
H01M 4/1395 20100101AFI20240305BHJP
H01M 4/38 20060101ALI20240305BHJP
H01M 4/62 20060101ALI20240305BHJP
C01B 33/02 20060101ALI20240305BHJP
【FI】
H01M4/1395
H01M4/38 Z
H01M4/62 Z
C01B33/02 Z
(21)【出願番号】P 2023571343
(86)(22)【出願日】2023-08-17
(86)【国際出願番号】 JP2023029658
【審査請求日】2023-11-16
(31)【優先権主張番号】P 2022142870
(32)【優先日】2022-09-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000002886
【氏名又は名称】DIC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149445
【氏名又は名称】大野 孝幸
(74)【代理人】
【識別番号】100163290
【氏名又は名称】岩本 明洋
(74)【代理人】
【識別番号】100214673
【氏名又は名称】菅谷 英史
(74)【代理人】
【識別番号】100186646
【氏名又は名称】丹羽 雅裕
(72)【発明者】
【氏名】小江 信洋
(72)【発明者】
【氏名】武久 敢
(72)【発明者】
【氏名】川瀬 賢一
【審査官】渡部 朋也
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-222733(JP,A)
【文献】特開2021-114483(JP,A)
【文献】特開2019-057487(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/1395
H01M 4/38
H01M 4/62
C01B 33/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
平均粒子径(D50)30~1000nmのシリコン粒子と、ポリシロキサン-アクリル複合樹脂とが1気圧における沸点100℃以下の有機溶媒に分散しているスラリー液。
【請求項2】
前記ポリシロキサン-アクリル複合樹脂が、アクリル樹脂構造とポリシロキサン構造の間に化学的な結合を有する請求項1に記載のスラリー液。
【請求項3】
前記ポリシロキサン-アクリル複合樹脂のポリシロキサン構造とアクリル樹脂構造の重量比が99/1~30/70である請求項2に記載のスラリー液。
【請求項4】
前記ポリシロキサン-アクリル複合樹脂の含有量が、前記シリコン粒子100重量部に対して10~50重量部である請求項2に記載のスラリー液。
【請求項5】
前記有機溶媒が、ケトン系またはアルコール系のいずれかを含む請求項1または2に記載のスラリー液。
【請求項6】
前記有機溶媒の含有量が、スラリー液全量に対して、20~80重量%である請求項1または2に記載のスラリー液。
【請求項7】
平均粒子径(D50)1000nm以上であるシリコン粒子に、ポリシロキサン-アクリル複合樹脂と、有機溶媒とを加えて湿式粉砕する工程を含むスラリー液の製造方法。
【請求項8】
前記の湿式粉砕する工程の前に、水をポリシロキサン-アクリル複合樹脂固形分に対して1~10重量%投入する工程を有する請求項7に記載のスラリー液の製造方法。
【請求項9】
前記ポリシロキサン-アクリル複合樹脂のポリシロキサン構造とアクリル樹脂構造の重量比が99/1~30/70である請求項7または8に記載のスラリー液の製造方法。
【請求項10】
請求項7または8に記載のスラリー液の製造方法で得たスラリー液に、フェノール樹脂を前記シリコン粒子100重量部に対して20~50重量部添加する工程と、前記スラリー液に含まれる有機溶媒を除いた後に乾燥をして焼成する工程を含む負極活物質の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シリコン粒子と有機溶媒を含むスラリー液、当該スラリー液の製造方法、及び当該スラリー液の製造方法を含む負極活物質の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
エネルギー需要の環境対応から、電気自動車(EV)への展開が急速に進んでおり、リチウムイオン電池(LIB)の利用範囲が拡大している。LIB負極材料の主流である黒鉛では理論容量密度(372mAh/g)が低く、電池容量向上のため、珪素、錫、ならびに酸化物を用いた高容量活物質の開発が活発に行われている。しかしながら、これらの材料はリチウムイオンの吸蔵、放出に伴って体積膨張および収縮が大きいため充放電の繰り返しによって活物質が微粉化することで充放電特性が悪くなるという課題がある。
【0003】
特許文献1には、良好な容量維持率及びクーロン効率を得るための活物質として、少なくとも1つのシリコン系微粒子と、Si(ケイ素)とO(酸素)とC(炭素)とを構成元素として含有するSiOCコート層とを含み、少なくとも1つのシリコン系微粒子は、上記SiOCコート層によって被覆されており、体積基準粒度分布による平均粒子径が、1nm~999μmの範囲にある、SiOC構造体が記載されている。また、特定のシラン化合物を加水分解し、分散剤及びシリコン系微粒子の存在下で重縮合させることにより、シリコン系微粒子/シリコン含有ポリマー複合体を生成することを含む、シリコン系微粒子/シリコン含有ポリマー複合体を製造する方法が記載されている。上記分散剤としては、ポリソルベート類などの非イオン性界面活性剤が記載されており、この分散剤を用いてナノシリコンを分散した後にシリコンモノマーを加えて縮合、反応させている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明者らは、上記特許文献1について検討をしたところ、特許文献1に記載のポリソルベート類などの非イオン性界面活性剤を分散剤として用いて分散した後にポリシロキサン系樹脂を投入すると、分散状態ではポリシロキサンがシリコン粒子の一部にしか配向せず、不均一な部分が発生するため分散状態が安定せず、ナノシリコンの粒径(D50)の変化率が大きいことが分かった。このため特許文献1では、焼成後にも一部分散剤が炭化した炭素リッチな部分が発生するため、電池性能を低下させることが分かった。
【0006】
本発明の課題は、上記のようなシリコン粒子を含むスラリー液での分散状態での配向を改善して、分散性を向上させて分散安定化することである。そして、負極活物質を作製し二次電池としたときの容量維持率や初回クーロン効率といった充放電性能を高く維持できるスラリー液、スラリー液の製造方法、及び負極活物質の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、更に鋭意検討をしたところポリシロキサン-アクリル複合樹脂を用いることで上記課題を解決できることが分かった。これはポリシロキサン-アクリル複合樹脂のポリシロキサン由来のケイ素成分がシリコン粒子の近傍に配位して、分散安定性を向上させるためであると考えられる。そして、この状態で乾燥および焼成を行うと、樹脂の有機成分の多くは除去されるが、ポリシロキサン由来のSiが均一にナノシリコンを覆うことができ、これにより高い電池性能が得られる。
【0008】
本発明は、下記の態様を有する。
[1] 平均粒子径(D50)30~1000nmのシリコン粒子と、ポリシロキサン-アクリル複合樹脂と、が1気圧における沸点100℃以下の有機溶媒に分散しているスラリー液。
[2] 前記ポリシロキサン-アクリル複合樹脂が、アクリル樹脂構造とポリシロキサン構造の間に化学的な結合を有するポリシロキサン-アクリル複合樹脂である[1]に記載のスラリー液。
[3] 前記ポリシロキサン-アクリル複合樹脂のポリシロキサン構造とアクリル樹脂構造の重量比が99/1~30/70である[2]に記載のスラリー液。
[4] 前記ポリシロキサン-アクリル複合樹脂の含有量が、前記シリコン粒子100重量部に対して10~50重量部である[2]または[3]に記載のスラリー液。
[5] 前記有機溶媒が、ケトン系またはアルコール系のいずれかを含む[1]から[4]のいずれか1つに記載のスラリー液。
[6] 前記有機溶媒の含有量が、20~80重量%である[1]から[5]のいずれか1つに記載のスラリー液。
[7] 平均粒子径(D50)1000nm以上であるシリコン粒子に、ポリシロキサン-アクリル複合樹脂と、有機溶媒とを加えて湿式粉砕する工程を含むスラリー液の製造方法。
[8] 前記の湿式粉砕する工程の前に、水をポリシロキサン-アクリル複合樹脂固形分に対して1~10重量%投入する工程を有する[7]に記載のスラリー液の製造方法。
[9] 前記ポリシロキサン-アクリル複合樹脂のポリシロキサン構造とアクリル樹脂構造の重量比が99/1~30/70である[7]または[8]に記載のスラリー液の製造方法。
[10] [7]から[9]のいずれか1つに記載のスラリー液の製造方法で得たスラリー液に、フェノール樹脂を前記シリコン粒子100重量部に対して20~50重量部添加する工程と、前記スラリー液に含まれる有機溶媒を除いた後に乾燥をして焼成する工程を含む負極活物質の製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明のスラリー液は分散安定性が高く、これを用いて負極活物質を作製した二次電池における容量維持率や初回クーロン効率といった充放電性能を高く維持できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
図1は、本願実施例1のスラリー液のSEM画像を示す。
【
図2】
図2は、本願比較例1のスラリー液のSEM画像を示す。
【発明を実施するための形態】
【0011】
[スラリー液]
本発明のスラリー液は、平均粒子径(D50)30~1000nmのシリコン粒子と、ポリシロキサン-アクリル複合樹脂とが1気圧における沸点100℃以下の有機溶媒に分散している。本発明において「分散している」とは、シリコン粒子が沈降なく安定に存在している状態を示し、スラリー状態で、例えば72時間静置後のD50の変化率±3%以内となることを指標としている。
図2は、本発明ではない(本願比較例1の)スラリー液の乾燥塗膜SEM画像であるが、縞状の炭素リッチな成分が凝集しており、不均一となっている。一方、
図1は、本発明(本願実施例1)のスラリー液の乾燥塗膜SEM画像であるが、縞状の炭素リッチな部分が存在せず、シリコン粒子表面にSiが均一に配位している。
【0012】
上記ポリシロキサン-アクリル複合樹脂は、アクリル樹脂構造とポリシロキサン構造の間に化学的な結合を有するポリシロキサン-アクリル複合樹脂であることが好ましい。
上記アクリル樹脂構造は、例えばアクリル酸エステルまたはメタクリル酸エステルをモノマー単位とする重合体の構造である。
上記ポリシロキサン構造は、主に珪素元素と炭素元素を含む珪素-炭素骨格の三次元ネットワーク構造または珪素元素と炭素元素と酸素元素を含む珪素-酸素-炭素骨格の三次元ネットワーク構造である。
また、ポリシロキサン-アクリル複合樹脂は、上記のアクリル樹脂構造とポリシロキサン構造が複合的に結合して均一化された構造体である。本発明においてポリシロキサン-アクリル複合樹脂は、シリコン粒子を効果的に分散させ、分散安定化させる働きをする。
【0013】
上記ポリシロキサン-アクリル複合樹脂は、例えば、下記(1)~(3)に示す方法で製造することができる。
【0014】
(1)アクリル樹脂構造を構成する重合体セグメントの原料として、シラノール基および/または加水分解性シリル基を含有する重合体セグメントを予め調製しておき、この重合体セグメントと、シラノール基および/または加水分解性シリル基、並びにシラン化合物(ポリシロキサン構成物)とを混合し、加水分解縮合反応を行う方法。
【0015】
(2)アクリル樹脂構造を構成する重合体セグメントの原料として、シラノール基および/または加水分解性シリル基を含有する重合体セグメントを予め調製する。また、シラノール基および/または加水分解性シリル基、並びにシラン化合物を加水分解縮合反応してポリシロキサンも予め調製しておく。そして、重合体セグメントとポリシロキサン(ポリシロキサン構造)とを混合し、加水分解縮合反応を行う方法。
【0016】
(3)アクリル樹脂構造を構成する重合体セグメントの原料として、シラノール基および/または加水分解性シリル基を含有する重合体セグメントと、シラノール基および/または加水分解性シリル基、並びに重合性二重結合を併有するシラン化合物(ポリシロキサン構成物)と、ポリシロキサン(ポリシロキサン構造)とを混合し、加水分解縮合反応を行う方法。
この方法によりポリシロキサン系樹脂が得られる。上記ポリシロキサン系樹脂の市販品としては、例えばセラネート(登録商標)シリーズ(有機・無機ハイブリッド型コーティング樹脂;DIC株式会社製)やコンポセランSQシリーズ(シルセスキオキサン型ハイブリッド;荒川化学工業株式会社製)が挙げられる。
【0017】
ポリシロキサン-アクリル複合樹脂のポリシロキサン構造とアクリル樹脂構造の重量比は、例えば99/1~30/70、好ましくは95/5~40/60、より好ましくは90/10~50/50である。重量比が上記範囲であると、スラリー液とした後に最終的に得られる負極活物質には二次電池における容量維持率や初回クーロン効率といった充放電性能を高く維持できるといった優れた効果を有する。。
【0018】
上記ポリシロキサン-アクリル複合樹脂の含有量は、シリコン粒子100重量部に対して、例えば10~50重量部、好ましくは15~45重量部である。ポリシロキサン-アクリル複合樹脂の含有量は、スラリー液全量に対して、例えば2~30重量%、好ましくは4~20重量%である。また、ポリシロキサン-アクリル複合樹脂の含有量が上記範囲であると、前記スラリー液を用いて最終的に得られる負極活物質には二次電池における容量維持率や初回クーロン効率といった充放電性能を高く維持できるといった優れた効果を有する。。
【0019】
本発明のスラリー液に用いるシリコン粒子の平均粒子径(D50)は、30~1000nmであるが、好ましくは50~800nm、より好ましくは60~600nmである。粒子径(D50)が上記範囲であると、二次電池における容量維持率や初回クーロン効率といった充放電性能を高く維持できる。平均粒径(D50)は、例えばレーザー回折式粒度分布測定装置を用いて測定することができる。
【0020】
上記シリコン粒子の比表面積は、電気容量と初期(クーロン)効率の観点から、100m2/g~400m2/gが好ましく、100m2/g~300m2/gがより好ましく、100m2/g~230m2/gがさらに好ましい。比表面積は、BET法により求めた値であり、窒素ガス吸着測定により求めることができ、例えば比表面積測定装置を用いて測定することができる。
【0021】
上記シリコン粒子の形状は、粒状、針状、フレーク状のいずれでもよいが、結晶質が好ましい。シリコン粒子が結晶質の場合、X線回折においてSi(111)に帰属される回折ピークから得られる結晶子径が5nm~14nmの範囲であれば、初期クーロン効率および容量維持率の観点から好ましい。結晶子径は12nm以下が好ましく、10nm以下がより好ましい。
【0022】
上記シリコン粒子は、二次電池の負極活物質として用いるときの充放電性能の観点から、長軸方向の長さは30nm~300nmが好ましく、厚みは1nm~60nmが好ましい。二次電池の負極活物質として用いるときの充放電性能の観点から、長さに対する厚みの比である、いわゆるアスペクト比が0.5以下である針状またはフレーク状の形状が好ましい。シリコン粒子の形態は、動的光散乱法で平均粒径の測定が可能であるが、透過型電子顕微鏡(TEM)や電界放出型走査電子顕微鏡(FE-SEM)の解析手段を用いることで、アスペクト比のサンプルをより容易かつ精密に同定することができる。シリコン粒子の場合は、サンプルを集束イオンビーム(FIB)で切断して断面をFE-SEM観察することができ、またはサンプルをスライス加工してTEM観察により状態を同定することができる。なおナノ珪素のアスペクト比は、TEM画像に映る視野内のサンプルの主要部分50粒子をベースにした計算結果である。
【0023】
上記シリコン粒子は、さらに外表面に非晶質酸化膜が存在することが好ましい。非晶質酸化膜とは、アモルファス状態の酸化被膜のことであり、好ましくはシリコン(Si)の酸化被膜、特に好ましくはSiO2膜である。このような非晶質酸化膜が存在すると、シリコン粒子表面に非常に優れた破壊靭性、高温特性、耐熱衝撃性を付与でき、充放電によるSi粒子の崩壊を抑制できる。また、非晶質酸化膜の厚みは、好ましくは8nm以下、より好ましくは1nm~7nm、特に好ましくは2nm~6nmである。厚みがこの範囲であると、シリコン粒子の充放電性能を阻害することなく、充放電によるSi粒子の崩壊を抑制できる。
【0024】
上記シリコン粒子の含有量は、スラリー液全量に対して、例えば5~40重量%、好ましくは8~30重量%、より好ましくは10~20重量%である。また、ポリシロキサン-アクリル複合樹脂の含有量が上記範囲であると、二次電池における容量維持率や初回クーロン効率といった充放電性能を高く維持できる。
【0025】
本発明のスラリー液における1気圧における沸点が100℃以下の有機溶媒は、ケトン系またはアルコール系のいずれかを含むことが好ましい。ケトン系有機溶媒としては、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、ジイソブチルケトンなどが挙げられる。また、アルコール系有機溶媒としては、エタノール、メタノール、ノルマルプロピルアルコール、イソプロピルアルコールなどが挙げられる。1気圧における沸点が100℃以下であることで、溶媒除去が容易であり、エネルギー削減効果が期待できる。
【0026】
本発明のスラリー液における有機溶媒の含有量は、スラリー液全量に対して、例えば20~80重量%、好ましくは25~75重量%、より好ましくは30~70重量%である。有機溶媒の含有量が上記範囲であると、均一にシリコン粒子を分散させやすくなる。
【0027】
本発明のスラリー液は、上記のポリシロキサン系樹脂、シリコン粒子、有機溶媒以外の成分を有していてもよい。このような成分としては、例えばハイドロキノンやブチルヒドロキシトルエンなどの酸化防止剤が挙げられる。このような成分の含有量は、スラリー液全量に対して、例えば10重量%以下、好ましくは5重量%以下である。
【0028】
本発明のスラリー液は、分散安定性が良いという効果を有する。スラリーの作製直後の平均粒子径(D50)に対する72時間静置後の平均粒子径(D50)の変化率は、好ましくは5%以下、より好ましくは3%以下である。
【0029】
[スラリー液の製造方法]
本発明のスラリー液の製造方法は、平均粒子径(D50)1000nm以上であるシリコン粒子に、ポリシロキサン-アクリル複合樹脂と、有機溶媒とを加えて湿式粉砕する工程を含む。以下、「平均粒子径(D50)1000nm以上であるシリコン粒子」を「原料シリコン粒子」と称する。ポリシロキサン-アクリル複合樹脂及び有機溶媒は、上述の本発明のスラリー液にて記載したとおりである。
【0030】
原料シリコン粒子は、平均粒子径(D50)が好ましくは1500~5000nm、より好ましくは2000~4000nmである。原料シリコン粒子は、市販品を用いることができる。シリコン粒子の粉砕を促進させるために有機溶媒に上記ポリシロキサン-アクリル複合樹脂を添加する。湿式粉砕装置としてはローラーミル、高速回転粉砕機、容器駆動型ミル、ビーズミルなどが挙げられる。なお、得られたスラリー液におけるシリコン粒子の平均粒径は、上述のとおりである。この湿式粉砕を行うことでシリコン粒子が分散したスラリー液が得られる。
【0031】
上記の湿式粉砕を行う前に、水をポリシロキサン-アクリル複合樹脂固形分に対して、例えば1~10重量%(好ましくは3~8重量%)投入することが好ましい。すなわち水をポリシロキサン-アクリル複合樹脂固形分100重量部に対して、例えば1~10重量部(好ましくは3~8重量部)投入することが好ましい。このように水を加えることでポリシロキサン-アクリル複合樹脂に残存するメトキシ基を加水分解してシラノール基に変換し、シラノール基同士の縮合反応を促進し、シリコン表面近傍で高分子量化して分散を更に良化することができる。
【0032】
ポリシロキサン-アクリル複合樹脂のポリシロキサン構造とアクリル樹脂構造の重量比は99/1~30/70が好ましく、好ましくは95/5~40/60、より好ましくは90/10~50/50である。重量比が上記範囲であると、二次電池における容量維持率や初回クーロン効率といった充放電性能を高く維持できる。
【0033】
ポリシロキサン-アクリル複合樹脂以外に、非水系分散剤を併用してもよい。非水系分散剤の種類としては、ポリエーテル系、アルコール系、ポリアルキレンポリアミン系、ポリカルボン酸部分アルキルエステル系などの高分子型、多価アルコールエステル系、アルキルポリアミン系などの低分子型、ポリリン酸塩系などの無機型が挙げられる。
【0034】
[負極活物質の製造方法]
本発明の負極活物質の製造方法は、上述のスラリー液の製造方法で得たスラリー液に、フェノール樹脂をシリコン粒子100重量部に対して20~50重量部(好ましくは25~45重量部)添加し混合する工程と、前記スラリー液に含まれる有機溶媒を除く脱溶媒の工程および必要に応じて乾燥工程を経て活物質前駆体を得る工程と前記活物質前駆体を焼成する工程を含む方法である。
また、上述のスラリー液の製造方法でスラリー液を得た後に、前記ポリシロキサン-アクリル複合樹脂を追加で添加する任意の工程を含んでもよい。本発明においては、スラリー液を製造する初期段階からシリコン粒子と、ポリシロキサン-アクリル複合樹脂とを併用することが重要であり、スラリー液を製造する初期段階にポリシロキサン-アクリル複合樹脂を用いない場合(本発明の範囲外)、スラリー液の分散性を向上させて分散安定化することができず、負極活物質を作製し二次電池としたときに容量維持率や初回クーロン効率といった充放電性能を高く維持することができない。
【0035】
上記フェノール樹脂は、ポリシロキサン-アクリル複合樹脂との混和性が良く、不活性雰囲気中、高温焼成により炭化される成分(炭素源樹脂成分)である。フェノール樹脂としてはクレゾール型とレゾール型があるが、レゾール型が好ましい。フェノール樹脂としては、例えばSKレジン(HE100C-30、エア・ウォーター株式会社製)が挙げられる。クレゾール樹脂としては、例えばLC-100(リグナイト株式会社製)が挙げられる。フェノール樹脂は、攪拌機などを用いてスラリー液中で均一に混合されることが好ましい。
【0036】
その後の上記脱溶媒は、濾過など常用の方法で行うことができる。また、上記乾燥は例えば乾燥機、減圧乾燥機、噴霧乾燥機などで行われる。乾燥温度は、例えば80℃以上、好ましくは100℃以上である。減圧をしながら乾燥を行ってもよい。
【0037】
そして、乾燥後の活物質前駆体を不活性雰囲気中で焼成する。焼成処理に用いる装置は、流動層反応炉、回転炉、竪型移動層反応炉、トンネル炉、バッチ炉、ロータリーキルン等をその目的に応じ適宜選択することができる。焼成処理は、昇温速度、一定温度での保持時間等により規定されるプログラムに沿って行われる。焼成温度は、例えば、最高到達温度が900~1200℃の範囲が好ましい。
【0038】
更に、上記焼成物を粉砕し、必要に応じて分級することで所望の粒径の負極活物質が得られる。上記粉砕は、目的とする粒径まで一段で行っても良いし、数段に分けて行っても良い。粉砕物に粗大粒子が含まれる場合は、ジョークラッシャー、ロールクラッシャー等で粗粉砕を行った後、グローミル、ボールミル等で粉砕し、更にビーズミル、ジェットミル等で粉砕してもよい。なお、上記粒径は、体積平均粒径であり、平均粒径(D50)の値である。
【0039】
また、粉砕で作製した負極活物質に粗大粒子が含まれる場合は、それを取り除くため、微粉を取り除いて粒度分布を調整する場合は分級を行うのが好ましい。使用する分級機は風力分級機、湿式分級機等目的に応じて使い分けるが、粗大粒子を取り除く場合、篩を通す分級方式が確実に目的を達成できるために好ましい。
【0040】
上記で得られた負極活物質の真密度は、例えば1.6g/cm3以上2.0g/cm3以下である。真密度は、得られる二次電池のエネルギー密度を向上させる観点から、1.75g/cm3以上が好ましく、1.80g/cm3以上がより好ましい。真密度は、真密度測定装置を用いて測定された値である。
【0041】
負極活物質の平均粒径が小さすぎると、比表面積の大幅な上昇につれ、二次電池とした時、充放電時にSEIの生成量が増えることで単位体積当たりの可逆充放電容量が低下することがある。一方、平均粒径が大きすぎると、電極膜作製時に集電体から剥離するおそれがある。よって、負極活物質の体積平均粒径は、2μm以上15μm以下が好ましい。負極活物質の体積平均粒径は2.5μm以上が好ましく、3.0μm以上がより好ましい。また、体積平均粒径は、12μm以下が好ましく、10μm以下がより好ましい。
【0042】
負極活物質の比表面積は、0.3m2/g以上10m2/g以下が好ましい。比表面積は0.5m2/g以上がより好ましく、1m2/g以上が特に好ましい。比表面積が上記範囲であると、電極作製時における溶媒の吸収量を適切に保つことができ、結着性を維持するための結着剤の使用量も適切に保つことができる。なお比表面積は、BET法により求めた値であり、窒素ガス吸着測定により求めることができ、例えば比表面積測定装置を用いて測定することができる。
【実施例】
【0043】
以下、実施例によって本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されない。本実施例における[%]及び[部]は特段の指定がない限り「重量%」及び「重量部」を表すものとする。なお、NV(Non-Volatile)は、不揮発分を表す。
【0044】
実施例1
(ナノシリコン含有スラリー液の調製)
ビーズミルに平均粒径(D50)3000nmの原料シリコン粒子100部、特開2015-222733号公報の合成例1([0094]-[0095])に記載されている手法と同様の手法で調製したポリシロキサン-アクリル複合樹脂(ポリシロキサン(Pc)/アクリル(Ac)=65/35)を67部(NV30%のため固形分20部)、メチルエチルケトン(MEK)を430部加え、ビーズミルで6時間湿式粉砕、分散し、均一なスラリー液を得た。得られたスラリー液の作製直後の平均粒径(D50)は83nmであり、これを72時間静置した後に粒子径を測定すると84nmであり、変化率は1.2%とわずかであった。平均粒径(D50)は、レーザー回折式粒度分布測定装置(マルバーン・パナリティカル社製、マスターサイザー3000)で確認した。
【0045】
(負極活物質の作製)
上記で得たスラリー液にフェノール樹脂100部(スミライトレジン:PR-53570、住友ベークライト株式会社製、NV30%のため固形分30部)と、上記で加えたポリシロキサン-アクリル複合樹脂(ポリシロキサン(Pc)/アクリル(Ac)=65/35)33.5部(NV30%のため固形分10部;後添加)を加え、30分間攪拌した後にバーコーターで薄膜化し、108℃で2時間乾燥させた。得られた乾燥物をある程度粉砕し、1000℃で8時間焼成し、乳鉢で粉砕し、活物質化した。活物質の表面のSiの分布状況をSEM-EDX(JEL社製、JSM-7800F)で確認すると、
図1のようにシリコン粒子表面にSiが均一に配位していることが観察できた。
【0046】
(電池評価)
次に、電池評価のため初期効率とサイクル効率を測定した。初期効率は83%、300回充放電後のサイクル効率は78%と非常に良好な電池性能を示した。
電池評価は、二次電池充放電試験装置(北斗電工社製)を用いて測定した。室温25℃、カットオフ電圧範囲が0.005~1.5Vに、充放電レートが0.1C(1~3回)と0.2C(4サイクル以後)にし、定電流・定電圧式充電/定電流式放電の設定条件下で充放電特性の評価試験を行った。各充放電時の切り替え時には、30分間、開回路で放置した。初回クーロン効率とサイクル特性(本願では10サイクル時の容量維持率を指す)は以下のようにして求めた。
・サイクル効率(%)=初回放電容量(mAh/g)/初回充電容量(mAh/g)
【0047】
実施例2-6
上記実施例1と同様の方法でナノシリコン含有スラリー液を調製して負極活物質を作製し、電池評価をした。実施例1からの変更点は下記表1のとおりである。実施例5では、原料シリコン粒子を粉砕処理して使用するのではなく既に粉砕処理後のシリコン粒子(平均粒径50nm)をそのまま用いた。スラリー液の作製直後と72時間静置後のシリコン粒子の平均粒径(D50)、その変化率、及び電池評価を表1に示す。
【0048】
比較例1
(ナノシリコン含有スラリー液の調整)
上記実施例1のポリシロキサン-アクリル樹脂をツイーン80(=ポリオキシエチレンソルビタンモノオレアート)30部に変更した以外は同様にしてスラリー液を得た。
得られたスラリー液作製直後の平均粒径(D50)は80nmであり、これを72時間静置した後に粒子径を測定すると85nmであり、変化率は6.2%と大きく変化した。
【0049】
(負極活物質の作製)
前記ナノシリコン含有スラリー液にDIC株式会社製ポリシロキサンアクリル複合樹脂(ポリシロキサン/アクリル=65/35)を67部(NV30%のため固形分20部)、フェノール樹脂100部(NV30%のため固形分30部)を加え、30分間攪拌した後にバーコーターで薄膜化し、108℃で2時間乾燥させた。その後、得られた乾燥物をある程度粉砕し、1000℃で8時間焼成し、乳鉢で粉砕し、活物質化した。活物質の表面をSEM-EDXで確認すると、
図2のように表面にSiは配位しているものの不均一であった。
【0050】
(電池評価)
次に、電池評価については初期効率とサイクル効率について比較した。
初期効率は63%、300回充放電後のサイクル効率は55%といずれも低い値を示した。
【0051】
比較例2
上記比較例1との変更点と電池評価の結果は下記表1のとおりである。比較例2では、原料シリコン粒子を粉砕処理して使用するのではなく既に粉砕処理後のシリコン粒子(平均粒径50nm)をそのまま用いた。
【0052】
【0053】
上記表1より、実施例1-6では比較例1-2に比べて、D50変化率が小さく、分散安定性が高いことが分かる。また、実施例1-6では比較例1-2に比べて、電池評価における初期効率やサイクル効率が高いことが分かる。よって、本発明のスラリー液は、分散安定性が高く、これを用いて負極活物質を作製した二次電池における容量維持率や初回クーロン効率といった充放電性能を高く維持できると言える。
【要約】
シリコン粒子を含むスラリー液での分散状態での配向を改善して、分散性を向上させて分散安定化することである。そして、負極活物質を作製し二次電池としたときの容量維持率や初回クーロン効率といった充放電性能を高く維持できるスラリー液、スラリー液の製造方法、及び負極活物質の製造方法を提供することである。
本発明のスラリー液は、平均粒子径(D50)30~1000nmのシリコン粒子と、ポリシロキサン系樹脂と、が1気圧における沸点100℃以下の有機溶媒に分散している。本発明のスラリー液の製造方法は、平均粒子径(D50)1000nm以上であるシリコン粒子に、ポリシロキサン-アクリル複合樹脂と、有機溶媒とを加えて湿式粉砕する工程を含む。