(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-04
(45)【発行日】2024-03-12
(54)【発明の名称】シリンジ包装体
(51)【国際特許分類】
A61M 5/28 20060101AFI20240305BHJP
A61M 5/32 20060101ALI20240305BHJP
A61M 5/315 20060101ALI20240305BHJP
【FI】
A61M5/28 530
A61M5/32 510
A61M5/315 500
(21)【出願番号】P 2019195398
(22)【出願日】2019-10-28
【審査請求日】2022-07-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000224101
【氏名又は名称】藤森工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【氏名又は名称】大浪 一徳
(74)【代理人】
【識別番号】100155066
【氏名又は名称】貞廣 知行
(72)【発明者】
【氏名】吉田 美帆子
(72)【発明者】
【氏名】福田 耕治
【審査官】中村 一雄
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2017/0007770(US,A1)
【文献】特開平06-254161(JP,A)
【文献】米国特許第05575776(US,A)
【文献】国際公開第2016/159059(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2015/0025472(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61M 5/28
A61M 5/32
A61M 5/315
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
充填済みシリンジの包装に用いられるシリンジ包装体であって、
前記充填済みシリンジは、薬剤が充填された外筒部材と、前記外筒部材に取り付けられた押し子とを備え、
前記シリンジ包装体は、フレキシブルシートからなる筒状のスリーブと、前記スリーブの両端部にそれぞれ接合された側面部材と、前記充填済みシリンジの前記外筒部材を保持する外筒部材保持部と、を備え
、
前記スリーブの一方の端部には、第1の側面部材が接合され、前記スリーブの他方の端部には、第2の側面部材が接合され、2つの前記側面部材の間において、前記スリーブが前記側面部材に接合されていない部分は、前記充填済みシリンジの周囲を包む包囲部となっていることを特徴とするシリンジ包装体。
【請求項2】
前記シリンジ包装体は、前記充填済みシリンジの前記押し子を保持する押し子保持部を備え、
前記外筒部材保持部は、前記外筒部材の先端部を保持している外筒部材保持部又は前記外筒部材に取り付けられる注射針を覆う保護キャップを保持する外筒部材保持部を有することを特徴とする請求項1に記載のシリンジ包装体。
【請求項3】
前記シリンジ包装体は、前記充填済みシリンジから前記薬剤が使用されてなる使用済みシリンジを収容することが可能であり、
前記外筒部材保持部が前記使用済みシリンジの前記外筒部材を保持するときに、
前記スリーブが開封破断線を介して分断され、前記使用済みシリンジの長さが前記充填済みシリンジの長さより短くなった差に応じて、分断された前記スリーブを重ね合わせるか、前記スリーブの一部が除去されることにより、前記外筒部材保持部に対する前記押し子保持部の位置関係を変更して、前記押し子保持部が前記使用済みシリンジの前記押し子を保持することができることを特徴とする請求項2に記載のシリンジ包装体。
【請求項4】
前記フレキシブルシートには、前記薬剤を特定する情報が印刷されていることを特徴とする請求項1~3のいずれか1項に記載のシリンジ包装体。
【請求項5】
前記側面部材又は前記スリーブは、前記シリンジ包装体の中心軸の周囲に、頂点又は辺の個数が3~8である多角形状に配置された転がり止め部を有することを特徴とする請求項1~4のいずれか1項に記載のシリンジ包装体。
【請求項6】
前記スリーブ又は前記側面部材の少なくとも1つは、非貫通の開封破断線を有するフィルムを含むことを特徴とする請求項1~5のいずれか1項に記載のシリンジ包装体。
【請求項7】
前記スリーブは、前記フレキシブルシートの対向する2辺を接合した接合部と、前記接合部を剥離して前記スリーブを開封するための開封開始部を有することを特徴とする請求項1~5のいずれか1項に記載のシリンジ包装体。
【請求項8】
前記スリーブ又は前記側面部材の少なくとも1つは、前記充填済みシリンジを取り出すための開口部を閉鎖する蓋部材を有することを特徴とする請求項1~7のいずれか1項に記載のシリンジ包装体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、充填済みシリンジの包装に用いられるシリンジ包装体に関する。
【背景技術】
【0002】
継続的又は突発的に注射による投薬を必要とする場合において、その都度通院しなくても済むように、近年、充填済みシリンジが普及しつつある。従来、充填済みシリンジの容器として、充填済みシリンジを保護するトレイと、トレイを覆う箱とからなる包装容器が使用されている(例えば非特許文献1を参照)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【文献】「シリンジ1本用緩衝トレイ」、[online]、株式会社柏木モールド、インターネット<URL: https://www.ksmold.co.jp/product/medical_care/%E3%82%B7%E3%83%AA%E3%83%B3%E3%82%B81%E6%9C%AC%E7%94%A8%E7%B7%A9%E8%A1%9D%E3%83%88%E3%83%AC%E3%82%A4/>
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
充填済みシリンジを用いて患者自身又は家族が外出先で注射を行う場合には、患者又は同伴する家族が充填済みシリンジを携帯する必要がある。しかし、従来の充填済みシリンジの包装は厳重であるため、携帯するのに煩雑であった。
【0005】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、保管スペースをコンパクトにすることができ、充填済みシリンジの携帯を容易にすることが可能なシリンジ包装体を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題を解決するため、本発明は、充填済みシリンジの包装に用いられるシリンジ包装体であって、前記充填済みシリンジは、薬剤が充填された外筒部材と、前記外筒部材に取り付けられた押し子とを備え、前記シリンジ包装体は、フレキシブルシートからなる筒状のスリーブと、前記スリーブの両端部にそれぞれ接合された側面部材と、前記充填済みシリンジの前記外筒部材を保持する外筒部材保持部と、を備えることを特徴とするシリンジ包装体を提供する。
【0007】
前記シリンジ包装体は、前記充填済みシリンジの前記押し子を保持する押し子保持部を備え、前記外筒部材保持部及び前記押し子保持部が前記外筒部材に対する前記押し子の変位を阻止する構成でもよい。
前記シリンジ包装体は、前記充填済みシリンジから前記薬剤が使用されてなる使用済みシリンジを収容することが可能であり、前記外筒部材保持部が前記使用済みシリンジの前記外筒部材を保持するときに、前記外筒部材保持部に対する前記押し子保持部の位置関係を変更して、前記押し子保持部が前記使用済みシリンジの前記押し子を保持することができる構成でもよい。
【0008】
前記フレキシブルシートには、前記薬剤を特定する情報が印刷されている構成でもよい。
前記側面部材又は前記スリーブは、前記シリンジ包装体の中心軸の周囲に、頂点又は辺の個数が3~8である多角形状に配置された転がり止め部を有してもよい。
【0009】
前記スリーブ又は前記側面部材の少なくとも1つは、非貫通の開封破断線を有するフィルムを含む構成でもよい。
前記スリーブは、前記フレキシブルシートの対向する2辺を接合した接合部と、前記接合部を剥離して前記スリーブを開封するための開封開始部を有する構成でもよい。
前記スリーブ又は前記側面部材の少なくとも1つは、前記充填済みシリンジを取り出すための開口部を閉鎖する蓋部材を有する構成でもよい。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、充填済みシリンジの携帯を容易にすることが可能なシリンジ包装体を提供することができる。また、充填済みシリンジに充填される薬剤が冷蔵などの温度管理を要する場合も、冷蔵庫、保冷庫などにコンパクトに収納することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】シリンジ包装体の内部構造の一例を示す断面図である。
【
図2】針先にキャップを有するシリンジの保持部の一例を示す断面図である。
【
図3】(a)充填済みシリンジを収容した例と、(b)~(c)使用済みシリンジを収容した例を示す断面図である。
【
図4】スリーブに開封破断線を設けた例を(a)~(d)に示す斜視図である。
【
図5】スリーブに接合部及び開封開始部を設けた例を示す斜視図である。
【
図6】スリーブに印刷部及び窓部を設けた例を示す斜視図である。
【
図7】側面部材に開封部を設けた例を(a)~(b)に示す側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、好適な実施形態に基づき、図面を参照して本発明を説明する。
【0013】
図1に、シリンジ包装体10の内部構造の一例を示す。シリンジ包装体10は、充填済みシリンジ1の包装に用いられる包装体である。充填済みシリンジ1は、薬剤が充填された外筒部材2と、外筒部材2に取り付けられた押し子3とを備える。シリンジ包装体10は、フレキシブルシート12からなる筒状のスリーブ11と、スリーブ11の両端部にそれぞれ接合された側面部材13と、を備える。
【0014】
シリンジ包装体10は、1本の充填済みシリンジ1を収容する個包装体である。フレキシブルシート12としては、樹脂フィルム、紙、セロファン、金属箔、又はこれらの少なくとも1つを含む積層体が挙げられる。側面部材13としては、例えば樹脂、金属等の成形品が挙げられる。フレキシブルシート12の厚みは、例えば、50μm以上500μm以下、ヘイズ20%以下が好ましい。部分的にシリンジ包装体10の内部、内容物、内容物への印刷、文字、模様等が見えるように、フレキシブルシート12の一部又は全部が透明であってもよい。スリーブ11は、フレキシブルシート12の内面又は外面に、印刷、印字、模様などを有してもよい。
【0015】
シリンジ包装体10は、外筒部材2を保持する外筒部材保持部14A,14B,14C,14Dを備えている。また、シリンジ包装体10は、押し子3を保持する押し子保持部15A,15Bを備えてもよい。シリンジ包装体10が、少なくとも1つの外筒部材保持部14A~14Dを有することにより、シリンジ包装体10の内側に充填済みシリンジ1を保持することができる。また、シリンジ包装体10が、少なくとも1つの外筒部材保持部14A~14Dと、少なくとも1つの押し子保持部15A~15Bを有することにより、外筒部材2に対する押し子3の変位を阻止することができる。これにより、充填済みシリンジ1の携帯が容易になる。また、充填済みシリンジ1に充填される薬剤が冷蔵などの温度管理を要する場合も、冷蔵庫、保冷庫などにコンパクトに収納することができる。
【0016】
外筒部材保持部14Aは、外筒部材2において薬剤が充填されるバレル部2aの先端部を保持している。外筒部材保持部14Bは、バレル部2aの周面を保持している。外筒部材保持部14Cは、外筒部材2の筒先部2bを保持している。外筒部材保持部14Dは、外筒部材2のフランジ部2cを保持している。また、特に図示しないが、一つの外筒部材保持部が、バレル部2aの先端部及び筒先部2bを保持してもよい。
押し子保持部15Aは、押し子3においてピストン部3aの端部に設けられたヘッド部3bを保持している。押し子保持部15Bは、押し子3において外筒部材2のバレル部2aに差し込まれるピストン部3aを保持している。
【0017】
図2に示すように、充填済みシリンジ1の外筒部材2に注射針4が取り付けられる場合、外筒部材保持部14Cは、注射針4を覆う保護キャップ5を保持してもよい。注射針4は、薬剤を通すことができるように管状となっている針管部4aと、注射針4を外筒部材2に取り付ける針基部4bとを備えている。特に図示しないが、針管部4aは、外筒部材2の筒先部2bに嵌合等により固定することができる。
【0018】
スリーブ11の内側に外筒部材保持部14A~14D又は押し子保持部15A~15Bを設ける場合は、フレキシブルシート12の内面に、外筒部材保持部14A~14D又は押し子保持部15A~15Bを固定してもよい。側面部材13の内側に外筒部材保持部14A~14D又は押し子保持部15A~15Bを設ける場合は、側面部材13の内面に、外筒部材保持部14A~14D又は押し子保持部15A~15Bを固定してもよく、側面部材13と一体で外筒部材保持部14A~14D又は押し子保持部15A~15Bを成形してもよい。
【0019】
側面部材13の側面13aは、多角形状であってもよい。この場合、側面部材13にスリーブ11の端部が接合される周面13bは、多角柱面状となる。側面部材13の側面13a及び周面13bを構成する多角形(m角形)は、mが3~8である三角形、四角形、五角形、六角形、七角形、八角形のいずれかであることが好ましい。これにより、m角形状に配置された転がり止め部が構成され、シリンジ包装体10が転がりにくくなる。また、側面部材13の側面13aは、いずれかの側面部材13を下にしてシリンジ包装体10を立てることができるように、中央部を平面又は凹部にしたり、凸部からなる脚部を設けたりしてもよい。トレイやブリスター容器では通常、充填済みシリンジ1を寝かせた状態となるが、シリンジ包装体10を立てることができると、多数のシリンジ包装体10を保管する場合に配置の自由度が高くなり、便利である。
【0020】
また、スリーブ11は、フレキシブルシート12が側面部材13の周面13bの形状に従って成形されることにより、多角筒状となる。スリーブ11を構成する多角筒(n角筒)は、nがmと等しい数である、又はnが3~8である三角筒状、四角筒状、五角筒状、六角筒状、七角筒状、八角筒状のいずれかであることが好ましい。これにより、n角形状に配置された転がり止め部が構成され、シリンジ包装体10が転がりにくくなる。スリーブ11の横断面は、n角形となる。ここで、スリーブ11の横断面とは、スリーブ11の長さ方向に対して直交する面である。スリーブ11の容量(中心軸に垂直な断面積)を拡大するには、nが4以上であることが好ましい。
【0021】
上述の多角形(m角形及びn角形)は正多角形に限定されるものではない。例えば、六角形が、正三角形の角を小さく除去した形状であってもよく、八角形が、正方形(正四角形)の角を小さく除去した形状であってもよい。多角形の角に小さな面取り又は丸みを有してもよいが、前記多角形の辺の中央部に相当する領域は、径方向の外方に突出することなく、平坦であるか又は径方向の内側にくぼんでいることが好ましい。
前記多角形(m角形又はn角形)の頂点の位置に転がり止め部を配置する場合は、少なくとも2箇所以上、より好ましくは3箇所以上の頂点に突起を形成してもよい。多角形の頂点自体と他の頂点の突起とを合わせて多角形状の配置となってもよい。多角形状に配置される突起のみを転がり止め部とする場合は、前記多角形のm又はnが8より大きくてもよく、あるいは側面部材13の周面13b又はスリーブ11が円筒状で、その横断面が円形など、前記多角形以外の形状であってもよい。突起又は前記多角形の頂点から転がり止め部を構成する場合は、これらの個数が3~8であることが好ましい。転がり止め部として突起を設ける場合、突起が配置されない頂点又は辺の位置は、突起の先端を結んで得られる多角形の内側であることが好ましい。前記多角形(m角形又はn角形)の頂点に配置される突起は、突起が配置される頂点の両側に隣接する辺の交点に対して、径方向の外側に突出してもよい。前記頂点の突起は、側面部材13の側面13a、周面13b又はスリーブ11のいずれに形成してもよい。
前記多角形(m角形又はn角形)の辺に転がり止め部を配置する場合は、少なくとも1箇所以上の頂点に丸みを付与してもよく、あるいは、少なくとも1箇所以上の辺において滑り止めとなる凹凸を付与してもよい。前記滑り止めとなる凹凸は、側面部材13の周面13b又はスリーブ11のいずれに形成してもよい。
側面部材13上の突起又は凹凸は、側面部材13に一体に成形してもよい。スリーブ11上の突起又は凹凸は、スリーブ11上に樹脂等を塗布、硬化させる等により形成することができる。
【0022】
スリーブ11の端部は、側面部材13の周面13bに接合される側面接合部11aとなっている。スリーブ11の一方の端部には、第1の側面部材13が接合され、スリーブ11の他方の端部には、第2の側面部材13が接合される。2つの側面部材13の間において、スリーブ11が側面部材13に接合されていない部分は、充填済みシリンジ1の周囲を包む包囲部11bとなっている。スリーブ11と側面部材13との接合は、接着剤を用いてもよく、スリーブ11の内面と側面部材13の周面13bとにおける樹脂同士の融着であってもよい。
【0023】
図3(a)~(c)に示すように、シリンジ包装体10は、充填済みシリンジ1を収容するだけではなく、充填済みシリンジ1から薬剤が使用されてなる使用済みシリンジ6を収容することが可能であることが好ましい。
図3(a)には、シリンジ包装体10が充填済みシリンジ1を収容した例を示す。
図3(b)及び
図3(c)には、シリンジ包装体10が使用済みシリンジ6を収容した例を示す。外筒部材保持部14Aが使用済みシリンジ6の外筒部材2を保持するとき、外筒部材保持部14Aに対する押し子保持部15Aの位置関係を変更して、押し子保持部15Aが使用済みシリンジ6の押し子3を保持することができる。なお、
図3(a)~(c)では、外筒部材保持部14Aがバレル部2aの先端部及び筒先部2bを保持している例を示したが、
図1及び
図2に示したバレル部2aの先端部のみを保持する外筒部材保持部14Cなど、いずれかの外筒部材保持部を少なくとも1つ有すればよい。また、
図3(a)~(c)では、押し子保持部15Aがヘッド部3bを保持している例を示したが、
図1に示したピストン部3aを保持する押し子保持部15Bなど、いずれかの押し子保持部を少なくとも1つ有すればよい。
【0024】
図3(a)に示すように、スリーブ11が開封破断線16Aを介して2つに分断される場合は、
図3(b)に示すように、使用済みシリンジ6を収容する際、分断されたスリーブ11を重ね合わせてもよい。また、
図3(c)に示すように、使用済みシリンジ6を収容する際、使用済みシリンジ6の長さが、充填済みシリンジ1の長さより短くなった差に応じて、スリーブ11の一部を除去できるように構成してもよい。
【0025】
充填済みシリンジ1を使用する際に、開封を容易にするためには、開封手段から開封してスリーブ11又は側面部材13に形成される開口部から、充填済みシリンジ1を速やかに取り出すことができるのが好ましい。特に、注射の時期が定期的でなく、例えば、発作時のように病状の変化に応じて注射を必要とする場合は、迅速に開封することができる包装が望まれる。また、季節毎の、インフルエンザ等の集団予防接種のように、大量の充填済みシリンジ1を必要とする場合にシリンジ包装体10を使用することも好ましい。
【0026】
図4(a)~(d)に示すように、スリーブ11を構成するフレキシブルシート12は、非貫通の開封破断線16A,16B,16C,16Dを有するフィルムを含む構成でもよい。この場合、開封破断線16A,16B,16C,16Dを破断することにより、開口部を形成することができる。開封破断線16A,16B,16C,16Dがフレキシブルシート12を貫通しない構成とすることにより、外気に含まれる塵埃、水分等の侵入を抑制することができる。開封破断線16A~16Dと、外筒部材保持部14A~14D又は押し子保持部15A~15Bとの位置関係は、任意に設定することが可能である。非貫通の開封破断線16A~16Dは、フィルムの厚さ方向の中間層においてレーザー加工をするか、フィルムの片面においてレーザー加工又は機械加工により形成することができる。開封破断線16A~16Dは、連続した線状でもよく、飛び飛びの点線状でもよい。
【0027】
図4(a)では、開封破断線16Aがスリーブ11の横断面内に形成されている。また、
図4(b)に示すように、開封破断線16Bがスリーブ11の横断面から若干斜めに形成されてもよい。これらのように、開封破断線16A,16Bがスリーブ11をその周方向に開封する場合は、スリーブ11の端部付近又は側面部材13に外筒部材保持部14A~14D又は押し子保持部15A~15Bを設けることが好ましい。開封破断線16A,16Bは、スリーブ11の周方向の少なくとも一部に形成されればよい。
【0028】
開封破断線16A,16Bを用いて開封した開口部から、充填済みシリンジ1を迅速に取り出すには、外筒部材保持部14A~14D又は押し子保持部15A~15Bに保持された充填済みシリンジ1を、スリーブ11の長さ方向に引き抜くことができることが好ましい。開封破断線16Aの長さは、スリーブ11の周の長さの50%以上、又は70%以上、又は90%以上、又は100%に及ぶことが好ましい。また、開封破断線16Bの長さは、スリーブ11の周囲の角度(360°)の50%以上、又は70%以上、又は90%以上、又は100%以上に及ぶことが好ましい。開封破断線16Bを螺旋状にしてスリーブ11の周囲で360°を超える範囲に形成することも可能である。
【0029】
開封破断線16A,16Bを用いてスリーブ11を開封し、充填済みシリンジ1を、スリーブ11の長さ方向に引き抜く場合は、外筒部材保持部14A~14D又は押し子保持部15A~15Bが、開封破断線16A,16Bに向かう側の面で充填済みシリンジ1を保持することが好ましい。例えば、外筒部材保持部14A~14Dを設ける場合は、これらの外筒部材保持部14A~14Dと、押し子3のヘッド部3bとの間に、開封破断線16A,16Bを配置することが好ましい。また、押し子保持部15A~15Bを設ける場合は、押し子保持部15A~15Bと、外筒部材2の筒先部2bとの間に、開封破断線16A,16Bを配置することが好ましい。スリーブ11が開封破断線16A,16Bを介して2つに分断される場合は、
図3(b)及び
図3(c)に示すように、使用済みシリンジ6をスリーブ11内に戻した後、分断されたスリーブ11を一体化してもよい。分断されたスリーブ11を一体化するため、粘着テープなどの接合部材を、あらかじめシリンジ包装体10に一体化し、又はシリンジ包装体10とセットで添付してもよい。
【0030】
図4(c)では、開封破断線16Cがスリーブ11の長さ方向に形成されている。また、
図4(d)に示すように、開封破断線16Dがスリーブ11の長さ方向に対して若干斜めに形成されてもよい。これらのように、開封破断線16C,16Dがスリーブ11をその長さ方向に開封する場合は、スリーブ11の中央部付近に外筒部材保持部14A~14D又は押し子保持部15A~15Bを設けることが好ましい。開封破断線16C,16Dは、スリーブ11の長さ方向の少なくとも一部に形成されればよい。
図4(c)、(d)に示すように、スリーブ11の長さ方向に形成された開封破断線16C,16Dを開封して生じる開口部を閉鎖するため、粘着テープなどの蓋部材を設けてもよい。これにより、開口部から充填済みシリンジ1を取り出して使用した後、使用済みシリンジ6を開口部からスリーブ11内に戻して蓋部材で閉鎖することもできる。開封破断線16C,16Dの蓋部材は、あらかじめシリンジ包装体10に一体化し、又はシリンジ包装体10とセットで添付してもよい。
【0031】
開封破断線16C,16Dを用いて開封した開口部から、充填済みシリンジ1を迅速に取り出すには、外筒部材保持部14A~14D又は押し子保持部15A~15Bに保持された充填済みシリンジ1を、スリーブ11の長さ方向に対して直交する方向に引き抜くことができることが好ましい。開封破断線16Cの長さは、充填済みシリンジ1の長さの50%以上、又は70%以上、又は90%以上、又は100%以上に及ぶことが好ましい。また、充填済みシリンジ1の長さ方向に沿った開封破断線16Dの範囲は、充填済みシリンジ1の長さの50%以上、又は70%以上、又は90%以上、又は100%以上に及ぶことが好ましい。
【0032】
開封破断線16C,16Dを用いてスリーブ11を開封し、充填済みシリンジ1を、スリーブ11の長さ方向に対して直交する方向に引き抜く場合は、外筒部材保持部14A~14D又は押し子保持部15A~15Bが、開封破断線16C,16Dに向かう側の面で充填済みシリンジ1を保持することが好ましい。例えば、スリーブ11の周方向において、開封破断線16C,16Dとは反対側の半円部に外筒部材保持部14A~14D又は押し子保持部15A~15Bを配置して、開封破断線16C,16Dと同じ側の半円部に、充填済みシリンジ1を取り出すための空間を開けておくことが好ましい。
【0033】
図5に示すように、スリーブ11は、フレキシブルシート12の対向する2辺を接合した接合部11cと、接合部11cを剥離してスリーブ11を開封するための開封開始部17を有する構成でもよい。開封開始部17は、例えば、つまみのようにスリーブ11の外側に突出してもよい。接合部11cの開封を容易にするためには、接合部11cの少なくとも一部をイージーピールとしてもよい。接合部11cを開封して生じる開口部を閉鎖するため、粘着テープなどの蓋部材を設けてもよい。これにより、開口部から充填済みシリンジ1を取り出して使用した後、使用済みシリンジ6を開口部からスリーブ11内に戻して蓋部材で閉鎖することもできる。接合部11cの蓋部材は、あらかじめシリンジ包装体10に一体化し、又はシリンジ包装体10とセットで添付してもよい。
【0034】
開封開始部17を用いて接合部11cに開封した開口部から、充填済みシリンジ1を迅速に取り出すには、外筒部材保持部14A~14D又は押し子保持部15A~15Bに保持された充填済みシリンジ1を、スリーブ11の長さ方向に対して直交する方向に引き抜くことができることが好ましい。接合部11cが開封される長さ(例えばイージーピールの長さ)は、充填済みシリンジ1の長さの50%以上、又は70%以上、又は90%以上、又は100%以上に及ぶことが好ましい。
【0035】
開封開始部17を用いた接合部11cの剥離によりスリーブ11を開封し、充填済みシリンジ1を、スリーブ11の長さ方向に対して直交する方向に引き抜く場合は、外筒部材保持部14A~14D又は押し子保持部15A~15Bが、接合部11cに向かう側の面で充填済みシリンジ1を保持することが好ましい。例えば、スリーブ11の周方向において、接合部11cとは反対側の半円部に外筒部材保持部14A~14D又は押し子保持部15A~15Bを配置して、接合部11cと同じ側の半円部に、充填済みシリンジ1を取り出すための空間を開けておくことが好ましい。
【0036】
図6に示すように、フレキシブルシート12は、印刷部12aと窓部12bを有してもよい。印刷部12aはスリーブ11の全面に設けられてもよいが、窓部12bを有すると、シリンジ包装体10の外側から充填済みシリンジ1を目視することができるので、好ましい。窓部12bは、無色透明であってもよく、ヘイズ20%以下が好ましい。窓部12bが目視に必要な可視光線の透過性を有すればよく、紫外線又は赤外線を遮蔽又は吸収する構成としてもよい。印刷部12aには、充填済みシリンジ1に充填された薬剤を特定する情報が印刷されていると、薬剤の誤使用を抑制できるので、好ましい。印刷部12aは、遮光性を有してもよい。遮光性の対象は、可視光線に限らず、赤外線や紫外線でもよい。スリーブ11の全面に遮光性を設ける場合は、印刷部12aに限らず、フレキシブルシート12の全面にわたって少なくとも1つの層に光線吸収剤を添加してもよく、金属箔、金属蒸着膜等の遮光層を設けてもよい。
【0037】
図7(a)及び
図7(b)に例示するように、充填済みシリンジ1を取り出すための開口部を側面部材13に設けてもよい。この開口部は、スリーブ11の各端部における2つの側面部材13のうち、少なくとも1つに設けることができる。押し子3のヘッド部3bの側に配置された側面部材13に開口部を設けてもよく、外筒部材2の筒先部2bの側に配置された側面部材13に開口部を設けてもよく、両方の側面部材13に開口部を設けてもよい。側面部材13に開口部を設ける場合は、側面部材13の開口部から、充填済みシリンジ1を、スリーブ11の長さ方向に取り出すことが好ましい。
【0038】
図7(a)では、側面部材13の少なくとも1つは、非貫通の開封破断線21を有するフィルムを含む構成となっている。この場合、開封破断線21を破断することにより、開口部を形成することができる。開封破断線21がフィルムを貫通しない構成とすることにより、外気に含まれる塵埃、水分等の侵入を抑制することができる。立体的な形状の側面部材13を環状に形成し、開封破断線21を有するフィルムを側面部材13の中空部に接合してもよい。開封破断線21を有するフィルムは、非貫通の開封破断線16A~16Dと同様にして形成することができる。開封破断線21は、連続した線状でもよく、飛び飛びの点線状でもよい。
【0039】
図7(b)では、側面部材13の少なくとも1つは、開口部を閉鎖する蓋部材22を有する。蓋部材22は、つまみ等の開封開始部23を有してもよい。側面部材13と蓋部材22とを接着する場合、イージーピールのように接着力を小さくすることが好ましい。蓋部材22の形状は特に限定されず、立体的な成形品でもよく、フィルムのように平板状でもよい。蓋部材22は、粘着テープ等で再封が可能に構成することもできる。これにより、開口部から充填済みシリンジ1を取り出して使用した後、使用済みシリンジ6を開口部からスリーブ11内に戻して蓋部材22で閉鎖することもできる。
【0040】
押し子3のヘッド部3bの側に配置された側面部材13に開口部を設ける場合は、その側面部材13に押し子保持部15A~15Bを形成しないこと、又は側面部材13の開口部から押し子3に対する押し子保持部15A~15Bの保持を解除できることが好ましい。押し子3側の側面部材13に開口部を設ける場合は、スリーブ11にのみ押し子保持部15A~15Bを設けてもよい。
【0041】
外筒部材2の筒先部2bの側に配置された側面部材13に開口部を設ける場合は、その側面部材13に外筒部材保持部14A~14Dを形成しないこと、又は側面部材13の開口部から外筒部材2に対する外筒部材保持部14A~14Dの保持を解除できることが好ましい。外筒部材2側の側面部材13に開口部を設ける場合は、スリーブ11にのみ外筒部材保持部14A~14Dを設けてもよい。
【0042】
以上、本発明を好適な実施形態に基づいて説明してきたが、本発明は上述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の改変が可能である。
特に図示しないが、スリーブ11が、充填済みシリンジ1を取り出すための開口部と、この開口部を閉鎖する蓋部材とを有してもよい。この場合、スリーブ11の開口部は、シリンジ包装体を開封する前から、スリーブ11の長さ方向など所定の位置に形成されてもよい。
上述のシリンジ包装体10に用いられるスリーブ11及び側面部材13からなる包装体は、シリンジに類した形状又は構造を有する器具の包装にも用いることができる。
【符号の説明】
【0043】
1…充填済みシリンジ、2…外筒部材、2a…バレル部、2b…筒先部、2c…フランジ部、3…押し子、3a…ピストン部、3b…ヘッド部、4…注射針、4a…針管部、4b…針基部、5…保護キャップ、6…使用済みシリンジ、10…シリンジ包装体、11…スリーブ、11a…側面接合部、11b…包囲部、11c…接合部、12…フレキシブルシート、12a…印刷部、12b…窓部、13…側面部材、13a…側面部材の側面、13b…側面部材の周面、14A,14B,14C,14D…外筒部材保持部、15A,15B…押し子保持部、16A,16B,16C,16D…スリーブの開封破断線、17…スリーブの開封開始部、21…側面部材の開封破断線、22…側面部材の蓋部材、23…側面部材の開封開始部。