(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-04
(45)【発行日】2024-03-12
(54)【発明の名称】補修器具
(51)【国際特許分類】
B65D 81/32 20060101AFI20240305BHJP
E04G 23/02 20060101ALI20240305BHJP
E02D 37/00 20060101ALI20240305BHJP
C04B 28/06 20060101ALI20240305BHJP
C04B 22/16 20060101ALI20240305BHJP
C04B 24/26 20060101ALI20240305BHJP
C04B 111/72 20060101ALN20240305BHJP
【FI】
B65D81/32 T
E04G23/02 B
E02D37/00
C04B28/06
C04B22/16 Z
C04B24/26 E
C04B111:72
(21)【出願番号】P 2020034285
(22)【出願日】2020-02-28
【審査請求日】2023-01-23
(73)【特許権者】
【識別番号】521297587
【氏名又は名称】UBE三菱セメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100145012
【氏名又は名称】石坂 泰紀
(74)【代理人】
【識別番号】100169063
【氏名又は名称】鈴木 洋平
(72)【発明者】
【氏名】高橋 恵輔
(72)【発明者】
【氏名】関 崇宏
【審査官】米村 耕一
(56)【参考文献】
【文献】特表2019-536725(JP,A)
【文献】特開平03-081454(JP,A)
【文献】実開平06-059269(JP,U)
【文献】実開昭58-076533(JP,U)
【文献】特開昭62-271866(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2014/0034670(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B65D 81/32
B65D 47/36
B65D 50/08
E04G 23/02
E02D 37/00
C04B 22/16-28/06
C04B 111/72
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
容器本体部と、
前記容器本体部内に設けられており、セメント、水及び無機酸を含
み且つイオン性エマルション型増粘剤を含まないセメント含有液を収容する第一の収容部と、
前記容器本体部内に設けられており、
イオン性エマルション型増粘剤を含むアルカリ溶液を収容する第二の収容部と、
前記第一の収容部内の前記セメント含有液と前記第二の収容部内の前記アルカリ溶液が混ざらないように隔離している隔離手段と、
前記セメント含有液と前記アルカリ溶液が隔離された状態が解除され、前記容器本体部内において前記セメント含有液と前記アルカリ溶液が混合されることによって調製されるセメントスラリーを吐出する吐出口と、
を備え、
前記セメント含有液は、温度20℃及びせん断速度10s
-1
の条件で測定される粘度が1.0×10
2
~1.2×10
5
mPa・sであり、
前記アルカリ溶液は、温度20℃及びせん断速度10s
-1
の条件で測定される粘度が2.0×10
2
~2.0×10
4
mPa・sである、補修器具
(ただし、前記アルカリ溶液が無機フィラーを含む補修器具を除く。)。
【請求項2】
前記隔離手段は、前記セメント含有液と前記アルカリ溶液とを隔てる膜を含む、請求項
1に記載の補修器具。
【請求項3】
前記膜を破壊することによって前記セメント含有液と前記アルカリ溶液が隔離された状態を解除する機構を備える、請求項
2に記載の補修器具。
【請求項4】
前記容器本体部は可とう性を有する材質からなり、前記容器本体部の外部から力を加えることによって前記膜が破壊されるように構成されている、請求項
2又は
3に記載の補修器具。
【請求項5】
前記第二の収容部は、前記容器本体部内において前記第一の収容部に囲われるように配置された小型容器を含み、
前記隔離手段は、前記小型容器の開口部を封止している、請求項
1に記載の補修器具。
【請求項6】
前記隔離手段は前記小型容器の前記開口部が嵌合する凹部を有する、請求項
5に記載の補修器具。
【請求項7】
前記隔離手段は前記小型容器の前記開口部が封止された状態を維持するための支持部材を有し、
前記小型容器が前記支持部材によって支持されている状態が解除され、前記容器本体部内において前記セメント含有液と前記アルカリ溶液が混合する、請求項
5又は
6に記載の補修器具。
【請求項8】
前記セメント含有液は、温度20℃及びせん断速度0.1s
-1の条件で測定される粘度が1.0×10
3~5.0×10
6mPa・sである、請求項1~
7のいずれか一項に記載の補修器具。
【請求項9】
前記セメント含有液の量を100体積部とすると、前記アルカリ溶液の量は1~40体積部である、請求項1~
8のいずれか一項に記載の補修器具。
【請求項10】
前記セメント含有液の量は5~1000cm
3である、請求項
5に記載の補修器具。
【請求項11】
前記容器本体部が筒状部材と前記筒状部材の一端を封止している端面と含み且つ前記吐出口が前記端面の中央部に形成されており、
前記筒状部材の長手方向に移動する環状の撹拌子が前記容器本体部内に収容されている、請求項1~
10のいずれか一項に記載の補修器具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は補修器具に関する。
【背景技術】
【0002】
建築物や構造物のひび割れや損傷を補修する材料として、二液を混合することによって硬化する材料が用いられている。例えば、特許文献1には、コンクリート構造物の修復に使用される二液混合式の接着性合成樹脂組成物が開示されている。この接着性合成樹脂組成物は合成樹脂系溶剤と硬化剤とを混合したものである(特許文献1の請求項1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載の発明は、コンクリート構造物の補修・補強の際に行われる切削作業によって発生する切削表面近傍の損傷を補修するためのものであり(特許文献1段落[0001])、切削処理が行われる現場を対象としている。このような現場では二液を混合する道具が揃っているし、このような作業を実施できる作業者が従事していると認められる。しかし、二液を混合するための道具がなかったり、あるいは、一般の消費者にとっては二液を混合して補修用材料を調製する作業は必ずしも容易ではない。本開示は使い勝手のよい補修器具を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示の一側面に係る補修器具は、容器本体部と、容器本体部内に設けられており、セメント、水及び無機酸を含むセメント含有液を収容する第一の収容部と、容器本体部内に設けられており、増粘剤を含むアルカリ溶液を収容する第二の収容部と、第一の収容部内のセメント含有液と第二の収容部内のアルカリ溶液が混ざらないように隔離している隔離手段と、セメント含有液とアルカリ溶液が隔離された状態が解除され、容器本体部内においてセメント含有液とアルカリ溶液が混合されることによって調製されるセメントスラリーを吐出する吐出口とを備える。
【0006】
上記補修器具は、容器本体部内において、セメント含有液とアルカリ溶液とが隔離された状態で収容されている。これらの二液が隔離された状態を解除することで、容器本体部内において二液を混合することができ、水硬性を有する補修用材料(セメントスラリー)を容器本体部内で容易に調製することができる。アルカリ溶液に増粘剤を配合してアルカリ溶液の粘度を高めることで、アルカリ溶液の粘度をセメント含有液の粘度に近づけることができる。アルカリ溶液の粘度とセメント含有液の粘度が近いことで、使用時に両液を容易に混合することができる。
【0007】
一態様において、アルカリ溶液に含まれる増粘剤はイオン性エマルション型増粘剤である。イオン性エマルション型増粘剤を含むアルカリ溶液とセメント含有液が混合されると、急激に粘度が上昇するため、吐出されたセメントスラリーは形状保持性に優れる。イオン性の増粘剤が形状保持性の向上に有効である理由は明らかではないが、セメントスラリー中のカルシウムイオンとのキレートの形成や分子会合などによると本発明者は推測している。増粘剤がエマルション型であることにより、アルカリ溶液に増粘剤を大量に添加した場合でもアルカリ溶液の流動性を確保することができる。
【0008】
一態様において、隔離手段は、セメント含有液とアルカリ溶液とを隔てる膜を含む。この態様に係る補修器具は、膜を破壊することによってセメント含有液とアルカリ溶液が隔離された状態を解除する機構を備える。この態様に係る補修器具は、例えば、容器本体部が可とう性を有する材質からなり、容器本体部の外部から力を加えることによって膜が破壊される構成であってもよい。
【0009】
一態様において、第二の収容部は容器本体部内において第一の収容部に囲われるように配置された小型容器を含み、隔離手段は小型容器の開口部を封止している。この態様において、隔離手段は小型容器の開口部が嵌合する凹部を有してよい。この態様に係る補修器具は、例えば、隔離手段が小型容器の開口部が封止された状態を維持するための支持部材を有し、小型容器が支持部材によって支持されている状態が解除されると、容器本体部内においてセメント含有液とアルカリ溶液が混合する。
【0010】
セメント含有液の粘度は、良好な流動性を達成する観点から、温度20℃及びせん断速度10s-1の条件で測定されるセメント含有液の粘度は、例えば1.0×102~1.2×105mPa・sであり、温度20℃及びせん断速度0.1s-1の条件で測定されるセメント含有液の粘度は、例えば1.0×103~5.0×106mPa・sである。
【0011】
容器本体部内に収容するセメント含有液及びアルカリ溶液の量は適宜設定すればよく、セメント含有液の量を100体積部とすると、アルカリ溶液の量は、例えば、1~40体積部である。セメント含有液の量は、例えば、5~1000cm3である。
【0012】
一態様において、容器本体部が筒状部材とこの筒状部材の一端を封止している端面と含み且つ吐出口が端面の中央部に形成されており、筒状部材の長手方向に移動する環状の撹拌子が容器本体部内に収容されている。撹拌子が収容されている容器本体部を振ることで、セメント含有液とアルカリ溶液をより一層容易に且つ均一に混合することができる。撹拌子が環状であることで、撹拌子によって吐出口が閉塞されることを防止できる。
【発明の効果】
【0013】
本開示によれば、使い勝手のよい補修器具が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】
図1は、本開示に係る補修器具の第一実施形態を模式的に示す断面図である。
【
図2】
図2は、
図1に示す補修器具の膜が破壊された状態を模式的に示す断面図である。
【
図3】
図3は、本開示に係る補修器具の第二実施形態を模式的に示す断面図である。
【
図4】
図4(a)は
図3のIV-IV線における断面図であり、
図4(b)は
図3に示す補修器具の上蓋を回転させることによって支持部材を切断した状態を示す断面図である。
【
図5】
図5は、本開示に係る補修器具の第三実施形態を模式的に示す断面図である。
【
図6】
図6は、
図5に示す補修器具の膜が破壊された状態を模式的に示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本開示の複数の実施形態について説明する。なお、同一の構成要素については便宜上の理由がない限り同一の符号を付け、重複する説明は省略する。
【0016】
<第一実施形態>
図1は、第一実施形態に係る補修器具を模式的に示す断面図である。この図に示す補修器具10は、水硬性を有するセメントスラリーを補修材料として利用するものである。補修器具10が未使用の状態においては、セメント含有液とアルカリ溶液は容器本体部5内において膜3(隔離手段)によって隔てられている。補修器具10が使用される際、膜3が破壊されることによって容器本体部5内でセメント含有液とアルカリ溶液が混合してセメントスラリーが調製される。以下、補修器具10の具体的な構成について説明する。
【0017】
補修器具10は、セメント含有液を収容する第一の収容部1と、アルカリ溶液を収容する第二の収容部2と、容器本体部5内においてセメント含有液とアルカリ溶液を隔てる膜3と、膜3を破壊するための押し込み機構4と、押し込み機構4が誤って膜3を破壊するのを防止するスペーサー6と、筒状の容器本体部5の一方の開口を塞ぐ上蓋7と、容器本体部5の先端に設けられた吐出口8と、吐出口8を塞ぐキャップ9とを備える。
【0018】
容器本体部5は、可とう性を有する材質の筒状の部材で構成されている。容器本体部5は、第一の収容部1と第二の収容部2とを備える。容器本体部5の全体の容量(第一の収容部1の容量と第二の収容部2の容量の合計)は、例えば5.05~2000cm3であり、下限値は6.3cm3又は7.4cm3であってよく、上限値は1900cm3又は1800cm3であってよい。第一の収容部1の容量は、例えば5~1900cm3であり、下限値は6cm3又は7cm3であってよく、上限値は1800cm3又は1700cm3であってよい。第二の収容部2の容量は、例えば0.05~600cm3であり、下限値は0.06cm3又は0.08cm3であってよく、上限値は550cm3又は500cm3であってよい。
【0019】
第一の収容部1にセメント含有液が収容されている。セメント含有液の量は、例えば5~1000cm
3であり、下限値は6cm
3又は7cm
3であってよく、上限値は900cm
3又は800cm
3であってよい。セメント含有液の量を第一の収容部1の容量よりも少ない量とすると、
図1に示すように、第一の収容部1内にセメント含有液と空気が共存した状態となる。第一の収容部1内に空気(気相部)が存在すると、膜3を破壊した後、補修器具10を振ることによってセメント含有液とアルカリ溶液が均一に混合されやすい。
【0020】
第二の収容部2にアルカリ溶液が収容されている。アルカリ溶液の量は、例えば0.05~400cm3であり、下限値は0.06cm3又は0.08cm3であってよく、上限値は350cm3又は300cm3であってよい。アルカリ溶液の量は、第二の収容部2の容量とほぼ同じであってもよいし、第二の収容部2の容量よりも少ない量であってもよい。
【0021】
膜3は、第一の収容部1と第二の収容部2とを隔てている。膜3の材質は、セメント含有液及びアルカリ溶液に対して耐性があり且つ破断され得る材質であればよい。膜3の材質として、例えば、合成樹脂、天然樹脂、アルミニウム、ケイ酸塩、アルミノケイ酸塩、鉄、ステンレス、チタン合金、ニッケル合金、ガラス等が挙げられる。
【0022】
押し込み機構4は膜3を破壊するためのものである。押し込み機構4は、円筒状のロッド部4aと、ロッド部4aよりも外径が大きい先端部4bとを有する。ロッド部4aは、上蓋7に設けられた孔7aを通じて第二の収容部2の内部であって膜3の近傍にまで至っている。先端部4bと上蓋7との間に環状のスペーサー6を配置することで、押し込み機構4が誤って膜3を破壊することを防止できる。上蓋7の孔7aの内周面にはパッキンが装着されており、アルカリ溶液が漏れないようになっている。
【0023】
スペーサー6を外した後、押し込み機構4を容器本体部5側に押し込むことによって、ロッド部4aの先端で膜3が破壊され、セメント含有液とアルカリ溶液が隔離された状態が解除される。
図2は補修器具10の膜3が破壊された状態を模式的に示す断面図である。押し込み機構4を元の位置にまで戻すと、膜3の破断部を通じて第二の収容部2内のアルカリ溶液が第一の収容部1に流れ込む。補修器具10を振ることで、容器本体部5内においてセメント含有液とアルカリ溶液が混合されてセメントスラリーが調製される。なお、ロッド部4aが誤って孔7aから抜けないようにするには、ロッド部4aの側面の所定の位置に突起4cを設ければよい。
【0024】
補修器具10をよく振った後、キャップ9を外し、可とう性を有する容器本体部5に外側から力を加えることによって吐出口8からセメントスラリーを吐出させることができる。例えば、セメントスラリーを壁や床のひび割れやポットホールに注入することで壁や床を補修することができる。
【0025】
本実施形態の補修器具10によれば、セメント含有液及びアルカリ溶液が膜3によって隔てられて収容されている状態においては、セメントの水和反応は進行せず、膜3が破断されて両者が混合されることでセメントの水和反応を進行させることができる。このため、水硬性を有する補修用材料(セメントスラリー)を容器本体部内で容易に調製することができる。以下、セメント含有液、アルカリ溶液及びセメントスラリーについて説明する。
【0026】
(セメント含有液)
セメント含有液は、セメント、水及び無機酸を含む。セメント含有液は、アルカリ溶液が混合されることによって水硬性を有するセメントスラリーとなる。
【0027】
セメントは特に限定されないが、例えば、普通ポルトランドセメント、早強ポルトランドセメント、超早強ポルトランドセメント、中庸熱ポルトランドセメント、低熱ポルトランドセメント、高炉セメント、フライアッシュセメント、シリカフュームセメント、アルミナセメント等であってよい。セメントは、一種を単独で又は二種以上を組み合わせて用いることができる。
【0028】
セメントの少なくとも一部として、アルミナセメントを用いることが好ましい。アルミナセメントは特に限定されないが、アルミナ含有量が比較的高いものを用いるとよく、例えばアルミナ高含有アルミナセメント、アルミナ中含有アルミナセメントを用いることができる。アルミナ高含有アルミナセメントはアルミナ含有量がアルミナセメントの総質量の60質量%以上であり、アルミナ中含有アルミナセメントはアルミナ含有量が45質量%~60質量%である。
【0029】
水は特に限定されないが、例えば、水道水、蒸留水、脱イオン水等を使用することができる。水の含有量は、セメント100質量部に対して好ましくは20~100質量部、より好ましくは25~90質量部、更に好ましくは30~80質量部である。
【0030】
無機酸は、メタリン酸、亜リン酸、リン酸、又はホスホン酸を含むことが好ましい。メタリン酸、亜リン酸、リン酸、又はホスホン酸を含む無機酸としては、例えば、五酸化二リン、二リン酸、三リン酸、アミノトリメチレンホスホン酸、2-アミノエチルホスホン酸、1-ヒドロキシエチリデン-1,1-ジホスホン酸、エチレンジアミンテトラメチレンホスホン酸、テトラメチレンジアミンテトラメチレンホスホン酸、ヘキサメチレンジアミンテトラメチレンホスホン酸、ジエチレントリアミンペンタメチレンホスホン酸、ホスホノブタントリカルボン酸、N-(ホスホノメチル)イミノ二酢酸、2-カルボキシエチルホスホン酸、2-ヒドロキシホスホノカルボン酸等であってよい。無機酸は、一種を単独で又は二種以上を組み合わせて用いることができる。無機酸の含有量は、セメント100質量部に対して好ましくは0.1~20質量部、より好ましくは0.1から15質量部、更に好ましくは0.1~10質量部、特に好ましくは0.3~10質量部である。
【0031】
セメント含有液は、セメント、水及び無機酸以外に、増粘剤、骨材、インク、顔料、分散剤、凝結調整剤、膨張材、収縮低減剤、石膏、消泡剤、短繊維等を含有してもよい。
【0032】
増粘剤は、キサンタンガム、ダイユータンガム、スターチエーテル、グアガム、ポリアクリルアミド、カラギーナンガム、寒天、粘土鉱物系のベントナイト等を含むことが好ましい。増粘剤は、一種を単独で又は二種以上を組み合わせて用いることができる。また上述の増粘剤に、セルロース系、蛋白質系、ラテックス系、水溶性ポリマー系増粘剤等を組み合わせて用いることができる。
【0033】
骨材は、細骨材、粗骨材等を使用できる。細骨材は特に限定されず、川砂、陸砂、海砂、砕砂、珪砂、硬質高炉スラグ細骨材、高炉スラグ細骨材、銅スラグ細骨材、電気炉酸化スラグ細骨材等を使用することができる。粗骨材は特に限定されず、砂利、砕石、高炉スラグ粗骨材、電気炉酸化スラグ粗骨材等を使用できる。なお、JIS A 0203:2014「コンクリート用語」に規定されるように、細骨材とは10mm網ふるいを全部通り、5mm網ふるいを質量で85%以上通る骨材であり、粗骨材とは5mm網ふるいに質量で85%以上とどまる骨材である。セメント含有液が骨材として細骨材のみを含む場合、セメント含有液の骨材の含有量は、セメントと骨材との質量の合計を基準として、例えば70質量%以下であり、65質量%以下又は60質量%以下であってよい。セメント含有液が骨材として細骨材及び粗骨材を含む場合、セメント含有液の骨材の含有量は、セメントと骨材との質量の合計を基準として、例えば90質量%以下であり、87質量%以下又は85質量%以下であってよい。また、前記骨材における細骨材の含有割合は、好ましくは20~80質量%、より好ましくは30~70質量%、更に好ましくは40~55質量%である。
【0034】
骨材を含むセメント含有液とアルカリ溶液の混合物である水硬性組成物は、例えば水硬性モルタルである。セメント含有液が骨材を含む場合、流動性確保の面からモルタルフローは0打フローで105mm以上であることが好ましく、更に好ましくは107mm以上である。水硬性モルタルのモルタルフローは0打フローで103mm以下であることが好ましく、更に好ましくは102mm以下である。
【0035】
セメント含有液の粘度は、送液時の良好な流動性を達成する観点から、温度20℃及びせん断速度10s-1の条件で、例えば、1.0×102~1.0×105mPa・sであることが好ましい。温度20℃及びせん断速度0.1s-1の条件で測定されるセメント含有液の粘度は、例えば、1.0×103~5.0×106mPa・sであってよい。セメント含有液の粘度は、例えば、水セメント比や増粘剤の配合量を調節することで調整することができる。
【0036】
(アルカリ溶液)
アルカリ溶液は、アルカリ源と増粘剤とを含む。アルカリ溶液は、pHが7より大きく14以下の溶液であれば特に限定されないが、pHが9以上14以下の溶液であることが好ましい。アルカリ溶液としては、例えば、水酸化ナトリウム、アミン、アルカノールアミン、オルトケイ酸ナトリウム、水酸化リチウム、アミノメチルプロパノール、水酸化カルシウム、水酸化カリウム、アルミン酸ナトリウム等を含む溶液であってよい。
【0037】
アルカリ溶液の量は、セメントスラリーの調製に使用するセメント含有液の量を100体積部とすると、例えば、1~40体積部であってよく、下限値は1.2体積部又は1.4体積部であってよく、上限値は35体積部又は30体積部であってよい。
【0038】
アルカリ溶液の調製に使用する増粘剤は、セメント含有液に必要に応じて配合されるものと同様のものであってもよいし、他の増粘剤であってもよい。他の好適な増粘剤として、イオン性エマルション型増粘剤が挙げられる。イオン性増粘剤としてはアクリル酸系金属塩ポリマー、メタクリル酸系金属塩ポリマー、第四級アンモニウム塩系ポリマー、アクリルアミド系ポリマー、アクリル酸系四級アンモニウム塩ポリマー、メタクリル酸系四級アンモニウム塩ポリマーカルボン酸系ポリマーを例示することができる。エマルションはこれらの高分子が乳化した状態であり、使用時にアルカリ溶液に添加することで可溶化される。増粘剤がエマルション型であることにより、アルカリ溶液に増粘剤を大量に添加した場合でもアルカリ溶液の流動性を確保することができる。
【0039】
アルカリ溶液の粘度は特に限定されず、例えば、温度20℃及びせん断速度10s-1の条件で測定されるアルカリ溶液液の粘度は、例えば、2.0×102~2.0×104mPa・sであり、下限値は2.5×102mPa・s又は3.0×102mPa・sであってよく、上限値は1.8×104mPa・s又は1.9×104mPa・sであってよい。
【0040】
(セメントスラリー)
容器本体部5から吐出されるセメントスラリーの可使時間は、セメント含有液及びアルカリ溶液の水セメント比、アルカリ溶液の溶質量、溶質の種類、石膏量、無機酸の濃度等を変えることにより、調整することができる。上記可使時間は、例えば、10秒~300分であり、下限値は20秒又は30秒であってよく、上限値は250分又は200分であってよい。
【0041】
セメントスラリーは、セメント含有液及びアルカリ溶液以外に、着色成分を含んでいてもよい。着色成分としては、ペンキ、顔料等が挙げられる。着色成分は、セメントスラリーを得るまでの任意の工程で投入すればよく、例えば、セメント含有液又はアルカリ溶液に含有していてもよい。なお、十分に均一に着色されたセメントスラリーを容器本体部5で調製する観点から、アルカリ溶液と比較して使用量の多いセメント含有液に着色成分が予め含まれていることが好ましい。
【0042】
<第二実施形態>
図3は第二実施形態に係る補修器具を模式的に示す断面図である。
図4(a)は
図3のIV-IV線における断面図であり、
図4(b)は補修器具20の上蓋17を時計回りに回転させることによって支持部材13を切断した状態を示す断面図である。これらの図に示す補修器具20は、アルカリ溶液を収容する小型容器12の開口部12aが上蓋17の凹部17aによって封止されていることによってセメント含有液とアルカリ溶液が隔てられている点において補修器具10と相違し、その他の構成(例えば、第一の収容部の容量等)は補修器具10と同様であってよい。補修器具20の構成について、補修器具10と相違する点について主に説明する。
【0043】
補修器具20は、セメント含有液を収容する第一の収容部11と、アルカリ溶液を収容する小型容器12(第二の収容部)と、小型容器12を支持する支持部材13と、支持部材13を切断するカッター14と、筒状の容器本体部15の一方の開口を塞ぐ上蓋17と、容器本体部15の先端に設けられた吐出口18と、吐出口18を塞ぐキャップ19とを備える。上蓋17の内面には凹部17aが形成されており、凹部17aに小型容器12の開口部12aが嵌合している。小型容器12は、支持部材13によって上蓋17の凹部17aに押し付けられて、小型容器12の開口部12aが封止された状態が維持されている。これにより、この状態ではセメント含有液とアルカリ溶液が混合しないようになっている。
【0044】
支持部材13は、樹脂製(例えば、ポリエチレン製)の部材からなる。
図4(b)に示すように、上蓋17を回転させることによって、カッター14で支持部材13が切断される。支持部材13が切断されると、小型容器12が上蓋17の凹部17aから外れ、アルカリ溶液とセメント含有液が混ざり合う。補修器具20を振ることで、容器本体部15内においてセメント含有液とアルカリ溶液が混合されてセメントスラリーが調製される。このとき、小型容器12は容器本体部15内において撹拌子の役割を果たす。
【0045】
<第三実施形態>
図5は第三実施形態に係る補修器具を模式的に示す断面図である。
図6は
図5に示す補修器具30の膜23が破壊された状態を模式的に示す断面図である。補修器具30は、第一の容器21(第一の収容部)の先端部21aによって膜23が破壊される点において補修器具10と相違し、その他の構成(例えば、第一の収容部の容量等)は補修器具10と同様であってよい。補修器具30の構成について、補修器具10と相違する点について主に説明する。
【0046】
補修器具30は、セメント含有液を収容する第一の容器21と、アルカリ溶液を収容する第二の容器22(第二の収容部)と、容器本体部25内においてセメント含有液とアルカリ溶液を隔てる膜23と、膜23を破壊するための第一の容器21の先端部21aと、第一の容器21の外面21fと第二の容器22の内面22fとをシールするパッキン26と、第一の容器21内に収容された撹拌子27と、容器本体部25に設けられた吐出口28と、吐出口28を塞ぐキャップ29とを備える。なお、本実施形態においては、第一の容器21と第二の容器22とによって容器本体部25が構成されている。
【0047】
図5に示すように、第一の容器21の先端部21aは斜めに形成されている。第一の容器21が膜23の方向に相対的に押し込まれることによって、先端部21aで膜23が破壊される(
図6参照)。膜23が破壊されると、膜23の破断部を通じて第二の容器22内のアルカリ溶液が第一の容器21に流れ込む。補修器具30を振ることで、容器本体部25内においてセメント含有液とアルカリ溶液が混合されてセメントスラリーが調製される。
【0048】
撹拌子27は容器本体部25内に収容されている。撹拌子27は容器本体部25内において、その長手方向に移動する。容器本体部25内に撹拌子27があることで、セメント含有液とアルカリ溶液をより一層容易に且つ均一に混合することができる。撹拌子27は環状(例えば、円環状又はC字状)である。撹拌子27が環状であることで、撹拌子27によって吐出口28が閉塞されることを防止できる。すなわち、吐出口28が第一の容器21(筒状部材)の一端を封止している端面28aであってその中央部に形成されている場合、撹拌子27がセメントスラリーの流れを阻害することを十分に抑制できる。
【0049】
以上、本開示の実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではない。例えば、第一実施形態においてロッド部4aによって膜3を破壊する場合、及び、第三実施形態において第一の容器21の先端部21aによって膜23を破壊する場合を例示したが、例えば、可とう性の容器本体部に対して外部から力を加えることで膜が破壊される構成であってもよい。例えば、容器本体部を押す、捻る、潰す、折るなどすることで膜が破壊されてもよい。また、第二実施形態において、カッター14で支持部材13を切断することによって小型容器12を上蓋17から分離させることによってセメント含有液とアルカリ溶液が混合する場合を例示したが、例えば、可とう性の容器本体部15に対して外部から力を加えることで小型容器12を上蓋17から分離させたり、小型容器12を破壊させたりしてもよい。
【0050】
セメント含有液、アルカリ溶液及びこれらを混合して調製されるセメントスラリーの評価試験を以下のとおり実施した。
【0051】
<せん断粘度の測定方法>
材料及び試料のせん断粘度を以下のようにして測定した。すなわち、Anton Paar社製レオメーターReolabQCに共軸二重円筒治具CC27及び羽根型測定治具ST14-4V-35を取り付けた。温度20℃、せん断速度0.1s-1及び10s-1の条件下でそれぞれ180秒測定した。なお、測定には、練り混ぜ後3分経過した試料を用いた。なお、表中で“M-”と表記したものに関しては、粘度が低いために、装置のトルク検出限界以下であったことを示す。
【0052】
<形状保持性評価>
練り混ぜ後3分経過した試料を円筒カップに入れ、135°傾けて10秒保持し、以下の評価基準に基づいて形状保持性を評価した。
〇:135°傾けた状態で流れなかった。
×:135°傾けた状態で流れた。
【0053】
<フロー試験>
「JIS R 5201:セメントの物理試験方法」に準拠してフロー試験を実施した。なお、試料は練り混ぜ後3分経過したものを用い、フロー値はフローコーンを取り除いた直後の状態におけるフロー値MF0(0打時のフロー)と、15打後のフロー値MF15を測定した。なお、フローコーンの底面の直径はφ100mmである。
【0054】
<使用材料>
以下の材料を準備した。
・水硬性結合材:アルミナ高含有アルミナセメント(Al2O3:68.7%)及び半水石膏(アルミナセメント:半水石膏=70:30)
・無機酸:リン酸(濃度:85wt%)
・セメント含有液A0:上記水硬性結合材100質量部に対して水51.2質量部及び上記無機酸1.6質量部を配合したもの(MF0:203mm)
・アルカリ溶液B0:NaOH水溶液(濃度:3mol/L)
・増粘剤C:アクリル酸系ポリマー/アニオン性/エマルション(温度20℃及びせん断速度10s-1の条件で測定される固形分35%の製品の粘度2.69×102mPa・s)
・増粘剤D:メタクリレート4級アンモニウム塩ポリマー/カチオン性/エマルション(温度20℃及びせん断速度10s-1の条件で測定される固形分35%の製品の粘度5.20×101mPa・s)
・増粘剤E:4級アンモニウム塩系ポリマー/カチオン性/エマルション(温度20℃及びせん断速度10s-1の条件で測定される固形分40%の製品の粘度1.03×103mPa・s)
・増粘剤F:アクリルアミド系ポリマー/ノニオン性/エマルション(温度20℃及びせん断速度10s-1の条件で測定される固形分35%の製品の粘度6.68×102mPa・s)
・増粘剤G:ダイユータンガム/アニオン性/粉末
・増粘剤H:セルロース系/ノニオン性/粉末
・砂:鹿島6号珪砂(高野商事株式会社製)
【0055】
表1に各材料のせん断粘度を示す。なお、増粘剤G,Hは粉末のため、せん断粘度の測定ができなかった。
【0056】
【0057】
(セメント含有液A1の調製)
セメント含有液A0(100質量部)及び砂(セメント含有液A0に含まれる水硬性結合材と同じ質量)をプラスチック製容器に入れ、スリーワンモーター(撹拌翼:ディスクタービン型)を用いて、回転数1200rpmで1分間練り混ぜた。これによりセメント含有液A1(モルタル、水/結合材=0.51、砂/結合材=1.0)を得た。表2にセメント含有液A1のせん断粘度及び評価結果を示す。
【0058】
(セメント含有液A2の調製)
砂の量を1.5倍に増やしたことの他は、セメント含有液A1と同様にしてセメント含有液A2を調製した。すなわち、セメント含有液A2の水/結合材は0.51とし、砂/結合材は1.5とした。表2に結果を示す。
【0059】
(セメント含有液A3の調製)
水及び砂の量を変更したことの他は、セメント含有液A1と同様にしてセメント含有液A3を調製した。すなわち、セメント含有液A3の水/結合材は0.6とし、砂/結合材は2.0とした。表2に結果を示す。
【0060】
【0061】
(アルカリ溶液B1の調製)
100mL容積のガラス製スクリュー管に、アルカリ溶液B0(100質量部)及び増粘剤C(11.6質量部)を入れた後、蓋をして手で振り混ぜた。試料を安定させるため、そのまま24時間静置した。表3に結果を示す。
【0062】
(アルカリ溶液B2~B4の調製)
増粘剤Cの代わりに、増粘剤D~Fをそれぞれ使用したことの他は、アルカリ溶液B1と同様にして、アルカリ溶液B2~B4を調製した。表3に結果を示す。
【0063】
(アルカリ溶液B5)
アルカリ溶液B0(100質量部)をプラスチック製容器に入れ、スリーワンモーター(撹拌翼:ディスクタービン型)を用いて回転数1200rpmで撹拌しながら、増粘剤G(11.6質量部)をダマにならないように加えた。増粘剤Gを全量加えた後に、回転数1200rpmで更に1分間練り混ぜた。試料を安定させるため、水が蒸発しないように蓋をし、そのまま24時間静置した。表3に結果を示す。
【0064】
(アルカリ溶液B6)
増粘剤Gの代わりに、増粘剤Hを使用したことの他は、アルカリ溶液B5と同様にして、アルカリ溶液B6を調製した。表3に結果を示す。
【0065】
【0066】
[試験例1]
セメント含有液A0(100質量部)を収容しているプラスチック製容器にアルカリ溶液B1(6.83質量部)を加え、スリーワンモーター(撹拌翼:ディスクタービン型)を用いて、回転数1200rpmで20秒間練り混ぜた。これにより、水硬性ペーストP1を得た。表4に結果を示す。
【0067】
[試験例2]
アルカリ溶液B1の代わりに、アルカリ溶液B2を使用したことの他は、試験例1と同様にして水硬性ペーストP2を得た。表4に結果を示す。
【0068】
[試験例3]
アルカリ溶液B1の代わりに、アルカリ溶液B3を使用したことの他は、試験例1と同様にして水硬性ペーストP3を得た。表4に結果を示す。
【0069】
[比較例1]
セメント含有液A0(100質量部)を収容しているプラスチック製容器にアルカリ溶液B0(6.11質量部)を加え、スリーワンモーター(撹拌翼:ディスクタービン型)を用いて、回転数1200rpmで20秒間練り混ぜた。これにより、水硬性ペーストP4を得た。表4に価結果を示す。
【0070】
【0071】
[試験例4]
セメント含有液A1(100質量部)を収容しているプラスチック製容器にアルカリ溶液B1(4.16質量部)を加え、スリーワンモーター(撹拌翼:ディスクタービン型)を用いて、回転数1200rpmで20秒間練り混ぜた。これにより、水硬性モルタルM1を得た。表5に結果を示す。
【0072】
[試験例5]
セメント含有液A1の代わりに、セメント含有液A2を使用したことの他は、試験例4と同様にして水硬性モルタルM2を得た。表5に結果を示す。
【0073】
[試験例6]
セメント含有液A1の代わりに、セメント含有液A3を使用したことの他は、試験例4と同様にして水硬性モルタルM3を得た。表5に結果を示す。
【0074】
【符号の説明】
【0075】
1,11…第一の収容部、2…第二の収容部、3,23…膜(隔離手段)、4…押し込み機構、4a…ロッド部、5,15,25…容器本体部、7,17…上蓋、8,18,28…吐出口、10,20,30…補修器具、12…小型容器(第二の収容部)、13…支持部材(隔離手段)、14…カッター、17a…凹部(隔離手段)、21…第一の容器(第一の収容部)、22…第二の容器(第二の収容部)、27…撹拌子