(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-04
(45)【発行日】2024-03-12
(54)【発明の名称】電解質測定装置
(51)【国際特許分類】
G01N 27/416 20060101AFI20240305BHJP
G01N 27/26 20060101ALI20240305BHJP
G01N 27/333 20060101ALI20240305BHJP
【FI】
G01N27/416 366B
G01N27/26 371A
G01N27/333 331Z
(21)【出願番号】P 2020102837
(22)【出願日】2020-06-15
【審査請求日】2023-02-06
(73)【特許権者】
【識別番号】501387839
【氏名又は名称】株式会社日立ハイテク
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】松下 祐福
(72)【発明者】
【氏名】岸岡 淳史
(72)【発明者】
【氏名】原田 邦男
(72)【発明者】
【氏名】三宅 雅文
【審査官】小澤 理
(56)【参考文献】
【文献】特表2012-528329(JP,A)
【文献】登録実用新案第3212682(JP,U)
【文献】特開平02-236168(JP,A)
【文献】特開昭63-216533(JP,A)
【文献】特開2020-052005(JP,A)
【文献】特開2011-102729(JP,A)
【文献】特開2019-219407(JP,A)
【文献】特開平01-209348(JP,A)
【文献】特表平06-510463(JP,A)
【文献】特開2006-170973(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 27/416
G01N 27/26
G01N 27/333
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
Scopus
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
イオン選択性電極を用いて試料液に含まれる電解質の濃度を測定する電解質測定装置であって、
前記イオン選択性電極と参照電極の電位差を測定する電位測定部、
前記電位測定部にて測定された電位差を用いて前記濃度を算出する濃度算出部、
試料液などの液体が導入される流路、
前記イオン選択性電極と接続する前記流路に接続された
第1ノイズ検出電極、
前記流路に接続された第1ノイズ検出電極とは別の位置に設置された複数の第2ノイズ検出電極、
前記
第1および第2ノイズ検出電極の電位を測定するノイズ検出部、
前記電位測定部が測定した電位差からノイズを減殺するノイズ除去部、
を備え、
前記ノイズ除去部は、前記ノイズ検出部が検出した前記
第1および第2ノイズ検出電極の電位を用いて、前記電位測定部が測定した電位から前記ノイズを減殺
し、
前記ノイズ検出部は、前記第1ノイズ検出電極および前記複数の第2ノイズ検出電極の電位を測定することにより、ノイズのうち前記第1ノイズ検出電極および前記複数の第2ノイズ検出電極の設置位置に対応する箇所から混入した電流に起因するものを特定する
ことを特徴とする電解質測定装置。
【請求項2】
生体に対して着脱することができるように構成されていることを特徴とする請求項1記載の電解質測定装置。
【請求項3】
前記電解質測定装置はさらに、前記イオン選択性電極において発生する電界ノイズを、前記試料液が流れる流路と直接接触せずに検出する、電界ノイズ検出電極を備え、
前記ノイズ除去部は、前記電界ノイズ検出電極が検出した前記電界ノイズを用いて、前記電位測定部が測定した電位を補正する
ことを特徴とする請求項1記載の電解質測定装置。
【請求項4】
前記電解質測定装置は前記電界ノイズ検出電極を少なくとも二つ以上備え、
前記ノイズ除去部は、前記電界ノイズ検出電極が検出した前記電界ノイズを用いて、前記電位測定部が測定した電位の補正、ならびに発生した電界形状を特定する
ことを特徴とする請求項
3記載の電解質測定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電解質測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
血液をはじめとする生体試料中のカリウム、ナトリウム、塩化物などのイオン濃度を測定するために、検出するイオンに対応した複数のイオン選択性電極(Ion Selective Electrode:ISE)を有する電解質分析ユニットが、自動分析装置などの装置に搭載されている。電解質分析ユニットは、臨床検査を自動、迅速、かつ連続的に実施できるので、電解質分析ユニット単独で、あるいは生化学自動分析装置などの装置の要素として、用いられている。
【0003】
イオン濃度を測定する際、イオン選択性電極は参照電極と組み合わせて用いられ、イオン選択性電極と参照電極との間に生じる電位差を測定することにより、目的のイオン濃度が求められる。臨床検査の分野では、生体試料である血液(特に血清や血漿)、尿などの検体に含まれるイオン濃度を定量する必要性が高い。これらの検体をそのままイオン選択性電極を用いて測定する、いわゆる非希釈法を用いて測定する場合がある。また、所定量の検体に所定量の希釈液を添加して希釈した後、イオン選択性電極を用いて測定する、いわゆる希釈法を用いる場合もある。
【0004】
希釈法は、検体の必要量が少なく、また測定液中のタンパク質や脂質などの共存物の濃度が低く、共存物による汚れの影響が少なく、イオン選択性電極の安定性が高い特長をもつ。
【0005】
臨床検査を迅速、かつ連続的に実施するために、イオン選択性電極内部を検体(測定液)が流れ、参照電極内部を参照液が流れる、フローセル型イオン選択性電極が用いられている。電解質測定装置においては、希釈法とフローセル型イオン選択性電極の組み合わせが現在主流となっている。検体の希釈には希釈槽と呼ばれる容器が用いられ、希釈槽に準備した希釈済みの検体は、配管を通してフローセル型イオン選択性電極へ送られて測定される。内部標準液を検体と交互に希釈槽に分注し、検体と交互に測定する。
【0006】
生体中の電解質濃度は、通常、狭い濃度範囲に維持されており、臨床上や治療上、わずかな濃度変化であっても重大な意味を持つ。したがって、イオン選択性電極には極めて高い測定精度が要求され、測定誤差を極力低減するために様々な技術が開発されている。
例えば特許文献1には、測定流路と廃液配管の溶液の流れを不連続となるように断絶することにより、電気的導通を断つことができ、排液配管および排液タンクに誘導されたノイズを測定流路の電極に混入させないように構成された、電解質測定装置が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
イオン選択性電極と参照電極との間の電位差を測定する電解質分析ユニットは、測定系に対して混入する電気ノイズにより、正常な電位が出力されなくなる。これらの電気ノイズは、測定系と電気的に接続される構成要素の機微な状態変化や、分析装置の設置環境などに由来する。
【0009】
特許文献1に代表される従来の分析装置においては、測定系の電気的遮蔽や、機構部品が動作しないタイミングにおいて測定を実施するなどの定量精度の向上を図る方法が一般的であり、それによって設計の自由度が制限されてしまうという課題があった。
【0010】
本発明は、上記のような課題に鑑みてなされたものであり、イオン選択性電極を用いて電解質を検出する場合において、電気的なノイズを補正することにより、設計の自由度を制限されることなく、定量精度の高い測定を実現する電解質測定装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明に係る電解質測定装置は、流路に接続されたノイズ検出電極を備え、ノイズ検出電極の電位を用いて、イオン選択性電極の電位に含まれるノイズを減殺する。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係る電解質測定装置によれば、イオン選択性電極を用いて電解質を検出する場合において、電気的なノイズを補正することにより、設計の自由度を制限されることなく、定量精度の高い測定を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】実施形態1に係る電解質測定装置100の構成を示す概略図である。
【
図2】電解質測定ユニット1の各部が有する電気抵抗を示す図である。
【
図4】電解質測定装置100を用いて、I
SとI
Rが検出された条件におけるVとV-V
Sを計測した結果を示す。
【
図5】電解質測定装置100を用いた分析手順を説明するフローチャートである。
【
図6】実施形態2における電解質測定ユニット1の構成図である。
【
図7】実施形態3に係る電解質測定ユニット1の構成図である。
【
図8】実施形態4に係る電解質測定装置100の構成図である。
【
図9】実施形態5における電解質測定ユニット1の構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
<実施の形態1>
<電解質測定装置の構成例>
図1は、本発明の実施形態1に係る電解質測定装置100の構成を示す概略図である。
図1に示すように、電解質測定装置100は、電解質測定ユニット1、表示部2、入力部3、制御部4、濃度算出部5、ノイズ除去部6、ノイズ検出部7、電位測定部8、を備える。
【0015】
電解質測定ユニット1は、3種類のイオン選択性電極101(塩素イオン電極101a、カリウムイオン電極101b、ナトリウムイオン電極101c)、ノイズ検出電極102、参照電極104、ピンチ弁105、真空吸引ノズル106、シッパーノズル107、希釈液供給ノズル108、内部標準液供給ノズル109、希釈槽110、廃液タンク111、真空ポンプ112、電磁弁121~127、内部標準液用シリンジポンプ131、希釈液用シリンジポンプ132、シッパーシリンジポンプ133、内部標準液ボトル141、希釈液ボトル151及び参照液ボトル161を備える。
【0016】
イオン選択性電極101としては、例えばフローセル型イオン選択性電極を用いることができる。イオン選択性電極101内のイオン電極の数は、測定対象となるイオン種の数に応じて変更することができる。イオン選択性電極101は、サンプル(試料)中のイオン濃度に応じた電位を発生する。
【0017】
ノイズ検出電極102は、シッパーノズル107より引き込まれた試料液と接触し、ノイズ検出部7と電位測定部9においてそれぞれ共通のグラウンドとの間の電位差を測定する。ノイズ検出電極102は試料液との接触によって発生する起電力ができる限り小さく、イオン選択性の低い材質が望ましい。例えば、金や白金などの貴金属や、合金などが挙げられる。あるいは、当該条件を満たすコーティング剤で試料液と接触する表面を被覆したものを用いてもよい。
【0018】
参照液ボトル161には参照液が収容されており、参照液はシッパーシリンジポンプ133により参照電極104内の流路に導入される。参照液として、例えば塩化カリウム水溶液などを用いることができる。参照電極104は、参照液中のイオン濃度に応じた電位を発生する。
【0019】
内部標準液ボトル141には内部標準液(IS)が収容されており、内部標準液は内部標準液用シリンジポンプ131及び内部標準液供給ノズル109により希釈槽110に分注される。
【0020】
検体は、図示しないサンプリング機構により希釈槽110に分注される。希釈液ボトル151には希釈液が収容されており、希釈液は希釈液用シリンジポンプ132及び希釈液供給ノズル108により希釈槽110に分注されて検体と混合される。このように、希釈槽110には、内部標準液、もしくは、検体と希釈液とが混合された測定液(以下、「サンプル」という)が導入される。
【0021】
希釈槽110内に満たされた液体を測定流路内へ充填する際の動作について説明する。まず、イオン選択性電極101内の流路に希釈槽110内に満たされた液を導入する際は、電磁弁121と電磁弁125を閉じ、ピンチ弁105と電磁弁122を開け、シッパーノズル107を希釈槽110の中に降下させ、シッパーシリンジポンプ133を引く。
【0022】
続いて、参照電極104内の流路に参照液を導入する際は、電磁弁121を開け、ピンチ弁105を閉じ、シッパーシリンジポンプ133を引くことで、参照液ボトル161から参照液が参照電極104内の流に導入される。また、シッパーシリンジポンプ133にたまった液を排出するために、電磁弁122を閉じ、電磁弁125を開け、シッパーシリンジポンプ133を押す。
【0023】
参照電極104内の流路に導入された参照液と、イオン選択性電極101に導入されたサンプルは、液絡部120において接触し、イオン選択性電極101と参照電極104とが液を通じて電気的に接続された状態となる。
【0024】
イオン選択性電極101内の流路にサンプルが導入され、参照電極104内の流路に参照液が導入された後、真空吸引ノズル106を降下し、真空ポンプ112を駆動することにより、希釈槽110内に残った液体(サンプル又は内部標準液)が吸引され、廃液タンク111に廃棄される。参照電極104に導入された参照液は、電磁弁121、真空ポンプ112及びシッパーシリンジポンプ133を操作することにより廃液タンク111に廃棄される。
【0025】
イオン選択性電極101内の流路に導入されたサンプル中の分析対象のイオン濃度によって、参照電極104と各イオン選択性電極101との間の電位差(起電力)が変化する。電位測定部9は、その起電力を測定し、測定結果(起電力の時間推移など)を濃度算出部5に出力する。以下において、「起電力」を単に「電位」という場合がある。電位が測定される期間のうち、イオン濃度を算出するための時間を含む所定の時間幅を「所定の時間領域」という場合がある。
【0026】
次に、本構成において、シッパーノズル107、参照液ボトル161から測定系の間で発生するノイズの具体的な補正方法について説明する。
【0027】
図2は、電解質測定ユニット1の各部が有する電気抵抗を示す図である。イオン選択性電極101に発生する電流値をI
S、参照電極104に発生する電流値をI
Rとし、試料液と参照液による流路の電気抵抗201、202、203と、各電極の電気抵抗204、205、206、207、208の抵抗値をそれぞれR1、R2、R3、R4、R5、R6、R7とする。電気抵抗207はその他の電気抵抗に比べて十分に小さいものとする。イオン選択性電極101と試料液の接触によって発生する起電力をE
ISE、ノイズ検出電極102と試料液の接触によって発生する起電力をE
X、参照電極104と参照液の接触によって発生する起電力をE
REFとする。ノイズ検出部7で取得される測定電圧をV、電位測定部9で取得される測定電圧をV
Sとする。電流I
SとI
Rが検出された条件におけるVとV
Sは次式で記述される。
【0028】
V=EISE-EREF+IS×R2+(IS+IR)×R3 (1)
【0029】
VS=Ex-EREF+IS×R2+(IS+IR)×R3 (2)
【0030】
VからVSを差し引くことにより、ISとIRによって発生するノイズを補正し、式3を得ることができる。ノイズ除去部6は、式3を用いて、電位測定部8が測定した電位に含まれるノイズを補正する(ノイズ成分を減殺する)。
【0031】
V-VS=EISE-Ex (3)
【0032】
図3は、電解質測定ユニット1の変形例を示す。この変形例では、参照液と接触し、かつ参照電極104が配置された流路位置の電位と同電位となる位置に、ノイズ検出電極102を備える。この形態では、参照液からの電流I
Rのみがノイズとして影響するケースにおいて有効であるものの、ノイズ検出電極は参照液とのみ接触するので、E
xは毎測定同じであるとみなすことができる。したがって式3のE
ISEは、VとV
Sの測定結果から求めることができる。ノイズ除去部6はこの原理にしたがって補正操作を実施することができる。なお、液絡部120から廃液タンク111に接続した流路には、試料液、内部標準液、参照液を含む廃液がシリンジポンプ133によって引き込まれ、廃液タンク111に排出される。参照液と試料液のイオン濃度や温度などが異なる場合、廃液流路に流れてくる液体の混合比は経時的に一定ではないため、廃液流路の液体のイオン濃度や温度は測定毎に変動する。そのため、当該流路にノイズ検出電極を備えた場合、測定される電位には検出したいノイズ由来の電位変化に加えて液のイオン濃度や温度などの変化による電位変化が含まれる可能性が高いため、ノイズ検出電極の設置には適さない。
【0033】
その他のノイズ補正方法として、ノイズ検出電極を用いず、複数のイオン選択性電極の値から、流路に混入する電気ノイズの変動を補正する方法も考えられる。しかし、電解質濃度による電位値の変動を考慮しなければならないことや、それぞれの電極で用いられるイオン選択性膜の寄生容量が異なるなどが原因となり、電気ノイズによる電位への影響がそれぞれの電極によって異なる。したがって、式(3)による補正はできない。これらの課題を回避するためには、測定毎に電位のキャリブレーションを実施するなどの追加操作などが必要となるので、本発明が目的とする測定シーケンスの自由度を低減してしまう可能性がある。よって、イオン選択性の低い材質を用いたノイズ検出電極が用いることが望ましい。
【0034】
図4は、電解質測定装置100を用いて、I
SとI
Rが検出された条件におけるVとV-V
Sを計測した結果を示す。本結果から、ノイズ補正後は計測結果の変動幅が10倍以上低減されていることを確認できる。
【0035】
図5は、電解質測定装置100を用いた分析手順を説明するフローチャートである。以下
図5の各ステップを説明する。
【0036】
ステップS501において、ユーザが入力部3から動作開始の指示を入力することにより、制御部4は、電解質測定ユニット1を駆動し、測定動作を開始する。
【0037】
ステップS502において、電解質測定ユニット1は、内部標準液用シリンジポンプ131、電磁弁123及び126を駆動して、内部標準液供給ノズル109から、希釈槽110に内部標準液を導入し、測定流路に内部標準液を導入する。
【0038】
ステップS503において、電位測定部9は、参照電極104と各イオン選択性電極101との電位差(起電力)を測定し、ノイズ除去部6に内部標準液電位VISとして出力する。
【0039】
ステップS504において、ノイズ検出部7が測定した内部標準液のノイズ電位VS_ISを測定し、ノイズ除去部6に出力する。
【0040】
S505において、ノイズ除去部6は、ノイズ補正操作を実施し、内部標準液電位VISを補正する。
【0041】
S506において、ノイズ除去部6は、補正後の内部標準液電位VISの任意時間における電位の平均値を濃度算出部5に出力する。図示は省略しているが、次のステップS507を実施する前に、電解質測定ユニット1は、希釈槽110から残りの内部標準液を排出する。
【0042】
ステップS507において、電解質測定ユニット1は、
図1には図示しないサンプリング機構により希釈槽110に検体を導入し、希釈液用シリンジポンプ132を駆動して希釈液供給ノズル108から希釈液を導入して、混合液であるサンプルを得る。その後、電磁弁121と電磁弁125を閉じ、ピンチ弁105と電磁弁122を開け、シッパーノズル107を希釈槽110の中に降下させ、シッパーシリンジポンプ133を駆動して、測定流路に測定液を導入する。
【0043】
ステップS508において、電位測定部9は、参照電極104と各イオン選択性電極101との電位差(起電力)を測定し、ノイズ除去部6にサンプル電位Vsampとして出力する。
【0044】
ステップS509において、ノイズ検出部7は、サンプルのノイズ電位Vsampを取得する。
【0045】
S510において、ノイズ除去部6は、ノイズ補正操作を実施し、サンプル電位Vsampを補正する。
【0046】
S511において、ノイズ除去部6は、補正後のサンプル電位Vsampの任意時間における電位の平均値を濃度算出部5に出力する。図示は省略しているが、例えばステップS511の取得の後に、電解質測定ユニット1は、希釈槽110内の残りのサンプルを排出する。
【0047】
ステップS512において、濃度算出部5は、補正後の内部標準液電位VISの平均値と、補正後のサンプル電位Vsampの平均値とに基づいて、サンプル中のイオン濃度を算出する。例えば、それぞれの電位の差などを算出する。このとき、ノイズ検出部7と溶液が接触することで発生するEXは、試料液中の電解質濃度にほとんど依存しないと仮定すれば、内部標準液電位VISの平均値とサンプル電位Vsampの平均値との間の差を求めることにより、ノイズ検出電極102と試料液の接触によって発生する起電力EXの影響を無視することができる。
【0048】
ステップS513において、表示部2は、算出されたイオン濃度(測定結果)を表示する。
【0049】
ステップS514において、制御部4は、次のサンプルがあるかどうかを判定する。例えば、ステップS501より前に、予め測定対象のサンプル数が電解質測定装置100に入力されており、制御部4が測定対象のサンプル数と測定済みのサンプル数とを比較することにより、次のサンプルの有無を判定することができる。次のサンプルがある場合(YES)は、ステップS502へ戻り、同様にイオン濃度の測定を実施する。次のサンプルがない場合(NO)は、ステップS515に移行して測定を終了する。
【0050】
<実施の形態1:まとめ>
本実施形態1に係る電解質測定装置100は、ノイズ検出電極102によって検出した電位Vを用いて、電位測定部9が測定した電位VSを補正することができる。これにより、定量精度の高い測定を実現することができる。さらに、測定流路と廃液配管の溶液の流れを断絶することによって電気的導通を断ち、機構部品が動作しないタイミングで測定を実施する必要がなくなるので、設計の自由度を下げることなく測定精度を高めることができる。
【0051】
<実施の形態2>
実施形態1において、試料液と接するノイズ検出電極102の信号を用いて、測定電位Vに含まれる電流成分由来のノイズを補正することにより、設計の自由度を下げる必要のない構成と方法について説明した。本発明の実施形態2においては、上記に加えて、電流成分由来のノイズの混入経路を特定する方法を説明する。
【0052】
図6は、本実施形態2における電解質測定ユニット1の構成図である。
図6において、
図2に示した構成要素と同様の構成要素については同じ参照番号が付されている。以下、
図2の装置構成との相違点について詳細に説明する。その他構成は実施形態1と同様である。
【0053】
本実施形態2において、シッパーノズル107、参照電極104、参照液ボトル161それぞれにおいて発生する電位と同電位となる位置に、ノイズ検出電極601、602、603を配置する。各電極はノイズ検出部7と接続され、それぞれの電位を測定する。各ノイズ検出電極601~603と、試料液あるいは参照液との間の電気抵抗610、620、630を、説明の便宜上図示した。
【0054】
測定の1例を説明する。電位測定部9が取得する測定電位Vのノイズとなる電流は、構成要素の異常などにより測定系へ混入する可能性がある。例えば、(a)シッパーノズル107、(b)参照液ボトル161、(c)イオン選択性電極101と参照電極104との間の流路、などの異常があげられる。実施形態1のノイズ検出電極102のみでは、電流由来ノイズの混入経路を特定することは困難である。本実施形態2においては、ノイズ検出部7が取得するノイズ検出電極102、601、602、603それぞれの電位を参照することにより、ノイズ混入経路を推定することができる。
【0055】
例えば、ノイズ検出電極102、602、603の電位のみが変動するケースにおいては、シッパーノズル107からのノイズの混入の可能性を除外し、参照液ボトル161の異常、またはイオン選択性電極101と参照電極104との間の流路の異常、のみに絞り込むことができる。これにより、ノイズ補正による変動値混入経路を特定することが可能である。したがって、電解質測定装置100の異常状態からの復旧作業において作業者の負担を低減することができる。
【0056】
<実施の形態2:まとめ>
本実施形態2に係る電解質測定装置100は、シッパーノズル107、参照電極104、参照液ボトル161それぞれにおいて発生する電位と同電位となる位置に、ノイズ検出電極601~603を配置し、ノイズ検出電極601~603が検出した電位の変動に基づき、電流由来ノイズの混入経路を推定する。これにより、保守管理の作業負担を低減できる。
【0057】
<実施の形態3>
実施形態2において、電気的なノイズの混入経路を特定することにより、保守管理の作業負担を低減する方法を説明した。一方、試料液および参照液が通過する流路に気泡などが混入することによって、測定毎の電気抵抗201、202、 203の値のオーダが大きく変動する場合などにおいては、電気ノイズの混入経路を特定することは難しくなる。本発明の実施形態3では、このようなケースにおいてもノイズの混入経路を特定できる方法について説明する。
【0058】
図7は、本実施形態3に係る電解質測定ユニット1の構成図である。
図7において、
図2または
図6に示した構成要素と同様の構成要素については同じ参照番号が付されている。以下、
図2または
図6の装置構成との相違点について詳細に説明する。その他構成は実施形態1~2と同様である。
【0059】
本実施形態3において、参照電極104とアナロググラウンドの間に電流計710を配置する。さらに、ノイズ検出電極102、601、602、603とそれぞれ接続するスイッチ731、732、733、734配置するとともに、各スイッチと接続する電圧源720を配置する。ここでは図示しないが、各スイッチは制御部4と接続されており、個別に切り替えることが可能である。
【0060】
測定電圧取得時において、各スイッチはノイズ検出部7と接続するように設定されている。電圧源720の値は既知であり、スイッチを切り替えることにより、それぞれのノイズ検出電極102、601、602、603に対して所定の電圧を印可できる。このとき、電気抵抗207、610、620、630はその他の電気抵抗に比べて十分小さいと仮定すれば、電圧源720の電圧値と、切り替え操作ごとに電流計710で取得された電流値とを用いて、電気抵抗201、202、203の値を求めることができる。特にこの操作は測定電圧の測定後に実施するので、本操作による測定電圧への影響はない。さらに、電流計710は測定電圧取得時にも電流値を取得することができ、例えば、測定電圧と電流値が同じ変動パターンを示す場合は流路に流れる電流の影響であることが想定されるが、同じ変動パターンを示さない場合は、その他のノイズの影響であることが想定され、ノイズ種類の判別にも活用することができる。
【0061】
電気抵抗201~203を上記構成によって測定することにより、各流路に気泡が混入して測定毎にそれぞれの電気抵抗201~203の値が変化するケースにおいても、ノイズの混入経路を正確に特定することが可能である。
【0062】
<実施の形態3:まとめ>
本実施形態3に係る電解質測定装置100は、ノイズ検出電極601~603いずれかに対して電圧を印加するようにスイッチ731~734を切り替え、電気抵抗201~203を測定する。これにより、例えば気泡などが流路に対して混入することによって流路の電気抵抗が変動するケースにおいても、電気的なノイズの混入経路を特定することができる。
【0063】
<実施の形態4>
実施形態1~3では、電気的なノイズを補正することにより、設計の自由度を下げることなく、定量精度の高い測定を実現することができること、さらに、電気的なノイズの混入経路を特定することにより、保守管理の作業負担を低減する方法を説明した。本発明の実施形態4では、試薬や各種駆動構成要素を有さないウェアラブル(生体に対して着脱できるように構成されている)な電解質測定装置においても、電気的なノイズを補正することができる形態について説明する。
【0064】
図8は、本実施形態4に係る電解質測定装置100の構成図である。本実施形態4における電解質測定装置100は、イオン選択性電極101、ノイズ検出電極102、参照電極104、各種電極の電気抵抗値801、802、803、804、812、制御部805、電源部806、データ送信部807、濃度算出部808、ノイズ除去部809、電位測定部910、ノイズ検出部711を備えている。
【0065】
図8に示す電解質測定装置100は、生体に取り付けて固定し、装置外側に露出したイオン選択性電極101およびノイズ検出電極102と接触する汗や血液などの試料液に含まれる電解質濃度を測定できる。固定方法としては、粘着剤を用いた皮膚への貼り付けや生体内への侵襲的な埋め込みが可能である。これにより
図8の電解質測定装置100はウェアラブルデバイスとして構成されている。
【0066】
イオン選択性電極101は、実施形態1~3と同様に、試料に含まれるイオンによって電位を出力する。本実施形態4においては、生体成分を試料として測定することになる。例えば皮膚表面に電解質測定装置100を取り付ける場合は、汗に含まれるイオンなどを測定できる。電解質測定装置100を生体内へ埋め込む場合は、血液に含まれるイオンなどを測定できる。
【0067】
参照電極104の電位は、一定に維持する必要がある。実施形態1~3においては、参照液を供給することによりこれを実現している。本実施形態4においては、参照液を供給する機構がないので、代替手段を用いる必要がある。例えば液絡部を有する封入管などを用いて参照電極104を常に参照液に浸した状態にすることや、定電圧回路などを参照電極104と接続することにより、参照液を供給することなく、実施形態1~3における参照電極104と同様の役割を実現することができる。
【0068】
ウェアラブル化の欠点として、外乱によるイオン選択性電極101へのノイズが混入することにより、電解質濃度の測定精度が低下することが問題となることがある。これを回避するためにはノイズを混入させないためのシールド構造などの工夫が必要である。本実施形態4では、イオン選択性電極101の近傍に設置されたノイズ検出電極102の信号を用いてノイズ除去部809が測定電位を補正することにより、特殊なシールド構造を有さないウェアラブル化された電解質測定装置であっても測定精度を向上させることができる。
【0069】
<実施の形態4:まとめ>
本実施形態4に係る電解質測定装置100は、生体に固定するタイプのウェアラブルデバイスとして構成した場合であっても、実施形態1~3と同様に、ノイズの混入を抑制するために設計の自由度を下げることなく、定量精度の高い測定を実現することができる。
【0070】
<実施の形態5>
実施形態1~4において、測定流路に接続したノイズ検出電極102を用いたノイズの補正方法により、ノイズの混入を抑制するために設計の自由度を下げることなく、定量精度の高い測定を実現する方法を説明した。一方、これらの方法は試料液などに流れる電気的なノイズを対象とするものであり、静電気などの発生に伴う電界の影響などによってイオン選択性電極に直接混入する電気ノイズは補正することができない。本発明の実施形態5では、これらの課題を解決するための方法を実現する構成例を説明する。
【0071】
図9は、本実施形態5における電解質測定ユニット1の構成図である。
図9において、
図2~8に示した構成要素と同様の構成要素については同じ参照番号が付されている。以下、
図2~
図8の装置構成との相違点について詳細に説明する。
【0072】
本実施形態5では、ノイズ検出電極102の他に、測定流路とは直接電気敵に接続していない電界ノイズ検出電極901を備えている。電界ノイズ検出電極901は、電流計902と接続している。例えば、電界が発生し、塩素イオン電極101aに微少な電流が混入するとき、電界ノイズ検出電極901によってその電流量を検出することができる。電界ノイズ検出電極901の形状は球や円柱・円錐、四角柱・四角柱、多面体などが用いられる。
【0073】
例として、塩素イオン電極101aに混入して参照電極に接続されたグラウンドを流れる電流Inoiseが測定系へ影響する際の補正について説明する。このとき測定される電位Vnoiseは、電気抵抗R202、R204、R208、塩素イオン電極101aの起電力Vを用いて、下記のように示される。
【0074】
Vnoise=V+(R202+R204+R208)×Inoise (4)
【0075】
電流計902が測定するIcorrは、Inoiseと同じ値ではないが、Inoiseとの間である程度の相関を有していると考えられる。この相関関係を例えば実測値によってあらかじめ把握しておき、Icorrを用いてVnoiseを補正することにより、電位VからInoiseに関するノイズ成分を除去することができる。1例として、式4に準じて、Vnoise-A×Icorrが電位Vの真値を表すように、あらかじめ係数Aを求めておき、その係数Aを用いてノイズ成分を除去することが考えられる。その他適当な計算式を用いてもよい。
【0076】
図9には示していないが、電界ノイズ検出電極901と電流計902は複数個設置することができ、またそれぞれを同時に測定することができる。複数個設置した場合はそれぞれの位置と電流量を用いて、空間的な電界ノイズの状態を検出することで、電界ノイズの発生方向や混入経路、を推定することができるため、より正確な補正が可能になる。さらに、空間的な電界ノイズの状態より、構成要素の不具合によって発生した電界ノイズか否かも推定することができるため、不具合発生時の復旧作業者の負担を低減することができる。
【0077】
<実施の形態5:まとめ>
本実施形態5に係る電解質測定装置100は、静電気などの発生に伴う電界の影響などによってイオン選択性電極101に対して直接混入する電気ノイズの補正が可能になり、さらに定量精度を向上させることができる。
【0078】
<本発明の変形例について>
本発明は上記した実施形態に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、上記した実施形態は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、ある実施形態の構成の一部を他の実施形態の構成に置き換えることが可能であり、また、ある実施形態の構成に他の実施形態の構成を加えることも可能である。また、各実施形態の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換をすることが可能である。
【0079】
以上の実施形態において、イオン選択性電極101の例として塩素イオン電極101a、カリウムイオン電極101b、ナトリウムイオン電極101cを例示したが、その他イオン種に対して本発明を適用することもできる。
【0080】
以上の実施形態において、制御部4、濃度算出部5、ノイズ除去部6、などの演算処理を実施する機能部は、その機能を実装した回路デバイスなどのハードウェア用いて構成することもできるし、その機能を実装したソフトウェアをCPU(Central Processing Unit)などの演算装置が実行することによって構成することもできる。
【符号の説明】
【0081】
100・・・電解質測定装置
1・・・電解質測定ユニット
2・・・表示部
3・・・入力部
4・・・制御部
5・・・濃度算出部
6・・・ノイズ除去部
7・・・ノイズ検出部
8・・・電位測定部
101・・・イオン選択性電極
102・・・ノイズ検出電極
104・・・参照電極
105・・・ピンチ弁
106・・・真空吸引ノズル
107・・・シッパーノズル
108・・・希釈液供給ノズル
109・・・内部標準液供給ノズル
110・・・希釈槽
111・・・廃液タンク
112・・・真空ポンプ
121~127・・・電磁弁
131・・・内部標準液用シリンジポンプ
132・・・希釈液用シリンジポンプ
133・・・シッパーシリンジポンプ
141・・・内部標準液ボトル
151・・・希釈液ボトル
161・・・参照液ボトル