(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-04
(45)【発行日】2024-03-12
(54)【発明の名称】鮒寿司から単離されたラクトバチルス・プランタラム種である乳酸菌及びそのスクリーニング方法
(51)【国際特許分類】
C12N 1/20 20060101AFI20240305BHJP
A23L 33/135 20160101ALI20240305BHJP
A61K 35/747 20150101ALI20240305BHJP
A61Q 19/00 20060101ALI20240305BHJP
A61P 31/12 20060101ALI20240305BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20240305BHJP
A61P 3/06 20060101ALI20240305BHJP
A61P 1/10 20060101ALI20240305BHJP
A61K 8/99 20170101ALI20240305BHJP
A23L 31/00 20160101ALI20240305BHJP
A61P 37/00 20060101ALI20240305BHJP
C12R 1/25 20060101ALN20240305BHJP
【FI】
C12N1/20 A
C12N1/20 E
A23L33/135
A61K35/747
A61Q19/00
A61P31/12
A61P43/00 105
A61P3/06
A61P1/10
A61K8/99
A23L31/00
A61P37/00
C12R1:25
(21)【出願番号】P 2020559158
(86)(22)【出願日】2019-12-02
(86)【国際出願番号】 JP2019046936
(87)【国際公開番号】W WO2020116365
(87)【国際公開日】2020-06-11
【審査請求日】2022-10-11
(31)【優先権主張番号】P 2018229488
(32)【優先日】2018-12-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【微生物の受託番号】NPMD NITE BP-02791
(73)【特許権者】
【識別番号】000004189
【氏名又は名称】株式会社ニッスイ
(74)【代理人】
【識別番号】100150142
【氏名又は名称】相原 礼路
(72)【発明者】
【氏名】岸田 太郎
(72)【発明者】
【氏名】藤谷 美菜
(72)【発明者】
【氏名】内田 健志
(72)【発明者】
【氏名】韓 力
(72)【発明者】
【氏名】岸 利弘
(72)【発明者】
【氏名】坂本 紘子
【審査官】小林 薫
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-189973(JP,A)
【文献】特開2013-188196(JP,A)
【文献】特開2010-202557(JP,A)
【文献】国際公開第2008/018143(WO,A1)
【文献】Int. J. Food Microbiol.,2007年,vol.113,pp.358-361
【文献】Nutrition,2010年,vol.26,pp.367-374
【文献】石井智美 他,試作発酵乳(TFM)200mlを21日間2回飲用した女子学生の排便状況と脂質代謝,酪農学園大学紀要 自然科学編,2011年,Vol.36, No.1,pp.67-73
【文献】FUJII T. et al.,PCR-DGGE analysis of bacterial communities in funazushi, fermented crucian carp with rice, during fermentation,Fisheries Science,2011年,Vol.77,pp.151-157
【文献】岡田俊樹 他,滋賀の伝統発酵食品の食品機能性評価と製品開発 -有用乳酸菌を利用した食品開発-,滋賀県工業技術総合センター業務報告,2014年,平成25年度,pp.94-98
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 1/00-7/08
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
鮒寿司から単離されたラクトバチルス・プランタラム種である乳酸菌であって、ウイルス感染抑制作用、NK活性亢進作用、脂質減少作用、便通改善作用および血中中性脂肪低下作用からなる群より選択される少なくとも1つの作用を有する、
受託番号NITE BP-02791で寄託されているラクトバチルス・プランタラム亜種プランタラムFS-1C株。
【請求項2】
請求項1に記載の乳酸菌の菌体、
前記菌体を含む培養物または
処理された前記菌体を含む処理物を有効成分として含有する、ウイルス感染抑制剤。
【請求項3】
請求項1に記載の乳酸菌の菌体、
前記菌体を含む培養物または
処理された前記菌体を含む処理物を有効成分として含有する、NK活性亢進剤。
【請求項4】
請求項1に記載の乳酸菌の菌体、
前記菌体を含む培養物または
処理された前記菌体を含む処理物を有効成分として含有する、脂質減少剤。
【請求項5】
請求項1に記載の乳酸菌の菌体、
前記菌体を含む培養物または
処理された前記菌体を含む処理物を有効成分として含有する、血中中性脂肪低下剤。
【請求項6】
請求項1に記載の乳酸菌の菌体、
前記菌体を含む培養物または
処理された前記菌体を含む処理物を有効成分として含有する、便通改善剤。
【請求項7】
請求項1に記載の乳酸菌の菌体、
前記菌体を含む培養物または
処理された前記菌体を含む処理物を含む化粧品。
【請求項8】
請求項1に記載の乳酸菌の菌体、
前記菌体を含む培養物または
処理された前記菌体を含む処理物を含む、ウイルス感染抑制用
またはNK活性亢進用食品組成物。
【請求項9】
請求項1に記載の乳酸菌の菌体、前記菌体を含む培養物または処理された前記菌体を含む処理物を含む、脂質減少用または血中中性脂肪低下用食品組成物。
【請求項10】
請求項1に記載の乳酸菌の菌体、前記菌体を含む培養物または処理された前記菌体を含む処理物を含む、便通改善用食品組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鮒寿司から単離されたラクトバチルス・プランタラム種である乳酸菌に関する。
【背景技術】
【0002】
鮒寿司(鮒ずし;鮒鮨)は、塩漬けにした鮒を米飯に漬け込み乳酸発酵させたものであり、滋賀県の郷土料理として知られている。
【0003】
鮒寿司は、一般的に、鮒を数ヶ月塩漬けにした後、米飯に漬け込んで、数ヶ月から数年間(1~3年間)発酵させることにより作られる。鮒寿司の発酵には、主にラクトバチルス属(Lactobacillus)の乳酸菌が関わっていることが知られている。
【0004】
乳酸菌は、発酵により乳酸を産生する細菌であり、チーズ、ヨーグルト、味噌、醤油および漬物などの様々な食品の発酵過程に関わっている。また、乳酸菌には、腸などの消化管内に存在するものもある。乳酸菌は、発酵の際に乳酸のみを生産するホモ乳酸菌と、乳酸以外の酸を同時に生産するヘテロ乳酸菌とに分けられる。
【0005】
乳酸菌の中でもラクトバチルス属は、乳酸桿菌ともよばれ、古くからヨーグルトの発酵に用いられてきた菌である。ラクトバチルス属には、180種以上の種が含まれ、ヨーグルト、チーズおよびキムチなどの多種多様な食品の発酵に利用されている。
【0006】
近年、乳酸菌の持つ高い機能性が注目され、より高い機能を持つ新たな乳酸菌の同定がさかんになっている。特許文献1には、鮒寿司から単離され、炎症性腸疾患や慢性下痢症に対して抗炎症効果を有する、ラクトバチルス属に属する新規の植物性乳酸菌として、ラクトバシラス・ブーケンライs193株およびラクトバシラス・パラブーケンライs292株が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
近年、乳酸菌およびその発酵食品が持つ様々な生理的な機能が注目を浴びており、鮒寿司などの発酵食品に、未知の有用な乳酸菌が存在することが示唆される。
【0009】
そこで、本発明は、鮒寿司から単離された、高い機能性を有する新規の乳酸菌を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、鮒寿司から単離された乳酸菌の中から、ラクトバチルス・プランタラム種の菌株を同定し、ラクトバチルス・プランタラム亜種プランタラムFS-1Cと命名した。本発明者らは、FS-1C株をラットに投与したところ、ラットの糞重量が増加するとともに、血中中性脂肪および内臓脂肪量が減少することを見出した。
【0011】
また、本発明者らは、このFS-1株をマウスに投与した後にウイルスを接種すると、ウイルス感染が抑制されることを見出した。
【0012】
さらに、本発明者らは、FS-1C株を末梢血単核球(PBMC)に添加して培養したところ、PBMCのNK活性が高くなることを見出した。
【0013】
本発明は、鮒寿司から単離されたラクトバチルス・プランタラム種である乳酸菌であって、ウイルス感染抑制作用、NK活性亢進作用、脂質減少作用、血中中性脂肪低下作用および便通改善作用からなる群より選択される少なくとも1つの作用を有する、乳酸菌を提供する。
【0014】
また本発明は、受託番号NITE BP-02791で寄託されているラクトバチルス・プランタラム亜種プランタラムFS-1C株である、乳酸菌を提供する。
【0015】
また本発明は、上記乳酸菌の菌体、培養物または処理物を有効成分として含有する、ウイルス感染抑制剤を提供する。
【0016】
また本発明は、上記乳酸菌の菌体、培養物または処理物を有効成分として含有する、NK活性亢進剤を提供する。
【0017】
また本発明は、上記乳酸菌の菌体、培養物または処理物を有効成分として含有する、脂質減少剤を提供する。
【0018】
また本発明は、上記乳酸菌の菌体、培養物または処理物を有効成分として含有する、便通改善剤を提供する。
【0019】
また本発明は、上記乳酸菌の菌体、培養物または処理物を有効成分として含有する、血中中性脂肪低下剤を提供する。
【0020】
また本発明は、上記乳酸菌の菌体、培養物または処理物を含む化粧品を提供する。
【0021】
また本発明は、上記乳酸菌の菌体、培養物または処理物を含む、ウイルス感染抑制用、NK活性亢進用、脂質減少用、血中中性脂肪低下用または便通改善用食品組成物を提供する。
【0022】
また本発明は、鮒寿司から、ウイルス感染抑制作用、NK活性亢進作用、脂質減少作用、血中中性脂肪低下作用および便通改善作用からなる群より選択される少なくとも1つの作用を有するラクトバチルス・プランタラム種である乳酸菌をスクリーニングする方法であって、鮒寿司から乳酸菌を単離する工程と、単離工程において採取した単離株を用いて魚のすり身を発酵させ、すり身が発酵されたときに上記単離株を選択する工程と、選択された単離株がウイルス感染抑制作用、NK活性亢進作用、脂質減少作用、血中中性脂肪低下作用または便通改善作用を有することを試験する工程とを有する、スクリーニングする方法を提供する。
【発明の効果】
【0023】
本発明の乳酸菌は、鮒寿司から単離されたラクトバチルス・プランタラム種の菌株であって、ウイルス感染抑制作用、NK活性亢進作用、脂質減少作用、血中中性脂肪低下作用および便通改善作用からなる群より選択される少なくとも1つの作用を有する。そのため、本発明は、鮒寿司から単離された、高い機能性を有する新規の乳酸菌を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】FS-1C株の死菌体をラットに投与したときの糞重量(g)の平均値を示すグラフ。
【
図2】FS-1C株の死菌体をラットに投与したときの血清中性脂肪濃度(mM)の平均値を示すグラフ。
【
図3】FS-1C株の乾燥粉末をマウスに投与した後にウイルス接種したときの各試験群動物の体重変化を示すグラフ。
【
図4】FS-1C株の乾燥粉末をマウスに投与した後にウイルス接種したときの各試験群動物の肺重量(g)を示すグラフ。
【
図5】FS-1C株の乾燥粉末をマウスに投与した後にウイルス接種したときの各試験群動物の肺/体重比(%)を示すグラフ。
【
図6】FS-1C株の乾燥粉末をマウスに投与した後にウイルス接種したときの各試験群動物肺部のウイルス発現量を示すグラフ。
【
図7】FS-1C株の乾燥粉末をマウスに投与した後にウイルス接種したときの各試験群動物肺部の出血状態の評価結果を示す図。
【
図8】FS-1C株の乾燥粉末をマウスに投与した後にウイルス接種したときの各試験群動物肺部の炎症細胞浸潤状態の評価結果を示す図。
【
図9】FS-1C株の乾燥粉末をマウスに投与した後にウイルス接種したときの各試験群動物の肺病理観察結果の例(HE染色、×200倍)を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本発明は、鮒寿司から単離されたラクトバチルス・プランタラム種であって、ウイルス感染抑制作用、NK活性亢進作用、脂質減少作用、血中中性脂肪低下作用および便通改善作用からなる群より選択される少なくとも1つの作用を有する、乳酸菌を提供する。
【0026】
鮒寿司は、塩漬けにした鮒(フナ)を米飯に漬け込んで発酵させた発酵食品である。本発明の乳酸菌を単離するために用いる鮒寿司は、特に限定されないが、滋賀県産の鮒寿司であってもよい。また、鮒寿司に用いる鮒は、特に限定されないが、たとえばニゴロブナ、ゲンゴロウブナおよびギンブナなどを用いることができる。
【0027】
鮒寿司から本発明の乳酸菌を単離する方法については、従来公知の方法を用いることができる。簡潔には、まず鮒寿司から乳酸菌を単離する。たとえば、鮒寿司を食塩水等に懸濁して希釈溶液を作製する。次いで、寒天培地などの適切な培地に希釈溶液を播種する。播種した培地を37℃等の適切な温度において培養し、コロニーを生成させる。このコロニーを採取して単離株を得る。単離株は、一旦増殖させてもよい。次いで、採取した単離株を使用して魚のすり身を発酵させ、すり身を発酵させる能力がある菌株を選択して単離する。たとえば、12.5%のすり身を含む培地に単離株(約1000CFU/g)を播種し、32℃で2日間培養したときに、菌数が2×107CFU/g以上となった場合、好ましくは菌数が2×107CFU/g以上であり、かつpH4.2以下となった場合、より好ましくは菌数が2×108CFU/g以上となった場合、特に好ましくは菌数が2×108CFU/g以上であり、かつpH4.2以下となった場合に、すり身を発酵させる能力があると判定することができる。魚のすり身は、任意の魚に由来するすり身であることができ、たとえば上記ニゴロブナ、ゲンゴロウブナおよびギンブナなどの鮒のすり身であることができる。また、すり身は、水等と共にフードプロセッサーで粉砕した後、オートクレーブ等で加熱殺菌したすり身を使用することができる。
【0028】
本発明の乳酸菌は、ウイルス感染抑制作用、NK活性亢進作用、脂質減少作用、血中中性脂肪低下作用および便通改善作用のいずれか1つのみを有していてもよいし、任意の2つの作用を有していてもよいし、これら全ての作用を有していてもよい。
【0029】
本明細書において「乳酸菌がウイルス感染抑制作用を有する」とは、たとえば、乳酸菌の菌体、培養物または処理物をヒトまたはマウス等の動物に投与した後、ウイルスを当該動物に接種したときに、当該乳酸菌の菌体、培養物または処理物を投与しなかった場合と比較して、ウイルス感染が抑制されることを含む。「ウイルス感染抑制作用を有する」乳酸菌は、たとえば実施例に記載した手順で確認することができる。簡潔には、まず乳酸菌の乾燥粉末を対象動物に投与する。たとえば、2mg/mL~20mg/mLの濃度に調整した乳酸菌の懸濁液をマウスなどの対象動物に対して1日1回、連続して14日間投与する。次いで、H1N1ウイルスなどの懸濁液(たとえば、濃度1×104 TCID50)をマウスに投与する。ウイルス接種の3日後にウイルス感染の症候を評価する。ウイルス感染の症候は、たとえば体重の減少、肺重量の増加、肺/体重比の変動、肺におけるウイルス感染のPCRによる測定および病理観察による出血状態などによって評価することができる。乳酸菌を投与した動物と投与していない動物において上記症候を比較して、ウイルス感染を抑制することができたか否かを評価することができる。
【0030】
本明細書において「乳酸菌がNK活性亢進作用を有する」とは、たとえば、乳酸菌の菌体、培養物または処理物を末梢血単核球に添加して培養したときに、当該乳酸菌の菌体、培養物または処理物を添加しなかった場合と比較して、NK活性が高くなることを含む。また、本明細書において「乳酸菌がNK活性亢進作用を有する」とは、たとえば、乳酸菌の菌体、培養物または処理物を末梢血単核球に添加して培養したときに、当該乳酸菌の菌体、培養物または処理物を添加しなかった場合と比較して、インターフェロンγおよびインターロイキン12などの炎症性サイトカインの産生が向上することを含む。「NK活性亢進作用を有する」乳酸菌は、たとえば実施例に記載した手順で確認することができる。簡潔には、乳酸菌をリン酸緩衝塩溶液中に懸濁し、加熱殺菌して死菌液を調製する。次いで、ヒトから採取した末梢血単核球(PBMC)の培養液に死菌液を添加し、37℃、5%CO2下で20時間培養する。培養終了後、2000rpmで5分間遠心し、上清をサイトカイン測定用に使用し、沈渣のPBMCをNK活性の測定に使用する。インターフェロンγおよびインターロイキン12などの炎症性サイトカインの産生は、市販のELISA法によるキットなどを使用して測定することができる。NK活性は、上記の刺激したPBMCをエフェクター細胞として使用し、ヒトNK細胞感受性株であるK562細胞などを標的細胞として使用し、両者を共に培養してNK細胞によって傷害された標的細胞の割合から算出することができる。傷害された標的細胞は、たとえばヨウ化プロピジウム(PI:Propidium Iodide)による染色の有無によって測定することができる。傷害されて死滅した標的細胞は、ヨウ化プロピジウムによって染色されるため、障害の有無を測定することができる。
【0031】
本明細書において「乳酸菌が脂質減少作用を有する」とは、たとえば、乳酸菌の菌体、培養物または処理物をラットまたはマウス等の動物に投与したときに、当該乳酸菌の菌体、培養物または処理物を投与しなかった場合と比較して、中性脂肪および/または内臓脂肪量が低下することを意味する。「脂質減少作用を有する」乳酸菌は、たとえば実施例に記載した手順で確認することができる。簡潔には、乳酸菌の乾燥粉末を含む餌(乳酸菌群)および含まない餌(対照群)を対象動物に投与する。たとえば、餌の組成の2%程度の乳酸菌を配合した餌(乳酸菌群)と配合していない餌(対照群)をラットなどの対象動物に対して連続して14日間投与する。各対象動物について、毎日、摂餌量、体重および糞重量などを測定する。14日後に対象動物から血液、肝および脂質を採材して、血中中性脂肪、各臓器の周囲の脂質量を測定する。対照群と比較して乳酸菌群において中性脂肪および/または内臓脂肪の低下が測定されれば、その乳酸菌は、脂質減少作用を有する。
【0032】
本明細書において「乳酸菌が血中中性脂肪低下作用を有する」とは、たとえば、乳酸菌の菌体、培養物または処理物をラットおよびマウス等の動物に投与したときに、当該乳酸菌の菌体、培養物または処理物を投与しなかった場合と比較して、血中中性脂肪濃度が低下することを意味する。「血中中性脂肪低下作用を有する」乳酸菌は、たとえば実施例に記載した手順で確認することができる。簡潔には、乳酸菌の乾燥粉末を含む餌(乳酸菌群)および含まない餌(対照群)を対象動物に投与する。たとえば、餌の組成の2%程度の乳酸菌を配合した餌(乳酸菌群)と配合していない餌(対照群)をラットなどの対象動物に対して連続して14日間投与する。各対象動物について、毎日、摂餌量、体重および糞重量などを測定する。14日後に対象動物から血液、肝および脂質を採材して、血中中性脂肪、各臓器の周囲の脂質量を測定する。対照群と比較して乳酸菌群において中性脂肪の低下が測定されれば、その乳酸菌は、血中中性脂肪低下作用を有する。
【0033】
本明細書において「乳酸菌が便通改善作用を有する」とは、たとえば、乳酸菌の菌体、培養物または処理物をラットまたはマウス等の動物に投与したときに、当該乳酸菌の菌体、培養物または処理物を投与しなかった場合と比較して、糞重量が増加することを意味する。「便通改善作用を有する」乳酸菌は、たとえば実施例に記載した手順で確認することができる。簡潔には、乳酸菌の乾燥粉末を含む餌(乳酸菌群)および含まない餌(対照群)を対象動物に投与する。たとえば、餌の組成の2%程度の乳酸菌を配合した餌(乳酸菌群)と配合していない餌(対照群)をラットなどの対象動物に対して連続して14日間投与する。各対象動物について、毎日、摂餌量、体重および糞重量などを測定する。対照群と比較して乳酸菌群において糞重量の増加が測定されれば、その乳酸菌は、便通改善作用を有する。
【0034】
本明細書において「乳酸菌の培養物」には、乳酸菌の生菌体、死菌体、これらの濃縮物、乾燥物、破砕物、培養液、培養液抽出物および発酵液などが含まれる。本明細書において「乳酸菌の処理物」には、乳酸菌の生菌体または死菌体を熱処理および酵素処理などによって処理したものが含まれる。
【0035】
乳酸菌の培養には、公知の培地および培養方法を用いることができる。培地には、たとえばMRS培地、GAM培地およびLM17培地などを用いることができる。また、培地には、必要に応じて無機塩類、ビタミン類、アミノ酸、抗生物質および血清等を添加することができる。培養は、たとえば25~40℃で数時間から数日間行うことができる。
【0036】
本発明の乳酸菌は、ラクトバチルス・プランタラム亜種プランタラム(Lactobacillus plantarum subsp. plantarum)FS-1C株(受託番号NITE BP-02791)(以下、単に「FS-1株」ともいう。)であることができる。
【0037】
FS-1C株は、鮒寿司から単離された菌株であり、下記の実施例において示すように、ウイルス感染抑制作用、NK活性亢進作用、脂質減少作用、血中中性脂肪低下作用および便通改善作用を有する。これらの菌株は、発酵の際に乳酸のみを生産するホモタイプの乳酸菌である。本発明の乳酸菌は、培養中に細胞外多糖類(EPS)を産生するが、EPSをほとんど産生しないものであってもよい。
【0038】
本発明の乳酸菌は、菌体そのものであってもよいし、培養物または処理物であってもよい。本発明の乳酸菌は、培養した菌体を濃縮および乾燥させて得た生菌末の態様であってもよい。このような生菌末は、たとえばヨーグルトなどの発酵物を製造する際の種菌として用いることができる。
【0039】
また、本発明の乳酸菌は、培養した菌体を殺菌した後に濃縮および乾燥させて得た死菌末の態様であってもよい。このような死菌末は、温度帯および製品形態を選ばず、様々な医薬、化粧品および食品に添加することが可能である。
【0040】
また、本発明の乳酸菌は、乳を発酵させて得た発酵液の態様であってもよく、たとえば生菌乳製品乳酸菌飲料および殺菌乳製品乳酸菌飲料などであってもよい。
【0041】
本発明はまた、上述した乳酸菌の菌体、培養物または処理物を有効成分として含有する、ウイルス感染抑制剤を提供する。本明細書において「ウイルス感染抑制」には、ウイルスによる感染の抑制、防止および改善が含まれる。本発明のウイルス感染抑制剤は、ウイルス感染を予防または治療するための医薬、ならびにウイルス感染を予防するための化粧品および食品に用いることができる。ウイルスには、特に限定されないが、インフルエンザウイルス等が含まれる。
【0042】
本発明はまた、上述した乳酸菌の菌体、培養物または処理物を有効成分として含有する、NK活性亢進剤を提供する。本明細書において「NK活性亢進」には、NK細胞の活性化および促進が含まれる。本発明のNK活性亢進剤は、NK細胞を活性化することによって予防または治療され得る疾患を予防または治療するための医薬に用いることができる。また、本発明のNK活性亢進剤は、NK細胞を活性化するための化粧品および食品に用いることができる。
【0043】
本発明はまた、上述した乳酸菌の菌体、培養物または処理物を有効成分として含有する、脂質減少剤を提供する。本明細書において「脂質減少」には、内臓脂肪の減少および血中の脂質の低下などが含まれる。本発明の脂質減少剤は、脂質を減少させることによって予防または治療され得る疾患を予防または治療するための医薬に用いることができる。また、本発明の脂質減少剤は、脂質を減少させるための化粧品および食品に用いることができる。
【0044】
本発明はまた、上述した乳酸菌の菌体、培養物または処理物を有効成分として含有する、血中中性脂肪低下剤を提供する。本明細書において「血中中性脂肪低下」には、血中中性脂肪濃度の低下および減少が含まれる。本発明の血中中性脂肪低下剤は、血中中性脂肪を低下させることによって予防または治療され得る疾患を予防または治療するための医薬に用いることができる。また、本発明の血中中性脂肪低下剤は、血中中性脂肪を低下するための化粧品および食品に用いることができる。
【0045】
本発明はまた、上述した乳酸菌の菌体、培養物または処理物を有効成分として含有する、便通改善剤を提供する。本明細書において「便通改善」には、排泄の促進、糞重量の増加および便秘の症状の改善などが含まれる。本発明の便通改善剤は、たとえば便秘の症状を予防、改善または治療するための医薬に用いることができる。また、本発明の便通改善剤は、便通を改善するための化粧品および食品に用いることができる。
【0046】
本発明のウイルス感染抑制剤、NK活性亢進剤、脂質減少剤、血中中性脂肪低下剤および便通改善剤は、上述した乳酸菌の菌体、培養物または処理物そのものであってもよいし、製剤化したものであってもよい。また、本発明のウイルス感染抑制剤、NK活性亢進剤、脂質減少剤、血中中性脂肪低下剤および便通改善剤は、本発明の乳酸菌以外の有効成分をさらに含有してもよい。
【0047】
本発明のウイルス感染抑制剤、NK活性亢進剤、脂質減少剤、血中中性脂肪低下剤および便通改善剤の製剤化には、通常用いられる製剤化方法を用いることができる。本発明のウイルス感染抑制剤、NK活性亢進剤、脂質減少剤、血中中性脂肪低下剤および便通改善剤は、有効成分の他に、賦形剤、結合剤、滑沢剤、崩壊剤、風味改善剤、溶解補助剤、懸濁剤、コーティング剤、美白剤、保湿剤、酸化防止剤、油性成分、紫外線吸収剤、界面活性剤、増粘剤およびアルコール類などを含有してもよい。本発明のウイルス感染抑制剤、NK活性亢進剤、脂質減少剤、血中中性脂肪低下剤および便通改善剤は、経口製剤または非経口製剤の態様であることができる。本発明のウイルス感染抑制剤、NK活性亢進剤、脂質減少剤、血中中性脂肪低下剤および便通改善剤は、錠剤、散剤、顆粒剤、粉末、カプセル剤、ドリンク剤、注射剤、座剤、懸濁剤、軟膏剤、液剤、貼付剤および外用剤などの任意の形態であることができる。
【0048】
本発明のウイルス感染抑制剤、NK活性亢進剤、脂質減少剤、血中中性脂肪低下剤および便通改善剤の投与量は、投与する対象の年齢、体重および症状の程度などにより適宜設定することができる。たとえば、1日あたり1×104~1×1014、好ましくは1×105~1×1013、より好ましくは1×106~1×1012、さらに好ましくは1×107~1×1011、特に好ましくは1×108~1×1010の数の乳酸菌に相当する菌体、培養物または処理物を含有する剤を、1日1回または数回に分けて投与してもよい
【0049】
本発明はまた、上述した乳酸菌の菌体、培養物または処理物を含む医薬を提供する。本発明の医薬は、ウイルス感染を予防または治療するための医薬、免疫作用を活性化することによって予防もしくは治療され得る疾患を予防もしくは治療するための医薬、脂質を減少させるための医薬、内臓脂肪を減少させるための医薬、血中中性脂肪を低下させるための医薬または便通を改善するための医薬であることができる。本発明の医薬は、上述した本発明のウイルス感染抑制剤、NK活性亢進剤、脂質減少剤、血中中性脂肪低下剤および便通改善剤と同様の構成であることができる。
【0050】
本発明はまた、上述した乳酸菌の菌体、培養物または処理物を含む化粧品を提供する。本発明の化粧品は、ウイルス感染を予防するための化粧品、免疫作用を活性化するための化粧品、脂質を減少させるための化粧品、内臓脂肪を減少させるための化粧品、血中中性脂肪を低下するための化粧品または便通を改善するための化粧品であることができる。本発明の化粧品は、上述した本発明のウイルス感染抑制剤、NK活性亢進剤、脂質減少剤、血中中性脂肪低下剤および便通改善剤と同様の構成であってもよい。
【0051】
本発明の化粧品は、ヒトを含む動物の皮膚、粘膜、体毛、頭髪、爪、歯および口唇などに適用される任意の化粧品であることができる。本発明の化粧品は、たとえば、洗顔料、化粧水、乳液、クリーム、ジェル、エッセンス、美容液、パックおよびマスク等の基礎化粧品;ファンデーション、口紅、頬紅、アイシャドウ、アイライナーおよびマスカラ等のメークアップ化粧品;マニキュア、ベースコート、トップコートおよび除光液等のネイル化粧料;ならびにマッサージ用剤、クレンジング用剤、アフターシェーブローション、プレシェーブローション、シェービングクリーム、ボディソープ、石けん、シャンプー、リンス、ヘアートリートメント、整髪料、ヘアートニック剤、育毛剤、制汗剤および入浴剤等の形態であることができる。
【0052】
本発明はまた、上述した乳酸菌の菌体、培養物または処理物を含む、ウイルス感染抑制用、NK活性亢進用、脂質減少用、内臓脂肪減少用、血中中性脂肪低下用または便通改善用の食品組成物を提供する。本発明の食品組成物は、上述した本発明のウイルス感染抑制剤、NK活性亢進剤、脂質減少剤、血中中性脂肪低下剤および便通改善剤と同様の構成であることができる。また、本発明の食品組成物は、乳飲料、ヨーグルト、発酵乳、チーズ、アイスクリームおよびクリームなどの乳製品;漬物、キムチ、鮒寿司などの発酵食品;レトルト食品、即席麺、即席スープおよびフリーズドライなどの即席食品;清涼飲料、乳酸菌飲料、ジュース、コーヒー、お茶およびアルコール飲料などの飲料;パン、パスタ、麺、パン粉およびケーキミックスなどの小麦粉製品;菓子類;調味料;油脂類;農産加工品;および冷凍食品などの形態であることができる。
【0053】
本発明の食品組成物は、健康食品、機能性食品、特定保健用食品、栄養補助食品、サプリメント、プロバイオティック製品および病者用食品などであってもよい。また、本発明の食品組成物は、「ウイルス感染抑制」、「NK活性亢進」、「脂質減少」、「内臓脂肪減少」、「血中中性脂肪低下」または「便通改善」のために用いられるものである旨の表示を付した態様であることができる。
【0054】
本発明はまた、鮒寿司から、ウイルス感染抑制作用、NK活性亢進作用、脂質減少作用、血中中性脂肪低下作用および便通改善作用からなる群より選択される少なくとも1つの作用を有するラクトバチルス・プランタラム種である乳酸菌をスクリーニングする方法を提供する。
【0055】
本発明のスクリーニングする方法は、鮒寿司から乳酸菌を単離する工程(単離工程)と、単離工程において採取した単離株を用いて魚のすり身を発酵させ、すり身が発酵されたときに当該単離株を選択する工程(発酵工程)と、選択された単離株が、ウイルス感染抑制作用、NK活性亢進作用、脂質減少作用、血中中性脂肪低下作用または便通改善作用を有することを試験する工程(試験工程)とを有する。
【0056】
単離工程において、鮒寿司から乳酸菌を単離する方法については、従来公知の方法を用いることができる。たとえば、鮒寿司を液体に懸濁して希釈した希釈溶液を寒天培地に播種する。まず、鮒寿司を滅菌した水、食塩水または培地溶液等の液体に懸濁し、懸濁液を作製する。次いで、この懸濁液を水、食塩水または培地溶液等の希釈液を用いて適切な濃度に希釈する。たとえば、懸濁液を、3~10段階の5~10倍希釈系列を作製してもよい。たとえば、10倍、100倍、1000倍および10000倍などに希釈した希釈系列を作製することができる。次いで、作製した希釈溶液を寒天培地などの培地に播種する。寒天培地には、乳酸菌の培養に通常用いる公知の培地を用いることができる。また、寒天培地に播種する方法は、特に限定されない。
【0057】
次いで、播種した培地を培養して、コロニーを生成させる。たとえば、希釈溶液を播種した寒天培地を培養する工程では、寒天培地を25~37℃等の適切な温度で培養する。単離株を得るためには、たとえば生育したコロニーを採取して、単一のコロニーを滅菌した楊枝または白金耳などで穿刺し、別の培地に植菌する。得られた単離株を以下の手順に使用する。単離株は、一旦増殖させてもよい。
【0058】
発酵工程では、単離工程において採取した単離株を用いて、魚のすり身を発酵させ、すり身が発酵されたときにその単離株を選択する。たとえば、すり身を含む培地に単離株を播種して培養し、菌数が増えた場合に、すり身が発酵されたと判定することができる。より具体的には、たとえば、12.5%のすり身を含む培地に単離株(約1000CFU/g)を播種し、32℃で2日間培養したときに、菌数が2×107CFU/g以上となった場合、好ましくは菌数が2×107CFU/g以上であり、かつpH4.2以下となった場合、より好ましくは菌数が2×108CFU/g以上となった場合、特に好ましくは菌数が2×108CFU/g以上であり、かつpH4.2以下となった場合に、すり身が発酵されたと判定してもよい。本工程において、魚のすり身は、任意の魚に由来するすり身であることができ、たとえば上記ニゴロブナ、ゲンゴロウブナおよびギンブナなどの鮒のすり身であることができる。また、すり身は、水等と共にフードプロセッサーで粉砕した後、オートクレーブ等で加熱殺菌したすり身を使用することができる。
【0059】
試験工程では、発酵工程において選択した単離株について、ウイルス感染抑制作用、NK活性亢進作用、脂質減少作用、血中中性脂肪低下作用および便通改善作用からなる群より選択される少なくとも1つの作用を有するか否かを試験する。これらのいずれかの作用を有するラクトバチルス・プランタラム種である乳酸菌を本発明の乳酸菌として選択することができる。
【0060】
ウイルス感染抑制作用を有する乳酸菌は、たとえば実施例に記載した手順で確認することができる。簡潔には、まず乳酸菌の乾燥粉末を対象動物に投与する。たとえば、2mg/mL~20mg/mLの濃度に調整した乳酸菌の懸濁液をマウスなどの対象動物に対して1日1回、連続して14日間投与する。次いで、H1N1ウイルスなどの懸濁液(たとえば、濃度1×104 TCID50)をマウスに投与する。ウイルス接種の3日後にウイルス感染の症候を評価する。ウイルス感染の症候は、たとえば体重の減少、肺重量の増加、肺/体重比の変動、肺におけるウイルス感染のPCRによる測定および病理観察による出血状態などによって評価することができる。乳酸菌を投与した動物と投与していない動物において上記症候を比較して、ウイルス感染を抑制することができたか否かを評価することができる。
【0061】
NK活性亢進作用を有する乳酸菌は、たとえば実施例に記載した手順で確認することができる。簡潔には、乳酸菌をリン酸緩衝塩溶液中に懸濁し、加熱殺菌して死菌液を調製する。次いで、ヒトから採取した末梢血単核球(PBMC)の培養液に死菌液を添加し、37℃、5%CO2下で20時間培養する。培養終了後、2000rpmで5分間遠心し、上清をサイトカイン測定用に使用し、沈渣のPBMCをNK活性の測定に使用する。インターフェロンγおよびインターロイキン12などの炎症性サイトカインの産生は、市販のELISA法によるキットなどを使用して測定することができる。NK活性は、上記の刺激したPBMCをエフェクター細胞として使用し、ヒトNK細胞感受性株であるK562細胞などを標的細胞として使用し、両者を共に培養してNK細胞によって傷害された標的細胞の割合から算出することができる。傷害された標的細胞は、たとえばヨウ化プロピジウム(PI:Propidium Iodide)による染色の有無によって測定することができる。傷害されて死滅した標的細胞は、ヨウ化プロピジウムによって染色されるため、障害の有無を測定することができる。
【0062】
脂質減少作用を有する乳酸菌は、たとえば実施例に記載した手順で確認することができる。簡潔には、乳酸菌の乾燥粉末を含む餌(乳酸菌群)および含まない餌(対照群)を対象動物に投与する。たとえば、餌の組成の2%程度の乳酸菌を配合した餌(乳酸菌群)と配合していない餌(対照群)をラットなどの対象動物に対して連続して14日間投与する。各対象動物について、毎日、摂餌量、体重および糞重量などを測定する。14日後に対象動物から血液、肝および脂質を採材して、血中中性脂肪、各臓器の周囲の脂質量を測定する。対照群と比較して乳酸菌群において中性脂肪および/または内臓脂肪の低下が測定されれば、その乳酸菌は、脂質減少作用を有する。
【0063】
血中中性脂肪低下作用を有する乳酸菌は、たとえば実施例に記載した手順で確認することができる。簡潔には、乳酸菌の乾燥粉末を含む餌(乳酸菌群)および含まない餌(対照群)を対象動物に投与する。たとえば、餌の組成の2%程度の乳酸菌を配合した餌(乳酸菌群)と配合していない餌(対照群)をラットなどの対象動物に対して連続して14日間投与する。各対象動物について、毎日、摂餌量、体重および糞重量などを測定する。14日後に対象動物から血液、肝および脂質を採材して、血中中性脂肪、各臓器の周囲の脂質量を測定する。対照群と比較して乳酸菌群において中性脂肪の低下が測定されれば、その乳酸菌は、血中中性脂肪低下作用を有する。
【0064】
便通改善作用を有する乳酸菌は、たとえば実施例に記載した手順で確認することができる。簡潔には、乳酸菌の乾燥粉末を含む餌(乳酸菌群)および含まない餌(対照群)を対象動物に投与する。たとえば、餌の組成の2%程度の乳酸菌を配合した餌(乳酸菌群)と配合していない餌(対照群)をラットなどの対象動物に対して連続して14日間投与する。各対象動物について、毎日、摂餌量、体重および糞重量などを測定する。対照群と比較して乳酸菌群において糞重量の増加が測定されれば、その乳酸菌は、便通改善作用を有する。
【実施例】
【0065】
以下に実施例を示し、本発明の実施の形態についてさらに詳しく説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0066】
〔実施例1:FS-1株の同定〕
滋賀県産の鮒寿司からスクリーニングより単離された乳酸菌FS-1株を同定した。具体的には、以下に説明する方法によりスクリーニングを行った。まず、魚のすり身を、当量の純水と共に家庭用フードプロセッサーで撹拌したのち、オートクレーブで115℃15分間加熱滅菌した。次いで、12.5%すり身、1.4%寒天、20μg/mlブロムクレゾールパープルおよび0.5%グルコースを含む培地を作製し、菌株(1000CFU/g)を播種し、32℃で2日間培養した後の菌数(CFU/g)およびpHを測定した。菌数が2×108CFU/g以上であり、pH4.2以下であった株を、最も良好な菌株とした。上記スクリーニングで基準を超えた株(最も良好な菌株)は、6株であった。
【0067】
FS-1株は唯一、鮒の卵部分のみから分離された株であった。また、FS-1株は、発酵の際に乳酸のみを生産するホモタイプであり、同時に単離した他の株と比較し増殖速度が速く、増殖の際に非常に粘度の高い細胞外多糖類(EPS)を産生した。更に、同時に同定された菌株とFS-1株を魚のすり身懸濁液に接種したところ、FS-1株は特異的に増殖速度が速いだけでなく、魚のすり身由来の汚染菌の増殖も抑制することが分かった。その他、乳、魚、肉および米を発酵させることができ、なかでも肉、魚、米の発酵に適していた。FS-C株を用いて乳を発酵させると、カスピ海ヨーグルト様のテクスチャーとなった。FS-1株による乳、魚、肉および米の発酵は、通常の発酵手順で行った。具体的には、乳および米の発酵については、液状にして殺菌した乳または米の溶液にFS-1株の生菌を混合し、35~40℃程度で17~24時間程度発酵させた。肉および魚については、FS-1株を用いて作製したヨーグルト(上述の乳発酵物)に肉または魚を漬けて冷蔵庫で1~2日程度発酵させた。
【0068】
このFS-1株について、全遺伝子解析を行い、ラクトバチルス・プランタラム亜種プランタラムFS-1C(FS-1)と命名した。
【0069】
〔実施例2:血中中性脂肪、脂質および糞便に対する効果〕
乳酸菌には、FS-1株の死菌体を用いた。4週齢のSDラットオスを対照(コントロール)群および乳酸菌群(死菌体2%配合群;FS-1群)に分け、それぞれに対して表1に示した組成の餌を14日間投与した(各群n=8)。各ラットについて、毎日、摂餌量、体重および糞重量を測定した。14日後には、ラットから血液および脂質を採材した。血液は、3000rpm15分間遠心(トミー工業株式会社AX-311)を行い、血清を回収し、血清中の中性脂肪濃度をトリグリセライド E-テストワコー(Wako社)を用いて測定した。脂質は、採材後重量を測定した。
【0070】
各群とも、14日間の摂餌量および体重には変化が見られなかった(図示せず)。それぞれの群における糞重量(g)の個々の測定値および平均値については表2に示した。また、それぞれの群における糞重量(g)の平均値を示すグラフを
図1に示した。
図1および表2から明らかなように、本乳酸菌の投与により、コントロール群に対し、乳酸菌群では糞重量が有意に増加した。
【0071】
また、それぞれの群における個々の血清中性脂肪濃度(mM)の測定値および平均値については表3に、血清中性脂肪濃度(mM)の平均値を示すグラフを
図2に示した。
図2および表3から明らかなように、本乳酸菌の投与により、コントロール群に対し、乳酸菌群では血中の中性脂肪が有意に減少した。
【0072】
また、それぞれの群における内臓脂肪重量の評価のため、腎周囲脂肪(g)、腸間膜脂肪(g)及び副睾丸周囲脂肪(g)を測定し、それぞれの平均値について表4に示した。表4から明らかなように、本乳酸菌の投与により、コントロール群に対し、乳酸菌群では、腎周囲脂肪、腸間膜脂肪及び副睾丸周囲脂肪のいずれもが低下し、このことから内臓脂肪量が減少することが確認された。特に腎周囲脂肪はコントロール群に比べ、約10%の大きな減少を示した。
【0073】
これらの結果から、本乳酸菌は、便通改善効果、脂質減少効果、血中中性脂肪の減少効果および内臓脂肪の減少効果を有することが明らかとなった。
【0074】
実施例2に用いた餌の組成の重量比を下記に示す。コントロール群に用いた餌の組成は「Control」として示し、乳酸菌群に用いた餌の組成は「乳酸菌」として示す。
【表1】
【0075】
実施例2で14日間摂餌させて飼育したコントロール群、乳酸菌群における14日目24時間の糞重量(g)の平均値を下記に示す。T.testはこれらの値に基づいたコントロール群の糞重量に対する乳酸菌群の糞重量とのt検定を行う場合のt値を示す。
【表2】
【0076】
実施例2で14日間摂餌させて飼育したコントロール群、乳酸菌群における血清中性脂肪濃度(mM)の平均値について下記に示す。T.testはこれらの値に基づいたコントロール群の血清中性脂肪濃度に対する乳酸菌群の血清中性脂肪濃度とのt検定を行う場合のt値を示す。
【表3】
【0077】
14日間摂餌させて飼育したコントロール群、乳酸菌群における腎周囲脂肪(g)、腸間膜脂肪(g)及び副睾丸周囲脂肪(g)の平均値について下記に示す。
【表4】
【0078】
〔実施例3:インフルエンザウイルス感染に対する抑制効果〕
本実施例において、各図はMean±SEで表記した。
図3~6はT. Test検定、
図7~8はWillcox検定を実施し、*:P < 0.05、#:P < 0.1で表記した。
【0079】
(材料)
試験試料として、FS-1株の乾燥粉末(Lot.001)を用いた。陽性対照には、「補中益気湯」顆粒(TJ-41)(株式会社ツムラ)を用いた。試験ウイルスにはA/Puerto Rico/8/34 (H1N1)を用いた。試料動物には、BALB/cマウス、5~6週齢、雌を用いた。
【0080】
(試験サンプルの調製)
試験試料であるFS-1乾燥粉末を正確に秤量し、0.5%CMC-Na(Sodium Carboxymethyl Cellulose)水溶液を加え、2mg/mLおよび20mg/mLの濃度の均一な懸濁液を作製した。陽性対照は、試験試料と同様の方法で、10mg/mLの懸濁液を作製した。
【0081】
(試験群と試験サンプル投与量)
マウスを正常対照群(Nor Cont;Nor C)、モデル対照群(Mod Cont;Mod C)、陽性対照群(Pos Cont;Pos C)、試料低投与群(FS-1 L)および試料高投与群(FS-1 H)の5つに分けた(各群n=10)。各群に対する投与量は表5に示す。なお、正常対照群とモデル対照群には0.5%CMC-Na水溶液のみを投与した。Doseは投与した試料の濃度と投与量から算出した。
【0082】
試験群への試験サンプルの投与条件について下記に示す。
【表5】
【0083】
(試験サンプル投与とウイルス接種)
試験サンプルは1日1回、連続14日間で経口により投与してマウスを飼育した。その後、正常対照群は40μlのPBS(Phosphate buffered saline)、その他の試験群は40μlのH1N1ウイルス懸濁液(濃度1×104 TCID50)を点滴投与した。なお、投与とその後の試験はBiosafety level 2(BSL-2)の試験室で行った。
【0084】
(試験評価)
ウイルス接種の3日後に試験を終了し、各群について、体重、肺重量、肺/体重比を測定し、肺PCR(右側)および病理観察(左側)を評価した。
【0085】
(体重)
ウイルス接種後の各試験群動物の体重(g)の測定結果を表6および
図3に示す。D0~D3は、それぞれウイルス接種の0日~3日目の体重を占める。ウイルス接種した各群において、接種3日目の体重は、正常対照群に比べて、顕著な低下を示した。
【0086】
実施例3で用いたウイルス摂取後の各試験群動物の体重(g)の測定結果を平均値として下記に示す。SDは標準偏差を、SEは標準誤差を、T.Testはこれらの値に基づいた正常対照群(Nor C)に対する他の群とのt検定を行う場合のt値を示す。
【表6】
【0087】
(肺重量と肺重量比)
ウイルス接種後の各試験群動物の肺重量(g)の測定結果は表7および
図4に示す。肺/体重比(%)の算出結果は表7および
図5に示す。ウイルス接種により、モデル対照群(Mod C)動物の肺重量が増加した。これに対して試料低投与群(FS-1 L)および試料高投与群(FS-1 H)では、ウイルス感染による肺重量の増加が有意に抑制された。
【0088】
実施例3で用いたウイルス接種後の各試験群動物の肺重量(g)の測定結果を平均値として下記に示す。SDは標準偏差を、SEは標準誤差を、T.Testの上段はこれらの値に基づいたモデル対照群(Med C)に対する他の群とのt検定を行う場合のt値を示す。T.Testの下段は同様に正常対照群(Nor C)に対する他の群とのt検定を行う場合のt値を示す。
【表7】
【0089】
(肺PCR)
ウイルス接種した各群の動物肺部のウイルス感染状況をPCRで測定した。採材した肺は、EasyPure Viral DNA/RNA Kit(TransGen Biotech社)を用いて溶解し、RNAを抽出・濃縮し、NanoDrop 2000c超微量分光光度計(Thermo Fisher Scientific社)でRNA濃度を測定した。その後、Eppendorf Realplex分光蛍光光度計(Eppendorf社)を用いて、各サンプル中のリアルタイムRNAの相対発現量を測定した。なお、測定時に内部標準としてGAPDHを使用し、測定値の補正を行った。測定結果を表8および
図6に示す。モデル対照群(Mod C)に比べて、試料高投与群(FS-1 H)のウイルス発現量が抑制される傾向を示した。
【0090】
実施例3で用いたウイルス接種後の各試験群動物の肺部のウイルスRNA相対発現量の測定結果を下記に示す。SDは標準偏差を、SEは標準誤差を、T.Test vs Mod Cはこれらの値に基づいたモデル対照群(Mod C)に対する他の群とのt検定を行う場合のt値を示す。
【表8】
【0091】
(肺病理観察)
肺病理観察により、出血状態を観察した。出血状態は、出血あり(+)、出血なし(-)として各個体を評価した。ウイルス接種した各群動物肺部の出血状態の評価結果を表9および
図7に示す。
【0092】
表9および
図7に示すように、ウイルス接種により、動物の肺部がダメージを受け、出血現象が現れた。モデル対照群(Mod C)において、半数以上の動物に出血が確認された。しかし、これに比べて、試料低投与群(FS-1 L)および試料高投与群(FS-1 H)に出血抑制傾向が見られ、特に試料高投与群(FS-1 H)には高い出血抑制効果が観察された。Wilcoxonの順位和検定の結果から、試料低投与群(FS-1 L)および試料高投与群(FS-1 H)に見られたモデル対照群(Mod C)との差は有意であると考えられた。
【0093】
実施例3で用いたウイルス接種後の各試験群動物の肺の出血状態の観察による評価結果を下記に示す。各個体は出血状態を出血あり(+)、出血なし(-)のいずれかとして評価し、出血あり(+)として評価された個体の合計数を+、出血なし(-)として評価された個体の合計数をーとして表中に示す。表の下のvs Mod Cは、試料低投与群(FS-1 L)とモデル対照群(Mod C)とでWilcoxonの順位和検定を行った場合の検定値をFS-1 Lの下に、試料高投与群(FS-1 H)とモデル対照群(Mod C)とでWilcoxonの順位和検定を行った場合の検定値をFS-1 Hの下に示す。
【表9】
【0094】
また、肺病理観察により、炎症細胞浸潤状態を観察した。炎症細胞浸潤状態は、病理切片を確認することにより、変化なし(-)、軽微な変化(+)、軽度な変化(++)、中度な変化以上(+++)として各個体を評価した。ウイルス接種した各群動物肺部の病理観察結果を表10に示す。また、ウイルス接種した各群動物肺部の炎症細胞浸潤状態の評価結果を
図8に示す。肺病理観察結果の例(HE染色、×200倍)を
図9に示す。
【0095】
表10、
図8および
図9に示すように、ウイルス接種により、動物の肺部組織に炎症細胞の浸潤現象が現れた。特にモデル対照群(Mod C)において、半数以上の動物に“軽度な変化”が確認された。しかし、これに比べて、試料低投与群および試料高投与群には感染抑制傾向が見られ、特に試料高投与群(FS-1 H)には、顕著な感染抑制効果が見られた。Wilcoxonの順位和検定の結果から、試料低投与群(FS-1 L)および試料高投与群(FS-1 H)に見られたモデル対照群(Mod C)との差は有意であると考えられた。
【0096】
実施例3で用いたウイルス接種後の各試験群動物の肺の病理観察による評価結果を下記に示す。各個体の炎症細胞浸潤状態は、病理切片を確認することにより、変化なし(-)、軽微な変化(+)、軽度な変化(++)、中度な変化以上(+++)のいずれかとして評価し、中度な変化以上(+++)として評価された個体の合計数を+++、軽度な変化(++)として評価された個体の合計数を++、軽微な変化(+)として評価された個体の合計数を+、出血なし(-)として評価された個体の合計数をーとして表中に示す。表の下のvs Mod Cは、陽性対照群(Pos C)とモデル対照群(Mod C)とでWilcoxonの順位和検定を行った場合のモデル対照群(Mod C)に対する検定値をPos Cの下に、試料低投与群(FS-1 L)とモデル対照群(Mod C)とでWilcoxonの順位和検定を行った場合のモデル対照群(Mod C)に対する検定値をFS-1 Lの下に示す。試料高投与群(FS-1 H)とモデル対照群(Mod C)とでWilcoxonの順位和検定を行った場合のモデル対照群(Mod C)に対する検定値をFS-1 Hの下に示す。
【表10】
【0097】
〔実施例4:NK活性に対する効果〕
(材料)
菌株は、ラクトバチルス・プランタラム亜種プランタラムFS-1株を用いた。FS-1株は、MRS培地(Difco社)を用いて30℃で24時間増殖させ、マイナス70℃で凍結保存したものを種菌とした(FS-1C株)。
【0098】
(試験サンプルの調製)
種菌試料:MRS培地で増殖させた菌株(FS-1株)を遠心して集菌し、生理食塩水で洗菌後、リン酸緩衝塩溶液で108CFU/mlに調整して98℃で5分間加熱殺菌して死菌液とした。
【0099】
末梢血単核球:試験当日に健常人から末梢血を採血し、フィコール法によって末梢血単核球(PBMC)を分離した。PBMCを10%ウシ胎仔血清(FCS)含有RPMI1640培地で2×106/ml濃度に調整し、24穴プレートにウェルあたり500μlを分注した。次に刺激物質として死菌液を50μlずつ加え、37℃、5%CO2下で20時間培養した。
【0100】
対照試料:上述と同様の方法で、刺激物質の代わりにPBSを加え、対照試料を調製した。
【0101】
(試験評価)
培養終了後、2000rpmで5分間遠心し、上清はサイトカイン測定用に凍結保存し、沈渣のPBMCは直ちにNK活性の測定に用いた。
【0102】
(測定方法)
サイトカイン:培養上清に含まれるサイトカインとして、インターフェロンγ(IFN-γ)を市販のELISA法による測定キットAffimetrix/eBioscience)を用いて測定した。また、インターロイキン12(IL-12)も市販のELISAキット(R&D System)を用いて測定した。
【0103】
NK活性:エフェクター細胞として刺激したPBMCを用い、標的細胞としてヒトNK細胞感受性株であるK562細胞を用いた。PBMC(2×106cells/ml濃度)を、疎水性シアニン膜系蛍光色素3,3’-Dioctadecyloxacarbocyanine perchlorate(DiO)で染色したK562細胞(5×104cells/ml濃度)および膜不透過性核酸系都合蛍光色素Propidium iodide(PI)の存在下で、37℃2時間反応させた(E:T比=40:1)。傷害されたK562細胞(PI陽性細胞)の割合をフローサイトメーター(Beckman Coulter)で測定することにより、NK活性を測定した。NK活性は以下の式で算出した。
【0104】
NK活性(%)=DiO陽性PI陽性細胞数/(DiO陽性PI陰性細胞数+DiO陽性PI陽性細胞数)×100-spontaneous lysi
【0105】
(試験1)
試験1における、菌体刺激による免疫機能の変化(PBMCを各種試料で37℃20時間刺激した後の培地中に放出されたサイトカインおよびPBMCに含まれるNK活性)を示す測定結果を表11に示す(Exp.1)。提供者K(60代女性)のPBMCを用いて、FS-1株の菌体、比較のために市販されている乳酸菌株であるカゼイ・シロタ株(Lactobacillus casei)の菌体を試料として試験した。なお、試料中の菌数は、菌体試料が同じ濃度(終濃度107cfu/ml)になるように設定した。
【0106】
FS-1株菌体は、炎症性サイトカインであるIL-12およびIFN-γの高い産生を誘導した。NK活性は、未刺激の対照に比べて、FS-1において活性が高かった。これらの結果から、FS-1菌体は、炎症性サイトカインの産生を誘導し、NK活性を亢進させることが分かった。
【0107】
(試験2)
試験1と同じ傾向が他の個体でも見られるかどうかを調べるため、提供者A(60代男性)のPBMCを加えて2種類のPBMCで試験を行った(Exp.2)。結果を表11に示す。
【0108】
試験条件は試験1と同様であったが、被験物質の刺激に対するPBMCの反応には多少の個人差が見られ、同一人物でも採血時期によって違いがあった。試験1の結果と異なり、他の乳酸菌のシロタ株によるそれらのサイトカインの産生は低かった。NK活性については、提供者Kおよび提供者AともにFS-1株菌体の刺激で亢進していた。
【0109】
試験1および試験2において、IL-12およびIFN-γの産生量は相関していた。IFN-γはIL-12によって活性化されたNK細胞からも産生されるので、IFN-γの産生量はIL-12によるNK細胞の活性化の程度を反映しているのかもしれない。すなわち、菌体のみの刺激での、IL-12の産生誘導、それによるNK細胞の活性化、それによるIFN-γの産生上昇、その後のさらなるNK活性の上昇という流れになる可能性が考えられる。
【0110】
これらの試験によって、FS-1株は、ウイルス感染抑制能およびNK活性亢進能が高いことが示された。
【0111】
実施例4の試験1(提供者Kのみ)及び試験2(提供者K及びA)における培地中に放出されたサイトカイン(IL-12濃度(pg/ml)、IFN-γ濃度(pg/ml))及びNK活性(%)を下記に示す。試験1は、提供者Kの末梢血単核球(PBMC)で実施し、試験2では提供者K及びAのPBMCにて試験を実施している。各PBMCはFS-1C株、Shirota株、素材なし(PBS対象)で刺激し、培養している培地の上清よりPBMCにより産生されたIL-12濃度、IFN-γ濃度を測定し下記に示す。また、刺激されたPBMCとK562細胞の共培養後に、K562細胞の障害率を測定し得られるPBMCのNK活性を下記に示す。
【表11】
【産業上の利用可能性】
【0112】
本発明の乳酸菌は、ウイルス感染を抑制し、免疫を賦活し、脂質を減少し、血中中性脂肪を低下させ、および/または便通を改善させるための医薬、化粧品および飲食品に利用することができる。