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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-04
(45)【発行日】2024-03-12
(54)【発明の名称】セラミックス回路基板の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H05K 3/06 20060101AFI20240305BHJP
   C23F 1/18 20060101ALI20240305BHJP
   C22C 5/08 20060101ALI20240305BHJP
   B23K 35/30 20060101ALI20240305BHJP
   H01L 21/306 20060101ALI20240305BHJP
   C23F 1/30 20060101ALI20240305BHJP
【FI】
H05K3/06 A
C23F1/18
C22C5/08
B23K35/30 310B
H01L21/306 Z
H05K3/06 M
C23F1/30
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2022195580
(22)【出願日】2022-12-07
(62)【分割の表示】P 2019542028の分割
【原出願日】2018-09-07
(65)【公開番号】P2023051925
(43)【公開日】2023-04-11
【審査請求日】2022-12-07
(31)【優先権主張番号】P 2017174787
(32)【優先日】2017-09-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2018010679
(32)【優先日】2018-01-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(73)【特許権者】
【識別番号】303058328
【氏名又は名称】東芝マテリアル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110004026
【氏名又は名称】弁理士法人iX
(72)【発明者】
【氏名】加藤 寛正
(72)【発明者】
【氏名】平林 英明
(72)【発明者】
【氏名】川島 史行
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 亮人
【審査官】ゆずりは 広行
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2015/029478(WO,A1)
【文献】特開2011-211217(JP,A)
【文献】特許第5523325(JP,B1)
【文献】特開平09-181423(JP,A)
【文献】特公平07-036467(JP,B2)
【文献】特許第2594475(JP,B1)
【文献】特開2008-147446(JP,A)
【文献】特開2005-035874(JP,A)
【文献】特開2003-060111(JP,A)
【文献】特開平10-154866(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H05K 3/06
C23F 1/30
C23F 1/18
C22C 5/08
B23K 35/30
H01L 21/306
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
セラミックス基板の少なくとも一方の面に、Sn及びInから選ばれる1種または2種と、Agと、Cuと、活性金属と、を含有したろう材層を介して銅板を接合したセラミックス回路基板の製造方法において、
セラミックス基板上にろう材層を介して銅板が接合され、前記銅板のパターン形状間において前記ろう材層の一部がむき出しになったセラミックス回路基板を用意し、
化学研磨液を用いて、前記ろう材層の前記一部を化学研磨する第1の化学研磨工程と、
過酸化水素及びペルオキソ二硫酸アンモニウムから選ばれる1種または2種を含有するpH4以上6以下の、前記化学研磨液とは異なるエッチング液で、化学研磨された前記ろう材層の前記一部をエッチングする第1のろう材エッチング工程と、
前記第1のろう材エッチング工程の後に、エッチングされた前記ろう材層の前記一部を化学研磨する第2の化学研磨工程と、
を備え、
得られたセラミックス回路基板において、前記ろう材層は、前記銅板の端部からはみだしたろう材はみだし部を有するセラミックス回路基板の製造方法。
【請求項2】
前記エッチング液のpHは、5.8以下である請求項1記載のセラミックス回路基板の製造方法。
【請求項3】
前記エッチング液は、フッ化アンモニウムと、pH安定化剤と、過酸化水素およびペルオキソ二硫酸アンモニウムから選ばれる1種または2種と、を含む請求項1ないし請求項2のいずれか1項に記載のセラミックス回路基板の製造方法。
【請求項4】
前記pH安定化剤は、HBF4、EDTA、NTA、CyDTA、DTPA、TTHA、GEDTA、グリシン、ジカルボン酸、トリカルボン酸、オキシカルボン酸およびこれらの塩から選ばれる1種または2種以上である請求項3記載のセラミックス回路基板の製造方法。
【請求項5】
前記第1のろう材エッチング工程は、超音波をかけながら行う請求項1ないし請求項4のいずれか1項に記載のセラミックス回路基板の製造方法。
【請求項6】
前記第1の化学研磨工程は、硫酸または塩酸を含有する化学研磨液を用いて行う請求項1ないし請求項5のいずれか1項に記載のセラミックス回路基板の製造方法。
【請求項7】
前記第2の化学研磨工程で用いられる化学研磨液の成分は、前記第1の化学研磨工程で用いられる化学研磨液の成分と異なる請求項1ないし請求項6のいずれか1項に記載のセラミックス回路基板の製造方法。
【請求項8】
前記第1のろう材エッチング工程および前記第1の化学研磨工程の後に、前記セラミックス回路基板を洗浄する洗浄工程をさらに備えた請求項1ないし請求項7のいずれか1項に記載のセラミックス回路基板の製造方法。
【請求項9】
前記セラミックス基板は、窒化物系セラミックス基板である請求項1ないし請求項8のいずれか1項に記載のセラミックス回路基板の製造方法。
【請求項10】
前記第1のろう材エッチング工程を行う前の前記セラミックス回路基板は、前記銅板にエッチングレジストを塗布してから前記銅板をエッチング加工することにより前記パターン形状に加工したものである請求項1ないし請求項9のいずれか1項に記載のセラミックス回路基板の製造方法。
【請求項11】
前記銅板をエッチング加工した後、前記エッチングレジストを除去した前記セラミックス回路基板に対して、前記第1のろう材エッチング工程を行う請求項10記載のセラミックス回路基板の製造方法。
【請求項12】
前記ろう材はみだし部のサイズが10μm以上200μm以下である請求項1ないし請求項11のいずれか1項に記載のセラミックス回路基板の製造方法。
【請求項13】
得られたセラミックス回路基板の前記銅板の表面粗さRaは、0.2μm以上1μm以下である請求項1ないし請求項12のいずれか1項に記載のセラミックス回路基板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
実施形態は、セラミックス回路基板の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
パワーモジュールの高出力化が進んでいる。これに伴い半導体素子の動作保証温度が高くなり、175℃以上となっている。このため、半導体素子を搭載するセラミックス回路基板にもTCT(サーマルサイクルテスト)特性の向上が求められている。
例えば、国際公開第2017/056360号公報(特許文献1)では、銅板側面に傾斜構造を設けること、および接合層のはみ出し部サイズの最適化が記載されている。特許文献1では、優れたTCT特性を得ている。特に、接合層のはみ出し部サイズを最適化することが好ましいとされている。
接合層のはみ出し部サイズを制御するために、ろう材層のエッチングが行われている。セラミックス基板と銅板の接合には、活性金属ろう材が用いられる。活性金属ろう材は、Ag(銀)、Cu(銅)、Ti(チタン)を含有するろう材である。また、必要に応じ、Sn(錫)やIn(インジウム)を含有している。活性金属ろう材はCu以外の成分を含んでいる。このため、銅板自体を所定のパターン形状にエッチングする工程の後には、ろう材層が残存する。このため、不要なろう材層を除去するろう材エッチング工程が必要になる。
例えば、特許第4811756号公報(特許文献2)では、キレート剤、過酸化水素、pH調整剤を混合したろう材エッチング液を用いている。特許文献2ではキレート剤は、Ethyleneiaminetetraacetic acid(EDTA)などが用いられている。また、pH調整剤はアンモニア水を用いている。特許文献2では、このようなろう材エッチングにより、ろう材はみ出し部サイズを制御している。
しかしながら、特許文献2の方法では、一回のろう材エッチング工程に150分と長時間かかっていた。このため、量産性が悪かった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】国際公開第2017/056360号公報
【文献】特許第4811756号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の一態様が解決しようとする課題は、量産性の優れたろう材エッチング工程を用いたセラミックス回路基板の製造方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
セラミックス基板の少なくとも一方の面に、Sn及びInから選ばれる1種または2種と、Agと、Cuと、活性金属と、を含有したろう材層を介して銅板を接合したセラミックス回路基板の製造方法において、セラミックス基板上にろう材層を介して銅板が接合され、前記銅板のパターン形状間において前記ろう材層の一部がむき出しになったセラミックス回路基板を用意し、化学研磨液を用いて、前記ろう材層の前記一部を化学研磨する第1の化学研磨工程と、過酸化水素及びペルオキソ二硫酸アンモニウムから選ばれる1種または2種を含有するpH4以上6以下の、前記化学研磨液とは異なるエッチング液で、化学研磨された前記ろう材層の前記一部をエッチングする第1のろう材エッチング工程と、前記第1のろう材エッチング工程の後に、エッチングされた前記ろう材層の前記一部を化学研磨する第2の化学研磨工程と、を備え、得られたセラミックス回路基板において、前記ろう材層は、前記銅板の端部からはみだしたろう材はみだし部を有するものである。
【図面の簡単な説明】
【0006】
図1】第一の実施形態を例示する工程図。
図2】第二の実施形態を例示する工程図。
図3】工程順に応じたセラミックス回路基板を例示する図。
【発明を実施するための形態】
【0007】
実施形態にかかるセラミックス回路基板の製造方法は、セラミックス基板の少なくとも一方の面に、Sn及びInから選ばれる1種または2種と、Agと、Cuと、活性金属と、を含有したろう材層を介して銅板を接合したセラミックス回路基板の製造方法において、セラミックス基板上にろう材層を介して銅板が接合され、前記銅板のパターン形状間において前記ろう材層の一部がむき出しになったセラミックス回路基板を用意し、化学研磨液を用いて、前記ろう材層の前記一部を化学研磨する第1の化学研磨工程と、過酸化水素及びペルオキソ二硫酸アンモニウムから選ばれる1種または2種を含有するpH4以上6以下の、前記化学研磨液とは異なるエッチング液で、化学研磨された前記ろう材層の前記一部をエッチングする第1のろう材エッチング工程と、前記第1のろう材エッチング工程の後に、エッチングされた前記ろう材層の前記一部を化学研磨する第2の化学研磨工程と、を備え、得られたセラミックス回路基板において、前記ろう材層は、前記銅板の端部からはみだしたろう材はみだし部を有するものである。
【0008】
セラミックス回路基板は、セラミックス基板と銅部材をAg、Cuおよび活性金属を含有したろう材層を介して接合したものである。いわゆる活性金属法を用いたものである。
セラミックス基板としては、窒化珪素基板、窒化アルミニウム基板、酸化アルミニウム基板、アルジル基板などが挙げられる。例えば、セラミックス基板の板厚は、0.2~0.8mmである。例えば、窒化珪素基板の熱伝導率は80W/m・K以上、3点曲げ強度は600MPa以上である。例えば、窒化アルミニウム基板の熱伝導率は150W/m・K以上、3点曲げ強度は300~550MPaである。例えば、酸化アルミニウム基板の熱伝導率は20~40W/m・K、3点曲げ強度は400~500MPaである。
また、アルジル基板は酸化ジルコニウムを含有した酸化アルミニウム基板のことである。
アルジル基板の熱伝導率は20~40W/m・K、3点曲げ強度は450~600MPaである。窒化珪素基板は、強度が高いので基板を0.33mm以下の薄型化が可能である。窒化アルミニウム基板は熱伝導率が高い。また、酸化アルミニウム基板及びアルジル基板の熱伝導率は低いが、これらの基板は安価である。セラミックス基板の種類は、目的に合わせて適宜選択できる。また、窒化珪素基板および窒化アルミニウム基板は、窒化物系セラミックスと呼ぶ。酸化アルミニウム基板およびアルジル基板は酸化物系セラミックスと呼ぶ。
【0009】
銅部材は、無酸素銅からなることが好ましい。銅部材中の酸素が多いと活性金属接合の際に、接合強度が低下する可能性がある。銅部材は、銅板であっても良いし、ろう材層のうえに形成された銅の膜であっても良い。以降では、銅部材が銅板である場合について説明する。
銅板の板厚は、0.2mm以上が好ましい。また、0.7mm以上と厚くすることにより、銅板の放熱性を向上させることができる。板厚の上限は特に限定されないが、銅板の板厚は5mm以下が好ましい。板厚が5mmを超えると、銅板とセラミックス基板を接合した際のセラミックス回路基板の反りが大きくなる。また、エッチングによりパターン形状に加工することが難しくなる。
【0010】
活性金属ろう材は、Ag、Cuおよび活性金属を必須成分として含有する。AgとCuは共晶となる組合せである。AgCu共晶が形成されることにより、セラミックス基板と銅板の接合強度を向上させることができる。また、活性金属は、Ti(チタン)、Zr(ジルコニウム)、Hf(ハフニウム)、Nb(ニオブ)から選ばれる1種又は2種以上である。活性金属の中ではTiが好ましい。活性金属はセラミックス基板と反応して強固な接合を行うことができる。窒化物系セラミックスとは活性金属窒化物相を形成する。例えば、活性金属にTiを用いた場合、窒化チタン(TiN)相が形成される。また、酸化物セラミックスとは活性金属酸化物相を形成する。例えば、活性金属にTiを用いた場合、酸化チタン(TiO)相が形成される。また、活性金属は金属単体であってもよいし、水素化物として添加しても良い。
また、必要に応じ、活性金属ろう材には、Sn(錫)またはIn(インジウム)を添加しても良い。SnおよびInは、活性金属ろう材の融点を下げることができる。このため、接合温度を下げることができる。低温での接合は、接合体の残留応力を減少させることができる。残留応力の低減は、接合体の熱サイクル信頼性の向上に有効である。
また、必要に応じ、活性金属ろう材には、C(炭素)を添加しても良い。炭素を添加することにより、ろう材の流動性を抑制できる。そのため、ろう材層の厚さをより均一にできる。
また、活性金属ろう材において、Agの含有量は40wt%以上80wt%以下、Cuの含有量は15wt%以上45wt%以下、活性金属の含有量は1wt%以上12wt%以下、Sn(またはIn)の含有量は0wt%以上20wt%以下、Cの含有量は0wt%以上2wt%以下であることが好ましい。Ag、Cu、Ti、Sn(またはIn)、およびCの含有量の合計は、100wt%とする。また、活性金属ろう材にSnまたはInを添加する際は、SnまたはInの含有量が5wt%以上であることが好ましい。SnとInの両方を添加する場合はその合計の含有量が5~20wt%の範囲内であることが好ましい。また、活性金属ろう材に炭素を添加するときは、炭素の含有量が0.1wt%以上であることが好ましい。
【0011】
接合工程は、主に塗布工程と加熱工程を含む。
塗布工程では、まず、上記接合ろう材ペーストを調製する。セラミックス基板上に接合ろう材ペーストを塗布し、その上に銅板を配置する。接合ろう材ペーストの塗布厚さ10~60μmの範囲が好ましい。塗布厚さが10μm未満では接合ろう材が不足するために接合強度が低下する恐れがある。また、塗布厚さが60μmを超えると、接合強度の改善が見られないだけでなく、コストアップの要因となる。銅板を両面に接合する場合は、セラミックス基板の両面に接合ろう材ペーストを塗布する。また、銅板はろう材ペーストを塗布した領域と同程度のサイズのものを配置することが好ましい。また、予めパターン形状の銅板を配置してもよい。
次に、加熱工程を行う。加熱温度は700~900℃の範囲内である。また、非酸化雰囲気中、1×10-3Pa以下の雰囲気で行うことが好ましい。ろう材中にSnまたはInを添加することにより、接合温度を850℃以下にすることができる。
このような工程によりセラミックス基板と銅板が接合させることができる。
【0012】
まず、ろう材層を介して銅板が接合され、前記銅板のパターン形状間においてろう材層の一部がむき出しになったセラミックス回路基板を用意する。例えば、セラミックス基板上に接合された銅板の一部をエッチングし、パターン形状に加工することで、上記セラミックス回路基板を用意する。または、セラミックス基板上にパターン形状に加工された複数の銅板を接合することで、上記セラミックス回路基板を用意しても良い。あるいは、銅板に所定のパターン形状が予め設けられたセラミックス回路基板を持ってきて用意しても良い。
ろう材層がむき出しになった箇所を存在させるには、銅板をエッチング工程する方法が有効である。予めパターン形状に加工した銅板を接合する方法も有効である。その一方で、接合工程での銅板の位置ずれを考慮すると、複雑なパターン形状やファインピッチ(隣り合う銅板の間隔が狭いもの)への対応が困難となる可能性がある。このため、銅板をエッチングしてパターン形状にすることが好ましい。ファインピッチとしては、隣り合う銅板同士の間隔が2mm以下のものを指す。
銅板をエッチングする工程では、銅板パターンとして残したい箇所にエッチングレジストを塗布する。銅板エッチング工程では、塩化鉄が主に使われる。塩化鉄は銅をエッチングするのに有効である。一方、塩化鉄では、Ag、Cuおよび活性金属を含有したろう材層をエッチングすることはできない。このため、ろう材層がむき出しになった箇所を存在させることができる。また、必要に応じ、銅板エッチング工程後に洗浄工程を行っても良い。なお、銅板のエッチングには塩化鉄の代わりに、塩化銅を使っても良い。
【0013】
次に、エッチングされたろう材層箇所を化学研磨する化学研磨工程を行う。化学研磨工程では、硫酸または塩酸を含有する化学研磨液を用いることが好ましい。化学研磨液は、硫酸および塩酸の両方を含有していても良いが、硫酸および塩酸の一方のみを含有していることが好ましい。むき出しになったろう材層は酸化される可能性がある。また、銅板をエッチングするエッチング液と反応して反応物が形成される可能性がある。また、後述するように、ろう材エッチング工程により、むき出しになったろう材層の一部の成分が酸化物となる。化学研磨工程により、この酸化物を除去することができる。化学研磨液は硫酸水溶液、塩酸水溶液、または硫酸と過酸化水素を混合した水溶液が好ましい。また、硫酸水溶液は、チオ硫酸ナトリウム(Na)などの硫酸塩を含有した水溶液も含む。
硫酸はJIS-K-8951(2006)の品質を満たすことが好ましい。また、塩酸はJIS-K-8180(2015)の品質を満たすことが好ましい。JIS-K-8951およびJIS-K-8180は、ISO6352-2に対応する。また、チオ硫酸ナトリウムは、JIS-K-8638(2011)の品質を満たすことが好ましい。JIS-K-8638については、ISO6352-2が参照される。
硫酸水溶液は、硫酸濃度が0.5~25wt%の範囲内であることが好ましい。また、塩酸水溶液は、塩酸濃度が0.5~20wt%の範囲内であることが好ましい。また、硫酸と過酸化水素を混合した水溶液は、硫酸と過酸化水素の合計が0.5~30wt%の範囲内であることが好ましい。それぞれ、濃度が0.5wt%未満では、化学研磨の効果が不足する可能性がある。また、20wt%を超えて多いと化学研磨効果が高くなりすぎる可能性がある。化学研磨効果が高くなりすぎると、ろう材はみ出し部のサイズ調整が難しくなる。このため、硫酸、塩酸、過酸化水素の濃度は0.5~20wt%、さらには1~10wt%の範囲内であることが好ましい。また、硫酸水溶液としてチオ硫酸ナトリウム水溶液を用いる場合、キレート剤を0.01~1wt%添加することが好ましい。キレート剤を添加することにより、pHを下げることができる。
チオ硫酸ナトリウム水溶液を化学研磨液として用いた化学研磨工程は、ろう材エッチング工程を行う前の前処理として行うことが好ましい。ろう材エッチング工程を行う前とは、銅板エッチング後のむき出しになったろう材層を化学研磨する工程のことである。銅板エッチング工程は、塩化鉄または塩化銅を含む銅板エッチング液が使われる。活性金属ろう材層はAg(銀)を含んでいる。ろう材層中のAgと銅板エッチング液のClが反応してAgCl(塩化銀)が形成され易い。チオ硫酸ナトリウム水溶液は、AgClを分解する効果が高い。予め、チオ硫酸ナトリウム水溶液でAgClを分解しておくことにより、ろう材エッチング工程を短時間で行うことができる。銅板の厚さが0.7mm以上になると、銅板エッチング液にさらされる時間が長くなる。このため、むき出しになったろう材層表面にAgClが形成され易くなる。
化学研磨工程を複数回行う場合は、1回目の化学研磨工程でチオ硫酸ナトリウム水溶液を用いることが好ましい。2回目以降の化学研磨工程では、硫酸(チオ硫酸ナトリウム含まず)または塩酸を含有する化学研磨液を用いても良い。
【0014】
1回の化学研磨工程は5分以下が好ましい。5分を超えて長いと銅板表面を粗くしてしまう可能性がある。5分以下であれば、銅板の表面粗さRaは2μm以下となる。また、化学研磨工程時間を20秒以上2分以下にすれば、銅板の表面粗さRaは1μm以下と平坦面を維持することができる。このため、銅板エッチング工程の際に銅板表面に塗布したエッチングレジストをはがしてから、ろう材エッチング工程を行ったとしても、銅板表面粗さRaを0.1~1μmの平坦面とすることができる。エッチングレジストとろう材エッチング液または化学研磨液が反応して不具合が起きることを考慮しないで済む。
1回の化学研磨工程で、2種類以上の化学研磨液を用いてもよい。すなわち、1回の化学研磨工程において、ある成分を含有する化学研磨液を用いて化学研磨を行った後、別の成分を含有する化学研磨液を用いて化学研磨を行っても良い。また、2回以上の化学研磨工程を行う場合、工程ごとに化学研磨液や条件(時間など)を変えてもよい。
化学研磨工程の後に、ろう材エッチング工程を行うことが好ましい。化学研磨工程後で除去しきれていないろう材層があった場合には、再度、ろう材エッチング工程を行うことが有効である。また、ろう材エッチング工程の後および化学研磨工程の後に、洗浄工程を行うことが好ましい。洗浄工程を入れることにより、ろう材エッチング液または化学研磨液が残って、次の工程に悪影響を与えることを防ぐことができる。
【0015】
化学研磨工程の後のろう材層のエッチング工程では、過酸化水素またはペルオキソ二硫酸アンモニウムから選ばれる1種または2種を含有するpH6以下のエッチング液でろう材層をエッチングする。
ろう材エッチング液のpHが6を超えて大きいと、ろう材層をエッチングする速度が遅くなる。また、ろう材層をエッチングするろう材エッチング液のpHは、4以上であることが好ましい。また、pH4未満であると、ろう材層をエッチングする速度が速くなりすぎる可能性がある。セラミックス回路基板のTCT特性を向上させるためには、ろう材はみ出し部(接合層はみ出し部)を残すことが効果的である。ろう材層のエッチング速度が速すぎると、ろう材はみ出し部のサイズ制御が難しくなる。このため、pH6以下のエッチング液について、より好ましくは、そのpHは4.0以上pH5.8以下である。
また、pH6以下のエッチング液は、過酸化水素、フッ化アンモニウムおよびpH安定化剤を含むことが好ましい。
【0016】
過酸化水素(H)またはペルオキソ二硫酸アンモニウム((NH)は、AgおよびCuを除去する効果がある。AgおよびCuをイオン化して除去することができる。特に、pHを6以下にすることにより、イオン化の効果が高まる。また、過酸化水素またはペルオキソ二硫酸アンモニウムは、活性金属、Sn、In、炭素を酸化する酸化剤としての効果もある。例えば、ろう材にTiを用いた場合、窒化物系セラミックス基板上でTiN(窒化チタン)になっている。上述したエッチング成分は、TiまたはTiNをTiOに変えていく効果がある。同様に、ろう材にSnをSnOに変えていく効果がある。Inなども同様である。
過酸化水素は、JIS-K-1463(2007)に示された品質を有することが好ましい。JIS-K-1463については、ISO6352-2が参照される。また、ペルオキソ二硫酸アンモニウムは、JIS-K-8252(2010)に示された品質を有することが好ましい。
フッ化アンモニウム(NHF)は、酸化物のエッチャントとして機能する。例えば、TiOをTiOFに変えて除去することができる。また、フッ化アンモニウムには、フッ化水素アンモニウム((NH)HF)も含まれる。
pH安定化剤は、フッ化アンモニウムと、過酸化水素及びペルオキソ二硫酸アンモニウムから選ばれる1種または2種と、の混合溶液のpHを安定化させることができる。pH安定化剤は、HBF、EDTA、NTA、CyDTA、DTPA、TTHA、GEDTA、グリシン、ジカルボン酸、トリカルボン酸、オキシカルボン酸およびこれらの塩から選ばれる1種または2種以上であることが好ましい。これらのpH安定化剤であれば、pHを4~6の範囲内に調整することができる。
pH安定化剤は、HBFであることが好ましい。HBFを用いることにより、pHを4.0以上5.8以下に調整することができる。HBFはテトラフルオロホウ酸のことである。HBFは、硼弗化水素酸とも呼ばれる。
HBFと、EDTA、NTA、CyDTA、DTPA、TTHA、GEDTA、グリシン、ジカルボン酸、トリカルボン酸、オキシカルボン酸およびこれらの塩から選ばれる1種または2種以上を組合わせてもよい。
EDTA、NTA、CyDTA、DTPA、TTHA、GEDTA、グリシン、ジカルボン酸、トリカルボン酸、オキシカルボン酸およびこれらの塩はキレート剤と呼ばれる。キレート剤は、Cuの析出を抑制する効果がある。ろう材層は、Cuを含んでいる。ろう材層のエッチングを進めていくと、エッチング液中にCuイオンが増加していく。Cuイオンが一定量を超えると、Cuが析出する。一旦エッチングしたCuが再度析出すると、エッチング速度が低下する。また、キレート剤を添加すると、エッチング液のpHを下げることができる。キレート剤としては、CyDTA、グリシン、ジカルボン酸、トリカルボン酸、オキシカルボン酸およびこれらの塩から選ばれる1種が好ましい。これらのキレート剤は、Cuイオンと錯イオンを形成し易い材料である。また、キレート剤として、CyDTA、グリシン、ジカルボン酸、トリカルボン酸、オキシカルボン酸およびこれらの塩から選ばれる1種を用いる場合、エッチング液中の含有量は0.01wt%以上5wt%以下が好ましい。この含有量であれば、エッチング液のpHを4.0~4.8の範囲内に調整することができる。
また、過酸化水素とフッ化アンモニウムとpH安定化剤の質量の合計を100wt%としたとき、過酸化水素の含有量は15wt%以上90wt%以下が好ましい。また、フッ化アンモニウムの含有量は5wt%以上45wt%以下が好ましい。また、pH安定化剤の含有量は5wt%以上50wt%以下が好ましい。この範囲内であると、それぞれの成分の役割を活かすことができる。また、ろう材をエッチングする際の酸化還元電位(ORP)を高くすることができる。これにより、ろう材エッチングを行う速度を速めることができる。
【0017】
また、過酸化水素、フッ化アンモニウムおよびpH安定化剤はそれぞれ水溶液として混合することが好ましい。過酸化水素の含有量が15~70wt%の過酸化水素含有水溶液が好ましい。フッ化アンモニウムの含有量が15~60wt%のフッ化アンモニウム含有水溶液が好ましい。pH安定化剤の含有量が15~60wt%のpH安定化剤含有水溶液が好ましい。
また、過酸化水素含有水溶液、フッ化アンモニウム含有水溶液およびpH安定化剤含有水溶液を混合してろう材エッチング液を調整する。ろう材エッチング液は、水を混合して希釈してもよい。過酸化水素含有水溶液、フッ化アンモニウム含有水溶液およびpH安定化剤含有水溶液の合計を1L(リットル)としたとき、水を0.5~2L混合してもよい。また、十分に撹拌して均一に混合することが好ましい。
水は、JIS-K-0557(1998)の品質を満たすことが好ましい。JIS-K-0557ではA1~A4の品質が示されている。JIS-K-0557については、ISO3696が参照される。
ペルオキソ二硫酸アンモニウムとフッ化アンモニウムとpH安定化剤の質量の合計を100wt%としたとき、ペルオキソ二硫酸アンモニウムの含有量は20wt%以上95wt%以下、フッ化アンモニウムの含有量は3wt%以上55wt%以下、pH安定化剤の含有量は2wt%以上60wt%以下が好ましい。この範囲であると、それぞれの成分の役割を活かすことができる。また、ろう材をエッチングする際の酸化還元電位(ORP)を高くすることができる。これにより、ろう材エッチングを行う速度を速めることができる。
また、ペルオキソ二硫酸アンモニウム含有水溶液、フッ化アンモニウム含有水溶液およびpH安定化剤含有水溶液を混合してろう材エッチング液を調整する。ろう材エッチング液は、水を混合して希釈してもよい。ペルオキソ二硫酸アンモニウム含有水溶液、フッ化アンモニウム含有水溶液およびpH安定化剤含有水溶液の合計を1L(リットル)としたとき、水を0.5~2L混合してもよい。また、十分に撹拌して均一に混合することが好ましい。水は、JIS-K-0557(1998)の品質を満たすことが好ましい。JIS-K-0557ではA1~A4の品質が示されている。
このようなろう材エッチング液を用いてろう材層をエッチングすることにより、エッチング時間を短縮することができる。ろう材層の厚さが60μm以下であれば30分以下でエッチングすることができる。
ろう材エッチング工程は、ろう材エッチング液を介してセラミックス回路基板に超音波をかけながら行うことが好ましい。超音波の周波数は10kHz以上100kHz以下が好ましい。
超音波をかけながらろう材エッチング工程を行うことにより、ろう材エッチング時間をさらに短縮することができる。超音波をかけながらろう材エッチング工程を行うことにより、1回のろう材エッチング工程の時間を15分以下にすることができる。なお、ろう材エッチング工程の時間の下限は、特に限定されるものではないが1分間以上が好ましい。1分未満ではろう材層の除去効果、ろう材層の酸化効果が不十分になりやすい。これらの効果が小さいと3回目以降のろう材エッチング工程が必要になる可能性がある。ろう材エッチング工程の回数が増えると、セラミックス回路基板の製造装置の大型化を招く。
ろう材エッチング工程を2回以上行う場合、ろう材エッチング液やエッチング条件(温度、時間、超音波など)を変えてもよい。
ろう材エッチング工程において、ろう材エッチング液を、30℃以上70℃以下に加熱することも有効である。加熱することにより、ろう材のエッチング反応を活発にすることができる。
ろう材エッチング液の量は、セラミックス回路基板が完全に浸かる量とする。
【0018】
図1に、第一の実施形態にかかるセラミックス回路基板の製造方法を例示する工程図を示した。第一の実施形態にかかる製造方法は、銅板エッチング工程1→第1の化学研磨工程2→洗浄工程4-1→第1のろう材エッチング工程3→洗浄工程4-2を備える。銅板エッチング工程1により、ろう材層をむき出しにしたセラミックス回路基板を用意する。また、必要に応じ、洗浄工程を行う。洗浄工程では、純水を使って洗浄することが好ましい。洗浄工程では、純水への浸漬時間が10秒~10分あればよい。
その後、第1の化学研磨工程2→洗浄工程4-1→第1のろう材エッチング工程3→洗浄工程4-2を行う。第1の化学研磨工程2と第1のろう材エッチング工程3の後に、それぞれ洗浄工程を入れている。それぞれ洗浄工程を行うことにより、エッチング液または化学研磨液が残ることを防ぐことができる。また、洗浄工程後は、必要に応じ、乾燥工程を行う。
図2に第二の実施形態にかかるセラミックス銅回路基板の製造方法を例示する工程図を示した。第二の実施形態にかかるセラミックス銅回路基板の製造方法は、銅板エッチング工程1→第1の化学研磨工程2-1→洗浄工程4-1→第1のろう材エッチング工程3-1→洗浄工程4-2→第2の化学研磨工程2-2→洗浄工程4-3→第2のろう材エッチング工程3-2→洗浄工程4-4を備える。第二の実施形態では、第1の化学研磨工程2-1および第1のろう材エッチング工程3-1の後に、第2の化学研磨工程2-2および第2のろう材エッチング工程3-2を行っている。この方法は、第1の化学研磨工程2-1および第1のろう材エッチング工程3-1により、ろう材層が十分除去できないときに有効である。第2のろう材エッチング工程3-2で用いられるろう材エッチング液の成分は、第1のろう材エッチング工程3-1で用いられるろう材エッチング液の成分と異なっていても良い。
図3(a)~図3(c)に、セラミックス回路基板の工程断面図を例示した。図3(a)~図3(c)において、10はセラミックス回路基板、11はセラミックス基板、12はろう材層、13は銅板、14はろう材酸化物層、である。
図3(a)は、銅板エッチング工程後のセラミックス回路基板を例示している。銅板をエッチングすることにより、銅板パターン形状間においてろう材層の一部がむき出しになっている。
図3(b)は、第1の化学研磨工程および第1のろう材エッチング工程により、むき出しになっていたろう材層の一部が除去された状態である。また、ろう材層の一部がろう材酸化物となって残存している。
図3(c)は、第2の化学研磨工程後である。第2化学研磨工程により、ろう材酸化物を除去している。
また、図示していないが、第1のろう材エッチング工程後にろう材層が残る可能性があるときは、図2に例示したように第2のろう材エッチング工程を行ってもよい。また、必要に応じ、第2のろう材エッチング工程の後に、第3の化学研磨工程および第3のろう材エッチング工程を行ってもよい。また、図3ではセラミックス基板の片面側に設けられた銅板間のろう材エッチング工程を示した。セラミックス基板の裏面側にもろう材層を介して銅板が接合されている場合は、必要に応じ、裏面についてもろう材エッチング工程を行うことができる。また、連続的に複数のセラミックス銅回路基板を製造することにより、ろう材エッチング液の濃度が変化したときは、必要量をつぎ足す。化学研磨液についても同様である。
ろう材エッチング液の濃度変化の目安として、過酸化水素の濃度が初期濃度から10~20wt%低下したときに、減った分の過酸化水素を注ぎ足すことが有効である。ペルオキソ二硫酸アンモニウムを用いる場合も同様である。過酸化水素またはペルオキソ二硫酸アンモニウムは活性金属ろう材層成分のイオン化または酸化剤として機能する。これらの機能が発揮されることにより、活性金属ろう材層のエッチング工程が始まる。過酸化水素またはペルオキソ二硫酸アンモニウムから消費されていくので、これらの濃度変化を確認して補充の目安とすることが好ましい。また、過酸化水素またはペルオキソ二硫酸アンモニウムが減っていくと、ろう材エッチング液のpHが変化する。ろう材エッチング液のpHを測定して、補充していく方法も有効である。
ろう材エッチング液の消費量は、エッチングされる活性金属ろう材層の面積によって変わる。一度に複数枚のセラミックス回路基板をエッチングする場合は、エッチングされる活性金属ろう材層の合計面積とする。ろう材エッチング液の成分量やpHを確認しながら、補充していく方法が好ましい。なお、ろう材エッチング液を全部交換しながら、ろう材エッチング工程を進める方式を用いてもよい。
【0019】
銅板エッチング工程1は、ろう材エッチング加工する前のセラミックス基板への加工となる。ろう材エッチングする加工する前のセラミックス回路基板は、銅板にエッチングレジストを塗布してからエッチング加工することによりパターン形状に加工したものであることが好ましい。エッチングレジストを塗布することにより、パターン形状やパターン間の距離を任意に変えることができる。
銅板をエッチング加工した後、エッチングレジストを除去したセラミックス回路基板をろう材エッチング加工することが好ましい。エッチングレジストを除去することにより、ろう材エッチング液や化学研磨液とエッチングレジストが反応して不具合を発生するのを防ぐことができる。エッチングレジストが反応すると、ろう材エッチング液のpHが6を超える可能性がある。
なお、pH安定化剤として、HBFとキレート剤の組合せを用いる場合、エッチングレジストを残したままろう材層をエッチングしたとしても、ろう材エッチング液のpHが6を超えるのを防ぐことができる。
【0020】
実施形態にかかるセラミックス回路基板の製造方法であれば、ろう材エッチング工程の回数を例えば3回以下にすることができる。また、1回のろう材エッチング工程の時間も30分以下にできるので、銅板へのダメージも少ない。このため、エッチングレジストを除去してろう材エッチング工程を行ったとしても、銅板の表面粗さはRa0.2μm以上1μm以下にすることができる。銅板の表面粗さRaを0.2~1μmにしておくと、モールド樹脂との密着性が向上する。セラミックス回路基板に半導体素子を搭載した半導体装置は、樹脂モールドされる。樹脂との密着強度を向上させるために、銅板表面を粗すことが行われる。実施形態にかかるセラミックス回路基板の製造方法であれば、ろう材エッチング工程を行うことにより銅板表面の表面粗さを制御できる。このため、ブラスト処理など特別に銅板表面を粗らす工程を行わなくても済む。この点からも、製造効率が向上する。特に、樹脂モールドされるセラミックス回路基板の製造方法に好適である。
以上のようなセラミックス回路基板の製造方法であれば、1回のろう材エッチング工程の時間を30分以下、さらには15分以下と短縮できる。また、パターン間の距離が2mm以下、さらには1.5mm以下と狭くなったとしても対応できる。また、ろう材はみだし部のサイズを10μm以上200μm以下、さらには10μm以上100μm以下と残すことができる。つまり、パターン間の距離とろう材はみだし部のサイズを制御しながら、ろう材エッチング工程の時間を短くすることができる。
【0021】
(実施例)
(実施例1~13、比較例1~2)
セラミックス基板として、窒化珪素基板(基板厚さ0.32mm、熱伝導率90W/m・K、3点曲げ強度650MPa)、窒化アルミニウム基板(基板厚さ0.635mm、熱伝導率180W/m・K、3点曲げ強度350MPa)、酸化アルミニウム基板(基板厚さ0.635mm、熱伝導率20W/m・K、3点曲げ強度450MPa)、アルジル基板(基板厚さ0.635mm、熱伝導率20W/m・K、3点曲げ強度500MPa)を用意した。また、各セラミックス基板のサイズは、縦140mm×横190mmに統一した。
銅板については、厚さが0.5mmの銅板と厚さが0.8mmの銅板の2種類を用意した。厚さが0.5mmの銅板を「銅板1」、厚さが0.8mmの銅板を「銅板2」とした。また、銅板のサイズは、は縦130mm×横180mmに統一した。
接合ろう材は、表1に示すものを用意した。
【0022】
【表1】
【0023】
セラミックス基板、ろう材、銅板を表2のように組合わせて活性金属接合工程を行った。銅板サイズに合ったろう材層を塗布して、銅板を配置した。
活性金属接合工程は、非酸化雰囲気中、1×10-3Pa以下で行った。また、ろう材1およびろう材2を使ったものは780~850℃で接合した。また、ろう材3を使ったものは860~880℃で接合した。また、セラミックス基板の両面に銅板を接合した。
この工程により、試料1~6にかかるセラミックス回路基板を用意した。
【0024】
【表2】
【0025】
試料1~6にかかるセラミックス回路基板に対し、表面側の銅板にエッチングレジストを塗布した後、エッチング加工してパターン形状に加工した。銅板パターンは、パターン間距離を1.5mmの個所と、2.0mmの個所を、それぞれ設けた。銅板エッチング加工により、ろう材層がむき出しになったセラミックス回路基板を調整した。むき出しになったろう材層の面積は、1枚のセラミックス回路基板あたり1000mmに統一した。
次に、表3に示すろう材エッチング液と、表4に示した化学研磨液を用意した。ろう材エッチング液は、過酸化水素(H)、フッ化アンモニウム(NHF)、及びpH安定化剤の質量の合計を100wt%としたときの質量比を示した。それぞれ表3に示した質量比になるように水溶液で混合した。また、pH安定化剤には、硼弗化水素酸(HBF)を用いた。また、過酸化水素(H)含有水溶液、フッ化アンモニウム(NHF)含有水溶液、pH安定化剤含有水溶液の合計1Lに対し、混合した純水量(L:リットル)を示した。また、ろう材エッチング液のpHを示した。
化学研磨液は、表4で示したものを用いた。表4は化学研磨液中の含有量(wt%)である。また、表4のクエン酸は、キレート剤の一種であり、トリカルボン酸である。
【0026】
【表3】
【0027】
【表4】
【0028】
試料1~6にかかるセラミックス回路基板、ろう材エッチング液1~4、及び化学研磨液1~3を組み合わせて、表5および表6に示す実施例1~10にかかるセラミックス回路基板の製造方法を行った。また、比較例1では、化学研磨工程を行わないものとした。それぞれの例では、銅板のパターン形状間でろう材層のむき出しになった箇所を除去した。また、ろう材エッチング工程の後および化学研磨工程の後は、純水による洗浄工程を5分間行った。
ろう材エッチング工程は「超音波」を付加しながら行ったものは、「×超音波」と表示した。また、超音波の周波数は10~100kHzの範囲内とした。また、ろう材エッチング液は30~60℃に加温しながら行った。
【0029】
【表5】
【0030】
【表6】
【0031】
また、表7に示したろう材エッチング液を用意した。
ろう材エッチング液5~9について、過酸化水素(H)、ペルオキソ二硫酸アンモニウム((NH))、フッ化アンモニウム(NHF)、及びpH安定化剤の質量の合計を100wt%としたときの質量比を示した。それぞれ表7に示した質量比になるように水溶液で混合した。また、表7のクエン酸は、キレート剤の一種であり、トリカルボン酸である。
【0032】
【表7】
【0033】
次に、実施例11~16として表8に示すろう材エッチング工程を行った。ろう材エッチング工程は銅板エッチング工程時に使用したエッチングレジストを残したまま行った。それ以外の条件は実施例1と同様の方法でろう材エッチングを行った。
【0034】
【表8】
【0035】
1回につき30枚のセラミックス回路基板に対しろう材エッチング工程を実施した。得られたセラミックス回路基板に対し、ろう材はみだし部の残存量を調べた。銅板のパターン形状間で銅板端部からのろう材はみだし部の長さが20~60μmの範囲に収まった領域の割合を求めた。銅板のパターン形状間の長さを100とし、ろう材はみだし部のサイズが20~60μmの範囲内に収まった長さを求めた。また、銅板の表面粗さRa(μm)の測定も行った。その結果を表9に示した。
【0036】
【表9】
【0037】
表からわかる通り、好ましい実施形態の例では、1回のろう材エッチング工程が15分以下であっても、ろう材はみだし部が20~60μm残るようにエッチングできていた。
実施例2では、超音波の付加がない。また、実施例4では、2回目のろう材エッチング工程が行われていない。また、実施例7では、超音波の付加および2回目のろう材エッチング工程が行われていない。また、実施例8では、2回目のろう材エッチング工程で超音波の付加がない。また、実施例2、実施例4および実施例8では、ろう材はみ出し部の長さが20~100μmの範囲内であった。また、実施例7では、ろう材はみ出し部の長さが20~150μmの範囲内であった。
また、実施例16では、1回目の化学研磨工程で、化学研磨を2回行った。2種類の化学研磨液を用いることにより、研磨効果が向上した。このため、2回目のろう材エッチング工程の後に化学研磨工程を行わなくても済んだ。
また、実施例では、銅板の表面粗さRaは、0.3~1.0μmの範囲内であった。この範囲であればモールド樹脂との密着性を強化することができる。また、この結果は、銅板がほとんど腐食されていないことを示す。
比較例1では、ろう材層が完全に除去できていなかった。また、比較例2では、ろう材層が除去されすぎて、ろう材はみだし部が形成されなかった。
以上の結果から、実施形態によれば、1回のろう材エッチング工程を15分以下に短縮したうえで、必要なろう材はみだし部が残った状態を形成できている。このため、TCT特性の優れたセラミックス回路基板を製造するのに適した製造方法であるといえる。
【0038】
以上、本発明のいくつかの実施形態を例示したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更などを行うことができる。これら実施形態やその変形例は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。また、前述の各実施形態は、相互に組み合わせて実施することができる。
図1
図2
図3