(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-05
(45)【発行日】2024-03-13
(54)【発明の名称】樹脂組成物および成形品
(51)【国際特許分類】
C08L 67/02 20060101AFI20240306BHJP
C08L 23/08 20060101ALI20240306BHJP
C08L 101/00 20060101ALI20240306BHJP
【FI】
C08L67/02
C08L23/08
C08L101/00
(21)【出願番号】P 2019192199
(22)【出願日】2019-10-21
【審査請求日】2022-09-12
(73)【特許権者】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000109
【氏名又は名称】弁理士法人特許事務所サイクス
(72)【発明者】
【氏名】竹内 莉奈
【審査官】西山 義之
(56)【参考文献】
【文献】特表2008-501835(JP,A)
【文献】特開平11-323105(JP,A)
【文献】国際公開第2008/075776(WO,A1)
【文献】特開2009-173860(JP,A)
【文献】特開2004-143210(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00-101/14
C08K 3/00- 13/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
テトラクロロエタンとフェノールとの1:1(質量比)の混合溶媒中、30℃で測定した固有粘度が
0.65~0.82dL/
gの熱可塑性樹脂100質量部に対し、
2.16kgの試験荷重を用いて190℃で測定したメルトフローレイト(MFR)が50g/10分以上の衝撃改質剤0.5質量部以上20質量部以下を含
み、
前記熱可塑性樹脂が、ポリブチレンテレフタレート樹脂を含み、
前記衝撃改質剤が、エチレン・アクリル酸アルキルコポリマーを含み、
樹脂組成物におけるガラス繊維の含有量が1質量%以下である、樹脂組成物。
【請求項2】
前記メルトフローレイトの上限値が1000g/10分以下である、請求項
1に記載の樹脂組成物。
【請求項3】
薄肉成形品成形用である、請求項1
または2に記載の樹脂組成物。
【請求項4】
前記樹脂組成物を1mm厚さのダンベル片に成形したときの破壊点呼び歪が100%以上である、請求項1~
3のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
【請求項5】
請求項1~
4のいずれか1項に記載の樹脂組成物から形成された成形品。
【請求項6】
前記成形品の最も厚い部分の厚さが4mm以下である、請求項
5に記載の成形品。
【請求項7】
前記成形品の最も薄い部分の厚さが0.4mm以下である、請求項
5または6に記載の成形品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂組成物および成形品に関する。特に、薄肉成形品に適した樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、熱可塑性樹脂を主成分とする樹脂組成物を種々の成形品に成形して、電気工業、電子工業および自動車工業等の各種分野で用いられている。特に、樹脂組成物を薄肉成形品に用いる場合、樹脂組成物の高い流動性が求められる。
流動性に優れた樹脂組成物としては、例えば、特許文献1には、A)99.9~10質量部、好ましくは99.5~30質量部、とくに好ましくは99.0~55質量部の少なくとも1種の熱可塑性ポリエステル、好ましくはポリアルキレンテレフタレートと、B)少なくとも1種のオレフィン、好ましくは1種のα-オレフィンと、脂肪族アルコール、好ましくは5~30個の炭素原子を有する脂肪族アルコールの少なくとも1種のメタクリル酸エステルまたはアクリル酸エステルと、を含む0.1~20質量部、好ましくは0.25~15質量部、とくに好ましくは1.0~10質量部の少なくとも1種のコポリマーと、を含み、コポリマーB)のMFI(メルトフローインデックス)は、100g/10分以上、好ましくは150g/10分以上である、熱可塑性成形用組成物が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述のとおり、流動性に優れた樹脂組成物は知られているが、熱可塑性樹脂の需要拡大に伴い、さらに、新規の樹脂組成物が求められるようになっている。その一例として、流動性に優れつつ、破壊点呼び歪が高い成形品を提供可能な樹脂組成物が求められる。
本発明は、かかる課題を解決することを目的とするものであって、流動性を高めつつ、破壊点呼び歪が高い成形品を提供可能な樹脂組成物および前記樹脂組成物から形成された成形品を提供すること目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題のもと、本発明者が検討を行った結果、固有粘度が低い熱可塑性樹脂に、メルトフローレイトが高い衝撃改質剤を配合することにより、上記課題を解決しうることを見出した。具体的には、下記手段により、上記課題は解決された。
<1>テトラクロロエタンとフェノールとの1:1(質量比)の混合溶媒中、30℃で測定した固有粘度が0.82dL/g以下の熱可塑性樹脂100質量部に対し、2.16kgの試験荷重を用いて190℃で測定したメルトフローレイト(MFR)が50g/10分以上の衝撃改質剤0.5質量部以上20質量部以下を含む、樹脂組成物。
<2>前記熱可塑性樹脂が、ポリエステル樹脂を含む、<1>に記載の樹脂組成物。
<3>前記熱可塑性樹脂が、ポリブチレンテレフタレート樹脂を含む、<1>に記載の樹脂組成物。
<4>前記メルトフローレイトの上限値が1000g/10分以下である、<1>~<3>のいずれか1つに記載の樹脂組成物。
<5>前記衝撃改質剤が、エチレン・アクリル酸アルキルコポリマーを含む、<1>~<4>のいずれか1つに記載の樹脂組成物。
<6>薄肉成形品成形用である、<1>~<5>のいずれか1つに記載の樹脂組成物。
<7>前記樹脂組成物を1mm厚さのダンベル片に成形したときの破壊点呼び歪が100%以上である、<1>~<6>のいずれか1つに記載の樹脂組成物。
<8><1>~<7>のいずれか1つに記載の樹脂組成物から形成された成形品。
<9>前記成形品の最も厚い部分の厚さが4mm以下である、<8>に記載の成形品。
<10>前記成形品の最も薄い部分の厚さが0.4mm以下である、<8>または<9>に記載の成形品。
【発明の効果】
【0006】
本発明により、流動性を高めつつ、破壊点呼び歪が高い成形品を提供可能な樹脂組成物および前記樹脂組成物から形成された成形品を提供可能になった。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】実施例におけるスパイラルフロー長さの測定で作製した渦巻き状長尺樹脂成形品の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下において、本発明の内容について詳細に説明する。なお、本明細書において「~」とはその前後に記載される数値を下限値および上限値として含む意味で使用される。
本明細書において、各種物性値および特性値は、特に述べない限り、23℃におけるものとする。
本明細書において、「(メタ)アクリレート」とは、メタクリレートおよびアクリレートの両方を意味する。
【0009】
本発明の樹脂組成物は、テトラクロロエタンとフェノールとの1:1(質量比)の混合溶媒中、30℃で測定した固有粘度が0.82dL/g以下の熱可塑性樹脂100質量部に対し、2.16kgの試験荷重を用いて190℃で測定したメルトフローレイト(MFR)が50g/10分以上の衝撃改質剤0.5質量部以上20質量部以下を含むことを特徴とする。このような構成とすることにより、流動性の高い樹脂組成物が得られる。そのため、薄肉成形品として好ましく用いることができる。さらに、破壊点呼び歪が高い成形品が得られる。特に、薄肉成形品としたときの破壊点呼び歪を高くすることができる。
すなわち、本発明では、固有粘度が低い熱可塑性樹脂を用いることにより、流動性を高めることができる。さらに、MFRが高い衝撃改質剤を用いることによっても流動性を高め、かつ、破壊点呼び歪を高くすることに成功した。特に、破壊点呼び歪以外の他の機械的強度について、大差がないにもかかわらず、破壊点呼び歪を高くできた点で、本発明の効果は予想外の効果である。
この理由は、熱可塑性樹脂と衝撃改質剤が相溶しにくいことにより、それぞれの成分が本来的に持つ性能が発揮されたためと推測される。
以下、本発明の詳細を説明する。
【0010】
<熱可塑性樹脂>
本発明の樹脂組成物は、テトラクロロエタンとフェノールとの1:1(質量比)の混合溶媒中、30℃で測定した固有粘度が0.82dL/g以下の熱可塑性樹脂を含む。このように固有粘度が低い熱可塑性樹脂を用いることにより、樹脂組成物の流動性を向上させることができる。
【0011】
熱可塑性樹脂の固有粘度は、0.80dL/g以下であることが好ましく、0.76dL/g以下であることがより好ましい。また、前記固有粘度の下限値は、0.60dL/g以上であることが好ましく、0.65dL/g以上であることがより好ましく、0.68dL/g以上であることがさらに好ましく、0.71dL/g以上であることが一層好ましい。前記下限値以上とすることにより、破壊点呼び歪がより向上する傾向にある。
前記固有粘度は、テトラクロロエタンとフェノールとの1:1(質量比)の混合溶媒中、30℃で測定されるが、2種以上の熱可塑性樹脂のブレンド物の場合、ブレンド物の固有粘度とする。
【0012】
本発明で用いる熱可塑性樹脂は、結晶性樹脂であってもよいし、非晶性樹脂であってもよいが、結晶性樹脂であることが好ましい。また、結晶性樹脂である場合、その融点が、190℃以上であることが好ましく、また、230℃以下であることが好ましい。熱可塑性樹脂の融点は、DSC法に従って測定することができる。具体的には、昇温速度20℃/分で30℃から300℃まで昇温し、次いで300℃で3分間保持した後、降温速度20℃/分で300℃から30℃まで降温し、30℃で3分間保持した後、引き続き、昇温速度20℃/分で30℃から300℃まで昇温し、2回目の昇温測定で得られたDSC曲線の解析を行い、吸熱ピークの頂点の温度を融点とすることができる。
【0013】
本発明で用いる熱可塑性樹脂は、その種類を特に定めるものではなく、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリトリメチレンテレフタレート樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂等のポリエステル樹脂;ポリアミド樹脂;ポリカーボネート樹脂;スチレン系樹脂;ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、環状シクロオレフィン樹脂等のポリオレフィン樹脂;ポリアセタール樹脂;ポリイミド樹脂;ポリエーテルイミド樹脂;ポリウレタン樹脂;ポリフェニレンエーテル樹脂;ポリフェニレンサルファイド樹脂;ポリスルホン樹脂;ポリメタクリレート樹脂;等が好ましく例示される。ただし、本発明の熱可塑性樹脂は、後述する衝撃改質剤に含まれるものは除く趣旨である。
本発明では、熱可塑性樹脂が、ポリエステル樹脂を含むことが好ましい。さらには、前記熱可塑性樹脂が、ポリブチレンテレフタレート樹脂を含むことがより好ましい。
【0014】
ポリエステル樹脂は、ジカルボン酸化合物とジヒドロキシ化合物の重縮合、オキシカルボン酸化合物の重縮合あるいはこれらの化合物の重縮合等によって得られるポリエステルであり、ホモポリエステル、コポリエステルの何れであってもよい。
【0015】
ポリエステル樹脂を構成するジカルボン酸化合物としては、芳香族ジカルボン酸またはそのエステル形成性誘導体が好ましく使用される。
芳香族ジカルボン酸としては、テレフタル酸、イソフタル酸、オルトフタル酸、1、5-ナフタレンジカルボン酸、2,5-ナフタレンジカルボン酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸、ビフェニル-2,2’-ジカルボン酸、ビフェニル-3,3’-ジカルボン酸、ビフェニル-4,4’-ジカルボン酸、ジフェニルエーテル-4,4’-ジカルボン酸、ジフェニルメタン-4,4’-ジカルボン酸、ジフェニルスルフォン-4,4’-ジカルボン酸、ジフェニルイソプロピリデン-4,4’-ジカルボン酸、1,2-ビス(フェノキシ)エタン-4,4’-ジカルボン酸、アントラセン-2,5-ジカルボン酸、アントラセン-2,6-ジカルボン酸、p-tert-フェニレン-4,4’-ジカルボン酸、ピリジン-2,5-ジカルボン酸等が挙げられ、テレフタル酸が好ましく使用できる。
【0016】
これらの芳香族ジカルボン酸は2種以上を混合して使用してもよい。これらは周知のように、遊離酸以外にジメチルエステル等のエステル形成性誘導体として重縮合反応に用いることができる。
なお、少量であればこれらの芳香族ジカルボン酸と共にアジピン酸、アゼライン酸、ドデカンジオン酸、セバシン酸等の脂肪族ジカルボン酸や、1,2-シクロヘキサンジカルボン酸、1,3-シクロヘキサンジカルボン酸および1,4-シクロヘキサンジカルボン酸等の脂環式ジカルボン酸を1種以上混合して使用することができる。
【0017】
ポリエステル樹脂を構成するジヒドロキシ化合物としては、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブタンジオール、へキシレングリコール、ネオペンチルグリコール、2-メチルプロパン-1,3-ジオール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール等の脂肪族ジオール、シクロヘキサン-1,4-ジメタノール等の脂環式ジオール等、およびそれらの混合物等が挙げられる。なお、少量であれば、分子量400~6,000の長鎖ジオール、すなわち、ポリエチレングリコール、ポリ-1,3-プロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール等を1種以上共重合してもよい。
また、ハイドロキノン、レゾルシン、ナフタレンジオール、ジヒドロキシジフェニルエーテル、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン等の芳香族ジオールも用いることができる。
【0018】
また、上記のような二官能性モノマー以外に、分岐構造を導入するためトリメリット酸、トリメシン酸、ピロメリット酸、ペンタエリスリトール、トリメチロールプロパン等の三官能性モノマーや分子量調節のため脂肪酸等の単官能性化合物を少量併用することもできる。
【0019】
ポリエステル樹脂としては、通常は主としてジカルボン酸とジオールとの重縮合からなるもの、すなわち、ポリエステル樹脂全体の50質量%、好ましくは70質量%以上がこの重縮合物からなるものを用いる。ジカルボン酸としては芳香族カルボン酸が好ましく、ジオールとしては脂肪族ジオールが好ましい。
【0020】
なかでも好ましいのは、酸成分の95モル%以上がテレフタル酸であり、アルコール成分の95質量%以上が脂肪族ジオールであるポリアルキレンテレフタレートである。その代表的なものはポリブチレンテレフタレート樹脂およびポリエチレンテレフタレート樹脂である。これらはホモポリエステルに近いもの、即ち樹脂全体の95質量%以上が、テレフタル酸成分および1,4-ブタンジオールまたはエチレングリコール成分からなるものであるのが好ましい。
また、イソフタル酸、ダイマー酸、ポリテトラメチレングリコール(PTMG)等のポリアルキレングリコール等が共重合されているものも好ましい。なお、これらの共重合体は、共重合量が、ポリアルキレンテレフタレートの全セグメント中の1モル%以上、50モル%未満のものが例示される。
【0021】
熱可塑性樹脂として、ポリエステル樹脂を用いる場合、その末端カルボキシル基濃度は、1~23eq/tonであることが好ましく、7~20eq/tonであることがより好ましい。このような範囲とすることにより、流動性がより向上する傾向にある。
本発明の樹脂組成物が2種以上のポリエステル樹脂を含む場合、ポリエステル樹脂の末端カルボキシル基濃度は、混合物のものとする。末端カルボキシル基量は、ベンジルアルコール25mLにポリエステル樹脂0.5gを溶解し、水酸化ナトリウムの0.01モル/Lベンジルアルコール溶液を用いて滴定することにより、求めることができる。
【0022】
また、ポリエステル樹脂以外の他の熱可塑性樹脂については、特開2019-073735号公報の段落0039~0056の記載、特開2019-073736号公報の段落0012~段落0033を参酌でき、これらの内容は本明細書に組み込まれる。
【0023】
本発明の樹脂組成物は、熱可塑性樹脂(好ましくはポリエステル樹脂、より好ましくはポリブチレンテレフタレート樹脂)を、85質量%以上含むことが好ましく、90質量%以上含むことがより好ましく、93質量%以上含むことがさらに好ましく、95質量%以上であってもよい。
本発明の樹脂組成物は、熱可塑性樹脂を1種のみ含んでいてもよいし、2種以上含んでいてもよい。2種以上含む場合、合計量が上記範囲となることが好ましい。
【0024】
<衝撃改質剤>
本発明の樹脂組成物は、2.16kgの試験荷重を用いて190℃で測定したメルトフローレイト(MFR)が50g/10分以上の衝撃改質剤を含む。このような衝撃改質剤を含むことにより、流動長を高くすることができ、かつ、薄肉成形品にしたときの破壊点呼び歪を効果的に向上させることができる。さらに、シャルピー衝撃強さにも優れた成形品が得られる。
前記MFRの下限値は、80g/10分以上であることが好ましく、100g/10分以上であることがより好ましく、200g/10分以上であることがさらに好ましく、300g/10分以上であることが一層好ましい。前記MFRの上限値は、1000g/10分以下であることが好ましく、900g/10分以下であることがさらに好ましく、800g/10分以下であってもよい。上記上限値以下とすることにより、流動性がより向上し、さらに、破壊点呼び歪もより向上する傾向にある。
本発明における衝撃改質剤のメルトフローレイトは、ISO1133に従って測定された値である。
【0025】
本発明で用いる衝撃改質剤は、DSC法で測定した融点が60℃以上であることが好ましく、70℃以上であることがより好ましく、また、120℃以下であることが好ましく、110℃以下であることがより好ましい。衝撃改質剤の融点は、より具体的には、ISO11357-3に準拠して測定することができる。
本発明の樹脂組成物では、熱可塑性樹脂の融点と、衝撃改質剤の融点の差が80℃以上であることが好ましく、また、170℃以下であることが好ましい。このような融点差の熱可塑性樹脂と衝撃改質剤を用いることにより、流動性がより向上し、さらに、破壊点呼び歪もより向上する傾向にある。
【0026】
本発明で用いる衝撃改質剤は、エチレン・アクリル酸アルキルコポリマーを含むことが好ましい。エチレン・アクリル酸アルキルコポリマーを用いることによる高流動化により、物性低下をより効果的に抑制することができる。
エチレン・アクリル酸アルキルコポリマーは、ランダム重合でも、ブロック重合でもよいが、ランダム重合であることが好ましい。
アクリル酸アルキルとしては、炭素数1~5のアルキル鎖を有する(メタ)アクリレートが好ましく、ブチル(メタ)アクリレートがより好ましく、ブチルアクリレートがさらに好ましい。ブチル(メタ)アクリレートが有するブチル基は、n-ブチル基が好ましい。
また、エチレン・アクリル酸アルキルコポリマーにおける、アクリル酸アルキル(好ましくは、ブチルアクリレート)由来の単位の割合は、10質量%以上であることが好ましく、20質量%以上であることがより好ましく、25質量%以上であってもよい。また、上限値としては、50質量%未満であることが好ましく、45質量%以下であることがより好ましく、40質量%以下であってもよい。このような範囲とすることにより、より良好な破壊点呼び歪が発現する傾向にある。
【0027】
衝撃改質剤の含有量は、熱可塑性樹脂100質量部に対し、0.5質量部以上20質量部以下である。前記衝撃改質剤の含有量の下限値は、熱可塑性樹脂100質量部に対し、1質量部以上であることが好ましく、2質量部以上であることがより好ましく、2.5質量部以上であってもよい。また、前記衝撃改質剤の含有量の上限値は、熱可塑性樹脂100質量部に対し、15質量部以下であることが好ましく、10質量部以下であることがより好ましく、8質量部以下であることがさらに好ましく、5質量部以下であってもよい。
樹脂組成物は、衝撃改質剤を1種のみ含んでいても、2種以上含んでいてもよい。2種以上含む場合、合計量が上記範囲となることが好ましい。
【0028】
<安定剤>
本発明の樹脂組成物は、安定剤を含んでいてもよい。安定剤は、ヒンダードフェノール系化合物、ヒンダードアミン系化合物、リン系化合物、硫黄系安定剤等が例示される。これらの中でも、硫黄系化合物が好ましい。
安定剤としては、具体的には、特開2018-070722号公報の段落0046~0057の記載、特開2019-056035号公報の段落0030~0037の記載、国際公開第2017/038949号の段落0066~0078の記載を参酌でき、これらの内容は本明細書に組み込まれる。
【0029】
本発明の樹脂組成物は、安定剤を熱可塑性樹脂100質量部に対し、0.01質量部以上含むことが好ましく、0.05質量部以上含むことがより好ましく、0.08質量部以上含むことがさらに好ましい。また、前記安定剤の含有量の上限値は、熱可塑性樹脂100質量部に対し、3質量部以下であることが好ましく、1質量部以下であることがより好ましく、0.5質量部以下であることがさらに好ましく、0.3質量部以下であることが一層好ましい。
樹脂組成物は、安定剤を1種のみ含んでいても、2種以上含んでいてもよい。2種以上含む場合、合計量が上記範囲となることが好ましい。
【0030】
<離型剤>
本発明の樹脂組成物は、離型剤を含むことが好ましい。
離型剤は、公知の離型剤を広く用いることができ、脂肪族カルボン酸のエステル化物が好ましい。脂肪族カルボン酸のエステル化物は、多価アルコールと、炭素数10~19の脂肪族カルボン酸のエステル化物であることが好ましい。
離型剤としては、具体的には、特開2018-070722号公報の段落0063~0077の記載、特開2019-123809号公報の段落0090~0098の記載を参酌でき、これらの内容は本明細書に組み込まれる。
【0031】
本発明の樹脂組成物は、離型剤を熱可塑性樹脂100質量部に対し、0.01質量部以上含むことが好ましく、0.08質量部以上含むことがより好ましく、0.2質量部以上含むことがさらに好ましい。また、前記離型剤の含有量の上限値は、熱可塑性樹脂100質量部に対し、5質量部以下であることが好ましく、3質量部以下であることがより好ましく、1質量部以下であることがさらに好ましく、0.8質量部以下であることが一層好ましい。
樹脂組成物は、離型剤を1種のみ含んでいても、2種以上含んでいてもよい。2種以上含む場合、合計量が上記範囲となることが好ましい。
【0032】
<その他含有成分>
本発明の樹脂組成物は、本発明の効果を損なわない範囲で、種々の添加剤を含んでいてもよい。このような添加剤としては、酸化防止剤、加水分解防止剤、難燃剤、難燃助剤、強化充填剤、顔料、紫外線吸収剤、核剤、帯電防止剤、防曇剤、アンチブロッキング剤、可塑剤、分散剤、抗菌剤等が挙げられる。
本発明の樹脂組成物は、強化充填剤(例えば、ガラス繊維)を、実質的に含まないことが好ましい。本発明の樹脂組成物が強化充填剤を実質的に含まないことにより、樹脂組成物の流動性をより向上させることができる。ここで、実質的に含まないとは、強化充填剤の含有量が、樹脂組成物の5質量%以下であることをいい、3質量%以下であることがより好ましく、1質量%以下であることがさらに好ましい。
【0033】
<樹脂組成物の特性>
本発明の樹脂組成物は、ISO多目的試験片(4mm厚)を使用し、ISO179規格に準拠して測定した、ノッチ付きシャルピー衝撃強さが2.0KJ/m2以上であることが好ましく、2.5KJ/m2以上であることがより好ましい。ノッチ付きシャルピー衝撃強さの上限値としては、特に定めるものではないが、6.0KJ/m2以下が実際的である。
本発明の樹脂組成物のスパイラル流動長は、射出圧力153MPa、厚み1.0mmのときに、300mm以上であることが好ましく、320mm以上であることがより好ましい。また、上記スパイラル流動長の上限は、380mm以下であることが好ましい。
本発明の樹脂組成物は、1mm厚さの薄肉ダンベル片に成形したときの破壊点呼び歪が100%以上であることが好ましく、105%以上であることがより好ましい。1mm厚さのダンベル片に成形したときの破壊点呼び歪の上限値は特に定めるものではないが、例えば、150%以下、さらには、140%以下が実際的である。
本発明の樹脂組成物は、また、4mm厚さのISOダンベル片に成形したときの破壊点呼び歪が5%以上であることが好ましい。4mm厚さのダンベル片に成形したときの破壊点呼び歪の上限値は特に定めるものではないが、例えば、20%以下が実際的である。
本発明の樹脂組成物は、ISO多目的試験片(4mm厚)に成形したときの、ISO規格178に準拠した曲げ弾性率が2000MPa以上であることが好ましく、2100MPa以上であることがより好ましい。また、前記曲げ弾性率の上限値としては、例えば、2800MPa以下が実際的である。
シャルピー衝撃強さ、スパイラル流動長、破壊点呼び歪および曲げ弾性率は、後述する実施例に記載の方法に従って測定される。
【0034】
<樹脂組成物の製造方法>
本発明の樹脂組成物の製造方法に制限はなく、公知の樹脂組成物の製造方法を広く採用できる。具体的には、熱可塑性樹脂および衝撃改質剤、ならびに、必要に応じて配合されるその他の成分を、例えばタンブラーやヘンシェルミキサーなどの各種混合機を用い予め混合した後、バンバリーミキサー、ロール、ブラベンダー、単軸混練押出機、二軸混練押出機、ニーダーなどの混合機で溶融混練する方法が挙げられる。また、熱可塑性樹脂の一部に他の成分を配合したものを溶融混練してマスターバッチを調製し、次いでこれに残りの熱可塑性樹脂や他の成分を配合して溶融混練してもよい。ガラス繊維等の繊維状の強化充填剤を用いる場合には、押出機のシリンダー途中のサイドフィーダーから供給することも好ましい。
なお、溶融混練の温度は特に制限されないが、通常220~300℃の範囲である。
【0035】
<成形品>
本発明の樹脂組成物(例えば、ペレット)は、各種の成形法で成形して成形品とされる。すなわち、本発明の成形品は、本発明の樹脂組成物から成形される。成形品の形状としては、特に制限はなく、成形品の用途、目的に応じて適宜選択することができる。具体的には、フィルム状、ロッド状、円筒状、環状、円形状、楕円形状、多角形形状、異形品、中空品、枠状、箱状、パネル状、ボタン状のもの等が挙げられる。成形品は、最終製品であってもよいが、部品であってもよい。
中でも、本発明の樹脂組成物は、薄肉成形品成形用に適している。従って、本発明の成形品の好ましい実施形態は、薄肉成形品である。例えば、成形品の最も厚い部分の厚さが4mm以下(好ましくは、最も厚い部分の厚さが3mm以下、1mm以上)である成形品や、成形品の最も薄い部分の厚さが0.4mm以下(好ましくは、最も薄い部分の厚さが0.1mm以上、0.3mm以下)である成形品が例示される。
【0036】
成形品を成形する方法としては、特に制限されず、従来公知の成形法を採用でき、例えば、射出成形法、射出圧縮成形法、押出成形法、異形押出法、トランスファー成形法、中空成形法、ガスアシスト中空成形法、ブロー成形法、押出ブロー成形、IMC(インモールドコ-ティング成形)成形法、回転成形法、多層成形法、2色成形法、インサート成形法、サンドイッチ成形法、発泡成形法、加圧成形法等が挙げられる。特に、本発明の樹脂組成物は、射出成形法、射出圧縮成形法、押出成形法で得られる成形品に適している。しかしながら、本発明の樹脂組成物がこれらで得られた成形品に限定されるものではないことは言うまでもない。
【0037】
本発明の成形品は、電気電子機器、OA機器、携帯情報端末、機械部品、家電製品、車輌部品、各種容器、照明機器、ディスプレイ等の部品等に好適に用いられる。これらの中でも、特に、電気電子機器、OA機器、情報端末機器および家電製品の筐体、照明機器、車輌部品(特に、車輌内装部品)、ディスプレイ用部品などに好ましく用いられる。
特に、各種機器のコネクタとして好ましく用いられる。
【実施例】
【0038】
以下に実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明する。以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り、適宜、変更することができる。従って、本発明の範囲は以下に示す具体例に限定されるものではない。
【0039】
【0040】
上記において、PBT樹脂とは、ポリブチレンテレフタレート樹脂を意味する。また、EBAとは、エチレンとブチルアクリレートのコポリマーであることを意味する。MAMとは、メチルメタクリレートと、アクリレートと、メチルメタクリレートのコポリマーであることを意味する。
【0041】
<固有粘度の測定方法>
ポリエステルの固有粘度は、テトラクロロエタンとフェノールとの1:1(質量比)の混合溶媒中、30℃で測定した。
【0042】
<メルトフローレイトの測定方法>
メルトフローレイトの値は、JIS K7210(温度250℃、荷重0.325kgf)に準拠して測定した。
【0043】
<実施例1~5、比較例1~4>
<<コンパウンド>>
上記表1に記載した各成分を、以下の表2に記載した量(いずれも質量部)でブレンドし、これを30mmのベントタイプ2軸押出機(日本製鋼所社製「TEX30α」)を用い、押出機バレル設定温度を250℃、スクリュー回転数200rpmの条件で混練してストランド状に押し出し、水槽で急冷しペレタイザーでペレット化して樹脂組成物のペレットを得た。
【0044】
<<ノッチ付シャルピー衝撃強さの測定>>
上記で得られた樹脂組成物ペレットを、120℃で5時間乾燥した後、射出成形機(日精樹脂工業社製「NEX80」)にて、シリンダー温度260℃、金型温度130℃の条件下で、ISO多目的試験片(4mm厚)を射出成形した。
ISO多目的試験片(4mm厚)を使用し、ISO179規格に準拠して測定した、ノッチ付きシャルピー衝撃強さ(単位:KJ/m2)を測定した。
【0045】
<<スパイラル流動長>>
流動性の評価として、樹脂組成物のスパイラルフロー流動長(単位:mm)を、射出成形機(日本製鋼所社製「J55-60H」)を用いて評価した。すなわち、上記で得られたペレットを120℃で4時間以上乾燥した後、射出圧力153MPa、射出速度60mm/sec、シリンダー温度を260℃の条件にて、射出時間2sec、冷却7sec、金型温度80℃、サックバック2mmの条件とした。
また評価した樹脂成形品の形状は、断面が肉厚1mm、幅1.5mmの、長尺状樹脂成形品であり、渦巻き状となったものである。この渦巻き状長尺樹脂成形品を
図1に示す。
図1中、中央の部材はゲート1を表し、この渦巻き状長尺樹脂成形品の大きさは、長尺状樹脂成形品の中心間距離として、(長軸方向の寸法h1)×(短軸方向の寸法h2)=90mm×105mmである。
このスパイラルフロー長さ(単位:mm)は、数値が大きいほど、流動性に優れることを表している。
【0046】
<<破壊点呼び歪(%)>>
上記で得られた樹脂組成物ペレットを、120℃で5時間乾燥した後、射出成形機(日精樹脂工業社製「NEX80」)にて、シリンダー温度260℃、金型温度80℃の条件下で、薄肉ダンベル片(1mm厚)およびISOダンベル片(4mm厚)を射出成形した。
上記で得られた薄肉ダンベル片およびISOダンベル片について、ISO規格527-1およびISO527-2に準拠して、破壊点呼び歪(単位:%)を測定した。
【0047】
<<曲げ弾性率の測定>>
ISO多目的試験片(4mm厚)を用い、ISO規格178に準拠して、曲げ弾性率(単位:MPa)を測定した。
【0048】
【0049】
上記表2において、PBTの固有粘度とは、樹脂組成物に含まれる全PBT樹脂の混合物の固有粘度を意味する。
【0050】
上記結果から明らかな通り、本発明の樹脂組成物は、流動性が高く、かつ、破壊点呼び歪が高かった(実施例1~5)。特に、厚さ4mmのISOダンベル試験片を用いたときの破壊点呼び歪は、比較例1、3および4と比較して、同等程度またはそれ以下であったが、厚さ1mmのダンベル片とすると、これらの比較例と比較して、格段に破壊点呼び歪を高くできた。この効果は驚くべきものである。
さらに、本発明の樹脂組成物は、シャルピー衝撃強さが高く、かつ、曲げ弾性率も高いレベルを維持していた。
これに対し、耐衝撃改質剤を含まない場合(比較例1)、シャルピー衝撃強さに加え、薄肉ダンベル片の破壊点呼び歪が劣っていた。また、耐衝撃改質剤を含んでいても、メルトフローレイトが低い場合(比較例2)、薄肉ダンベル片の破壊点呼び歪に加え、ISOダンベル片の破壊点呼び歪も劣っていた。
一方、熱可塑性樹脂の固有粘度が高い場合(比較例3、4)、薄肉ダンベル片およびISOダンベル片の破壊点呼び歪が劣ると共に、流動性も劣っていた。
【符号の説明】
【0051】
1 ゲート
h1 長軸方向の寸法
h2 短軸方向の寸法