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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-05
(45)【発行日】2024-03-13
(54)【発明の名称】窒化物半導体素子の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 33/32 20100101AFI20240306BHJP
   H01L 33/36 20100101ALI20240306BHJP
   H01L 33/14 20100101ALI20240306BHJP
   H01L 21/28 20060101ALI20240306BHJP
   H01L 21/20 20060101ALI20240306BHJP
   H01L 21/205 20060101ALI20240306BHJP
   H01L 21/203 20060101ALI20240306BHJP
   H01L 21/363 20060101ALI20240306BHJP
   C23C 14/06 20060101ALI20240306BHJP
   C23C 14/58 20060101ALI20240306BHJP
   C23C 16/34 20060101ALI20240306BHJP
   C23C 16/56 20060101ALI20240306BHJP
【FI】
H01L33/32
H01L33/36
H01L33/14
H01L21/28 301B
H01L21/20
H01L21/205
H01L21/203
H01L21/363
C23C14/06 A
C23C14/58 A
C23C16/34
C23C16/56
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2019230440
(22)【出願日】2019-12-20
(65)【公開番号】P2021100032
(43)【公開日】2021-07-01
【審査請求日】2022-11-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000226057
【氏名又は名称】日亜化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】野口 真弘
(72)【発明者】
【氏名】後野 秀幸
【審査官】百瀬 正之
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-273473(JP,A)
【文献】国際公開第2009/139376(WO,A1)
【文献】国際公開第2011/102411(WO,A1)
【文献】特開2014-130897(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0069790(US,A1)
【文献】韓国公開特許第10-2012-0126892(KR,A)
【文献】特開2003-163418(JP,A)
【文献】特開2001-148507(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2004/0061119(US,A1)
【文献】特開2014-042062(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 33/00-33/64
H01S 5/00-5/50
H01L 21/18-21/205
H01L 21/28-21/288
H01L 21/31
H01L 21/34-21/365
H01L 21/44-21/445
H01L 21/469
H01L 21/84
H01L 21/86
H01L 29/40-29/51
C23C 14/00-14/58
C23C 16/00ー16/56
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
p型不純物を添加して、第1厚みで、AlとGaとNとを有する第1半導体層を形成する工程と、
前記第1半導体層の上に、n型不純物及びp型不純物を添加せずに、第2厚みで、AlとNを有する第2半導体層を形成する工程と、
前記第1半導体層及び前記第2半導体層を熱処理する工程と、
前記第2半導体層の上面に接して、p電極を形成する工程と、
を備え、
前記第2厚みは、前記第1厚みよりも小さく、
前記第2半導体層のバンドギャップエネルギーは、前記第1半導体層のバンドギャップエネルギーよりも大きく、
前記熱処理する工程の後の前記第2半導体層は、前記第1半導体層から拡散された前記p型不純物を有する、
窒化物半導体素子の製造方法。
【請求項2】
前記第2半導体層を形成する工程の後であって、前記p電極を形成する工程の前に、前記熱処理する工程を行う、
請求項に記載の窒化物半導体素子の製造方法。
【請求項3】
n型不純物を添加してn型半導体層を形成する工程と、
前記n型半導体層の上に、発光層を形成する工程と、
前記発光層の上に、p型不純物を添加して、第1厚みで、AlとGaとNとを有する第1半導体層を形成する工程と、
前記第1半導体層の上に、n型不純物及びp型不純物を添加せずに、第2厚みで、AlとNを有する第2半導体層を形成する工程と、
前記第1半導体層及び前記第2半導体層を熱処理する工程と、
を備え、
前記第2厚みは、前記第1厚みよりも小さく、
前記第2半導体層のバンドギャップエネルギーは、前記第1半導体層のバンドギャップエネルギーよりも大きく、
前記熱処理する工程の後の前記第2半導体層は、前記第1半導体層から拡散された前記p型不純物を有し、
前記n型半導体層を形成する工程の後であって、前記第2半導体層を形成する工程の前に、
前記n型半導体層に電気的に接続するn電極を形成する工程と、
前記n電極を熱処理する工程と、を備える、
化物半導体素子の製造方法。
【請求項4】
前記発光層は、深紫外の光を発光可能な層である、
請求項に記載の窒化物半導体素子の製造方法。
【請求項5】
前記第1半導体層及び前記第2半導体層を熱処理する工程の温度は、前記n電極を熱処理する工程の温度よりも低い、
請求項3又は4に記載の窒化物半導体素子の製造方法。
【請求項6】
前記第2半導体層を形成する工程において、スパッタリングにより前記第2半導体層を形成する、
請求項1~5のいずれか1項に記載の窒化物半導体素子の製造方法。
【請求項7】
前記熱処理する工程において、400℃以上900℃以下で前記熱処理を行う、
請求項1~のいずれか1項に記載の窒化物半導体素子の製造方法。
【請求項8】
p型不純物を添加して、第1厚みで、AlとGaとNとを有する第1半導体層を形成する工程と、
前記第1半導体層の上に、スパッタリングにより、n型不純物及びp型不純物を添加せずに、前記第1厚みよりも小さい第2厚みで、AlとNを有し且つ前記第1半導体層のバンドギャップエネルギーよりも大きなバンドギャップエネルギーを有する第2半導体層を形成する工程と、
前記第1半導体層及び前記第2半導体層を400℃以上900℃以下で熱処理する工程と、
前記第2半導体層の上面に接してp電極を形成する工程と、
を備える、窒化物半導体素子の製造方法。
【請求項9】
前記第2半導体層を、前記第1半導体層の上面に接して形成する、
請求項1~8のいずれか1項に記載の窒化物半導体素子の製造方法。
【請求項10】
前記熱処理する工程において、酸化雰囲気でない雰囲気中または真空中で前記熱処理を行う、
請求項1~9のいずれか1項に記載の窒化物半導体素子の製造方法。
【請求項11】
前記第1半導体層を形成する工程において、前記p型不純物を2×1019cm-3以上6×1019cm-3以下の濃度で添加して、前記第1半導体層を形成する、
請求項1~1のいずれか1項に記載の窒化物半導体素子の製造方法。
【請求項12】
前記第1厚みは、30nm以上600nm以下である、
請求項1~1のいずれか1項に記載の窒化物半導体素子の製造方法。
【請求項13】
前記第2厚みは、1nm以上20nm以下である、
請求項1~1のいずれか1項に記載の窒化物半導体素子の製造方法。
【請求項14】
前記p型不純物は、Mgである、
請求項1~1のいずれか1項に記載の窒化物半導体素子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、窒化物半導体素子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、窒化物半導体を用いて構成した発光ダイオード(LED)等の窒化物半導体素子が広く用いられている。この窒化物半導体素子は、例えば、サファイア基板の上にn型窒化物半導体層、発光層及びp型窒化物半導体層を含む複数の窒化物半導体層を成長させることにより作製される。このような窒化物半導体素子においては、n型窒化物半導体としてSiがドープされた窒化物半導体が用いられ、p型窒化物半導体層としてはMgがドープされた窒化物半導体が用いられる(例えば特許文献1参照)。
【0003】
窒化物半導体においてMgの活性化率はSiの活性化率よりも低い傾向にあり、また、p型窒化物半導体において、バンドギャップエネルギーが広くなるほどホール濃度は低下しやすい。深紫外のように短い発光波長の窒化物半導体発光素子においては、発光層として例えばAlGaNを用いており、p型半導体層は発光層よりもバンドギャップエネルギーの広い半導体、すなわちAl組成比の大きな半導体層を用いることが適している。しかしながら、p電極と接触するp型コンタクト層には、ホール濃度を高めるために、バンドギャップエネルギーが比較的狭い、すなわちAl組成比が比較的小さい窒化物半導体が用いられている(例えば特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2005-317931号公報
【文献】特開2017-139252号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
窒化物半導体素子において、Al組成比が比較的大きな半導体層のp型化が望まれている。例えばAl組成比が60%以上のAl組成比が比較的高いAlGaN層をMOCVD法によりMgを添加しながら形成すると、p型ではなくn型の導電性を示すことがある。半導体層のAl組成比が大きくなるほど、結晶性が悪化しやすく、それによって窒素空孔の数が多くなりやすい。このために、Al組成比が比較的大きな半導体層にp型不純物を添加すると、n型の導電性を示す場合があると考えられる。もしp型層を形成すべき位置にp型層が形成されないと、窒化物半導体素子が駆動しないか、もしくは駆動電圧が高くなる場合がある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る一態様の窒化物半導体素子の製造方法は、
p型不純物を添加して、第1厚みで、AlとGaとNとを有する第1半導体層を形成する工程と、
前記第1半導体層の上に、n型不純物及びp型不純物を添加せずに、第2厚みで、AlとNを有する第2半導体層を形成する工程と、
前記第1半導体層及び前記第2半導体層を熱処理する工程と、
前記第2半導体層の上面に接して、p電極を形成する工程と、
を備え、
前記第2厚みは、前記第1厚みよりも小さく、
前記第2半導体層のバンドギャップエネルギーは、前記第1半導体層のバンドギャップエネルギーよりも大きく、
前記熱処理する工程の後の前記第2半導体層は、前記第1半導体層から拡散された前記p型不純物を有する。
【発明の効果】
【0007】
上述の製造方法により、駆動が可能であり、また、駆動電圧が低減された窒化物半導体素子を得ることが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1A】本発明に係る実施形態の窒化物半導体素子の概略断面図である。
図1B】本発明に係る別の実施形態の窒化物半導体素子の一部を拡大して示す概略断面図である。
図2】本発明に係る実施形態の窒化物半導体素子の製造方法の工程フローである。
図3A】窒化物半導体発光素子の製造方法の一工程を示す概略断面図である。
図3B】窒化物半導体発光素子の製造方法の一工程を示す概略断面図である。
図3C】窒化物半導体発光素子の製造方法の一工程を示す概略断面図である。
図3D】窒化物半導体発光素子の製造方法の一工程を示す概略断面図である。
図3E】窒化物半導体発光素子の製造方法の一工程を示す概略断面図である。
図3F】窒化物半導体発光素子の製造方法の一工程を示す概略断面図である。
図3G】窒化物半導体発光素子の製造方法の一工程を示す概略断面図である。
図3H】窒化物半導体発光素子の製造方法の一工程を示す概略断面図である。
図3I】窒化物半導体発光素子の製造方法の一工程を示す概略断面図である。
図4A】熱処理を行わない試料Aの深さ方向濃度プロファイルである。
図4B】熱処理を行った試料Bの深さ方向濃度プロファイルである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明に係る実施形態の窒化物半導体素子について図面を参照しながら説明する。但し、以下に説明する実施形態は、本発明の技術思想を具体化するためのものであって、本発明を限定するものではない。以下の説明において参照する図面は、本発明の実施形態を概略的に示したものであるため、各部材のスケールや間隔及び位置関係等が誇張、あるいは、部材の一部の図示が省略されている場合がある。
【0010】
本実施形態の窒化物半導体素子の製造方法は、第1半導体層を形成する工程と、第2半導体層を形成する工程と、第1半導体層及び第2半導体層を熱処理する工程と、を含む。第1半導体層形成工程では、p型不純物を添加して、第1厚みで、Al(アルミニウム)とGa(ガリウム)とN(窒素)とを有する第1半導体層を形成する。第2半導体層形成工程では、第1半導体層の上に、n型不純物及びp型不純物を添加せずに、第2厚みで、AlとNを有する第2半導体層を形成する。第2厚みは、第1厚みよりも小さい。第2半導体層のバンドギャップエネルギーは、前記第1半導体層のバンドギャップエネルギーよりも大きい。そして、熱処理工程の後の第2半導体層は、第1半導体層から拡散された前記p型不純物を有する。
【0011】
上述のような工程を有することにより、バンドギャップエネルギーが第1半導体層よりも大きな第2半導体層をp型化することが可能である。これにより、第2半導体層を備える窒化物半導体素子を駆動することが可能であり、また、その駆動電圧を低減することが可能である。このような効果が得られる理由としては、不純物を意図的に添加しないことにより、第2半導体層の結晶性を良好にできること、すなわち、窒素空孔の数を低減できることが考えられる。窒素空孔が少ないほど、n型の導電性に近づき難いため、p型化に有利である。また、第2半導体層が第1半導体層よりも厚みが小さいことにより、p型不純物が第2半導体層に比較的高濃度に拡散しやすいことも理由の1つとして考えられる。
【0012】
上述の製造方法を経て得られる窒化物半導体素子の一例を図1Aに示す。図1Aは、窒化物半導体素子100の概略断面図であり、この窒化物半導体素子100は窒化物半導体発光素子である。窒化物半導体素子100は、基板1、バッファ層2、超格子層3、アンドープ層4、n側コンタクト層5(n型半導体層)、発光層6、p側クラッド層7、組成傾斜層8、第1半導体層9、第2半導体層10、酸化錫層11、n電極21、及びp電極22を含む。n電極21はn側コンタクト層5上に設けられており、p電極22は酸化錫層11上に設けられている。図1Aに示す窒化物半導体素子100は、深紫外の光を発光可能な窒化物半導体発光素子である。
【0013】
窒化物半導体素子100の製造方法を図2に示す。図2は、窒化物半導体素子100の製造方法の工程フローである。この製造方法は、n型半導体層を形成する工程S102と、発光層を形成する工程S104と、第1半導体層を形成する工程S106と、n電極を形成する工程S108と、n電極を熱処理する工程S110と、第2半導体層を形成する工程S112と、熱処理を行う工程S114と、p電極を形成する工程S116を有する。
以下、図1A図3Jを用いて、各工程について詳述する。
【0014】
(基板準備工程)
図3Aに示すように、n型半導体層形成工程S102の前に、基板1を準備する工程を有してよい。基板1としては、サファイアのC面、R面及びA面の他、スピネル(MgAl)等の絶縁性基板を用いることができ、また、SiC、ZnS、ZnO、GaAs、GaN及びAlN等の半導体基板を用いることができる。
【0015】
(バッファ層等形成工程)
図3Bに示すように、基板準備工程の後であってn型半導体層形成工程S102の前に、バッファ層2等のその他の層を形成する工程を有していてもよい。図2に示す窒化物半導体素子100では、基板1の表面に、まずバッファ層2、超格子層3及びアンドープ層4をこの順に形成する。バッファ層2及び超格子層3は、基板1とn窒化物半導体層との格子定数等の違いにより生じる歪による応力を緩和する層である。基板1上にまずバッファ層2を形成し、次にバッファ層2上に超格子層3を形成し、さらに超格子層3上にアンドープ層4を形成する。バッファ層2として、例えばAlNからなる層を用いることができる。超格子層3として、例えばAlGaN層及びAlN層のペアを複数回繰り返す構造を用いることができる。アンドープ層4は、超格子層3に生じたピットを減少させるためのピット埋込層である。アンドープ層4は、例えばAlGaN層であってよい。アンドープ層4は、例えば3μmの厚みで形成される。基板1の上に形成する各半導体層は、例えば、有機金属気相成長法(MOCVD法)により形成することができる。一部の層をそれ以外の層と異なる成長方法により形成してもよい。例えば、バッファ層2をスパッタリングにより形成し、超格子層3以降をMOCVD法により形成してもよい。
【0016】
(n型半導体層形成工程S102)
工程S102では、n型不純物を添加してn型半導体層を形成する。n型半導体層は、基板1の上方に設けることができる。本実施形態では、図3Cに示すように、n型半導体層として、n側コンタクト層5を形成する。n側コンタクト層5は、AlGa及びNを含有するAlGaN層である。Gaに対するAlの含有比率は、窒化物半導体発光素子が深紫外の波長域の光を発光することができるように、他の構成を考慮して適宜調節してよい。AlGaN層の自己吸収を抑制して光取り出し効率を高めるため、AlGaN層のGaに対するAlの含有比率は高いことが好ましい。とりわけ、n側コンタクト層5は、AlGa1-aN(0.5≦a<1)層であることが好ましい。
【0017】
(発光層形成工程S104)
工程S104では、n型半導体層の上に、発光層6を形成する。n型半導体層と発光層6は接していてもよく、あるいは、それらの間に他の層が配置されていてもよい。本実施形態では、図3Dに示すように、n側コンタクト層5の上に発光層6が形成される。発光層6は、例えば井戸層と障壁層とが繰り返し交互に積層された多重量子井戸構造からなる。発光層6は、深紫外の光を発光可能な層であることが好ましい。深紫外の光とは、ピーク波長が220~350nmの光を指す。Al組成比が第1半導体層9よりも大きい第2半導体層10を用いることで、深紫外光に対する吸収率を低減することができるため、得られる窒化物半導体発光素子の発光効率を向上させることができる。
【0018】
発光層6における井戸層及び障壁層は、例えば所望の発光波長の光に応じて組成が制御されたAlGaN層からなる。発光層6の井戸層及び障壁層は、例えば、一般式InAlGa1-b-cN(0≦b≦0.1、0.4≦c≦1.0、b+c≦1.0)で表されるIII族窒化物により構成することができる。発光層6の井戸層及び障壁層の組成は、障壁層のバンドギャップエネルギーが井戸層のバンドギャップエネルギーよりも大きくなるように選択される。ピーク波長が280nmの深紫外光を発光する窒化物半導体発光素子を得る場合、例えば、井戸層を、Al組成比cが0.45であるAl0.45Ga0.55Nからなる窒化物半導体により構成することができる。その場合、障壁層は、Al組成比cが0.56であるAl0.56Ga0.44Nからなる窒化物半導体により構成することができる。
【0019】
(p側クラッド層等形成工程)
発光層形成工程S104の後であって第1半導体層形成工程S106の前に、p側半導体層を構成するその他の層を形成する工程を有していてもよい。本実施形態では、図3Eに示すように、発光層6を形成した後、p側クラッド層7及び組成傾斜層8をこの順に形成する。p側クラッド層7は、電子をブロックするp側の障壁層である。p側クラッド層7は、例えばMg等のp型不純物が添加されたAlGaN層である。p側クラッド層7のAl組成比は第1半導体層のAl組成比よりも大きくすることができる。p側クラッド層7の厚みは例えば10nm以上30nm以下が挙げられる。組成傾斜層8は、例えばMg等のp型不純物が添加されたAlGa1-dN(0≦d<1)層である。組成傾斜層8の厚みは例えば20nm以上60nm以下が挙げられる。
【0020】
(第1半導体層形成工程S106)
工程S106では、第1半導体層9を形成する。図3Fに示すように、第1半導体層9は、発光層6の上に形成される。発光層6と第1半導体層9は接していてもよく、あるいは、それらの間に上述のp側クラッド層7等が配置されていてもよい。第1半導体層9は、p型不純物を添加して形成され、AlとGaとNを有する。AlとGaとNを有する層としては、AlとGaを有する窒化物半導体層が挙げられ、例えばAlGaN層又はAlInGaN層である。第1半導体層9がAlGa1-xN層である場合、第1半導体層9のAl組成比xは、0.2以上0.5以下が挙げられる。第1半導体層9は、例えば、MOCVD法により形成することができる。第1半導体層9の厚み(第1厚み)は、例えば30nm以上600nm以下が挙げられる。p型不純物としてはMgが挙げられる。
【0021】
第1半導体層9に添加するp型不純物の濃度は、通常のp側コンタクト層に用いられる濃度よりも低いことが好ましい。添加するp型不純物の濃度を低くすることで、第1半導体層の結晶性を向上させることが可能であり、これにより次に形成する第2半導体層の結晶性も向上させることが可能であるためである。第1半導体層9に添加するp型不純物の濃度としては、1×1020cm-3未満が挙げられ、6×1019cm-3以下とすることが好ましい。より好ましくは、第1半導体層9に添加するp型不純物の濃度を、2×1019cm-3以上6×1019cm-3以下とする。
【0022】
(n電極形成工程S108)
工程S108では、n型半導体層に電気的に接続するn電極21を形成する。本実施形態では、まず、これまでに形成した半導体層の一部を除去して、n型半導体層の一部を露出させる。このような部分的な除去は、例えば、これまでに形成した半導体層の表面に所定形状のマスクを形成し、エッチングでその半導体層を除去することにより行うことができる。その後、図3Gに示すように、n型半導体層の露出した表面にn電極21を形成する。本実施形態では、n電極形成工程S108を、第1半導体層形成工程S106の後であって第2半導体層形成工程S112の前に行う。n電極形成工程S108は、第2半導体層形成工程S112の後に行ってもよい。
【0023】
n電極21は、例えば、Ti層と、Siを含有するAl合金層と、Ta層及びW層の1つ以上からなる層と、Ti層及びRu層の1つ以上からなる層とをn側コンタクト層5側から順に含む。n電極21は、例えば、蒸着又はスパッタリングにより形成することができる。
【0024】
(n電極熱処理工程S110)
工程S110では、n電極21を熱処理する。これにより、n電極21をn型半導体層に対してオーミック接続させることができる。n電極熱処理工程S110は、p電極形成工程S116の前に行うことが好ましく、第2半導体層形成工程S112の前に行うことができる。特に、p電極22にMg層を用いる場合は、Mgの融点が比較的低く、n電極熱処理工程S110によって他の金属層と固溶する可能性があるため、このような順序で行うことが好ましい。n電極熱処理工程S110における熱処理の温度としては、後述する熱処理工程S114における熱処理の温度よりも高い温度が挙げられる。熱処理の温度は、例えば、600℃以上1000℃以下とすることができる。このような熱処理温度の保持時間としては1~60分が挙げられる。n電極21の熱処理は、例えば、N雰囲気中において、800℃で1分間保持することにより行う。なお、このn電極21の熱処理の温度は、RTA(Rapid Thermal Annealing)装置のトレイの温度を指す。熱処理に用いる装置を電気炉など他の装置とする場合は、同様の効果が得られる温度や保持時間とすることができる。
【0025】
(第2半導体層形成工程S112)
工程S112では、第2半導体層10を形成する。第2半導体層10は、第1半導体層9からp型不純物が移動可能である程度に第1半導体層9の近くに配置する。図3Hに示すように、第2半導体層10は、第1半導体層9の上面に接して形成することが好ましい。これにより、第1半導体層9から第2半導体層10へのp型不純物の移動を効率的に行うことができる。
【0026】
第2半導体層10は、AlとNを有する。第2半導体層10は、例えば、AlInGaN層、AlGaN層、AlN層、又はAlON層とすることができる。第2半導体層10のバンドギャップエネルギーは、第1半導体層9のバンドギャップエネルギーよりも大きい。第1半導体層9がAlGa1-xN層であり第2半導体層10がAlGa1-yN層である場合は、第1半導体層9のAl組成比xと第2半導体層10のAl組成比yの関係は、x<y≦1とする。Al組成比yが0の場合、第2半導体層10はAlNである。後述するとおり、AlNが酸化することによりAlONとなっていてもよい。第1半導体層9のAl組成比xと第2半導体層10のAl組成比yの差は、例えば0.8以上とすることができる。この差は0.2以下であってよい。深紫外光を発光する窒化物半導体発光素子の一部として第2半導体層10を形成する場合は、発光層6が発する深紫外光に対する透過率について、第2半導体層10の方を第1半導体層9よりも高くする。これらの透過率の差は、例えば3%以上とすることができ、5%以上であってもよく、また、20%以下とすることができる。
【0027】
第2半導体層10は、スパッタリングにより形成することが好ましい。これにより、p型不純物の第1半導体層9から第2半導体層10への拡散を促進することが可能である。また、n電極熱処理工程S110の後に第2半導体層10を形成する場合、n電極21の上面などの第2半導体層10が不要な箇所には第2半導体層10を形成しない。本実施形態では、図3Hに示すように、第1半導体層9の上以外の領域をレジスト等のマスク部材30で被覆して、第2半導体層10を形成する。レジストのようにマスク部材30に用いられる材料は耐熱温度が低い場合があるため、第2半導体層10の形成としては、MOCVD法よりも低い温度で成膜が可能なスパッタリングを用いることが適している。例えば、第1半導体層9及びそれよりも下の層はMOCVD法で形成し、その後、第2半導体層10をスパッタリングで形成することができる。スパッタリングの温度としては、25℃以上200℃以下が挙げられ、例えば室温とすることができる。第2半導体層10をスパッタリングにより形成する場合、Al及びNを含む1種以上のターゲットを用いる。例えば、AlNターゲットを用いて、又は、AlのターゲットとNのターゲットとを用いて形成する。この場合、第2半導体層10は、AlN層又はAlON層とすることができる。AlのターゲットとNのターゲットのみを用いて第2半導体層10を形成したとしても、形成中及び/又は形成後に酸化が進むことによりAlON層が形成され得る。酸化によりAlON層が形成される場合、例えば、O(酸素)の含有量は上面に近づくほど増加し、一方で、N(窒素)の含有量は上面に近づくほど減少し得る。第2半導体層10の酸化を低減するためには、酸化雰囲気でない雰囲気中または真空中で第2半導体層10のスパッタリングを行うことが好ましい。なお、スパッタリングに用いるターゲットの純度は、目的の組成の膜が形成可能であればよく、例えば99%以上とすることができる。
【0028】
第2半導体層10の厚み(第2厚み)は、1nm以上20nm以下とすることができる。第2半導体層10の厚みは、例えば、3nmとしてもよく、5nmとしてもよい。第1半導体層9の厚みと第2半導体層10の厚みの差は、例えば10nm以上とすることができる。この差は500nm以下であってよい。
【0029】
(酸化錫層工程)
第2半導体層形成工程S112の後であって熱処理工程S114の前に、酸化錫層11を形成する工程を有していてもよい。図3Iに示すように、酸化錫層11は第2半導体層10の上に形成する。酸化錫層11としては、SnO層又はSnO層が挙げられる。酸化錫層11は例えばスパッタリングにより形成する。酸化錫層11を形成することにより、酸化錫層11を形成せずに第2半導体層10が露出している場合と比較して、第2半導体層10の酸化が抑制されると考えられる。第2半導体層10の上に形成する層には、酸化錫以外の材料を用いてもよい。酸化錫層11の厚みは、例えば1nm以上20nm以下とすることができる。酸化錫層11の厚みは、例えば第2半導体層10の厚みより大きくすることができる。酸化錫層11を形成する場合は、酸化錫層11にp電極22を接触させることができる。深紫外光の吸収をより低減するためには、図1Bに示すように、酸化錫層11を形成せず、第2半導体層10にp電極22を接触させることが好ましい。
【0030】
(熱処理工程S114)
工程S114では、少なくとも第1半導体層9及び第2半導体層10を熱処理(アニール)する。第1半導体層9及び第2半導体層10のみを選択的に熱処理する必要はなく、それ以外の層も同時に熱処理してよい。本実施形態では、基板1及びその上に形成された層のすべてを熱処理する。熱処理により、第2半導体層10の低抵抗化が可能である。その理由としては、第1半導体層9に含有されるp型不純物が第2半導体層10に拡散すること、及び/又は、第2半導体層10に含有されるp型不純物が活性化されることが考えられる。また、第2半導体層10をスパッタリングにより形成する場合には、熱処理工程S114を行うことで、面内の結晶方位を均一に近付けることが可能という効果も得られる。第2半導体層10をスパッタリングで形成する場合には、MOCVD法で形成する場合と比較して、面内における結晶方位のばらつきが大きくなりやすいが、熱処理工程S114を行うことでそのようなばらつきを低減することが可能である。第2半導体層10の結晶方位のばらつきが大きい場合、p電極22をパターニングする際に用いるアルカリ溶液によって第2半導体層10が除去される可能性があるが、熱処理工程S114を行うことでその可能性を低減することができる。
【0031】
熱処理工程S114を経た第2半導体層10は、p型不純物を有する。第2半導体層10はp型不純物を添加せずに形成するため、このp型不純物は第1半導体層9から拡散されたものであるといえる。上述のとおり第2半導体層10をスパッタリングにより形成する場合は、熱処理工程S114の前にすでにp型不純物が第2半導体層10に含まれていてもよい。この場合も、熱処理工程S114の後の第2半導体層10が第1半導体層9から拡散されたp型不純物を有するといえる。
【0032】
熱処理の温度は、400℃以上が挙げられ、500℃以上であってもよい。熱処理の温度は、600℃以上が好ましく、700℃以上がより好ましい。熱処理の温度とは、一定時間保持する温度を指す。すなわち、熱処理においては、このような温度まで昇温し、その温度で一定時間保持し、その後、降温する。前の工程や後の工程と同じ装置で熱処理を行う場合は、昇温や降温を省略してもよい。熱処理の温度は、処理対象の層が分解する温度以下とする。熱処理の温度は、例えば400℃以上900℃以下とすることができ、400℃以上800℃以下としてもよく、500℃以上800℃以下としてもよく、600℃以上800℃以下としてもよい。熱処理の温度は、n電極熱処理工程S110の温度よりも低いことが好ましい。これは、上述のとおり、n電極21の熱処理の温度は比較的高い傾向があり、第2半導体層10の酸化を抑制するためには、それよりも低い温度であることが好ましいからである。これらの温度の差は、例えば10℃以上とすることができ、50℃以上であってよく、また、300℃以下とすることができ、200℃以下であってよい。熱処理の温度の保持時間としては1分以上が挙げられ、30分以上としてもよい。熱処理の温度の保持時間は60分以下とすることができる。なお、上述の熱処理の温度は、電気炉における炉内の雰囲気の温度を指す。熱処理に用いる装置をRTA装置など他の装置とする場合は、同様の効果が得られる温度や保持時間とすることができる。
【0033】
熱処理は、酸化雰囲気でない雰囲気中または真空中で行うことができる。もし酸化雰囲気で熱処理を行うと、第2半導体層10の酸化が促進される可能性があるため、酸化雰囲気を避けることが好ましいと考えられる。酸化雰囲気でない雰囲気としては、例えば、窒素雰囲気、還元雰囲気等の酸化を実質的に促進しない雰囲気が挙げられる。真空中で熱処理を行う場合、その圧力は、例えば10kPa以下とすることができ、1kPa以下が好ましく、100Pa以下がより好ましい。
【0034】
(p電極形成工程S116)
第2半導体層形成工程S112の後に、p電極22を形成する工程S116を有していてよい。図1Aに示すように、p電極22は、酸化錫層11の上面に接して形成される。図1Bに示すように、p電極22は、第2半導体層10の上面に接して形成されてもよい。p電極22は、Mg、Ti、Ru、Ni等の金属材料のほか、ITO等の透明導電材料を用いてもよい。p電極22は、例えば、Mg層、Ti層、Ru層をこの順に積層することにより形成する。窒化物半導体素子100が深紫外光を発光する窒化物半導体発光素子である場合は、Mg層を反射層として用いることができる。p電極22は、例えば、蒸着又はスパッタリングにより形成することができる。
【0035】
熱処理工程S114は、第2半導体層形成工程S112の後であってp電極形成工程S116の前に行ってよい。p電極22にMg層を用いる場合は、p電極22を形成した後に熱処理工程S114を行うとMg層が他の金属層と固溶する可能性があるため、熱処理工程S114はp電極形成工程S116の前に行うことが好ましい。
【0036】
p電極22を形成した後、p電極22の熱処理を行ってもよい。p電極22にMgを用いる場合は、上述した理由から、p電極22の熱処理の温度は熱処理工程S114の温度よりも低いことが好ましい。p電極22の熱処理の温度と熱処理工程S114の温度との差は、10℃以上とすることができ、50℃以上であってもよく、また、300℃以下とすることができ、200℃以下であってもよい。なお、このp電極22の熱処理の温度は、電気炉における炉内の雰囲気の温度を指す。p電極の熱処理に用いる装置をRTA装置など他の装置とする場合は、同様の効果が得られる温度や保持時間とすることができる。
【0037】
以上の工程を経ることにより、図1Aに示す窒化物半導体素子100を得ることができる。なお、図1A及び図3A図3Iでは1つの窒化物半導体素子100を示したが、1つのウェハーに複数の窒化物半導体素子100となる部分を形成し、スクライブ等により個片化することで窒化物半導体素子100を得てもよい。
【0038】
窒化物半導体発光素子としては、発光ダイオード(LED)又はレーザダイオード(LD)が挙げられる。また、上では、窒化物半導体素子として窒化物半導体発光素子を挙げたが、電界効果トランジスタ等の他の素子であってもよい。
【実施例
【0039】
(実施例1)
基板1としてサファイア基板をMOCVD装置内に設置し、サファイア基板上に、AlNからなるバッファ層2、AlGaN及びAlNからなる超格子層3、n側半導体層(AlGaNからなるアンドープ層4、Al0.60Ga0.40Nからなるn側コンタクト層5、発光層6、MgドープのAl0.63Ga0.37N層からなるp側クラッド層7、MgドープでAl0.63Ga0.37N層からGaNに組成を徐々に変化させた組成傾斜層8、MgドープのAl0.50Ga0.50N層からなる第1半導体層9を順に成長させた。第1半導体層9は、膜厚300nm、Mg濃度3.3×1019cm-3で成長させた。
【0040】
次いで、第1半導体層9の表面に所定形状のマスク部材30を形成し、エッチングにより第1半導体層9からn側コンタクト層5の一部までを除去してn側コンタクト層5を露出させた。
【0041】
次いで、スパッタリングにより、n側コンタクト層5上にn電極21を形成した。具体的には、n側コンタクト層5側から順に、Ti層(厚み:25nm)、Siを含有するAl合金層(厚み:200nm)、Ta層(厚み:400nm)、及びRu層(厚み:50nm)を形成した。その後、n電極21の熱処理(N雰囲気中、800℃で1分間)を行った。なお、本明細書では、「Ti層(厚み:25nm)」のように、括弧の中にその層の厚みを記載する場合がある。
【0042】
次いで、スパッタリングにより、アルゴンと窒素の混合雰囲気においてAlターゲットとNターゲットを用いて第2半導体層10を狙い厚み3nmで形成した。次いで、スパッタリングにより。アルゴンと酸素の混合雰囲気においてSnターゲットを用いて成膜することにより酸化錫層11を狙い厚み5nmで形成した。
【0043】
次いで、酸化錫層11まで形成された基板1を電気炉内に設置し、真空中で、500℃の温度で10分間の熱処理を行った。
【0044】
次いで、酸化錫層11上にスパッタリングによりp電極22を形成した。具体的には、まず、Mg層(厚み:100nm)、Ti層(厚み:100nm)、Ru層(厚み:30nm)からなる全面電極をp電極22として形成した。その後、p電極22の熱処理(真空中、400℃で10分間)を行った。
【0045】
次いで、n電極21及びp電極22の上面の一部を除いて、バッファ層2、超格子層3、n側半導体層、発光層6、p側半導体層、及びp電極22の表面、すなわち窒化物半導体素子100の略全体を覆うように、SiOからなる保護膜(厚み:700nm)を施した。
【0046】
次いで、n電極21及びp電極22の上記上面の一部を覆うように、n側共晶パッドとp側共晶パッドをそれぞれ形成した。具体的には、n電極21及びp電極22側から順に、Ti層(厚み:200nm)、Pt層(厚み:200nm)、及びAu層(厚み:500nm)を形成した。
【0047】
以上の製造工程により、実施例1の窒化物半導体素子100として深紫外の光を発する窒化物半導体発光素子を製造した。
【0048】
得られた窒化物半導体発光素子について、発光検査を行った。その結果、順方向電流20mAで発光が確認された。20mA時の電圧は9.6Vであった。
【0049】
(熱処理有無による各元素の濃度分布)
実施例1の窒化物半導体発光素子の第2半導体層10及びその周辺の各元素の濃度分布を確認するために、実施例1と酸化錫層11を形成するまでを同じとし、その後、熱処理を行わない試料Aと、熱処理を行った試料Bを準備した。熱処理の条件は、真空中で、500℃の温度で10分間とした。このような試料A及び試料Bについて、3Dアトムプローブによる深さ方向濃度プロファイルの結果を図4A及び図4Bに示す。なお、試料A及び試料Bともに、酸化錫層11の上には測定のためのキャップ層としてITO層が形成されている。第2半導体層10の形成には、AlターゲットとNターゲットのみを用いたが、図4Aに示すとおり、第2半導体層10にはMgが含有されていた。これは、スパッタリングにより、第1半導体層9中のMgが拡散したためと考えられる。第2半導体層10中におけるMg濃度は、熱処理によってもやや増加していると考えられるが、第2半導体層10をスパッタリングで形成する場合は、このように熱処理前にすでにMgを第2半導体層10に拡散させることができる。また、図4A及び図4Bから、第2半導体層にはO(酸素)も含有されていることがわかる。これは、スパッタリング中に意図せず酸化したものと推測される。図4A及び図4Bから、第2半導体層10中において、Oの含有量は上面に近づくほど増加し、逆に、N(窒素)の含有量は上面に近づくほど減少しているといえる。
【0050】
(実施例2~5)
実施例2として、p電極22を以下の構成としたこと以外は実施例1と同様の窒化物半導体発光素子を作製した。実施例2におけるp電極22として、酸化錫層11側から順に、Ni層(厚み:5nm)、Mg層(厚み:100nm)、Ta層(厚み:30nm)及びRu層(厚み:50nm)を形成した。その後、p電極22の熱処理(真空中、400℃で10分間)を行った。
【0051】
実施例3~5として、酸化錫層11を設けず、第2半導体層10の上面にp電極22を形成したこと以外は実施例2と同様の窒化物半導体発光素子を作製した。第2半導体層10は、実施例1と同様に、AlターゲットとNターゲットを用いてスパッタリングにより形成したため、AlとNとOを主に含む層であると推測される。第2半導体層10の膜厚は、実施例3で1nm、実施例4で3nm、実施例5で5nmとした。
【0052】
実施例2~5の窒化物半導体発光素子について、順方向電流20mAの時の順方向電圧(V)を以下の表1に示す。実施例2~5の窒化物半導体発光素子は、いずれも実施例1と同様に、窒化物半導体発光素子として正常に駆動した。実施例3~5は酸化錫層11を設けない例であるが、これらの結果から、第2半導体層10の上に酸化錫層11がなくても窒化物半導体発光素子は駆動可能であることがわかった。もしp電極を形成する層がp型層でなければ、窒化物半導体発光素子はダイオード特性を示さず発光しない場合があるが、実施例2~5の窒化物半導体発光素子は発光していることから、実施例2~5において第2半導体層10のp型化は成功したといえる。また、表1に示す実施例3~5の結果から、酸化錫層11が無い場合は、第2半導体層10の厚みは1nmより大きいことが好ましく、5nm以下であることが好ましいといえる。さらには、第2半導体層10の厚みは2nm以上4nm以下がより好ましいと考えられる。
【0053】
【表1】
【0054】
(実施例6~9)
実施例6として、第2半導体層10及び酸化錫層11を形成した後の熱処理の温度を600℃とし、p電極22の構成を以下のとおりとしたこと以外は実施例2と同様の窒化物半導体発光素子を作製した。実施例6のp電極22として酸化錫層11側から順に、Mg層(厚み:100nm)とRu層(厚み:100nm)を形成した。その後、p電極22の熱処理(真空中、400℃で10分間)を行った。
【0055】
実施例7~9として、以下の点以外は実施例6と同様の窒化物半導体発光素子を作製した。実施例7~9の窒化物半導体発光素子はいずれも、酸化錫層11を設けず、第2半導体層10(厚み:3nm)にp電極22を形成した。第2半導体層10は、実施例1と同様に、AlターゲットとNターゲットを用いてスパッタリングにより形成したため、AlとNとOを主に含む層であると推測される。熱処理の温度は、実施例7で500℃、実施例8で600℃、実施例9で700℃とした。
【0056】
実施例6~9の窒化物半導体素子について、順方向電流20mAの時の順方向電圧(Vf)を下の表2に示す。表2から、第2半導体層10に対する熱処理の温度が高いほど順方向電圧が低減可能であることがわかる。表2から、熱処理の温度は、500℃以上が好ましく、600℃以上がより好ましく、700℃以上がさらに好ましいといえる。
【0057】
【表2】
【符号の説明】
【0058】
1 基板
2 バッファ層
3 超格子層
4 アンドープ層
5 n側コンタクト層
6 発光層
7 p側クラッド層
8 組成傾斜層
9 第1半導体層
10 第2半導体層
11 酸化錫層
21 n電極
22 p電極
30 マスク部材
100 窒化物半導体素子
図1A
図1B
図2
図3A
図3B
図3C
図3D
図3E
図3F
図3G
図3H
図3I
図4A
図4B