IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 国立大学法人大阪大学の特許一覧 ▶ 株式会社日本触媒の特許一覧

特許7448912金属複合体、含窒素多環式化合物、焼成体及びその製造方法、酸素還元触媒、酸素発生触媒、及び、水素発生触媒
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-05
(45)【発行日】2024-03-13
(54)【発明の名称】金属複合体、含窒素多環式化合物、焼成体及びその製造方法、酸素還元触媒、酸素発生触媒、及び、水素発生触媒
(51)【国際特許分類】
   C07D 471/04 20060101AFI20240306BHJP
   B01J 37/08 20060101ALI20240306BHJP
   B01J 31/22 20060101ALI20240306BHJP
   B01J 27/24 20060101ALI20240306BHJP
   C07F 15/02 20060101ALN20240306BHJP
   C07F 15/06 20060101ALN20240306BHJP
【FI】
C07D471/04 112
B01J37/08
B01J31/22 M
B01J27/24 M
C07F15/02 CSP
C07F15/06
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2020037053
(22)【出願日】2020-03-04
(65)【公開番号】P2021138645
(43)【公開日】2021-09-16
【審査請求日】2022-12-06
(73)【特許権者】
【識別番号】504176911
【氏名又は名称】国立大学法人大阪大学
(73)【特許権者】
【識別番号】000004628
【氏名又は名称】株式会社日本触媒
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】弁理士法人WisePlus
(72)【発明者】
【氏名】林 高史
(72)【発明者】
【氏名】小野田 晃
(72)【発明者】
【氏名】松元 香樹
(72)【発明者】
【氏名】郷田 隼
(72)【発明者】
【氏名】米原 宏司
【審査官】神野 将志
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-052117(JP,A)
【文献】特開2019-052116(JP,A)
【文献】RESISTRY(STN)[online][検索日:2023.10.4],RN 863481-02-1 Entered STN: 20 Sep 2005、RN 745015-39-8 Entered STN: 15 Sep 2004、RN 745015-31-0 Entered STN: 15 Sep 2004、RN 745015-26-3 Entered STN: 15 Sep 2004
【文献】Gregg, Daniel J. et al.,Intermolecular interactions of extendedaromatic ligands: the synchrotron molecular structures of[Ru(bpy)2(N-HSB)].2PF6 and [Ru(bpy)2(N-1/2HSB)].2PF6,Chemical Communications (Cambridge United Kingdom) ,2006年,(29),pp.3090-3092,doi: 10.1039/B604131K
【文献】Delaney, Colm et al.,One-Pot, High-Yielding, Oxidative Cyclodehydrogenation Route for N-Doped Nanographene Synthesis,Organic Letters,2016年,18(1),pp.88-91,doi :10.1021/acs.orglett.5b03312
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07D
C07F
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表されることを特徴とする金属複合体。
【化1】
(式中、Mm+は、周期表の第7~11族のいずれかに属する金属元素のイオンを表し、mはその価数を表す。A及びAは、それぞれ独立して、水素原子と結合した炭素原子、又は、窒素原子を表す。Ar~Arは、それぞれ独立して、置換基を有していてもよい芳香族環を表し、該芳香族環の環構造は、1つの環から構成される単環構造であってもよく、複数の環から構成される縮環構造であってもよい。Z及びZは、それぞれ独立して、水素原子、又は、置換基を表し、置換基がMm+に配位していてもよい。NからMm+への矢印は、Mm+に配位している配位結合を表す。Lは、Mm+に配位している配位子を表す。点線は、結合が形成されていてもよいことを表す。Xr-は、カウンターアニオンを表し、rはその価数を表す。m、n、p、q、rは、金属複合体の価数が0となる組合せであればよいが、nは以上である。)
【請求項2】
下記一般式(2)で表されることを特徴とする含窒素多環式化合物(ただし、下記式(A)で表される化合物を除く)
【化2】
(式中、A及びAは、それぞれ独立して、水素原子と結合した炭素原子、又は、窒素原子を表す。Ar~Arは、それぞれ独立して、置換基を有していてもよい芳香族環を表し、該芳香族環の環構造は、1つの環から構成される単環構造であってもよく、複数の環から構成される縮環構造であってもよい。Z及びZは、それぞれ独立して、水素原子、又は、置換基を表す。ただし、Ar~Arが、いずれも置換基を有しておらず、かつZ及びZが水素原子を表す場合を除く。点線は、結合が形成されていてもよいことを表す。ArとArは、直接結合していない。)
【化3】
【請求項3】
請求項1に記載の金属複合体、又は、請求項2に記載の含窒素多環式化合物を焼成して得られる焼成体。
【請求項4】
請求項1に記載の金属複合体、請求項2に記載の含窒素多環式化合物、又は、請求項3に記載の焼成体を含んで構成される酸素還元触媒、酸素発生触媒、又は、水素発生触媒。
【請求項5】
請求項1に記載の金属複合体、又は、請求項2に記載の含窒素多環式化合物を、600℃を超える温度で焼成する工程を含むことを特徴とする焼成体の製造方法。
【請求項6】
前記焼成工程は、請求項1に記載の金属複合体、又は、請求項2に記載の含窒素多環式化合物を、担体に担持させておこなう請求項5に記載の焼成体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属複合体、含窒素多環式化合物、焼成体及びその製造方法、酸素還元触媒、酸素発生触媒、及び、水素発生触媒に関する。より詳しくは、酸素還元触媒、酸素発生触媒、水素発生触媒として好適に用いることができる金属複合体、含窒素多環式化合物、これらの焼成体及びその製造方法、並びに、酸素還元触媒、酸素発生触媒、及び、水素発生触媒に関する。
【背景技術】
【0002】
金属複合体は、多様な構造の前駆体を用いることで分子レベルでの精密な構造設計が可能であり、数多くの研究がなされている。
【0003】
またグラフェンは、sp結合で結合した炭素原子が平面上に並んだ2次元的な平面状構造を有し、その特異な構造や物性のために近年盛んに研究がなされている。
グラフェンと同様に、sp結合で結合した炭素原子が平面上に並んだ構造をもつが、リボンのような直線型等の形状を有する1次元的な含窒素グラフェンナノリボン(GNR)については、含窒素GNRに特定の金属元素を担持させた金属複合体の焼成体が酸素還元反応活性に優れ、酸素還元触媒の原料として有用であることが開示されている(例えば、特許文献1、2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2019-052116号公報
【文献】特開2019-052117号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記のとおり、含窒素GNRに特定の金属元素を担持させた金属複合体が開示されているが、含窒素金属複合体については、種々多様な構造のものが考えられ、まだ充分に検討が進んでいるとはいえず、更なる含窒素金属複合体を開発する余地がある。新たな構造の含窒素金属複合体を開発することは、今後の様々な用途への展開を検討するうえでも好ましい。
【0006】
本発明は、上記現状に鑑みてなされたものであり、新規な金属複合体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、新規な金属複合体について種々検討し、焼成により2次元的な平面状構造を有する焼成体が得られる新規な金属複合体を合成し、上記課題をみごとに解決することができることに想到し、本発明に到達したものである。なお、本発明者らは、この金属複合体やその焼成体が酸素還元反応活性に優れ、酸素還元触媒の原料として非常に有用であることも見出した。
【0008】
すなわち本発明は、下記一般式(1)で表されることを特徴とする金属複合体である。
【0009】
【化1】
(式中、Mm+は、周期表の第7~11族のいずれかに属する金属元素のイオンを表し、mはその価数を表す。A及びAは、それぞれ独立して、水素原子と結合した炭素原子、又は、窒素原子を表す。Ar~Arは、それぞれ独立して、置換基を有していてもよい芳香族環を表し、該芳香族環の環構造は、1つの環から構成される単環構造であってもよく、複数の環から構成される縮環構造であってもよい。Z及びZは、それぞれ独立して、水素原子、又は、置換基を表し、置換基がMm+に配位していてもよい。NからMm+への矢印は、Mm+に配位している配位結合を表す。Lは、Mm+に配位している配位子を表す。点線は、結合が形成されていてもよいことを表す。Xr-は、カウンターアニオンを表し、rはその価数を表す。m、n、p、q、rは、金属複合体の価数が0となる組合せであればよいが、nは1以上である。)
【0010】
以下に本発明を詳述する。
【発明の効果】
【0011】
本発明の金属複合体は、上述の構成よりなり、本発明の金属複合体を用いて高活性の酸素還元触媒、酸素発生触媒、又は、水素発生触媒を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】4b-ヒドロキシ-5,7-ジフェニル-4b,5-ジヒドロ-6H-シクロペンタ[f][1,10]フェナントロリン-6-オンのH-NMR測定結果を示すNMRスペクトルである。
図2】4b-ヒドロキシ-5,7-ジフェニル-4b,5-ジヒドロ-6H-シクロペンタ[f][1,10]フェナントロリン-6-オンの13C-NMR測定結果を示すNMRスペクトルである。
図3】5,6,7,8-テトラフェニルベンゾ[f][1,10]フェナントロリン(TDAT)のH-NMR測定結果を示すNMRスペクトルである。
図4-1】5,7-ビス(4-ブロモフェニル)-6H-シクロペンタ[f][1,10]フェナントロリン-6-オンのH-NMR測定結果を示すNMRスペクトルである。
図4-2】5,7-ビス(4-ブロモフェニル)-6H-シクロペンタ[f][1,10]フェナントロリン-6-オンのH-NMR測定結果を示すNMRスペクトルである。
図5】5,8-ビス(4-ブロモフェニル)-6,7-ジフェニルベンゾ[f][1,10]フェナントロリン(pBrTDAT)のH-NMR測定結果を示すNMRスペクトルである。
図6】5,8-ビス(4-ブロモフェニル)-6,7-ジフェニルベンゾ[f][1,10]フェナントロリン(pBrTDAT)の13C-NMR測定結果を示すNMRスペクトルである。
図7】メチル5,7-ビス(4-ブロモフェニル)-6-オキソ-6H-シクロペンタ[f][1,10]フェナントロリン-2-カルボキシレートのH-NMR測定結果を示すNMRスペクトルである。
図8】メチル5,8-ビス(4-ブロモフェニル)-6,7-ジフェニルベンゾ[f][1,10]フェナントロリン-2-カルボキシレートのH-NMR測定結果を示すNMRスペクトルである。
図9】5,8-ビス(4-ブロモフェニル)-6,7-ジフェニルベンゾ[f][1,10]フェナントロリン-2-カルボン酸(pBrTDATC)のH-NMR測定結果を示すNMRスペクトルである。
図10】5,7-ビス(4-ブロモフェニル)-2-(ピリジン-2-イル)-6H-シクロペンタ[f][1,10]フェナントロリン-6-オンのH-NMR測定結果を示すNMRスペクトルである。
図11】5,8-ビス(4-ブロモフェニル)-6,7-ジフェニル-2-(ピリジン-2-イル)ベンゾ[f][1,10]フェナントロリン(pBrTDATPy)のH-NMR測定結果を示すNMRスペクトルである。
図12】5,8-ビス(4-ブロモフェニル)-6,7-ジフェニル-2-(ピリジン-2-イル)ベンゾ[f][1,10]フェナントロリン(pBrTDATPy)の13C-NMR測定結果を示すNMRスペクトルである。
図13】5,6,7,8-テトラキス(4-ブロモフェニル)ベンゾ[f][1,10]フェナントロリンのH-NMR測定結果を示すNMRスペクトルである。
図14】5,8-ビス(4-ブロモフェニル)-6,7-ジ(ピリミジン-5-イル)ベンゾ[f][1,10]フェナントロリンのH-NMR測定結果を示すNMRスペクトルである。
図15】5,8-ビス(4-ブロモフェニル)-6,7-ジ(チオフェン-2-イル)ベンゾ[f][1,10]フェナントロリンのH-NMR測定結果を示すNMRスペクトルである。
図16】5,8-ビス(4-ブロモフェニル)-6,7-ジ(チオフェン-3-イル)ベンゾ[f][1,10]フェナントロリンのH-NMR測定結果を示すNMRスペクトルである。
図17】本発明の含窒素多環式化合物について熱重量測定(TG測定)を行った結果を示すグラフである。
図18】本発明の含窒素多環式化合物及び本発明の金属複合体について熱重量測定(TG測定)を行った結果を示すグラフである。
図19】本発明の焼成体(Fe/N/C触媒)の調製例を概略的に示す図である。
図20】本発明の焼成体の調製例を概略的に示す図である。
図21】本発明の焼成体についてXRD測定を行った結果を示すグラフである。
図22】本発明の焼成体についてXRD測定を行った結果を示すグラフである。
図23】本発明の焼成体について焼成温度ごとにXRD測定を行った結果を示すグラフである。
図24】本発明の焼成体について焼成温度ごとにラマン測定を行った結果を示すグラフである。
図25】本発明の焼成体についてXPS測定を行った結果を示すグラフである。
図26】本発明の焼成体についてXPS測定を行った結果を示すグラフである。
図27】本発明の焼成体についてXPS測定を行った結果を示すグラフである。
図28】本発明の焼成体についてXPS測定を行った結果を示すグラフである。
図29】本発明の焼成体についてXPS測定を行った結果を示すグラフである。
図30】本発明の焼成体における焼成温度に対する窒素種の割合(%)を示すグラフである。
図31】本発明の焼成体における焼成温度に対する窒素種の割合(wt%)を示すグラフである。
図32】本発明の焼成体について回転ディスク電極の電位に対する電流密度を測定した結果を示すグラフである。
図33】本発明の焼成体について回転ディスク電極の電位に対する電流密度を測定した結果を示すグラフである。
図34】本発明の焼成体について回転ディスク電極の電位に対する電流密度を焼成温度ごとに測定した結果を示すグラフである。
図35】本発明の焼成体について回転ディスク電極の電位に対する電流密度を測定した結果を示すグラフである。
図36】本発明で得られたTDATの結晶構造解析結果図である。
図37】本発明で得られた[Fe(TDAT)](ClOの結晶構造解析結果図である。
図38】本発明で得られた[Fe(pBrTDAT)](ClOの結晶構造解析結果図である。
図39】本発明で得られた[Fe(pBrTDATC)]の結晶構造解析結果図である。
図40】本発明で得られた[Fe(pBrTDATPy)](ClOの結晶構造解析結果図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に本発明を詳述する。
なお、以下において記載する本発明の個々の好ましい形態を2つ以上組み合わせたものもまた、本発明の好ましい形態である。
【0014】
<金属複合体>
本発明の金属複合体は、上記一般式(1)で表される金属複合体である。
本発明の金属複合体は、これを焼成することで高活性な酸素還元触媒、酸素発生触媒、又は、水素発生触媒を得ることができるものである。また、本発明の金属複合体自体も、高活性な酸素還元触媒、酸素発生触媒、又は、水素発生触媒として使用できる。
【0015】
上記一般式(1)中、Mm+は、周期表の第7~11族のいずれかに属する金属元素のイオンを表し、mはその価数を表す。
上記金属元素は、周期表の第8族に属することが好ましい。また、上記金属元素は、周期表の第4周期に属することが好ましい。
また上記金属元素は、そのイオンの価数が2以上になり得るものであることが好ましい。
上記金属元素としては、例えば、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Tc、Ru、Rh、Pd、Ag、Re、Os、Ir、Auが好ましいものとして挙げられ、中でも、Mn、Fe、Co、Cu、Tc、Ru、Rh、Pd、Ag、Re、Os、Ir、Auがより好ましく、Mn、Fe、Co、Cuが更に好ましく、Feが特に好ましい。
上記mは、通常は1以上であり、1~4の整数であることが好ましく、より好ましくは2~4の整数であり、更に好ましくは2又は3であり、特に好ましくは2である。
【0016】
上記一般式(1)中、A及びAは、それぞれ独立して、水素原子と結合した炭素原子、又は、窒素原子を表す。中でも、A及びAが水素原子と結合した炭素原子を表すことが好ましい。
【0017】
上記一般式(1)中、Ar~Arは、それぞれ独立して、置換基を有していてもよい芳香族環を表し、該芳香族環の環構造は、1つの環から構成される単環構造であってもよく、複数の環から構成される縮環構造であってもよい。
上記置換基としては、特に制限されないが、カルボキシル基、スルホン酸基、水酸基、これらのアニオン;アミノ基等が挙げられる。また、脱離能を有する置換基も好ましい。置換基が脱離能を有すると、例えばカップリング反応により容易に分子間で結合を形成しやすかったり、焼成時にも容易に分子間で結合を形成しやすくなる。脱離能を有する置換基としては、具体的には塩素、臭素、ヨウ素等のハロゲン基(ハロゲン原子)、トリフラート基(-OTf)、トシラート基(-OTs)等が挙げられる。
中でも、上記置換基としては、ハロゲン原子が好ましく、塩素原子、臭素原子がより好ましく、臭素原子が更に好ましい。
上記芳香族環の環構造は、ナフタレン環のような縮環構造であってもよいが、1つの環から構成される単環構造であることが好ましく、単環構造の中でも、五員環構造、六員環構造がより好ましく、例えば、ベンゼン環、ピリジン環、ピリミジン環、チオフェン環等が更に好ましく、中でもベンゼン環が特に好ましい。
【0018】
上記一般式(1)中、Z及びZは、それぞれ独立して、水素原子、又は、置換基を表し、置換基がMm+に配位していてもよい。
上記置換基としては、特に制限されないが、カルボキシル基、スルホン酸基、水酸基、これらのアニオン;アミノ基、複素環基等が挙げられる。複素環基としては、ピリジン環、チオフェン環が好ましいものとして挙げられる。
例えば、Z及びZの少なくとも一方が、カルボキシル基のアニオン(カルボキシレートアニオン)を表し、カルボキシレートアニオンがMm+に配位していることが本発明の金属複合体における好ましい形態の1つである。これにより、本発明の金属複合体がより安定化する。
【0019】
上記一般式(1)中、NからMm+への矢印は、Mm+に配位している配位結合を表す。
なお、本発明の金属複合体において、金属元素に配位していることは、X線光電子分光法(XPS法)を用いる実施例の方法で確認することができる。
【0020】
上記一般式(1)中、Lは、Mm+に配位している配位子を表す。
上記Lで表される配位子としては、特に限定されず、水、アンモニア等の中性分子型無機配位子;アルコール類、アミン類、ホスフィン類、β-ケトエステル類、シクロペンタジエン類等の中性分子型有機配位子;アセチルアセトネート、エチレンジアミンテトラアセテート等に代表される陰イオン型有機配位子が挙げられ、これらの1種又は2種以上を使用できる。
【0021】
上記一般式(1)中、点線は、結合(直接結合)が形成されていてもよいことを表す。
結合が形成されている場合、通常、その両端はともに炭素原子である。結合の一端がAr、Ar、Ar、Arのいずれかである場合、通常、Ar、Ar、Ar、Arのオルト位の炭素原子(一般式(1)において、Ar、Ar、Ar、Arにおける、Ar、Ar、Ar、Arのそれぞれが結合しているベンゼン環に結合している原子に隣接する炭素原子)である。
上記点線は、結合が形成されていないものであることが好ましい。
【0022】
上記一般式(1)中、Xr-は、カウンターアニオンを表し、rはその価数を表す。
r-は、カウンターアニオンとして一般的な無機塩を用いることができ、例えばF、Cl、ClO 、Br、I、 AlCl 、NO 、NO 、BF 、BPh 、PF 、AsF 、SbF 、NbF 、TaF 、HF 、p-CHPhSO 、CHCO 、CFCO 、CHSO 、CFSO 、(CFSO、CCO 、CSO 、(CFSO、(CSO、(CFSO)(CFCO)N、(CN)等が挙げられ、これらの1種又は2種以上を使用できる。
rは、特に限定されないが、1であることが好ましい。
【0023】
上記一般式(1)中、m、n、p、q、rは、金属複合体の価数(金属複合体全体の価数)が0となる組合せであればよい。
上記一般式(1)中のnは、丸カッコ内の含窒素多環式化合物由来の構造の個数であり、1以上であるが、1~4の整数であることが好ましく、より好ましくは2~4の整数であり、更に好ましくは2又は3であり、特に好ましくは3である。
上記pは、カウンターアニオンの個数を表し、0~4の整数であることが好ましく、より好ましくは0~3の整数であり、更に好ましくは0~2の整数である。
上記qは、配位子の個数を表し、0~4の整数であることが好ましく、より好ましくは0~3の整数であり、更に好ましくは0~2の整数であり、特に好ましくは0である。
【0024】
本発明の金属複合体は、例えば、下記一般式(3)で表されるものであることが好ましい。
【0025】
【化2】
【0026】
上記一般式(3)中、Y~Yは、それぞれ、Ar~Arで表される芳香族環の環構造に複数個結合していてもよく、複数個の置換基が結合して更に環構造を形成していてもよい。複数個の置換基は、同じであってもよく、異なっていてもよい。すなわち、Arで表される芳香族環の環構造にYが複数個結合している場合に、複数個のYは、同じであってもよく、異なっていてもよい。ArにおけるY、ArにおけるY、ArにおけるYについても同様である。
上記Y~Yは、それぞれ独立して、水素原子、又は、置換基を表す。置換基としては、特に制限されないが、カルボキシル基、スルホン酸基、水酸基、これらのアニオン;アミノ基等が挙げられる。また、脱離能を有する置換基も好ましい。置換基が脱離能を有すると、例えばカップリング反応により容易に分子間で結合を形成しやすかったり、焼成時にも容易に分子間で結合を形成しやすくなる。脱離能を有する置換基としては、具体的には塩素、臭素、ヨウ素等のハロゲン基(ハロゲン原子)、トリフラート基(-OTf)、トシラート基(-OTs)等が挙げられる。
中でも、上記置換基としては、ハロゲン原子が好ましく、塩素原子、臭素原子がより好ましく、臭素原子が更に好ましい。
上記一般式(3)中、Ar~Ar、A、A、Z、Z、M、X、L、m、n、p、q、r、点線は、上記一般式(1)中におけるものと同様である。
【0027】
<含窒素多環式化合物>
本発明はまた、下記一般式(2)で表されることを特徴とする含窒素多環式化合物でもある。
【0028】
【化3】
(式中、A及びAは、それぞれ独立して、水素原子と結合した炭素原子、又は、窒素原子を表す。Ar~Arは、それぞれ独立して、置換基を有していてもよい芳香族環を表し、該芳香族環の環構造は、1つの環から構成される単環構造であってもよく、複数の環から構成される縮環構造であってもよい。Z及びZは、それぞれ独立して、水素原子、又は、置換基を表す。ただし、Ar~Arが、いずれも置換基を有しておらず、かつZ及びZが水素原子を表す場合を除く。点線は、結合が形成されていてもよいことを表す。ArとArは、直接結合していない。)
【0029】
上記一般式(2)中、Ar~Ar、A、A、Z、Z、点線は、上記一般式(1)におけるものと同様である。
なお、上記一般式(2)では、ArとArの間に点線が示されていないことから分かるように、ArとArとは直接結合していない。
【0030】
本発明の含窒素多環式化合物は、本発明の金属複合体を得るための好適な原料である。
【0031】
本発明の含窒素多環式化合物は、例えば、下記一般式(4)で表されるものであることが好ましい。
【0032】
【化4】
【0033】
上記一般式(4)中、Y~Y、Ar~Ar、A、A、Z、Z、点線は、上記一般式(3)中におけるものと同様である。
【0034】
<本発明の焼成体>
本発明は、本発明の金属複合体、又は、本発明の含窒素多環式化合物を焼成して得られる焼成体でもある。
本発明の焼成体は、分子内縮環が促進され、π拡張がなされたグラフェン様の構造を有するものであり、グラフェンナノリボンと比較しても表面積が大きく、その活性部位と酸素分子とが接触しやすいため、例えば酸素還元反応活性により優れると考えられる。
【0035】
<含窒素多環式化合物の製造方法>
本発明の含窒素多環式化合物は、一般的な合成手法を組み合わせて適宜得ることができる。
先ず、下記一般式(5)で表される化合物に、下記一般式(6)で表される化合物を反応させて、下記一般式(7)で表される化合物を得る。この反応は、例えば、低級アルコール等の有機溶媒中で、1,8-ジアザビシクロ[5.4.0]-7-ウンデセン(DBU)、KPO等の塩基存在下でおこなうことができる。
なお、下記一般式(5)で表される化合物は、フェナントロリンをカルボニル化反応させたり、置換基を付加したりする従来公知の方法で適宜得ることができる。
【0036】
【化5】
【0037】
次いで、下記一般式(7)で表される化合物に、下記一般式(8)で表される化合物を反応させて、下記一般式(2’)で表される含窒素多環式化合物を得る。この反応は、例えば、ジフェニルエーテル等の有機溶媒中でおこなうことができる。
【0038】
【化6】
【0039】
<金属複合体の製造方法>
本発明の金属複合体は、本発明の含窒素多環式化合物及び必要に応じてその他の配位性化合物に、金属元素を担持させて得ることができる。
例えば、下記一般式(2’)で表される含窒素多環式化合物に、金属塩化物等を反応させて、下記一般式(1)で表される金属複合体を得る。この反応は、例えば、低級アルコール等の有機溶媒中で、1,8-ジアザビシクロ[5.4.0]-7-ウンデセン(DBU)、KPO等の塩基存在下でおこなうことができる。
【0040】
【化7】
【0041】
<焼成体の製造方法>
本発明は、本発明の金属複合体、又は、本発明の含窒素多環式化合物を、600℃を超える温度で焼成する工程を含むことを特徴とする焼成体の製造方法でもある。
上記焼成温度は、610℃以上であることが好ましく、620℃以上であることがより好ましく、640℃以上であることが更に好ましく、650℃以上であることが特に好ましい。
【0042】
上記焼成温度は、その上限は特に限定されないが、例えば2000℃以下であることが好ましく、1500℃以下であることがより好ましく、1200℃以下であることが更に好ましく、1100℃以下であることが一層好ましく、850℃以下であることが特に好ましい。
【0043】
上記焼成の時間は、例えば10分~24時間が好ましく、30分~18時間がより好ましく、2~12時間が更に好ましい。
焼成は、例えば空気中、又は、窒素、ヘリウム、アルゴン等の不活性ガス雰囲気中で行うことができる。また、焼成における圧力条件は特に限定されず、加圧条件下、常圧条件下、減圧条件下で行うことができる。
なお、焼成前に、焼成温度以下の温度で適宜予備焼成を行ってもよい。焼成後は、酸洗や水洗、乾燥等を適宜行うことができる。
【0044】
なお、本発明の焼成体の製造方法は、本発明の含窒素多環式化合物等の配位性化合物に金属元素を担持させて本発明の金属複合体を得た後、600℃を超える温度で焼成をおこなうことが好ましい。すなわち、本発明の焼成体の製造方法は、本発明の金属複合体を、600℃を超える温度で焼成する工程を含むことが好ましい。
これにより、sp結合で結合した炭素原子が平面上に並んだ2次元的な平面状構造を有する焼成体をより好適に得ることができる。
本発明の金属複合体を焼成して本発明の焼成体を得る場合の反応式を以下に示す。なお、下記反応式では、金属複合体では金属Mが6配位であったものが、反応後の焼成体では金属Mが4配位となっている。本発明の焼成体は、金属Mが活性部位となり、酸素から水を生成する反応を触媒すると考えられる。
【0045】
【化8】
【0046】
本発明の焼成体の製造方法において、上記焼成工程は、本発明の金属複合体、又は、本発明の含窒素多環式化合物を、担体に担持させておこなうことが好ましい。
上記担体としては、酸化マグネシウム等の金属酸化物、炭素等が挙げられ、中でも酸化マグネシウムが好ましい。なお、担体として酸化マグネシウム等の金属酸化物を用いる場合、通常、焼成後に酸処理等をおこなって担体を除去する。
【0047】
<本発明の酸素還元触媒、酸素発生触媒、又は、水素発生触媒>
本発明は、本発明の金属複合体、本発明の含窒素多環式化合物、又は、本発明の焼成体を含んで構成される酸素還元触媒、酸素発生触媒、又は、水素発生触媒でもある。
【0048】
本発明の金属複合体、本発明の含窒素多環式化合物、又は、本発明の焼成体は、酸素還元反応活性に優れることから、酸素還元触媒として好適に使用できる。また、水(電解液)を原料とする電気分解において、酸素発生触媒、又は、水素発生触媒として好適に使用できるものである。なお、このような本発明の酸素還元触媒、酸素発生触媒、又は、水素発生触媒は、白金等の従来の触媒と比べて安価となり得る。
【0049】
本発明の酸素還元触媒、酸素発生触媒、又は、水素発生触媒は、本発明の金属複合体、含窒素多環式化合物、又は、焼成体以外のその他の成分を含んでいてもよい。その他の成分の含有割合は、本発明の酸素還元触媒、酸素発生触媒、又は、水素発生触媒100質量%中、30質量%以下が好ましく、10質量%以下がより好ましく、1質量%以下が更に好ましい。また、その他の成分を実質的に含有しないことが特に好ましい。
【実施例
【0050】
以下に実施例を掲げて本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。なお、本明細書中、p-BrをpBrと表記する場合がある。
【0051】
下記実施例においては、次のようにして分析し、評価を行った。
<元素分析法>
vario EL cube CHNS(elementer社製)を用いてCHNの質量濃度を測定した。
【0052】
<質量分析法>
Applied Biosystems Mariner API-TOF Workstation and Bruker microTOF II-focusを用いて分子量を分析した。
【0053】
H-NMR>
Bruker DPX-400 NMR spectrometer (400MHz)(Bruker社製)を用いてH-NMRスペクトルを測定した。
【0054】
13C-NMR>
Bruker DPX-400 NMR spectrometer (400MHz)(Bruker社製)を用いて13C-NMRスペクトルを測定した。
【0055】
<ラマン分析>
NRS-3100(JASCO 日本分光社製)を用いて励起レーザー波長を532nmとしてラマンスペクトルを測定した。測定幅を978.7168から1968.9168cm-1、Nポイント数を9903として測定を行った。
【0056】
<XRD分析>
SmartLab(リガク社製)を用いて、Cu Kα線源を使用しXRDスペクトルを測定した。測定条件は、連続測定、開始10度、終了70度、ステップ0.02度、計数時間2度/分、管電圧40kV、管電流30mAとした。
【0057】
<合成例1~8>
前駆体として、以下の含窒素多環式化合物を合成し、更にその金属複合体を合成した。
【0058】
【化9-1】
【0059】
【化9-2】
【0060】
なお、上述した8種の含窒素多環式化合物(本明細書中、配位子ともいう)のうち、TDAT以外は、本発明の含窒素多環式化合物である。また、後述する、当該8種の含窒素多環式化合物の金属複合体及びその焼成体は、いずれも本発明の金属複合体及び本発明の焼成体である。
本明細書中、含窒素多環式化合物を配位子ともいう。また、含窒素多環式化合物又は金属複合体を焼成体の前駆体という意味で前駆体ともいう。
【0061】
(合成例1:含窒素多環式化合物TDAT及びその金属複合体[Fe(TDAT)]Clの合成)
・4b-ヒドロキシ-5,7-ジフェニル-4b,5-ジヒドロ-6H-シクロペンタ[f][1,10]フェナントロリン-6-オンの合成
【化10】
1,10-フェナントロリン-5,6-ジオン(4.0g,22mmol)と1,3-ジフェニルプロパン-2-オン(4.0g,22mmol)をエタノール(80mL)中で混合し、窒素雰囲気下でKPO(2.3g,11mmol)を加え室温で3時間攪拌した。析出した沈殿物をろ過により回収し、エタノールと超純水で洗浄後、乾燥することで4b-ヒドロキシ-5,7-ジフェニル-4b,5-ジヒドロ-6H-シクロペンタ[f][1,10]フェナントロリン-6-オンを白色固体として得た。図1H-NMRスペクトルを示し、図213C-NMRスペクトルを示す。
収率43.4%;H-NMR(400MHz,CDCl):8.82(d,J =1.2Hz,1H),8.80(d,J=1.2Hz,1H),8.07(d,J=1.2Hz,1H),8.05(d,J=1.2Hz,1H),7.63(m,4H),7.43(m,6H),8.07(dd,J=4.4,8.0Hz,1H),4.52(s,1H),2.44(s,1H);13C-NMR(100MHz,CDCl):202.82,158.88,152.81,151.15,150.45,140.52,136.71,136.62,134.99,134.05,132.04,130.02,129.31,129.23,129.15,129.09,128.48,125.39,124.82,123.82,75.01,61.08;ESI-TOF MS(positive mode)m/z calcd.for C2718 [M+H] 403.14,found 403.14
【0062】
・5,6,7,8-テトラフェニルベンゾ[f][1,10]フェナントロリン(TDAT)の合成
【化11】
5,6,7,8-テトラフェニルベンゾ[f][1,10]フェナントロリン(TDAT)は既報(Nature Nanotechnol.2014,9,896-900)を参考に合成した。以下に具体的な合成項および化合物同定の結果を示す。
4b-ヒドロキシ-5,7-ジフェニル-4b,5-ジヒドロ-6H-シクロペンタ[f][1,10]フェナントロリン-6-オン(4.0g,10.4mmol)と1,2-ジフェニルアセチレン(2.4g,13.5mmol)をジフェニルエーテル(40mL)中で混合した。混合液を凍結脱気した後、アルゴン気流下、170℃で24時間攪拌した。室温に戻したのち、溶媒を減圧留去し、残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(メタノール/クロロホルム=1/100)によって精製した。得られた粗生成物を酢酸エチルに溶解し、ヘキサンで再沈殿することで5,6,7,8-テトラフェニルベンゾ[f][1,10]フェナントロリン(TDAT)を白色固体として得た。図3H-NMRスペクトルを示す。
収率24.6%;H-NMR(400MHz,CDCl):8.90(dd,J=1.6,4.4Hz,2H),7.81(dd,J=1.2,4.4Hz,2H),7.11(m,6H),7.03(m,6H),6.89(m,6H),6.70(m,4H);ESI-TOF MS(positive mode)m/z calcd.for C4026 [M+H] 535.22,found 535.22
【0063】
次いで、下記反応式により、金属複合体[Fe(TDAT)]Clを合成した。
【0064】
【化12】
【0065】
窒素雰囲気下、5,6,7,8-テトラフェニルベンゾ[f][1,10]フェナントロリン(TDAT)(80.3mg,0.15mmol)のクロロホルム溶解液(50mL)と塩化鉄(II)四水和物(9.8mg,0.05mmol)のメタノール溶解液(10mL)を混合し3時間還流した。室温に戻した後、溶媒を減圧留去し、Fe(TDAT)]Cl(赤色固体)を得た。
【0066】
(合成例2:含窒素多環式化合物p-BrTDAT及びその金属複合体[Fe(p-BrTDAT)]Clの合成)
・5,7-ビス(4-ブロモフェニル)-6H-シクロペンタ[f][1,10]フェナントロリン-6-オンの合成
【化13】
1,10-フェナントロリン-5,6-ジオン(4.0g,22mmol)と1,3-ビス(4-ブロモフェニル)プロパン-2-オン(8.1g,22mmol)をエタノール(80mL)中で混合し、窒素雰囲気下、1,8-ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデカ-7-エン(3.39g,22mmol)を加え、室温で3時間攪拌した。析出した沈殿物をろ過により回収し、エタノールで洗浄することで、5,7-ビス(4-ブロモフェニル)-6H-シクロペンタ[f][1,10]フェナントロリン-6-オンを緑色固体として得た。図4-1、図4-2にH-NMRスペクトルを示す。
収率50.6%;H-NMR(400MHz,CDCl):8.72(dd,J=1.2,4.4Hz,1H),7.82(dd,J=1.2,8.0Hz,2H),7.60(d,J=8.0Hz,4H),7.25(d,6H),6.89(m,J=8.0Hz,4H),7.06(d,J=4.8,8.4Hz,2H);ESI-TOF MS(positive mode)m/z calcd.for C2714BrO [M+H] 543.24,found 543.24
【0067】
・5,8-ビス(4-ブロモフェニル)-6,7-ジフェニルベンゾ[f][1,10]フェナントロリン(pBrTDAT)の合成
【化14】
5,8-ビス(4-ブロモフェニル)-6,7-ジフェニルベンゾ[f][1,10]フェナントロリン(pBrTDAT)(pBrTDAT)は既報(Nature Nanotechnol.2014,9,896-900)を参考に合成した。以下に具体的な合成項および化合物同定の結果を示す。
5,7-ビス(4-ブロモフェニル)-6H-シクロペンタ[f][1,10]フェナントロリン-6-オン(5.6g,10.4mmol)と1,2-ジフェニルアセチレン(2.4g,13.5mmol)をジフェニルエーテル(40mL)中で混合した。混合液を凍結脱気した後、アルゴン気流下、170℃で24時間攪拌した。室温に戻したのち、溶媒を減圧留去し、残差をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(メタノール/クロロホルム=1/100)によって精製した。得られた粗生成物を酢酸エチルに溶解し、ヘキサンで再沈殿することで5,8-ビス(4-ブロモフェニル)-6,7-ジフェニルベンゾ[f][1,10]フェナントロリン(pBrTDAT)を白色固体として得た。図5H-NMRスペクトルを示し、図613C-NMRスペクトルを示す。
収率34.5%;H-NMR(400MHz,CDCl):8.94(dd,J=1.6,4.4Hz,2H),7.78(dd,J=1.6,4.4Hz,2H),7.27(d,2H),7.26(d,2H),6.89(dd,J=4.4,8.4Hz,2H),6.92(m,10H),6.37(dd,J=1.6,8.0Hz,2H);13C-NMR(100MHz,CDCl):148.77,146.78,141.66,140.83,139.36,137.11,136.73,133.40,131.57,131.19,129.37,127.50,126.90,125.81,121.49,121.07;ESI-TOF MS(positive mode)m/z calcd.for C4024Br [M+H] 691.04,found 691.04
【0068】
次いで、下記反応式により、金属複合体[Fe(p-BrTDAT)]Clを合成した。
【0069】
【化15】
【0070】
窒素雰囲気下、5,8-ビス(4-ブロモフェニル)-6,7-ジフェニルベンゾ[f][1,10]フェナントロリン(pBrTDAT)(103mg,0.15mmol)のクロロホルム溶解液(50mL)と塩化鉄(II)四水和物(9.8mg,0.05mmol)のメタノール溶解液(10mL)を混合し3時間還流した。室温に戻した後、溶媒を減圧留去し、[Fe(p-BrTDAT)]Clを赤色固体として得た。
【0071】
また下記反応式により、金属複合体[Co(p-BrTDAT)]Clを合成した。
【0072】
【化16】
【0073】
窒素雰囲気下、5,8-ビス(4-ブロモフェニル)-6,7-ジフェニルベンゾ[f][1,10]フェナントロリン(pBrTDAT)(103mg,0.15mmol)のクロロホルム溶解液(50mL)と塩化コバルト(II)六水和物(11.9mg,0.05mmol)のメタノール溶解液(10mL)を混合し3時間還流した。室温に戻した後、溶媒を減圧留去し、[Fe(p-BrTDAT)]Clを得た。
【0074】
(合成例3:含窒素多環式化合物p-BrTDATC及びその金属複合体[Fe(p-BrTDATC)]の合成)
・メチル5,7-ビス(4-ブロモフェニル)-6-オキソ-6H-シクロペンタ[f][1,10]フェナントロリン-2-カルボキシレートの合成
【化17】
メチル5,6-ジオキソ-5,6-ジヒドロ-1,10-フェナントロリン-2-カルボキシレート(5.9g,22mmol)と1,3-ビス(4-ブロモフェニル)プロパン-2-オン(8.1g,22mmol)をエタノール(80mL)中で混合し、窒素雰囲気下、1,8-ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデカ-7-エン(3.39g,22mmol)を加え、室温で3時間攪拌した。析出した沈殿物をろ過により回収し、エタノールで洗浄することで、メチル5,7-ビス(4-ブロモフェニル)-6-オキソ-6H-シクロペンタ[f][1,10]フェナントロリン-2-カルボキシレートを灰色固体として得た。図7H-NMRスペクトルを示す。
収率21.4%;H-NMR(400MHz,CDCl):9.18(dd,J=2.0,4.8Hz,1H),8.65(d,J=8.0Hz,1H),8.53(dd,J=1.6,8.0Hz,1H),8.35(d,J=8.4Hz,1H),7.62(dd,J=4.8,8.0Hz,1H),7.44(d,J=8.4Hz,4H),7.00(d,J=8.4Hz,4H),4.10(s,3H);ESI-TOF MS(positive mode)m/z calcd.for C2916Br [M+H] 598.96,found 598.96
【0075】
・メチル5,8-ビス(4-ブロモフェニル)-6,7-ジフェニルベンゾ[f][1,10]フェナントロリン-2-カルボキシレートの合成
【化18】
メチル5,8-ビス(4-ブロモフェニル)-6,7-ジフェニルベンゾ[f][1,10]フェナントロリン-2-カルボキシレートは既報(Nature Nanotechnol.2014,9,896-900)を参考に合成した。以下に具体的な合成項および化合物同定の結果を示す。
メチル5,7-ビス(4-ブロモフェニル)-6-オキソ-6H-シクロペンタ[f][1,10]フェナントロリン-2-カルボキシレート(6.2g,10.4mmol)と1,2-ジフェニルアセチレン(2.4g,13.5mmol)をジフェニルエーテル(40mL)中で混合した。混合液を凍結脱気した後、アルゴン気流下、170℃で24時間攪拌した。室温に戻したのち、溶媒を減圧留去し、残差をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(メタノール/クロロホルム=1/100)によって精製した。得られた粗生成物を酢酸エチルに溶解し、ヘキサンで再沈殿することでメチル5,8-ビス(4-ブロモフェニル)-6,7-ジフェニルベンゾ[f][1,10]フェナントロリン-2-カルボキシレートを白色固体として得た。図8H-NMRスペクトルを示す。
収率6.3%;H-NMR(400MHz,CDCl):8.97(d,J=3.6Hz,1H),7.94(d,J=8.8Hz,1H),7.84(m,2H),7.30(m,4H),7.18(dd,J=4.4,8.4Hz,1H),6.99(m,10H),6.73(dd,J=1.6,8.0Hz,4H),4.03(s,3H);ESI-TOF MS(positive mode)m/z calcd.for C4226Br [M+H] 745.05,found 745.05
【0076】
・5,8-ビス(4-ブロモフェニル)-6,7-ジフェニルベンゾ[f][1,10]フェナントロリン-2-カルボン酸(pBrTDATC)の合成
【化19】
メチル5,8-ビス(4-ブロモフェニル)-6,7-ジフェニルベンゾ[f][1,10]フェナントロリン-2-カルボキシレート(130mg,0.17mmol)をTHF(10mL)に溶解し、水酸化ナトリウム(40mg,1.0mmol)のメタノール溶液(5mL)を加え、室温で終夜攪拌した。析出した沈殿物をろ過により回収し、THFで洗浄すること白色固体を得た。得られた白色固体を超純水(10mL)に溶解し、酢酸(1mL)を加え、析出した固体をろ過により回収することで5,8-ビス(4-ブロモフェニル)-6,7-ジフェニルベンゾ[f][1,10]フェナントロリン-2-カルボン酸(pBrTDATC)を白色固体として得た。図9H-NMRスペクトルを示す。
収率95.5%;H-NMR(400MHz,CDCl):9.11(s,1H),8.40(d,J=6.8Hz,1H),8.11(d,J=8.8Hz,2H),8.01(d,J=8.8Hz,2H),7.66(s,1H),7.37(m,9H),6.73(m,4H);ESI-TOF MS(positive mode)m/z calcd.for C4124Br [M+H] 735.03,found 735.03
【0077】
次いで、下記反応式により、金属複合体[Fe(p-BrTDATC)]を合成した。
【0078】
【化20】
【0079】
窒素雰囲気下5,8-ビス(4-ブロモフェニル)-6,7-ジフェニルベンゾ[f][1,10]フェナントロリン-2-カルボン酸(pBrTDATC)(73.6mg,0.10mmol)のクロロホルム溶解液(50mL)と塩化鉄(II)四水和物(9.8mg,0.05mmol)のメタノール溶解液(10mL)およびトリエチルアミン(45.5mg,0.45mmol)を混合し3時間還流した。室温に戻した後、溶媒を減圧留去し、Fe(p-BrTDATC)を青色固体として得た。
【0080】
(合成例4:含窒素多環式化合物p-BrTDATPy及びその金属複合体[Fe(p-BrTDATPy)]Clの合成)
・5,7-ビス(4-ブロモフェニル)-2-(ピリジン-2-イル)-6H-シクロペンタ[f][1,10]フェナントロリン-6-オンの合成
【化21】
2-(ピリジン-2-イル)-1,10-フェナントロリン-5,6-ジオン(6.3g,22mmol)と1,3-ビス(4-ブロモフェニル)プロパン-2-オン(8.1g,22mmol)をエタノール(80mL)中で混合し、窒素雰囲気下、1,8-ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデカ-7-エン(3.39g,22mmol)を加え、室温で3時間攪拌した。析出した沈殿物をろ過により回収し、エタノールで洗浄することで、5,7-ビス(4-ブロモフェニル)-2-(ピリジン-2-イル)-6H-シクロペンタ[f][1,10]フェナントロリン-6-オンを灰色固体として得た。図10H-NMRスペクトルを示す。
収率25.9%;H-NMR(400MHz,CDCl):8.75(d,J=8.0Hz,1H),8.62(d,J=7.2Hz,2H),8.23(dd,J=8.0Hz,1H),7.87(d,J=7.6Hz,1H),7.75(t,J=7.6Hz,1H),7.68(d,J=7.6Hz,1H),7.64(d,J=8.4Hz,2H),7.57(d,J=8.4Hz,2H),7.42(d,J=8.4Hz,2H),7.32(m,4H);ESI-TOF MS(positive mode)m/z calcd.for C3217BrO [M+H] 620.33,found 620.33
【0081】
・5,8-ビス(4-ブロモフェニル)-6,7-ジフェニル-2-(ピリジン-2-イル)ベンゾ[f][1,10]フェナントロリン(pBrTDATPy)の合成
【化22】
5,8-ビス(4-ブロモフェニル)-6,7-ジフェニル-2-(ピリジン-2-イル)ベンゾ[f][1,10]フェナントロリン(pBrTDATPy)は既報(Nature Nanotechnol.2014,9,896-900)を参考に合成した。以下に具体的な合成項および化合物同定の結果を示す。
5,7-ビス(4-ブロモフェニル)-2-(ピリジン-2-イル)-6H-シクロペンタ[f][1,10]フェナントロリン-6-オン(6.4g,10.4mmol)と1,2-ジフェニルアセチレン(2.4g,13.5mmol)をジフェニルエーテル(40mL)中で混合した。混合液を凍結脱気した後、アルゴン気流下、170℃で24時間攪拌した。室温に戻したのち、溶媒を減圧留去し、残差をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(メタノール/クロロホルム=1/100)によって精製した。得られた粗生成物を酢酸エチルに溶解し、ヘキサンで再沈殿することで5,8-ビス(4-ブロモフェニル)-6,7-ジフェニル-2-(ピリジン-2-イル)ベンゾ[f][1,10]フェナントロリン(pBrTDATPy)を白色固体として得た。図11H-NMRスペクトルを示し、図1213C-NMRスペクトルを示す。
収率22.9%;H-NMR(400MHz,CDCl):8.97(dd,J=1.6,4.4Hz,1H),8.83(d,J=8.0Hz,1H),8.71(dd,J=1.6,4.4Hz,1H),8.24(d,J=8.8Hz,1H),7.96(m,2H),7.89(d,J=8.8Hz,1H),7.40(td,J=1.6,6.0Hz,1H),7.01(m,10H),6.78(m,4H);13C-NMR(100MHz,CDCl):156.34,155.11,149.64,149.34,147.81,147.24,142.00,141.97,141.97,141.36,141.29,139.87,139.86,137.88,137.58,137.45,137.37,136.99,133.87,132.00,131.95,131.65,130.06,028.81,128.14,127.97,127.32,126.21,124.46,122.10,121.73,121.52,121.42,119.09;ESI-TOF MS(positive mode)m/z calcd.for C4527Br [M+H] 768.07,found 768.07
【0082】
次いで、下記反応式により、金属複合体[Fe(p-BrTDATPy)]Clを合成した。
【0083】
【化23】
【0084】
窒素雰囲気下5,8-ビス(4-ブロモフェニル)-6,7-ジフェニル-2-(ピリジン-2-イル)ベンゾ[f][1,10]フェナントロリン(pBrTDATPy)(76.9mg,0.10mmol)のクロロホルム溶解液(50mL)と塩化鉄(II)四水和物(9.8mg,0.05mmol)のメタノール溶解液(10mL)を混合し3時間還流した。室温に戻した後、溶媒を減圧留去し、Fe(p-BrTDATC)を紫色固体として得た。
【0085】
(合成例5:5,6,7,8-テトラキス(4-ブロモフェニル)ベンゾ[f][1,10]フェナントロリンの合成)
【化24】
5,6,7,8-テトラキス(4-ブロモフェニル)ベンゾ[f][1,10]フェナントロリンは既報(Nature Nanotechnol.2014,9,896-900)を参考に合成した。以下に具体的な合成項および化合物同定の結果を示す。
5,7-ビス(4-ブロモフェニル)-6H-シクロペンタ[f][1,10]フェナントロリン-6-オン(1.95g,3.59mmol)と1,2-ビス(4-ブロモフェニル)アセチレン(1.81g,5.38mmol)をジフェニルエーテル(20mL)中で混合した。混合液を凍結脱気した後、アルゴン気流下、170℃で24時間攪拌した。室温に戻したのち、溶媒を減圧留去し、残差をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(メタノール/クロロホルム=1/100)によって精製した。得られた粗生成物を酢酸エチルに溶解し、ヘキサンで再沈殿することで5,6,7,8-テトラキス(4-ブロモフェニル)ベンゾ[f][1,10]フェナントロリンを白色固体として得た。図13H-NMRスペクトルを示す。
収率4.5%;H-NMR(400MHz,CDCl):8.94(dd,J=1.6,4.4Hz,2H),7.51(dd,J=1.6,8.4Hz,2H),7.31(d,J=8.4Hz,4H),7.11(m,6H),6.87(d,J=8.4Hz,2H),6.54(d,J=8.8Hz,4H);ESI-TOF MS(positive mode)m/z calcd.for C4022Br [M+H] 859.86,found 704.92
【0086】
(合成例6:5,8-ビス(4-ブロモフェニル)-6,7-ジ(ピリミジン-5-イル)ベンゾ[f][1,10]フェナントロリンの合成)
【化25】
5,8-ビス(4-ブロモフェニル)-6,7-ジ(ピリミジン-5-イル)ベンゾ[f][1,10]フェナントロリンは既報(Nature Nanotechnol.2014,9,896-900)を参考に合成した。以下に具体的な合成項および化合物同定の結果を示す。
5,7-ビス(4-ブロモフェニル)-6H-シクロペンタ[f][1,10]フェナントロリン-6-オンと1,2-ジ(ピリミジン-5-イル)アセチレン(584mg,3.20mmol)をジフェニルエーテル(40mL)中で混合した。混合液を凍結脱気した後、アルゴン気流下、170℃で24時間攪拌した。室温に戻したのち、溶媒を減圧留去し、残差をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(メタノール/クロロホルム=1/100)によって精製した。得られた粗生成物を酢酸エチルに溶解し、ヘキサンで再沈殿することで55,8-ビス(4-ブロモフェニル)-6,7-ジ(ピリミジン-5-イル)ベンゾ[f][1,10]フェナントロリンを黄白色固体として得た。図14H-NMRスペクトルを示す。
収率40.5%;H-NMR(400MHz,CDCl):9.01(dd,J=1.6,4.0Hz,2H),8.91(s,2H),8.11(s,4H),7.81(dd,J=1.6,8.8Hz,2H),7.40(d,J=8.4Hz,4H),7.17(q,J=4.4Hz,2H),6.91(d,J=8.4Hz,4H);ESI-TOF MS(positive mode)m/z calcd.for C4022Br [M+H] 868.84,found 868.84
【0087】
(合成例7:5,8-ビス(4-ブロモフェニル)-6,7-ジ(チオフェン-2-イル)ベンゾ[f][1,10]フェナントロリンの合成)
【化26】
5,8-ビス(4-ブロモフェニル)-6,7-ジ(チオフェン-2-イル)ベンゾ[f][1,10]フェナントロリンは既報(Nature Nanotechnol.2014,9,896-900)を参考に合成した。以下に具体的な合成項および化合物同定の結果を示す。
5,7-ビス(4-ブロモフェニル)-6H-シクロペンタ[f][1,10]フェナントロリン-6-オン(1.16g,2.14mmol)と1,2-ジ(チオフェン-2-イル)アセチレン(606mg,3.20mmol)をジフェニルエーテル(15mL)中で混合した。混合液を凍結脱気した後、アルゴン気流下、170℃で24時間攪拌した。室温に戻したのち、溶媒を減圧留去し、残差をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(メタノール/クロロホルム=1/100)によって精製した。得られた粗生成物を酢酸エチルに溶解し、ヘキサンで再沈殿することで5,8-ビス(4-ブロモフェニル)-6,7-ジ(チオフェン-2-イル)ベンゾ[f][1,10]フェナントロリンを黄白色固体として得た。図15H-NMRスペクトルを示す。
収率45.6%;H-NMR(400MHz,CDCl):8.94(dd,J=1.6,4.4Hz,2H),7.81(dd,J=1.6,8.4Hz,2H),7.35(dd,J=1.6,6.4Hz,4H),7.13(q,J=1.6,6.4Hz,4H),7.02(dd,J=1.6,6.8Hz,4H),6.70(dd,J=3.6,5.2Hz,2H),6.39(dd,J=1.2,3.6Hz,2H);ESI-TOF MS(positive mode)m/z calcd.for C3620Br [M+H] 702.95,found 702.95
【0088】
(合成例8:5,8-ビス(4-ブロモフェニル)-6,7-ジ(チオフェン-3-イル)ベンゾ[f][1,10]フェナントロリンの合成)
【化27】
5,8-ビス(4-ブロモフェニル)-6,7-ジ(チオフェン-3-イル)ベンゾ[f][1,10]フェナントロリンは既報(Nature Nanotechnol.2014,9,896-900)を参考に合成した。以下に具体的な合成項および化合物同定の結果を示す。
5,7-ビス(4-ブロモフェニル)-6H-シクロペンタ[f][1,10]フェナントロリン-6-オン(1.16g,2.14mmol)と1,2-ジ(チオフェン-3-イル)アセチレン(606mg,3.20mmol)をジフェニルエーテル(15mL)中で混合した。混合液を凍結脱気した後、アルゴン気流下、170℃で24時間攪拌した。室温に戻したのち、溶媒を減圧留去し、残差をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(メタノール/クロロホルム=1/100)によって精製した。得られた粗生成物を酢酸エチルに溶解し、ヘキサンで再沈殿することで5,8-ビス(4-ブロモフェニル)-6,7-ジ(チオフェン-3-イル)ベンゾ[f][1,10]フェナントロリンを白色固体として得た。図16H-NMRスペクトルを示す。
収率52.9%;H-NMR(400MHz,CDCl):8.94(dd,J=1.6,4.4Hz,2H),7.78(dd,J=1.6,8.4Hz,2H),7.33(d,J=8.4Hz,4H),7.11(q,J=4.4Hz,2H),6.95(m,6H),6.46(dd,J=1.2,2.4Hz,2H),6.38(d,J=4.8Hz,2H);ESI-TOF MS(positive mode)m/z calcd.for C3620Br [M+H] 702.95,found 702.95
【0089】
(カウンターアニオンの交換)
【化28】
[Fe(pBrTDAT)]Cl(0.1mmol)をメタノール(10mL)に溶解し、飽和ナトリウム塩水溶液を(1mL)を加えて室温で1時間攪拌した。生じた固体をろ過により回収し、水で洗浄することでカウンターアニオンを交換した。ナトリウム塩にはNaPF,NaBPh,NaClOを使用した。得られた錯体をメタノール、またはジクロロメタンに溶解し、ジエチルエーテルを貧溶媒として用いた蒸気拡散法により錯体の結晶を得た。
【0090】
(配位子の熱重量変化)
TDAT、pBrTDAT、pBrTDATC、pBrTDATPyについて、ThermoPlusEVOII(株式会社リガク製)を用いて窒素気流下、昇温速度10℃/minの条件で熱重量測定を行った。
参照用のサンプルはAlを使用し、前駆体(2~3mg)は白金パンに乗せて熱重量測定を行った。
測定結果を図17に示す。
また[Fe(pBrTDAT)]Clについても同様に熱重量測定をおこなった。この測定結果を、TDAT、pBrTDATの測定結果とともに、図18に示す。
【0091】
TDATは400℃付近から熱分解(質量減少)が速やかに進行し、500℃付近で大部分の質量が消失し、800℃付近で完全に消失した。pBrTDATは400℃付近から質量減少が開始するが、ブロモ基2つ分の脱離に相当する質量減少が起こり、600℃以上でも80%以上の質量を保持していた。なお、後述するように、TG測定後に残ったサンプルをラマン分光法により測定した結果、グラファイト構造を有することを確認した。ブロモ基の脱離後、分子間、分子内の縮合(重合)が生じており、これにより熱安定性のあるグラファイト層が形成されたと考えられる。また、鉄錯体[Fe(pBrTDAT)]Clも、pBrTDATと同様に、400℃からブロモ基の脱離に由来する質量減少が起こり、その後緩やかに質量減少しながら大部分の質量を保持した。これより、熱耐久性を有し、焼成時にグラファイト構造を形成することができるpBrTDATが前駆体に適していることが分かった。
なお、図17及び図18におけるpBrTDAT、pBrTDATC、pBrTDATPy、[Fe(p-BrTDAT)]Clの熱重量測定を行った結果では、600℃を超えた箇所に僅かな変曲点が見られており、触媒活性点における構造変化が生じていると推測される。
【0092】
(Fe/N/C触媒の調製)
[カーボン担体]
図19は、本発明の焼成体(Fe/N/C触媒)の調製例を概略的に示す図である。
上記合成例で合成した各前駆体(0.05mmol)のCHCl溶液にカーボン担体としてVulcan XC-72R(100mg)を加え、10分間、超音波を用いて分散後、6時間還流した。溶媒を減圧留去することで触媒前駆体を得た。得られた触媒前駆体を焼成ボードの上に乗せ、0.2L/minの窒素気流下で焼成を行った。温度条件は室温から700℃までを昇温(2℃/min)、700℃を2時間保ち、計7時間50分焼成した。焼成後は直ちに電気炉の蓋を開けることで大気による急冷を行った。急冷後、焼成した触媒を5分間乳鉢で均一にすることでFe/N/C触媒を得た。以降ではカーボン担体を用いて得られた触媒(焼成体)をFe/リガンド名@VCと表記している。
【0093】
[MgO担体]
図20は、本発明の焼成体の調製例を概略的に示す図である。
酸化マグネシウム粒子を担体とする触媒は既報(J.Am.Chem.Soc.,2017,139,10790-10798)を参考に調製した。以下に具体的な調製工程を示す。
前駆体([Fe(pBrTDAT)]Cl)(0.10mmol)のCHCl溶液に担体として酸化マグネシウム粒子(549649-5G Magnesium oxide nanopowder,≦50nm particle size(BET)、Sigma-Aldrich 社製)(316mg)を加え、10分間、超音波を用いて分散後、6時間還流した。溶媒を減圧留去することで触媒前駆体を得た。得られた触媒前駆体を焼成ボードの上に乗せ、0.2L/minの窒素気流下で焼成を行った。温度条件は室温から設
定温度まで昇温(2℃/min)し、2時間温度を保った。設定温度は500,600,650,700,750,800,900,1000℃として、各温度条件で触媒調製を行った。焼成後は直ちに電気炉の蓋を開けることで大気による急冷を行った。得られた固体と1Mの硝酸(10mL)を混合、2時間攪拌した後、遠心分離により固体を回収し超純水により洗浄した。本酸洗浄の工程を3度繰り返し、担体である酸化マグネシウム粒子を留去することで、前駆体由来の成分のみから構成されるFe/N/C触媒を得た。以降ではMgO担体を用いて得られた触媒(焼成体)をFe/リガンド名@MgO_X℃(Xは焼成温度)と表記している。
【0094】
(Co/N/C触媒の調製)
前駆体を[Co(p-BrTDAT)]ClとしてMgO担体を用いた同様の手順に従って触媒を調製した。以降では得られた触媒をCo/p-BrTDAT@MgO_X℃(Xは焼成温度)と表記している。
【0095】
(Fe/N/C触媒の同定)
[XRD測定]
Rigaku,SmartLabを用いてX線源Cu-Kαの条件下で測定した。
Fe(pBrTDATC)を前駆体とした時、わずかに酸化鉄に帰属される回折パターンが観測された(θ=37,42度)。一方で[Fe(pBrTDAT)]Cl又は[Fe(pBrTDATPy)]Clを前駆体に用いた場合、鉄の凝集体や鉄酸化物の生成が抑制され、鉄が触媒中に高分散していることが確認された。
図21及び図22は、本発明の焼成体についてXRD測定を行った結果を示すグラフである。
【0096】
Fe/pBrTDAT@MgO_500℃,Fe/pBrTDAT@MgO_600℃,Fe/pBrTDAT@MgO_650℃,Fe/pBrTDAT@MgO_700℃,Fe/pBrTDAT@MgO_750℃,Fe/pBrTDAT@MgO_800℃,Fe/pBrTDAT@MgO_900℃,Fe/pBrTDAT@MgO_1000℃に対しても同様にXRD測定を実施した。
図23は、本発明の焼成体について焼成温度ごとにXRD測定を行った結果を示すグラフである。
【0097】
[ラマン測定]
Fe/pBrTDAT@MgO_500℃,Fe/pBrTDAT@MgO_600℃,Fe/pBrTDAT@MgO_650℃,Fe/pBrTDAT@MgO_700℃,Fe/pBrTDAT@MgO_750℃,Fe/pBrTDAT@MgO_800℃,Fe/pBrTDAT@MgO_900℃,Fe/pBrTDAT@MgO_1000℃に対してラマン測定を実施した。
図24は、本発明の焼成体について焼成温度ごとにラマン測定を行った結果を示すグラフである。本発明の焼成体がグラファイト構造を有することを確認した。
【0098】
[XPS測定]
SHIMADZU KRAROSAXIS-165x(株式会社島津製作所製)を用いて
X線源Mg-Kα、パスエネルギー40kVの条件下で行った。
図25図27及び下記表1は、本発明の焼成体(Fe/pBrTDAT@VC、Fe/pBrTDATC@VC、Fe/pBrTDATPy@VCのそれぞれ)についてXPS測定を行った結果を示すグラフである。
【0099】
【表1】
【0100】
Fe/pBrTDAT@MgO_500℃,Fe/pBrTDAT@MgO_600℃,Fe/pBrTDAT@MgO_650℃,Fe/pBrTDAT@MgO_700℃,Fe/pBrTDAT@MgO_750℃,Fe/pBrTDAT@MgO_800℃,Fe/pBrTDAT@MgO_900℃,Fe/pBrTDAT@MgO_1000℃に対しても同様にXPS測定を実施した。
図28図31及び下記表2は、これらの本発明の焼成体における焼成温度に対する窒素種の割合を示すグラフである。
【0101】
【表2】
【0102】
(ピリジン型窒素と鉄とのFe-N結合の確認)
図28及び図29は、上述したように、[Fe(pBrTDAT)]Clの焼成体について500~1000℃にわたる焼成温度ごとにX線光電子分光法(XPS)を行った結果を示す。
触媒層中に含まれる窒素の化学結合状態を調べるためにXPS測定を行った。得られたスペクトルを波形分離すると、ピリジニック窒素、鉄に配位した窒素、グラフィティック窒素、窒素酸化物の4種の化学種を含むことが分かった。焼成温度500~1000℃における各結合種のピークはそれぞれ図28及び図29に示した通りであり、500~1000℃における各焼成温度における結合種の割合は図30に記載の棒グラフの通りである。温度上昇に伴い、活性種と推定される鉄に配位した窒素(Fe-N結合の窒素)の割合が増加し、700℃で割合が最大となり、その後減少する傾向が明らかとなった。
図31も、焼成温度に対する窒素種の割合を示すグラフである。
ピリジン型窒素と鉄とのFe-N結合は触媒としての活性部位であると考えられるため、当該結合由来のピークが大きいと、触媒活性も高いと考えられる。
【0103】
500~1000℃にわたる焼成温度ごとの[Fe(p-BrTDAT)]Clの焼成体中の窒素の質量割合及びFe-N結合の窒素の質量割合を下記表3に示す。なお、参考として後述するEONSETも併せて示す。
【0104】
【表3】
【0105】
(ICP-AES,元素分析)
誘導結合プラズマ発光分光分析法(ICP-AES)及び元素分析を測定した結果を下記表4に示す。
【0106】
【表4】
【0107】
Fe/pBrTDAT@MgO_500℃,Fe/pBrTDAT@MgO_600℃,Fe/pBrTDAT@MgO_650℃,Fe/pBrTDAT@MgO_700℃,Fe/pBrTDAT@MgO_750℃,Fe/pBrTDAT@MgO_800℃,Fe/pBrTDAT@MgO_900℃,Fe/pBrTDAT@MgO_1000℃に対しても同様に誘導結合プラズマ発光分光分析法(ICP-AES)及び元素分析を実施した。結果を下記表5に示す。
【0108】
【表5】
【0109】
(Fe/N/C触媒の酸素還元活性評価)
[電極調製]
Fe/N/C触媒(2mg)を5wt%Nafion(登録商標)溶液(50μL)に分散した後、さらに氷浴した状態で15分間、超音波を用いて分散を行うことで触媒分散液を得た。ORR活性評価にはPINE INSTRUMENT AFMSRCE(東陽テクニカ社製)を用いて回転リングディスク電極法(Rotating Ring Disk Electrode,RRDE)を用いた。ディスク電極にはグラッシーカーボン(φ5.0mm)を使用し、白金リングホルダー(Pt純度99.99%、ID6.5 mm、OD7.5mm)に取り付けて測定した。ダイアモンド分散液及びアルミナ分散液で研磨したディスク電極上にカーボン触媒分散液(10μL)を慎重に滴下し、ガラス容器を被せて静置した。その際、Nafion(登録商標)溶液を入れた容器を、ガラス容器の中に共にいれ、溶媒の蒸発速度を抑えるようにした。
【0110】
[回転リングディスク電極法(Rotating Ring Disk Electrode,RRDE)]
作用極に調製した触媒担持電極、対極に白金メッシュ、参照電極に銀塩化銀電極(+0.199V vs NHE)を用いた。電解液は恒温槽を用いて25℃に保持した0.1M HClO(pH1.0)水溶液を用いた。測定は酸素を飽和させた電解液中、ディスク電極の電位を1,0~0.0V(vs RHE)の電位範囲で負から正方向に5mVs-1の速度で掃引し、その間リング電極の電位は1.2V(vs RHE)に保持した条件で行った。測定の際に生じる電気二重層の影響を補正するために、窒素を飽和させた電解液で同様の測定を行い、バックグラウンドとした。
触媒電流が0.05mA/cm流れた時の電位をオンセット電位と定義し、種々の触媒の酸素還元活性を評価した。Fe/TDAT@VC,Fe/pBrTDAT@VC,Fe/pBrTDATC@VC,Fe/pBrTDATPy@VC,Fe/2-ThiopBrTDAT@VC,Fe/3-Thiop-BrTDAT@VC,Fe/PyrpBrTDAT@VC,Fe/pBrTDAT@VCのオンセット電位はそれぞれ0.88,0.91,0.90,0.92,0.89,1.91,1.89,0.92V (vs RHE)であった。
【0111】
[酸素還元活性評価]
図32及び図33は、各焼成体についての酸素還元反応活性を示す。図32に示した各焼成体のEonsetは0.88V、0.91V、0.90V、0.92Vと高い値を示した。また、図33に示した各焼成体のEonsetは0.89V、0.91V、0.89V、0.92Vとやはり高い値を示した。このような焼成体は、酸素還元に必要な活性化エネルギーを充分に下げることができると考えられる。
なお、酸性条件下での酸素還元反応(ORR)は、下記化学式で表される。
4H+O+4e→2H
【0112】
Fe/pBrTDAT@MgO_500℃,Fe/pBrTDAT@MgO_600℃,Fe/pBrTDAT@MgO_650℃,Fe/pBrTDAT@MgO_700℃,Fe/pBrTDAT@MgO_750℃,Fe/pBrTDAT@MgO_800℃,Fe/pBrTDAT@MgO_900℃,Fe/pBrTDAT@MgO_1000℃に対しても同様に回転リングディスク電極法による活性評価を実施した。
【0113】
図34は、上述したpBrTDATを配位子とする鉄複合体の焼成体について500~1000℃にわたる焼成温度ごとに回転ディスク電極の電位に対する電流密度を測定した結果を示すグラフである。活性の指標は触媒電流の流れ始める電位である、オンセット電位EONSETで評価した。この値が酸素から水への還元の理論電位である1.23Vに近いほど、過電圧の小さい高活性な触媒であるといえる。オンセット電位EONSETは、電流が0.05mA流れた電位と定義した。焼成温度が600℃までのものは電流がほとんど流れず、650℃以上で焼成した触媒で電流が観測され、高い活性を示した。なお、650℃、700℃で調製した触媒が最も高い活性を示した。また、回転リングディスク電極法により還元電子数を算出した結果、650℃以上で調製した触媒の還元電子数はいずれも3.9から4.0であり、酸素から水への4電子還元が進行していることを確認した。
500~1000℃にわたる焼成温度ごとの[Fe(p-BrTDAT)]Clの焼成体中のEONSET、還元電子数nを下記表6に示す。
【0114】
【表6】
【0115】
(Co/N/C触媒の水素発生活性評価)
ORR活性評価と同様の手順で電極の調製を行った。
作用極に調製した触媒担持電極、対極に白金メッシュ、参照電極に銀塩化銀電極(+0.199V vs NHE)を用いた。電解液は恒温槽を用いて25℃に保持した0.1M HClO(pH1.0)水溶液を用いた。測定は窒素を飽和させた電解液中、ディスク電極の電位を0.05~-0.7V(vs RHE)の電位範囲で正から負方向に5mVs-1の速度で掃引した。測定結果を図35に示す。
触媒電流が5.0mA/cm流れた時の電位をオンセット電位と定義し、種々の触媒の酸素還元活性を評価した。Co/pBrTDAT@MgO_700℃のオンセット電位は-0.23V(vs RHE)であった。
【0116】
(結晶構造解析)
得られた化合物(TDAT、[Fe(TDAT)](ClO、[Fe(pBrTDAT)](ClO、[Fe(pBrTDATC)]、[Fe(pBrTDATPy)](ClO)の結晶構造解析結果を表7及び図36図40に示した。
【表7】
図1
図2
図3
図4-1】
図4-2】
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22
図23
図24
図25
図26
図27
図28
図29
図30
図31
図32
図33
図34
図35
図36
図37
図38
図39
図40