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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-05
(45)【発行日】2024-03-13
(54)【発明の名称】サンゴの産卵誘導方法及び装置
(51)【国際特許分類】
   A01K 61/00 20170101AFI20240306BHJP
【FI】
A01K61/00 301
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2020039287
(22)【出願日】2020-03-06
(65)【公開番号】P2020146037
(43)【公開日】2020-09-17
【審査請求日】2023-03-03
(31)【優先権主張番号】P 2019042100
(32)【優先日】2019-03-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】506086627
【氏名又は名称】沖電開発株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504145308
【氏名又は名称】国立大学法人 琉球大学
(73)【特許権者】
【識別番号】504237050
【氏名又は名称】独立行政法人国立高等専門学校機構
(74)【代理人】
【識別番号】100152180
【弁理士】
【氏名又は名称】大久保 秀人
(72)【発明者】
【氏名】山城 信三
(72)【発明者】
【氏名】竹村 明洋
(72)【発明者】
【氏名】磯村 尚子
【審査官】大澤 元成
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-323593(JP,A)
【文献】特開2019-013182(JP,A)
【文献】特開2009-044979(JP,A)
【文献】特開2017-212428(JP,A)
【文献】特開2019-062185(JP,A)
【文献】祥多オススメ!システムLED,生麦海水魚センター,2019年02月10日,p.1-8,インターネット<URL:https://namamugi-kaisuigyo.com/2019/02/10/%E6%A9%9F%E6%9D%90%E7%B4%B9%E4%BB%8B%EF%BC%88%E3%82%B7%E3%82%B9%E3%83%86%E3%83%A0led%EF%BC%89/>
【文献】ボルクスジャパン Grassy LeDio RX122 Sunset/サンセット,charm,2019年01月29日,p.1-7,インターネット<URL:https://www.shopping-charm.jp/product/2c2c2c2c-2c2c-2c2c-2c2c-313830333830>
【文献】ボルクスジャパン Grassy LeDio RX122 Coral/コーラル,charm,2017年10月28日,p.1-8,インターネット<URL:https://www.shopping-charm.jp/product/2c2c2c2c-2c2c-2c2c-2c2c-313830333737>
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01K 61/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
六放サンゴ亜綱イシサンゴ目ミドリイシ科ミドリイシ属のスギノキミドリイシの
産卵誘導方法において、
養殖用水槽に、表層海水を掛け流すとき
420nm、450nm、475nm付近にそれぞれピーク波長をもち、380nm~500nmの波長が380~800nmの波長帯の95%以上を含むことで強い青色を呈するCoral LED、
400nm、420nm、450nm、475nm付近にそれぞれピーク波長をもち、500nm~800nmの波長が380~800nmの波長帯の50%以上を含み、対色湿度と演色性がそれぞれ9000KとRa95であるFresh LED、
400nm、420nm、660nm付近にピーク波長をもち、500nm~800nmの波長が380~800nmの波長帯の70%以上を含み、相対色湿度と演色性がそれぞれ3000KとRa85であるSunset LED、
のいずれかのLED光を照射させる
ことを特徴とするサンゴの産卵誘導方法。
【請求項2】
六放サンゴ亜綱イシサンゴ目ミドリイシ科ミドリイシ属のコユビミドリイシの
産卵誘導方法において、
養殖用水槽に、表層海水を掛け流すとき
420nm、450nm、475nm付近にそれぞれピーク波長をもち、380nm~500nmの波長が380~800nmの波長帯の95%以上を含むことで強い青色を呈するCoral LED
のLED光を照射させる
ことを特徴とするサンゴの産卵誘導方法。
【請求項3】
六放サンゴ亜綱イシサンゴ目ミドリイシ科ミドリイシ属のスギノキミドリイシの
産卵誘導装置であって、
養殖用水槽に、表層海水を掛け流すとき
420nm、450nm、475nm付近にそれぞれピーク波長をもち、380nm~500nmの波長が380~800nmの波長帯の95%以上を含むことで強い青色を呈するCoral LED、
400nm、420nm、450nm、475nm付近にそれぞれピーク波長をもち、500nm~800nmの波長が380~800nmの波長帯の50%以上を含み、対色湿度と演色性がそれぞれ9000KとRa95であるFresh LED、
400nm、420nm、660nm付近にピーク波長をもち、500nm~800nmの波長が380~800nmの波長帯の70%以上を含み、相対色湿度と演色性がそれぞれ3000KとRa85であるSunset LEDのいずれか、
を照射するLED光を備えた
ことを特徴とするサンゴの産卵誘導装置。
【請求項4】
六放サンゴ亜綱イシサンゴ目ミドリイシ科ミドリイシ属のコユビミドリイシの
産卵誘導装置であって、
養殖用水槽に、表層海水を掛け流すとき
420nm、450nm、475nm付近にそれぞれピーク波長をもち、380nm~500nmの波長が380~800nmの波長帯の95%以上を含むことで強い青色を呈するCoral LED
を照射するLED光を備えた
ことを特徴とするサンゴの産卵誘導装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、サンゴの養殖に関する方法であって、特に、人工光の放射照度と水質が異なる海水を組み合わせて利用することによって、ミドリイシ属サンゴの成長を促進させる養殖方法である。
【背景技術】
【0002】
サンゴの生息は、海洋酸性化、海水温上昇、富栄養化、化学汚染などによって脅かされ、その生息環境は、地球温暖化の進行と人為活動の活発化によって、今後ますます劣悪化していくと考えられており、表層海水の水質の低下が、今あるサンゴ礁の生態系を悪化させていることも報告されている(環境省自然環境局2016年)。
そこで、サンゴを保全していくため、海中に人工物を設置したり、陸上に海水水槽を設置したりするなど、これまで様々な養殖方法が提案されている。
サンゴの成長には、様々な環境因子が関与し、例えば、比較的浅瀬に生息するサンゴは、光の波長が成長に影響することが知られているほか、水質の違いも影響することが知られている。
例えば、特許文献1には、サンゴに弱い赤色点滅光を照射することで、サンゴ骨格の成長を促進し、海水温度の上昇によるサンゴの白化を防止する方法が開示されている。
この発明によれば、サンゴの保護や増殖に有用であるほか、サンゴの保護や増殖を通して大気中の二酸化炭素を減少させることも期待できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2010-279304
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、サンゴを保全し、群体数を増やしていくためには、大規模な養殖施設が必要であるし、水質に敏感なサンゴを養殖するには、水質の安定した海水を用いて育てる方法を確立する必要がある。
そこで、本発明は、上記課題に照らし、人工光の放射照度と水質が異なる海水を組み合わせて利用することによって、ミドリイシ属サンゴの成長を促進させる養殖方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、
海水掛け流しの養殖用水槽中で、LED光を照射させることで、
サンゴ卵、サンゴプラヌラ幼生、稚サンゴ、サンゴ成体からなる群より選択される少なくとも1種を生育させる
ことを特徴とするサンゴの養殖方法である。
【0006】
掛け流しの海水は、表層海水または地下浸透海水を用いることができる。
【0007】
照射させるLED光は、Coral LED(420nm、450nm、475nm付近にそれぞれピーク波長をもち、380nm~500nmの波長が380~800nmの波長帯の95%以上を含むことで強い青色を呈する。)、Reef LED(400nm、420nm、450nm、475nm付近にそれぞれピーク波長をもち、380nm~500nmの波長が380~800nmの波長帯の80%以上を含むことで青色を呈する。)、Fresh LED(400nm、420nm、450nm、475nm付近にそれぞれピーク波長をもち、500nm~800nmの波長が380~800nmの波長帯の50%以上を含む。このLED抗原の光は対色湿度と演色性がそれぞれ9000KとRa95である。)、Sunset LED(400nm、420nm、660nm付近にピーク波長をもち、500nm~800nmの波長が380~800nmの波長帯の70%以上を含む。このLED抗原の光は相対色湿度と演色性がそれぞれ3000KとRa85である。)のいずれか1以上を用いることができる。
【0008】
養殖するサンゴは、六放サンゴ亜綱イシサンゴ目ミドリイシ科ミドリイシ属のサンゴであり、具体的には、ウスエダミドリイシ(Acropora tenuis)、トゲスギミドリイシ(Acropora intermedia)、または、コユビミドリイシ(Acropora digitifera)である。
【0009】
また、本発明は、
前記のサンゴのうちの1種、または、六放サンゴ亜綱イシサンゴ目ミドリイシ科ミドリイシ属のサンゴの、
サンゴ卵、サンゴプラヌラ幼生、稚サンゴ、サンゴ成体からなる群より選択される少なくとも1種を生育させるための、
表層海水、または、地下浸透海水を掛け流す水槽と、
水槽中を照射する前記のLED光を備えた
ことを特徴とするサンゴの養殖装置である。
【発明の効果】
【0010】
(1)サンゴの成長を促進させる養殖方法を提供することができる。
(2)表層海水及び地下浸透海水を使い分けることで、水温や水質が安定した海水を用いてサンゴを養殖できる。
(3)人工光の放射照度と水質が異なる海水を組み合わせて養殖することで、ミドリイシ属サンゴの成長を促進させる養殖方法及び養殖施設を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】表層海水水槽に用いた各LED光の光スペクトルとその放射照度を示したグラフ
図2】地下浸透海水水槽に用いた各LED光の光スペクトルとその放射照度を示したグラフ
図3】実施例1における表層海水水槽でのウスエダミドリイシの成長率を示したグラフ
図4】実施例1における地下浸透海水水槽でのウスエダミドリイシの成長率を示したグラフ
図5】実施例1における異なる水質間でのウスエダミドリイシの一日の相対成長率を示したグラフ
図6】実施例1における表層海水水槽でのトゲスギミドリイシの成長率を示したグラフ
図7】実施例1における地下浸透海水水槽でのトゲスギミドリイシの成長率を示したグラフ
図8】実施例1における異なる水質間でのトゲスギミドリイシの一日の相対成長率を示したグラフ
図9】実施例2における表層海水水槽でのウスエダミドリイシの成長率を示したグラフ
図10】実施例2における地下浸透海水水槽でのウスエダミドリイシの成長率を示したグラフ
図11】実施例2における異なる水質間でのウスエダミドリイシの一日の相対成長率を示したグラフ
図12】実施例2における表層海水水槽でのトゲスギミドリイシの成長率を示したグラフ
図13】実施例2における地下浸透海水水槽でのトゲスギミドリイシの成長率を示したグラフ
図14】実施例2における異なる水質間でのトゲスギミドリイシの一日の相対成長率を示したグラフ
【発明を実施するための形態】
【0012】
2017年9月8日に琉球大学熱帯生物圏研究センター瀬底研究施設の旧桟橋付近の浅瀬(北緯26°37’50~55”,東経127°51’47~49”,水深1~2m)で、六放サンゴ亜綱イシサンゴ目ミドリイシ科ミドリイシ属のウスエダミドリイシ(Acropora tenuis)とトゲスギミドリイシ(Acropora intermedia)を採集し、各1群体を飼育に用いた。
【0013】
採集したサンゴの群体は、沖電開発株式会社水産養殖研究センターが管理している半閉鎖型循環方式で調節している地下浸透海水水槽に収容し、発光ダイオード(Fresh LED、加古川)下で約1ヶ月間馴致した。
その後、2017年10月12日に、各母群体の末端から頂端ポリプと側生ポリプを含むように枝打ち(ウスエダミドリイシ=50片、トゲスギミドリイシ=50片)を行った。
【0014】
飼育水槽は、同センター内の水質の異なる2つの水槽(地下浸透海水掛け流しの実験水槽(以下「地下浸透海水水槽」(Ground water)という。)と表層海水掛け流しの実験水槽(以下「表層海水水槽」(Surface water)という。))を用い、それぞれの水槽に実験区を設けた。
なお、本願発明において、表層海水とは、水深3~5mから取水した海水で、水温が年間を通じて25℃前後である海水を意味し、地下浸透海水とは、海洋から浸入した海水が、石灰岩層(例えば、琉球石灰岩層)などによって濾過されて陸地まで浸透した海水であり、地下25mから取水した海水を意味する。
【0015】
実験区は、次のとおり計10区であり、それぞれの実験区に枝打ち後のサンゴ群体をそれぞれ5片ずつ配置し、2週間馴致した後に飼育実験を開始した。
[地下浸透海水実験区]
(1)屋外水槽で自然光を用いた実験区(U-自然光群)
(2)屋内水槽でLED光(Coral LED)を用いた実験区(U-Coral群)
(3)屋内水槽でLED光(Reef LED)を用いた実験区(U-Reef群)
(4)屋内水槽でLED光(Fresh LED)を用いた実験区(U-Fresh群)
(5)屋内水槽でLED光(Sunset LED)を用いた実験区(U-Sunset群)
[表層海水実験区]
(6)屋外水槽で自然光を用いた実験区(S-自然光群)
(7)屋内水槽でLED光(Coral LED)を用いた実験区(S-Coral群)
(8)屋内水槽でLED光(Reef LED)を用いた実験区(S-Reef群)
(9)屋内水槽でLED光(Fresh LED)を用いた実験区(S-Fresh群)
(10)屋内水槽でLED光(Sunset LED)を用いた実験区(S-Sunset群)
【0016】
屋内水槽の光源(LED光)は、サンゴ群体が受ける光の強さを均一にするため、各水槽内にテーブルを設置して水深10cmになるように、サンゴ群体直上に設置した。
サンゴ群体は、頂端ポリプが横向きなるように配置した。
屋外水槽のサンゴ群体は、屋内水槽と同様に設置した机の上に配置した。
【0017】
各実験区に設置したテーブル直上水面に照射される放射照度と光波長を、分光色彩照度計(スペクトロマスターC-7000、SEKONIC、練馬)を用いて測定した。
計測結果は、図1及び2に示すとおりであり、図1は、表層海水水槽に用いた各LED光の光スペクトルとその放射照度を示したグラフであり、図2は、地下浸透海水水槽に用いた各LED光の光スペクトルとその放射照度を示したグラフである。
各LED光とその特徴は、次のとおりである。
Coral LED(製品番号:GLRX122/CR):420nm、450nm、475nm付近にそれぞれピーク波長をもち、380nm~500nmの波長が380~800nmの波長帯の95%以上を含むことで強い青色を呈する。
Reef LED(製品番号:GLRX122/RF):400nm、420nm、450nm、475nm付近にそれぞれピーク波長をもち、380nm~500nmの波長が380~800nmの波長帯の80%以上を含むことで青色を呈する。
Fresh LED(製品番号:GLRX122/FS):400nm、420nm、450nm、475nm付近にそれぞれピーク波長をもち、500nm~800nmの波長が380~800nmの波長帯の50%以上を含む。このLED抗原の光は対色湿度と演色性がそれぞれ9000KとRa95である。
Sunset LED(製品番号:GLRX122/SS):400nm、420nm、660nm付近にピーク波長をもち、500nm~800nmの波長が380~800nmの波長帯の70%以上を含む。このLED抗原の光は相対色湿度と演色性がそれぞれ3000KとRa85である。
なお、これらLED光は、すべて株式会社ボルクスジャパン製であり、「製品番号」は同社の製品番号を示している。
【0018】
屋内水槽で飼育した実験群の光周期は、16時間明期、8時間暗期、光強度は、いずれも200μEm-2-1である。
飼育実験は、2017年10月26日から同年12月21日の8週間(第一飼育実験期間)と2018年1月11日から同年3月8日の8週間(第二飼育実験期間)と2回に分けて行った。
実験期間中の水温は、次のとおりであった。
【0019】
第一飼育実験期間(2017年10月26日~同年12月21日)
(1)表層海水(屋内水槽)25.2±2.9℃
(2)地下浸透海水(屋内水槽)25.1±0.7℃
(3)表層海水(屋外水槽)24.4±2.6℃
(4)地下浸透海水(屋外水槽)24.8±1.9℃
【0020】
第二飼育実験期間(2018年1月11日~同年3月8日)
(1)表層海水(屋内水槽)20.8±1.2℃
(2)地下浸透海水(屋内水槽)23.6±0.3℃
(3)表層海水(屋外水槽)20.5±1.5℃
(4)地下浸透海水(屋外水槽)22.8±0.8℃
【0021】
枝打ち後のサンゴ片の重量測定を2週間ごとに行い、水中重量測定法(Schtter et al.,2008)を用いて、ウスエダミドリイシとトゲスギミドリイシの成長量を評価した。
最終的な一日の相対成長量(SGR;Specific growth rate)は、飼育実験開始日の重量と、実験終了時の重量を用いて次式のとおり算出した。
SGR(%day-1)={(Bwf-Bwi)Bwi/Δt}×100
(Bwf:実験終了時の重量、Bwi:実験開始時の重量、Δt:実験開始から終了までの日数)
【0022】
今回の実験において、各データの正規性と等分散性は有意水準を5%に設定し、5%超過(p>0.05)の有意水準を得たデータにおいては正規性と等分散性における帰無仮説が正しいとした。
正規性はShapiro-Wilk検定を用いて確認し、等分散性はBartlett検定を用いて確認した。
正規性並びに等分散性が確認された場合において、それぞれのLED光群間比較は一元配置分散分析One-way analysis of variance(ANOVA)で有意性を調べた後、多重検定比較のTurkey-Kramer法を用いて各群間の有意性を確認した。
また、正規性及び等分散性のどちらか一つでも確認されなかった場合は、Kruskal-Wallis検定で有意性を調べた後、多重比較検定のKruskal nemenyi法を用いて各群間の有意性を確認した。
有意性の確認は有意水準を5%に設定し、5%未満(p<0.05)の場合において有意差があることとし、1%未満(p<0.01)の場合は顕著に有意差があるとした。
各LED光群における異なる水質間の比較は正規性が確認された場合において、Welchのt検定を用いて二群間の有意差を確認した。
正規性が確認されなかった場合は、ウィルコクソンの順位和検定を用いて二群間の有意差を確認した。
有意性の確認は有意水準を5%に設定し、5%未満(p<0.05)の場合において有意差があることとし、1%未満(p<0.01)の場合は顕著に有意差があるとした。
【0023】
第一飼育実験期間の結果を、図3乃至8に示す。
図3は、表層海水水槽でのウスエダミドリイシの成長率を、図4は、地下浸透海水水槽でのウスエダミドリイシの成長率を、図5は、異なる水質間でのウスエダミドリイシの各LED光の成長率を、図6は、表層海水水槽でのトゲスギミドリイシの成長率を、図7は、地下浸透海水水槽でのトゲスギミドリイシの成長率を、図8は、異なる水質間でのトゲスギミドリイシの各LED光の成長率を、それぞれ示す。
なお、図3乃至8の各グラフ中のバーは、標準誤差(±SE)を表す。
【0024】
異なる光(自然光とLED光4種)および水質(表層海水水槽と地下浸透海水水槽)でウスエダミドリイシとトゲスギミドリイシを飼育し、それらの成長量を実験開始時と終了時の水中重量差で求めた。
表層海水水槽で飼育した場合、ウスエダミドリイシとトゲスギミドリイシのいずれにおいてもS-Coral群、S-Reef群、及びS-Fresh群間で有意差がみられなかった。
地下浸透海水水槽で飼育したウスエダミドリイシの一日の相対成長量は、U-Sunset群で約0.49%と最も高く、U-Reef群及びU-自然光群に比べて有意に高かった。
また、U-Fresh群及びU-Coral群の一日の相対成長量がU-自然光群のそれよりも有意に高かった。
その他の群間に有意差はみられなかった。
地下浸透海水水槽で飼育したトゲスギミドリイシの一日の相対成長量は、U-自然光群で約0.65%と最も高く、U-Reef群に比べて有意に高かった。
その他の群間に有意差はみられなかった。
表層海水と地下浸透海水間で両種の成長を比較すると、S-Fresh群の成長がU-Fresh群の成長より、またS-Reef群の成長がU-Reef群の成長より、それぞれ有意に高かった。
第一飼育実験期間で飼育されたウスエダミドリイシとトゲスギミドリイシの生存率は表層海水水槽及び地下浸透海水水槽で100%であった。
以上の結果から、ウスエダミドリイシとトゲスギミドリイシにおいては、短波長帯の光を多く含む光を受けた実験群の一日の相対成長量が高くなる傾向がみられた。
また水質の違いにおける両種の一日の相対成長量は、表層海水水槽群が地下浸透海水水槽群よりも高くなる傾向が見られた。
【0025】
第二飼育実験期間の結果を、図9乃至14に示す。
図9は、表層海水水槽でのウスエダミドリイシの成長率を、図10は、地下浸透海水水槽でのウスエダミドリイシの成長率を、図11は、異なる水質間でのウスエダミドリイシの各LED光の成長率を、図12は、表層海水水槽でのトゲスギミドリイシの成長率を、図13は、地下浸透海水水槽でのトゲスギミドリイシの成長率を、図14は、異なる水質間でのトゲスギミドリイシの各LED光の成長率を、それぞれ示す。
なお、図9乃至14の各グラフ中のバーは、標準誤差(±SE)を表す。
【0026】
表層海水水槽で飼育したウスエダミドリイシの一日の相対成長量は、S-Sunset群で約0.43%と最も高く、S-自然光群に比べて有意に高かった。
その他の群間に有意差はみられなかった。
表層海水水槽で飼育したトゲスギミドリイシの一日の相対成長量は、どの群間においても有意差はみられなかった。
地下浸透海水水槽で飼育したウスエダミドリイシの一日の相対成長量は、U-Sunset群で約0.49%と最も高く、U-Fresh群よりも有意に高かった。
その他の群間に有意差はみられなかった。
地下浸透海水水槽で飼育したトゲスギミドリイシの一日の相対成長量は、どの群間においても有意差はみられなかった。
表層海水と地下浸透海水間で両種の成長を比較すると、ウスエダミドリイシにおける異なる水質間での一日の相対成長量は、どの群間においても有意差はみられなかった。
一方、トゲスギミドリイシにおける異なる水質間での一日の相対成長量は、S-Reef群がU-Reef群より顕著に高かった。
その他の群間において有意差はみられなかった。
第二飼育実験期間で飼育されたウスエダミドリイシとトゲスギミドリイシの生存率は表層海水水槽及び地下浸透海水水槽で100%であった。
【0027】
地下浸透海水で飼育したウスエダミドリイシにおいて、U-Sunset群の一日の相対成長量はU-自然光群とU-Reef群のそれらに比べて有意に高かった。
またU-Coral群及びU-Fresh群の1日の相対成長量はU-自然光群のそれに比べて有意に高かった。
一方、同海水で飼育したトゲスギミドリイシにおいては、U-自然光群の一日の相対成長量がU-Reef群のそれに比べて有意に高かった。
サンゴに共生する褐虫藻が持つクロロフィルはaとC2であり、それぞれ450nm付近と650nm付近の光スペクトルで最も集光を行うことが知られており、褐虫藻の光合成がイシサンゴ類の石灰化を促進させて骨格形成に関与する(Goreau and Goreau,1959;Pearse and Muscatine,1971;Allemand et al.,2004)。
これらのことから、褐虫藻の光合成に利用される波長を含むSunset LED(660nm)がウスエダミドリイシとトゲスギミドリイシの骨格形成を促進させたと考えられる。
本実験に用いたLED光の660nm付近での放射照度は、Fresh LEDがSunset LEDの約29%、Reef LEDとCoral LEDがSunset LEDの約14%しかない。
したがって、Sunset LEDが与えた長波長光(660nm)がウスエダミドリイシに共生する褐虫藻の光合成を活性化し成長に影響を与えたと考えられる。
また、トゲスギミドリイシにおいて、Sunset LED及び自然光で飼育した群で比較的高い成長率を示した。
このことから、トゲスギミドリイシにおいて短期的な飼育でも長波長帯の光を多く含むSunset LED(660nm)による骨格形成の促進が起こると考えられる。
第一飼育実験期間では、U-Sunset群とU-Coral群との間で一日の相対成長率に有意差がみられなかった。
この点に関して、450nm付近と650nm付近におけるクロロフィルaの吸光度が共に約0.6程度であるのに対し、450nm付近と650nm付近でのクロロフィルC2の吸光度はそれぞれ約0.8と0.1であり、吸光度に約8倍近い差があるため、クロロフィル間の吸光度の差が、この結果に反映された可能性がある。
【0028】
第一飼育実験期間ではU-Sunset群とU-Fresh群との間で有意差がみられなかった。
これは、第一飼育実験において実験期間が短かったため、特定波長を強めたLED光との間で有意差がみられなかった可能性がある。
さらに、第一飼育実験期間では、LED光群と自然光群との間で一日の相対成長率に差があった。
これは、自然光には光強度や光スペクトルなどに不安定な要素が多くあり、また自然光で飼育したサンゴが水面下10cmにあったことを踏まえると、サンゴが過剰光暴露による光阻害を受けてしまっていたと考えられる。
表層海水水槽においてS-Sunset群とS-自然光群の一日の相対成長量を計測することができなかった。
計測できたS-Coral群、S-Fresh群及びS-Reef群における一日の相対成長量に有意差がみられなかった。
この結果は、地下浸透海水水槽での飼育実験との結果とも類似していた。
今回使用した人工光は、光波長650nm付近ではSunset LEDの放射照度が最も高いことから、第一飼育実験期間ではサンゴに共生している褐虫藻が短波長帯の光よりも長波長帯の光を優先的に吸光し、短波長帯の吸光を強いられた実験群の褐虫藻は十分な光合成を行えず、各LED光間で相対成長量の有意差を確認できなかったと考えられる。
【0029】
異なる水質間での一日の相対成長量は、両種においてFresh LEDとReef LED下で飼育した群で表層海水水槽群が地下浸透海水水槽群よりも有意に高かった。
第一飼育実験期間では、ウスエダミドリイシとトゲスギミドリイシに共生する褐虫藻は、長波長帯の光を吸光している傾向にあった。
Fresh LEDとReef LEDを用いて飼育した場合、長波長帯の放射照度が極めて低いため、石灰化を促進するために十分な褐虫藻由来の光合成産物を享受できていなかったと考察される。
このことから、第一飼育実験期間においては、短期間飼育によるサンゴの成長は、水質よりも光に優先的に依存するが、十分な光を受けることができない場合においては、水質の違いがサンゴの骨格形成に大きく影響すると考察される。
第一飼育実験期間と同様の実験を異なる時期に行った。
ウスエダミドリイシにおいて、表層海水水槽におけるS-Sunset群の一日の相対成長量は、S-自然光群のそれよりも高かった。
また、ウスエダミドリイシにおいて、地下浸透海水水槽におけるU-Sunset群の一日の相対成長量は、U-Fresh群のそれよりも高かった。
このことから、地下浸透海水水槽で飼育されたウスエダミドリイシにおける結果は、第一と第二飼育実験期間で、長波長帯を受けた群の成長率が最も高いという点で類似しており、ウスエダミドリイシが優先的に吸光する光波長帯は変わらないと考えられる。
表層海水水槽で長期飼育されたウスエダミドリイシにおいても長波長帯の光を優先的に吸光している傾向が示唆されたが、自然光群においては第一飼育実験同様、光阻害の影響を受けていた可能性が考えられる。
【0030】
地下浸透海水水槽におけるU-Sunset群とU-Fresh群との間の一日の相対成長量に差があったことについて、サンゴに共生する褐虫藻が持つクロロフィルaとCは、光波長450nm付近と650nm付近で極大吸収することから、短波長帯450nm付近と長波長帯650nm付近での放射照度が極めて低いFresh LEDでは、長期飼育によるウスエダミドリイシの成長を促進できなかった可能性がある。
クロロフィルaとCの吸光度に特性差があることから、ウスエダミドリイシでは、クロロフィルaによる吸光がクロロフィルCによる吸光よりも盛んに行われていたため、成長が促進されたのかもしれない。
また、ウスエダミドリイシでは、共生している褐虫藻が保有するクロロフィルCの含有量は、クロロフィルaのそれよりも低いかもしれない。
トゲスギミドリイシにおいては、表層海水水槽及び地下浸透海水水槽において異なる光で長期飼育された各LED光群間で、有意差がみられなくなった。
このことより、異なる光波長条件で長期飼育された場合、光波長以外の環境要因がトゲスギミドリイシの骨格形成に関わっていることが考察される。
【0031】
5つの異なる光で飼育されたトゲスギミドリイシにおいて、異なる水質間での一日の相対成長量は、Reef LEDで飼育された群で、表層海水水槽群のほうが地下浸透海水水槽群のそれよりも顕著に高かった。
このことから、トゲスギミドリイシにおいては長波長帯の光が極端に少なく短波長帯の光に依存する場合において、短波長帯の放射照度の大きさが成長促進に関わると考察される。
Coral LEDとReef LEDの放射照度が450nm付近で最大であり、Reef LEDの放射照度がCoral LEDのそれに比べると約70%しかない。
このことから、Reef LEDにおいて水質間で一日の相対成長量に差があったのは、U-Reef群が光波長450nm付近において十分な放射照度を受けていなかったことが考えられる。
ハナヤサイサンゴの成長は、光の放射照度が70μmol photons m-2s-1の時に二酸化炭素分圧の影響を大きく受け、成長率は二酸化炭素分圧が正常である時(493μatm)に高く、同分圧が高い時(878μatm)に低い。
しかし、二酸化炭素分圧の違いによるハナヤサイサンゴの成長率への影響は、放射照度が上がるにつれて確認できなくなる(Dufault et al.,2013)。
この報告を踏まえると、本実験で用いたReef LEDでは、トゲスギミドリイシが石灰化を行うために必要とする面積当たりの放射照度が不十分であり、そのことが水質の影響を受ける原因になったと考えられる。
【0032】
なお、2018年10月から2019年6月に行ったサンゴの完全養殖を目指した屋内・屋外飼育下での産卵確認試験の結果、産卵は7日間(2019年5月19・20・21・22・25日、同年6月6・7日)であり、表層海水により、コユビミドリイシ(屋内)、スギノキミドリシ(屋内および自然光)、雑種ミドリイシ(自然光)の複数種類にて、それぞれ50個体以上の産卵が確認できた。
この前年の2017年10月から2018年6月の確認試験では、全く同じ条件で、コユビミドリイシ(屋内・表層海水、屋外・地下浸透海水)、スギノキミドリシ(屋外・表層海水)のみ産卵し、いずれも産卵は1日(2018年5月)のみ、それぞれ4個体であった。
このことから、産卵日数、産卵したサンゴの種類およびその個体数の全てが、前年よりも増えたことになる。
サンゴの種類ごとに、海水と光の種類の違いをもとに産卵の有無をまとめた表は、次のとおりである(産卵したものを「〇」、産卵しなかったものを「×」で示している。「―」は実験を行っていないことを示している。)。
【表1】
【0033】
なお、表1中の産卵を確認できた「LED光」を使った実験区は、次のとおりである。
2019年 コユビミドリイシ 表層海水:「Coral LED」(S-Coral群)
2019年 スギノキミドリイシ 表層海水:「Coral LED」(S-Coral群)、「Fresh LED」(S-Fresh群)、「Sunset LED」(S-Sunset群)
2018年 コユビミドリイシ 表層海水:「Coral LED」(S-Coral群)
【0034】
2018年7月までは、サンゴの管理はブラッシング作業のみであったところを、2018年10月から2019年6月に行った試験では、ブラッシング作業に加え、水槽内にサンゴ内の卵を食べる環形動物を捕食する魚類や藻類を常食するナマコ類および貝類を追加し、さらに水槽底面の清掃を止めることで、水槽内を自然環境に近づける改善を行った。
これらの飼育環境の改善によって、卵が成長過程で十分に発達・成熟し、産卵の個体数が増加したと推測する。


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