(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-05
(45)【発行日】2024-03-13
(54)【発明の名称】個体認証方法
(51)【国際特許分類】
B42D 25/425 20140101AFI20240306BHJP
B42D 25/36 20140101ALI20240306BHJP
G03F 7/20 20060101ALI20240306BHJP
H01L 21/027 20060101ALI20240306BHJP
G06K 19/08 20060101ALI20240306BHJP
C03C 15/00 20060101ALI20240306BHJP
【FI】
B42D25/425
B42D25/36
G03F7/20 501
H01L21/30 502D
G06K19/08 060
C03C15/00 D
(21)【出願番号】P 2020090993
(22)【出願日】2020-05-26
【審査請求日】2022-08-25
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000002060
【氏名又は名称】信越化学工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504157024
【氏名又は名称】国立大学法人東北大学
(74)【代理人】
【識別番号】110002240
【氏名又は名称】弁理士法人英明国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】安藤 雅郎
(72)【発明者】
【氏名】山崎 裕之
(72)【発明者】
【氏名】竹内 正樹
(72)【発明者】
【氏名】中川 勝
(72)【発明者】
【氏名】伊東 駿也
【審査官】金田 理香
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-059377(JP,A)
【文献】特開2014-238465(JP,A)
【文献】特開2016-118635(JP,A)
【文献】国際公開第2004/027493(WO,A1)
【文献】特開2018-089845(JP,A)
【文献】石英ガラス資料,2018年08月23日,p.1-3,<URL:https://web.archive.org/web/20180823234817/https://eikoh-kk.co.jp/tecdata/silicaglass_data.html>
【文献】石英ガラスとは,2017年08月10日,p.1-2,<URL:https://web.archive.org/web/20170810123854/http://www.tqgj.co.jp/silicaglass/>
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B42D 15/02
25/00-25/485
C03C 15/00-23/00
G03F 7/20-7/24
9/00-9/02
G06K 19/00-19/18
H01L 21/027
21/30
21/46
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
合成石英ガラス基板の表面部の少なくとも一部に、合成石英ガラスで形成された複数のナノピラーを含むピラーパターン領域が形成され、前記ピラーパターン領域において、ナノインデンテーション法により測定される前記ナノピラーの押込み弾性率が35~100GPaであり、前記ナノピラーが、塑性変形する個体認証用構造体の、ピラーパターン領域に形成された少なくとも一部のナノピラーを高さ方向に押圧して塑性変形させ、変形したナノピラーを含むピラーパターンを識別することを特徴とする個体認証方法。
【請求項2】
前記ナノピラーの高さHが20~1,500nm、幅Wが10~500nm、アスペクト比(H/W)が0.5~6である請求項
1に記載の個体認証方法。
【請求項3】
前記ナノピラーが、合成石英ガラス基板の基体部と一体に形成されている請求項
1又は
2に記載の個体認証方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、人工物である個体に形成された固有の特徴を利用して認証を行う、個体認証用構造体を用いた個体認証方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一人ひとりの人間に固有のバイオメトリック情報を利用して個人の認証を行うバイオメトリクス技術が、様々な技術分野で実用化されている。バイオメトリック情報は、指紋、虹彩、静脈等の身体的特徴、声紋、筆跡等の行動的特徴等を含む情報であって、スマートフォンやキャッシュカードの利用者認証、コンピュータへのログイン権限の認証等に利用されている。近年、このようなバイオメトリック情報と同様の固有情報を有する人工物を、当該固有情報を利用して認証する人工物メトリクス技術の開発が進められている。
【0003】
人工物メトリクス技術は、証書、キャッシュカード等の偽造防止が求められる物品において、安全性や信頼性を高める手段として有望視されている技術である。この人工物メトリクス技術に用いられる人工物には、個体に固有の物理的性質として、個別性、読み取り安定性、耐久性、耐クローン性を併せて具備することが求められる。
【0004】
例えば、クレジットカード等の媒体に組み込まれた、粒状物の光反射パターン、磁性ファイバの磁気パターン、ランダム記録された磁気パターン、磁気ストライプのランダム磁気パターン、メモリセルのランダム電荷量パターン、導電性ファイバの共振パターン等の再現性の極めて低い人工パターンを固有情報として利用する技術が提案されている。また、特開2014-59377号公報(特許文献1)には、基体上に活性エネルギー線感応型レジスト塗膜を形成し、活性エネルギー線を照射後、現像処理を施してパターンを形成し、その後、外力を付与してパターンの一部を倒壊させてパターン凝集体を形成することにより得られる人工物メトリクス用構造体において、パターン凝集体によって耐クローン性が発現することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、従来の多くの人工パターンは、人工物として、認証用の固有情報として利用され得るものであるものの、極めて微小なチップにすることが困難であるため、ICカード等に組み込むことが困難であるという問題がある。また、特開2014-59377号公報に記載のレジスト構造体におけるパターンの変形は、傾斜、倒れ、滑りの3種類に限られるため、耐クローン性の点で十分ではなく、加えて、太陽光、紫外線、温度変化等により、変形、変色、劣化等の変質を起こす可能性があり、耐候性や長期安定性の点で十分ではなく、長期信頼性が低い。また、地球環境だけでなく、宇宙空間や惑星の環境下でも使用できる耐候性や長期安定性に優れ、長期信頼性の高い人工メトリクス技術に資する個体認証用構造体が望まれている。
【0007】
本発明は、前記事情に鑑みなされたものであり、耐クローン性と耐候性に優れた長期信頼性の高い、微細な人工パターンを備える個体認証用構造体を用いた個体認証方法を提供することを目的とする
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、前記目的を達成するため鋭意検討した結果、合成石英ガラスで形成された塑性変形するナノピラーを用い、塑性変形させたナノピラーを含むピラーパターンを識別に利用することが、人工物による個体認証に有効であり、合成石英ガラス基板の表面部の少なくとも一部に、合成石英ガラスで形成された複数のナノピラーを含むピラーパターン領域が形成され、ナノピラーが所定の押込み弾性率を有する個体認証用構造体が、耐クローン性と耐候性に優れた長期信頼性の高い個体認証を可能とする構造体であることを知見し、本発明をなすに至った。
【0009】
従って、本発明は、以下の個体認証方法を提供する。
1.合成石英ガラス基板の表面部の少なくとも一部に、合成石英ガラスで形成された複数のナノピラーを含むピラーパターン領域が形成され、前記ピラーパターン領域において、ナノインデンテーション法により測定される前記ナノピラーの押込み弾性率が35~100GPaであり、前記ナノピラーが、塑性変形する個体認証用構造体の、ピラーパターン領域に形成された少なくとも一部のナノピラーを高さ方向に押圧して塑性変形させ、変形したナノピラーを含むピラーパターンを識別することを特徴とする個体認証方法。
2.前記ナノピラーの高さHが20~1,500nm、幅Wが10~500nm、アスペクト比(H/W)が0.5~6である1に記載の個体認証方法。
3.前記ナノピラーが、合成石英ガラス基板の基体部と一体に形成されている1又は2に記載の個体認証方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、ナノピラーの変形の種類や程度で、グレースケールを構成することができ、また、変形後のピラーパターンの態様は、実質的に無限大であるので、本発明の個体認証用構造体を用いることにより、優れた個別性及び耐クローン性で、人工物による個体認証が可能である。また、本発明の個体認証用構造体では、合成石英ガラスは、通常、金属不純物濃度が1ppm以下と、極めて純度が高いことから、太陽光、紫外線、温度変化等の外部環境による変形、変色、劣化等の変質がほとんどなく、優れた耐候性や長期安定性及び高い長期信頼性が得られる。更に、地球環境だけでなく、宇宙空間や惑星の環境下においても、優れた耐候性や長期安定性及び高い長期信頼性が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】合成石英ガラス基板のピラーパターン領域の配置の一実施形態を示す平面図であり、(A)~(C)は、ピラーパターン領域を、各々、1カ所、3カ所、5カ所設けた例を示す図である。
【
図2】合成石英ガラス基板のピラーパターン領域内に形成されたナノピラーの配列の一実施形態を示す平面図である。
【
図3】ナノピラーの形状の一実施形態を示す断面図であり、(A)は、円柱形状のナノピラー、(B)は円錐台形状のナノピラーを示す図である。
【
図4】塑性変形させた後のナノピラーの形状の一実施形態を示す断面図であり、(A)は、樽形状のナノピラー、(B)は、キノコ形状のナノピラーを示す図である。
【
図5】塑性変形させた後のナノピラーの形状の一実施形態を示す平面図であり、(A)は、平面視が円形状のナノピラー、(B)は、平面視が楕円形状のナノピラー、(C)は、平面視が円形状でクラックを有するナノピラーを示す図である。
【
図6】実施例1で得られた個体認証用構造体のピラーパターン領域の走査型電子顕微鏡像である。
【
図7】実施例2で得られた個体認証用構造体のピラーパターン領域の走査型電子顕微鏡像である。
【
図8】実施例3で得られた個体認証用構造体のピラーパターン領域の走査型電子顕微鏡像である。
【
図9】実施例4で得られた個体認証用構造体のピラーパターン領域の走査型電子顕微鏡像である。
【
図10】実験例1におけるピラーパターン領域のナノピラーの上面の光学顕微鏡像であり、(A)は塑性変形前、(B)は塑性変形後であり、(C)は(B)を画像解析用に画像変換(二値化)した画像である。
【
図11】実験例1の個体認証用構造体において、ピラーパターン領域のナノピラーを塑性変形させた部分の上面の走査型電子顕微鏡像である。
【
図12】実験例1の個体認証用構造体において、ピラーパターン領域のナノピラーを塑性変形させた部分の原子間力顕微鏡像であり、(A)は塑性変形前の上面像、(B)は塑性変形前の断面プロファイル、(C)は塑性変形後の上面像、(D)は塑性変形後の断面プロファイルである。
【
図13】比較例1で得られた個体認証用構造体のピラーパターン領域の走査型電子顕微鏡像である。
【
図14】(A)は、比較実験例1の個体認証用構造体において、ピラーパターン領域のナノピラーを塑性変形させた部分の上面の走査型電子顕微鏡像であり、(B)は(A)を、画像解析用に画像変換(二値化)した画像である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明について、更に詳しく説明する。
以下において、本発明の実施形態について図面を参照して説明するが、図面は模式的又は概念的なものであり、各部材の寸法、部材間の大きさ、比等は、必ずしも現実のものと同一とは限らず、また、同じ部材等を示す場合であっても、図面により互いの寸法や比が異なって表される場合もある。
【0013】
本発明の個体認証用構造体は、合成石英ガラス基板の表面部の少なくとも一部に、合成石英ガラスで形成された複数のナノピラーを含むピラーパターン領域が形成されている。
【0014】
本発明に用いられる合成石英ガラス基板は、シラン化合物やシロキサン化合物等のシリカ原料化合物を酸水素火炎によって反応させて製造した合成石英ガラスインゴットを所望の形状に成型し、アニール処理を施して、所望の厚さにスライスした後、ラッピング、必要に応じて外周の研磨を行い、粗研磨、精密研磨を経て得られたものを用いることができる。
【0015】
合成石英ガラス基板の形状は、製造の容易さから長方形等の四角形状、円形状等とすることができる。例えば、四角形状の基板では、一辺の長さが10~300mmのサイズの基板が好適に用いられ、円形状のガラス基板では、直径が10~300mmのサイズの基板が好適に用いられる。合成石英ガラス基板の厚さは適宜選定されるが、好ましくは10μm以上、より好ましくは50μm以上、更に好ましくは100μm以上であり、また、好ましくは300mm以下、より好ましくは100mm以下、更に好ましくは30mm以下である。基板の表面部の一部に個体認証用構造体が形成された前記サイズの合成石英ガラス基板は、四角形状の基板では、例えば、一辺の長さが1~10mm、厚さ1mm以下のサイズの基板、円形状のガラス基板では、例えば、直径が1~10mm、厚さ1mm以下のサイズの基板に、合成石英ガラスで形成された複数のナノピラーを含むピラーパターン領域を形成した後に、ダイシングして前記サイズ、更には、より小さなサイズに形成してもよい。機械切削やレーザー切削等、ダイシングの方法を考慮して、加工される合成石英ガラス基板の形状は決定される。また、合成石英ガラス基板の形状は、識別用の他の部材に個体認証用構造体を貼り付ける際の取扱い安さの観点等も考慮して決定される。
【0016】
基板の表面部の少なくとも一部に存在するピラーパターン領域の形状は、認証を行うための計測法と検出解像度に依存する。計測に電子顕微鏡を用いる場合には、撮像倍率にもよるが、ピラーパターン領域は、その形状が、四角形状の場合は、例えば一辺の長さが1~100μm、円形状の場合は、例えば、直径が1~100μmであることが好ましい。一辺の長さや直径が1μm未満であると、個体認証用構造体のナノピラーの数が少なくなり、個別性及び耐クローン性が低くなる場合がある。また、一辺の長さや直径が100μmを超えると、目視により視認される可能性があり、個体認証用構造体の存在する位置が特定されやすくなる場合がある。計測に原子間力顕微鏡を用いる場合には、スキャナーの走査可能範囲に依存するが、ピラーパターン領域は、その形状が、四角形状の場合は、例えば一辺の長さが1~100μm、円形状の場合は、例えば、直径が1~100μmであることが好ましい。計測に光学顕微鏡を用いる場合には、撮像倍率にもよるが、ピラーパターン領域は、その形状が、四角形状の場合は、例えば一辺の長さが10μm~2mm、円形状の場合は、例えば、直径が10μm~2mmであることが好ましい。
【0017】
ナノピラーは、合成石英ガラスで形成され、合成石英ガラス基板の基体部から突出した形状の微小構造物である。ピラーパターン領域は、複数のナノピラーを含み、個々のナノピラーは、他のナノピラーと離間させて立設させて配列されている。ナノピラーは、通常、合成石英ガラス基板の他の部分(基体部)と一体に形成されている。
【0018】
図1は、合成石英ガラス基板のピラーパターン領域の配置の一実施形態を示す平面図であり、(A)~(C)では、合成石英ガラス基板100にピラーパターン領域101が、各々、1カ所、3カ所、5カ所設けられている。ピラーパターン領域は、合成石英ガラス基板に少なくとも1カ所設けられていればよく、複数カ所設けられていてもよい。また、ピラーパターン領域の形状は、特に限定されないが、円形、楕円形、正方形、長方形、台形、三角形等を挙げることができるが、これらに分類されない不規則な形状であってもよく、複数種類の形状を組み合わせてもよい。
【0019】
図2は、合成石英ガラス基板のピラーパターン領域内に形成されたナノピラーの配列の一実施形態を示す平面図であり、ここでは、ピラーパターン領域101内にナノピラー102が、正方格子状に配列されている。ピラーパターン領域内に形成されるナノピラーの配列は特に限定されず、一定周期でピラーが配列された規則的配列であっても、ランダム配列であってもよい。規則的配列としては、斜方格子状、長方格子状、面心長方格子状、六方格子状、正方格子状等が挙げられる。規則的配列の場合、その周期は特に限定されるものではないが、好ましくは20nm以上、より好ましくは30nm以上であり、また、好ましくは1,500nm以下、より好ましくは1,000nm以下である。
【0020】
図3は、ナノピラーの形状の一実施形態を示す断面図であり、(A)には、合成石英ガラス基板100に形成された円柱形状のナノピラー102aの断面、(B)には、合成石英ガラス基板100に形成された円錐台形状のナノピラー102bの断面が、各々、示されている。ナノピラーの具体的な形状としては、角柱形状、円柱形状、楕円柱形状、角錘台状、円錐台形状、楕円錘台形状、逆角錘台状、逆円錐台形状、逆楕円錘台形状等を挙げることができ、複数種類の形状を組み合わせてもよい。
【0021】
特に、ピラーパターン領域において、ナノインデンテーション法で球状圧子により測定されるナノピラーの押込み弾性率は、35GPa以上、好ましくは40GPa以上であり、また、100GPa以下、好ましくは90GPa以下、より好ましくは80GPa以下である。ナノピラーの押込み弾性率が35GPaより小さいと、ナノピラーを、押圧して塑性変形させたときに、欠けが生じ易く、ナノピラーから分離したナノピラー欠片が、個体認証を妨げる要因となるおそれがある。一方、ナノピラーの押込み弾性率が100GPaより大きいと、ナノピラーを、押圧して塑性変形させることが難しくなるおそれがある。
【0022】
ナノピラーの押込み弾性率EITは、ナノインデンテーション試験により得られる荷重-変位曲線から求められる接触深さhc、接触投影面積Ap及び接触剛性(スチフネス)Sと、圧子の弾性率Ei、圧子のポアソン比νi並びに試料のポアソン比νsとから導出することができる。ナノピラーの押込み弾性率EITとは、試料の弾性変形及び圧子の弾性変形が含まれた複合弾性率Erから試料のみを考慮した弾性率であり、具体的には、下記式(1)から算出することができる。
【0023】
【0024】
ここで、複合弾性率Erは、荷重-変位曲線から求められた接触深さhc、接触投影面積Ap及び接触剛性(スチフネス)Sから、下記式(2)により与えられる。
【0025】
【0026】
ナノピラーの高さHは、好ましくは20nm以上、より好ましくは30nm以上、更に好ましくは80nm以上であり、また、好ましくは1,500nm以下、より好ましくは1,000nm以下、更に好ましくは500nm以下である。また、ナノピラーの幅(特に、頂部の幅)Wは、好ましくは10nm以上、より好ましくは20nm以上、更に好ましくは40nm以上であり、また、好ましくは500nm以下、より好ましくは300nm以下、更に好ましくは140nm以下である。例えば、ナノピラーの高さが20nm未満、かつナノピラーの幅が10nm未満であると、ナノピラーを塑性変形させた後の変形度合いを電子顕微鏡等で判定することが困難な場合がある。一方、ナノピラーの高さが1,500nm超、かつナノピラーの幅が500nm超であると、ピラーパターン領域中のピラーの数が少なく、個体認証に不利な場合がある。ナノピラーの高さは、原子間力顕微鏡等、ナノピラーの幅は、原子間力顕微鏡や走査型電子顕微鏡等で測定することができる。
【0027】
ナノピラーのアスペクト比(高さHと幅(特に頂部の幅)Wとの比(H/W))は、好ましくは0.5以上、より好ましくは1以上であり、また、好ましくは6以下、より好ましくは5以下である。アスペクト比(H/W)が0.5より低いと、ナノピラーを塑性変形させた後の変形度合いを電子顕微鏡等で判定することが困難な場合がある。一方、アスペクト比(H/W)が6より高いと、ナノピラーを、押圧して塑性変形させたときに、欠けが生じ易く、ナノピラーから分離したナノピラー欠片が、個体認証を妨げる要因となるおそれがある。
【0028】
本発明の個体認証用構造体において、ナノピラーは、塑性変形し得ることが必要である。これは、本発明の個体認証用構造体においては、ナノピラーの塑性変形前後の違いを個体認証における識別要素として利用するためである。ナノピラーは、通常、ナノピラーを高さ方向に押圧することにより塑性変形させる。この押圧は、例えば、剛体をナノピラー(ピラーパターン領域)に接触させて押し込むことにより実施することができる。このようにすることにより、ナノピラーに外力を作用させて、塑性変形させることができる。
【0029】
剛体としては、塑性変形させるナノピラーを形成する合成石英ガラスのヤング率以上のヤング率を有するものであればよく、その材質としては、ダイヤモンド、サファイア等を好適に挙げることができる。剛体は、その接触面が、ナノピラー頂部の面積以上の面積を有するものであればよく、その形状としては、球形状、フラットパンチ形状、キューブコーナー形状等を好適に挙げることができる。剛体の接触面の面積が、ナノピラー頂部の面積より小さいと、ナノピラーに、欠けが生じ易く、ナノピラーから分離したナノピラー欠片が、個体認証を妨げる要因となるおそれがある。
【0030】
押圧速度は、変形の形態のバリエーションを考慮し、好ましくは500mN/s以下、より好ましくは100mN/s以下である。また、押圧荷重は、個体認証において良好な識別性を発現させる観点から、好ましくは0.005mN以上、より好ましくは0.05mN以上、更に好ましくは0.5mN以上であり、また、好ましくは2,000mN以下、より好ましくは1,000mN以下、更に好ましくは500mN以下である。なお、ナノピラーを塑性変形させる際、剛体を接触させて押し込んだ部分で、ピラーパターン領域のナノピラーの配列は、剛体の形状を反映した押圧痕が形成される。例えば、剛体の曲面を接触させて押し込んだ場合、光学顕微鏡等による観察で、ピラーパターン領域の上面像に、円形状又は楕円形状の押圧痕を確認することができる。
【0031】
ピラーパターン領域の形状、及びナノインデンテーション法で球状圧子により塑性変形したナノピラーが存在するピラーパターン領域の一部の形状は、光学顕微鏡における明視野、暗視野、微分干渉の光学系で検出できる。塑性変形したピラーパターンが存在するピラーパターン領域の一部の形状は、球状圧子の形状を反映したものであるため、個体認識の対象となる。具体的な形状としては、円形、楕円形等が挙げられる。同一の球状圧子による押圧痕は、複数あってもよく、異なる球状圧子による押圧痕が複数あってもよい。
【0032】
図4は、合成石英ガラス基板のピラーパターン領域内に形成されたナノピラーを、剛体等で押圧することにより塑性変形させた後のナノピラーの形状の一実施形態を示す断面図であり、(A)には、合成石英ガラス基板100に形成された樽形状のナノピラー102cの断面、(B)には、合成石英ガラス基板100に形成されたキノコ形状のナノピラー102dの断面が、各々、示されている。
図4(A)に示される樽形状のナノピラー102cは、例えば、
図3(A)に示される円柱形状のナノピラー102aを押圧して塑性変形させることにより得ることができる。一方、
図4(B)に示されるキノコ形状のナノピラー102dは、例えば、
図3(B)に示される円錐台形状のナノピラー102bを押圧して塑性変形させることにより得ることができる。
【0033】
図5は、合成石英ガラス基板のピラーパターン領域内に形成されたナノピラーを、剛体等で押圧することにより塑性変形させた後のナノピラーの形状の一実施形態を示す平面図であり、(A)には、ピラーパターン領域101内に形成された、平面視が円形状のナノピラー102e、(B)には、ピラーパターン領域101内に形成された、平面視が楕円形状のナノピラー102f、(C)には、ピラーパターン領域101内に形成された、平面視が円形状のナノピラーであり、塑性変形時にナノピラー表面に発生したクラックを有するナノピラー102gが、各々示されている。
図5(A)、(C)に示される平面視が円形状のナノピラー102e、102gは、例えば、
図2に示されるナノピラーの配列で、
図3(A)に示される円柱形状のナノピラー102a、
図3(B)に示される円錐台形状のナノピラー102bを押圧して塑性変形させることにより得ることができ、ナノピラーの平面視が、円形状で塑性変形前より面積が広くなっている。一方。
図5(B)に示される平面視が楕円形状のナノピラー102fは、例えば、楕円柱形状、楕円錐台形状、逆楕円錐台形状のナノピラーを押圧して塑性変形させることにより得ることができ、ナノピラーの平面視が、楕円形状で塑性変形前より面積が広くなっている。
【0034】
図4、5では、剛体による押し込み等により、ナノピラーを均一に押圧して塑性変形させた形状を示したが、ナノピラーの塑性変形の度合は、全てのナノピラーで均一である必要はない。また、塑性変形後の形状は、これらに限定されるものではなく、また、2種以上の組み合わせであってもよい。
【0035】
ピラーパターン領域に形成された少なくとも一部のナノピラー、例えば、個体認証用構造体の特定位置に存在するナノピラーを高さ方向に押圧して塑性変形させ、その結果生じた、変形したナノピラーを含むピラーパターンを識別することにより、人工物による個体認証ができる。本発明では、ナノピラーの変形の種類や程度が、グレースケールの役割を果たし、また、変形後のピラーパターンの態様は、実質的に無限大であるので、優れた個別性及び耐クローン性が発現する。
【0036】
ピラーパターンを識別する際の識別要素としては、変形度合い、認識視野内の個体数、ピラー周期性等が挙げられる。変形度合いとしては、変形した領域内における形状、楕円率、ピラー直径分布、ピラー高さ分布、ピラー表面のクラック数等が具体的な識別要素として挙げられる。認識視野内の個体数としては、変形した領域内におけるピラー数、ピラー数分布等が具体的な識別要素として挙げられる。ピラー周期性としては、変形した領域内におけるピラー位置、ピラー位置分布等が具体的な識別要素として挙げられる。
【0037】
なお、個体認証用構造体の合成石英ガラス基板には、ピラーパターン領域と共に、個体認証時の位置合わせ用のマークを設けることができる。個体認証用構造体のナノピラーの形成に、後述するようなリソグラフィを用いれば、個体認証時の位置合わせ用のマークを、ピラーパターン領域の形成と同一行程で付与することが可能である。
【0038】
本発明の個体認証用構造体の合成石英ガラスで形成された複数のナノピラーを含むピラーパターン領域は、電子線リソグラフィ法、フォトリソグラフィ法、ナノインプリントリソグラフィ法等のリソグラフィ法により製造することができる。
【0039】
この方法として具体的には、例えば、
(1)合成石英ガラス基板のピラーパターン領域が形成される面の上に無機膜を形成する工程(第1工程)と、
(2)無機膜の上に有機膜を形成する工程(第2工程)と、
(3)有機膜をパターニングして、無機膜上に有機膜パターンを形成する工程(第3工程)と、
(4)有機膜のパターンをエッチングマスクとして、無機膜をエッチングして無機膜パターンを形成する工程(第4工程)と、
(5)有機膜パターン及び無機膜パターン、又は無機膜パターンをエッチングマスクとして、合成石英ガラス基板の表面部をエッチングして、ピラーパターン領域を形成する工程(第5工程)と、
(6)有機膜パターン及び無機膜パターン、又は無機膜パターンを除去する工程(第6工程)
とを含む方法により製造することができる。
【0040】
第1工程において、無機膜は、通常、合成石英ガラス基板のピラーパターン領域が形成される面の全体に形成される。無機膜としては、金属膜や、金属窒化物、金属酸化物、金属炭化物、金属窒化酸化物、金属窒化炭化物、金属酸化炭化物、金属窒化酸化炭化物等の金属化合物の膜等が挙げられる。金属膜は、単体膜であっても合金膜であってもよい。また、金属化合物膜の金属は1種のみであっても2種以上の組み合わせであってもよい。金属として具体的には、Ag、Al、Au、Cr、Cu、Mo、Ni、Ru、Si、Ta、Ti、W等が挙げられる。これらの無機膜のなかでも、第4工程の無機膜のエッチングにおけるエッチングのしやすさの観点から、Cr膜、Si膜、Cr化合物膜、Si化合物膜が好ましく、Cr化合物として具体的には、CrN、CrO、CrNO、CrNOC(これらの式は化合物の構成元素を表し、各元素の比率は任意である。)等が挙げられ、Si化合物として具体的には、SiN(この式は化合物の構成元素を表し、各元素の比率は任意である。)等が挙げられる。無機膜の膜厚は、好ましくは200nm以下、より好ましくは50nm以下であり、また、好ましくは2nm以上である。
【0041】
無機膜は、スパッタ法により成膜することが可能である。具体的には、ターゲットとして、金属ターゲット、金属化合物ターゲット等、スパッタガスとして、アルゴンガス等の希ガスと、必要に応じて、酸素含有ガス、窒素含有ガス、炭素含有ガス等の反応性ガスとを用い、スパッタ装置で、合成石英ガラス基板上に無機膜を成膜する。電源は直流及び交流のいずれでもよいが、直流電源を用いる際は、アーク発生を抑制するための方策を適用することが好ましい。
【0042】
第2工程において、有機膜は、無機膜の表面の一部又は全部に形成される。有機膜の材料としては、電子線、X線、紫外線、エキシマレーザー(ArF、KrF等)、高圧水銀ランプ(i線、g線等)等の所望の活性化エネルギー線に感応可能なレジスト材料(フォトレジスト材料)が好適である。レジスト材料は、ポジ型レジスト材料及びネガ型レジスト材料のいずれも用いることができるが、精度や環境面の観点から、ポジ型レジスト材料が好ましい。有機膜の膜厚は、10nm~数10μmの範囲内から選ぶことができるが、解像性の観点からは薄膜が好ましく、エッチング耐性の観点からは厚膜が好ましい。両者を総合して考えると、第5工程の合成石英ガラス基板の表面部のエッチングにウェットエッチングを採用する場合には0.5~5μm程度が好ましく、ドライエッチングを採用する場合には10~500nm程度が好ましい。
【0043】
有機膜の成膜は、スピンコート、スプレーコート、スリットコート、孔版印刷等による塗布により行うことができるが、より均一に塗布するためにスピンコートが好適である。スピンコートでは、最大回転数2,000~4,000rpmで回転塗布し、塗布後にベーク(プリベーク)を行う。プリベーク温度は有機膜の材料の種類にもよるが、約80~120℃の範囲で行うことが好ましい。
【0044】
第3工程では、有機膜をパターニングして、無機膜上に有機膜パターンを形成する。有機膜パターンを形成する方法としては、電子線リソグラフィ又はフォトリソグラフィによる方法と、ナノインプリントリソグラフィによる方法が挙げられる。
【0045】
電子線リソグラフィによる方法では、無機膜上に形成した有機膜を、電子線描画装置を用いて描画し、有機膜に描画されたパターンを現像することにより、有機膜パターンを形成することができる。また、フォトリソグラフィによる方法では、無機膜上に形成した有機膜を、所定の遮光部及び非遮光部を有するフォトマスクを用いて露光し、有機膜に転写されたパターンを現像することにより、有機膜パターンを形成することができる。
【0046】
現像に使用される液は、レジスト材料の種類に応じて適宜選択すればよく、現像液としては、例えば、テトラメチルアンモニウムヒドロキシド(TMAH)等のアルカリ水溶液、キシレン系の有機溶剤等を好適に用いることができる。現像後は、純水等によるリンス処理を行い、残留している現像液、及び現像液に溶解したレジスト材料由来の成分を洗い流し、乾燥させることで、無機膜上に有機膜パターンを形成することができる。乾燥後には、有機膜の強化のために、ポストベークを行ってもよい。ポストベークは、有機膜が感光しなくなる温度及び/又は時間で行い、露光前のプリベーク温度よりも高温(例えば、130℃以上)で行うことが好ましい。
【0047】
ナノインプリントリソグラフィによる方法では、有機膜に所定の凹凸パターンを有するインプリントモールドの凹凸構造部を押し当てて、モールドの凹部内を、レジスト材料で満たすと共に、レジスト材料の上面を凹凸パターンの形状となるようにて成形し、その状態で有機膜を硬化させ、その後、硬化した有機膜からインプリントモールドを分離することにより有機膜パターンを形成することができる。
【0048】
有機膜にインプリントモールドの凹凸構造部を押し当てる際は、ヘリウムガス雰囲気下又は易凝縮性ガス雰囲気下にて行うことが好ましい。易凝縮性ガス雰囲気とは、モールド空隙に気体が閉じ込められたときに、押圧により容易に液化するガスの雰囲気であり、このような雰囲気では、バブル欠陥が生じ難くなる。このようなガスとして、具体的には1,1,1,3,3-ペンタフルオロプロパン(PFP、HFC-245fa)や、トランス-1,3,3,3-テトラフルオロプロペン(TFP)等が挙げられる。インプリントモールドの凹凸構造部の表面とレジスト材料との間に気泡が生じると、有機膜パターンに、パターン欠陥が発生し得るが、ヘリウム雰囲気下又は易凝縮性ガス雰囲気下であれば、気泡を構成するヘリウムガスや易凝縮性ガスがレジスト材料に溶け込み、パターン欠陥の発生を防止することができる。有機膜を硬化させる方法としては、有機膜を構成する材料の硬化タイプに応じた方法を採用すればよく、例えば、有機膜材料が紫外線硬化タイプであれば、インプリントモールドを介して有機膜に紫外線を照射する方法等を採用することができる。
【0049】
硬化した有機膜からインプリントモールドを分離した後の有機膜の、インプリントモールドの凸部と接触していた位置には、通常、相応の厚さ(例えば、1nm以上、特に5nm以上で、20nm以下、特に10nm以下)で有機膜が残存しているが、この残存部は、合成石英ガラス基板をエッチングする前に除去することが好ましい。残存部を除去する方法としては、特に限定されるものではないが、例えば、酸素プラズマによるアッシング処理、紫外光によるUVオゾン処理、真空紫外光によるVUV処理等が挙げられる。
【0050】
第4工程では、有機膜が除去されて露呈した無機膜の部分を選択的に除去して、無機膜パターン(ハードマスクパターン)を形成する。無機膜の選択除去には、エッチングが好適である。エッチングは、ウェットプロセス及びドライプロセスのいずれでもよいが、ウェットプロセスの場合は、無機膜の種類に応じたエッチング液を用いてエッチングする。ウェットプロセスとして具体的には、例えば、無機膜がCr又はCr化合物の場合は、Crエッチング液(硝酸セリウム第二アンモニウム水溶液)を用いるウェットエッチングが挙げられる。Crエッチング液の濃度は、特に限定されないが、5~20質量%が好ましい。一方、ドライプロセスの場合は、異方性エッチングが好適である。ドライプロセスとして具体的には、例えば、アルゴンイオンミリング、CF4、C3F6、C3F8、C4F8、C5F8、CHF3等の反応性ガスによるドライエッチングが挙げられる。無機膜の選択除去後、無機膜パターンの上には、通常、有機膜パターンが残留しているが、この残留している有機膜パターンは、無機膜パターンの上に残したまま、第5工程を実施しても、無機膜パターンの上から除去した後に第5工程を実施してもよい。
【0051】
第5工程では、第4工程で無機膜を選択的に除去した後、有機膜パターンを残した場合は、有機膜パターン及び無機膜パターン(ハードマスクパターン)をエッチングマスクとして、有機膜パターンを除去した場合は、無機膜パターン(ハードマスクパターン)をエッチングマスクとして、合成石英ガラス基板の表面部をエッチングして、ピラーパターン領域(複数のナノピラー)を形成する。このエッチングでは、有機膜パターン及び無機膜パターン、又は無機膜パターンで被覆されていない、合成石英ガラス基板の表面が露呈した部分がエッチングされ(掘り込まれ)、パターンで被覆されている部分がエッチングされずに残り、ピラーパターン領域が形成される。
【0052】
合成石英ガラス基板をエッチングする方法としては、特に限定されないが、例えば、フッ酸やフッ化ナトリウムを含むエッチング水溶液へ浸漬するウェットエッチング、CF4、C3F6、C3F8、C4F8、C5F8、CHF3等の反応性ガスによるドライエッチングが挙げられる。
【0053】
第6工程では、第4工程で無機膜を選択的に除去した後、有機膜パターンを残した場合は、有機膜パターン及び無機膜パターンを、有機膜パターンを除去した場合は、無機膜パターンを除去する。有機膜パターンは、無機膜パターンの除去と同時に除去することができ、無機膜パターンは、エッチングにより除去することができる。エッチングは、ウェットプロセス及びドライプロセスのいずれでもよいが、ウェットプロセスの場合は、無機膜の種類に応じたエッチング液を用いてエッチングする。ウェットプロセスとして具体的には、例えば、無機膜がCr又はCr化合物の場合は、Crエッチング液(硝酸セリウム第二アンモニウム水溶液)を用いるウェットエッチングが挙げられる。Crエッチング液の濃度は、特に限定されないが、5~20質量%が好ましい。一方、ドライプロセスの場合は、異方性エッチングが好適である。ドライプロセスとして具体的には、例えば、アルゴンイオンミリング、CF4、C3F6、C3F8、C4F8、C5F8、CHF3等の反応性ガスによるドライエッチングが挙げられる。
【0054】
ここまで、個体認証用構造体の製造方法として、合成石英ガラス基板の上に、まず無機膜を形成し、更に有機膜を形成して製造する方法を例に挙げて説明したが、これらの態様に限定されるものではない。個体認証用構造体は、例えば、合成石英ガラス基板の上に、まず有機膜を形成し、有機膜をパターニングして有機膜パターンを形成した後、更に、無機膜を形成して製造する、いわゆるリフトオフ法により製造することも可能である。
【0055】
この方法として具体的には、例えば、
(11)合成石英ガラス基板のピラーパターン領域が形成される面の上に有機膜を形成する工程(第11工程)と、
(12)有機膜をパターニングして、合成石英ガラス基板のピラーパターン領域が形成される面の上に有機膜パターンを形成する工程(第12工程)と、
(13)有機膜パターン及び露出した合成石英ガラス基板の面の上に無機膜を形成する工程(第13工程)と、
(14)有機膜パターンを、有機膜のパターンの上に形成された無機膜と共に除去する工程(第14工程)と、
(15)合成石英ガラス基板の面の上に形成された無機膜により形成された無機膜パターンをエッチングマスクとして、合成石英ガラス基板の表面部をエッチングして、ピラーパターン領域を形成する工程(第15工程)と、
(16)無機膜パターンを除去する工程(第16工程)
とを含む方法により製造することができる。
【0056】
第11工程において、有機膜は、合成石英ガラス基板のピラーパターン領域が形成される面の一部又は全部に形成される。有機膜の材料としては、電子線、X線、紫外線、エキシマレーザー(ArF、KrF等)、高圧水銀ランプ(i線、g線等)等の所望の活性化エネルギー線に感応可能なレジスト材料(フォトレジスト材料)が好適である。レジスト材料は、ポジ型レジスト材料及びネガ型レジスト材料のいずれも用いることができるが、精度や環境面の観点から、ポジ型レジスト材料が好ましい。有機膜の膜厚は、10nm~数10μmの範囲内から選ぶことができるが、解像性の観点からは薄膜が好ましく、第14工程において有機膜パターンを無機膜と共に除去する観点から、後述する無機膜より十分に厚い(例えば、無機膜より2倍以上厚い)ことが必要である。
【0057】
有機膜の成膜は、スピンコート、スプレーコート、スリットコート等による塗布により行うことができるが、より均一に塗布するためにスピンコートが好適である。スピンコートは、最大回転数2,000~4,000rpmで回転塗布し、塗布後にベーク(プリベーク)を行う。プリベーク温度は有機膜の材料の種類にもよるが、約80~120℃の範囲で行うことが好ましい。
【0058】
第12工程では、有機膜をパターニングして、合成石英ガラス基板のピラーパターン領域が形成される面の上に有機膜パターンを形成する。有機膜パターンを形成する方法としては、電子線リソグラフィ又はフォトリソグラフィによる方法と、ナノインプリントリソグラフィによる方法が挙げられる。
【0059】
電子線リソグラフィによる方法では、合成石英ガラス基板上に形成した有機膜を、電子線描画装置を用いて描画し、有機膜に描画されたパターンを現像することにより、有機膜パターンを形成することができる。また、フォトリソグラフィによる方法では、合成石英ガラス基板上に形成した有機膜を、所定の遮光部及び非遮光部を有するフォトマスクを用いて露光し、有機膜に転写されたパターンを現像することにより、有機膜パターンを形成することができる。
【0060】
現像に使用される液は、レジスト材料の種類に応じて適宜選択すればよく、現像液としては、例えば、テトラメチルアンモニウムヒドロキシド(TMAH)等のアルカリ水溶液、キシレン系の有機溶剤等を好適に用いることができる。現像後は、純水等によるリンス処理を行い、残留している現像液、及び現像液に溶解したレジスト材料由来の成分を洗い流し、乾燥させることで、合成石英ガラス基板上に有機膜パターンを形成することができる。乾燥後には、有機膜の強化のため、ポストベークを行ってもよい。ポストベークは、有機膜が感光しなくなる温度及び/又は時間で行うため、露光前のプリベーク温度よりも高温(例えば、130℃以上)で行うことが好ましい。
【0061】
ナノインプリントリソグラフィによる方法では、有機膜に所定の凹凸パターンを有するインプリントモールドの凹凸構造部を押し当てて、モールドの凹部内を、レジスト材料で満たすと共に、レジスト材料の上面を凹凸パターンの形状となるようにて成形し、その状態で有機膜を硬化させ、その後、硬化した有機膜からインプリントモールドを分離することにより有機膜パターンを形成することができる。
【0062】
有機膜にインプリントモールドの凹凸構造部を押し当てる際は、ヘリウムガス雰囲気下又は易凝縮性ガス雰囲気下にて行うことが好ましい。易凝縮性ガス雰囲気とは、モールド空隙に気体が閉じ込められたときに、押圧により容易に液化するガスの雰囲気であり、このような雰囲気では、バブル欠陥が生じ難くなる。このようなガスとして、具体的には1,1,1,3,3-ペンタフルオロプロパン(PFP、HFC-245fa)や、トランス-1,3,3,3-テトラフルオロプロペン(TFP)等が挙げられる。インプリントモールドの凹凸構造部の表面とレジスト材料との間に気泡が生じると、有機膜パターンに、パターン欠陥が発生し得るが、ヘリウム雰囲気下又は易凝縮性ガス雰囲気下であれば、気泡を構成するヘリウムガスや易凝縮性ガスがレジスト材料に溶け込み、パターン欠陥の発生を防止することができる。有機膜を硬化させる方法としては、有機膜を構成する材料の硬化タイプに応じた方法を採用すればよく、例えば、有機膜材料が紫外線硬化タイプであれば、インプリントモールドを介して有機膜に紫外線を照射する方法等を採用することができる。
【0063】
硬化した有機膜からインプリントモールドを分離した後の有機膜の、インプリントモールドの凸部と接触していた位置には、通常、相応の厚さ(例えば、1nm以上、特に5nm以上で、20nm以下、特に10nm以下)で有機膜が残存しているが、この残存部は、合成石英ガラス基板をエッチングする前に除去することが好ましい。残存部を除去する方法としては、特に限定されるものではないが、例えば、酸素プラズマによるアッシング処理、紫外光によるUVオゾン処理、真空紫外光によるVUV処理等が挙げられる。
【0064】
第13工程において、無機膜は、通常、有機膜パターン及び露出した合成石英ガラス基板の面の全体に形成される。無機膜としては、金属膜や、金属窒化物、金属酸化物、金属炭化物、金属窒化酸化物、金属窒化炭化物、金属酸化炭化物、金属窒化酸化炭化物等の金属化合物の膜等が挙げられる。金属膜は、単体膜であっても合金膜であってもよい。また、金属化合物膜の金属は1種のみであっても2種以上の組み合わせであってもよい。金属として具体的には、Ag、Al、Au、Cr、Cu、Mo、Ni、Ru、Si、Ta、Ti、W等が挙げられる。これらの無機膜のなかでも、第16工程の無機膜のエッチングにおけるエッチングのしやすさの観点から、Cr膜、Si膜、Cr化合物膜、Si化合物膜が好ましく、Cr化合物として具体的には、CrN、CrO、CrNO、CrNOC(これらの式は化合物の構成元素を表し、各元素の比率は任意である。)等が挙げられ、Si化合物として具体的には、SiN(この式は化合物の構成元素を表し、各元素の比率は任意である。)等が挙げられる。無機膜の膜厚は、好ましくは200nm以下、より好ましくは50nm以下であり、また、好ましくは10nm以上である。
【0065】
無機膜は、スパッタ法により成膜することが可能である。具体的には、ターゲットとして、金属ターゲット、金属化合物ターゲット等、スパッタガスとして、アルゴンガス等の希ガスと、必要に応じて、酸素含有ガス、窒素含有ガス、炭素含有ガス等の反応性ガスとを用い、スパッタ装置で、合成石英ガラス基板上に無機膜を成膜する。電源は直流及び交流のいずれでもよいが、直流電源を用いる際は、アーク発生を抑制するための方策を適用することが好ましい。
【0066】
第14工程では、有機膜パターンを、有機膜のパターンの上に形成された無機膜と共に除去するが、有機膜を無機膜より十分に厚く形成すれば、有機膜のパターンの無機膜が形成されていない側部から、有機膜パターンを除去することにより、無機膜のうち、有機膜のパターンの上に形成された無機膜のみが除去される。この場合、有機膜パターンは、テトラメチルアンモニウムヒドロキシド(TMAH)等のアルカリ水溶液、キシレン系の有機溶剤等により除去することができる。
【0067】
第15工程では、合成石英ガラス基板の面の上に形成された無機膜により形成された無機膜パターン(ハードマスクパターン)をエッチングマスクとして、合成石英ガラス基板の表面部をエッチングして、ピラーパターン領域(複数のナノピラー)を形成する。このエッチングでは、無機膜パターンで被覆されていない、合成石英ガラス基板の表面が露呈した部分がエッチングされ(掘り込まれ)、パターンで被覆されている部分がエッチングされずに残り、ピラーパターン領域が形成される。
【0068】
合成石英ガラス基板をエッチングする方法としては、特に限定されないが、例えば、フッ酸やフッ化ナトリウムを含むエッチング水溶液へ浸漬するウェットエッチング、CF4、C3F6、C3F8、C4F8、C5F8、CHF3等の反応性ガスによるドライエッチングが挙げられる。
【0069】
第16工程では、無機膜パターンを除去する。無機膜パターンは、エッチングにより除去することができる。エッチングは、ウェットプロセス及びドライプロセスのいずれでもよいが、ウェットプロセスの場合は、無機膜の種類に応じたエッチング液を用いてエッチングする。ウェットプロセスとして具体的には、例えば、無機膜がCr又はCr化合物の場合は、Crエッチング液(硝酸セリウム第二アンモニウム水溶液)を用いるウェットエッチングが挙げられる。Crエッチング液の濃度は、特に限定されないが、5~20質量%が好ましい。一方、ドライプロセスの場合は、異方性エッチングが好適である。ドライプロセスとして具体的には、例えば、アルゴンイオンミリング、CF4、C3F6、C3F8、C4F8、C5F8、CHF3等の反応性ガスによるドライエッチングが挙げられる。
【実施例】
【0070】
以下、実施例及び比較例を示して本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に限定されるものではない。
【0071】
[実施例1]
まず、有機膜のナノインプリントリソグラフィに用いるインプリントモールドを作製した。20mm×20mm、厚さ0.525mmの正方形の合成石英ガラス基板上に、スパッタリング法により厚さ10nmのCrN層を形成した。その後、CrN層上に、ポジ型電子線レジスト(日本ゼオン(株)製、ZEP520A)をスピンコートし、180℃で10分間プリベークして、厚さ80nmのポジ型電子線レジスト層を形成した。その後、導電性高分子のチャージアップ防止剤(昭和電工(株)製、エスペイサー300Z)をスピンコートし、厚さ10nmの帯電防止層を形成した。
【0072】
次に、電子線描画装置((株)エリオニクス製、ELS-G125S)を用いて、直径100nmの円形のホールパターンを描画した。超純水による洗浄を行って帯電防止層を除去し、現像液(日本ゼオン(株)製、ZED-N50)、リンス液(日本ゼオン(株)製、ZMD-B)の順に浸漬処理して、乾燥させることにより、CrN層上に、レジストによる直径100nmの円形のホールパターンを形成した。
【0073】
次に、アルゴンイオンビームミリング装置(伯東(株)製、20IBE-C)を用いて、ホール形状のレジスト開口部のCrN層の、CrN層の表面が露呈している部分を選択的に除去して、ハードマスクとしてCrNのマスクパターンを形成した。その後、八フッ化プロパン(C3F8)ガスを用い、ドライエッチング装置((株)エリオニクス製、EIS-200ER)を用いて、CrNのマスクパターンで覆われていない合成石英ガラス基板の表面部をエッチングし、クロムエッチング液(林純薬工業(株)製)に浸漬させて、CrNのマスクパターンを除去して、直径100nmの円形のホールパターンを有する合成石英ガラス製のインプリントモールドを得た。得られたインプリントモールドには、離型剤FAS13((トリデカフルオロ‐1,1,2,2-テトラヒドロオクチル)トリメトキシシラン)を蒸着した。
【0074】
次に、直径100mmφ、厚さ0.525mmの円形の合成石英ガラス基板上に、スパッタリング法により厚さ10nmのCrN膜(無機膜)を形成した。その後、CrN膜上に、光硬化性のレジストを塗布し、厚さ80nmのレジスト膜(有機膜)を形成した。次に、ナノインプリント装置((株)三明製、ImpFlex Essential)を用いて、離型剤処理したインプリントモールドを押し当てレジスト膜を成形し、その状態でレジスト膜を硬化することにより、CrN膜上に、直径100nmの円形のドットパターンであるレジスト膜パターン(有機膜パターン)を形成した。その後、酸素反応性エッチング装置(国立大学法人東北大学製、IM-TU01)により、ドットパターン部分以外の部分に残存しているレジスト膜を除去した。
【0075】
次に、アルゴンイオンビームミリング装置(伯東(株)製、20IBE-C)を用いて、ドットパターンのレジスト膜パターン以外の、CrN膜の表面が露呈している部分を選択的に除去して、ハードマスクとしてCrNのマスクパターン(無機膜パターン)を形成した。その後、八フッ化プロパン(C3F8)ガスを用い、ドライエッチング装置((株)エリオニクス製、EIS-200ER)を用いて、CrNのマスクパターンで覆われていない合成石英ガラス基板の表面部をエッチングし、クロムエッチング液(林純薬工業(株)製)に浸漬させて、CrNのマスクパターンをレジスト膜パターンと共に除去して、合成石英ガラス基板の表面部に、合成石英ガラスで形成された円柱状のナノピラーを含むピラーパターン領域が形成された個体認証用構造体を得た。
【0076】
図6に、得られた個体認証用構造体のピラーパターン領域の走査型電子顕微鏡像を示す。この場合、ナノピラーの高さHは100nm、幅(直径)Wは100nm、アスペクト比(H/W)は1である。また、ナノピラーの配列は長方格子状の規則的周期であり、ナノピラーの配列周期は500nmである。一方、ナノインデンテーション法により測定されたピラーパターン領域のナノピラーの押込み弾性率は87GPaであった。
【0077】
[実施例2]
インプリントモールドに形成したホールパターンの直径(レジスト膜パターンのドットパターンの直径)を50nmとした以外は、実施例1と同様の方法により個体認証用構造体を得た。
図7に、得られた個体認証用構造体のピラーパターン領域の走査型電子顕微鏡像を示す。この場合、ナノピラーの高さHは200nm、幅(直径)Wは50nm、アスペクト比(H/W)は4である。また、ナノピラーの配列は正方格子状の規則的周期であり、ナノピラーの配列周期は250nmである。一方、ナノインデンテーション法により測定されたピラーパターン領域のナノピラーの押込み弾性率は44GPaであった。
【0078】
[実施例3]
20mm×20mm、厚さ0.525mmの正方形の合成石英ガラス基板上に、ポジ型電子線レジスト(日本ゼオン(株)製、ZEP520A)をスピンコートし、180℃で10分間プリベークして、厚さ80nmのポジ型電子線レジスト膜(有機膜)を形成した。その後、導電性高分子のチャージアップ防止剤(昭和電工(株)製、エスペイサー300Z)をスピンコートし、厚さ10nmの帯電防止層を形成した。
【0079】
次に、電子線描画装置((株)エリオニクス製、ELS-G125S)を用いて、直径50nmの円形のホールパターンと、原点マークとしてL字形状のラインパターンを描画した。超純水による洗浄を行って帯電防止層を除去し、現像液(日本ゼオン(株)製、ZED-N50)、リンス液(日本ゼオン(株)製、ZMD-B)の順に浸漬処理して、乾燥させることにより、直径50nmの円形のホールパターンであるレジスト膜パターン(有機膜パターン)を形成した。
【0080】
次に、レジスト膜上に、スパッタリング法により厚さ10nmのCrN膜(無機膜)を形成した。その後、トルエンに浸漬して、有機膜パターンを、有機膜のパターンの上に形成された無機膜と共に除去して、ハードマスクとしてCrNのマスクパターン(無機膜パターン)を、リフトオフ法により形成した。その後、八フッ化プロパン(C3F8)ガスを用い、ドライエッチング装置((株)エリオニクス製、EIS-200ER)を用いて、CrNのマスクパターンで覆われていない合成石英ガラス基板の表面部をエッチングし、クロムエッチング液(林純薬工業(株)製)に浸漬させて、CrNのマスクパターンを除去して、合成石英ガラス基板の表面部に、合成石英ガラスで形成された円柱状のナノピラーを含むピラーパターン領域が形成された個体認証用構造体を得た。
【0081】
図8に、得られた個体認証用構造体のピラーパターン領域の走査型電子顕微鏡像を示す。この場合、ナノピラーの高さHは100nm、幅(直径)Wは50nm、アスペクト比(H/W)は2である。また、ナノピラーの配列は正方格子状の規則的周期であり、ナノピラーの配列周期は250nmである。一方、ナノインデンテーション法により測定されたピラーパターン領域のナノピラーの押込み弾性率は62GPaであった。
【0082】
[実施例4]
レジスト膜パターンのホールパターンの直径を100nmとした以外は、実施例3と同様の方法により個体認証用構造体を得た。
図9に、得られた個体認証用構造体のピラーパターン領域の走査型電子顕微鏡像を示す。この場合、ナノピラーの高さHは300nm、幅(直径)Wは100nm、アスペクト比(H/W)は3である。また、ナノピラーの配列は正方格子状の規則的周期であり、ナノピラーの配列周期は500nmである。一方、ナノインデンテーション法により測定されたピラーパターン領域のナノピラーの押込み弾性率は47GPaであった。
【0083】
[実験例1]
ダイヤモンド製球状圧子((株)エリオニクス製、曲率半径200μm)を装備したナノインデンテーション試験機((株)エリオニクス製、ENT-2100)を用いて、実施例1で作製した個体認証用構造体のピラーパターン領域に、ダイヤモンド製球状圧子(剛体)をピラーパターン領域に接触させて押し込むことにより、ピラーパターン領域に形成された一部のナノピラーを高さ方向に押圧して塑性変形させた。具体的には、座標(X,Y)=(0,0)にあるL字形状の原点マークから、圧子を座標(30,30)に移動させ、5mN/sの押圧速度、100mNの荷重で押圧した。
【0084】
図10は、ピラーパターン領域のナノピラーの上面の光学顕微鏡像であり、(A)は塑性変形前、(B)は塑性変形後であり、(C)は(B)を画像解析用に画像変換(二値化)した画像である。ピラーパターン領域の上面像に、圧子の曲面形状を反映した楕円形状の押圧痕に成形されていることがわかる。また、画像解析ツールによる画像解析において、押圧痕は長軸9μm、短軸6μm、円形度0.76であることがわかった。
【0085】
図11は、ピラーパターン領域のナノピラーを塑性変形させた部分の上面の走査型電子顕微鏡像である。破線で囲われた領域A~E各々の縦5個×横5個の計25個のナノピラーの幅(直径)を計測した。領域B~
Eは、領域Aに対して、各領域の中心に位置するナノピラーが、各々、Y方向に+12個分、X方向に+12個分、Y方向に-12個分、X方向に-12個分移動した箇所に位置する。領域Aのナノピラーの幅(直径)は、最小値が172nm、最大値が188nmであり、平均値は179nmであった。領域Bのナノピラーの幅(直径)は、最小値が118nm、最大値が136nmであり、平均値は127nmであった。領域Cのナノピラーの幅(直径)は、最小値が128nm、最大値が158nmであり、平均値は143nmであった。領域Dのナノピラーの幅(直径)は、最小値が100nm、最大値が134nmであり、平均値は114nmであった。領域Eのナノピラーの幅(直径)は、最小値が120nm、最大値が138nmであり、平均値は130nmであった。いずれのナノピラーにおいても、塑性変形前は100nmであったナノピラーの幅(直径)が、塑性変形後に拡大していることがわかった。また、ナノピラーの幅(直径)は、領域内のナノピラー間で、また、領域間でも、分布を有していることがわかった。
【0086】
図12は、ピラーパターン領域のナノピラーを塑性変形させた部分の原子間力顕微鏡像であり、(A)は塑性変形前の上面像、(B)は塑性変形前の断面プロファイル、(C)は塑性変形後の上面像、(D)は塑性変形後の断面プロファイルである。
図12(A)及び(B)で示される塑性変形前の4個のナノピラー(No.1~4)の高さは、各々、106.09nm、105.87nm、105.94nm、105.06nmであり、設定した高さである100nmにほぼ一致していた。一方、
図12(C)及び(D)で示される塑性変形後の3個のナノピラー(No.1~3)の高さは、各々、50.36nm、50.92nm、50.39nmであり、塑性変形後に、高さが約1/2となったことがわかった。また、ナノピラーの高さは、ナノピラー間で、分布を有していることがわかった。なお、ナノピラーの高さも、前述したナノピラーの幅(直径)の場合と同様、所定の領域内のナノピラー間、また、領域間で、分布を確認することができる。
【0087】
[比較例1]
合成石英ガラスのドライエッチング時間を2倍とした以外は、実施例1と同様の方法により個体認証用構造体を得た。
図13に、得られた個体認証用構造体のピラーパターン領域の走査型電子顕微鏡像を示す。この場合、ナノピラーの高さHは200nm、幅(直径)Wは100nm、アスペクト比(H/W)は2である。また、ナノピラーの配列は正方格子状の規則的周期であり、ナノピラーの配列周期は500nmである。一方、ナノインデンテーション法により測定されたピラーパターン領域のナノピラーの押込み弾性率は31GPaであった。
【0088】
[比較実験例1]
比較例1で作製した個体認証用構造体を用い、実施例1と同様の方法により、ピラーパターン領域に形成された一部のナノピラーを高さ方向に押圧して塑性変形させた。
【0089】
図14(A)は、ピラーパターン領域のナノピラーを塑性変形させた部分の上面の走査型電子顕微鏡像である。塑性変形前は100nmであったナノピラーの幅(直径)が、塑性変形後に拡大していることが確認できるが、一部のナノピラーにおいて、欠けが生じ、欠片が散乱していることがわかる。また、
図14(B)は、
図14(A)を、画像解析用に画像変換(二値化)した画像であるが、画像解析ツールによる画像解析において、画像中央部の縦5個×横5個の計25個のナノピラーの範囲で、ナノピラーの個数が54個と計数され、ナノピラーの幅(直径)及び高さ並び
にそれらの分布を計測することができなかった。
【符号の説明】
【0090】
100 合成石英ガラス基板
101 ピラーパターン領域
102、102a、102b、102c、102d、102e、102f ナノピラー