(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-05
(45)【発行日】2024-03-13
(54)【発明の名称】ポリアリーレンスルフィドフィルム
(51)【国際特許分類】
C08J 5/18 20060101AFI20240306BHJP
B29C 55/12 20060101ALI20240306BHJP
【FI】
C08J5/18 CEW
C08J5/18 CEZ
B29C55/12
(21)【出願番号】P 2023186479
(22)【出願日】2023-10-31
【審査請求日】2023-10-31
(31)【優先権主張番号】P 2023017962
(32)【優先日】2023-02-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2023114572
(32)【優先日】2023-07-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000004503
【氏名又は名称】ユニチカ株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000002886
【氏名又は名称】DIC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100132263
【氏名又は名称】江間 晴彦
(74)【代理人】
【識別番号】100197583
【氏名又は名称】高岡 健
(72)【発明者】
【氏名】竹谷 豊
(72)【発明者】
【氏名】穴田 有弘
(72)【発明者】
【氏名】木原 澄人
(72)【発明者】
【氏名】松本 展幸
(72)【発明者】
【氏名】関根 信博
(72)【発明者】
【氏名】小橋 一範
【審査官】増永 淳司
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-38191(JP,A)
【文献】特開2016-27147(JP,A)
【文献】特開平10-237252(JP,A)
【文献】国際公開第95/33782(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J 5/18
B29C 55/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリアリーレンスルフィド樹脂(A)100質量部に対して、融点が290℃以上の反応性官能基を有する含フッ素系樹脂(B)5~99質量部を含み、5.8GHzにおける比誘電率が3.2以下であり、熱収縮率と線膨張係数が以下の式を満たすことを特徴とするポリアリーレンスルフィドフィルム。
-35≦Cx≦80
-35≦Cy≦80
-35≦Cz≦100
-0.1≦Sx≦0.1
-0.1≦Sy≦0.1
(式中、CxはMD方向の線膨張係数(ppm/℃)であり、CyはTD方向の線膨張係数(ppm/℃)であり、Czは厚み方向の線膨張係数(ppm/℃)であり、SxはMD方向の熱収縮率(%)であり、SyはTD方向の熱収縮率(%)である。)
【請求項2】
前記Cxおよび前記Cyが80ppm/℃以下であり、前記Czが80ppm/℃以下であり、前記Sxが0.05%以下であり、および前記Syが0.05%以下である、請求項1に記載のポリアリーレンスルフィドフィルム。
【請求項3】
比誘電率が3.0以下である、請求項1に記載のポリアリーレンスルフィドフィルム。
【請求項4】
前記含フッ素系樹脂(B)が8質量部よりも多く含まれる、請求項1に記載のポリアリーレンスルフィドフィルム。
【請求項5】
前記ポリアリーレンスルフィド樹脂(A)と、前記含フッ素系樹脂(B)を含む原料樹脂組成物の未延伸シートを用意する工程と、
長手方向に2.4~3.6倍、幅方向に2.5~4.0倍の延伸倍率で、かつ前記長手方向の延伸倍率に対する前記幅方向の延伸倍率に対する比率が1.00よりも大きく1.50以下の条件で、前記未延伸シートを延伸する延伸工程と
を含み、
前記延伸工程時に、250~285℃の温度範囲での熱固定処理と、熱固定温度下でリラックス処理とを行う、請求項1に記載のポリアリーレンスルフィドフィルムの製造方法。
【請求項6】
前記延伸工程後に、延伸したシートに対して180℃以上280℃未満の温度でアニール処理を行う工程を含む、請求項5に記載の製造方法。
【請求項7】
前記長手方向の延伸倍率が3.0倍未満である、請求項5に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリアリーレンスルフィドフィルムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、電気、電子部品分野において高速・大容量化の流れから、伝送損失の小さい材料が求められている。かかる材料として、ポリフェニレンスルフィド(PPS)に代表されるポリアリーレンスルフィド(PAS)が、吸湿性が低く誘電特性に優れるため、金属を含むフレキシブルプリント配線板(FPC)やフレキシブルフラットケーブル(FFC)への適用が検討されている。
【0003】
ここで、特許文献1には、PASに加えスルホニル基を有する樹脂のフィルムが示されており、フィルムの長手方向の厚みムラと面方向の寸法変化率を特定の範囲にする技術が開示されている。特許文献2には、絶縁破壊電圧と熱膨張係数または熱収縮率を両立させる技術等の面方向の熱寸法安定性を制御する技術が開示されている。
【0004】
特許文献3、4には、PPSをさらに低誘電率化する技術として、フッ素系樹脂を含む樹脂組成物が開示されている。特許文献5,6には、PPSと液晶ポリエステルを含む低熱膨張性に優れたポリアリーレンスルフィドフィルムも開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2022-151606号公報
【文献】国際公開2019/176756号
【文献】国際公開2022/91473号
【文献】国際公開2022/149427号
【文献】特開2004-244630号公報
【文献】特開2007-291222号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、ポリアリーレンスルフィド(PAS)フィルムにおいて、スルホニル基を有する樹脂が含まれる場合、Tgがリフロー温度以下の非晶性樹脂であるため、リフロー耐性や誘電特性の点で十分ではないおそれがある。また、PASフィルムにおいて、その組成によっては、金属部材への積層時に位置ずれをもたらすおそれがある。更に、液晶ポリエステルが含まれる場合、液晶ポリエステルは延伸によって面配向させると、厚み方向の寸法安定性が低下し、またボイドの存在により、スルーホールの信頼性が十分ではないおそれがある。
【0007】
本発明は、前記の問題点を解決しようとするものである。具体的には、本発明は、金属部材への積層が可能であり、連続延伸性、リフロー耐性、誘電特性、およびスルーホールの信頼性に優れたポリアリーレンスルフィドフィルムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、ポリアリーレンスルフィド樹脂(A)と、融点が290℃以上の反応性官能基を有する含フッ素系樹脂(B)を特定の比率で含み、面方向と厚み方向の線膨張係数と面方向の熱収縮率を特定の範囲としたポリアリーレンスルフィドフィルムを用いることにより、上記目的が達成されることを見出し、本発明に到達した。
【0009】
すなわち、本発明の要旨は以下の通りである。
(1)ポリアリーレンスルフィド樹脂(A)100質量部に対して、融点が290℃以上の反応性官能基を有する含フッ素系樹脂(B)5~99質量部を含み、5.8GHzにおける比誘電率が3.2以下であり、熱収縮率と線膨張係数が以下の式を満たすことを特徴とするポリアリーレンスルフィドフィルム。
-35≦Cx≦80
-35≦Cy≦80
-35≦Cz≦100
-0.1≦Sx≦0.1
-0.1≦Sy≦0.1
(式中、CxはMD方向の線膨張係数(ppm/℃)であり、CyはTD方向の線膨張係数(ppm/℃)であり、Czは厚み方向の線膨張係数(ppm/℃)であり、SxはMD方向の熱収縮率(%)であり、SyはTD方向の熱収縮率(%)である。)
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、金属部材への積層が可能であり、連続延伸性、リフロー耐性、誘電特性、およびスルーホールの信頼性に優れたポリアリーレンスルフィドフィルムを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を実施するための形態について詳細に説明する。本発明のポリアリーレンスルフィドフィルムは、ポリアリーレンスルフィド樹脂(A)100質量部に対して、融点が290℃以上の反応性官能基を有する含フッ素系樹脂(B)5~99質量部を含み、MD方向、TD方向の熱収縮率とMD方向、TD方向、厚み方向の線膨張係数を特定の範囲としたものである。なお、本明細書において数値範囲を示す際に用いる「~」については、下限値以上であって上限値以下である、即ち下限値と上限値それ自体も含み得る。
【0012】
本発明でいうMD方向とは、フィルムロールの帯状方向をいい、TD方向とはMD方向に垂直な方向すなわちフィルムロールの両端方向をいう。
【0013】
本発明のポリアリーレンスルフィドフィルムは、150℃で15分間保持した時のMD方向の熱収縮率SxとTD方向の熱収縮率Syが以下の式を満たす必要がある。熱収縮率が負の値になることは、膨張することを示す。SxとSyのいずれか一方でもこの範囲を超えると、回路基板を製造する際、積層時の加熱工程において位置ずれが起こるため、基板として好適に用いることが出来ない。
-0.1≦Sx≦0.1
-0.1≦Sx≦0.1
【0014】
本発明のポリアリーレンスルフィドフィルムは、後述する測定方法により求められるMD方向の線膨張係数Cx、TD方向の線膨張係数Cy、厚み方向の線膨張係数Czが以下の式を満たす必要がある。CxとCyのいずれか一方でもこの範囲を超えると、回路基板を製造する際、積層などの加熱工程において変形が起こるため、基板として好適に用いることが出来ない。またCzがこの範囲を超えると、スルーホール信頼性に劣るため、基板として好適に用いることが出来ない。
-35≦ Cx ≦80
-35≦ Cy ≦80
-35≦ Cz ≦100
なお、Czはスルーホール信頼性向上の観点から、90ppm/℃以下であることが好ましく、80ppm/℃以下であることがより好ましい。
【0015】
MD方向、TD方向の熱収縮率とMD方向、TD方向、厚み方向の線膨張係数が上記の
範囲とするための方法は特に限られるものではないが、本発明のPAS樹脂(A)100質量部に対して融点290℃以上の反応性官能基を有するフッ素系樹脂(B)を5~99質量部含み、製膜工程において延伸倍率、熱固定温度、弛緩倍率、アニール処理を制御することによって達成できる。
【0016】
[ポリアリーレンスルフィド系樹脂(A)]
ポリアリーレンスルフィド系樹脂(A)(以下、「PAS系樹脂」と称することがある)は、樹脂組成物の主成分であり、フィルムに優れた耐熱性、靭性を付与する機能を有する成分である。
PAS系樹脂(A)は、芳香族環と硫黄原子とが結合した構造(具体的には、下記式(1)で表される構造)を繰り返し単位として含む重合体である。
【0017】
[化1]
上記式中、R
1は、それぞれ独立して、水素原子、炭素原子数1~4のアルキル基、ニトロ基、アミノ基、フェニル基、メトキシ基、エトキシ基を表し、nは、それぞれ独立して、1~4の整数である。
【0018】
ここで、式(1)で表される構造中のR1は、いずれも水素原子であることが好ましい。かかる構成により、PAS系樹脂(A)の機械的強度をより高めることができる。R1がいずれも水素原子である式(1)で表される構造としては、下記式(2)で表される構造(すなわち、硫黄原子が芳香族環に対してパラ位で結合する構造)、および下記式(3)で表される構造(すなわち、硫黄原子が芳香族環に対してメタ位で結合する構造)が挙げられる。
【0019】
[化2]
これらの中でも、式(1)で表される構造は、式(2)で表される構造であることが好ましい。式(2)で表される構造を有するPAS系樹脂(A)であれば、耐熱性や結晶性をより向上させることができる。
【0020】
また、PAS系樹脂(A)は、上記式(1)で表される構造のみならず、下記式(4)~(7)で表される構造を繰り返し単位として含んでいてもよい。
【0021】
【0022】
式(4)~(7)で表される構造は、PAS系樹脂(A)を構成する全繰り返し単位中に、30モル%以下含まれることが好ましく、10モル%以下含まれることがより好ましい。かかる構成により、PAS系樹脂(A)の耐熱性や機械的強度をより高めることができる。また、式(4)~(7)で表される構造の結合様式としては、ランダム状、ブロック状のいずれであってもよい。
【0023】
また、PAS系樹脂(A)は、その分子構造中に、下記式(8)で表される3官能性の構造、ナフチルスルフィド構造等を繰り返し単位として含んでいてもよい。
【0024】
【0025】
式(8)で表される構造、ナフチルスルフィド構造等は、PAS系樹脂(A)を構成する全繰り返し単位中に、1モル%以下含まれることが好ましく、実質的には含まれないことがより好ましい。かかる構成により、PAS系樹脂(A)中における塩素原子の含有量を低減することができる。また、PAS系樹脂(A)の特性は、本発明の効果を損ねない限り、特に限定されないが、その300℃における溶融粘度(V6)は、50~2000Pa・sであることが好ましく、さらに流動性および機械的強度のバランスが良好となることから、80~1500Pa・sであることがより好ましい。
【0026】
さらに、PAS系樹脂(A)は、ゲル浸透クロマトグラフィ(GPC)を用いた測定において、分子量25,000~40,000の範囲にピークを有し、かつ重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)との比率(Mw/Mn)が5~10の範囲にあり、かつ、非ニュートン指数が0.9~1.3の範囲にあることが特に好ましい。かかるPAS系樹脂(A)を用いることにより、フィルムの機械的強度を低下させることなく、PAS系樹脂(A)自体における塩素原子の含有量を800~2,000ppmの範囲にまで低減でき、ハロゲンフリーの電子・電気部品用途への適用が容易となる。
【0027】
なお、本明細書において、重量平均分子量(Mw)、数平均分子量(Mn)および分子量分布(Mw/Mn)は、それぞれゲル浸透クロマトグラフィ(GPC)により測定された値を採用する。なお、GPCの測定条件は、以下の通りである。
[ゲル浸透クロマトグラフィーによる測定条件]
装置:超高温ポリマー分子量分布測定装置(センシュウ科学社製SSC-7000)
カラム :UT-805L(昭和電工社製)
カラム温度:210℃
溶媒 :1-クロロナフタレン
測定方法 :UV検出器(360nm)で6種類の単分散ポリスチレンを校正に
用いて分子量分布とピーク分子量を測定する。
【0028】
PAS系樹脂(A)の製造方法としては、特に限定されないが、例えば、1)硫黄と炭酸ソーダの存在下で、ジハロゲノ芳香族化合物を、必要ならばポリハロゲノ芳香族化合物ないしその他の共重合成分を加えて、重合させる方法、2)極性溶媒中でスルフィド化剤等の存在下に、ジハロゲノ芳香族化合物を、必要ならばポリハロゲノ芳香族化合物ないしその他の共重合成分を加えて、重合させる方法、3)p-クロルチオフェノールを、必要ならばその他の共重合成分を加えて、自己縮合させる方法等が挙げられる。これらの製造方法の中でも、上記2)の方法が汎用的であり好ましい。なお、反応の際には、重合度を調節するために、カルボン酸やスルホン酸のアルカリ金属塩や、水酸化アルカリを添加してもよい。
【0029】
上記2)の方法の中でも、次の2-1)の方法または2-2)の方法が特に好ましい。
2-1)の方法では、加熱した有機極性溶媒とジハロゲノ芳香族化合物とを含む混合物に、含水スルフィド化剤を、水が反応混合物から除去され得る速度で導入し、有機極性溶媒中でジハロゲノ芳香族化合物とスルフィド化剤とを、必要に応じてポリハロゲノ芳香族化合物と加え、反応させる際に、反応系内の水分量を、有機極性溶媒1モルに対して0.02~0.5モルの範囲にコントロールすることにより、PAS系樹脂(A)を製造する(特開平07-228699号公報参照)。2-2)の方法では、固形のアルカリ金属硫化物および非プロトン性極性有機溶媒の存在下で、ジハロゲノ芳香族化合物と、必要ならばポリハロゲノ芳香族化合物ないしその他の共重合成分を加え、アルカリ金属水硫化物および有機酸アルカリ金属塩とを反応させる際に、有機酸アルカリ金属塩の量を硫黄源1モルに対して0.01~0.9モルの範囲にコントロールすること、および反応系内の水分量を非プロトン性極性有機溶媒1モルに対して0.02モル以下の範囲にコントロールすることにより、PAS系樹脂(A)を製造する(WO2010/058713号参照)。
【0030】
ジハロゲノ芳香族化合物の具体例としては、p-ジハロベンゼン、m-ジハロベンゼン、o-ジハロベンゼン、2,5-ジハロトルエン、1,4-ジハロナフタレン、1-メトキシ-2,5-ジハロベンゼン、4,4’-ジハロビフェニル、3,5-ジハロ安息香酸、2,4-ジハロ安息香酸、2,5-ジハロニトロベンゼン、2,4-ジハロニトロベンゼン、2,4-ジハロアニソール、p,p’-ジハロジフェニルエーテル、4,4’-ジハロベンゾフェノン、4,4’-ジハロジフェニルスルホン、4,4’-ジハロジフェニルスルホキシド、4,4’-ジハロジフェニルスルフィド、および上記各化合物の芳香環に炭素原子数1~18の範囲のアルキル基を有する化合物が挙げられる。
また、ポリハロゲノ芳香族化合物としては、1,2,3-トリハロベンゼン、1,2,4-トリハロベンゼン、1,3,5-トリハロベンゼン、1,2,3,5-テトラハロベンゼン、1,2,4,5-テトラハロベンゼン、1,4,6-トリハロナフタレンなどが挙げられる。なお、上記化合物中に含まれるハロゲン原子は、塩素原子、臭素原子であることが望ましい。
【0031】
重合工程により得られたPAS系樹脂(A)を含む反応混合物の後処理方法には、公知慣用の方法が用いられる。かかる後処理方法としては、特に限定されないが、例えば、次の(1)~(5)の方法が挙げられる。
(1)の方法では、重合反応終了後、まず反応混合物をそのまま、あるいは酸または塩基を加えた後、減圧下または常圧下で溶媒を留去し、次いで溶媒留去後の固形物を水、反応溶媒(または低分子ポリマーに対して同等の溶解度を有する有機溶媒)、アセトン、メチルエチルケトン、アルコール類などの溶媒で1回または2回以上洗浄し、さらに中和、水洗、濾過および乾燥する。
(2)の方法では、重合反応終了後、反応混合物に水、アセトン、メチルエチルケトン、アルコール類、エーテル類、ハロゲン化炭化水素、芳香族炭化水素、脂肪族炭化水素などの溶媒(使用した重合溶媒に可溶であり、かつ少なくともPAS系樹脂(A)に対しては貧溶媒である溶媒)を沈降剤として添加して、PAS系樹脂(A)や無機塩等の固体状生成物を沈降させ、これらを濾別、洗浄、乾燥する。
【0032】
(3)の方法では、重合反応終了後、反応混合物に反応溶媒(または低分子ポリマーに対して同等の溶解度を有する有機溶媒)を加えて攪拌した後、濾過して低分子量重合体を除いた後、水、アセトン、メチルエチルケトン、アルコール類などの溶媒で1回または2回以上洗浄し、その後中和、水洗、濾過および乾燥する。
(4)の方法では、重合反応終了後、反応混合物に水を加えて水洗浄、濾過、必要に応じて水洗浄のときに酸を加えて酸処理し、乾燥する。
(5)の方法では、重合反応終了後、反応混合物を濾過し、必要に応じ、反応溶媒で1回または2回以上洗浄し、さらに水洗浄、濾過および乾燥する。
【0033】
上記(4)の方法で使用可能な酸としては、例えば、蟻酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、カプロン酸、モノクロロ酢酸等の飽和脂肪酸、アクリル酸、クロトン酸、オレイン酸等の不飽和脂肪酸、安息香酸、フタル酸、サリチル酸等の芳香族カルボン酸、マレイン酸、フマル酸等のジカルボン酸、メタンスルホン酸、パラトルエンスルホン酸等のスルホン酸等の有機酸、塩酸、硫酸、亜硫酸、硝酸、亜硝酸、リン酸等の無機酸が挙げられる。また、水素塩としては、例えば、硫化水素ナトリウム、リン酸水素二ナトリウム、炭酸水素ナトリウム等が挙げられる。ただし、実機での使用においては、金属部材への腐食が少ない有機酸が好ましい。なお、上記(1)~(5)の方法において、PAS系樹脂(A)の乾燥は、真空中で行ってもよいし、空気中あるいは窒素のような不活性ガス雰囲気中で行ってもよい。
【0034】
特に、上記(4)の方法で後処理されたPAS系樹脂(A)は、その分子末端に結合する酸基の量が増加することで、反応性官能基を有する含フッ素系樹脂(B)、変性エラストマー(C)やシランカップリング剤(D)と混合する場合、それらの分散性を高める効果が得られる。酸基としては、特に、カルボキシル基であることが好ましい。
【0035】
[反応性官能基を有する含フッ素系樹脂(B)]
反応性官能基を有する含フッ素系樹脂(B)(含フッ素系樹脂(B))は、カルボニル基含有基、ヒドロキシ基、エポキシ基及びイソシアネート基からなる群から選ばれる少なくとも1種の反応性官能基を有する。これらの反応性官能基が2種以上含まれても良い。中でも、PAS系樹脂(A)との反応性に優れる点からカルボニル基含有基が好ましい。カルボニル基含有基としては、炭化水素基の炭素原子間にカルボニル基を有する基、カーボネート基、カルボキシ基、ハロホルミル基、アルコキシカルボニル基、酸無水物基、ポリフルオロアルコキシカルボニル基等が挙げられる。
【0036】
含フッ素系樹脂(B)の反応性官能基を導入する方法としては、(1)重合反応で反応性官能基を有する含フッ素系樹脂の主鎖を製造する際に、反応性官能基を有するモノマーを使用する。(2)反応性官能基を有するラジカルを発生する連鎖移動剤を用いて、重合反応で官能基を有する含フッ素系樹脂(B)を製造する。(3)反応性官能基を有するラジカルを発生する重合開始剤を用いて、重合反応で官能基を有する含フッ素系樹脂(B)を製造する。(4)フッ素系樹脂を酸化、熱分解などの手法により変性する方法などが挙げられる。また、(5)フッ素系樹脂に相溶し、前記官能基を含有する化合物または樹脂を配合する方法が挙げられる。
【0037】
反応性官能基含有単量体としては、カルボニル基含有基を有する単量体、エポキシ基含有単量体、ヒドロキシ基含有単量体、イソシアネート基含有単量体等が挙げられる。
【0038】
カルボキシル基含有基を有する単量体としては、不飽和ジカルボン酸(マレイン酸、イタコン酸、シトラコン酸、クロトン酸、ハイミック酸、5-ノルボルネン-2、3-ジカルボン酸、マレイン酸)、それらの不飽和ジカルボン酸無水物、不飽和モノカルボン酸(アクリル酸、メタクリル酸)、ビニルエステル(酢酸ビニル、クロロ酢酸ビニル、ブタン酸ビニル、ピバル酸ビニル、安息香酸ビニル、クロトン酸ビニル)等が挙げられる。
【0039】
ヒドロキシ基含有単量体としては、ヒドロキシ基含有ビニルエステル、ヒドロキシ基含有ビニルエーテル、ヒドロキシ含有アリルエーテル、ヒドロキシ含有(メタ)アクリレート、クロトン酸ヒドロキシエチル、アリルアルコール等が挙げられる。
【0040】
エポキシ基含有単量体としては、不飽和グリシジルエーテル(アリルグリシジルエーテル、2-メチルアリルグリシジルエーテル、ビニルグリシジルエーテル等)、不飽和グリシジルエステル(アクリル酸グリシジル、メタクリル酸グリシジル等)が挙げられる。
【0041】
イソシアネート基含有単量体としては、2-(メタ)アクリロイルオキシエチルイソシアネート、2-(2-(メタ)アクリロイルオキシエトキシ)エチルイソシアネート、1,1-ビス((メタ)アクリロイルオキシメチル)エチルイソシアネート等が挙げられる。
【0042】
含フッ素系樹脂(B)中に含まれる反応性官能基量は、含フッ素系樹脂(B)を構成する全単位のうち、0.01~3モル%が好ましく、0.03~2モル%がより好ましく、0.05~1モル%がさらに好ましい。反応性官能基量が前記範囲内であれば、PAS系樹脂との反応性に優れ、流動性の悪化も抑制できる。
【0043】
含フッ素系樹脂(B)の構造は、特に限定されるものでは無いが、少なくとも1種のフルオロオレフィン単位から構成される。例えば、テトラフルオロエチレン重合体や、パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)、ヘキサフルオロプロピレン、フッ化ビニリデン、フッ化ビニル、トリフルオロエチレン、クロロトリフルオロエチレンとの共重合体、更には、エチレン、プロピレン、ブテン、アルキルビニルエーテル類等のフッ素を含まない非フッ素エチレン系単量体との共重合体も挙げられる。具体的には、ポリテトラフルオロエチレン、エチレンーテトラフルオロエチレン共重合体、テトラフルオロエチレン-パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)共重合体、テトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体、エチレン-テトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体、ポリフッ化ビニリデン、ポリクロロトリフルオロエチレン等が挙げられる。中でも、溶融押出性が容易である点からエチレンーテトラフルオロエチレン共重合体、テトラフルオロエチレン-パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)共重合体、テトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体が好ましい。
【0044】
本発明で用いられる含フッ素系樹脂(B)の融点は、290℃以上であることが必要であり、290℃~340℃が好ましい。リフロー炉内にてPASフィルムに対してリフロー処理を行う際、リフロー温度として、290℃未満、例えば250℃付近に設定され得る場合がある。この場合、含フッ素系樹脂(B)の融点が290℃未満であれば、PASフィルムはリフロー耐熱性に劣る。
【0045】
本発明で用いられる含フッ素系樹脂(B)のガラス転移温度は、特に限定されるものではないが、130℃以下であり、120℃以下、110℃以下がより好ましい。前記のガラス転移温度を有する含フッ素系樹脂(B)であれば、PAS系樹脂(A)との混合後の延伸において、連続相であるPAS系樹脂(A)と分散相である含フッ素系樹脂(B)との界面での剥離を抑える事ができる。それにより、延伸時の破断が抑制でき、更には、優れた機械物性を有するフィルムを得る事ができる。
【0046】
本発明におけるポリアリーレンスルフィドフィルム中における含フッ素系樹脂(B)の含有量は、PAS樹脂100質量部に対して5~99質量部であることが必要であり、8質量部よりも大きく50質量部以下であることが好ましい。含フッ素系樹脂(B)の含有量が5質量部未満であれば、フィルムの誘電率を低減する効果に劣るものとなる。また、融点290℃以上の含フッ素系樹脂(B)の含有量が相対的に少ないが故に、リフロー耐熱性も劣ることになり得る。また、99質量部を超えると、厚み方向の線膨張係数と面方向の線膨張係数が共に所定値以下とすることが困難となり、スルーホール信頼性に劣ることになり得る。
【0047】
本発明では、含フッ素系樹脂(B)と共に反応性官能基を含有しない含フッ素系樹脂を併用することも可能である。
【0048】
[変性エラストマー(C)]
変性エラストマー(C)は、PAS系樹脂(A)および含フッ素系樹脂(B)の少なくとも一方と反応可能な反応性基を有することにより、フィルムの機械的強度(耐折強度等)を向上させる機能を有する成分である。変性エラストマー(C)が有する反応性基としては、エポキシ基および酸無水物基からなる群から選ばれる少なくとも1種であることが好ましく、エポキシ基であることがより好ましい。これらの反応性基は、PAS系樹脂(A)および含フッ素系樹脂(B)が有する官能基と迅速に反応可能である。
【0049】
かかる変性エラストマー(C)としては、α-オレフィンに基づく繰り返し単位と、上記官能基を有するビニル重合性化合物に基づく繰り返し単位とを含む共重合体、α-オレフィンに基づく繰り返し単位と、上記官能基を有するビニル重合性化合物に基づく繰り返し単位と、アクリル酸エステルに基づく繰り返し単位とを含む共重合体等が挙げられる。
【0050】
α-オレフィンとしては、エチレン、プロピレン、ブテン-1等の炭素数2~8のα-オレフィン等が挙げられる。また、官能基を有するビニル重合性化合物としては、アクリル酸、メタクリル酸、アクリル酸エステル、メタクリル酸エステル等のα,β-不飽和カルボン酸およびそのエステル、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、その他炭素数4~10の不飽和ジカルボン酸、そのモノまたはジエステル、その酸無水物等のα,β-不飽和ジカルボン酸、そのエステルおよびその酸無水物、α,β-不飽和グリシジルエステル等が挙げられる。
【0051】
α,β-不飽和グリシジルエステルとしては、特に限定されないが、下記式(9)で表される化合物等が挙げられる。
【0052】
【0053】
上記式中、R3は、炭素数1~6のアルケニル基である。
炭素数1~6のアルケニル基としては、ビニル基、1-プロペニル基、2-プロペニル基、1-メチルエテニル基、1-ブテニル基、2-ブテニル基、1-メチル-1-プロペニル基、1-メチル-2-プロペニル基、2-メチル-1-プロペニル基、2-メチル-2-プロペニル基、1-ペンテニル基、2-ペンテニル基、3-ペンテニル基、4ペンテニル基、1-メチル-1-ペンテニル基、1-メチル-3-ペンテニル基、1,1-ジメチル-1-ブテニル基、1-ヘキセニル基、3-ヘキセニル基等が挙げられる。
【0054】
R4は、それぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1~6のアルキル基である。ハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子が挙げられる。炭素数1~6のアルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、ペンチル基、2-メチルブチル基、3-メチルブチル基、2,2-ジメチルプロピル基、ヘキシル基、1-メチルペンチル基、2-メチルペンチル基、3-メチルペンチル基、4-メチルペンチル基、2,2-ジメチルブチル基、2,3-ジメチルブチル基、2,4-ジメチルブチル基、3,3-ジメチルブチル基、2-エチルブチル基等が挙げられる。
【0055】
α,β-不飽和グリシジルエステルの具体例としては、グリシジルアクリレート、グリシジルメタクリレート等が挙げられ、グリシジルメタクリレートであることが好ましい。
変性エラストマー(C)中に占めるα-オレフィンに基づく繰り返し単位の割合は、50~95質量%であることが好ましく、50~80質量%であることがより好ましい。α-オレフィンに基づく繰り返し単位の占める割合が上記範囲であれば、フィルムの延伸均一性、耐折強度等を向上することができる。また、変性エラストマー(C)中に占める官能基を有するビニル重合性化合物に基づく繰り返し単位の割合は、1~30質量%であることが好ましく、2~20質量%であることがより好ましい。官能基を有するビニル重合性化合物に基づく繰り返し単位の占める割合が上記範囲であれば、目的とする改善効果のみならず、良好な押出安定性が得られる。
【0056】
ポリアリーレンスルフィドフィルム中における変性エラストマー(C)の含有量は、PAS樹脂100質量部に対して1~25質量部であることが好ましく、1~10質量部であることがより好ましい。変性エラストマー(C)の含有量が上記範囲であれば、フィルムの誘電特性、耐折強度等の向上効果が顕著に発揮される。
【0057】
[シランカップリング剤(D)]
本発明におけるシランカップリング剤(D)は、PAS系樹脂(A)と、他の成分である反応性官能基を有する含フッ素系樹脂(B)、変性エラストマー(C)との相溶性(相互作用)を高める機能を有する成分である。シランカップリング剤(D)を使用することにより、PAS系樹脂(A)中における他の成分の分散性が飛躍的に向上し、良好なモルフォロジーを形成することができる。
【0058】
シランカップリング剤(D)は、カルボキシル基と反応し得る官能基を有する化合物であることが好ましい。かかるシランカップリング剤(D)は、PAS系樹脂(A)および含フッ素系樹脂(B)と反応することで、これらと強固に結合する。その結果、シランカップリング剤(D)の効果がより顕著に発揮され、PAS系樹脂(A)中における含フッ素系樹脂(B)の分散性を特に高めることができる。
【0059】
かかるシランカップリング剤(D)としては、例えば、エポキシ基、イソシアネート基、アミノ基または水酸基を有する化合物が挙げられる。シランカップリング剤(D)の具体例としては、γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、β-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン等のエポキシ基含有アルコキシシラン化合物、γ-イソシアナトプロピルトリメトキシシラン、γ-イソシアナトプロピルトリエトキシシラン、γ-イソシアナトプロピルメチルジメトキシシラン、γ-イソシアナトプロピルメチルジエトキシシラン、γ-イソシアナトプロピルエチルジメトキシシラン、γ-イソシアナトプロピルエチルジエトキシシラン、γ-イソシアナトプロピルトリクロロシラン等のイソシアナト基含有アルコキシシラン化合物、γ-(2-アミノエチル)アミノプロピルメチルジメトキシシラン、γ-(2-アミノエチル)アミノプロピルトリメトキシシラン、γ-アミノプロピルトリメトキシシラン等のアミノ基含有アルコキシシラン化合物、γ-ヒドロキシプロピルトリメトキシシラン、γ-ヒドロキシプロピルトリエトキシシラン等の水酸基含有アルコキシシラン化合物が挙げられる。
【0060】
ポリアリーレンスルフィドフィルム中におけるシランカップリング剤(D)の含有量は、PAS樹脂100質量部に対して0.05~5質量部であることが好ましく、0.1~3質量部であることがより好ましい。シランカップリング剤(D)の含有量が上記範囲であれば、PAS系樹脂(A)中における他の成分の分散性を向上する効果が顕著に発揮される。
【0061】
[添加剤]
樹脂組成物は、本発明の効果を阻害しない範囲であれば、可塑剤、耐候剤、酸化防止剤、熱安定剤、紫外線安定剤、滑剤、帯電防止剤、着色剤等を含有してもよい。
【0062】
[原料の製造方法]
本発明のポリアリーレンスルフィドフィルムの原料樹脂組成物の製造方法としては、特に限定されないが、PAS系樹脂(A)、含フッ素系樹脂(B)、および必要に応じて、変性エラストマー(C)、シランカップリング剤(D)、その他の成分をタンブラーまたはヘンシェルミキサー等で均一に混合し、次いで、二軸押出機に投入して溶融混練する方法が挙げられ、この溶融混練は剪断流動場での混練、伸長流動場での混練のいずれか一方、若しくは、両方であってもよい。この溶融混練は、混練物の吐出量(kg/hr)とスクリュー回転数(rpm)との比率(吐出量/スクリュー回転数)が0.02~0.2(kg/hr・rpm)となる条件で行うことが好ましい。
【0063】
混合時の設定温度は、PAS系樹脂(A)及び含フッ素系樹脂(B)のうち融点が高い方の樹脂の融点より+5~70℃の範囲が選択され、+10~50℃の範囲がより好ましい。設定温度がPAS系樹脂(A)及び含フッ素系樹脂(B)の融点より低い場合には、部分的に融解しないPAS系樹脂(A)または含フッ素系樹脂(B)の存在により、組成物の粘度が大幅に上昇し、二軸押出機への負荷が大きくなるため生産性上好ましくない。
【0064】
更に詳述すれば、各成分を二軸押出機内に投入し、前記設定温度でストランドダイでの樹脂温度310℃程度の温度条件下に溶融混練する方法が好ましい。この際、混練物の吐出量は、回転数250rpmで5~50kg/hrの範囲となる。特に各成分の分散性を高める観点からは、混練物の吐出量は、回転数250rpmで20~35kg/hrであることが好ましい。よって、混練物の吐出量(kg/hr)とスクリュー回転数(rpm)との比率(吐出量/スクリュー回転数)は、0.08~0.14(kg/hr・rpm)であることがより好ましい。
【0065】
マトリックス中に分散する粒子(分散相)の平均粒径(平均分散径)は、5μm以下であることが好ましく、3μm以下であることがより好ましく、0.5~3μmであることがさらに好ましい。粒子の平均粒径が上記範囲であれば、均一かつ均質なフィルムを得やすい。
【0066】
[フィルムの製造方法]
本発明のポリフェニレンスルフィドフィルムの製造方法は特に限定されないが、例えば、ポリフェニレンスルフィド原料樹脂組成物を押出機内にて溶融混合した後、Tダイを通じてシート状に押出し、このシート状物をドラム上に密着して冷却し未延伸フィルムを製造し、得られた未延伸フィルムを延伸機に導き延伸し、さらに熱処理を施す方法が挙げられる。
【0067】
ポリフェニレンスルフィド樹脂組成物は、シリンダー温度を融点270~350℃で3~15分間溶融混合した後、Tダイを通じてシート状に押出し、この押し出されたシート状物を、-10~70℃に温度調節されたドラム上に密着させて冷却することにより未延伸フィルムを製造することができる。溶融混合を行う装置においては、シリンダー、バレルの溶融部、計量部、単管、フィルター、Tダイ等の表面に対して、樹脂の滞留を防ぐため、その表面の粗さを小さくする処理が施されていることが好ましい。表面の粗さを小さくする方法としては、例えば、極性の低い物質で改質する方法が挙げられる。または、その表面に窒化珪素やダイヤモンドライクカーボンを蒸着させる方法が挙げられる。
【0068】
延伸は、同時二軸延伸、逐次二軸延伸、チュブラー法いずれの方法でおこなってもよいが、フィルムの厚み精度を向上させ、フィルムの長手方向(MD)と幅方向(TD)の物性を簡便に調整することができる観点から逐次二軸延伸や、MDとTD倍率が可変できるリニア式同時二軸延伸が好ましい。
【0069】
本発明のポリフェニレンスルフィドフィルムの延伸温度は、ポリフェニレンスルフィド樹脂のガラス転移温度(Tg)~Tg+40℃とすることが好ましく、Tg+5℃~Tg+30℃とすることがより好ましく、Tg+5℃~Tg+20℃とすることがさらに好ましい。
【0070】
本発明のポリフェニレンスルフィドフィルムは、長手方向(MD)の延伸倍率は2.4~3.6倍とすることが好ましく、2.6~3.2倍とすることがより好ましく、2.6倍~3.0倍にすることがさらに好ましく、2.6倍~2.8倍にすることがさらにより好ましい。なお、長手方向(MD)の延伸倍率が3.0倍未満である場合、上記の熱収縮率Sx、Syが共に0.08以下となり、積層体の加熱による重合せ工程での位置ずれをより好適に抑制することができる。幅方向(TD)の延伸倍率は2.5~4.0倍とすることが好ましく、2.8~3.9倍とすることがより好ましく、3.1倍~3.6倍にすることがさらに好ましい。また、本発明のポリフェニレンスルフィドフィルムでは、ポリフェニレンスルフィドフィルムの長手方向(MD)と幅方向(TD)の寸法精度を等方にするために、延伸倍率の比(TD)/(MD)(フィルムの長手方向の延伸倍率に対する幅方向の延伸倍率に対する比率に対応)については、1<TD/MD≦1.50であることができる。好ましくは、TD/MDは1.01~1.50であり、より好ましくは1.05~1.45であり、さらに好ましくは1.05~1.40である。続いて、ポリフェニレンスルフィドフィルムの熱安定性を高めるために熱固定処理やリラックス処理を行うことが好ましい。熱固定温度は250~285℃とすることが好ましく、255~285℃とすることがより好ましく、260~280℃とすることがさらに好ましい。リラックス処理は熱固定温度下で0%よりも大きく15%未満であることが好ましく、0.5~12%とすることがより好ましく、2~10%とすることがより好ましく、4~8%とすることがさらにより好ましい。またリラックス処理は幅方向(TD)だけでなく、長手方向(MD)に行っても良い。
【0071】
本発明のフィルムの表面には、易接着性、帯電防止性、離型性、ガスバリア性等の機能を付与するため、各種のコーティング剤が塗布されていてもよい。
【0072】
本発明の延伸されたフィルムには、金属またはその酸化物等の無機物、他種ポリマー、紙、織布、不織布、木材等が積層されていてもよい。
【0073】
得られたフィルムは、枚葉とされてもよいし、巻き取りロールに巻き取られることによりフィルムロールの形態とされてもよい。各種用途への利用に際しての生産性の観点から、フィルムロールの形態とすることが好ましい。フィルムロールとされた場合は、所望の巾にスリットされていてもよい。
【0074】
本発明のポリフェニレンスルフィドフィルムは、熱安定性を高めるためにさらに熱処理(アニール処理に相当)を行っても良い。延伸後の熱処理方法としては、例えば、熱風を吹き付ける方法、赤外線を照射する方法、マイクロ波を照射する方法等の公知の方法が挙げられる。中でも、均一に精度良く加熱できることから、熱風を吹き付ける方法が好ましい。熱処理温度は150~260℃とすることが好ましく、160~240℃とすることがより好ましい。上記の熱処理をしないとフィルムの応力緩和が困難であり、また、150℃以下の温度での熱処理では十分な応力緩和ができず、作製後のフィルムの熱収縮率(Sx、Sy)を所定値以下(0.1%以下)にすることができない。結果として、フィルムの熱安定性向上を図りにくい。また、熱処理温度が260℃以上ではポリフェニレンスルフィドの一部結晶相の融解が進行し、配向がくずれる。そのため、作製後のフィルムの面方向の線膨張係数(Cx、Cy)を所定値以下(80ppm/℃以下)にすることができない。結果として、フィルムの熱安定性向上を図りにくい。熱処理時間は3秒~300秒とすることが好ましく、5秒~100秒とすることがより好ましい。更に、熱処理(アニール処理)時の張力は低張力であることが好ましい。張力が高いとポリフェニレンスルフィドの非晶部の十分な応力緩和ができず、フィルムの寸法安定性向上を図りにくい。
【0075】
本発明のフィルムには、必要に応じて、その表面の接着性を向上させるための処理を施すことができる。接着性を向上させる方法としては、例えば、コロナ処理、プラズマ処理、酸処理、火炎処理が挙げられる。
【0076】
[積層体]
本発明の積層体は、上述の二軸延伸フィルムと、このフィルムの少なくとも一方の面側に設けられた金属層あるいは樹脂成形体とを有する。金属層の構成材料(金属材料)としては、特に限定されないが、銅、アルミニウム、亜鉛、チタン、ニッケル、またはこれらを含む合金等が挙げられる。なお、金属層は、単層構造であってもよいし、2層以上の積層構造であってもよい。金属層が積層構造である場合、各層は同一の金属材料で構成されても、異なる金属材料で構成されてもよい。
【0077】
一実施形態において、積層体は、金属層-フィルム、金属層-フィルム-金属層、金属層-フィルム-金属層-フィルム、金属層-金属層-フィルム、金属層-金属層-フィルム-金属層等の構造を有し得る。なお、金属層を形成する方法としては、金属の真空蒸着、スパッタリング、めっき等による方法が挙げられる。また、フィルムと金属箔とを重ね合わせ、熱溶着させる方法により金属層を形成してもよい。
【0078】
かかる積層体は、フィルムが優れた誘電特性を有するため、次世代の高速伝送に好適なフレキシブルプリント配線板(FPC)やフレキシブルフラットケーブル(FFC)に加工して使用することができる。また、延伸均一性に優れる二軸延伸フィルムを使用すれば、積層体は、厚み均一性に優れ、その誘電率のばらつきを抑制することができる。さらに、フィルムと金属層との間には、例えば、これらの密着性を向上する機能を有する中間層を設けるようにしてもよい。
【0079】
前記樹脂成形体としては、ポリオレフィン系樹脂、ポリエステル樹脂、ナイロン樹脂、ポリアリーレンスルフィド樹脂、芳香族ポリアミド、液晶樹脂などの押出成形品または射出成型品、繊維シートが挙げられるがこれに限定されるものではない。
【0080】
以上、本発明のフィルムおよび積層体について説明したが、本発明は、前述した実施形態の構成に限定されない。例えば、本発明のフィルムおよび積層体は、それぞれ、前述した実施形態に構成において、他の任意の構成を追加してもよいし、同様の機能を発揮する任意の構成と置換されていてよい。
【実施例】
【0081】
以下、本発明を実施例によって具体的に説明するが、本発明はこれらによって限定されるものではない。
【0082】
まず、本発明のフィルムで用いた原料樹脂組成物について説明する。
■原料樹脂組成物
実施例および比較例に用いた原料は下記のとおりである。
【0083】
PPS-1
ポリフェニレンスルフィド樹脂(A)(DIC株式会社製、リニア型、融点280℃、300℃における溶融粘度(V6)160Pa・s)100質量部に対して、19質量部の官能基を有する含フッ素系樹脂(B)(AGC株式会社製、「EA-2000」、融点300℃)と、6質量部の反応基を有する変性エラストマー(C)に、ボンドファースト7L(エチレン/グリシジルメタクリレート/アクリル酸メチル=70/3/27(質量%)、住友化学株式会社製、「BF7L」とも称する)、0.6質量部の3-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン(信越化学工業株式会社製「KBM403」)を、タンブラーで均一に混合して混合物を得た。
【0084】
なお、ポリフェニレンスルフィド樹脂は、その分子末端にカルボキシル基を有している。以下では、ポリフェニレンスルフィド樹脂を「PPS」と、3-グリシドキシプロピルトリエトキシシランを「シランカップリング剤」と記載する。
【0085】
次に、上記で得られた混合物を、ベント付二軸押出機(株式会社日本製鋼所製、「TEX-30α」)に投入した。その後、吐出量20kg/hr、スクリュー回転数300rpm、シリンダー設定温度320℃、ストランドダイでの樹脂温度310℃程度となる条件で溶融押出してストランド状に吐出し、温度30℃の水で冷却した後、カッティングした後、得られた樹脂組成物を140℃で3時間乾燥して樹脂組成物PPS-1を得た。
【0086】
PPS-2
EA-2000を19質量部の官能基を有する含フッ素系樹脂(B)(AGC株式会社製、「AH-2000」、融点240℃)に変更した以外は、PPS-1と同様に製造して樹脂組成物PPS-2を得た。
【0087】
PPS-3
EA-2000を19質量部の変性ポリフェニレンエーテル(以下「PPE」と称する)(旭化成株式会社「ザイロン」、非晶ポリマー)に変更した以外は、PPS-1と同様に製造して樹脂組成物PPS-3を得た。
【0088】
PPS-4
PPS樹脂100質量部に対し、139質量部のEA-2000、13質量部の変性エラストマー、1.3質量部のシランカップリング剤に変更した以外は、PPS-1と同様に製造して樹脂組成物PPS-4を得た。
【0089】
PPS-5
PPS樹脂100質量部に対し、EA-2000を12質量部のポリスルホン(以下「PSU」と称する)(ソルベイアドバンストポリマーズ株式会社「ユーデルP1700」、非晶ポリマー)に変更した以外は、PPS-1と同様に製造して樹脂組成物PPS-5を得た。
【0090】
PPS-6
EA-2000を8質量部に変更した以外は、PPS-1と同様に製造して樹脂組成物PPS-6を得た。
【0091】
PPS-7
PPS樹脂100質量部に対し、47質量部のEA-2000、8質量部の変性エラストマー、0.8質量部のシランカップリング剤に変更した以外は、PPS-1と同様に製造して樹脂組成物PPS-7を得た。
【0092】
PPS-8
PPS樹脂100質量部に対し、変性エラストマー(C)が含まれない点以外は、PPS-1と同様に製造して樹脂組成物PPS-8を得た。
【0093】
PPS-9
PPS樹脂100質量部に対し、変性エラストマー(C)およびシランカップリング剤(D)が含まれない点以外は、PPS-1と同様に製造して樹脂組成物PPS-9を得た。
【0094】
なお、上記のPPS-1~PPS-9に関する具体的な材料および組成比を以下の表1に示す。表1から、PPS-1、2、4、6~9は非晶性樹脂を非含有、即ち非晶性樹脂を含まないことが分かる。
【0095】
【0096】
■フィルムの作製
[実施例1]
上記のPPS-1を、Tダイ(吐出口の間隔1.5mm)を備えた押出機を用いて280~310℃、滞留時間6分で単層のシート状に押出し、40℃に設定した冷却ロールで急冷固化して未延伸シートを得た。次いで、得られた未延伸シートを逐次二軸延伸法にて延伸した。まず、縦延伸機にてMD延伸倍率(X)が2.80倍となるように、MD延伸を行った。なお、MD延伸温度は100℃で行った。さらに引続き、MD延伸されたフィルムの端部を、テンター式横延伸機のクリップに把持し、TD延伸倍率(Y)が3.00倍となるように延伸した。なお、TD延伸温度は100℃で行った。次いで、熱固定温度を270℃とし、TDのリラックス率を7.0%として、8秒間の熱リラックス処理を施した後、室温まで冷却してロール状に巻き取り、厚さ50μmのフィルムを得た。
【0097】
次いで、得られたフィルムを、加熱距離2.0mの赤外線加熱炉(アニール炉に相当)を通過させた後、室温まで冷却してロール状に巻き取り、アニール処理したポリアリーレンスルフィドフィルムを得た。処理条件は炉内温度200℃、処理時間60秒、張力10Nとした。得られたポリアリーレンスルフィドフィルムの物性および特性を表2に示す。
【0098】
以下、実施例1で用いた原料樹脂組成物の種類、フィルムの作製工程と比べて主たる相違点を中心に記載する。
【0099】
[実施例2]
実施例1と比べて、TD延伸倍率(Y)を3.3倍となるように設定して未延伸シートを延伸した。
【0100】
[実施例3]
実施例1と比べて、TD延伸倍率(Y)を3.6倍となるように設定して未延伸シートを延伸した。
【0101】
[実施例4]
実施例1と比べて、TD延伸倍率(Y)を3.9倍となるように設定して未延伸シートを延伸した。
【0102】
[実施例5]
実施例1と比べて、MD延伸倍率(X)を2.6倍、TD延伸倍率(Y)を3.1倍となるように設定して未延伸シートを延伸した。
【0103】
[実施例6]
実施例1と比べて、MD延伸倍率(X)を3.0倍、TD延伸倍率(Y)を3.6倍となるように設定して未延伸シートを延伸した。
【0104】
[実施例7]
実施例1と比べて、MD延伸倍率(X)を3.2倍、TD延伸倍率(Y)を3.6倍となるように設定して未延伸シートを延伸した。
【0105】
[実施例8]
実施例1と比べて、TD延伸倍率(Y)を3.3倍となるように(なお、以下、実施例9~15にて同様のMD、TDの延伸倍率に設定した。)、熱固定温度280℃の条件下で未延伸シートを延伸した。
【0106】
[実施例9]
実施例1と比べて、MD延伸倍率(X)を3.0倍、TD延伸倍率(Y)を3.6倍となるように、熱固定温度280℃の条件に設定して未延伸シートを延伸した。
【0107】
[実施例10]
実施例2と比べて、熱固定温度260℃の条件下で未延伸シートを延伸した。
【0108】
[実施例11]
実施例2と比べて、熱固定温度260℃の条件下で未延伸シートを延伸し、延伸後のシートを炉内温度180℃の条件で熱処理を施した。
【0109】
[実施例12]
実施例2と比べて、熱固定温度260℃の条件下で未延伸シートを延伸し、延伸後のシートを炉内温度240℃の条件で熱処理を施した。
【0110】
[実施例13]
実施例2と比べて、原料樹脂組成物PPS-6を用いた未延伸シートを延伸した。
【0111】
[実施例14]
実施例2と比べて、原料樹脂組成物PPS-7を用いた未延伸シートを延伸した。
【0112】
[実施例15]
実施例2と比べて、原料樹脂組成物PPS-8を用いた未延伸シートを延伸した。
【0113】
[実施例16]
実施例2と比べて、原料樹脂組成物PPS-9を用いた未延伸シートを延伸した。
【0114】
[実施例17]
実施例2と比べて、延伸後のシートの熱処理(アニール処理)を6Nの張力下で処理を施した。
【0115】
[比較例1]
実施例1と比べて、MD延伸倍率(X)を3.0倍、TD延伸倍率(Y)を3.0倍とし、熱リラックス処理を行うことなく未延伸シートを延伸し、延伸後のシートに対して熱処理(アニール処理)を実施しなかった。
【0116】
[比較例2]
実施例1と比べて、MD延伸倍率(X)を3.3倍、TD延伸倍率(Y)を3.3倍とし、熱リラックス処理を行うことなく未延伸シートを延伸し、延伸後のシートに対して熱処理(アニール処理)を実施しなかった。
【0117】
[比較例3]
実施例1と比べて、MD延伸倍率(X)を2.3倍、TD延伸倍率(Y)を2.4倍となるように設定して未延伸シートを延伸した。
【0118】
[比較例4]
実施例1と比べて、TD延伸倍率(Y)を3.3倍とし(なお、以下、比較例5~9、12~15にて同様のMD、TDの延伸倍率に設定した。)、熱固定温度290℃の条件下で未延伸シートを延伸し、延伸後のシートに対して熱処理(アニール処理)を実施しなかった。
【0119】
[比較例5]
実施例1と比べて、原料樹脂組成物PPS-2を用いた未延伸シートを延伸した。
【0120】
[比較例6]
実施例1と比べて、原料樹脂組成物PPS-3を用いた未延伸シートを延伸した。
【0121】
[比較例7]
実施例1と比べて、原料樹脂組成物PPS-4を用いた未延伸シートを延伸した。
【0122】
[比較例8]
実施例1と比べて、熱リラックス処理を行うことなく未延伸シートを延伸した。
【0123】
[比較例9]
実施例1と比べて、延伸後のシートに対して熱処理(アニール処理)を実施しなかった。
【0124】
[比較例10]
実施例1と比べて、MD延伸倍率(X)を2.5倍、TD延伸倍率(Y)を3.9倍とし、TD/MDの比率が1.56となるように設定して未延伸シートを延伸した。
【0125】
[比較例11]
実施例1と比べて、MD延伸倍率(X)を3.3倍、TD延伸倍率(Y)を2.8倍とし、TD/MDの比率が0.85となるように設定して未延伸シートを延伸した。
【0126】
[比較例12]
実施例1と比べて、熱固定温度240℃の条件下で未延伸シートを延伸した。
【0127】
[比較例13]
実施例1と比べて、TDのリラックス率15%とした熱リラックス処理条件下で未延伸シートを延伸した。
【0128】
[比較例14]
実施例1と比べて、原料樹脂組成物PPS-5を用いた未延伸シートを延伸した。
【0129】
[比較例15]
実施例1と比べて、熱固定温度260℃の条件下で未延伸シートを延伸し、延伸後のシートを炉内温度280℃の条件で熱処理を施した。
【0130】
[比較例16]
実施例2と比べて、延伸後のシートの熱処理(アニール処理)を30Nの張力下で処理を施した。
【0131】
[比較例17]
実施例2と比べて、延伸後のシートの熱処理(アニール処理)を50Nの張力下で処理を施した。
【0132】
■評価
得られたポリアリーレンスルフィドフィルムの物性について、以下の方法によって評価した。
【0133】
(1)厚み
厚み計(HEIDENHAIN社製、「MT12B」)を用い、フィルムの厚みを測定した。
【0134】
(2)延伸性
逐次延伸法を用い、実施例記載の設定倍率にてMD延伸、TD延伸を行った際の連続延伸時間を計測し、以下の評価を行った。
○:2時間以上切断しなかった。
△:2時間以内に1回切断した。
×:2時間以内に2回以上切断した。
【0135】
(3)Cx、Cyの線膨張係数
フィルムを長手方向(MD)および幅方向(TD)に対して30mm×4mmの大きさに切り出し、下記の条件で熱機械的分析装置(セイコーインスツルメンツ社製、「TMA/SS6000」)で寸法変化を測定した。
・温度条件
(1)10℃/分で20℃から255℃まで昇温して5分間保持(1回目昇温)
(2)10℃/分で250℃から25℃まで降温して60分保持
(3)10℃/分で25℃から250℃まで昇温して5分間保持(2回目昇温)
・荷重 :40mN一定
・試料(測定)サイズ :長さ10mm×幅4mm
平均熱膨張係数の測定温度範囲は、2回目昇温時の50~150℃であり、熱膨張係数の算出は下記式を用いた。
平均熱膨張係数[ppm/℃]=(150℃の寸法-50℃の寸法)/(50℃の寸法)/(150℃-50℃)×106
【0136】
(4)Czの線膨張係数、スルーホール信頼性
フィルムを5mm×5mmの大きさに切り出し、下記の条件で熱機械的分析装置(NETZSCH社製、TMA402F1 Hyperion)で寸法変化を測定した。また、得られたCz評価値からスルーホール信頼性を以下のように判定した。
・温度条件
(1)10℃/分で20℃から255℃まで昇温して5分間保持(1回目昇温)
(2)10℃/分で250℃から25℃まで降温して60分保持
(3)10℃/分で25℃から250℃まで昇温して5分間保持(2回目昇温)
・荷重 :0.02N一定
線膨張係数の測定温度範囲は、2回目昇温時の50~150℃であり、線膨張係数の算出は下記式を用いた。
線膨張係数[ppm/℃]=(150℃の寸法-50℃の寸法)/(50℃の寸法)/(150℃-50℃)×106
・スルーホール信頼性
〇;いずれの方向の線膨張係数が以下である。
-35≦ Cx ≦80
-35≦ Cy ≦80
-35≦ Cz ≦100
×;〇の範囲から外れる線膨張係数
【0137】
(5)Sx、Syの熱収縮率、積層時の位置ずれ
JIS K7133に従って、150℃で15分間熱処理をした際のフィルムの収縮率を測定した。積層体を加熱による重ね合わせ工程での位置ずれの評価を、測定した熱収縮率から以下のように判定した。
◎;-0.05≦Sx≦0.05および-0.05≦Sy≦0.05
〇;-0.1≦Sx≦0.1および-0.1≦Sy≦0.1
×;-0.1>Sx>0.1および-0.1>Sy>0.1
【0138】
(6)誘電特性
JIS C2565に準拠した空洞共振法に基づいて5.8GHzにおける比誘電率および誘電正接を測定した。試料の大きさは2mm×50mmとし、温度22~24℃、湿度45~55%RH下で12時間以上調湿した。その上で、フィルムの誘電特性の評価を、測定した非誘電率から以下のように判定した。
◎;比誘電率≦3.00
〇;3.00<比誘電率≦3.20
×;比誘電率>3.20
【0139】
(7)リフロー耐熱
50mm×50mmの大きさに切り出したフィルムを2枚用意し、それぞれ、赤外線加熱式のリフロー炉にて、100℃/分の速度で、240℃および255℃まで昇温し、10秒保持した。リフロー処理後のフィルムを観察し、以下の評価をおこなった。
◎:変形が見られなかった。
○:僅かに変形が見られた。
×:変形が見られた。
本発明においては「◎」、「○」の場合を合格とした。
【0140】
(8)引張破断強度、引張破断伸度、引張弾性率
JIS K 7127に準拠して、温度20℃、湿度65%の環境下で測定した。試料の大きさは10mm×150mm、チャック間の初期距離は100mm、引張速度は500mm/分とした。
【0141】
(9)融点(Tm)、ガラス転移温度(Tg)
DSC装置(パーキンエルマー社製 DSC7)を用い、樹脂組成物のチップまたはフィルムを窒素雰囲気下20度から350度まで+10℃/分で昇温させ5分間保持した(1st Scan)後、350℃から20℃まで100℃/分で冷却して5分間保持した。さらに20℃から350℃まで+10℃/分で再昇温させた過程(2nd Scan)でのガラス転移温度を、樹脂組成物のTgとした。同様に、2nd Scanで観測される結晶融解ピークのピークトップ温度をTmとした。
【0142】
(10)吸水率
25℃の環境下で適量の水に、24時間浸漬させ、水に浸漬させる前後での重量変化分より求めた。
【0143】
(11)伝送損失
フィルムの両面に低誘電接着剤シート(ニッカン工業株式会社製、「NIKAFLEX SAFY」、厚さ25μm、比誘電率3.0、誘電正接0.005)、12μm厚みの圧延銅箔(JX日鉱日石金属(株)製、商品名:BHYX-92F-HA、表面粗さ:0.9μm)の順に計5層を重ねた上で、160℃、4MPaの条件で40分間熱プレスし、フィルムの両面に接着剤と銅箔を積層した積層体を作製した。作製した積層体をエッチングにより特性インピーダンス50Ωに設計したマイクロストリップライン回路を形成し、伝送損失を測定した。より具体的には、マイクロ波ネットワークアナライザー[アジレント(Agilent)社製、型式:8722ES]とプローブ(カスケードマイクロテック社製、型式:ACP40-250)を用いて、測定周波数40GHzで測定した。
【0144】
■測定結果
測定結果を表2に示す。
【0145】
【0146】
[考察]
・実施例1~17より、原料樹脂組成物としてPPS-1、PPS-6、PPS-7、PPS-8、PPS-9を用いた場合において、得られたフィルムは、5.8GHzにおける比誘電率が3.2以下となり、熱収縮率と線膨張係数が以下の式を満たすことが分かった。この場合に、金属への積層が可能であり、連続延伸性、リフロー耐性、誘電特性、およびスルーホールの信頼性に優れたものであることが分かった。
-35≦Cx≦80
-35≦Cy≦80
-35≦Cz≦100
-0.1≦Sx≦0.1
-0.1≦Sy≦0.1
・なお、線膨張係数、熱収縮率、誘電特性の総合評価結果から、実施例1~3、5、8、9、12、14~16のポリフェニレンスルフィドフィルムが好ましいことが分かった。この場合、実施例1~3、5、8、9、12、14~17より、上記のCxおよびCyは80ppm/℃以下であり、Czは80ppm/℃以下であり、Sxは0.05%以下であり、およびSyは0.05%以下であることが分かった。
・比較例1、2、8、9より、実施例1~17と比べると、延伸工程時の熱リラックス処理または延伸後のフィルムのアニール処理を行わないと、少なくとも熱収縮率Sxが0.1%を上回る値となり、積層体の加熱による重合せ工程での位置ずれを抑制できないことが分かった。特に、後者のアニール処理を行わないと、熱収縮率Sx、Sy共に0.1%を上回る値となり、積層体の加熱による重合せ工程での位置ずれを抑制できないことが分かった。
・更に、比較例1、2と比較例8、9とを比べると、延伸工程時の熱リラックス処理と延伸後のフィルムのアニール処理とを共に行わないと、熱収縮率Sxが0.7%を上回り、Syが0.4%を上回る値となり、積層体の加熱による重合せ工程での位置ずれ抑制の点で適当ではないことが分かった。
・比較例13について、実施例1~17と比べると、延伸工程時に熱リラックス処理を行うとしても、そのリラックス率が0%よりも大きく15%未満でないと、得られたフィルムの熱収縮率Sx、Syが-0.1%を下回り、積層体の加熱による重合せ工程での位置ずれを抑制できないことが分かった。
・比較例15について、実施例1~17と比べると、延伸後のフィルムのアニール処理を行うとしても、その処理温度が(180℃以上)280℃未満でないと、得られたフィルムの線膨張係数Cx、Cyが80ppm/℃を超え、スルーホール信頼性が良くないことが分かった。
・比較例16、17について、実施例1~17と比べると、延伸後のフィルムのアニール処理を行うとしても、その処理時の張力が30N未満でないと、得られたフィルムのSx、Syのいずれか、もしくはSx、Syの両方が-0.1~0.1%の範囲外となり、積層体の加熱による重合せ工程での位置ずれを抑制できないことが分かった。
・比較例3について、実施例1~17と比べると、未延伸シートの延伸時のMD方向の延伸倍率が2.4倍を下回り、TD方向の延伸倍率が2.5倍を下回ったため、得られたフィルムの線膨張係数Cx、Cyが80ppm/℃を超え、スルーホール信頼性が良くないことが分かった。
・比較例10について、実施例1~17と比べると、未延伸シートの延伸時のMD方向の延伸倍率に対するTD方向の延伸倍率の比率が、1.00よりも大きく1.50以下の範囲外である1.56であったため、得られたフィルムの線膨張係数Cxが80ppm/℃を超え、スルーホール信頼性が良くないことが分かった。
・比較例11について、実施例1~17と比べると、未延伸シートの延伸時のMD方向の延伸倍率に対するTD方向の延伸倍率の比率が、1.00よりも大きく1.50以下の範囲外である0.85であったため、得られたフィルムの線膨張係数Cyが80ppm/℃を超え、スルーホール信頼性が良くないことが分かった。
・比較例4について、実施例1~17と比べると、未延伸シートの延伸工程時における熱固定温度が250~285℃の温度範囲よりも高い290℃であったため、シートが破断することが分かった。
・また、比較例12について、実施例1~17と比べると、未延伸シートの延伸工程時における熱固定温度が250~285℃の温度範囲よりも低い240℃であったため、熱収縮率Sxが0.1%を上回る値0.13%となり、積層体の加熱による重合せ工程での位置ずれを抑制できないことが分かった。
・比較例5について、実施例1~17と比べると、相対的に高融点のフッ素系樹脂(EA-2000)ではなく、相対的に低融点のフッ素系樹脂(AH-2000)が含まれると、255℃でのリフロー耐熱性が良くないことが分かった。また、熱収縮率Sxが0.08%を上回り、積層体の加熱による重合せ工程での位置ずれ判定は〇(◎ではなく)となることが分かった。
・比較例6について、実施例1~17と比べると、フッ素系樹脂ではなく、非晶樹脂としてのPPEが含まれると、フッ素がないことに起因して、255℃でのリフロー耐熱性が良くないことが分かった。
・比較例7について、実施例1~17と比べると、フッ素系樹脂が100質量部を超えて多く含まれると、線膨張係数Cx、Cyが80ppm/℃を超え、Czが100ppm/℃を超え、スルーホール信頼性が良くないことが分かった。
・比較例14において、実施例1~17と比べると、フッ素系樹脂ではなく、非晶樹脂としてのPSUが含まれると、比誘電率の評価が×になることが分かった。
・実施例13と実施例1~12、14~17とを比べると、フッ素系樹脂(B)が8質量部よりも多く含まれると、比誘電率の評価が◎になることが分かった。
・実施例1~5、8~167と実施例6、7とを比べると、長手方向(MD)の延伸倍率が3.0倍未満である場合、熱収縮率Sx、Syが共に0.08%以下となり、積層体の加熱による重合せ工程での位置ずれをより抑制することができると分かった。
・実施例15と実施例1とを比べると、表1および表2から、少なくともシランカップリング剤(D)がフィルムに含まれていなくとも、誘電特性、リフロー耐熱性、スルーホール信頼性、および積層時の位置ずれに関する項目が所定の評価基準をみたすことが分かった。
・実施例16と実施例1とを比べると、表1および表2から、変性エラストマー(C)およびシランカップリング剤(D)がフィルムに含まれていなくとも、誘電特性、リフロー耐熱性、スルーホール信頼性、および積層時の位置ずれに関する項目が既述の所定の評価基準をみたすことが分かった。
・実施例17と実施例2とを比べると、表1および表2から、熱処理(アニール処理)を低張力下で施した場合、熱収縮率Sx、Syが共に0.03%以下となり、積層体の加熱による重合せ工程での位置ずれをより抑制することができると分かった。
・上記の実施例1と実施例15、16との比較から、誘電特性、リフロー耐熱性、スルーホール信頼性、および積層時の位置ずれに関する項目が既述の所定の評価基準をみたすためには、本発明のフィルムにおいて、変性エラストマー(C)およびシランカップリング剤(D)は必須要素ではないことが分かった。
・実施例2で得られたポリフェニレンスルフィドフィルムの融点は282℃であり、吸水率は0.04%であり、伝送損失は、-5.8dB/100mmであり、引張強度は133MPaであり、引張伸度は66%であり、引張弾性率は3.2GPaだった。
【0147】
なお、本発明は下記態様を含み得る。
<1>
ポリアリーレンスルフィド樹脂(A)100質量部に対して、融点が290℃以上の反応性官能基を有する含フッ素系樹脂(B)5~99質量部を含み、5.8GHzにおける比誘電率が3.2以下であり、熱収縮率と線膨張係数が以下の式を満たすことを特徴とするポリアリーレンスルフィドフィルム。
-35≦Cx≦80
-35≦Cy≦80
-35≦Cz≦100
-0.1≦Sx≦0.1
-0.1≦Sy≦0.1
(式中、CxはMD方向の線膨張係数(ppm/℃)であり、CyはTD方向の線膨張係数(ppm/℃)であり、Czは厚み方向の線膨張係数(ppm/℃)であり、SxはMD方向の熱収縮率(%)であり、SyはTD方向の熱収縮率(%)である。)
<2>
前記Cxおよび前記Cyが80ppm/℃以下であり、前記Czが80ppm/℃以下であり、前記Sxが0.05%以下であり、および前記Syが0.05%以下である、<1>に記載のポリアリーレンスルフィドフィルム。
<3>
比誘電率が3.0以下である、<1>又は<2>に記載のポリアリーレンスルフィドフィルム。
<4>
前記含フッ素系樹脂(B)が8質量部よりも多く含まれる、<1>~<3>のいずれかに記載のポリアリーレンスルフィドフィルム。
<5>
前記ポリアリーレンスルフィド樹脂(A)と、前記含フッ素系樹脂(B)を含む原料樹脂組成物の未延伸シートを用意する工程と、
長手方向に2.4~3.6倍、幅方向に2.5~4.0倍の延伸倍率で、かつ前記長手方向の延伸倍率に対する前記幅方向の延伸倍率に対する比率が1.00よりも大きく1.50以下の条件で、前記未延伸シートを延伸する延伸工程と
を含み、
前記延伸工程時に、250~285℃の温度範囲での熱固定処理と、熱固定温度下でリラックス処理とを行う、<1>~<4>のいずれかに記載のポリアリーレンスルフィドフィルムの製造方法。
<6>
前記延伸工程後に、延伸したシートに対して180℃以上280℃未満の温度でアニール処理を行う工程を含む、<5>に記載の製造方法。
<7>
前記長手方向の延伸倍率が3.0倍未満である、<5>又は<6>に記載の製造方法。
【産業上の利用可能性】
【0148】
本発明のポリフェニレンスルフィドフィルムは、積層体およびフレキシブルプリント回路基板などの多層基板の用途として用いることができる。
【要約】
【課題】金属部材への積層が可能であり、連続延伸性、リフロー耐性、誘電特性、およびスルーホールの信頼性に優れたポリアリーレンスルフィドフィルムを提供すること。
【解決手段】ポリアリーレンスルフィド樹脂(A)100質量部に対して、融点が290℃以上の反応性官能基を有する含フッ素系樹脂(B)5~99質量部を含み、5.8GHzにおける比誘電率が3.2以下であり、熱収縮率と線膨張係数が以下の式を満たすことを特徴とするポリアリーレンスルフィドフィルム。
-35≦Cx≦80
-35≦Cy≦80
-35≦Cz≦100
-0.1≦Sx≦0.1
-0.1≦Sy≦0.1
(式中、CxはMD方向の線膨張係数(ppm/℃)であり、CyはTD方向の線膨張係数(ppm/℃)であり、Czは厚み方向の線膨張係数(ppm/℃)であり、SxはMD方向の熱収縮率(%)であり、SyはTD方向の熱収縮率(%)である。)
【選択図】なし