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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-05
(45)【発行日】2024-03-13
(54)【発明の名称】ベーカリー食品用セット
(51)【国際特許分類】
   A47J 37/01 20060101AFI20240306BHJP
   A21D 10/00 20060101ALN20240306BHJP
【FI】
A47J37/01
A21D10/00
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2020137021
(22)【出願日】2020-08-14
(65)【公開番号】P2022032807
(43)【公開日】2022-02-25
【審査請求日】2023-01-26
(73)【特許権者】
【識別番号】398012306
【氏名又は名称】株式会社日清製粉ウェルナ
(74)【代理人】
【識別番号】110002170
【氏名又は名称】弁理士法人翔和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】平内 麻里子
(72)【発明者】
【氏名】衛藤 馨子
【審査官】西村 賢
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/026470(WO,A1)
【文献】特開2004-215584(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A47J 37/00-37/07
A21D 2/00-17/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ベーカリー生地用ミックスと、該ミックスを用いたベーカリー生地の調製に使用される容器とを含む、ベーカリー食品用セットであって、
前記容器は、底壁部と、該底壁部の周縁部から上方に向かって突出した周壁部と、該底壁部及び該周壁部によって形成される内容物の収容空間の上端を開口する上部開口とを有し、
前記収容空間に面する、前記底壁部の内面及び前記周壁部の底部側の内面のうちの少なくとも一方に、溝部が形成されており、
前記溝部の深さが3~12mm、前記溝部の幅が5~45mmであり、
前記溝部に、前記内容物を攪拌する際に使用する攪拌具の先端部を挿入した状態で、該溝部に沿って該攪拌具を動かすことで、該内容物を攪拌可能になされている、ベーカリー食品用セット。
【請求項2】
前記溝部は、平面視で直線状又は弧線状である、請求項1に記載のベーカリー食品用セット。
【請求項3】
前記溝部の幅が1540mmである、請求項1又は2に記載のベーカリー食品用セット。
【請求項4】
前記溝部は、前記底壁部と前記周壁部とに跨って形成されている、請求項1~3のいずれか1項に記載のベーカリー食品用セット。
【請求項5】
前記ベーカリー生地用ミックスは、前記収容空間に収容可能な包装容器に収容されており、該包装容器は、前記内容物としての該ミックスを含む流動物を調製する際に該ミックスに加えられる液体の計量機能を有している、請求項1~4のいずれか1項に記載のベーカリー食品用セット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ベーカリー生地用ミックスと、該ミックスを用いたベーカリー生地の調製に使用される容器とを含む、ベーカリー食品用セットに関する。
【背景技術】
【0002】
ケーキ、パンケーキ、たこ焼き、お好み焼き、チヂミ等のベーカリー食品は、通常、小麦粉、砂糖、澱粉等の固形原料に水を加えて混練して調製した生地を焼成することで製造され、該生地に含まれる気泡が焼成による熱で膨張し、それに伴って膨張した該生地が冷却されて固まり多孔質構造となることで、好ましいふんわりとした食感となる。ベーカリー食品には、例えば、ケーキ用ミックス、お好み焼き用ミックスのように、各種原材料の配合が特定のベーカリー食品の製造に最適化された原材料の混合物(ミックス)が市販されているものもあり、そのような市販のミックスを使用することで、食味食感の良好なベーカリー食品を家庭で手軽に製造することができる。
【0003】
しかしながら、市販のミックスを使用することで、ミックス調製の手間を省くことはできるものの、ミックスを用いた生地調製の手間、典型的には、生地調製に使用する容器や攪拌具などの各種道具を用意し、ミックスを計量して別途計量された水を加えるなどの手間を省くことはできず、生地調製の手間が煩雑であることが原因で、家庭でのベーカリー食品の製造が敬遠される場合が少なくない。特に近年は、少子化や高齢化のような人口動態の変化により、家庭内では個食化が進んでおり、少人数分のベーカリー食品を製造するために各種道具を用意するなどの手間がかかる作業は敬遠されがちである。そのため、家庭でより簡便にベーカリー食品を製造し得る技術が要望されている。
【0004】
特許文献1には、粉末状ケーキミックスと有底円筒形状スポンジケーキ焼き型とが組み合わされてなるスポンジケーキ製造キットが記載されている。特許文献2には、お好み焼きの生地粉パック、ふりかけ及び液体調味料を1セット中に収めてなるお好み焼きセットが記載されている。特許文献3には、お好み焼き用パウダーが収納されたパウダー包装体と、液体調味料が収納された液体包装体と、ソースが収納されたソース包装体とを備えたお好み焼き用セットが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】登録実用新案公報第3013085号公報
【文献】特開平3-216171号公報
【文献】登録実用新案公報第3219951号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載の技術は、製造時にスポンジケーキが焼き型に付着する、焼き上ったスポンジケーキを焼き型から外す際にスポンジケーキの型崩れや部分的な損傷が発生する、といった生地調製後の焼成に関わる課題の解決を図ったものであり、生地調製の手間を軽減するものではない。また、特許文献2及び3に記載の技術は、生地調製の際の計量の手間を軽減できるが、生地を好ましい状態に調製する点では改善の余地がある。家庭などでベーカリー食品を簡便に製造するためには、その製造工程の中でも特に手間が煩雑な生地調製の簡便化を図ることが有効であるが、それを優先した結果、生地を好ましい状態に調製することがおろそかになっては意味がない。ここでいう、「好ましい状態の生地」とは、起泡性の良好な生地を指す。起泡性の良好な生地を焼成することで、好ましい多孔質構造のベーカリー食品が得られる。起泡性の良好な生地を得るためには、適切な分量の原材料を用意し、それらを適切なタイミングで混合・攪拌する必要があるが、これを簡便に行うことができる技術は未だ提供されていない。
【0007】
本発明の課題は、起泡性の良好な高品質のベーカリー生地を簡便に調製することができるベーカリー食品用セットを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、ベーカリー生地用ミックスと、該ミックスを用いたベーカリー生地の調製に使用される容器とを含む、ベーカリー食品用セットであって、前記容器は、底壁部と、該底壁部の周縁部から上方に向かって突出した周壁部と、該底壁部及び該周壁部によって形成される内容物の収容空間の上端を開口する上部開口とを有し、前記収容空間に面する、前記底壁部の内面及び前記周壁部の底部側の内面のうちの少なくとも一方に、溝部が形成されており、前記溝部に、前記内容物を攪拌する際に使用する攪拌具の先端部を挿入した状態で、該溝部に沿って該攪拌具を動かすことで、該内容物を攪拌可能になされている、ベーカリー食品用セットである。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、起泡性の良好な高品質のベーカリー生地を簡便に調製することができるベーカリー食品用セットが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1(a)は、本発明のベーカリー食品用セットに含まれる容器の一実施形態を上部開口側から見た場合の模式的な斜視図、図1(b)は、図1(a)に示す容器の模式的な上面図、図1(c)は、図1(a)に示す容器の模式的な側面図である。
図2図2(a)は、本発明のベーカリー食品用セットに含まれる容器の他の実施形態を上部開口側から見た場合の模式的な斜視図、図2(b)は、図2(a)に示す容器の模式的な上面図、図2(c)は、図2(a)に示す容器の模式的な側面図である。
図3図3(a)は、本発明のベーカリー食品用セットに含まれる容器の更に他の実施形態を上部開口側から見た場合の模式的な斜視図、図3(b)は、図3(a)に示す容器の模式的な上面図、図3(c)は、図3(a)に示す容器の模式的な側面図である。
図4図4(a)は、本発明のベーカリー食品用セットに含まれる容器の更に他の実施形態を上部開口側から見た場合の模式的な斜視図、図4(b)は、図4(a)に示す容器の模式的な上面図、図4(c)は、図4(a)に示す容器の模式的な側面図である。
図5図5(a)は、比較例のベーカリー食品用セットに含まれる容器を上部開口側から見た場合の模式的な斜視図、図5(b)は、図5(a)に示す容器の模式的な上面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明でいう「ベーカリー食品」とは、生地原料を水分の存在下で攪拌する工程を経て調製された発酵又は非発酵生地を、加熱して得られる食品を指す。生地の加熱方法は特に制限されず、典型的には、焼成であるが、ベーカリー食品の種類等に応じて公知の加熱方法から適切なものを選択することができ、例えば、電子レンジ等の加熱調理器具を用いた加熱等でもよい。ベーカリー食品の具体例として、パン類;ピザ類;ケーキ類;ワッフル、シュー、ビスケット、焼き饅頭等の和洋焼き菓子;ドーナツ等の揚げ菓子等;たこ焼き、お好み焼き、チヂミ等が挙げられる。パン類としては、食パン(例えばロールパン、白パン、黒パン、フランスパン、乾パン、コッペパン、クロワッサン等)、調理パン、菓子パン等が挙げられる。ケーキ類としては、スポンジケーキ、バターケーキ、ロールケーキ、ホットケーキ、ブッセ、バームクーヘン、パウンドケーキ、チーズケーキ、スナックケーキ、マフィン、バー、クッキー、パンケーキ、クレープ等が挙げられる。本発明は、これらのベーカリー食品の製造に適用可能である。
【0012】
本発明のベーカリー食品用セットは、ベーカリー食品の製造、より具体的には、ベーカリー食品の製造中間品であるベーカリー生地の調製に使用するもので、生地原料であるベーカリー生地用ミックスと、該ミックスを用いたベーカリー生地の調製に使用される容器とを含む。
【0013】
以下、本発明のベーカリー食品用セットに含まれるベーカリー生地用ミックスについて説明する。
ベーカリー生地用ミックスは、典型的には、水性液体を添加して攪拌することで、常温常圧で流動性を有するベーカリー生地(流動物)となる組成物である。ベーカリー生地用ミックスの常温常圧下での形態は、特に制限されず、典型的には、粉末、顆粒状などの固体であるが、液体、半固体(ペースト)等であり得る。
【0014】
ベーカリー生地用ミックスは、典型的には、少なくとも穀粉類を含有する。穀粉類としては、穀粉及び澱粉が挙げられ、製造するベーカリー食品の種類等に応じて、これらの1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。穀粉としては、例えば、小麦粉(薄力粉、中力粉、強力粉、小麦全粒粉、デュラムセモリナ等)、ライ麦粉、米粉、コーンフラワー、コーングリッツ等が挙げられる。澱粉としては、例えば、コーンスターチ、ワキシーコーンスターチ、タピオカ澱粉、馬鈴薯澱粉、小麦澱粉、米澱粉等の未加工澱粉;該未加工澱粉に油脂加工、α化、エーテル化、エステル化、架橋、酸化等の処理の1つ以上を施した加工澱粉が挙げられる。
【0015】
ベーカリー生地用ミックスにおける穀粉類の含有量は、製造するベーカリー食品の種類等に応じて、適宜調整すればよく特に制限されないが、典型的には、該ミックスの全質量に対して、好ましくは20~99質量%、より好ましくは40~95質量%である。
【0016】
ベーカリー生地用ミックスは、穀粉類以外の他の成分を含有し得る。穀粉類以外の他の成分としては、ベーカリー食品の製造に使用可能なものを特に制限無く用いることができ、例えば、炭酸水素ナトリウム(重曹)、ベーキングパウダー、炭酸アンモニウム、炭酸水素アンモニウム、塩化アンモニウム等の膨張剤又はイースト;全卵、卵白、卵黄等の卵類;牛乳、脱脂粉乳、バター等の乳製品;食塩等の塩類;ナッツ、レーズン等の固形具材;果汁等のエキス類;糖類、油脂類、乳化剤、増粘剤、調味料、香料、香辛料、着色料、水等が挙げられ、製造するベーカリー食品の種類等に応じて、これらの1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0017】
次に、本発明のベーカリー食品用セットに含まれる容器について説明する。図1には、本発明に係る容器の一実施形態である容器1Aが示されている。容器1Aは、底壁部2と、底壁部2の周縁部から上方に向かって突出した周壁部3と、底壁部2及び周壁部3によって形成される内容物の収容空間4の上端を開口する上部開口とを有している。
【0018】
容器1Aでは、底壁部2は、平面視で円形形状を有し、また、周壁部3が連接された周縁部を除き、水平である。本発明では、底壁部2の形状は、後述する溝部6を用いた内容物の攪拌操作に支障をきたさないことを条件に、特に限定されず、底壁部2の平面視形状としては、円形形状の他に、例えば、楕円形形状、三角形形状、四角形形状、五角形形状以上の多角形形状等が挙げられる。また底壁部2は水平でなくてもよく、例えば、上部開口5側又はその反対側に凸状に湾曲していてもよい。
【0019】
収容空間4は、前述した本発明に係るベーカリー生地用ミックスを用いたベーカリー生地の調製に使用される部分であり、ベーカリー生地の前駆体とも言える、該ミックスを含む流動物を収容し攪拌するのに使用される。収容空間4の容積は、特に制限されないが、ベーカリー生地用ミックスを含む流動物の攪拌操作を容易にして起泡性の良好な高品質の生地を得る観点から、収容空間4における攪拌操作によって最終的に調製されるベーカリー生地の体積100体積%に対して、好ましくは150~500体積%、より好ましくは170~400体積%ある。
【0020】
収容空間4の形状は、特に制限されないが、容器1Aのように、収容空間4の水平方向の差し渡し長さW(図1(c)参照)が、底壁部2側から上部開口5に向かうに従って漸次増大する形状であると、内容物の攪拌操作が容易になるため好ましい。収容空間4がこのような好ましい形状である容器の具体例として、ボウル形状、椀形状の容器を例示できる。図示の容器1Aは、ボウル形状又は椀形状である。
【0021】
容器1Aの素材は特に制限されないが、収容空間4で実施される内容物の攪拌操作に耐え得る物理的強度、水性液体に対する耐久性、内容物(ベーカリー生地)の保存性等を考慮すると、容器1Aの好ましい素材として、金属、プラスチック、撥水処理などのコーティング加工が施された紙などが挙げられる。
【0022】
容器1Aのサイズは特に制限されないが、収容空間4の容積が前述した好ましい範囲にあり、且つベーカリー生地用ミックスを含む流動物の攪拌操作時に該流動物が散逸したりこぼれたりしないサイズであることが好ましい。
具体的には例えば、容器1Aが1人分のベーカリー食品を製造するためのものである場合、ボウル形状又は椀形状の容器1Aは、図1を参照して、底壁部2の内径(底壁部2の内面の最大差し渡し長さ)L1が4~12cm、上部開口5の直径(最大差し渡し長さ)L2が14~25cm、高さ(容器1Aの最下点と最上点との離間距離)Hが7~12cmであることが好ましい。
なお、本発明に係る容器の形状及び寸法はこれに制限されず、任意に設定可能であり、例えば、底壁部2が平面視で1辺が6~12cmの正方形形状を有し、上部開口5が平面視で1辺が17~25cmの正方形形状を有する場合があり得る。
【0023】
容器1Aの収容空間4は、典型的には、容器1Aとともにベーカリー食品用セットを構成する未使用のベーカリー生地用ミックスの収容場所としても使用される。この場合、ベーカリー生地用ミックスを包装せずに収容空間4に直接収容してもよいが、ミックスの散逸の防止、ミックスの保存性の向上等の観点から、ベーカリー生地用ミックスを収容空間4に収容可能な包装容器(図示せず)に収容し、該包装容器を収容空間4に収容することが好ましい。
【0024】
前記包装容器の形態は特に制限されず、袋状の包装容器でもよく、あるいは容器1Aの如き、底壁部及び周壁部を有する箱状の包装容器でもよい。
前記包装容器は、収容空間4に収容されているときに転動しないように、収容空間4を画成する底壁部2の内面及び/又は周壁部3の内面と係合可能に構成されていてもよい。斯かる構成の具体例として、前記包装容器の外面に係合部材(例えば係合突起)が設けられ、底壁部2の内面及び/又は周壁部3の内面における該包装容器の外面と接触し得る部分に、該係合部材と係合可能な別の係合部材(例えば係合孔等の係合受け部)が設けられた形態が挙げられる。
【0025】
前記包装容器は、内容物としてのベーカリー生地用ミックスを含む流動物を調製する際に該ミックスに加えられる液体の計量機能を有していてもよい。これにより、斯かる液体の計量の手間が簡便化され、延いては、ベーカリー生地の調製の手間が簡便化される。
前記の計量機能を有する包装容器の一例として、包装容器の外面及び/又は内面に、該包装容器に収容されているベーカリー生地用ミックスを含む流動物を調製する際に該ミックスに加えるべき液体の量に対応した液体の量を示す、計量線が付されたものが挙げられる。このような計量線が付された包装容器に収容されたベーカリー生地用ミックスを用い収容空間4にてベーカリー生地を調製する場合には、先ず、該包装容器を開封して内部に収容されているミックスを収容空間4に投入し、次に、空になった該包装容器に該計量線まで水などの液体を入れた後、該包装容器の液体を収容空間4に投入すればよい。これにより、収容空間4に適切な量のベーカリー生地用ミックス及び液体が投入されるので、後は後述する溝部6を用いた攪拌操作を行うだけで、起泡性の良好な高品質のベーカリー生地を調製することが可能となる。
【0026】
なお、ベーカリー生地用ミックスを含む流動物を調製する際に該ミックスに加えられる液体は、典型的には、水又は水を主体とする水性液体であり、後者の水性液体には、水の他に例えば、油、調味料、卵液、牛乳等の1種以上が含有される。
【0027】
本発明のベーカリー食品用セットに含まれる容器は、図1に示すように、収容空間4に面する、底壁部2の内面及び周壁部3の底部側の内面のうちの少なくとも一方に、溝部6が形成されている点で特徴付けられる。ここでいう「周壁部3の底部側」とは、周壁部3を鉛直方向(図1(c)の上下方向)に3等分した場合の底壁部2に最も近接する1/3の部分を指す。
【0028】
溝部6は、攪拌具(図示せず)を用いて収容空間4の内容物を攪拌する場合に、該攪拌具の先端部が挿入される部分であり、攪拌操作時の該攪拌具の移動を案内するガイドとして機能する。すなわち容器1Aは、溝部6に、内容物(ベーカリー生地用ミックスを含む流動物)を攪拌する際に使用する攪拌具の先端部を挿入した状態で、溝部6に沿って該攪拌具を動かすことで、該内容物を攪拌可能になされている。
【0029】
攪拌具としては、収容空間4の流動物の拌に使用可能なもので且つ溝部6に挿入可能な先端部を有するものであればよく、特に制限されない。攪拌具としては、例えば、スプーン、へら、箸のような棒状物等が挙げられる。なお攪拌具は、本発明のベーカリー食品用セットの必須の構成部材ではない。
【0030】
容器1Aでは、図1に示すように、溝部6は底壁部2の内面にのみ形成され、周壁部3の底部側の内面には形成されていない。
容器1Aの底壁部2の内面には、図1(b)に示す如き平面視において一方向に延びる直線状の溝部6が、その長手方向と直交する方向(幅方向)に所定間隔を置いて複数(具体的には2本)形成されている。容器1Aでは、底壁部2の内面の中心を通って該内面を二等分する中心線CLを挟んで一方側及び他方側の双方に溝部6が形成されており、更に、該一方側の溝部6と該他方側の溝部6とは対称に形成されている。溝部6の長手方向の両端は、平面視で溝部6の長手方向の外方に向かって凸に湾曲している。
また容器1Aでは、図1(c)に示すように、底壁部2の外面(収容空間4に面する面とは反対側の面)における溝部6に対応する部分が、周辺部よりも外方(下方)に突出している。なお本発明では、底壁部2の外面における溝部6に対応する部分は、図示の如くに外方に突出していなくてもよい。例えば、底壁部2の厚みが溝部6の深さよりも大きい場合は、底壁部2の外面における溝部6に対応する部分が外方に突出しない形態となり得、本発明には斯かる形態が包含される。
【0031】
溝部6の各部の寸法等は特に制限されないが、溝部6の幅方向の長さ(幅)が攪拌具の先端部の幅に対して長すぎる、又は溝部6の深さが短すぎると、溝部6とこれに挿入された攪拌具の先端部との係合が不十分となって、攪拌具の溝部6に沿った移動がスムーズに行えない、攪拌操作中に攪拌具が溝部6から外れやすくなる等の不都合が生じやすくなり、その結果、攪拌対象であるベーカリー生地用ミックスを含む流動物に空気が絡みにくく、起泡性の良好な高品質のベーカリー生地が得られ難くなるおそれがある。一方、溝部6の幅が攪拌具の先端部の幅に対して短すぎると、攪拌具の先端部を溝部6に挿入することが困難になる他、収容空間4に液体とともに投入されたベーカリー生地用ミックスが溝部6内で該液体に溶解せずに塊(いわゆるダマ)となって滞留してしまうおそれがある。溝部6の深さが短すぎる場合も、同様に溝部6内にミックスのダマが生じることが懸念される。これらを考慮すると、溝部6の各部の寸法は以下のように設定することが好ましい。
溝部6の幅6W(図1(b)参照)は、好ましくは5~45mm、より好ましくは10~40mmである。(溝部6の開口部における短手方向に沿う長さ)
溝部6の深さは、好ましくは3~12mm、より好ましくは5~10mmである。
【0032】
溝部6の深さ方向に沿う断面視形状は、特に制限されないが、溝部6とこれに挿入された攪拌具の先端部とが係合し得る形状が好ましく、例えば、半円形形状、三角形形状、四角形形状(長方形形状、正方形形状)、あるいはこれらの形状の2種以上の組み合わせであり得る。溝部6は典型的には、1)溝部6の深さ方向の全長にわたって幅が一定であるか、又は2)溝部6の開口部側は深さ方向の全長にわたって幅が一定、溝部6の底部側は該開口部から遠ざかるに従って幅が漸次減少する。
【0033】
溝部6の長手方向長さ(溝部6の幅方向中央を通って該溝部6を幅方向に二等分する仮想線の長さ)及び平面視形状は、溝部6に案内される攪拌具の攪拌動作と密接に関連し、したがって、攪拌具で攪拌されることで調製されるベーカリー生地の起泡性にも少なからず影響する。
この点、容器1Aでは、溝部6は底壁部2の内面にのみ形成され、且つ溝部6は平面視で一方向に延びる直線状であるので、容器1Aにおける溝部6を用いた攪拌具の攪拌動作は、水平方向における非回転の一方向での往復動作となる。溝部6を用いた攪拌具の攪拌動作がこのような往復動作となる場合、溝部6の長手方向長さは、好ましくは4~15cm、より好ましくは6~10cmである。
【0034】
図2図4は、本発明に係る容器の他の実施形態の図1相当図である。後述する他の実施形態については、前述した容器1Aと異なる構成を主に説明し、同様の構成は同一の符号を付して説明を省略する。後述する実施形態において特に説明しない構成は、前述の容器1Aについての説明が適宜適用される。
【0035】
図2に示す容器1Bでは、溝部6は平面視で弧線状である。容器1Bでは、図2(b)に示す如き平面視において弧線状の溝部6が、平面視円形形状の底壁部2の内面の周方向に所定間隔を置いて複数(具体的には2本)形成されている。容器1Bでは、底壁部2の内面の中心を通って該内面を二等分する中心線CLを挟んで一方側及び他方側の双方に溝部6が形成されており、更に、該一方側の溝部6と該他方側の溝部6とは対称に形成されている。
【0036】
容器1Bでは、溝部6は底壁部2の内面にのみ形成され、且つ溝部6は平面視で一方向に延びる弧線状であるので、容器1Bにおける溝部6を用いた攪拌具の攪拌動作は、容器1Aにおけるそれと同様に、水平方向における非回転の一方向での往復動作となる。したがって、容器1Bにおける弧線状の溝部6の長手方向長さは、前述した容器1Aのそれと同じであることが好ましい。
【0037】
図3に示す容器1Cでは、溝部6は周壁部3の底部側の内面にのみ形成され、底壁部2の内面には形成されていない。
容器1Cの周壁部3の底部側の内面には、周壁部3の内面の全周にわたって、弧線状が水平に連続する環状(円環状)の溝部6が1本形成されている。
また容器1Cでは、図3(c)に示すように、周壁部3の外面(収容空間4に面する面とは反対側の面)における溝部6に対応する部分が、周辺部よりも外方(側方)に突出している。なお本発明では、周壁部3の外面における溝部6に対応する部分は、図示の如くに外方に突出していなくてもよい。例えば、周壁部3の厚みが溝部6の深さよりも大きい場合は、周壁部3の外面における溝部6に対応する部分が外方に突出しない形態となり得、本発明には斯かる形態が包含される。
【0038】
容器1Cでは、溝部6は周壁部3の底部側の内面にのみ形成され、且つ溝部6は周壁部3の内面の全周にわたって水平に連続する環状であるので、容器1Cにおける溝部6を用いた攪拌具の攪拌動作は、水平方向における回転動作となる。溝部6を用いた攪拌具の攪拌動作がこのような水平方向における回転動作となる場合、溝部6の長手方向長さ(周壁部3の周方向に沿う長さ)は、好ましくは8~75cm、より好ましくは20~40cmである。又は、容器1Bの場合と同様に、溝部6の円環状を構成する一部の弧線状部分に沿った往復動作であってもよい。
容器1Cでは、溝部6は図3(b)に示す如き平面視において円形形状であるが、例えばこれが楕円形形状である場合も、溝部6を用いた攪拌具の攪拌動作は水平方向における回転動作となるので、溝部6の長手方向長さは前記範囲にあることが好ましい。
【0039】
図4に示す容器1Dでは、溝部6は底壁部2と周壁部3とに跨って形成されている。すなわち容器1Dでは、底壁部2の内面から周壁部3の底部側の内面にわたって連続している。より具体的には、容器1Dの溝部6は、その長手方向の一端部側が底壁部2の内面に位置し、他端部側が周壁部3の内面に位置している。また容器1Dでは、底壁部2の内面の中心を通って該内面を二等分する中心線CLを挟んで一方側及び他方側それぞれに、該中心線CLに沿って延びる平面視直線状の溝部6が1本形成されており、更に、該一方側の溝部6における周壁部3に位置する部分と、該他方側の溝部6における周壁部3に位置する部分とが、対向している。
また容器1Dでは、図4(c)に示すように、底壁部2及び周壁部3それぞれの外面における溝部6に対応する部分が、周辺部よりも外方に突出している。なお本発明では、底壁部2及び周壁部3それぞれの外面における溝部6に対応する部分は、図示の如くに外方に突出していなくてもよい。
【0040】
容器1Dでは、溝部6は水平な底壁部2と該底壁部2に交差する周壁部3とに跨って形成され、且つ溝部6は平面視で一方向に延びる直線状であるので、容器1Dにおける溝部6を用いた攪拌具の攪拌動作は、水平方向及び鉛直方向の双方における非回転の一方向での往復動作(振り子動作)となる。溝部6を用いた攪拌具の攪拌動作がこのような振り子動作となる場合、溝部6の長手方向長さは、好ましくは7~25cm、より好ましくは5~15cmである。
【0041】
前述した構成を有する本発明のベーカリー食品用セットを使用する場合には、先ず、該セットを構成する容器(例えば前記の容器1A~1D)の上部開口5から、該セットを構成するベーカリー生地用ミックスを、規定量の液体とともに投入することで、収容空間4にて該ミックスを含む流動物を調製し、次に、スプーンなどの適当な攪拌具の先端部を、収容空間4に面して形成された溝部6に挿入し、溝部6に沿って該攪拌具を移動させる。この溝部6に沿った攪拌具の移動による、前記流動物(収容空間4の内容物)の攪拌動作を所定時間続けることで、起泡性の良好な高品質のベーカリー生地を調製することができる。なお、容器1A,1B,1Dのように、容器に溝部6が複数形成されている場合、内容物の攪拌には、その複数の溝部6のうちの一部のみを用いてもよく、全部を用いてもよい。後者の場合、1つの攪拌具を複数の溝部6に順次挿入して用いてもよく、あるいは複数の溝部6と同数の攪拌具を用意し、複数の溝部6それぞれに攪拌具を挿入し、それら複数の攪拌具を溝部6に沿って同時に動かしてもよい。
こうして調製されたベーカリー生地を、必要に応じ常法に従って発酵させた後、焼成などの加熱処理に供することで、ベーカリー食品が得られる。
【0042】
溝部6を用いた内容物の攪拌操作を容易にして、起泡性の良好な高品質のベーカリー生地を確実に調製する観点から、攪拌対象である「ベーカリー生地用ミックスを含む流動物」は、攪拌操作の開始時点でゾル状(バッター生地)であり、且つ攪拌操作の終了時点でもゾル状(バッター生地)であることが好ましい。つまり、攪拌対象である「ベーカリー生地用ミックスを含む流動物」、及び該流動物を攪拌して調製されたベーカリー生地は、比較的粘性の低いバッター生地であることが好ましい。攪拌対象である「ベーカリー生地用ミックスを含む流動物」が、攪拌によって粘度が増大する特性を有し、攪拌操作前にゾル状(バッター生地)でも攪拌操作後により粘性の高いゲル状(ドウ生地)に変化するようなものであると、溝部6を用いた内容物の攪拌操作がスムーズになされず、起泡性の良好な高品質のベーカリー生地の調製が困難になるおそれがある。
前記バッター生地の粘度は、攪拌操作の終了直後に、該バッター生地を目開き1mmの篩に通して固形物を除去し、該バッター生地の品温25℃で回転型粘度計を用いて測定した場合に、好ましくは300~10000cp、より好ましくは600~6000cpである。
【0043】
したがって、前述したように、「ベーカリー生地用ミックスが、容器1A~1Dの如き容器の収容空間4に収容可能な包装容器に収容され、該包装容器が、該ミックスを含む流動物を調製する際に該ミックスに加えられる液体の計量機能を有している」場合、該包装容器が有する該計量機能により計量される液体の量は、該流動物の攪拌によって調製されたベーカリー生地の品温25℃での粘度が前記の好ましい範囲となるような量であることが好ましい。
【実施例
【0044】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に制限されるものではない。なお、実施例5、9、10及び14は参考例である。
【0045】
〔実施例1~15、比較例1〕
前述した容器1A~1Dと同様の構成のポリスチレン製容器を各実施例の容器とした。また、図5に示すポリスチレン製容器1Eを比較例1の容器とした。容器1Eは、溝部が形成されていない点以外は、容器1Aと同様に構成されている。各実施例及び比較例の1A~1Eは何れも、石膏で作製した型に、加熱により柔らかくしたポリスチレン製の板(厚み1.5mm)を密着させて成形体を得、該成形体の冷却後に不要部分を切除することにより製造した。
そして、各実施例及び比較例の容器の収容空間に、ベーカリー生地用ミックスとしての市販のホットケーキミックス(日清フーズ株式会社製)100gを包装せずに直接収容した後、容器の上部開口をラップフィルムで封止して、容器と、該容器の内部に収容されたベーカリー生地用ミックス(ホットケーキミックス)とを含む、ベーカリー食品(ホットケーキ)用セットを製造した
【0046】
〔試験例〕
各実施例及び比較例のベーカリー食品用セットを用いて、ベーカリー生地(ホットケーキ生地)を調製した。具体的には、各セットにおける容器の上部開口を封止するラップフィルムを取り外し、該上部開口から水100mLを投入した後、通常の大さじを攪拌具として用いて、容器の収容空間の内容物(ホットケーキミックスと水との混合物)を攪拌した。この内容物の攪拌操作の際、各実施例の容器1A~1Dでは、大さじ(攪拌具)の先端部を、前述した溝部6に挿入した状態で、溝部6に沿って大さじを移動させることで攪拌操作を行った。一方比較例1の容器1Eでは、溝部6の如き攪拌具が挿入される溝部が無いため、大さじを把持する腕をなるべく固定し、手首から先を返すようにして、大さじが容器1Eに接しないように、攪拌操作を行った。各容器1A~1Eにおける内容物の攪拌操作は、何れも訓練されたパネラーに行ってもらい、その際、攪拌の1動作を0.5秒(2回の攪拌に1秒)となるようにしてもらい、各100回の攪拌を行った。
ここでいう「攪拌の1動作」とは、溝部6を有する容器1A~1Dについては、攪拌開始時点の攪拌具の先端部(溝部6に挿入される部分)の位置を原点として、該先端部を該原点から溝部6に沿って移動させる場合に、該先端部が溝部6の長手方向の全長にわたる移動を終えて最初に該原点に戻るまでの一連の移動に関わる攪拌動作を指す。具体的には例えば、容器1A、1B、1Dの場合、すなわち溝部6の平面視形状が長手方向端を有する線状の場合(環状でない場合)において、攪拌具の先端部を、その線状の溝部6の長手方向の一端から他端へ移動させ、更に該他端から該一端へ移動させた場合、つまり溝部6に沿って一往復させた場合、その攪拌具の溝部6に沿った一往復の移動が「攪拌の1動作」である。また容器1Cの場合、すなわち溝部6の平面視形状が環状の場合において、攪拌具の先端部をその環状の溝部6に沿って一周させた場合、その攪拌具の周回移動が「攪拌の1動作」である。一方、溝部6を有さない容器1Eについては、攪拌具を把持する腕の手首の一方向(例えば、縦方向又は横方向)における一方側への移動及びその後の反対側への移動、すなわち手首の一方向における一往復の移動が「攪拌の1動作」である。
調製したホットケーキ生地を、常法によりフライパンで焼成し、ホットケーキを製造した。このホットケーキを10名の専門パネラーに食してもらい、その際の食感を下記評価基準により評価してもらった。10名の評価点の平均値を表1に示す。
【0047】
<ホットケーキの食感の評価基準>
5点:気泡が非常に多くふんわりとし、ダマが全く無く、非常に良好。
4点:気泡が多くふんわりとし、ダマが少なく、良好。
3点:ややダマがあるが、ふんわり感があり、やや良好。
2点:ねちゃつき感があり、ダマもあり、不良。
1点:ねちゃつき感が強く、ダマが非常に多く、極めて不良。
【0048】
なお、前記評価基準で「2点」のホットケーキは、製菓用のボウルに前記ホットケーキミックス100gと水100mLとを投入し、該ボウルの内容物を、大さじを用いて比較例1(容器1E)と同様の攪拌操作で攪拌して調製した生地を用いたホットケーキの食感に相当する。
また、前記評価基準で「4点」のホットケーキは、大さじに代えて泡だて器を用いて攪拌操作を行った以外は、前記評価基準で「2点」のホットケーキの製造方法と同様の方法で調製した生地を用いたホットケーキの食感に相当する。
また、前記評価基準で「5点」のホットケーキは、大さじに代えて電動ホイッパーを用いて攪拌操作を行った以外は、前記評価基準で「2点」のホットケーキの製造方法と同様の方法で調製した生地を用いたホットケーキの食感に相当する。
【0049】
【表1】
【0050】
【表2】
【符号の説明】
【0051】
1A,1B,1C,1D,1E 容器
2 底壁部
3 周壁部
4 収容空間
5 上部開口
6 溝部
図1
図2
図3
図4
図5