(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-05
(45)【発行日】2024-03-13
(54)【発明の名称】荷電粒子ビーム装置
(51)【国際特許分類】
H01J 37/28 20060101AFI20240306BHJP
H01L 21/683 20060101ALI20240306BHJP
H01J 37/20 20060101ALI20240306BHJP
【FI】
H01J37/28 B
H01L21/68 R
H01J37/20 A
(21)【出願番号】P 2020139062
(22)【出願日】2020-08-20
【審査請求日】2023-02-28
(73)【特許権者】
【識別番号】501387839
【氏名又は名称】株式会社日立ハイテク
(74)【代理人】
【識別番号】110002066
【氏名又は名称】弁理士法人筒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】門井 涼
(72)【発明者】
【氏名】李 ウェン
(72)【発明者】
【氏名】石垣 直也
【審査官】鳥居 祐樹
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-243991(JP,A)
【文献】特開平06-224286(JP,A)
【文献】特開平11-330220(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01J 37/28
H01L 21/683
H01J 37/20
G01N 23/2204
H02N 13/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
検査対象物を吸着する静電チャックと、
前記静電チャックに供給する電圧を生成する第1電圧生成部と、
前記検査対象物に関する状態を判別する第1状態判別部と、
を備え、
前記第1状態判別部は、
前記静電チャックが、正常に前記検査対象物を吸着した時に、前記第1電圧生成部を流れる静電チャック電流の時系列変化を模擬する、第1電流波形模擬部と、
前記第1電流波形模擬部により生成される模擬電流の時系列変化と、前記第1電圧生成部を流れる静電チャック電流の時系列変化との間の差分の積分値を取得する第1差分積分部と、
前記差分の積分値に基づいて、吸着時における前記検査対象物の状態と、前記検査対象物の形状的特徴とを判別する、第1判定部と、
を備える、荷電粒子ビーム装置。
【請求項2】
請求項1に記載の荷電粒子ビーム装置において、
前記検査対象物の形状的特徴を表示またはログ出力する表示部を、さらに備える、荷電粒子ビーム装置。
【請求項3】
請求項1に記載の荷電粒子ビーム装置において、
前記第1電流波形模擬部は、CR微分回路またはRL微分回路を備え、前記模擬電流の時系列変化は、前記CR微分回路またはRL微分回路によって生成され、
前記第1差分積分部は、RC積分回路またはLR積分回路を備え、前記差分の積分値は、前記RC積分回路またはLR積分回路によって生成される、荷電粒子ビーム装置。
【請求項4】
請求項3に記載の荷電粒子ビーム装置において、
前記差分の積分値は、一定時間ごとに取得される、荷電粒子ビーム装置。
【請求項5】
請求項1に記載の荷電粒子ビーム装置において、
前記第1電流波形模擬部および前記第1差分積分部は、デジタル回路によって構成されている、荷電粒子ビーム装置。
【請求項6】
請求項1に記載の荷電粒子ビーム装置において、
前記第1電圧生成部が生成する電圧の極性とは異なる極性の電圧を生成し、前記静電チャックに供給する第2電圧生成部と、
前記検査対象物に関する状態を判別する第2状態判別部と、
を、さらに備え、
前記第2状態判別部は、
前記静電チャックが、正常に前記検査対象物を吸着した時に、前記第2電圧生成部を流れる静電チャック電流の時系列変化を模擬する、第2電流波形模擬部と、
前記第2電流波形模擬部により生成される模擬電流の時系列変化と、前記第2電圧生成部を流れる静電チャック電流の時系列変化との間の差分の積分値を取得する第2差分積分部と、
前記差分の積分値に基づいて、吸着時における前記検査対象物の状態と、前記検査対象物の形状的特徴とを判別する、第2判定部と、
を備える、荷電粒子ビーム装置。
【請求項7】
請求項6に記載の荷電粒子ビーム装置において、
前記検査対象物は、半導体ウェハである、荷電粒子ビーム装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、荷電粒子ビーム装置に関し、特に対象物を吸着(チャック)する静電チャックを備えた荷電粒子ビーム装置に関する。
【背景技術】
【0002】
静電チャックを備えた装置は、例えば特許文献1に記載されている。特許文献1では、静電チャックを備えた装置として、真空処理装置が示され、静電チャックは静電チャックプレートとして述べられている。
【0003】
特許文献1では、予め、静電チャックプレート上に基板を配置しない状態で、静電チャックプレートに電圧を印加し、その際に流れた第一のパルス電流の値と、静電チャックプレート上に正常な状態で基板を配置し、静電チャックプレートに電圧を印加し、吸着を開始したときに流れた第二のパルス電流の値を測定する。測定で求めた第一のパルス電流の値と第二のパルス電流の値の差を基準電流値とする。実際に処理においては、静電チャックプレートに電圧を印加し、吸着を開始したときに流れた第三のパルス電流の値を測定し、第三のパルス電流の値と第一のパルス電流の値の差を測定電流値とし、測定電流値と基準電流値とから、基板が正常に吸着されたか否かを判断することが、特許文献1には記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
荷電粒子ビーム装置は、対象物の測定や加工に用いられるが、対象物の状態により、測定や加工の精度が変化する。例えば対象物の状態が異常であると、精度は悪化する。異常の種類としては、例えば対象物の歪み(例えば対象物の反り等)、対象物を吸着した静電チャックと対象物との間に異物が挟み込まれる異物かみこみ、対象物の主面に酸化膜が形成されること等がある。
【0006】
このことから、測定や加工の精度を向上させるためには、予め対象物の状態を判別し、状態に応じた測定や加工を行うことが望ましい。
【0007】
なお、特許文献1では、対象物の状態は考慮されていない。
【0008】
本発明の目的は、測定や加工の精度を向上させることが可能な荷電粒子ビーム装置を提供することにある。
【0009】
本発明の他の目的と新規な特徴は、本明細書の記述および添付図面から明らかになるであろう。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本願において開示される実施の形態のうち代表的なものの概要を簡単に説明すれば下記の通りである。
【0011】
すなわち、荷電粒子ビーム装置は、検査対象物を吸着する静電チャックと、静電チャックに供給する電圧を生成する第1電圧生成部と、検査対象物に関する状態を判別する第1状態判別部とを備えている。ここで、第1状態判別部は、静電チャックが、正常に検査対象物を吸着した時に、第1電圧生成部を流れる静電チャック電流の時系列変化を模擬する、第1電流波形模擬部と、第1電流波形模擬部により生成される模擬電流の時系列変化と、第1電圧生成部を流れる静電チャック電流の時系列変化との間の差分の積分値を取得する第1差分積分部と、差分の積分値に基づいて、吸着時における検査対象物の状態と、検査対象物の形状的特徴とを判別する、第1判定部とを備えている。
【発明の効果】
【0012】
本願において開示される発明のうち、代表的な実施の形態によって得られる効果を簡単に説明すると、測定や加工の精度を向上させることが可能な荷電粒子ビーム装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】実施の形態1に係る荷電粒子ビーム装置の全体的な構成を示すブロック図である。
【
図2】実施の形態1に係る高電圧発生装置の構成を示す回路図である。
【
図3】(A)から(C)は、実施の形態1に係る計測信号と模擬信号の時系列変化を示す波形図である。
【
図4】実施の形態1に係る荷電粒子ビーム装置の動作を示すフローチャート図である。
【
図5】実施の形態1に係るエッジ電界調整を説明するための図である。
【
図6】実施の形態1の変形例1に係る高電圧発生装置の構成を示す回路図である。
【
図7】実施の形態1の変形例2に係る高電圧発生装置の構成を示す回路図である。
【
図8】(A)および(B)は、実施の形態1の変形例2に係る高電圧発生装置の動作を説明するための図である。
【
図9】実施の形態2に係る荷電粒子ビーム装置の構成を示す回路図である。
【
図10】実施の形態2に係る高電圧発生装置および負高電圧発生装置を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
実施形態について、図面を参照して説明する。なお、以下に説明する実施形態は特許請求の範囲に係る発明を限定するものではなく、また実施の形態の中で説明されている諸要素及びその組み合わせの全てが発明の解決手段に必須であるとは限らない。
【0015】
以下の説明では、荷電粒子ビーム装置の対象物(試料)として、半導体ウェハを例にし、荷電粒子ビーム装置として、半導体ウェハを検査する半導体検査装置を例として説明するが、これに限定されるものではない。
【0016】
(実施の形態1)
<荷電粒子ビーム装置の全体構成、対象物に関する状態>
図1は、実施の形態1に係る荷電粒子ビーム装置の全体的な構成を示すブロック図である。荷電粒子ビーム装置は、複数の機能ブロックを備えているが、
図1には説明に必要な機能ブロックのみが描かれている。同図において、1は荷電粒子ビーム装置を示している。荷電粒子ビーム装置1は、荷電粒子源2、表示部5、高電圧発生装置10および静電チャック11_21を備えている。また、
図1において、4は対象物を示しており、
図1には、対象物4が荷電粒子ビーム装置1に固定された状態が示されている。
【0017】
荷電粒子ビーム装置1においては、荷電粒子源2から荷電粒子ビーム3が出力される。出力された荷電粒子ビーム3は、照射対象である対象物4に照射される。静電チャック11_21は、高電圧発生装置10からの高電圧を静電気源として、静電気力を発生し、対象物4である試料を静電気力によって吸着し、静電チャック11_21上に固定する。表示部5は、高電圧発生装置10に接続され、高電圧発生装置10からの情報に基づいて、アラート表示やログ出力を行う。
【0018】
ここでは、荷電粒子ビーム装置1として、SEM(Scanning Electron Microscope)を用い、対象物(試料)4として、前記したように半導体ウェハを用いた場合を例として説明するが、勿論これに限定されるものではない。
【0019】
次に、対象物4に関する状態を、図面を用いて説明しておく。
図11は、対象物に関する状態を示す図である。
図11には、対象物4が正常に静電チャック11_21に吸着された時の状態(正常時)と、対象物4が正常に静電チャック11_21に吸着されていない時の状態(異常時)とが描かれている。
【0020】
静電チャック11_21は、吸着時に正極性の高電圧が供給される+電極(正極性電極)11pと、吸着時に負極性の高電圧が供給される-電極(逆極性電極)21pと、+電極11pおよび-電極21p上に配置された絶縁体とを備えている。
【0021】
正常時においては、吸着により、対象物4の主面が絶縁体と密着するように吸着される。これにより、荷電粒子源2と対象物4との間の距離は、ほぼ均等になる。
【0022】
これに対して、異物かみこみ時として示されているように、異物DSTが、対象物4と絶縁体との間に挟み込まれると、異物DSTが挟み込まれている部分において、荷電粒子源2と対象物4との間の距離が変わり、測定や加工の精度が低下することになる。また、対象物4が、歪み(反り)時として示されているように、変形している(形状的特徴)と、対象物4の中心部と周辺部とで、荷電粒子源2との間の距離が変わり、測定や加工の精度が低下することになる。
【0023】
実施の形態1によれば、高電圧発生装置10によって、どのような状態の異常が発生しているのかを判別することが可能となる。次に、高電圧発生装置10を、図面を用いて説明する。
【0024】
<高電圧発生装置>
図2は、実施の形態1に係る高電圧発生装置の構成を示す回路図である。
図2では、11および21が静電チャック11_21を示している。すなわち、静電チャック11_21が、2個の直列接続されたコンデンサにより構成された等価回路として描かれている。ここで、コンデンサの電極11pは、
図11で示した+電極11pを示し、コンデンサの電極21pは、
図11で示した-電極21pを示している。
【0025】
高電圧発生装置10は、正極性の電圧生成部(第1電圧生成部)100と、状態判別部(第1状態判別部)110と、負極性(逆極性)の電圧生成部300と、出力電圧制御部120とを備えている。
【0026】
正極性の電圧生成部100は、電流計側部101と、出力抵抗102と、電圧源103とを備えている。電圧源103の正極は、電流計側部101および出力抵抗102を介して、静電チャック11_21の+電極11pに接続され、電圧源103の負極は、接地電圧Vsに接続されている。電圧源103は、出力電圧制御部120によって制御される。対象物4を静電チャック11_21に吸着させるとき、出力電圧制御部120によって、電圧源103は正極性の高電圧を電流計測部101および出力抵抗102を介して、静電チャックの+電極11pに供給するように制御される。これにより、電流計側部101および出力抵抗102には、対象物4を吸着させるような電流(静電チャック電流)I100が流れる。すなわち、静電チャック11_21によって、対象物4を吸着するとき、電圧生成部100を静電チャック電流I100が流れることになる。電流計測部101は、この静電チャック電流I100を計測し、静電チャック電流I100に応じた値の計測信号(計測電流)DT100を形成する。すなわち、静電チャック電流I100が、時間の経過に伴って時系列的に変化すると、計測信号DT100の値も、静電チャック電流I100の時系列変化に応じて、時系列変化する。なお、出力抵抗102は、電流制限用の抵抗である。
【0027】
状態判別部110は、電流波形模擬部(第1電流波形模擬部)111と、差分出力部(第1差分出力部)115と、差分積分部(第1差分積分部)116と、差分判別部(第1判定部)119とを備えている。
【0028】
電流波形模擬部111は、電圧源112と、コンデンサ113と、抵抗114とを備えている。電圧源112の負極は、接地電圧Vsに接続され、正極は、コンデンサ113および抵抗114を介して、接地電圧Vsに接続されている。コンデンサ113と抵抗114とを接続する接続ノードn111が、電流波形模擬部111の出力となり、模擬信号(模擬電流)DT111を出力する。
【0029】
電圧源112は、電圧源103と連動するように出力電圧制御部120によって制御される。すなわち、電圧源103が正極性の高電圧を出力するとき、電圧源112も実質的に同時に電圧を出力するように、電圧源112は出力電圧制御部120によって制御される。電圧源103は、対象物4を吸着するために用いられるため、高電圧を出力するが、電圧源112は、対象物4を吸着するのに用いられないため、電圧源103が出力する電圧よりも低い電圧(絶対値の小さい電圧)を出力する。電圧源112からの電圧がコンデンサ113を介して抵抗114に供給され、コンデンサ113と抵抗114との間の接続ノードn111が出力となるため、コンデンサ113と抵抗114とによって、CR微分回路が構成されていることになる。なお、この微分回路はコンデンサ113を抵抗、抵抗114をコイルとして構成してもよい。すなわち、微分回路としてRL微分回路を用いてもよい。
【0030】
電流波形模擬部111は、静電チャック11_21が、対象物4を正常に吸着したときの静電チャック電流I100を模擬する。より具体的に述べると、静電チャック電流I100の時系列変化に応じて時系列に変化をする計測信号DT100を模擬する模擬信号DT111を形成するように、CR微分回路の定数(コンデンサ113および抵抗114の値)が設定されている。
【0031】
計測信号DT100と模擬信号DT111は、差分出力部115に供給される。この差分出力部115は、計測信号DT100と模擬信号DT111の差分を出力する。すなわち、計測信号DT100の時系列変化と模擬信号DT111の時系列変化の差分が、時系列的に、差分出力部115から出力されることになる。
【0032】
差分出力部115の出力は、抵抗117とコンデンサ118を備えた差分積分部116に供給される。ここで、抵抗117とコンデンサ118は、この順番で、差分出力部115の出力と接地電圧Vsとの間で直列的に接続され、抵抗117とコンデンサ118とを接続する接続ノードn116が、差分積分部116の出力となっている。すなわち、抵抗117とコンデンサ118によって、RC積分回路が構成されている。その結果、差分出力部115から出力された値は、差分積分部116によって、時間的に積分され、積分された値が、差分積分部116から、差分判別部119に供給される。差分判別部119は、差分積分部116から供給される時系列的に変化する値を基にして、対象物4の状態を判別する。差分判別部119によって判別された状態は、表示部5によって例えばアラートとして表示される。また、判別された状態によって、荷電粒子ビーム装置1の状態が調整される。なお、抵抗117とコンデンサ118による積分回路部分は、抵抗117をコイル、コンデンサ118を抵抗としたLR積分回路で構成してもよい。
【0033】
図2において、負極性の電圧生成部300は、電圧源303と出力抵抗302とを備えている。電圧源303の正極は、接地電圧Vsに接続され、負極は出力抵抗302を介して静電チャック11_21の-電極21pに接続されている。電圧源303も、出力電圧制御部120によって、電圧源103および112と連動するように制御される。すなわち、電圧源103が正極性の高電圧を+電極11pに出力するとき、実質的に同時に電圧源303が負極性の高電圧を-電極21pへ出力するように、電圧源303は、出力電圧制御部120によって制御される。なお、出力抵抗302は、電流制限用の抵抗である。
【0034】
<計測信号DT100と模擬信号DT111>
次に、計測信号DT100と模擬信号DT111について、図面を用いて説明する。計測信号DT100は、静電チャック電流I100の時系列変化に応じて変化するため、計測信号DT100は、静電チャック電流I100の時系列変化を示していると見なすことができる。
【0035】
図3は、実施の形態1に係る計測信号(電流計測部101の出力)と模擬信号(電流波形模擬部111の出力)の時系列変化を示す波形図である。ここで、
図3(A)には、正常時の波形が示され、
図3(B)には、異物かみこみ時の波形が示され、
図3(C)には、歪み時の波形が示されている。ここで、正常時、異物かみこみ時および歪み時における対象物の状態は、一例が先に説明した
図11に描かれている。
図3(A)~
図3(C)には、各状態における計測信号DT100、模擬信号DT111および差分積分部116の出力波形が示されている。
【0036】
計測信号DT100の時系列変化は、対象物4の状態に応じて変わる。これに対して、模擬信号DT111は、対象物4の状態に依存せずに、正常時の時系列変化を維持する。
【0037】
図3(A)に示す正常時では、時間経過に伴う計測信号DT100の時系列変化(波形形状)と模擬信号DT111の時系列変化(波形形状)は、ほぼ等しくなる。差分積分部116は、この2つの波形間の差分を微小時間ごとに積分して求めた値を、出力波形として出力する。正常時では、計測信号DT100と模擬信号DT111との間の差分がほとんどないため、差分積分部116の出力波形は、0に近い値となる。
【0038】
これに対して、異物かみこみ時および歪み時では、差分積分部116の出力波形が、異なる形状を示すことになる。
【0039】
先ず、
図3(B)に示す異物かみこみ時では、電圧生成部100を流れる静電チャック電流I100の振幅が、正常時よりも小さくなる。その結果、計測信号DT100も、正常時よりも振幅が小さな波形形状となる。このため、差分積分部116の出力波形は、時間が経過するごとに振幅が増大する波形形状となる。
【0040】
一方、
図3(C)に示す歪み時では、電圧生成部100を流れる静電チャック電流I100の振幅がピークとなる時刻(ピーク出現時間)が、正常時に比べると遅くなる。このため、差分積分部116の出力波形は、最初は振幅が増大していき、その後振幅が減少する波形形状となる。このように、対象物4の状態によって、差分積分部116出力波形の特徴が異なっている。
【0041】
そのため、
図3に示すような一定の閾値を設定し、差分判別部119において差分積分部116の出力波形と閾値とを比較することにより、正常時、異物かみこみ時および歪み時の状態を判別することが可能である。すなわち、差分積分部116の出力波形が、閾値を超えなければ、正常時の状態であると判定することが可能である。これに対して、差分積分部116の出力波形が、閾値を超えた状態を継続している場合、異物かみこみ時の状態であると判定することが可能である。さらに、差分積分部116の出力波形が、一度閾値を超え、その後閾値以下に低下する場合には、歪み時の状態であると判定することが可能である。
【0042】
<動作例>
図4は、実施の形態1に係る荷電粒子ビーム装置の動作を示すフローチャート図である。
【0043】
ステップS101において、静電チャック動作を開始する。ステップS102においては、計測信号DT100と模擬信号DT111との間の差分を積分する。ステップS103では、ステップS102で求められた積分値が、閾値を超えたか否かの判定が実行される。積分値が閾値を超えていないと判定された場合、対象物4である半導体ウェハは正常な状態と判定され、次にステップS108が実行される。
【0044】
ステップS108では、荷電粒子ビーム装置1によって、通常の検査・計測処理が実行され、ステップS110で、静電チャック動作および荷電粒子ビーム装置1を用いた処理が終了する。
【0045】
これに対して、ステップS103において、積分値が閾値を超えたと判定された場合、次にステップS104が実行される。ステップS104では、積分値が閾値を一度超えたままか否かの判定が実行される。積分値が閾値を超えたままの状態の場合、次に、ステップS105が実行される。ステップS105では、異物かみこみの状態が発生していると判別する。この場合、異物の存在によって、対象物4である半導体ウェハの一部分が、
図11に示したように、静電チャック11_21の上から浮き上がっているため、荷電粒子源2(
図1)との距離が所定のものから変わることになる。そのため、ステップS105では、半導体ウェハの高さの計測と、半導体ウェハにおける電位分布の計測が行われる。
【0046】
ステップS105に続くステップS107において、表示部5(
図1)によりアラート表示とログの出力を実行する。この場合、異物かみこみの状態であることと、計測した半導体ウェハの高さおよび電位分布が、例えばアラート表示およびログとして出力される。
【0047】
ステップS107に続いて、ステップS109が実行される。ステップS109においては、ステップS105で計測された半導体ウェハの高さおよび電位分布に従って、荷電粒子ビーム装置1を調整する処理が実行される。ステップS105で調整された荷電粒子ビーム装置1により、ステップS108で検査・計測処理が実行され、ステップS110で終了する。
【0048】
ステップS104において、積分値は、閾値を超えたままではなく、時間の経過により閾値以下に低下したと判定された場合、次にステップS106が実行される。この場合、ステップS106では、歪みの状態が発生していると判定される。歪みの状態においても、半導体ウェハの一部分が、
図11に示したように、静電チャック11_21の上から浮き上がっているため、ステップS105と同様に、ステップS106においても、半導体ウェハの高さが計測される。また、ステップS106では、後で
図5を用いて説明するエッジ電界調整が実行される。
【0049】
ステップS106の後のステップS107において、アラート表示およびログ出力が実行される。この場合には、歪みの状態が発生していること、半導体ウェハの高さ、エッジ電界調整の結果等が、例えばアラート表示およびログとして出力される。その後、ステップS106で計測された結果等に従って、荷電粒子ビーム装置1の調整処理がステップS109において実行され、ステップS108において、検査・計測処理が実行され、ステップS110で終了する。
【0050】
以上の動作により、対象物4である半導体ウェハに異物かみこみや歪みの状態が発生している場合でも、それぞれの状態が判別され、状態に応じた調整が行われ、正常の状態の場合と同様に、検査・計測処理を実行することが可能である。その結果、対象物4が異常な状態になっていても、測定や加工の精度を向上させることが可能である。
【0051】
<<エッジ電界調整>>
次に、ステップS106で実行されるエッジ電界調整を説明する。
図5は、実施の形態1に係るエッジ電界調整を説明するための図である。
図5には、静電チャック11_21において、電極11pに関わる部分が描かれている。電極11pには、
図2で説明したように電圧生成部100から高電圧が供給される。なお、
図5では、
図1に示した電流計測部101は省略されている。
図5において、1003は、静電チャック11_21の絶縁体の周辺部に配置されたエッジ電界調整電極を示し、1004は、エッジ電界調整電極用電源を示している。エッジ電界調整電極用電源1004は、電圧源1001と電流制限用の出力抵抗1002とによって構成され、電圧源1001と出力抵抗1002は、エッジ電界調整電極1003と接地電圧Vsとの間で直列的に接続されている。なお、出力抵抗を介して電極11pに接続される電圧源103の極性と、出力抵抗を介してエッジ電界調整電極1003に接続される電圧源1001の極性とは逆になっている。
【0052】
図5では、対象物4である半導体ウェハが、静電チャック11_21に密着するように描かれているが、歪みが発生していると、
図11に示したように、例えば半導体ウェハの端の部分(周辺部)が、静電チャック11_21から浮き上がる。これにより、半導体ウェハの端の部分では、電界に偏りが生じることになる。エッジ電界調整電極用電源1004からエッジ電界調整電極1003に電圧を供給することにより、半導体ウェハの端の部分で生じる電界の偏りが一様になるように、電界を制御する。すなわち、ステップS106では、半導体ウェハの歪みに応じた値となるように、エッジ電界調整電極用電源1004の出力電圧を制御する。これにより、歪みにより生じる電界の偏りを低減することが可能である。
【0053】
<変形例1>
図2では、電流波形模擬部111等をアナログ回路で構成する例を示したが、これに限定されるものではない。変形例1においては、デジタル回路により構成された状態判別部が提供される。
【0054】
図6は、実施の形態1の変形例1に係る高電圧発生装置の構成を示す回路図である。
図6は、
図2と類似している。主な相違点は、状態判別部が変更され、符号が110_1となっている点と、状態判別部の変更に伴って高電圧発生装置の符号が10_1となっている点である。
【0055】
状態判別部110_1は、デジタル演算回路によって構成された電流波形模擬部111_1と、デジタル加減算回路によって構成された差分出力部115_1と、デジタル演算回路によって構成された差分積分部116_1と、デジタル回路によって構成された差分判別部119とを備えている。
【0056】
電流波形模擬部111_1を構成するデジタル演算回路は、
図6に示されている演算を実行する。ここで、Aは定数を示し、τは時定数を示し、tは時間を示している。定数Aを調整することにより、電流波形模擬部111_1は、正常時の計測信号DT100と同様に時系列的に変化する模擬信号DT111を出力する。差分出力部115_1を構成するデジタル加減算回路は、計測信号DT100と模擬信号DT111との間で減算を実行し、差分を差分積分部116_1に供給する。差分積分部116_1を構成するデジタル演算回路によって、供給された差分の積分を実行し、その結果を差分判別部119_1に供給する。差分判別部119_1では、予め定められたデジタルの閾値と、積分結果とを比較する。これにより、デジタル回路で構成された状態判別部110_1によっても、対象物4の状態(異物かみこみ、歪み等)を判別し、状態に応じた調整処理を実行して、正常時と同様に、検査・計測処理を実行することが可能である。
【0057】
図6では、電流波形模擬部111_1としてデジタル演算回路を用いる例を示したが、これに限定されるものではない。例えば、電流波形模擬部111_1をデジタルのメモリによって構成するようにしてもよい。この場合、正常時の計測信号DT100と同様な時系列変化をする波形をメモリに格納しておき、計測信号DT100と同期して、模擬信号DT111として読み出すようにすればよい。
【0058】
また、
図6で述べたデジタル演算等は、プログラムのようなソフトウェアによって実現されるようにしてもよい。この場合、例えばプログラムを実行する1個のプロセッサが、電流波形模擬部111_1、差分出力部115_1、差分積分部116_1および差分判別部119_1として機能する。
【0059】
<変形例2>
図2に示した構成では、差分積分部116から出力される積分値と閾値との比較は連続時間で行われていた。変形例2においては、一定時間間隔で、積分値と閾値との比較が行われる。
【0060】
図7は、実施の形態1の変形例2に係る高電圧発生装置の構成を示す回路図である。
図7は、
図2と類似している。
図7と
図2との主な相違点は、差分積分部116が変更され、符号が116_2となっている点と、差分積分部116_2の変更に伴って、状態判別部の符号が110_2となり、高電圧発生装置の符号が10_2となっている点である。
【0061】
変形例2に係る差分積分部116_2には、接続ノードn116と接地電圧Vsとの間にリセット用のスイッチ121が追加されている。このスイッチ121を一定時間ごとにオン状態とすることにより、差分積分部116_2の出力を一定時間ごとに区切り、一定時間ごとに閾値と比較することが可能となる。
【0062】
図8は、実施の形態1の変形例2に係る高電圧発生装置の動作を説明するための図である。ここで、
図8(A)は、異物かみこみ時の動作を示し、
図8(B)は、歪み時の動作を示している。
【0063】
図8において、trは、スイッチ121をオン状態にして、リセットするタイミング(リセットタイミング)を示している。リセットタイミングtrで、スイッチ121をオン状態にすることにより、コンデンサ118の電荷が放電または充電されるため、接続ノードn116の電圧、すなわち差分積分部116_2の出力は、0にリセットされる。スイッチ121がオフ状態に変化すると、差分出力部115からの出力に従って、差分積分部116_2は、0から再び積分を開始し、その出力が変化することになる。
【0064】
差分判別部119は、リセットタイミングtrで区切られた時間ごとに、閾値と比較を行う。
【0065】
図8(A)に示す異物かみこみ時の場合、計測信号DT100と模擬信号DT111の振幅が、時系列変化において、逆転しない。すなわち、
図8(A)では、時間が経過しても、模擬信号DT111の振幅が、計測信号DT100の振幅よりも大きくなっている。そのため、差分積分部116_2の出力は、リセットタイミングtrで、0にリセットされた後、常に+側(一方側)にしか変化しないと言う特徴がある。
【0066】
これに対して、
図8(B)に示す歪みの時の場合、計測信号DT100と模擬信号DT111の振幅が、時系列変化において、逆転する。そのため、差分積分部116_2の出力は、リセットタイミングtrで、0にリセットされ、+側(一方側)に変化した後、次のリセットタイミングtrで、0にリセットされた後は、-側(他方側)に変化すると言う特徴がある。これらの特徴により、差分判別部119は、供給された積分値が1回以上+閾値を超え、-閾値を1回も超えない場合は、異物かみこみが発生していると判断する。一方、積分値が1回以上+閾値を超え、その後1回以上-閾値を超える場合は歪みが発生していると、差分判別部119は判断する。
【0067】
このように、変形例2によれば、2個の閾値を用いて、より確実に対象物4の状態を判断することが可能である。
【0068】
(実施の形態2)
図9は、実施の形態2に係る荷電粒子ビーム装置の構成を示す回路図である。実施の形態2に係る荷電粒子ビーム装置は、実施の形態1で説明した高電圧発生装置10に加えて負極性の高電圧を発生する負高電圧発生装置20を備えている。
【0069】
負高電圧発生装置20の構成は、高電圧発生装置10と類似している。すなわち、負高電圧発生装置20は、電圧生成部100に相当し、電圧源203、電流計側部201および出力抵抗202を備える電圧生成部(第2電圧生成部)200と、状態判別部110に相当する状態判別部(第2状態判別部)210と、出力電圧制御部120に相当する出力電圧制御部220を備えている。
【0070】
ここで、状態判別部210は、電流波形模擬部111に相当し、電圧源212、コンデンサ213および抵抗214を備えた電流波形模擬部(第2電流波形模擬部)211と、差分出力部115に相当する差分出力部(第2差分出力部)215とを備えている。さらに、状態判別部210は、差分積分部116に相当し、抵抗217およびコンデンサ218を備えた差分積分部(第2差分積分部)216と、差分判別部119に相当する差分判別部(第2差分判別部)219とを備えている。また、負高電圧発生装置20のからの負極性の高電圧は、負極性の電圧生成部300(
図2)の代わりに、静電チャック11_21の-電極21pに供給される。なお、高電圧発生装置10と負高電圧発生装置20によって、静電チャック11_21に正負の高電圧を供給する高電圧発生装置が構成されていると見なしてもよい。
【0071】
高電圧発生装置10と負高電圧発生装置20との主な相違点は、電圧源203および212の極性が、電圧源103および112と逆になっていることである。すなわち、電圧源203の負極が、電流計側部201を介して-電極21pに接続され、電圧源212の負極が、コンデンサ213を介して接続ノードn111に相当する接続ノードn211に接続されている。
【0072】
高電圧発生装置10における模擬信号DT111と同様に、負高電圧発生装置20における模擬信号DT211は、正常時の計測信号DT200と正負反転した形で同様な時系列変化をする。
【0073】
図10は、実施の形態2に係る高電圧発生装置および負高電圧発生装置を説明するための図である。
図10には、対象物4である半導体ウェハの裏面に意図しない膜が形成されている場合が示されている。ここで、裏面とは、静電チャック11_21の絶縁体に接する半導体ウェハの主面を示している。この場合、
図10に示すように、正電圧を出力する高電圧発生装置10と負電圧を出力する負高電圧発生装置20で電流波形のピーク出現タイミングが異なる。すなわち、模擬信号DT111と計測信号DT100は、ほぼ等しくなるため、閾値を超えるようなピークは発生しない。これに対して、模擬信号DT211と計測信号DT200との間では、ピークの発生するタイミングが異なっている。
【0074】
これにより、実施の形態1の述べた対象物4の状態に加えて、裏面に膜が形成されている状態も判別することが可能である。
【0075】
以上、本発明者によってなされた発明を実施の形態に基づき具体的に説明したが、本発明は前記実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能であることはいうまでもない。
【符号の説明】
【0076】
1 荷電粒子ビーム装置
2 荷電粒子源
3 荷電粒子ビーム
4 対象物
5 表示部
10 高電圧発生装置
11_21 静電チャック
100、300 電圧生成部
101 電流計測部
102 出力抵抗
110 状態判別部
111 電流波形模擬部
115 差分出力部
116 差分積分部
119 差分判別部
120 出力電圧制御部