(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-05
(45)【発行日】2024-03-13
(54)【発明の名称】アライメント装置、アライメント方法、成膜装置及び成膜方法
(51)【国際特許分類】
C23C 14/04 20060101AFI20240306BHJP
C23C 14/54 20060101ALI20240306BHJP
H01L 21/68 20060101ALI20240306BHJP
H10K 50/10 20230101ALI20240306BHJP
H05B 33/10 20060101ALI20240306BHJP
【FI】
C23C14/04 A
C23C14/54 G
H01L21/68 F
H01L21/68 K
H05B33/14 A
H05B33/10
(21)【出願番号】P 2020168565
(22)【出願日】2020-10-05
【審査請求日】2022-11-21
(31)【優先権主張番号】10-2019-0126092
(32)【優先日】2019-10-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】591065413
【氏名又は名称】キヤノントッキ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】弁理士法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】青木 泰一郎
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 健太郎
(72)【発明者】
【氏名】岡部 俊介
(72)【発明者】
【氏名】中須 祥浩
【審査官】宮崎 園子
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-079480(JP,A)
【文献】国際公開第2018/236547(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 14/04
C23C 14/54
H01L 21/68
H10K 50/10
H05B 33/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板とマスクの位置ずれ量を検知する位置ずれ量検知手段と、
前記基板または前記マスクを相対移動させるための駆動手段と、
前記位置ずれ量検知手段によって検知された位置ずれ量に基づいて、前記駆動手段を制御し、前記基板と前記マスクの位置合わせを行う制御手段と、
前記駆動手段の駆動電流値の変動に基づいて、前記基板と前記マスクの接触を検知する接触検知手段と、を含み、
前記制御手段は、前記基板と前記マスクの位置合わせ動作中に前記接触検知手段によって検知される前記駆動手段の駆動電流値の変位量があらかじめ決められた基準値以下である場合、前記駆動手段の出力を低下させて前記位置合わせ動作を継続するように制御を行うことを特徴とするアライメント装置。
【請求項2】
前記制御手段は、前記基板と前記マスクの位置合わせ動作中に前記接触検知手段によって検知される前記駆動手段の駆動電流値の変位量があらかじめ決められた基準値より大きい場合、前記位置合わせ動作を停止させ、前記基板と前記マスクを離隔させる方向へ相対移動させるように制御を行うことを特徴とする請求項1に記載のアライメント装置。
【請求項3】
前記基板を吸着する基板吸着手段をさらに含み、
前記駆動手段は、基板を吸着した前記基板吸着手段を前記マスクに対し相対移動させるリニアモーターであることを特徴とする請求項1に記載のアライメント装置。
【請求項4】
固定プレート部と、前記固定プレート部に対し磁気浮上した状態で相対移動可能な可動プレート部を有する磁気浮上ステージ機構をさらに含み、
前記基板吸着手段は、前記可動プレート部に設置され、
前記駆動手段は、前記可動プレート部を磁気浮上した状態で移動させるリニアモーターであることを特徴とする請求項3に記載のアライメント装置。
【請求項5】
前記制御手段は、前記接触検知手段により接触が検知されることによって前記リニアモーターの出力を低下させる場合、前記リニアモーターが発振しない範囲内に前記駆動手段の駆動電流値が下がるように、前記リニアモーターの出力を低下させるように制御するこ
とを特徴とする請求項3に記載のアライメント装置。
【請求項6】
基板にマスクを介して成膜材料を成膜するための成膜装置であって、真空容器と、
前記真空容器内に設けられ、前記基板及び前記マスクを位置調整するための請求項1~5の何れか一項に記載のアライメント装置と、
前記真空容器内に設けられ、成膜材料を収納し、前記成膜材料を粒子化して放出するための成膜源と、を含むことを特徴とする成膜装置。
【請求項7】
基板とマスクの位置ずれ量を検知する位置ずれ量検知手段と、前記基板または前記マスクを相対移動させるための駆動手段と、前記駆動手段を制御する制御手段を含む成膜装置を用いて、前記基板および前記マスクを位置調整するためのアライメント方法であって、
前記位置ずれ量検知手段により、前記基板と前記マスクの位置ずれ量を検知する位置ずれ量検知工程と、
検知された前記位置ずれ量に基づいて、前記制御手段により前記駆動手段を制御することで、前記基板と前記マスクの位置合わせを行う
位置合わせ工程と、を含み、
前記制御手段は、前記位置合わせ工程中に、
前記駆動手段に印加される駆動電流値の変動に基づいて、前記基板と前記マスクの接触を検知し、前記駆動手段の駆動電流値の変位量があらかじめ決められた基準値以下である場合、前記駆動手段の出力を低下させて前記位置合わせ工程を継続するように制御することを特徴とするアライメント方法。
【請求項8】
前記制御手段は、前記基板と前記マスクの位置合わせ工程中に、前記駆動手段の駆動電流値の変位量があらかじめ決められた基準値より大きい場合、前記位置合わせ工程を停止させ、前記基板と前記マスクを離隔させる方向へ相対移動させるように制御を行うことを特徴とする請求項7に記載のアライメント方法。
【請求項9】
前記成膜装置は、前記基板を吸着する基板吸着手段をさらに含み、前記駆動手段は、基板を吸着した前記基板吸着手段を前記マスクに対し相対移動させるリニアモーターであることを特徴とする請求項7に記載のアライメント方法。
【請求項10】
前記成膜装置は、固定プレート部と、前記固定プレート部に対し磁気浮上した状態で相対移動可能な可動プレート部を有する磁気浮上ステージ機構とをさらに含み、前記基板吸着手段は、前記可動プレート部に設置され、前記駆動手段は、前記可動プレート部を磁気浮上した状態で移動させるリニアモーターであることを特徴とする請求項9に記載のアライメント方法。
【請求項11】
前記制御手段は、前記基板と前記マスクの接触が検知されることによって前記リニアモーターの出力を低下させる場合、前記リニアモーターが発振しない範囲内に前記駆動手段の駆動電流値が下がるように、前記リニアモーターの出力を低下させるように制御することを特徴とする請求項9に記載のアライメント方法。
【請求項12】
基板上にマスクを介して成膜材料を成膜するための成膜方法であって、
請求項7~11の何れか一項に記載のアライメント方法により、前記基板及び前記マスクを位置調整する工程と、
成膜源によって粒子化された成膜材料を、前記マスクを介して前記基板に成膜する工程と、
を含むことを特徴とする成膜方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アライメント装置、アライメント方法、成膜装置及び成膜方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
有機EL表示装置(有機ELディスプレイ)は、スマートフォン、テレビ、自動車用ディスプレイだけでなく、VR-HMD(Virtual Reality-Head Mount Display)などにその応用分野が広がっており、特に、VR-HMDに用いられるディスプレイは、ユーザーのめまいを低減するために画素パターンを高精度で形成することが求められる。
【0003】
有機EL表示装置の製造においては、有機EL表示装置を構成する有機発光素子(有機EL素子;OLED)を形成する際に、成膜装置の成膜源から放出された成膜材料を、画素パターンが形成されたマスクを介して、基板に成膜することで、有機物層や金属層を形成する。
【0004】
このような成膜装置においては、成膜精度を高めるために、成膜工程の前に、基板とマスクの相対位置を測定し、相対位置がずれている場合には、基板および/またはマスクを相対的に移動させて位置を調整(アライメント)する工程が必要になる。
【0005】
更に、この基板とマスクの位置合わせの精度を高めるために、基板とマスクは、可能な限り近接させた状態でアライメント動作を行うようにしている。
【0006】
例えば、従来の技術として特許文献1と特許文献2には真空蒸着により有機ELディスプレイを製造する装置において、基板とマスクを正確に位置決めするために、マスクと基板を近接させ、基板とマスクそれぞれに形成されたアライメントマークの相対位置を撮像し、位置合わせを行う方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2012-92397号公報
【文献】特開2006-12597号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、基板とマスクを近接させた状態でアライメントを行う場合には、例えば、マスクの変形(撓み)や、基板の厚さのばらつきなどによって、アライメント動作中に基板とマスクが接触を起こす場合がある。このように、アライメント動作中に基板とマスクの接触が生じると、摩擦によりマスクや基板の表面が損傷したり、接触による負荷増加によってアライメント動作が不安定になることがある。
【0009】
本発明は、基板とマスクの接触発生時に生じるアライメント動作の不安定性を解消することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の一実施形態によるアライメント装置は、基板とマスクの位置ずれ量を検知する位置ずれ量検知手段と、前記基板または前記マスクを相対移動させるための駆動手段と、前記位置ずれ量検知手段によって検知された位置ずれ量に基づいて、前記駆動手段を制御し、前記基板と前記マスクの位置合わせを行う制御手段と、前記駆動手段の駆動電流値の変動に基づいて、前記基板と前記マスクの接触を検知する接触検知手段と、を含み、前記制御手段は、前記基板と前記マスクの位置合わせ動作中に前記接触検知手段によって検知される前記駆動手段の駆動電流値の変位量があらかじめ決められた基準値以下である場合、前記駆動手段の出力を低下させて前記位置合わせ動作を継続するように制御を行うことを特徴とする。
【0011】
本発明の一実施形態による成膜装置は、基板にマスクを介して成膜材料を成膜するための成膜装置であって、真空容器と、前記真空容器内に設けられ、前記基板及び前記マスクを位置調整するための前述したアライメント装置と、前記真空容器内に設けられ、成膜材料を収納し、前記成膜材料を粒子化して放出するための成膜源と、を含むことを特徴とする。
【0012】
本発明の一実施形態によるアライメント方法は、基板とマスクの位置ずれ量を検知する位置ずれ量検知手段と、前記基板または前記マスクを相対移動させるための駆動手段と、前記駆動手段を制御する制御手段を含む成膜装置を用いて、前記基板および前記マスクを位置調整するためのアライメント方法であって、前記位置ずれ量検知手段により、前記基板と前記マスクの位置ずれ量を検知する位置ずれ量検知工程と、検知された前記位置ずれ量に基づいて、前記制御手段により前記駆動手段を制御することで、前記基板と前記マスクの位置合わせを行う位置合わせ工程と、を含み、前記制御手段は、前記位置合わせ工程中に、前記駆動手段に印加される駆動電流値の変動に基づいて、前記基板と前記マスクの接触を検知し、前記駆動手段の駆動電流値の変位量があらかじめ決められた基準値以下である場合、前記駆動手段の出力を低下させて前記位置合わせ工程を継続するように制御することを特徴とする。
【0013】
本発明の一実施形態による成膜方法は、基板上にマスクを介して成膜材料を成膜するための成膜方法であって、前述したアライメント方法により、前記基板及び前記マスクを位置調整する工程と、成膜源によって粒子化された成膜材料を、前記マスクを介して前記基板に成膜する工程と、を含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、基板とマスクの接触発生時に生じるアライメント動作の不安定性を解消することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】
図1は、電子デバイスの製造装置の一部の模式図である。
【
図2】
図2は、本発明の一実施形態による成膜装置の模式図である。
【
図3a】
図3aは、本発明の一実施形態による磁気浮上ステージ機構の模式図である。
【
図3b】
図3bは、本発明の一実施形態による磁気浮上ステージ機構の模式図である。
【
図3c】
図3cは、本発明の一実施形態による磁気浮上ステージ機構の模式図である。
【
図3d】
図3dは、本発明の一実施形態による磁気浮上ステージ機構の模式図である。
【
図4a】
図4aは、本発明の一実施形態による磁気浮上リニアモーターの構造を示す模式図である。
【
図4b】
図4bは、本発明の一実施形態による磁気浮上リニアモーターの構造を示す模式図である。
【
図5】
図5は、本発明の一実施形態による自重補償手段の構造を示す模式図である。
【
図6】
図6は、本発明の制御に関するブロック図である。
【
図7】
図7は、本発明による、マスクと基板が接触を起こした時の微動ステージのリニアモーターの電流と制御出力を示した模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面を参照しつつ本発明の好ましい実施形態及び実施例を説明する。ただし、以下の実施形態及び実施例は、本発明の好ましい構成を例示的に表すものであり、本発明の範囲は、これらの構成に限定されない。また、以下の説明における、装置のハードウェア構成及びソフトウェア構成、処理フロー、製造条件、寸法、材質、形状などは、特に限定的な記載がない限り、本発明の範囲をこれらのみに限定する趣旨のものではない。
【0017】
本発明は、基板の表面に各種材料を堆積させて成膜を行う装置に適用することができ、真空蒸着によって所望のパターンの薄膜(材料層)を形成する装置に好適に適用することができる。
【0018】
基板の材料としては、半導体(例えば、シリコン)、ガラス、高分子材料のフィルム、金属などの任意の材料を選ぶことができ、基板は、例えば、シリコンウエハ、又はガラス基板上にポリイミドなどのフィルムが積層された基板であってもよい。また、成膜材料としても、有機材料、金属性材料(金属、金属酸化物など)などの任意の材料を選ぶことができる。
【0019】
なお、本発明は、加熱蒸発による真空蒸着装置の以外にも、スパッタ装置やCVD(Chemical Vapor Deposition)装置を含む成膜装置にも、適用することができる。本発明の技術は、具体的には、半導体デバイス、磁気デバイス、電子部品などの各種電子デバイスや、光学部品などの製造装置に適用可能である。電子デバイスの具体例としては、発光素子や光電変換素子、タッチパネルなどが挙げられる。
【0020】
本発明は、中でも、OLEDなどの有機発光素子や、有機薄膜太陽電池などの有機光電変換素子の製造装置に好ましく適用可能である。なお、本発明における電子デバイスは、発光素子を備えた表示装置(例えば有機EL表示装置)や照明装置(例えば有機EL照明装置)、光電変換素子を備えたセンサ(例えば有機CMOSイメージセンサ)も含むものである。
【0021】
<電子デバイスの製造装置>
図1は、電子デバイスの製造装置の一部の構成を模式的に示す平面図である。
【0022】
図1の製造装置は、例えば、VR-HMD用の有機EL表示装置の表示パネルの製造に用いられる。VR-HMD用の表示パネルの場合、例えば、300mmのシリコンウエハに有機EL素子の形成のための成膜を行った後、素子形成領域の間の領域(スクライブ領域)に沿って該シリコンウエハを切り出して、複数の小さなサイズのパネルに製作する。本実施形態に係る電子デバイスの製造装置は、一般的に、複数のクラスタ装置1と、クラスタ装置の間を繋ぐ中継装置とを含む。
【0023】
クラスタ装置1は、基板Wに対する処理(例えば、成膜)を行う成膜装置11と、使用前後のマスクを収納するマスクストック装置12と、その中央に配置される搬送室13と、を具備する。搬送室13は、
図1に示したように、成膜装置11およびマスクストック装置12のそれぞれと接続される。
【0024】
搬送室13内には、基板Wおよびマスクを搬送する搬送ロボット14が配置される。搬送ロボット14は、例えば、多関節アームに、基板W又はマスクを保持するロボットハンドが取り付けられた構造を有するロボットである。
【0025】
成膜装置11では、成膜源から放出された成膜材料がマスクを介して基板W上に成膜される。搬送ロボット14との基板W又はマスクの受け渡し、基板Wとマスクの相対的位置の調整(アライメント)、マスク上への基板Wの固定、成膜などの一連の成膜プロセスは、成膜装置11によって行われる。
【0026】
有機EL表示装置を製造するための製造装置において、成膜装置11は、成膜される材料の種類によって、有機膜の成膜装置と金属性膜の成膜装置に分けることができ、有機膜の成膜装置は、有機物の成膜材料を蒸着又はスパッタリングによって基板Wに成膜し、金属性膜の成膜装置は、金属性の成膜材料を蒸着またはスパッタリングにより基板Wに成膜する。
【0027】
有機EL表示装置を製造するための製造装置において、どの成膜装置をどの位置に配置するかは、製造される有機EL素子の積層構造によって異なり、有機EL素子の積層構造に応じてこれを成膜するための複数の成膜装置が配置される。
【0028】
有機EL素子の場合、通常、アノードが形成されている基板W上に正孔注入層、正孔輸送層、発光層、電子輸送層、電子注入層、カソードがこの順に積層される構造を有し、これらの層を順次成膜できるように基板の流れ方向に沿って適切な成膜装置が配置される。
【0029】
例えば、
図1において、成膜装置11aは、正孔注入層HILおよび/または正孔輸送層HTLを成膜し、成膜装置11b、11fは、青色の発光層を、成膜装置11cは、赤色の発光層を、成膜装置11d、11eは、緑色の発光層を、成膜装置11gは、電子輸送層ETLおよび/または電子注入層EILを、成膜装置11hは、カソード金属膜を成膜するように配置される。
図1に示した実施例では、素材の特性上、青色の発光層と緑色の発光層の成膜速度が赤色の発光層の成膜速度より遅いので、処理速度のバランスを取るために青色の発光層と緑色の発光層とをそれぞれ2つの成膜装置で成膜するようにしているが、本発明はこれに限定されず、他の配置構造を有しても良い。
【0030】
マスクストック装置12には、成膜装置11での成膜工程に使われる新しいマスクと、使用済みのマスクとが、複数のカセットに分けて収納される。搬送ロボット14は、使用済みのマスクを成膜装置11からマスクストック装置12のカセットに搬送し、マスクストック装置12の他のカセットに収納されている新しいマスクを成膜装置11に搬送する。
【0031】
複数のクラスタ装置1の間を連結する中継装置は、クラスタ装置1の間で基板Wを搬送するパス室15を含む。
【0032】
搬送室13の搬送ロボット14は、上流側のパス室15から基板Wを受け取って、当該クラスタ装置1内の成膜装置11の一つ(例えば、成膜装置11a)に搬送する。また、搬送ロボット14は、当該クラスタ装置1での成膜処理が完了した基板Wを複数の成膜装置11の一つ(例えば、成膜装置11e)から受け取って、下流側に連結されたパス室15に搬送する。
【0033】
中継装置は、パス室15の他に、上下流側のクラスタ装置1での基板Wの処理速度の差を吸収するためのバッファ室(不図示)、及び基板Wの方向を変えるための旋回室(不図示)をさらに含むことができる。例えば、バッファ室は、複数の基板Wを一時的に収納する基板積載部を含み、旋回室は、基板Wを180度回転させるための基板回転機構(例えば、回転ステージまたは搬送ロボット)を含む。これにより、上流側のクラスタ装置と下流側のクラスタ装置で基板Wの向きが同じくなり、基板処理が容易になる。
【0034】
本発明の一実施形態によるパス室15は、複数の基板Wを一時的に収納するための基板積載部(不図示)や基板回転機構を含んでもよい。つまり、パス室15が、バッファ室や旋回室の機能を兼ねても良い。
【0035】
クラスタ装置1を構成する成膜装置11、マスクストック装置12、搬送室13などは、有機発光素子の製造過程で、高真空状態に維持される。中継装置のパス室15は、通常、低真空状態に維持されるが、必要に応じて高真空状態に維持されてもいい。
【0036】
有機EL素子を構成する複数の層の成膜が完了した基板Wは、有機EL素子を封止するための封止装置(不図示)や基板を所定のパネルサイズに切断するための切断装置(不図示)などに搬送される。
【0037】
本実施例では、
図1を参照し電子デバイスの製造装置の構成について説明したが、本発明はこれに限定されず、他の種類の装置やチャンバを有してもよく、これらの装置やチャンバ間の配置が変わってもいい。
【0038】
例えば、本発明の一実施形態による電子デバイス製造装置は、
図1に示したクラスタタイプではなく、インラインタイプであってもいい。つまり、基板Wとマスクをキャリアに搭載して、一列に並んだ複数の成膜装置内を搬送させながら成膜を行う構成を有してもよい。また、クラスタタイプとインラインタイプを組み合わせたタイプの構造を有しても良い。例えば、有機層の成膜まではクラスタタイプの製造装置で行い、電極層(カソード層)の成膜工程から封止工程及び切断工程などは、インラインタイプの製造装置で行ってよい。
【0039】
以下、成膜装置11の具体的な構成について説明する。
【0040】
<成膜装置>
図2は、本発明の一実施形態による成膜装置11の構成を示す模式図である。以下の説明においては、鉛直方向をZ方向とし、水平面をXY平面とするXYZ直交座標系を用いる。また、X軸まわりの回転角をθ
X、Y軸まわりの回転角をθ
Y、Z軸まわりの回転角をθ
Zで表す。
【0041】
図2は、成膜材料を加熱することによって蒸発または昇華させ、マスクMを介して基板Wに成膜する成膜装置11の一例を示している。
【0042】
成膜装置11は、真空雰囲気又は窒素ガスなどの不活性ガス雰囲気に維持される真空容器21と、真空容器21内に設けられ、基板Wの位置を少なくともX方向、Y方向、及びθZ方向に調整するための磁気浮上ステージ機構22と、真空容器21内に設けられ、マスクMを支持するマスク台23と、真空容器21内に設けられ、基板Wを吸着して保持する基板吸着手段24と、真空容器21内に設けられ、基板W及びマスクMを仮受けする受け爪28と、受け爪28からマスク台23へマスクを受け渡す際にマスクを受け取るマスク受けピン281と、マスク台23と受け爪28を装備し、基板W及びマスクMの位置をX方向、Y方向、θZ方向に調整するための粗動ステージ232と、真空容器21内に設けられ、成膜材料を収納し、成膜時にこれを粒子化して放出する成膜源25とを含む。
【0043】
本発明の一実施形態による成膜装置11は、磁気力によってマスクMを基板W側に密着させるための磁力印加手段26をさらに含むことができる。
【0044】
本発明の一実施形態による成膜装置11の真空容器21は、磁気浮上ステージ機構22が配置される第1真空容器部211と、成膜源25が配置される第2真空容器部212と
を含み、例えば、第2真空容器部212に接続された真空ポンプPによって真空容器21全体の内部空間が高真空状態に維持される。
【0045】
また、少なくとも第1真空容器部211と第2真空容器部212との間には、伸縮可能部材213が設置される。伸縮可能部材213は、第2真空容器部212に連結される真空ポンプからの振動や、成膜装置11が設けられた床又はフロアからの振動が、第2真空容器部212を通して第1真空容器部211に伝わることを低減する。伸縮可能部材213は、例えば、ベローズであり得るが、本発明はこれに限定されず、第1真空容器部211と第2真空容器部212との間で振動の伝達を低減することができる限り、他の部材を使用してもよい。
【0046】
真空容器21は、磁気浮上ステージ機構22が固定連結される基準フレーム215を含む。本発明の一実施例においては、
図2に示したように、基準フレーム215と第1真空容器部211との間にも伸縮可能部材213をさらに設置してもよい。これにより、基準フレーム215を介して磁気浮上ステージ機構22に外部振動が伝わることをさらに低減することができる。
【0047】
基準フレーム215と成膜装置11の設置架台217との間には、床又はフロアから成膜装置11の設置架台217を通して基準フレーム215に振動が伝わることを低減するための除振ユニット216が設置される。
【0048】
磁気浮上ステージ機構22は、磁気浮上リニアモーターによって基板Wまたは基板吸着手段24の位置を調整するためのステージ機構であって、少なくともX方向、Y方向、及びθZ方向、好ましくは、X方向、Y方向、Z方向、θX方向、θY方向、θZ方向の6つの方向における基板Wまたは基板吸着手段24の位置を調整する。
【0049】
磁気浮上ステージ機構22は、固定台として機能するステージ基準プレート部221(第1プレート部)と、可動台として機能する微動ステージプレート部222(第2プレート部)と、微動ステージプレート部222をステージ基準プレート部221に対し磁気浮上及び移動させるための磁気浮上ユニット223とを含む。
【0050】
マスク台23は、アライメント時及び成膜時にマスクMを設置する台であり、マスクホルダとも呼ばれる。
【0051】
マスク台23は水平方向(XYθ方向)に移動可能な粗動ステージ232上に設置されている。これにより、基板W及びマスクMに形成されたアライメントマークをアライメントカメラの視野内に入るよう移動することができる。また、マスク台23及び粗動ステージ232は、粗動Zステージ機構233の上に設置されている。これにより基板WとマスクMの間の鉛直方向における間隔を容易に調整することができる。本発明の一実施例のように、基板Wの位置を磁気浮上ステージ機構22によって調整する場合は、マスクMを支持するマスク台23は、モーター(不図示)及びボールねじ(不図示)によって機械的に昇降駆動することが好ましい。
【0052】
マスク台23は、搬送ロボット14によって真空容器21内に搬入された基板W及びマスクMを一時的に受け取るための受け爪28をさらに含む。
【0053】
受け爪28はマスク台23上に設置されており、搬送ロボット14から基板WまたはマスクMを一時的に受け取ることができる。受け爪28は、前記粗動ステージ232により、基板WまたはマスクMを、後述する第2アライメント(精度の高いアライメント)用のカメラの視野中心に移動させる、第1アライメント(大まかなアライメント)動作の際、
基板WまたはマスクMを支持することができる。受け爪28は、駆動軸を持ち、基板WまたはマスクMの受取位置と基板WまたはマスクMと干渉しない退避位置の2位置を取ることができる。受け爪28は前記駆動軸と前記粗動Zステージ機構233により、一時的に受け取った基板Wを、成膜プロセスの際に基板Wが設置される基板吸着手段24に、同じく一時的に受け取ったマスクMを、成膜プロセスの際にマスクMが設置されるマスク台23に設置することができる。
【0054】
マスク受けピン281は、マスク台23のマスク支持面に対して相対的に昇降できるように構成される。例えば、
図2に示したように、粗動Zステージ機構233によって、マスク受けピン281がマスク台23のマスク支持面に対して相対的に昇降可能に構成することができる。ただし、本発明はこれに限定されず、マスク受けピン281とマスク台23のマスク支持面とが相対的に昇降可能な限り、他の構成を有してもいい。例えば、マスク受けピン281が独立した昇降機構を持ち、昇降可能に構成しても良い。
【0055】
第1アライメント(大まかなアライメント)動作の完了後、粗動Zステージ機構233の下降動作により、
図2におけるマスク受けピン281はマスク台23のマスク支持面に対し、相対的に上昇し、マスクMはマスク受けピン281に受け渡される。受け爪28は退避位置に移動し、粗動Zステージ機構233の上昇動作により、マスクMはマスク受けピン281からマスク台23に受け渡される。逆に使用済みのマスクMを搬出する場合には、マスク台23に設置されたマスクMを、粗動Zステージ機構233が下降することで、マスク台23のマスク設置面より相対的に上昇したマスク受けピン281が受け取る。その状態で、受け爪28をマスク受取位置へ動作させ、粗動Zステージ機構233が上昇することで、受け爪28でマスクMを持ち上げ、搬送ロボット14のハンドがマスクMを受け取ることが出来るようにする。
【0056】
マスクMは、基板W上に形成される薄膜パターンに対応する開口パターンを有し、マスク台23によって支持される。例えば、VR-HMD用の有機EL表示パネルを製造するのに使われるマスクMは、有機EL素子の発光層のRGB画素パターンに対応する微細な開口パターンが形成された金属製マスクであるファインメタルマスク(FineMetalMask)と、有機EL素子の共通層(正孔注入層、正孔輸送層、電子輸送層、電子注入層など)を形成するのに使われるオープンマスク(OpenMask)とを含む。
【0057】
マスクMの開口パターンは、成膜材料の粒子を通過させない遮断パターンによって定義される。
【0058】
基板吸着手段24は、搬送室13に設置された搬送ロボット14が搬送してきた、被成膜体としての基板Wを吸着して保持する手段である。基板吸着手段24は、磁気浮上ステージ機構22の可動台である微動ステージプレート部222に設置される。
【0059】
基板吸着手段24は、例えば、誘電体又は絶縁体(例えば、セラミック材質)マトリックス内に金属電極などの電気回路が埋設された構造を有する静電チャックである。
【0060】
基板吸着手段24としての静電チャックは、電極と吸着面との間に相対的に抵抗が高い誘電体が介在して、電極と被吸着体との間のクーロン力によって吸着が行われるクーロン力タイプの静電チャックであってもよいし、電極と吸着面との間に相対的に抵抗が低い誘電体が介在して、誘電体の吸着面と被吸着体との間に発生するジョンソン・ラーベック力によって吸着が行われるジョンソン・ラーベック力タイプの静電チャックであってもよいし、不均一電界によって被吸着体を吸着するグラジエント力タイプの静電チャックであってもよい。
【0061】
被吸着体が導体または半導体(シリコンウエハ)である場合には、クーロン力タイプの静電チャックまたはジョンソン・ラーベック力タイプの静電チャックを用いることが好ましく、被吸着体がガラスのような絶縁体である場合には、グラジエント力タイプの静電チャックを用いることが好ましい。
【0062】
静電チャックは、一つのプレートで形成されてもよく、複数のサブプレートを有するように形成されてもいい。また、一つのプレートで形成される場合にも、その内部に複数の電気回路を有し、一つのプレート内で位置によって静電引力が異なるように制御してもいい。
【0063】
図2には図示しなかったが、成膜装置11は、搬送ロボット14によって真空容器21内に搬入された基板Wを基板吸着手段24が吸着して保持する前に、一時的に基板Wを保持する基板支持ユニットをさらに含んでもよい。例えば、基板支持ユニットは、マスク台23に別途の基板支持面を有するように設置され、マスク台23の昇降によって昇降するように設置されてもいい。
【0064】
また、
図2には図示しなかったが、基板吸着手段24の吸着面とは反対側に基板Wの温度上昇を抑制するための冷却手段(例えば、冷却板)を設けて、基板W上に堆積された有機材料の変質や劣化を抑制する構成にしてもよい。
【0065】
成膜源25は、基板Wに成膜される成膜材料が収納されるるつぼ(不図示)、るつぼを加熱するためのヒータ(不図示)、成膜源25からの蒸発レートが一定になるまで成膜材料が基板に飛散することを阻むシャッタ(不図示)などを含む。成膜源25は、点(point)成膜源や線状(linear)成膜源など、用途に従って多様な構成を有することができる。
【0066】
成膜源25は、互いに異なる成膜材料を収納する複数のるつぼを含んでもよい。このような構成においては、真空容器21を大気開放せずに成膜材料を変更できるように、異なる成膜材料を収納する複数のるつぼを成膜位置に移動可能に設置してもよい。
【0067】
磁力印加手段26は、成膜工程時に磁力によってマスクMを基板W側に引き寄せて密着させるための手段であって、鉛直方向に昇降可能に設置される。例えば、磁力印加手段26は、電磁石および/または永久磁石で構成される。
【0068】
図2に図示しなかったが、成膜装置11は、基板に蒸着された膜の厚さを測定するための膜厚モニタ(不図示)及び膜厚算出ユニット(不図示)を含んでもいい。
【0069】
真空容器21の上部外側(大気側)には、つまり、基準フレーム213上には、磁力印加手段26を昇降させるための磁力印加手段昇降機構261などが設置される。
【0070】
本発明の一実施形態による成膜装置11は、真空容器21の上部外側(大気側)に設置され、基板W及びマスクMに形成されたアライメントマークを撮影するためのアライメント用カメラユニット27をさらに含む。
【0071】
本実施例において、アライメント用カメラユニット27は、基板WとマスクMの相対的位置を大まかに調整するのに用いられる第1アライメント用カメラと、基板WとマスクMの相対的位置を高精度に調整するのに用いられる第2アライメント用カメラとを含むことができる。第1アライメント用カメラは、相対的に視野角が広く、低解像度であり、第2アライメント用カメラは、相対的に視野角は狭いが、高解像度を有するカメラである。
【0072】
第1アライメント用カメラと第2アライメント用カメラは、基板W及びマスクMに形成されたアライメントマークに対応する位置に設置される。例えば、第2アライメント用カメラは、4つのカメラが矩形の4つのコーナー部をなすように設置され、第1アライメント用カメラは、該矩形の対向する二つの辺の中央に設置される。ただし、本発明はこれに限定されず、基板W及びマスクMのアライメントマークの位置に応じて他の配置を有しても良い。
【0073】
図2に示したように、本発明の一実施形態による成膜装置11のアライメント用カメラユニット27は、真空容器21の上部大気側から真空容器21に設けられた真空対応筒214を通してアライメントマークを撮影する。このようにアライメント用カメラは真空対応筒を介して真空容器21の内側に入り込むように設置することによって、磁気浮上ステージ機構22の介在により、基板WとマスクMが基準フレーム215から相対的に遠く離れて支持されても、基板WとマスクMに形成されたアライメントマークに焦点を合わせることができる。真空対応筒の下端の位置は、アライメント用カメラの焦点深度と、基板W又はマスクMが基準フレーム215から離れた距離に応じて、適切に決めることができる。
【0074】
図2には図示しなかったが、成膜工程中に密閉される真空容器21の内部は暗いので、真空容器21の内側に入り込んでいるアライメント用カメラによりアライメントマークを撮影するために、下方からアライメントマークを照らす照明光源を設置してもよい。
【0075】
成膜装置11は、制御部(不図示)を具備する。制御部は、基板WとマスクMの搬送及びアライメントの制御、成膜の制御などの機能を有する。また、制御部は、静電チャックへの電圧印加を制御する機能を有してもいい。
【0076】
制御部は、例えば、プロセッサ、メモリー、ストレージ、I/Oなどを持つコンピューターによって構成することができる。この場合、制御部の機能は、メモリーまたはストレージに格納されたプログラムをプロセッサが実行することにより実現される。コンピューターとしては、汎用のパーソナルコンピューターを使用してもよく、組込み型のコンピューターまたはPLC(Programmable Logic Controller)を使用してもよい。または、制御部の機能の一部または全部をASICやFPGAのような回路で構成してもよい。また、成膜装置ごとに制御部が設置されていてもよく、一つの制御部が複数の成膜装置を制御するように構成してもよい。
【0077】
<第1アライメント機構>
以下、
図2を参照して本発明の一実施形態による第1アライメント機構について説明する。
【0078】
第1アライメント動作はアライメント用カメラ27の内、第2アライメント用カメラの視野内に、基板W及びマスクMに形成されたアライメントマークを移動する動作を指し、第1アライメント動作を行う機構を第1アライメント機構と呼ぶ。
【0079】
本発明における第1アライメント機構は、第1アライメント動作時に基板W及びマスクMを支持することができ、駆動機構を持つことで基板WまたはマスクMの受取位置と基板WまたはマスクMとの干渉を避ける退避位置の2位置を取ることのできる受け爪28と、受け爪28が取り付けられており、成膜プロセス時にマスクMを支持するマスク台23と、受け爪28とマスク台23を平面方向(XYθ方向)に移動させ、第2アライメント用カメラの視野内に基板W及びマスクMに形成されたアライメントマークを移動(調整)することの出来る粗動ステージ232と、粗動ステージ232を支持し、鉛直方向に移動させる粗動Zステージ機構233と、受け爪28からマスク台23へのマスクMの受け渡し
の際、一時的にマスクMを設置するマスク受けピン281を含む。
【0080】
<磁気浮上ステージ機構>
以下、
図3a~3d、
図4a、
図4b、
図5を参照して、本発明の一実施形態による磁気浮上ステージ機構22について説明する。
【0081】
図3a~3dは、本発明の一実施形態による磁気浮上ステージ機構22の模式的平面図および模式的断面図である。
【0082】
磁気浮上ステージ機構22は、前述したように、固定台として機能するステージ基準プレート部221と、可動台として機能する微動ステージプレート部222と、微動ステージプレート部222をステージ基準プレート部221に対して磁気浮上及び移動させるための磁気浮上ユニット223とを含む。
【0083】
ステージ基準プレート部221は、微動ステージプレート部222の移動の基準となる部材であって、その位置が固定されるように設置される。例えば、
図2に示したように、ステージ基準プレート部221は、XY平面に平行に、真空容器21の基準フレーム215に固定されるように設置される。
【0084】
ただし、本発明はこれに限定されず、ステージ基準プレート部221は、その位置が固定できる限り、基準フレーム215に直接固定されず、他の部材(例えば、別途の基準プレート)に固定されてもよい。
【0085】
ステージ基準プレート部221は、微動ステージプレート部222の移動の基準となる部材であるため、伸縮可能部材213及び除振ユニット216などにより、真空ポンプまたは床からの振動のような外乱から影響を受けないように設置されるのが好ましい。
【0086】
微動ステージプレート部222は、ステージ基準プレート部221に対して移動可能に設置され、微動ステージプレート部222の一主面(例えば、下面)には、静電チャックのような基板吸着手段24が設置される。したがって、微動ステージプレート部222の移動により、基板吸着手段24及びこれに吸着された基板Wの位置を調整することができる。
【0087】
本発明の一実施形態による磁気浮上ユニット223は、可動台である微動ステージプレート部222を固定台であるステージ基準プレート部221に対して移動させる駆動力を発生させるための磁気浮上リニアモーター31と、微動ステージプレート部222の位置を測定するための位置測定手段と、微動ステージプレート部222をステージ基準プレート部221に対して浮上させる浮上力を提供することで微動ステージプレート部222にかかる重力を補償する自重補償手段33と、微動ステージプレート部222の原点位置を決める原点位置決め手段34とを含む。
【0088】
磁気浮上リニアモーター31は、微動ステージプレート部222を移動させるための駆動力を発生させる駆動源であって、例えば、
図3aに示したように、微動ステージプレート部222をX方向に移動させるための駆動力を発生させる2つのX方向磁気浮上リニアモーター311と、微動ステージプレート部222をY方向に移動させるための駆動力を発生させる2つのY方向磁気浮上リニアモーター312と、微動ステージプレート部222をZ方向に移動させるための駆動力を発生させる3つのZ方向磁気浮上リニアモーター313とを含む。
【0089】
これら複数の磁気浮上リニアモーター31を用いて、微動ステージプレート部222を
6つの自由度に(X方向、Y方向、Z方向、θX方向、θY方向、θZ方向に)移動させることができる。
【0090】
例えば、X方向、Y方向、Z方向への並進移動は、X方向磁気浮上リニアモーター311、Y方向磁気浮上リニアモーター312、およびZ方向磁気浮上リニアモーター313のそれぞれを同じ方向に駆動することによって具現できる。
【0091】
θZ方向への回転移動は、2つのX方向磁気浮上リニアモーター311と2つのY方向磁気浮上リニアモーター312の駆動方向を調整することによって具現できる。例えば、X方向磁気浮上リニアモーター311aは+X方向に、X方向磁気浮上リニアモーター311bは-X方向に、Y方向磁気浮上リニアモーター312aは+Y方向に、Y方向磁気浮上リニアモーター312bbは-Y方向に駆動することにより、微動ステージプレート部222をZ軸を中心に反時計まわりに回転移動させることができる。
【0092】
同様に、θX方向、θY方向への移動は、3つのZ方向磁気浮上リニアモーター313のそれぞれの駆動方向を調整することによって具現できる。
【0093】
図3aに示した磁気浮上リニアモーター31の数や配置は、例示的なものであり、本発明はこれに限定されず、微動ステージプレート部222を所望の方向に移動させることができる限り、他の数や配置を有しても良い。
【0094】
本発明においては、機械的モーターとボールねじ、リニアガイドを使うアライメントステージの代わりに、磁気浮上ステージ機構22を採用することによって、基板Wの位置調整の精度をさらに向上させることができる。
【0095】
また、機械的ステージ機構とは違って、磁気浮上ステージ機構22は、パーティクルによる汚染や潤滑剤の蒸発による汚染の恐れが少なく、磁気浮上ステージ機構22を真空容器21内に設置することが可能となる。これにより、基板Wの保持手段(基板吸着手段24)とステージ機構との間の距離が小さくなるので、ステージ機構の駆動時の揺動や外乱が基板吸着手段24に及ぼす影響が増幅することを抑制することができる。
【0096】
図4aは、Z方向磁気浮上リニアモーター313の構造を示す模式図であり、
図4bは、X方向またはY方向磁気浮上リニアモーター311、312の構造を示す模式図である。
【0097】
磁気浮上リニアモーター31は、ステージ基準プレート部221に設置される固定子314と、微動ステージプレート部222に設置される可動子315とを含む。
【0098】
図4aおよび
図4bに示すように、磁気浮上リニアモーター31の固定子314は、磁界発生手段、例えば、電流が流れるコイル3141を含み、可動子315は、磁性体、例えば、永久磁石3151を含む。
【0099】
磁気浮上リニアモーター31は、固定子314のコイル3141に電流を流すことで発生した磁界によって、可動子315の永久磁石3151に駆動力を加える。磁気浮上リニアモーター31は、固定子314に流れる電流の方向を調整することによって、可動子315である永久磁石3151に加えられる力の方向を調整することができる。
【0100】
例えば、
図4aの(b)に示したように、固定子314のコイル3141に流れる電流の方向を反時計回りにすると、
図4aの(a)において、コイル3141の左側(-X側)にN極が誘導され、右側(+X側)にはS極が誘導されるので、可動子315は、下方
(-Z)方向に力を受ける。逆に、コイル3141に流れる電流の方向を時計回りにすると、可動子315を上方(+Z)方向に移動させることができる。
【0101】
同様に、
図4bに示したX方向磁気浮上リニアモーター311、又はY方向磁気浮上リニアモーター312も、固定子314のコイル3141に流れる電流の方向を制御することによって、可動子315をそれぞれX方向、Y方向に移動させることができる。
【0102】
本発明の一実施形態による磁気浮上ユニット223の位置測定手段は、微動ステージプレート部222の位置を測定するための手段であって、レーザー干渉計32と、これと対向するように微動ステージプレート部222に設置された反射部324とを含む。反射部324は、例えば、平面鏡であり得る。
【0103】
レーザー干渉計32は、測定ビームを微動ステージプレート部222に設置された反射部324に照射し、その反射ビームを検出することで、反射部324の位置(微動ステージプレート部222の位置)を測定する。より具体的には、レーザー干渉計32は、測定ビームの反射光と参照ビームの反射光との干渉光に基づいて、微動ステージプレート部222の位置を測定することができる。
【0104】
本発明の一実施形態による磁気浮上ユニット223の位置測定手段は、微動ステージプレート部222のX方向における位置を測定するためのX方向位置測定部と、Y方向における位置を測定するためのY方向位置測定部と、Z方向における位置を測定するためのZ方向位置測定部とを含む。
【0105】
図3aに示したように、本発明の一実施形態による位置測定手段のレーザー干渉計32は、微動ステージプレート部222のX軸方向の位置を検出するための二つのX方向レーザー干渉計321と、微動ステージプレート部222のY軸方向の位置を検出するための一つのY方向レーザー干渉計322と、微動ステージプレート部222のZ軸方向の位置を検出するための3つのZ方向レーザー干渉計323とを含む。
【0106】
微動ステージプレート部222には、これらのレーザー干渉計32からの測定ビームを反射させる反射部324が、レーザー干渉計32に対向するように設置される。例えば、反射部324は、X方向レーザー干渉計321に対向するように設置されたX方向反射部3241と、Y方向レーザー干渉計322に対向するように設置されたY方向反射部3242と、Z方向レーザー干渉計323に対向するように設置されたZ方向反射部3243とを含む。
【0107】
X方向位置測定部は、X方向レーザー干渉計321とX方向反射部3241とを含み、Y方向位置測定部は、Y方向レーザー干渉計322とY方向反射部3242とを含み、Z方向位置測定部は、Z方向レーザー干渉計323とZ方向反射部3243とを含む。
【0108】
図3aに示した実施例では、X方向反射部3241とZ方向反射部3243は、一つの部材の側面と上面に設置された平面鏡であるが、本発明はこれに限定されず、それぞれの反射部324が、これに対向するレーザー干渉計32からの測定ビームを反射してレーザー干渉計32に戻すことができる限り、他の構造及び配置を有しても良い。
【0109】
このような位置測定手段の構成により、6つの自由度(degree of freedom)において、微動ステージプレート部222の位置を精密に測定することができる。つまり、X方向レーザー干渉計321、Y方向レーザー干渉計322、及びZ方向レーザー干渉計323によって、微動ステージプレート部222のX方向位置、Y方向位置、及びZ方向位置を測定することができる。また、X方向レーザー干渉計321を複数設置
することによって、Z軸を中心とした回転(θZ)方向の位置も測定することができる。また、Z方向レーザー干渉計323を複数設置することによって、X軸および/またはY軸を中心とした回転方向(θXまたはθY)の位置(つまり、微動ステージプレート部222の傾斜角度)も測定することができる。
【0110】
ただし、本発明は、
図3a及び
図3bに示したレーザー干渉計32と反射部324の数や配置に限定されず、微動ステージプレート部222の6つの自由度(X、Y、Z、θ
X、θ
Y、θ
Z)における位置を測定することができる限り、他の数や配置を有しても良い。例えば、X方向レーザー干渉計を一つだけ設置する代わりに、Y方向レーザー干渉計を2つ設置してもよい。
【0111】
本発明の一実施形態による成膜装置11の制御部は、レーザー干渉計32によって測定された微動ステージプレート部222(またはこれに設置された基板吸着手段24)の位置情報に基づいて、磁気浮上リニアモーター31を制御する。例えば、成膜装置11の制御部は、微動ステージプレート部222または基板吸着手段24を、レーザー干渉計32で測定された微動ステージプレート部222または基板吸着手段24の位置と、アライメント用カメラユニット27で測定された基板WとマスクM間の相対的位置ずれ量とによって決められる位置決め目標位置に移動させる。これにより、微動ステージプレート部222または基板吸着手段24の位置をナノメートル単位で高精度に制御することができる。
【0112】
本実施例では、微動ステージプレート部222の位置を測定するための手段であって、レーザー干渉計を用いる構成を説明したが、本発明はこれに限定されず、微動ステージプレート部222の位置が測定できる限り、他の位置測定手段を用いてもいい。
【0113】
自重補償手段33は、微動ステージプレート部222の重量を補償するための手段であって、例えば、本発明の一実施形態による自重補償手段33は、
図3d及び
図5に示したように、ステージ基準プレート部221側に設けられた第1の磁石部331と、微動ステージプレート部222側に設けられた第2の磁石部332との間の反発力または吸引力を利用して、微動ステージプレート部222にかかる重力に相応する大きさの浮上力を提供する。
【0114】
第1の磁石部331と第2の磁石部332は、電磁石または永久磁石で構成することができる。
【0115】
例えば、
図3dに示したように、ステージ基準プレート部221側に設けられた第1の磁石部331と微動ステージプレート部222側に設けられた第2の磁石部332を、逆極性の磁極が対向するように配置することによって、ステージ基準プレート部221側に設けられた第1の磁石部331が微動ステージプレート部222側に設けられた第2の磁石部332を上方に吸引し、微動ステージプレート部222にかかる重力を相殺することができる。
【0116】
または、ステージ基準プレート部221側に設けられた第1の磁石部331と微動ステージプレート部222側に設けられた第2の磁石部332との間の反発力によって、微動ステージプレート部222の重力を相殺することもできる。
【0117】
例えば、
図5に示したように、第1の磁石部331と第2の磁石部332を同じ極性の磁極が対向するように配置するとともに、微動ステージプレート部222と第2の磁石部332との間にZ方向に延びるスペーサー333を介在させ、第2の磁石部332の下端が第1の磁石部331の下端よりも高くなるように設置してもよい。つまり、スペーサー333のZ方向の長さを、微動ステージプレート部222側に設けられた第2の磁石部3
32の下端がステージ基準プレート部221側に設けられた第1の磁石部331の下端よりも高くなるように(つまり、微動ステージプレート部222から、より遠くなるように)する。
【0118】
このような構成によって、微動ステージプレート部222側に設けられた第2の磁石部332は、ステージ基準プレート部221側に設けられた第1の磁石部331により上方に反発力を受け、微動ステージプレート部222にかかる重力を相殺することができる。
【0119】
自重補償手段33は、微動ステージプレート部222をより安定的に支持することができるように、
図3aに示したように、XY平面内で少なくとも3つの位置に設置することが好ましい。例えば、微動ステージプレート部222の重心の周りに対称になるように設置することが好ましい。
【0120】
このように、本発明の一実施形態による成膜装置11においては、自重補償手段33を採用することによって、磁気浮上リニアモーター31の負荷を低減させ、磁気浮上リニアモーター31から発生する熱を低減することができる。これにより基板Wに成膜された有機材料が熱変性することを抑制することができる。
【0121】
つまり、自重補償手段33を使わず、Z方向磁気浮上リニアモーター313のみで微動ステージプレート部222の重量を支持しようとすると、Z方向磁気浮上リニアモーター313に過度な負荷がかかり、相当な熱が発生し、これが基板W上に成膜された有機材料の変性をもたらす恐れがある。本実施例では、微動ステージプレート部222にかかる重力は自重補償手段33によって相殺されるので、Z方向磁気浮上リニアモーター313は、自重補償手段33によって浮上された微動ステージプレート部222にZ方向の微動のための駆動力のみを提供すれば良く、よって、負荷が低減される。
【0122】
本発明の一実施例においては、自重補償手段33を磁石で具現したが、本発明はこれに限定されず、微動ステージプレート部222の重力を相殺して浮上させることができる限り、他の構成を有しても良い。
【0123】
本発明の一実施形態による磁気浮上ユニット223の原点位置決め手段34は、微動ステージプレート部222の原点位置を決める手段であって、三角錐状の凹部341と半球状の凸部342とを含むキネマティックカップリング(kinematic coupling)で構成することができる。
【0124】
例えば、
図3cに示したように、ステージ基準プレート部221側に三角錐状の凹部341を設置し、微動ステージプレート部222側に半球状の凸部342を設置する。半球状の凸部342が三角錐状の凹部341に挿入されると、半球状の凸部342が3つの支点で三角錐状の凹部341の内面に接触し、微動ステージプレート部222の位置が決められる。
【0125】
このようなキネマティックカップリングタイプの原点位置決め手段34を、
図3aに示したように、微動ステージプレート部222の中心の周りに対称になるように3つを等間隔(例えば、120°間隔)で設置することで、微動ステージプレート部222の中心の位置を一定に決めることができる。つまり、微動ステージプレート部222をステージ基準プレート部221に接近させて3つの原点位置決め手段の凸部342が凹部341内に着座したときの、微動ステージプレート部222の位置を、レーザー干渉計32により測定し、これを原点位置とする。
【0126】
本発明の一実施形態による成膜装置11によると、3つのキネマティックカップリング
を原点位置決め手段34として採用することで、微動ステージプレート部222の原点位置を一定に決めることができ、微動ステージプレート222の位置制御をより精密に行うことができる。
【0127】
このように、本発明の一実施形態による成膜装置11によれば、機械的な駆動機構を使わずに、磁気浮上駆動機構(磁気浮上リニアモーター)を使うことによって、ステージ及びその駆動機構を成膜装置11の真空容器21内に配置することができ、外乱による振動の影響を効果的に低減することができる。また、機械的駆動による揺動を低減することができ、その結果、基板の位置調整の精度を向上させることができる。さらに、レーザー干渉計32を含む位置測定手段、自重補償手段33、及びキネマティックカップリングからなる原点位置決め手段34を採用することによって、基板の位置調整の精度をさらに向上させることができる。
【0128】
<第1アライメント方法>
以下、本発明の第1アライメント機構を用いて、基板W及びマスクMを 第2アライメ
ント用カメラの視野内に入るよう調整を行う第1アライメント方法を基板WとマスクMそれぞれの場合について説明する。
【0129】
基板Wの第1アライメント方法を説明する。
【0130】
まず、基板Wが搬送ロボット14によって、真空容器21内に搬入され、受け爪28に受け渡される。受け爪28が取り付けられた粗動Zステージ機構233は、受け爪28によって支持された基板Wを予め設定された第1アライメント用カメラの計測距離になるまで接近させる。
【0131】
基板Wが第1アライメント用カメラの計測距離になると、第1アライメント用カメラにより、基板Wのアライメントマークを撮像して、第1アライメントカメラ視野内の、XYθ方向における基板Wのアライメントマーク位置を測定し、これに基づき、基板Wのアライメントマークを第1アライメント用カメラ視野中央に移動させる。
【0132】
次に粗動Zステージ機構233により受け爪28に支持された基板Wを基板吸着手段24に十分に近接または接触させた状態で基板吸着手段24に基板吸着電圧を印加し、静電引力により基板Wを基板吸着手段24に吸着させる。基板Wを基板吸着手段24に吸着させる際に、基板吸着手段24の吸着面全体に基板Wの全面を同時に吸着させてもよく、基板吸着手段24の複数の領域のうち一領域から他の領域に向かって順次に基板Wを吸着させてもよい。基板Wの基板吸着手段24への吸着を以て基板Wの第1アライメントの完了とする。この際、受け爪28には基板吸着手段24への基板Wの、接触または衝突による衝撃緩和を目的としたコンプライアンス機構を追加しても良い。
【0133】
次に、マスクMの第1アライメント方法を説明する。
【0134】
先ず、マスクMが搬送ロボット14によって、真空容器21内に搬入され、受け爪28に受け渡される。基板Wの第1アライメント動作と同様に、受け爪28が取り付けられた粗動Zステージ機構233は、受け爪28によって支持されたマスクMを、予め設定された第1アライメント用カメラの計測距離になるまで接近させる。
【0135】
マスクMが第1アライメント用カメラの計測距離になると、第1アライメント用カメラにより、マスクMのアライメントマークを撮像して、第1アライメントカメラ視野内の、XYθ方向におけるマスクMのアライメントマーク位置を測定し、これに基づき、マスクMのアライメントマークを 第1アライメント用カメラ視野中央に移動させる。
【0136】
次に、粗動Zステージ機構233により、受け爪28に支持されたマスクMをマスク受けピン281に受け渡す。受け爪28はマスクMが受け爪28から離れたことを確認した後に駆動機構により退避位置へ移動する。また、粗動ステージ機構232は受け爪28からマスクMが離れたことを確認した後に、XYθ方向の位置を各々のストローク中心(原点)に移動させる。この動作を行うことで、マスクMのXYθ方向の位置は、マスクMのロボットハンドによる搬送位置に関わらず、常に粗動ステージ232のストローク中心に位置合わせられることになる。
【0137】
次いで、粗動Zステージ機構233は上昇動作し、マスク受けピン281からマスクMを受け取ることで、マスクMの第1アライメント完了とする。
【0138】
<第2アライメント方法>
成膜装置11の制御部は、粗動Zステージ機構233を駆動して、基板吸着手段24とマスク台23を相対的に接近させる。この際、制御部は、基板吸着手段24に吸着された基板Wとマスク台23によって支持されたマスクMとの間の距離が、予め設定された第2アライメント計測距離になるまで、基板吸着手段24とマスク台23を相対的に接近(例えば、マスク台23を上昇または基板Wを下降)させる。
【0139】
基板WとマスクMとの間の距離が第2アライメント計測距離になると、 第2アライメ
ント用カメラにより、基板W及びマスクMのアライメントマークを撮像して、XYθ方向における基板WとマスクMの相対位置を測定し、これに基づき、これらの相対的位置ずれ量を算出する。
【0140】
第2アライメント計測位置における基板WとマスクMとの間の相対的位置ずれ量が所定の閾値より大きければ、基板Wを再度上昇させ、基板WとマスクMを離間させた後、レーザー干渉計32によって測定された微動ステージプレート部222の位置と、基板WとマスクMの相対的位置ずれ量に基づいて、微動ステージプレート部222の移動目標位置を算出する。
【0141】
算出された移動目標位置に基づいて、微動ステージプレート部222の位置をレーザー干渉計32で測定しながら、磁気浮上リニアモーター31によってXYθ方向に微動ステージプレート部222を移動目標位置まで駆動することによって、基板WとマスクMの相対位置を調整する。
【0142】
このような過程を、基板WとマスクMの相対的位置ずれ量が所定の閾値より小さくなるまで繰り返す。
【0143】
基板WとマスクM間の微細な位置ずれまで精密に調整するための以上の 第2アライメ
ント動作は、前述のように、通常、基板WとマスクMをできるだけ近接させた状態で行っている。例えば、基板WとマスクMとの間のギャップが約3~10μmに近接した状態でアライメント動作が行われる。このとき、例えばマスクMが上側に変形している場合や基板Wの厚みにばらつきがある場合などには、マスクMと基板Wを近接させた時に接触してしまうことがある。このような状況が発生した時に、行っていたアライメント動作を通常通りの制御ルーチンのままで継続すると、摩擦によってマスクやウエハ表面が損傷したり、アライメント動作が不安定になったりする不都合が生じる。
【0144】
図6は磁気浮上ステージ機構22の制御に関するブロック図を示している。前述した通り、磁気浮上ステージ機構22は、固定台であるステージ基準プレート部221に対し微動ステージプレート部222が磁気浮上ユニット223により磁気浮上された状態で移動
可能に構成されており、磁気浮上ユニット223の一構成要素としての、微動ステージプレート部222を駆動する駆動手段は、X方向磁気浮上リニアモーター(311:X-LM)、Y方向磁気浮上リニアモーター(312:Y-LM)、Z方向磁気浮上リニアモーター(313;Z-LM)を含む。これら各磁気浮上リニアモーター311~313は、それぞれのサーボドライバー(X-Dr、Y-Dr、Z-Dr)を介して制御部に連結され、制御部からの指令によるサーボドライバー(X-Dr、Y-Dr、Z-Dr)の制御によって、基板WとマスクM間の位置ずれ量で決められる目標移動位置に微動ステージプレート部222が移動するように該モーターの出力が制御される。また、制御部には、この目標移動位置への移動制御の際に、微動ステージプレート部222の位置確認のために、微動ステージプレート部222のXYZ方向の位置を測定する、レーザー干渉計と、これに対向設置された反射板でそれぞれ構成された、前述したX方向位置測定部(X-A)、Y方向位置測定部(Y-A)、Z方向位置測定部(Z-A)からの出力が入力される。
【0145】
以上のようなサーボ制御の構成において、各磁気浮上リニアモーター(X-LM、Y-LM、Z-LM)は、負荷変動のない正常な状況では、その駆動電流が一定の大きさの定電流で制御されながら、目標移動位置まで微動ステージプレート部222を移動させるように出力が制御される。
【0146】
しかし、前述のように、基板WがマスクMに近接した状態でXY平面上で相対移動する時にはマスクMの変形や基板Wの厚さばらつきなどによってマスクMと基板Wが接触する場合があり、このような接触が発生したときにはマスクMと基板Wの間で生じる摩擦により負荷が上がる。XY平面上での相対移動のための負荷が上がると、その駆動手段であるX軸リニアモーター(X-LM)とY軸リニアモーター(Y-LM)に印加される駆動電流値も大きくなる。このように、駆動電流値が大きくなった状況で、行っていた通常の制御ルーチンに従ってアライメント動作を続けて行うと、マスクMと基板Wの接触状態変動によりX軸リニアモーター(X-LM)とY軸リニアモーター(Y-LM)が発振し、駆動対象である微動ステージプレート部222が急加速するなど、アライメント動作が不安定になる可能性がある。
【0147】
そこで、本発明では、このようなアライメント動作中のマスクMと基板Wの接触を検知し、接触が検知された時には、駆動手段であるリニアモーターが発振しないようにリニアモーターのゲイン(gain)を自動的に下げるように制御する。
【0148】
つまり、アライメント動作中にX軸リニアモーター(X-LM)とY軸リニアモーター(Y-LM)の駆動電流値が大きくなり、この電流値が所定値を超えた場合には、マスクMと基板Wが接触したと推定する。そして、この接触状態が検知された時は、制御部は、X軸リニアモーター(X-LM)に連結されたサーボドライバー(X-Dr)とY軸リニアモーター(Y-LM)に連結されたサーボドライバー(Y-Dr)に電流値を下げるよう制御指令を出す。その結果、X軸リニアモーター(X-LM)とY軸リニアモーター(Y-LM)は出力が低下する。モーターの出力がこのように低く制御され、駆動電流値が下がった状態で、以降のアライメント動作を行う。これにより、マスクMと基板Wの接触が発生した後にも安定したアライメントを行うことができる。
【0149】
この時の状態を
図7に示す。横軸が時間を示し、縦軸はリニアモーターの駆動電流値(実線)、またはリニアモーターの出力(破線)を示す。示したように、リニアモーターに印加される駆動電流値は、負荷変動がない正常状況では一定の大きさの定電流で制御される一方、負荷変動が発生した時点、つまり、マスクMと基板Wの接触が発生した時点で急に大きく増加する。本発明では、この駆動電流値が所定値を超えた時点で、リニアモーターの出力を下げて以後の制御が進行されるようにする。このように、モーターの出力が下げられた状態で制御が行われることによって、モーターに印加される駆動電流値もそれに
伴い下がり、よって、モーターの発振が防止され安定的なアライメントを行うことができる。
【0150】
このように接触状態を検知して駆動電流値を下げた状態は、接触状態に至った基板とマスクのアライメントが完了するまで続く。当該基板に対する成膜が完了して基板が真空容器から搬出された後、次に成膜される基板が真空容器に搬入されてその基板とマスクとのアライメントを行う際は、制御部はリニアモーターに印加される駆動電流値を接触状態に至る前の設定値に戻してもよいし、駆動電流値を下げた状態を維持してもよい。
【0151】
リニアモーター(X-LM、Y-LM)の駆動電流値の変動は、該リニアモーター(X-LM、Y-LM)に連結されたそれぞれのサーボドライバー(X-Dr、Y-Dr)で検知することができるが、これに限定されず、別途の負荷電流検出手段を各リニアモーター(X-LM、Y-LM)に連結し設置してもいい。
【0152】
マスクMと基板Wの接触時の負荷変動は、以上のサーボドライバー(X-Dr、Y-Dr)等によるリニアモーター(X-LM、Y-LM)の駆動電流値の変動の観測から十分検出可能である。つまり、仮にマスクMがシリコンで出来ており、撓み(平らな状態からの変形量)が200μm程度だとすると、これを矯正するのに5Nが必要となる(すなわち、該マスクとの接触による負荷上昇量が5Nである)。この時、使用中のリニアモーターの推力常数が15N/Aであったとすると、5Nの負荷変動は0.33Aの電流値変化として検出されるので、よって、通常使われるサーボドライバーの電流分解能が0.5mA程度であることを考慮すると、この電流値変化は十分余裕を持って見ることができる。
【0153】
以上のように、本発明は、リニアモーターの駆動電流値が所定値を超えた場合に、リニアモーターの出力を下げた状態でアライメント動作を行うことを特徴とする。これにより、アライメント動作中にマスクMと基板Wの接触が発生した場合にも安定的にアライメントを続けて行うことができる。
【0154】
一方、マスクMと基板Wの接触による負荷上昇が過大な場合、例えば、マスクMの変形が大きい場合などには、検知されるモーターの駆動電流値の変位量が大きすぎて、よって、この時はモーターのゲインを調節してもモーターの発振を防止できる範囲内に駆動電流値を下げることが困難な場合もあり得る。そこで、本発明の一実施形態では、マスクと基板間の接触状態を検知した時の駆動電流値の変位量に対し、所定の基準値をあらかじめ設定しておき、駆動電流値の変位量がこの基準値以下である場合には、前述のリニアモーターのゲイン調整を通じてアライメント動作を行い、駆動電流値の変位量が基準値を超える場合には、接触状態が検知された時点で、まず、アライメント動作を停止し、基板WまたはマスクMを相互離隔する方向へ相対移動させて、駆動電流値の変位量が基準値以下に減少するようにし、基準値以下に減少した位置でアライメント動作を再開するようにしてもいい。
【0155】
基板WとマスクMの相対的位置ずれ量が所定の閾値より小さくなると、基板吸着手段24に吸着された基板Wの成膜面がマスクMの上面と接触する蒸着位置になるように、基板Wを下降させる。
【0156】
基板WとマスクMが蒸着位置に来ると、磁力印加手段26を下降させ、基板W越しにマスクMを引き寄せることで、基板WとマスクMを密着させる。
【0157】
この過程で、基板WとマスクMのXYθ方向における位置ずれが生じたかを確認するために、第2アライメント用カメラを用いて、基板WとマスクMの相対的位置の計測を行い、計測された相対的位置のずれ量が所定の閾値の以上である場合、基板WとマスクMを所
定の距離まで再び離間(例えば、基板Wを上昇)させた後、基板WとマスクMとの間の相対位置を調整し、同じ過程を繰り返す。
【0158】
基板WとマスクMが蒸着位置に位置する状態で、基板WマスクMとの間の相対的位置ずれ量が所定の閾値より小さくなると、アライメント工程を完了し、成膜工程を開始する。
【0159】
<成膜プロセス>
以下、本実施形態によるアライメント方法を採用した成膜方法について説明する。
【0160】
真空容器21内のマスク台23にマスクMが支持された状態で、搬送室13の搬送ロボット14によって基板Wが成膜装置11の真空容器21内に搬入される。
【0161】
真空容器21内に搬入された基板Wは、搬送ロボット14のハンドから受け爪28又は別途の基板支持ユニットに渡され、基板吸着手段24に十分に近接或いは接触した後に、基板吸着手段24に基板吸着電圧を印加し、基板Wを吸着させる。
【0162】
基板吸着手段24に基板Wが吸着された状態で、前述の本実施形態によるアライメント方法に従って、アライメント工程を進行する。
【0163】
本実施形態のアライメント方法によって、基板WとマスクMとの間の相対位置のずれ量が所定の閾値より小さくなると、成膜源25のシャッタを開け、成膜材料をマスクMを介して基板Wに成膜する。
【0164】
所望の厚さに蒸着した後、磁力印加手段26を上昇させてマスクMを分離し、マスク台23を下降させる。
【0165】
次いで、搬送ロボット14のハンドが成膜装置11の真空容器21内に進入し、基板吸着手段24の電極部にゼロ(0)または逆極性の基板分離電圧が印加し、基板Wを基板吸着手段24から分離する。分離された基板Wを搬送ロボット14によって真空容器21から搬出する。
【0166】
なお、上述の説明では、成膜装置11は、基板Wの成膜面が鉛直方向下方を向いた状態で成膜が行われる、いわゆる上向き蒸着方式(デポアップ)の構成としたが、本発明はこれに限定はされず、基板Wが真空容器21の側面側に垂直に立てられた状態で配置され、基板Wの成膜面が重力方向と平行な状態で成膜が行われる構成であってもよい。
【符号の説明】
【0167】
11:成膜装置、22:磁気浮上ステージ機構、23:マスク台、24:基板吸着手段