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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-06
(45)【発行日】2024-03-14
(54)【発明の名称】吸着装置及び真空処理装置
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/683 20060101AFI20240307BHJP
   H02N 13/00 20060101ALI20240307BHJP
   C23C 14/50 20060101ALI20240307BHJP
   C23C 16/44 20060101ALI20240307BHJP
   C23C 16/458 20060101ALI20240307BHJP
【FI】
H01L21/68 R
H02N13/00 D
C23C14/50 A
C23C14/50 K
C23C16/44 F
C23C16/458
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2020127420
(22)【出願日】2020-07-28
(65)【公開番号】P2022024690
(43)【公開日】2022-02-09
【審査請求日】2023-05-11
(73)【特許権者】
【識別番号】000231464
【氏名又は名称】株式会社アルバック
(74)【代理人】
【識別番号】110003339
【氏名又は名称】弁理士法人南青山国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100104215
【弁理士】
【氏名又は名称】大森 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100196575
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 満
(74)【代理人】
【識別番号】100168181
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 哲平
(74)【代理人】
【識別番号】100144211
【弁理士】
【氏名又は名称】日比野 幸信
(72)【発明者】
【氏名】橘高 朋子
(72)【発明者】
【氏名】前平 謙
【審査官】湯川 洋介
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-100414(JP,A)
【文献】特開2010-219190(JP,A)
【文献】国際公開第2007/145070(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/167233(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/683
H02N 13/00
C23C 14/50
C23C 16/44
C23C 16/458
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板を吸着するための吸着電極を誘電体からなる本体部内に有し、
前記本体部に、当該本体部の吸着面に吸着した基板に対してガスによって熱を伝える熱伝導用凹部と、当該熱伝導用凹部に所定のガスを導入するためのガス導入孔と、基板を昇降させる昇降ピンを通すためのピン通過孔とが設けられ、
前記本体部のピン通過孔を開閉するシャッターを有する吸着装置。
【請求項2】
前記シャッターが前記本体部の誘電体の材料と同一の材料で形成されている請求項1記載の吸着装置。
【請求項3】
前記シャッターによって前記本体部のピン通過孔を閉じた状態において、当該シャッターと吸着した基板の裏面との距離が、前記本体部の熱伝導用凹部の底部と吸着した基板の裏面との距離と同等となるように構成されている請求項1又は2のいずれか1項記載の吸着装置。
【請求項4】
前記シャッターは、前記本体部を横にした状態で前記ピン通過孔を開き、前記本体部を立てた状態で前記ピン通過孔を閉じるように構成されている請求項1乃至3のいずれか1項記載の吸着装置。
【請求項5】
前記シャッターは、その自重に基づく重力の作用によって、前記本体部を横にした状態で前記ピン通過孔を開き、前記本体部を立てた状態で前記ピン通過孔を閉じるように構成されている請求項1乃至4のいずれか1項記載の吸着装置。
【請求項6】
真空槽と、
前記真空槽内に設けられた請求項1乃至5のいずれか1項記載の吸着装置と、
前記吸着装置に設けられたピン通過孔を介して基板を昇降させる昇降ピンを有する昇降機構と、
前記吸着装置を、横にした状態及び立てた状態に配置するための駆動部とを有し、
前記吸着装置を横にした状態で基板を吸着し、かつ、前記吸着装置を立てた状態で真空処理を行うように構成されている真空処理装置。
【請求項7】
前記吸着装置を横にした状態において、前記シャッターによって前記本体部のピン通過孔を開いた状態で前記昇降ピンによって基板を昇降して当該吸着装置に当該基板を吸着する一方で、前記吸着装置を起立した状態において、前記シャッターによって前記本体部のピン通過孔を閉じた状態で当該基板に対して真空処理を行うように構成されている請求項6記載の真空処理装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばスパッタリング装置等の真空処理装置において、基板を吸着する吸着装置の技術に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、例えばスパッタリング装置等の真空処理装置では、処理対象物である基板の大型化等に鑑み、基板を鉛直近くの角度に立てた状態で処理を行うものが知られている。
【0003】
この種の真空処理装置においては、横にした状態の吸着装置によって基板を吸着し、その後、吸着装置を立てて基板に対する処理を行うようにしている。
【0004】
ところで、この種の真空処理装置では、基板搬送の際に基板昇降させる昇降ピンを通すためのピン通過孔が設けられているが、このようなピン通過孔の存在によって種々の不都合が生じている。
【0005】
例えば、吸着装置によって基板を加熱する際、吸着装置上のピン通過孔以外の部分では吸着装置と基板との間で固体伝熱(接触熱伝導)による熱伝導が行われるが、ピン通過孔の部分では吸着装置と基板との間で熱伝導が行われない。
【0006】
さらに、吸着装置のピン通過孔の部分では吸着装置と基板との間の微小な空間である熱伝導用凹部に充填されたガスが漏れるため、ピン通過孔の部分ではガスの対流または放射相当の現象による熱伝導が不十分になってしまう。加えて吸着装置を立てた状態ではピン通過孔の部分は分子流領域の圧力下の空間を望むこととなるため、真空断熱効果をも受けてしまう。
【0007】
このような状態で真空処理装置内でプラズマを生成すると、吸着装置のピン通過孔の部分においてのみ基板の局所的な温度上昇が起こり、基板の温度にむらが発生することになる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開平7-45693号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、このような従来の技術の課題を考慮してなされたもので、その目的とするところは、真空処理の際に本体部のピン通過孔に対応する基板の部分の温度上昇を防止して基板の温度むらをできるだけ小さくすることができる吸着装置の技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するためになされた本発明は、基板を吸着するための吸着電極を誘電体からなる本体部内に有し、前記本体部に、当該本体部の吸着面に吸着した基板に対してガスによって熱を伝える熱伝導用凹部と、当該熱伝導用凹部に所定のガスを導入するためのガス導入孔と、基板を昇降させる昇降ピンを通すためのピン通過孔とが設けられ、前記本体部のピン通過孔を開閉するシャッターを有する吸着装置である。
本発明では、前記シャッターが前記本体部の誘電体の材料と同一の材料で形成されている場合にも効果的である。
本発明では、前記シャッターによって前記本体部のピン通過孔を閉じた状態において、当該シャッターと吸着した基板の裏面との距離が、前記本体部の熱伝導用凹部の底部と吸着した基板の裏面との距離と同等となるように構成されている場合にも効果的である。
本発明では、前記シャッターは、前記本体部を横にした状態で前記ピン通過孔を開き、前記本体部を立てた状態で前記ピン通過孔を閉じるように構成されている場合にも効果的である。
本発明では、前記シャッターは、その自重に基づく重力の作用によって、前記本体部を横にした状態で前記ピン通過孔を開き、前記本体部を立てた状態で前記ピン通過孔を閉じるように構成されている場合にも効果的である。
また、本発明は、真空槽と、前記真空槽内に設けられた上記いずれかの吸着装置と、前記吸着装置に設けられたピン通過孔を介して基板を昇降させる昇降ピンを有する昇降機構と、前記吸着装置を、横にした状態及び立てた状態に配置するための駆動部とを有し、前記吸着装置を横にした状態で基板を吸着し、かつ、前記吸着装置を立てた状態で真空処理を行うように構成されている真空処理装置である。
本発明では、前記吸着装置を横にした状態において、前記シャッターによって前記本体部のピン通過孔を開いた状態で前記昇降ピンによって基板を昇降して当該吸着装置に当該基板を吸着する一方で、前記吸着装置を起立した状態において、前記シャッターによって前記本体部のピン通過孔を閉じた状態で当該基板に対して真空処理を行うように構成されている場合にも効果的である。
【発明の効果】
【0011】
本発明の吸着装置にあっては、基板を昇降させる昇降ピンを通すためのピン通過孔が設けられるとともに、本体部のピン通過孔を開閉するシャッターを有していることから、例えば基板の昇降ピンを有する真空処理装置の真空槽内に本発明の吸着装置を設け、シャッターによって本体部のピン通過孔を開いた状態で昇降ピンによって基板を昇降して吸着装置に基板を吸着する一方で、シャッターによって本体部のピン通過孔を閉じた状態で基板に対して例えばプラズマを用いた真空処理を行うことにより、吸着装置と基板との間の微小な空間である熱伝導用凹部に充填されたガスが漏れることがないため、ピン通過孔に対応する基板の部分においてガスの対流による熱伝導を十分行うことができる。
【0012】
その結果、本発明によれば、真空処理の際に本体部のピン通過孔に対応する基板の部分の温度上昇を防止することができ、これにより基板の温度むらをできるだけ小さくすることができる。
【0013】
本発明において、吸着装置のシャッターが、その自重に基づく重力の作用によって、本体部を横にした状態でピン通過孔を開き、本体部を立てた状態でピン通過孔を閉じるように構成されている場合には、シャッターを開閉させるモータ等駆動機構を用いる必要がないので、非常に簡素な構成の吸着装置及び真空処理装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1図1(a)(b):本発明に係る真空処理装置の実施の形態であるスパッタリング装置の内部を示す概略構成図で、図1(a)は、吸着装置を横にした状態を示す図、図1(b)は、吸着装置を立てた状態を示す図
図2】本発明に係る吸着装置の要部を示す断面図
図3】本発明に用いるシャッターの構成及び動作の例を示す概略図(その1)
図4】本発明に用いるシャッターの構成及び動作の例を示す概略図(その2)
図5】本発明に用いるシャッターの構成及び動作の他の例を示す概略図(その1)
図6】本発明に用いるシャッターの構成及び動作の他の例を示す概略図(その2)
図7】本実施の形態における真空処理動作を示す概略工程図(その1)
図8】本実施の形態における真空処理動作を示す概略工程図(その2)
図9】本実施の形態における真空処理動作を示す概略工程図(その3)
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態を、図面を参照して詳細に説明する。
【0016】
図1(a)(b)は、本発明に係る真空処理装置の実施の形態であるスパッタリング装置の内部を示す概略構成図で、図1(a)は、吸着装置を横にした状態を示す図、図1(b)は、吸着装置を立てた状態を示す図である。
【0017】
また、図2は、本発明に係る吸着装置の要部を示す断面図である。
【0018】
なお、図2では、理解を容易にするため、各部分の寸法は実際の装置と異なるものである。
【0019】
図1に示す本実施の形態のスパッタリング装置1は、接地電位にされた真空槽2を有している。
【0020】
真空槽2は、その内部の真空排気を行う真空排気装置(図示せず)に接続されるとともに、真空槽2内にアルゴン(Ar)ガス等のスパッタガスを導入可能なスパッタガス源(図示せず)に接続されている。
【0021】
真空槽2内の側壁には、スパッタリングターゲット3が、立てた状態で、即ち鉛直方向に向けてバッキングプレート3aに取り付けられている。
【0022】
バッキングプレート3aはスパッタ電源3bに電気的に接続され、バッキングプレート3aを介してスパッタリングターゲット3に所定の電力(電圧)を供給するように構成されている。
【0023】
真空槽2内には、吸着装置4が設けられている。
【0024】
吸着装置4は、誘電体からなるプレート状の本体部4aを有し、この本体部4a内に、図示しない吸着電源に接続された複数の吸着電極5が設けられている。
【0025】
なお、吸着装置4の本体部4aのスパッタリングターゲット3側の面には、例えば図2に示すように、多数のエンボスからなる吸着面40が設けられている。
【0026】
吸着装置4の本体部4aには、複数のピン通過孔4bが設けられ、これらのピン通過孔4bを介して基板昇降用の昇降ピン6が挿入できるように構成されている。
【0027】
各昇降ピン6は、鉛直方向に向けて設けられ、昇降機構6aによって上方及び下方に駆動されて基板搬送時に基板10を支持して昇降させるようになっている。
【0028】
一方、吸着装置4の本体部4aには、ガスによってアシストされる熱伝導によって本体部4aと基板10との間の熱抵抗を下げるためのガス導入孔7が複数設けられている。
【0029】
これらのガス導入孔7は、それぞれガス供給源8に接続されるとともに、スパッタリングの際に本体部4aの吸着面40側に設けられた熱伝導用凹部20にガスを導入するように構成されている(図2参照)。
【0030】
本実施の形態の吸着装置4は、本体部4aを図1(a)に示すように水平方向に向けて横にした状態と、本体部4aを図1(b)に示すように、ほぼ鉛直方向に向けて立てた状態にすることができるように構成されている。
【0031】
本実施の形態では、真空槽2内のスパッタリングターゲット3の下方に配置され水平方向に延びる駆動軸9に吸着装置4の本体部4aの一方の端部が固定され、図示しない駆動モータによってこの駆動軸9を回転させることによって、本体部4aを横にした状態及び立てた状態に配置する駆動部が設けられている(図1(a)(b)参照)。
【0032】
本実施の形態では、図1(b)に示すように、吸着装置4を立てた状態にした場合に本体部4aのピン通過孔4bを閉じるシャッター11が設けられている。
【0033】
このシャッター11は、例えば平板状の部材からなり、後述する機構により、モータ等の手段を用いることなく、吸着装置4の位置に応じて自重で動作するように構成されている。
【0034】
本発明の場合、特に限定されることはないが、真空処理の際に本体部4aのピン通過孔4bに対応する基板10の部分の温度上昇を防止して基板10の温度むらをできるだけ小さくする観点からは、シャッター11を本体部4aの誘電体の材料と同一の材料で形成することが好ましい。
【0035】
誘電体の例としては、Al23、AlN、ポリイミド、シリコーンゴムなどが挙げられ、本体部4aと同等の誘電率を持つものをシャッター11に用いれば、前述した同一の材料として形成したことと同様の効果を得ることもできる。または本体部4aと同等の誘電効果を持つように、シャッター11を構成してもよい。
【0036】
また、本発明の場合、特に限定されることはないが、真空処理の際に本体部4aのピン通過孔4bに対応する基板10の部分の温度上昇を防止して基板10の温度むらをできるだけ小さくする観点からは、例えば図2に示すように、シャッター11によって本体部4aのピン通過孔4bを閉じた状態において、シャッター11と吸着した基板10の裏面との距離が、本体部4aの熱伝導用凹部20の底部21と吸着した基板10の裏面との距離と同等となるように構成することが好ましい(図2中距離p)。
【0037】
図3(a)~(c)及び図4(a)~(c)は、本発明に用いるシャッターの構成及び動作の例を示す概略図である。
【0038】
本例のシャッター11Aは、以下に説明するように、その自重に基づく重力の作用によって、本体部4aを横にした状態で自動的に開き、本体部4aを立てた状態で自動的に閉じるように構成されている。
【0039】
図3(a)に示すように、本例のシャッター11Aは、例えば本体部4aのピン通過孔4bと同等の大きさの平板形状に形成されたもので、吸着装置4の本体部4aに設けられた収容凹部4c内に配置されている。
【0040】
この収容凹部4cは、本体部4aのピン通過孔4bに対し、図1(a)(b)に示す本体部4aの駆動軸9から離れる方向側に設けられ、さらにピン通過孔4bと連通するように構成されている。
【0041】
シャッター11Aは、収容凹部4c内において例えば直線状に配列された一対の複数のローラ12に挟まれ、これらローラ12の配列方向に直線状に移動できるようになっている。
【0042】
本例では、図3(a)に示すように、吸着装置4を横にした状態において、シャッター11Aのピン通過孔4b側の部分(先端部)が上方に向くようにローラ12が配列されている。
【0043】
このような構成により、吸着装置4を横にした状態では、収容凹部4c内において、ローラ12からシャッター11Aの自重による重力荷重の反力成分がシャッター11Aに作用し、シャッター11Aにおける駆動軸9から離れる方向側の端部(後端部)が収容凹部4cの壁面と当接するように配置される。
【0044】
また、本体部4aのピン通過孔4bに対して本体部4aの駆動軸9側の部分であって、シャッター11Aの延びる方向の延長線上には、シャッター11Aのピン通過孔4b側の先端部と当接して嵌り合うように形成された溝部4dが設けられている。
【0045】
このような構成を有する本例において、吸着装置4を横にした状態から立てる方向へ移動させると、シャッター11Aの先端部側のローラ12がシャッター11Aの後端部側のローラ12より低い位置になった時点でシャッター11Aに対してローラ12から本体部4aの駆動軸9側へシャッター11Aの重力荷重の反力成分が作用し、これによりシャッター11Aは同駆動軸9側に移動する。
【0046】
そして、吸着装置4を立てる動作を継続すると、シャッター11Aが更に本体部4aの駆動軸9側に移動し、吸着装置4が立った状態では、シャッター11Aの先端部が本体部4aの溝部4dに嵌り合い、これにより本体部4aのピン通過孔4bが閉じられる(図3(c)参照)。
【0047】
一方、吸着装置4を立てた状態から横にする方向へ移動を開始すると、シャッター11Aの後端部側のローラ12がシャッター11Aの先端部側のローラ12より低い位置になった時点でシャッター11Aに対してローラ12から本体部4aの駆動軸9から離れる方向側へシャッター11Aの重力荷重の反力成分が作用し、これによりシャッター11Aは同駆動軸9から離れる方向側に移動する(図4(a)(b)参照)。
【0048】
そして、吸着装置4を横にする動作を継続すると、シャッター11Aが更に本体部4aの駆動軸9から離れる方向側に移動し、吸着装置4が横になった状態では、図4(c)に示すように、シャッター11Aの後端部が本体部4aの収容凹部4c内の壁面に当接することによってシャッター11Aは収容凹部4cに収容される。
【0049】
これにより、本体部4aのピン通過孔4bが開かれる。
【0050】
図5(a)~(c)及び図6(a)~(c)は、本発明に用いるシャッターの構成及び動作の他の例を示す概略図である。
【0051】
本例のシャッター11Bは、以下に説明するように、その自重に基づく重力の作用によって、本体部4aを横にした状態で自動的に開き、本体部4aを立てた状態で自動的に閉じるように構成されている。
【0052】
図5(a)に示すように、本例のシャッター11Bは、例えば本体部4aのピン通過孔4bと同等の大きさの平板形状に形成されたもので、吸着装置4の本体部4aに設けられた収容溝部4e内に配置されている。
【0053】
この収容溝部4eは、本体部4aのピン通過孔4bに対し、図1(a)(b)に示す本体部4aの駆動軸9から離れる方向側に設けられ、ピン通過孔4bと連通するように構成されている。そして、この収容溝部4eは、シャッター11Bが全体的に収容されるようにその大きさ及び形状が定められている。
【0054】
本例のシャッター11Bは、一方の端部に本体部4aの駆動軸9と平行に設けられた回転軸14を有し、収容溝部4e内の吸着面40側の端部において回転軸14を中心として回転できるように本体部4aに取り付けられている。
【0055】
そして、図5(a)に示すように、吸着装置4を横にした状態において、シャッター11Bが自重によって鉛直方向に向いて収容溝部4e内に収容されるように構成されている。
【0056】
一方、本体部4aのピン通過孔4b内の本体部4aの駆動軸9側の壁面には、シャッター11Bの回転軸14が設けられた側と反対側の端部と当接密着してシャッター11Bと共にピン通過孔4bを閉じるための突部4fが設けられている。
【0057】
このような構成を有する本例において、吸着装置4を横にした状態から立てる方向へ移動させると、シャッター11Bは鉛直方向を向いたままであるので、シャッター11Bは回転軸14を中心として本体部4aに対し相対的に突部4fに接近する方向に回転し、その下端部がピン通過孔4b内に配置される(図5(b)参照)。
【0058】
そして、吸着装置4を立てる動作を継続すると、シャッター11Bの下端部がピン通過孔4b内の突部4fに接近し、吸着装置4が立った状態では、シャッター11Bの先端部が突部4fに当接して、これらシャッター11Bと突部4fが密着し本体部4aのピン通過孔4bが閉じられる(図5(c)参照)。
【0059】
一方、吸着装置4を立てた状態から横にする方向へ移動させると、シャッター11Bは鉛直方向を向いたままであるので、シャッター11Bは回転軸14を中心として本体部4aに対し相対的に突部4fから離れる方向に回転する(図6(a)(b)参照)。
【0060】
そして、吸着装置4を横にする動作を継続すると、シャッター11Bが更に回転軸14を中心として本体部4aに対し相対的に突部4fから離れる方向に回転し、吸着装置4が横になった状態では、図6(c)に示すように、シャッター11Bは収容溝部4eに収容される。
【0061】
これにより、本体部4aのピン通過孔4bが開かれる。
【0062】
図7(a)(b)~図9(a)(b)は、本実施の形態における真空処理動作を示す概略工程図である。
【0063】
本実施の形態では、次のような工程によって基板10に対して真空処理であるスパッタリングを行う。
【0064】
まず、図示しない搬送ロボットを用いて基板10を真空槽2内に搬入し、図7(a)に示すように、吸着装置4の本体部4aの上部から突出させておいた昇降ピン6によって基板10を支持する。
【0065】
そして、真空排気を行うとともにスパッタガスを真空槽2内に導入し、図7(b)に示すように、昇降ピン6を下降させて基板10を吸着装置4の本体部4a上に配置する。
【0066】
この場合、昇降ピン6は、その上部が吸着装置4のピン通過孔4bから抜ける位置まで下降させる。この状態で吸着装置4を駆動し、基板10を吸着装置4の吸着面40に吸着させる。
【0067】
そして、駆動軸9を回転させることにより、吸着装置4を横にした状態から図8(a)に示す立てた状態に移動させる。
【0068】
これにより、上述したように、本体部4aのピン通過孔4bが自動的に閉じられる。
【0069】
その後、吸着装置4を立てた状態において、ガス供給源8からガス導入孔7を介して本体部4aと基板10との間の熱伝導用凹部20にガスを導入しながら、スパッタ電源3bからバッキングプレート3aを介してスパッタリングターゲット3に対して所定の電力を印加することにより、スパッタリング工程を行う。
【0070】
スパッタリング工程の終了後、駆動軸9を回転させることにより、図8(b)及び図9(a)に示すように、吸着装置4を立てた状態から横にした状態に移動させる。
【0071】
これにより、上述したように、本体部4aのピン通過孔4bが自動的に開かれる。
【0072】
この状態で吸着装置4による基板10の吸着を解除し、図9(b)に示すように、昇降ピン6を上昇させて基板10を支持して上昇させ、本体部4aの上方に配置する。
【0073】
その後、図示しない搬送ロボットによって基板10を真空槽2の外部へ搬出し、これによりスパッタリング工程が終了する。
【0074】
以上述べた本実施の形態の吸着装置4にあっては、基板10を昇降させる昇降ピン6を通すためのピン通過孔4bが本体部4aに設けられるとともに、本体部4aのピン通過孔4bを開閉するシャッター11を有していることから、本実施の形態の真空処理装置1では、シャッター11によって本体部4aのピン通過孔4bを開いた状態で昇降ピン6によって基板10を昇降して吸着装置4に基板10を吸着する一方で、シャッター11によって本体部4aのピン通過孔4bを閉じた状態で基板10に対して例えばプラズマを用いたスパッタ成膜等の真空処理を行うことにより、吸着装置4と基板10との間の微小な空間である熱伝導用凹部20に充填されたガスが漏れることがないため、ピン通過孔4bに対応する基板10の部分においてガスの対流による熱伝導を十分行うことができる。
【0075】
その結果、本実施の形態によれば、真空処理の際に本体部4aのピン通過孔4bに対応する基板10の部分の温度上昇を防止することができ、これにより基板10の温度むらをできるだけ小さくすることができる。
【0076】
また、本実施の形態においては、吸着装置4のシャッター11が、その自重に基づく重力の作用によって、本体部4aを横にした状態でピン通過孔4bを開き、本体部4aを立てた状態でピン通過孔4bを閉じるように構成されていることから、シャッター11を開閉させるモータ等駆動機構を用いる必要がなく、その結果、非常に簡素な構成の吸着装置4及び真空処理装置1を提供することができる。
【0077】
なお、本発明は上述の実施の形態に限られることなく、種々の変更を行うことができる。
【0078】
すなわち、本発明に用いるシャッターは、上記実施の形態には限られず、種々の形態のものを用いることができる。
【0079】
例えば、上記実施の形態では、シャッター11として、その自重に基づく重力の作用によってピン通過孔4bを開閉するように構成されているものを用いたが、本発明はこれに限られず、例えばモータ等の駆動機構によってシャッター11を動作させるように構成することもできる。
【0080】
ただし、装置構成の簡素化及びコストダウンの観点からは、上記実施の形態のように、その自重に基づく重力の作用によってピン通過孔4bを開閉するように構成することが好ましい。
【0081】
また、上記実施の形態のシャッター11A、11Bは、共にピン通過孔4bを閉じる際にはピン通過孔4bから退避するように構成したが、例えば昇降ピン6の基板支持部分にシール部材を装着してピン通過孔4bを閉じる一方で、昇降機構6aによって当該昇降ピン6の基板支持部分を押し上げて基板10を支持・上昇させるように構成することもできる。
【0082】
シール部材の例としては、膜付きグロメットの膜部にスリット(一般的には十字形状のスリット)を設けたものを利用すればよい。膜付きグロメットの膜部は、外力を受けない際にはほぼ一体の膜面をなす位置を安定状態とするので、ピン通過孔4bは閉じられており、基板10を支持・上昇を行う際には、昇降ピン6の押し上げ(膜面通過)力に対してグロメットの膜部の弾性力が負けることで、ピン通過孔4bは開けられたのと同様の状態となることができる。これにより、シャッター11の構成の場合と同様の効果が得られる。
【0083】
当然ではあるが、本発明に用いるシャッターの概念はこのような弾性力を用いたものも含まれ、ピン通過孔の開閉に伴い後述する閉塞(と開放)が可能な構成であれば、種々の変更を行うことができる。
【0084】
また、シャッター11A、シャッター11B、上記例のスリット膜付きグロメットいずれの場合でも、ピン通過孔4bの閉塞状態(本体部4aの溝部4dに嵌り合う、突部4fへの当接、グロメットの膜部スリット部の閉状態)では、ガス供給源8からガスが供給される空間側が、所謂粘性流領域が確保できる閉塞状態、つまりはコンダクタンスが確保されていれば同様の効果を奏することが可能である。
【0085】
具体的には、閉塞状態側(ガスアシスト側)は一般的に数100Paの圧力雰囲気が用いられ、他方側(スパッタ圧力側)は数十Paの圧力雰囲気が用いられるので、この圧力差が保てるような設計であればよい。仮に閉塞状態側が中間流から分子流領域(平均自由行程による熱伝導が支配的になる領域)となってしまうと、シャッター11が存在していない状態と同等の状態になる。つまり、この場合は熱伝導用凹部20に充填されたガスが漏れている状態に相当し、ピン通過孔4bに対応する基板10の部分においてガスの対流による熱伝導(粘性流領域を利用した熱伝導)は十分行なわれない。
【0086】
さらに、本発明は吸着装置を立てた状態で真空処理を行う装置のみならず、吸着装置を横にした状態で真空処理を行う装置にも適用することができる。
【0087】
さらにまた、本発明はスパッタリング装置には限られず、種々の真空処理を行う装置に適用することができる。
【符号の説明】
【0088】
1……スパッタリング装置(真空処理装置)
2……真空槽
3……スパッタリングターゲット
4……吸着装置
4a…本体部
4b…ピン通過孔
4c…収容凹部
4d…溝部
4e…収容溝部
5……吸着電極
6……昇降ピン
6a…昇降機構
7……ガス導入孔
9……駆動軸
10…基板
11、11A、11B…シャッター
20…熱伝導用凹部
図1
図2
図3
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図9