(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-06
(45)【発行日】2024-03-14
(54)【発明の名称】電着塗料及び絶縁被膜
(51)【国際特許分類】
C09D 201/00 20060101AFI20240307BHJP
C09D 7/61 20180101ALI20240307BHJP
C09D 5/44 20060101ALI20240307BHJP
C09D 5/25 20060101ALI20240307BHJP
C09D 179/04 20060101ALI20240307BHJP
【FI】
C09D201/00
C09D7/61
C09D5/44 B
C09D5/25
C09D179/04
(21)【出願番号】P 2020548494
(86)(22)【出願日】2019-09-17
(86)【国際出願番号】 JP2019036319
(87)【国際公開番号】W WO2020059689
(87)【国際公開日】2020-03-26
【審査請求日】2022-07-26
(31)【優先権主張番号】P 2018176012
(32)【優先日】2018-09-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000195661
【氏名又は名称】住友精化株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100124431
【氏名又は名称】田中 順也
(74)【代理人】
【識別番号】100174160
【氏名又は名称】水谷 馨也
(72)【発明者】
【氏名】森山 弘健
【審査官】橋本 栄和
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-328548(JP,A)
【文献】特開2012-036314(JP,A)
【文献】特開2016-015295(JP,A)
【文献】特開2008-050634(JP,A)
【文献】特開2014-031445(JP,A)
【文献】特開平09-124978(JP,A)
【文献】国際公開第2017/007000(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/006999(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 201/00
C09D 7/61
C09D 5/44
C09D 5/25
C09D 179/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
耐熱性樹脂前駆体、水不溶性無機化合物、塩基性化合物
(但し、トリエタノールアミンを除く)、有機溶媒、及び水を含有し、
前記耐熱性樹脂前駆体及び前記水不溶性無機化合物の合計100質量%中の前記水不溶性無機化合物の含有量が、1~30質量%である、電着塗料。
【請求項2】
前記耐熱性樹脂前駆体は、ポリイミド樹脂前駆体及びポリアミドイミド樹脂前駆体の少なくとも一方である、請求項1に記載の電着塗料。
【請求項3】
前記水不溶性無機化合物は、シリカ化合物、シリカアルミナ化合物、アルミニウム化合物、窒化物、及び層状ケイ酸塩鉱物からなる群より選択される少なくとも1種である、請求項1又は2に記載の電着塗料。
【請求項4】
前記アルミニウム化合物は、アルミナ、水酸化アルミニウム、及びアルミナ水和物からなる群より選択される少なくとも1種である、請求項3に記載の電着塗料。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか1項に記載の電着塗料を電着及び硬化した絶縁被膜。
【請求項6】
耐熱性樹脂前駆体、水不溶性無機化合物、塩基性化合物
(但し、トリエタノールアミンを除く)、有機溶媒、及び水を含有し、
前記耐熱性樹脂前駆体及び前記水不溶性無機化合物の合計100質量%中の前記水不溶性無機化合物の含有量が、1~30質量%である組成物の、電着塗料としての使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電着塗料及び絶縁被膜に関する。
【背景技術】
【0002】
電気電子分野において、電気伝導体としての金属部材には、通常、絶縁膜の被覆が必要となる。電気伝導体の表面に絶縁膜を施す有用な手法として、電着塗装法がある。電着塗装法は、電着塗料を用い、通電によって電気伝導体の被塗装物表面に樹脂の塗装膜を形成する方法であり、複雑な形状であっても均一に塗装できることから、電気電子分野等で広く利用されている。
【0003】
近年、電気電子分野等の材料において、製品の安全性や信頼性を保証する観点などから、絶縁性に加え、高い耐熱性が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2003-268235号公報
【文献】特開2009-256489号公報
【文献】特開平09-124978号公報
【文献】特開2012-138289号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
電着塗装に用いられる樹脂としては、例えば、エポキシ樹脂、アクリル樹脂等の親水性ポリマーが一般的に用いられている。しかしながら、電着塗装に用いられているこれらの樹脂は、耐熱性が低いという問題がある。
【0006】
電着塗装によって形成される被膜の耐熱性を向上させたものとして、種々の樹脂を混合した組成物が提案されている(例えば特許文献1~4を参照)。
【0007】
しかしながら、例えば特許文献1に記載の樹脂組成物では、エポキシ樹脂、アクリル樹脂等が併用されており、形成されるコーティング膜の耐熱性は、十分とはいえない。また、例えば、特許文献2では、ポリイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、またはポリアミド樹脂を基体樹脂とし、ウレア結合またはウレタン結合を介してカチオン性水和官能基を結合することで、カチオン性電着樹脂として塗料に用いることが試みられている。しかしながら、これらの塗料にはウレア結合やウレタン結合が存在するため、耐熱性は不十分である。
【0008】
また、例えば特許文献3には、耐熱性の向上を目的として、ポリアミド酸をアミンなどのアルカリで中和して得られるポリアミド酸の中和塩を含み、該中和塩を陽極側に電着させるアニオン型の電着塗料組成物が提案されている。さらに、特許文献4には、ブロック共重合で閉環させたポリイミド樹脂を含み、該ポリイミド樹脂を陽極に析出させるアニオン型の電着塗料組成物などが提案されている。しかしながら、これらの電着用の樹脂組成物についても、高い絶縁性と高い耐熱性の両立は十分ではない。
【0009】
このような状況下、本発明は、高い絶縁性と高い耐熱性とを両立した被膜が形成される電着塗料を提供することを主な目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した。その結果、電着塗料に耐熱性樹脂前駆体などを配合した上で、電着塗料中の水不溶性無機化合物の含有量を所定量に設定することにより、電着塗料の電着、硬化によって、高い絶縁性と高い耐熱性とを両立した被膜が形成されることを見出した。
【0011】
すなわち、本発明は、下記の構成を備える発明を提供する。
項1. 耐熱性樹脂前駆体、水不溶性無機化合物、塩基性化合物、有機溶媒、及び水を含有し、
前記耐熱性樹脂前駆体及び前記水不溶性無機化合物の合計100質量%中の前記水不溶性無機化合物の含有量が、1~30質量%である、電着塗料。
項2. 前記耐熱性樹脂前駆体は、ポリイミド樹脂前駆体及びポリアミドイミド樹脂前駆体の少なくとも一方である、項1に記載の電着塗料。
項3. 前記水不溶性無機化合物は、シリカ化合物、シリカアルミナ化合物、アルミニウム化合物、窒化物、及び層状ケイ酸塩鉱物からなる群より選択される少なくとも1種である、項1又は2に記載の電着塗料。
項4. 前記アルミニウム化合物は、アルミナ、水酸化アルミニウム、及びアルミナ水和物からなる群より選択される少なくとも1種である、項3に記載の電着塗料。
項5. 項1~4のいずれか1項に記載の電着塗料を電着及び硬化した絶縁被膜。
項6. 耐熱性樹脂前駆体、水不溶性無機化合物、塩基性化合物、有機溶媒、及び水を含有し、
前記耐熱性樹脂前駆体及び前記水不溶性無機化合物の合計100質量%中の前記水不溶性無機化合物の含有量が、1~30質量%である組成物の、電着塗料としての使用。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、高い絶縁性と高い耐熱性とを両立した被膜が形成される電着塗料を提供することができる。また、本発明によれば、当該電着塗料の電着物、硬化物である絶縁被膜を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】実施例における絶縁性の評価方法(耐部分放電性試験)を説明するための模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の電着塗料及び絶縁被膜について、詳述する。なお、本明細書において、「~」で結ばれた数値は、「~」の前後の数値を下限値及び上限値として含む数値範囲を意味する。複数の下限値と複数の上限値が別個に記載されている場合、任意の下限値と上限値を選択し、「~」で結ぶことができるものとする。
【0015】
1.電着塗料
本発明の電着塗料は、耐熱性樹脂前駆体、水不溶性無機化合物、塩基性化合物、有機溶媒、及び水を含有し、耐熱性樹脂前駆体及び水不溶性無機化合物の合計100質量%中の水不溶性無機化合物の含有量が1~30質量%であることを特徴としている。本発明の電着塗料は、このような構成を備えることにより、電着に供した後、硬化させると、高い絶縁性と高い耐熱性とを両立した被膜が形成される。
【0016】
(耐熱性樹脂前駆体)
本発明において、耐熱性樹脂前駆体とは、耐熱性樹脂の前駆体であることを意味しており、より具体的には、加熱等の硬化手段によって硬化して耐熱性樹脂を形成するものである。
【0017】
ここで、耐熱性樹脂とは、ガラス転移点(Tg)が270℃以上であることを意味しており、例えば一般的なエポキシ樹脂やアクリル樹脂などと比較して耐熱性に優れる樹脂である。耐熱性樹脂の好ましい具体例としては、ポリイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリベンゾオキサゾール樹脂、ポリベンゾチアゾール樹脂、ポリベンゾイミダゾール樹脂などが挙げられ、特にポリイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂が好ましい。なお、耐熱性樹脂のガラス転移点は、示差走査熱量計(DSC)で測定される。ガラス転移点(Tg)の上限は、例えば600℃である。また、ガラス転移点を測定することができない樹脂に関しては、5%重量減少温度が400℃以上のものを耐熱性樹脂として扱う。5%重量減少温度の上限は、例えば700℃である。
【0018】
耐熱性樹脂前駆体の好ましい具体例としては、ポリイミド樹脂前駆体、ポリアミドイミド樹脂前駆体、ポリベンゾオキサゾール樹脂前駆体、ポリベンゾチアゾール樹脂前駆体、ポリベンゾイミダゾール樹脂前駆体などが挙げられる。これらの中でも、高い絶縁性と高い耐熱性とを両立した被膜が好適に形成され、得られた被膜の可撓性に優れることから、ポリイミド樹脂前駆体、ポリアミドイミド樹脂前駆体がより好ましい。耐熱性樹脂前駆体は、1種類のみを用いてもよいし、2種類以上を混合して用いてもよい。
【0019】
ポリイミド樹脂前駆体及びポリアミドイミド樹脂前駆体の具体例としては、それぞれ、ポリアミド酸、ポリアミド酸エステル、ポリアミド酸塩などが挙げられる。また、ポリベンゾオキサゾール樹脂前駆体の具体例としては、ポリヒドロキシアミドが挙げられる。ポリベンゾチアゾール樹脂前駆体の具体例としては、ポリチオヒドロキシアミドが挙げられる。ポリベンゾイミダゾール樹脂前駆体の具体例としては、ポリアミノアミドイミド環、さらには、オキサゾール環、その他の環状構造を有するポリマーが挙げられる。
【0020】
耐熱性樹脂前駆体としては、特にポリアミド酸、ポリアミド酸エステル、ポリアミド酸塩が好ましい。
【0021】
本発明の電着塗料において、電着塗料中の耐熱性樹脂前駆体の含有量は、後述の水不溶性無機化合物の含有量を所定の範囲に設定した上で、電着によって被膜が形成される濃度であればよく、好ましくは0.1~50質量%、より好ましくは1~20質量%である。0.1質量%以上であることにより、電着塗料に印加する電圧、通電時間に対して形成される被膜の厚みが薄くなり過ぎずに生産性が良くなる。また、50質量%以下であることにより、電着塗料中における耐熱性樹脂前駆体の凝集の発生を抑制することができる。電着塗料中の耐熱性樹脂前駆体の分散性の観点から、さらに好ましい上限としては、10質量%以下である。
【0022】
(水不溶性無機化合物)
本発明において、水不溶性無機化合物の「水不溶性」とは、20℃の水100mLへの溶解度が1.0g未満であることを意味する。
【0023】
本発明の電着塗料において、耐熱性樹脂前駆体及び水不溶性無機化合物の合計100質量%中の水不溶性無機化合物の含有量は、1~30質量%である。本発明の電着塗料においては、耐熱性樹脂前駆体を含んでいることにより、耐熱性樹脂を用いる場合に比して、水不溶性無機化合物を高濃度に設定した場合にも、各成分が均一に分散した電着塗料が好適に形成される。さらに、当該電着塗料が好適に電着、硬化して、絶縁被膜が形成される。
【0024】
高い絶縁性と高い耐熱性とを両立した被膜が形成される観点から、本発明の電着塗料において、耐熱性樹脂前駆体及び水不溶性無機化合物の合計100質量%中の水不溶性無機化合物の含有量は、好ましくは2~25質量%、より好ましくは5~20質量%である。
【0025】
水不溶性無機化合物の好ましい具体例としては、例えば、シリカ化合物、シリカアルミナ化合物、アルミニウム化合物、カルシウム化合物、窒化物、層状ケイ酸塩鉱物、層状複水酸化物、石炭灰、ジルコニア、チタニア、イットリア、酸化亜鉛などが挙げられる。水不溶性無機化合物は、1種類のみを用いてもよいし、2種類以上を混合して用いてもよい。これらの中でも、シリカ化合物、シリカアルミナ化合物、アルミニウム化合物、窒化物及び層状ケイ酸塩鉱物がより好ましい。
【0026】
シリカ化合物としては、シリカ、ワラステナイト、ガラスビーズ等が挙げられる。シリカアルミナ化合物としては、ゼオライト、ムライト挙げられる。アルミニウム化合物としては、例えば、スピネル、水酸化アルミニウム、酸化アルミニウム(アルミナ)、アルミナ水和物、ホウ酸アルミニウム等が挙げられる。前記アルミナ水和物としては、例えば、ジブサイト、バイヤライト、ノルトストランダイト、ベーマイト、ダイアスポア、トーダイト等が挙げられる。カルシウム化合物としては、例えば、炭酸カルシウム、酸化カルシウム等が挙げられる。窒化物としては、例えば、窒化ケイ素、窒化ホウ素、窒化アルミ等が挙げられる。層状ケイ酸塩鉱物としては、例えば、天然物又は合成物の雲母、タルク、カオリン、パイロフィライト、セリサイト、バーミキュライト、スメクタイト、ベントナイト、スチーブンサイト、モンモリロナイト、バイデライト、サポナイト、ヘクトライト、ノントロナイト等が挙げられる。層状複水酸化物としては、ハイドロタルサイトなどが挙げられる。これらのなかでも、より高い絶縁性と高い耐熱性とを両立した被膜が形成される観点から、アルミニウム化合物が好ましく、より好ましくは、アルミナ、水酸化アルミニウム、アルミナ水和物がさらに好ましく、ベーマイトが特に好ましい。
【0027】
不溶性無機化合物の平均粒子径としては、電着及びその後の硬化によって形成される絶縁被膜の耐熱性、絶縁性、さらには機械的強度の観点から、好ましくは1nm~5μm、より好ましくは5nm~500nmである。当該平均粒子径は、レーザー回折による散乱式粒度測定装置(マイクロトラック)を使用して測定して得られた粒度分布における積算値50%での粒子径である。
【0028】
水不溶性無機化合物は、ナノ粒子であることが好ましい。ナノ粒子とは、ナノサイズの粒子であり、具体的には、平均粒子径が1nm~1μm程度である粒子をいう。なお、水不溶性無機化合物が平板状の構造である場合、ナノ粒子には、例えば、横方向又は厚みの少なくとも一方が1nm~1μm程度である粒子も含まれる。
【0029】
前記水不溶性無機化合物のアスペクト比(長径/短径)としては、2以上であることが好ましく、5~100であることがより好ましい。水不溶性無機化合物のアスペクト比が2以上であると、導体上に塗布した際に、水不溶性無機化合物を部分放電による侵食に相対する方向に規則正しく整列させることにより、覆われる導体の面積を広くでき、耐部分放電性の効果をより高めることができる。
【0030】
なお、本明細書において上記アスペクト比は、走査型電子顕微鏡を用いて、5000倍の倍率で観察した粒子の長径と短径の比率(長径/短径)を意味する。すなわち、板状粒子の水不溶性無機化合物の場合は、粒径の平均値を板厚の平均値で除したものであり、少なくとも100個の水不溶性無機化合物の板状粒子についての粒径の平均値を板厚の平均値で除したものである。ここでいう板状粒子の粒径は、板状粒子の位置の主面の面積と同一の面積を有する円形状の直径に相当する。また棒状又は針状粒子の場合は、針(棒)の長さを針(棒)の直径で除したものである。
【0031】
本発明の電着塗料に水不溶性無機化合物が配合される際、その状態は、粉末状態であっても、水や有機溶媒の分散媒に分散したゾル状態のものであってもよい。ゾル状態のものを用いることにより、電着、硬化後に、水不溶性無機化合物が高分散した絶縁被膜が得られ、耐熱性に加え耐部分放電性も付与できるため、分散媒に分散したゾル状態のものを選択することが好ましい。
【0032】
不溶性無機化合物がゾル状態である場合の分散媒は、耐熱性樹脂前駆体と相溶性が高いものであるか、分散された粒子が安定に存在できるものが好ましい。具体的には、メタノール、エタノール、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、N-メチル-2-ピロリドン等がより好ましい。
【0033】
水不溶性無機化合物は、表面修飾されたものであってもよい。水不溶性無機化合物の表面修飾は、例えば、シランカップリング剤やチタネートカップリング剤などの表面処理剤による表面有機化処理等の公知の方法により行うことができる。好ましい表面修飾剤としては、シランカップリング剤が挙げられる。
【0034】
(塩基性化合物)
塩基性化合物は、電着塗料の電着に使用できるものであればよく、好ましくは、アミン化合物、アルカリ金属、アルカリ土類金属である。より好ましい塩基性化合物は、アミン化合物であり、さらに好ましくはイミダゾール化合物または3級アミン化合物である。塩基性化合物は、1種類のみを用いてもよいし、2種類以上を混合して用いてもよい。
【0035】
イミダゾール化合物の具体例は、例えば、1,2-ジメチルイミダゾール、2-エチル-4-メチルイミダゾール、4-エチル-2-メチルイミダゾール、及び1-メチル-4-エチルイミダゾールなどであり、3級アミン化合物の具体例は、トリエチレンジアミン、トリメチルアミン、トリエチルアミン、N,N,N',N",N"-ペンタメチルジエチレントリアミン、N,N,N',N'-テトラメチルプロパンジアミン、1,4-ジメチルピペラジン、1,4-ジエチルピペラジン、N,N-ジメチルシクロヘキシルアミン、エチレンジアミン四酢酸、N,N-ジメチルアミノエタノール、トリエタノールアミン、N-ジメチルベンジルアミン、N-メチルモルホリン等である。これらの中でも、特に1,2-ジメチルイミダゾール、トリエチレンジアミン、トリエチルアミン、N,N-ジメチルアミノエタノール、N-メチルモルホリンが好ましい。
【0036】
本発明の電着塗料において、塩基性化合物の含有量は、水不溶性無機化合物の含有量を所定の範囲に設定した上で、電着によって被膜が形成される濃度であればよく、好ましくは0.01~10質量%、より好ましくは0.1~5質量%である。塩基性化合物の含有量が0.01質量%以上であることにより、耐熱性樹脂前駆体が、電着塗料中で凝集及び沈殿することを抑制し、10質量%以下であることにより、電着塗装時の製膜性をより適切なものにすることができる。塩基性化合物の含有量のさらに好ましい下限は0.3質量%以上であり、さらに好ましい上限は3質量%以下である。
【0037】
(有機溶媒)
有機溶媒は、電着塗料の電着に使用できるものであればよく、電着塗料に従来用いられている公知の溶媒が用いられる。有機溶媒は、1種類のみを用いてもよいし、2種類以上を混合して用いてもよい。
【0038】
有機溶媒の具体例は、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、N-メチル-2-ピロリドンなどのアミド系溶媒、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、メトキシプロパノール、ベンジルアルコールなどのアルコール系溶媒、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、グリセリン、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、メチルプロパンジオールなどの多価アルコール系溶媒、ジメチルエーテル、ジエチルエーテル、ジプロピルエーテル、ジブチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジエチレングリコール、ジエチレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコールなどのエーテル系溶媒、酢酸ブチル、酢酸エチル、酢酸イソブチル、プロピレングリコールメチルアセテート、エチルセロソルブ、プチルセロソルブ、2-メチルセロソルブアセテート、エチルセロソルブアセテート、ブチルセロソルブアセテート、γ-ブチロラクトン、γ-バレロラクトン、δ-バレロラクトン、γ-カプロラクトン、ε-カプロラクトン、α-メチル-γ-ブチロラクトンなどのエステル系溶媒、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、ジイソブチルケトン、シクロペンタノン、シクロへキサノン、アセトフェノン等のケトン系溶媒、ジエチルカーボネート、プロピレンカーボネート等のカーボネート系溶媒、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、ベンゼン、トルエン、キシレン等の炭化水素系溶媒、フェノール、m-クレゾール、p-クレゾール、3-クロロフェノール、4-クロロフェノール等のフェノール系溶媒、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン、ジメチルスルホオキシド、スルホラン、ジメチルスターペン、ミネラルスピリット、石油ナフサ系溶媒などである。
【0039】
本発明の電着塗料において、有機溶媒の含有量は、水不溶性無機化合物の含有量を所定の範囲に設定した上で、電着によって被膜が形成される濃度であればよく、電着塗料中の1~70質量%であることが好ましく、10~60質量%であることがより好ましい。有機溶媒の含有量を10質量%以上とすることにより、耐熱性樹脂前駆体の安定性を向上させることができ、60質量%以下とすることにより、電着塗装時の電流効率の低下を抑制できる。有機溶媒の含有量のさらに好ましい下限は、20質量%以上であり、好ましい上限は50質量%以下である。
【0040】
(水)
水は、電着塗料の電着に使用できるものでれば、特に制限されず、水道水、工業用水、純水、イオン交換水など任意のものを用いることができる。水は、1種類のみを用いてもよいし、2種類以上を混合して用いてもよい。
【0041】
本発明の電着塗料において、水の含有量は、水不溶性無機化合物の含有量を所定の範囲に設定した上で、電着によって被膜が形成される濃度であればよく、電着塗料中の20~80質量%であることが好ましく、40~60質量%であることがより好ましい。
【0042】
(他の成分)
本発明の電着塗料は、耐熱性樹脂前駆体、水不溶性無機化合物、塩基性化合物、有機溶媒、及び水を含み、高い絶縁性と高い耐熱性とを両立できることを限度として、必要に応じて、他の成分をさらに含んでいてもよい。
【0043】
他の成分としては、例えば、アルキルフェノール樹脂、アルキルフェノール-アセチレン樹脂、キシレン樹脂、クマロン-インデン樹脂、テルペン樹脂、ロジンなどの粘着付与剤、ポリブロモジフェニルオキサイド、テトラブロモビスフェノールAなどの臭素系難燃剤、塩素化パラフィン、パークロロシクロデカンなどの塩素系難燃剤、リン酸エステル、含ハロゲンリン酸エステルなどのリン系難燃剤、ホウ素系難燃剤、三酸化アンチモンなどの酸化物系難燃剤、フェノール系、リン系、硫黄系の酸化防止剤、熱安定剤、光安定剤、紫外線吸収剤、滑剤、顔料、架橋剤、架橋助剤、シランカップリング剤、チタネートカップリング剤などの一般的なプラスチック用配合成分、芳香族ポリアミド繊維などが挙げられる。
【0044】
これら他の成分は、耐熱性樹脂前駆体100質量部に対して、例えば0.1~10質量部含まれ得る。
【0045】
(電着塗料の製造方法)
本発明の電着塗料は、前記の耐熱性樹脂前駆体、水不溶性無機化合物、塩基性化合物、有機溶媒、及び水、さらに、必要に応じて添加される他の成分を、公知の方法によって混合することによって製造することができる。混合の際、必要に応じて加熱してもよい。
【0046】
混合方法としては、例えば、ニーダー、加圧ニーダー、混練ロール、バンバリーミキサー、二軸押し出し機、自転公転ミキサー、ホモミキサーなどの公知の混合手段を用いて混合する方法が挙げられる。
【0047】
水不溶性無機化合物は、耐熱性樹脂前駆体等と混合する前に予め粉砕してもよい。粉砕することによって水不溶性無機化合物の粒径が小さくなり、また粒径が揃うため、混合した際、水不溶性無機化合物の分散を良好にすることができ、電着及びその後の硬化によって形成される絶縁被膜の耐部分放電性をより向上させることができる。
【0048】
粉砕する方法としては、例えば、ボールミル、ロッドミル、マスコロイダー、乾式ジェットミル、ホモジナイザー、湿式ジェットミルなどの一般的に公知の粉砕手段を用いる方法が挙げられる。
【0049】
水不溶性無機化合物と耐熱性樹脂前駆体等とを混合する際には、例えば耐熱性樹脂前駆体に水不溶性無機化合物を直接分散混合してもよく、水又は有機溶媒に水不溶性無機化合物を分散媒に分散したゾル状態のものを耐熱性樹脂前駆体と分散混合することが好ましい。
【0050】
2.絶縁被膜
本発明の絶縁被膜は、本発明の電着塗料を電着及び硬化させてなる被膜である。具体的には、本発明の電着塗料を、電着対象物(導体などの電着可能なもの)に電着させると、耐熱性樹脂前駆体及び水不溶性無機化合物を含む塗膜が形成され、当該塗膜を加熱などの硬化手段によって硬化させることによって形成された被膜である。当該塗膜中において、耐熱性樹脂前駆体及び水不溶性無機化合物の合計100質量%中の水不溶性無機化合物の含有量は、1~30質量%である。また、本発明の絶縁被膜中には、耐熱性樹脂前駆体が硬化して形成された耐熱性樹脂と、水不溶性無機化合物とが含まれており、耐熱性樹脂及び水不溶性無機化合物の合計100質量%中の水不溶性無機化合物の含有量は、1~30質量%である。
【0051】
本発明の絶縁被膜の厚みとしては、電着対象物に高い絶縁性と高い耐熱性を付与できる程度の厚みであればよく、例えば5~100μm、好ましくは30~70μmである。
【0052】
電着方法としては、公知の電着塗装法を用いることができる。電着塗装法は、バッチまたは連続で行うことができる。バッチの場合、電着塗料槽に金属部材を浸漬し、静置した状態で電着を行う。また、連続の場合、電着対象物を電着塗料に連続的に通過させながら電着を行う。
【0053】
電着塗料への電圧印加は、定電流法で行ってもよいし、定電圧法で行ってもよい。印加電圧は、例えば1~100Vである。
【0054】
電着塗料を硬化させる方法としては、加熱が好ましい。具体的には、電着塗装後に焼付処理を行うことにより、電着塗料の硬化物からなる絶縁被膜が形成される。焼付炉の炉内温度は、例えば200~500℃である。焼付処理時間は、例えば10~100分である。焼付処理は、単一の焼付処理温度により一段階で行っても、また、相互に異なる焼付処理温度の多段階で行っても、どちらでもよい。
【0055】
本発明の電着塗料の硬化物からなる絶縁被膜は、高い耐熱性と高い絶縁性を有する。このため、高い耐熱性を要求される絶縁材料として、好適に使用することができる。
【0056】
3.耐熱性絶縁部材及び耐熱性製品
本発明の電着塗料および絶縁被膜は、耐熱性絶縁部材に用いられる。当該耐熱性部材は、一般的に、導体と、当該導体の表面に形成された本発明の電着塗料の硬化物からなる絶縁被膜とを備えている。同様に、本発明の電着塗料および絶縁被膜は、耐熱性製品に用いられる。当該耐熱性品は、導体と、当該導体の表面に形成された本発明の電着塗料の硬化物からなる絶縁被膜とを備えている。前記耐熱性絶縁部材及び前記耐熱性製品は、本発明の電着塗料の硬化物からなる絶縁被膜を備えているため、導体に対して高い絶縁性と高い耐熱性とが付与されている。
【0057】
導体は、電気導電性を備える部材であり、好適には金属部材である。金属部材を構成する金属としては、電着可能なものであれば、特に制限されず、銅、ニッケル、鉄、鋼、アルミニウム、銀、これらのうち少なくとも1種を含む合金が挙げられる。また、導体の表面には、電着可能であれば、表面処理が施されていてもよい。導体の形状についても、電着可能であれば特に制限されず、板状及び成型物等を挙げることができる。電着方法は、前記の通りである。
【0058】
本発明の電着塗料は、例えば、発熱の大きい高出力電気機器(モーターなど)に対して、好適に絶縁被膜を形成することができる。具体的には、本発明の電着塗料を導体に電着塗装し、硬化させることにより、導体の表面が絶縁被膜で覆われた耐熱性電線とし、これを高出力電気機器に適用することができる。なお、本発明の電着塗料を高出力電気機器の導体部分に電着塗装し、これを硬化させてもよい。
【0059】
本発明の絶縁被膜を含む絶縁性製品としては、例えば、耐熱性電線、耐熱性回転電機などが挙げられる。
【0060】
例えば、耐熱性電線は、本発明の電着塗料を用いて、電線の導体の表面に絶縁被膜を形成することにより、絶縁被膜が絶縁体を形成し、高い耐熱性と高い絶縁性を備えることができる。当該耐熱性電線は、絶縁被膜により、高温での使用における動作安全性が高められる。
【0061】
前記耐熱性電線は、導体と、該導体の外周を覆う単層または複数層の絶縁被膜とを含む電線であって、絶縁被膜の少なくとも一層が、本発明の絶縁被膜からなる電線である。
【0062】
導体の材料としては、例えば、前記の金属が挙げられる。
【0063】
前記耐熱性電線は、例えば、本発明の電着塗料を導体の表面上に電着塗装し、焼き付け等によって硬化させて絶縁被膜を形成することにより製造することができる。
【0064】
例えば、耐熱性回転電機は、前述の耐熱性電線を含む回転電機である。耐熱性回転電機は、導体を用いて回転電機を形成した後に、導体の表面に絶縁被膜を形成することにより、耐熱性電線を形成したものであってもよい。
【0065】
前記耐熱性回転電機としては、例えば、モーター、発電機(ジェネレーター)などが挙げられる。
【実施例】
【0066】
以下、本発明を実施例によりさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。
【0067】
<実施例1>
(1-1.ベーマイトプレゲルの作製)
水不溶性無機化合物としての板状ベーマイトエタノール分散液(10.0質量%、平均粒子径20nm、アスペクト比2)10.0g、および、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)10.0gをプラスチック製密閉容器にとり、自転公転ミキサー(シンキー社製、「ARE-310」)で混合モード(2000rpm)を3分間行って撹拌し、プレゲル全体に対するベーマイトの割合が5.0質量%のプレゲルを得た。
【0068】
(1-2.ポリイミド樹脂前駆体(ポリアミド酸)ワニスの作製)
撹拌機と温度計を備えた1Lの4つ口フラスコに、4,4'-ジアミノジフェニルエーテル40gとNMP410.4gを仕込み、撹拌しながら50℃に昇温して溶解させた。次に、溶解液に、無水ピロメリット酸22gとビフェニルテトラカルボン酸ジ無水物28gを徐々に添加した。添加終了後1時間撹拌し、NMPに、下記式(I)で表される芳香族ポリアミド酸が18.0質量%の濃度で溶解されてなるポリアミド酸ワニスを得た。
【0069】
【化1】
[式(I)中、nは2以上の整数である。]
【0070】
(1-3.電着塗料の作製)
前記1-1で作製したベーマイトプレゲル(ベーマイト5.0質量%)7.6g、及び、前記1-2で作製したポリアミド酸ワニス40.0g(芳香族ポリアミド酸7.2g、NMP32.8g)をプラスチック製密閉容器にとり、自転公転ミキサー(シンキー社製、「ARE-310」)で混合モード(2000rpm)を5分間、脱泡モード(2200rpm)を5分間行って撹拌し、絶縁ワニスを得た。得られた絶縁ワニスを、撹拌機と温度計を備えた1Lの4つ口フラスコに、47.6gとベンジルアルコール8g、塩基性化合物としてのN-メチルモルホリン0.4gを仕込み、攪拌しながら純水50gを滴下して電着塗料を得た。電着塗料中の不揮発成分(ポリアミド酸及びベーマイト)の割合は7.2質量%で、不揮発成分(ポリアミド酸及びベーマイトの合計100質量%)に対するベーマイトの含有率は5.0質量%であった。
【0071】
(1-4.電着塗装)
電着塗料による被膜の形成は、ステンレス製容器を陰極とし、電着被膜を形成するニッケルメッキ処理を施した銅板を陽極として行った。ステンレス製容器に前記1-3で調製した電着塗料を仕込み、攪拌しながら電圧5V、通電時間900秒の条件で電着を行い、銅板をゆっくりと電着塗料から引き上げた。前記銅板を、強制送風式オーブン中に吊るし、順に100℃で20分、200℃で20分、300℃で20分の温度条件で乾燥して、絶縁コーティングした(絶縁被膜が形成された)銅板を得た。得られた絶縁被膜は、不揮発成分(ポリアミド酸及びベーマイトの合計100質量%)に対するベーマイトの割合が5質量%であり、厚さは40μmであった。
【0072】
<実施例2>
(2-1.電着塗料の作製)
実施例1の1-1で作製したベーマイトプレゲル(ベーマイト5.0質量%)を16gとしたこと以外は、1-3と同様に電着塗料を得た。電着塗料中の不揮発成分(ポリアミド酸及びベーマイト)の割合は7.0質量%で、不揮発成分(ポリアミド酸及びベーマイトの合計100質量%)に対するベーマイトの含有率は10質量%であった。
【0073】
(2-2.電着塗装)
2-1で作製した電着塗料を用いて、通電時間を600秒にしたこと以外は、実施例1の1-4と同様に電着塗装を行った。得られた絶縁被膜は、不揮発成分(ポリアミド酸及びベーマイトの合計100質量%)に対するベーマイトの割合が10質量%であり、厚さは30μmであった。
【0074】
<実施例3>
(3-1.電着塗料の作製)
実施例1の1-1で作製したベーマイトプレゲル(ベーマイト5.0質量%)を36gとしたこと以外は、1-3と同様に電着塗料を得た。電着塗料中の不揮発成分(ポリアミド酸及びベーマイト)の割合は6.7質量%で、不揮発成分(ポリアミド酸及びベーマイトの合計100質量%)に対するベーマイトの含有率は20質量%であった。
【0075】
(3-2.電着塗装)
3-1で作製した電着塗料を用いて、電圧を10V、通電時間を300秒にしたこと以外は、実施例1の1-4と同様に電着塗装を行った。得られた絶縁被膜は、不揮発成分に対するベーマイトの割合が20質量%であり、厚さは34μmであった。
【0076】
<比較例1>
(4-1.電着塗料の作製)
実施例1の1-1で作製したベーマイトプレゲル(ベーマイト5.0質量%)を混合しないこと以外は、1-3と同様に電着塗料を得た。電着塗料中の不揮発成分(ポリアミド酸)の割合は7.3質量%であった。
【0077】
(4-2.電着塗装)
4-1で作製した電着塗料を用いたこと以外は、実施例1の1-4と同様に電着塗装を行った。得られた被膜は、厚さ40μmであった。
【0078】
<比較例2>
(5-1.電着塗料の作製)
実施例1の1-1で作製したベーマイトプレゲル(ベーマイト5.0質量%)を0.7gとしたこと以外は、1-3と同様に電着塗料を得た。電着塗料中の不揮発成分(ポリアミド酸及びベーマイト)の割合は7.3質量%で、不揮発成分(ポリアミド酸及びベーマイトの合計100質量%)に対するベーマイトの含有率は0.5質量%であった。
【0079】
(5-2.電着塗装)
5-1で作製した電着塗料を用いたこと以外は、実施例1の1-4と同様に電着塗装を行った。得られた被膜は、厚さ40μmであった。
【0080】
<比較例3>
(6-1.電着塗料の作製)
塩基性化合物としてのN-メチルモルホリンを添加しないこと以外は、1-3と同様に電着塗料の作製を行ったが、水を添加中に樹脂成分が完全に凝集・沈殿し、電着塗料は得られなかった。
【0081】
<比較例4>
(7-1.電着塗料の作製)
撹拌機と温度計を備えた300mLの4つ口フラスコに、ポリイミド電着塗料((株)ピーアイ技術研究所製「Q-ED-X0809」、ポリイミド樹脂7~9質量%、N-メチル-2-ピロリドン51~54質量%、1-メトキシ-2-プロパノール12~15質量%、水23~27質量%、塩基性化合物としてのピペリジン0.3質量%)200gを仕込み、撹拌しながら前記1-1で作製したベーマイトプレゲル(5.0質量%)17.8gを10分間かけてマイクロシリンジにより注入し、ベーマイトを含有する電着塗料を作製した。得られた電着塗料は、全不揮発成分(ポリイミド樹脂及びベーマイトの合計100質量%)全体に対するベーマイトの割合が5.0質量%であった。
【0082】
(7-2.電着塗装)
7-1で作製した電着塗料を用いて、電圧を30V、通電時間を60秒にしたこと以外は、実施例1の1-4と同様に電着塗装を行った。電着塗料中で凝集物が生じており、得られた被膜は膜の平滑性・均一性が低く、絶縁性を有する被膜が得られなかった。
【0083】
<耐熱性の評価>
電着により取得した各々の膜の耐熱性を評価した。耐熱性の評価は、TG/DTA6200(SII社製示差熱熱重量同時測定装置)を用いて、大気中における熱質量分析を行い、JIS K 7120に従った質量減少開始温度で評価を行った。評価結果を表1に示す。
【0084】
【0085】
*1 比較例4においては、樹脂前駆体の代わりに、ポリイミド樹脂を使用した。
【0086】
表1の結果の通り、水不溶性無機化合物を含有した電着塗料を用いて作製した膜の耐熱性は含有していないものより向上していることが明らかとなった。
【0087】
<絶縁性(耐部分放電性)の評価>
(電着塗料による被膜の耐部分放電性試験)
実施例1~3及び比較例1で作製した電着塗装による被膜を、以下の試験方法で評価した。具体的な試験方法としては、
図1に示すように、下から、ステンレス製土台5上に電着により被膜3を形成したニッケルメッキ処理銅板4を設置した。その上から金属球(2mmφ)2、銅管1の順にのせて自重で押さえ、銅管1を動かないように固定した。銅管1とニッケルメッキ処理銅板4を電源に接続することで、金属球2を高電圧電極、ニッケルメッキ処理銅板4を低電圧電極とした。それにより金属球と被膜との間で部分放電を起こし、被膜が絶縁破壊するまでの時間を測定した。測定装置は、日新パルス電子社製インバーターパルス発生器を用いた。電圧は部分放電開始電圧以上の2.0kVとし、周波数は10kHzで測定した。結果を表2に示す。
【0088】
【0089】
実施例の結果から、本発明の電着塗料は、例えば電線、モーター、発電機など、高い耐熱性が求められる製品に対して、電着、硬化によって被膜を形成することにより、高い耐熱性・絶縁性を付与できることが分かる。また、本発明の電着塗料は、耐部分放電性に優れた絶縁被膜を形成できることも分かる。
【符号の説明】
【0090】
1 銅管
2 金属球(2mmφ)
3 被膜
4 ニッケルメッキ処理銅板
5 ステンレス製土台