(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-06
(45)【発行日】2024-03-14
(54)【発明の名称】押出樹脂積層体及び硬化被膜付き押出樹脂積層体
(51)【国際特許分類】
B32B 27/30 20060101AFI20240307BHJP
B32B 27/36 20060101ALI20240307BHJP
B32B 27/20 20060101ALI20240307BHJP
B29C 48/07 20190101ALI20240307BHJP
B29C 48/21 20190101ALI20240307BHJP
【FI】
B32B27/30 A
B32B27/36 102
B32B27/20 Z
B29C48/07
B29C48/21
(21)【出願番号】P 2020566409
(86)(22)【出願日】2020-01-14
(86)【国際出願番号】 JP2020000858
(87)【国際公開番号】W WO2020149254
(87)【国際公開日】2020-07-23
【審査請求日】2022-11-28
(31)【優先権主張番号】P 2019006935
(32)【優先日】2019-01-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001085
【氏名又は名称】株式会社クラレ
(74)【代理人】
【識別番号】100103894
【氏名又は名称】家入 健
(72)【発明者】
【氏名】船崎 一男
(72)【発明者】
【氏名】大澤 侑史
(72)【発明者】
【氏名】多賀 翔
【審査官】伊藤 寿美
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/030147(WO,A1)
【文献】特開2013-022822(JP,A)
【文献】国際公開第2018/199213(WO,A1)
【文献】特開2014-043000(JP,A)
【文献】特開2010-234640(JP,A)
【文献】国際公開第2018/221580(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00-43/00
G02B 5/00- 5/136
B29C 48/00-48/96
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリカーボネート(PC)を含むポリカーボネート含有層の少なくとも片面に、(メタ)アクリル樹脂(A)
と多層構造ゴム粒子
とを含む(メタ)アクリル樹脂含有層が積層された押出樹脂積層体であって、
(メタ)アクリル樹脂(A)は、主鎖に環構造を有さず、メタクリル酸メチル単位の含有量が90~100質量%であり、三連子表示のシンジオタクティシティ(rr)が63~99%であり、ガラス転移温度が122~130℃であり、重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)との比で定義される分子量分布(Mw/Mn)が1.05~1.87であり、
ポリカーボネート(PC)は、ガラス転移温度が135~155℃であり、
(メタ)アクリル樹脂(A)のガラス転移温度とポリカーボネート(PC)のガラス転移温度との差が20~28℃
であり、
前記(メタ)アクリル樹脂含有層が紫外線吸収剤を含み、
前記(メタ)アクリル樹脂含有層の厚みをta(μm)とし、前記(メタ)アクリル樹脂含有層中の前記紫外線吸収剤の含有量をC
UV(質量%)としたとき、C
UVが
0.5~3質量%
であり、ta(μm)×C
UV(質量%)の値が0.2~6.0
であり、
前記(メタ)アクリル樹脂含有層は、
樹脂の総含有量が99.5~97質量%であり、樹脂の総含有量100質量%に対して、(メタ)アクリル樹脂(A)の含有量が94~75質量%であり、前記多層構造ゴム粒子の含有量が6~25質量%であり、(メタ)アクリル樹脂(A)及び前記多層構造ゴム粒子以外の他の重合体の含有量が5~0質量%であり、
前記ポリカーボネート含有層は、ポリカーボネート(PC)の含有量が85~100質量%であり、
下記方法で求められる耐候性試験前に対する耐候性試験後の色差ΔE値が0~5.0である、押出樹脂積層体。
促進暴露試験機に、前記(メタ)アクリル樹脂含有層が光源側となるように、前記押出樹脂積層体の試験片を設置する。照射波長295~450nm、照射強度407W/m
2、温度60℃、相対湿度50%の条件で、500時間の耐候性試験を実施する。耐候性試験前と耐候性試験後にそれぞれ、吸収スペクトルを測定し、JIS Z8781-4で定義されるL
*a
*b
*色空間の色座標L
*値、a
*値、b
*値を測定し、耐候性試験前に対する耐候性試験後の色差ΔE値を求める。
【請求項2】
ポリカーボネート(PC)を含むポリカーボネート含有層の少なくとも片面に、(メタ)アクリル樹脂(A)を含み、多層構造ゴム粒子
を含まない(メタ)アクリル樹脂含有層が積層された押出樹脂積層体であって、
(メタ)アクリル樹脂(A)は、主鎖に環構造を有さず、メタクリル酸メチル単位の含有量が90~100質量%であり、三連子表示のシンジオタクティシティ(rr)が63~99%であり、ガラス転移温度が122~130℃であり、重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)との比で定義される分子量分布(Mw/Mn)が1.05~1.87であり、
ポリカーボネート(PC)は、ガラス転移温度が135~155℃であり、
(メタ)アクリル樹脂(A)のガラス転移温度とポリカーボネート(PC)のガラス転移温度との差が20~28℃
であり、
前記(メタ)アクリル樹脂含有層が紫外線吸収剤を含み、
前記(メタ)アクリル樹脂含有層の厚みをta(μm)とし、前記(メタ)アクリル樹脂含有層中の前記紫外線吸収剤の含有量をC
UV(質量%)としたとき、C
UVが
0.5~3質量%
であり、ta(μm)×C
UV(質量%)の値が0.2~6.0
であり、
前記(メタ)アクリル樹脂含有層は、
樹脂の総含有量が99.5~97質量%であり、樹脂の総含有量100質量%に対して、(メタ)アクリル樹脂(A)の含有量が95~100質量%であり、(メタ)アクリル樹脂(A)
以外の他の重合体の含有量が5~0質量%であり、
前記ポリカーボネート含有層は、ポリカーボネート(PC)の含有量が85~100質量%であり、
下記方法で求められる耐候性試験前に対する耐候性試験後の色差ΔE値が0~5.0である、押出樹脂積層体。
促進暴露試験機に、前記(メタ)アクリル樹脂含有層が光源側となるように、前記押出樹脂積層体の試験片を設置する。照射波長295~450nm、照射強度407W/m
2、温度60℃、相対湿度50%の条件で、500時間の耐候性試験を実施する。耐候性試験前と耐候性試験後にそれぞれ、吸収スペクトルを測定し、JIS Z8781-4で定義されるL
*a
*b
*色空間の色座標L
*値、a
*値、b
*値を測定し、耐候性試験前に対する耐候性試験後の色差ΔE値を求める。
【請求項3】
(メタ)アクリル樹脂(A)は、メタクリル酸メチル単位の含有量が99質量%以上である、請求項1
又は2に記載の押出樹脂積層体。
【請求項4】
ディスプレイの保護板用であり、総厚みが0.5~3.0mmであり、前記(メタ)アクリル樹脂含有層の厚みが0.04mm以上である、
請求項1~3のいずれか1項に記載の押出樹脂積層体。
【請求項5】
レターデーションが50~210nmの範囲内である、
請求項4に記載の押出樹脂積層体。
【請求項6】
建築用であり、総厚みが3.0~12.0mmであり、前記(メタ)アクリル樹脂含有層の厚みが0.04mm以上である、
請求項1~3のいずれか1項に記載の押出樹脂積層体。
【請求項7】
加飾フィルム用であり、総厚みが0.1~0.5mmであり、前記(メタ)アクリル樹脂含有層の厚みが0.04mm以上であり、総厚みに対する前記(メタ)アクリル樹脂含有層の厚みの割合が50%以下である、
請求項1~3のいずれか1項に記載の押出樹脂積層体。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか1項に記載の押出樹脂積層体と、熱硬化性化合物又は活性エネルギー線硬化性化合物を含む硬化性組成物の硬化物からなる硬化被膜とを有する、硬化被膜付き押出樹脂積層体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、押出樹脂積層体及び硬化被膜付き押出樹脂積層体に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶ディスプレイ等のフラットパネルディスプレイ、並びに、かかるフラットパネルディスプレイとタッチパネル(タッチスクリーンとも言う)とを組み合わせたタッチパネルディスプレイは、銀行等の金融機関のATM;自動販売機;携帯電話(スマートフォンを含む)、タブレット型パーソナルコンピュータ等の携帯情報端末(PDA)、デジタルオーディオプレーヤー、携帯ゲーム機、コピー機、ファックス、及びカーナビゲーションシステム等のデジタル情報機器等に使用されている。
表面の擦傷等を防止するために、液晶ディスプレイ等のフラットパネルディスプレイ及びタッチパネル等の表面には透明な保護板が設置される。本明細書において、液晶ディスプレイ等のフラットパネルディスプレイ及びタッチパネル等の保護板は、単に「ディスプレイの保護板」又は「保護板」と略記する場合がある。従来、保護板としては強化ガラスが主に使われてきたが、加工性及び軽量化の観点から、透明樹脂板の開発が行われている。保護板には、耐擦傷性及び耐衝撃性等の機能が求められる。
【0003】
自動車等の輸送機及び建築物等の窓部材等に使用されるグレージングでは、部材の軽量化及び安全性向上を目的に、ガラスから透明樹脂板への材料の代替が進められている。本明細書では、透明樹脂板からなるグレージングを「樹脂グレージング」とも言う。近年、自動車等の輸送機等では、塗装材料の代替材料として透明樹脂製の加飾フィルムの開発が進められている。樹脂グレージング及び塗装代替材料としての加飾フィルムには、耐擦傷性、耐衝撃性、耐候性、及び加工性等が求められる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2007-185956号公報
【文献】国際公開第2011/145630号
【文献】特開2009-248416号公報
【文献】特許第5617162号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記用途において、耐熱性及び耐衝撃性に優れるポリカーボネート層と光沢、透明性、及び耐擦傷性に優れる(メタ)アクリル樹脂層とを含む樹脂積層体が検討されている。この樹脂積層体は、好ましくは共押出成形によって製造される。この場合、2種類の樹脂の特性の違いにより、得られる樹脂積層体に歪み応力が残る場合がある。樹脂積層体に残る歪み応力は「残留応力」と呼ばれ、この残留応力を有する樹脂積層体では熱変化によって反りが生じる恐れがある。
【0006】
樹脂積層体中の残留応力を減らし、反りの発生を抑制する方法として、特許文献1には、押出成形に用いられる冷却ロールの回転速度を好適化する方法が開示されている(請求項1)。特許文献2には、ポリカーボネートと積層する(メタ)アクリル樹脂として、メタクリル酸メチル(MMA)等のメタクリル酸エステルとスチレン等の芳香族ビニル単量体とを共重合した後、芳香族二重結合を水素化して得られた樹脂を用いる方法が開示されている(請求項2)。
【0007】
また、上記課題を解決すべく、(メタ)アクリル樹脂の耐熱性及び耐湿性の向上が検討されている。例えば、特許文献3には、ポリカーボネートと積層する(メタ)アクリル樹脂として、メタクリル酸メチル(MMA)単位と、メタクリル酸(MA)単位、アクリル酸(AA)単位、マレイン酸無水物単位、N-置換又は無置換マレイミド単位、グルタル酸無水物構造単位、及びグルタルイミド構造単位から選ばれる単位とを有し、ガラス転移温度(Tg)が110℃以上であるメタクリル樹脂を用いる方法が開示されている(請求項1)。しかしながら、このメタクリル樹脂は、ガラス転移温度(Tg)の範囲に120℃未満が含まれており、Tgが低く耐熱性が不充分で、樹脂積層体の反り発生を効果的に抑制できない場合がある。また、特許文献3で用いられている主鎖に環構造を有するメタクリル樹脂は紫外線を吸収しやすく、紫外線吸収剤を添加しても、良好な耐候性を得ることが難しい。
【0008】
近年、液晶ディスプレイ等のフラットパネルディスプレイでは、デザイン性の観点から、曲面加工等の形状加工が施されたディスプレイが提案されている。自動車等の輸送機及び建築物等の窓部材等に使用される樹脂グレージングにおいては、曲面加工等の形状加工が施される場合がある。自動車等の輸送機等に使用される塗装代替材料としての加飾フィルムにおいては、曲面加工等の形状加工が施されることが一般的である。曲面加工等の形状加工は、プレス成形、真空成形、及び圧空成形等の熱成形により行われる。
【0009】
樹脂積層体の曲面加工に関して、本発明の関連技術として特許文献4が挙げられる。特許文献4には、熱成形時の応力を低減し、割れ等を抑制する構成として、ポリカーボネート樹脂層の一方の面に、好ましくはアクリルゴム粒子を含むメタクリル樹脂層が積層され、ポリカーボネートのガラス転移温度(Tg)が130℃以下であり、ポリカーボネートとメタクリル樹脂とのガラス転移温度(Tg)の差が25℃未満である多層フィルムが開示されている(請求項1)。
特許文献4に記載の多層フィルムは、ポリカーボネートとメタクリル樹脂とのガラス転移温度(Tg)の差が小さいため、熱成形時の加工性は良好である。しかしながら、メタクリル樹脂とのガラス転移温度(Tg)の差を小さくするためにポリカーボネートのガラス転移温度(Tg)を低く設定しており、耐熱性の観点から好ましくない。また、一般的にポリカーボネートは耐候性に劣る傾向があるが、特許文献4は耐候性向上の手段を開示していない。したがって、特許文献4に記載の多層フィルムは、曲面加工ディスプレイの保護板、並びに、自動車等の輸送機及び建築物等の窓部材等に使用される樹脂グレージング及び塗装代替材料としての加飾フィルムとして好適な性能を有していない場合がある。
【0010】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、耐熱性及び耐衝撃性に優れるポリカーボネート含有層と光沢、透明性、及び耐擦傷性に優れる(メタ)アクリル樹脂含有層とを含み、(メタ)アクリル樹脂含有層の耐熱性が向上され、高温高湿環境に曝されても反りの発生が抑制され、熱成形加工性に優れる押出樹脂積層体を提供することを目的とする。
本発明はまた、耐熱性及び耐衝撃性に優れるポリカーボネート含有層と光沢、透明性、及び耐擦傷性に優れる(メタ)アクリル樹脂含有層とを含み、(メタ)アクリル樹脂含有層の耐熱性が向上され、高温高湿環境に曝されても反りの発生が抑制され、熱成形加工性に優れ、さらに好ましくは耐候性に優れる押出樹脂積層体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、以下の[1]~[13]の押出樹脂積層体及び硬化被膜付き押出樹脂積層体を提供する。
[1] ポリカーボネート含有層の少なくとも片面に、三連子表示のシンジオタクティシティ(rr)が56%以上である(メタ)アクリル樹脂(A)を含有する(メタ)アクリル樹脂含有層が積層された、押出樹脂積層体。
[2] 前記ポリカーボネート含有層に含まれるポリカーボネートのガラス転移温度と(メタ)アクリル樹脂(A)のガラス転移温度との差が28℃以下である、[1]の押出樹脂積層体。
[3] (メタ)アクリル樹脂(A)は、メタクリル酸メチル単位の含有量が90質量%以上であり、ガラス転移温度が122℃以上である、[1]又は[2]の押出樹脂積層体。
[4] (メタ)アクリル樹脂(A)は、メタクリル酸メチル単位の含有量が99質量%以上である、[1]~[3]のいずれかの押出樹脂積層体。
【0012】
[5] 前記(メタ)アクリル樹脂含有層が紫外線吸収剤を含む、[1]~[4]のいずれかの押出樹脂積層体。
[6] 前記(メタ)アクリル樹脂含有層の厚みをta(μm)とし、前記(メタ)アクリル樹脂含有層中の紫外線吸収剤の含有量をCUV(質量%)としたとき、CUVが3質量%以下であり、ta(μm)×CUV(質量%)の値が0.20以上である、[1]~[5]のいずれかの押出樹脂積層体。
【0013】
[7] 前記(メタ)アクリル樹脂含有層が多層構造ゴム粒子を含む、[1]~[6]のいずれかの押出樹脂積層体。
[8] 前記(メタ)アクリル樹脂含有層中の多層構造ゴム粒子の含有量が6~25質量%である、[7]の押出樹脂積層体。
【0014】
[9] ディスプレイの保護板用であり、総厚みが0.5~3.0mmであり、前記(メタ)アクリル樹脂含有層の厚みが0.04mm以上である、[1]~[8]のいずれかの押出樹脂積層体。
[10] レターデーションが50~210nmの範囲内である、[9]の押出樹脂積層体。
【0015】
[11] 建築用であり、総厚みが3.0~12.0mmであり、前記(メタ)アクリル樹脂含有層の厚みが0.04mm以上である、[1]~[8]のいずれかの押出樹脂積層体。
[12] 加飾フィルム用であり、総厚みが0.1~0.5mmであり、前記(メタ)アクリル樹脂含有層の厚みが0.04mm以上であり、総厚みに対する前記(メタ)アクリル樹脂含有層の厚みの割合が50%以下である、[1]~[8]のいずれかの押出樹脂積層体。
【0016】
[13] [1]~[12]のいずれかの押出樹脂積層体と硬化被膜とを有する、硬化被膜付き押出樹脂積層体。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、耐熱性及び耐衝撃性に優れるポリカーボネート含有層と光沢、透明性、及び耐擦傷性に優れる(メタ)アクリル樹脂含有層とを含み、(メタ)アクリル樹脂含有層の耐熱性が向上され、高温高湿環境に曝されても反りの発生が抑制され、熱成形加工性に優れる押出樹脂積層体を提供することができる。
本発明によればまた、耐熱性及び耐衝撃性に優れるポリカーボネート含有層と光沢、透明性、及び耐擦傷性に優れる(メタ)アクリル樹脂含有層とを含み、(メタ)アクリル樹脂含有層の耐熱性が向上され、高温高湿環境に曝されても反りの発生が抑制され、熱成形加工性に優れ、さらに好ましくは耐候性に優れる押出樹脂積層体を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本発明に係る第1実施形態の押出樹脂積層体の模式断面図である。
【
図2】本発明に係る第2実施形態の押出樹脂積層体の模式断面図である。
【
図3】本発明に係る一実施形態の押出樹脂積層体の製造装置の模式図である。
【
図4】本発明に係る樹脂グレージング用の押出樹脂積層体の落球試験の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
[押出樹脂積層体]
本発明は、押出樹脂板及び押出樹脂フィルム等の押出樹脂積層体に関する。本発明の押出樹脂積層体の第1の形態である押出樹脂板は、液晶ディスプレイ等のフラットパネルディスプレイ及びタッチパネル等の保護板、並びに、自動車等の輸送機及び建築物等の窓部材等に使用される樹脂グレージング等として好適である。本発明の押出樹脂積層体の第2の形態である押出樹脂フィルムは、自動車等の輸送機等に用いられる塗装代替材料としての加飾フィルム等として好適である。
一般的に、薄膜成形体に対しては、厚みに応じて、「フィルム」、「シート」、又は「板」の用語が使用されるが、これらの間に明確な区別はない。本明細書では、便宜上、0.5mm以下の薄膜成形体に対して「フィルム」の用語を使用し、0.5mm以上の薄膜成形体に対して「板」の用語を使用している。
【0020】
本発明の押出樹脂積層体は、ポリカーボネート(PC)を含有する層(ポリカーボネート含有層)の少なくとも片面に、三連子表示のシンジオタクティシティ(rr)が56%以上である(メタ)アクリル樹脂(A)を含有する層((メタ)アクリル樹脂含有層)が積層されたものである。本明細書において、「(メタ)アクリル」はアクリル及びメタクリルの総称である。
ポリカーボネート(PC)は耐熱性及び耐衝撃性に優れ、(メタ)アクリル樹脂(A)は光沢、透明性、及び耐擦傷性に優れる。したがって、これら樹脂を積層した本発明の押出樹脂積層体は、光沢、透明性、耐熱性、耐衝撃性、及び耐擦傷性に優れる。また、本発明の押出樹脂積層体は押出成形法で製造されたものであるため、生産性に優れる。
【0021】
((メタ)アクリル樹脂含有層)
<(メタ)アクリル樹脂(A)>
(メタ)アクリル樹脂含有層は、三連子表示のシンジオタクティシティ(rr)(以下、単に「シンジオタクティシティ(rr)」又は「rr比率」と略記する場合がある。)が56%以上である(メタ)アクリル樹脂(A)を含むアクリル樹脂組成物からなる。
【0022】
rr比率が56%以上である(メタ)アクリル樹脂(A)は、rr比率が56%以上である1種の(メタ)アクリル樹脂単独でもよいし、rr比率の異なる複数種の(メタ)アクリル樹脂からなり、全体のrr比率が56%以上である複数種の(メタ)アクリル樹脂の混合物でもよい。
(メタ)アクリル樹脂(A)が複数種の(メタ)アクリル樹脂の混合物である場合、rr比率以外の各種特性(Tg、Mw、Mw/Mn、MFR、曲げ弾性率等)についても、混合物全体が(メタ)アクリル樹脂(A)として好適な特性を有していればよい。
【0023】
rr比率が56%以上である(メタ)アクリル樹脂(A)は、一般的な(メタ)アクリル樹脂よりもガラス転移温度(Tg)が高く、耐熱性が高い。本明細書では、(メタ)アクリル樹脂(A)のガラス転移温度をTg(A)と表し、ポリカーボネート(PC)のガラス転移温度をTg(PC)と表す。本明細書において、特に明記しない限り、ガラス転移温度は[実施例]の項に記載の方法にて求めるものとする。
Tg(A)向上の観点から、(メタ)アクリル樹脂(A)のrr比率は56%以上であり、好ましくは63%以上、より好ましくは65%以上である。(メタ)アクリル樹脂(A)のrr比率の上限は特に制限されず、成形加工性及び表面硬度の観点から、好ましくは99%、より好ましくは95%、特に好ましくは90%、最も好ましくは85%である。
Tg(A)は、好ましくは122℃以上、より好ましくは125℃以上、特に好ましくは127℃以上である。Tg(A)の上限は、通常130℃である。Tg(A)は、分子量及びrr比率等を調節することによって制御することができる。
【0024】
一般的な(メタ)アクリル樹脂はガラス転移温度(Tg)が比較的低く、ポリカーボネート(PC)とのガラス転移温度(Tg)の差が比較的大きいが、rr比率が56%以上である(メタ)アクリル樹脂(A)はガラス転移温度(Tg)が比較的高く、ポリカーボネートとのガラス転移温度(Tg)の差が比較的小さい。そのため、本発明の押出樹脂積層体は外部環境温度の影響を受けにくく、高温高湿環境に曝されても、反り発生が抑制される。また、押出樹脂積層体の熱成形加工がしやすく、熱成形加工後に得られる二次成形品の表面性を良好とすることができる。また、本発明の押出樹脂積層体上に硬化被膜を形成する場合、より高温で硬化を行うことができるため、硬化被膜の表面硬度を高め、押出樹脂積層体との密着性を高めることができる。
ポリカーボネート(PC)のガラス転移温度(Tg(PC))と(メタ)アクリル樹脂(A)のガラス転移温度(Tg(A))との差は、好ましくは28℃以下、より好ましくは26℃以下である。
【0025】
三連子表示のシンジオタクティシティ(rr)は、連続する3つの構造単位の連鎖(3連子、triad)中に在る2つの連鎖(2連子、diad)が、ともにラセモ(rrと表記する)である割合である。なお、ポリマー分子中の構造単位の連鎖(2連子、diad)において立体配置が同じものをメソ(meso)、逆のものをラセモ(racemo)と称し、それぞれm、rと表記する。本明細書において、特に明記しない限り、三連子表示のシンジオタクティシティ(rr)は、重水素化クロロホルム中、30℃で、1H-NMRスペクトルを測定し、そのスペクトルからTMSを0ppmとした際の、0.6~0.95ppmの領域の面積(X)と0.6~1.35ppmの領域の面積(Y)とを計測し、式:(X/Y)×100にて算出した値である。
【0026】
(メタ)アクリル樹脂(A)の重量平均分子量(Mw)は特に制限されず、好ましくは30000~200000、より好ましくは50000~150000、特に好ましくは60000~120000である。rr比率が56%以上である(メタ)アクリル樹脂(A)のMwが30000~200000である場合、(メタ)アクリル樹脂含有層が成形しやすくなり、得られる押出樹脂積層体は強度が高く割れ難くなる。
(メタ)アクリル樹脂(A)の分子量分布(重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)との比、Mw/Mn)は特に制限されず、好ましくは1.01~5.0、より好ましくは1.05~3.5である。本明細書において、特に明記しない限り、Mw及びMnは、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)を用いて測定される標準ポリスチレン換算値である。
【0027】
(メタ)アクリル樹脂(A)のメルトフローレート(MFR)は、好ましくは0.1~20g/10分、より好ましくは0.5~15g/10分、特に好ましくは1.0~10g/10分である。本明細書において、特に明記しない限り、(メタ)アクリル樹脂(A)のMFRは、JIS K7210に準拠して、メルトインデクサーを用いて、温度230℃、3.8kg荷重下で測定される値である。
【0028】
(メタ)アクリル樹脂(A)の曲げ弾性率は特に制限されず、好ましくは3200MPa以下、より好ましくは3150MPa以下、特に好ましくは3100MPa以下、最も好ましくは3000MPa以下である。曲げ弾性率は、JIS K7171に準拠して測定することができる。
【0029】
(メタ)アクリル樹脂(A)は、1種のメタクリル樹脂単独又は複数種のメタクリル樹脂の混合物であることが好ましい。メタクリル樹脂は、メタクリル酸メチル(MMA)を含む単独重合体又は共重合体である。メタクリル樹脂中のMMA単位の含有量は特に制限されず、耐熱性向上の観点から、好ましくは90質量%以上、より好ましくは93質量%以上、さらに好ましくは95質量%以上、さらに好ましくは98質量%以上、特に好ましくは99質量%以上、最も好ましくは100質量%である。
【0030】
メタクリル樹脂は、MMA以外の1種以上の他の単量体に由来する構造単位を含んでいてもよい。他の単量体としては、一分子中に重合性の炭素-炭素二重結合を一つだけ有するビニル系単量体が挙げられる。具体的には、メタクリル酸エチル、メタクリル酸シクロヘキシル、メタクリル酸t-ブチル、メタクリル酸イソボルニル、メタクリル酸8-トリシクロ〔5.2.1.02,6〕デカニル、及びメタクリル酸4-t-ブチルシクロヘキシル等のMMA以外のメタクリル酸アルキルエステル;アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸プロピル、アクリル酸ブチル、及びアクリル酸2-エチルへキシル等のアクリル酸アルキルエステル;アクリル酸フェニル等のアクリル酸アリールエステル;アクリル酸シクロへキシル、及びアクリル酸ノルボルネニル等のアクリル酸シクロアルキルエステル;(メタ)アクリルアミド;(メタ)アクリロニトリル等が挙げられる。
【0031】
(メタ)アクリル樹脂(A)を構成する1種又は2種以上の(メタ)アクリル樹脂(好ましくはメタクリル樹脂)は、公知の重合方法によって製造することができる。(メタ)アクリル樹脂の各種特性(Tg、Mw、Mw/Mn、MFR、曲げ弾性率等)は、重合温度、重合時間、連鎖移動剤の種類及び量、重合開始剤の種類及び量等の重合条件を調整することによって、調整することができる。特性の異なる複数種の(メタ)アクリル樹脂を組み合わせて、所望の特性を有する(メタ)アクリル樹脂(A)を得るようにしてもよい。
【0032】
(メタ)アクリル樹脂の重合法としては、ラジカル重合法及びアニオン重合法等が挙げられる。ラジカル重合法においては、懸濁重合法、塊状重合法、溶液重合法、及び乳化重合法等の重合手法を採用することができる。中でも、生産性及び耐熱分解性の観点から、懸濁重合法及び塊状重合法が好ましい。アニオン重合法においては、塊状重合法及び溶液重合法等の重合手法を採用することができ、これら重合手法ではrr比率の高い(メタ)アクリル樹脂(A)を得ることができる。
【0033】
<多層構造ゴム粒子(RP)>
(メタ)アクリル樹脂(A)は光沢、透明性、及び表面硬度等に優れるが、耐衝撃性が不充分な場合がある。(メタ)アクリル樹脂(A)に多層構造ゴム粒子(RP)を添加することで、(メタ)アクリル樹脂含有層の耐衝撃性を向上することができる。例えば、樹脂グレージング用の押出樹脂板の耐衝撃性を向上することができる。例えば、塗装代替材料としての加飾フィルム用の押出樹脂フィルムの熱成形時又はハンドリング時の割れを抑制することができる。
アクリル樹脂組成物中の多層構造ゴム粒子(RP)の濃度が高くなる程、靭性が相対的に高くなる一方、表面硬度が相対的に低下する傾向がある。表面硬度と耐衝撃性のバランスの観点から、アクリル樹脂組成物において、(メタ)アクリル樹脂(A)の含有量は好ましくは94~75質量%、より好ましくは92~80質量%であり、特に好ましくは92~88質量%であり、多層構造ゴム粒子(RP)の含有量(CRP)は好ましくは6~25質量%、より好ましくは8~20質量%、特に好ましくは8~12質量%ある。
【0034】
多層構造ゴム粒子(RP)としては、1種以上のアクリル酸アルキルエステル共重合体を含む1層以上のグラフト共重合体層を含むアクリル系多層構造ゴム粒子が好ましい。かかるアクリル系多層構造ゴム粒子としては、特開2004-352837号公報等に開示のものを使用できる。アクリル系多層構造ゴム粒子は好ましくは、炭素数6~12のアクリル酸アルキルエステル単位を含む架橋重合体層を含むことができる。多層構造ゴム粒子(RP)の層数は特に制限されず、2層でも3層以上でもよい。好ましくは、多層構造ゴム粒子(RP)は、最内層(RP-a)と1層以上の中間層(RP-b)と最外層(RP-c)とを含む3層以上のコアシェル多層構造粒子である。
【0035】
最内層(RP-a)の構成重合体は、MMA単位とグラフト性又は架橋性単量体単位とを含み、さらに必要に応じて1種以上の他の単量体単位を含むことができる。最内層(RP-a)の構成重合体中のMMA単位の含有量は、好ましくは80~99.99質量%、より好ましくは85~99質量%、特に好ましくは90~98質量%である。3層以上の多層構造粒子(RP)中の最内層(RP-a)の割合は、好ましくは0~15質量%、より好ましくは7~13質量%である。最内層(RP-a)の割合がかかる範囲内にあることで、(メタ)アクリル樹脂含有層の耐熱性を高めることができる。
【0036】
中間層(RP-b)の構成重合体は、炭素数6~12のアクリル酸アルキルエステル単位とグラフト性又は架橋性単量体単位とを含み、さらに必要に応じて1種以上の他の単量体単位を含むことができる。中間層(RP-b)の構成重合体中のアクリル酸アルキルエステル単位の含有量は、好ましくは70~99.8質量%、より好ましくは75~90質量%、特に好ましくは78~86質量%である。3層以上の多層構造ゴム粒子(RP)中の中間層(RP-b)の割合は、好ましくは40~60質量%、より好ましくは45~55質量%である。中間層(RP-b)の割合がかかる範囲内であることで、(メタ)アクリル樹脂含有層の表面硬度を高め、(メタ)アクリル樹脂含有層を割れ難くすることができる。
【0037】
最外層(RP-c)の構成重合体は、MMA単位を含み、さらに必要に応じて1種以上の他の単量体単位を含むことができる。最外層(RP-c)の構成重合体中のMMA単位の含有量は、好ましくは80~100質量%、より好ましくは85~100質量%、特に好ましくは90~100質量%である。3層以上の多層構造粒子(RP)中の最外層(RP-c)の割合は、好ましくは35~50質量%、より好ましくは37~45質量%である。最外層(RP-c)の割合がかかる範囲内であることで、(メタ)アクリル樹脂含有層の表面硬度を高め、(メタ)アクリル樹脂含有層を割れ難くすることができる。
【0038】
多層構造ゴム粒子(RP)の粒子怪は特に制限されず、好ましくは0.05~0.3μm、より好ましくは0.08~0.25μm、特に好ましくは0.08~0.13μmである。粒子径は、電子顕微鏡観察及び動的光散乱測定等の公知方法により測定することができる。電子顕微鏡観察による測定は例えば、電子染色法により多層構造ゴム粒子(RP)の特定の層を選択的に染色し、透過型電子顕微鏡(TEM)又は走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて複数の粒子の粒子径を実測し、それらの平均値を求めることによって行うことができる。動的光散乱法は、粒子径が大きくなる程、粒子のブラウン運動が大きくなるという原理を利用する測定法である。
【0039】
多層構造ゴム粒子(RP)は、多層構造ゴム粒子(RP)同士の膠着による取り扱い性の低下、及び、溶融混練時の分散不良による耐衝撃性の低下を抑制するため、多層構造ゴム粒子(RP)と分散用粒子(D)とを含むラテックス又は粉体の形態で用いることができる。分散用粒子(D)は例えば、MMAを主とする1種以上の単量体の(共)重合体からなり、多層構造ゴム粒子(RP)よりも相対的に粒子径の小さい粒子を用いることができる。
【0040】
分散用粒子(D)の粒子径は、分散性向上の観点から、できるだけ小さいことが好ましく、乳化重合法による製造再現性の観点から、好ましくは40~120nm、より好ましくは50~100nmである。分散用粒子(D)の添加量は、分散性向上効果の観点から、多層構造ゴム粒子(RP)と分散用粒子(D)との合計量に対して、好ましくは10~50質量%、より好ましくは20~40質量%である。
【0041】
<他の重合体、添加剤>
(メタ)アクリル樹脂含有層は必要に応じて、(メタ)アクリル樹脂以外の1種以上の他の重合体及び/又は各種添加剤を含むことができる。
他の重合体としては特に制限されず、ポリエチレン及びポリプロピレン等のポリオレフィン、ポリアミド、ポリフェニレンサルファイド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエステル、ポリスルホン、ポリフェニレンオキサイド、ポリイミド、ポリエーテルイミド、フッ素樹脂、及びポリアセタール等の他の熱可塑性樹脂;シリコーン樹脂等が挙げられる。(メタ)アクリル樹脂含有層中の他の重合体の含有量は、好ましくは10質量%以下、より好ましくは5質量%以下、特に好ましくは2質量%以下である。
添加剤としては、着色剤、酸化防止剤、安定剤、紫外線吸収剤、滑剤、加工助剤、帯電防止剤、耐衝撃助剤、発泡剤、充填剤、及び艶消し剤等が挙げられる。
(メタ)アクリル樹脂含有層に他の重合体及び/又は添加剤を添加させる場合、添加タイミングは、(メタ)アクリル樹脂の重合時でも重合後でもよく、複数種の(メタ)アクリル樹脂の混合時でもよい。
【0042】
耐候性の劣るポリカーボネート含有層を紫外線から保護し、押出樹脂積層体の耐候性を高められることから、rr比率が56%以上である(メタ)アクリル樹脂(A)は主鎖に環構造を含まず、さらに(メタ)アクリル樹脂含有層に紫外線吸収剤を添加することが好ましい。
[背景技術]の項で挙げた特許文献3において、耐熱性を有する(メタ)アクリル樹脂として用いられている主鎖に環構造を有するメタクリル樹脂は紫外線を吸収しやすく、紫外線吸収剤を添加しても、良好な耐候性を得ることが難しい。本発明では、耐熱性を有する(メタ)アクリル樹脂としてrr比率が56%以上である(メタ)アクリル樹脂(A)を用いる。rr比率が56%以上である(メタ)アクリル樹脂(A)は主鎖に環構造を有しなくても、高Tgを有することができる。そのため、(メタ)アクリル樹脂(A)の耐候性は一般的な(メタ)アクリル樹脂と同等レベルであり、(メタ)アクリル樹脂含有層に紫外線吸収剤を添加することで、良好な耐候性を有する押出樹脂積層体を実現することができる。
【0043】
(メタ)アクリル樹脂含有層の紫外線吸収性能は、(メタ)アクリル樹脂含有層の厚みと(メタ)アクリル樹脂含有層中の紫外線吸収剤の含有量によって調整することができる。
(メタ)アクリル樹脂含有層の紫外線吸収性能が充分に高く、ポリカーボネート(PC)の紫外線による劣化が充分に抑制され、耐候性が良好な押出樹脂積層体が得られることから、本発明の押出樹脂積層体は、(メタ)アクリル樹脂含有層の厚みをta(μm)とし、(メタ)アクリル樹脂含有層中の紫外線吸収剤の含有量をCUV(質量%)としたとき、C
UV
が0.5質量%以上であり、ta(μm)×CUV(質量%)の値が0.20以上であることが好ましい。ta(μm)×CUV(質量%)の値は、より好ましくは0.40以上、特に好ましくは1.0以上である。
押出成形工程中に紫外線吸収剤がブリードアウトして冷却ロールの表面が汚染され、押出樹脂積層体の表面外観が悪化することを抑制する観点から、CUVは好ましくは3質量%以下、より好ましくは2質量%以下、特に好ましくは1質量%以下である。
(メタ)アクリル樹脂含有層は、樹脂の総含有量が99.5~97質量%であることができる。
【0044】
紫外線吸収剤は、紫外線を吸収する能力を有する化合物である。紫外線吸収剤は、主に光エネルギーを熱エネルギーに変換する機能を有すると言われる化合物である。紫外線吸収剤としては、ベンゾフェノン類、ベンゾトリアゾール類、トリアジン類、ベンゾエート類、サリシレート類、シアノアクリレート類、蓚酸アニリド類、マロン酸エステル類、及びホルムアミジン類等が挙げられる。これらは1種または2種以上用いることができる。中でも、ベンゾトリアゾール類、トリアジン類、及び波長380~450nmにおけるモル吸光係数の最大値εmaxが1200dm3・mol-1cm-1以下である紫外線吸収剤が好ましい。これら紫外線吸収剤の中でも、紫外線による樹脂劣化が抑えられるという観点からベンゾトリアゾール類が好ましく用いられる。
【0045】
ベンゾトリアゾール類としては、2-(2H-ベンゾトリアゾール-2-イル)-4-(1,1,3,3-テトラメチルブチル)フェノール(BASF社製;商品名TINUVIN329)、2-(2H-ベンゾトリアゾール-2-イル)-4,6-ビス(1-メチル-1-フェニルエチル)フェノール(BASF社製;商品名TINUVIN234)、2,2’-メチレンビス[6-(2H-ベンゾトリアゾール-2-イル)-4-tert-オクチルフェノール](ADEKA社製;商品名LA-31)、及び2-(5-オクチルチオ-2H-ベンゾトリアゾール-2-イル)-6-tert-ブチル-4-メチルフェノール等が好ましい。
【0046】
波長380~450nmにおけるモル吸光係数の最大値εmaxが1200dm3・mol-1cm-1以下である紫外線吸収剤は、押出樹脂積層体又はその二次成形品の黄色味を抑制できる。このような紫外線吸収剤としては、2-エチル-2’-エトキシ-オキサルアニリド(クラリアントジャパン社製;商品名サンデュボアVSU)等が挙げられる。
【0047】
波長380nm以下の短波長を効率的に吸収したい場合は、トリアジン類の紫外線吸収剤が好ましく用いられる。このような紫外線吸収剤としては、2,4,6-トリス(2-ヒドロキシ-4-ヘキシルオキシ-3-メチルフェニル)-1,3,5-トリアジン(ADEKA社製;商品名LA-F70)、その類縁体であるヒドロキシフェニルトリアジン系紫外線吸収剤(BASF社製;商品名TINUVIN477、TINUVIN460、TINUVIN479等)、及び2,4-ジフェニル-6-(2-ヒドロキシ-4-ヘキシルオキシフェニル)-1,3,5-トリアジン等が挙げられる。
【0048】
(ポリカーボネート含有層)
ポリカーボネート含有層は、1種以上のポリカーボネート(PC)を含む。ポリカーボネート(PC)は、好ましくは1種以上の二価フェノールと1種以上のカーボネート前駆体とを共重合して得られる。製造方法としては、二価フェノールの水溶液とカーボネート前駆体の有機溶媒溶液とを界面で反応させる界面重合法、及び、二価フェノールとカーボネート前駆体とを高温、減圧、無溶媒条件下で反応させるエステル交換法等が挙げられる。
【0049】
二価フェノールとしては、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン(通称ビスフェノールA)、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)エタン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、2,2-ビス(3-メチル-4-ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(3,5-ジメチル-4-ヒドロキシフェニル)プロパン、ビス(4-ヒドロキシフェニル)サルファイド、及びビス(4-ヒドロキシフェニル)スルホン等が挙げられ、中でもビスフェノールAが好ましい。カーボネート前駆体としては、ホスゲン等のカルボニルハライド;ジフェニルカーボネート等のカーボネートエステル;二価フェノールのジハロホルメート等のハロホルメート;等が挙げられる。
【0050】
ポリカーボネート(PC)の重量平均分子量(Mw)は特に制限されず、好ましくは10,000~100,000、より好ましくは20,000~70,000である。Mwが10,000以上であることでポリカーボネート含有層は耐衝撃性及び耐熱性に優れるものとなり、Mwが100,000以下であることでポリカーボネート含有層は成形性に優れるものとなる。
【0051】
ポリカーボネート(PC)は市販品を用いてもよい。住化スタイロンポリカーボネート株式会社製「カリバー(登録商標)」及び「SDポリカ(登録商標)」、三菱エンジニアリングプラスチック株式会社製「ユーピロン/ノバレックス(登録商標)」、出光興産株式会社製「タフロン(登録商標)」、及び帝人化成株式会社製「パンライト(登録商標)」等が挙げられる。
【0052】
ポリカーボネート含有層は必要に応じて、1種以上の他の重合体及び/又は各種添加剤を含むことができる。他の重合体及び各種添加剤としては、(メタ)アクリル樹脂含有層の説明において上述したものと同様のものを用いることができる。ポリカーボネート含有層中の他の重合体の含有量は、好ましくは15質量%以下、より好ましくは10質量%以下、特に好ましくは5質量%以下である。添加剤の含有量は本発明の効果を損なわない範囲で適宜設定できる。ポリカーボネート(PC)100質量部に対して、酸化防止剤の含有量は0.01~1質量部、紫外線吸収剤の含有量は0.01~3質量部、光安定剤の含有量は0.01~3質量部、滑剤の含有量は0.01~3質量部、染料・顔料の含有量は0.01~3質量部が好ましい。
ポリカーボネート(PC)に他の重合体及び/又は添加剤を添加させる場合、添加タイミングは、ポリカーボネート(PC)の重合時時でも重合後でもよい。
【0053】
ポリカーボネート(PC)のガラス転移温度(Tg(PC))は、好ましくは120~160℃、より好ましくは135~155℃、特に好ましくは140~150℃である。
加熱溶融成形の安定性の観点から、ポリカーボネート含有層の構成樹脂のMFRは、好ましくは1~30g/10分、より好ましくは3~20g/10分、特に好ましくは5~10g/10分である。本明細書において、ポリカーボネート含有層の構成樹脂のMFRは、特に明記しない限り、メルトインデクサーを用いて、温度300℃、1.2kg荷重下の条件で測定される値である。
【0054】
(押出樹脂積層体の総厚みと(メタ)アクリル樹脂含有層の厚み)
本発明の押出樹脂積層体の総厚み(t)は、用途に応じて適宜設計することができる。
液晶ディスプレイ等のフラットパネル及びタッチパネルディスプレイ等のディスプレイの保護板等の用途では、総厚み(t)が好ましくは0.5~3.0mm、より好ましくは0.8~2.5mmである押出樹脂板が好ましい。総厚み(t)が薄すぎると剛性が不充分となる恐れがあり、厚すぎると液晶ディスプレイ等のフラットパネル及びタッチパネルディスプレイ等の軽量化の妨げになる恐れがある。
自動車等の輸送機等に使用される樹脂グレージングの用途では、総厚み(t)が好ましくは3.0~8.0mm、より好ましくは4.0~6.0mmである押出樹脂板が好ましい。総厚み(t)が薄すぎると剛性が不充分となる恐れがあり、厚すぎると自動車等の輸送機の軽量化の妨げになる恐れがある。
建築物の窓部材等に使用される樹脂グレージングの用途(建築用)では、総厚み(t)が好ましくは3.0~12.0mm、より好ましくは3.0~8.0mm、特に好ましくは4.0~6.0mmである押出樹脂板が好ましい。総厚み(t)が薄すぎると剛性が不充分となる恐れがあり、厚すぎると建築物の窓部材等の軽量化の妨げになる恐れがある。
自動車等の輸送機等に用いられる塗装代替材料としての加飾フィルムの用途では、総厚み(t)が好ましくは0.1~0.5mm、より好ましくは0.2~0.4mmである押出樹脂フィルムが好ましい。総厚み(t)が薄すぎても厚すぎても、熱成形時に割れが生じるなど、熱成形加工性が不充分となる場合がある。
【0055】
(メタ)アクリル樹脂含有層の厚み(ta)は上記いずれの用途においても、好ましくは0.04mm以上、より好ましくは0.04~0.20mm、特に好ましくは0.05~0.15mm、最も好ましくは0.06~0.10mmである。taは、薄すぎると耐擦傷性が劣り、厚すぎると衝撃性が劣る恐れがある。
自動車等の輸送機等に用いられる塗装代替材料としての加飾フィルム等の用途では、耐衝撃性等の観点から、押出樹脂積層体の総厚み(t)に対する(メタ)アクリル樹脂含有層の厚み(2つの(メタ)アクリル樹脂含有層がある場合は、これらの合計厚み)の割合が50%以下であることが好ましく、耐衝撃性と耐擦傷性のバランスの観点から、5~50%であることがより好ましい。
【0056】
(面内のレターデーション値(Re))
一般的に、押出樹脂積層体では成形時に応力が発生し、それにより分子が配向してレターデーションが発生する場合がある。「レターデーション」とは、分子主鎖方向の光とそれに垂直な方向の光との位相差である。一般的に高分子は加熱溶融成形されることで任意の形状を得ることができるが、加熱及び冷却の過程において発生する応力によって分子が配向してレターデーションが発生することが知られている。押出成形条件を好適化することにより分子の配向を制御し、これによって、押出樹脂積層体の面内のレターデーション値(Re)を好適化することができる。
液晶ディスプレイ等のフラットパネル及びタッチパネルディスプレイ等のディスプレイの保護板等の用途では、押出樹脂積層体の面内のレターデーション値(Re)が50~210nmであることが好ましく、80~200nmであることがより好ましい。
なお、本明細書において、「レターデーション」は特に明記しない限り、面内のレターデーションを示すものとする。
【0057】
(積層構造)
本発明の押出樹脂積層体は、ポリカーボネート含有層の少なくとも片面に(メタ)アクリル樹脂含有層が積層されていれば、他の樹脂層を有していてもよい。本発明の押出樹脂積層体の積層構造としては、ポリカーボネート含有層-(メタ)アクリル樹脂含有層の2層構造;(メタ)アクリル樹脂含有層-ポリカーボネート含有層-(メタ)アクリル樹脂含有層の3層構造;(メタ)アクリル樹脂含有層-ポリカーボネート含有層-他の樹脂層の3層構造;他の樹脂層-(メタ)アクリル樹脂含有層-ポリカーボネート含有層の3層構造;等が挙げられる。
【0058】
図1、
図2は、本発明に係る第1、第2実施形態の押出樹脂積層体の模式断面図である。図中、符号16X、16Yは押出樹脂積層体、符号21はポリカーボネート含有層、符号22、22A、22Bは(メタ)アクリル樹脂含有層を示す。第1実施形態の押出樹脂積層体16Xは、ポリカーボネート含有層21-(メタ)アクリル樹脂含有層22の2層構造を有している。第2実施形態の押出樹脂積層体16Yは、第1の(メタ)アクリル樹脂含有層22A-ポリカーボネート含有層21-第2の(メタ)アクリル樹脂含有層22Bの3層構造を有している。なお、押出樹脂積層体の構成は、適宜設計変更が可能である。
【0059】
本発明の押出樹脂積層体には、その少なくとも一方の面に硬化被膜を設けてもよい。硬化被膜を設けることで耐擦傷性及び低反射性等の機能を付与することができる。硬化被膜は公知方法にて形成することができる(特開2004-299199号公報及び特開2006-103169号公報等を参照されたい。)。
耐擦傷性(ハードコート性)硬化被膜の厚みは、好ましくは2~30μm、より好ましくは5~20μmである。薄すぎると表面硬度が不充分となり、厚すぎると製造工程中の折り曲げによりクラックが発生する可能性がある。
低反射性硬化被膜の厚みは、好ましくは80~200nm、より好ましくは100~150nmである。薄すぎても厚すぎても低反射性能が不充分となるためである。
硬化被膜の具体的な形成方法については後記する。
【0060】
[押出樹脂積層体の製造方法]
以下、上記構成の本発明の押出樹脂積層体の製造方法の好ましい態様について、説明する。本発明の押出樹脂積層体は公知方法により製造することができ、好ましくは共押出成形を含む製造方法により製造される。
(工程(X))
ポリカーボネート含有層及び(メタ)アクリル樹脂含有層の構成樹脂はそれぞれ加熱溶融され、ポリカーボネート含有層の少なくとも一方の面に(メタ)アクリル樹脂含有層が積層された熱可塑性樹脂積層体の状態で、幅広の吐出口を有するTダイから溶融状態で共押出される。
【0061】
ポリカーボネート含有層用及び(メタ)アクリル樹脂含有層用の溶融樹脂は、積層前にフィルタにより溶融濾過することが好ましい。溶融濾過した各溶融樹脂を用いて多層成形することにより、異物及びゲルに起因する欠点の少ない押出樹脂積層体が得られる。フィルタの濾材は、使用温度、粘度、及び濾過精度等により適宜選択される。例えばグラスファイバー等からなる不織布;フェノール樹脂含浸セルロース製のシート状物;金属繊維不織布焼結シート状物;金属粉末焼結シート状物;金網;及びこれらの組合せ等が挙げられる。中でも耐熱性及び耐久性の観点から、金属繊維不織布焼結シート状物を複数枚積層したフィルタが好ましい。フィルタの濾過精度は特に制限されず、好ましくは30μm以下、より好ましくは15μm以下、特に好ましくは5μm以下である。
積層方式としては、Tダイ流入前に積層するフィードブロック方式、及びTダイ内部で積層するマルチマニホールド方式等が挙げられる。押出樹脂積層体の層間の界面平滑性を高める観点から、マルチマニホールド方式が好ましい。
【0062】
Tダイから共押出された溶融状態の熱可塑性樹脂積層体は、複数の冷却ロールを用いて冷却される。好ましくは、互いに隣接する3つ以上の冷却ロールを用い、溶融状態の熱可塑性樹脂積層体を、第n番目(但し、n≧1)の冷却ロールと第n+1番目の冷却ロールとの間に挟み込み、第n+1番目の冷却ロールに巻き掛ける操作をn=1から複数回繰り返すことにより冷却する。例えば、3つの冷却ロールを用いる場合、繰り返し回数は2回である。
【0063】
冷却ロールとしては、金属ロール及び外周部に金属製薄膜を備えた弾性ロール(以下、金属弾性ロールとも言う)等が挙げられる。金属ロールとしては、ドリルドロール及びスパイラルロール等が挙げられる。金属ロールの表面は、鏡面であってもよいし、模様又は凹凸等を有していてもよい。金属弾性ロールは例えば、ステンレス鋼等からなる軸ロールと、この軸ロールの外周面を覆うステンレス鋼等からなる金属製薄膜と、これら軸ロール及び金属製薄膜の間に封入された流体とからなり、流体の存在により弾性を示すことができる。金属製薄膜の厚みは好ましくは2~5mm程度である。金属製薄膜は、屈曲性及び可撓性等を有することが好ましく、溶接継ぎ部のないシームレス構造であるのが好ましい。このような金属製薄膜を備えた金属弾性ロールは、耐久性に優れると共に、金属製薄膜を鏡面化すれば通常の鏡面ロールと同様の取り扱いができ、金属製薄膜に模様及び凹凸等を付与すればその形状を転写できるロールになるので、使い勝手がよい。
【0064】
冷却後に得られた押出樹脂積層体は、引取りロールによって引き取られる。以上の共押出、冷却、及び引取りの工程は、連続的に実施される。なお、本明細書では、主に加熱溶融状態のものを「熱可塑性樹脂積層体」と表現し、固化したものを「押出樹脂積層体」と表現しているが、両者の間に明確な境界はない。
【0065】
図3に、一実施形態として、Tダイ11、第1~第3冷却ロール12~14、及び一対の引取りロール15を含む製造装置の模式図を示す。Tダイ11から共押出された熱可塑性樹脂積層体は第1~第3冷却ロール12~14を用いて冷却され、一対の引取りロール15により引き取られる。図示例では、第3冷却ロール14が「最後に熱可塑性樹脂積層体が巻き掛けられる冷却ロール(以下、単に最後の冷却ロールとも言う)」である。
第3冷却ロール14の後段に隣接して第4以降の冷却ロールを設置してもよい。この場合は、熱可塑性樹脂積層体が最後に巻き掛けられる冷却ロールが「最後の冷却ロール」となる。なお、互いに隣接した複数の冷却ロールと引取りロールとの間には必要に応じて搬送用ロールを設置することができるが、搬送用ロールは「冷却ロール」には含めない。
なお、製造装置の構成は、適宜設計変更が可能である。
【0066】
最後の冷却ロール(
図3に示す例では第3冷却ロール)から剥離する位置における熱可塑性樹脂積層体の全体温度(TT)は特に制限されず、ポリカーボネート含有層のガラス転移温度(Tg(PC))に対して好ましくは-2℃以上、より好ましくは-2℃~+20℃、特に好ましくは+0.1℃~+20℃、最も好ましくは+0.1℃~+15℃である。
Tg(PC)に対してTTが過低では、押出樹脂積層体に最後の冷却ロール(
図3に示す例では第3冷却ロール)の形状が転写され、反りが大きくなる恐れがある。一方、最後の冷却ロール(
図3に示す例では第3冷却ロール)と接する樹脂層のガラス転移温度に対してTTが過高では、押出樹脂積層体の表面性が低下する恐れがある。なお、TTは後記[実施例]の項に記載の方法にて測定するものとする。TTは、好ましくは150~170℃である。
【0067】
(工程(Y))
必要に応じて、工程(X)後に得られた押出樹脂積層体の少なくとも一方の面に、公知方法にて、耐擦傷性及び低反射性等の機能を有する硬化被膜を形成することができる。
押出樹脂積層体の表面に、熱硬化性化合物又は活性エネルギー線硬化性化合物を含む、好ましくは液状の硬化性組成物を塗布し、加熱又は活性エネルギー線照射によって塗膜を硬化することで、硬化被膜を形成することができる。活性エネルギー線硬化性化合物とは、電子線及び紫外線等の活性エネルギー線を照射されることにより硬化する性質を有する化合物である。熱硬化性組成物としては、ポリオルガノシロキサン系及び架橋型アクリル系等が挙げられる。活性エネルギー線硬化性組成物としては、1官能又は多官能のアクリレート系のモノマー又はオリゴマー等の硬化性化合物と光重合開始剤とを含むものが挙げられる。硬化被膜は、市販のハードコート剤を用いて形成することができる。
耐擦傷性及び/又は低反射性を有する硬化被膜付き押出樹脂積層体は、液晶ディスプレイ等のフラットパネル及びタッチパネルディスプレイ等のディスプレイの保護板等に好適である。
耐擦傷性を有する硬化被膜付き押出樹脂積層体は、自動車等の輸送機等に用いられる塗装代替材料としての加飾フィルム等に好適である。
【0068】
(熱成形)
必要に応じて、工程(X)後に得られた押出樹脂積層体、又は、工程(Y)後に得られた硬化被膜付き押出樹脂積層体に対して熱成形を実施して、曲面加工等の形状加工を行うことができる。熱成形は、プレス成形、真空成形、及び圧空成形等の公知方法にて行うことができる。
【0069】
[用途]
本発明の押出樹脂積層体は、種々の用途に用いることができる。
本発明の押出樹脂積層体は例えば、液晶ディスプレイ等のフラットパネルディスプレイ及びタッチパネル等のディスプレイの保護板として好適である。例えば、銀行等の金融機関のATM;自動販売機;携帯電話(スマートフォンを含む)、タブレット型パーソナルコンピュータ等の携帯情報端末(PDA)、デジタルオーディオプレーヤー、携帯ゲーム機、コピー機、ファックス、及びカーナビゲーションシステム等のデジタル情報機器等に使用される、液晶ディスプレイ等のフラットパネルディスプレイ及びタッチパネル等の保護板として好適である。
本発明の押出樹脂積層体は例えば、自動車等の輸送機及び建築物等の窓部材等に使用される樹脂グレージングとして好適である。例えば、自動車のサンルーフ等の自動車用グレージングとして好適である。
本発明の押出樹脂積層体は例えば、自動車等の輸送機等に用いられる塗装代替材料としての加飾フィルムとして好適である。
【0070】
本発明の押出樹脂積層体は、耐熱性及び耐衝撃性に優れるポリカーボネート含有層と光沢、透明性、及び耐擦傷性に優れる(メタ)アクリル樹脂含有層とを含む。
本発明の押出樹脂積層体では、(メタ)アクリル樹脂含有層に含まれる(メタ)アクリル樹脂として三連子表示のシンジオタクティシティ(rr)が56%以上である(メタ)アクリル樹脂(A)を用いるため、(メタ)アクリル樹脂(A)のガラス転移温度(Tg)を一般的な(メタ)アクリル樹脂よりも高くでき、ポリカーボネート含有層と(メタ)アクリル樹脂含有層とのガラス転移温度(Tg)の差を小さくできる。そのため、本発明によれば、(メタ)アクリル樹脂含有層の耐熱性が向上され、高温高湿環境に曝されても反りの発生が抑制され、熱成形加工性に優れる押出樹脂積層体を提供することができる。
【0071】
三連子表示のシンジオタクティシティ(rr)が56%以上である(メタ)アクリル樹脂(A)は主鎖に環構造を有しなくても、高Tgを有することができる。(メタ)アクリル樹脂(A)は主鎖に環構造を有しないことが好ましい。さらに、(メタ)アクリル樹脂含有層は紫外線吸収剤を含むことが好ましい。かかる態様では、上記効果に加えて耐候性に優れる押出樹脂積層体を提供することができる。
【実施例】
【0072】
本発明に係る実施例及び比較例について説明する。
[評価項目及び評価方法]
評価項目及び評価方法は、以下の通りである。
(重量平均分子量(Mw)、分子量分布(重量平均分子量(Mw)/数平均分子量(Mn))
樹脂のMw及びMw/Mnは、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)法により求めた。GPC装置として、示差屈折率検出器(RI検出器)を備えた東ソー株式会社製のHLC-8320(品番)を使用した。溶離液としてテトラヒドロフラン、カラムとして東ソー株式会社製の「TSKgel SuperMultipore HZM-M」の2本と「SuperHZ4000」とを直列に繋いだものを用いた。樹脂4mgをテトラヒドロフラン5mlに溶解させて試料溶液を調製した。カラムオーブンの温度を40℃に設定し、溶離液流量0.35ml/分で、試料溶液20μlを注入して、クロマトグラムを測定した。分子量が400~5000000の範囲の標準ポリスチレン10点を用いてGPC測定し、保持時間と分子量との関係を示す検量線を作成した。この検量線に基づいて、樹脂のMw及びMw/Mnを決定した。なお、クロマトグラムのベースラインは、GPCチャートの高分子量側のピークの傾きが保持時間の早い方から見てゼロからプラスに変化する点と、低分子量側のピークの傾きが保持時間の早い方から見てマイナスからゼロに変化する点を結んだ線とした。クロマトグラムが複数のピークを示す場合は、最も高分子量側のピークの傾きがゼロからプラスに変化する点と、最も低分子量側のピークの傾きがマイナスからゼロに変化する点を結んだ線をベースラインとした。
【0073】
(三連子表示のシンジオタクティシティ(rr)(rr比率))
(メタ)アクリル樹脂を重水素化クロロホルムに溶解させて、試料溶液を調製した。得られた試料溶液について、核磁気共鳴装置(Bruker社製 ULTRA SHIELD 400 PLUS)を用いて、室温、積算回数64回の条件にて、1H-NMRスペクトルを測定した。そのスペクトルからTMSを0ppmとした際の0.6~0.95ppmの領域の面積(A0)と、0.6~1.35ppmの領域の面積(AY)とを計測し、次いで、三連子表示のシンジオタクティシティ(rr)を式:(A0/AY)×100にて算出した。
【0074】
(ガラス転移温度(Tg))
JIS K7121に準拠して、樹脂(組成物)のガラス転移温度(Tg)を測定した。
樹脂(組成物)のガラス転移温度は、樹脂(組成物)10mgをアルミパンに入れ、示差走査熱量計(「DSC-50」、株式会社リガク製)を用いて、測定を実施した。30分以上窒素置換を行った後、10ml/分の窒素気流中、一旦25℃から230℃まで20℃/分の速度で昇温し、10分間保持し、25℃まで冷却した(1次走査)。次いで、10℃/分の速度で230℃まで昇温し(2次走査)、2次走査で得られたDSC曲線から、中点法でガラス転移温度を算出した。なお、2種以上の樹脂を含有する樹脂組成物において複数のTgデータが得られる場合は、主成分の樹脂に由来する値をTgデータとして採用した。
【0075】
(多層構造ゴム粒子(RP)の含有量)
多層構造ゴム粒子(RP)を含む(メタ)アクリル樹脂組成物を約80℃で一昼夜(12時間以上)乾燥した後、約0.7gを精秤した(W1)。その後、80mLのアセトンで小片を溶解させ、室温で約1日間静置した。得られた懸濁液を遠沈管内に入れ、久保田製作所製の遠心分離機(テーブルトップ、多本架遠心機、7780II)を用い、15000rpmで5分間の遠心分離を行った。上澄み液をデカンテーションにより除いた後、新たにアセトン80mLを加え、室温で1時間静置した。さらに、上記と同一方法と条件で遠心分離とデカンテーションを3回繰り返した。以上の操作後に得られた懸濁液をビーカーに移し、80℃のホットプレートを用いて加熱することで、アセトンを除去した。得られた樹脂の質量を精秤した(W2)。次式により、多層構造ゴム粒子の含有量(質量%)を算出した。
多層構造ゴム粒子の含有量(質量%)=(W2/W1)×100
【0076】
(多層構造ゴム粒子(RP)の平均粒径)
ダイヤモンドナイフを用いて多層構造ゴム粒子(RP)を含む押出樹脂積層体から超薄切片を切り出し、リンタングステン酸を用いてアクリル酸ブチル部分を選択的に染色した後、走査型電子顕微鏡(SEM)(日本電子社製「JSM-7600」)の透過電子検出器を用いて撮像した。粒子全体が写っている30個の多層構造ゴム粒子(RP)を無作為に選択し、各粒子について染色部分の直径を測定し、平均値を平均粒径とした。
【0077】
(熱可塑性樹脂積層体の全体温度(TT))
最後の冷却ロール(具体的には第3冷却ロール)から剥離する位置における熱可塑性樹脂積層体の全体温度(TT)を、赤外線放射温度計を用いて測定した。測定位置は熱可塑性樹脂積層体の幅方向の中心部とした。
【0078】
(ロール汚れ)
押出成形工程で用いた冷却ロールの表面を目視観察し、ロール汚れの有無を以下の基準にて評価した。
〇(良):ロール汚れが見られない。
×(不良):ロール汚れが見られた。
【0079】
(鉛筆硬度(耐擦傷性))
テーブル移動式鉛筆引掻き試験機(型式P)(東洋精機社製)を用いて、鉛筆硬度を測定した。押出樹脂積層体に含まれる(メタ)アクリル樹脂含有層の表面に対して、角度45°、荷重750gの条件で、鉛筆の芯を押し付けながら引っ掻き、引っ掻き傷の傷跡の有無を確認した。鉛筆の芯の硬度は順に増していき、傷跡を生じた時点よりも1段階軟かい芯の硬度をデータとして採用した。
【0080】
(落球試験(耐衝撃性試験))
総厚みが3.0~8.0mmである板状の押出樹脂積層体(樹脂グレージング用の押出樹脂積層体)から400mm×400mmの試験片を切り出した。
図4に示すように、上部に試験片61の周縁部(各辺の末端から10mmの領域)を把持する把持部62Hを有し、上面が開口した箱状のサンプルホルダ62を用意した。このサンプルホルダ62に試験片61を取り付けた。サンプルホルダ62の内底面から試験片61の下面までの高さは100mmであった。
上記のようにサンプルホルダ62に取り付けられた試験片61の上面に対して、250gの鉄球63を、試験片61の表面から鉄球63の中心までの高さが7mである位置から、垂直に自然落下させた。落球後、試験片61の外観を目視観察し、割れ又は亀裂の有無を確認した。この試験を5枚の試験片について実施し、以下の基準で評価を行った。
〇(良):すべての試験片で落球後に割れ及び亀裂が見られなかった。
×(不良):2枚以上の試験片で落球後に割れ及び/又は亀裂が見られた。
【0081】
(高温高湿環境に曝されたときの反り変化量)
押出樹脂積層体から、短辺65mm、長辺110mmの長方形状の試験片を切り出した。なお、短辺方向は押出方向に対して平行方向、長辺方向は押出方向に対して垂直方向(幅方向)とした。得られた試験片を、ガラス定盤上に、押出成形における上面が最上面となるよう載置し、温度23℃/相対湿度50%の環境下で24時間放置した。その後、隙間ゲージを用いて試験片と定盤との隙間の最大値を測定し、この値を初期反り量とした。次いで、環境試験機内において、試験片をガラス定盤上に押出成形における上面が最上面となるよう載置し、温度85℃/相対湿度85%の環境下で72時間放置した後、温度23℃/相対湿度50%の環境下で24時間放置した。その後、初期と同様に反り量の測定を行い、初期からの反り変化量を求めた。以下の基準にて評価した。
〇(良):初期からの反り変化量が0.5mm以下であった。
×(不良):初期からの反り変化量が0.5mm超であった。
【0082】
(耐候性)
押出樹脂積層体から50mm×50mmの試験片を切り出した。島津製作所製「島津紫外・可視・近赤外分光光度計UV-3600」を用いて、吸収スペクトルを測定し、初期の色調として、JIS Z8781-4で定義されるL*a*b*色空間の色座標(L*値、a*値、b*値)を測定した。
次いで、促進暴露試験機(岩崎電気社製「アイ スーパーUVテスター SUV-W161」)に、(メタ)アクリル樹脂含有層が光源側となるように試験片を設置した。照射波長295~450nm、照射強度407W/m2、温度60℃、相対湿度50%の条件で、500時間の耐候性試験を実施した。試験終了後、中性洗剤を含ませたウレタンスポンジで試験片の表面を軽く擦って洗浄した。次いで、初期と同様に、吸収スペクトルを測定し、耐候性試験後の色調として、JIS Z8781-4で定義されるL*a*b*色空間の色座標(L*値、a*値、b*値)を測定した。耐候性試験前後の色差ΔE値を求めた。ΔE値が小さい程、耐候性試験後の押出樹脂積層体の変色が少なく、好ましい。以下の基準で評価を行った。
〇(良):ΔE≦5.0。
×(不良):ΔE>5.0。
【0083】
(面内のレターデーション値(Re))
ランニングソーを用いて、押出樹脂積層体から100mm四方の試験片を切り出し23℃±3℃の環境下に10分以上放置した後、株式会社フォトニックラティス製「WPA-100(-L)」を用いて、Re値を測定した。測定箇所は、試験片の中央部とした。
【0084】
(プレス熱成形の評価)
押出樹脂積層体からランニングソーを用いて、短辺100mm、長辺200mmの長方形状の試験片を切り出した。この試験片を135℃±3℃の範囲内の一定温度に管理されたオーブン内で15分間加熱した(予備加熱)。次いで、予備加熱した試験片をオーブンと同じ温度に管理された曲面加工用の上下一対の金型で挟み込み、10分間熱プレスした(熱成形)。上下一対の金型は、一方が断面視にて曲率半径50mmの凹湾曲面、他方がこの凹湾曲面と対向する曲率半径50mmの凸湾曲面を有し、凹湾曲面と試験片と凸湾曲面とが互いに密着するように試験片をセットした。熱成形終了後に、上下一対の金型から試験片を取り出し、以下の基準にて評価した。
<成形性>
〇(良):熱成形後の試験片の曲率半径が金型の曲率半径に対して50%以上であった。
×(不良):熱成形後の試験片の曲率半径が50%未満であった。
<表面性>
〇(良):熱成形後の試験片の表面状態は熱成形前に対して変化がなく、良好であった。
×(不良):熱成形後の試験片の表面状態が熱成形前に対して悪化し、表面荒れが見られた。
【0085】
(真空成形の評価)
真空圧空成形機(布施真空社製、NGF型)を用いて、総厚みが0.1~0.5mmであるフィルム状の押出樹脂積層体(加飾フィルム用の押出樹脂積層体)(300mm×210mm)を真空成形した。成形機に押出樹脂積層体をセットし、押出樹脂積層体の端部をテープで固定した。その後、200mm×140mm×高さ15mmの直方体の金型に対して、押出樹脂積層体の表面温度が170℃±3℃になったところで真空成形を実施した。5枚の押出樹脂積層体についてこの真空成形を実施し、以下の評価を実施した。
<成形性>
真空成形後の5枚の押出樹脂積層体の直方体の角部を目視観察し、下記基準にて賦形性を評価した。
〇(良):すべての押出樹脂積層体において、角部及び平面部の賦形が良好であった。
×(不良):賦形が完全ではなく、角部が丸みを帯びている/又は平面部の一部が金型に密着していない押出樹脂積層体が2枚以上あった。
<表面性>
真空成形後の5枚の押出樹脂積層体を、金型に触れていた面の逆側の面側から目視観察し、下記基準にて表面状態を評価した。
〇(良):真空成形前の押出樹脂積層体と比較し、すべての押出樹脂積層体において面状に変化が見られない。
×(不良):真空成形前の押出樹脂積層体と比較し、面粗度が大きくなった/又は気泡等の欠点が見られた押出樹脂積層体が2枚以上あった。
<ハンドリング性>
真空成形後の押出樹脂積層体を真空圧空成形機の金型から剥がし取る際、下記基準にてハンドリング性を評価した。
〇(良):すべての押出樹脂積層体で割れ及び破れが発生しなかった。
×(不良):割れ又は破れが発生した押出樹脂積層体が2枚以上あった。
【0086】
[材料]
<(メタ)アクリル樹脂>
(MA1)
ポリメタクリル酸メチル(PMMA)、株式会社クラレ製「パラペット(登録商標) HR」(温度230℃、3.8kg荷重下でのMFR=2.0g/10分、Tg=115℃)。
(MA2)
特開2016-94550号公報の製造例1に記載の方法に準拠して、Mwが70000、Mw/Mnが1.05、rr比率が75%、Tgが130℃、メタクリル酸メチル(MMA)単位の含有量が100質量%であるメタクリル樹脂(MA2)(ポリメタクリル酸メチル、PMMA)を得た。
(MA3)
特開2016-94550号公報の製造例2に記載の方法に準拠して、Mwが101000、Mw/Mnが1.87、rr比率が52%、Tgが120℃、MMA単位の含有量が100質量%であるメタクリル樹脂(MA3)(ポリメタクリル酸メチル、PMMA)を得た。
【0087】
(MA4)
(メタ)アクリル樹脂(MA2)を20質量部と(メタ)アクリル樹脂(MA3)を80質量部とを溶融混錬し、rr比率が56%で、Tgが122℃の(メタ)アクリル樹脂(MA4)(ポリメタクリル酸メチル、PMMA)を得た。
(MA5)
(メタ)アクリル樹脂(MA2)を50質量部と(メタ)アクリル樹脂(MA3)を50質量部とを溶融混錬し、rr比率が63%で、Tgが125℃の(メタ)アクリル樹脂(MA5)(ポリメタクリル酸メチル、PMMA)を得た。
【0088】
(MA6)
国際公開第2010/013557号に記載の方法に準拠して、SMA樹脂(S1)(スチレン-無水マレイン酸-MMA共重合体、スチレン単位/無水マレイン酸単位/MMA単位(質量比)=56/18/26、Mw=150,000、Tg=138℃)を得た。このSMA樹脂(S1)とメタクリル樹脂(MA3)とを質量比70:30で混合して、メタクリル樹脂(MA6)を得た。Tgは132℃であった。
【0089】
<多層構造ゴム粒子(RP)>
(RP1)
以下の組成の共重合体からなる最内層(RP-a1)、中間層(RP-b1)、及び最外層(RP-c1)を順次形成して、3層構造のアクリル系多層構造ゴム粒子(RP1)を製造した。粒子径は0.23μmであった。
最内層(RP-a1):メタクリル酸メチル(MMA)単位/アクリル酸メチル(MA)単位/架橋性単量体であるメタクリル酸アリル単位(質量比)=32.91/2.09/0.07、
中間層(RP-b1):アクリル酸ブチル単位/スチレン単位/架橋性単量体であるメタクリル酸アリル単位(質量比)=37.00/8.00/0.90、
最外層(RP-c1):メタクリル酸メチル(MMA)単位/アクリル酸メチル(MA)単位(質量比)=18.80/1.20。
【0090】
<分散用粒子(D)>
(D1)メタクリル系共重合体粒子、メタクリル酸メチル(MMA)単位/アクリル酸メチル単位(質量比)=90/10、粒子径:0.11μm。
【0091】
<多層構造ゴム粒子含有粉体(RD1)>
多層構造ゴム粒子(RP1)を含むラテックスと分散用粒子(D1)を含むラテックスとを固形分質量比67対33の割合で混合した。得られた混合ラテックスを-30℃で4時間かけて凍結させた。凍結したラテックスの2倍量の90℃温水に凍結ラテックスを投入し、溶解してスラリーとした後、20分間90℃に保持して脱水し、80℃で乾燥して多層構造ゴム粒子含有粉体(RD1)を得た。
【0092】
<メタクリル樹脂含有組成物(MR)>
(MR1)
メタクリル樹脂(MA1)と多層構造ゴム粒子含有粉体(RD1)とを質量比88対12で溶融混練して、メタクリル樹脂含有組成物(MR1)(Tg=114℃)を得た。
(MR2)
メタクリル樹脂(MA5)と多層構造ゴム粒子含有粉体(RD1)とを質量比88対12で溶融混練して、メタクリル樹脂含有組成物(MR2)(Tg=124℃)を得た。
(MR3)
メタクリル樹脂(MA5)と多層構造ゴム粒子含有粉体(RD1)とを質量比70対30で溶融混練して、メタクリル樹脂含有組成物(MR3)(Tg=123℃)を得た。
【0093】
<紫外線吸収剤添加メタクリル樹脂(組成物)>
(メタクリル樹脂(MA1-1))
メタクリル樹脂(MA1)に対して、紫外線吸収剤(UVA1)(ADEKA製「LA-31RG」)1.00質量%を溶融混練することで、メタクリル樹脂(MA1-1)(Tg=115℃)を得た。
(メタクリル樹脂(MA2-1))
メタクリル樹脂(MA2)に対して、紫外線吸収剤(UVA1)1.00質量%を溶融混練することで、メタクリル樹脂(MA2-1)(Tg=130℃)を得た。
(メタクリル樹脂(MA3-1))
メタクリル樹脂(MA3)に対して、紫外線吸収剤(UVA1)1.00質量%を溶融混練することで、メタクリル樹脂(MA3-1)(Tg=120℃)を得た。
(メタクリル樹脂(MA4-1))
メタクリル樹脂(MA4)に対して、紫外線吸収剤(UVA1)1.00質量%を溶融混練することで、メタクリル樹脂(MA4-1)(Tg=122℃)を得た。
(メタクリル樹脂(MA5-1))
メタクリル樹脂(MA5)に対して、紫外線吸収剤(UVA1)1.00質量%を溶融混練することで、メタクリル樹脂(MA5-1)(Tg=125℃)を得た。
(メタクリル樹脂(MA6-1))
メタクリル樹脂(MA6)に対して、紫外線吸収剤(UVA1)1.00質量%を溶融混練することで、メタクリル樹脂(MA6-1)(Tg=131℃)を得た。
【0094】
(MR2-1)
メタクリル樹脂含有組成物(MR2)に対して、紫外線吸収剤(UVA1)1.00質量%を溶融混練することで、メタクリル樹脂含有組成物(MR2-1)(Tg=124℃)を得た。
(MR2-2)
メタクリル樹脂含有組成物(MR2)に対して、紫外線吸収剤(UVA1)0.10質量%を溶融混練することで、メタクリル樹脂含有組成物(MR2-2)(Tg=124℃)を得た。
(MR2-3)
メタクリル樹脂含有組成物(MR2)に対して、紫外線吸収剤(UVA1)0.50質量%を溶融混練することで、メタクリル樹脂含有組成物(MR2-3)(Tg=124℃)を得た。
(MR2-4)
メタクリル樹脂含有組成物(MR2)に対して、紫外線吸収剤(UVA1)3.00質量%を溶融混練することで、メタクリル樹脂含有組成物(MR2-4)(Tg=124℃)を得た。
(MR2-5)
メタクリル樹脂含有組成物(MR2)に対して、紫外線吸収剤(UVA1)4.00質量%を溶融混練することで、メタクリル樹脂含有組成物(MR2-5)(Tg=124℃)を得た。
(MR3-1)
メタクリル樹脂含有組成物(MR3)に対して、紫外線吸収剤(UVA1)1.00質量%を溶融混練することで、メタクリル樹脂含有組成物(MR3-1)(Tg=123℃)を得た。
【0095】
<ポリカーボネート(PC)>
(PC1)住化スタイロンポリカーボネート株式会社製「SDポリカ(登録商標) PCX」(温度300℃、1.2kg荷重下でのMFR=6.7g/10分、Tg=150℃)。
【0096】
[実施例1](押出樹脂積層体の製造)
図3に示したような製造装置を用いて押出樹脂積層体を成形した。
65mmφ単軸押出機(東芝機械株式会社製)を用いて溶融したメタクリル樹脂含有樹脂組成物(MR2-1)と、150mmφ単軸押出機(東芝機械株式会社製)を用いて溶融したポリカーボネート(PC1)とを、マルチマニホールド型ダイスを介して積層し、Tダイから溶融状態の熱可塑性樹脂積層体を共押出した。
次いで、溶融状態の熱可塑性樹脂積層体を、互いに隣接する第1冷却ロールと第2冷却ロールとの間に挟み込み、第2冷却ロールに巻き掛け、第2冷却ロールと第3冷却ロールとの間に挟み込み、第3冷却ロールに巻き掛けることにより冷却した。冷却後に得られた押出樹脂積層体を一対の引取りロールによって引き取った。
最後の冷却ロール(第3冷却ロール)から熱可塑性樹脂積層体が剥離する位置における熱可塑性樹脂積層体の全体温度(TT)は、第2冷却ロール及び第3冷却ロールの温度を制御することで150℃に調整した。第2冷却ロールと引取りロールとの周速度比(V4/V2)を0.99に、第2冷却ロールと第3冷却ロールとの周速度比(V3/V2)を1.00に調整した。なお、第3冷却ロールにポリカーボネート含有層が接するようにした。
以上のようにして、(メタ)アクリル樹脂含有層(表層1)-ポリカーボネート含有層(表層2)の積層構造を有する2層構造の押出樹脂積層体を得た。押出樹脂積層体は、(メタ)アクリル樹脂含有層の厚み(ta)を0.04mm、総厚み(t)を0.1mmとした。押出樹脂積層体の主な製造条件及び得られた押出樹脂積層体の評価結果を表1に示す。
【0097】
[実施例2~9、比較例1、2]
(メタ)アクリル樹脂含有層の組成、各層の厚み、及び製造条件を表1、表2、表4に示すように変更する以外は実施例1と同様にして、(メタ)アクリル樹脂含有層(表層1)-ポリカーボネート含有層(表層2)の積層構造を有する2層構造の押出樹脂積層体を得た。各例において得られた押出樹脂積層体の評価結果を表1、表2、表4に示す。表に非記載の条件は実施例1と共通条件とした(他の実施例、比較例においても同様)。
【0098】
[実施例10]
図3に示したような製造装置を用いて押出樹脂積層体を成形した。65mmφ単軸押出機を用いて溶融したメタクリル樹脂(MA5-1)と、150mmφ単軸押出機を用いて溶融したポリカーボネート含有樹脂組成物(PC1)と、65mmφ単軸押出機を用いて溶融したメタクリル樹脂(MA5-1)とをマルチマニホールド型ダイスを介して積層し、Tダイから溶融状態の3層構造の熱可塑性樹脂積層体を共押出し、第1~第3冷却ロールを用いて冷却し、冷却後に得られた押出樹脂積層体を一対の引取りロールによって引き取った。最後の冷却ロール(第3冷却ロール)から熱可塑性樹脂積層体が剥離する位置における熱可塑性樹脂積層体の全体温度(TT)は、第2冷却ロール及び第3冷却ロールの温度を制御することで150℃に調整した。第2冷却ロールと引取りロールとの周速度比(V4/V2)を0.99に、第2冷却ロールと第3冷却ロールとの周速度比(V3/V2)を1.00に調整した。
以上のようにして、第1の(メタ)アクリル樹脂含有層(表層1)-ポリカーボネート含有層(内層)-第2の(メタ)アクリル樹脂含有層(表層2)の積層構造を有する3層構造の押出樹脂積層体を得た。2つの(メタ)アクリル樹脂含有層の組成と厚みは同一とした。押出樹脂積層体は、2つの(メタ)アクリル樹脂含有層の厚み(ta)をいずれも0.07mm、総厚み(t)を1.0mmとした。押出樹脂積層体の製造条件及び得られた押出樹脂積層体の評価結果を表2に示す。
【0099】
[実施例11~22、比較例3~5]
(メタ)アクリル樹脂含有層の組成、各層の厚み、及び製造条件を表2~表4に示すように変更する以外は実施例10と同様にして、第1の(メタ)アクリル樹脂含有層(表層1)-ポリカーボネート含有層(内層)-第2の(メタ)アクリル樹脂含有層(表層2)の積層構造を有する3層構造の押出樹脂積層体を得た。各例において得られた押出樹脂積層体の評価結果を表2~表4に示す。
【0100】
【0101】
【0102】
【0103】
【0104】
[結果のまとめ]
実施例1~22では、ポリカーボネート含有層の片面又は両面に、三連子表示のシンジオタクティシティ(rr)が56%以上である(メタ)アクリル樹脂(A)を含有する(メタ)アクリル樹脂含有層が積層された、フィルム状又は板状の2層構造の又は3層構造の押出樹脂積層体を製造した。
これら実施例では、(メタ)アクリル樹脂(A)のTgが122℃以上と高く、ポリカーボネート(PC1)とのTg差が28℃以下であった。そのため、得られた押出樹脂積層体は、(メタ)アクリル樹脂含有層の耐熱性が高く、高温高湿環境に曝されても反りの発生が抑制され、熱成形加工性が良好であった。
(メタ)アクリル樹脂含有層中に紫外線吸収剤を添加した実施例1~4、6~11、13~22では、耐候性が良好な押出樹脂積層体が得られた。ただし、紫外線吸収剤の添加量が多いと、ロール汚れが生じる場合があった。
(メタ)アクリル樹脂含有層中に多層構造ゴム粒子を添加した実施例1~5では、得られたフィルム状の押出樹脂積層体は耐衝撃性が高く、真空成形のハンドリング時の割れ等が抑制された。
(メタ)アクリル樹脂含有層中に多層構造ゴム粒子を添加した実施例14~22では、得られた板状の押出樹脂積層体は耐衝撃性が高く、落球試験結果が良好であった。
実施例1~22で得られた押出樹脂積層体はいずれも、Re値がディスプレイの保護板等として好適な範囲内であった。
【0105】
比較例1~3では、ポリカーボネート含有層の片面又は両面に、三連子表示のシンジオタクティシティ(rr)が56%未満である比較用の(メタ)アクリル樹脂を含有する(メタ)アクリル樹脂含有層が積層された、フィルム状又は板状の2層構造の又は3層構造の押出樹脂積層体を製造した。
これら比較例では、(メタ)アクリル樹脂のTgが122℃未満と低く、ポリカーボネート含有層に含まれるポリカーボネート(PC1)とのTg差が28℃超であった。そのため、得られた押出樹脂積層体は、(メタ)アクリル樹脂含有層の耐熱性が良くなく、高温高湿環境に曝された場合の反り変化が大きく、熱成形加工性が良好であった。
【0106】
比較例4、5では、(メタ)アクリル樹脂含有層にSMA樹脂を添加することで、(メタ)アクリル樹脂含有層全体のTgを131℃に高めることができたが、得られた押出樹脂積層体は(メタ)アクリル樹脂含有層に紫外線吸収剤を添加しても耐候性が不良であった。
【0107】
(メタ)アクリル樹脂含有層中に多層構造ゴム粒子を添加しなかった比較例1では、得られたフィルム状の押出樹脂積層体は耐衝撃性が低く、真空成形のハンドリング時に割れ等が生じた。
(メタ)アクリル樹脂含有層中に多層構造ゴム粒子を添加しなかった比較例5では、得られた板状の押出樹脂積層体は耐衝撃性が低く、落球試験結果が不良であった。
【0108】
本発明は上記実施形態及び実施例に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない限りにおいて、適宜設計変更が可能である。
【0109】
この出願は、2019年1月18日に出願された日本出願特願2019-006935号を基礎とする優先権を主張し、その開示の全てをここに取り込む。
【符号の説明】
【0110】
16、16X、16Y 押出樹脂積層体
21 ポリカーボネート含有層
22、22A、22B (メタ)アクリル樹脂含有層