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特許7450023多孔質ガラス母材製造装置、多孔質ガラス母材の製造方法、および光ファイバ用ガラス母材の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-06
(45)【発行日】2024-03-14
(54)【発明の名称】多孔質ガラス母材製造装置、多孔質ガラス母材の製造方法、および光ファイバ用ガラス母材の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C03B 8/04 20060101AFI20240307BHJP
   C03B 37/018 20060101ALI20240307BHJP
【FI】
C03B8/04 D
C03B8/04 C
C03B37/018 C
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2022517588
(86)(22)【出願日】2021-04-07
(86)【国際出願番号】 JP2021014742
(87)【国際公開番号】W WO2021220747
(87)【国際公開日】2021-11-04
【審査請求日】2022-10-17
(31)【優先権主張番号】P 2020081549
(32)【優先日】2020-05-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002060
【氏名又は名称】信越化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100166545
【弁理士】
【氏名又は名称】折坂 茂樹
(72)【発明者】
【氏名】野田 直人
【審査官】末松 佳記
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2012/008406(WO,A1)
【文献】特表2015-502317(JP,A)
【文献】特開2009-067604(JP,A)
【文献】特開2000-220790(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03B 8/04
C03B 37/018
F23K 5/00 - 5/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
長手方向に沿った回転軸を中心に回転する出発母材の前記長手方向に沿って前記出発母材に対して相対移動するバーナ群の火炎に有機シロキサン原料のガスを放出し、前記出発母材の表面に多孔質ガラス微粒子のスートを形成する多孔質ガラス母材製造装置であって、
原料タンクから供給される液体状態の有機シロキサン原料を含む液体原料を気化させて原料ガスとキャリアガスとが混合した原料混合ガスにする気化器と、
前記原料混合ガスをバーナまで供給する原料ガス配管とを備え
前記原料ガス配管は、前記原料ガス配管の外側に設けられる内側断熱材と、前記内側断熱材の外側に設けられる外側断熱材とを組み合わせた二重断熱により断熱し保温され
前記内側断熱材は、耐熱温度が160℃以上、且つ、熱伝導率が前記外側断熱材の熱伝導率よりも大きい断熱材が使用され、
前記外側断熱材は、熱伝導率が0.05W/m/K以下(20℃)、且つ、耐熱温度が前記内側断熱材の耐熱温度よりも低い断熱材が使用されることを特徴とする、多孔質ガラス母材製造装置。
【請求項2】
前記有機シロキサン原料は、オクタメチルシクロテトラシロキサン(OMCTS)であることを特徴とする、請求項1に記載の多孔質ガラス母材製造装置。
【請求項3】
前記原料ガス配管は140~220℃の温度となるように加熱及び保温されることを特徴とする、請求項1または2に記載の多孔質ガラス母材製造装置。
【請求項4】
原料タンクから気化器に供給される液体状態の有機シロキサン原料の流量を制御する液体マスフローコントローラをさらに備え、
前記気化器は、前記有機シロキサン原料とキャリアガスとを混合し液体原料を気化させて原料ガスとキャリアガスとが混合した原料混合ガスにすることを特徴とする請求項1からのいずれか1項に記載の多孔質ガラス母材製造装置。
【請求項5】
原料タンクから供給される液体状態の有機シロキサン原料の流量を計測する液体マスフローメーターと、
前記液体マスフローメーターからのフィードバックにより液体原料の流量を制御する制御バルブを有し、液体原料とキャリアガスを混合する液体ガス混合器と、
をさらに備え、
前記気化器は、前記液体ガス混合器にキャリアガスと混合された前記液体原料を気化させて原料ガスとキャリアガスとが混合した原料混合ガスにすることを特徴とする請求項1からのいずれか1項に記載の多孔質ガラス母材製造装置。
【請求項6】
原料タンクから供給される液体状態の有機シロキサン原料を含む液体原料を気化器に供給するステップと、
前記気化器において有機シロキサンの液体原料とキャリアガスとを混合し前記液体原料を気化させて原料ガスとキャリアガスとが混合した原料混合ガスにする工程と、
原料ガス配管を介して前記原料混合ガスをバーナまで供給するステップと、
長手方向に沿った回転軸を中心に回転する出発母材の前記長手方向に沿って前記出発母材に対して相対移動する前記バーナの火炎に前記原料混合ガスを放出し、前記出発母材の表面に多孔質ガラス微粒子のスートを形成するステップと
を備え、
前記原料ガス配管は、前記原料ガス配管の外側に設けられる内側断熱材と、前記内側断熱材の外側に設けられる外側断熱材とを組み合わせた二重断熱により断熱し保温され
前記内側断熱材は、耐熱温度が160℃以上、且つ、熱伝導率が前記外側断熱材の熱伝導率よりも大きい断熱材が使用され、
前記外側断熱材は、熱伝導率が0.05W/m/K以下(20℃)、且つ、耐熱温度が前記内側断熱材の耐熱温度よりも低い断熱材が使用されることを特徴とする、多孔質ガラス母材の製造方法。
【請求項7】
請求項に記載の多孔質ガラス母材の製造方法により多孔質ガラス母材を得るステップと、
前記多孔質ガラス母材を加熱炉内で加熱して脱水焼結処理を行うステップと
を備える光ファイバ用ガラス母材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多孔質ガラス母材製造装置、多孔質ガラス母材の製造方法、および光ファイバ用ガラス母材の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、ガラスロッドなどの出発母材にガラス微粒子を堆積させてスートを形成する、多孔質ガラス微粒子体の製造方法が知られている。この種の多孔質ガラス微粒子体を脱水し焼結させると、光ファイバなどを製造するための光ファイバ母材を得ることができる。
【0003】
多孔質ガラス母材は、例えば、VAD法などで製造されたコア母材上に、OVD法などでSiO微粒子を外付け堆積し、焼結して製造される。SiO微粒子をコア母材上に外付け堆積するには、従来、ケイ素化合物原料として、四塩化ケイ素(SiCl)が広く用いられている。
[化1]
SiCl+2HO→SiO+4HCl
この反応では副生成物として塩酸が生成し、水分が混入すると金属腐食性を呈するため、製造装置材料や排気温度管理に注意が必要である。さらに、排気から塩酸を回収処理する設備を設けるとコスト増を招く。
【0004】
上述のようにケイ素化合物原料として、四塩化ケイ素(SiCl)が広く用いられているが、ときには、分子内にCl(クロル)を内包しないハロゲンフリーな有機ケイ素化合物がSiO微粒子の出発原料として使用されることがある(例えば特許文献1~4を参照)。このようなハロゲンフリーな有機ケイ素化合物として、工業規模で利用可能な高純度の有機シロキサンであるオクタメチルシクロテトラシロキサン(OMCTS)が挙げられる。
【0005】
OMCTSを原料とする場合には、下記の[化2]式に基づきSiO微粒子が生成される。
[化2]
[SiO(CH+16O→4SiO+8CO+12H
このように、バーナに供給するケイ素化合物原料として、OMCTSに代表されるハロゲンフリーな有機シロキサンを用いると、塩酸が排出されない。そのため、製造装置材料や排気の取り扱いの自由度が増す。また、塩酸回収処理設備を設ける必要がなく、コストを抑えることが期待される。
【0006】
さらに、OMCTSは燃焼熱が非常に大きく、燃焼に必要な水素等の可燃性ガスの使用量を従来のSiClを用いる場合よりも低く抑えられるという利点も期待される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2013-177297号公報
【文献】特表2015-505291号公報
【文献】特開2017-036172号公報
【文献】特開2017-197402号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
一方で、有機シロキサン原料のオクタメチルシクロテトラシロキサンは、標準沸点が175℃と高く、原料ガス配管で冷やされると再液化が発生しやすい。また、原料ガス配管はヒータを用い高温で加熱されるため、ヒータの消費電力が大きくなり、コストアップの要因となる。
【0009】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、オクタメチルシクロテトラシロキサン(OMCTS)に代表される有機シロキサン原料において、原料ガスの再液化を防止する、多孔質ガラス母材製造装置、多孔質ガラス母材の製造方法、および光ファイバ用ガラス母材の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の課題を解決すべく、本発明に係る多孔質ガラス母材製造装置は、長手方向に沿った回転軸を中心に回転する出発母材の長手方向に沿って出発母材に対して相対移動するバーナ群の火炎に有機シロキサン原料のガスを放出し、出発母材の表面に多孔質ガラス微粒子のスートを形成する。当該多孔質ガラス母材製造装置は、原料タンクから供給される液体状態の有機シロキサンを含む液体原料を気化させて原料ガスとキャリアガスとが混合した原料混合ガスにする気化器と、原料混合ガスをバーナまで供給する原料ガス配管とを備える。原料ガス配管は、原料ガス配管の外側に設けられる内側断熱材と、内側断熱材の外側に設けられる外側断熱材とを組み合わせた二重断熱により断熱し保温される。
【0011】
本発明では、内側断熱材には、耐熱温度が160℃以上の断熱材が使用され、外側断熱材には、熱伝導率が0.05W/m/K以下(20℃)の断熱材が使用されるとよい。
【0012】
本発明では、有機シロキサン原料は、オクタメチルシクロテトラシロキサン(OMCTS)とするとよい。
【0013】
本発明では、原料ガス配管は140~220℃の温度となるように加熱及び保温されるとよい。
【0014】
多孔質ガラス母材製造装置は、原料タンクから気化器に供給される液体状態の有機シロキサン原料の流量を制御する液体マスフローコントローラをさらに備えるとよい。そして、気化器は、有機シロキサン原料とキャリアガスとを混合し液体原料を気化させて原料ガスとキャリアガスとが混合した原料混合ガスにするとよい。
【0015】
あるいは、多孔質ガラス母材製造装置は、原料タンクから供給される液体状態の有機シロキサン原料の流量を計測する液体マスフローメーターと、当該液体マスフローメーターからのフィードバックにより液体原料の流量を制御する制御バルブを有し、液体原料とキャリアガスを混合する液体ガス混合器と、をさらに備えるとよい。そして、気化器は、液体ガス混合器にキャリアガスと混合された液体原料を気化させて原料ガスとキャリアガスとが混合した原料混合ガスにするとよい。
【0016】
また、本発明に係る多孔質ガラス母材の製造方法は、原料タンクから供給される液体状態の有機シロキサン原料を含む液体原料を気化器に供給するステップと、気化器において有機シロキサンの液体原料とキャリアガスとを混合し液体原料を気化させて原料ガスとキャリアガスとが混合した原料混合ガスにする工程と、原料ガス配管を介して原料混合ガスをバーナまで供給するステップと、長手方向に沿った回転軸を中心に回転する出発母材の長手方向に沿って出発母材に対して相対移動するバーナの火炎に原料混合ガスを放出し、出発母材の表面に多孔質ガラス微粒子のスートを形成するステップとを備える。原料ガス配管は、原料ガス配管の外側に設けられる内側断熱材と、内側断熱材の外側に設けられる外側断熱材とを組み合わせた二重断熱により断熱し保温される。
【0017】
また、本発明に係る光ファイバ用ガラス母材の製造方法は、上記の多孔質ガラス母材の製造方法により多孔質ガラス母材を得るステップと、多孔質ガラス母材を加熱炉内で加熱して脱水焼結処理を行うステップとを備える。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、多孔質ガラス母材製造装置においてオクタメチルシクロテトラシロキサン(OMCTS)に代表される有機シロキサン原料の原料ガスが再液化することを防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】第1実施形態における多孔質ガラス母材製造装置の気化器周りの供給フロー図である。
図2】第1実施形態における多孔質ガラス母材製造装置の構成を示す模式図である。
図3】第1実施形態における原料ガス配管の断熱構造を示す断面図である。
図4】第2実施形態における多孔質ガラス母材製造装置の気化器周りの供給フロー図である。
図5】二重断熱構造のときと一重断熱構造のときの放熱量の比較のグラフである。
図6】二重断熱構造のときと一重断熱構造のときの断熱材表面温度の比較のグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、実施の形態に基づいて、本発明についてより詳細に説明する。なお、以下の説明では、同一の部材には同一の符号を付し、一度説明した部材については適宜その説明を省略する。
【0021】
〔第1実施形態〕
図1は、第1実施形態における気化器周りの供給フローに関する図である。原料液101は、原料タンク(不図示)からポンプで供給され、液体マスフローコントローラ1で流量制御され、原料液配管2を通して気化器3に供給される。原料液101は、同じく気化器3に導入されたキャリアガス102によって微細な液滴にされ、加熱されることで原料液101が気化され原料ガスとキャリアガス102とが混合した原料混合ガス104となる。キャリアガス102はガスマスフローコントローラ4で流量制御され、キャリアガス配管5を通して、気化器3に供給される。気化器3での原料液101の気化を促進させるため、キャリアガス102は熱交換器6を用いて予熱して供給してもよい。キャリアガス102としては、窒素、アルゴン、ヘリウム等の不活性ガスまたは、酸素や、酸素と不活性ガスの混合ガスを用いることができる。原料混合ガス104は、原料ガス配管10を通して、バーナ11に供給される。気化器3直前の原料液配管2中には開閉弁20を設け、原料液101供給終了後、開閉弁20と気化器3の配管中に溜まった原料液101をパージガス105でパージする。パージガス配管21中には、開閉弁22、流量調整手段23(例えば流量調整バルブ)、および逆止弁24が設けられている。
【0022】
このとき原料ガスの燃焼を促進するため、原料混合ガス104に更に酸素を予混合ガス103として混合してからバーナ11に供給してもよい。予混合ガス103はガスマスフローコントローラ7で流量制御され、予混合ガス配管8を通して、原料ガス配管10で混合される。原料混合ガス104中の原料ガスの再液化を防ぐため、予混合ガス103である酸素は熱交換器9を用いて予熱して供給してもよい。
【0023】
気化器3の温度は原料液101を効率よく気化し、かつ原料液101の重合を防ぐという観点から、有機シロキサン原料としてOMCTSを用いる場合、160℃以上220℃以下の温度に設定するのが好ましい。温度が低いと原料液の蒸気圧が低下し160℃を下回ると気化効率が著しく低下する。220℃を超えると、気化器3で原料液101由来の重合物が析出する恐れがある。また、気化器3の下流のバーナ11までの原料ガス配管10は、原料混合ガス104中の原料ガスの再液化および重合を防ぐために、140℃以上220℃以下の温度に設定するのが好ましい。さらに好ましくは、160℃以上190℃以下の温度に設定するのが好ましい。なお、原料ガス配管10には、ヒータが取り付けられ、所望の温度に加熱することができるように構成されるとよい。
【0024】
図2は、第1実施形態における多孔質ガラス母材製造装置の構成を示す模式図である。バーナ11は、トラバースモーターを用いガイド機構12にて平行移動を行う。出発母材13は回転機構14に取りつけ、一定方向に回転させる。出発母材13の長手方向に対してバーナ11が平行移動を繰り返しながら、バーナ11から噴出される原料ガスによってSiO微粒子が出発母材13に付着し、スート堆積体15が生成される。スート堆積体15に付着しなかった未付着分のSiO微粒子は排気フード16を介して系外に排出される。排気フード16は、局所排気構造または全体排気構造のいずれかでもよい。バーナ11まで供給される各ガス配管は、平行移動を繰り返すバーナ11に追従して動く。このとき、バーナ11に供給される各ガスの配管には、可動性を持たせることが望ましく、各ガス配管は、例えば、ケーブルベヤ(株式会社椿本チェイン登録商標)等の可動ケーブル保護材17の内部に格納される。これにより各ガス配管は、バーナ11に追従して動くことができる。
【0025】
原料ガス配管10を可動ケーブル保護材17に格納し、原料ガス配管10を加熱するためにヒータを使用すると、原料ガス配管10には引っ張り応力や曲げ応力が常時かかる。その結果、ヒータが疲労によって断線し易くなったり、熱媒を使用する構成では熱媒の配管が疲労によって破損し易くなったりする。このため、可動ケーブル保護材17内の原料ガス配管10にはヒータを使用せず、保温のみとするのが好ましい。
【0026】
しかし、ヒータを使用せず、保温のみとすると、可動ケーブル保護材17内の原料ガス配管10が冷え、原料混合ガス104中の原料ガスが再液化する可能性が高まる。そこで、原料ガス配管10が冷えないように、断熱法の工夫が必要である。
【0027】
また、原料ガス配管10の断熱を強化することで、可動ケーブル保護材17内以外のヒータで加熱される原料ガス配管10部位では、放熱量を低減し、低出力で温度を一定に保つことが可能となり、ヒータの消費電力の低減に寄与することができる。
【0028】
配管用の断熱材には、断熱性能が高い、耐熱温度が高い、安価である、施工がしやすい、密度が小さい、耐久性が高い、発塵しにくい、可撓性を有する、などの条件が求められる。しかし、これらすべての条件を満たす断熱材を選定するのは難しい。
【0029】
特に有機シロキサン原料であるオクタメチルシクロテトラシロキサンは、標準沸点が175℃と高いため、原料ガス配管10を断熱するのに適した断熱材には少なくとも160℃以上の耐熱温度が求められる。耐熱温度が高い配管用断熱材としては、ロックウール、ガラスウール、ポリイミド、シリコンスポンジなどが挙げられる。ロックウールやガラスウールは耐熱温度が高く、断熱性能も高いが、可動ケーブル保護材17内で用いるのには適さない。ポリイミドも耐熱温度が高く、断熱性能も高いが、比較的高価である。
【0030】
シリコンスポンジチューブは耐熱温度が200℃であり、施工がしやすい、可撓性を有する、耐久性が高いなどの特徴を有する。一方で、熱伝導率が0.2W/m/K(20℃)であり、無機系の断熱材と比較すると高い。そのため、シリコンスポンジチューブのみの断熱の場合、放熱量が大きく、原料ガス配管10が冷えやすい。特にヒータを使用せず保温のみが好ましい可動ケーブル保護材17内の原料ガス配管10中で、原料混合ガス104中の原料ガスが再液化する可能性が高まる。また、放熱量が大きいことから、ヒータを使用している部位の原料ガス配管10では、温度を保つのに必要な消費電力が大きくなってしまい、コスト増大の要因になる。
【0031】
図3は、第1実施形態における原料ガス配管10の断熱構造を示す断面図である。原料ガス配管10の上に内層断熱材18を被せ、さらに外側に外層断熱材19を被せた二重断熱構造となっている。内層断熱材18としてシリコンスポンジチューブが用いられ、外層断熱材19として、さらに熱伝導率の低い断熱材が用いられる。外層断熱材19には、熱伝導率が0.05W/m/K以下(20℃)の断熱材を使用するのが特に好ましい。また、外層断熱材19は、180℃近くの温度に保たれた配管やヒータに直接巻かないため、内層断熱材18の表面温度を下回る耐熱温度を有する断熱材を用いればよい。内層断熱材18の厚みや熱伝導率等によるが、外層断熱材19の耐熱温度は120℃程度であることが好ましい。具体的には、外層断熱材19として、例えば、EPDM(エチレンプロピレンジエンゴム)合成ゴム系のエラストマの独立気泡構造を有する断熱材であるエアロフレックス(AEROFLEX(登録商標))を用いるとよい。
【0032】
〔第2実施形態〕
図4は、第2実施形態における気化器周りの供給フローに関する図である。原料液101は、液体マスフローメーター25で流量計測され、原料液配管2を通して液体ガス混合器26に供給される。液体ガス混合器26には原料液101の流量を制御する制御バルブを有し、液体マスフローメーター25とのフィードバック制御により原料液101の流量を調整する。原料液101は、同じく液体ガス混合器26に導入されたキャリアガス102と液体ガス混合器26内で混合され、下流の気化器3で加熱されることで原料混合ガス104となる。キャリアガス102はガスマスフローコントローラ4で流量制御され、キャリアガス配管5を通して、液体ガス混合器26に供給される。キャリアガス102としては、窒素、アルゴン、ヘリウム等の不活性ガスまたは、酸素や、酸素と不活性ガスの混合ガスを用いることができる。原料混合ガス104は、原料ガス配管10を通して、バーナ11に供給される。液体ガス混合器26直前の原料液配管2中には開閉弁20を設け、原料液101供給終了後、開閉弁20と液体ガス混合器26の配管中に溜まった原料液101をパージガス105でパージする。パージガス配管21中には、開閉弁22、流量調整手段23、逆止弁24が設けられている。
【0033】
このとき原料ガスの燃焼を促進するため、原料混合ガス104に更に酸素を予混合ガス103として混合してからバーナ11に供給してもよい。予混合ガス103はガスマスフローコントローラ7で流量制御され、予混合ガス配管8を通して、原料ガス配管10で混合される。原料ガス配管10は、第1実施形態における原料ガス配管と同様の二重断熱構造を有する。原料混合ガス104の再液化を防ぐため、予混合ガス103である酸素は熱交換器9を用いて予熱して供給してもよい。また、バーナ11での逆火を防止するため、原料混合ガスに更にキャリアガス106を混合してもよい。キャリアガス106はガスマスフローコントローラ27で流量制御され、キャリアガス配管28を通して、原料ガス配管10で混合される。キャリアガス106としては、窒素、アルゴン、ヘリウム等の不活性ガスを用いることができる。キャリアガス106も、予混合ガス103同様に、原料混合ガス104の再液化を防ぐため、熱交換器9を用いて予熱して供給してもよい。
【0034】
以上のように構成される多孔質ガラス母材製造装置に、当該多孔質ガラス母材製造装置から得られる多孔質ガラス母材を脱水・焼結する加熱炉を組み合わせて、透明ガラス化された光ファイバ母材を得る光ファイバ母材製造装置としてもよい。
【実施例
【0035】
(実施例1)
多孔質ガラス母材製造装置において、可動ケーブル保護材17の入口までは原料ガス配管10を190℃の温度となるように電気ヒータで加熱した。また、可動ケーブル保護材17内に格納された原料ガス配管10には電気ヒータを使用せず、保温のみとした。可動ケーブル保護材17内に格納された原料ガス配管10の長さは3[m]であった。
【0036】
原料ガス配管10としては3/8inch(0.9525cm)のPFAチューブを用いた。断熱には二重断熱構造を採用し、内層断熱材18としてシリコンスポンジチューブ、外層断熱材19としてエアロフレックスを用いた。
【0037】
内層断熱材18であるシリコンスポンジチューブの厚みは0.005[m]とした。また、外層断熱材19であるエアロフレックスの厚みは0.01[m]とした。
【0038】
気化器周りの供給フローについては図1の通りとした。原料液101としてOMCTSを用いた。原料タンクにおける原料液より上の空間は不活性ガスのNで満たした。原料タンクの内圧はゲージ圧で0.02MPaとした。送液ポンプはダイヤフラムポンプを使用し、ポンプの吐出圧は0.5MPaになるように保った。気化器3直前の原料液101の着圧は0.02~0.3MPaとなるようにした。キャリアガス102としてNを用いた。予混合ガス103としてOを用いた。原料ガス配管10を流れる原料混合ガス104の流量を、20~80[SLM]の範囲で調節し、バーナ11に供給した。
【0039】
以上の条件のもと、原料ガス配管10に原料混合ガス104を供給したところ、原料ガス配管10内およびバーナ11内での再液化は生じなかった。
【0040】
(実施例2)
原料ガス配管10の断熱に二重断熱構造を採用し、内層断熱材18としてシリコンスポンジチューブ、外層断熱材19としてエアロフレックスを用いた。内層断熱材18であるシリコンスポンジチューブの厚みは0.005[m]とした。また、外層断熱材19であるエアロフレックスの厚みは0.01[m]とした。
【0041】
気化器周りの供給フローについては図4の通りとした。原料液101としてOMCTSを用いた。原料タンクにおける原料液より上の空間は不活性ガスのNで満たした。原料タンクの内圧はゲージ圧で0.02MPaとした。送液ポンプはダイヤフラムポンプを使用し、ポンプの吐出圧は0.5MPaになるように保った。気化器3直前の原料液101の着圧は0.02~0.3MPaとなるようにした。キャリアガス102としてNを用いた。予混合ガス103としてOを用いた。原料ガス配管10を流れる原料混合ガス104の流量を20~80[SLM]の範囲で調節し、バーナ11に供給した。
【0042】
以上の条件のもと、原料ガス配管10に原料混合ガス104を供給したところ、原料ガス配管10内およびバーナ11内での再液化は生じなかった。
【0043】
(比較例1)
原料ガス配管10の断熱に一重断熱構造を採用し、断熱材としてシリコンスポンジチューブを用いた。シリコンスポンジチューブの厚みは0.005[m]とした。断熱構造以外は、実施例1と同様の条件とした。
【0044】
以上の条件のもと、原料ガス配管10に原料混合ガス104を供給したところ、可動ケーブル保護材17内の原料ガス配管10内で再液化が発生した。
【0045】
(比較例2)
原料ガス配管10の断熱に一重断熱構造を採用し、断熱材としてシリコンスポンジチューブを用いた。シリコンスポンジチューブの厚みは0.015[m]とした。断熱構造以外は、実施例1と同様の条件とした。
【0046】
以上の条件のもと、原料ガス配管10に原料混合ガス104を供給したところ、可動ケーブル保護材17内の原料ガス配管10内で再液化が発生した。
【0047】
(比較例3)
原料ガス配管10の断熱に一重断熱構造を採用し、断熱材としてシリコンスポンジチューブを用いた。シリコンスポンジチューブの厚みは0.015[m]とした。可動ケーブル保護材17の入口(すなわち、最も上流側の端部)までは原料ガス配管10を230℃の温度となるように電気ヒータで加熱した。これらの断熱構造及び加熱機構以外は、実施例1と同様の条件とした。
【0048】
以上の条件のもと、原料ガス配管10に原料混合ガス104を供給したところ、原料ガス配管10内およびバーナ11内での再液化の発生はなかったものの、原料ガス配管10中にゲルが析出した。これは原料混合ガス104が高温で過加熱され、原料および原料に含まれる不純物に起因する重合物が生成したことによる。また、断熱材であるシリコンスポンジチューブを耐熱温度以上で使用していたため、断熱材の劣化のスピードが速かった。
【0049】
表1は、実施例1、2、および比較例1~3について、断熱構造、断熱材の厚み、可動ケーブル保護材17入口の原料ガス配管10の温度、原料ガス配管10内での再液化・ゲル化の有無をまとめた表である。
【表1】
【0050】
一般に、原料ガス配管の外径をd、原料ガス配管の温度をT、外気温度をT、外層断熱材表面の温度をT、内層断熱材の厚みをt、外層断熱材の厚みをt、内層断熱材の熱伝導率をλ、外層断熱材の熱伝導率をλ、表面の熱放射率をσ、外気への対流熱伝達率をhとしたとき、外気への放熱量Qは、式(1)および式(2)で表される。
【数1】
ここで、式(1)の5.67×10-8はステファンボルツマン定数である。
【0051】
式(1)と式(2)を解くことで、外層断熱材の表面の温度Tと断熱材表面から外気への放熱量Qが求まる。
【0052】
原料ガス配管10の断熱構造を二重断熱構造とし、原料ガス配管10の外径d=0.01[m]、原料ガス配管10の温度T=190 [℃]、外気温度T2=30[℃]、内層断熱材であるシリコンスポンジチューブの厚みt=0.005[m]、外層断熱材であるエアロフレックスの厚みt=0.01[m]とし、シリコンスポンジチューブ熱伝導率λは温度によらず一定で熱伝導率λ=0.2[W/m/K]、エアロフレックスの熱伝導率λは温度によらず一定で熱伝導率λ=0.04[W/m/K]、表面の熱放射率σ=0.7、外気への対流熱伝達率h=7[W/m/K]としたときの放熱量Qを図5に四角形のマーカで示す。また、同条件での外層断熱材表面の温度T図6に四角形のマーカで示す。
【0053】
比較として、原料ガス配管10の断熱構造を一重断熱構造とし、原料ガス配管10の外径d=0.01[m]、原料ガス配管10の温度T=190[℃]、外気温度T=30[℃]、断熱材であるシリコンスポンジチューブの厚みt を0.005、0.001、0.015、0.020[m]と変え、シリコンスポンジチューブ熱伝導率λは温度によらず一定で熱伝導率λ=0.2[W/m/K]、表面の熱放射率σ=0.7、外気への対流熱伝達率h= 7[W/m/K]としたときの放熱量Q[W/m]を図5に円形のマーカで示す。また、同条件での外層断熱材表面の温度T[℃]を図6に円形のマーカで示す。
【0054】
図5より、シリコンスポンジチューブとエアロフレックスの二重断熱構造ではシリコンスポンジチューブの一重断熱構造と比較すると、同じ厚みの0.015[m]で、放熱量Qが半減以下となっていることが分かる。また、図6より、外層断熱材表面の温度Tに関しては、同じ厚みの0.015[m]で、二重断熱構造では一重断熱構造よりも30[℃]と低くなっていることが分かる。
【符号の説明】
【0055】
1 液体マスフローコントローラ
2 原料液配管
3 気化器
4 ガスマスフローコントローラ
5 キャリアガス配管
6 熱交換器
7 ガスマスフローコントローラ
8 予混合ガス配管
9 熱交換器
10 原料ガス配管
11 バーナ
12 ガイド機構
13 出発母材
14 回転機構
15 スート堆積体
16 排気フード
17 可動ケーブル保護材
18 内層断熱材
19 外層断熱材
20 開閉弁
21 パージガス配管
22 開閉弁
23 流量調整手段
24 逆止弁
25 液体マスフローメーター
26 液体ガス混合器(制御バルブ)
27 ガスマスフローコントローラ
28 キャリアガス配管
101 原料液
102 キャリアガス
103 予混合ガス
104 原料混合ガス
105 パージガス
106 キャリアガス

図1
図2
図3
図4
図5
図6