(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-06
(45)【発行日】2024-03-14
(54)【発明の名称】包装体の製造方法及び分配包装体の製造方法
(51)【国際特許分類】
B65D 65/40 20060101AFI20240307BHJP
B65D 77/20 20060101ALI20240307BHJP
B65B 61/02 20060101ALI20240307BHJP
【FI】
B65D65/40 D
B65D77/20 L
B65D77/20 H
B65B61/02
(21)【出願番号】P 2023104930
(22)【出願日】2023-06-27
【審査請求日】2023-07-14
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000001421
【氏名又は名称】キユーピー株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】593040298
【氏名又は名称】株式会社ディスペンパックジャパン
(74)【代理人】
【識別番号】100090398
【氏名又は名称】大渕 美千栄
(74)【代理人】
【識別番号】100090387
【氏名又は名称】布施 行夫
(74)【代理人】
【識別番号】100213388
【氏名又は名称】竹内 康司
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 僚英
【審査官】植前 津子
(56)【参考文献】
【文献】特開平10-080971(JP,A)
【文献】特開2003-225560(JP,A)
【文献】特開2005-103537(JP,A)
【文献】特開2013-184716(JP,A)
【文献】特開2021-094770(JP,A)
【文献】特表2003-520703(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B65D 65/00-65/46
B65D 67/00-79/02
B32B 1/00-43/00
B65B 61/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の層で構成された包装材を用いた包装体の製造方法であって、
前記包装材は、少なくとも二酸化チタンを含む中間層と、前記中間層を挟んで対向する表層及びシール層と、を有し、
前記包装材に対しUVレーザを照射して、前記中間層の二酸化チタンをルチル型二酸化チタンに転移させ
て変色領域を生成し、前記変色領域によりUVレーザを吸収して発熱させ、前記変色領域より前記表層側にある包装材を除去して、前記表層から前記中間層の
前記変色領域まで届く切れ込みを形成する、包装体の製造方法。
【請求項2】
表面に切れ込みを設けた硬質蓋体と、内容物を収容するポケット部と、を備える分配包装体の製造方法であって、
少なくとも二酸化チタンを含む中間層と前記中間層を挟んで対向する表層及びシール層とを有する包装材で形成された前記硬質蓋体を前記ポケット部の周縁部に溶着して一体化し、
前記硬質蓋体に対しUVレーザを照射して、前記中間層の二酸化チタンをルチル型二酸化チタンに転移させ
て変色領域を生成し、前記変色領域によりUVレーザを吸収して発熱させ、前記変色領域より前記表層側にある包装材を除去して、前記表層から前記中間層の
前記変色領域まで届く前記切れ込みを形成する、分配包装体の製造方法。
【請求項3】
請求項
1に記載の包装体の製造方法または請求項
2に記載の分配包装体の製造方法において、
前記切れ込みを形成する工程は、切れ込み形成位置に対して波長が250nmから400nmで出力が1W~100Wの前記UVレーザを
単回または複数回走査する、包装体の製造方法または分配包装体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、切れ込みを有する包装体の製造方法及び切れ込みを有する分配包装体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、内容物が取り出される開口を形成するための切れ込みを有する包装体が知られている(例えば、特許文献1,2)。このような切れ込みは、一般に包装体の表面側に細長い溝として設けられて薄肉に形成された部分であり、ハーフカット部と呼ばれることがある。
【0003】
特許文献1の発明では、高出力の炭酸ガスレーザを用いてハーフカット部を形成している。また、特許文献2の発明では、切断刃を用いてハーフカット部を形成している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開平4-292931号公報
【文献】特開2001-328095号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、薄肉の包装材への切れ込みの形成は、深さの微妙な調整が難しく、所望の深さの切れ込みが形成されないことがある。
【0006】
そこで、本発明は、精度の高い切れ込みの深さを有する包装体の製造方法及び精度の高い切れ込みの深さを有する分配包装体の製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は上述の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下の態様または適用例として実現することができる。
【0010】
[1]本発明に係る包装体の製造方法の一態様は、
複数の層で構成された包装材を用いた包装体の製造方法であって、
前記包装材は、少なくとも二酸化チタンを含む中間層と、前記中間層を挟んで対向する表層及びシール層と、を有し、
前記包装材に対しUVレーザを照射して、前記中間層の二酸化チタンをルチル型二酸化チタンに転移させて変色領域を生成し、前記変色領域によりUVレーザを吸収して発熱させ、前記変色領域より前記表層側にある包装材を除去して、前記表層から前記中間層の前記変色領域まで届く切れ込みを形成することを特徴とする。
【0011】
[2]本発明に係る分配包装体の製造方法の一態様は、
表面に切れ込みを設けた硬質蓋体と、内容物を収容するポケット部と、を備える分配包装体の製造方法であって、
少なくとも二酸化チタンを含む中間層と前記中間層を挟んで対向する表層及びシール層とを有する包装材で形成された前記硬質蓋体を前記ポケット部の周縁部に溶着して一体化し、
前記硬質蓋体に対しUVレーザを照射して、前記中間層の二酸化チタンをルチル型二酸化チタンに転移させて変色領域を生成し、前記変色領域によりUVレーザを吸収して発熱させ、前記変色領域より前記表層側にある包装材を除去して、前記表層から前記中間層の前記変色領域まで届く前記切れ込みを形成することを特徴とする。
【0012】
[3]上記包装体の製造方法または上記分配包装体の製造方法の一態様において、
前記切れ込みを形成する工程は、切れ込み形成位置に対して波長が250nmから400nmで出力が1W~100Wの前記UVレーザを単回または複数回走査することができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係る包装体の製造方法または分配包装体の製造方法によれば、UVレーザの照射でルチル型二酸化チタンへ転移させることで包装材に精度の高い切れ込み深さを形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本実施形態に係る包装体を模式的に示す斜視図である。
【
図2】本実施形態に係る包装体に用いる包装材の構成を模式的に示す断面図である。
【
図3】本実施形態に係る包装体の製造方法を説明する断面図である。
【
図4】本実施形態に係る分配包装体を模式的に示す斜視図である。
【
図5】本実施形態に係る分配包装体に用いる包装材の構成を模式的に示す断面図である。
【
図6】変形例に係る分配包装体に用いる包装材の構成を模式的に示す断面図である。
【
図7】本実施形態に係る分配包装体の製造方法を説明する断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の好適な実施形態について、図面を用いて詳細に説明する。なお、以下に説明する実施形態は、特許請求の範囲に記載された本発明の内容を不当に限定するものではない。また、以下で説明される構成の全てが本発明の必須構成要件であるとは限らない。
【0016】
1.包装体
図1及び
図2を用いて本実施形態に係る包装体10について、以下詳細に説明する。
図1は、本実施形態に係る包装体10を模式的に示す斜視図であり、
図2は、本実施形態に係る包装体10に用いる包装材20の構成を模式的に示す断面図である。
【0017】
図1に示すように、包装体10は、包装材20を用いて形成される。包装体10は、例えば、シート状の包装材20で略三角錐体形状に成形されたいわゆるテトラ状包装体である。包装体10の形状はテトラ状包装体に限らず、複数の層で構成される包装材20を用いて成形できる包装体であればよい。包装体10は、例えば、薄いフィルム状またはシート状の包装材20を熱シールにより1枚または複数枚接合して成形した袋体である。
【0018】
包装体10は、例えば、全体が包装材20で形成され、略三角形の4つの面を有する胴部16と、包装材20の端部を熱シールした一辺12と、一辺12の途中から胴部16へ延びる切れ込み18と、を備える。一辺12及び他辺13は、シール層26(
図2)同士を重ね合わせて熱シールにより接合される。胴部16は、例えば、1枚の略四角形の包装材20を用意し、筒状に成形した後、4つの略三角形が形成されるように一辺12と他辺13とを熱シールして成形することができる。胴部16は、全体に柔軟性を有する袋状であることができる。
【0019】
切れ込み18は、胴部16の表面に形成された溝あるいは凹みであり、包装体10では例えば対向する胴部16の二面に形成される。切れ込み18は、一辺12から胴部16の途中まで直線状に延在する。切れ込み18の幅Wは、10μm以上であることが好ましく、例えば50μm程度である。切れ込み18の幅Wの上限は特に制限がないが、幅Wが広くなりすぎるとレーザの照射時間が長くなって生産性が低下するため好ましくない。また切れ込み18の深さDは、表層22及び中間層24の厚さを超えない範囲であることが好ましく、例えば6μm~540μmである。言い換えると、切れ込み18の深さDは、表層22と中間層24とを足した厚さの例えば10%~90%とすることができる。切れ込み18が浅すぎると破断位置が定まらず切れ込み18から確実に破断できなくなり、逆に深すぎるとシール層26を破断する応力が不足して開封できなくなるため、上記の深さDであることが好ましい。包装材20は、切れ込み18の部分が他の部分より薄く形成される。そして、包装体10を、矢印のように、一辺12の対向する頂部14a,14bを互いに離れるように引っ張ると、切れ込み18に沿って胴部16が2つに裂けて内容物を取り出すことができる。
【0020】
図2に示すように、包装材20は、複数の層で構成される多層構造である。包装材20は、少なくとも二酸化チタンを含む中間層24と、中間層24を挟んで対向する表層22及びシール層26と、を有する。包装材20における層の数は、図示した三層に限られない。例えば、各層が複数の層構造を備えてもよいし、各層の間にさらに別の機能を備えた層を有してもよい。包装材20の成形方法は、特に限定されず、公知のフィルム状またはシート状の合成樹脂を製造する方法を採用できる。
【0021】
表層22は、包装体10の外表面となる層である。表層22の材質としては、一般に包装用の材料として用いられる合成樹脂であれば特に限定されないが、非晶質無延伸PET(APET)、延伸PET(OPET)、結晶性PET(CPET)、延伸PP(OPP)、無延伸PP(CPP)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、延伸Ny(ONy)、無延伸Ny(CNy)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、延伸PS(OPS)などの中から選択でき、複数の樹脂を混合して用いてもよいし、複数の材質の層を積層させてもよい。表層22の厚さは、通常用いられている厚みの範囲であればよく、表層22の厚みが薄すぎると、表面強度が低下し、表層22と共に印刷層が剥落してしまうことが
懸念され、一方、表層22の厚みが厚すぎる場合には、ハーフカットの調整が難しくなる傾向があるので、好ましくは10μm以上50μm以下、より好ましくは10μm以上40μm以下である。表層22と中間層24との間にはさらに接着層を有してもよい。
【0022】
シール層26は、表層22または他の部分のシール層26に対して熱シール性を有する。シール層26の材質としては、熱シール性を有する合成樹脂であれば特に限定されないが、熱シールにより溶着可能な、低密度ポリエチレン(LDPE)、高密度ポリエチレン(HDPE)、直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)のうちのいずれか、又はこれらの混合物で構成できる。また、シール層26は、共にポリエチレン(PE)で形成された二層構造とすることもできる。かかる二層構造のPE層には、LDPE、HDPE、あるいはLDPEとHDPEをブレンドしたものを使用することができる。シール層26の厚さは、薄すぎると良好なシール性を実現することが困難となり、厚すぎると開口時の良好な切れを実現することが困難になるので、例えば、10μm~50μmであることができ、さらに10μm~40μmであることができる。
【0023】
中間層24は、二酸化チタンを含む。中間層24は、複数の層で構成されてもよく、少なくとも1つの層が二酸化チタンを含む層であればよい。中間層24は、二酸化チタンを含む層の他に、二酸化チタンを含まない層を有してもよい。中間層24が二酸化チタンを含むことにより、後述するUVレーザの照射により発色することができる。中間層24における二酸化チタンを含む層は、例えば印刷層の一部であってもよい。中間層24の二酸化チタンは、アナターゼ型二酸化チタンと、ルチル型二酸化チタンとを含むことができる。切れ込み18に接する中間層24の二酸化チタンがルチル型二酸化チタンを含む。
【0024】
中間層24が印刷層を含む場合、印刷層は、例えば、文字、図形、記号、絵柄、模様等の所望の印刷絵柄が印刷された絵柄印刷層と、UVレーザの照射により発色して印字可能な印刷下地層と、を含むことができる。印刷層は、例えば、表層22の裏面に通常の印刷法例えばグラビア印刷や塗布により形成することができる。印刷層を構成するバインダ樹脂としては、例えば、ウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、アクリル樹脂、セルロース系樹脂等を単独で、または2種以上混合して使用できる。印刷層が二酸化チタンを含む層であることができる。
【0025】
中間層24は、二酸化チタンを含む層以外に、例えば、ガスバリア性層を含んでもよい。ガスバリア性層は、塩化ビニリデン樹脂、エチレンビニルアルコール共重合樹脂等のガスバリア性に優れる樹脂で形成してもよい。中間層24の各層は、例えば印刷層が印刷された表層22の裏面に対して押出ラミネート成形により積層してもよい。
【0026】
包装体10において包装材20は、表層22から中間層24の少なくとも一部まで届く切れ込み18が形成される。切れ込み18は、中間層24における少なくとも二酸化チタンを含む深さまで形成される。包装体10によれば、二酸化チタンを含む中間層24まで精度の高い切れ込み18の深さを有することができる。切れ込み18の深さを精度よく形成できることで、包装材20の切れ込み18を加工する際の穴あきを防止でき、切れ込み18が浅すぎて引裂きにくくなることを防止できる。
【0027】
2.包装体の製造方法
図1~
図3を用いて本実施形態に係る包装体10の製造方法について、以下詳細に説明する。
図3は、本実施形態に係る包装体10の製造方法を説明する断面図である。
【0028】
図3の(a)及び(b)に示すように、包装体10の製造方法は、
図1及び
図2を用いて上述した複数の層で構成された包装材20を用いた包装体10の製造方法である。包装体10の製造方法は、包装材20を準備する工程と、包装材20に対しUVレーザを照射
して切れ込み18を形成する工程と、を含むことができる。
【0029】
包装材20を準備する工程は、例えば、押出ラミネートによって成形したフィルム状またはシート状の包装材20を用意する。包装材20としては
図2を用いて上述した包装材20を用いることができ、包装材20は、少なくとも二酸化チタンを含む中間層24と、中間層24を挟んで対向する表層22及びシール層26と、を有する。包装材20は、端部同士を重ね合わせてシール層26を熱シールすることで筒体に形成し、筒体の一方の開口端を重ね合わせてさらにシール層26を熱シールすることで
図1の一辺12を形成する。
【0030】
図3の(a)に示すように、切れ込み18を形成する工程は、包装材20に対しUVレーザ50を照射して、中間層24の二酸化チタンをルチル型二酸化チタンに転移させる。UVレーザ50は、一辺12を形成後の包装材20に対して行うことができる。UVレーザ50は、表層22側から包装材20に向けて照射され、表層22を透過して中間層24に含まれる二酸化チタン、特にアナターゼ型二酸化チタンに吸収されてルチル型二酸化チタンに転移させる。
図3においてルチル型二酸化チタンに転移された部分及びその周辺は、黒く変色した変色領域25となる。変色領域25は、中間層24に含まれる二酸化チタンの内、アナターゼ型二酸化チタンがUVレーザ50の照射により一部が転移したルチル型二酸化チタンに起因すると考えられる。変色領域25はUVレーザ50を効率よく吸収し発熱する。UVレーザ50を照射し続けると、変色領域25より表層22側にある包装材20がUVレーザ50の熱エネルギーにより除去される。そして、
図3の(b)に示すように、UVレーザ50の照射により表層22から中間層24の少なくとも一部まで届く切れ込み18が形成される。
【0031】
UVレーザ50の光の波長は、紫外線領域にあり、例えば250nmから400nmである。この波長のレーザ光は、基本的に透明な物体の加工を行うことはできない。そのため、例えば特許文献1のような二酸化チタンを含む層がないプラスチックシートには適用できない。また、UVレーザ50としては、YAG(イットリウム・アルミニウム・ガーネット)レーザ、YVO4レーザ、FAYbレーザを挙げることができる。
【0032】
変色領域25は、中間層24における二酸化チタンがルチル型二酸化チタンに転移できる位置にあるため、二酸化チタンが配合された層の位置に合わせて切れ込み18の深さが決まる。すなわち、二酸化チタンはUVレーザ50を吸収しやすいため、二酸化チタンが配合された層の位置を調整することにより、切れ込み18の深さが調整できる。一般に、包装材20の各層の厚さは精度よく調整されているため、切れ込み18の深さも高い精度で形成できる。
【0033】
切れ込み18を形成する工程は、切れ込み形成位置に対して波長が250nmから400nmで出力が1W~100WのUVレーザ50を複数回走査することができる。UVレーザ50の波長としては、300nm~400nmであることがさらに好ましい。例えば、基本波長が1064nmのレーザ光を変換して1/3の355nmにした紫外光を用いてもよい。UVレーザ50の出力は1W~100Wであることが好ましく、5W~100Wであることがさらに好ましい。UVレーザ50の出力は従来の炭酸ガスレーザに比べて小さいため、切れ込み形成位置に対して複数回操作することにより切れ込み18を形成することができる。走査回数は、UVレーザ50の出力に応じて回数を設定でき、単回でも良いし、複数回であってもよい。
【0034】
このように、包装体10の製造方法によれば、UVレーザ50の照射で中間層24に含まれる二酸化チタンの一部をルチル型二酸化チタンへ転移させることで包装材20に精度の高い切れ込み深さを形成することができる。
【0035】
3.分配包装体
図4及び
図5を用いて本実施形態に係る分配包装体40について、以下詳細に説明する。
図4は、本実施形態に係る分配包装体40を模式的に示す斜視図であり、
図5は、本実施形態に係る分配包装体40に用いる包装材20aの構成を模式的に示す断面図である。
【0036】
図4及び
図5に示すように、分配包装体40は、表面に切れ込み18を設けた硬質蓋体42と、内容物を収容するポケット部44と、を備える。分配包装体40は、切れ込み18を挟んで配置される2つのポケット部44を備え、硬質蓋体42を切れ込み18でポケット部44側に折り曲げることで切れ込み18の少なくとも一部が開口して内容物を吐出できる。ポケット部44は、1つでもよいし、3つ以上あってもよい。
【0037】
硬質蓋体42は、複数の層を含む包装材20aで形成され、かつ、ポケット部44の周縁部に溶着される。硬質蓋体42を構成する包装材20aは、ポケット部44よりも高剛性であり、切れ込み18を挟んで対向する端部同士をポケット部44側へ曲げると切れ込み18で折り曲げることができる。包装材20aの厚さは、分配包装体40における通常蓋材の厚さの範囲であることができ、例えば、250μm以上700μm以下、好ましくは250μm以上500μm以下である。硬質蓋体42は、切れ込み18の例えば中央部に凸部46を有する。切れ込み18は、凸部46の上にも形成される。
【0038】
凸部46は、切れ込み18を超えて一方のポケット部44から他方のポケット部44へ延びる。凸部46は、ポケット部44の周縁部に溶着されていない。そのため、分配包装体40を折り曲げると、切れ込み18が裂けて凸部46に開口が形成される。凸部46に形成された開口からポケット部44の内容物が吐出できる。凸部46の形状は、この例に限定されるものではなく、公知の形状を採用できる。例えば、一方のポケット部44にのみ開口を形成する凸部と他方のポケット部44にのみ開口を形成する別の凸部とを備えてもよい。
【0039】
硬質蓋体42の包装材20aは、少なくとも二酸化チタンを含む中間層24と、中間層24を挟んで対向する表層22及びシール層26と、を有する。各層の材質は、硬質蓋体42を折り曲げる力が加わっても切れ込み18以外で大きく変形しない程度に剛性を確保できれば特に限定されない。各層は互いに接して積層されてもよいし、接着層等の他の層を介して接してもよい。包装材20aにおける層の数は、図示した構成に限られない。例えば、各層が複数の層構造を備えてもよいし、各層の間にさらに別の機能を備えた層を有してもよい。包装材20aの成形方法は、特に限定されず、公知のフィルム状またはシート状の合成樹脂を製造する方法を採用できる。
【0040】
表層22の材質としては、例えば、非晶質無延伸PET(APET)、延伸PET(OPET)、結晶性PET(CPET)、延伸PP(OPP)、無延伸PP(CPP)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、延伸Ny(ONy)、無延伸Ny(CNy)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、延伸PS(OPS)などを単体であるいはこれらの樹脂の混合物として採用できる。表層22は、10μm~50μmであることが好ましく、10μm~40μmであることがより好ましい。表層22が薄すぎると、表面強度が低下し、表層22の伸びに印刷層が追従できず印刷層の剥がれや、表層22と印刷層との間で層間剥離が発生する等といった不都合が生じる可能性があり、表層22が厚すぎると、容易に開封することが困難となるため、上記範囲に設定することが好ましい。
【0041】
硬質蓋体42は、切れ込み18で折り曲げたときに凸部46が開口を形成する脆性破壊が求められる。硬質蓋体42が塑性変形と脆性破壊とを適度に有するように、中間層24は、例えば、ポリスチレン系の樹脂(以下、「PS樹脂」と記載することがある)の層を
含むことが好ましく、ポリスチレン系樹脂としては、良好な割れ性を得ること、シール層26或いはガスバリア性層(以下、「バリア層」)との接着性を良好に保つことの観点から、一般用ポリスチレン(以下、「GPPS」と省略することがある)、耐衝撃性ポリスチレン(以下、「HIPS」と省略することがある)、スチレン・ブタジエンブロックコポリマー(ブタジエン系化合物)のいずれかの単体樹脂、あるいは、これらの樹脂の混合物であることが好ましい。GPPSは、ゴム成分を含まないので、割れやすい性質を有し、HIPSは、ゴム成分を含み、割れにくい性質を有している。したがって、GPPSとHIPSの混合比を適切に調節することによって、分配包装体40の吐出口を開封する際の硬質蓋体42の割れ性を調節することができる。
図5の例では二酸化チタンはHIPS層の中に含まれ、HIPS層が2つのGPPS層に挟み込まれてPS樹脂層が構成される。PS樹脂層は、50μm~550μmであることが好ましく、200μm~450μmであることがより好ましく、200μm~350μmであることが特に好ましい。PS樹脂層が薄すぎると、分配包装体40が良好な開封性を得ることが困難となり、PS樹脂層が厚すぎると、容易に開封することが困難となる。
【0042】
中間層24は、PS樹脂層の他にバリア層を含むことが好ましい。バリア層としては、公知の合成樹脂を採用でき、例えば
図5に示すようにエチレンビニルアルコール共重合樹脂やポリアミド樹脂などが好ましい。バリア層は、PS樹脂層に対して接着層を介して積層されることが好ましい。バリア層の厚みは2μm以上、好ましくは5μm以上であり、かつ15μm以下、好ましくは10μm以下の範囲である。バリア層の厚みが薄すぎると良好な酸素バリア性を保つことが困難になり、バリア層の厚みが厚すぎると分配包装体40の吐出口を開封しにくくなる。
【0043】
中間層24の全体の厚みとしては、50μm~550μmであることが好ましく、200μm~450μmであることがより好ましく、200μm~350μmであることが特に好ましい。中間層24が薄すぎると、分配包装体40の良好な開封性を得ることが困難となり、中間層24が厚すぎると、容易に開封することが困難となる。
【0044】
また、PS樹脂層は、二酸化チタンを含むことによりUVレーザによる印字が可能である。PS樹脂層は、例えば、二酸化チタン粒子をPS樹脂ペレットと混合し、押出成形によりシート状に成形される。
【0045】
切れ込み18は、表層22から中間層24の少なくとも一部まで届く深さを有している。中間層24が複数の層で構成される場合、切れ込み18は、中間層24における少なくとも二酸化チタンを含む層まで形成される。
図5の例では、HIPS層に二酸化チタンが含まれているので、切れ込み18はHIPS層まで延び、HIPS層における切れ込み18に接する部分は変色領域25を含む。切れ込み18に接する中間層24の二酸化チタンがルチル型二酸化チタンを含む。ルチル型二酸化チタンは、変色領域25に含まれる。
【0046】
シール層26は、例えば、低密度ポリエチレン(LDPE)、高密度ポリエチレン(HDPE)、直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)のうちのいずれか、又はこれらの混合物で構成される層である。例えば、LDPEとHDPEとの配合比率を変更して開封時の割れ性や、中間層との接着強度を調節することができる。シール層26の厚みは、10μm~50μmであることが好ましく、さらに好ましくは10μm~40μmである。シール層26の厚みを上記範囲に保つことによって、良好なシール性を実現しつつ、開封時のシール層26の切れを良好に保つことが可能となる。
【0047】
ポケット部44は、可撓性に優れ、分配包装体40を折り曲げた際に2つのポケット部44同士を押しつぶすようにして内容物をポケット部44内から押し出すことができる。ポケット部44の材質は、可撓性を有する材質であれば特に限定されない。ポケット部4
4は、単層又は複数の層構造を有してもよく、全体として合成樹脂製であることが好ましい。ポケット部44は、例えば、ポリエチレン樹脂の単層構造、ポリエチレン樹脂層とエチレンビニルアルコール共重合樹脂(EVOH)やポリアミド樹脂等のバリア層とを含む積層構造を採用できる。ポケット部44の内部には、例えば、ソース、タルタルソース、ドレッシング、ジャム等の流動体を個別に収容可能である。
【0048】
分配包装体40によれば、切れ込み18は二酸化チタンを含む深さまで形成されるので、二酸化チタンを含む中間層24まで精度の高い切れ込み18の深さを有することができる。切れ込み18の深さを精度よく形成できることで、包装材20aの切れ込み18を加工する際の穴あきを防止でき、切れ込み18が浅すぎて凸部46に開口が形成されにくくなることを防止できる。また、硬質蓋体42とポケット部44とを熱シールした後に切れ込み18を形成すれば、従来のように切れ込み18が再接合されることを防止して、所望形状の切れ込み18を維持できる。
【0049】
4.変形例
図6を用いて変形例に係る分配包装体40に用いる包装材20bについて、以下詳細に説明する。
図6は、変形例に係る分配包装体40に用いる包装材20bの構成を模式的に示す断面図である。硬質蓋体42を構成する包装材20b以外は、
図4及び
図5を用いて説明した分配包装体40と同様であるので、説明は省略する。
【0050】
図6に示すように、包装材20bは、中間層24の表層22側にバリア層をさらに有する点で包装材20aと異なる。バリア層は、例えば、PS樹脂層に対して例えばEVOHフィルムをドライラミネートにより接着して一体化される。バリア層がPS樹脂層を挟んで2層積層されることにより、バリア性能を実施形態の硬質蓋体42よりも向上させることができる。バリア層としては、EVOHフィルム以外に、例えばポリアミド樹脂フィルムを用いてもよい。
【0051】
切れ込み18は、表層22及びEVOH層を貫通し、PS樹脂層の少なくとも一部まで達する。切れ込み18の先端は、二酸化チタンを含むHIPS樹脂層の途中またはHIPS層の下端まで延びてもよい。
【0052】
5.分配包装体の製造方法
図7を用いて本実施形態に係る分配包装体40の製造方法について、以下詳細に説明する。
図7は、本実施形態に係る分配包装体40の製造方法を説明する断面図である。
図7では、
図5の包装材20aを用いた例について説明するが、これに限定されるものではなく、例えば
図6の包装材20bであってもよい。
【0053】
図7の(a)及び(b)に示すように、分配包装体40の製造方法は、表面に切れ込みを設けた硬質蓋体42と、内容物を収容するポケット部44と、を備える分配包装体40の製造方法である。分配包装体40の製造方法は、ポケット部44の被シール部44aに硬質蓋体42を固定する工程と、硬質蓋体42にUVレーザ50を照射する工程と、を含むことができる。
【0054】
被シール部44aに硬質蓋体42を固定する工程は、少なくとも二酸化チタンを含む中間層24と中間層24を挟んで対向する表層22及びシール層26とを有する包装材20aで形成された硬質蓋体42をポケット部44の周縁部に溶着して一体化する。ポケット部44には内容物が充填されており、硬質蓋体42をポケット部44の周縁部に溶着することで密封することができる。ポケット部44の周縁部は、平坦な被シール部44aに形成されており、硬質蓋体42のシール層26を被シール部44aに重ねて熱シールすることで溶着できる。
【0055】
硬質蓋体42にUVレーザ50を照射する工程は、硬質蓋体42に対しUVレーザ50を照射する。UVレーザ50が照射されると、中間層24の二酸化チタンがルチル型二酸化チタンに転移させると共に、表層22から中間層24の少なくとも一部まで届く切れ込み18が形成される。
図7の(a)に示すように、UVレーザ50は、表層22側から包装材20aに向けて照射され、表層22を透過して中間層24に含まれる二酸化チタン、特にアナターゼ型二酸化チタンに吸収されてルチル型二酸化チタンに転移させる。ルチル型二酸化チタンに転移された部分及びその周辺は、黒く変色した変色領域25となる。変色領域25はUVレーザ50を効率よく吸収し発熱する。UVレーザ50を照射し続けると、変色領域25より表層22側にある包装材20aがUVレーザ50の熱エネルギーにより除去される。そして、
図7の(b)に示すように、表層22、PS層及びHIPS層の一部まで切れ込み18が形成される。
【0056】
変色領域25は、中間層24における二酸化チタンがルチル型二酸化チタンに転移できる位置に形成されるため、二酸化チタンが配合されたHIPS層の位置に合わせて切れ込み18の深さが決まる。すなわち、HIPS層の位置を調整することにより、切れ込み18の深さが調整できる。包装材20aの各層の厚さは精度よく調整されているため、切れ込み18の深さも高い精度で形成できる。また、従来は、切れ込みが形成された硬質蓋体に切れ込みを形成していたため、熱シールにより切れ込みが再び接合してしまうことがあったが、本実施形態の製造方法によれば硬質蓋体42とポケット部44とを熱シールした後に切れ込み18を形成できるので切れ込み18を維持できる。
【0057】
また、切れ込み18を形成する工程は、切れ込み形成位置に対して波長が250nmから400nmで出力が2W~10WのUVレーザ50を複数回走査することができる。UVレーザ50の出力は従来の炭酸ガスレーザに比べて小さいため、切れ込み形成位置に対して複数回操作することにより切れ込み18を形成することができる。なお、UVレーザ50については、「2.包装体の製造方法」で説明したものを用いることができる。
【0058】
このように、分配包装体40の製造方法によれば、UVレーザ50の照射で二酸化チタンの一部をルチル型二酸化チタンへ転移させることで包装材20aに精度の高い切れ込み深さを形成することができる。また、従来のように切れ込み18が再び接合することを防止できる。
【実施例】
【0059】
実施例として、
図5に示した包装材20aに対して、基本波長1064nmを1/3に変換した355nmのUVレーザを照射した。包装材20aの構成は表層22側からPET25μm/酸化チタン顔料含有HIPS(80%)+GPPS(20%)280μm/接着性PE15μm/EVOH5μm/接着性PE10μm/PE20μmの構成で総厚みが355μmであった。UVレーザは、レーザ装置Photonics Industries DX-355-50を用いて、スキャン回数:1回を実行して切れ込み18を形成した。切れ込み18が形成された包装材の側面拡大写真を
図8に示す。
【0060】
図8に示すように包装材の表層22から中間層24の途中まで切れ込み18が形成された。また、中間層24における切れ込み18に接する部分には、変色領域25が確認された。
【0061】
本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、さらに種々の変形が可能であり、実施形態で説明した構成と実質的に同一の構成を含む。ここで、「同一の構成」とは、機能、方法、及び結果が同一の構成、あるいは目的及び効果が同一の構成である。また、本発明は、実施形態で説明した構成の本質的でない部分を置き換えた構成を含む。また
、本発明は、実施形態で説明した構成と同一の作用効果を奏する構成又は同一の目的を達成することができる構成を含む。また、本発明は、実施形態で説明した構成に公知技術を付加した構成を含む。
【符号の説明】
【0062】
10…包装体、12…一辺、13…他辺、14a,14b…頂部、16…胴部、18…切れ込み、20,20a,20b…包装材、22…表層、24…中間層、25…変色領域、26…シール層、40…分配包装体、42…硬質蓋体、44…ポケット部、44a…被シール部、46…凸部、50…UVレーザ、W…幅、D…深さ
【要約】
【課題】本発明は、精度の高い切れ込みの深さを有する分配包装体40を提供する。
【解決手段】分配包装体40は、表面に切れ込み18を設けた硬質蓋体42と、内容物を収容するポケット部44と、を備える。硬質蓋体42は、複数の層を含む包装材20aで形成され、かつ、ポケット部44の周縁部に溶着される。包装材20aは、少なくとも二酸化チタンを含む中間層24と、中間層24を挟んで対向する表層22及びシール層26と、を有する。切れ込み18は、表層22から中間層24の少なくとも一部まで届き、切れ込み18に接する中間層24の二酸化チタンがルチル型二酸化チタンを含む。
【選択図】
図5